説明

ラビング布

【課題】ラビング処理時の繊維削れ等の汚染物の発生が抑制され、また液晶表示装置の高解像度化を達成するための微細で均質な配向性能を有し、かつ配向膜に接触している間のラビング布の押しつけ圧力を均一に制御することで優れた配向規制力を有するラビング布を提供する。
【解決手段】織編物と弾性体とが積層一体化されてなるラビング布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラビング布に関するものである。詳しくは、高精細な液晶表示を達成しうる液晶表示用配向膜のラビングにおいて、配向特性に優れ、またラビング処理時に汚染源となる繊維削れが発生しにくく、かつラビング処理時に所望の反発性能を制御しうるラビング布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置は、その薄さや設置面積の小さい利点を生かし、ゲームコンピューター、テレビ、モニター、複写機、カメラなど、従来のCRTモニターに代わる表示装置として、広く使用されつつある。これら液晶表示装置に使用される液晶表示素子は、薄膜トランジスタからなる駆動素子(TFT)を形成したTFT基板と、カラーフィルタを形成したカラーフィルタ基板(以下CF基板と略記する)とを微小な間隔をあけて対向して配置しており、その間隙に液晶を封入した構成からなる。そしてこれらTFT基板、CF基板の表面には、ITO電極の表面を覆うように配向膜が配置されており、いずれも封入される液晶と接触する。
【0003】
この配向膜は、SiO、ポリイミド、ポリビニルアルコール系樹脂、あるいはナイロン−エポキシ−有機チタン系材料などの素材の中から、目的あるいは構造に応じて適宜選ばれて形成されるが、液晶分子を配列させるために配向処理が施されている。この配向処理が液晶層の均一な配向を実現する上で、重要な工程である。
【0004】
配向処理方法としては、ラビング布で配向膜の表面を擦るラビング法が主に用いられている。ラビング布は通常、アルミやステンレスのローラーの外周面に貼り付けられ、該ローラーを回転させながら外周面のラビング布を配向膜表面に接触させることにより、ラビング布で配向膜表面を擦る。このように配向膜の表面にラビング処理を施すことにより、配向膜はラビング布で擦られた方向に配向異方性を有し、該配向膜の配向方向に沿って液晶分子が配列し、均一な表示特性が得られる。
【0005】
かかるラビング法に用いられるラビング布としては、天然繊維や半合成繊維、あるいは合成繊維からなる繊維素材が従来より用いられている。
【0006】
例えば、合成繊維からなるラビング材に関する技術が提案されている(特許文献1参照)。該技術においては、合成繊維としてポリエステルやポリアミドを用いて織物を形成し、確かにラビング処理によって液晶の配向が均一になるラビング材を得ている。しかしながら織物のみから構成されるラビング材は織物素材自体が薄いことから、ラビング処理時に必要なラビング布の押しつけ力を一定に制御することが困難であり、また該提案技術においてはラビング布の構成においても、微細な配向を付与するための技術思想が乏しく、結果として液晶表示装置の高精細化を狙う視点では、ラビング性能が不十分な素材であった。
【0007】
またラビング布として最も多く使われる素材として、ベルベット等の繊維を起毛させたパイルからなる繊維素材(パイル起毛布)がある。ラビング布用のパイル起毛布は、パイルに使用する単繊維の太さや単繊維の打ち込み本数(本/cm)を変えることによってパイル密度が調整され、また基布からのカット位置によって繊維の起毛長さが調整される。またパイル部分に使用する繊維素材は、レーヨンやトリアセテート等のセルロース系繊維からなる長繊維(フィラメント)を用いたものや、綿毛のような短繊維を用いたものが知られている(特許文献2参照)。
【0008】
該パイル起毛布に関連するものとして、例えば、異形断面繊維を用いたパイル起毛布からなるラビング布に関する技術が提案されている(特許文献3参照)。該技術においては、単繊維の鋭利な繊維側面を生かした、緻密な配向処理を行うことが可能となり、また起毛布からなる構造に由来してラビング処理時の起毛布の押し込み深さを調整することにより、配向時の配向力を制御しうる等の利点があったが、一方で、起毛した単繊維はラビング処理時に繊維削れを発生しやすく、液晶配向膜を汚染しやすいものであったし、起毛布自体、起毛布の面において起毛の長さが少しずつ異なる、すなわち起毛の長さの斑が必ず存在することから、ラビング処理時にラビング斑の発生が懸念され、かつ該ラビング斑の回避が困難であった。
【0009】
また極細繊維からなる起毛布にクッション材を一体化したラビング布に関する技術が提案されている(特許文献4参照)。該技術においては極細繊維由来のより微細な配向化が期待できるものの、前述の特許文献2と同様の繊維削れや起毛長斑に由来する配向斑といった課題に加えて、極細繊維からなる起毛はコシが無く、応力を吸収してしまうために、設けられたクッション材による反発特性が該極細繊維起毛により相殺されてしまい、ラビング処理時の配向規制力はむしろ劣る傾向にあったほか、極細繊維が配向膜と接触する際に、繊維自体のコシがないことから、極細繊維全てが必ずしも配向すべき方向に整列するものではなく、結果として配向方向に並ばなかった幾分かの極細の単繊維によって、配向膜の均質な配向化が阻害されてラビング斑や液晶表示における欠陥が発生しやすいものであった。
【特許文献1】特開平1−288827号公報(特許請求の範囲、実施例1)
【特許文献2】特開2003−156746号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開昭61−46932号公報(特許請求の範囲、図面第1図)
【特許文献4】特開2005−91899号公報(特許請求の範囲、図面第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、ラビング処理時の繊維削れ等の汚染物の発生が抑制され、また液晶表示装置の高解像度化を達成するための微細で均質な配向性能を有し、かつ配向膜に接触している間のラビング布の押しつけ圧力を均一に制御することで優れた配向規制力を有するラビング布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の構成を採用する。
(1)織編物と弾性体とが積層一体化されてなるラビング布。
(2)織編物が朱子織物であることを特徴とする(1)に記載のラビング布。
(3)織編物を構成する繊維の端が織編物表面に存在する数が1cm角あたり30個以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のラビング布
(4)朱子織物の表層となる経糸または緯糸の単繊維本数が2000本/cm以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のラビング布。
(5)朱子織物の経糸と緯糸の交差が5本以上の繰り返しであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載のラビング布。
(6)朱子織物の表層となる経糸または緯糸の単繊維繊度が2.0デシテックス以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のラビング布。
(7)朱子織物の表層となる経糸または緯糸がポリエステルおよび/またはポリアミドからなることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか1項に記載のラビング布。
(8)朱子織物の表層となる経糸または緯糸が非捲縮繊維からなることを特徴とする(1)〜(7)のいずれか1項に記載のラビング布。
(9)ラビング布の厚み方向における10%圧縮時の応力(P1)と50%圧縮時の応力(P2)の比R(R=P2/P1)が0.90≦R≦2.00の範囲にある弾性体を用いることを特徴とする(1)〜(8)のいずれか1項に記載のラビング布。
(6)のいずれか1項に記載のラビング布。
【発明の効果】
【0012】
本発明のラビング布は、従来の織物だけからなるラビング布に比べて、弾性体を有することにより、ラビング処理時に必要なラビング布押しつけ応力の調節が可能であり、配向化の性能(配向規制力)が優れる。特に、織編物として朱子織物を用いる場合は、配向膜の配向方向に繊維が平行に並び、配向性能が優れる。該配向膜の配向方向に並ぶ繊維の本数は、目的とする配向膜の配向度に合わせて適宜選択可能で、ラビング布の設計が容易であるため、好適に採用される。
【0013】
一方で、従来のパイル起毛布からなるラビング布と比較すると、本発明のラビング布は、起毛先端がないことからラビング処理時の繊維削れの発生が抑制され、もしくは発生せず、配向膜の汚染の心配がない。また起毛布特有の起毛長斑もないことから、液晶の表示欠陥につながるラビング斑の発生が抑制されるという優れた効果を奏する。更には、本発明のラビング布にて織編物として朱子織物を用いる場合、織物に使われる繊維は拘束されていることから、起毛布のように、配向方向から起毛がずれた角度で繊維をこすりつけることがなく、配向性能が優れている。加えて、起毛布は、通常撚りをかけた撚糸を用いる必要があるため配向規制力が不十分となりやすいものの、本発明のラビング布においては、織編物に用いる繊維を非捲縮繊維にすることが可能であり、これにより均一な配向化を達成しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のラビング布は織編物に弾性体を積層してなるものである。従来、広く用いられてきたパイル織物からなるラビング布は、表面の特性と全体の圧縮特性と独立に最適化することができないという問題があった。即ち、ラビングの処理をより均一にするために、パイル織物の立毛を構成する繊維を細くしようとすると、ラビング布全体の圧縮特性も変化し、クッション性の乏しいラビング布しか得ることができなかった。本発明のラビング布は、織編物と弾性体をそれぞれ別々に選択、対応することにより、ラビング布の表面の特性とクッション性を独立に最適化することができる。
【0015】
本発明における織編物には特に制限は無く、織物であれば平織物、朱子織物、綾織物等、編物であれば経編物、筒編物、よこ編物等を用いることができるが、中でも、特に朱子織物が好ましい。朱子編物は織物の表面に経糸、または緯糸のどちらかが多く露出しており、ラビング処理の方向と、多く露出している糸の並んでいる方向を同じにすることにより、ラビング布の繊維と基板の接触の度合いの均一性が向上し、ラビングの効果をより均一にすることができる。
ここでいう朱子織物とは、経糸(たていと)または緯糸(よこいと)だけが表面に浮いている部分が存在し、その部分があたかも経糸のみもしくは緯糸のみの外観を示す織物である。
【0016】
該朱子織物においては、経糸と緯糸の交差(組織点)は近接することが無く、織物組織(織物の経糸と緯糸がなす繰り返し構造単位)の中で1回のみ、かつ離れて並ぶ。本発明で用いる朱子織物は、該組織点、すなわち経糸または緯糸の交差が5本以上の繰り返しであることが好ましく、8本以上の繰り返しであることがさらに好ましく、10本以上の繰り返しであることが特に好ましい。繰り返しの本数が多いほど、経糸のみあるいは緯糸のみの露出割合が増えることになり、本発明の積層一体化されてなるラビング布で朱子織物側を配向膜に押しつけてラビング処理を行う場合に、より配向膜を配向させる性能が優れるのである。なおこの組織点(経糸または緯糸の交差)が5本の繰り返しである場合は「5枚朱子」、8本の繰り返しである場合は「8枚朱子」などと称し、朱子織物の種類(形態)のことと同意であるが、より好ましい朱子織物の形態としては5枚朱子以上であることが好ましく、8枚朱子以上であることがさらに好ましく、10枚朱子以上であることが特に好ましい。
【0017】
前述の通り、本発明のラビング布は織編物と弾性体とが積層一体化されてなり、ラビング処理時には織編物側を配向膜に押しつけてラビング処理を行う。織編物が朱子織物の場合、該朱子織物はラビング処理時に配向膜に押しつけられる面が、ラビング方向に平行な方向に、多くの繊維が露出して並んでいるのであれば、該多くの繊維が露出している糸は経糸であっても緯糸であってもよいが、朱子織物の製造においてより設計が容易な、経糸が多く露出した経朱子織物であることが好ましい。該多く露出した繊維がラビング方向に平行に並び、ラビング処理時に配向膜を擦って配向化を遂行することで、本発明で目的としている、繊維屑の発生が抑制された、配向膜の微細かつ緻密な配向異方化を達成する。
【0018】
該朱子織物においては、配向膜に押しつけられる面の、多くの繊維が露出している経糸または緯糸の単繊維本数が多いほど、より緻密な配向異方化を達成しうることから、朱子織物の配向膜に押しつけられる面、すなわち表層の経糸または緯糸の単繊維本数は、2000本/cm以上であることが好ましく、3000本/cm以上であることがより好ましく、5000本/cm以上であることが特に好ましい。また単繊維本数の上限は、本数が多いほど好ましいものの、生産可能な繊維で、後述するような割繊、溶脱といった複合紡糸により得られる単繊維繊度が0.1デシテックス以下の極細繊維を用いる場合には、高々250,000本/cmまでの単繊維本数の朱子織物が安定して得られる。
【0019】
本発明のラビング布を構成する織編物に用いる繊維は、長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であってもよいが、繊維先端の露出が少ない方がラビング処理時の繊維屑の発生が少なく好適であることから、長繊維からなる織編物が好ましい。そして該好ましいとする長繊維については、マルチフィラメントであることが好ましいものの、マルチフィラメントの構成としては、単一の繊度を有するマルチフィラメントであっても、あるいは単繊維ごとに繊度が異なる異繊度混繊糸であってもよく、さらにはマルチフィラメントが高剛性かつ細繊度を有する性状を示す、芯に太繊度の一本または複数本の繊維を配置し、鞘に細繊度の複数の繊維を配置した芯鞘異繊度混繊糸であってもよい。
【0020】
そして織編物の配向膜に押しつけられる面でのラビング方向に平行に並んだ方向の経糸または緯糸のマルチフィラメントの本数は、多いほどラビング処理時に緻密な配向異方化を達成しうることから、70本/cm以上であることが好ましく、80本/cm以上であることがさらに好ましく、90本/cm以上であることが特に好ましい。また該マルチフィラメントの本数は、織編物を製造することに鑑みて200本/cm以下で安定して製造でき、180本/cm以下であることが好ましい。またマルチフィラメントを構成する単繊維の本数(フィラメントカウント)は36本以上であることが好ましく、48本以上であることがより好ましく、96本以上であることが更により好ましく、144本以上であることが最も好ましい。また該フィラメントカウントは多いほど好ましいものの、安定して製造可能な本数として3000本以下である。
【0021】
また、本発明のラビング布を構成する織編物に用いる単繊維1本の太さは細いほど、すなわち単繊維繊度は小さいほどラビング処理時により微細な配向化が可能であることから、単繊維繊度は2.0デシテックス(以下、単位をdtexと略記する)以下であることが好ましく、1.5dtex以下であることがさらに好ましく、1.0dtex以下であることが特に好ましい。そして単繊維繊度は小さいほど好ましいものの、過度に細い場合はラビング処理時に繊維が切断しやすく、繊維屑が発生する場合もあることから、単繊維繊度は0.005dtex以上であることが好ましく、0.01dtex以上であることがさらに好ましく、0.05dtex以上であることが特に好ましい。なお、これら単繊維繊度が小さい繊維を得る方法としては、直接紡糸によって単繊維繊度の繊維を得てもよく、あるいは海島型の複合紡糸を行った後に海成分を溶脱して島成分のみを取りだして得てもよく、またあるいは複合紡糸を行った後に繊維を割繊して単繊維繊度の小さな繊維を得てもよい。
【0022】
該織編物を構成する単繊維の断面形状(繊維軸方向に垂直な繊維横断面における繊維の形状)については、丸型あるいは楕円(だえん)型は、繊維断面内で均一な繊維物性を有し、等方的な曲げ応力を有する点と、また繊維削れも発生しにくい点で特に好ましい。ここで楕円の定義は、楕円の長軸Sと短軸Tの比P(P=S/T)が2.0以下のものを指し、該Pが2.0を越える場合は後述の扁平型と定義する。また一方で、用いる配向膜の特性や必要とする配向度合いに応じて、単繊維の断面形状は、扁平型、多角形型、多葉型、中空型、あるいは不定形型などを好適に採用可能であるが、特に繊維の曲がる方向に異方性を持たせてラビング処理の際に単繊維自体の剛性を高めるまたは弱めることが可能であることから、単繊維の断面形状は多角形、多葉型が好ましく、さらに高精細な液晶表示を達成しうる微細なラビング処理が可能であることから鋭角な突起を持つ三角〜六角までの多角形あるいは鋭利な突起を持つ葉数が三枚以上の多葉型が特に好ましい。
【0023】
また該織編物を構成する、すなわち表層となる経糸または緯糸は非捲縮繊維からなることが好ましい。通常、織物や編物といった繊維製品を製造する際には、繊維同士の絡み合いや摩擦を増幅させ、よりしっかりした布帛組織となすために、撚糸、仮撚り、擦過などの旋回性の捲縮や、押し込み、賦型、多成分複合化などの非旋回性の捲縮により繊維に捲縮が施される。本発明のラビング布を構成する織編物においても、織編物自体を製造する際には、捲縮または非捲縮の繊維が用いうるものの、本発明で目的とする、緻密かつ微細な配向性能を有するラビング布としうることから、前述の通り、本発明のラビング布を構成する織編物の表層となる経糸または緯糸は非捲縮の繊維(フラットヤーン)からなることが好ましいのである。
【0024】
本発明のラビング布を構成する織編物に用いる繊維は、目的に応じたラビング性能を広く付与しうる点で、15cN/dtex以上の初期引張弾性率を持つことが好ましい。そしてラビング布を強く押し込んで配向膜の配向度の高いラビング処理を施すことが可能で、なおかつ配向膜にラビング布を押しつけた瞬間の反発応力に耐えうることから、特に繊維の曲げ剛性(初期引張弾性率と高い相関がある)の高い繊維が好まれ、初期引張弾性率が45cN/dtex以上であることがさらに好ましく、70cN/dtex以上であることが特に好ましく、90cN/dtex以上であることが最も好ましい。また該初期引張弾性率の上限としては300cN/dtex以下の範囲で安定して製造可能であるため好ましく、200cN/dtex以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明のラビング布を構成する織編物に用いる繊維は、単繊維繊度の小さな繊維を用いた場合であっても繊維が切断せず耐久性を有することが好ましいことから、破断強度が2.0cN/dtex以上であることが好ましく、2.5cN/dtex以上であることがより好ましく、3.0cN/dtex以上であることが特に好ましい。そして該破断強度に関しては高いほど好ましいものの、生産性を考慮すると7.0cN/dtex以下のものが好適に製造される。また該繊維の残留伸度に関しては、ラビング処理時の繊維の変形が小さいことが好ましいことから、残留伸度が5〜80%であることが好ましく、5〜50%であることが特に好ましい。
【0026】
本発明のラビング布を構成する織編物に用いる繊維は、天然繊維、半合成繊維、再生繊維あるいは合成繊維の中から少なくとも1種用いて作ることができるものの、安定した繊維物性や前述の通りフィラメント糸が好ましいとする観点から、半合成繊維、再生繊維、合成繊維が好ましく、合成繊維が特に好ましい。
【0027】
該半合成繊維、再生繊維、合成繊維を構成するポリマーとしては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィンやその他ビニル基の付加重合により合成される例えばポリメタクリレート系ポリマーやポリアクリロニトリル系ポリマーなどのビニル系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、芳香族あるいは脂肪族ケトン、天然ゴムや合成ゴムなどのエラストマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックを挙げることができるものの、耐熱性や繊維の削れが発生しにくいことから、ポリエステルおよび/またはポリアミドが好ましい。
【0028】
該好ましいとするポリアミドとしては、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミドを挙げることができる。具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7、ナイロン5,6、ナイロン6T,ナイロン9T,MXD6ナイロンなどが挙げられるほか、本発明の目的を損ねない範囲で他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族、脂環族ジアミン成分が、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基を両方有したアミノカルボン酸化合物が単独で用いられていてもよく、あるいは第3、第4の共重合成分が共重合されているポリアミドであってもよい。
【0029】
また該好ましいとするポリエステルとしては、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステルを挙げることができる。具体的には、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらにかかるポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(ポリプロピレンテレフタレートと呼称される場合もある;PTT)、ポリテトラメチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)およびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレート(PCMT)等の芳香族ポリエステル、あるいは芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステルなどが挙げられる。そして、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステルには、本発明の目的を損ねない範囲で他の成分が共重合されているものが用いられてもよく、ジカルボン酸化合物を共重合せしめることができる。該ジカルボン酸化合物としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジカルボン酸化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また該好ましいとするポリエステルの共重合成分としては、ジオール化合物を共重合せしめることができ、該ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンエーテル、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらジオール化合物のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また該好ましいとするポリエステルの共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸とを有する化合物、すなわちヒドロキシカルボン酸を挙げることができ、該ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体を挙げることができ、これらヒドロキシカルボン酸のうち1種を単独で用いてもよいし、または本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
該好ましいとするポリエステルとしては、芳香族、脂肪族、脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基とを有するヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とするポリエステルであってもよく、これらヒドロキシカルボン酸からなる重合体としては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(6−ヒドロキシカプロン酸)などのようなヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルや、グリコリド、ラクチド、ブチロラクトン、カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなど、単一のモノマーから重合されてなる、ポリグリコール酸やポリ乳酸といったポリエステルを挙げることができ、その他にも、これらポリ(ヒドロキシカルボン酸)には、本発明の目的を損ねない範囲で芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族、脂環族ジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよい。
【0033】
これら好ましいとするポリエステルにおいて、高い初期引張弾性率を有するためにラビング処理において織編物を構成した際に優れた配向特性を保持せしめうるという点、あるいは高い融点を有するために、ラビング処理時に発生する摩擦熱によっても繊維の変形が起こり難いという点から、PET系ポリマー、PTT系ポリマー、PBT系ポリマー、PEN系ポリマー、PCMT系ポリマー、PPN系ポリマーが好ましく、PET系ポリマー、PEN系ポリマー、PCMT系ポリマーなどのポリエステルが特に好ましい。
【0034】
本発明のラビング布を構成する織編物に用いる繊維は、前述の通り好ましいとするポリエステルおよび/またはポリアミドが用いられることが好ましいものの、ポリエステルおよび/またはポリアミドは1種類を単独で用いてもよく、また本発明の目的を損ねない範囲において複数種を併用してもよい。あるいは本発明の目的を損ねない範囲において、本発明で用いられる織編物には、必要に応じて導電性を有する繊維、静電性を有する繊維、あるいはストレッチ性を有する繊維を混用してもよい。
【0035】
また本発明のラビング布を構成する織編物に用いる繊維は、本発明の目的を損ねない範囲で艶消剤、難燃剤、滑剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤、末端基封止剤、導電剤等の添加剤を少量保持してもよい。
【0036】
本発明のラビング布は前記織編物に弾性体を積層してなるものである。本発明の織編物と弾性体とを積層一体化してなるラビング布は、ラビング処理において用いる際には、織編物側を配向膜に接するように配置して、弾性体は織編物を配向膜に押しつける役割を担う。該弾性体層に好適な素材としては、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリスチレン、発泡ポリ乳酸、あるいは不織布などを用いることができる。また、弾性率等の機械特性を調節する目的で、ポリウレタン、メラミン等の樹脂を含浸・塗布した不織布や織編物も用いることができる。その中で、特に、適度な弾力を有して織編物と積層一体化した際の接着性がよいことから、発泡ポリウレタンがより好ましい。かかる発泡ポリウレタンは、イソシアネート成分、ポリオール成分(高分子量ポリオール成分、低分子量ポリオール成分)、及び鎖延長剤からなるものである。イソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を特に限定なく使用できる。イソシアネート成分としては、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4 ’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。これらは1種で用いても、2種以上を混合しても差し支えない。イソシアネート成分としては、上記ジイソシアネート化合物の他に、3官能以上の多官能ポリイソシアネート化合物も使用可能である。多官能のイソシアネート化合物としては、デスモジュール−N(バイエル社製)や商品名デュラネート(旭化成工業社製)として一連のジイソシアネートアダクト体化合物が市販されている。上記のイソシアネート成分のうち、芳香族ジイソシアネートと脂環式ジイソシアネートを併用することが好ましく、特にトルエンジイソシアネートとジシクロへキシルメタンジイソシアネートを併用することが好ましい。高分子量ポリオール成分としては、ポリテトラメチレンエーテルグリコールに代表されるポリエーテルポリオール、ポリブチレンアジペートに代表されるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応物などで例示されるポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させ、次いで得られた反応混合物を有機ジカルボン酸と反応させたポリエステルポリカーボネートポリオール、及びポリヒドキシル化合物とアリールカーボネートとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高分子量ポリオール成分の数平均分子量は特に限定されるものではないが、得られるポリウレタン樹脂の弾性特性等の観点から500〜2000であることが好ましい。数平均分子量が500未満であると、これを用いたポリウレタン樹脂は十分な弾性特性を有さず、脆いポリマーとなる。一方、数平均分子量が2000を超えると、これを用いたポリウレタン樹脂は軟らかくなりすぎる。ポリオール成分として上述した高分子量ポリオール成分の他に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン等の低分子量ポリオール成分を併用することが好ましい。エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミン成分を用いてもよい。低分子量ポリオール成分や低分子量ポリアミン成分の(数平均)分子量は500未満であり、好ましくは250以下である。ポリウレタン樹脂発泡体をプレポリマー法により製造する場合において、プレポリマーの硬化には鎖延長剤を使用する。鎖延長剤は、少なくとも2個以上の活性水素基を有する有機化合物であり、活性水素基としては、水酸基、第1級もしくは第2級アミノ基、チオール基(SH)等が例示できる。具体的には、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、N,N’−ジ−sec−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、m−キシリレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、及びp−キシリレンジアミン等に例示されるポリアミン類、あるいは、上述した低分子量ポリオール成分や低分子量ポリアミン成分を挙げることができる。これらは1種で用いても、2種以上を混合しても差し支えない。イソシアネート成分、ポリオール成分、及び鎖延長剤の比は、各々の分子量や所望物性などにより種々変え得る。ポリウレタン樹脂発泡体の製造は、プレポリマー法、ワンショット法のどちらでも可能であるが、事前にイソシアネート成分とポリオール成分からイソシアネート末端プレポリマーを合成しておき、これに鎖延長剤を反応させるプレポリマー法が、得られるポリウレタン樹脂の物理的特性が優れており好適である。なお、イソシアネート末端プレポリマーは、分子量が800〜5000程度のものが加工性、物理的特性等が優れており好適である。ポリウレタン樹脂発泡体の製造方法としては、中空ビーズを添加させる方法、機械発泡法、化学的発泡法などが挙げられる。
【0037】
また、発泡ポリウレタンを得る別の方法としては、ポリウレタンを湿式凝固させる方法を採用することができる。これは、DMF等の水混和性の溶剤にポリウレタン樹脂を溶解した後、離型紙やフィルム上に流延し、その離型紙またはフィルムを、水或いは上記水混和性の溶剤の水溶液中に浸漬する方法であり、水混和性溶剤が水等と置換してポリウレタンが凝固する際に、微多孔構造が形成される方法である。
【0038】
そして、このようにして得られる該弾性体は、織編物と積層一体化されてラビング布を形成するが、該一体化する方法としては、フレームラミネート法やボンディング法により一体化することが好ましく、熱処理を伴わないことからボンディング法がより好ましい。すなわち、織編物と弾性体を接着する方法としては、織編物あるいは弾性体の一方に接着剤を付与して、他方と貼り合せる方法を好ましく用いることが出来る。かかる、接着剤としては、アクリル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリウレタン系の樹脂を、適宜選択して用いることが出来る。かかる接着剤を付与する方法としては、接着剤を融点以上に加熱して溶融して塗布する方法や、接着剤を溶剤に溶かしたり、水に分散させた状態で塗布する方法を採用することができる。また、接着剤を不織布やフィルム状に成型したものを、織編物と弾性体の間に挟んで、熱プレスして接着する方法も採用してもよい。そして該ボンディング法においても、織編物と弾性体とを幾つかの点で固定する方法と、全面で固定する方法があるものの、ラビング処理中に織編物と弾性体とのずれが生じることを回避するために、織編物と弾性体とが全面で接着剤を用いて固定する方法が特に好ましい。
【0039】
本発明のラビング布は弾性体を用いてなるが、該弾性体はラビング布の厚み方向における10%圧縮時の応力(P1)と50%圧縮時の応力(P2)の比R(R=P2/P1)が0.90≦R≦2.00の範囲にある弾性体であることが好ましい。通常、ラビング処理においては、ラビング布で周面が形成されたラビングローラーを、基板表面に形成された配向膜上に回転しながら接触させ、かつ直線的に移動させて、配向膜に配向異方性を付与するのであるが、ラビングローラーが配向膜に接触して離れるまでの間に、ローラー曲面と配向膜との距離がローラーの回転に伴い、連続的に変化する、すなわちラビング布はローラーが回転していく間に、ラビング布の厚み方向に連続的な圧縮変形を受ける。ラビング処理においては、該一連の圧縮変形の間にも、ラビング布の配向性能が可能な限り変化せず、一定の応力で配向処理を遂行することが好ましい。すなわち、本発明のような織編物と弾性体とが積層一体化されてなるラビング布は、前述の連続的な圧縮変形の間にも、弾性体の圧縮時の応力は変化しないことが好ましいのである。そこで本発明のラビング布は、ラビング布の厚み方向における10%圧縮時の応力(P1)と50%圧縮時の応力(P2)の比R(R=P2/P1)が0.90≦R≦2.00の範囲にある弾性体を用いることによって、ラビング中に安定した配向性能を発揮しうるものとなるのである。そして、配向斑のない安定したラビング性能を有するという観点で、該比Rは0.90≦R≦1.80の範囲にあることがさらに好ましく、1.00≦R≦1.50の範囲にあることが特に好ましい。
【0040】
本発明のラビング布は、用いるラビング装置によってラビング布の厚みを決定すればよいものの、弾性体の反発特性が効果的に作用する点で、ラビング布の厚みは0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましく、1.5mm以上であることが好ましい。また該ラビング布の厚みの上限については、過度に厚い場合にはラビング装置に取り付けが困難になることから、20mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
以下実施例により、本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに制限されるものではない。なお実施例中の物性値は以下の方法によって測定した。
【実施例】
【0042】
A.単繊維繊度[デシテックス(dtex)]の測定
繊維(マルチフィラメント)を長さ100m分カセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値に100を掛ける。同様に測定して得た3回の平均値をそのマルチフィラメントの繊度として、該繊度をマルチフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単繊維繊度[dtex]として、有効数字2桁で算出した。
【0043】
B.繊維の初期引張弾性率、残留伸度、破断強度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機(TENSIRON UCT−100)を用い、未延伸糸であれば初期試料長50mm、引張速度400mm/分で、延伸糸であれば初期試料長200mm、引張速度200mm/分でそれぞれ初期引張弾性率(延伸糸のみ)、破断強度および残留伸度を測定し、5回測定した平均値をそれぞれの測定値とした。初期引張弾性率は、チャート紙にチャート速度100cm/分、応力フルレンジ500gとして記録して、引張初期の曲線の傾きから求めた。初期引張弾性率、残留伸度、破断強度のいずれも有効数字2桁として算出した。
【0044】
C.弾性体の10%圧縮時の応力(P1)と50%圧縮時の応力(P2)の比R(R=P2/P1)の算出
JIS K6400−2(2004)の7.圧縮たわみB法を準用し、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下、試料の大きさが厚さ50mm、縦、横の長さが共に300mmの試料片を用いて、直径200mmの加圧板で、押し込み速度が毎分100mmで試料片の75%の厚みまで押し込んだ後、同速で加圧板を戻す、その一連の圧縮−応力曲線を自動的に記録することで測定を行った。そして10%圧縮時の応力(P1)と50%押し込み時の応力(P2)から、有効数字3桁として比Rを算出した。
【0045】
D.配向化性能(配向規制力)評価および繊維削れの評価
ラビング処理対象である配向膜付き基板を作製してラビング処理を行って評価した。具体的にはポリイミド製配向膜を備えた10cm角のガラス基板を用い、一方、ラビング布は、φ50mmのステンレス製ラビングローラーに両面テープで張り付け、ラビング装置に取り付けた。なおポリイミド製配向膜は、ポリイミド前駆体溶液(日産化学製SE−7492)をガラス基板上に塗布し、250℃でベークして形成した。
【0046】
ラビング装置において、ラビングローラーを回転数1500rpmで回転させながらラビング布を配向膜に近づけ、ラビング布を表面から厚さで50%になる厚さまで配向膜の表面に押しつけた(この状態を押し込み量50%と称する)。この状態で、基板を搭載したステージを移動速度30mm/secで一定方向に移動させてラビング処理を行った。このラビング処理を1種類のラビング布につき2枚の基板に対して行った後、2枚の基板をラビング処理方向がアンチパラレル(反平行)となるように配向膜を向かい合わせてセルを形成した。次いで、2枚の基板の間隙に液晶を封入した。最終的な液晶セルのギャップは、約5μmとした。
【0047】
作製した液晶セルを2枚の偏光板の間に挟み、光を透過して観察し、液晶の配向状態を目視で観察した。この時、液晶セル以外の場所を通過する光の強さと比較して、光の透過性が良いものを十分な配向化性能を有するものとして、優れる(二重丸)、液晶封入時に液晶が流動した跡が残ったり、液晶の配向化性能が弱いものの透過光が見られる場合に、良い(○)、そして全く透過光が見られないものを、劣る(△)とした。
【0048】
またラビング処理終了後に基板上の配向膜を株式会社キーエンス製DIGITAL MICROSCOPE VHX−100で配向膜上および配向膜端部を観察した。そして、繊維削れのカスが配向膜上や配向膜端部に全く見られないかもしくは数個見られる場合に、優れる(二重丸)、繊維削れのカスが配向膜上や配向膜端部に見られるものの比較例2のパイル起毛布よりなるラビング布より少ない場合に、良い(○)、そして配向膜上や配向膜端部に見られる繊維削れのカスの量が比較例2並かそれよりも多い場合に、劣る(△)とした。
【0049】
(ポリエチレンテレフタレート(PET)の製法):テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部からの通常のエステル化反応によって得た低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.66のポリエチレンテレフタレート(以下PET)のペレットを得た。
【0050】
(ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)の製造):テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)、酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得た低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.16のポリトリメチレンテレフタレート(PTT)のペレットを得た。このPTTペレットを溶融紡糸に用いる場合には150℃で10時間真空乾燥して用いた。
【0051】
(経糸1の製造):このPETペレットを150℃で10時間真空乾燥して、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を備えたエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度280℃で孔径が0.20mm、孔数が144個の丸形の孔形状の口金を設置して溶融紡糸を行い、実効成分として1重量%の付着量となるよう水系処理剤(実効成分20重量%濃度)を付着せしめた後、1500m/分の引取速度で引き取る溶融紡糸を行って巻き取り糸を得た。
【0052】
そして巻き取って得たマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度320m/分、第2ローラーは120℃で送糸速度800m/分、第3ローラーは室温で送糸速度800m/分として繊維に延伸および熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのガラス転移温度(Tg;77℃)以下に冷却した後に巻き取って、マルチフィラメントの繊度144dtex、フィラメント数144本、単繊維繊度1.00dtexからなる繊維断面が丸のマルチフィラメント延伸糸(経糸1)を得た。経糸1の繊維物性を表1の織物1の欄に示す。
【0053】
(緯糸1の製造):前述の経糸1の製造において、孔径が0.30mm、孔数が48個の丸型の孔形状の口金を用いた以外は経糸1の製造と同様の方法により、溶融紡糸、延伸、熱処理を施した後、マルチフィラメントの繊度56dtex、フィラメント数48本、単繊維繊度1.17dtexからなる繊維断面が丸型のマルチフィラメント延伸糸(緯糸1)を得た。
【0054】
(織物1の製造):経糸1および緯糸1(共に捲縮のないフラットヤーン)を用いて、経糸のフィラメント本数が100本/cm、緯糸のフィラメント本数が44本/cmの経朱子である10枚朱子を作製した。
【0055】
【表1】

【0056】
(経糸2,3、10の製造):2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で、島成分にPET、海成分に平均分子量が1000のポリエチレングリコール(PEG)を15重量%共重合したPEG共重合PETを用いて、海島型複合繊維を行って(経糸2:36島×孔数8,経糸3:70島×孔数35)、または芯鞘複合紡糸を行って(芯:PET,鞘:PEG共重合PET、芯鞘形状は図2口金の孔数144個)、紡糸温度は275℃でそれぞれ溶融紡糸を行った以外は、経糸1と同様の方法でマルチフィラメントを巻き取って得た。そして巻き取って得たマルチフィラメントについて、経糸1と同様の方法で延伸および熱処理を行って、マルチフィラメント延伸糸をそれぞれ得た。得られた繊維は1%水酸化ナトリウム水溶液で処理して経糸2、経糸3、経糸10を得た。
【0057】
(経糸4〜9の製造):前述の経糸1の製造において、それぞれ表1に示すフィラメントカウントと同数の孔数の口金(孔径は0.30mm(経糸4,5,7,9)、0.20mm(経糸6,8))を用いた以外は経糸1の製造と同様の方法により、溶融紡糸、延伸、熱処理を施した後、表1に示す、繊維断面が丸型で、フラットヤーンのマルチフィラメント延伸糸(経糸4〜7,9)を得た。なお経糸8については100T/mの撚糸加工を施した捲縮糸として得た。
【0058】
(経糸11〜14の製造):前述の経糸1の製造において、それぞれ表1に示すポリマー(経糸11:M&G Polymers社製ポリエチレンナフタレート HIPERTUF 90000;以下PEN,経糸12:PTT,経糸13:東レ株式会社製ポリブチレンテレフタレート タイプ1100SS;以下PBT,経糸14:東レ株式会社製ナイロン6 タイプ300)を用いて、フィラメントカウントと同数の孔数の口金(孔径は0.20mm)を用い、紡糸温度をそれぞれ310℃(経糸11)、250℃(経糸12,13,14)とした以外は経糸1の製造と同様の方法により、溶融紡糸、延伸、熱処理を施した後、表1に示す、繊維断面が丸型で、フラットヤーンのマルチフィラメント延伸糸(経糸11〜14)を得た。
【0059】
(織物2〜14の製造):織物1と同様に緯糸1を用いて緯糸のフィラメント本数が44本/cmの経朱子織物を作製する際に、経糸には前述の経糸2〜14を用いて、また表1に示す朱子の種類、経糸のフィラメント本数、および経糸の単繊維本数となるように経朱子織物(織物2〜14)を作製した。
【0060】
実施例1〜25および比較例1
表1に示す織物1〜14、および表2および図3,4に示す特性を持つ、アキレス株式会社製発泡ポリウレタン タイプTB−QJH(特性は図3。実施例1〜14および21〜24,以下、弾性体1)およびタイプZF(特性は図4。実施例15〜20および25,以下、弾性体2)、および接着剤として大日本インキ化学工業株式会社製アクリル酸エステル系接着剤DICNAL K−1500(K−1500の100重量%に対し、増粘剤としてDICNAL VS−20を2重量%使用、実施例1〜21および23〜25、以下、接着剤と称する)、またはフレームラミネート法を用いて、表3に示すラビング布厚みを有する実施例1〜25のラビング布を得た。また織物1を用いて弾性体を設けないラビング布を比較例1とした。配向化性能(配向規制力)および繊維削れの評価結果を表3に示す。単繊維繊度や繊維を形成するポリマーの種類、経糸の単繊維本数や朱子織物の種類によって配向化性能や繊維削れの度合いが変化し(実施例1〜14)、また弾性体の種類やラビング布の厚み、弾性体と朱子織物の接着方法によっても(実施例15〜25)、配向化性能や繊維削れの度合いが変化することが分かったが、概ね優れたあるいは良好な結果を得た。一方で比較例1については、繊維削れは殆ど発生しなかったものの、弾性体がないために均一にラビング布を配向膜に押しつけることが難しく、配向斑が発生した。
【0061】
比較例2
特許文献2の実施例中、表1のNo.5に記載のレーヨン起毛布を用いて実施例1と同様に配向化性能および繊維削れについて評価した。なお比較例1と同様、弾性体を設けなかった。配向化性能は良好であったが、繊維削れは多く、配向膜にも埋没するほどで、純水による洗浄でも除去できず、繊維削れについては劣っていた。
【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態のラビング布を用いて基板上の配向膜にラビング処理をする工程を説明する説明図である。
【図2】本発明の実施例10および19に用いる織物10を構成する元となる、鋭利な突起を有する四葉型の異形断面糸を得るための芯鞘複合繊維(溶脱前)の単繊維の横断面図である。
【図3】本発明の実施例で用いる弾性体1の弾性特性を示す圧縮率−応力の測定曲線である。
【図4】本発明の実施例で用いる弾性体2の弾性特性を示す圧縮率−応力の測定曲線である。
【符号の説明】
【0065】
1:ラビングローラー。
【0066】
2:弾性体。
【0067】
3:織編物
4:配向膜
5:基板
6:鞘成分(PEG共重合PET)
7:芯成分(PET)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物と弾性体とが積層一体化されてなるラビング布。
【請求項2】
織編物が朱子織物であることを特徴とする請求項1に記載のラビング布。
【請求項3】
織編物を構成する繊維が長繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載のラビング布。
【請求項4】
朱子織物の表層となる経糸または緯糸の単繊維本数が2000本/cm以上であることを特徴とする請求項2〜3のいずれかに記載のラビング布。
【請求項5】
朱子織物の経糸と緯糸の交差が5本以上の繰り返しであることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のラビング布。
【請求項6】
朱子織物の表層となる経糸または緯糸の単繊維繊度が2.0デシテックス以下であることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のラビング布。
【請求項7】
朱子織物の表層となる経糸または緯糸がポリエステルおよび/またはポリアミドからなることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のラビング布。
【請求項8】
朱子織物の表層となる経糸または緯糸が非捲縮繊維からなることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のラビング布。
【請求項9】
ラビング布の厚み方向における10%圧縮時の応力(P1)と50%圧縮時の応力(P2)の比R(R=P2/P1)が0.90≦R≦2.00の範囲にある弾性体を用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のラビング布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−15317(P2009−15317A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147723(P2008−147723)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】