説明

ラミネート用樹脂組成物並びにその積層体及びその積層体の製造方法

【課題】優れたヒートシール強度と帯電防止性を有し、更にスリップ性が大幅に改良されたラミネート用樹脂組成物並びにそれを用いた積層体及びその積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定のエチレン−α−オレフィン共重合体(A1)を含有するポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、下記の配合量の(b1)〜(b4)の4種からなる帯電防止剤(B)を少なくとも配合し、(b1)/(b4)の配合重量比が1.5〜3であり、且つ(b2)/(b4)の配合重量比が0.3〜1.3であることを特徴とするラミネート用樹脂組成物。
[帯電防止剤(B)]
(b1)グリセリン脂肪酸モノエステル0.10〜0.50重量部
(b2)ポリオキシアルキレンアルキルアミン0.01〜0.1重量部
(b3)脂肪族アルコール0.01〜0.1重量部
(b4)アルキルスルホン酸金属塩0.01〜0.1重量部

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたヒートシール強度と帯電防止性を有し、更にスリップ性が大幅に改良されたラミネート用樹脂組成物並びにそれを用いた積層体及びその積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料や薬包紙包材の中には、帯電防止性能と滑り性(またはスリップ性)の両方を必要とされる用途がある。
一般的に、これらの分野において、滑り性(またはスリップ性)付与には、コーンスターチ等を散布する方法が行われているが、コーンスターチ等は、内容物によっては安全性に懸念があり、使用できない場合がある。
また、コーンスターチ等の代わりに、不飽和脂肪酸モノアミドを使用すれば、帯電防止性能が発現されなくなり、双方を満足させることは困難である。
【0003】
特許文献1には、ポリオレフィン100重量部に対し、帯電防止剤としてモノグリセリン脂肪酸エステル0.03〜0.7重量部とポリグリセリン脂肪酸エステル0.03〜0.7重量部、及びスリップ剤として脂肪酸アミド0.01〜0.3重量部が配合された押出ラミネート用樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、密度0.920g/cm以下のメタロセン触媒のポリオレフィン樹脂をラミネート形成する際に、冷却ロールとスリップ剤(脂肪酸アマイド等)との組合せを用いて、粉ふりかけなしで加工することにより得られたノンパウダーラミネート製品を開示している。
【0005】
さらに、特許文献3には、第1の発明として、ポリオレフィン樹脂と、帯電防止剤として、アルキルスルホン酸金属塩とを、配合した押出ラミネート用樹脂組成物、第2の発明として、ポリオレフィン樹脂と、帯電防止剤として、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、グリセリン高級脂肪酸エステル及び高級脂肪族アルコールとを配合した押出ラミネート用樹脂組成物が提案され、該樹脂組成物に、さらに、スリップ剤を添加してもよいと、開示されている。
しかし、これらの特許文献記載の樹脂組成物では、ラミネート後の帯電防止性能とスリップ性能の双方を維持させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−320357号公報
【特許文献2】特開2004−338147号公報
【特許文献3】特開2002−212350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、優れたヒートシール強度と帯電防止性を有し、更にスリップ性が大幅に改良されたラミネート用樹脂組成物並びにそれを用いた積層体及びその積層体の製造方法を提供することにある。
また、長期高温保管でも、それらの効果が持続するラミネート用樹脂組成物並びにそれを用いた積層体及びその積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来技術では、帯電防止剤とスリップ剤を併用すれば、帯電防止性能が低下するためスリップ性と帯電防止性の双方を満足させることが困難である。本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のエチレン−α−オレフィン共重合体に、4種の組み合わせからなる帯電防止剤を特定量配合することにより、長期高温保管でも、帯電防止性能及びヒートシール性を持続し得るだけでなく、スリップ性も同時に発揮し得ることができることを見出し、それらの知見により、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、JIS K7210の190℃、21.18N荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)が1〜100g/10分、密度が0.870〜0.940g/cmのエチレン−α−オレフィン共重合体(A1)を含有するポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、下記の配合量の(b1)〜(b4)の4種からなる帯電防止剤(B)を少なくとも配合し、(b1)/(b4)の配合重量比が1.5〜3.0であり、且つ(b2)/(b4)の配合重量比が0.3〜1.3であることを特徴とするラミネート用樹脂組成物が提供される。
[帯電防止剤(B)]
(b1)グリセリン脂肪酸エステル0.10〜0.50重量部
(b2)ポリオキシアルキレンアルキルアミン0.01〜0.1重量部
(b3)脂肪族アルコール0.01〜0.1重量部
(b4)アルキルスルホン酸金属塩0.01〜0.1重量部
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、(b1)グリセリン脂肪酸モノエステルは、ジグリセリン脂肪酸モノエステル又はトリグリセリン脂肪酸モノエステルであることを特徴とするラミネート用樹脂組成物が提供される。
【0011】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明に係るラミネート用樹脂組成物からなる層を、少なくとも片側表面に有することを特徴とする積層体が提供される。
【0012】
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明に係るラミネート用樹脂組成物からなる層を、基材上に、押出ラミネート加工することを特徴とする積層体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のラミネート用樹脂組成物は、基材との優れた接着性、スリップ性及び帯電防止性を有し、ヒートシール性が大幅に向上する。さらに、本発明のラミネート用樹脂組成物は、特定のポリエチレン系樹脂に、4種の組み合わせからなる帯電防止剤を特定量配合することにより、特に、ポリオキシアルキレンアルキルアミンとグリセリン高級脂肪酸エステルの配合割合を適正に調整することと、脂肪族アルコールとアルキルスルホン酸金属塩とを適正に配合することにより、長期高温保管でも、帯電防止性能及びヒートシール性を損なわず、その効果が持続する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のラミネート用樹脂組成物は、イオン重合法により得られた、JIS K7210の190℃、21.18N荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)が1〜100g/10分、密度が0.870〜0.940g/cmのエチレン−α−オレフィン共重合体を含有するポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、下記(b1)〜(b4)の4種からなる帯電防止剤(B)を少なくとも特定量配合し、(b1)/(b4)の配合重量比が1.5〜3.0であり、且つ(b2)/(b4)の配合重量比が0.3〜1.3であることを特徴とするものである。
[帯電防止剤]
(d1)グリセリン脂肪酸モノエステル0.10〜0.50重量部
(d2)ポリオキシアルキレンアルキルアミン0.01〜0.1重量部
(d3)脂肪族アルコール0.01〜0.1重量部
(d4)アルキルスルホン酸金属塩0.01〜0.1重量部
以下、項目毎に説明する。
【0015】
1.ポリエチレン樹脂(A)
(1)エチレン−α−オレフィン共重合体(A1)
本発明で用いられるポリエチレン樹脂(A)は、エチレン−α−オレフィン共重合体(A1)(以下、超低密度ポリエチレン(A1)とも称す)を含有する。
エチレン−α−オレフィン共重合体(A1)は、チーグラー系触媒、バナジウム系触媒、フィリップス系触媒、メタロセン系触媒(シングルサイト系触媒とも称す)等のイオン重合法によって製造されるエチレン−α−オレフィン共重合体が好ましい。
その密度は、0.870〜0.940g/cmであり、好ましくは0.870〜0.910g/cm未満、更に好ましくは0.870〜0.905g/cm、より好ましくは0.880〜0.900g/cmである。
この範囲であれば、低温ヒートシール性を損なわずに安定した帯電防止性を保持することが可能となる。
【0016】
また、エチレン−α−オレフィン共重合体(A1)は、JIS K7210の190℃、21.18N荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)が1〜100g/10分、好ましくは2〜70g/10分、さらに好ましくは3〜50g/10分である。この範囲であれば、機械的強度を低下させずに加工性を保持することが可能となる。
【0017】
エチレン−α−オレフィン共重合体(A1)のα−オレフィンは、好ましくは炭素数3〜12、より好ましくは3〜10のα−オレフィンであり、具体的にはプロピレン、1−ブテン、4−メチルペンテン−1、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等を挙げることができる。
エチレン−α−オレフィン共重合体中、α−オレフィンに基づく単量体単位の含有量は、エチレン−α−オレフィン共重合の全重量に対して、0.3〜15モル%が好ましく、0.3〜6モル%がより好ましい。
【0018】
(2)高圧ラジカル重合法で得られた低密度ポリエチレン(LDPE)(A2)
本発明のラミネート用樹脂組成物では、ポリエチレン樹脂(A)に、さらに、高圧ラジカル重合法で得られた低密度ポリエチレン(LDPE)(A2)を含有することが、シーラントの機能、例えば、ヒートシール性、ヒートシール強度、耐熱性、加工性等の性能を向上させるために好ましい。
上記高圧ラジカル重合法で得られた低密度ポリエチレン(LDPE)(B1)は、JIS K7210の190℃、21.18N 荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜100g/10分、好ましくは0.5〜80g/10分、さらに好ましくは1〜70g/10分である。この範囲内であれば、組成物の溶融張力が適切な範囲となり、ラミネート成形がし易い。
【0019】
また、JIS K7112で測定される密度は0.905〜0.940g/cm、好ましくは0.910〜0.940g/cm、より好ましくは0.910〜0.935g/cm、さらに好ましくは0.912〜0.930g/cmの範囲である。
尚、JIS K6922では、低密度ポリエチレン(LDPE)は、密度が0.910以上〜0.930未満g/cm、中密度ポリエチレン(MDPE)は、密度が0.930以上〜0.942未満g/cm、高密度ポリエチレン(HDPE)は、密度が0.942以上g/cmと、規定されているが、本発明では、便宜的に上記のように、取り扱うものとする。
【0020】
また、溶融張力は1.5〜25g、好ましくは3〜20g、さらに好ましくは3〜15gである。
尚、ここでいう溶融張力とは、東洋精機製作所製キャピログラフを用い、炉内で、190℃で加熱安定された樹脂を内径2.095mm、長さ8mmのオリフィスから1cm/minのピストン速度で押し出し、押し出された溶融樹脂を4m/minの速度で引っ張りその時に生じた抵抗力を測定し、溶融張力値としたものである。
さらに、Mw/Mnは3〜20、好ましくは4〜18である。溶融張力、Mw/Mnは、樹脂の弾性項目であり、上記の範囲であればシート成形がし易い。なお、ここでいうMw/Mnは、GPC分析による重量平均分子量/数平均分子量である。
【0021】
(3)エチレン−α−オレフィン共重合体(A1)と低密度ポリエチレン(A2)の重量比
本発明のラミネート用樹脂組成物では、ポリエチレン樹脂(A)として、必須成分のエチレン−α−オレフィン共重合体(A1)と、所望により、さらに配合される低密度ポリエチレン(A2)との重量比は、好ましくは成分(A1)/成分(A2)(重量比)が50/50〜100/0が好ましく、60/40〜95/5がより更に好ましい。
【0022】
2.帯電防止剤(B)
本発明に用いられる帯電防止剤(B)は、下記(b1)〜(b4)の4種を含有するものである。
(b1)グリセリン脂肪酸モノエステル
(b2)ポリオキシアルキレンアルキルアミン
(b3)脂肪族アルコール
(b4)アルキルスルホン酸金属塩
【0023】
(1)グリセリン脂肪酸モノエステル(b1)
本発明において、(b1)グリセリン脂肪酸モノエステルは、炭素数8〜22、好ましくは炭素数12〜18の脂肪酸とグリセリン、ジグリセリン又はトリグリセリンとのモノエステル体である、モノグリセリン脂肪酸モノエステル、ジグリセリン脂肪酸モノエステル、トリグリセリン脂肪酸モノエステルである。
炭素数8〜22、好ましくは炭素数12〜18の脂肪酸としては、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等が挙げられ、帯電防止性及びスリップ性の観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸が好ましく、ステアリン酸がよりこの好ましい。
モノグリセリン脂肪酸モノエステルは、下記一般式(I)で表される化合物が好ましく、RCOOHで表される脂肪酸とグリセリンのエステル化反応により得られる化合物である。
【0024】
【化1】

【0025】
式中、Rは、一般に直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、炭素数が7〜21である場合、十分な帯電防止性能が得られるので好ましい。
モノグリセリン脂肪酸モノエステルとしては、ラウリン酸モノグリセリド、パルミチン酸モノグリセリド、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリド、リノール酸モノグリセリド等が挙げられる。
市販品としては、エレクトロストリッパーTS−5(花王(株)製、商標、グリセリンモノステアレート)などが挙げられる。
また、ジグリセリン脂肪酸モノエステルとしては、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノパルミテート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、ジグリセリンモノリノレート等が挙げられる。
さらに、トリグリセリン脂肪酸モノエステルとしては、トリグリセリンモノラウレート、トリグリセリンモノパルミテート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノオレート、トリグリセリンモノリノレート等が挙げられる。
これらの化合物は、単独又は混合物いずれであっても使用できる。
これらの中では、帯電防止性とスリップ性の観点から、ジグリセリン脂肪酸モノエステル又はトリグリセリン脂肪酸モノエステルが好ましく、ジグリセリン脂肪酸モノエステルが、更に好ましい。
【0026】
上記グリセリン脂肪酸モノエステルの配合量は、該ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、0.10〜0.5重量部であり、好ましくは0.10〜0.4重量、更に好ましくは0.10〜0.3重量部である。該配合量が0.10重量部未満の場合、押出ラミネート加工後の積層体の帯電防止性能とスリップ性が低下し、一方、0.5重量部を超える場合、押出ラミネート加工後のヒートシール強度と接着強度が低下する。
【0027】
(2)ポリオキシアルキレンアルキルアミン(b2)
(b2)ポリオキシアルキレンアルキルアミンは、下記一般式(II)で表される化合物である。
【0028】
【化2】

【0029】
式中、Rは、単素数8〜22の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基又はアルケニル基であり、炭素数が8〜18が、帯電防止性能およびスリップ性の観点から好ましい。m及びnは1〜10の整数であり、m及びnが1であることが好ましい。
好ましいポリオキシアルキレンアルキルアミンは、ラウリルジエタノールアミン、ミリスチルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ラウリルジイソプロパノールアミン、ミリスチルジイソプロパノールアミン、パルミチルジイソプロパノールアミン、ステアリルジイソプロパノールアミン、ドデシルジオキシエチルアミン、テトラデシルジオキシエチルアミン、オクタデシルジオキシエチルアミン、16−オキシヘプタデシルジオキシエチルアミン、オクタデシルオキシエトキシアミン、17−オクタデニルジオキシエチルエチルアミン、1−メチルヘプタデシルジオキシエチルアミン等が挙げられる。これらの化合物は、単独又は混合物のいずれにおいても使用できる。
【0030】
これらの中では、帯電防止性及びスリップ性の観点から、ラウリルジエタノールアミン、パルミチルジエタノールアミン、ステアリルジエタノールアミン、オレイルジエタノールアミンが好ましい。
市販品として、例えば、エレクトロストリッパーEA(花王(株)製、商標、ラウリルジエタノールアミン)などが挙げられる。
【0031】
上記ポリオキシアルキレンアルキルアミンの配合量は、該ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜0.1重量部であり、好ましくは0.01〜0.08重量部、更に好ましくは0.02〜0.07重量部である。該配合量が0.01重量部未満の場合、押出ラミネート加工後の積層体の帯電防止性能とスリップ性及び長期高温保管後のヒートシール強度が低下し、一方、0.1重量部を超える場合、押出ラミネート加工後の積層体の基材との接着性及びヒートシール強度が低下する。
【0032】
(3)脂肪族アルコール(b3)
本発明に係る(b3)脂肪族アルコールとは、炭素数12〜30、好ましくは炭素数12〜22、更に好ましくは炭素数12〜18の直鎖若しくは分岐鎖の飽和又は不飽和アルコールである。これら脂肪族アルコールとしては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。これらの化合物は、単独又は混合物のいずれであってもよい。
【0033】
上記脂肪族アルコールの配合量は、該ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜0.1重量部であり、好ましくは0.01〜0.07重量部、更に好ましくは0.02〜0.05重量部である。該配合量が0.01重量部未満の場合、押出ラミネート加工後の積層体の分散状態が低下し、押出ラミネート加工後の積層体の帯電防止性能とスリップ性が低下し、一方、0.1重量部を超える場合、押出ラミネート加工後の積層体のベタツキ感が増大すると共にヒートシール強度が低下する。
【0034】
(4)アルキルスルホン酸金属塩(b4)
本発明に係る(b4)アルキルスルホン酸金属塩とは、炭素数8〜22、好ましくは炭素数12〜22、更に好ましくは炭素数12〜18の直鎖もしくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を有するスルホン酸の塩である。
塩を形成する金属は、例えば、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Ba,Mg,Caなどのアルカリ土類金属、及びZn,Alなどの金属が挙げられ、中でも得られる押出ラミネート用樹脂組成物が高い帯電防止性能を有することから、金属として、Na,Liを有するアルキルスルホン酸金属塩が好ましく、Naがより好ましい。
アルキルスルホン酸金属塩としては、例えば、ラウリルスルホン酸Na、ラウリルスルホン酸Li、ミリスチルスルホン酸Na、ミリスチルスルホン酸Li、パルミチルスルホン酸Na、パルミチルスルホン酸Liなどが挙げられる。これらの化合物は、単独又は混合物のいずれであってもよい。
【0035】
上記アルキルスルホン酸金属塩(b4)の配合量は、ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜0.2重量部、好ましくは0.03〜0.15重量部であり、更に好ましくは0.05〜0.1重量部である。該配合量が、該ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、0.01重量部未満の場合、押出ラミネート加工後の積層体の帯電防止性能とスリップ性と長期高温保管後のヒートシール強度が低下し、一方、0.2重量部を超える場合、押出ラミネート加工後の積層体のヒートシール強度が低下する。
【0036】
(b4)アルキルスルホン酸金属塩に対する、(b1)グリセリン脂肪酸エステルの配合重量比〔(b1/b4)〕が1.5〜3.0であり、好ましくは1.8〜2.8である。
〔(b1/b4)〕が、1.5未満の場合、押出ラミネート加工後の積層体の帯電防止性能が低下し、一方、3.0を超える場合、長期高温保管後の帯電防止性能とスリップ性が低下する。
また、(b4)アルキルスルホン酸金属塩に対する(b2)ポリオキシアルキレンアルキルアミンの配合重量比〔(b2/b4)〕は0.3〜1.3であり、好ましくは0.3〜1.0である。
(b2)ポリオキシアルキレンアルキルアミンの比が0.3未満の場合、押出ラミネート加工後の積層体の帯電防止性能が低下し、一方、1.3を超える場合、長期高温保管後のヒートシール性が低下する。
【0037】
これらの観点から、配合重量比〔(b1/b4)〕が1.5〜3.0、且つ配合重量比〔(b2/b4)〕が0.3〜1.3であり、配合重量比〔(b1/b4)〕が1.8〜2.8、且つ配合重量比〔(b2/b4)〕が0.3〜1.0であることが、好ましい。
配合重量比〔(b1/b4)〕が3.0を超え、且つ配合重量比〔(b2/b4)〕が1.3を超えると、長期高温保管後の帯電防止性、スリップ性、ヒートシール性が低下する。また、配合重量比〔(b1/b4)〕が1.5未満で、且つ配合重量比〔(b2/b4)〕が0.3未満では、帯電防止性が低下する。
尚、本発明に用いられるポリエチレン樹脂(A)には、上記以外の帯電防止剤を、本発明を損なわない限り、配合してもよい。
【0038】
本発明のラミネート用樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂(A)としてエチレン−α−オレフィン共重合体(A1)と必要によりLDPE(A2)と、帯電防止剤(B)とを押出機等で溶融混合したものでも良いし、エチレン−α−オレフィン共重合体ペレット、必要によりLDPEペレット、帯電防止剤を、予めポリオレフィン樹脂に練り込んだマスターバッチとを、ドライブレンドしたものであっても良い。
【0039】
また、本発明のラミネート用樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、滑剤、中和剤、ブロッキング防止剤、スリップ剤等、通常ポリオレフィンに使用される添加剤を添加してもよい。
さらに、本発明のラミネート用樹脂組成物では、スリップ剤を添加しなくても、スリップ剤を添加した性能レベルのスリップ性も同時に発揮し得ることができるが、さらに、スリップ性を増長させたければ、スリップ剤を添加してもよい。その際には、帯電防止剤とスリップ剤を併用すれば、帯電防止性能が不十分になるおそれがあるため、本発明の効果を阻害しない範囲で、注意深く添加する。
【0040】
3.積層体及びその製造方法
本発明の積層体とは、本発明のラミネート用樹脂組成物からなる層を少なくとも片側表面に有することを特徴とする積層体である。
本発明の積層体は、本発明のラミネート用樹脂組成物を基材上に、押出ラミネート加工することにより製造することができる。
【0041】
(1)押出ラミネート加工
押出ラミネート加工とは、本発明のラミネート用樹脂組成物を、押出ラミネート成形法、サンドウィッチラミネート法、共押出ラミネート法等の各種成形法により、各種基材にラミネートし、本発明のラミネート用樹脂組成物を少なくとも片側の表面に有する積層体を得る製造方法である。
また、基材に、本発明のラミネート用樹脂組成物を直接押出ラミネートしてもよいが、基材上にエチレン系重合体層を設け、その上に本発明のラミネート用樹脂組成物を押出ラミネートする方法が特に好ましい。
また、基材との接着性を高めるため、基材の接着面に対してはコロナ処理、フレーム処理、アンカーコート処理など、押出ラミネートされるエチレン系重合体に対しては、オゾン処理などの公知の表面処理を施してもよい。
【0042】
また、上記基材としては、パルプを原料とする紙類、合成高分子重合体フィルム、金属箔等が挙げられ、その中でもパルプを原料とする紙類が特に好ましく、例えば、クラフト紙、上質紙、グラシン紙、セロファン等が挙げられる。
合成高分子重合体フィルムとして、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスチレンフィルム等が挙げられ、これら高分子重合体フィルムは、アルミ蒸着、アルミナ蒸着、二酸化珪素蒸着されたものでもよい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を、実施例によって、具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、比較例で用いた物性、加工性の測定方法と評価方法及び使用樹脂、基材、添加剤は、以下の通りである。
【0044】
1.物性の評価方法
(1)メルトフローレート(MFR):
JIS K7210の試験条件4(190℃、21.18N荷重)で測定した。
(2)密度:
JIS K7112で測定した。
【0045】
2.樹脂組成物および積層体の評価方法
(1)表面固有抵抗:
三菱油化製の表面固有抵抗測定器MCP−HT250で、500Vの電荷を1分かけ、測定した。
(2)ヒートシール強度:
15mm幅に切断した積層フィルムを、シーラント面同士を合わせ、テスター産業製熱盤式ヒートシーラーの上部シールバーを120℃、下部シールバー30℃でシール圧力2kg/cm、シール時間1秒でヒートシールしたものを東洋精機製引張試験機にて引張速度300mm/分の速度でヒートシール部の強度を測定した。値が大きい方がヒートシール強度に優れる。
(3)スリップ性:
ヘイドン製傾斜式滑り機を用いて、80mm×150mmに切断した本発明の積層体を、本発明の樹脂組成物がラミネートされた側が上面になるよう下方にセットし、35mm×100mmに切断した本発明の積層体を下方積層体試料と合わせるように本発明の樹脂組成物がラミネートされた側が外側になるようにコロに取付け、上部試料が滑り落ちるまでの角度を、測定した。値が小さい方がスリップ性に優れる。
【0046】
3.原材料
(1)使用樹脂:
以下のポリエチレン樹脂を用いた。
(i)エチレン−1−ヘキセン共重合体(密度:0.910g/cm、MFR:10g/10分、銘柄:カーネルKC571 日本ポリエチレン株式会社製)
(ii)高圧ラジカル法低密度ポリエチレン樹脂(LDPEと称す)(密度:0.919g/cm、MFR:7g/10分、銘柄:ノバテックLD、LC600A、日本ポリエチレン株式会社製)
【0047】
(2)基材:
以下の基材を用いた。
(i)OPP(銘柄P2241:東洋紡株式会社製)
(ii)EVOH(銘柄:クラレ株式会社製)
【0048】
4.加工条件・装置
以下の装置、条件で、積層体を加工した。
装置:モダン社、90mmφシングルラミネート機
ダイ巾:500mm
加工速度:100m/min
アンカーコート剤:A3210/A3075(三井化学ポリウレタン株式会社製)
ラミネート厚み:25μm
【0049】
[実施例1]
メルトフローレート(MFR)が10g/10分、密度0.910g/cmのエチレン−α−オレフィン共重合体樹脂(銘柄:カーネルKC571、日本ポリエチレン(株)製)100重量部に対して、(b1)ジグリセリンステアリン酸モノエステル(花王社製、銘柄名:KS−1197A)0.20重量部、(b2)N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ステアリルアミン0.05重量部及び(b3)ステアリルアルコール0.05重量部との等量混合物(花王社製、銘柄名:エレクトロストリッパーTS−2B)合計0.1重量部、(b4)平均炭素数14.5のアルキルスルホン酸ナトリウム(花王社製、銘柄名:KS−1197B)0.10重量部を、押出機にて溶融混練して、ペレット化した。
基材としてOPP(25μ 東洋紡(株)製 銘柄P2241)とEVOHフィルム(12μ(株)クラレ製 銘柄EF−XL)を予めドライラミネートで積層して得られた積層体のEVOH面に、低密度ポリエチレン樹脂(密度:0.918g/cm、MFR:7g/10分、銘柄:ノバテックLD LC600A、日本ポリエチレン(株)製)をアンカーコート剤(タケラックA3210/A3075(芳香族エステル)三井化学ポリウレタン社製)を介して押出ラミネートによりLDPEが厚さ25μmとなるようにラミネートし得られた積層体を準備した。
次に、前記ペレットを用いてモダン社、90mmφシングルラミネート機へ供給し、前記積層体のLDPE側上に、さらに25μmの厚さになるように、ラミネートして積層体を得た。
得られた積層体を用いて、加工時と6ケ月保管後(長期高温保管)における基材とのヒートシール強度、帯電防止性能(表面固有抵抗)、スリップ性を評価した。それらの評価結果を表1に示した。
【0050】
[実施例2〜5]
実施例2〜4は、表1に示す割合で、各(b1)〜(b4)の帯電防止剤の配合量を変化させた以外は、実施例1と同様にして、評価した結果を表1に示した。
また、実施例5は、表1に示す割合で、各(b1)〜(b4)の帯電防止剤の配合をしたうえで、さらに、スリップ剤として、日本油脂製の脂肪酸アマイド(アルフローP−10)を低密度ポリエチレン(密度:0.918g/cm、MFR:7g/10分、銘柄:ノバテックLD LC600A、日本ポリエチレン(株)製)を予め3%マスターバッチ化したものを使用、脂肪酸アマイドを0.04重量部になるように1.3重量部を配合した以外は、実施例1と同様にして、評価した結果を表1に示した。
【0051】
[比較例1〜5]
比較例1〜4は、表2に示す割合で、各(b1)〜(b4)の帯電防止剤の配合量を変化させた以外は、実施例1と同様にして、評価した結果を表2に示した。
また、比較例5は、表2に示す割合で、各(b1)〜(b4)の帯電防止剤の配合をしたうえで、さらに、スリップ剤は、実施例5と同様に、脂肪酸アマイドを0.04重量部になるように配合した以外は、実施例1と同様にして、評価した結果を表1に示した。
表1、2の数値は、ポリエチレン樹脂(A)100重量部に対する配合重量部である。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
「評価」
上記の表1、2の結果から、本発明の実施例1〜5に示されるように、(b1)〜(b4)の4種の帯電防止剤を適量使用し、(b1)/(b4)の配合重量比が1.5〜3.0であり、且つ(b2)/(b4)の配合重量比が0.3〜1.3である場合には、加工時と6ケ月保管後(長期高温保管)の評価において、スリップ剤を用いなくともスリップ性、ヒートシール強度、及び帯電防止性に優れるものであった。
一方、(b1)〜(b4)の4種の帯電防止剤のうち、1つでも条件を満たさないと、本願の目的を達成することができなかった。尚、配合重量比は、小数点2桁目を四捨五入した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のラミネート用樹脂組成物は、優れた帯電防止性を有し、ヒートシール性が大幅に向上するので、高速自動充填包装材用、粉末、顆粒状の医薬品、かつお削り節、コーヒー粉末等のラミネート用材料として好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K7210の190℃、21.18N荷重下で測定したメルトフローレート(MFR)が1〜100g/10分、密度が0.870〜0.940g/cmのエチレン−α−オレフィン共重合体(A1)を含有するポリエチレン樹脂(A)100重量部に対し、下記の配合量の(b1)〜(b4)の4種からなる帯電防止剤(B)を少なくとも配合し、(b1)/(b4)の配合重量比が1.5〜3.0であり、且つ(b2)/(b4)の配合重量比が0.3〜1.3であることを特徴とするラミネート用樹脂組成物。
[帯電防止剤(B)]
(b1)グリセリン脂肪酸モノエステル0.10〜0.50重量部
(b2)ポリオキシアルキレンアルキルアミン0.01〜0.1重量部
(b3)脂肪族アルコール0.01〜0.1重量部
(b4)アルキルスルホン酸金属塩0.01〜0.1重量部
【請求項2】
(b1)グリセリン脂肪酸モノエステルは、ジグリセリン脂肪酸モノエステル又はトリグリセリン脂肪酸モノエステルであることを特徴とする請求項1記載のラミネート用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のラミネート用樹脂組成物からなる層を、少なくとも片側表面に有することを特徴とする積層体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のラミネート用樹脂組成物を、基材上に、押出ラミネート加工することを特徴とする積層体の製造方法。

【公開番号】特開2012−207102(P2012−207102A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73033(P2011−73033)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】