ラム波型高周波共振子
【課題】高いQ値を有し、速い位相速度、優れた周波数温度特性を有するラム波型高周波共振子を提供する。
【解決手段】ラム波型高周波共振子10は、水晶基板20と、水晶基板20の主面に第1交差指電極31と第2交差指電極32が間挿して構成されるIDT電極30と、IDT電極30のラム波の進行方向両側に配設される反射器40,50と、を備え、第1交差指電極31と第2交差指電極32の交差幅をWとし、ラム波の波長をλとしたとき、交差幅Wが21λ≦W≦54λで表される範囲に設定される。また、水晶基板20の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるようにIDT電極30が形成され、角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、水晶基板20の厚みtと、ラム波の波長λとの関係で表される規格化基板厚みt/λが、0.176≦t/λ≦1.925の範囲に設定される。
【解決手段】ラム波型高周波共振子10は、水晶基板20と、水晶基板20の主面に第1交差指電極31と第2交差指電極32が間挿して構成されるIDT電極30と、IDT電極30のラム波の進行方向両側に配設される反射器40,50と、を備え、第1交差指電極31と第2交差指電極32の交差幅をWとし、ラム波の波長をλとしたとき、交差幅Wが21λ≦W≦54λで表される範囲に設定される。また、水晶基板20の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるようにIDT電極30が形成され、角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、水晶基板20の厚みtと、ラム波の波長λとの関係で表される規格化基板厚みt/λが、0.176≦t/λ≦1.925の範囲に設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラム波型高周波共振子に関する。詳しくは、ラム波型高周波共振子における圧電基板とIDT電極の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波共振子としては、STカット水晶と呼ばれる水晶基板の表面において、弾性表面波が伝搬するX軸方向にIDT電極が形成されたレイリー波(Rayleigh wave)型弾性表面波共振子、STカット水晶に対して弾性表面波の伝搬方向を90度ずらした横波を伝搬するSTWカット水晶を用いるSH波弾性表面波素子や、ATカット水晶を用いたラム波(Lamb wave)型共振子が代表される。
【0003】
特に、ラム波型共振子は、位相速度が上述した弾性表面波を用いる共振子よりもはるかに速いこと、電気機械結合係数が大きく励信効率がよいこと、ラム波の伝搬路上の反射器からの反射係数が大きいという特徴を有しており、高周波素子として有力視されている。
【0004】
例えば、ATカット水晶基板の表面にIDT電極を形成したラム波型共振子において、この水晶基板の厚みHと、ラム波の波長λとが、0<2H/λ≦10で表されるラム波型高周波共振子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ATカット水晶基板上にIDT電極を形成したラム波型共振子の周波数温度特性の理論解析と、その実験結果が公表されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−258596号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会誌、C Vol.J89−C No.1、34頁〜39頁、「ラム波型弾性波素子用基板の温度特性」、中川恭彦
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したSTカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子は、弾性表面波素子としては優れた周波数温度特性を示すが、高精度が要求される共振子としては十分とはいえない。また、位相速度の理論値が約3100m/s程度と遅く、高周波帯域への対応は困難である。
【0008】
また、STWカット水晶を用いたSH波型弾性表面波素子は、周波数温度特性が前述のSTカット水晶よりも悪いということが知られている。また、電極材料としてアルミニウムに比べ密度が大きいタンタルやタングステンを用いていることから電気抵抗損が大きくなりQ値が低くなり励振効率が低下する。さらに、位相速度が低下してしまうというような課題があることが知られている。
【0009】
また、上述した特許文献1によるラム波型高周波共振子は、水晶基板の厚さを弾性波の波長に対し5波長以下のATカット水晶基板を用いることにより、周波数温度特性が優れ、高周波化に適するとされているが、必ずしもSTカット水晶よりも良好であるとはいえず、まだ、満足できるものではない。
【0010】
また、上述した非特許文献1では、IDT電極をダブル型の交差指電極にて構成し、交差指電極の交差幅をラム波の波長λに対して50λに設定したときの理論値及び実験値により、周波数温度特性が改善されることを提示している。しかしながら、ダブル型の交差指電極を用いる場合、第1交差指電極の電極間ピッチ(波長λに相当)の中に第二交差指電極の2本の電極指が間挿される構造のために交差指電極の幅が(1/8)λとなり、高周波帯域において、交差指電極の幅が一本の電極指が間挿されるシングル型に比べ1/2と極細くなるため製造上の制約が大きくなるという課題を有している。
【0011】
本発明の目的は、上述した課題を解決することを要旨とし、高いQ値を有し、速い位相速度と優れた周波数温度特性を有するラム波型高周波共振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のラム波型高周波共振子は、圧電基板と、該圧電基板の主面に第1交差指電極と第2交差指電極とが間挿されて構成されるIDT電極と、該IDT電極のラム波の進行方向両側に配設される反射器と、を備え、前記第1交差指電極と前記第2交差指電極の交差幅をWとし、ラム波の波長をλとしたとき、交差幅Wが21λ≦W≦54λで表される範囲に設定されていることを特徴とする。
ここで、交差幅とは、第1交差指電極と前記第2交差指電極とがラム波の進行方向に対して垂直方向に交差する範囲を意味する。
【0013】
詳しくは後述する実施の形態にて説明するが、この発明によれば、前記第1交差指電極と前記第2交差指電極との交差幅Wを21λ≦W≦54λの範囲に設計することにより、上述したSTカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子よりも優れた周波数温度特性を備え、高いQ値を有することから高周波帯域(位相速度が速い領域)に対応可能なラム波型高周波共振子を実現することができる。
【0014】
また、前記第1交差指電極と前記第2交差指電極とが、それぞれ電極指が1本毎交互に間挿されて構成されていることが好ましい。
なお、このように構成されているIDT電極は、シングル型電極と呼ばれる。
【0015】
従って、第1交差指電極(または第2交差指電極)の電極間ピッチ(波長λに相当する)の間に第2交差指電極(または第1交差指電極)それぞれの電極指1本を間挿する構造とすることで、上述した非特許文献1のようなダブル型電極に比べ、電極指の幅を2倍にすることができることから、同じ周波数であれば、幅広の電極指でよいので格段に製造し易いという効果がある。
【0016】
また、前記圧電基板が水晶基板であることが好ましい。
圧電基板として水晶基板を用い、ラム波を振動モードとすることにより、前述したSTカット水晶に比べて高周波帯域への対応性が優れ、STWカット水晶に比べて優れた周波数温度特性を有する共振子を実現することができる。
【0017】
さらに、前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記水晶基板と前記IDT電極とが形成され、前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されていることが望ましい。
【0018】
詳しくは後述する実施の形態で説明するが、ラム波型高周波共振子の周波数温度特性、周波数帯域、励振の安定性は、水晶基板の切り出し角度と弾性波の伝搬方向、つまりオイラー角(0、θ、0)における角度θと、基板厚みtと波長λとの関係で表される規格化基板厚みt/λにて律せられる。それぞれを上述したような関係式とすることで、前述した従来技術のSTWカット水晶、STカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となり、また、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数特性をもつラム波型高周波共振子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図12は本実施形態のラム波型高周波共振子の構造及び、特性を示している。なお、以下の説明で参照するラム波型高周波共振子の構造を表す図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る水晶基板20の切り出し方位が示されている。水晶基板20は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸、光学軸と呼ばれるZ軸の面で構成される薄板であるが、本実施形態における水晶基板20の切り出し方位は、厚み方向のZ軸をZ’まで角度θだけ回転させた回転Yカット水晶であり、図中、長手方向がX軸、幅方向がY’、厚み方向がZ’となるように切り出されている(図2も参照する)。そして、X軸方向にIDT電極(Interdigital Transducer)30が形成されている。従って、ラム波の進行方向はX軸方向となる。
【0021】
続いて、本実施形態によるラム波型高周波共振子10の構造について説明する。
図2は、本実施形態に係るラム波型高周波共振子を示す斜視図、図3は図2のA−A切断面を表す断面図である。図2、図3において、ラム波型高周波共振子10は、圧電基板としての水晶基板20の主面に、1対の交差指電極31,32とから構成されるIDT電極30と、このIDT電極30のラム波の進行方向の両側に配設され格子状の電極指50a,50bを有する反射器50と、同様な電極指構成を有する反射器40とから構成されている。なお、以降、交差指電極31を第1交差指電極31、交差指電極32を第2交差指電極32として表す。
【0022】
なお、図2,3において表すIDT電極30及び反射器40,50それぞれの電極指の構成数は1例を示したもので、図示した数には限定されない。
【0023】
IDT電極30の第1交差指電極31と第2交差指電極32とは、それぞれ相互にX軸方向に並列に間挿されて構成されている。つまり、図2に示すように、第1交差指電極31の電極指31aと電極指31bとの間に第2交差指電極32の電極指32aが間挿され、第2交差指電極32の電極指32aと電極指32bとの間に第1交差指電極31の電極指31bが間挿されている。このように各電極指が1本毎間挿されているIDT電極30をシングル型電極と呼ぶ。
【0024】
図3において、第1交差指電極31を構成する櫛歯形状の電極指31aの端部から電極指31bまでの間の距離は、ラム波の波長λとし、電極指31a,31bそれぞれの幅をLiとする。
【0025】
また、電極指31aの端部と、電極指31a,31bの間に間挿される第2交差指電極32の電極指32aと、の距離(電極間ピッチと称することがある)はPiと表す。なお、電極指32aの幅もLiである。従って、ラム波の波長λはIDT電極30の電極間ピッチPiの2倍である。
【0026】
また、反射器50の電極指50aの端部から電極指50bまでの距離を(電極間ピッチと称することがある)Prとし、電極指50a,50bそれぞれの幅をLrとする。
【0027】
また、第1交差指電極31と第2交差指電極32とが、ラム波の進行方向に対して垂直方向な方向、つまり、Y’方向に交差している範囲における交差幅をWと表している(図2、参照)。この交差幅Wの大きさによってラム波型高周波共振子10のQ値が変動する。
【0028】
図4は、ラム波型高周波共振子10(以降、単にラム波と表すことがある)の交差幅WとQ値との関係についての実験値を表すグラフであり、STカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子(以降、単にレイリー波とあらわすことがある)との比較を表している。なお、交差幅Wは、ラム波の波長λの倍数で表している。
【0029】
図4において、本実施形態のラム波型高周波共振子10は、交差幅Wが38λの近傍に極値を有する二次曲線で表される。また、レイリー波では、20λ近傍まではラム波と同様にQ値が上昇し、20λ以上の範囲では、Q値は交差幅Wに関係なくほぼ一定となる。ここで、交差幅が21λ≦W≦54λの範囲において、ラム波のQ値がレイリー波よりも高い領域である。つまり、Q値を大きくすることによりレイリー波よりも励振しやすく、安定した共振周波数が得られることになるとともに、高周波化を可能にすることを表している。
【0030】
続いて、前述したラム波型高周波共振子10(図2,3、参照)における位相速度と規格化基板厚みt/λ及びオイラー角(0,θ,0)における角度θそれぞれに対する周波数温度偏差(周波数温度変動量)、位相速度、電気機械結合係数K2の関係についてシミュレーションにより算出した結果について図面を参照して説明する。
【0031】
図5、図6は、周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量と水晶基板20の厚みtとラム波の波長λの関係(規格化基板厚みt/λと表す)を示すグラフである。図5,6において、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は35度≦θ≦47.2度であり、規格化基板厚みt/λの範囲は0.176≦t/λ≦1.925である。
さらに、角度θ及び規格化基板厚みt/λと位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2それぞれの関係について詳しく説明する。
【0032】
図7に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示す。ここで、規格化基板厚みt/λを0.2〜2.0まで6段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度をグラフで示している。図7から、規格化基板厚みt/λ=2.0の場合を除いた全ての場合において、角度θが30度〜50度の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができることを示している。
【0033】
また、図8に、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示す。オイラー角(0、θ、0)における角度θを30度〜50度まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度をグラフで示している。図8から、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、t/λが0.2〜2の大部分の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができることを示している。
【0034】
次に、オイラー角(0、θ、0)の角度θ、規格化基板厚みt/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2との関係について説明する。
図9に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。ここで、規格化基板厚みt/λを1.7としている。図9から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいθの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図6も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0035】
図10にオイラー角(0、θ、0)における角度θと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図10から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図5も参照する)、この範囲において電気機械結合係数K2は、基準としている0.02を大きく上回っている。角度θの範囲が32.5度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、角度θの範囲が34.2度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、さらに、角度θの範囲が36度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となった。
【0036】
図11に規格化基板厚みt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図11から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図6も参照する)、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。この規格化基板厚みt/λの範囲では、規格化基板厚みt/λが小さいほど位相速度が速くなり、高周波帯域が得られる。つまり、規格化基板厚みt/λを調整すれば位相速度を調整することが可能である。
次に、t/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を説明する。
【0037】
図12に規格化基板厚みt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図12から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい規格化基板厚みt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図6,11も参照する)、この範囲において電気機械結合係数K2は大部分の範囲で0.02以上が得られる。この規格化基板厚みt/λが1に近い範囲では、電気機械結合係数K2が0.05以上の高い領域が得られる。
【0038】
上述した結果から、オイラー角(0、θ、0)における角度θを35度≦θ≦47.2度で表す範囲、規格化基板厚みt/λを0.176≦t/λ≦1.925で表す範囲に設計することにより、STWカット水晶よりも周波数温度特性が優れ、位相速度5000m/s以上の速い位相速度を得ることができる。また、電気機械結合係数K2が、実用上好ましい0.02以上を確保することができることを示している。
【0039】
従って、前述した実施形態によれば、第1交差指電極31と第2交差指電極32の交差幅Wを21λ≦W≦54λの範囲に設計することにより、上述したSTカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子よりも優れた周波数温度特性を有するラム波型高周波共振子10を実現する。また、高いQ値を有することから高周波帯域(位相速度が速い)に対応し易く、且つ、安定した共振特性を有するラム波型高周波共振子を実現することができる。
【0040】
また、第1交差指電極31(または第2交差指電極32)の電極間ピッチ(波長λに相当する)の間に第2交差指電極32(または第1交差指電極31)それぞれの電極指の1本ずつ間挿するシングル型電極構造とすることで、上述した非特許文献1のようなダブル型電極に比べ、電極指の幅を2倍にすることができる。従って、同じ周波数であれば、幅広の電極指でよいので格段に製造し易いという効果がある。
【0041】
また、本実施形態では、圧電基板として水晶基板20を用い、水晶基板20の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)における角度θを35度≦θ≦47.2度で表される範囲とし、規格化基板厚みt/λを、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定している。このようにすることで、前述した従来技術のSTWカット水晶、STカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となり、また、水晶基板20の励振効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数特性をもつラム波型高周波共振子10を提供することができる。
【0042】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0043】
例えば、前述した実施形態では圧電基板として水晶基板を用いているが、水晶基板の他に、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイト、ニオブ酸カリウムを採用できる。また、酸化亜鉛、窒化アルミ、五酸化タンタル等の圧電性薄膜、硫化カドミウム、硫化亜鉛、ガリウム砒素、インジウムアンチモン等の圧電半導体にも応用可能である。
【0044】
また、前述の実施形態では、ラム波型高周波共振子として1ポート共振子を例示して説明したが、例えば、2ポート共振子またはIDT電極と反射器とを備えたフィルタであっても構わない。
【0045】
また、前述の実施形態では、反射器40,50を備えているが、これらの反射器を備えない端面反射型の構成とすることができる。
【0046】
従って、本実施形態によれば、規格化基板厚みt/λ、オイラー角表示で(0、θ、0)における角度θを上述した範囲に設定した水晶基板を採用し、IDT電極の交差幅Wを適正範囲に設定することにより、高いQ値を有し、速い位相速度、優れた周波数温度特性を有するラム波型高周波共振子を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る水晶基板の切り出し方位を示す説明図。
【図2】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子を示す斜視図。
【図3】図2のA−A切断面を表す断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の交差幅WとQ値との関係について表すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係を示すグラフ。
【図6】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の周波数温度変動量と規格化基盤厚みt/λの関係を示すグラフ。
【図7】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の位相速度とオイラー角(0、θ、0)における角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図8】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の位相速度とオイラー角(0、θ、0)における角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図9】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子のオイラー角(0、θ、0)における角度θと周波数温度変動量及び位相速度の関係を示すグラフ。
【図10】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子のオイラー角(0、θ、0)における角度θと周波数温度変動量及び電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【図11】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の規格化基板厚みt/λと周波数温度変動量及び位相速度の関係を示すグラフ。
【図12】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の規格化基板厚みt/λと周波数温度変動量及び電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0048】
10…ラム波型高周波共振子、20…圧電基板としての水晶基板、30…IDT電極、31…第1交差指電極、32…第2交差指電極、40,50…反射器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラム波型高周波共振子に関する。詳しくは、ラム波型高周波共振子における圧電基板とIDT電極の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波共振子としては、STカット水晶と呼ばれる水晶基板の表面において、弾性表面波が伝搬するX軸方向にIDT電極が形成されたレイリー波(Rayleigh wave)型弾性表面波共振子、STカット水晶に対して弾性表面波の伝搬方向を90度ずらした横波を伝搬するSTWカット水晶を用いるSH波弾性表面波素子や、ATカット水晶を用いたラム波(Lamb wave)型共振子が代表される。
【0003】
特に、ラム波型共振子は、位相速度が上述した弾性表面波を用いる共振子よりもはるかに速いこと、電気機械結合係数が大きく励信効率がよいこと、ラム波の伝搬路上の反射器からの反射係数が大きいという特徴を有しており、高周波素子として有力視されている。
【0004】
例えば、ATカット水晶基板の表面にIDT電極を形成したラム波型共振子において、この水晶基板の厚みHと、ラム波の波長λとが、0<2H/λ≦10で表されるラム波型高周波共振子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、ATカット水晶基板上にIDT電極を形成したラム波型共振子の周波数温度特性の理論解析と、その実験結果が公表されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−258596号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会誌、C Vol.J89−C No.1、34頁〜39頁、「ラム波型弾性波素子用基板の温度特性」、中川恭彦
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したSTカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子は、弾性表面波素子としては優れた周波数温度特性を示すが、高精度が要求される共振子としては十分とはいえない。また、位相速度の理論値が約3100m/s程度と遅く、高周波帯域への対応は困難である。
【0008】
また、STWカット水晶を用いたSH波型弾性表面波素子は、周波数温度特性が前述のSTカット水晶よりも悪いということが知られている。また、電極材料としてアルミニウムに比べ密度が大きいタンタルやタングステンを用いていることから電気抵抗損が大きくなりQ値が低くなり励振効率が低下する。さらに、位相速度が低下してしまうというような課題があることが知られている。
【0009】
また、上述した特許文献1によるラム波型高周波共振子は、水晶基板の厚さを弾性波の波長に対し5波長以下のATカット水晶基板を用いることにより、周波数温度特性が優れ、高周波化に適するとされているが、必ずしもSTカット水晶よりも良好であるとはいえず、まだ、満足できるものではない。
【0010】
また、上述した非特許文献1では、IDT電極をダブル型の交差指電極にて構成し、交差指電極の交差幅をラム波の波長λに対して50λに設定したときの理論値及び実験値により、周波数温度特性が改善されることを提示している。しかしながら、ダブル型の交差指電極を用いる場合、第1交差指電極の電極間ピッチ(波長λに相当)の中に第二交差指電極の2本の電極指が間挿される構造のために交差指電極の幅が(1/8)λとなり、高周波帯域において、交差指電極の幅が一本の電極指が間挿されるシングル型に比べ1/2と極細くなるため製造上の制約が大きくなるという課題を有している。
【0011】
本発明の目的は、上述した課題を解決することを要旨とし、高いQ値を有し、速い位相速度と優れた周波数温度特性を有するラム波型高周波共振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のラム波型高周波共振子は、圧電基板と、該圧電基板の主面に第1交差指電極と第2交差指電極とが間挿されて構成されるIDT電極と、該IDT電極のラム波の進行方向両側に配設される反射器と、を備え、前記第1交差指電極と前記第2交差指電極の交差幅をWとし、ラム波の波長をλとしたとき、交差幅Wが21λ≦W≦54λで表される範囲に設定されていることを特徴とする。
ここで、交差幅とは、第1交差指電極と前記第2交差指電極とがラム波の進行方向に対して垂直方向に交差する範囲を意味する。
【0013】
詳しくは後述する実施の形態にて説明するが、この発明によれば、前記第1交差指電極と前記第2交差指電極との交差幅Wを21λ≦W≦54λの範囲に設計することにより、上述したSTカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子よりも優れた周波数温度特性を備え、高いQ値を有することから高周波帯域(位相速度が速い領域)に対応可能なラム波型高周波共振子を実現することができる。
【0014】
また、前記第1交差指電極と前記第2交差指電極とが、それぞれ電極指が1本毎交互に間挿されて構成されていることが好ましい。
なお、このように構成されているIDT電極は、シングル型電極と呼ばれる。
【0015】
従って、第1交差指電極(または第2交差指電極)の電極間ピッチ(波長λに相当する)の間に第2交差指電極(または第1交差指電極)それぞれの電極指1本を間挿する構造とすることで、上述した非特許文献1のようなダブル型電極に比べ、電極指の幅を2倍にすることができることから、同じ周波数であれば、幅広の電極指でよいので格段に製造し易いという効果がある。
【0016】
また、前記圧電基板が水晶基板であることが好ましい。
圧電基板として水晶基板を用い、ラム波を振動モードとすることにより、前述したSTカット水晶に比べて高周波帯域への対応性が優れ、STWカット水晶に比べて優れた周波数温度特性を有する共振子を実現することができる。
【0017】
さらに、前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記水晶基板と前記IDT電極とが形成され、前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されていることが望ましい。
【0018】
詳しくは後述する実施の形態で説明するが、ラム波型高周波共振子の周波数温度特性、周波数帯域、励振の安定性は、水晶基板の切り出し角度と弾性波の伝搬方向、つまりオイラー角(0、θ、0)における角度θと、基板厚みtと波長λとの関係で表される規格化基板厚みt/λにて律せられる。それぞれを上述したような関係式とすることで、前述した従来技術のSTWカット水晶、STカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となり、また、水晶基板の励振の効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数特性をもつラム波型高周波共振子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図12は本実施形態のラム波型高周波共振子の構造及び、特性を示している。なお、以下の説明で参照するラム波型高周波共振子の構造を表す図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際のものとは異なる模式図である。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る水晶基板20の切り出し方位が示されている。水晶基板20は、電気軸と呼ばれるX軸、機械軸と呼ばれるY軸、光学軸と呼ばれるZ軸の面で構成される薄板であるが、本実施形態における水晶基板20の切り出し方位は、厚み方向のZ軸をZ’まで角度θだけ回転させた回転Yカット水晶であり、図中、長手方向がX軸、幅方向がY’、厚み方向がZ’となるように切り出されている(図2も参照する)。そして、X軸方向にIDT電極(Interdigital Transducer)30が形成されている。従って、ラム波の進行方向はX軸方向となる。
【0021】
続いて、本実施形態によるラム波型高周波共振子10の構造について説明する。
図2は、本実施形態に係るラム波型高周波共振子を示す斜視図、図3は図2のA−A切断面を表す断面図である。図2、図3において、ラム波型高周波共振子10は、圧電基板としての水晶基板20の主面に、1対の交差指電極31,32とから構成されるIDT電極30と、このIDT電極30のラム波の進行方向の両側に配設され格子状の電極指50a,50bを有する反射器50と、同様な電極指構成を有する反射器40とから構成されている。なお、以降、交差指電極31を第1交差指電極31、交差指電極32を第2交差指電極32として表す。
【0022】
なお、図2,3において表すIDT電極30及び反射器40,50それぞれの電極指の構成数は1例を示したもので、図示した数には限定されない。
【0023】
IDT電極30の第1交差指電極31と第2交差指電極32とは、それぞれ相互にX軸方向に並列に間挿されて構成されている。つまり、図2に示すように、第1交差指電極31の電極指31aと電極指31bとの間に第2交差指電極32の電極指32aが間挿され、第2交差指電極32の電極指32aと電極指32bとの間に第1交差指電極31の電極指31bが間挿されている。このように各電極指が1本毎間挿されているIDT電極30をシングル型電極と呼ぶ。
【0024】
図3において、第1交差指電極31を構成する櫛歯形状の電極指31aの端部から電極指31bまでの間の距離は、ラム波の波長λとし、電極指31a,31bそれぞれの幅をLiとする。
【0025】
また、電極指31aの端部と、電極指31a,31bの間に間挿される第2交差指電極32の電極指32aと、の距離(電極間ピッチと称することがある)はPiと表す。なお、電極指32aの幅もLiである。従って、ラム波の波長λはIDT電極30の電極間ピッチPiの2倍である。
【0026】
また、反射器50の電極指50aの端部から電極指50bまでの距離を(電極間ピッチと称することがある)Prとし、電極指50a,50bそれぞれの幅をLrとする。
【0027】
また、第1交差指電極31と第2交差指電極32とが、ラム波の進行方向に対して垂直方向な方向、つまり、Y’方向に交差している範囲における交差幅をWと表している(図2、参照)。この交差幅Wの大きさによってラム波型高周波共振子10のQ値が変動する。
【0028】
図4は、ラム波型高周波共振子10(以降、単にラム波と表すことがある)の交差幅WとQ値との関係についての実験値を表すグラフであり、STカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子(以降、単にレイリー波とあらわすことがある)との比較を表している。なお、交差幅Wは、ラム波の波長λの倍数で表している。
【0029】
図4において、本実施形態のラム波型高周波共振子10は、交差幅Wが38λの近傍に極値を有する二次曲線で表される。また、レイリー波では、20λ近傍まではラム波と同様にQ値が上昇し、20λ以上の範囲では、Q値は交差幅Wに関係なくほぼ一定となる。ここで、交差幅が21λ≦W≦54λの範囲において、ラム波のQ値がレイリー波よりも高い領域である。つまり、Q値を大きくすることによりレイリー波よりも励振しやすく、安定した共振周波数が得られることになるとともに、高周波化を可能にすることを表している。
【0030】
続いて、前述したラム波型高周波共振子10(図2,3、参照)における位相速度と規格化基板厚みt/λ及びオイラー角(0,θ,0)における角度θそれぞれに対する周波数温度偏差(周波数温度変動量)、位相速度、電気機械結合係数K2の関係についてシミュレーションにより算出した結果について図面を参照して説明する。
【0031】
図5、図6は、周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係、及び周波数温度変動量と水晶基板20の厚みtとラム波の波長λの関係(規格化基板厚みt/λと表す)を示すグラフである。図5,6において、STWカット水晶よりも周波数温度特性がよい角度θの範囲は35度≦θ≦47.2度であり、規格化基板厚みt/λの範囲は0.176≦t/λ≦1.925である。
さらに、角度θ及び規格化基板厚みt/λと位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2それぞれの関係について詳しく説明する。
【0032】
図7に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度との関係を示す。ここで、規格化基板厚みt/λを0.2〜2.0まで6段階に設定し、それぞれのt/λにおける位相速度をグラフで示している。図7から、規格化基板厚みt/λ=2.0の場合を除いた全ての場合において、角度θが30度〜50度の範囲で、5000m/s以上の位相速度を得ることができることを示している。
【0033】
また、図8に、規格化基板厚みt/λと位相速度との関係を示す。オイラー角(0、θ、0)における角度θを30度〜50度まで5段階に設定し、それぞれの角度θにおける位相速度をグラフで示している。図8から、各角度θにおいて位相速度のばらつきは小さく、t/λが0.2〜2の大部分の範囲で5000m/s以上の位相速度を得ることができることを示している。
【0034】
次に、オイラー角(0、θ、0)の角度θ、規格化基板厚みt/λと、位相速度、周波数温度変動量、電気機械結合係数K2との関係について説明する。
図9に、オイラー角(0、θ、0)における角度θと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。ここで、規格化基板厚みt/λを1.7としている。図9から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいθの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図6も参照する)、この範囲において位相速度5000m/s以上が得られることを示している。
【0035】
図10にオイラー角(0、θ、0)における角度θと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図10から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいオイラー角(0、θ、0)における角度θの範囲は、35度≦θ≦47.2度であり(図5も参照する)、この範囲において電気機械結合係数K2は、基準としている0.02を大きく上回っている。角度θの範囲が32.5度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.03以上となり、角度θの範囲が34.2度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.04以上となり、さらに、角度θの範囲が36度≦θ≦47.2度の場合は、電気機械結合係数K2が0.05以上となった。
【0036】
図11に規格化基板厚みt/λと位相速度と周波数温度変動量との関係を示す。図11から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さいt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図6も参照する)、この範囲において位相速度は大部分の範囲で5000m/s以上が得られる。この規格化基板厚みt/λの範囲では、規格化基板厚みt/λが小さいほど位相速度が速くなり、高周波帯域が得られる。つまり、規格化基板厚みt/λを調整すれば位相速度を調整することが可能である。
次に、t/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を説明する。
【0037】
図12に規格化基板厚みt/λと電気機械結合係数K2と周波数温度変動量との関係を示す。図12から、周波数温度変動量がSTWカット水晶よりも小さい規格化基板厚みt/λの範囲は、0.176≦t/λ≦1.925であり(図6,11も参照する)、この範囲において電気機械結合係数K2は大部分の範囲で0.02以上が得られる。この規格化基板厚みt/λが1に近い範囲では、電気機械結合係数K2が0.05以上の高い領域が得られる。
【0038】
上述した結果から、オイラー角(0、θ、0)における角度θを35度≦θ≦47.2度で表す範囲、規格化基板厚みt/λを0.176≦t/λ≦1.925で表す範囲に設計することにより、STWカット水晶よりも周波数温度特性が優れ、位相速度5000m/s以上の速い位相速度を得ることができる。また、電気機械結合係数K2が、実用上好ましい0.02以上を確保することができることを示している。
【0039】
従って、前述した実施形態によれば、第1交差指電極31と第2交差指電極32の交差幅Wを21λ≦W≦54λの範囲に設計することにより、上述したSTカット水晶を用いたレイリー波型弾性表面波共振子よりも優れた周波数温度特性を有するラム波型高周波共振子10を実現する。また、高いQ値を有することから高周波帯域(位相速度が速い)に対応し易く、且つ、安定した共振特性を有するラム波型高周波共振子を実現することができる。
【0040】
また、第1交差指電極31(または第2交差指電極32)の電極間ピッチ(波長λに相当する)の間に第2交差指電極32(または第1交差指電極31)それぞれの電極指の1本ずつ間挿するシングル型電極構造とすることで、上述した非特許文献1のようなダブル型電極に比べ、電極指の幅を2倍にすることができる。従って、同じ周波数であれば、幅広の電極指でよいので格段に製造し易いという効果がある。
【0041】
また、本実施形態では、圧電基板として水晶基板20を用い、水晶基板20の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)における角度θを35度≦θ≦47.2度で表される範囲とし、規格化基板厚みt/λを、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定している。このようにすることで、前述した従来技術のSTWカット水晶、STカット水晶に比べ優れた周波数温度特性と、高周波帯域への対応が可能となり、また、水晶基板20の励振効率を表す電気機械結合係数(K2)を高めることができるので、励振し易く、安定した周波数特性をもつラム波型高周波共振子10を提供することができる。
【0042】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0043】
例えば、前述した実施形態では圧電基板として水晶基板を用いているが、水晶基板の他に、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、四ほう酸リチウム、ランガサイト、ニオブ酸カリウムを採用できる。また、酸化亜鉛、窒化アルミ、五酸化タンタル等の圧電性薄膜、硫化カドミウム、硫化亜鉛、ガリウム砒素、インジウムアンチモン等の圧電半導体にも応用可能である。
【0044】
また、前述の実施形態では、ラム波型高周波共振子として1ポート共振子を例示して説明したが、例えば、2ポート共振子またはIDT電極と反射器とを備えたフィルタであっても構わない。
【0045】
また、前述の実施形態では、反射器40,50を備えているが、これらの反射器を備えない端面反射型の構成とすることができる。
【0046】
従って、本実施形態によれば、規格化基板厚みt/λ、オイラー角表示で(0、θ、0)における角度θを上述した範囲に設定した水晶基板を採用し、IDT電極の交差幅Wを適正範囲に設定することにより、高いQ値を有し、速い位相速度、優れた周波数温度特性を有するラム波型高周波共振子を提供するができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施形態に係る水晶基板の切り出し方位を示す説明図。
【図2】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子を示す斜視図。
【図3】図2のA−A切断面を表す断面図。
【図4】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の交差幅WとQ値との関係について表すグラフ。
【図5】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の周波数温度変動量とオイラー角(0、θ、0)における角度θの関係を示すグラフ。
【図6】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の周波数温度変動量と規格化基盤厚みt/λの関係を示すグラフ。
【図7】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の位相速度とオイラー角(0、θ、0)における角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図8】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の位相速度とオイラー角(0、θ、0)における角度θと規格化基板厚みt/λとの関係を示すグラフ。
【図9】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子のオイラー角(0、θ、0)における角度θと周波数温度変動量及び位相速度の関係を示すグラフ。
【図10】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子のオイラー角(0、θ、0)における角度θと周波数温度変動量及び電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【図11】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の規格化基板厚みt/λと周波数温度変動量及び位相速度の関係を示すグラフ。
【図12】本発明の実施形態に係るラム波型高周波共振子の規格化基板厚みt/λと周波数温度変動量及び電気機械結合係数K2との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0048】
10…ラム波型高周波共振子、20…圧電基板としての水晶基板、30…IDT電極、31…第1交差指電極、32…第2交差指電極、40,50…反射器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、該圧電基板の主面に第1交差指電極と第2交差指電極とが間挿されて構成されるIDT電極と、該IDT電極のラム波の進行方向両側に配設される反射器と、を備え、
前記第1交差指電極と前記第2交差指電極の交差幅をWとし、ラム波の波長をλとしたとき、交差幅Wが21λ≦W≦54λで表される範囲に設定されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のラム波型高周波共振子において、
前記第1交差指電極と前記第2交差指電極とが、それぞれの電極指が1本毎交互に間挿されて構成されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記圧電基板が水晶基板であることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項4】
請求項3に記載のラム波型高周波共振子において、
前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記水晶基板と前記IDT電極とが形成され、
前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項1】
圧電基板と、該圧電基板の主面に第1交差指電極と第2交差指電極とが間挿されて構成されるIDT電極と、該IDT電極のラム波の進行方向両側に配設される反射器と、を備え、
前記第1交差指電極と前記第2交差指電極の交差幅をWとし、ラム波の波長をλとしたとき、交差幅Wが21λ≦W≦54λで表される範囲に設定されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項2】
請求項1に記載のラム波型高周波共振子において、
前記第1交差指電極と前記第2交差指電極とが、それぞれの電極指が1本毎交互に間挿されて構成されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のラム波型高周波共振子において、
前記圧電基板が水晶基板であることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【請求項4】
請求項3に記載のラム波型高周波共振子において、
前記水晶基板の切り出し角度及び前記ラム波の伝搬方向が、オイラー角表示で(0、θ、0)になるように前記水晶基板と前記IDT電極とが形成され、
前記角度θが、35度≦θ≦47.2度で表される範囲において、前記水晶基板の厚みtと、前記ラム波の波長λとの関係が、0.176≦t/λ≦1.925で表される範囲に設定されていることを特徴とするラム波型高周波共振子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−54163(P2008−54163A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230188(P2006−230188)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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