説明

ランキンサイクル及びランキンサイクルに用いる熱交換器

【課題】冷媒の熱分解を回避しつつ冷媒への熱交換量を大きくし得るランキンサイクルを提供する。
【解決手段】エンジンの廃熱を第1冷媒に回収する熱交換器(92、111)、この熱交換器の出口の第1冷媒を用いて動力を発生させる膨張機(37)、この膨張機(37)を出た第1冷媒を凝縮させる凝縮器(38)、この凝縮器(38)からの第1冷媒を前記熱交換器(92、111)に供給する冷媒ポンプ(32)を含むランキンサイクル(31)において、熱交換器(92、111)は、排気の熱を第2冷媒に回収する第1熱交換器(92)と、この第2冷媒と第1冷媒及びエンジンの冷却水との間で熱交換を行うための第2冷媒通路(112)及び第1冷媒通路(113)と冷却水通路(114)とを有する第2熱交換器(111)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はランキンサイクル、特にランキンサイクルに用いる熱交換器の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
ランキンサイクルを循環する冷媒と高温の排気(数百℃)との間で熱交換を行わせると、冷媒が熱分解を起こすので、これを回避するため、排気の熱をまず冷却水に回収し、次に冷却水の熱を冷媒に回収するようにしたものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−151023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、冷媒の熱分解を抑制できるものの、冷媒への熱交換量が小さくなってしまうことを避けることができない。
【0005】
そこで本発明は、冷媒の熱分解を回避しつつ冷媒への熱交換量を大きくし得るランキンサイクルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱交換器は、第1冷媒を用いて動力を発生させるランキンサイクルに用いられる熱交換器を前提とする。本発明の熱交換器では、エンジンの排気の熱で温められた第2冷媒と前記第1冷媒及び前記エンジンの冷却水との間で熱交換を行う。
【0007】
また、本発明のランキンサイクルは、エンジンの廃熱を第1冷媒に回収する熱交換器、この熱交換器の出口の第1冷媒を用いて動力を発生させる膨張機、この膨張機を出た第1冷媒を凝縮させる凝縮器、この凝縮器からの第1冷媒を前記熱交換器に供給する冷媒ポンプを含む。さらに本発明のランキンサイクルでは、前記熱交換器が、排気の熱を第2冷媒に回収する第1熱交換器と、この第2冷媒と前記第1冷媒及び前記エンジンの冷却水との間で熱交換を行うための第2冷媒通路及び第1冷媒通路と冷却水通路とを有する第2熱交換器とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンジンの排気の熱をランキンサイクルの冷媒とエンジンの冷却水とに移動させる前提において、排気は第2冷媒とだけ熱交換することになる。これにより、熱交換器は1つの冷媒を擁するだけとなるので熱容量が小さくなり、排気通路に設けられた触媒の暖機途中など、排気を冷やしたくない場合に純水の流れを止めた際、排気から熱交換器に奪われる熱を少なくすることができる。
【0009】
また、本発明によれば、ランキンサイクルを循環する第1冷媒と熱交換するのは、第2冷媒である。このため、第2冷媒の温度が第1冷媒を熱分解するほど高くなり過ぎないように、純水の温度を排気温度より低い温度に設定することによって、第1冷媒の熱分解を回避しつつ第1冷媒への熱交換量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の前提となるランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。
【図2A】ポンプ及び膨張機を一体化した膨張機ポンプの概略断面図である。
【図2B】冷媒ポンプの概略断面図である。
【図2C】膨張機の概略断面図である。
【図3】冷媒系バルブの機能を示す概略図である。
【図4】ハイブリッド車両の概略構成図である。
【図5】エンジンの概略斜視図である。
【図6】排気管の配置を車両の下方から見た概略図である。
【図7A】ランキンサイクル運転域の特性図である。
【図7B】ランキンサイクル運転域の特性図である。
【図8】膨張機トルクによりエンジン出力軸の回転をアシストしている途中でハイブリッド車両1の加速が行われたときの様子を示したタイミングチャートである。
【図9】ランキンサイクルの運転停止からの再起動の様子を示したタイミングチャートである。
【図10】本発明の第1実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。
【図11】本発明の第1実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。
【図12】本発明の第1実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図である。
【図13】熱交換器の鉛直方向の概略断面図である。
【図14】3気筒エンジンの場合の熱交換器の設置場所を示す排気マニホールドの平面図である。
【図15】下タンクの分岐部への配置を示す概略斜視図である。
【図16】第2熱交換器における3つの冷媒の流れ方向を示すモデル図である。
【図17】第2熱交換器のうち冷媒通路及び冷却水通路の具体的な構成図である。
【図18】第1実施形態の制御系のブロック図である。
【図19】2つの開閉弁の駆動を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0012】
図1は本発明の前提となるランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図を示している。図1のランキンサイクル31は、冷凍サイクル51と冷媒および凝縮器38を共有する構成になっており、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51を統合したサイクルのことを、これ以降統合サイクル30と表現する。図4は統合サイクル30が搭載されるハイブリッド車両1の概略構成図である。尚、統合サイクル30は、ランキンサイクル31と冷凍サイクル51の冷媒が循環する回路(通路)及びその途中に設けられたポンプ、膨張機、凝縮器等の構成要素に加え、冷却水や排気の回路(通路)等を含めたシステム全体を指すものとする。
【0013】
ハイブリッド車両1では、エンジン2、モータジェネレータ81、自動変速機82が直列に連結され、自動変速機82の出力はプロペラシャフト83、ディファレンシャルギヤ84を介して駆動輪85に伝達される。エンジン2とモータジェネレータ81の間には第1駆動軸クラッチ86を設けている。また、自動変速機82の摩擦締結要素の一つが第2駆動軸クラッチ87として構成されている。第1駆動軸クラッチ86と第2駆動軸クラッチ87は、エンジンコントローラ71に接続されており、ハイブリッド車両の運転条件に応じてその断接(接続状態)が制御される。ハイブリッド車両1では、図7Bに示すように、車速がエンジン2の効率が悪いEV走行領域にあるときには、エンジン2を停止し第1駆動軸クラッチ86を遮断し第2駆動軸クラッチ87を接続してモータジェネレータ81による駆動力のみでハイブリッド車両1の走行を行わせる。一方、車速がEV走行領域を外れてランキンサイクル運転域に移行したときには、エンジン2を運転してランキンサイクル31(後述する)を運転する。エンジン2は排気通路3を備え、排気通路3は、排気マニホールド4と、排気マニホールド4の集合部に接続される排気管5とから構成される。排気管5は途中でバイパス排気管6と分岐しており、バイパス排気管6にバイパスされる区間の排気管5には、排気と冷却水との間で熱交換を行なうための廃熱回収器22を備える。廃熱回収器22とバイパス排気管6は、図6に示すように、これらを一体化した廃熱回収ユニット23として、床下触媒88とその下流のサブマフラー89との間に配置される。
【0014】
図1に基づき、まず、エンジン冷却水回路について説明する。エンジン2を出た80〜90℃程度の冷却水は、ラジエータ11を通る冷却水通路13と、ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14とに別れて流れる。その後、2つの流れは、両通路13、14を流れる冷却水流量の配分を決めるサーモスタットバルブ15で再び合流し、さらに冷却水ポンプ16を経てエンジン2に戻る。冷却水ポンプ16はエンジン2によって駆動され、その回転速度はエンジン回転速度と同調している。サーモスタットバルブ15は、冷却水温度が高い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を大きくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に増やし、冷却水温度が低い場合に冷却水通路13側のバルブ開度を小さくしてラジエータ11を通過する冷却水量を相対的に減らす。エンジン2の暖機前など特に冷却水温度が低い場合には、完全にラジエータ11をバイパスさせて冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる。一方、バイパス冷却水通路14側のバルブ開度は全閉になることはなく、ラジエータ11を流れる冷却水流量が多くなったときに、バイパス冷却水通路14を流れる冷却水の流量は、冷却水の全量がバイパス冷却水通路14側を流れる場合と比べて低下するが、流れが完全に停止することがないようにサーモスタットバルブ15が構成されている。詳細にはサーモスタットバルブ15は、冷却水温度に応じてラジエータ11に供給される冷却水流量を制御する三方弁であって、バルブ本体15a、2つの入口ポート15b、15c及び1つの出口ポート15dを有している。2つの入口ポート15b、15cには、ラジエータ11を通る冷却水通路13と、ラジエータ11をバイパスする冷却水通路14とがそれぞれ接続され、サーモスタットバルブ15により、冷却水温度に応じてラジエータ11に供給される冷却水流量が増減されて冷却水温度が適正に保持される。ラジエータ11をバイパスするバイパス冷却水通路14は、冷却水通路13から分岐して後述の熱交換器36に直接接続する第1バイパス冷却水通路24と、冷却水通路13から分岐して廃熱回収器22を経た後に熱交換器36に接続する第2バイパス冷却水通路25とからなる。
【0015】
バイパス冷却水通路14には、ランキンサイクル31の冷媒と熱交換を行なう熱交換器36を備える。この熱交換器36は加熱器と過熱器とを統合したものである。すなわち、熱交換器36には2つの冷却水通路36a、36bがほぼ一列に、また、冷媒と冷却水が熱交換可能なようにランキンサイクル31の冷媒が流れる冷媒通路36cは冷却水通路36a、36bと隣接して設けられている。さらに熱交換器36の全体を俯瞰して見たときにランキンサイクル31の冷媒と冷却水が互いに流れ方向が逆向きとなるように各通路36a、36b、36cが構成されている。
【0016】
詳細には、ランキンサイクル31の冷媒にとって上流(図1の左)側に位置する一方の冷却水通路36aは、第1バイパス冷却水通路24に介装されている。この冷却水通路36a及びこの冷却水通路36aに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器左側部分は、エンジン2から出た冷却水を冷却水通路36aに直接導入することで、冷媒通路36cを流れるランキンサイクル31の冷媒を加熱するための加熱器である。
【0017】
ランキンサイクル31の冷媒にとって下流(図1の右)側に位置する他方の冷却水通路36bには、第2バイパス冷却水通路25を介して廃熱回収器22を経た冷却水が導入される。冷却水通路36b及びこの冷却水通路36bに隣接する冷媒通路部分からなる熱交換器右側部分(ランキンサイクル31の冷媒にとって下流側)は、エンジン2の出口の冷却水を排気によってさらに加熱した冷却水を冷却水通路36bに導入することで、冷媒通路36cを流れる冷媒を過熱する過熱器である。
【0018】
廃熱回収器22の冷却水通路22aは排気管5に隣接して設けている。廃熱回収器22の冷却水通路22aにエンジン2の出口の冷却水を導入することで、冷却水を高温の排気によって例えば110〜115℃程度まで加熱することができる。廃熱回収器22の全体を俯瞰して見たときに、排気と冷却水とが互いに流れる向きが逆向きとなるように冷却水通路22aが構成されている。
【0019】
廃熱回収器22を設けた第2バイパス冷却水通路25には制御弁26が介装されている。エンジン2の内部にある冷却水の温度を指すエンジン水温が、例えばエンジンの効率悪化やノックを発生させないための許容温度(例えば100℃)を超えないように、エンジン2の出口の冷却水温度センサ74の検出温度が所定値以上になると、この制御弁26の開度を減少させるようにしている。エンジン水温が許容温度に近づくと、廃熱回収器22を通過する冷却水量を減少させるので、エンジン水温が許容温度を超えてしまうことを確実に防ぐことができる。
【0020】
一方、第2バイパス冷却水通路25の流量が減少したことによって、廃熱回収器22により上昇する冷却水温度が上がりすぎて冷却水が蒸発(沸騰)してしまったのでは、熱交換器36での効率が落ちるだけでなく、冷却水通路内の冷却水の流れが悪くなって温度が過剰に上昇してしまう恐れがある。これを避けるため、廃熱回収器22をバイパスするバイパス排気管6と、排気回収器22の排気通過量とバイパス排気管6の排気通過量とをコントロールするサーモスタットバルブ7をバイパス排気管6の分岐部に設けている。すなわち、サーモスタットバルブ7は、そのバルブ開度が廃熱回収器22を出た冷却水温度が所定の温度(例えば沸騰温度120℃)を超えないように、廃熱回収器22を出た冷却水温度に基づいて調節される。
【0021】
熱交換器36とサーモスタットバルブ7と廃熱回収器22とは、廃熱回収ユニット23として一体化されていて、車幅方向略中央の床下において排気管途中に配設されている。サーモスタットバルブ7は、バイメタル等を用いた比較的簡易な感温弁でも良いし、温度センサ出力が入力されるコントローラによって制御される制御弁であっても良い。サーモスタットバルブ7による排気から冷却水への熱交換量の調節は比較的大きな遅れを伴うため、サーモスタットバルブ7を単独で調節したのではエンジン水温が許容温度を超えないようにするのが難しい。しかしながら、第2バイパス冷却水通路25の制御弁26をエンジン水温(出口温度)に基づき制御するようにしてあるので、熱回収量を速やかに低減し、エンジン水温が許容温度を超えるのを確実に防ぐことができる。また、エンジン水温が許容温度までに余裕がある状態であれば、廃熱回収器22を出る冷却水温度がエンジン水温の許容温度を越えるほどの高温(例えば110〜115℃)になるまで熱交換を行って、廃熱回収量を増加させることができる。冷却水通路36bを出た冷却水は、第2バイパス冷却水通路25を介して第1バイパス冷却水通路24に合流されている。
【0022】
バイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、例えば熱交換器36でランキンサイクル31の冷媒と熱交換することによって十分低下していれば、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が小さくされて、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に減らされる。逆にバイパス冷却水通路14からサーモスタットバルブ15に向かう冷却水の温度が、ランキンサイクル31が運転されていないことなどによって高くなると、サーモスタットバルブ15の冷却水通路13側のバルブ開度が大きくされて、ラジエータ11を通過する冷却水量は相対的に増やされる。このようなサーモスタットバルブ15の動作に基づいて、エンジン2の冷却水温度が適当に保たれ、熱がランキンサイクル31へ適当に供給(回収)されるように構成されている。
【0023】
次に、ランキンサイクル31について述べる。ここでは、ランキンサイクル31は、単純なランキンサイクルでなく、冷凍サイクル51と統合した統合サイクル30の一部として構成されている。以下では、基本となるランキンサイクル31を先に説明し、その後に冷凍サイクル51に言及する。
【0024】
ランキンサイクル31は、エンジン2の冷却水を介してエンジン2の廃熱を冷媒に回収し、回収した廃熱を動力として回生するシステムである。ランキンサイクル31は、冷媒ポンプ32、過熱器としての熱交換器36、膨張機37及び凝縮器(コンデンサ)38を備え、各構成要素は冷媒(R134a等)が循環する冷媒通路41〜44により接続されている。
【0025】
冷媒ポンプ32の軸は同一の軸上で膨張機37の出力軸と連結配置され、膨張機37の発生する出力(動力)によって冷媒ポンプ32を駆動すると共に、発生動力をエンジン2の出力軸(クランク軸)に供給する構成である(図2A参照)。すなわち、冷媒ポンプ32軸及び膨張機37の出力軸は、エンジン2の出力軸と平行に配置され、冷媒ポンプ32軸の先端に設けたポンププーリ33と、クランクプーリ2aとの間にベルト34を掛け回している(図1参照)。なお、本実施形態の冷媒ポンプ32としてはギヤ式のポンプを、膨張機37としてはスクロール式の膨張機を採用している(図2B、図2C参照)。
【0026】
また、ポンププーリ33と冷媒ポンプ32との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「膨張機クラッチ」という。)35(第1クラッチ)を設けて、冷媒ポンプ32及び膨張機37とを、エンジン2と断接可能にしている(図2A参照)。このため、膨張機37の発生する出力が冷媒ポンプ32の駆動力及び回転体が有するフリクションを上回る場合(予測膨張機トルクが正の場合)に膨張機クラッチ35を接続することで、膨張機37の発生する出力によってエンジン出力軸の回転をアシスト(補助)することができる。このように廃熱回収によって得たエネルギを用いてエンジン出力軸の回転をアシストすることで、燃費を向上できる。また、冷媒を循環させる冷媒ポンプ32を駆動するためのエネルギも、回収した廃熱で賄うことができる。
【0027】
冷媒ポンプ32からの冷媒は冷媒通路41を介して熱交換器36に供給される。熱交換器36は、エンジン2の冷却水と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を気化し過熱する熱交換器である。
【0028】
熱交換器36からの冷媒は冷媒通路42を介して膨張機37に供給される。膨張機37は、気化し過熱された冷媒を膨張させることにより熱を回転エネルギに変換する蒸気タービンである。膨張機37で回収された動力は冷媒ポンプ32を駆動し、ベルト伝動機構を介してエンジン2に伝達され、エンジン2の回転をアシストする。
【0029】
膨張機37からの冷媒は冷媒通路43を介して凝縮器38に供給される。凝縮器38は、外気と冷媒との間で熱交換を行わせ、冷媒を冷却し液化する熱交換器である。このため、凝縮器38をラジエータ11と並列に配置し、ラジエータファン12によって冷却するようにしている。
【0030】
凝縮器38により液化された冷媒は、冷媒通路44を介して冷媒ポンプ32に戻される。冷媒ポンプ32に戻された冷媒は、冷媒ポンプ32により再び熱交換器36に送られ、ランキンサイクル31の各構成要素を循環する。
【0031】
次に、冷凍サイクル51について述べる。冷凍サイクル51は、ランキンサイクル31を循環する冷媒を共用するため、ランキンサイクル31と統合され、冷凍サイクル51の構成そのものは簡素になっている。すなわち、冷凍サイクル51は、コンプレッサ(圧縮機)52、凝縮器38、エバポレータ(蒸発器)55を備える。
【0032】
コンプレッサ52は冷凍サイクル51の冷媒を高温高圧に圧縮する流体機械で、エンジン2によって駆動される。すなわち、図4にも示したようにコンプレッサ52の駆動軸にはコンプレッサプーリ53が固定され、このコンプレッサプーリ53とクランクプーリ2aとにベルト34を掛け回している。エンジン2の駆動力がこのベルト34を介してコンプレッサプーリ53に伝達され、コンプレッサ52が駆動される。また、コンプレッサプーリ53とコンプレッサ52との間に電磁式のクラッチ(このクラッチを以下「コンプレッサクラッチ」という。)54(第2クラッチ)を設けて、コンプレッサ52とコンプレッサプーリ53とを断接可能にしている。
【0033】
図1に戻り、コンプレッサ52からの冷媒は冷媒通路56を介して冷媒通路43に合流した後、凝縮器38に供給される。凝縮器38は外気との熱交換によって冷媒を凝縮し液化する熱交換器である。凝縮器38からの液状の冷媒は、冷媒通路44から分岐する冷媒通路57を介してエバポレータ(蒸発器)55に供給される。エバポレータ55は、図示しないヒータコアと同様にエアコンユニットのケース内に配設されている。エバポレータ55は、凝縮器38からの液状冷媒を蒸発させ、そのときの蒸発潜熱によってブロアファンからの空調空気を冷却する熱交換器である。
【0034】
エバポレータ55によって蒸発した冷媒は冷媒通路58を介してコンプレッサ52に戻される。なお、エバポレータ55によって冷却された空調空気とヒータコアによって加熱された空調空気は、エアミックスドアの開度に応じて混合比率が変更され、乗員の設定する温度に調節される。
【0035】
ランキンサイクル31と冷凍サイクル51とからなる統合サイクル30には、サイクル内を流れる冷媒を制御するため、回路途中に各種の弁が適宜設けられている。例えば、ランキンサイクル31を循環する冷媒を制御するため、冷凍サイクル分岐点45と冷媒ポンプ32とを連絡する冷媒通路44にポンプ上流弁61、熱交換器36と膨張機37とを連絡する冷媒通路42に膨張機上流弁62を備える。また、冷媒ポンプ32と熱交換器36とを連絡する冷媒通路41には、熱交換器36から冷媒ポンプ32への冷媒の逆流を防止するため逆止弁63を備えている。膨張機37と冷凍サイクル合流点46とを連絡する冷媒通路43にも、冷凍サイクル合流点46から膨張機37への冷媒の逆流を防止するため逆止弁64を備えている。また、膨張機上流弁62上流から膨張機37をバイパスして逆止弁64上流に合流する膨張機バイパス通路65を設け、この膨張機バイパス通路65にバイパス弁66を設けている。さらに、バイパス弁66をバイパスする通路67に圧力調整弁68を設けている。冷凍サイクル51側についても、冷凍サイクル分岐点45とエバポレータ55とを接続する冷媒通路57にエアコン回路弁69を設けている。
【0036】
上記4つの弁61、62、66、69はいずれも電磁式の開閉弁である。圧力センサ72により検出される膨張機上流圧力の信号、圧力センサ73により検出される凝縮器38の出口の冷媒圧力Pdの信号、膨張機37の回転速度信号等がエンジンコントローラ71に入力されている。エンジンコントローラ71では、所定の運転条件に応じ、これらの各入力信号に基づいて、冷凍サイクル51のコンプレッサ52や、ラジエータファン12の制御を行なうとともに、上記4つの電磁式開閉弁61、62、66、69の開閉を制御する。
【0037】
例えば、圧力センサ72により検出される膨張機上流側圧力及び膨張機回転速度に基づいて膨張機トルク(回生動力)を予測し、この予測膨張機トルクが正のとき(エンジン出力軸の回転をアシストすることができるとき)に膨張機クラッチ35を締結し、予測膨張機トルクがゼロないし負のときに膨張機クラッチ35を解放する。センサ検出圧力と膨張機回転速度とに基づくことで、排気温度から膨張機トルク(回生動力)を予測する場合とくらべ、高い精度で膨張機トルクを予測することができ、膨張機トルクの発生状況に応じて膨張機クラッチ35の締結・解放を適切に行うことができる(詳細は特開2010−190185号公報参照)。
【0038】
上記4つの開閉弁61、62、66、69及び2つの逆止弁63、64は、冷媒系バルブである。これらの冷媒系バルブの機能を改めて図3に示す。
【0039】
図3において、ポンプ上流弁61は、冷凍サイクル51の回路に比べてランキンサイクル31の回路に冷媒が偏り易くなる所定の条件で閉じることで、ランキンサイクル31への冷媒(潤滑成分を含む)の偏りを防止するためのもので、後述するように、膨張機37下流の逆止弁64と協働してランキンサイクル31の回路を閉塞させる。膨張機上流弁62は、熱交換器36からの冷媒圧力が相対的に低い場合に冷媒通路42を遮断し熱交換器36からの冷媒が高圧になるまで保持することができるようにするものである。これによって、膨張機トルクが十分得られない場合でも冷媒の加熱を促し、例えばランキンサイクル31が再起動する(回生が実際に行なえるようになる)までの時間を短縮させることができる。バイパス弁66は、ランキンサイクル31の始動時等にランキンサイクル31側に存在する冷媒量が十分でないときなどに、膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ32の作動が行えるように開弁し、ランキンサイクル31の起動時間を短縮するためのものである。膨張機37をバイパスさせた上で冷媒ポンプ32を作動させることで、凝縮器38の出口あるいは冷媒ポンプ32の入口の冷媒温度が、その部位の圧力を考慮した沸点から所定温度差(サブクール度SC)以上に低下した状態が実現されれば、ランキンサイクル31には十分な液体冷媒が供給できる状態が整ったことになる。
【0040】
熱交換器36上流の逆止弁63は、バイパス弁66、圧力調整弁68、膨張機上流弁62と協働して膨張機37に供給される冷媒を高圧に保持するためのものである。ランキンサイクル31の回生効率が低い条件ではランキンサイクル31の運転を停止し、熱交換器36の前後区間に亘って回路を閉塞することで、停止中の冷媒圧力を上昇させておき、高圧冷媒を利用してランキンサイクル31が速やかに再起動できるようにする。圧力調整弁68は膨張機37に供給される冷媒の圧力が高くなり過ぎた場合に開いて、高くなり過ぎた冷媒を逃すリリーフ弁の役割を有している。
【0041】
膨張機37下流の逆止弁64は、上述のポンプ上流弁61と協働してランキンサイクル31への冷媒の偏りを防止するためのものである。ハイブリッド車両1の運転開始直後、エンジン2が暖まっていないとランキンサイクル31が冷凍サイクル51より低温となり、冷媒がランキンサイクル31側に偏ることがある。ランキンサイクル31側に偏る確率はそれほど高くないものの、例えば夏場の車両運転開始直後には、車内を早く冷やしたい状況にあって冷房能力が最も要求されることから、冷媒の僅かな偏在も解消して冷凍サイクル51の冷媒を確保したいという要求がある。そこで、ランキンサイクル31側への冷媒の偏在を防止するため逆止弁64を設けたものである。
【0042】
コンプレッサ52は 、駆動停止時に冷媒が自由通過できる構造ではなく、エアコン回路弁69と協働して冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止することができる。これについて説明する。冷凍サイクル51の運転が停止したとき、定常運転中の比較的高い温度のランキンサイクル31側から冷凍サイクル51側へと冷媒が移動して、ランキンサイクル31を循環する冷媒が不足することがある。冷凍サイクル51の中で、冷房停止直後はエバポレータ55の温度が低くなっていて、比較的容積が大きく温度が低くなっているエバポレータ55に冷媒が溜まり易い。この場合に、コンプレッサ52の駆動停止によって凝縮器38からエバポレータ55への冷媒の動きを遮断するとともに、エアコン回路弁69を閉じることで、冷凍サイクル51への冷媒の偏りを防止するのである。
【0043】
次に、図5はエンジン2全体のパッケージを示すエンジン2の概略斜視図である。図5において特徴的なのは、熱交換器36が排気マニホールド4の鉛直上方に配置されていることである。排気マニホールド4の鉛直上方のスペースに熱交換器36を配置することによって、ランキンサイクル31のエンジン2への搭載性を向上させている。また、エンジン2にはテンションプーリ8が設けられている。
【0044】
次に、ランキンサイクル31の基本的な運転方法を図7A及び図7Bを参照して説明する。
【0045】
まず、図7A及び図7Bはランキンサイクル31の運転領域図である。図7Aには横軸を外気温、縦軸をエンジン水温(冷却水温度)としたときのランキンサイクル31の運転域を、図7Bには横軸をエンジン回転速度、縦軸をエンジントルク(エンジン負荷)としたときのランキンサイクル31の運転域を示している。
【0046】
図7A及び図7Bのいずれにおいても所定の条件を満たしたときにランキンサイクル31を運転するもので、これら両方の条件が満たされた場合にランキンサイクル31を運転する。図7Aにおいては、エンジン2の暖機を優先する低水温側の領域と、コンプレッサ52の負荷が増大する高外気温側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。排気温度が低く回収効率が悪い暖機時は、むしろランキンサイクル31を運転しないことで冷却水温度を速やかに上昇させる。高い冷房能力が要求される高外気温時はランキンサイクル31を止めて、冷凍サイクル51に十分な冷媒と凝縮器38の冷却能力を提供する。図7Bにおいては、ハイブリッド車両であるので、EV走行領域と、膨張機37のフリクションが増大する高回転速度側の領域でランキンサイクル31の運転を停止している。膨張機37は全ての回転速度でフリクションが少ない高効率な構造とすることが難しいことから、図7Bの場合では、運転頻度の高いエンジン回転速度域でフリクションが小さく高効率となるように、膨張機37が構成(膨張機37各部のディメンジョン等が設定)さている。
【0047】
図8は膨張機トルクによりエンジン出力軸の回転をアシストしている途中でハイブリッド車両1の加速が行われたときの様子をモデルで示したタイミングチャートである。なお、図8の右側には、このときに膨張機37の運転状態が推移する様子を膨張機トルクマップ上に表している。膨張機トルクマップの等高線で区切られた範囲のうち、膨張機回転速度が低く膨張機上流圧力が高い部分(左上)が膨張機トルクが最も大きく、膨張機回転速度が高く膨張機上流圧力が低くなるほど(右下に進むほど)膨張機トルクが小さくなる傾向になっている。特に斜線部の範囲は、冷媒ポンプを駆動する前提では膨張機トルクがマイナスになって、エンジンに対しては負荷となってしまう領域を表している。
【0048】
運転者がアクセルペダルを踏込むt1までは、定速走行が継続されて膨張機37が正のトルクを発生させており、膨張機トルクによるエンジン出力軸の回転アシストが行われている。
【0049】
t1以降、膨張機37の回転速度、すなわち冷媒ポンプ32の回転速度がエンジン回転速度に比例して上昇するが、排気温度或いは冷却水温度の上昇は、エンジン回転速度の上昇に対して遅れを有する。そのため、冷媒ポンプ32の回転速度の上昇によって増大した冷媒量に対して回収可能な熱量の割合が低下する。
【0050】
従って、膨張機回転速度が上昇するにつれ、膨張機上流の冷媒圧力が低下し、膨張機トルクは低下する。
【0051】
この膨張機トルクの低下により、膨張機トルクが十分得られなくなると(例えばゼロ付近になるt2のタイミングで)、膨張機上流弁62を開状態から閉状態へと切換えて、回生効率の悪化(膨張機トルクの過度の低下に伴って膨張機37が逆にエンジン2に引き摺られる現象)が回避される。
【0052】
膨張機上流弁62を開状態から閉状態へと切換えた後、t3のタイミングで膨張機クラッチ35が接続(締結)から切断(解放)へと切換えられる。この膨張機クラッチ35の切断時期を、膨張機上流弁62を開状態から閉状態へと切換えた時期より幾分遅らせることによって、膨張機上流の冷媒圧力を十分低下させ、膨張機クラッチ35を切り離した際の膨張機37が、過回転になるのを防止できる。また、冷媒ポンプ32によって多めの冷媒を熱交換器36内に供給し、ランキンサイクル31が停止中も冷媒を効果的に加熱することで、ランキンサイクル31の運転再開がスムースに行なえるようにしている。
【0053】
t3以降、エンジン2の放熱量の上昇により膨張機上流圧力が再び上昇し、t4のタイミングで、膨張機上流弁62が閉状態から開状態へと切換えられ、膨張機37への冷媒の供給が再開される。また、t4で膨張機クラッチ35が再び接続される。この膨張機クラッチ35の再接続により、膨張機トルクによるエンジン出力軸の回転アシストが再開される。
【0054】
図9は、膨張機上流弁62が閉じられ膨張機クラッチ35を切断した状態の、ランキンサイクルの運転停止から、図8(t4の制御)と異なる態様でランキンサイクル31の再起動を行なう様子をモデルで示したタイミングチャートである。
【0055】
t11のタイミングで運転者がアクセルペダルを踏込むとアクセル開度が増大する。t11では、ランキンサイクル31の運転は停止されている。このため、膨張機トルクはゼロを維持している。
【0056】
t11からのエンジン回転速度の上昇に伴ってエンジン2の放熱量が増大し、この放熱量の増大によって熱交換器36に流入する冷却水温度が高くなり、熱交換器36内の冷媒の温度が上昇する。膨張機上流弁62は閉じているので、この熱交換器36による冷媒温度の上昇によって、膨張機上流弁62の上流の冷媒圧力、つまり膨張機上流圧力が上昇していく(t11〜t12)。
【0057】
この運転状態の変化によってランキンサイクル非運転域からランキンサイクル運転域へと切換わる。膨張機上流弁62がなく、ランキンサイクル運転域に移行したときに、即座に膨張機クラッチ35を切断状態から接続状態へと切換えて膨張機37をエンジン出力軸と連結したのでは、膨張機37がエンジン2の負荷となる上にトルクショックが生じてしまう。
【0058】
一方、図9では、ランキンサイクル運転域へと切換わったとき、即座に膨張機上流弁62を閉状態から開状態へと切換えることはしない。すなわち、ランキンサイクル運転域に移行した後も膨張機上流弁62の閉状態を続ける。
【0059】
やがて、膨張機上流圧力と膨張機下流圧力との差圧が大きくなって所定圧以上となるt12のタイミングで膨張機37を運転(駆動)できると判断し、膨張弁上流弁62を閉状態から開状態に切換える。この膨張弁上流弁62の開状態への切換によって膨張機37に所定圧の冷媒が供給され、膨張機回転速度がゼロから速やかに上昇する。
【0060】
この膨張機回転速度の上昇で膨張機回転速度がエンジン回転速度に到達するt13のタイミングで、膨張機クラッチ35を切断状態より接続状態へと切換える。膨張機37が十分に回転速度を増す前に膨張機クラッチ35を接続したのでは、膨張機37がエンジン負荷となるし、トルクショックも生じ得る。これに対して、エンジン出力軸との回転速度差がなくなるt13で膨張機クラッチ35を遅れて接続することで、膨張機37がエンジン負荷となることも、膨張機クラッチ35を締結することに伴うトルクショックも防止できる。
【0061】
図10、図11、図12は本発明の第1実施形態のランキンサイクルのシステム全体を表した概略構成図で、各図は3つの運転時の違いを表している。すなわち、図10はエンジン冷間始動直後の触媒暖機中での、図11はエンジン2の暖機中での、図12はランキンサイクル31の運転中での各通路の状態を表している。
【0062】
ここで、運転状態の推移としては、まずエンジン冷間始動直後の触媒暖機が行われ、触媒9の暖機完了後にエンジン2の暖機が行われる。触媒9の暖機は、簡単にはエンジン始動から予め定めた時間だけ行わせるようにすればよい。そして、エンジン2の暖機完了後にランキンサイクル31の運転域となったとき、ランキンサイクル31を運転する。
【0063】
各図において、通路を実線で記載している部分は、冷媒、純水、冷却水が循環していることを、通路を破線で記載している部分は冷媒、純水、冷却水が循環していないことを表している。また、開閉バルブ123、138については、バルブ123、138を黒塗りで記載している場合は、バルブ123、138が全閉状態にあることを、バルブ123、138を白抜きで記載している場合は、バルブ123、138が全開状態にあることを表している。以下では、主に図10を用いて全体の構成を説明し、3つの運転時の各作用の違いを説明するときに図11、図12に言及することとする。
【0064】
図1で示した本発明の前提となるランキンサイクルでは、排気の熱をエンジン冷却水に一旦回収し、そのエンジン冷却水に回収した熱を熱交換器36を介してランキンサイクル31を循環する冷媒(第1冷媒)に回収する構成であった。一方、本発明の第1実施形態は、第1熱交換器92で排気の熱を純水(第2冷媒)に回収し、その純水に回収した熱を第2熱交換器111でランキンサイクル31を循環する冷媒(第1冷媒)に回収する構成である。
【0065】
ここで、本発明の前提となるランキンサイクルと相違する点は、排気の熱を、温度に上限がある冷却水ではなく、温度に上限のない冷媒としての純水に回収する点にある。すなわち、冷却水は沸騰させることができないので、冷却水を温度の上限(例えば110℃)を超えてまで上昇させることができない。一方、冷媒として新たに導入する純水は冷却水とは相違して温度制限を受けることがないので、冷却水の温度上限を超える温度にまで上昇させることが可能である。言い換えると、純水は気化状態となる温度にまで上昇させることができ、第2熱交換器111に気化状態の純水を供給する。そして、この第2熱交換器111で気化状態の純水を液化させる際の潜熱を利用して冷媒との間で熱交換を行わせることで、より多くの熱交換量を確保するのである。
【0066】
さらに、第2熱交換器111は、純水とエンジンの冷却水との間でも熱交換が行なえるように構成されていて、エンジン2の暖機促進時などには純水の熱を冷却水に与えることができるようになっている。したがって、排気の熱をランキンサイクルの冷媒とエンジンの冷却水とに移動させる前提において、排気は純水(第2冷媒)とだけ熱交換することになる。これにより、第2熱交換器111は1つの冷媒を擁するだけとなるので熱容量が小さくなり、排気通路に設けられた触媒の暖機途中など、排気を冷やしたくない場合に純水の流れを止めた際、排気から第2熱交換器に奪われる熱を少なくすることができる。
【0067】
図10において、純水サイクル91は、第1熱交換器92、第2熱交換器111、これら2つの熱交換器92、111を接続する2本の純水通路121、122から構成される。
【0068】
まず、排気マニホールド4に設けられる第1熱交換器92については図13により詳述する。ここで、図13は第1熱交換器92の鉛直方向の概略断面図である。図13において、第1熱交換器92は蒸発器93から主に構成されている。蒸発器93は、排気マニホールド4から放散される排気の熱と純水との間で熱交換させることによって純水を沸騰蒸発(気化)させるだけでなく所定の温度にまで上昇させる熱交換器であり、熱交換部94、下タンク95および上タンク96を備える。
【0069】
熱交換部94は、例えば鉛直方向に伸びる直管状または板状の複数のチューブ95と、隣り合うチューブ95の間の空間96に設けられるフィン97とから構成している。なお、純水の蒸発能力が下がるものの排気効率を高める目的や、耐久性を高める目的でフィン97を無くしたものであっても良い。
【0070】
熱交換部94の鉛直下部に水平方向に設けられる下タンク98は、下タンク98に供給される凝縮した純水を各チューブ95に分配するものである。熱交換部94の鉛直上部に水平方向に設けられる上タンク99は、各チューブ95内を上昇した純水の蒸気を収集するものである。上タンク99により収集された純水の蒸気は、出口101より第2熱交換器111に供給され、第2熱交換器111より出てくる凝縮した純水は、入口102より下タンク98に戻される。
【0071】
ここで、純水が蒸気の状態で第2熱交換器111に供給されるように、出口101での純水の蒸気温度が最高で150℃となるように第1熱交換器92の仕様を決定する。
【0072】
なお、エンジン2の停止時に下タンク98内の純水の量が不足する場合には、エンジン2の始動当初に図示しない純水タンクから通路105を介して下タンク98に一定量の純水を供給してやればよい。
【0073】
図13において第1熱交換器92の右端には上タンク99と下タンク98を連通する通路103が設けられ、この通路103の鉛直下部に円錐状部104を形成している。
【0074】
ここで、円錐状部104を形成した理由を説明する。エンジン2の運転前に純水が所定値H1の液面高さにあったとする。エンジン2の運転で排気マニホールド4が高温となり、純水が沸騰蒸発してゆけば、純水が所定値H1の液面高さから所定値H2の液面高さへと低下する。このように液面高さが低下した場合、下タンク98の液面と通路103の液面との差(ヘッド差)が小さくなり、下タンク98へと流動する純水の循環量が小さくなるのが通常である。一方、本実施形態では、通路103の下部に円錐状部104を形成しているので、純水の沸騰蒸発により純水が所定値H1から所定値H2へと低下した場合、所定値H1での液面の面積よりも所定値H2での液面の面積が大きくなる。H1での液面の面積よりH2での液面の面積が大きいと、同じ蒸気圧力でも面積差の分だけ鉛直下方に押す蒸気の力が大きくなるので、この大きくなった蒸気の力で下タンク98へと流動する純水の循環量を低下させることなく維持できる。このように、純水が沸騰蒸発する間は、この円錐状部104で凝縮した純水の液面が下降するように、第1熱交換器92の仕様を決めておく。
【0075】
第1熱交換器92を排気マニホールド4に設ける位置は、実際には図14に示したようにする。すなわち、排気マニホールド4は各気筒の排気ポートに接続される各分岐部4aと、これら各分岐部4aを一つに集合させる集合部4bとから構成されるので、集合部4bの近くの各分岐部4a(ハッチング部参照)に第1熱交換器92を設置することが好ましい。図14に示す3気筒エンジンの場合であれば、第1熱交換器92の設置場所として3箇所を挙げることができる。いずれの箇所であってもかまわない。
【0076】
図15は下タンク98の分岐部4aへの配置を示す概略斜視図である。図13で示した下タンク98を円柱状であると仮定した場合に、この円柱状の下タンク98を分岐部4a内の排気流れに沿わせて設ける。そして、第2熱交換器111から戻ってくる凝縮した純水を排気流れの下流に戻し、戻された液状の純水が下タンク98の内部を排気流れの上流に向かうようにする。このように下タンク98に戻される液状の純水の流れと、分岐部4a内の排気の流れとが対向流となるようにすることで、純水を沸騰蒸発させるための熱源がより高温となる。また、熱交換の表面積をかせぐことができ、排気から純水に回収する熱量を大きくすることができる。
【0077】
次に、図10に示す第2熱交換器111は、ランキンサイクル31を循環する冷媒とエンジン冷却水とのいずれか一方と、第1熱交換器92より供給される純水の蒸気との間で熱交換を行わせるものである。
【0078】
この第2熱交換器111については図16、図17により詳述する。ここで、図16は第2熱交換器111における3つの冷媒(純水、冷媒、冷却水)の流れ方向を示すモデル図である。図16に示したように、第2熱交換器111は、純水の蒸気が流れる純水通路112、ランキンサイクル31を循環する冷媒が流れる冷媒通路113、エンジン冷却水が流れる冷却水通路114から構成されている。この場合、純水通路112の中央部112cは純水通路112の入口112a及び出口112bよりも広く設けられ、この広く設けた中央部112cに冷媒通路113と冷却水通路114を設けている。すなわち、冷媒通路113と冷却水通路114とを並列配置すると共に、純水通路112を図16で上から下に向けて流れる純水流れに対してこれら2つの通路113、114を直交(交差)させている。これは、純水の蒸気に触れる部分、つまり熱交換に寄与する面積を大きくするためである。
【0079】
さらに、冷媒通路113のほうを冷却水通路114よりも純水通路112の上流側に設けている。また、図16では冷媒通路113の入口113aを左側に、冷却水通路114の入口114aを右側に設け、冷媒と冷却水とが対向流として流れるようにしている。これに限らず、2つの通路113、114の入口113a、114a、出口113c、114cを同じ側に設けて、冷媒、冷却水を流す方向を同じにしてかまわない。
【0080】
図17は図16に示した第2熱交換器111のうち冷媒通路113及び冷却水通路114の具体的な構成図である。冷媒通路113は入口113a、入口113aより左右方向に延びる通路113b、出口113c、出口113cより左右方向に延びる通路113d、これら2つの通路113b、113dの間を等間隔で並列に配置される5本の通路113eから構成されている。冷却水通路114は入口114a、入口114aより左右方向に延びる通路114b、出口114c、出口114cより左右方向に延びる通路114d、これら2つの通路114b、114dの間を等間隔で並列に配置される4本の通路114eから構成されている。これらの2つの通路113、114を図17で左右方向にずらせて設けたとき、並列配置される5本の通路113eと、並列配置される4本の通路114eとの間に8つの空間115が生じている。つまり、並列配置される5本の通路113e及び4本の通路114eの間に8つの空間115が生じるように2つの通路113、114を形成するのである。そして、このようにずらせて設けた2つの通路113、114を純水通路112を流れる純水流れに対して直交するように配置する。これによって、図17で通路113e、114eの間に生じた8つの空間115を、紙面を貫く方向に純水の蒸気が通過することとなり、純水の蒸気とランキンサイクル31を循環する冷媒との間で、あるいは純水の蒸気とエンジン冷却水との間で熱交換が行われる。
【0081】
この場合、第2熱交換器111では、沸騰蒸発(気化)した純水を液化させる際の潜熱を利用して、冷媒または冷却水との間で熱交換を行わせる。これによって、より多くの熱交換量を確保することができる。第2熱交換器111での熱交換により凝縮した純水は第2熱交換器11の鉛直下方に設けた貯溜部116に落下して貯まる(図10参照)。なお、並列配置される通路113e、114eの数はこれに限られるものでない。
【0082】
さらに、第2熱交換器111での冷媒と冷却水との間の熱の伝わり易さは、第2熱交換器111での純水と冷媒との間及び純水と冷却水との間の熱の伝わり易さよりも小さいものとなっている。ここで、「熱の伝わり易さ」とは、2つの冷媒通路の冷媒の温度差が等しくかつ温度自体も同じであるときに、単位時間当たりに2つの冷媒通路の間を伝わる熱の大きさをいう。このため、熱の伝わり易さが相対的に大きいと、2つの冷媒通路の間を伝わる熱の大きさが相対的に大きくなり、この反対に熱の伝わり易さが相対的に小さいと、2つの冷媒通路の間を伝わる熱の大きさが相対的に小さくなる。この熱の伝わり易さは、構造、熱が通過する部位の断面積、熱が通過する部位の材料(熱伝導率)の違いによって変化する。例えば、構造の違いとは冷媒との接触面積(SV比)やフィンの有無のことである(接触面積が大きい場合のほうが接触面積が小さい場合より、フィンがある場合のほうがフィンがない場合より熱の伝わり易さが大きくなる)。熱が通過する部位の断面積の違いとは通路径の違いのことである(冷媒通路が細い場合のほうが冷媒通路が太い場合より熱の伝わり易さが大きくなる)。熱が通過する部位の材料の違いとは材料の熱伝達率の違いのことである(熱伝達率が大きい材料の場合のほうが熱伝達率が小さい場合より熱の伝わり易さが大きくなる)。
【0083】
図10に戻り、第1熱交換器92の出口101と、第2熱交換器111の純水通路112の入口112a(図16参照)とが純水通路121で、第2熱交換器111の貯溜部116と第1熱交換器92の入口102とが純水通路122で接続されている。さらに、純水の循環・停止を制御するため、純水通路122に常閉の第1開閉バルブ123を設けている。
【0084】
エンジン冷却水回路は、通常の冷却水通路と、任意でエンジン冷却水が流される冷却水通路とで構成される。ここで、通常の冷却水通路は、4つの冷却水通路13、131、132、134から構成されている。すなわち、冷却水通路13はエンジン2の出口の冷却水をサーモスタットバルブ15に供給する通路、冷却水通路131はサーモスタットバルブ15からラジエータ11を通る通路、第1バイパス冷却水通路132はラジエータ11をバイパスする通路である。冷却水通路134はこれら2つの冷却水通路131、132を合流してエンジン2に戻す通路である。この冷却水通路134に冷却水ポンプ16が介装されている。
【0085】
任意でエンジン冷却水を流す冷却水通路として、第2バイパス冷却水通路135を設け、この第2バイパス冷却水通路135に第2熱交換器111の冷却水通路114を介装している。ここでは、第2熱交換器111の前後で第2バイパス冷却水通路135を2つの冷却水通路135a、135bに分けている。すなわち、一方の冷却水通路135aは冷却水通路134から分岐して第2熱交換器111の冷却水通路113に冷却水を供給する通路、他方の冷却水通路135bは第2熱交換器111の冷却水通路113から出る冷却水を冷却水通路13に合流させる通路である。さらに、第2バイパス冷却水通路135への冷却水の循環・停止を制御するため、一方の冷却水通路135aに常閉の第2開閉バルブ138を設けている。
【0086】
次に、ランキンサイクル31は、冷媒ポンプ32、蒸発器141、第2熱交換器111、膨張機37及び凝縮器(コンデンサ)38を備え、各構成要素は冷媒(R134a等)が循環する冷媒通路41〜44、47により接続されている。
【0087】
図1に示した熱交換器36は加熱器(蒸発器)と過熱器とを統合したものであった。一方、図10では、図1に示した熱交換器36を、蒸発器141と、過熱器としての第2熱交換器111とで構成するものである。
【0088】
まず蒸発器141には熱交換するための冷却水通路141a及び冷媒通路141bを隣接させて設けている。蒸発器141の冷却水通路141aを冷却水通路13に介装し、エンジン2を出た冷却水を流す。
【0089】
蒸発器141の冷媒通路141bに冷媒通路41を接続し、冷媒ポンプ32が吐出した液冷媒を導入する。これによって、液冷媒とエンジン2の出口の冷却水との間で熱交換が行われ、液冷媒は蒸発してガス冷媒となる。
【0090】
蒸発器141の冷媒通路141bを出たガス冷媒は冷媒通路47を介して第2熱交換器111の冷媒通路114に導入する。これによって、ガス冷媒と純水の蒸気との間で熱交換が行われ、ガス冷媒の温度、圧力が上昇する。このようにして、温度、圧力を上昇させたガス冷媒を、冷媒通路42を介して膨張機37に供給する。
【0091】
次に、エンジン冷間始動直後の触媒暖機中の、エンジン2の暖機中の、ランキンサイクル31の運転中に行う各制御を説明する。
【0092】
ここで、制御する上で前提としている事項を先に説明しておく。本実施形態では、ランキンサイクル31を循環する冷媒(第1冷媒)としてR134を、エンジン冷却水としてLLC(Long Life Coolant)を採用している。このとき、純水(第2冷媒)は沸点が100℃、R134は沸点が80〜90℃、LLCは沸点が約120℃である。3つの各冷媒の作動温度範囲(マイナス数十℃〜100℃超)において、純水とR134とは純水サイクル91、ランキンサイクル31の各サイクルにおいて気液混合(ガス冷媒のみならず空気も存在)である。一方、LLCはエンジン冷却水回路において液体のみである(空気溜まりを除いて原則として空気は存在しない)。
【0093】
また、本実施形態では、第1熱交換器92から第2熱交換器111まで純水を蒸気状態としておくため、第1熱交換器92の出口での純水の最高温度を150℃とする。蒸発器141から第2熱交換器111までR134をガス冷媒としておくため、蒸発器141の出口でのR134の最高温度を120℃とする。LLCを沸騰させないため、冷却水通路13のエンジン2の出口でのLLCの最高温度を110℃とする。
【0094】
〈1〉エンジン冷間始動直後の触媒暖機中
排気マニホールド4のすぐ下流に設けている触媒9を、エンジン2の冷間状態から早期に暖機完了させるためには排気から熱回収しないことである。このため、図10に示したように、第1開閉バルブ123を全閉状態として純水が純水サイクル91を循環しないようにする。また、第2開閉バルブ138を全閉状態として、LLCを第2熱交換器111に供給しない。
【0095】
なお、エンジン冷間始動直後の触媒暖機中はランキンサイクル31の運転域から除かれており、ランキンサイクル31を運転しない。ここで、「ランキンサイクル31を運転する」とは、ランキンサイクル31の冷媒通路に冷媒(R134)を循環させることをいう。従って、ランキンサイクル31を運転しないとき、第2熱交換器111の冷媒通路114にR134は流れない。
【0096】
このときの第2熱交換器111内での3つの各冷媒の挙動を、一点鎖線で囲った図10の右上図に示している。すなわち、純水は純水通路112を流れないので、R134やLLCとの間で熱交換が行われることはない。なお、図10の右上図において矢印は流れる方向を示しているだけで、純水、R134、LLCのいずれも流れていない。
【0097】
〈2〉エンジン2の暖機中
触媒9の暖機完了後にエンジン2を早期に暖機完了させるためには、排気から熱を多く回収し、回収した熱をLLCに移すことである。このため、図11に示したように、第1開閉バルブ123を全開状態として純水の蒸気を第2熱交換器111に供給する。また、第2開閉バルブ138を全開状態として、冷却水ポンプ16の吐出する冷却水を第2熱交換器111に供給する。
【0098】
なお、エンジン2の暖機中もランキンサイクル31の運転域から除かれており、ランキンサイクル31を運転しない。
【0099】
このときの第2熱交換器111内での3つの各冷媒の挙動を、一点鎖線で囲った図11の右上図に示している。図11の右上図において矢印は純水の蒸気及び液状のLLCが流れていることを示している。すなわち、純水の蒸気が純水通路112を流れ、この純水の蒸気と冷却水通路114を流れる液状のLLCとの間で熱交換が行われ、低温である液状のLLCが加熱される。この加熱された液状のLLCは、冷却水通路135b、サーモスタットバルブ15、第2バイパス冷却水通路132、冷却水通路134からエンジン2へと戻され、エンジン2を暖機する。なお、冷媒通路113のR134は、強制的な流れがない場合、高温部から低温部に移動するだけである。
【0100】
〈3〉ランキンサイクル31の運転中
ランキンサイクル31を運転するには、排気から熱を多く回収し、回収した熱をガス状のR134に移すことである。このため、図12に示したように、第1開閉バルブ123を全開状態として純水の蒸気を第2熱交換器111に供給すると共に、蒸発器141からのガス状のR134を第2熱交換器111に供給する。
【0101】
ここで、ランキンサイクル31の運転中には、ランキンサイクル31を循環するR134のみに熱交換したいので、LLCに奪われる熱量を最小限にするために第2開閉バルブ138を全閉状態としてLLCを第2熱交換器111に流さない。LLCを第2熱交換器111の冷却水通路114に流さないと、通常は、冷却水通路114の内部でLLCが局部的に沸騰してしまうのであるが、LLCのすぐ隣に存在するR134が純水と熱交換するためにLLCの局部的な沸騰を避けることができる。
【0102】
このときの第2熱交換器111内での3つの各冷媒の挙動を、一点鎖線で囲った図12の右上図に示している。図12の右上図において矢印は純水の蒸気及びガス状のR134が流れていることを示している。すなわち、純水の蒸気が純水通路112を流れ、この純水の蒸気と冷媒通路113を流れるガス状のR134との間で熱交換が行われ、ガス状のR134が過熱される。この過熱されたガス状のR134は、冷媒通路42を介して膨張機37に供給され、膨張機37を回転駆動し、この回転駆動で冷媒ポンプ32を駆動し、ランキンサイクル31の冷媒通路にR134を循環させる。
【0103】
図18は第1実施形態の制御系のブロック図である。エンジンコントローラ71には水温センサ141により検出されるエンジン冷却水温度、外気温センサ142により検出される外気温、クランク角センサ143により検出されるエンジン回転速度が入力されている。エンジンコントローラ71では、これらの信号に基づいて上記2つの開閉バルブ123、138の開閉を制御する。
【0104】
エンジンコントローラ71で行われるこの制御を図19のフローチャートを参照して説明する。図19は2つの開閉弁123、138の駆動を説明するためのもので、図19のフローは一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0105】
ステップ1ではエンジン冷間状態であるか否かをみる。これは、水温センサ141により検出されるエンジン始動時の冷却水温度から判断すればよい。エンジン冷間状態でないときにはそのまま今回の処理を終了する。
【0106】
エンジン冷間状態であるときにはステップ2に進み、触媒9の暖機が完了しているか否かをみる。これは、簡単にはエンジン2のクランキングの開始より第1タイマを起動し、この第1タイマ値と第1所定値を比較させることにより行わせればよい。第1所定値としては、触媒9が暖機を完了する時間を予め定めておく。第1タイマ値が第1所定値に満たないときには触媒9の暖機中であると判断してステップ3に進み、排気の熱が奪われないようにするため第1、第2の開閉弁123、138をともに全閉状態とする(図10参照)。第1タイマ値が第1所定値に満たない限り、ステップ3の操作を繰り返す。
【0107】
ステップ2で第1タイマ値が所定値に到達したときには触媒9の暖機が完了したと判断してステップ4に進む。ステップ4ではエンジン2の暖機が完了しているか否かをみる。これも、簡単には触媒9の暖機完了より第2タイマを起動し、この第2タイマ値と第2所定値を比較させることにより行わせればよい。第2所定値としては、エンジン2が暖機を完了する時間を予め定めておく。第2タイマ値が第2所定値に満たないときにはエンジン2の暖機中であると判断してステップ5に進み、排気の熱を回収した純水からさらに純水の熱をエンジン冷却水に回収するため、第1、第2の開閉弁123、138をともに全開状態とする(図11参照)。第2タイマ値が第2所定値に満たない限り、ステップ5の操作を繰り返す。
【0108】
ステップ4で第2タイマ値が第2所定値に到達したときにはエンジン2の暖機が完了したと判断してステップ6に進む。ステップ6では水温センサ141により検出されるエンジン冷却水温度、外気温センサ142により検出される外気温、クランク角センサ143により検出されるエンジン回転速度、エンジントルクに基づいて上記図7A、図7Bに示したランキンサイクル31の運転域にあるか否かをみる。ここで、エンジントルクはエンジン回転速度と燃料噴射量とをパラメータとするマップを予め作成しておき、そのときのエンジン回転速度と燃料噴射量からそのマップを検索すことにより求めさせればよい。ランキンサイクル31の運転域になければ今回の処理をそのまま終了する。
【0109】
ステップ6でランキンサイクル31の運転域にあるときにはステップ7に進み、排気の熱を回収した純水からさらに純水の熱を冷媒に回収するため第1開閉弁123を全開状態とし、第2開閉弁138を全閉状態とする(図12参照)。
【0110】
ここで、本実施形態の作用効果を説明する。
【0111】
本実施形態では、冷媒(第1冷媒)を用いて動力を発生させるランキンサイクル31に用いられる第2熱交換器111(熱交換器)であって、第2熱交換器111は、エンジン2の排気の熱で温められた純水(第2冷媒)と前記冷媒(第1冷媒)及びエンジン2の冷却水との間で熱交換を行う。
【0112】
本実施形態ではエンジン2の廃熱を冷媒(第1冷媒)に回収する熱交換器(92、111)、この熱交換器の出口の冷媒を用いて動力を発生させる膨張機37、この膨張機37を出た冷媒を凝縮させる凝縮器38、この凝縮器38からの冷媒を前記熱交換器(92、111)に供給する冷媒ポンプ32を含むランキンサイクル31において、前記熱交換器(92、111)は、排気の熱を純水(第2冷媒)に回収する第1熱交換器92と、この純水と冷媒及びエンジン2の冷却水との間で熱交換を行うための純水通路112(第2冷媒通路)及び冷媒通路113(第1冷媒通路)と冷却水通路114とを有する第2熱交換器111とを備える。
【0113】
本実施形態によれば、ランキンサイクル31を循環する冷媒(第1冷媒)と熱交換するのは、純水(第2冷媒)である。このため、純水の温度がR134等の冷媒を熱分解するほど高くなり過ぎないように、純水の温度を排気温度より低い温度(第1熱交換器の出口温度が150℃)に設定する(第1熱交換器92の出口の101の温度を150℃に設定)ことによって、冷媒の熱分解を回避しつつ冷媒への熱交換量を大きくすることができる。
【0114】
また、本実施形態によれば、排気は純水(第2冷媒)とだけ熱交換するので、排気を冷やしたくないときに純水の第2熱交換器111への供給を止めることで、排気から奪われる熱が少なくて済む。排気通路3に触媒9を備えるエンジン2では、エンジン2の冷間始動時にまず触媒9を早期に暖機完了することが要求される。この場合に、本実施形態によれば、エンジン2の冷間始動直後で排気を冷やしたくないときに、純水(第2冷媒)の第2熱交換器111への供給を止めることで、排気から奪われる熱が少なくて済み、触媒9を早期に暖機完了することができる。
【0115】
本実施形態によれば、エンジン2を冷却して昇温した冷却水をラジエータ11に供給する第1冷却水通路(13、131)と、このラジエータ11からの冷却水をエンジン2に戻す第2冷却水通路(131、134)と、第1冷却水通路(13)から分岐しラジエータ11をバイパスして冷却水を流す第1バイパス冷却水通路132と、この第1バイパス冷却水通路132の開放・遮断を行うサーモスタットバルブ15と、冷却水を圧送する冷却水ポンプ16と、第2冷却水通路(134)から分岐しエンジン2をバイパスして冷却水を流す第2バイパス冷却水通路135とを備え、第2熱交換器111にはさらに純水(第2冷媒)との間で熱交換を行う冷却水通路114を有し、この冷却水通路114を第2バイパス冷却水通路135に介装するので、ランキンサイクル31の運転を停止するエンジン2の暖機途中に純水(第2冷媒)を第2熱交換器111に供給することで、純水と冷却水との間で熱交換が行われることから、エンジン2の暖機を促進できる。
【0116】
本実施形態によれば、第1熱交換器92で純水(第2冷媒)を排気の熱により気化し、第2熱交換器111でこの気化した純水を液化させる際の潜熱を利用して、冷媒(第1冷媒)と冷却水のいずれか一方との間で熱交換を行わせるので、純水と、冷媒と冷却水のいずれか一方との間での熱交換に際して、より多くの熱交換量を確保することができる。
【0117】
冷媒(第1冷媒)と冷却水との間の熱交換量が相対的に大きいと、純水(第2冷媒)から冷媒(第1冷媒)と冷却水のいずれか一方のみ、例えば冷媒のみに熱移動をさせたいときに冷却水にも熱移動してしまう。また、冷却水のみに熱移動させたいときに冷媒にも熱移動してしまう。つまり、熱移動させたくない側に純水(第2冷媒)の熱が漏れてしまう。一方、本実施形態によれば、第2熱交換器111での冷媒(第1冷媒)と冷却水との間の熱の伝わり易さは、第2熱交換器111での純水(第2冷媒)と冷媒(第1冷媒)との間及び純水(第2冷媒)と冷却水と間の熱の伝わり易さよりも小さいので、冷媒と冷却水との間の熱交換量が相対的に少なく、純水から冷媒と冷却水のいずれか一方のみに熱移動をさせるときに、熱移動させたくない側(媒体)に純水(第2冷媒)の熱が漏れることを抑制できる分、熱交換効率を向上できる。
【0118】
本実施形態によれば、第2熱交換器111の有する冷媒通路113(第1冷媒通路)、純水通路112(第2冷媒通路)、冷却水通路114について、冷媒通路113及び冷却水通路114を冷媒通路112と直交(交差)させて設けると共に、冷媒通路113を冷却水通路114よりも純水通路112の上流側に設けるので、ランキンサイクル31の運転を停止するエンジン2の暖機途中に純水(第2冷媒)を第2熱交換器111に供給することで、純水(第2冷媒)と冷却水との間で熱交換が行われることから、エンジン2の暖機を促進できる。このとき、冷媒通路113の冷媒は温度の高い方から低い方へ移動する。
【0119】
本実施形態によれば、第2バイパス冷却水通路135を開放・遮断する第2開閉バルブ138(バルブ)を設け、ランキンサイクル31の運転域でこの第2開閉バルブ138を閉じるので(図19のステップ6、7参照)、エンジン2の暖機完了後に純水(第2冷媒)を第2熱交換器111に供給することで、純水(第2冷媒)と冷媒(第1冷媒)との間で熱交換が行われることから、ランキンサイクル31を運転できる。さらに、LLC(冷却水)を冷却水通路114に流さないと、通常は、冷却水通路114の内部でLLC(冷却水)が局部的に沸騰してしまうのであるが、LLCのすぐ隣に存在するR134(第1冷媒)が純水と熱交換するためにLLCの局部的な沸騰を避けることができる。
【0120】
本実施形態によれば、第1冷媒は冷凍用の冷媒、第2冷媒は純水、冷却水はLLCであるので、排気の熱を効率よく回収することができる。
【0121】
冷却水としてLLCを挙げたが、LLCに限られるものでない。
【0122】
実施形態では、ハイブリッド車両の場合で説明したが、これに限られるものでない。エンジン2のみを搭載した車両にも本発明の適用がある。エンジン2は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのいずれでもかまわない。
【符号の説明】
【0123】
2 エンジン
13 冷却水通路(第1冷却水通路)
15 サーモスタットバルブ
31 ランキンサイクル
36 熱交換器
37 膨張機
71 エンジンコントローラ
91 純水サイクル
92 第1熱交換器
111 第2熱交換器(熱交換器)
112 純水通路
113 冷媒通路
114 冷却水通路
131 冷却水通路(第1冷却水通路、第2冷却水通路)
132 第1バイパス冷却水通路
134 冷却水通路(第2冷却水通路)
123 第1開閉バルブ
135 第2バイパス冷却水通路
138 第2開閉バルブ(バルブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1冷媒を用いて動力を発生させるランキンサイクルに用いられる熱交換器であって、
前記熱交換器は、エンジンの排気の熱で温められた第2冷媒と前記第1冷媒及び前記エンジンの冷却水との間で熱交換を行うことを特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記熱交換器に導入される第2冷媒は、エンジンの排気の熱で温められて気化した気相冷媒であり、前記気相の第2冷媒を液化させる際の潜熱を利用して、前記第1冷媒及び前記冷却水との間で熱交換を行うことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記第1冷媒と前記冷却水との間の熱の伝わり易さは、前記第2冷媒と前記第1冷媒との間及び前記第2冷媒と前記冷却水との間の熱の伝わり易さよりも小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記第1冷媒を通す第1冷媒通路及び前記冷却水を通す冷却水通路を前記第2冷媒を通す第2冷媒通路と交差させて設けると共に、第1冷媒通路を冷却水通路よりも第2冷媒通路の上流側に設けることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の熱交換器。
【請求項5】
前記第1冷媒は冷凍サイクル用の冷媒、前記第2冷媒は純水、前記冷却水はLLCであることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の熱交換器。
【請求項6】
エンジンの廃熱を第1冷媒に回収する熱交換器、この熱交換器の出口の第1冷媒を用いて動力を発生させる膨張機、この膨張機を出た第1冷媒を凝縮させる凝縮器、この凝縮器からの第1冷媒を前記熱交換器に供給する冷媒ポンプを含むランキンサイクルにおいて、
前記熱交換器は、
排気の熱を第2冷媒に回収する第1熱交換器と、
この第2冷媒と前記第1冷媒及び前記エンジンの冷却水との間で熱交換を行うための第2冷媒通路及び第1冷媒通路と冷却水通路とを有する第2熱交換器と
を備えることを特徴とするランキンサイクル。
【請求項7】
エンジンを冷却して昇温した冷却水をラジエータに供給する第1冷却水通路と、
このラジエータからの冷却水をエンジンに戻す第2冷却水通路と、
前記第1冷却水通路から分岐し前記ラジエータをバイパスして冷却水を流す第1バイパス冷却水通路と、
この第1バイパス冷却水通路の開放・遮断を行うサーモスタットバルブと、
冷却水を圧送する冷却水ポンプと、
前記第2冷却水通路から分岐し、第1冷却水通路および第2冷却水通路からなる冷却水通路上の区間において前記第1バイパス冷却水通路と重複することなく、かつ前記冷却水ポンプをバイパスせずに、前記エンジンをバイパスして冷却水を流す第2バイパス冷却水通路と
を備え、
前記第2熱交換器の冷却水通路を前記第2バイパス冷却水通路に介装することを特徴とする請求項6に記載のランキンサイクル。
【請求項8】
前記第1熱交換器で前記第2冷媒を排気の熱により気化し、前記第2熱交換器でこの気化した第2冷媒を液化させる際の潜熱を利用して、前記第1冷媒と前記冷却水のいずれか一方との間で熱交換を行わせることを特徴とする請求項7に記載のランキンサイクル。
【請求項9】
前記第2熱交換器での前記第1冷媒と前記冷却水との間の熱の伝わり易さは、前記第2熱交換器での前記第2冷媒と前記第1冷媒との間及び前記第2冷媒と前記冷却水との間の熱の伝わり易さよりも小さいことを特徴とする請求項8に記載のランキンサイクル。
【請求項10】
前記第2熱交換器の有する第1冷媒通路、第2冷媒通路、冷却水通路について、第1冷媒通路及び冷却水通路を第2冷媒通路と交差させて設けると共に、第1冷媒通路を冷却水通路よりも第2冷媒通路の上流側に設けることを特徴とする請求項7から9までのいずれか一つに記載のランキンサイクル。
【請求項11】
前記第2バイパス冷却水通路を開放・遮断するバルブを設け、
前記ランキンサイクルの運転域でこのバルブを閉じることを特徴とする請求項10に記載のランキンサイクル。
【請求項12】
前記第1冷媒は冷凍サイクル用の冷媒、前記第2冷媒は純水、前記冷却水はLLCであることを特徴とする請求項7から11までのいずれか一つに記載のランキンサイクル。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−76374(P2013−76374A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216794(P2011−216794)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】