説明

リガンドの構造変化の分析方法

【課題】 被験物質がリガンドと相互作用することにより生じるリガンドの構造変化を分析する方法を提供すること。
【解決手段】 リガントと被験物質との相互作用を少なくとも2種以上の高屈折率溶媒を用いて測定し、得られた測定結果からリガンドの排除体積の変化を求めることを含む、リガンドと被験物質との相互作用により生じるリガンドの構造変化を分析する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リガンドの構造変化の分析方法に関する。より詳細には、本発明は、リガンドと被験物質との相互作用により生じるリガンドの構造変化を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から行われている被験物質のスクリーニング方法においては、生理活性評価、又は結合定数(KD)などを指標にして化合物を選別する方法が一般的である。しかしながら、被験物質とリガンドとの相互作用により、リガンドの構造が変化することも知られている。また、タンパク質同士の相互作用においてもリガンドタンパク質の構造変化が生じる場合がある。従って、被験物質との相互作用によるリガンドの構造変化を分析する方法が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、被験物質がリガンドと相互作用することにより生じるリガンドの構造変化を分析する方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、被験物質とリガンドとの相互作用を測定する際に、少なくとも2種以上の高屈折率溶媒を用いて測定を行うことによりリガンドの排除体積の変化を求めることができ、この排除体積の変化に基づいてリガンドの構造変化を分析できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明によれば、リガントと被験物質との相互作用を少なくとも2種以上の高屈折率溶媒を用いて測定し、得られた測定結果からリガンドの排除体積の変化を求めることを含む、リガンドと被験物質との相互作用により生じるリガンドの構造変化を分析する方法が提供される。
【0006】
好ましくは、リガンドと被験物質との相互作用を測定する方法は非電気的方法であり、さらに好ましくは表面プラズモン共鳴法である。
【0007】
好ましくは、(i)リガンドを固定した固定化表面とリガンドを固定していない参照表面を用意する工程;
(ii)固定化表面と参照表面に、第一の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、さらに屈折率が異なる第二の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、横軸に参照表面の信号強度を、縦軸に固定化表面の信号強度と参照表面の信号強度の差をプロットし、得られたグラフの切片aを求める工程;
(iii)固定化表面と参照表面に、被験物質を含む上記第一の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、さらに被験物質を含む上記第二の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、横軸に参照表面の信号強度を、縦軸に固定化表面の信号強度と参照表面の信号強度の差をプロットし、得られたグラフの切片bを求める工程;及び
(iv)切片aと切片bを比較する工程、
によってリガンドの排除体積の変化を求めることができる。
【0008】
好ましくは、金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置を用いて、前記流路系内の液体を被験物質を含まない溶液から被験物質を含む溶液へと交換して表面プラズモン共鳴の変化を測定することによって、リガンドと被験物質との相互作用を分析することができる。
【0009】
好ましくは、流路系内の液体を、被験物質を含まない溶液から被験物質を含む溶液へと交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。
【0010】
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の方法を用いて被験物質とリガンドとの相互作用により生じるリガンドの構造変化を分析し、リガンドの構造変化を生じさせる被験物質を候補物質として同定することを含む、候補物質のスクリーニング方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被験物質がリガンドと相互作用することにより生じるリガンドの構造変化を簡便かつ迅速に分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明はリガンドと被験物質との相互作用により生じるリガンドの構造変化を分析する方法に関するものであり、特に、リガントと被験物質との相互作用を少なくとも2種以上の高屈折率溶媒を用いて測定し、得られた測定結果からリガンドの排除体積の変化を求めることを特徴とする。
【0013】
本発明で用いる高屈折率溶媒とは、屈折率1.35以上の溶媒である。溶媒を高屈折率化する方法としては、有機溶媒(例えばDMSO(屈折率1.4783(20℃)、エチレングリコール(屈折率1.4318(20℃)など)の添加、又は塩の添加などが好ましい。
【0014】
本発明の排除体積の変化を求める方法としては、Journal of Medicinal Chemistry (2000), 43(10), 1986-1992 に記載の表面プラズモン測定上の補正方法を用いることができる。具体的には、タンパクを固定した表面(Act)と固定していない表面(Ref)を用意し、高屈折率の第一の溶媒を流して信号を測定する。さらに屈折率異なる第二の溶媒を流して信号を測定する。最低2点の測定で直線が引ける。横軸にRefの信号強度を、縦軸にActの信号強度とRefの信号強度の差をプロットして、切片a(即ち、Refの信号強度が0の時のActの信号強度とRefの信号強度の差)を求める。これを基準として、化合物を含む第一の溶媒及び第二の溶媒で同様の分析を行い切片bを求める。aとbの比較により排除体積の変化値を求めることができる。
【0015】
本発明で用いる被験物質としては例えば、本明細書中以下に記載するような生理活性物質(リガンド)と相互作用する物質であれば特に限定されないが、低分子有機化合物、高分子化合物、DNA等の核酸、蛋白質(抗体などを含む)、ペプチド又はその断片、糖、アミノ酸などが挙げられる。
【0016】
本発明において好ましくは、リガンドと被験物質との相互作用を非電気的方法(例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術など)で測定することができ、より好ましくは表面プラズモン共鳴分析法で測定することができる。
【0017】
本発明の一実施態様においては、表面プラズモン共鳴測定装置の流路系内の液体を、被験物質を含まない溶液から被験物質を含む溶液へと交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。このような測定により、測定時間内における参照セルの信号変化のノイズ幅、及びベースライン変動を抑制することができ、これにより信頼性の高い結合検出データを取得することができる。液の流れを停止させる時間は特に限定されないが、例えば、1秒以上30分以下であり、好ましくは10秒以上20分以下であり、さらに好ましくは1分以上20分以下程度である。
【0018】
本発明においては好ましくは、被験物質と相互作用する物質を結合していない参照セルと、被験物質と相互作用する物質を結合した検出セルとを直列に連結して流路系内に設置し、該参照セルと該検出セルに液体を流すことにより、表面プラズモン共鳴の変化を測定することができる。
【0019】
また、本発明においては、測定に用いるセルの体積(Vs ml)(上記した参照セルと検出セルを用いる場合はそれらのセルの合計体積)に対し、1回の測定あたりの液交換量(Ve ml)の比率(Ve/Vs)を、例えば、1以上100以下とすることができる。Ve/Vsは、より好ましくは1以上50以下であり、特に好ましくは1以上20以下である。測定に用いるセルの体積(Vs ml)は特に限定されないが、好ましくは1×10-6〜1.0ml、特に好ましくは1×10-5〜1×10-1ml程度である。また、液体の交換にかける時間としては、0.01秒以上100秒以下が好ましく、0.1秒以上10秒以下がより好ましい。
【0020】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。以下、本発明で用いることができる表面プラズモン共鳴測定装置について説明する。
【0021】
表面プラズモン共鳴測定装置とは、表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析するための装置である。本発明で用いられる表面プラズモン共鳴測定装置の一例は、誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備える。
【0022】
また、前記の通り、前記誘電体ブロックは、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている。
【0023】
本発明では、具体的には、特開2001−330560号公報記載の図1〜図32で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置、特開2002−296177号公報記載の図1〜図15で説明されている表面プラズモン共鳴測定装置を好ましく用いることができる。特開2001−330560号公報および特開2002−296177号公報に記載の内容は全て本明細書の開示の一部として本明細書中に引用するものとする。
【0024】
例えば、特開2001−330560号公報記載の表面プラズモン共鳴測定装置としては、例えば、誘電体ブロック、この誘電体ブロックの一面に形成された金属膜からなる薄膜層、およびこの薄膜層の表面上に試料を保持する試料保持機構を備えてなる複数の測定ユニットと、これら複数の測定ユニットを支持した支持体と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを前記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと前記金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の入射角で入射させる光学系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して、表面プラズモン共鳴による全反射減衰の状態を検出する光検出手段と、前記複数の測定ユニットの各誘電体ブロックに関して順次前記全反射条件および種々の入射角が得られるように、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、各測定ユニットを順次前記光学系および光検出手段に対して所定位置に配置する駆動手段とを備えてなることを特徴とする表面プラズモン共鳴測定装置が挙げられる。
【0025】
なお、上記の測定装置においては、例えば前記光学系および光検出手段が静止状態に保たれるものとされ、前記駆動手段が、前記支持体を移動させるものとされる。
【0026】
その場合、前記支持体は、回動軸を中心とする円周上に前記複数の測定ユニットを支持するターンテーブルであり、また前記駆動手段は、このターンテーブルを間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、この支持体を前記複数の測定ユニットの並び方向に間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0027】
一方、上記とは反対に、前記支持体が静止状態に保たれるものであり、前記駆動手段が、前記光学系および光検出手段を移動させるものであっても構わない。
【0028】
その場合、前記支持体は、円周上に前記複数の測定ユニットを支持するものであり、前記駆動手段は、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に回動させるものであることが望ましい。またこの場合、前記支持体として、前記複数の測定ユニットを直線的に1列に並べて支持するものを用い、前記駆動手段として、前記光学系および光検出手段を、前記支持体に支持された複数の測定ユニットに沿って間欠的に直線移動させるものを適用してもよい。
【0029】
他方、前記駆動手段が、その回動軸を支承するころがり軸受けを有するものである場合、この駆動手段は、該回動軸を一方向に回動させて前記複数の測定ユニットに対する一連の測定が終了したならば、この回動量と同量だけ該回動軸を他方向に戻してから、次回の一連の測定のためにこの回動軸を前記一方向に回動させるように構成されることが望ましい。
【0030】
また上記の測定装置においては、前記複数の測定ユニットが連結部材により1列に連結されてユニット連結体を構成し、前記支持体が、このユニット連結体を支持するように構成されていることが望ましい。
【0031】
また上記の測定装置においては、前記支持体に支持されている複数の測定ユニットの各試料保持機構に、自動的に所定の試料を供給する手段が設けられることが望ましい。
【0032】
さらに上記の測定装置においては、前記測定ユニットの誘電体ブロックが前記支持体に固定され、測定ユニットの薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが上記誘電体ブロックに対して交換可能に形成されていることが望ましい。
【0033】
そして、このような測定チップを適用する場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、前記誘電体ブロックと組み合う状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0034】
あるいは、測定ユニットの誘電体ブロック、薄膜層および試料保持機構が一体化されて測定チップを構成し、この測定チップが前記支持体に対して交換可能に形成されてもよい。
【0035】
測定チップをそのような構成とする場合は、この測定チップを複数収納したカセットと、このカセットから測定チップを1つずつ取り出して、支持体に支持される状態に供給するチップ供給手段とが設けられることが望ましい。
【0036】
他方、前記光学系は、光ビームを誘電体ブロックに対して収束光あるいは発散光の状態で入射させるように構成され、そして前記光検出手段は、全反射した光ビームに存在する、全反射減衰による暗線の位置を検出するように構成されることが望ましい。
【0037】
また上記光学系は、光ビームを前記界面にデフォーカス状態で入射させるものとして構成されることが望ましい。そのようにする場合、光ビームの上記界面における、前記支持体の移動方向のビーム径は、この支持体の機械的位置決め精度の10倍以上とされることが望ましい。
【0038】
さらに上記の測定装置において、測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光源は前記支持体より上の位置から下方に向けて前記光ビームを射出するように配設され、前記光学系は、前記下方に向けて射出された前記光ビームを上方に反射して、前記界面に向けて進行させる反射部材を備えていることが望ましい。
【0039】
また、上記の測定装置において、前記測定ユニットは前記支持体の上側に支持され、前記光学系は、前記光ビームを前記界面の下側から該界面に入射させるように構成され、前記光検出手段は前記支持体よりも上の位置で光検出面を下方に向けて配設されるとともに、前記界面で全反射した光ビームを上方に反射して、前記光検出手段に向けて進行させる反射部材が設けられることが望ましい。
【0040】
他方、上記の測定装置においては、前記支持体に支持される前および/または支持された後の前記測定ユニットを、予め定められた設定温度に維持する温度調節手段が設けられることが望ましい。
【0041】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された測定ユニットの試料保持機構に貯えられた試料を、前記全反射減衰の状態を検出する前に撹拌する手段が設けられることが望ましい。
【0042】
また、上記の測定装置においては、前記支持体に支持された複数の測定ユニットの少なくとも1つに、前記試料の光学特性と関連した光学特性を有する基準液を供給する基準液供給手段が設けられるとともに、前記光検出手段によって得られた、試料に関する前記全反射減衰の状態を示すデータを、前記基準液に関する前記全反射減衰の状態を示すデータに基づいて補正する補正手段が設けられることが望ましい。
【0043】
そのようにする場合、試料が被検体を溶媒に溶解させてなるものであるならば、前記基準液供給手段は、基準液として前記溶媒を供給するものであることが望ましい。
【0044】
さらに、上記の測定装置は、測定ユニットの各々に付与された、個体識別情報を示すマークと、測定に使用される測定ユニットから前記マークを読み取る読取手段と、測定ユニットに供給される試料に関する試料情報を入力する入力手段と、測定結果を表示する表示手段と、この表示手段、前記入力手段および前記読取手段に接続されて、各測定ユニット毎の前記個体識別情報と前記試料情報とを対応付けて記憶するとともに、ある測定ユニットに保持された試料について求められた測定結果を、その測定ユニットに関して記憶されている前記個体識別情報および前記試料情報と対応付けて前記表示手段に表示させる制御手段とを備えることが望ましい。
【0045】
上記した測定装置を用いて生理活性物質と相互作用する物質を検出または測定する場合、前記測定ユニットの1つにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出した後、前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、別の測定ユニットにおける試料に関して全反射減衰の状態を検出し、その後前記支持体と前記光学系および光検出手段とを相対移動させて、前記1つの測定ユニットにおける試料に関して、再度全反射減衰の状態を検出することにより測定を行うことができる。
【0046】
本発明で用いる測定チップは、本明細書中に記載した構成を有する表面プラズモン共鳴測定装置に用いられるための測定チップであって、誘電体ブロックとこの誘電体ブロックの一面に形成された金属膜とから構成され、上記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている。
【0047】
金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記金属膜への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0048】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、1オングストローム以上5000オングストローム以下であるのが好ましく、特に10オングストローム以上2000オングストローム以下であるのが好ましい。5000オングストロームを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、1オングストローム以上、100オングストローム以下であるのが好ましい。
【0049】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0050】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0051】
金属膜は、最表面に生理活性物質(即ち、被験物質に対するリガンド)を固定化することができる官能基を有することが好ましい。ここで言う「最表面」とは、「金属膜から最も遠い側」という意味である。
【0052】
好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR12(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR12(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0053】
最表面にそれらの官能基を導入する方法としては、例えば、それらの官能基の前駆体を含有する高分子を金属表面あるいは金属膜上にコーティングした後、化学処理により最表面に位置する前駆体からそれらの官能基を生成させる方法が挙げられる。
【0054】
上記のようにして得られた測定チップにおいて、上記の官能基を介して生理活性物質を共有結合させることによって、金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0055】
本発明の測定チップの表面上に固定される生理活性物質(即ち、リガンド)としては、測定対象物である被験物質と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0056】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0057】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0058】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0059】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0060】
生理活性物質が抗体や酵素などの蛋白質又は核酸である場合、その固定化は、生理活性物質のアミノ基、チオール基等を利用し、金属表面の官能基に共有結合させることで行うことができる。
【0061】
上記のようにして生理活性物質を固定化した測定チップは、当該生理活性物質と相互作用する被験物質の検出及び/又は測定のために使用することができる。
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
(実施例1)排除体積変化の測定
リガンド固定(アミンカップリング)は以下の通り行った。測定装置としては、Biacore3000(Biacore社製)を使用した。リガンドとしては、CA(Carbonic Anhydrase:SIGMA社製)5mgをリン酸緩衝液10mM pH7.4(以下PBS7.4と略す)1mlに溶解したものを準備した。測定温度は25℃とした。使用チップはCM5(カルボキシメチルデキストランセンサー)(Biacore社製)である。ランニングバッファーとしては、PBS7.4を使用した。流速は10μl/minである。活性化液として、1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(400mM)とN−ヒドロキシスクシンイミド(100mM)との等量混合液を使用した。活性化時間は15分である。固定化液としては、CA 5mg/ml(PBS7.4)を酢酸バッファーpH5.0(Biacore社製)で10倍希釈したものを使用した。固定化時間は15分である。不活性化液として、1Mエタノールアミン溶液(pH8.5)(biacore社製)を使用した。不活性化時間は15分である。
【0063】
薬剤結合の測定は以下の通り行った。測定装置としては、Biacore3000(Biacore社製)を使用した。ランニングバッファーとしては、5重量%DMSO含有リン酸緩衝液10mM pH7.4(以下5%DMSO/PBS7.4と略す)を使用した。薬剤濃度は0.05mM(溶解処方は下記参照)であり、比較タイプはDMSOのみを加えた。
A:薬剤10mM DMSO溶液 2.5μl、PBS7.4 47.5μl、5%DMSO/PBS7.4 450μl
B:薬剤10mM DMSO溶液 2.5μl、PBS7.4 47.5μl、4.75%DMSO/PBS7.4 450μl
C:薬剤10mM DMSO溶液 2.5μl、PBS7.4 47.5μl、5.25%DMSO/PBS7.4 450μl
D:薬剤10mM DMSO溶液 2.5μl、PBS7.4 47.5μl、5.50%DMSO/PBS7.4 450μl
【0064】
薬剤としては、以下の化合物1又は 化合物2を使用した。
【化1】

【0065】
排除体積の変化値の測定は以下の通り行った。
タンパクを固定した表面(Act)と固定していない表面(Ref)に薬剤の入っていない上記A〜Dの溶液を流速30μl/minで2分間注入し、2分後の信号を測定した。横軸にRefの信号強度を、縦軸にActの信号強度とRefの信号強度の差をプロットして、切片の比を求めることができる。
【0066】
次に、タンパクを固定した表面(Act)と固定していない表面(Ref)に薬剤(化合物1又は化合物2)の入っている上記A〜Dの溶液を流速30μl/minで2分間注入し、2分後の信号を測定した。横軸にRefの信号強度を、縦軸にActの信号強度とRefの信号強度の差をプロットして、切片の比を求めることができる。
【0067】
上記プロット(薬剤なしの場合、化合物1の場合、及び化合物2の場合)の結果を図1に示す。図1の結果より、化合物2よりも化合物1の方が効果があることがわかる。このようにして、薬剤の入っていない場合と比較してより大きく変化した化合物を選択することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、排除体積の算出プロットの一例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガントと被験物質との相互作用を少なくとも2種以上の高屈折率溶媒を用いて測定し、得られた測定結果からリガンドの排除体積の変化を求めることを含む、リガンドと被験物質との相互作用により生じるリガンドの構造変化を分析する方法。
【請求項2】
リガンドと被験物質との相互作用を測定する方法が非電気的方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リガンドと被験物質との相互作用を測定する方法が表面プラズモン共鳴法である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(i)リガンドを固定した固定化表面とリガンドを固定していない参照表面を用意する工程;
(ii)固定化表面と参照表面に、第一の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、さらに屈折率が異なる第二の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、横軸に参照表面の信号強度を、縦軸に固定化表面の信号強度と参照表面の信号強度の差をプロットし、得られたグラフの切片aを求める工程;
(iii)固定化表面と参照表面に、被験物質を含む上記第一の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、さらに被験物質を含む上記第二の高屈折率溶媒を流して信号を測定し、横軸に参照表面の信号強度を、縦軸に固定化表面の信号強度と参照表面の信号強度の差をプロットし、得られたグラフの切片bを求める工程;及び
(iv)切片aと切片bを比較する工程、
によってリガンドの排除体積の変化を求める、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
金属膜と、光ビームを発生させる光源と、前記光ビームを金属膜との界面で全反射条件が得られるように、かつ、種々の入射角成分を含むようにして入射させる光学系と、前記金属膜上に形成されたセルを含む流路系と、前記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態を検出する光検出手段とを備えてなる表面プラズモン共鳴測定装置を用いて、前記流路系内の液体を被験物質を含まない溶液から被験物質を含む溶液へと交換して表面プラズモン共鳴の変化を測定することによって、リガンドと被験物質との相互作用を分析する、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
流路系内の液体を、被験物質を含まない溶液から被験物質を含む溶液へと交換後、液の流れを停止させた状態で表面プラズモン共鳴の変化を測定する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載の方法を用いて被験物質とリガンドとの相互作用により生じるリガンドの構造変化を分析し、リガンドの構造変化を生じさせる被験物質を候補物質として同定することを含む、候補物質のスクリーニング方法。



【図1】
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【公開番号】特開2006−78194(P2006−78194A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259425(P2004−259425)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】