リグナン系化合物の新規な用途
本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物の新規な用途に関するものにして、より詳細には前記一般式Iで表示される、リグナン系化合物又はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)抽出物を有効成分として含む、脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物及びそれを利用した脳神経疾患の治療又は予防方法及び用途に関するものである。本発明の一般式Iで表示されるリグナン系化合物は抗酸化効果、脳細胞保護効果及び抗炎症効果が極めて優れていて、脳神経疾患の治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリグナン系化合物の新規な用途に関わる、より具体的には本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物を有効成分として含む、脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物、これを利用した脳神経疾患の治療又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の寿命が延び、高齢化社会に進行しながら、脳卒中、痴呆、パーキンソン病等の脳神経疾患が増えつつある。前記脳神経疾患等は特定脳細胞の死滅又は退化が一時的又は長期間に亙り進行するのが特徴であるものの、一度死滅した脳細胞は再生ができない為、結局致命的な脳機能の損失に繋がる。特に、認知機能、感覚機能、運動機能、全身機能の進行性低下を伴う脳機能不全は、性格と行動の変化をもたらし、患者等が自ら自分の面倒が見られなくなる羽目に至る。このような脳細胞死滅の主要経路としては酸化的ストレスによる酸化的毒性、興奮的毒性、アポプトシス(apoptosis)等が提示されていて、それぞれは特異な信号伝達過程を通じて細胞死滅を誘発するようになる。
【0003】
具体的に、脳卒中、脳損傷、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病患者より脳細胞死滅の主な原因として活性酸素種(Reactive Oxygen Species)の蓄積後蛋白質、核酸、脂質の酸化的損傷が提示された。特に、フリーラジカル(free radicals)による酸化ストレスは、体内の各組織で生ずる細胞死滅の主な原因として報告されており、脳神経疾患で現れる細胞死滅の主なメカニズムの1つとしても提示されてきた(Schapira, A. H., Curr. Opin. Neurol., 9(4):260-264, 1996)。脳神経疾患で神経細胞の死滅にフリーラジカルが関与するとの証拠には、虚血後活性酸素種の生成増加及び抗酸化剤による虚血性神経細胞の死滅抑制効果(Flamm, E. S. et al., Stroke 9(5):445-447, 1978; Chan, P. H., J. Neurotrauma 9 Suppl. 2:S417-423, 1992);ハンチントン病の線条体よりFe2+の増加(Dexter, E. T. et al., Ann. Neutol., 32 Suppl:S94-100, 1992)、アルツハイマー疾患で現れるベータアミロイドによるフリーラジカルの生成(Richardson J. S. et al., Ann. N. Y. Acad. Sci., 777:362-367, 1996)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, ALS)において、Cu/Zn SOD-1遺伝子における点突然変異(Rosen, D. R. et al., Nature, 362(6415):59-62, 1993)等がある。
【0004】
さらに、興奮性神経伝達物質であるグルタメートは、正常状態では神経伝達物質として作用するものの、種々の原因により過多分泌されると、神経細胞の死滅をもたらす。さらに、グルタメートの受容体であるNMDA、AMPA、カイナート受容体(kainate receptors)の過度活性は、脳卒中及び脳損傷による神経細胞死滅の主な原因として知られている(Choi D. W. Neuron, 1:623-634, 1988)。グルタメートによる神経毒性はALSで起こる神経細胞の死滅に関与するものとして明らかとなり、ALS患者において、グルタメート合成酵素の異常、グルタメート運搬蛋白質の異常、グルタメート受容体蛋白質の増加等がその証拠である(Rothstein, J. D. Clin. Neurosci., 3(6):348-359, 1995; Shaw, P. J. et al., J. Neurol., 244:Suppl 2 S3-14, 1997)。
【0005】
さらに、脳細胞死滅の他の原因としてアポプトシスが報告されているものの、アポプトシスは虚血(ischemia)、脳損傷、脊椎損傷、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病から現れる細胞死滅の主な形態である(Smale et al., Exp. Neurol., 133:225-230, 1995; Crow et al., Nat. Med., 3:73-76, 1997)。
【0006】
このような、多様な報告等が酸化的毒性、興奮的毒性及びアポプトシスによる脳細胞の死滅が多様な脳神経疾患の主な原因として作用することを呈しており、これらより脳神経疾患の治療剤を開発するにおいて、酸化的毒性及び興奮的毒性抑制及び/又は脳細胞のアポプトシスを抑制することが主な目標点となっている。
【0007】
一方、リグナン(lignan)はn−フェニルプロパンがn−プロピル側鎖のβ座で結合した天然化合物を総称したものにして、自然界に広く分布する。血糖降下作用、抗癌作用、抗喘息作用、美白作用等のリグナンの多様な生理学的活性に対して研究された。例えば、胡麻から分離されたリグナンであるセサミン(sesamin)、エピセサミン(episesamin)、セサミノール(sesaminol)、セサモリン(sesamolin)及びエピセサミノール(episesaminol)が抗炎症効果のあることが報告されており(大韓民国公開特許公報第1997-7001043号)、辛夷(Magnoliae flos)から分離されたリグナン系化合物は抗喘息効能剤として用いられることが開示された(大韓民国登録特許第0263439号)。さらに、メイスリグナン(macelignan)はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)より発見される代表的なリグナン系化合物にして(Tuchinda P. et al., Phytochemistry, 59: 169-173, 2002)、アポプトシス(apoptosis)を誘導するカスパーゼ(caspase)-3増進作用(Park B.Y. et al., Biol. Pharm. Bull., 27(8): 1305-1307,2004)、抗菌活性等が報告された。しかしながら、前記メイスリグナンを初め、リグナン系化合物の脳神経疾患治療剤としての用途に対しては今まで全く報告されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここに、本発明者等は脳神経疾患の治療剤として、使用し得る天然物由来の化合物を見出だす為に長期間探索した結果、ミリスチカフラグランス抽出物から分離及び精製されたリグナン系化合物が脳神経疾患の治療又は予防に卓越な効果を有することを究明することにより、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的はミリスチカフラグランス抽出物又はこれより分離及び精製されたリグナン系化合物の新規な用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記のような目的を達成する為に、本発明は下記一般式Iで表示されるリグナン系化合物、又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【化1】
【0011】
前記にて、R1及びR2は、独立して、C1-5のアルコキシ又はヒドロキシグループであり、R3は、
【化2】
【0012】
さらに、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与して脳神経疾患を治療又は予防する方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は脳神経疾患の治療剤を製造する為の前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の用途を提供する。
【0015】
さらに、本発明は脳細胞死滅抑制剤を製造する為の前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物の用途を提供する。
【0016】
さらに、本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物を、有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【0017】
さらに、本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を、水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与して脳神経疾患を治療又は予防する方法を提供する。
【0018】
さらに、本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を、水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は脳神経疾患治療剤を製造する為のミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途を提供する。
【0020】
さらに、脳細胞死滅抑制剤を製造する為のミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途を提供する。
【0021】
本発明で‘有効量’とは、本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)抽出物が投与対象である個体内で、脳細胞死滅を抑制する効果及び脳神経疾患を治療又は/及び予防する効果を示す量を言う。
【0022】
さらに、本発明において、‘個体(subject)’とは、哺乳動物、特に人間を含む動物を意味する。前記個体は治療を要する患者の場合もあり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)抽出物及びそれより分離及び精製されたリグナン系化合物の新規な用途を提供することにその特徴がある。
【0025】
本発明に伴うリグナン系化合物は下記一般式Iで表示される。
【化3】
【0026】
前記にて、R1及びR2は、独立して、C1-5のアルコキシ又はヒドロキシグループであり、R3は、
【化4】
【0027】
本発明の好ましいリグナン系化合物は前記一般式Iで、R1がメトキシグループ、R2はヒドロキシグループ、R3が
【化5】
【0028】
である下記化学式Iのメイスリグナン[(8R, 8'S)-7-(3,4-methylenedioxyphenyl)-7'-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-8, 8'-dimeth ylbutane]]でもあり得る。
【化6】
【0029】
本発明に伴うリグナン系化合物は塩、好ましくは、薬学的に許容可能な塩の形態で用いられる。前記塩には薬学的に許容可能な遊離酸(free acid)により、形成された酸付加塩が好ましい。前記遊離酸には有機酸と無機酸が使用できる。前記有機酸はこれに制限されるものではないものの、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、ホルム酸、プロピオン酸、蓚酸、トリフルオロ醋酸、ベンゾ酸、グルコン酸、メタスルホン酸、グリコール酸、スクシン酸、4-トルエンスルホン酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含む。さらに、前記無機酸はこれに制限されるものではないものの、塩酸、ブロム酸、硫酸及びリン酸を含む。
【0030】
本発明のリグナン系化合物は、従来の物質を抽出し、分離する方法を利用して植物又は植物の一部から収得できる。幹、根又は葉は目的とする抽出物を獲得する為に、適宜脱水して浸軟(macerated)するか又は単に脱水して、目的とする抽出物は本発明が属する技術分野の当業者に公知された精製方法を利用して精製される。さらに、前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物に相応する合成化合物、又はこれらの誘導体は一般的に購買可能な物質であるか、又は公知の合成方法を利用して化学的に製造できる。
【0031】
前記一般式Iで表示される本発明のリグナン系化合物はミリスチカフラグランス(Myristica fragnance Houtt.)から分離及び精製できる(Jung Yun Lee et al., Kor. J. Pharmacogn. 21(4):270-273, 1990)。好ましくは、ニクズク(nutmeg)や仮種皮(aril)から分離及び精製できる。前記ニクズクはミリスチカフラグランスの成熟した果実又は果実の中にある種子を言う。さらに、本発明のリグナン系化合物はニクズクを圧搾して得たオイルから分離及び精製できる。さらに、他のニクズク科植物であるミリスチカアルゼンチアワルブ(Myristica argentea Warb)等においても分離及び精製できる(Filleur, F. et al., Natural Product Letters, 16: 1-7, 2002)。さらに、朴の木(Machilus thunbergii)(Park B.Y. et al., Biol. Pharm. Bull., 27(8): 1305-1307,2004)、レウカスアスペラ(Leucas aspera)でも分離及び精製できる(Sadhu, S.K. et al., Chem. Pharm. Bull., 51(9): 595-598, 2003)。
【0032】
本発明のリグナン系化合物の分離の為の、抽出溶媒としては水又はC1-C6の有機溶媒が使用できる。好ましくは、精製水、メタノール(methanol)、エタノール(ethanol)、プロパノール(propanol)、イソプロパノール(isopropanol)、ブタノール(butanol)、アセトン(acetone)、エーテル(ether)、ベンゼン(benzene)、クロロホルム(chloroform)、エチルアセテート(ethyl acetate)、メチレンクロライド(methylene chloride)、ヘキサン(hexane)、シクロヘキサン(cyclohexane)、石油エーテル(petroleum ether)等の各種溶媒を単独或いは混合して使用できる。より好ましくは、メタノール又はヘキサンが使用できる。ミリスチカフラグランス抽出物から本発明のリグナン系化合物の分離及び精製はシリカゲル(silica gel)又は活性アルミナ(alumina)等の各種合成樹脂を充填したコラムクロマトグラフィー(column chromatography)及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を単独或いは併行して使用できる。しかしながら、有効成分の抽出及び分離精製方法は、必ずしも前記の方法に限定されるものではない。
【0033】
このように、本発明のリグナン系化合物は純粋に分離及び精製された化合物の形態で使用することができ、さらに、これを含む抽出物の形態でも使用できる。例えば、前記記載のようなミリスチカフラグランスの種子、果実又は仮種皮抽出物か、又はミリスチカフラグランスの種子を圧搾して得たオイルの形態で使用できる。前記抽出物は上述の通り、ミリスチカフラグランスを水又はC1-C6の有機溶媒で抽出して得られる。好ましくは、ミリスチカフラグランスの種子、つまりニクズク抽出物でもあり得る。
【0034】
活性酸素種は体内で酸化的毒性を誘発する物質として、細胞膜の構成成分である脂質の過酸化現象を引起して細胞膜の生体保護及び信号伝達体系を破壊し、DNAの酸化損傷、赤血球の破壊と共に、蛋白質過酸化現象により体内の各種酵素等の機能を落とす。これを通じて活性酸素種が老化は勿論、癌を初め脳卒中、パーキンソン病等の脳疾患と心臓疾患、虚血、動脈硬化、皮膚疾患、消化器疾患、炎症、リューマチ、自己免疫疾患等の各種疾病を引起すものと知られている。活性酸素種は特に、アルツハイマー疾患の主な原因として提起されている(Maccioni et al., Arch. Med. Res., 32:367-281, 2001)。従って、本発明の一実施例では本発明のリグナン系化合物が活性酸素種の生成を抑制するか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより誘発された、活性酸素種の生成を海馬由来の細胞株であるHT22細胞のみならず、培養された海馬ニューロンでも濃度依存的に抑制することを確認した(図7及び図8参照)。
【0035】
脂質過酸化は酸化的ストレスに伴う、脳の損傷を表す指標である(Sewerynek et al., Neuroscience Letter, 195:203-205, 1995)。過酸化水素は水と酸素とに分解されるものの、この過程でヒドロキシル(hydroxyl)フリーラジカルを生成する。前記フリーラジカルはDNA損傷、蛋白質酸化(protein carbonylation)、脂質過酸化を誘発する。従って、本発明の他の実施例では過酸化水素による脂質過酸化を本発明のリグナン系化合物が抑制するか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物が脂質過酸化を濃度依存的に抑制することを確認した(図9参照)。
【0036】
本発明のさらに他の実施例では本発明のリグナン系化合物自体が細胞毒性を表すか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物は10μMでも細胞毒性を表さないものと確認された(図10参照)。
【0037】
脳細胞の死滅の他の原因としては、興奮性神経伝達物質であるグルタメート及びこれの受容体を通じた細胞死滅がある(Olney, J. W., Int Rev. Neurobiol., 27:337-362, 1985)。従って、本発明の他の実施例では本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより、誘導される脳細胞の死滅を抑制するか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより、誘導される脳細胞の死滅を濃度依存的に抑制することを確認した(図11参照)。
【0038】
さらに、イブプロフェン(Ibuprofen)等の抗炎症剤(nonsteroidal anti-inflammatory drugs)がアルツハイマー疾患の進行を遅延させるとの疫学的証拠が報告されている(McGeer and McGeer, Exp. Gerontol., 33:371-378, 1998)。特に、アルツハイマー疾患を模倣したマウスから、イブプロフェンを投与した結果、病気の進行が遅れることが確認された(Lim et al, J. Neurosci., 20:5709-5714, 2000)。そこで、抗酸化活性のみならず抗炎症の活性を有する化合物が脳神経疾患治療/予防剤としての高い効能を有する。従って、本発明の他の実施例ではLPS(lipopolysaccharide)を、脳免疫細胞である小膠細胞に処理して本発明のリグナン系化合物の抗炎症活性を調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物がLPSにより誘導された多様な免疫媒介物質(IL-6、TNF-α、NO、iNOS及びCOX-2)の発現及び生成を有意的に減少させることが確認できた(図12乃至図15参照)。
【0039】
このように、本発明のリグナン系化合物は脂質過酸化及び活性酸素種の生成を抑制する抗酸化効果、グルタメートによる脳細胞のアポプトシスを抑制する脳細胞保護効果及び抗炎症効果が極めて優れている。従って、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物又は、その薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。さらに、本発明はミリスチカフラグランス抽出物を有効成分として含む、脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。前記ミリスチカフラグランス抽出物の製造は上述の通りである。
【0040】
この他にも本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物の有効量をこれらを必要とする個体に投与して脳神経疾患を治療又は予防する方法及び用途を提供する。
【0041】
さらに、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物、又はミリスチカフラグランス抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与して脳細胞死滅を抑制する方法及び用途を提供する。
【0042】
本発明の組成物は臨床投与の際、経口又は非経口で投与が可能であって、一般的な医薬品の製剤の形態で使用できる。一般的な医薬品の形態で製剤化する場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤等の希釈剤又は賦形剤を使用して調剤する。経口投与の為の固形製剤には錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等が含まれ、このような固形製剤は前記リグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロス又はラクトス、ゼラチン等を混合して調剤される。さらに、単純な賦形剤以外にマグネシウムスチレートタルクのような潤滑剤等も使用される。経口投与の為の液状製剤には、懸濁剤、耐溶液剤、乳剤、シロップ剤等が該当するものの、広く使用される単純希釈剤である水、リキッドパラピン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤等が含まれ得る。非経口投与の為の製剤には滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、軟膏剤、クリーム剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としてはプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステル等が使用できる。
【0043】
さらに、本発明の組成物は非経口で投与することができ、非経口投与は皮下注射、静脈注射、筋肉内注射又は胸部内注射注入方式による。非経口投与用剤形に製剤する為には、前記一般式Iのリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物を安定剤又は緩衝剤と共に水中で混合して、溶液又は懸濁液に製造し、これをアンプル又はバイアルの単位投与型に製剤する。投与単位は、例えば、個別投与量の1、2、3又は4倍に、又は1/2、1/3又は1/4倍を含み得る。個別投薬量は好ましくは、有効薬物が1回に投与される量を含み、これは通常1日投与量の全部、1/2、1/3又は1/4倍に該当する。
【0044】
本発明の一般式Iで表示されるリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物の有効容量は1回服用量が0.1-50mg/kgで、好ましくは、1-10mg/kgであり、1日1-3回投与できる。特定患者に対する投与容量水準は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、疾患の重症度等により変化する。
【0045】
本発明のリグナン系化合物をラットに経口投与の際、毒性実験を行った結果、経口毒性試験による50%致死量(LD50)は2,000mg/kg以上として表れた(結果未図示)。
【0046】
本発明の薬学的組成物が適用できる脳神経疾患は、脂質過酸化、活性酸素種及び/又はフリーラジカルによる酸化的ストレス;グルタメートによる興奮性毒性;及び/又はアポプトシスにより誘発される脳細胞の死滅又は退化が原因となる疾患を言う。前記脳神経疾患は痴呆、軽度認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病等の退行性脳神経疾患、脳卒中等の虚血性脳神経疾患及び癲癇等の痙攣性脳神経疾患を含む。具体的に前記脳神経疾患は、これに限定はされないものの、痴呆、パーキンソン病、脳卒中、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, ALS)、パーキンソン-ALS-痴呆複合症、ウィルソン病、進行性核上神経麻痺(progressive supranuclear palsy)、軽度認知障害及び癲癇の場合もあり得る。前記にて痴呆は老人性痴呆、アルツハイマー型痴呆、血管性痴呆、アルコール性痴呆、視床痴呆(thalamic dementia)を全て含む。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0048】
ただし、下記実施例は本発明を例示するものにして、本発明の内容がこれに限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
ミリスチカフラグランスからリグナン系化合物の分離及び精製
<1-1>リグナン系化合物の分離及び精製
乾燥粉砕したニクズク100g(乾燥重量)に75容量%メタノール400mlを加えて常温で2日間放置した。前記溶液をワットマン(Whatman)濾過紙の第2番を利用して濾過した。前記過程を2回繰返した。メタノール濾過液を真空濃縮して凍結乾燥し、ニクズクのメタノール粗抽出物(7g)を製造した。メタノール粗抽出物はエチルアセテート、ブタノール、水で順次分画してエチルアセテート分画物(4.2g)を得た。エチルアセテート分画物をシリカゲルコラムクロマトグラフィー(Merck Kieselgel 66; 70-230 mesh)を利用してヘキサンとエチルアセテートを10:1(v/v)の比率で混合した溶媒で溶出させ、分画物III(1.0g)を得た。真空回転濃縮器で溶媒を完全に除去してニクズクの粗抽出物を製造した。以降、分画物IIIをシリカゲルコラムクロマトグラフィー(Merck Kieselgel 66; 70-230 mesh)を利用して、ヘキサンとエチルアセテートを20:1(v/v)の比率で混合した溶媒で溶出させ、分画物III-B(0.52g)を得た。分画物III-BをRp-18コラムクロマトグラフィー(Merck LiChroprep;25-40μm)を利用して80%メタノールで溶出させ、単一物質分画III-B-2(0.5g)を得た。このような分離工程図を図1に示した。
【0050】
<1-2>構造分析
前記分離された単一物質III-B-2の構造を決定する為に、1H-NMRスペクトルと13C-NMRスペクトルをそれぞれ600MHzと150MHz(溶媒:DMSO)で測定した。その結果を図2と図3にそれぞれ示した。13C-NMRスペクトルと1H NMRスペクトルの結果を基に1H-1Hの相関関係と1H-13Cの相関関係を測定する為に、1H-1H COSYスペクトルと1H-13C HMBCスペクトルを測定した。その結果を図4と図5にそれぞれ示した。1H-NMR、13C-NMR、1H-1H COSY、1H-13C HMBCの結果を総合的に分析して表1に表した。
【表1】
【0051】
<1-3>質量分析
前記分離された単一物質III-B-2の質量分析の為、測定したEI/MSの結果を図6に示した。本化合物はEI/MSより[M]+がm/z 328より観測され、分子量が328に判明され、分子式はC20H2404であった。
【0052】
<1-4>比旋光度測定
前記分離された単一物質III-B-2 20mgをクロロホルム(CHCl3)2mlに溶解させ、自動偏光機(Automatic Polarimeter, APIII-589, Rodulph, NJ, USA)で比旋光度([α]D )値を測定した結果、[α]D =+4.0(CHCI3、C=1.0)で表れた。
【0053】
以上の1H-NMR、13C-NMR、1H-1H COSY、1H-13C HMBC、EI/MS及び[α]Dに対する測定結果と既に発表された研究報告(Woo, W.S. et al., Phytochemistry, 26: 1542-1543, 1987)を比較分析して同定した結果、分離された単一物質は下記化学式Iで表示されるメイスリグナン(macelignan)であることが確認された。
【化7】
【0054】
<実施例2>
活性酸素種の生成抑制効果
脳の記憶を担当する海馬由来の細胞株であるHT-22(デビッドシューベルト博士(Dr. David Schubert)より得た)に5mMグルタメート(glutamate)と、本発明のリグナン系化合物(5μM)を8時間かけて同時に処理した。対照群には本発明のリグナン系化合物を処理しなかった。以降、CM-H2DCFDA(chloromethyl derivative of dichlorodihydrofluorescein diacetate, Molecular Probes)で染色して活性酸素種の生成程度を調査した。その結果、図7に示した通り、本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより誘導された活性酸素種の生成を抑制した。さらに、本発明のリグナン系化合物は、グルタメートを処理しない対照群より細胞内自然的な活性酸素種の生成も有意的に抑制した。
【0055】
以降、本発明のリグナン系化合物が組織培養した海馬ニューロン(neuron)においても、同一な抗酸化効果を表すか否かを確認した。この為、妊娠18日目のマウスから取出した胎児の海馬をB-27 supplementと2mM L-グルタミンが添加された神経基礎培地(neurobasal media, Gibco BRL)で10日間培養した。組織培養された海馬ニューロンに1mM BSO(buthionine sulfoxide)を8時間かけて処理して酸化的ストレスを誘発させた。この際、本発明のリグナン系化合物を濃度別(0.1、0.5及び1μM)に一緒に処理して、前記化合物による活性酸素減少効果を調査した。対照群にはBSOを処理しなかった。以降、10μM DCFDA(Molecular probes)を利用して当業界に公知された方法(Jung, Y. S., Biochem Biophys Res Commun., 320(3):789-94, 2004)により、活性酸素量を測定した。その結果、図8に示した通り、本発明のリグナン系化合物は組織培養した海馬ニューロンでも活性酸素種の生成を対照群と類似した水準に抑制した。
【0056】
<実施例3>
脂質過酸化の抑制効果
ラットを麻酔させ、EDTAが含まれた0.9%食塩水でラットの組織を還流した。以降、脳を摘出してアイスコールド(ice-cold)20mM Tris-HCl(pH7.4)で洗浄した。水気を除去し、脳の重さを測定した。脳にアイスコールド20mM Tris-HCl(pH7.4)を0.1g/mlの容量で混合して均質化した。遠心分離して上澄液を収得した。前記上澄液400μlに過酸化水素40mMを添加して脂質過酸化を誘発した。同時に、前記実施例1で分離されたリグナン系化合物を濃度別(0.5、1、5及び10μM)にそれぞれ添加した。37℃の水で30-60分間培養後、162.5μlのR1溶液(lipid peroxidation Assay Kit, Cat. No. 437634, Calbiochem)と37.5μlのR2溶液(lipid peroxidation Assay Kit, Cat. No. 437634, Calbiochem)を添加して45℃で40分間さらに培養した。以降、培養液の吸光度を586nmで測定して脂質過酸化程度を数量化した。
【0057】
その結果、図9に示した通り、過酸化水素により誘発された脂質過酸化が本発明のリグナン系化合物により、濃度依存的に抑制されることを確認した。特に、本発明のリグナン系化合物を10μM投与した場合には、対照群(過酸化水素により脂質過酸化を誘発しない場合)と殆ど類似した水準に脂質過酸化を抑制した。
【0058】
<実施例4>
細胞毒性効果
本発明のメイスリグナン自体の細胞毒性効果を測定する為に、前記メイスリグナンを海馬由来の細胞株であるHT-22に各濃度別(1、5及び10μM)に24時間かけて処理した。その結果、図10に示した通り、本発明のメイスリグナンは10μMにおいても細胞毒性を誘発しないものとして表れた。
【0059】
<実施例5>
脳細胞のアポプトシスの抑制効果
海馬由来の細胞株であるHT-22に5mMグルタメイト(glutamate)を24時間かけて処理してアポプトシスを誘発した。対照群にはグルタメイトを処理しなかった。以降、本発明のリグナン系化合物を濃度別(1、2、5及び10μM)に24時間かけて処理した。WST-1(Roche)を利用して細胞死滅程度を観察した。その結果、図11に示した通り、本発明のリグナン系化合物がグルタメイトにより誘導された脳細胞のアポプトシスを濃度依存的に抑制することを確認した。
【0060】
<実施例6>
抗炎症効果
<6-1>伝染症性サイトカインの抑制効果
小膠細胞は中枢神経系では唯一に中胚葉から起源される細胞にして、脳組織に炎症反応がある場合には、多く増える(Streit, W. J. Prog. Neurobiol., 57:563-581, 1999)。小膠細胞がLPS等により活性化されると、IL-1、IL-6及びTNF-αのような種々の伝染症性サイトカイン等を合成及び分泌する(Chen, S. Neurobiol. Aging, 17:781-787, 1996)。従って、本発明のリグナン系化合物の抗炎症効果を確認する為に、本発明のリグナン系化合物が活性化された小膠細胞において、IL-6及びTNF-αの生成に及ぼす効果を調査した。先ず、生後1日目の鼠の脳から新皮質のみを分離した。以降、小膠細胞-星状膠細胞混合体を当業界に公知された方法(Kim, H. Y. et al., J. Immunol., 171:6072-6079, 2003)により製造した。前記小膠細胞-星状膠細胞混合体を10% FBSが含まれたMEM培地で、1head当たり4フラスコ(flask)比率で分けて75cm2フラスコで2週間培養した。培養された細胞の中で小膠細胞のみを切り離して5% FBSが含まれたMEM培地で24時間培養した。培養された小膠細胞を無血清培地で2回洗浄後、LPS(1μg/ml)と本発明のリグナン系化合物(2.5及び10μM)を24時間かけて一緒に処理した。以降、細胞培養液で分泌されたIL-6及びTNF-αの量を固体状ELISAシステム(solid-phase ELISA system, RPN2742 for IL-6, RPN2744 for TNF-α, Amersham Bioscience)を利用して測定した。この為、先ず、鼠IL-6及びTNF-α特異的抗体でコーティングされている96-ウェルプレートに、小膠細胞の培養上澄液及び各物質のstandard(純粋分離及び定量されたIL-6又はTNF-α)を50μlずつ添加した。常温で2時間反応させ、各ウェルを洗浄バッファー(Amersham Bioscience)で3回洗浄した。バイオチンが処理されたIL-6及びTNF-α特異的抗体を、100μMずつ添加して常温で1時間反応させた。各ウェルを再度洗浄バッファーで3回洗浄後、HPRが結合されたストレプトピジン溶液(Amersham Bioscience)100μlずつ添加して常温で30分間反応させた。各ウェルを洗浄バッファーで3回洗浄後、TMB-基質溶液(Amersham Bioscience)100μlずつを添加して暗条件の常温で30分間反応させた。以降、停止溶液(Amersham Bioscience)を100μlずつを添加して反応を終了させ、マイクロリーダ(microreader)を利用して450nmで吸光度を測定した。その結果、図12及び図13に示した通り、LPSにより誘導された伝染症性サイトカイン(IL-6及びTNF-α)の生成が、本発明のリグナン系化合物により濃度依存的に抑制された。特に、TNF-α生成に対する抑制効果がより大きいものと表れた。
【0061】
<6-2>LPSにより活性化された小膠細胞におけるNO生成抑制効果
小膠細胞が活性化されると、神経伝達及び免疫反応の媒体であるNOの発現が誘導される(Liu, B. et al., Ann. N. Y. Acad. Sci., 962:318-331, 2002)。従って、小膠細胞でNOの生成に対する本発明のリグナン系化合物の効果を調べてみた。先ず、生後1日目のマウスの脳から新皮質のみを分離した。以降、小膠細胞-星状膠細胞混合体を当業界に公知された方法(Kim, H. Y. et al., J. Immunol., 171:6072-6079, 2003)により製造した。前記小膠細胞-星状膠細胞混合体を10%FBSが含まれたMEM培地で、1head当たり4フラスコ(flask)比率で分けて75cm2フラスコで2週間培養した。培養された細胞の中で小膠細胞のみを切り離して5%FBSが含まれたMEM培地で24時間培養した。このように組織培養された小膠細胞を5%FBSが含まれたMEM培地で、1.5×104 cells/wellの濃度で接種して96-ウェルプレートで培養した。1日後 LPS(1μg/ml,Sigma)を処理して小膠細胞の活性化を誘導した。この際、本発明のリグナン系化合物(2.5及び10μM)をLPSと共に処理し、16時間又は24時間反応させた。以降、細胞培養液を採りNO生成量を測定した。NO生成量はグリエス試薬キット(Griess reagent kit, Molecular Probe)を用い、細胞培養液内でNOの安定した代謝産物である亜硝酸塩(nitrite)量を測定することにより確認した。測定方法は下記の通りである:細胞培養液を150μlずつ採り、グリエス試薬20μl及び水130μlと混合して、マイクロプレートで30分間常温反応させた。以降、マイクロプレートリーダを利用して548nmで吸光度を測定した。
【0062】
その結果、図14に示した通り、組織培養された小膠細胞でLPSにより、誘導されたNOの生成が本発明のリグナン系化合物により、濃度依存的に抑制されることが確認できた。特に、本発明のリグナン系化合物を10μMで処理した場合には、約90%程度の阻害率を呈した。
【0063】
<6-3>iNOS及びCOX-2の発現抑制効果
前記実施例<6-2>を通じて組織培養されたマウスの小膠細胞から、LPSにより誘導されたNOの生成が本発明のリグナン系化合物により、抑制されることを確認した。NOは小膠細胞が活性化されると、発現が誘導されるiNOS酵素により生成されるので、NO生成の減少がiNOS発現抑制と関連性があるか否かを調査した。さらに、炎症媒介物質の生成に関与するCOX-2蛋白質の変化量も含めて観察した。ウェスタンブロット分析の為、組織培養された小膠細胞を60mm細胞培養皿で7.5×105 cellの濃度で培養した。1日後LPS(1μg/ml、Sigma)を処理して小膠細胞の活性化を誘導した。この際、本発明のリグナン系化合物(2.5及び10μM)をLPSと共に処理し、16時間又は24時間反応させた。培養された細胞を冷たいPBSで2洗浄後、冷たい溶解バッファー(1% SDS, 1mM Na3VO4, 10mM NaF, 10mM Tris-Cl, pH7.4 containing 1 X protease inhibitors cocktail)を利用して細胞を溶解させた。細胞溶解物(lysate)を4℃、12,000gにおいて10分間遠心分離して上澄液を採った。以降、BCA方法により蛋白質の量を定量した。同一な量の蛋白質をSDS-PAGEを通じて分離し、PVDF膜に移した。各膜を3% BSA溶液でブロッキングし、TBS-T溶液(10mM Tris-Cl, pH7.5, 150mM NaCl containing 0.1% Tween 20)で3回洗浄した。以降、前記膜にiNOS(rabbit polyclonal Ab, Upstate, 06-573)及びCOX-2(rabbit polyclonal Ab, Santa Cruz Biotechnology, sc-7951)に特異的な1次抗体をそれぞれ添加して常温で1時間反応させた。前記膜をTBS-T溶液で3回洗浄後、HRPが結合された特異的2次抗体を添加して常温で1時間反応させた。さらに、前記膜をTBS-T溶液で3回洗浄後、ECLシステム(Sigma)を利用して各バンドを確認した。
【0064】
その結果、図15に示した通り、組織培養された小膠細胞においてLPSにより誘導されたiNOS及びCOX-2の発現が、本発明のリグナン系化合物により濃度依存的に減少されることを確認した。
【0065】
<実施例7>
脳への移行実験
本発明のリグナン系化合物が脳へ容易に移行するか否かを調査した。
【0066】
<7-1>本発明のメイスリグナンの処理及びサンプル収得
250gの雄SDラットの大腿静脈(femoral vein)と大腿動脈(femoral artery)にそれぞれPE50チューブを挿入し、それぞれに生理食塩水とヘパリン(25 I.U.)を含むシリンジを連結した。前記実施例1で分離及び精製されたメイスリグナンをDMSOに溶解させ、前記ラットに1mg/kgの量で静脈投与した。投与後時間別(30秒、1分、1分30秒及び2分)にそれぞれ動脈から血液400μlをそれぞれ採った。最終サンプリング完了後、ラットを即時断頭して脳組織を取り出し、生理食塩水で軽く洗浄した。
【0067】
<7-2>サンプル処理
a.血液サンプル処理
前記実施例<7-1>で準備された血液サンプルを3,000rpmで5分間遠心分離して血漿100μlを採った。前記血漿に500μlのエチルアセテートを添加して10分間撹拌グした。以降、3,000rpmで5分間遠心分離して上澄液400μlを採った。前記上澄液を窒素ストリーム(nitrogen stream)で蒸発乾燥させ、移動相100μlで再組成した。
【0068】
b.脳組織サンプル処理
前記実施例<7-1>で準備された脳組織サンプルの重さを測定し、脳組織の重さの2倍に該当する量のサリン(saline)を添加して均質化した。これを5分間撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離で得た上澄液1mlにエチルアセテート5mlを添加し、10分間ボルテキシングした。以降、3,000rpmで5分間遠心分離して上澄液を採った。前記上澄液4mlを窒素ストリーム(nitrogen stream)で蒸発乾燥させ、移動相100μlで再組成した。
【0069】
<7-3>標準検定
前記実施例1で分離したメイスリグナンをメタノールに溶解させた1mg/mlのストック溶液(stock solution)を段階的に希釈(serial dilution)した。ラットのブランク(blank)血漿90μl又はブランク脳均質液(homogenate)90μlに、前記メイスリグナン溶液10μlを添加して目的とする濃度の血漿サンプルと脳組織サンプルを製造した。以降、前記実施例<7-2>と同一な方法で各サンプルを処理した。移動相100μlに再組成したサンプルの中で10μlをLC/MSシステム(Agilent 1100 Series, Agilent Technologies, Santa Clara, USA)に注入した。LC/MS分析は3.0mm×150mm C18ルナコラム(Luna column; Phenomenex, Torrance, CA, USA)を利用してアセトニトリル(acetonitrile):メタノール(methanol):3次蒸留水(DDW)=40:40:20の移動相条件で行なった。
【0070】
その結果、図16に示した通り、メイスリグナンはESI negativeのSIM[327.0-328.0]で検出され、維持時間(retention time)は8.36分であった。前記クロマトグラフからメイスリグナンピークの面積を求めて、メイスリグナンの濃度と面積間に成立する1次式の標準曲線(standard curve)を作成した。
【0071】
<7-4>サンプルの分析
前記実施例<7-2>でサンプル処理を終えた血液サンプルと脳組織サンプルをLC/MSシステムに注入した後、前記実施例<7-3>と同一な方法でLC/MS分析を行ないクロマトグラフ上で、メイスリグナンピークの面積を求めた。前記面積を前記実施例<7-3>で作成された標準曲線を利用して濃度を求めた。
【0072】
<7-5>メイスリグナンの脳への移行計算
前記実施例<7-4>を通じて血液サンプルで求めたメイスリグナンの時間-濃度のグラフから、最終サンプリング時間であるtlastまでのAUCOt(Area Under Curve;AUC)を梯形状方法(trapezoidal method)(Schaum's Outline of Mathematica, MaGraw-Hill, 2000)により求めた。さらに、脳組織サンプルの濃度を利用し、メイスリグナンの量(Xb)を計算した。メイスリグナンのAUCは下記数式1で求められる。
【数1】
【0073】
前記数式1でCはメイスリグナンの濃度、Δtは時間の変化を示す。
【0074】
この時、脳に移行するメイスリグナンのクリアランス(brain uptake clearance; CLuptake)値は下記数式2で求められる。
【数2】
【0075】
前記数式2は次のような過程で誘導される。
【0076】
脳中のメイスリグナンの量の変化は下記数式3のように表し得る。
【数3】
【0077】
前記にてCLuptakeは脳に移行するメイスリグナンのクリアランス(brain uptake clearance)値、CLeffluxは血液に移行するメイスリグナンのクリアランス値、Cpは血液におけるメイスリグナンの濃度、Cbは脳組織におけるメイスリグナンの濃度である。
【0078】
前記数式3で、投与直後にはCbが0に近いと仮定すれば、下記数式4で表し得る。
【数4】
【0079】
両辺をt=0よりt=tまで積分すれば、下記数式5で表し得る。
【数5】
【0080】
これを計算すれば、下記数式6の通りである。
【数6】
【0081】
従って、脳に移行するメイスリグナンのクリアランスは前記数式2の通り表し得る。
【0082】
前記数式2を利用して、本発明のメイスリグナンの脳に移行するメイスリグナンのクリアランスを計算した結果、下記表2に示した通り、0.203±0.039mL/minとして本発明のメイスリグナンの脳への移行が比較的良好に表れた。
【表2】
【0083】
<製造例1>
本発明に伴う脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を含む薬剤の製造
<1-1>錠剤の製造
本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物25mgを賦形剤直打用ラクトース26mgと、アビセル(未結晶セルロース)3.5mg、崩解補助剤であるナトリウム澱粉グリコネート1.5mg、さらに、結合剤である直打用L-HPC(low-hydrosyprophylcellulose)8mgと共に、U型混合機に入れて20分間混合した。混合完了後、崩壊剤としてマグネシウムステアレート1mgを追加添加して3分間混合した。定量試験と含水量試験を経て打錠し、フィルムコーティングして錠剤を製造した。
【0084】
<1-2>シロップ剤の製造
本発明のメイスリグナン又はその薬学的に許容される塩を有効成分2%(w/v)で含むシロップは下記の方法で製造した:本発明のメイスリグナンの酸附加塩2g、サッカリン0.8g及び糖25.4gを温水80gに溶解させた。前記溶液を冷却させ、これにグリセリン8.0g、香味料0.04g、エタノール4.0g、ソルブ酸0.4g及び適量の蒸留水を混合した。前記混合物に水を添加して100mlになるようにした。
【0085】
<1-3>カプセル剤の製造
本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物50mg、乳糖50mg、澱粉46.5mg、タルク1mg及び適量のステアリン酸マグネシウムを混合し、これを硬質ゼラチンカプセルに充填することによりカプセル剤を製造した。
【0086】
<1-4>注射液剤の製造
有効成分10mgを含む注射液剤は次のような方法により製造した:本発明のメイスリグナンの塩酸塩1g、塩化ナトリウム0.6g及びアスコルビン酸0.1gを蒸留水に溶解させ、100mlを製造した。前記溶液を瓶に入れ、20℃で30分間加熱して滅菌させた。
【0087】
<適用例1>
パーキンソン病
パーキンスン病は老年層に多発する中枢神経系退行性脳疾患にして、振せん、筋肉強直、運動開始困難等の症状が現れ精神的には憂鬱症を伴う。パーキンスン病の原因は中脳黒色質ドパーミン性神経細胞の死滅が直接的な原因として知られている(Fahn S., Parkinsons disease in: Diseases of the nervous system, (ED) by A. Asbury, G. Mckhann, pp.1217-1238, Saunders, 1986)。パーキンスン病に伴う神経細胞の死滅に対する原因として、酸化ストレス、エネルギー代謝異常、ミトコンドリア遺伝子の突然変異、興奮性アミノ酸毒性等が報告されているものの、酸化的ストレスが最も重要な原因であるとの報告が多い(Fahn S. and Cohen, G., Ann. neurol. 32(6):804-812, 1992; Foley P. and Riederer P., J. Neurol., 247 [Sppl.2] II/82-II/94, 2000)。酸化的ストレスに対して脳細胞を保護し、アポプトシスによる脳細胞の死滅を抑制する活性を有する本発明の薬学的組成物はパーキンスン病を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0088】
<適用例2>
アルツハイマー性痴呆
アルツハイマー疾患は深刻な記憶障害と精神疾患を同伴する退行性神経疾患にして、発病率は10-15%/年程度である。アルツハイマー患者等の剖検所見を見れば、老人性斑(Senile Plaque)と神経繊維の多発性病変(Neurofibrillary tangle)を呈する。酸化的損傷は老人性斑誘発に関与し、老人性斑自体は炎症反応を引起す。イブプロフェンのような抗炎症剤がアルツハイマー疾患の進行を遅延させると言う疫学的証拠が報告された(McGeer and McGeer, Exp. Gerontol., 33:371-378, 1998)。アルツハイマー疾患を模倣したマウスにおいて、イブプロフェンの処理は病気の進行を遅延させた(Lim et al, J. Neurosci., 20:5709-5714, 2000)。従って、酸化的ストレスに対して脳細胞を保護し、抗炎症作用をする本発明の薬学的組成物はアルツハイマー性痴呆を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0089】
<適用例3>
脳卒中
脳卒中は脳に血液を供給している血管が塞がれたり、破裂することにより、その部分の脳が損傷されて表れる神経学的症状を言う。脳は数多くの機能を行っているものの、損傷された部分の脳はその機能ができないので、運動障害と記憶障害の症状を呈する。脳卒中は主に老年層において発生するものの、20代又は30代においても発生することもあって、過去10年間脳卒中の発生率は減っていない。脳卒中の発病原因としては過分泌されたグルタメイトがNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体を過興奮させることにより、細胞死滅を誘導する為のものと知られた。小膠細胞の活性はNMDA毒性に寄与する(Tikka and Koistinaho, J immunol., 166(12):7527-33, 2001)。さらに、酸化的ストレスも脳卒中の一つの原因である。従って、酸化的ストレスに対して脳細胞を保護し、抗炎症作用をする本発明の薬学的組成物は脳卒中を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0090】
<適用例4>
軽度認知障害
相当数の老人等は多少の記憶障害を呈するのみ、正常的な日常生活に深刻な難しさはない。このような段階を軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)と言い、軽度認知障害の診断を受けた老人が数年後に、アルツハイマー疾患のような退行性神経疾患に進行される確立は高い(10-15%/年)。このような軽度認知障害は正常的老化と初期アルツハイマー疾患間の転換段階(transitional stage)であり、退行性神経疾患の前駆症状(predromal)である。軽度認知障害患者等の剖検所見を見れば、アルツハイマー疾患の病理所見である老人性斑と神経繊維の多発性病変を呈する。酸化的損傷は老人性斑誘発に関与し、老人性斑自体は炎症反応を引起す。従って、酸化的ストレスに対し、脳細胞を保護して抗炎症作用をする本発明の薬学的組成物は軽度認知障害を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0091】
本出願は2005年3月31日付で出願された大韓民国特許出願第2005-0026963号を優先権とし、これを参考文献として含め得る。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上察した通り、本発明のリグナン系化合物は脳細胞死滅を誘発する多様な媒介因子及びその活性を抑制する効果がある。特に、脂質過酸化及び活性酸素種の生成を抑制する抗酸化効果、脳細胞のアポプトシスを抑制する脳細胞保護効果及び抗炎症効果が極めて優れている。従って、本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物は脳神経疾患の治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)からリグナン系化合物を分離する工程図。
【図2】図2は本発明のリグナン系化合物の13C-NMRスペクトル。
【図3】図3は本発明のリグナン系化合物の1H-NMRスペクトル。
【図4】図4は本発明のリグナン系化合物の1H-1H COSYスペクトル。
【図5】図5は本発明のリグナン系化合物の1H-13C HMBCスペクトル。
【図6】図6は本発明のリグナン系化合物のEI-Massスペクトル。
【図7】図7はHT-22細胞より本発明のリグナン系化合物がグルタメートによる活性酸素種の生成を抑制する効果を測定したグラフ。
【図8】図8は培養した海馬細胞から本発明のリグナン系化合物がBSOによる活性酸素種の生成を抑制する効果を測定したグラフ。
【図9】図9は過酸化水素により誘発された脳組織の脂質過酸化に対する本発明のリグナン系化合物の抑制効果を各濃度別に測定したグラフ。
【図10】図10は本発明のリグナン系化合物の細胞毒性効果を測定したグラフ。
【図11】図11はグルタメートにより誘導されたアポプトシスに対する本発明のリグナン系化合物の抑制効果を各濃度別に測定したグラフ。
【図12】図12は培養した脳の小膠細胞より本発明のリグナン系化合物のIL-6抑制効果を調査した結果。
【図13】図13は培養した脳の小膠細胞より本発明のリグナン系化合物のTNF-α抑制効果を調査した結果。
【図14】図14は培養した脳の小膠細胞より本発明のリグナン系化合物のNO抑制効果を調査した結果。
【図15】図15は培養した脳の小膠細胞よりLPSにより誘導されるiNOS及びCOX-2の発現に対する本発明のリグナン系化合物の抑制効果を調査した結果。
【0094】
A:ウェストンブロット分析結果、
B:iNOS及びCOX-2の発現にリグナン系化合物の抑制効果を数量化したグラフ。
【図16】図16は本発明のメイスリグナンを利用してLC/MS分析を行った結果。
【技術分野】
【0001】
本発明はリグナン系化合物の新規な用途に関わる、より具体的には本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物を有効成分として含む、脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物、これを利用した脳神経疾患の治療又は予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の寿命が延び、高齢化社会に進行しながら、脳卒中、痴呆、パーキンソン病等の脳神経疾患が増えつつある。前記脳神経疾患等は特定脳細胞の死滅又は退化が一時的又は長期間に亙り進行するのが特徴であるものの、一度死滅した脳細胞は再生ができない為、結局致命的な脳機能の損失に繋がる。特に、認知機能、感覚機能、運動機能、全身機能の進行性低下を伴う脳機能不全は、性格と行動の変化をもたらし、患者等が自ら自分の面倒が見られなくなる羽目に至る。このような脳細胞死滅の主要経路としては酸化的ストレスによる酸化的毒性、興奮的毒性、アポプトシス(apoptosis)等が提示されていて、それぞれは特異な信号伝達過程を通じて細胞死滅を誘発するようになる。
【0003】
具体的に、脳卒中、脳損傷、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病患者より脳細胞死滅の主な原因として活性酸素種(Reactive Oxygen Species)の蓄積後蛋白質、核酸、脂質の酸化的損傷が提示された。特に、フリーラジカル(free radicals)による酸化ストレスは、体内の各組織で生ずる細胞死滅の主な原因として報告されており、脳神経疾患で現れる細胞死滅の主なメカニズムの1つとしても提示されてきた(Schapira, A. H., Curr. Opin. Neurol., 9(4):260-264, 1996)。脳神経疾患で神経細胞の死滅にフリーラジカルが関与するとの証拠には、虚血後活性酸素種の生成増加及び抗酸化剤による虚血性神経細胞の死滅抑制効果(Flamm, E. S. et al., Stroke 9(5):445-447, 1978; Chan, P. H., J. Neurotrauma 9 Suppl. 2:S417-423, 1992);ハンチントン病の線条体よりFe2+の増加(Dexter, E. T. et al., Ann. Neutol., 32 Suppl:S94-100, 1992)、アルツハイマー疾患で現れるベータアミロイドによるフリーラジカルの生成(Richardson J. S. et al., Ann. N. Y. Acad. Sci., 777:362-367, 1996)、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, ALS)において、Cu/Zn SOD-1遺伝子における点突然変異(Rosen, D. R. et al., Nature, 362(6415):59-62, 1993)等がある。
【0004】
さらに、興奮性神経伝達物質であるグルタメートは、正常状態では神経伝達物質として作用するものの、種々の原因により過多分泌されると、神経細胞の死滅をもたらす。さらに、グルタメートの受容体であるNMDA、AMPA、カイナート受容体(kainate receptors)の過度活性は、脳卒中及び脳損傷による神経細胞死滅の主な原因として知られている(Choi D. W. Neuron, 1:623-634, 1988)。グルタメートによる神経毒性はALSで起こる神経細胞の死滅に関与するものとして明らかとなり、ALS患者において、グルタメート合成酵素の異常、グルタメート運搬蛋白質の異常、グルタメート受容体蛋白質の増加等がその証拠である(Rothstein, J. D. Clin. Neurosci., 3(6):348-359, 1995; Shaw, P. J. et al., J. Neurol., 244:Suppl 2 S3-14, 1997)。
【0005】
さらに、脳細胞死滅の他の原因としてアポプトシスが報告されているものの、アポプトシスは虚血(ischemia)、脳損傷、脊椎損傷、アルツハイマー性痴呆、パーキンソン病から現れる細胞死滅の主な形態である(Smale et al., Exp. Neurol., 133:225-230, 1995; Crow et al., Nat. Med., 3:73-76, 1997)。
【0006】
このような、多様な報告等が酸化的毒性、興奮的毒性及びアポプトシスによる脳細胞の死滅が多様な脳神経疾患の主な原因として作用することを呈しており、これらより脳神経疾患の治療剤を開発するにおいて、酸化的毒性及び興奮的毒性抑制及び/又は脳細胞のアポプトシスを抑制することが主な目標点となっている。
【0007】
一方、リグナン(lignan)はn−フェニルプロパンがn−プロピル側鎖のβ座で結合した天然化合物を総称したものにして、自然界に広く分布する。血糖降下作用、抗癌作用、抗喘息作用、美白作用等のリグナンの多様な生理学的活性に対して研究された。例えば、胡麻から分離されたリグナンであるセサミン(sesamin)、エピセサミン(episesamin)、セサミノール(sesaminol)、セサモリン(sesamolin)及びエピセサミノール(episesaminol)が抗炎症効果のあることが報告されており(大韓民国公開特許公報第1997-7001043号)、辛夷(Magnoliae flos)から分離されたリグナン系化合物は抗喘息効能剤として用いられることが開示された(大韓民国登録特許第0263439号)。さらに、メイスリグナン(macelignan)はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)より発見される代表的なリグナン系化合物にして(Tuchinda P. et al., Phytochemistry, 59: 169-173, 2002)、アポプトシス(apoptosis)を誘導するカスパーゼ(caspase)-3増進作用(Park B.Y. et al., Biol. Pharm. Bull., 27(8): 1305-1307,2004)、抗菌活性等が報告された。しかしながら、前記メイスリグナンを初め、リグナン系化合物の脳神経疾患治療剤としての用途に対しては今まで全く報告されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここに、本発明者等は脳神経疾患の治療剤として、使用し得る天然物由来の化合物を見出だす為に長期間探索した結果、ミリスチカフラグランス抽出物から分離及び精製されたリグナン系化合物が脳神経疾患の治療又は予防に卓越な効果を有することを究明することにより、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的はミリスチカフラグランス抽出物又はこれより分離及び精製されたリグナン系化合物の新規な用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記のような目的を達成する為に、本発明は下記一般式Iで表示されるリグナン系化合物、又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【化1】
【0011】
前記にて、R1及びR2は、独立して、C1-5のアルコキシ又はヒドロキシグループであり、R3は、
【化2】
【0012】
さらに、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与して脳神経疾患を治療又は予防する方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は脳神経疾患の治療剤を製造する為の前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の用途を提供する。
【0015】
さらに、本発明は脳細胞死滅抑制剤を製造する為の前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物の用途を提供する。
【0016】
さらに、本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物を、有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【0017】
さらに、本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を、水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与して脳神経疾患を治療又は予防する方法を提供する。
【0018】
さらに、本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を、水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は脳神経疾患治療剤を製造する為のミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途を提供する。
【0020】
さらに、脳細胞死滅抑制剤を製造する為のミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途を提供する。
【0021】
本発明で‘有効量’とは、本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)抽出物が投与対象である個体内で、脳細胞死滅を抑制する効果及び脳神経疾患を治療又は/及び予防する効果を示す量を言う。
【0022】
さらに、本発明において、‘個体(subject)’とは、哺乳動物、特に人間を含む動物を意味する。前記個体は治療を要する患者の場合もあり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)抽出物及びそれより分離及び精製されたリグナン系化合物の新規な用途を提供することにその特徴がある。
【0025】
本発明に伴うリグナン系化合物は下記一般式Iで表示される。
【化3】
【0026】
前記にて、R1及びR2は、独立して、C1-5のアルコキシ又はヒドロキシグループであり、R3は、
【化4】
【0027】
本発明の好ましいリグナン系化合物は前記一般式Iで、R1がメトキシグループ、R2はヒドロキシグループ、R3が
【化5】
【0028】
である下記化学式Iのメイスリグナン[(8R, 8'S)-7-(3,4-methylenedioxyphenyl)-7'-(4-hydroxy-3-methoxyphenyl)-8, 8'-dimeth ylbutane]]でもあり得る。
【化6】
【0029】
本発明に伴うリグナン系化合物は塩、好ましくは、薬学的に許容可能な塩の形態で用いられる。前記塩には薬学的に許容可能な遊離酸(free acid)により、形成された酸付加塩が好ましい。前記遊離酸には有機酸と無機酸が使用できる。前記有機酸はこれに制限されるものではないものの、クエン酸、酢酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、ホルム酸、プロピオン酸、蓚酸、トリフルオロ醋酸、ベンゾ酸、グルコン酸、メタスルホン酸、グリコール酸、スクシン酸、4-トルエンスルホン酸、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含む。さらに、前記無機酸はこれに制限されるものではないものの、塩酸、ブロム酸、硫酸及びリン酸を含む。
【0030】
本発明のリグナン系化合物は、従来の物質を抽出し、分離する方法を利用して植物又は植物の一部から収得できる。幹、根又は葉は目的とする抽出物を獲得する為に、適宜脱水して浸軟(macerated)するか又は単に脱水して、目的とする抽出物は本発明が属する技術分野の当業者に公知された精製方法を利用して精製される。さらに、前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物に相応する合成化合物、又はこれらの誘導体は一般的に購買可能な物質であるか、又は公知の合成方法を利用して化学的に製造できる。
【0031】
前記一般式Iで表示される本発明のリグナン系化合物はミリスチカフラグランス(Myristica fragnance Houtt.)から分離及び精製できる(Jung Yun Lee et al., Kor. J. Pharmacogn. 21(4):270-273, 1990)。好ましくは、ニクズク(nutmeg)や仮種皮(aril)から分離及び精製できる。前記ニクズクはミリスチカフラグランスの成熟した果実又は果実の中にある種子を言う。さらに、本発明のリグナン系化合物はニクズクを圧搾して得たオイルから分離及び精製できる。さらに、他のニクズク科植物であるミリスチカアルゼンチアワルブ(Myristica argentea Warb)等においても分離及び精製できる(Filleur, F. et al., Natural Product Letters, 16: 1-7, 2002)。さらに、朴の木(Machilus thunbergii)(Park B.Y. et al., Biol. Pharm. Bull., 27(8): 1305-1307,2004)、レウカスアスペラ(Leucas aspera)でも分離及び精製できる(Sadhu, S.K. et al., Chem. Pharm. Bull., 51(9): 595-598, 2003)。
【0032】
本発明のリグナン系化合物の分離の為の、抽出溶媒としては水又はC1-C6の有機溶媒が使用できる。好ましくは、精製水、メタノール(methanol)、エタノール(ethanol)、プロパノール(propanol)、イソプロパノール(isopropanol)、ブタノール(butanol)、アセトン(acetone)、エーテル(ether)、ベンゼン(benzene)、クロロホルム(chloroform)、エチルアセテート(ethyl acetate)、メチレンクロライド(methylene chloride)、ヘキサン(hexane)、シクロヘキサン(cyclohexane)、石油エーテル(petroleum ether)等の各種溶媒を単独或いは混合して使用できる。より好ましくは、メタノール又はヘキサンが使用できる。ミリスチカフラグランス抽出物から本発明のリグナン系化合物の分離及び精製はシリカゲル(silica gel)又は活性アルミナ(alumina)等の各種合成樹脂を充填したコラムクロマトグラフィー(column chromatography)及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を単独或いは併行して使用できる。しかしながら、有効成分の抽出及び分離精製方法は、必ずしも前記の方法に限定されるものではない。
【0033】
このように、本発明のリグナン系化合物は純粋に分離及び精製された化合物の形態で使用することができ、さらに、これを含む抽出物の形態でも使用できる。例えば、前記記載のようなミリスチカフラグランスの種子、果実又は仮種皮抽出物か、又はミリスチカフラグランスの種子を圧搾して得たオイルの形態で使用できる。前記抽出物は上述の通り、ミリスチカフラグランスを水又はC1-C6の有機溶媒で抽出して得られる。好ましくは、ミリスチカフラグランスの種子、つまりニクズク抽出物でもあり得る。
【0034】
活性酸素種は体内で酸化的毒性を誘発する物質として、細胞膜の構成成分である脂質の過酸化現象を引起して細胞膜の生体保護及び信号伝達体系を破壊し、DNAの酸化損傷、赤血球の破壊と共に、蛋白質過酸化現象により体内の各種酵素等の機能を落とす。これを通じて活性酸素種が老化は勿論、癌を初め脳卒中、パーキンソン病等の脳疾患と心臓疾患、虚血、動脈硬化、皮膚疾患、消化器疾患、炎症、リューマチ、自己免疫疾患等の各種疾病を引起すものと知られている。活性酸素種は特に、アルツハイマー疾患の主な原因として提起されている(Maccioni et al., Arch. Med. Res., 32:367-281, 2001)。従って、本発明の一実施例では本発明のリグナン系化合物が活性酸素種の生成を抑制するか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより誘発された、活性酸素種の生成を海馬由来の細胞株であるHT22細胞のみならず、培養された海馬ニューロンでも濃度依存的に抑制することを確認した(図7及び図8参照)。
【0035】
脂質過酸化は酸化的ストレスに伴う、脳の損傷を表す指標である(Sewerynek et al., Neuroscience Letter, 195:203-205, 1995)。過酸化水素は水と酸素とに分解されるものの、この過程でヒドロキシル(hydroxyl)フリーラジカルを生成する。前記フリーラジカルはDNA損傷、蛋白質酸化(protein carbonylation)、脂質過酸化を誘発する。従って、本発明の他の実施例では過酸化水素による脂質過酸化を本発明のリグナン系化合物が抑制するか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物が脂質過酸化を濃度依存的に抑制することを確認した(図9参照)。
【0036】
本発明のさらに他の実施例では本発明のリグナン系化合物自体が細胞毒性を表すか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物は10μMでも細胞毒性を表さないものと確認された(図10参照)。
【0037】
脳細胞の死滅の他の原因としては、興奮性神経伝達物質であるグルタメート及びこれの受容体を通じた細胞死滅がある(Olney, J. W., Int Rev. Neurobiol., 27:337-362, 1985)。従って、本発明の他の実施例では本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより、誘導される脳細胞の死滅を抑制するか否かを調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより、誘導される脳細胞の死滅を濃度依存的に抑制することを確認した(図11参照)。
【0038】
さらに、イブプロフェン(Ibuprofen)等の抗炎症剤(nonsteroidal anti-inflammatory drugs)がアルツハイマー疾患の進行を遅延させるとの疫学的証拠が報告されている(McGeer and McGeer, Exp. Gerontol., 33:371-378, 1998)。特に、アルツハイマー疾患を模倣したマウスから、イブプロフェンを投与した結果、病気の進行が遅れることが確認された(Lim et al, J. Neurosci., 20:5709-5714, 2000)。そこで、抗酸化活性のみならず抗炎症の活性を有する化合物が脳神経疾患治療/予防剤としての高い効能を有する。従って、本発明の他の実施例ではLPS(lipopolysaccharide)を、脳免疫細胞である小膠細胞に処理して本発明のリグナン系化合物の抗炎症活性を調査した。その結果、本発明のリグナン系化合物がLPSにより誘導された多様な免疫媒介物質(IL-6、TNF-α、NO、iNOS及びCOX-2)の発現及び生成を有意的に減少させることが確認できた(図12乃至図15参照)。
【0039】
このように、本発明のリグナン系化合物は脂質過酸化及び活性酸素種の生成を抑制する抗酸化効果、グルタメートによる脳細胞のアポプトシスを抑制する脳細胞保護効果及び抗炎症効果が極めて優れている。従って、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物又は、その薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。さらに、本発明はミリスチカフラグランス抽出物を有効成分として含む、脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。前記ミリスチカフラグランス抽出物の製造は上述の通りである。
【0040】
この他にも本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物の有効量をこれらを必要とする個体に投与して脳神経疾患を治療又は予防する方法及び用途を提供する。
【0041】
さらに、本発明は前記一般式Iで表示されるリグナン系化合物、又はミリスチカフラグランス抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与して脳細胞死滅を抑制する方法及び用途を提供する。
【0042】
本発明の組成物は臨床投与の際、経口又は非経口で投与が可能であって、一般的な医薬品の製剤の形態で使用できる。一般的な医薬品の形態で製剤化する場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤等の希釈剤又は賦形剤を使用して調剤する。経口投与の為の固形製剤には錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等が含まれ、このような固形製剤は前記リグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物に少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロス又はラクトス、ゼラチン等を混合して調剤される。さらに、単純な賦形剤以外にマグネシウムスチレートタルクのような潤滑剤等も使用される。経口投与の為の液状製剤には、懸濁剤、耐溶液剤、乳剤、シロップ剤等が該当するものの、広く使用される単純希釈剤である水、リキッドパラピン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤等が含まれ得る。非経口投与の為の製剤には滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、軟膏剤、クリーム剤が含まれる。非水性溶剤、懸濁剤としてはプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステル等が使用できる。
【0043】
さらに、本発明の組成物は非経口で投与することができ、非経口投与は皮下注射、静脈注射、筋肉内注射又は胸部内注射注入方式による。非経口投与用剤形に製剤する為には、前記一般式Iのリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物を安定剤又は緩衝剤と共に水中で混合して、溶液又は懸濁液に製造し、これをアンプル又はバイアルの単位投与型に製剤する。投与単位は、例えば、個別投与量の1、2、3又は4倍に、又は1/2、1/3又は1/4倍を含み得る。個別投薬量は好ましくは、有効薬物が1回に投与される量を含み、これは通常1日投与量の全部、1/2、1/3又は1/4倍に該当する。
【0044】
本発明の一般式Iで表示されるリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物の有効容量は1回服用量が0.1-50mg/kgで、好ましくは、1-10mg/kgであり、1日1-3回投与できる。特定患者に対する投与容量水準は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率、疾患の重症度等により変化する。
【0045】
本発明のリグナン系化合物をラットに経口投与の際、毒性実験を行った結果、経口毒性試験による50%致死量(LD50)は2,000mg/kg以上として表れた(結果未図示)。
【0046】
本発明の薬学的組成物が適用できる脳神経疾患は、脂質過酸化、活性酸素種及び/又はフリーラジカルによる酸化的ストレス;グルタメートによる興奮性毒性;及び/又はアポプトシスにより誘発される脳細胞の死滅又は退化が原因となる疾患を言う。前記脳神経疾患は痴呆、軽度認知障害、パーキンソン病、ハンチントン病等の退行性脳神経疾患、脳卒中等の虚血性脳神経疾患及び癲癇等の痙攣性脳神経疾患を含む。具体的に前記脳神経疾患は、これに限定はされないものの、痴呆、パーキンソン病、脳卒中、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis, ALS)、パーキンソン-ALS-痴呆複合症、ウィルソン病、進行性核上神経麻痺(progressive supranuclear palsy)、軽度認知障害及び癲癇の場合もあり得る。前記にて痴呆は老人性痴呆、アルツハイマー型痴呆、血管性痴呆、アルコール性痴呆、視床痴呆(thalamic dementia)を全て含む。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0048】
ただし、下記実施例は本発明を例示するものにして、本発明の内容がこれに限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
ミリスチカフラグランスからリグナン系化合物の分離及び精製
<1-1>リグナン系化合物の分離及び精製
乾燥粉砕したニクズク100g(乾燥重量)に75容量%メタノール400mlを加えて常温で2日間放置した。前記溶液をワットマン(Whatman)濾過紙の第2番を利用して濾過した。前記過程を2回繰返した。メタノール濾過液を真空濃縮して凍結乾燥し、ニクズクのメタノール粗抽出物(7g)を製造した。メタノール粗抽出物はエチルアセテート、ブタノール、水で順次分画してエチルアセテート分画物(4.2g)を得た。エチルアセテート分画物をシリカゲルコラムクロマトグラフィー(Merck Kieselgel 66; 70-230 mesh)を利用してヘキサンとエチルアセテートを10:1(v/v)の比率で混合した溶媒で溶出させ、分画物III(1.0g)を得た。真空回転濃縮器で溶媒を完全に除去してニクズクの粗抽出物を製造した。以降、分画物IIIをシリカゲルコラムクロマトグラフィー(Merck Kieselgel 66; 70-230 mesh)を利用して、ヘキサンとエチルアセテートを20:1(v/v)の比率で混合した溶媒で溶出させ、分画物III-B(0.52g)を得た。分画物III-BをRp-18コラムクロマトグラフィー(Merck LiChroprep;25-40μm)を利用して80%メタノールで溶出させ、単一物質分画III-B-2(0.5g)を得た。このような分離工程図を図1に示した。
【0050】
<1-2>構造分析
前記分離された単一物質III-B-2の構造を決定する為に、1H-NMRスペクトルと13C-NMRスペクトルをそれぞれ600MHzと150MHz(溶媒:DMSO)で測定した。その結果を図2と図3にそれぞれ示した。13C-NMRスペクトルと1H NMRスペクトルの結果を基に1H-1Hの相関関係と1H-13Cの相関関係を測定する為に、1H-1H COSYスペクトルと1H-13C HMBCスペクトルを測定した。その結果を図4と図5にそれぞれ示した。1H-NMR、13C-NMR、1H-1H COSY、1H-13C HMBCの結果を総合的に分析して表1に表した。
【表1】
【0051】
<1-3>質量分析
前記分離された単一物質III-B-2の質量分析の為、測定したEI/MSの結果を図6に示した。本化合物はEI/MSより[M]+がm/z 328より観測され、分子量が328に判明され、分子式はC20H2404であった。
【0052】
<1-4>比旋光度測定
前記分離された単一物質III-B-2 20mgをクロロホルム(CHCl3)2mlに溶解させ、自動偏光機(Automatic Polarimeter, APIII-589, Rodulph, NJ, USA)で比旋光度([α]D )値を測定した結果、[α]D =+4.0(CHCI3、C=1.0)で表れた。
【0053】
以上の1H-NMR、13C-NMR、1H-1H COSY、1H-13C HMBC、EI/MS及び[α]Dに対する測定結果と既に発表された研究報告(Woo, W.S. et al., Phytochemistry, 26: 1542-1543, 1987)を比較分析して同定した結果、分離された単一物質は下記化学式Iで表示されるメイスリグナン(macelignan)であることが確認された。
【化7】
【0054】
<実施例2>
活性酸素種の生成抑制効果
脳の記憶を担当する海馬由来の細胞株であるHT-22(デビッドシューベルト博士(Dr. David Schubert)より得た)に5mMグルタメート(glutamate)と、本発明のリグナン系化合物(5μM)を8時間かけて同時に処理した。対照群には本発明のリグナン系化合物を処理しなかった。以降、CM-H2DCFDA(chloromethyl derivative of dichlorodihydrofluorescein diacetate, Molecular Probes)で染色して活性酸素種の生成程度を調査した。その結果、図7に示した通り、本発明のリグナン系化合物がグルタメートにより誘導された活性酸素種の生成を抑制した。さらに、本発明のリグナン系化合物は、グルタメートを処理しない対照群より細胞内自然的な活性酸素種の生成も有意的に抑制した。
【0055】
以降、本発明のリグナン系化合物が組織培養した海馬ニューロン(neuron)においても、同一な抗酸化効果を表すか否かを確認した。この為、妊娠18日目のマウスから取出した胎児の海馬をB-27 supplementと2mM L-グルタミンが添加された神経基礎培地(neurobasal media, Gibco BRL)で10日間培養した。組織培養された海馬ニューロンに1mM BSO(buthionine sulfoxide)を8時間かけて処理して酸化的ストレスを誘発させた。この際、本発明のリグナン系化合物を濃度別(0.1、0.5及び1μM)に一緒に処理して、前記化合物による活性酸素減少効果を調査した。対照群にはBSOを処理しなかった。以降、10μM DCFDA(Molecular probes)を利用して当業界に公知された方法(Jung, Y. S., Biochem Biophys Res Commun., 320(3):789-94, 2004)により、活性酸素量を測定した。その結果、図8に示した通り、本発明のリグナン系化合物は組織培養した海馬ニューロンでも活性酸素種の生成を対照群と類似した水準に抑制した。
【0056】
<実施例3>
脂質過酸化の抑制効果
ラットを麻酔させ、EDTAが含まれた0.9%食塩水でラットの組織を還流した。以降、脳を摘出してアイスコールド(ice-cold)20mM Tris-HCl(pH7.4)で洗浄した。水気を除去し、脳の重さを測定した。脳にアイスコールド20mM Tris-HCl(pH7.4)を0.1g/mlの容量で混合して均質化した。遠心分離して上澄液を収得した。前記上澄液400μlに過酸化水素40mMを添加して脂質過酸化を誘発した。同時に、前記実施例1で分離されたリグナン系化合物を濃度別(0.5、1、5及び10μM)にそれぞれ添加した。37℃の水で30-60分間培養後、162.5μlのR1溶液(lipid peroxidation Assay Kit, Cat. No. 437634, Calbiochem)と37.5μlのR2溶液(lipid peroxidation Assay Kit, Cat. No. 437634, Calbiochem)を添加して45℃で40分間さらに培養した。以降、培養液の吸光度を586nmで測定して脂質過酸化程度を数量化した。
【0057】
その結果、図9に示した通り、過酸化水素により誘発された脂質過酸化が本発明のリグナン系化合物により、濃度依存的に抑制されることを確認した。特に、本発明のリグナン系化合物を10μM投与した場合には、対照群(過酸化水素により脂質過酸化を誘発しない場合)と殆ど類似した水準に脂質過酸化を抑制した。
【0058】
<実施例4>
細胞毒性効果
本発明のメイスリグナン自体の細胞毒性効果を測定する為に、前記メイスリグナンを海馬由来の細胞株であるHT-22に各濃度別(1、5及び10μM)に24時間かけて処理した。その結果、図10に示した通り、本発明のメイスリグナンは10μMにおいても細胞毒性を誘発しないものとして表れた。
【0059】
<実施例5>
脳細胞のアポプトシスの抑制効果
海馬由来の細胞株であるHT-22に5mMグルタメイト(glutamate)を24時間かけて処理してアポプトシスを誘発した。対照群にはグルタメイトを処理しなかった。以降、本発明のリグナン系化合物を濃度別(1、2、5及び10μM)に24時間かけて処理した。WST-1(Roche)を利用して細胞死滅程度を観察した。その結果、図11に示した通り、本発明のリグナン系化合物がグルタメイトにより誘導された脳細胞のアポプトシスを濃度依存的に抑制することを確認した。
【0060】
<実施例6>
抗炎症効果
<6-1>伝染症性サイトカインの抑制効果
小膠細胞は中枢神経系では唯一に中胚葉から起源される細胞にして、脳組織に炎症反応がある場合には、多く増える(Streit, W. J. Prog. Neurobiol., 57:563-581, 1999)。小膠細胞がLPS等により活性化されると、IL-1、IL-6及びTNF-αのような種々の伝染症性サイトカイン等を合成及び分泌する(Chen, S. Neurobiol. Aging, 17:781-787, 1996)。従って、本発明のリグナン系化合物の抗炎症効果を確認する為に、本発明のリグナン系化合物が活性化された小膠細胞において、IL-6及びTNF-αの生成に及ぼす効果を調査した。先ず、生後1日目の鼠の脳から新皮質のみを分離した。以降、小膠細胞-星状膠細胞混合体を当業界に公知された方法(Kim, H. Y. et al., J. Immunol., 171:6072-6079, 2003)により製造した。前記小膠細胞-星状膠細胞混合体を10% FBSが含まれたMEM培地で、1head当たり4フラスコ(flask)比率で分けて75cm2フラスコで2週間培養した。培養された細胞の中で小膠細胞のみを切り離して5% FBSが含まれたMEM培地で24時間培養した。培養された小膠細胞を無血清培地で2回洗浄後、LPS(1μg/ml)と本発明のリグナン系化合物(2.5及び10μM)を24時間かけて一緒に処理した。以降、細胞培養液で分泌されたIL-6及びTNF-αの量を固体状ELISAシステム(solid-phase ELISA system, RPN2742 for IL-6, RPN2744 for TNF-α, Amersham Bioscience)を利用して測定した。この為、先ず、鼠IL-6及びTNF-α特異的抗体でコーティングされている96-ウェルプレートに、小膠細胞の培養上澄液及び各物質のstandard(純粋分離及び定量されたIL-6又はTNF-α)を50μlずつ添加した。常温で2時間反応させ、各ウェルを洗浄バッファー(Amersham Bioscience)で3回洗浄した。バイオチンが処理されたIL-6及びTNF-α特異的抗体を、100μMずつ添加して常温で1時間反応させた。各ウェルを再度洗浄バッファーで3回洗浄後、HPRが結合されたストレプトピジン溶液(Amersham Bioscience)100μlずつ添加して常温で30分間反応させた。各ウェルを洗浄バッファーで3回洗浄後、TMB-基質溶液(Amersham Bioscience)100μlずつを添加して暗条件の常温で30分間反応させた。以降、停止溶液(Amersham Bioscience)を100μlずつを添加して反応を終了させ、マイクロリーダ(microreader)を利用して450nmで吸光度を測定した。その結果、図12及び図13に示した通り、LPSにより誘導された伝染症性サイトカイン(IL-6及びTNF-α)の生成が、本発明のリグナン系化合物により濃度依存的に抑制された。特に、TNF-α生成に対する抑制効果がより大きいものと表れた。
【0061】
<6-2>LPSにより活性化された小膠細胞におけるNO生成抑制効果
小膠細胞が活性化されると、神経伝達及び免疫反応の媒体であるNOの発現が誘導される(Liu, B. et al., Ann. N. Y. Acad. Sci., 962:318-331, 2002)。従って、小膠細胞でNOの生成に対する本発明のリグナン系化合物の効果を調べてみた。先ず、生後1日目のマウスの脳から新皮質のみを分離した。以降、小膠細胞-星状膠細胞混合体を当業界に公知された方法(Kim, H. Y. et al., J. Immunol., 171:6072-6079, 2003)により製造した。前記小膠細胞-星状膠細胞混合体を10%FBSが含まれたMEM培地で、1head当たり4フラスコ(flask)比率で分けて75cm2フラスコで2週間培養した。培養された細胞の中で小膠細胞のみを切り離して5%FBSが含まれたMEM培地で24時間培養した。このように組織培養された小膠細胞を5%FBSが含まれたMEM培地で、1.5×104 cells/wellの濃度で接種して96-ウェルプレートで培養した。1日後 LPS(1μg/ml,Sigma)を処理して小膠細胞の活性化を誘導した。この際、本発明のリグナン系化合物(2.5及び10μM)をLPSと共に処理し、16時間又は24時間反応させた。以降、細胞培養液を採りNO生成量を測定した。NO生成量はグリエス試薬キット(Griess reagent kit, Molecular Probe)を用い、細胞培養液内でNOの安定した代謝産物である亜硝酸塩(nitrite)量を測定することにより確認した。測定方法は下記の通りである:細胞培養液を150μlずつ採り、グリエス試薬20μl及び水130μlと混合して、マイクロプレートで30分間常温反応させた。以降、マイクロプレートリーダを利用して548nmで吸光度を測定した。
【0062】
その結果、図14に示した通り、組織培養された小膠細胞でLPSにより、誘導されたNOの生成が本発明のリグナン系化合物により、濃度依存的に抑制されることが確認できた。特に、本発明のリグナン系化合物を10μMで処理した場合には、約90%程度の阻害率を呈した。
【0063】
<6-3>iNOS及びCOX-2の発現抑制効果
前記実施例<6-2>を通じて組織培養されたマウスの小膠細胞から、LPSにより誘導されたNOの生成が本発明のリグナン系化合物により、抑制されることを確認した。NOは小膠細胞が活性化されると、発現が誘導されるiNOS酵素により生成されるので、NO生成の減少がiNOS発現抑制と関連性があるか否かを調査した。さらに、炎症媒介物質の生成に関与するCOX-2蛋白質の変化量も含めて観察した。ウェスタンブロット分析の為、組織培養された小膠細胞を60mm細胞培養皿で7.5×105 cellの濃度で培養した。1日後LPS(1μg/ml、Sigma)を処理して小膠細胞の活性化を誘導した。この際、本発明のリグナン系化合物(2.5及び10μM)をLPSと共に処理し、16時間又は24時間反応させた。培養された細胞を冷たいPBSで2洗浄後、冷たい溶解バッファー(1% SDS, 1mM Na3VO4, 10mM NaF, 10mM Tris-Cl, pH7.4 containing 1 X protease inhibitors cocktail)を利用して細胞を溶解させた。細胞溶解物(lysate)を4℃、12,000gにおいて10分間遠心分離して上澄液を採った。以降、BCA方法により蛋白質の量を定量した。同一な量の蛋白質をSDS-PAGEを通じて分離し、PVDF膜に移した。各膜を3% BSA溶液でブロッキングし、TBS-T溶液(10mM Tris-Cl, pH7.5, 150mM NaCl containing 0.1% Tween 20)で3回洗浄した。以降、前記膜にiNOS(rabbit polyclonal Ab, Upstate, 06-573)及びCOX-2(rabbit polyclonal Ab, Santa Cruz Biotechnology, sc-7951)に特異的な1次抗体をそれぞれ添加して常温で1時間反応させた。前記膜をTBS-T溶液で3回洗浄後、HRPが結合された特異的2次抗体を添加して常温で1時間反応させた。さらに、前記膜をTBS-T溶液で3回洗浄後、ECLシステム(Sigma)を利用して各バンドを確認した。
【0064】
その結果、図15に示した通り、組織培養された小膠細胞においてLPSにより誘導されたiNOS及びCOX-2の発現が、本発明のリグナン系化合物により濃度依存的に減少されることを確認した。
【0065】
<実施例7>
脳への移行実験
本発明のリグナン系化合物が脳へ容易に移行するか否かを調査した。
【0066】
<7-1>本発明のメイスリグナンの処理及びサンプル収得
250gの雄SDラットの大腿静脈(femoral vein)と大腿動脈(femoral artery)にそれぞれPE50チューブを挿入し、それぞれに生理食塩水とヘパリン(25 I.U.)を含むシリンジを連結した。前記実施例1で分離及び精製されたメイスリグナンをDMSOに溶解させ、前記ラットに1mg/kgの量で静脈投与した。投与後時間別(30秒、1分、1分30秒及び2分)にそれぞれ動脈から血液400μlをそれぞれ採った。最終サンプリング完了後、ラットを即時断頭して脳組織を取り出し、生理食塩水で軽く洗浄した。
【0067】
<7-2>サンプル処理
a.血液サンプル処理
前記実施例<7-1>で準備された血液サンプルを3,000rpmで5分間遠心分離して血漿100μlを採った。前記血漿に500μlのエチルアセテートを添加して10分間撹拌グした。以降、3,000rpmで5分間遠心分離して上澄液400μlを採った。前記上澄液を窒素ストリーム(nitrogen stream)で蒸発乾燥させ、移動相100μlで再組成した。
【0068】
b.脳組織サンプル処理
前記実施例<7-1>で準備された脳組織サンプルの重さを測定し、脳組織の重さの2倍に該当する量のサリン(saline)を添加して均質化した。これを5分間撹拌後、3,000rpmで5分間遠心分離した。遠心分離で得た上澄液1mlにエチルアセテート5mlを添加し、10分間ボルテキシングした。以降、3,000rpmで5分間遠心分離して上澄液を採った。前記上澄液4mlを窒素ストリーム(nitrogen stream)で蒸発乾燥させ、移動相100μlで再組成した。
【0069】
<7-3>標準検定
前記実施例1で分離したメイスリグナンをメタノールに溶解させた1mg/mlのストック溶液(stock solution)を段階的に希釈(serial dilution)した。ラットのブランク(blank)血漿90μl又はブランク脳均質液(homogenate)90μlに、前記メイスリグナン溶液10μlを添加して目的とする濃度の血漿サンプルと脳組織サンプルを製造した。以降、前記実施例<7-2>と同一な方法で各サンプルを処理した。移動相100μlに再組成したサンプルの中で10μlをLC/MSシステム(Agilent 1100 Series, Agilent Technologies, Santa Clara, USA)に注入した。LC/MS分析は3.0mm×150mm C18ルナコラム(Luna column; Phenomenex, Torrance, CA, USA)を利用してアセトニトリル(acetonitrile):メタノール(methanol):3次蒸留水(DDW)=40:40:20の移動相条件で行なった。
【0070】
その結果、図16に示した通り、メイスリグナンはESI negativeのSIM[327.0-328.0]で検出され、維持時間(retention time)は8.36分であった。前記クロマトグラフからメイスリグナンピークの面積を求めて、メイスリグナンの濃度と面積間に成立する1次式の標準曲線(standard curve)を作成した。
【0071】
<7-4>サンプルの分析
前記実施例<7-2>でサンプル処理を終えた血液サンプルと脳組織サンプルをLC/MSシステムに注入した後、前記実施例<7-3>と同一な方法でLC/MS分析を行ないクロマトグラフ上で、メイスリグナンピークの面積を求めた。前記面積を前記実施例<7-3>で作成された標準曲線を利用して濃度を求めた。
【0072】
<7-5>メイスリグナンの脳への移行計算
前記実施例<7-4>を通じて血液サンプルで求めたメイスリグナンの時間-濃度のグラフから、最終サンプリング時間であるtlastまでのAUCOt(Area Under Curve;AUC)を梯形状方法(trapezoidal method)(Schaum's Outline of Mathematica, MaGraw-Hill, 2000)により求めた。さらに、脳組織サンプルの濃度を利用し、メイスリグナンの量(Xb)を計算した。メイスリグナンのAUCは下記数式1で求められる。
【数1】
【0073】
前記数式1でCはメイスリグナンの濃度、Δtは時間の変化を示す。
【0074】
この時、脳に移行するメイスリグナンのクリアランス(brain uptake clearance; CLuptake)値は下記数式2で求められる。
【数2】
【0075】
前記数式2は次のような過程で誘導される。
【0076】
脳中のメイスリグナンの量の変化は下記数式3のように表し得る。
【数3】
【0077】
前記にてCLuptakeは脳に移行するメイスリグナンのクリアランス(brain uptake clearance)値、CLeffluxは血液に移行するメイスリグナンのクリアランス値、Cpは血液におけるメイスリグナンの濃度、Cbは脳組織におけるメイスリグナンの濃度である。
【0078】
前記数式3で、投与直後にはCbが0に近いと仮定すれば、下記数式4で表し得る。
【数4】
【0079】
両辺をt=0よりt=tまで積分すれば、下記数式5で表し得る。
【数5】
【0080】
これを計算すれば、下記数式6の通りである。
【数6】
【0081】
従って、脳に移行するメイスリグナンのクリアランスは前記数式2の通り表し得る。
【0082】
前記数式2を利用して、本発明のメイスリグナンの脳に移行するメイスリグナンのクリアランスを計算した結果、下記表2に示した通り、0.203±0.039mL/minとして本発明のメイスリグナンの脳への移行が比較的良好に表れた。
【表2】
【0083】
<製造例1>
本発明に伴う脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物を含む薬剤の製造
<1-1>錠剤の製造
本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物25mgを賦形剤直打用ラクトース26mgと、アビセル(未結晶セルロース)3.5mg、崩解補助剤であるナトリウム澱粉グリコネート1.5mg、さらに、結合剤である直打用L-HPC(low-hydrosyprophylcellulose)8mgと共に、U型混合機に入れて20分間混合した。混合完了後、崩壊剤としてマグネシウムステアレート1mgを追加添加して3分間混合した。定量試験と含水量試験を経て打錠し、フィルムコーティングして錠剤を製造した。
【0084】
<1-2>シロップ剤の製造
本発明のメイスリグナン又はその薬学的に許容される塩を有効成分2%(w/v)で含むシロップは下記の方法で製造した:本発明のメイスリグナンの酸附加塩2g、サッカリン0.8g及び糖25.4gを温水80gに溶解させた。前記溶液を冷却させ、これにグリセリン8.0g、香味料0.04g、エタノール4.0g、ソルブ酸0.4g及び適量の蒸留水を混合した。前記混合物に水を添加して100mlになるようにした。
【0085】
<1-3>カプセル剤の製造
本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物50mg、乳糖50mg、澱粉46.5mg、タルク1mg及び適量のステアリン酸マグネシウムを混合し、これを硬質ゼラチンカプセルに充填することによりカプセル剤を製造した。
【0086】
<1-4>注射液剤の製造
有効成分10mgを含む注射液剤は次のような方法により製造した:本発明のメイスリグナンの塩酸塩1g、塩化ナトリウム0.6g及びアスコルビン酸0.1gを蒸留水に溶解させ、100mlを製造した。前記溶液を瓶に入れ、20℃で30分間加熱して滅菌させた。
【0087】
<適用例1>
パーキンソン病
パーキンスン病は老年層に多発する中枢神経系退行性脳疾患にして、振せん、筋肉強直、運動開始困難等の症状が現れ精神的には憂鬱症を伴う。パーキンスン病の原因は中脳黒色質ドパーミン性神経細胞の死滅が直接的な原因として知られている(Fahn S., Parkinsons disease in: Diseases of the nervous system, (ED) by A. Asbury, G. Mckhann, pp.1217-1238, Saunders, 1986)。パーキンスン病に伴う神経細胞の死滅に対する原因として、酸化ストレス、エネルギー代謝異常、ミトコンドリア遺伝子の突然変異、興奮性アミノ酸毒性等が報告されているものの、酸化的ストレスが最も重要な原因であるとの報告が多い(Fahn S. and Cohen, G., Ann. neurol. 32(6):804-812, 1992; Foley P. and Riederer P., J. Neurol., 247 [Sppl.2] II/82-II/94, 2000)。酸化的ストレスに対して脳細胞を保護し、アポプトシスによる脳細胞の死滅を抑制する活性を有する本発明の薬学的組成物はパーキンスン病を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0088】
<適用例2>
アルツハイマー性痴呆
アルツハイマー疾患は深刻な記憶障害と精神疾患を同伴する退行性神経疾患にして、発病率は10-15%/年程度である。アルツハイマー患者等の剖検所見を見れば、老人性斑(Senile Plaque)と神経繊維の多発性病変(Neurofibrillary tangle)を呈する。酸化的損傷は老人性斑誘発に関与し、老人性斑自体は炎症反応を引起す。イブプロフェンのような抗炎症剤がアルツハイマー疾患の進行を遅延させると言う疫学的証拠が報告された(McGeer and McGeer, Exp. Gerontol., 33:371-378, 1998)。アルツハイマー疾患を模倣したマウスにおいて、イブプロフェンの処理は病気の進行を遅延させた(Lim et al, J. Neurosci., 20:5709-5714, 2000)。従って、酸化的ストレスに対して脳細胞を保護し、抗炎症作用をする本発明の薬学的組成物はアルツハイマー性痴呆を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0089】
<適用例3>
脳卒中
脳卒中は脳に血液を供給している血管が塞がれたり、破裂することにより、その部分の脳が損傷されて表れる神経学的症状を言う。脳は数多くの機能を行っているものの、損傷された部分の脳はその機能ができないので、運動障害と記憶障害の症状を呈する。脳卒中は主に老年層において発生するものの、20代又は30代においても発生することもあって、過去10年間脳卒中の発生率は減っていない。脳卒中の発病原因としては過分泌されたグルタメイトがNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体を過興奮させることにより、細胞死滅を誘導する為のものと知られた。小膠細胞の活性はNMDA毒性に寄与する(Tikka and Koistinaho, J immunol., 166(12):7527-33, 2001)。さらに、酸化的ストレスも脳卒中の一つの原因である。従って、酸化的ストレスに対して脳細胞を保護し、抗炎症作用をする本発明の薬学的組成物は脳卒中を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0090】
<適用例4>
軽度認知障害
相当数の老人等は多少の記憶障害を呈するのみ、正常的な日常生活に深刻な難しさはない。このような段階を軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)と言い、軽度認知障害の診断を受けた老人が数年後に、アルツハイマー疾患のような退行性神経疾患に進行される確立は高い(10-15%/年)。このような軽度認知障害は正常的老化と初期アルツハイマー疾患間の転換段階(transitional stage)であり、退行性神経疾患の前駆症状(predromal)である。軽度認知障害患者等の剖検所見を見れば、アルツハイマー疾患の病理所見である老人性斑と神経繊維の多発性病変を呈する。酸化的損傷は老人性斑誘発に関与し、老人性斑自体は炎症反応を引起す。従って、酸化的ストレスに対し、脳細胞を保護して抗炎症作用をする本発明の薬学的組成物は軽度認知障害を治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【0091】
本出願は2005年3月31日付で出願された大韓民国特許出願第2005-0026963号を優先権とし、これを参考文献として含め得る。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上察した通り、本発明のリグナン系化合物は脳細胞死滅を誘発する多様な媒介因子及びその活性を抑制する効果がある。特に、脂質過酸化及び活性酸素種の生成を抑制する抗酸化効果、脳細胞のアポプトシスを抑制する脳細胞保護効果及び抗炎症効果が極めて優れている。従って、本発明のリグナン系化合物又はミリスチカフラグランス抽出物は脳神経疾患の治療又は予防に極めて有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1はミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)からリグナン系化合物を分離する工程図。
【図2】図2は本発明のリグナン系化合物の13C-NMRスペクトル。
【図3】図3は本発明のリグナン系化合物の1H-NMRスペクトル。
【図4】図4は本発明のリグナン系化合物の1H-1H COSYスペクトル。
【図5】図5は本発明のリグナン系化合物の1H-13C HMBCスペクトル。
【図6】図6は本発明のリグナン系化合物のEI-Massスペクトル。
【図7】図7はHT-22細胞より本発明のリグナン系化合物がグルタメートによる活性酸素種の生成を抑制する効果を測定したグラフ。
【図8】図8は培養した海馬細胞から本発明のリグナン系化合物がBSOによる活性酸素種の生成を抑制する効果を測定したグラフ。
【図9】図9は過酸化水素により誘発された脳組織の脂質過酸化に対する本発明のリグナン系化合物の抑制効果を各濃度別に測定したグラフ。
【図10】図10は本発明のリグナン系化合物の細胞毒性効果を測定したグラフ。
【図11】図11はグルタメートにより誘導されたアポプトシスに対する本発明のリグナン系化合物の抑制効果を各濃度別に測定したグラフ。
【図12】図12は培養した脳の小膠細胞より本発明のリグナン系化合物のIL-6抑制効果を調査した結果。
【図13】図13は培養した脳の小膠細胞より本発明のリグナン系化合物のTNF-α抑制効果を調査した結果。
【図14】図14は培養した脳の小膠細胞より本発明のリグナン系化合物のNO抑制効果を調査した結果。
【図15】図15は培養した脳の小膠細胞よりLPSにより誘導されるiNOS及びCOX-2の発現に対する本発明のリグナン系化合物の抑制効果を調査した結果。
【0094】
A:ウェストンブロット分析結果、
B:iNOS及びCOX-2の発現にリグナン系化合物の抑制効果を数量化したグラフ。
【図16】図16は本発明のメイスリグナンを利用してLC/MS分析を行った結果。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Iで表示されるリグナン系化合物又はそれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物。
【化1】
前記にて、R1及びR2は、独立して、C1-5のアルコキシグループ又はヒドロキシグループであり、R3は、
【化2】
【請求項2】
前記リグナン系化合物は下記化学式Iで表示されるメイスリグナンであることを特徴とする第1項に記載の組成物。
【化3】
【請求項3】
ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物を有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物。
【請求項4】
前記脳神経疾患は痴呆、パーキンソン病、脳卒中、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、パーキンソ-ALS-痴呆複合症、ウィルソン病、進行性核上神経麻痺(progressive supranuclear palsy)、軽度認知障害及び癲癇からなる群より選ばれるいずれか1つであることを特徴とする第1項又は第3項に記載の組成物。
【請求項5】
前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与することを含む脳神経疾患を治療又は予防する方法。
【請求項6】
前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法。
【請求項7】
前記リグナン系化合物は下記化学式Iで表示されるメイスリグナンであることを特徴とする第5項又は第6項に記載の方法。
【化4】
【請求項8】
ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与することを含む脳神経疾患を治療又は予防する方法。
【請求項9】
ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法。
【請求項10】
脳神経疾患の治療剤を製造する為の前記一般式Iで表示される、リグナン(lignan)系化合物の用途。
【請求項11】
脳細胞死滅抑制剤を製造する為の前記一般式Iで表示される、リグナン(lignan)系化合物の用途。
【請求項12】
前記リグナン系化合物は下記化学式Iで表示される、メイスリグナンであることを特徴とする第10項又は第11項に記載の用途。
【化5】
【請求項13】
脳神経疾患の治療剤を製造する為の、ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途。
【請求項14】
脳細胞死滅抑制剤を製造する為のミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途。
【請求項1】
下記一般式Iで表示されるリグナン系化合物又はそれの薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物。
【化1】
前記にて、R1及びR2は、独立して、C1-5のアルコキシグループ又はヒドロキシグループであり、R3は、
【化2】
【請求項2】
前記リグナン系化合物は下記化学式Iで表示されるメイスリグナンであることを特徴とする第1項に記載の組成物。
【化3】
【請求項3】
ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物を有効成分として含む脳神経疾患の治療又は予防用薬学的組成物。
【請求項4】
前記脳神経疾患は痴呆、パーキンソン病、脳卒中、ハンチントン病、クロイツフェルト・ヤコブ病、ピック病、筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、パーキンソ-ALS-痴呆複合症、ウィルソン病、進行性核上神経麻痺(progressive supranuclear palsy)、軽度認知障害及び癲癇からなる群より選ばれるいずれか1つであることを特徴とする第1項又は第3項に記載の組成物。
【請求項5】
前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与することを含む脳神経疾患を治療又は予防する方法。
【請求項6】
前記一般式Iで表示されるリグナン(lignan)系化合物の有効量をこれらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法。
【請求項7】
前記リグナン系化合物は下記化学式Iで表示されるメイスリグナンであることを特徴とする第5項又は第6項に記載の方法。
【化4】
【請求項8】
ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与することを含む脳神経疾患を治療又は予防する方法。
【請求項9】
ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の有効量を、これらを必要とする個体に投与することを含む脳細胞死滅を抑制する方法。
【請求項10】
脳神経疾患の治療剤を製造する為の前記一般式Iで表示される、リグナン(lignan)系化合物の用途。
【請求項11】
脳細胞死滅抑制剤を製造する為の前記一般式Iで表示される、リグナン(lignan)系化合物の用途。
【請求項12】
前記リグナン系化合物は下記化学式Iで表示される、メイスリグナンであることを特徴とする第10項又は第11項に記載の用途。
【化5】
【請求項13】
脳神経疾患の治療剤を製造する為の、ミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途。
【請求項14】
脳細胞死滅抑制剤を製造する為のミリスチカフラグランス(Myristica fragrans)を水又はC1-C6の有機溶媒で抽出した抽出物の用途。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2008−534582(P2008−534582A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503966(P2008−503966)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001212
【国際公開番号】WO2006/104369
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(507326180)アミコゲン、インク (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/KR2006/001212
【国際公開番号】WO2006/104369
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(507326180)アミコゲン、インク (2)
【Fターム(参考)】
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