説明

リサイクル型流通式材料腐食試験方法及びその試験装置

【課題】 超臨界又は亜臨界状態の廃液から金属元素の大部分を沈殿・除去し、吸着剤で吸着される金属元素を少なくし、金属元素が除去されて清浄になった廃液を再利用する。
【解決手段】 金属元素を含む試験片が収容された反応容器18に、試薬を含む所定の温度及び圧力の超臨界水又は亜臨界水を供給し、この反応容器18から排出されかつ試験片から溶解した金属元素を含む廃液を処理する。先ず上記廃液の温度及び圧力を所定の温度及び圧力に低下し、試験片から廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させて廃液から分離・除去する。次に大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下して廃液に残存する金属元素の種類を分析する。更に廃液中に残存する金属元素の種類に応じ廃液を複数の吸着槽31,32に選択的に流通させて、この選択された吸着槽31,32内の吸着剤で廃液中の金属元素を吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル型の流通式材料腐食試験の方法及び装置に関する。更に詳しくは、この材料腐食試験を行った後の金属元素を含む試験廃液を超臨界水又は亜臨界水を用いて処理してリサイクルする方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属元素を含む廃液の処理方法としては、モリブデン成分を含有する廃液を処理する方法(例えば、特許文献1参照。)や、六価クロムを含有する廃液を処理する方法(例えば、特許文献2及び3参照。)などが開示されている。
特許文献1に示された処理方法は、モリブデン酸塩を含む水溶液をpH1.0〜8.0に調整し、陰イオン交換樹脂に接触させてモリブデン酸イオンを吸着・除去した後に、モリブデン酸イオンを吸着した陰イオン交換樹脂にpH9.0以上のアルカリ水溶液を接触させてモリブデン酸イオンを溶離して回収するとともに、モリブデンを除去した廃液を廃水処理する方法である。この特許文献1に示された処理方法では、モリブデンを効率的に除去及び回収できるとともに、廃水処理の環境基準に適合できるようになっている。
また特許文献2に示された処理方法は、酸性溶液中で六価クロムを三価クロムに還元可能な水酸基等の反応基を有しかつ酸化後に反応基が少なくとも還元された三価クロムの吸着部位となるクロム吸着剤を用意し、六価クロムを含有する廃液をpH1以上3未満の酸性溶液に調整し、pH調整した廃液とクロム吸着剤とを接触させて廃液中の六価クロムを三価クロムに還元してクロム吸着剤に吸着させる方法である。この特許文献2に示された処理方法では、六価クロムを吸着剤により三価クロムに比較的短時間で還元して吸着し、処理後の廃液中の六価クロムの含有量を極めて少なくすることができる。この結果、処理済みの廃液をそのまま河川や海洋に放出できる程度の水質になっている。
更に特許文献3に示された処理方法は、クロム酸イオン又は他のオキシメタル・イオンのいずれか一方又は双方を含む溶液を吸着剤としての低水溶性の固体バリウム化合物と接触させ、溶液内のクロム酸イオン等を固体クロム酸バリウムと交換反応させ、極めて低い水溶性の固体クロム酸バリウム又はオキシメタル・バリウム化合物のいずれか一方又は双方を生成し、これによってクロム酸イオン等を溶液から除去又は溶液内に固体相で安定化させる方法である。この特許文献3に示された処理方法では、クロム酸イオン等を効率良く除去できるとともに安定化できるようになっている。
【特許文献1】特開平10−118649号公報(請求項1、段落[0018])
【特許文献2】特開平11− 77028号公報(請求項1、段落[0026])
【特許文献3】特開2002−52383号公報(請求項1、段落[0018])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の特許文献1及び2に示された処理方法では、モリブデン又はクロムをイオン交換樹脂や吸着剤などにより吸着処理しているけれども、廃液中に複数の金属元素が含まれる場合、金属元素のイオン形態により吸着できる吸着剤が異なるため、イオン交換樹脂や吸着剤を収容する樹脂塔が金属元素の種類と同じ本数必要になり、また使用されるイオン交換樹脂や吸着剤はイオン交換容量から定まる量しか吸着できず、頻繁にイオン交換樹脂を再生処理しなけれがならず、長期間使用した場合、再生不能になって廃棄されるイオン交換樹脂の量が多くなる問題点があった。
一方、金属元素を含む試験片を反応容器に収容し、この反応容器に試薬を含む超臨界水又は亜臨界水を流通させて、上記試験片の腐食試験を行う場合、500〜1000時間と長時間試験することが多く、試験中に使用される水の量が極めて多くなる。これら廃液は試験終了後に一括処理されるが、この処理のために多くの時間と工数を費やし、試験の迅速化及び効率化に支障をきたす問題点があった。
本発明の目的は、超臨界又は亜臨界状態の廃液から金属元素の大部分を析出・沈殿させて分離・除去することにより、吸着剤で吸着される金属元素を少なくすることができ、また金属元素が除去されて清浄になった廃液を再利用することができ、これにより試験片の腐食試験の迅速化及び効率化を図ることができる、リサイクル型流通式材料腐食試験方法及びその試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に係る発明は、図1に示すように、金属元素を含む試験片が収容された反応容器18に、試薬を含む温度300〜600℃かつ圧力15〜80MPaの超臨界水又は亜臨界水を供給し、この反応容器18から排出されかつ試験片から溶解した金属元素を含む廃液を処理するリサイクル型流通式材料腐食試験方法であって、反応容器18から排出された廃液の温度及び圧力を200〜400℃及び15〜35MPaに低下して試験片から廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させる工程と、この沈殿物を廃液から分離・除去する工程と、大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下する工程と、常温及び常圧に低下した廃液に残存する金属元素の種類を分析する工程と、廃液中に残存する金属元素の種類に応じ廃液を複数の吸着槽31,32に選択的に流通させてこの選択された吸着槽31,32内の吸着剤で廃液中の金属元素を吸着する工程とを含むことを特徴とする。
この請求項1に記載されたリサイクル型流通式材料腐食試験方法では、超臨界水又は亜臨界水の温度及び圧力を所定の温度及び圧力に低下すると、超臨界水又は亜臨界水の加水分解及び脱水反応にて廃液中の大部分の金属元素が酸化物或いは水酸化物となって析出・沈殿するので、この沈殿物を廃液から分離・除去することにより、吸着槽31,32内の吸着剤で吸着される金属元素の量を少なくする。これにより吸着剤の交換頻度を少なくすることができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、更に図1に示すように、吸着槽31,32の吸着剤にて金属元素が除去された廃液を反応容器18に供給する工程を更に含むことを特徴とする。
この請求項2に記載されたリサイクル型流通式材料腐食試験方法では、廃液に含まれる金属元素の大部分を析出・沈殿させて除去した後に金属元素の残部を吸着剤に吸着させて除去することにより、廃液が清浄になるので、この廃液を反応容器18に供給して再利用できる。
【0005】
請求項3に係る発明は、図1に示すように、金属元素を含む試験片が収容された反応容器18に、試薬を含む温度300〜600℃かつ圧力15〜80MPaの超臨界水又は亜臨界水が供給され、この反応容器18から排出されかつ試験片から溶解した金属元素を含む廃液を処理するリサイクル型流通式材料腐食試験装置であって、反応容器18から排出された廃液の温度及び圧力を200〜400℃及び15〜35MPaに低下させて試験片から廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させる第1冷却器21と、この沈殿物を廃液から分離・除去するフィルタ23と、大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下させる第2冷却器22及び減圧弁24と、常温及び常圧に低下した廃液に残存する金属元素の種類を分析する分析装置26と、廃液中に残存する金属元素の種類に応じ廃液を複数の吸着槽31,32に選択的に流通させてこの選択された吸着槽31,32内の吸着剤で廃液中の金属元素を吸着する選択吸着手段27とを備えたことを特徴とする。
この請求項3に記載されたリサイクル型流通式材料腐食試験装置では、超臨界水又は亜臨界水の温度及び圧力を第1冷却器21にて所定の温度及び圧力に低下させ、超臨界水又は亜臨界水の加水分解及び脱水反応にて廃液中の大部分の金属元素を酸化物或いは水酸化物として析出・沈殿させて、この沈殿物をフィルタ23で分離・除去することにより、吸着槽31,32内の吸着剤で吸着される金属元素の量を少なくする。これにより吸着剤の交換頻度を少なくすることができる。
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明であって、更に図1に示すように、選択吸着手段27の吸着剤にて金属元素が除去された廃液を反応容器18に供給する循環ポンプ34を更に備えたことを特徴とする。
この請求項4に記載されたリサイクル型流通式材料腐食試験装置では、廃液に含まれる金属元素の大部分をフィルタ23により除去した後に、金属元素の残部を吸着剤に吸着させて除去することにより、廃液が清浄になる。これにより清浄な廃液を循環ポンプ34により反応容器18に供給して再利用できるので、流通式材料腐食試験装置10がリサイクル型装置になる。
【発明の効果】
【0006】
以上述べたように、本発明によれば、金属元素を含む試験片が収容された反応容器に、試薬を含む超臨界水又は亜臨界水を供給し、この反応容器から排出されかつ試験片から溶解した金属元素を含む廃液の温度及び圧力を所定の温度及び圧力に低下して試験片から廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させ、この沈殿物を廃液から分離・除去し、大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下して廃液に残存する金属元素の種類を分析し、更に廃液中に残存する金属元素の種類に応じ廃液を複数の吸着槽に選択的に流通させてこの選択された吸着槽内の吸着剤で廃液中の金属元素を吸着するので、超臨界又は亜臨界状態の廃液から金属元素の大部分を析出・沈殿させて除去することにより、吸着剤で吸着される金属元素を少なくすることができる。この結果、吸着剤の交換頻度を少なくすることができ、試験片の腐食試験の迅速化及び効率化を図ることができる。
また吸着剤で金属元素が除去された廃液を反応容器に供給すれば、廃液を再利用できるので、廃液を河川等に廃棄するための処理が不要になり、更に試験片の腐食試験の迅速化及び効率化を図ることができる。
【0007】
また反応容器から排出されかつ試験片から溶解した金属元素を含む廃液の温度及び圧力を第1冷却が所定の温度及び圧力に低下させて試験片から廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させ、この沈殿物をフィルタが廃液から分離・除去し、大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を第2冷却器及び減圧弁が常温及び常圧に低下させて廃液に残存する金属元素の種類を分析装置により分析し、廃液中に残存する金属元素の種類に応じ選択吸着手段が廃液を複数の吸着槽に選択的に流通させてこの選択された吸着槽内の吸着剤で廃液中の金属元素を吸着すれば、超臨界又は亜臨界状態の廃液から金属元素の大部分を析出・沈殿させて除去することにより、吸着剤で吸着される金属元素を少なくすることができる。この結果、吸着剤の交換頻度を少なくすることができ、また上記清浄になった廃液を後処理しなくても環境を汚染することなく河川等に廃棄できるので、上記と同様に試験片の腐食試験の迅速化及び効率化を図ることができる。
更に選択吸着手段の吸着剤にて金属元素が除去された廃液が循環ポンプにより反応容器に供給すれば、廃液を再利用できるので、廃液を河川等に廃棄する必要がなくなる。この結果、流通式材料腐食試験装置がリサイクル型装置になるので、更に試験片の腐食試験の迅速化及び効率化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、リサイクル型流通式材料腐食試験装置10は、試験片を腐食させる腐食装置11と、腐食装置11から排出された廃液を処理する装置12とからなる。腐食装置11は、純水を貯留する第1及び第2純水槽13a,13bと、試薬を貯留する第1及び第2試薬槽14a,14bと、上記純水及び試薬を混合して試薬の混合割合を調整する試薬調整槽16と、この試薬調整槽16に貯留された混合試薬水溶液を圧送する供給ポンプ17と、金属元素を含む試験片が収容されかつ上記供給ポンプ17により圧送された混合試薬水溶液が供給される反応容器18とを備える。試験片は、Fe,Ni,Mo及びCrからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属元素を含む。また純水槽を第1及び第2純水槽13a,13bに分けたのは、いずれか一方の純水槽の純水を装置内の洗浄水として使用するためである。純水槽をもっと細かく分ける必要のある場合には純水槽を3つ以上としてもよい。更に試薬槽を第1及び第2試薬槽14a,14bに分けたのは2種類の試薬をそれぞれ貯留するためであるが、試薬が1種類の場合には試薬槽を1つとしてもよく、試薬が3種類以上の場合には試薬槽を3つ以上としてもよい。なお、試薬としては無機酸、有機酸、アルカリなどが挙げられる。
【0009】
一方、供給ポンプ17と反応容器18とを連通接続する供給管19には加熱器20(例えば、ヒータ)が設けられる。上記混合試薬水溶液は、供給ポンプ17及び加熱器20により温度300〜600℃、好ましくは350〜500℃、かつ圧力15〜80MPa、好ましくは22〜50MPaの試薬を含む超臨界水又は亜臨界水となって反応容器18に供給される。ここで、試薬を含む超臨界水又は亜臨界水の温度を300〜600℃の範囲に限定したのは、300℃未満では沈殿除去率が低下し、600℃を越えると反応容器18の耐久性に問題が生じるからである。また試薬を含む超臨界水又は亜臨界水の圧力を15〜80MPaの範囲に限定したのは、22MPa未満では沈殿除去率が低下し、80MPaを越えると反応容器18の耐久性に問題が生じるからである。
【0010】
反応容器18に供給された試薬を含む超臨界水又は亜臨界水は、試験片に接触してこの試験片から溶解した金属元素を含む廃液となって反応容器18から排出される。上記腐食装置11から排出された廃液の処理装置12は、反応容器18から排出された廃液の温度及び圧力を所定の温度及び圧力に低下させて試験片から廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させる第1冷却器21と、この沈殿物を廃液から分離・除去するフィルタ23と、大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下させる第2冷却器22及び減圧弁24と、常温及び常圧に低下した廃液に残存する金属元素の種類を分析する分析装置26と、廃液中に残存する金属元素の種類に応じ廃液を2つの吸着槽31,32に選択的に流通させてこの選択された吸着槽31又は32内の吸着剤で廃液中の金属元素を吸着する選択吸着手段27とを備える。反応容器18には上記廃液を排出するための排出管28が接続され、この排出管28に上記第1冷却器21、フィルタ23、第2冷却器22、分析装置26及び選択吸着手段27が設けられる。反応容器18から排出された廃液の温度及び圧力は、第1冷却器21により温度200〜400℃、好ましくは300〜400℃、かつ圧力15〜35MPa、好ましくは22〜25MPaに低下される。上記温度範囲及び圧力範囲の廃液は未だ金属元素を含む超臨界水又は亜臨界水の状態である。ここで、第1冷却器21により廃液の温度を200〜400℃の範囲に低下し、かつ廃液の圧力を15〜35MPaの範囲に低下させたのは、超臨界水又は亜臨界水の加水分解及び脱水反応にて廃液中の大部分の金属元素を酸化物或いは水酸化物として析出・沈殿させるためである。またこの処理装置12により処理される廃液のpHが酸側でpH<3、アルカリ側でpH>10と広いpH領域で、廃液に含まれる金属元素の沈殿効果がある。
【0011】
フィルタ23は排出管28に並列に設けられた第1及び第2フィルタ23a,23bからなる。このようにフィルタ23を第1及び第2フィルタ23a,23bに分けたのは、第1及び第2フィルタ23a,23bのいずれか一方に廃液を通過させて、この一方のフィルタ23a又は23bへの沈殿物の堆積量が所定量以上になったときに、他方のフィルタ23b又は23aに切換えて、上記一方のフィルタ23a又は23bに堆積した沈殿物を逆洗にて除去することにより、廃液の処理装置12を長時間連続的に使用可能にするためである。なお、「逆洗」とは、沈殿物が堆積したフィルタ23a,23bに圧縮エアなどを廃液の流通方向とは反対方向から噴射することにより、フィルタ23a,23bから沈殿物を除去する洗浄をいう。また符号29a〜29dは第1又は第2フィルタ23a又は23bへの廃液の通過を切換えるための第1〜第4フィルタ用切換弁である。フィルタ23と分析装置26との間の排出管28に第2冷却器22と減圧弁24が直列に設けられる。第2冷却器22及び減圧弁24によりフィルタ23を通過した廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下させるのは、耐圧性の低い分析装置26及び吸着槽31,32に廃液を供給する必要があるからである。また減圧弁24と分析装置26との間の排出管28にはpHセンサ30が設けられる。
【0012】
選択吸着手段27は、排出管28から分岐する第1分岐管28aに設けられ第1吸着剤が内蔵された第1吸着槽31と、排出管28から分岐する第2分岐管28bに設けられ第2吸着剤が内蔵された第2吸着槽32と、廃液が第1又は第2吸着槽31又は32のいずれか一方を通過するか或いは第1及び第2吸着槽31,32を直列に通過するように切換える第1〜第4吸着用切換弁33a〜33dとを有する。吸着剤としては、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂の組合せ、或いは生物系の吸着剤(キトサン、タンニン等)が挙げられる。特に生物系吸着剤は焼却処理が容易であるため、環境上好ましい。またFe,Ni,Mo及びCrのうち、Fe及びNiは陽イオン形態をとるため、陽イオン交換樹脂で除去可能であり、Mo及びCrはオキシ酸化物形態で陰イオン形態をとるため、陰イオン交換樹脂で除去可能である。イオン交換樹脂としては、強酸性樹脂、弱酸性樹脂、強塩基性樹脂、弱塩基性樹脂及びキレート系交換樹脂からなる群より選ばれた1種の樹脂又は2種以上の組合せ樹脂が挙げられる。更に処理液の液性を考慮してイオン交換樹脂を設定することも可能である。なお、この実施の形態では、吸着槽を2つ設けたが、吸着剤により吸着される金属元素が1種類である場合には、吸着槽は1つ設ければよく、吸着剤により吸着される金属元素が3種類以上である場合には、吸着槽は3つ以上設けられる。更に選択吸着手段27の吸着剤にて金属元素が除去された廃液は循環ポンプ34により戻し管36を通って純水槽13a,13b又は試薬槽14a,14bに戻される。なお、上記選択吸着手段27の吸着剤にて金属元素が除去された廃液は第1又は第2貯留槽41又は42に一時的に貯留しておき、必要時に第1又は第2貯留槽41又は42から純水槽13a,13b又は試薬槽14a,14bに戻してもよい。符号43a〜43eは廃液が第1又は第2貯留槽41又は41のいずれか一方を通過するか或いは第1及び第2貯留槽41,42のいずれをもバイパスするように切換える第1〜第5貯留用切換弁である。
【0013】
このように構成されたリサイクル型流通式材料腐食試験装置10の動作を説明する。
先ず反応容器18に試験片を収容してこの反応容器18を密閉し、この状態で第1及び第2純水槽13a,13b内の純水と第1及び第2試薬槽14a,14b内の試薬とを所定の割合で試薬調整槽16に供給した後に、試薬調整槽16内で混合して混合試薬水溶液を調製する。この混合試薬水溶液は供給ポンプ17により圧送されかつ加熱器20により加熱されて、温度300〜600℃、好ましくは350〜500℃、かつ圧力15〜80MPa、好ましくは22〜50MPaの試薬を含む超臨界水又は亜臨界水となって反応容器18に供給される。これにより試薬を含む超臨界水又は亜臨界水は、試験片に接触してこの試験片から溶解した金属元素を含む廃液となって反応容器18から排出される。反応容器18から排出された廃液の温度及び圧力は、第1冷却器21により温度200〜400℃、好ましくは300〜400℃、かつ圧力15〜35MPa、好ましくは22〜25MPaに低下される。これにより超臨界水又は亜臨界水の加水分解及び脱水反応にて廃液中の大部分の金属元素が酸化物或いは水酸化物として析出・沈殿する。即ち、超臨界水又は亜臨界水中に溶解した金属元素は、上記温度及び圧力において速やかに析出・沈殿する性質があるため、他の添加剤を加えずに沈殿物を生成することができる。上記沈殿物を含む廃液を常温及び常圧に戻すと、沈殿物は廃液に再溶解するため、高温及び高圧の超臨界水又は亜臨界水の状態でフィルタ23にて濾過し、廃液から分離・除去する。これにより超臨界水又は亜臨界水中の上記金属元素の濃度を低減できる。次に大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を、第2冷却器22及び減圧弁24により常温及び常圧に低下させる。これにより耐圧性の低い分析装置26及び吸着槽31,32に廃液を供給しても、分析装置26及び吸着槽31,32が損傷することはない。この常温及び常圧に低下した廃液を分析装置26に供給して、廃液に残存する金属元素の種類を分析する。この分析結果に基づいて第1〜第5吸着用切換弁33a〜33eを切換え、廃液に残存する金属元素を吸着できる吸着槽31又は32に廃液を供給する。このとき吸着剤で吸着される金属元素の量は少ないので、吸着剤の交換頻度を少なくすることができる。更に上記清浄になった廃液を循環ポンプ34により純水槽13a,13b又は試薬槽14a,14bに供給して再利用する。このように、超臨界水又は亜臨界水の性質を利用して、試験片から溶解した金属元素の大部分を高温・高圧の超臨界水又は亜臨界水の状態で廃液から除去した後に、この廃液を常温・常圧にして廃液に残存する金属元素を吸着剤により除去するので、吸着剤による金属元素の吸着量が少なくなって、吸着剤にかかる負荷を軽減できる。この結果、吸着剤の使用時間を長くすることができる、即ちイオン交換容量から決定される破過時間を長くすることができるので、1000時間以上と長時間にわたる試験片の腐食試験中における吸着剤の交換頻度を低減できる。また吸着剤によって吸着処理される廃液中の金属元素の濃度が低いので、吸着剤の使用量を低減でき、選択吸着手段26をコンパクト化することができる。更に廃液を河川等に廃棄するための処理が不要にすることができるとともに、試験片の腐食試験の迅速化及び効率化を図ることができる。
【実施例】
【0014】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
酸性(塩酸、0.01N、pH約2)のFe,Ni,Mo及びCrを含有する模擬的試験廃液を調製した。元素化合物はFeCl3,NiCl2,Na2MoO4及びNa2CrO4を溶解して調製した。この廃液をチューブボム型反応器(数十ml)に所定量注入し、所定温度に調整されたサンドバス(砂浴)に入れ、温度400℃まで加熱した。このときの圧力は約22MPaであった。この温度及び圧力に3分間保持した後、サンドバスから反応器を取出して急冷した。急冷後、内容物を速やかに取出し、メンブレンフィルタ(精密濾過膜)にて沈殿物を濾過することにより、溶液から沈殿物を分離・除去した。得られた溶液を実施例1とした。
<実施例2>
サンドバスに入れ、温度300℃まで加熱し、圧力約22MPaまで加圧したこと以外は、実施例1と同様にして溶液を得た。この溶液を実施例2とした。
<比較例1>
サンドバスに入れ、温度200℃まで加熱し、圧力約22MPaまで加圧したこと以外は、実施例1と同様にして溶液を得た。この溶液を比較例1とした。
<比較試験1及び評価>
実施例1、実施例2及び比較例1の溶液について元素濃度を分析した。その結果を表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1から明らかなように、実施例1及び2の300℃以上では、各金属元素が約60%から99%以上沈殿物として存在していることが分かった。従って、腐食試験で溶解した各金属元素は少なくとも、腐食試験装置内(反応容器内やその後の流路の高温・高圧の状態)では、廃液中で沈殿物として存在しているので、この状態で沈殿物を濾過することにより、その後の溶液中に残存する金属元素の吸着工程の負担を減らすことができる。
【0017】
<実施例3>
アルカリ性(水酸化ナトリウム、0.01N、pH約12)のMo及びCrを含有する模擬的試験廃液を調製した。元素化合物はNa2MoO4及びNa2CrO4を溶解して調製した。なお、Fe及びNiは、アルカリ性では水酸化物として沈殿するので、この実施例では除外した。上記廃液をチューブボム型反応器(数十ml)に所定量注入し、所定温度に調整されたサンドバスに入れ、温度400℃まで加熱した。このときの圧力は約22MPaであった。この温度及び圧力に3分間保持した後、サンドバスから反応器を取出して急冷した。急冷後、内容物を速やかに取出し、メンブレンフィルタにて沈殿物を濾過することにより、沈殿物を溶液から分離・除去した。得られた溶液を実施例3とした。
<実施例4>
サンドバスに入れ、温度300℃まで加熱し、圧力約22MPaまで加圧したこと以外は、実施例3と同様にして溶液を得た。この溶液を実施例4とした。
<比較例2>
サンドバスに入れ、温度200℃まで加熱し、圧力約22MPaまで加圧したこと以外は、実施例3と同様にして溶液を得た。この溶液を比較例2とした。
<比較試験2及び評価>
実施例3、実施例4及び比較例2の溶液について元素濃度を分析した。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2から明らかなように、実施例3及び4の300℃以上では、各金属元素が約88%から99%以上沈殿物として存在していることが分かった。従って、腐食試験で溶解した各金属元素は少なくとも、腐食試験装置内(反応容器内やその後の流路の高温・高圧の状態)では、廃液中で沈殿物として存在しているので、この状態で沈殿物を濾過することにより、その後の溶液中に残存する金属元素の吸着工程の負担を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明実施形態のリサイクル型流通式材料腐食試験装置を示す構成図である。
【符号の説明】
【0021】
10 リサイクル型流通式材料腐食試験装置
18 反応容器
21 第1冷却器
22 第2冷却器
23 フィルタ
24 減圧弁
26 分析装置
27 選択吸着手段
31 第1吸着槽
32 第2吸着槽
34 循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素を含む試験片が収容された反応容器(18)に、試薬を含む温度300〜600℃かつ圧力15〜80MPaの超臨界水又は亜臨界水を供給し、この反応容器(18)から排出されかつ前記試験片から溶解した金属元素を含む廃液を処理するリサイクル型流通式材料腐食試験方法であって、
前記反応容器(18)から排出された廃液の温度及び圧力を200〜400℃及び15〜35MPaに低下して前記試験片から前記廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させる工程と、
前記沈殿物を前記廃液から分離・除去する工程と、
前記大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下する工程と、
前記常温及び常圧に低下した廃液に残存する金属元素の種類を分析する工程と、
前記廃液中に残存する金属元素の種類に応じ前記廃液を複数の吸着槽(31,32)に選択的に流通させて前記選択された吸着槽(31,32)内の吸着剤で前記廃液中の金属元素を吸着する工程と
を含むリサイクル型流通式材料腐食試験方法。
【請求項2】
吸着槽(31,32)の吸着剤にて金属元素が除去された廃液を反応容器(18)に供給する工程を更に含む請求項1記載のリサイクル型流通式材料腐食試験方法。
【請求項3】
金属元素を含む試験片が収容された反応容器(18)に、試薬を含む温度300〜600℃かつ圧力15〜80MPaの超臨界水又は亜臨界水が供給され、この反応容器(18)から排出されかつ前記試験片から溶解した金属元素を含む廃液を処理するリサイクル型流通式材料腐食試験装置であって、
前記反応容器(18)から排出された廃液の温度及び圧力を200〜400℃及び15〜35MPaに低下させて前記試験片から前記廃液に溶解した金属元素の大部分を析出・沈殿させる第1冷却器(21)と、
前記沈殿物を前記廃液から分離・除去するフィルタ(23)と、
前記大部分の金属元素が除去された廃液の温度及び圧力を常温及び常圧に低下させる第2冷却器(22)及び減圧弁(24)と、
前記常温及び常圧に低下した廃液に残存する金属元素の種類を分析する分析装置(26)と、
前記廃液中に残存する金属元素の種類に応じ前記廃液を複数の吸着槽(31,32)に選択的に流通させて前記選択された吸着槽(31,32)内の吸着剤で前記廃液中の金属元素を吸着する選択吸着手段(27)と
を備えたことを特徴とするリサイクル型流通式材料腐食試験装置。
【請求項4】
選択吸着手段(27)の吸着剤にて金属元素が除去された廃液を反応容器(18)に供給する循環ポンプ(34)を更に備えた請求項3記載のリサイクル型流通式材料腐食試験装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−105751(P2006−105751A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292113(P2004−292113)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】