説明

リソグラフィー用洗浄液、およびこれを用いた基材の洗浄方法、並びに薬液供給装置の洗浄方法

【課題】リソグラフィー工程で用いられる各種塗膜を形成するための材料や複数の洗浄対象の異なる洗浄用途を網羅的にカバーし得るという汎用性を有し、短時間で効率的に被洗浄物を洗浄除去することができる洗浄性能、短時間で迅速に乾燥する乾燥性能、さらには続く後工程に利用される残膜の形状に悪影響を与えないなどのリソグラフィー用洗浄液としての基本特性を有し、さらには、環境や人体に悪影響を及ぼすことがなく引火点か低いなどの安全性を兼ね備え、安価であり、安定供給が可能であるなどの諸要求特性を有するリソグラフィー用洗浄液を提供する。
【解決手段】(A)グリコール系有機溶剤、(B)ラクトン系有機溶剤、及び(C)アルコキシベンゼン及び芳香族アルコールの中から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を含有するリソグラフィー用洗浄液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィー法によりレジストパターンを製造する際に用いる洗浄液であって、特に液浸リソグラフィー法を用いたレジストパターン製造に好適なリソグラフィー用洗浄液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子は、一般にリソグラフィー法により基材上にホトレジストパターンを形成する工程を経て製造される。また、最近では半導体素子のさらなる微細化に伴い、液浸リソグラフィー(Liquid Immersion Lithography)法が報告されている。この方法は、露光時に、露光装置(レンズ)と基板上の被露光膜との間の露光光路の、少なくとも前記被露光膜上に所定厚さの液浸媒体を配置させて、被露光膜を露光し、レジストパターンを形成するというものである。この液浸リソグラフィー法は、従来は空気や窒素等の不活性ガスであった露光光路空間を、これら空間(気体)の屈折率よりも大きく、かつ、レジスト膜の屈折率よりも小さい屈折率(n)をもつ液浸媒体で置換することにより、同じ露光波長の光源を用いても、より短波長の露光光を用いた場合や高NAレンズを用いた場合と同様に、高解像性が達成されるとともに、焦点深度幅の低下も生じないなどの利点を有する。このような液浸リソグラフィーを用いれば、現存の露光装置に実装されているレンズを用いて、低コストで、より高解像性に優れ、かつ焦点深度にも優れるレジストパターンの形成が実現できるため、大変注目されている
【0003】
このようなリソグラフィー法においては、g線、i線、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、EUVなど各露光波長に対応したレジスト膜、これらのレジスト下層に設けられる反射防止膜、さらにはこれらのレジスト上層に設けられる保護膜などを使用することによりレジストパターンが形成される。
【0004】
また、リソグラフィー法におけるレジストパターン形成工程においては、基材上に塗膜を形成した後の基板裏面部または端縁部あるいはその両方に付着した不要の塗膜を除去する工程、基材上に塗膜を形成した後の基材上に存する塗膜全体を除去する工程、さらには塗膜材料を塗布する前の基材を洗浄する工程など、複数の洗浄工程が必要とされている。
【0005】
さらには、前述した各種塗膜を形成するための材料を基材に供給する装置に付着した汚染物は、レジストパターンの形成や続く後工程に悪影響を及ぼすものであり、このような供給装置に対しても、適時洗浄処理を行うことが必要とされている。
【0006】
しかも、半導体製造ラインに設置されるリソグラフィー用洗浄液の供給配管は、その配管の数が限られているため、各種塗膜を形成するための材料や複数の洗浄対象の異なる洗浄用途を網羅的にカバーし得るという汎用性が要求されている。
【0007】
さらには、リソグラフィー用洗浄液としては、短時間で効率的に被洗浄物を洗浄除去することができる洗浄性能、短時間で迅速に乾燥する乾燥性能、さらには続く後工程に利用される残膜の形状に悪影響を与えないなどの基本特性が合わせて要求されている。
【0008】
また、上記汎用性や基本特性に加えて、環境や人体に悪影響を及ぼすことがなく引火点が低いなどの安全性や、安価であり、安定供給が可能であるなどの要求事項もある。
【0009】
これまでのリソグラフィー法において用いられてきた、従来のリソグラフィー用洗浄液としては、例えばエチレングリコール又はそのエステル系溶剤からなるもの(特許文献1参照)、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテートからなるもの(特許文献2参照)、3−アルコキシプロピオン酸アルキルからなるもの(特許文献3参照)、ピルビン酸アルキルからなるもの(特許文献4参照)などがある。
【0010】
また、2種類以上の溶剤の混合物を用いたものも知られており、例えばプロピレングリコールアルキルエーテルと、炭素数1〜7のモノケトンと、ラクタム又はラクトンとの混合物を用いたもの(特許文献5参照)、及び成分iの混合重量比をx、Fedors法により算出した溶解度パラメーターをδとしたとき、9≦Σxδ≦12を満たすn種類の溶剤からなるリソグラフィー用洗浄液(特許文献6参照)、アセト酸エステルと、γ−ブチロラクトンと、非アセト酸エステルとの混合物を用いたもの(特許文献7)などが知られている。
【0011】
さらに、沸点が120℃以上の1種以上の高沸点有機溶剤と、沸点が90℃以下の1種以上の低沸点有機溶剤とを混合した溶剤を含む剥離液(特許文献8)が開示されている。
【0012】
しかしながら、これらのリソグラフィー用洗浄液は、ある特定の塗膜に対してのみ良好な洗浄性能を有するなどの汎用性に欠けたり、基本特性である洗浄性能あるいは乾燥性能が不足し歩留まりを悪化させたり、あるいは複数の洗浄対象の異なる洗浄用途に使用できないなど、何らかの不具合があり、上述した全ての要求性能を満たすものではなかった。
【0013】
【特許文献1】特公平5−75110号公報
【特許文献2】特公平4−49938号公報
【特許文献3】特開平4−42523号公報
【特許文献4】特開平4−130715号公報
【特許文献5】特開平11−218933号公報
【特許文献6】特開2003−114538号公報
【特許文献7】特開2003−195529号公報
【特許文献8】特開2005−286208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、特にこれまでのリソグラフィー用洗浄液では達成できなかった、各種塗膜を形成するための材料や複数の洗浄対象の異なる洗浄用途を網羅的にカバーし得るという汎用性を有し、短時間で効率的に被洗浄物を洗浄除去することができる洗浄性能、短時間で迅速に乾燥する乾燥性能、さらには続く後工程に利用される残膜の形状に悪影響を与えないなどのリソグラフィー用洗浄液としての基本特性を有し、さらには、環境や人体に悪影響を及ぼすことがなく引火点か低いなどの安全性を兼ね備え、安価であり、安定供給が可能であるなどの諸要求特性を有するリソグラフィー用洗浄液を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、(A)グリコール系有機溶剤、(B)ラクトン系有機溶剤、及び(C)アルコキシベンゼン及び芳香族アルコールの中から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を含有するリソグラフィー用洗浄液を提供する。
【0016】
また本発明は、液浸リソグラフィー法を用いた基材製造における洗浄工程において、前記リソグラフィー用洗浄液を用いて基材の洗浄を行う、基材の洗浄方法を提供する。
【0017】
さらに本発明は、液浸リソグラフィー法を用いた基材製造において、前記リソグラフィー用洗浄液を用いて、塗膜を形成するための薬液供給装置の洗浄を行う、薬液供給装置の洗浄方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明リソグラフィー用洗浄液は、(A)グリコール系有機溶剤、(B)ラクトン系有機溶剤、及び(C)アルコキシベンゼン及び芳香族アルコールの中から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を含有することを特徴とする。
【0019】
前記(A)成分のグリコール系有機溶剤としては、
O−(RO)−R (1)
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、Rは炭素数2〜4のアルキレン基、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキル基又はシクロアルキル基、nは1〜4の整数を示す)で表わされるアルキレングリコールアルキルエーテルが挙げられる。
【0020】
上記アルキル基又はシクロアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0021】
このようなグリコール系有機溶剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびトリプロピレングリコールのモノアルキルエーテル、ジアルキルエーテル、モノシクロアルキルエーテル、シクロアルキルアルキルジエーテルが挙げられる。中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルが好適である。
【0022】
このような(A)成分の配合量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対して、3〜60質量%とすることが好ましく、特には5〜50質量%とすることが好ましい。このような配合量とすることにより、各種洗浄対象及び各種洗浄工程において優れた洗浄性能を持たせることができると同時に、乾燥性能にも優れる洗浄液とすることができる。
【0023】
前記(B)成分のラクトン系有機溶剤としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトンなどが挙げられる。中でも汎用性があり、洗浄性能に優れるγ−ブチロラクトンが特に好適である。
【0024】
このような(B)成分の配合量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対して、3〜40質量%とすることが好ましく、特には5〜35質量%とすることが好ましい。このような配合量とすることにより、各種洗浄対象及び各種洗浄工程において優れた洗浄性能を持たせることができる。
【0025】
前記(C)成分としては、アルコキシベンゼン及び芳香族アルコールの中から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤が用いられる。
【0026】
前記アルコキシベンゼンとしては、アニソール、フェネトール、フェノキシエチレン、メトキシトルエン、ピロカテコールモノメチルエーテル、ピロカテコールジメチルエーテル、m−メトキシフェノール、m−ジメトキシベンゼン、p−ジメトキシベンゼン、ビニルアニソール、p−(1−プロペニル)アニソール、p−アリルアニソールなどが挙げられる。
【0027】
前記芳香族アルコールとしては、ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、p−イソプロピルベンジルアルコール、1−フェニルエタノール、フェネチルアルコール、1−フェニル−1−プロパノール、シンナミルアルコール、キシレン−α,α´ジオール、サリチルアルコール、p−ヒドロキシベンジルアルコール、アニシルアルコール、アミノベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0028】
このような(C)成分の中でも、特にアルコキシベンゼンが好ましく、中でも特に、アニソールが、取扱いが容易で、かつ洗浄性能に優れることから好ましい。
【0029】
このような(C)成分の配合量は、リソグラフィー用洗浄液全量に対して、20〜80質量%とすることが好ましく、特には30〜60質量%とすることが好ましい。このような配合量とすることにより、各種洗浄対象及び各種洗浄工程において優れた洗浄性能を持たせることができると同時に、乾燥性能にも優れる洗浄液とすることができる。
【0030】
さらに、上記リソグラフィー用洗浄液を用いた、基材の洗浄方法、および薬液供給装置の洗浄方法について、以下に説明する。
【0031】
上記本発明リソグラフィー用洗浄液は、(I)基材上に塗膜を形成した後の基板裏面部または端縁部あるいはその両方に付着した不要の塗膜の除去工程、(II)基材上に塗膜を形成した後の基材上に存する塗膜全体の除去工程、(III)塗膜形成用塗布液を塗布する前の基材洗浄工程、などの各種基材の洗浄工程や、(IV)各種塗膜を形成するための薬液供給装置の洗浄工程など、複数の洗浄用途に適用可能であり、いずれも高い洗浄性能を示すものである。
【0032】
上記(I)の基材上に塗膜を形成した後の基板裏面部または端縁部あるいはその両方に付着した不要の塗膜の除去工程は、具体的には以下のとおりである。
【0033】
基材上にレジスト、反射防止膜、あるいは保護膜等の塗膜を形成する場合、例えば、スピンナーを用いた回転塗布法により、基材上に塗膜を形成する。このように基材上に塗膜を塗布した場合、この塗膜は、遠心力により放射方向に拡散塗布されるため、基材端縁部の膜厚が基板中央部よりも厚く、また基材の裏面にも塗膜が回り込んで付着する。
【0034】
そこで基材の端縁部および裏面部の少なくとも一部に付着した不要な塗膜を、本発明リソグラフィー用洗浄液を接触させて洗浄除去する。本発明リソグラフィー用洗浄液を用いることにより、基材端縁部および裏面部の少なくとも一部の不要な塗膜を効率的よく短時間で除去することが可能である。なお、従来のリソグラフィー法においては、続く工程に悪影響を与えないため、塗膜の端縁部形状を矩形形状にすることが必要であったが、現在検討されている液浸リソグラフィー法において局所液浸露光法を用いる場合などには、この断面形状を図1又は2に示した形状とすることが提案させており、本発明リソグラフィー用洗浄液を用いた場合は、このような形状を得ることが可能である。
【0035】
上記不要の塗膜を本発明リソグラフィー用洗浄液に接触させて洗浄除去する方法としては、特に限定されるものでなく、公知の方法を用いることができる。
【0036】
このような方法として、例えば、基材を回転させながら、洗浄液供給ノズルにより、その端縁部や裏面部に洗浄液を滴下、または吹き付ける方法が挙げられる。この場合、ノズルからの洗浄液の供給量は、使用するレジストなどの塗膜の種類や膜厚などにより適宜変わるが、通常は3〜50ml/minの範囲で選ばれる。あるいは、あらかじめ洗浄液を満たした貯留部に基材の端縁部を水平方向から挿入した後、貯留部内の洗浄液に基材の端縁部を所定時間浸漬する方法なども挙げられる。ただしこれら例示の方法に限定されるものでない。
【0037】
上記(II)の基材上に塗膜を形成した後の基材上に存する塗膜全体の除去工程とは、具体的には以下のとおりである。
【0038】
基材上に塗布された塗膜は、加熱乾燥して硬化されるが、実際の作業工程においては、塗膜の形成に不具合が生じた場合など、その後の処理工程を続けることなく、該不具合が生じた塗膜全体を、一旦、本発明リソグラフィー用洗浄液に接触させて洗浄除去する工程である。このような場合にも、本発明リソグラフィー用洗浄液を用いることができる。このような工程は、通常リワーク処理といわれるものであり、このようなリワーク処理の方法は、特に限定されるものでなく、公知の方法を用いることができる。
【0039】
上記(III)塗膜形成用材料を塗布する前の基材洗浄工程とは、具体的には以下のとおりである。
【0040】
基材に対して塗膜を形成する前に、基材上に、本発明リソグラフィー用洗浄液を滴下することにより行われる。このような工程は、プリウェット処理といわれるものであり、このプリウェット処理は、レジストの使用量を少量化するための処理でもあるが、これを本発明では基材の洗浄工程の一つとして説明する。このようなプリウェット処理の方法は、特に限定されるものでなく、公知の方法を用いることができる。
【0041】
上記(IV)各種塗膜を形成するための薬液供給装置の洗浄工程とは、具体的には以下のとおりである。
【0042】
上述した各種塗膜を形成するための薬液供給装置は、配管、薬液塗布ノズル、コーターカップなどから構成され、本発明リソグラフィー用洗浄液を用いることにより、このような薬液供給装置に付着し固化した薬液の洗浄除去にも有効に利用することができる。
【0043】
上記配管洗浄の方法としては、例えば、薬液供給装置の配管内から薬液を出し切って空にし、そこに本発明リソグラフィー用洗浄液を流し込んで配管内に満たし、そのまま所定時間放置する。所定時間後、リソグラフィー用洗浄液を配管から排出しながら、若しくは排出した後、塗膜形成用の薬液を配管内に流し込んで通液した後、基材上への薬液供給を開始する。
【0044】
本発明リソグラフィー用洗浄液は、各種塗膜を形成するための材料を通液した配管に広く適用可能で相容性に優れ、また反応性もないことから、発熱やガス発生などがなく、配管内での分離・白濁等の液の性状異常もみられず、液中の異物増加がないなどの優れた効果を有する。
【0045】
特に、長期間の使用により配管内に薬液の残渣が付着していた場合であっても、本発明リソグラフィー用洗浄液によれば、これら残渣が溶解され、パーティクル発生の要因を完全に除去することができる。また薬液供給作業の再開にあたっては、洗浄液を排出しながら、若しくは排出した後、空流しを行うだけで、薬液供給作業を開始することができる。
【0046】
また、上記薬液塗布ノズルの洗浄方法としては、薬液供給装置の塗布ノズル部分に付着した塗膜残留物を、本発明リソグラフィー用洗浄液と公知の方法で接触させ、付着した薬液を洗浄除去する他に、長時間塗布ノズルを使用しない際に塗布ノズル先端は溶剤雰囲気中でディスペンス状態にされるが、このディスペンス液としても本発明リソグラフィー用洗浄液は有用である。ただし、これらの方法に限定されるものでない。
【0047】
また、上記コーターカップの洗浄方法としては、薬液供給装置内のコーターカップ内に付着した塗膜残留物を、公知の方法で本発明リソグラフィー用洗浄液と接触させることにより、付着した薬液を洗浄除去することができる。ただし、このような方法に限定されるものでない。
【0048】
また、本発明リソグラフィー用洗浄液を用いて除去する対象となる塗膜としては、g線、i線、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、EUVなど各露光波長に対応したレジスト膜、これらのレジスト下層に設けられる反射防止膜、さらにはレジスト上層に設けられる保護膜などが挙げられる。このような塗膜としては、公知のものが用いられる。特に、液浸リソグラフィー法においては、基材上に、反射防止膜、レジスト膜、さらには保護膜が順次積層され、これら全ての材料系に対して、同一のリソグラフィー用洗浄液を使用できることは大きなメリットである。
【0049】
なお、上記レジスト膜としては、ノボラック系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂などを基材樹脂成分として含む構成の材料が、また、該レジスト膜の下層に設けられる反射防止膜としては、吸光性の置換基を有するアクリル系樹脂を含む構成の材料が、さらには、該レジスト膜の上層に設けられる保護膜としては、フッ素原子含有ポリマーからなるアルカリ可溶性樹脂を含む構成の材料が、それぞれ一般的に用いられている。
【0050】
さらには、本発明リソグラフィー用洗浄液を用いる洗浄工程においては、短時間で効率的に被洗浄物を洗浄除去することができる洗浄性能が求められる。洗浄処理に要求される時間は、各種洗浄工程において様々であるが、通常であれば、1〜60秒間で洗浄が達成される性能を要求される。
【0051】
また、同様に乾燥性能についても、短時間で乾燥する性能が要求されるが、これは通常であれば、5〜60秒間で乾燥する性能を要求される。
【0052】
さらに、続く後工程に利用される残膜の形状に悪影響を与えないなどの基本特性が合わせて要求されている。
【0053】
本発明リソグラフィー用洗浄液によれば、リソグラフィー工程で用いられる各種塗膜を形成するための材料や複数の洗浄対象の異なる洗浄用途を網羅的にカバーし得るという汎用性を有し、短時間で効率的に被洗浄物を洗浄除去することができる洗浄性能、短時間で迅速に乾燥する乾燥性能、さらには続く後工程に利用される残膜の形状に悪影響を与えないなどのリソグラフィー用洗浄液としての基本特性を有し、さらには、環境や人体に悪影響を及ぼすことがなく引火点か低いなどの安全性を兼ね備え、安価であり、安定供給が可能であるなどの諸要求特性を満たす。
【実施例】
【0054】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1a〜7a、比較例1a〜3a〕
300mmシリコンウェーハ上に、ノボラック樹脂を基材樹脂とするi線用レジストである、TDMR−AR3000(東京応化工業社製)を塗布し、レジスト膜を形成した。この基材に対して、下表1に示したリソグラフィー用洗浄液を用いて、カップ洗浄及び基板端縁部(エッジ)洗浄を行った。なお、カップ洗浄に関しては、洗浄液と1分間接触させることにより洗浄処理を行い、エッジ洗浄に関しては、洗浄液と10秒間接触させることにより洗浄処理を行った。その結果を、カップ洗浄については目視により観察し、エッジ洗浄に関しては、洗浄後の洗浄性、上面部残渣、さらには側面(Bevel)部残渣を、それぞれCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察し、それぞれ評価した。結果を、同表1中に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
〔実施例1b〜7b、比較例1b〜3b〕
300mmシリコンウェーハ上に、ポリヒドロキシスチレンを基材樹脂とするKrF用レジストである、TDUR−P015(東京応化工業社製)を塗布し、レジスト膜を形成した。この基材に対して、下表2に示したリソグラフィー用洗浄液を用いて、カップ洗浄及び基板端縁部(エッジ)洗浄を行った。なお、カップ洗浄に関しては、洗浄液と1分間接触させることにより洗浄処理を行い、エッジ洗浄に関しては、洗浄液と10秒間接触させることにより洗浄処理を行った。その結果を、カップ洗浄については目視により観察し、エッジ洗浄に関しては、洗浄後の洗浄性、上面部残渣、さらには側面(Bevel)部残渣を、それぞれCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察し、それぞれ評価した。結果を、同表2中に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
〔実施例1c〜7c、比較例1c〜3c〕
300mmシリコンウェーハ上に、アクリル樹脂を基材樹脂とするArF用レジストである、TARF−P6111(東京応化工業社製)を塗布し、レジスト膜を形成した。この基材に対して、下表3に示したリソグラフィー用洗浄液を用いて、カップ洗浄及び基板端縁部(エッジ)洗浄を行った。なお、カップ洗浄に関しては、洗浄液と1分間接触させることにより洗浄処理を行い、エッジ洗浄に関しては、洗浄液と10秒間接触させることにより洗浄処理を行った。その結果を、カップ洗浄については目視により観察し、エッジ洗浄に関しては、洗浄後の洗浄性、上面部残渣、さらには側面(Bevel)部残渣を、それぞれCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察し、それぞれ評価した。結果を、同表3中に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
〔実施例1d〜7d、比較例1d〜3d〕
300mmシリコンウェーハ上に、シリコン原子含有ポリマーを基材樹脂とするSi含有レジストである、TARF−SC127(東京応化工業社製)を塗布し、レジスト膜を形成した。この基材に対して、下表4に示したリソグラフィー用洗浄液を用いて、カップ洗浄及び基板端縁部(エッジ)洗浄を行った。なお、カップ洗浄に関しては、洗浄液と1分間接触させることにより洗浄処理を行い、エッジ洗浄に関しては、洗浄液と10秒間接触させることにより洗浄処理を行った。その結果を、カップ洗浄については目視により観察し、エッジ洗浄に関しては、洗浄後の洗浄性、上面部残渣、さらには側面(Bevel)部残渣を、それぞれCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察し、それぞれ評価した。結果を、同表4中に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
〔実施例1e〜7e、比較例1e〜3e〕
300mmシリコンウェーハ上に、アクリル系ポリマーを基材樹脂とする反射防止膜形成材料である、ARC29A(BrewerScience社製)を塗布し、反射防止膜を形成した。この基材に対して、下表5に示したリソグラフィー用洗浄液を用いて、カップ洗浄及び基板端縁部(エッジ)洗浄を行った。なお、カップ洗浄に関しては、洗浄液と1分間接触させることにより洗浄処理を行い、エッジ洗浄に関しては、洗浄液と10秒間接触させることにより洗浄処理を行った。その結果を、カップ洗浄については目視により観察し、エッジ洗浄に関しては、洗浄後の洗浄性、上面部残渣、さらには側面(Bevel)部残渣を、それぞれCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察し、それぞれ評価した。結果を、同表5中に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
〔実施例1f〜7f、比較例1f〜3f〕
300mmシリコンウェーハ上に、フッ素原子含有アルカリ可溶性ポリマーを基材樹脂とする保護膜形成用材料である、TILC−031(東京応化工業社製)を塗布し、保護膜を形成した。この基材に対して、下表6に示したリソグラフィー用洗浄液を用いて、カップ洗浄及び基板端縁部(エッジ)洗浄を行った。なお、カップ洗浄に関しては、洗浄液と1分間接触させることにより洗浄処理を行い、エッジ洗浄に関しては、洗浄液と10秒間接触させることにより洗浄処理を行った。その結果を、カップ洗浄については目視により観察し、エッジ洗浄に関しては、洗浄後の洗浄性、上面部残渣、さらには側面(Bevel)部残渣を、それぞれCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察し、それぞれ評価した。結果を、同表6中に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
上表1〜6中、GBLはγ‐ブチロラクトンを示し、ANSはアニソールを示し、PGMEはプロピレングリコールモノメチルエーテルを示し、PGMEAはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを示す。また、上表1〜6中の数値の単位は全て質量%である。
【0068】
また、上表1〜6中、評価結果は以下のとおりである。
〔カップ洗浄性能〕
○:カップ内に付着した汚染物の除去ができた。
×:カップ内に付着した汚染物の除去ができなかった。
〔エッジ洗浄性〕
○:塗膜の洗浄性能は良好であった。
△:塗膜の洗浄除去は可能だが、ガタツキが見られた。
〔エッジ上面部残渣(:エッジ上残渣)〕
○:残渣なかった。
△:残渣あった。
〔エッジ側面部残渣(:エッジ横残渣)〕
○:残渣なかった。
△:残渣あった。
●:洗浄剤の乾燥が不完全で、乾燥シミが見られた。
×:塗膜そのものの除去ができていなかった。
【0069】
上記実施例1a〜5f及び比較例1a〜3fの結果から、本発明洗浄液組成を採用することにより、汎用性があり、かつ洗浄性能に優れ、さらには続く後工程に悪影響を与えることのない、洗浄液が得られることがわかる。
【0070】
〔実施例1g、比較例1g〕
300mmシリコンウェーハ上に、反射防止膜形成材料であるARC29A(BrewerScience社製)を塗布し、続いて10秒間、実施例1a及び比較例1aと同様の洗浄液と接触させることにより基板端縁部の洗浄処理を行った。その後、215℃にて60秒間加熱処理することにより膜厚77nmの反射防止膜を形成した。該反射防止膜上にArF用レジスト組成物であるTARF−P6111(東京応化工業社製)を塗布し、続いて10秒間、実施例1a及び比較例1aと同様の洗浄液と接触させることにより基板端縁部の洗浄処理を行った。その後、130℃にて90分間加熱処理することにより膜厚215nmのレジスト膜を形成した。さらにこの上層に保護膜形成用材料である、TILC−031(東京応化工業社製)を塗布し、続いて10秒間、実施例1a及び比較例1aと同様の洗浄液と接触させることにより基板端縁部の洗浄処理を行った。その後、90℃にて60秒間加熱処理することにより膜厚35nmの保護膜を形成した。こうした処理により、図2に示すようなスタック構造の基材を形成した。
【0071】
この処理後の基材に対して、基板端縁部の垂直上方向からCCDカメラ(キーエンス社製)を用いて観察した。その結果、本発明洗浄液を用いた場合は良好な洗浄性能を示したのに対して、比較例の洗浄液を用いた場合、反射防止膜界面の形状がばらつき、保護膜材料界面にまでガタツキが発生していた。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】液浸リソグラフィー法における塗膜のスタック構造の一例を示す概略図。
【図2】液浸リソグラフィー法における塗膜のスタック構造の一例を示す概略図。
【符号の説明】
【0073】
1 シリコンウェーハ
2 反射防止膜
3 レジスト膜
4 レジスト保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)グリコール系有機溶剤、(B)ラクトン系有機溶剤、及び(C)アルコキシベンゼン及び芳香族アルコールの中から選ばれる少なくとも1種の有機溶剤を含有することを特徴とするリソグラフィー用洗浄液。
【請求項2】
前記(A)成分が、アルキレングリコールアルキルエーテルの中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項3】
前記(A)成分が、プロピレングリコールモノメチルエーテルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項4】
前記(B)成分が、γ−ブチロラクトンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項5】
前記(C)成分が、アニソールであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項6】
前記(A)成分が3〜60質量%であり、前記(B)成分が3〜40質量%であり、前記(C)成分が20〜80質量%であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項7】
液浸リソグラフィー法を用いた基材製造における洗浄工程において用いられることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液。
【請求項8】
液浸リソグラフィー法を用いた基材製造における洗浄工程において、請求項1から7のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液を用いて、基材の洗浄を行うことを特徴とする基材の洗浄方法。
【請求項9】
前記洗浄工程が、基材上に塗膜を形成した後の基板裏面部または端縁部あるいはその両方に付着した不要の塗膜の除去工程、基材上に塗膜を形成した後の基材上に存する塗膜全体の除去工程、及び塗膜形成用材料を塗布する前の基材洗浄工程の中から選ばれる少なくとも1つの洗浄工程であることを特徴とする請求項8に記載の基材の洗浄方法。
【請求項10】
液浸リソグラフィー法を用いた基材製造において、請求項1から7のいずれか1項に記載のリソグラフィー用洗浄液を用いて、塗膜を形成するための薬液供給装置の洗浄を行うことを特徴とする薬液供給装置の洗浄方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−256710(P2007−256710A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82093(P2006−82093)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】