説明

リチウムイオンバッテリーに含まれる金属を資源化する方法

【課題】リチウムイオンバッテリーに含まれる金属を資源化する方法
【解決手段】
本発明はリチウムイオンバッテリーから金属を回収するためのリサイクル方法に関する。より具体的には、アルミニウム及び炭素を含むリチウムイオンバッテリーからコバルトを回収するための自己発生プロセス(autogeneous process)が開示され、この方法は
2注入手段を備えた浴炉を準備する工程と、
スラグ形成剤としてのCaO及びリチウムイオンバッテリーを含む冶金装入原料を供給する工程と、
2を注入するとともに該浴炉へ前記冶金装入原料を供給し、これによって該コバルトの少なくとも一部が還元され金属相中に集められる工程と、
湯出しによって該金属相からスラグを分離する工程を含み、
冶金装入原料の質量%で表されるリチウムイオンバッテリーの該フラクションが少なくとも153質量%−3.5(Al%+0.6C%)[該バッテリー中のアルミニウム及び炭素の質量%をそれぞれAl%及びC%と表す]であることを特徴とし、これによって溶融還元プロセスを自己発生条件(autogeneous conditions)で操作することを可能とする。この方法は、シャフト炉を用いる技術方法に対し、装入原料の形態に対する広い許容範囲、高いエネルギー効率及び簡略化された排気清浄要求という利点を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示された発明はリチウムイオンバッテリーから金属を回収するリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HEV(ハイブリッド電気自動車)若しくはEV(電気自動車)は、高性能な充電池に依存する。今日まではNiMH(ニッケル-金属水素化物)バッテリーが主流であるが、近い将来にリチウムイオンバッテリーが普及すると一般に予想されている。このことは、高い質量エネルギー密度をもつ車載バッテリーが成功の鍵である電気自動車(EV)においては特に当てはまる。
【0003】
したがって、今後数年のうちに多量のリチウムイオン(H)EVバッテリーがリサイクル市場に出ることが予想される。これには老朽化したバッテリー及び製造不良品が含まれ得る。そのようなバッテリーには銅、ニッケル、マンガン及びコバルトといった、環境保護の観点及び経済的な観点からみて再利用する価値のある貴重な金属が含まれている。ニッケル、マンガン及びコバルトは、標準的には酸化状態で存在する。
【0004】
現在、H(EV)バッテリーをリサイクルするための最も優れた利用可能な技術は、バッテリーを融剤及びコークスとともにシャフト内で溶融させることで融解スラグ及びコバルト塊を形成するキュポラ充填層(cupola packed−bed)技術である。欧州特許出願公開第1589121(A)号明細書に記述されているこの方法では、コバルト、ニッケル及び銅の97%を上回る高い金属回収率を確実にする。この方法の主な利点は、分解されていない電池を安全に取り扱うことができる点であり、シャフト中の加熱速度が小さいとき、電池の内部で発生するガスはゆっくりと放出されるため、ガスのあらゆる爆発的な放出は防がれる。自動車用バッテリーは、個々の電池が携帯用電子機器でよくみられる電池に比べてはるかに大きいため、自動車用バッテリーにとってバッテリーの爆発は実際には無視できない脅威である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このキュポラ法はまた、多くの欠点を有している。
【0006】
コークスの消費量が非常に多く、供給原料の30〜40%に達する。このコークスの量は、還元を行うため及びまた充填層を十分多孔質に保つために必要である。充填層を押し下げる圧上昇を引き起こすシャフト内の粒度偏析を避けることはさらに困難である。また大量の微粒子がガスとともに残留し、バグハウスに問題を引き起こす。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、供給原料を溶融浴へ直接導入する浴溶融法を用いることでこれらの問題を解決することである。
【0008】
発明の方法は、リチウムイオンバッテリーから主に構成される冶金装入原料に特に適合される。本発明はアルミニウム並びにグラファイトとして存在する炭素又は有機物質中に含まれる炭素を含むリチウムイオンバッテリーから、酸化状態の中に存在するコバルトを回収する方法に関するものであって、
2の注入手段を備えた浴炉を提供する工程と、
スラグ形成剤としてのCaO及び好ましくはSiO2、及びリチウムイオンバッテリーを
含む冶金装入原料を提供する工程と、
2を注入する間に前記冶金装入原料を炉に供給することによって少なくとも一部のコバルトが還元され金属相中に集められる工程と、
湯出しによって金属相からスラグを分離する工程を含み、冶金装入原料の質量%で表されるリチウムイオンバッテリーのフラクションが153質量%−3.5(Al% + 0.6C%)と等しい若しくはそれを超えることを特徴とし、バッテリー中のアルミニウム及び炭素の質量%をそれぞれAl%及びC%としている。
【0009】
この方式は、標準産出量炉を用いてリチウムイオンバッテリーの典型的な混合物を溶融したとき、自己発生プロセス条件(autogeneous process conditions)となることを意味する。このとき追加の還元剤若しくは燃料は必要ない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましい実施形態においては、バッテリー中のアルミニウム及び炭素の質量%をそれぞれAl%及びC%としたときに、冶金装入原料の質量%で表されるリチウムイオンバッテリーのフラクションは181質量%−4.1(Al%+0.6C%)と等しい若しくはこれを超える。この方式は、大きな熱損失を伴う炉を使用する場合であっても、典型的なリチウムイオンバッテリーの混合物を溶融したときには自己発生プロセス条件(autogeneous process conditions)となることを意味する。
【0011】
上記方式のいずれか一つ若しくは両方において、一般に因子(Al%+0.6C%)は35%より低く、これを超えるアルミニウム及び/又は炭素を含むリチウムイオンバッテリーはあまりみられない。発明の方法はそのような通常入手できるリチウムイオンバッテリーを処理するために最適である。
【0012】
2の注入は水中酸素ガスバーナーを用いて行うことが望ましい。
スラグの凍結ライニングを提供する手段を備えた炉を用いるとより有用である。
【0013】
シャフト炉の使用時よりも供給原料の形態の重要性ははるかに低く、浴炉は必要最低限の装入原料の準備を必要とする。また、二次空気を用いて排気ガスを二次燃焼するための一切の追加のプラズマトーチが必要なく、ガス清浄の負担は著しく軽減される。このことを、浴の上方でCOを二次燃焼させる既知の基本原理と組み合わせることで本方法のエネルギー効率はさらに強められる。
【0014】
本発明によれば、十分な量のリチウムバッテリーが冶金装入原料に含まれるとき、その冶金装入原料は唯一の反応剤としての酸素と関係して自溶となる。ここまでの所、必要となるバッテリーに富んだ装入原料は多くの場合において実用的である。溶鉱炉において必要とされる追加のコークスは、装入原料の適度な多孔性を確保するためには必要ない。
【0015】
達成される良好な還元速度及び収率は、リチウムバッテリー内での金属アルミニウムと酸化された金属元素(例えばコバルト、ニッケル、及びマンガンなど)との近接によって達成されると考えられる。この特徴は、バッテリーに粉砕及び浸出といった前処理が施されていても、アルミニウム及び酸化された金属が両者の近接を維持する限り保たれる。
【0016】
例えば携帯機器でみられるようなバッテリーはそれ自体、すなわち分解若しくは粉砕を行わずに炉に供給され得る。このとき個々の電池は十分に小さいため、爆発の危険性は軽減される。しかし、大きな(H)EVバッテリー若しくはバッテリーパックを直接炉に供給することは、炉内に追加の防護手段、具体的には凍結ライニングの使用が必要となり得る。凍結ライニングは実際には炉内の耐火煉瓦を化学的侵食から保護するものとして知られている。けれども凍結ライニングはバッテリーの爆発からくる機械的損傷に対する防護手
段としてもまた適切であると考えられる。
【0017】
そのような装入原料中にほとんど常に存在する銅と共に還元されたコバルト及びニッケルは金属塊を形成する。この塊は、分離及び金属の回収のための既知の方法に従ってさらに処理され得る。マンガンはほとんどスラグへと送られる。リチウムは一部蒸発し、一部はスラグとなる。特に世界的な消費量の増加に加えてリチウムの経済的価値が上昇したとき、既知の方法を用いてスラグ若しくは蒸気からリチウムを回収することができる。
【0018】
リチウムイオンバッテリーにおいて、アルミニウムは一般にその金属状態で存在し、炭素は典型的には無機黒鉛陽極中に存在するだけでなく電池内及び周囲の有機材料中にもまた存在する。有機炭素は、黒鉛と同様に還元及びエンタルピーに関与し、該方式を適用するにあたって考慮される炭素の総量として許容される。
【0019】
エネルギー効率に優れる処理を持続するために必要な最低限のバッテリーのフラクションで定義される組成を用いるとき、100%を超える結果は明らかに実現不可能であると考えられる。冶金装入原料にはさらに合理的な量(少なくとも15質量%)のスラグ形成剤を包含する余地が提供されなくてはならない。その正確な量は主として選択したスラグ形成剤(CaOあるいはSiO2)及びバッテリーのアルミニウム量に依存する。
【0020】
上記組成による最低限のバッテリーのフラクションに到達できないとき、より多量のアルミニウム及び/又はより多量の炭素を含むバッテリーが選択されなければならない。追加のガス及び酸素を補うことももう一つの方法であるが、これは本発明の経済的及び環境的な基本原理を損なう。
【0021】
該装入原料は必要とされるリチウムイオンバッテリーの相対量に替えて、他の構成要素、通常はNiMHバッテリーを含んでもよい。該プロセスの自溶特性に貢献する金属アルミニウム若しくは有機物を含む材料もまた適合する。
【0022】
「酸化状態」とは酸化物だけでなく電子供与体としての金属をもつ化合物を意味する。
「リチウムイオンバッテリーのフラクションを含む冶金装入原料」は、前記相対量のバッテリーそれ自体、若しくは、例えば分解、粉砕及び浮遊選鉱といった物理的処理を経たバッテリーを含む装入原料を意味する。
「バッテリー」とは実際の電池、電池パック、組立て品又はそれらのスクラップとすることができる。
化学分析は乾燥材料に基づいた質量%で表される。
【0023】
該プロセスのより詳細な記述を示す。
【0024】
未処理のリチウムバッテリー、融剤及びその他高価値金属を含む未加工材料から構成されるバッチを浴溶鉱炉へ供給する。炉はガス区画、スラグ区画及び合金区画の3つの区画から構成され、酸素はスラグ区画へ注入される。
【0025】
装入原料は重力下で約1450℃の溶融スラグ浴へ落下する。その結果、リチウム電池は急速に加熱され、爆発し得、その残渣は還元剤(例えば電解質、プラスチック及びアルミニウムなど)とバッテリー内の酸化物(例えばLiCoO2など)との良好な接触の結果、急速に反応する。水中注入は浴の激しい攪拌をもたらし、また同様に高い反応速度をもたらす。
【0026】
少量の還元剤のみが気化若しくは熱分解によって失われ、バッテリーのエネルギー含量は還元のため及び熱源として効率的に利用される。しかしながら、爆発するバッテリーは難
燃性物の破片に影響されやすい。そのため、凍結ライニングを形成するように炉壁はスラグ区画で冷却される。凍結ライニングは凝固した処理材料から構成され、この場合ほとんどスラグである。この凍結ライニングは自己再生する。したがって、凍結ライニングの一部が爆発によって劣化すると新しい層が急速に成長する。
【0027】
ガス区画において、全てのCO、H及び蒸発したプラスチック及び電解質は、供給ポートを通して加えられた二次空気によって二次燃焼される。その結果、ダイオキシンの発生が阻害される。排気ガスは標準的なガス清浄システムによってさらに処理される。
【0028】
アルミニウム、ケイ素、カルシウム及びいくらかの鉄及びマンガンはスラグ中に集まり、一方でほとんどのコバルト及びニッケル(投入量の90%を超える)及び鉄の大部分(60%を超える)は合金中に集まる。スラグ及び合金の両者が取り出されるとすぐに新しいバッチが処理される。
【0029】
通常、本方法は全ての種類のリチウムバッテリーを処理でき、及び要求されるリチウム電池の含量に応じて、コバルトとニッケルのような高価値の金属若しくはそれらのスクラップを含んだ他の種類の未加工材料もまた処理できる。Al23を溶融して液体スラグを得るために、CaO及び好ましくはSiO2が加えられる。
【実施例】
【0030】
実施例1
表1に示したリチウムイオンベースの装入原料を本発明に従ってクロムマグネシア質レンガにより裏打ちされその裏打ちが厚さ300mmである直径1.5mの小型炉の中で溶融させた。
【0031】
リチウムイオンフラクションのアルミニウム及び炭素含有量の平均質量はそれぞれ9.4質量%及び32.3質量%と計算された。比較的小さい炉を使用したとき若しくは炉の熱損失が大きいときに好ましい組成によると、この場合装入原料の自燃を持続するためにリチウムイオン材料が最低限62.9%必要であった。
【0032】
供給原料は64.4質量%のリチウムイオン材料を含んでいた。これは、最低限の必要量をわずかに超え、本プロセスは実際に自溶となるとみられた。浴の温度の1450℃は追加のコークス若しくはガス無しに得られた。O2を水中バーナーを通して265Nm3/hの速度で吹き込んだ。このバーナーはこのようにしてO2のみの羽口として使用され、すなわち、例えばCH4などのあらゆる種類の燃料を同時に吹き込まない。CH4などの燃料は溶融スラグの初浴の準備のため及び湯出しの間にのみ使用した。
【0033】
冶金装入原料の主要部分として最大で50kgのバッテリー及びバッテリーパックを溶融浴の中へ高さ8mから落下させた。炉は凍結ライニングを可能にする態様で操作された。凍結ライニングは既知の方法に従って水冷式銅ブロックを使用してスラグ区画を強く冷却することによって成された。基本的には、炉壁の劣化は長時間にわたって見られなかった。
追加のエネルギー必要量無しに、コバルト、ニッケル、銅及び鉄の良好な回収がみられた。
【0034】
【表1】

【0035】
比較例2
表2に示したリチウムイオンベースの装入原料を、実施例1の炉と同様の炉の中で溶融した。
【0036】
リチウムイオンフラクションのアルミニウム及び炭素成分はそれぞれ15質量%及び5質量%であった。比較的小さい炉を使用する場合若しくは炉が大きな熱損失を伴う場合に適用可能な好ましい組成に従うと、この場合装入原料の自燃を持続するために最低限で107%のリチウムイオン材料が必要であった。液体スラグを維持するために少なくともいくらかの砂及び/又は石灰岩が必要であるためにリチウムイオン材料のフラクションを100%に近づけることができないことから、これは明らかに実行不可能であった。
【0037】
供給原料は、液体スラグの維持とは不適合となるより多量の61.0質量%のリチウムイオン材料を含んでいた。これは本プロセスが自溶となるために必要な最低限の必要量を下回っていた。水中バーナーを通して吹き込まれた410Nm3/hのCH4及び422Nm3/hのO2の追加によって1450℃の浴炉の温度は得られた。
【0038】
コバルト、ニッケル、銅及び鉄の良好な回収がみられたが、高いエネルギー必要量(CH4及びO2)によって本方法の有用性は低下した。
【0039】
【表2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1589121(A)号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム及び炭素を含んでいるリチウムイオンバッテリーからコバルトを回収する方法であって、
2を注入する手段を備えた浴炉を準備する工程と、
スラグ形成剤としてのCaO及びリチウムイオンバッテリーを含む冶金装入原料を準備する工程と、
酸素を注入するとともに前記冶金装入原料を前記炉へ供給し、これによって少なくとも一部の前記コバルトが還元され、そして金属相中に集められる工程と、
湯出しによって前記金属相中から前記スラグを分離する工程を含み、
前記方法は、前記冶金装入原料の質量%で表したときに153質量%−3.5(Al% +
0.6C%)[Al%及びC%は前記バッテリー中のアルミニウム及び炭素の質量%を表す]と等しい若しくはこれを超えるリチウムイオンバッテリーのフラクションを供給することで自己発生条件(autogeneous conditions)で操作されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記冶金装入原料の質量%で表されるリチウムイオンバッテリーの前記フラクションが181質量%−4.1(Al%+0.6C%)と等しい若しくはそれを超え、(Al% + 0.6C%)[それぞれAl%及びC%は前記バッテリー中のアルミニウム及び炭素の質量%を表す]が35%未満である、請求項1に記載のリチウムイオンバッテリーからコバルトを回収する方法。
【請求項3】
2注入は水中酸素ガスバーナーの使用により行われる、請求項1若しくは2に記載のリチウムイオンバッテリーからコバルトを回収する方法。
【請求項4】
前記炉は前記スラグの凍結ライニングを提供するように操作される、請求項1から3のうちいずれか一つに記載のリチウムイオンバッテリーからコバルトを回収する方法。

【公表番号】特表2013−506048(P2013−506048A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530171(P2012−530171)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005840
【国際公開番号】WO2011/035915
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(502270497)
【Fターム(参考)】