説明

リチウムイオン二次電池、及び、その製造方法

【課題】電極層と電解質層を積層した多層全固体型のリチウムイオン二次電池では、電極層と電解質層間の界面抵抗が大きく、電池の大容量化が困難であるという問題があった。
【解決手段】活物質と固体電解質を混合したペーストを塗布して電極層を形成し、電極層と電解質層の積層体を一括焼成して電池を作製した。電極層内に活物質と固体電解質からなるマトリックス構造が形成され、電極層と電解質層間の界面抵抗が低減され、電池の大容量化が実現できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極層、固体電解質層、負極層からなる積層体を含む多層全固体型のリチウムイオン二次電池、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開平11-283664号公報
【特許文献2】特開2000-164252号公報
【特許文献3】特開2001-126758号公報
【特許文献4】特開2000-285910号公報
【0003】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。これらの要望に応じるために、複数の正極層と負極層が固体電解質層を介して積層された多層型のリチウムイオン二次電池が提案された。多層型のリチウムイオン二次電池は、厚さ数十μmの電池セルを積層して組み立てられるため、電池の小型軽量化、薄型化を容易に実現できる。特に、並列型又は直並列型の積層電池は、小さなセル面積でも大きな放電容量を達成できる点で優れている。また、電解液の代わりに固体電解質を用いた全固体型リチウムイオン二次電池は、液漏れ、液の枯渇の心配がなく、信頼性が高い。更に、リチウムを用いる電池であるため、高い電圧、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0004】
図8は、従来の全固体型リチウムイオン二次電池の基本構造の断面図である。従来の全固体型リチウムイオン二次電池の基本構造は、負極活物質からなる負極層103、固体電解質層102、正極活物質からなる正極層101が順に積層された構造である。従来の全固体型リチウムイオン二次電池は、電解液を用いるリチウムイオン二次電池と比較して、イオン伝導性が低く、かつ、電解質層と正極層及び負極層との界面抵抗が大きいために、電池の大容量化が困難であるという問題があった。
特許文献1には、正極層及び/又は負極層と固体電解質層との間に5〜95重量%の活物質と5〜95重量%の固体電解質とからなる1層以上の中間層を配設した電池が開示されている。係る中間層を設けることにより、電極と固体電解質の界面の分極抵抗を低減できるため、充放電特性の改善やエネルギー密度の増加など電池特性を向上させることが可能であるとしている。
また、特許文献2には、固体電解質と電極活物質との間に、この固体電解質と電極活物質との反応界面を有する中間層を設けた電池が開示されている。係る中間層を設けることにより、特許文献1と同様に、電極と固体電解質の界面の分極抵抗を低減できるため、充放電特性の改善やエネルギー密度の増加など電池特性を向上させることが可能であるとしている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された技術により作製された電池は、実際には、内部抵抗の大幅な低減、電池の大容量化が実現できないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、正極層、固体電解質層、負極電解質層を積層した多層全固体型のリチウムイオン二次電池において、内部抵抗の低減、放電容量の増加等、電池特性の向上が可能なリチウムイオン二次電池、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、少なくとも、正極層と負極層が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなる多層全固体型のリチウムイオン二次電池において、前記正極層及び/又は前記負極層の構造が活物質と固体電解質からなるマトリックス構造であることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
本発明(2)は、少なくとも、正極層と負極層が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなる多層全固体型のリチウムイオン二次電池において、前記正極層及び/又は前記負極層と固体電解質層の間に中間層が形成され、前記中間層の構造が活物質と固体電解質からなるマトリックス構造であることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
本発明(3)は、前記構造が活物質からなるマトリックス構造に固体電解質が担持された構造であることを特徴とする前記発明(1)又は前記発明(2)のリチウムイオン二次電池である。
本発明(4)は、前記構造が固体電解質からなるマトリックス構造に活物質が担持された構造であることを特徴とする前記発明(1)又は前記発明(2)のリチウムイオン二次電池である。
本発明(5)は、前記マトリックス構造が、活物質と固体電解質を混合したペーストを塗布し、焼成により形成された構造であることを特徴とする前記発明(1)及至前記発明(4)のリチウムイオン二次電池である。
本発明(6)は、前記焼成の温度が、600℃以上、1100℃以下であることを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(5)のリチウムイオン二次電池である。
本発明(7)は、前記マトリックス構造の断面における活物質と固体電解質の面積比が20:80乃至80:20の範囲内であることを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(6)のリチウムイオン二次電池である。
本発明(8)は、前記正極層、及び、前記負極層、及び/又は、前記中間層を構成する活物質の始発材料が、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムチタン複合酸化物、二酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タングステンよりなる群から選択した1種の化合物又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(7)のリチウムイオン二次電池である。
本発明(9)は、前記正極層、及び、前記負極層、及び/又は、前記中間層を構成する電解質の始発材料が、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.5P0.5O4)、リン酸チタンリチウム(LiTi2(PO4)3)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2O-SiO2、Li2O-V2O5-SiO2、Li2O- P2O5-B2O3、Li2O-GeO2よりなる群から選択した1種の化合物又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする前記発明(1)乃至前記発明(8)のリチウムイオン二次電池である。
本発明(10)は、少なくとも、電解質層用グリーンシートを介して正極層用グリーンシートと負極層用グリーンシートとを交互に積層し積層体を形成する積層工程と、前記積層体を一括して焼成して焼結積層体を形成する工程を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記正極層用グリーンシート及び/又は前記負極層用グリーンシートを、少なくとも活物質と固体電解質を混合したペーストを塗布して形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法である。
本発明(11)は、少なくとも、電解質層用グリーンシートを介して正極層用グリーンシートと負極層用グリーンシートとを交互に積層し積層体を形成する積層工程と、前記積層体を一括して焼成して焼結積層体を形成する工程を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記正極層用グリーンシートと前記電解質層用グリーンシート、及び/又は、前記負極層用グリーンシートと前記電解質層用グリーンシートの間に中間層用グリーンシートを配置し、前記中間層を、少なくとも活物質と固体電解質を混合したペーストを塗布して形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法である。
本発明(12)は、前記ペーストを構成する前記活物質からなる粉末と前記固体電解質からなる粉末の粉体粒度が3μm以下であることを特徴とする前記発明(10)又は前記発明(11)のリチウムイオン二次電池の製造方法である。
本発明(13)は、前記ペーストを構成する前記活物質からなる粉末と前記固体電解質からなる粉末を混合する体積比率が20:80乃至80:20の範囲内であることを特徴とする前記発明(10)乃至前記発明(12)のリチウムイオン二次電池の製造方法である。
本発明(14)は、前記ペーストに添加物としてホウ素化合物を混合することを特徴とする前記発明(10)乃至前記発明(13)のリチウムイオン二次電池の製造方法である。
本発明(15)は、前記積層体の焼成温度が、600℃以上、1100℃以下であることを特徴とする前記発明(10)乃至前記発明(14)のリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明(1)乃至(5)、(10)、(11)によれば、マトリックス構造をとることにより活物質と固体電解質が絡み合って活物質と固体電解質の接触面積が大幅に増加し、さらに活物質どうし及び固体電解質どうしの接触面積も大幅に増加するため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗低減、放電容量増加に効果がある。
本発明(3)によれば、特に、活物質どうしの接触面積が大幅に増加し、リチウムイオン二次電池の内部抵抗低減、放電容量増加に効果がある。
本発明(4)によれば、特に、固体電解質どうしの接触面積が大幅に増加し、リチウムイオン二次電池の内部抵抗低減、放電容量増加に効果がある。
本発明(6)乃至(8)、(12)乃至(15)によれば、活物質と固体電解質が絡み合ったマトリックス構造及び/又は活物質からなるマトリックス構造に固体電解質が担持された構造及び/又は固体電解質からなるマトリックス構造に活物質が担持された構造が形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の最良形態について説明する。
本発明の実施例に係るリチウムイオン二次電池は、正極活物質と固体電解質を混合して正極ペーストを調製し、負極活物質と固体電解質を混合して負極ペーストを調製し、固体電解質からなる固体電解質ペーストを調製し、基板上に負極ペースト、固体電解質ペースト、正極ペーストを順に塗布して積層体を形成し、係る積層体を一括焼成して作製する。
本願発明者らは、電極(正極又は負極)を形成する活物質と固体電解質の材料を適宜選択し、電極形成用のペーストを調製する際の材料粉末の混合比率、粉体粒度と添加物(焼結助剤)を適宜選択し、一括焼成工程における焼成条件を最適化することにより、製造された電池の電極層が、固体電解質からなるリチウムイオン伝導性マトリックスと活物質からなる電子伝導性マトリックスが絡み合った構造となり、固体電解質と活物質、固体電解質どうし、活物質どうしの接触面積が増加し、電池の内部抵抗が大幅に低減でき、放電容量を顕著に増加させることが可能になることを見出した。
また、活物質と固体電解質の混合比率などの製造条件によっては、活物質からなるマトリックス構造に固体電解質が担持された構造、又は、固体電解質からなるマトリックス構造に活物質が担持された構造が形成され、固体電解質からなるリチウムイオン伝導性マトリックスと活物質からなる電子伝導性マトリックスが絡み合った構造となる場合と同様の効果が得られる。
正極層及び/又は負極層が、固体電解質からなるリチウムイオン伝導性マトリックスと活物質からなる電子伝導性マトリックスが絡み合った構造となる場合、活物質からなるマトリックス構造に固体電解質が担持された構造、又は、固体電解質からなるマトリックス構造に活物質が担持された構造となる場合のいずれの場合も、固体電解質と活物質の界面抵抗の低減や電子伝導性の向上に加えて、同時に、リチウムイオン伝導性が向上することにより、内部抵抗の大幅な低減が実現するものと考えられる。
ここで、本願明細書において、「マトリックス」又は「マトリックス構造」とは、マトリックスを構成する物質粒子が三次元的に連続して互いに接触した構造体を意味するものとする。また、「三次元的に連続」とは二次元の断面において一部不連続な部分があっても、少なくとも他の断面において連続である面があれば三次元的に連続であるとする。
また、本発明の実施例に係るリチウムイオン二次電池において、導電性物質からなる集電体層を正極層、及び/又は、負極層に積層して電池を製造することが好ましい。これにより電池の内部抵抗をさらに低減することが可能である。
【0009】
本発明の電池の製法に対し、特許文献1に記載された発明では、正極層、中間層、固体電解質層、中間層、負極層の材料となるペーストを調製、塗布して積層体を作製した後、一括焼成を行わずに、この積層体をロール圧延・加熱乾燥して電池を作製している。
また、特許文献2に記載された発明では、正極層、中間層、固体電解質層、中間層、負極層の材料となるペーストを調製、塗布して積層体を作製した後、この積層体をロール圧延・加熱乾燥して電池を作製している。特許文献2では、中間層の材料となる混合粉体を形成する段階で焼成を行っているが、積層体形成後の一括焼成は行っていない。
これらの先行技術により作製された電池で優れた特性が得られないのは、特許文献1では、焼成を行っていないために電極層内にマトリックス構造が形成されない、特許文献2では、粉体を形成する段階では焼成を行っていても、焼成した材料を粉砕して溶媒を加え、ペーストにしてから塗布して電極層を形成し、その後に焼成を行わないために、マトリックス構造が形成されない、或いは、一度マトリックス構造が形成されてもペーストを形成する工程で構造が破壊されてしまうためであると考えられる。
【0010】
[電池の構造]
図1(a)乃至(e)は、本発明の実施例に係る多層全固体型リチウムイオン二次電池を構成する積層体及び電池の構造を、その変形例も含めて示す断面図である。
図1(a)は、最も基本的な積層体の構造を示す断面図である。積層体1は、正極層2と負極層4が固体電解質層3を介して交互に積層されている。後述する電池の製造方法のように、固体電解質シートの上に正極シート又は負極シートを形成してから積層する場合は、図1(a)のように、下面が固体電解質層で上面が電極層である構造が、最も工程数が少ない積層体の構造である。固体電解質層を挟んで、正極層と負極層が積層された積層体を一つの電池セルとすると、図1(a)には、3個の電池セルが積層されている。本発明のリチウムイオン二次電池に関する技術は、図に示す3個の電池セルが積層した場合に限らず、任意の複数層が積層した電池に適用でき、要求されるリチウムイオン二次電池の容量や電流仕様に応じて幅広く変化させることが可能である。本発明の技術によるメリットを十分享受するためには、電池セルの数は2〜500個とするのが好ましく、5〜250個とするのがより好ましい。図1(a)では、例えば、正極層が積層体の左端面に延出し、負極層が積層体の右端面に延出しているが、これは、端面において電極端子を配置する並列型又は直並列型の電池に好適な構造である。本発明のリチウムイオン二次電池に関する技術は、図に示す並列型の電池に限らず、直列型又は直並列型の電池にも適用できる。
図1(b)は、積層体5の上面及び下面に固体電解質層7が配置された構造である。
図1(c)は、積層体9の上面に正極層が配置され、下面に負極層が配置された構造である。図1(c)に示す構造の積層体は、図1(e)に示す電池のように、上面と下面において、導電性の電極端子を電極層に接触させて延出させることができるので、上下端面における電池セルのインピーダンス低減に有効である。
図1(d)は、図1(a)に示す積層体の側面に電極端子を配置し、さらに保護層を配置したリチウムイオン二次電池13の断面図である。電池13の左側面において、正極端子17と正極層14が電気的に接続され、右側面において、負極端子18と負極層18が電気的に接続されている。保護層は、電池の最外層として形成されるもので、電池を電気的、物理的、化学的に保護するものである。保護層の材料は、環境的に安全で、絶縁性、耐久性、耐湿性に優れた材料、例えば、セラミックスや樹脂を用いるのが好ましい。
【0011】
[電池の基本構造]
図3(a)、(b)は、本発明の実施例に係る電池の基本構造を示す断面図である。本発明に係る電池は、実際の製品としては、図1に例を示すように正極層/固体電解質層/負極層からなる積層体が、多数積層された多層構造をとっているが、正極層/固体電解質層/負極層からなる一つの積層体のみを示したものが図3(a)、(b)に示す断面図である。これまで説明したように、本発明の電池の一つの具体例は、図3(a)に示すように、活物質と固体電解質からなるマトリックス構造の正極層51と負極層53の間に固体電解質層52を挟んだ構造をとっている。しかし、それ以外にも、本発明に係る電池は、図3(b)に断面図を示す構造をとることもできる。図3(b)に示す電池は、活物質からなる負極層58、活物質と固体電解質からなる負極側中間層57、固体電解質からなる固体電解質層56、活物質と固体電解質からなる正極側中間層55、活物質からなる正極層54を順次積層した構造をとっている。その製造方法は、各層を形成するペーストを塗布乾燥することにより、各層を順次積層した後、一括して焼成し電池を形成するものである。図3(b)に示す基本構造をとる電池を用いても、図3(a)に示す基本構造をとる電池と同様に、中間層55、57において活物質と固体電解質が混合したマトリックス構造が形成されることにより、内部抵抗の低減、電池容量の増加などの効果が得られる。また、正極層、負極層の両方にマトリックス構造が形成されるわけでなく、そのいずれか一方にマトリックス構造が形成された場合や、そのいずれか一方にマトリックス構造を有する中間層が形成された場合であっても、活物質と固体電解質からなるマトリックス構造が形成されていない電池と比較して、大幅に電池特性が向上するという効果が得られる。
さらに、図3(a)に示す正極層及び/又は負極層、又は、図3(b)に示す中間層において、これらの層を構成する活物質と固体電解質は、層の断面において、それらの面積比が20:80乃至80:20の範囲内であることが好ましい。また、形成されるマトリックス構造は、活物質からなるマトリックス構造に固体電解質が担持された構造であってもよいし、固体電解質からなるマトリックス構造に活物質が担持された構造であってもよい。係る構造をとることにより、活物質どうしの接触面積、又は、固体電解質どうしの接触面積が大幅に増加し、リチウムイオン二次電池の内部抵抗低減、放電容量増加に効果がある。
また、ペーストに含まれる活物質と固体電解質の含有量が異なる複数のペーストを調製して、複数の層を塗り重ねることにより、図3(a)に示す正極層及び/又は負極層、又は、図3(b)に示す中間層における活物質と固体電解質の含有量の厚み方向における分布を制御することが可能である。例えば、厚み方向に活物質又は固体電解質の含有量が傾斜分布をとる正極層、負極層、又は、中間層を持つ電池を作製することができる。例えば、図3(a)に示す正極層において、電解質層側では固体電解質の含有量が多い電池を作製する、或いは、図3(b)に示す正極層と電解質層の間の中間層において、正極層側では活物質の含有量が多く、電解質層側では固体電解質の含有量が多い電池を作製すると、より電子とリチウムイオンの伝導効率が改善され、優れた特性の電池の製造が可能になる。
【0012】
[電池の材料]
(活物質材料)
本発明のリチウムイオン二次電池の電極層を構成する活物質としては、リチウムイオンを効率よく放出、吸着する材料を用いるのが好ましい。例えば、遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物を用いるのが好ましい。具体的には、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムチタン複合酸化物、二酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タングステンなどを用いるのが好ましい。これらの遷移金属酸化物、遷移金属複合酸化物よりなる群から選択した1種の化合物又は2種以上の化合物を用いるのが好ましい。さらに、リチウムマンガン複合酸化物、及び、リチウムチタン複合酸化物は、リチウムイオンの吸着、放出による体積変化が特に小さく、電極の微粉化、剥離が起きにくいため、活物質材料としてより好適に用いることができる。
ここで、正極活物質と負極活物質には明確な区別がなく、2種類の化合物の電位を比較して、より貴な電位を示す化合物を正極活物質として用い、より卑な電位を示す化合物を負極活物質として用いることができる。
【0013】
(固体電解質材料)
本発明のリチウムイオン二次電池の固体電解質層及び電極層を構成する固体電解質としては、電子の伝導性が小さく、リチウムイオンの伝導性が高い材料を用いるのが好ましい。また、大気雰囲気で高温焼成できる無機材料であることが好ましい。例えば、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.5P0.5O4)、リン酸チタンリチウム(LiTi2(PO4)3)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2O-SiO2、Li2O-V2O5-SiO2、Li2O- P2O5-B2O3、Li2O-GeO2よりなる群から選択される少なくとも1種の材料を用いるのが好ましい。さらに、これらの材料に、異種元素や、Li3PO4、LiPO3、Li4SiO4、Li2SiO3、LiBO2等をドープした材料を用いてもよい。また、固体電解質層の材料は、結晶質、非晶質、ガラス状のいずれであってもよい。
【0014】
(添加物)
電極層を形成する正極ペースト、負極ペースト、及び、固体電解質層を形成する固体電解質ペーストには、添加物としてホウ素化合物を混合するのが好ましい。活物質と固体電解質を混合したペーストを焼成して電極層を形成する際に、ホウ素化合物を添加することにより、電極層内におけるマトリックス構造の形成を促進する効果が得られる。また、電池を構成する正極材、固体電解質材、負極材の各部材に対し焼結助剤を添加し、焼結助剤の添加量と焼成温度を調整することで各部材の収縮挙動が同一になるように制御することが可能であり、電池の内部歪や内部応力によるデラミネーションやクラックを防止することが可能である。焼結助剤を添加することで、焼成温度を低下させることが可能になり、焼成炉の電力コストなど製造コストの低減に効果がある。
【0015】
[電池の製造方法]
本発明の全固体型リチウムイオン二次電池を構成する積層体は、積層体を構成する正極層、固体電解質層、負極層、及び、任意の保護層の各材料をペースト化し、塗布乾燥してグリーンシートを作製し、係るグリーンシートを積層し、作製した積層体を一括焼成することにより製造する。
ここで、ペースト化に使用する正極活物質、負極活物質、固体電解質の各材料は、それぞれの原料である無機塩等を仮焼したものを使用することができる。仮焼により、原料の化学反応を進め、一括焼成後にそれぞれの機能を十分に発揮させる点からは、正極活物質、負極活物質、固体電解質の仮焼温度は、いずれも700℃以上とするのが好ましい。
ペースト化の方法は、特に限定されないが、例えば、有機溶媒とバインダーのビヒクルに、上記の各材料の粉末を混合してペーストを得ることができる。例えば、正極活物質としてLiMnの粉末と固体電解質としてLi3.5Si0.50.5の粉末の混合物を所定の体積比で混合し、混合物を溶媒とビヒクルに分散して、正極ペーストを作製することができる。また、負極活物質としてLi4/3Ti5/3の粉末と固体電解質としてLi3.5Si0.50.5の粉末の混合物を所定の体積比で混合し、混合物を溶媒とビヒクルに分散して、負極ペーストを作製することができる。活物質粉末と固体電解質粉末の粒子の直径(粒径、粉体粒度)は、正極活物質、負極活物質、固体電解質のいずれも、3μm以下とするのが好ましい。また、活物質粉末と固体電解質粉末の粒径比は、正極活物質、負極活物質のいずれの場合も、活物質:固体電解質が、1:50〜50:1とするのが好ましい。以上の範囲の粒径、粒径比であれば、焼成により電極層中にマトリックス構造が適切に形成されるため、内部抵抗低減、放電容量増加など電池の性能向上に有効である。活物質粉末と固体電解質粉末を混合する体積比は、80:20〜20:80の範囲とするのが好ましい。さらに、固体電解質としてLi3.5Si0.50.5の粉末を溶媒とビヒクルに分散して、固体電解質ペーストを作製することができる。
なお、正極層及び/又は負極層を形成するペーストの材料として、活物質と固体電解質に加えて、本願発明の達成する効果を損なわない範囲で少量の導電性物質を混合してもよい。係る導電性物質を混合する体積比は、活物質:固体電解質:導電性物質=X:Y:Zとして、X:Y=80:20〜20:80、Z:X+Y+Z=1:100~80:100とするのが好ましい。
作製したペーストをPETなどの基材上に所望の順序で塗布し、必要に応じ乾燥させた後、基材を剥離し、グリーンシートを作製する。ペーストの塗布方法は、特に限定されず、スクリーン印刷、塗布、転写、ドクターブレード等の公知の方法を採用することができる。
作製した正極層用、固体電解質層用、負極層用のそれぞれのグリーンシートを所望の順序、積層数で積み重ね、必要に応じアライメント、切断等を行い、積層体を作製する。並列型又は直並列型の電池を作製する場合は、正極層の端面と負極層の端面が一致しないようにアライメントを行い積み重ねるのが好ましい。
作製した積層体を一括して圧着する。圧着は加熱しながら行うが、加熱温度は、例えば、40〜80℃とする。圧着した積層体を、例えば、大気雰囲気下で加熱し焼成を行う。ここで、焼成とは焼結を目的とした加熱処理のことを言う。焼結とは、固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱すると、固まって焼結体と呼ばれる緻密な物体になる現象のことを言う。本発明のリチウムイオン二次電池の製造では、焼成温度は、600〜1100℃の範囲とするのが好ましい。600℃未満では、電極層中にマトリックス構造が形成されず、1100℃を超えると、固体電解質が融解する、正極活物質、負極活物質の構造が変化するなどの問題が発生するためである。焼成時間は、例えば、1〜3時間とする。
【0016】
製造方法の第一の具体例として、下記工程(1)〜(5)を含む多層全固体型リチウムイオン二次電池の製造方法が挙げられる。図2(a)乃至(e)は、本発明の実施例に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の具体例を示す工程順断面図である。
工程(1):固体電解質と正極活物質を含む正極ペースト、固体電解質と負極活物質を含む負極ペースト、固体電解質の粉末を含む固体電解質ペーストを準備する。
工程(2):PET基材31上に固体電解質ペーストを塗布乾燥し、固体電解質シート32を作製する(図2(a))。以下、グリーンシートを単にシートと呼ぶことにする。次に、固体電解質シート34の上に、正極ペーストを塗布乾燥し、正極シート35を作製する(図2(b))。また、固体電解質シート36の上に、負極ペーストを塗布乾燥し、負極シート38を作製する(図2(b))。
工程(3):固体電解質シートと正極シートが積層した正極ユニットをPET基材から剥離する。また、固体電解質シートと負極シートが積層した負極ユニットをPET基材から剥離する。次に、正極ユニットと負極ユニットを交互に積層し、固体電解質シート42を介して正極シート43と負極シート44が交互に積層した積層体を作製する。この時、必要に応じて、積層体の一方の側面には負極シートが露出せず、もう一方の側面には正極シートが露出しないように、正極ユニットと負極ユニットのアライメントを行って積層する(図2(c))。
工程(4):積層体を焼成し、焼結積層体を作製する(図2(d))。
工程(5):積層体の側面に、正極層47と接続するように正極端子47を形成し、負極層46と接続するように負極端子49を形成する。電極端子(引き出し電極)の形成は、例えば、引出電極ペーストを電池の各側面に塗布後、600〜1100℃の温度で焼成して設けることができる。図示しないが、必要に応じ、積層体の最外部に保護層を形成して、電池を完成する。
【0017】
また、製造方法の第二の具体例として、下記工程(i)〜(iii)を含む多層全固体型リチウムイオン二次電池の製造方法も挙げられる。
工程(i):固体電解質と正極活物質を含む正極ペースト、固体電解質と負極活物質を含む負極ペースト、リチウムイオン伝導性無機物質の粉末を含む固体電解質ペーストを準備する。
工程(ii):正極ペースト、固体電解質ペースト、負極ペースト、固体電解質ペーストの順序で塗布乾燥し、グリーンシートからなる積層体を作製する。この時、必要に応じて、積層体の一方の側面には負極シートが露出せず、もう一方の側面には正極シートが露出しないように、正極ユニットと負極ユニットのアライメントを行って積層する。
工程(iii):必要に応じ、グリーンシートの作製に用いた基材を剥離して、積層体を焼成し、焼結積層体を作製する。
工程(iv):積層体の側面に、正極層と接続するように正極端子を形成し、負極層と接続するように負極端子を形成する。必要に応じ、積層体の最外部に保護層を形成して、電池を完成する。
電極層に集電体層を積層した構造の電池を作製する場合は、製造方法の第三の具体例として、下記工程(1’)〜(5’)を含む多層全固体型リチウムイオン二次電池の製造方法が挙げられる。 工程(1’):固体電解質と正極活物質を含む正極ペースト、固体電解質と負極活物質を含む負極ペースト、固体電解質の粉末を含む固体電解質ペーストを準備する。 工程(2’):PET基材上に固体電解質ペースト、正極ペースト、正極集電体ペースト、正極ペーストの順序で、ペーストを塗布し、場合により乾燥させた後、基材を剥離して正極ユニットを作製し、基材上に固体電解質ペースト、負極ペースト、負極集電体ペースト、負極ペーストの順序で、ペーストを塗布し、場合により乾燥させた後、基材を剥離して負極ユニットを作製する。 工程(3’):正極ユニットと負極ユニットを交互に積層し、固体電解質シートを介して正極シートと負極シートが交互に積層した積層体を作製する。この時、必要に応じて、積層体の一方の側面には負極シートが露出せず、もう一方の側面には正極シートが露出しないように、正極ユニットと負極ユニットのアライメントを行って積層する。 工程(4’):積層体を圧着、焼成し、焼結積層体を作製する。 工程(5’):積層体の側面に、正極層と接続するように正極端子を形成し、負極層と接続するように負極端子を形成する。電極端子(引き出し電極)の形成は、例えば、引出電極ペーストを電池の各側面に塗布後、600〜1100℃の温度で焼成して設けることができる。図示しないが、必要に応じ、積層体の最外部に保護層を形成して、電池を完成する。
【0018】
[類似の先行技術との相違点]
特許文献3には、PETフィルム上に正極活物質と低融点ガラスを混合し正極スラリーを調製した正極スラリーを塗布して正極層を形成し、活物質、固体電解質、低融点ガラスを混合して調製した正極側混合層スラリーを正極層上に塗布して正極側混合層を形成し、固体電解質、低融点ガラスを混合して調製した固体電解質スラリーを正極側混合層上に塗布して固体電解質層を形成し、活物質、固体電解質、低融点ガラスを混合して調製した負極側混合層スラリーを固体電解質層上に塗布して負極側混合層を形成し、負極活物質と低融点ガラスを混合し調製した負極スラリーを負極側混合層上に塗布して負極層を形成し、成形された積層生シートを一括焼成して電池を形成する技術が記載されている。
特許文献3における混合層は、活物質、固体電解質以外に、これらを強固に結着するために低融点ガラスを加えて形成している。しかし、特許文献3の段落[0037]に記載されているように、非晶質材料であるガラスは、熱処理の過程で電極の活物質と反応を起こしやすく、反応層を形成して界面抵抗を大きくするという問題がある。それに対し、本発明に係る電池は、材料や製造の条件を適宜選択することによりガラスを混合せずに強固な電極層を形成できるので、界面抵抗増加の問題は発生しない。
特許文献4には、導電性を有する粒子を分散させた固体電解質と活物質である金属酸化物との焼結体で電極層を形成した電池が開示されている。実施例では液体の電解質層が記載されているが、電解質層としては固体でも液体でもよいとしている。電極形成後、大気中550℃で焼成を行っている。金属酸化物と固体電解質の焼結体で電極活物質体を形成することにより、活物質の充填率が向上し、電極内の活物質と固体電解質の接触面積を広く確保でき、さらに、電極内のインピーダンスを低くすることができるとしている。
しかしながら、特許文献4に記載された技術により作製された電池は、焼結温度が低すぎて、電極内にマトリックス構造が形成されず、実際には、内部抵抗の大幅な低減、電池の大容量化が実現できないという問題がある。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、部表示は、断りのない限り、重量部である。
【0020】
[実施例1]
(正極ペーストの作製)
正極活物質として、以下の方法で作製したLiMnを用いた。
LiCOとMnCOとを出発材料とし、これらをモル比1:4となるように秤量し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を800℃で2時間、空気中でか焼した。か焼品を粗粉砕し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥して正極活物質粉末を得た。この粉体の平均粒径は0.30μmであった。作製した粉体の組成がLiMnであることは、X線回折装置を使用して確認した。
正極ペーストは、予め固体電解質として用いたLi3.5Si0.50.5と正極活物質粉末として用いたLiMnを体積比にして10:90〜90:10で混合したもの100部と、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、三本ロールで混練・分散して正極ペーストを作製した。
(負極ペーストの作製)
負極活物質として、以下の方法で作製したLi4/3Ti5/3を用いた。
LiCOとTiOを出発材料として、これらをモル比2:5となるように秤量し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を800℃で2時間、空気中でか焼した。か焼品を粗粉砕し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥して負極活物質粉末を得た。この粉体の平均粒径は0.32μmであった。作製した粉体の組成がLi4/3Ti5/3であることは、X線回折装置を使用して確認した。
負極ペーストは、予め固体電解質として用いたLi3.5Si0.50.5と負極活物質粉末として用いたLi4/3Ti5/3を体積比にして50:50で混合したもの100部と、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、三本ロールで混練・分散して負極ペーストを作製した。
(固体電解質シートの作製)
固体電解質として、以下の方法で作製したLi3.5Si0.50.5を用いた。
LiCOとSiOとLiPOを出発材料として、これらをモル比2:1:1となるように秤量し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を950℃で2時間、空気中でか焼した。か焼品を粗粉砕し、水を溶媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥してリチウムイオン伝導性無機物質の粉末を得た。この粉体の平均粒径は0.54μmであった。作製した粉体の組成がLi3.5Si0.50.5であることは、X線回折装置を使用して確認した。
次いで、この粉末100部に、エタノール100部、トルエン200部をボールミルで加えて湿式混合し、その後ポリビニールブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合してリチウムイオン伝導性無機物質ペーストを調製した。このリチウムイオン伝導性無機物質ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシート成形し、厚さ13μmのリチウムイオン伝導性無機物質シートを得た。
(集電体ペーストの作製)
重量比70/30のAg/Pd100部を用い、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて三本ロールミルで混練・分散して集電体ペーストを作製した。ここで重量比70/30のAg/Pdは、Ag粉末(平均粒径0.3μm)及びPd粉末(平均粒径1.0μm)を混合したものを使用した。
(引出電極ペーストの作製)
Ag粉末100部とガラスフリット5部を混合し、バインダーとしてエチルセルロース10部、溶媒としてジヒドロターピネオール60部とを加えて、三本ロールで混練・分散して引出電極ペーストを作製した。
これらのペーストを用いて、図2(e)に示す構造の多層形の全固体型リチウムイオン二次電池を作製した。
(正極ユニットの作製)
上記の厚さ13μmのリチウムイオン伝導性無機物質シートのPETフィルムとは反対の面に、スクリーン印刷により厚さ8μmで正極ペーストを印刷した。次に、印刷した正極ペーストを80〜100℃で5〜10分間乾燥し、その上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで正極集電体ペーストを印刷した。次に、印刷した正極集電体ペーストを80〜100℃で5〜10分間乾燥し、その上に、スクリーン印刷により厚さ8μmで正極ペーストを再度印刷した。印刷した正極ペーストを80〜100℃で5〜10分間乾燥した。このようにして、リチウムイオン伝導性無機物質シート上に、正極ペースト、正極集電体ペースト、正極ペーストがこの順に印刷された正極ユニットのシートを得た。
(負極ユニットの作製)
上記の厚さ13μmのリチウムイオン伝導性無機物質シートのPETフィルムとは反対の面に、スクリーン印刷により厚さ8μmで負極ペーストを印刷した。次に、印刷した負極ペーストを80〜100℃で5〜10分間乾燥し、その上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで負極集電体ペーストを印刷した。次に、印刷した負極集電体ペーストを80〜100℃で5〜10分間乾燥し、その上に、スクリーン印刷により厚さ8μmで負極ペーストを再度印刷した。印刷した負極ペーストを80〜100℃で5〜10分間乾燥した。このようにして、リチウムイオン伝導性無機物質シート上に、負極ペースト、負極集電体ペースト、負極ペーストがこの順に印刷された負極ユニットのシートを得た。
(積層体の作製)
正極ユニットと負極ユニットから、それぞれPETフィルムを剥離した後、リチウムイオン伝導性無機物質を介するようにして、それぞれ2個のユニットを交互に積み重ねた。このとき、正極集電体が一の端面にのみ延出し、負極集電体が他の面にのみ延出するように、正極ユニットと負極ユニットをずらして積み重ねた。その後、これを温度80℃で圧力1000kgf/cm2で成形し、次いで切断して積層ブロックを作製した。その後、積層ブロックを焼成して積層体を得た。焼成は、空気中で昇温速度200℃/時間で1000℃まで昇温して、その温度に2時間保持し、焼成後は自然冷却した。こうして得られた焼結後の積層体における各リチウムイオン伝導性無機物質の厚さは7μm、正極層の厚さは5μm、負極層の厚さは6μmであった。また、積層体の縦、横、高さはそれぞれ8mm×8mm×0.1mmであった。
(引出電極の形成)
積層体の端面に引出電極ペーストを塗布し、800℃で焼成し、一対の引出電極を形成して、全固体型リチウムイオンニ次電池を得た。
【0021】
[比較例1]
(正極活物質ペーストの作製)
実施例と同様にして作製したLiMn100部に、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、三本ロールで混練・分散して正極活物質ペーストを作製した。
(負極活物質ペーストの作製)
また、実施例と同様にして作製したLi4/3Ti5/3粉末100部に、バインダーとしてエチルセルロース15部と、溶媒としてジヒドロターピネオール65部とを加えて、三本ロールで混練・分散して負極活物質ペーストを作製した。
正極ユニットおよび負極ユニットを固体電解質ペースト、正極活物質ペースト又は負極活物質ペースト、集電体ペースト、正極活物質ペースト又は負極活物質ペーストの順序でペーストを塗布、乾燥して作製した以外は、実施例と同様にして電池を組み立てた。こうして得られた焼結後の積層体における固体電解質層の厚さは7μm、正極活物質層の厚さは5μm、負極活物質層の厚さは5μm、集電体層の厚さは3μmであった。
【0022】
[評価]
正極集電体及び負極集電体と接続されたそれぞれの引出電極にリード線を取り付け、電池の容量測定及び内部抵抗測定を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも0.1μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V、0.5Vとした。30サイクル目における放電容量を表1に示す。また、放電時における電圧低下から算出した内部抵抗値を表1に併せて示す。図5及び図6は、これらのデータをグラフにしたものである。さらに、充放電を30回繰り返したときの容量の推移(サイクル特性)を図7に示す。
【表1】

図5により、放電容量は固体電解質比率が約50vol%までは増加し、その後は低下することがわかった。また、図6によれば、内部抵抗は固体電解質比率が約50vol%までは低下し、その後は増加することがわかった。その理由としては、固体電解質の比率が増加するほど、一括焼成時における固体電解質層と正極活物質層の焼結挙動は一致し、良好な接合界面が形成できると考えられる。また、固体電解質と活物質の接触面積が増大するため固体電解質/正極活物質間の界面抵抗が減少する。さらに、活物質よりもイオン伝導率の高い固体電解質が正極活物質層内のイオン伝導を担うため、正極層内のイオン伝導が見掛け上高くなる。一方、固体電解質の比率が増加するほど、実質の電池反応に寄与する活物質の量が減少する。これらの要因のバランスにより、固体電解質比率50vol%までは内部抵抗が大きく低下し、結果として放電容量が増加するが、それよりも大きい比率では内部抵抗が増大し、放電容量が低下したと考えられる。以上の結果より、固体電解質の最適量は20〜80vol%であることがわかった。
図7より、いずれのサンプルにおいても30サイクルまで容量の低下はみられず、高い信頼性を有することが確認された。
(電池断面のSEM画像とEDS画像)
次に、SEMを用いて実施例1により作製した固体電解質比率70vol%の電池のEDSによる成分分析結果を行った。また、電池の正極層と同じ組成の焼結体を水に浸漬させることにより固体電解質を除去したサンプルのSEM観察を行った。その結果を図4に示す。EDS画像(a)及びSEM画像(b)より、正極活物質で構成されたマトリックスに固体電解質マトリクスが絡み合った構造であることが確認された。
さらに、電池の正極層と同じ固体電解質比率70vol%の圧粉体を500℃及び1000℃で焼成したサンプルの断面のSEM観察を行った。その結果を図4(c)〜(e)に示す。500℃焼成後の正極層の断面写真(c)では、正極活物質及び固体電解質の粉が点在している様子がみられ、固体電解質又は正極活物質で構成されたマトリックスは確認されなかった。また、この焼結体を水に浸漬したところ、焼結体は崩れ、形状を保持できなかったことからも正極活物質のマトリックスが形成されていないことが確認された。一方、1000℃焼成後の正極層の断面写真では、正極活物質及び固体電解質は焼結している様子がみられた。そして、その焼結体を水に浸漬し、固体電解質を除去した後の断面写真である図4(e)より、正極活物質からなるマトリックスに固体電解質が絡み合った構造が形成されていることが確認された。以上の結果から、焼成条件を適正化することにより、活物質と固体電解質が絡み合ったマトリックス構造が形成できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
以上のように、本発明に係るリチウムイオン二次電池およびその製造方法は、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の低減、放電容量の増加に効果がある。高性能、小型大容量の電池を提供することにより、特に、エレクトロニクスの分野で大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)乃至(e)は、本発明の実施例に係るリチウムイオン二次電池の断面図である。
【図2】(a)乃至(e)は、本発明の実施例に係るリチウムイオン二次電池の製造方法の具体例を示す工程順断面図である。
【図3】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の実施例に係るリチウムイオン二次電池の基本構造の断面図の第一の具体例、及び、第二の具体例である。
【図4】(a)乃至(e)は、本発明のリチウムイオン二次電池のEDS分析による断面写真と正極層のSEMによる断面写真である。
【図5】本発明のリチウムイオン二次電池に係る放電容量の正極層組成依存性のグラフである。
【図6】本発明のリチウムイオン二次電池に係る内部抵抗の正極層組成依存性のグラフである。
【図7】本発明のリチウムイオン二次電池に係るサイクル特性の正極層組成依存性のグラフである。
【図8】従来のリチウムイオン二次電池の基本構造の断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1、5、9 積層体
13、21 電池
2、6、10、14、22 正極層
3、7、11、15、23 固体電解質層
4、8、12、16、24 負極層
17、25 正極端子
18、26 負極端子
19、20、27、28 保護層
31、33、36 PET基板
32、34、37、39 固体電解質シート
35、41 正極シート
38、40 負極シート
42、45 固体電解質層
43、47 正極層
44、46 負極層
48 正極端子
49 負極端子
51 活物質と固体電解質を混合した正極層
52 固体電解質層
53 活物質と固体電解質層を混合した負極層
54 活物質からなる正極層
55、57 活物質と固体電解質を混合した中間層
56 固体電解質層
58 活物質からなる負極層
101 正極層
102 固体電解質層
103 負極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、正極層と負極層が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなる多層全固体型のリチウムイオン二次電池において、前記正極層及び/又は前記負極層の構造が活物質と固体電解質からなるマトリックス構造であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
少なくとも、正極層と負極層が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなる多層全固体型のリチウムイオン二次電池において、前記正極層及び/又は前記負極層と固体電解質層の間に中間層が形成され、前記中間層の構造が活物質と固体電解質からなるマトリックス構造であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記構造が活物質からなるマトリックス構造に固体電解質が担持された構造であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記構造が固体電解質からなるマトリックス構造に活物質が担持された構造であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記マトリックス構造が、活物質と固体電解質を混合したペーストを塗布し、焼成により形成された構造であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記焼成の温度が、600℃以上、1100℃以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記マトリックス構造の断面における活物質と固体電解質の面積比が20:80乃至80:20の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記正極層、及び、前記負極層、及び/又は、前記中間層を構成する活物質の始発材料が、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムチタン複合酸化物、二酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化タングステンよりなる群から選択した1種の化合物又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記正極層、及び、前記負極層、及び/又は、前記中間層を構成する電解質の始発材料が、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.5P0.5O4)、リン酸チタンリチウム(LiTi2(PO4)3)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe2(PO4)3)、Li2O-SiO2、Li2O-V2O5-SiO2、Li2O- P2O5-B2O3、Li2O-GeO2よりなる群から選択した1種の化合物又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
少なくとも、電解質層用グリーンシートを介して正極層用グリーンシートと負極層用グリーンシートとを交互に積層し積層体を形成する積層工程と、前記積層体を一括して焼成して焼結積層体を形成する工程を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記正極層用グリーンシート及び/又は前記負極層用グリーンシートを、少なくとも活物質と固体電解質を混合したペーストを塗布して形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項11】
少なくとも、電解質層用グリーンシートを介して正極層用グリーンシートと負極層用グリーンシートとを交互に積層し積層体を形成する積層工程と、前記積層体を一括して焼成して焼結積層体を形成する工程を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記正極層用グリーンシートと前記電解質層用グリーンシート、及び/又は、前記負極層用グリーンシートと前記電解質層用グリーンシートの間に中間層用グリーンシートを配置し、前記中間層を、少なくとも活物質と固体電解質を混合したペーストを塗布して形成することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記ペーストを構成する前記活物質からなる粉末と前記固体電解質からなる粉末の粉体粒度が3μm以下であることを特徴とする請求項10又は11のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記ペーストを構成する前記活物質からなる粉末と前記固体電解質からなる粉末を混合する体積比率が20:80乃至80:20の範囲内であることを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項14】
前記ペーストに添加物としてホウ素化合物を混合することを特徴とする請求項10乃至13のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項15】
前記積層体の焼成温度が、600℃以上、1100℃以下であることを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−140725(P2010−140725A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314737(P2008−314737)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度から平成20年度、経済産業省、「戦略的基盤技術高度化支援事業(全固体蓄電部品の開発)」、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】