説明

リチウムイオン二次電池及びその製造方法

【課題】構造が簡素であり、また、製造が容易であり、ショート不良が生じないリチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】正極集電体1と負極集電体2が固体電解質層3を介して交互に積層した積層体からなり、前記固体電解質層3が固体電解質からなるマトリックスに活物質4を含んでおり、固体電解質の体積と活物質4の体積の比が90:10〜65:35であること特徴とするリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及びその製造方法に係る。特に、製造が容易で、簡素な構造を有するリチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。これらの要望に応じるために、複数の正極層と負極層が電解質層を介して積層された多層型のリチウムイオン二次電池が一般的に提案されている。
多層型のリチウムイオン二次電池は、厚さ数十μmの電池セルを積層して組み立てられるため、電池の小型軽量化、薄型化を容易に実現できる。電解液の代わりに固体電解質を用いた全固体型リチウムイオン二次電池は、液漏れ、液の枯渇の心配がなく、信頼性が高い。更に、リチウムを用いる電池であるため、高い電圧、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0003】
電解質層に無機固体電解質を用いた全固体型リチウム電池は、図6に示すように、電解質層を介して正極活物質層と負極活物質層を順に積層して積層体を形成することにより作製される。
PET等の基板上に形成された固体電解質100a上に負極活物質101a、負極集電体102a、負極活物質103aを印刷し、負極ユニットを作製する。 負極ユニット104aと同様に、PET等の基板上に形成された固体電解質100b上に正極活物質101b、正極集電体102b、正極活物質103bを印刷し、正極ユニット104bを作製する。
その際、負極ユニット104aの場合は、図面において、左側に段差を105aを設け、正極ユニット104bの場合は、図面において右側に段差105bを設ける。かかる段差を設けておくことにより、同一極の集電体からの取り出しを一括して行うことができるようにする。
しかし、図6に示す構造においては、負極ユニット104aを作製するだけで、3回の印刷を行わざるを得ない。のみならず、印刷を行うたびに下地のシートは荒らされてしまう(シートアタックと称される。)。また、段差105aは、活物質101a、負極集電体102a、活物質103aの三層分の厚みがあり、この段差105aの大きさが設計上、あるいはプロセス上の制約となっていた。
図6に示す構造に対し、より構造を簡素化し、また、製造の簡便化を図った技術が特許文献1により提示されている。
すなわち、特許文献1に記載されている技術は、複数の価数変化が可能で、それぞれの価数変化に対応した異なるレドックス電位を有する活物質材料を含む単一層からなる単層活物質層と、単層活物質層の一方の表面に配置された正極集電極と、単層活物質層の他方の表面に配置された負極集電極と、を備えた全固体二次電池である。
この技術は、図6に示すような、正極活物質層、電解質層、及び負極活物質層という3層構造の内部電極体に代えて、正極と負極とのそれぞれの電極となり得る活物質を含む単一層からなる単層活物質層を用いた技術である。特許文献1は、単層活物質層にさらに固体電解質を含む場合も開示している。
特許文献1記載技術は、正極集電電極、負極集電電極、単層活物質層の3層を単位構成としており、構造が簡素であり、また、製造が容易である。
しかし、この技術を実際に用いて二次電池を実装してみるとショート不良が生じてしまうことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−123389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、構造が簡素であり、また、製造が容易であり、ショート不良が生じないリチウムイオン二次電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、正極集電体と負極集電体が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなり、前記固体電解質層が固体電解質からなるマトリックスに活物質を含んでおり、該活物質は、前記正極集電体と前記負極集電体との間で非連続であることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
請求項2に係る発明は、正極集電体と負極集電体が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなり、前記固体電解質層が固体電解質からなるマトリックスに活物質を含んでおり、固体電解質の面積と活物質の面積の比が90:10〜65:35であることを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
請求項3に係る発明は、前記正極集電体および/または前記負極集電体は導電性物質のマトリックスに活物質を含んでいることを特徴とする請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池である。
正極集電体および/または負極集電体が導電性物質のマトリックスに活物質を含んでいると、固体電解質層との接合が良好で内部抵抗が低く高容量のリチウムイオン二次電池を得ることができる。正極集電体および/または負極集電体の断面における活物質と導電性物質の面積比が20:80ないし65:35の範囲内にあることが高容量を得るうえで好ましい。
請求項4に係る発明は、前記活物質は、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、リチウムチタン複合酸化物のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池である。
請求項5に係る発明は、固体電解質層には、前記固体電解質と前記活物質との反応生成物が存在していない請求項1ないし4のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池である。
固体電解質と活物質とは、その材料の組み合わせによっては焼成時に反応する。反応により両者の界面には反応生成物が介在する。活物質と導電性材料との間の反応生成物の場合とは異なり、固体電解質と活物質との間の反応生成物は界面抵抗を高める結果となることを確認した。従って、焼成時に両者が反応しない組み合わせを選択することが好ましい。
また、反応する組み合わせであったとしても、焼成温度を500℃〜600℃において行えば、反応を抑制することができる。500℃〜600℃の温度における焼成であっても、十分な焼結は行われる。固体電解質層あるいは集電体層の層厚を本発明では薄くすることが可能であることが影響しているのではないかと推測される。
請求項6に係る発明は、前記固体電解質は、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.50.5)、リン酸チタンリチウム(LiTi(PO)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe(PO)、LiO−SiO、LiO−V−SiO、LiO−P−B、LiO−GeOよりなる群から選択される少なくとも1種の材料であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池である。
請求項7に係る発明は、前記固体電解質は、リチウムの酸化物又はリチウムを含み多価遷移元素を含まないポリアニオン酸化物であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池である。
かかる、活物質あるいは固体電解質した場合にはショート不良を起こすことなくインピーダンスが低く、かつ、高い放電容量を有する二次電池を実現することが可能となる。
請求項8に係る発明は、固体電解質層内には、固体電解質と活物質との反応生成物は存在していなことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池である。
固体電解質と活物質との反応生成物は生成物によっては界面抵抗を高くすることがある。従って、反応生成物の存在しない界面とすることにより界面抵抗の増大を防止することができる。
請求項9に係る発明は、正極集電体及び負極集電体の厚さは0.2μm〜30μmであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池である。
本発明に係る二次電池は、最小ユニットは正極集電体、固体電解質層、負極集電体の3層構造である。従って、電池製造過程において形成される段差の大きさは集電体の層厚により決まる。
厚さが0.2μm以下では、焼成工程において集電体が途切れ、有効電池面積が低下し、電池容量が低下するためである。
厚さが30μmを超えると積層体内部と段差で密度ムラが生じクラックや剥離が生じ、歩留まりが低下するためである。
請求項10に係る発明は、固体電解質材料中に活物質材料を含む固体電解質シートを作製し、
正極集電体と負極集電体を該固体電解質シートを介して交互に積層し、
次いで、焼成を行うリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
該活物質の含有量は、焼成後において、正極集電体と負極集電体との間で連続しない量とすることを特徴とするリチウ二次電池の製造方法である。
請求項11に係る発明は、固体電解質材料と活物質材料の体積比を90:10〜65:35であること特徴とする請求項10記載のリチウとム二次電池の製造方法である。
請求項12に係る発明は、前記焼成は、500〜1100℃の温度で1〜240分保持して行うことを特徴とする請求項10又は11記載のリチウムイオン二次電池の製造方法である。
請求項13に係る発明は、前記焼成は500〜600℃において行うことを特徴とする請求項12記載のリチウムイオン二次電池の製造方法である。
請求項14に係る発明は、前記温度への昇温速度は、1〜50℃/minであることを特徴とする請求項10ないし13のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池の製造方法である。
本発明者は、特許文献1に記載された技術についてショート不良が発生する原因の探求を行った。
特許文献1記載技術は、活物質からなる単層活物質層に正負の集電電極を設けた構造を基本としており、正集電電極と負集電電極間には活物質が連続し、両電極間は連通状態となっている。活物質層に固体電解質を添加した場合であっても活物質層が母相となり、そこに固体電界質を含ませているため、両電極間には活物質が連続して存在し、両極間は連通状態となっている。現に、特許文献1の[0070](実施例1)を見ると、活物質材料(Li(PO、密度3.23g/cm)に固体電解質(Li1.5Al0.5Ge1.5(PO、密度3.46g/cm)を質量比が1:1となるように混合した粉末を電極としている。この重量比を体積比に換算すると51.7:48.3となり、活物質は正極集電体と負極集電体間で連続し、導通するため、電子伝導性の高い活物質材料は使用できず、電池のインピーダンスが高い。
ショート不良の原因が正負集電体間での活物質の連続性にあるのではないかとの着想のもとに、固体電解質を母相として活物質の添加量を変えて実験を行った。
その結果、ある値を臨界として、ショート不良は急激に減少した。
すなわち、固体電解質からなるマトリックス(母相)と活物質の比率が電池断面の面積比(体積比)で65:35以上とした場合にはショート不良は著しく減少した。
この場合における断面を観察したところ、活物質は正極集電体と負極集電体との間をつないでおらず、活物質を介して両電極が連通はしていなかった。
本発明は、以上の知見に基づきなされたものである。
本発明では、活物質は正極集電体と負極集電体との間で連続せず、両電極間を導通しないため、電子伝導性の高い活物質材料を(低い活物質材料も)使用できる。そのため、電池のインピーダンスが低く、また必ず正極集電体側の活物質と負極集電体側の活物質が固体電解質を介しているため、歩留り良く高信頼性を有する全固体電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、次の諸々の効果を奏する。
構造が簡素であり、また、製造が容易であり、ショート不良が生じないリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
正極集電体側の活物質と負極集電体側の活物質が固体電解質を介しているため、歩留り良く高信頼性を有する全固体電池を得ることができる。
異材質である活物質と固体電解質の接触面積を大きくできることから、剥離やクラックを抑制でき、界面抵抗の低減、電池特性の向上に効果がある。
固体電解質を薄層化でき、インピーダンスの低減、電池特性の向上に効果がある。
段差を小さくできるため構造的に無理なく作製できる。
(すなわち、段差が大きいと、例えば、積層体内部と段差において密度ムラが生じ、クラックや剥離が生じる。だが、本発明によれば、段差が小さいため例えば、剥離やクラックを抑制でき、界面抵抗の低減、電池特性の向上に効果がある。)
また、印刷回数を少なくでき、印刷時に生ずるおそれがあるシートアタックが抑制されることによる電池歩留まりの向上、プロセスコスト削減に大きな効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係る二次電池の構造及び製造過程を示す概念図である。
【図2】活物質の体積比を変えた場合の放電容量の変化を示すグラフである。
【図3】放電サイクル数に対する放電容量の変化を示すグラフである。
【図4】放電サイクル数に対する内部抵抗の変化を示すグラフである。
【図5】活物質の体積比を変えた場合の内部抵抗の変化を示すグラフである。
【図6】従来例に係る電池の構造を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について構成要件ごとに説明する。
本発明では、正極集電体と負極集電体が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなり、前記固体電解質層が固体電解質からなるマトリックスに活物質を含んでおり、該活物質は、前記正極集電体と前記負極集電体との間で連続しないようにしてある。
活物質は、前記正極集電体と前記負極集電体との間で連続しないようにするには、固体電解質層への活物質の添加割合を、固体電解質と活物質の体積比を65:35以下とすればよい。
固体電解質粉末と活物質粉末の混合粉末作製のときに、両者の体積比を65:35以下とすれば、焼成後における固体電解質層においてもその体積比は維持される。従って、体積比は原料調合時に容易に調整することが可能である。
なお、活物質の添加とともに放電容量は増加し始めるが、例えば、90:10において既に特許文献1よりも高い放電容量が得られる。なお、この値は、電流値を0.3μAとした場合の値である。
(固体電解質の材料)
本発明のリチウムイオン二次電池の固体電解質層を構成する固体電解質としては、電子の伝導性が小さく、リチウムイオンの伝導性が高い材料を用いるのが好ましい。また、大気雰囲気で焼成できる無機材料であることが好ましい。例えば、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.50.5)、リン酸チタンリチウム(LiTi(PO)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe(PO)、LiO−SiO、LiO−V−SiO、LiO−P−B、LiO−GeOよりなる群から選択される少なくとも1種の材料を用いるのが好ましい。さらに、これらの材料に、異種元素や、LiPO、LiPO、LiSiO、LiSiO、LiBO等をドープした材料を用いてもよい。リチウム、ランタン、チタンの酸化物、リチウムを含み多価遷移元素を含まないポリアニオン酸化物も用いることができる。また、固体電解質層の材料は、結晶質、非晶質、ガラス状のいずれであってもよい。
(活物質の材料)
本発明における活物質としては、正極活物質、負極活物質の両方の機能を持ち合わせる活物質が好ましい。かかる機能を持ち合わせるための条件として、a.)リチウムを構造内に含有していること、b.)構造内にリチウムイオン拡散パスが存在すること、c.)構造内にリチウムイオンを吸蔵できるサイトが存在すること、d.)活物質を構成する卑金属元素の平均価数はその活物質が合成された際の価数よりも高い価数、低い価数のいずれにも変化できること、e.)適度な電子伝導性を有することが挙げられる。本発明に用いられる活物質はこのa.)〜e.)までの条件を満たすものが特に好ましい。
本発明における好ましい活物質の具体例としては、例えば、リチウムイオン放出能とリチウムイオン吸蔵能を同時に併せ持つ、Li2MnO3、LiMn2O4のようなリチウムマンガン複合酸化物、または、LiV2O4のようなスピネル型の結晶構造を有する物質が挙げられる。また、これらの物質に限定されず、MnやVの一部が他の遷移金属元素に置換された活物質であっても、a.)〜e.)までの条件を満たすため、本発明に係るリチウムイオン二次電池の活物質として好適に用い得ることは言うまでもない。さらに、全固体型電池を作製するために一括焼成工程において十分高い耐熱性を有することが好ましい。
(活物質の形状)
活物質の形状としては、球状、リンペン状(板状)、不定形、針状、スパイク状の活物質を使用することができる。
(集電体)
本発明のリチウムイオン二次電池の集電電極を構成する導電性物質としては、導電率が大きい材料を用いるのが好ましい。例えば、耐酸化性の高い金属又は合金を用いるのが好ましい。ここで、耐酸化性の高い金属又は合金とは、大気雰囲気下で焼成した後に、導電率が1×10S/cm以上の導電率を有する金属又は合金である。具体的には、金属であれば、銀、パラジウム、金、プラチナ、アルミニウムなどを用いるのが好ましい。合金であれば、銀、パラジウム、金、白金、銅、アルミニウムから選ばれる2種以上の金属からなる合金が好ましく、例えば、AgPdを用いるのが好ましい。AgPdは、Ag粉末とPd粉末の混合粉末、又は、AgPd合金の粉末を用いるのが好ましい。
なお、導電性物質と活物質とを混合して集電体を作製してもよい。
【0010】
(電池の構造)
図1は、本発明の実施の形態に係るリチウムイオン二次電池の概念断面図である。
正極集電体からなる正極層1と負極集電体からなる負極層2が固体電解質層3を介して交互に積層した積層体からなる多層全固体型のリチウムイオン二次電池において、前記固体電解質層3が固体電解質からなるマトリックスに活物質4を含んでおり、活物質4は、前記正極層1と前記負極層2との間で連続していない。
(電池の製造方法)
図1に基づき、電池の製造方法の実施の形態を示す。
まず、固体電解質内に活物質4を含有する固体電解質シート5を作製する。
固体電解質の粉末と活物質の粉末を所定の割合で有機溶媒とバインダーのビヒクルに分散して、固体電解質層用のペーストを作製する。
作製したペーストをPETなどの基材上に塗布し、必要に応じて乾燥させた後、基材を剥離し、固体電解質シート5を作製する。ペーストの塗布方法は、特に限定されず、スクリーン印刷、塗布、転写、ドクターブレード等の公知の方法を採用することができる。
この固体電解質シート5上に、正極集電体ペーストを塗布して正極ユニット6を作製する。また、同様に、固体電解質シート上に負極集電体ペースト9を塗布して負極シート7を作製する。
複数の正極シート6と負極シート7とを積層して積層体を作製する。
作製した積層体を一括して圧着する。圧着は加熱しながら行うが、加熱温度は、例えば、40〜90℃とする。圧着した積層体を、例えば、大気雰囲気下で加熱し焼成を行う。ここで、焼成とは焼結を目的とした加熱処理のことを言う。焼結とは、固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱すると、固まって焼結体と呼ばれる緻密な物体になる現象のことを言う。
本発明のリチウムイオン二次電池の製造では、焼成温度は、500〜1100℃が好ましい。
500℃未満では、固体電解質が緻密に焼結していないため固体電解質のイオン伝導率が低い。
1100℃を超えると、固体電解質が融解する、積層体が変形するなどの問題が発生するためである。さらに、この範囲内でも、750〜900℃の範囲とするのが好ましい。750〜900℃の範囲で、より緻密な焼結体が得られ、イオン伝導率が高いく電池の内部インピーダンスが低下するという点で効果が得られるためである。
500℃〜600℃における焼成の場合には、固体電解質と活物質との反応を抑えながら、焼結を達成することが可能となる。
焼成工程の昇温速度は1〜50℃/minが好ましい。1℃/min以上が生産効率上好ましく、50℃/min以下にすることにより歩留まりが向上する。
保持時間は1〜240minが好ましい。
1min未満では、固体電解質が緻密に焼結していないため固体電解質のイオン伝導率が低い。
240minを超えると過焼結で焼結体内部に大きな空隙ができ、緻密な焼結体が得られない。
焼成雰囲気は、大気、窒素雰囲気、窒素と水素の混合雰囲気が好ましい。
固体電解質シート5の上に正極集電体ペーストを印刷して正極ユニット6を作製する。その際、正極集電体1に接続する端部電極と反対側(図面において右端)の端部には段差10を設けておく。
同様に固体電解質シート5上に負極集電体9を印刷して負極ユニット7を作製する。その際、負極集電体9に接続する端部電極と反対側(図面において左側)の端面部には段差11を設けておく。
本発明では、この段差の高さは正極集電体の厚さに等しい、従って、正電極集電体の厚さを薄くすれば段差10を小さくすることができる。
【実施例】
【0011】
以下に本発明の実施例述べる。
本例は、固体電解質としてLi3.5Si0.50.5(LSPO)を使用し、活物質としてLiMnO(LMO)を使用し図1の構造において集電体が導電性物質のみからなるリチウムイオン二次電池を作製した例を述べる。
(活物質の作製)
正極活物質として、以下の方法で作製したLMOを用いた。
LiCOとMnCOとを出発材料とし、これらをモル比1:4となるように秤量し、水を分散媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を800℃で2時間、空気中で仮焼した。仮焼品を粗粉砕し、水を分散媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥して正極活物質の仮焼粉末を得た。この仮焼粉末の平均粒径は0.30μmであった。組成がLiMnO(LMO)であることは、X線回折装置を使用して確認した。
なお、平均粒径とは、SEM写真を画像解析し、円相当径として算出した値であり、本例では、二次元画像回解析ソフトウェア ウィンルーフにより測定した。
(固体電解質シートの作製)
固体電解質の原材料として、以下の方法で作製したLi3.5Si0.50.5(LSPO)の粉末を用いた。LiCOとSiOと市販のLiPOを出発材料として、これらをモル比2:1:1となるように秤量し、水を分散媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥した。得られた粉体を950℃で2時間、空気中で仮焼した。仮焼品を粗粉砕し、水を分散媒としてボールミルで16時間湿式混合を行った後、脱水乾燥してイオン伝導性無機物質の仮焼粉末を得た。この粉末の平均粒径は0.54μmであった。また、組成がLi3.5Si0.50.5(LSPO)であることは、X線回折装置を使用して確認した。
次いで、この固体電解質材料の仮焼粉末と活物質材料の仮焼粉末が体積割合で100:0、90:10、85:15、80;20、75:25、70:30、65:35、60:40、55:45となるように混合した粉末100重量部、エタノール100部、トルエン200部をボールミルで加えて湿式混合し、その後ポリビニルブチラール系バインダー16部とフタル酸ベンジルブチル4.8部をさらに投入し、混合して固体電解質層ペーストを調製した。この固体電解質ペーストをドクターブレード法でPETフィルムを基材としてシート成形し、厚さ13μmの固体電解質層シートを得た。
(集電体ペーストの作製)
重量比70/30のAg/PdとLi2MnO3粉末とを体積割合で60:40となるように混合した粉末100重量部と、バインダーとしてエチルセルロース10部と、溶媒としてジヒドロターピネオール50部を加えて三本ロールミルで混練・分散して集電体ペーストを作製した。ここで重量比70/30のAg/Pdは、Ag粉末(平均粒径0.3μm)及びPd粉末(平均粒径1.0μm)を混合したものを使用した。
これらのペーストを用いて、以下のようにして全固体二次電池を作製した。
(正極ユニットの作製)
上記の固体電解質シート上に、スクリーン印刷により厚さ5μmで集電体ペーストを印刷した。その際、固体電解質シートの一方の端面(図面では左端)と塗布して形成した正極ペーストの一方の端面(図面では左端)とを面一とし、他方の端面部(図面では右端)は面一とはせず、段差を形成した。
印刷した集電体ペーストを80〜100℃で5〜10分間乾燥し、次いでPETフィルムを剥離した。このようにして、固体電解質シート上に、集電体ペーストが印刷・乾燥された正極ユニットのシートを得た。
(負極ユニットの作製)
上記した正極ユニットと同じ材料、同じプロセスにより負極ユニットを作製した。正極ユニットとの相違は、段差の位置が正極ユニットの場合と反対側にあるという点のみである。
(積層体の作製)
正極ユニットと負極ユニットをそれぞれ複数個用意した。本例ではそれぞれ2個づつ用意した。
正極集電体と負極集電体とで固体電解質シートを挟むようにして、正極シートと負極シートとを交互に積層した。
このとき、正極ユニットの集電体ペースト層が一の端面にのみ延出し、負極ユニットの集電体ペースト層が他の面にのみ延出するように、正極ユニットと負極ユニットをずらして積み重ねた。その後、これを温度80℃で圧力1000kgf/cm〔98MPa〕で成形し、次いで切断して積層ブロックを作製した。
その後、積層ブロックを一括焼成して積層体を得た。一括焼成は、空気中で昇温速度200℃/時間で1000℃まで昇温して、その温度に2時間保持し、3μm、負極集電体層の厚さは3μmであった。
(引出電極の形成)
積層体の端面に引出電極ペーストを塗布し、800℃で焼成し、一対の引出電極を形成して、全固体型リチウムイオンニ次電池を得た。
(電池特性の評価)
正極集電体及び負極集電体と接続されたそれぞれの引出電極にリード線を取り付け、電池の容量測定及び内部抵抗測定を行った。測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも0.3μA、充電時及び放電時の打ち切り電圧をそれぞれ4.0V、0.5Vとした。
(焼成工程における剥離、割れの発生)
焼成後の積層体の外観を顕微鏡により観察し、剥離、割れの発生率を調べた。
(測定結果)
・放電容量
実施例1の3サイクル目における放電容量の測定結果を図2に示す。
図2に示すように、放電容量は、活物質の体積割合が増加するにつれ増加した。
ただ、65:35の比を超えると、ショート不良が発生した。
なお、ショート不良は固体電解質中に分散された活物質同士が正、負極集電体間で連通したために発生した。
実施例1のサイクル数に対して放電容量の変化を測定した結果を図3に示す。
実施例1において固体電解質:活物質=100:0においては界面の接触状態に起因すると思われる容量の増加がみられる。それに対して、固体電解質中に活物質を分散させた90:10〜65:35の放電容量は初期から高い値を示し、安定している。

・内部抵抗(IR)
実施例1のサイクル数に対する内部抵抗の変化を測定した結果を図4に示す。ここで、内部抵抗値は放電時における電圧低下から算出した。
図4に示す通り、実施例1において固体電解質:活物質=100:0においては界面の接触状態に起因すると思われる内部抵抗の低下がみられる。それに対して、固体電解質中に活物質を分散させた90:10〜65:35の電池では内部抵抗の変化はほとんど生じていない。

・ショート不良率(%)
固体電解質/活物質 実施例1
100/0 0%
90/10 0%
85/15 0%
80/20 0%
75/25 0%
70/30 0%
65/35 0%
60/40 100%
55/45 100%
実施例1において、ショート不良率は固体電解質/活物質が100/0〜100/35までは0%であり、100/40以上では100%であり、本発明の範囲内であれば歩留まり良く電池を製造できる。

・剥離、割れの発生率(%)
固体電解質/活物質 実施例1
100:0 10%
90:10 0%
85:15 0%
80;20 0%
75:25 0%
70:30 0%
65:35 0%
60:40 0%
55:45 0%

実施例1において、剥離、割れの発生率は固体電解質/活物質が100/0で10%、90/10以上では0%であり、本発明の範囲内であれば歩留まり良く電池を製造できる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
以上のように、本発明に係るリチウムイオン二次電池及びその製造方法は、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の低減、充放電サイクル特性の改善に効果がある。高性能、小型大容量の電池を提供することにより、特に、エレクトロニクスの分野で大きく寄与する。
また、本発明の全固体二次電池は、ポータブル機器用電池、ICカード内蔵用電池、インプラント医療器具用電池、基板表面実装用電池、太陽電池をはじめとする他の電池と組み合せて用いられる電池(ハイブリッド電源用電池)等としても好適である。
【符号の説明】
【0013】
1 正極層
2 負極層
3 固体電解質層
4 活物質
5 固体電解質シート
6 正極ユニット
7 負極ユニット
9 負極集電体
10、11 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と負極集電体が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなり、前記固体電解質層が固体電解質からなるマトリックスに活物質を含んでおり、該活物質は、前記正極集電体と前記負極集電体との間で非連続であること特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
正極集電体と負極集電体が固体電解質層を介して交互に積層した積層体からなり、前記固体電解質層が固体電解質からなるマトリックスに活物質を含んでおり、固体電解質の面積と活物質の前記固体電解質層の断面における面積の比が90:10〜65:35であること特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極集電体および/または前記負極集電体は導電性物質のマトリックスに活物質を含んでいることを特徴とする請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記活物質は、Liイオンを挿入することも脱離することもできる同一の活物質であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記活物質がLi2MnO3、LiMn2O4、LiV2O4のいずれかであることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記固体電解質は、ケイリン酸リチウム(Li3.5Si0.50.5)、リン酸チタンリチウム(LiTi(PO)、リン酸ゲルマニウムリチウム(LiGe(PO)、LiO−SiO、LiO−V−SiO、LiO−P−B、LiO−GeOよりなる群から選択される少なくとも1種の材料であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記固体電解質は、リチウムの酸化物又はリチウムを含み多価遷移元素を含まないポリアニオン酸化物であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
固体電解質層内には、固体電解質と活物質との反応生成物は存在していなことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
正極集電体及び負極集電体の厚さは0.2μm〜30μmであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
固体電解質材料中に活物質材料を含む固体電解質シートを作製し、
正極集電体と負極集電体を該固体電解質シートを介して交互に積層し、
次いで、焼成を行うリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
該活物質の含有量は、焼成後において、正極集電体と負極集電体との間で連続しない量とすることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項11】
固体電解質材料と活物質材料の混合割合が体積比で90:10〜65:35であること特徴とする請求項10記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項12】
前記焼成は、500〜1100℃の温度で1〜240分保持して行うことを特徴とする請求項10又は11記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記焼成は500〜600℃において行うことを特徴とする請求項12記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項14】
前記温度への昇温速度は、1〜50℃/minであることを特徴とする請求項10ないし13のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−216234(P2011−216234A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81202(P2010−81202)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【特許番号】特許第4762353号(P4762353)
【特許公報発行日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度から平成21年度、経済産業省「戦略的基盤技術高度化支援事業(全固体蓄電部品の開発)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】