説明

リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法

【課題】正極活物質と固体電解質との界面での反応をより一層抑制し、レート特性及びサイクル特性をさらに向上させることが可能なリチウムイオン二次電池、及びこのリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】正極活物質111粒子を含む正極層110と、負極層120と、正極層と負極層との間に挟持され、LiSとPとを少なくとも含む硫黄系固体電解質層130と、を備えるリチウムイオン二次電池100において、正極活物質111粒子の表面をaLiO−ZrOで被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レート特性及びサイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池、及びこのリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、大きな充放電容量、高い作動電位、優れた充放電サイクル特性を有するため、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の用途への需要が増大している。リチウムイオン二次電池では、電解質として、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた非水電解液が用いられているが、このような非水電解液は、その発火のし易さや電解液の漏れ等の問題から、安全性が懸念されている。そのため、近年、リチウムイオン二次電池の安全性の向上を目的として、不燃材料である無機材料からなる固体電解質を用いた全固体型リチウムイオン二次電池(以下、「全固体二次電池」とも称する。)の研究が盛んに行われている。
【0003】
全固体二次電池の固体電解質としては硫化物や酸化物等を使用できるが、リチウムイオン伝導性の観点から硫化物系の固体電解質が最も期待できる材料である。ところが、硫化物系の固体電解質を使用した場合には、充電の際に正極活物質と固体電解質との界面で反応が起こり、この界面に抵抗成分が生成することにより、正極活物質と固体電解質との界面をリチウムイオンが移動する際の抵抗(以下、「界面抵抗」とも称する。)が増大しやすくなる。この界面抵抗の増大により、リチウムイオン伝導性が低下するため、リチウムイオン二次電池の出力が低下する、という問題があった。
【0004】
このような問題に対して、LiCoO(以下、「LCO」とも称する。)等の正極活物質の表面を他の物質で被覆処理して界面抵抗を減少させることが検討されている。
【0005】
例えば、非特許文献1では、LCOにSiOやLiSiOを被覆する技術が、非特許文献2では、LCOにLiTiを被覆する技術が開示されている。また、特許文献1及び特許文献2では、LCO等の正極活物質にZrOを被覆する技術が開示されている。さらに、特許文献3には、正極活物質の表面を酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ホウ素、酸化ケイ素等の酸化物で被覆する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4及び特許文献5では、正極活物質の粒子表面を被覆するのではなく、正極層と硫化物系固体電解質層との間に、これら両層の界面近傍におけるリチウムイオンの偏りを緩衝する緩衝層や両層間の相互拡散を抑制する中間層を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−541938号公報
【特許文献2】特表2011−519139号公報
【特許文献3】特開2008−103204号公報
【特許文献4】特開2010−40439号公報
【特許文献5】特開2011−44368号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Power sources,189,pp.527−530,2009
【非特許文献2】J.Power sources,195,pp.599−603,2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記非特許文献1〜2や特許文献1〜5に開示された技術のように、正極活物質の表面をSiO等の酸化物で被覆処理したり、正極層と固体電解質層との間に緩衝層や中間層を設けたりするだけでは、正極活物質と固体電解質との界面での反応を抑制するには不十分であり、より一層の抵抗成分の低減、ひいては、電池としてのレート特性及びサイクル特性の向上が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、正極活物質と固体電解質との界面での反応をより一層抑制し、レート特性及びサイクル特性をさらに向上させることが可能なリチウムイオン二次電池、及びこのリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、正極活物質の表面をaLiO−ZrOで被覆することにより、正極活物質と固体電解質との界面での反応を顕著に抑制でき、このように表面が被覆された正極活物質を使用することで、リチウムイオン二次電池のレート特性及びサイクル特性を顕著に向上させることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のある観点によれば、aLiO−ZrO(0.1≦a≦2.0)で被覆された正極活物質粒子を含む正極層と、負極層と、前記正極層と前記負極層との間に挟持され、LiSとPとを少なくとも含む硫黄系固体電解質層と、を備え、前記正極活物質粒子と前記aLiO−ZrOの合計量に対するaLiO−ZrOの被覆量の割合が、0.1mol%以上2.0mol%以下である、リチウムイオン二次電池が提供される。
【0013】
また、前記リチウムイオン二次電池において、前記正極活物質が、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩であることが好ましい。
【0014】
前記層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、Li1−x−y−zNiCoAlまたはLi1−x−y−zNiCoMn(0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z<1)で表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0015】
また、本発明の別の観点によれば、正極活物質粒子とリチウムアルコキシドとジルコニウムアルコキシドとをアルコール溶液中で混合し、得られた混合溶液に超音波を照射しながらアルコールを蒸発乾燥させた後に、750℃以下の温度で焼成処理し、aLiO−ZrO(0.1≦a≦2.0)で被覆された正極活物質粒子を得る、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、正極活物質の表面をaLiO−ZrOで被覆することで、正極活物質と固体電解質との界面での反応をより一層抑制することができ、これにより、レート特性及びサイクル特性をさらに向上させることが可能なリチウムイオン二次電池、及びこのリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】全固体二次電池における界面抵抗の増大の様子を示す説明図である。
【図2】本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す説明図である。
【図3】aLiO−ZrOで被覆された正極活物質の作製方法の流れを示すフローチャートである。
【図4A】実施例2の充放電特性の評価結果を示すグラフである。
【図4B】比較例1の充放電特性の評価結果を示すグラフである。
【図5A】実施例2のインピーダンスの評価結果を示すグラフである。
【図5B】比較例1のインピーダンスの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
[1.固体電解質を用いた場合の問題点]
まず、図1を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池について説明する前に、固体電解質を用いた場合の問題点について説明する。図1は、全固体二次電池における界面抵抗の増大の様子を示す説明図である。
【0020】
固体電解質を用いた全固体二次電池では、正極活物質及び電解質が固体であるため、電解質として有機電解液を用いた場合よりも電解質が正極活物質の内部へ浸透しにくく、正極活物質と電解質との界面の面積が減少しやすいことから、リチウムイオン及び電子の移動経路を十分に確保することが困難である。そのため、図1に示すように、全固体二次電池1では、正極活物質11の粒子と固体電解質13の粒子とを混合した混合粒子を含有する正極合剤を正極材料として用い、負極活物質12の粒子と固体電解質13の粒子とを混合した混合粒子を含有する負極合剤を負極材料として用いることで、活物質と固体電解質との界面の面積を増大させている。
【0021】
しかしながら、上述したように、全固体二次電池1の固体電解質13として硫化物系の固体電解質を使用した場合には、充電の際に正極活物質11と固体電解質13との界面で反応が起こり、この界面に抵抗成分が生成することにより、正極活物質11の表面に高抵抗層15が形成されるため、正極活物質11と固体電解質13との界面抵抗が増大しやすくなる。ここで、「高抵抗層15」とは、正極活物質11と固体電解質13とが接触して反応した場合に、正極活物質11の表面に形成される抵抗成分からなる層であって、正極活物質11の内部や固体電解質13よりも、リチウムイオンが移動する際の抵抗が大きくなる層を意味する。このように、正極活物質11と固体電解質13との界面の面積を増大させると、リチウムイオン及び電子の移動経路を確保することができる反面、高抵抗層15が形成されやすくなる。すると、正極活物質11から固体電解質13へのリチウムイオンの移動が高抵抗層15により阻害され、リチウムイオン伝導性が低下するため、全固体二次電池1の出力が低下する、という問題があった。
【0022】
そこで、以下に説明する本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、正極活物質の表面をaLiO−ZrOで被覆することにより、正極活物質と固体電解質との界面での反応を抑制し、これにより、リチウムイオン二次電池のレート特性及びサイクル特性を顕著に向上させている。
【0023】
[2.リチウムイオン二次電池の構成]
続いて、図2を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成について詳細に説明する。図2は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す説明図である。
【0024】
図2に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、正極層110と、負極層120と、正極層110と負極層120との間に挟持される固体電解質層130と、が積層された構造を有する。
【0025】
[2.1.正極層110]
正極層110は、正極活物質111の粒子を含み、この正極活物質111の表面は、aLiO−ZrOからなる被覆層113で被覆されている。硫黄系固体電解質を使用した全固体型リチウムイオン二次電池は、正極活物質と固体電解質との界面での反応により界面抵抗が上昇し、電池の出力が低下するという問題がある。しかし、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100によれば、正極活物質111の表面がaLiO−ZrOからなる被覆層113で被覆されていることにより、当該被覆層113が、固体電解質層130に含まれる固体電解質粒子131と正極活物質111との直接接触を防ぐことができるので、正極活物質111と固体電解質131との界面で抵抗成分が生成しにくくなる。また、正極活物質111の表面がaLiO−ZrOで被覆されていると、正極活物質111と固体電解質131との界面でのリチウムイン濃度の低下が抑制され、さらには、リチウムイオンが移動可能な経路を形成することができるので、これによっても、正極活物質111と固体電解質131との界面における抵抗の上昇を抑制することが可能となる。このため、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、レート特性及びサイクル特性に優れる。
【0026】
aLiO−ZrOは化学的に安定であるので、aLiO−ZrOにより正極活物質111の表面が被覆されていると、正極活物質111と固体電解質131とが直接接触するのを防ぐことができるため、正極活物質111と固体電解質131との界面における反応が抑制され、抵抗成分の生成を抑制することができる。
【0027】
なお、正極活物質111は、その表面の少なくとも一部が被覆層113で被覆されていればよく、正極活物質111の表面全体が被覆層113で被覆されている場合、正極活物質111の表面が部分的に被覆層113で被覆されている場合がある。
【0028】
また、本実施形態における「被覆」とは、正極活物質111の粒子の表面に、aLiO−ZrOが流動しない形態で配置された状態が維持されていることを意味する。さらに、本実施形態において、正極活物質111の粒子表面を被覆している被覆層113は、リチウムイオン伝導性を有し、かつ、正極活物質111や固体電解質131と接触しても流動しない層状の形態を維持し得る。
【0029】
また、正極活物質111の粒子表面にaLiO−ZrOからなる被覆層113が形成されていることは、例えば、正極活物質111と被覆層113との構造上の差異に起因するコントラストの違いを利用した、顕微鏡画像(走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)の画像)解析等の方法により確認することができる。
【0030】
以下、正極層110に含まれる正極活物質111及び被覆層113について詳述する。
【0031】
(正極活物質111)
本実施形態に係る正極層110に含まれる正極活物質111としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な物質であれば特に限定されず、例えば、コバルト酸リチウム(LCO)、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(以下、「NCA」と称する場合もある。)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(以下、「NCM」と称する場合もある。)、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、硫化ニッケル、硫化銅、硫黄、酸化鉄、酸化バナジウム等が挙げられる。これらの正極活物質111は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
正極活物質111は、上記に挙げた正極活物質の例のうち、特に、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩であることが好ましい。ここでいう「層状」とは、薄いシート状の形状のことを意味し、「岩塩型構造」とは、結晶構造の1種である塩化ナトリウム型構造のことであり、陽イオン及び陰イオンのそれぞれが形成する面心立方格子が、互いに単位格子の稜の1/2だけずれた構造を指す。このような層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩としては、例えば、Li1−x−y−zNiCoAl(NCA)またはLi1−x−y−zNiCoMn(NCM)(0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z<1)で表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩が挙げられる。
【0033】
このように、正極活物質111として上記3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩を用いることにより、エネルギー密度と熱安定性に優れる全固体型リチウムイオン電池を得ることができる。また、NCAやNCM等の3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩の粒子(1次粒子の凝集体として存在)は、例えば、LCO等の粒子よりも粒径よりも小さく、比表面積が大きい(約10倍)。したがって、正極活物質111と固体電解質131との接触面積が大きくなり、リチウムイオン伝導性が向上するため、電池の出力が上昇する。また、正極活物質111の構成元素としてNiを含むことにより、リチウムイオン二次電池100の容量密度を上昇させ、また、充電状態での金属溶出が少ないため充電状態でのリチウムイオン二次電池100の長期信頼性を向上させることができる。
【0034】
(被覆層113)
被覆層113は、上述したように、aLiO−ZrOからなる層であり、正極活物質111の粒子表面に被覆される。正極活物質111に被覆する被覆層113の成分として、aLiO−ZrOを使用することにより、正極活物質111と固体電解質131との界面の反応の抑制効果が飛躍的に向上する。特に、被覆層113の成分としてaLiO−ZrOを使用することにより、リチウムイオン二次電池100のサイクル特性やインピーダンスの改善効果に加え、他の材料を被覆層113の成分として使用する場合よりも、初期放電容量を飛躍的に上昇させることができる。また、aLiO−ZrOは、リチウムイオンの伝導性にも優れる。
【0035】
ここで、被覆層113の成分であるaLiO−ZrOは、LiOとZrOの複合酸化物であり、これらの酸化物の混合割合、すなわち、aLiO−ZrOにおけるaの範囲は、0.1≦a≦2.0であることが好ましい。0.1≦a≦2.0とすることにより、リチウムイオン二次電池100のサイクル特性やインピーダンスの改善効果のみならず、初期放電容量の上昇効果をより顕著なものとすることが可能となる。
【0036】
aLiO−ZrOは、LiOとZrOとを両者が溶融する温度以上に加熱して所定の比率で溶融混合し、所定時間保持した後、急冷することにより得ることができる。
【0037】
また、被覆層113の被覆量としては、正極活物質111とaLiO−ZrOの合計量に対するaLiO−ZrOの被覆量の割合が、0.1mol%以上2.0mol%以下であることが好ましい。被覆層113の被覆量を上記範囲とすることにより、高い初期放電容量と優れたサイクル特性を両立することができる。一方、被覆層113の被覆量が0.1mol%未満の場合には、サイクル特性に劣る傾向にあり、被覆層113の被覆量が2.0mol%を超えると、初期放電容量が低下する傾向にある。
【0038】
(その他の添加剤)
正極層110には、表面が被覆層113で被覆された正極活物質111の粒子に加えて、例えば、導電剤、結着剤、電解質、フィラー、分散剤、イオン導電剤等の添加剤が適宜選択され配合されていてもよい。
【0039】
上記導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、金属粉等が挙げられ、上記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン等が挙げられる。上記電解質としては、後述する硫黄系固体電解質等が挙げられる。また、上記フィラー、分散剤、イオン導電剤等としては、通常リチウムイオン二次電池の電極に用いられる公知の物質を用いることができる。
【0040】
[2.2.負極層120]
(負極活物質121)
本実施形態に係る負極層120に含まれる負極活物質121としては、リチウムとの合金化、又は、リチウムの可逆的な吸蔵及び放出が可能な物質であれば特に限定されず、例えば、リチウム、インジウム、スズ、アルミ、ケイ素等の金属及びこれらの合金や、Li4/3Ti5/3、SnO等の遷移金属酸化物や、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び難黒鉛化性炭素等の炭素材料などが挙げられる。これらの負極活物質121は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
(その他の添加剤)
なお、負極層120には、負極活物質121の粒子に加えて、例えば、導電剤、結着剤、電解質、フィラー、分散剤、イオン導電剤等の添加剤が適宜選択され配合されていてもよい。これらの具体例としては、上述した正極層110と同様の物質が挙げられる。
【0042】
[2.3.固体電解質層130]
本実施形態に係る固体電解質層130は、固体電解質131として、LiSとPとを少なくとも含む硫黄系固体電解質を含有する。この硫黄系固体電解質は、リチウムイオン伝導性が他の無機化合物より高いことが知られており、LiSとPの他に、SiS、GeS、B等の硫化物を含んでいてもよい。また、固体電解質層130には、固体電解質131として、硫黄系固体電解質に、適宜、LiPOやハロゲン、ハロゲン化合物等を添加した無機固体電解質を用いてもよい。
【0043】
また、硫黄系固体電解質は、LiSとPを含む硫化物とを両者が溶融する温度以上に加熱して所定の比率で溶融混合し、所定時間保持した後、急冷することにより得ることができる(溶融急冷法)。また、LiSとPを含む硫化物とをメカニカルミリング法(MM法)により処理して得ることができる。LiSとPを含む硫化物との混合比は、モル比で、通常50:50〜80:20、好ましくは60:40〜75:25である。
【0044】
[3.リチウムイオン二次電池の製造方法]
以上、本発明の好適な実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の構成について詳細に説明したが、続いて、上述した構成を有するリチウムイオン二次電池100の製造方法について説明する。リチウムイオン二次電池100は、正極層110、負極層120及び固体電解質層130を作製した後に、これらの各層を積層することにより製造することができる。以下、各工程について詳述する。
【0045】
[3.1.正極層110の作製]
正極層110の作製方法は以下の通りである。例えば、表面がaLiO−ZrOで被覆された上記正極活物質111と各種添加剤との混合物を水や有機溶媒等の溶媒に添加してスラリー又はペースト状とし、得られたスラリー又はペーストを、ドクターブレード等を用いて集電体に塗布し、乾燥した後に、圧延ロール等で圧密化することで、正極層110を得ることができる。
【0046】
このとき用いることができる集電体としては、例えば、インジウム、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、リチウム、又は、これらの合金等からなる板状体や箔状体等が挙げられる。なお、集電体を用いずに、表面がaLiO−ZrOで被覆された上記正極活物質111と各種添加剤との混合物をペレット状に圧密化成形して正極層110としてもよい。
【0047】
ここで、図3を参照しながら、表面がaLiO−ZrOで被覆された正極活物質111の作製方法について説明する。図3は、aLiO−ZrOで被覆された正極活物質111の作製方法の流れを示すフローチャートである。
【0048】
図3に示すように、まず、リチウムアルコキシドとジルコニウムアルコキシドとをアルコール、アセト酢酸エチル等の有機溶媒及び水からなる溶媒中で撹拌混合し、aLiO−ZrOのアルコール溶液(aLiO−ZrO被覆用の塗布液)を調製する(ステップS101)。リチウムアルコキシドは、例えば、有機リチウムとアルコールとを反応させることにより得ることができる。また、撹拌混合の時間は特に限定されないが、例えば、30分程度とすればよい。なお、アセト酢酸エチル等のCH−CO−CH−CO−O−Rの構造を有する化合物は、該構造中のカルボニル基2個がキレート剤的に働き、不安定な金属を安定化させる効果があることから、ここでは、ジルコニウムアルコキシドの安定化剤として働くものである。
【0049】
次に、ステップS101で調製したaLiO−ZrO被覆用の塗布液を上述した正極活物質111と混合し、この混合溶液を撹拌しながら40℃程度に加熱し、アルコール等の溶媒を蒸発乾燥させる(ステップS103)。このとき、混合溶液には超音波を照射する。これにより、正極活物質111の粒子表面に、aLiO−ZrOの前駆体を担持することができる。
【0050】
さらに、正極活物質111の粒子表面に担持されたaLiO−ZrOの前駆体を焼成する(ステップS105)。このとき、焼成温度を750℃以下とする。また、焼成時間は特に限定されないが、例えば、2時間程度とすればよい。また、焼成は酸素ガスを吹き込みながら行う。酸素ガスを吹き込むことにより、ニッケルを含む正極材料内のニッケルの還元を抑制し容量を維持することができる。
【0051】
以上、ステップS101〜S105の工程を経ることにより、aLiO−ZrOが表面に被覆された正極活物質111を得ることができる(ステップS107)。
【0052】
[3.2.負極層120の作製]
負極層120の作製方法は以下の通りである。例えば、上記負極活物質121と各種添加剤との混合物を水や有機溶媒等の溶媒に添加してスラリー又はペースト状とし、得られたスラリー又はペーストを、ドクターブレード等を用いて集電体に塗布し、乾燥した後に、圧延ロール等で圧密化することで、負極層120を得ることができる。
【0053】
このとき用いることができる集電体としては、例えば、インジウム、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、リチウム、又は、これらの合金等からなる板状体や箔状体等が挙げられる。なお、集電体を用いずに、上記負極活物質121と各種添加剤との混合物をペレット状に圧密化成形して負極層120としてもよい。また、負極活物質121として金属又はその合金を使用する場合、金属シート(箔)をそのまま使用してもよい。
【0054】
[3.3.固体電解質層130の作製]
固体電解質層130の作製方法は以下の通りである。固体電解質131として用いる硫黄系固体電解質の製造方法としては、上述した溶融急冷法やメカニカルミリング法(MM法)がある。
【0055】
溶融急冷法による場合には、LiSとPとを所定量混合しペレット状にしたものを、真空中で所定の反応温度で反応させた後、急冷することにより、硫黄系固体電解質を得ることができる。この際の反応温度は、好ましくは400℃〜1000℃、より好ましくは、800℃〜900℃である。また、反応時間は、好ましくは0.1時間〜12時間、より好ましくは、1〜12時間である。さらに、上記反応物の急冷温度は、通常10℃以下、好ましくは0℃以下であり、その冷却速度は、通常1〜10000K/sec程度、好ましくは1〜1000K/secである。
【0056】
MM法による場合には、LiSとPとを所定量混合し、メカニカルミリング法にて所定時間反応させることで、硫黄系固体電解質を得ることができる。上記原料を用いたメカニカルミリング法は、室温で反応を行うことができるという利点がある。MM法によれば、室温で固体電解質を製造できるため、原料の熱分解が起こらず、仕込み組成の固体電解質を得ることができる。
【0057】
MM法の回転速度及び回転時間は特に限定されないが、回転速度が速いほど固体電解質の生成速度が速くなり、回転時間が長いほど固体電解質ヘの原料の転化率が高くなる。
【0058】
その後、得られた固体電解質を所定の温度で熱処理した後に、粉砕して粒子状の固体電解質131とする。
【0059】
このようにして得られた粒子状の固体電解質131を、例えば、ブラスト法、エアロゾルデポジション法、コールドスプレー法、スパッタリング法、気相成長法(CVD)、溶射法等の公知の製膜方法を用いて製膜することにより、固体電解質層130を作製できる。また、固体電解質131と溶媒やバインダー(結着材や高分子化合物等)を混合した溶液を塗布した後、溶媒を除去し製膜化する方法を用いてもよい。また、固体電解質131自体や固体電解質131とバインダー(結着材や高分子化合物等)や支持体(固体電解質層130の強度を補強させたり、固体電解質131自体の短絡を防ぐための材料や化合物等)を混合した電解質をプレスすることで製膜することもできる。
【0060】
[3.4.各層の積層]
以上のようにして得られた正極層110、固体電解質層130及び負極層120をこの順で積層し、プレス等することにより、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100を製造することができる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例のみに限定されるわけではない。
【0062】
(実施例1)
まず、リチウムメトキシドとジルコニウム(IV)プロポキシドとを、エタノールとアセト酢酸エチルと水の混合溶液中で30分混合した。次いで、この混合溶液中に、正極活物質として日本化学社製のLiNi1/3Mn1/3Co1/3(以下、「NCM333」と記載する。)を、NCM333へのaLiO−ZrO(a=1)の被覆量が0.1mol%となるように添加し、混合溶液を40℃に加熱して撹拌しながら溶媒を蒸発乾燥させた。このとき、混合溶液には超音波を加えた。さらに、NCM333の表面へ担持されたLiO−ZrOの前駆体を、酸素を吹き込みながら300℃で2時間焼成し、0.1mol%のLiO−ZrOが表面に被覆されたNCM333(以下、「表面被覆NCM333」と記載する。)を得た。
【0063】
また、負極として使用するIn箔(厚み0.05mm)をφ13(mm)で打ち抜き、セル容器にセットした。その上に固体電解質であるLi2S−P2S5(80−20mol%)(SE)をメカニカルミリング処理(MM処理)したものを80mg積層し、成型機で軽く表面を整えた。さらに、上記のようにして得られた表面被覆NCM333と、SEと、導電剤である気相成長カーボンファイバ(VGCF)とを60/35/5質量%の比率で混合したものを、正極合剤としてSEの上に積層した。その状態で3t/cmの圧力で加圧してペレットを作製し試験用セルを得た。
【0064】
得られた試験用セルを、25℃で、0.02Cの定電流で、上限電圧4.3Vまで充電し、初期放電容量を測定した後、放電終止電圧2.5Vまで0.1C放電し、同様にして充放電を繰り返した。30サイクル終了後の初期容量に対する容量維持率を測定し、当該試験用セルのサイクル特性を評価した。
【0065】
(実施例2)
aLiO−ZrO(a=1)の被覆量を0.5mol%としたこと以外は、実施例1と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0066】
(実施例3)
aLiO−ZrO(a=1)の被覆量を2mol%としたこと以外は、実施例1と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0067】
(実施例4)
正極活物質としてLi1/3Ni1/3Co1/3Al1/3(NCA)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0068】
(実施例5)
正極活物質としてLiCoO(LCO)を使用したこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0069】
(実施例6)
aLiO−ZrOのaを0.1としたこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0070】
(実施例6)
aLiO−ZrOのaを2としたこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0071】
(比較例1)
正極活物質(NCM333)に表面被覆を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0072】
(比較例2)
aLiO−ZrO(a=1)の被覆量を0.05mol%としたこと以外は、実施例1と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0073】
(比較例3)
aLiO−ZrO(a=1)の被覆量を3mol%としたこと以外は、実施例1と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0074】
(比較例4)
正極活物質(NCM333)の表面に被覆する材料をLiSiOとしたこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0075】
(比較例5)
正極活物質(NCM333)の表面に被覆する材料をLiTiとしたこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0076】
(比較例6)
aLiO−ZrOのaを0としたこと、すなわち、正極活物質(NCM333)の表面に被覆する材料をZrOとしたこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0077】
(比較例7)
aLiO−ZrOのaを2.5としたこと以外は、実施例2と同様にして試験用セルを作製し、電池特性を評価した。
【0078】
実施例1〜7及び比較例1〜7で使用した正極活物質、被覆層の材料、被覆量、及び得られた電池特性の評価結果を下記表1に示した。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示したように、正極活物質の表面がaLiO−ZrO(0.1≦a≦2)で被覆され、かつ、被覆量が0.1〜2mol%である実施例1〜7はいずれも、高い初期放電容量が得られ、また、サイクル特性にも優れていた。
【0081】
一方、正極活物質の表面を被覆しないか、被覆量が少ない場合には、初期放電容量が低く、また、サイクル特性にも劣る結果となった。また、正極活物質への被覆層の被覆量が多すぎるか、または、被覆層の材料がaLiO−ZrO以外の材料の場合には、初期放電容量が低いものとなった。また、被覆層の材料がZrOの場合には、サイクル特性に劣る結果となった。さらに、aLiO−ZrO中のLiOの量が多すぎても、初期放電容量が低いものとなった。
【0082】
(充放電特性及びインピーダンスの評価)
次に、図4A、図4B、図5A及び図5Bを参照しながら、実施例2及び比較例1の試験用セルについて、充放電特性、インピーダンス及びレート特性を評価した結果について説明する。図4A、図4Bは、それぞれ、実施例2及び比較例1の充放電特性の評価結果を示すグラフである。図5A、図5Bは、それぞれ、実施例2及び比較例1のインピーダンスの評価結果を示すグラフである。
【0083】
充放電特性に関しては、カットオフ電圧を充電時4.3V、放電時2.5Vの範囲で設定し、定電流法にて測定し、初期充電時及び30サイクル後の充放電特性を評価した。また、インピーダンスは、交流インピーダンス法で初期充電時及び30サイクル後のインピーダンスを評価した。
【0084】
図4A、図4B、図5A及び図5Bに示すように、正極活物質の表面にaLiO−ZrOが被覆された実施例2の試験用セルは、正極活物質の表面被覆処理が行われていない比較例2と比較して、インピーダンスの上昇が明らかに抑制され、その結果、充放電特性の向上につながったことがわかる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0086】
100 リチウムイオン二次電池
110 正極層
111 正極活物質
113 被覆層
120 負極層
121 負極活物質
130 固体電解質層
131 (硫黄系)固体電解質



【特許請求の範囲】
【請求項1】
aLiO−ZrO(0.1≦a≦2.0)で被覆された正極活物質粒子を含む正極層と、
負極層と、
前記正極層と前記負極層との間に挟持され、LiSとPとを少なくとも含む硫黄系固体電解質層と、
を備え、
前記正極活物質粒子と前記aLiO−ZrOの合計量に対するaLiO−ZrOの被覆量の割合が、0.1mol%以上2.0mol%以下である、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質が、層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物のリチウム塩である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記リチウム塩が、Li1−x−y−zNiCoAlまたはLi1−x−y−zNiCoMn(0<x<1、0<y<1、0<z<1、かつx+y+z<1)で表される3元系の遷移金属酸化物のリチウム塩である、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
正極活物質粒子とリチウムアルコキシドとジルコニウムアルコキシドとをアルコール溶液中で混合し、得られた混合溶液に超音波を照射しながらアルコールを蒸発乾燥させた後に、750℃以下の温度で焼成処理し、aLiO−ZrO(0.1≦a≦2.0)で被覆された正極活物質粒子を得る、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2013−89321(P2013−89321A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226161(P2011−226161)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】