説明

リチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】リチウム粉末と負極との間の接触面積を増やして、不可逆容量を十分に補償しうる手段を提供する
【解決手段】集電体と、前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層と、を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極活物質層の表面に、リチウム粒子の表面に絶縁性粒子が付着してなる二次粒子を有する、リチウムイオン二次電池用負極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池用負極とその製法、および該負極を用いたリチウムイオン二次電池とその製法、並びに該電池を用いた車両に関する。より詳細には、容量特性およびサイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池用負極およびこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、及び高いエネルギーを有することが求められている。従って、全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダーを用いて正極活物質等を正極集電体の両面に塗布した正極と、バインダーを用いて負極活物質等を負極集電体の両面に塗布した負極とが、電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。
【0005】
従来、リチウムイオン二次電池の負極には充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素・黒鉛系材料が用いられてきた。また、最近では、高容量の負極活物質として、リチウムと合金化する材料などが研究されている。例えば、Si材料は、充放電において1molあたり4.4molのリチウムイオンを吸蔵放出し、Li22Siにおいては2000mAh/g程度もの理論容量を有する。このようにリチウムと合金化する材料は電極のエネルギー密度を増加させることができるため、車両用途における負極材料として期待されている。
【0006】
しかしながら、このような炭素材料やリチウムと合金化する材料などを負極活物質として用いたリチウムイオン二次電池は、初期不可逆容量が大きいため、サイクル初期における容量低下が大きいという問題がある。ここで、不可逆容量とは、リチウムイオン二次電池において、初期充電で負極中に吸蔵されたリチウムの全てを放電によって放出することはできず、放電後も負極中に残留するリチウム量のことを意味する。この不可逆容量の問題は、高容量が要求される車両用途への実用化において大きな開発課題となっており、不可逆容量を抑制する試みが盛んに行われている。
【0007】
このような不可逆容量に相当するリチウムを補填する技術として、負極活物質に炭素材料を用いた負極において、更に所定量のリチウム粉末を該負極(活物質層)表面に付着させた構成が提案されている(特許文献1を参照)。この開示によれば、負極に初回充放電容量差に相当する量のリチウムを予備吸蔵(プレドープ)させることにより、初充電時に充放電容量差を解消でき高容量で安全な電池が得られる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−234621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の負極は、負極(活物質層)表面にリチウムを付着させる場合には、リチウム粉末と負極(活物質層)表面との接触面積は小さい(点接触)為、初充電時(プレドープ時)において、仕込み量の全てがプレドープされるわけではない。そのため一部の粉末は、リチウム金属のままで負極表面に残存し、反応に関与しないことになる。したがって、十分な量のリチウムが負極に取り込まれず、不可逆容量を十分に減らすことが出来ない問題がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、リチウム粉末と負極(活物質層)との間の接触面積を増やして、不可逆容量を十分に補償しうる手段を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。その結果、リチウム粒子を集電体上に塗布、その上から負極活物質層を転写し、負極(活物質層)内にリチウム粒子が取り込まれた構造を有するリチウムイオン二次電池用負極とその製造方法により達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リチウム粒子と負極(活物質層)との接触面積が大きく、負極活物質中に予備吸蔵(プレドープ)されない未反応のリチウムを減らすことが出来るので、少ないリチウム量でも不可逆容量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の代表的な一実施形態である、リチウムイオン二次電池用負極(予備吸蔵前)を示す模式断面図である。
【図2A】本発明の実施形態として非常に多くの微細なLi粒子が均一に分散された形態である、リチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。
【図2B】図2Aの平面図である。
【図2C】本発明の実施形態として非常に多くの微細なLi粒子が規則性を持って分散された形態である、リチウムイオン二次電池用負極を示す平面図である。
【図2D】本発明の実施形態として少量の大きなLi粒子が不規則に分散された形態である、リチウムイオン二次電池用負極を示す平面図である。
【図3】本発明の代表的な一実施形態である、リチウムイオン二次電池用負極(予備吸蔵後)を示す模式断面図である。
【図4A】図4は本発明の代表的な一実施形態である、リチウムイオン二次電池用負極(予備吸蔵前)の製造方法の工程図を表すものであり、このうち図4Aは、第一工程後の様子を表す断面図である。
【図4B】第二工程の第一段階後の様子を表す断面図である。
【図4C】図4Bの平面図である。
【図5】本発明のリチウム二次電池の代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウム二次電池の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【図6】本発明のリチウム電池の他の代表的な一実施形態である双極型の扁平型(積層型)のリチウム二次電池の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。
【図7】本発明の一実施形態である積層型電池を複数個接続して得られる小組電池を示す斜視図である。
【図8】本発明の組電池の一実施形態の外観図であって、図7の小組電池を複数接続したものであり、図8Aは平面図であり、図8Bは正面図であり、図8Cは側面図である。
【図9】本発明の一実施形態である組電池を搭載する自動車の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
[負極]
本発明の一実施形態は、集電体と、前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層と、を含むリチウムイオン二次電池用負極に関する。そして、本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極は、リチウム(以下、Liとも記す)粒子が、前記負極活物質層中に含有されていることを特徴とする。
【0016】
図1は、本発明の代表的な一実施形態である、リチウムイオン二次電池用負極を示す模式断面図である。以下、図1に示すリチウムイオン二次電池用負極を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0017】
図1に示す本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極10は、集電体1と、該集電体1の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層2とが順に積層された構造を有する。さらに本実施形態では、リチウム粒子3が負極活物質層2中に含有されている。かかる負極10は、Li粒子が予備吸蔵(プレドープ)される前の負極(部品ないし中間品)の構成を表すものである。ここで、集電体1の反対の面に正極活物質層を形成すれば、双極型電池に用いられる双極型電極となる(図6参照)。一方、集電体1の反対の面にもリチウム粒子3が含有された負極活物質層2を形成すれば、非双極型電池に用いられる負極板となる(図5参照)。
【0018】
図1に示す実施形態のように、リチウム粒子3が負極活物質層2中に含有された構成とすることで、負極活物質層2中の負極活物質とリチウム粒子3との接触面積を増やし、不可逆容量を十分に減らすことができるだけでなく、サイクル特性向上させることもできる。
【0019】
以下、本実施形態の負極10を構成する部材について説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0020】
[集電体]
集電体1は、導電性材料から構成される。集電体を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種の集電体材料が好ましく用いられうる。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0021】
[負極活物質層]
負極活物質層2は、負極活物質およびLi粒子3を含み、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、バインダー、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などをさらに含んで構成される。
【0022】
負極活物質層中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、活物質層の厚さについても特に制限はなく、非水電解質二次電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、活物質層の厚さは、2〜100μm程度である。
【0023】
(負極活物質)
負極活物質はリチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されないが、リチウムと合金化する材料が好ましい。リチウムと合金化する材料としては、リチウムと合金化する元素の単体、これらの元素を含む酸化物および炭化物等が挙げられる。
【0024】
リチウムと合金化する材料を用いることにより、炭素系材料に比べて高いエネルギー密度を有する高容量の電池を得ることが可能となる。また、Liと合金化する材料はLiのプレドープ時に急激な発熱反応を起こし、炭素材料などの他の負極活物質に比べて発熱量を増加させる。かかる急激な発熱反応により負極活物質層内のバインダー等が熱融解する虞れがある場合には、後述するように初充電時に予備吸蔵させるのではなく、電池作製後初充電前にエージングする工程を設けて予備吸蔵させるのが望ましい形態といえる。エージング処理では、電極間に電圧が印加されていない為、Li粒子からのLiイオンの放出(拡散)速度が遅く、Liと負極活物質との急激な反応を抑制することができるものといえる。必要があれば、当該エージング工程中、外装材で封止した電池を水冷するなどしてもよいといえる。あるいは、Li粒子として、大気中で安定化するための皮膜を有するLi粒子を用いることにより、予備吸蔵する際に、該Li粒子からのLiイオンの放出(拡散)速度を抑制し、Liと負極活物質との急激な反応を抑制するのが望ましい他の形態といえる。
【0025】
上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、負極活物質は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、SiまたはSnの元素を含むことがより好ましく、Siを含むことが特に好ましい。上記のリチウムと合金化する元素を含む酸化物としては、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化スズ(SnO)、二酸化ケイ素(SiO)などを用いることができる。また、上記のリチウムと合金化する元素を含む炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)などを用いることができる。これらは1種単独で使用しても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素材料も負極活物質として好適に使用可能である。該炭素材料としては、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等が挙げられる。また、炭素材料は、Liと合金化する元素を含む材料に比べて、Liのプレドープ時に急激な発熱反応を起こし難く、発熱量も低い。そのため、負極活物質層内のバインダー等が熱融解する恐れがないので、従来同様に初充電時に予備吸蔵させてもよいし、電池作製後初充電前にエージングする工程を設けて予備吸蔵させてもよいなど、任意の時期に予備吸蔵させることができる点で優れている。
【0027】
この他、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。
【0028】
ただし、容量を向上させるためには、上記リチウムと合金化する材料を多く活物質中に含むことが好ましい。具体的には、負極活物質中、リチウムと合金化する材料を50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%を含む。該リチウムと合金化する材料が充放電により大きく膨脹収縮することを勘案し、リチウムと合金化する材料に、炭素材料を適量加えて膨脹収縮を抑制するようにしてもよい(実施例1〜5参照)。本実施形態では、リチウムと合金化する材料の膨脹収縮を抑制する手段として、例えば、セパレータに膨脹収縮を吸収できる柔軟性ないしゴム弾性を有する材料を採用することなどができる。加えて、本実施形態では、予備吸蔵により負極活物質層内部にも空孔(中空構造)3’が形成され、かかる空孔(中空構造)3’もリチウムと合金化する材料の膨脹収縮を抑制する手段として有効に機能し得る。そのため、上記したリチウムと合金化する材料の含有量を高め、リチウムと合金化する材料のみを負極活物質として利用することも十分に可能であり、かつ高容量化を図る上で望ましい形態といえる。但し、空孔(中空構造)3’部分には電解液などが入っていてもよく、必ずしも空孔のままでなくてよい。
【0029】
負極活物質の平均粒径は特に制限されないが、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは1〜20μmである。ただし、これらの範囲を外れる形態もまた、採用されうる。なお、本願において活物質の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0030】
(導電助剤)
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される添加物をいう。本発明に用いられうる導電助剤は特に制限されず、従来公知のものを利用することができる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。特に、リチウムと合金化する材料のように導電性を持たない負極活物質を用いる場合に有効に利用される。
【0031】
(バインダー)
負極活物質層はバインダーを含んでもよい。バインダーは、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で活物質層に加えられる。
【0032】
バインダーとしては、以下に制限されることはないが、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド、およびアクリル樹脂などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が挙げられる。
【0033】
(電解質・支持塩)
電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、それらの共重合体などのリチウム塩を含むイオン伝導性ポリマー(固体高分子電解質)などが挙げられるが、これらに制限されることはない。
【0034】
支持塩(リチウム塩)としては、以下に制限されないが、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩;LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等の有機酸陰イオン塩が挙げられる。これらの支持塩は、単独で使用されてもまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0035】
(リチウム粒子)
Li粒子3は、初充電時あるいはエージング工程を通じてLiイオンを活物質にプレドープするのに必要なLi供給源として、プレドープ前の負極10の負極活物質層2内部に取り込ませてなるものである。即ち、Li粒子3は、初回充放電において生じる電極の不可逆容量を補償する機能を有する。電極の不可逆容量は、予め使用する負極(但し、Li粒子を含まないもの)を用いた電池を別途作製して充放電を行い、充電前と充電後の放電容量の差分から算出することができる。
【0036】
Li粒子3は、リチウム金属粒子の単体であってもよいし、表面コートされたリチウム金属粒子を用いてもよい。Li粒子3としては、リチウム金属粒子を安定化処理することで得られる、少なくとも大気中で安定な皮膜を有するリチウム金属粒子を使用するのが好ましい。リチウム金属粒子を安定化処理することで、大気中、更には実施例で用いたキシレン等の溶媒中でも安定化し、さらに露点マイナス40℃程度のドライルームにおいてもリチウム金属粒子の変質が進行しなくなる。ここで、大気中で安定化するための皮膜を有するように、金属リチウム粒子を安定化処理するとは、金属リチウム粒子の表面に環境安定の良い物質、例えば、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)等の有機ゴム、EVA(エチレンビニルアルコール共重合樹脂)等の有機樹脂やLiCO、LiOなどの金属炭酸塩や金属酸化物等の無機化合物等で皮膜(コーティング)することをいう。また金属リチウム粒子を安定化処理することで得られる、大気中で安定化するための皮膜を有する金属リチウム粒子としては、市販品として入手可能なFMC社製のSLMPやアルドリッチ社製のリチウムパウダー等がある。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なかでも安全性の観点から炭酸塩で皮膜(コーティング)されたものが特に好ましい。これら安定化処理により表面コートされたLi粒子は、大気中や実施例で用いたキシレン等の分散媒中でも安定な皮膜を有するLi金属粒子なので、反応性の高いLiが大気中やキシレン等の分散媒中の水分や溶媒と反応したり、失活することがない点で優れている(実施例参照のこと)。また、Li金属粒子表面に上記したような絶縁性の皮膜が存在することにより、Liと負極活物質とが直接電気的に接触するのを抑制できる。これにより、プレドープ時に、Liと負極活物質との間の過度な反応が抑制されるため、この反応により生じる発熱量を低減できる。その結果、バインダー等を融解させることがないため、負極の内部抵抗を上昇させることなく不可逆容量を補償することができる点でも優れている(実施例参照のこと)。
【0037】
Li粒子3の負極活物質層2の厚さ方向への含有形態としては、図1に示すように、Li粒子3が、負極活物質層2内の厚さ方向において、負極活物質層2の集電体1表面側に多く存在しているのが望ましい。とりわけ、図1に示すように、Li粒子3が集電体1表面と接している形態がより望ましい。これらの形態は、後述する本発明の製造方法を利用して、Li粒子を失活させることなく簡便に作製でき、尚且つ十分な量のLi粒子3を負極活物質層2内に取り込むことができるためである。但し、本形態としては、例えば、負極活物質層2内の厚さ方向において、負極活物質層2の中央部に多く存在していてもよいなど、特に制限されるものではない。負極活物質層2内部であれば、十分な量のLi粒子3を取り込み接触面積を増やすことができる形態といえるものであり、後述する本発明の製造方法を利用することで、Li粒子を失活させることなく作製し得るためである。更に、特許文献1のように予め所定量のリチウム粉末を負極表面(負極活物質層上)に付着させる場合には、接触面積は小さい(点接触)為、充放電効率の低下だけでなく、抵抗も増大する問題がある(比較例2、4参照)。加えて負極活物質層上に予備吸蔵(プレドープ)されることなく残留したリチウム粉末は、既存の金属リチウム単体の負極と同様に、その後の充放電使用を繰り返すうちに該負極表面のLi粉末を核としてLiの樹枝状結晶を析出し易くなるという問題もある。特に高容量が期待されるLiと合金化する負極活物質は充電時の体積膨脹が大きいため、電解質層を挟んで対向する正極活物質層(図5、6参照)との間隔が狭まり、Liの樹枝状結晶が電解質層(セパレータ)を突き破るおそれがあるという問題もある。一方、本実施形態の如く、負極活物質層2内部、とりわけ集電体1表面側にLi粒子3を含有(分散)させる場合には、接触面積が大きく、不可逆容量を十分に減らすことができ、充放電効率が良く、抵抗の増大も抑制できる(各実施例参照)。加えて、Li粒子3の一部が予備吸蔵(プレドープ)ことなく残留した場合でも、負極表面上にリチウム粒子が付着していない為、樹枝状結晶の核となることもない。また、負極活物質層2内部、とりわけ集電体1表面側にLi粒子3を含有(分散)させる場合には、予備吸蔵(プレドープ)により、負極活物質層2内部、とりわけ集電体1側のLi粒子3部分に空孔(中空構造)3’が形成される(図2、3参照)。そのため、高容量が期待されるLiと合金化する負極活物質を用いた場合でも、充電時の体積変化を当該空孔(中空構造)3’が吸収して、電解質層を挟んで対向する正極活物質層との間隔が狭まるのを効果的に抑制することができる点でも優れている。
【0038】
Li粒子3の厚さ方向への含有形態は、例えば、負極10を厚み方向に切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。本実施形態においてLi粒子3が集電体1表面側に多く存在しているとは、次のような状態をいう。即ち、負極10の任意の断面を上記のように観察したとき、観察像中に含まれる全Li粒子3のうち、集電体1表面から負極活物質層2の厚さ方向に、負極活物質層2の厚さtの1/2の厚さまでに存在しているLi粒子が50%よりも多く存在している状態である。集電体1表面から負極活物質層2の厚さ方向に、負極活物質層2の厚さtの1/2の厚さまでに存在しているLi粒子3は、より好ましくは50%以上、最も好ましくは100%である。本実施形態においてLi粒子3が集電体1に接しているとは、次のような状態をいう。すなわち、負極10の任意の断面を上記のように観察したとき、観察像中に含まれる全Li粒子3のうち、少なくとも表面の一部が集電体1に接触しているLi粒子が50%以上ある状態である。集電体1に接しているLi粒子3は、より好ましくは50%以上、最も好ましくは100%である。
【0039】
Li粒子3の負極活物質層2の表面に平行な方向(面内方向)への含有形態としては、図1に示すように、Li粒子3が、負極活物質層2内において負極活物質層2の面内方向に分散されているのが好ましい。より好ましくは、負極活物質層2の面内方向に均一に分散されている形態である。Li粒子3が負極活物質層2内に分散されていると、エージングないし初充電時に、接触面積が増えたLi粒子3から活物質層2全体にLiイオンが拡散(放出)され、Liを均質に活物質層2全体に供給されるように機能することができるため好ましい。これによりLi粒子3全体の利用率を増やすことができ、未反応のLi粒子3をより低減することができる。その結果、不可逆容量を低下させるだけでなく、サイクル特性を向上させることができる。とりわけ、図1に示すように、Li粒子3同士が密に接触し合うことなく、適当な間隔をあけて分散(離間)されているのが好ましい。これにより、上記作用効果に加えて、活物質粒子と集電体1との接触も十分にとることができ、内部抵抗の増加を抑えることもできる(図1とLi粒子3同士が密に接触した図2A〜図2Cとを対比参照)。
【0040】
Li粒子3の負極活物質層2内の含有量は、該Li粒子3が初回充放電において生じる電極(負極)の不可逆容量を補償するために利用されるものであるので、その含有量は負極の不可逆容量を補うだけの量以下であることが望ましい。Li粒子の最適な含有量は、負極活物質の量や材質によって変化し、含有量に応じて不可逆容量が減少するが、多すぎると反応に関与しない未反応なリチウムが増加し、電池の体積効率が減少するおそれがある。従って、最適なLi粒子の含有量は別途に負極活物質層の初期効率を求めてから定めることが好ましく、また、電池設計における負極活物質層の厚み(使用量)に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
上記したようにLi粒子3の負極活物質層2内の含有量は、負極活物質の量や材質によって変化するが、とりわけ、負極活物質の材質、特に高容量が期待されるリチウムと合金化する元素を含む材料と、充放電サイクルの寿命やコスト面で有利な炭素材料とで大きく異なる。そのため、以下、負極活物質としてリチウムと合金化する材料(以下、合金系材料ともいう)を用いる場合と、炭素材料を用いる場合に分けて、最適なLi粒子の含有量につき説明する。
【0042】
負極活物質が合金系材料の場合、Li粒子の負極活物質層2内の含有量は、電極面積1cmあたりのLi粒子の合計面積が、6.0×10〜1.8×1010μmとなるように含有させるのが望ましい。これは、それぞれの合金系材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。それぞれの合金系材料の不可逆容量については、既に論文などで報告されている既知の数値(実験値ないし理論値)を用いてもよいし、Li粒子を用いないで電池を作製し、事前に初回充放電を行うことにより求めた実験値を用いてもよい。電極面積あたりのLi粒子の合計面積がこの間であれば、この方法によりLiドープが効率的に行われる。すなわち、Li粒子の合計面積が6.0×10μm以上であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の30%以上となり、電極面積に占めるLi粒子の表面積を十分確保することができる。これによりLi粒子と負極活物質の接触面積を、既存の負極表面への付着(点接触)する場合に比して、十分に大きくすることができる。そのため、ドープ効率を向上することができる(実施例3参照)。またLi粒子の合計面積が1.8×1010μm以下であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の90%以下となり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔が占める割合が大きくなりすぎないため、負極活物質と集電体との接触を十分に取ることができる。
【0043】
負極活物質が炭素材料の場合、Li粒子の負極活物質層2内の含有量は、電極面積1cmあたりのLi粒子の合計面積が、2.3×10〜7.1×10μmとなるように含有させるのが望ましい。これは、それぞれの炭素材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。それぞれの合金系材料の不可逆容量については、既に論文などで報告されている既知の数値(実験値ないし理論値)を用いてもよいし、Li粒子を用いないで電池を作製し、事前に初回充放電を行うことにより求めた実験値を用いてもよい。電極面積あたりのLi粒子の合計面積がこの間であれば、この方法によりLiドープが効率的に行われる。すなわち、Li粒子の合計面積が2.3×10μm以上であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の30%以上となり、電極面積に占めるLi粒子の表面積を十分確保することができる。これによりLi粒子と負極活物質の接触面積を、既存の負極表面への付着(点接触)する場合に比して、十分に大きくすることができる。そのため、ドープ効率を向上することができる(実施例7参照)。またLi粒子の合計面積が7.1×10μm以下であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の90%以下となり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔が占める割合が大きくなりすぎないため、負極活物質と集電体との接触を十分に取ることができる。
【0044】
本実施形態において、電極面積とは、図4Cに示すように、負極10を上面から見た時の負極活物質層2の面積をいう。Li粒子の合計面積とは、負極活物質材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積とLi粒子の平均粒径から粒子量を求め、全て平均粒径のLi粒子として同一平面上に並べ、これを上面から見た時のLi粒子の合計面積をいう(図2B〜図2D参照)。電極面積に対するLi粒子の合計面積を、電極面積1cmあたりに換算した値が、「電極面積1cmあたりのLi粒子の合計面積」である。なお、電極面積やLi粒子の合計面積というようにLi粒子の量を規定する際に「面積」を利用したのは、後述する製造方法を利用することで、Li粒子の全てが集電体表面に接した形態の負極10が得られるため(図1参照)、電極面積に占めるやLi粒子の合計面積を規定することとしたものである。
【0045】
Li粒子3の平均粒径としては、負極活物質層の厚さに応じて適宜決定すればよいが、通常1〜40μmである。なお、Li粒子3の平均粒径は、皮膜を有するLi金属粒子の場合、芯部のLi金属粒子のみの平均粒子を用いるものとする(実施例参照)。かかる範囲であれば、Li粒子の表面積を大きくでき、負極活物質とLi粒子の接触面積を増やし、Li粒子の利用率を増やすことができ、未反応のリチウム金属粒子を減らすことができる。その結果、不可逆容量を低下させるだけでなく、サイクル特性向上させることができる。なお、Li粒子3の平均粒径に関しても、負極活物質の材質によって変化する。そのため、以下、負極活物質として合金系材料を用いる場合と、炭素材料を用いる場合に分けて、最適なLi粒子の平均粒径につき説明する。
【0046】
負極活物質が合金系材料の場合、Li粒子の平均粒径は1〜40μmであればよいが、好ましくは5〜37μm、より好ましくは10〜30μmである。これは、合金系材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。かかる観点からは、Li粒子の平均粒径が10〜30μmの好適範囲であれば、Liドープが効率的に行われる点で好ましい。一方、図2Dのように、Li粒子の平均粒径が30μmを超えると、Li粒子が担持される面積が電極面積の30%未満となり、Liと電極活物質の接触面積が小さくなる。そのため、効率的にドープされ難くなる(実施例3と実施例4の充放電効率を対比参照のこと)。但し、Li粒子の平均粒径が40μmを超えなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合よりも高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができ尚且つ抵抗増加抑制効果も優れている(実施例4と比較例2を対比参照のこと)。また、Li粒子の平均粒径が10μm未満であると、図2Bのように、Li粒子が担持される面積が電極面積の90%を超えることになり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔を占める割合が大きくなる。そのため、活物質と集電体の接触が取りにくくなり、効果的に抵抗増加を抑制し難くなる傾向にある(実施例3と実施例2を対比参照)。但し、Li粒子の平均粒径が1μm未満とならなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合に対し、若干抵抗が大きくなるが、非常に高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができるものといえる(実施例2と比較例2を対比参照のこと)。
【0047】
負極活物質が炭素材料の場合でも、Li粒子の平均粒径は1〜40μmであればよいが、好ましくは2〜37μm、より好ましくは2〜15μmである。これは、炭素材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。かかる観点からは、Li粒子の平均粒径が2〜15μmの好適範囲であれば、Liドープが効率的に行われる点で好ましい。一方、図2Dのように、Li粒子の平均粒径が15μmを超えると、Li粒子が担持される面積が電極面積の30%未満となり、Liと電極活物質の接触面積が小さくなる。そのため、効率的にドープされ難くなる(実施例7と実施例8の充放電効率を対比参照のこと)。但し、Li粒子の平均粒径が40μmを超えなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合よりも、高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができ、尚且つ抵抗増加抑制効果も優れている(実施例8と比較例4を対比参照のこと)。また、Li粒子の平均粒径が2μm未満であると、図2Bのように、Li粒子が担持される面積が電極面積の90%を超えることになり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔を占める割合が大きくなる。そのため、活物質と集電体の接触が取りにくくなり、効果的に抵抗増加を抑制し難くなる傾向にある(実施例7と実施例6を対比参照)。但し、Li粒子の平均粒径が1μm未満とならなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合に対し、若干抵抗が大きくなるが、非常に高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができるものといえる(実施例6と比較例4を対比参照のこと)。
【0048】
ここで、「粒径」とは、粒子(またはその断面形状)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均粒径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用してもよいし、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用してもよい。
【0049】
Li粒子が皮膜を有するリチウム金属粒子である場合の皮膜厚さ(平均値)は、皮膜形成目的である大気中での安定性を発現でき、尚且つプレドープ時に電解液が皮膜内に浸透可能で、該溶液に溶解したLiイオンが皮膜を介して外部に容易に放出(拡散)し得る厚さであればよい。かかる観点から、皮膜厚さは、0.01〜10μm、好ましくは0.1〜5μmであればよいが、かかる範囲に何ら制限されるものではない。Li粒子の皮膜厚さは、Li金属粒子(芯部)の平均粒径と、Li粒子(皮膜を含む)の平均粒径を、それぞれ上記した測定法により求め、Li粒子(皮膜を含む)の平均粒径からLi金属粒子(芯部)の平均粒径を差し引いた値を2で除した値を採用するものとする。
【0050】
皮膜がリチウム金属粒子(芯部)を被覆する形態は特に制限されない。例えば、リチウム金属粒子の表面が完全に皮膜に被覆されている形態であってもよいし、リチウム金属粒子の表面が部分的に被覆されてその表面の一部が露出した形態であってもよい。好ましくは、完全に被覆した形態である。また、皮膜部分は、有機ゴム、有機樹脂、金属炭酸塩等の無機化合物の微粒子が表面被覆されて皮膜を形成しているのが、該微粒子間の隙間から、浸透性に優れた電解液が皮膜内に浸透でき、該溶液に溶解したLiイオンが皮膜を介して外部に容易に放出(拡散)しやすい為、好ましい。但し、有機ゴム、有機樹脂、金属炭酸塩等の無機化合物の微粒子ではなく、これらの材料の薄膜(電解液透過膜)で表面被覆されて皮膜を形成しているものであってもよい。浸透性に優れた電解液の場合、こうした薄膜状の皮膜内でも十分に浸透でき、該溶液に溶解したLiイオンが皮膜を介して外部に容易に放出(拡散)し得るためである。なお、一方、微粒子形態であれ、薄膜形態であれ、有機ゴム、有機樹脂、金属炭酸塩等の無機化合物の材料は、大気中の水分などに対しては安定であり、容易に浸透し得ないため、反応したり、失活しない。
【0051】
Li粒子の形状は特に制限されず、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状など任意の構造をとりうる。ドープの均一性の観点から、好ましくは球形状が望ましい。
【0052】
[負極の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法は、リチウム粒子を集電体上に担持する第一工程と、前記集電体のリチウム粒子が担持された側に負極活物質を含む負極活物質層を担持する第二工程とを含むことを特徴とするものである。好ましくは前記第二工程が、基材に負極活物質を含む負極活物質層を形成する第一段階と、前記負極活物質層を前記集電体のリチウム粒子が担持された側に転写する第二段階とを含む方法である。
【0053】
即ち、本発明の負極10を製造するのであれば、一般的な、負極活物質、導電助剤、バインダー等にNMP等の粘度調整溶媒を加えて調整した負極スラリーを負極集電体上に塗布、乾燥する従来製法を利用することが考えられる。またこうした従来製法では、負極活物質層内部にLi粒子を均一に分散できるため有効な方法であるとも考えられる。しかしながら、負極スラリーにLi粒子も加えて製造しようとすると、負極スラリーにはNMP等の粘度調整溶媒が使用されているため、SLMP等の大気中で安定な皮膜を有するリチウム金属粒子を用いたとしても、該粒子の皮膜成分(例えば、SLMPでは炭酸塩)を壊してしまう。そのため、反応性が高いリチウム金属が露出してしまい、リチウムと水や溶媒との反応が促されてしまいLi金属粒子が失活してしまう。その結果、Li補填効率が低下してしまう。皮膜を有しないLi金属粒子の場合には、より顕著に失活し、Li補填効率が更に低下してしまう。そのため、負極活物質層内部にLi粒子を取り込んだ発明が現在まで開発できなかった理由といえる。こうした事情から、特許文献1等の既存のプレドープ技術では、負極スラリー(特にNMP等の粘度調整溶媒)が反応性の高いLi粉末と接触しないように、予め集電体上に負極活物質層を形成し、完全にNMP等の粘度調整溶媒を乾燥、除去した負極活物質層表面にLi粉末を担持させる工夫が施されている。反面、乾燥状態の負極活物質層表面にしか担持できないため、Li粉末を付着(点接触)させたものしかできていなかったといえる。本発明者らは、Li補填効率を高める上で、負極活物質層内部にLi粒子を取り込んだ構成が有用であるとの知見から、かかる構造を実現し得る製造方法を鋭意検討した結果、上記製造方法を見出したものである。かかる製造方法によれば、反応性が高いLi粒子と水や溶媒とが反応(接触)するのを防止することができ、Li粒子の失活を抑制し、Li補填効率に優れる負極を提供することができる。以下、工程ごとに図面を用いて説明する。図4は、本発明の代表的な一実施形態である、リチウムイオン二次電池用負極(予備吸蔵前)の製造方法の工程図である。図4Aは第一工程後の様子を表す断面図である。図4Bは第二工程の第一段階後の様子を表す断面図である。図4Cは、図4Bの平面図である。そして、図1が第二工程の第二段階後の予備吸蔵前の負極が完成した様子を表す断面図である。
【0054】
(1)第一工程
第一工程は、リチウム粒子を集電体上に担持する工程である。
【0055】
リチウム粒子を集電体上に担持する方法としては、該Liの反応性が高いことから、適当な分散媒中に分散させたLi粒子含有液を用いて、適当な方法にて集電体の表面に塗布し、得られたLi粒子含有塗膜を乾燥させる方法が利用できる。かかる担持方法により、図4Aに示すように、集電体1の表面上に複数のLi粒子3が適当に分散して担持させることができる。なお、電池の種類に応じて、集電体の片面ないし両面に当該担持工程を施せばよい。なお、必要があれば、上記担持操作を複数回繰り返して、所望のLi粒子の担持量になるように調整してもよい。
【0056】
上記リチウム粒子の分散媒としては、Li粒子(皮膜を含む)との反応性のない溶媒が好適に利用できる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニリン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、へキサンなどの脂肪族系や芳香族系有機溶媒、メタノールなどのアルコール類が好ましい。
【0057】
上記Li粒子含有液には、乾燥後にLi粒子が集電体から剥離することがないように、適当なバンンダーを加えてもよい。大気中で安定な皮膜を有するリチウム金属粒子を用いる場合には、バインダーを用いなくとも、該皮膜が集電体に付着し、集電体から剥離するのを防止できる点で有利である。
【0058】
上記バンンダーとしては、負極活物質層に含まれるバインダーと同じものが利用可能である。
【0059】
上記Li粒子含有液を集電体の表面に塗布するための塗布手段は特に限定されないが、例えば、自走型コーター、ドクターブレード法、スプレー法などの一般に用いられる手段が採用されうる。
【0060】
また、集電体の表面に形成されたLi粒子含有塗膜を乾燥させることにより、塗膜中の分散媒が除去される。該塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されないが、例えば、真空(減圧)乾燥、自然乾燥、加熱乾燥処理など例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度、乾燥雰囲気、乾燥圧力など)は、Li粒子の反応性を考慮し、Li粒子含有液の塗布量や分散媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。得られた乾燥物はプレスすることによってリチウム粒子を集電体上に強固に担持させることができる。かかるプレス操作も後述する負極スラリー中の溶媒等に対して強固かつ緻密な皮膜形成に有効である。
【0061】
なお、皮膜を有するリチウム金属粒子は、市販のものを用いてもよいし、以下のように、リチウム粒子と皮膜材料と溶媒とを含む分散液を噴霧乾燥することにより調製してもよい。分散液の調製方法およびこれを噴霧乾燥する方法については、特に制限されないが、以下のような方法を用いることが好ましい。
【0062】
まず、(a)リチウム粒子と皮膜材料とを、溶媒に分散させて分散液を調製する(分散液の調製段階)。次いで、(b)分散液を噴霧乾燥することによりLi粒子を調製する(噴霧乾燥段階)。
【0063】
(a)分散液の調製段階
本段階では、リチウム粒子と皮膜材料とを、溶媒に分散させて分散液を調製する。分散媒としては、特に制限されることはないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニリン、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、へキサンなどの脂肪族系や芳香族系有機溶媒、メタノールなどのアルコール類、などが好ましく用いられる。
【0064】
(b)噴霧乾燥段階
本段階では、上記段階で得た分散液を噴霧乾燥することによりリチウム粒子の表面に皮膜を有するLi粒子を得る。噴霧乾燥の方法は、特に制限されず、スプレードライ法、含浸法などの従来公知の方法を用いることができる。これらの中でも、スプレードライ法を用いることが好ましい。スプレードライ法によれば、噴霧される液滴サイズが均一化されるため、均一な粒子径を有するLi粒子を簡便に得ることができる。
【0065】
噴霧乾燥は窒素、アルゴン雰囲気下で行うことが好ましい。噴霧乾燥の温度としては、溶媒の種類にもよるが、30〜100℃が好ましい。かような温度であれば、噴霧された液滴がすばやく乾燥され、凝集されることなく単分散されたLi粒子が得られるため好ましい。
【0066】
以上の手順により、皮膜を有するLi粒子が得られる。
【0067】
(2)第二工程
第二工程は、前記集電体のリチウム粒子が担持された側に負極活物質を含む負極活物質層を担持する工程である。
【0068】
本実施形態では、当該第二工程は、基材に負極活物質を含む負極活物質層を形成する第一段階と、前記負極活物質層を前記集電体のリチウム粒子が担持された側に転写する第二段階と、とに分けて実施するのが好ましい。以下、これらの段階ごとに説明する。
【0069】
(2−1)第一段階
第一段階は、基材に負極活物質を含む負極活物質層を形成する工程である。
【0070】
第一段階では、集電体に代えて、転写に適した基材を用いる以外は、従来の集電体表面に負極活物質を含む負極活物質層を形成する方法を適用できる。
【0071】
まず、負極活物質、導電助剤およびバインダーなどの電極材料を含む電極スラリーの混合物をスラリー粘度調製溶媒に分散して負極スラリーを調製する。
【0072】
スラリー粘度調製溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。
【0073】
次いで、基材の表面に上記負極スラリーを塗布する。負極スラリーを基材に塗布するための塗布手段は特に限定されないが、例えば、自走型コーター、ドクターブレード法、スプレー法などの一般に用いられる手段が採用されうる。
【0074】
上記基材としては、負極活物質層を転写するのに適した材料を適宜選択して用いればよい。即ち、後述する実施例のように加熱により、基板表面から負極活物質層が剥離できるように、耐熱性、熱伝導性、剥離性、スラリー溶媒に対する耐溶剤性、耐熱性などを備えた材料が好適である。具体的には、ステンレス鋼、アルミ二ウム板等の金属材料が好ましい。
【0075】
続いて、基板の表面に形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去される。塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、スラリーの塗布量やスラリー粘度調製溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。得られた乾燥物はプレスすることによって電極の密度、空孔率や厚みが調整される。
【0076】
これにより、図4Bに示すように、基板4の表面に負極活物質層2が形成される。
【0077】
(2−2)第二段階
第二段階は、負極活物質層を前記集電体のリチウム粒子が担持された側に転写する工程である。
【0078】
本工程の転写方法としては、特に制限されるものではないが、第一工程で得られた集電体1のLi粒子3が担持された側に、第一段階で得られた基板4上の負極活物質層2が形成された面を貼り合わせることで、負極活物質層2を基板4から剥離し、集電体1のLi粒子3が担持された側に転写させることができる。これにより図1に示す負極10を得ることができる。
【0079】
上記転写の際には、少なくとも負極活物質層2が形成された基板4側、特に負極活物質層2表面を加熱し、負極活物質層2表面のバインダーが軟化し、接着機能を発現し得るようにするのが望ましい。より好ましくは、集電体1のLi粒子3を担持した集電体1と、負極活物質層2が形成された基板4の双方を加熱しておくのが望ましい。これにより、負極活物質層2が基板4から容易に剥離でき、ないかつ集電体1のLi粒子3が担持された側に強固に担持(接着ないし密着)することができる。
【0080】
即ち、転写時の上記加温条件としては、使用する負極活物質のバインダー材料の種類やLi粒子の反応性を考慮して適宜決定すればよいが、通常60〜120℃、好ましくは80〜100℃である。
【0081】
また、転写の際の他の条件(貼り合わせ時間、転写雰囲気、貼り合わせ圧力など)についても、Li粒子の反応性を考慮して適宜決定すればよい。
【0082】
なお、本実施形態では、上記した転写法を用いた第2工程に代えて、塗布法を用いて、集電体表面に担持されたLi粒子上に、負極スラリーを塗布してもよい。ただし、この場合には、Li粒子として、大気中で安定な皮膜を有するリチウム金属粒子を用いるのが望ましい。即ち、SLMP等の大気中で安定な皮膜を有するリチウム金属粒子を用いたとしても、該Li粒子の上から負極スラリーを塗布すると、スラリーに含まれるNMP等の粘度調整溶媒によって該粒子の皮膜成分(例えば、SLMPでは炭酸塩)を壊してしまうと思われていた。ところが、反応性の高いLi粒子を含む負極スラリーの作製は困難(=リチウム粒子が反応し、プレドープ前に失活するため)であるが、意外にも上記第一工程後に、第二工程として負極スラリーを塗布した場合には、皮膜成分が破壊され難くなることがわかった。その結果、想定以上にプレドープ前に失活が抑えられ、高充放電効率および抵抗低減効果を奏し得ることがわかったものである(表1の実施例1、5と他の実施例、更には比較例2、4とを対比参照のこと)。かかる作用機序に関しては、明確に解明されてはいないが、第一工程時に表面皮膜が分散媒中で若干膨潤した後、乾燥により収縮し緻密化され、スラリーと接触する間に破壊され難くなるなどの予期せぬ作用効果が得られたものといえる。加えて、実施例にあるように第一工程の乾燥後にプレスすることによって、皮膜の更なる緻密化が図られ、負極スラリー中の溶媒等に対して強固かつ安定な皮膜形成がなされるものと言える。但し、高充放電効率および抵抗低減効果が上記作用機序によらない場合でも、当該製造方法により得られる上記高充放電効率および抵抗低減効果が何ら損なわれるものではなく、本発明の目的・効果を十分達成・発現し得ることに何ら影響するものではない。
【0083】
なお、集電体表面に担持されたLi粒子上に、負極スラリーを塗布するには、先に説明した第二工程の第一段階と同様の塗布操作に行えばよい。
【0084】
さらに、本実施形態では、上記した転写法を適当にアレンジすることもできる。例えば、集電体上に、負極スラリーを塗布、乾燥して、必要な厚さの半分の厚さの第一負極活物質層を形成する。この上に、上記第一工程によりLi粒子を担持する。次に、第二工程の第一段階で、基材上に、負極スラリーを塗布、乾燥して、必要な厚さの半分の厚さの第二負極活物質層を形成する。最後に第二工程の第二段階で、集電体の第一負極活物質層上のLi粒子側に、基材上の第二負極活物質層を転写することで、負極10を形成してもよい。これにより、Li粒子を負極活物質層の厚さ方向の中央部に形成することができる。第一負極活物質層と第二負極活物質層の厚さを調整することで、Li粒子を負極活物質層の厚さ方向の任意の位置に形成することもできる。また、上記集電体側の操作を適当に繰り返すことにより、Li粒子を負極活物質層の厚さ方向の複数の位置に取り込むこともできる。このように、本実施形態では、少なくとも第一工程を用いてLi粒子を担持させる手法を利用しながら、負極活物質層内部の最適な位置にLi粒子を取り込ませることができる。
【0085】
[電池]
上記実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極はリチウムイオン二次電池に用いられうる。すなわち、本発明の一形態は上記の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極によって構成される、リチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池の構造および形態は、積層型電池、双極型電池など特に制限されず、従来公知のいずれの構造にも適用されうる。以下、本発明のリチウムイオン二次電池の構造について説明する。
【0086】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池用負極を用いて構成される。
本発明の負極が適用され得るリチウム二次電池の基本的な構成を図面を用いて説明する。
【0087】
[電池の全体構造]

図5は、本発明のリチウム二次電池の代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウム二次電池(以下、単に非双極型リチウム二次電池、または非双極型二次電池ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
【0088】
図5に示すように、本実施形態の非双極型リチウム二次電池10では、電池外装材22を用いて、発電要素17を収納し密封した構成を有している。ここで発電要素17は、正極集電体11の両面に正極活物質層12が形成された正極板、電解質層13、および負極集電体14の両面(発電要素の最下層および最上層用は片面)に負極活物質層15が形成された負極板を積層した構成を有している。本発明のリチウム二次電池用負極はこの負極板の構成に含まれる。積層の際、一の正極板片面の正極活物質層12と前記一の正極板に隣接する一の負極板片面の負極活物質層15とが電解質層13を介して向き合うようにして、正極板、電解質層13、負極板の順に複数積層されている。
【0089】
これにより、隣接する正極活物質層12、電解質層13、および負極活物質層15は、一つの単電池層16を構成する。従って、本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、単電池層16が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素17の両最外層に位置する最外層正極集電体11aには、いずれも片面のみに正極活物質層12が形成されている。なお、図5と正極板と負極板の配置を変えてもよい。その際は、発電要素17の両最外層に最外層負極集電体(図示せず)が位置するようにし、該最外層負極集電体の場合にも片面のみに負極活物質層15が形成されているようにする。
【0090】
また、前記の各電極板(正極板及び負極板)と導通される正極タブ18および負極タブ19が、正極端子リード20および負極端子リード21を介して各電極板の正極集電体11及び負極集電体14に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられている。これにより、正極集電体11及び負極集電体14に電気的に接続された正極タブ18および負極タブ19は、電池外装材22の外部に露出される構造を有している。
【0091】
図6は、本発明のリチウム電池の他の代表的な一実施形態である双極型の扁平型(積層型)のリチウム二次電池(以下、単に双極型リチウム二次電池、または双極型二次電池とも称する)の全体構造を模式的に表わした概略断面図である。
【0092】
図6に示すように、本実施形態の双極型リチウム二次電池30は、実際に充放電反応が進行する発電要素(蓄電素子)37が、電池外装材42の内部に封止された構造を有する。図6に示すように、本実施形態の双極型二次電池30の発電要素37は、2枚以上で構成される双極型電極34で電解質層35を挟み、隣合う双極型電極34の正極活物質層32と負極活物質層33とが電解質層35を介して対向するようになっている。ここで、双極型電極34は、集電体31の片面に正極活物質層32を設け、もう一方の面に負極活物質層33を設けた構造を有している。すなわち、本発明のリチウム二次電池用負極の集電体の一方の面に正極活物質層を形成する。双極型二次電池30では、集電体31の片方の面上に正極活物質層32を有し、他方の面上に負極活物質層33を有する双極型電極34を、電解質層35を介して複数枚積層した構造の発電要素37を具備してなるものである。
【0093】
隣接する正極活物質層32、電解質層35および負極活物質層33は、一つの単電池層36を構成する。したがって、双極型二次電池30は、単電池層36が積層されてなる構成を有するともいえる。また、電解質層35からの電解液の漏れによる液絡を防止するために単電池層36の周辺部には絶縁層43が配置されている。該絶縁層43を設けることで隣接する集電体31間を絶縁し、隣接する電極(正極活物質層32及び負極活物質層33)間の接触による短絡を防止することもできる。
【0094】
発電要素37の最外層に位置する正極側電極34a及び負極側電極34bは、双極型電極構造でなくてもよい。例えば、集電体31a、31bに必要な片面のみの正極活物質層32または負極活物質層33を配置した構造としてもよい。具体的には、図6に示すように、発電要素37の最外層に位置する正極側の最外層集電体31aには、片面のみに正極活物質層32が形成されているようにしてもよい。同様に、発電要素37の最外層に位置する負極側の最外層集電体31bには、片面のみに負極活物質層33が形成されているようにしてもよい。また、双極型リチウム二次電池30では、上下両端の正極側最外層集電体31a及び負極側最外層集電体31bのさらに外側に集電板38aおよび39bがそれぞれ設けられている。集電板38aおよび39bは、それぞれ延長されて正極タブ38および負極タブ39となっている。集電板38aおよび39bは、必要に応じて正極端子リード及び負極端子リードを介して接合されていてもよい。また、正極側最外層集電体31aが延長されて正極タブ38とされ、電池外装材42であるラミネートシートから導出されていてもよい。同様に、負極側最外層集電体31bが延長されて負極タブ39とされ、同様に電池外装材42であるラミネートシートから導出される構造としてもよい。
【0095】
また、双極型リチウム二次電池30でも、発電要素37部分を電池外装材42に減圧封入し、正極タブ38及び負極タブ39を電池外装材42の外部に取り出した構造とするのがよい。かかる構造とすることで、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止することができるためである。この双極型リチウム二次電池30の基本構成は、複数積層した単電池層36が直列に接続された構成ともいえるものである。 次に、本発明のリチウム二次電池を構成する各部材について説明する。
【0096】
[集電体]
集電体は、上記した負極の構成要件として説明したように導電性材料から構成される。集電体を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種の集電体材料が好ましく用いられうる。集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。
【0097】
なお、集電体は、上記材料を用いた箔のほか、図5の非双極型電池では、上記材料を用いたメッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)、パンチドメタルなどから構成されるものを用いてもよい。メッシュの目開き、線径、メッシュ数などは、特に制限されず、従来公知のものが使用できる。
【0098】
[負極活物質層]
本発明の負極中の負極活物質層は、集電体上に形成され、充放電反応の中心を担う負極活物質およびLi粒子を含む層である。
【0099】
負極活物質層については、本発明の負極の構成要件として既に説明した通りである。
【0100】
[正極活物質層]
正極活物質層は、集電体上に形成され、充放電反応の中心を担う正極活物質を含む層である。
【0101】
正極活物質としては、リチウム−遷移金属複合酸化物が好ましく、例えば、LiMnなどのLi−Mn系複合酸化物やLiNiOなどのLi−Ni系複合酸化物が挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。
【0102】
正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、好ましくは1〜100μmであり、より好ましくは1〜50μmであり、さらに好ましくは1〜20μmである。ただし、これらの範囲を外れる形態もまた、採用されうる。なお、本願において活物質の平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定(レーザ回折散乱法)により測定された値を採用するものとする。
【0103】
また、正極活物質層における活物質の含有量は、好ましくは活物質層の合計質量に対して70〜98質量%であり、より好ましくは80〜98質量%である。活物質の含有量が前記範囲であれば、エネルギー密度を高くすることができるため好適である。
【0104】
正極活物質層の厚さは、好ましくは、20〜500μmであり、より好ましくは20〜300μmであり、さらに好ましくは20〜150μmである。
【0105】
正極活物質層にはその他の物質が含まれてもよく、例えば、バインダ、導電助剤(導電助剤ともいう)、支持塩(リチウム塩)等が含まれうる。バインダおよび導電助剤は、上記負極活物質層の欄で例示したものを同様に使用できる。支持塩については、後述する電解液に含まれるものが同様に使用できる。また、これらの成分の配合比は、特に限定されず、リチウム二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
【0106】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池用負極の構成(Li粒子を活物質層内部に取り込む構成)は、正極に適用することも可能である。
【0107】
[電解質層]
電解質層を構成する電解質としては、特に制限はないが、電解液を含む多孔性フィルムセパレータまたはゲル電解質が用いられうる。電解液は、有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態である。有機溶媒は、支持塩を十分に溶解させ得るものであれば、いずれも使用できる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル等のニトリル類;プロピオン酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;酢酸メチル、蟻酸メチルの中から選ばれる少なくともから1種類または2種以上を混合した、非プロトン性溶媒等の可塑剤(有機溶媒)を用いたものなどが使用できる。これら有機溶媒は、単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
支持塩としては、従来公知のものが使用できる。具体的には、Li(CSON(LiBETI)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON等が挙げられる。
【0109】
また、セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0110】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、電解液が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVDF−HEP)、ポリ(メチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系高分子には、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0111】
[絶縁層]
絶縁層(シール部)は、リチウムイオン二次電池、特に図6の双極型電池において、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止するために単電池層の周辺部に配置されている。絶縁層としては、絶縁性、固体電解質の脱落に対するシール性や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよい。例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ゴムなどが用いられうる。なかでも、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点から、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂が好ましい。
【0112】
[タブ]
タブ(正極タブおよび負極タブ)の材質は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、これらの合金などを用いることができる。これらは特に制限されず、タブとして従来用いられている公知の材質が用いられうる。
【0113】
[外装体]
リチウムイオン二次電池では、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、電解質保持層の形成された発電要素全体を電池外装材ないし電池ケースに収容するのが望ましい。外装材としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができるほか、アルミニウムを含むラミネートシートを用いた発電要素を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。ラミネートシートは形状の自由度が高いため、狭い空間に実装し易いことに加え、膨張収縮の大きな負極材料を用いた電池にも好適に適用することができる。
【0114】
金属缶ケースタイプの外装体は強度を有するため、缶内の発電要素が多少膨張収縮しても吸収でき、セルの厚み変化は生じない。また、缶の材質、板厚の設計および外装缶と発電要素のクリアランス等を検討することにより、所望の強度および大きさを有する缶ケースを得ることが可能である。
【0115】
高分子−金属複合ラミネートシートとしては、特に制限されず、高分子フィルム間に金属フィルムを配置し全体を積層一体化してなる従来公知のものを使用することができる。具体的には、高分子フィルムからなる外装保護層(ラミネート最外層)、金属フィルム層、高分子フィルムからなる熱融着層(ラミネート最内層)のように配置し全体を積層一体化してなるものが挙げられる。
【0116】
中でも特に、形状の自由度の高いアルミラミネートフィルムの外装体を用いることが好ましい。本発明において、「アルミラミネート」とはアルミニウムを含む積層物をいう。アルミラミネートフィルムの具体的な形態としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等が挙げられるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0117】
本発明の他の一形態によれば、集電体と前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層とを含むリチウムイオン二次電池用負極を有するリチウムイオン二次電池において、前記負極活物質層内に複数の中空構造を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池が提供される。
【0118】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、予備吸蔵(プレドープ)がなされ、負極の負極活物質層内に複数の中空構造、即ち、Li粒子3部分が空孔(中空構造)3’となった構造の電池である。
【0119】
(予備吸蔵後の負極の形態)
本実施形態による負極においては、エージングの際に、Li粒子に含まれるLiがイオン化して放出され、負極活物質に予備吸蔵(プレドープ)される。その結果、Li粒子が存在していた部分は空孔(中空領域)となり、プレドープ後のLi粒子は中空構造を有する。
【0120】
図3は、本発明の代表的な一実施形態である、負極活物質層内に複数の中空構造を有する、予備吸蔵後の負極の形態を表す模式断面図である。以下、図3に示す、予備吸蔵後の負極につき例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲はかような形態のみに制限されない。
【0121】
図3に示すように、予備吸蔵後の負極10’は、集電体1と、該集電体1の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層2とが順に積層された構造を有する。さらに、負極活物質層2中には、予備吸蔵前にLi粒子3が存在していた部分に空孔(中空構造)3’となっている。かかる負極10’は、Li粒子が予備吸蔵(プレドープ)された後の負極(電池内部の構成部品)の構成を表すものである。
【0122】
かかる空孔(中空構造)3’の面内方向および厚さ方向への含有形態、空孔の量(空孔率)、並びに平均粒径(平均空孔径)に関しては、先に説明した予備吸蔵前のLi粒子3の面内方向および厚さ方向への含有形態、Li粒子の含有量および平均粒径と同じである。即ち、空孔(中空構造)3’のサイズや含有形態も特に限定されないが、負極活物質層の機械的強度を確保するために、微細なサイズで均一に分散されていることが好ましい。
【0123】
即ち、空孔(中空構造)3’の負極活物質層2の厚さ方向への含有形態としては、図3に示すように、空孔(中空構造)3’が、負極活物質層2内の厚さ方向において、負極活物質層2の集電体1表面側に多く存在しているのが望ましい。とりわけ、図3に示すように、空孔(中空構造)3’が集電体1表面と接している形態がより望ましい。これらの形態は、後述する本発明の製造方法を利用して、予備吸蔵前のLi粒子3を失活させることなく簡便に作製でき、尚且つ十分な量のLi粒子3を負極活物質層2内に取り込むことができるためである。但し、本形態としては、例えば、負極活物質層2内の厚さ方向において、空孔(中空構造)3’が負極活物質層2の中央部に多く存在していてもよいなど、特に制限されるものではない。負極活物質層2内部であれば、十分な量のLi粒子3を予備吸蔵前に取り込み接触面積を増やすことができる形態といえるものであり、後述する本発明の製造方法を利用することで、予備吸蔵前のLi粒子を失活させることなく作製し得るためである。更に、本実施形態の如く、負極活物質層2内部、とりわけ集電体1表面側に空孔(中空構造)3’が存在する場合、予備吸蔵時に接触面積が大きく、不可逆容量を十分に減らすことができているため、充放電効率が良く、抵抗の増大も抑制できる(各実施例参照)。加えて、Li粒子3の一部が予備吸蔵(プレドープ)ことなく残留して空孔(中空構造)3’が存在する場合でも、負極表面上にLi粒子が付着していない為、樹枝状結晶の核となることもない。また、負極活物質層2内部、とりわけ集電体1表面側に空孔(中空構造)3’が存在する場合には、高容量が期待されるLiと合金化する負極活物質を用いた場合でも、充電時の体積変化を当該空孔(中空構造)3’が吸収して、電解質層を挟んで対向する正極活物質層との間隔が狭まるのを効果的に抑制することができる点でも優れている。加えて、当該空孔(中空構造)3’内部が電解液保持機能を奏することができる。即ち、充放電時に集電体側が乾燥化(電解液の枯渇によりLiイオンが伝導しにくくなり、集電体側の活物質におけるLiイオンの吸蔵・放出(電池反応)が低下するのを、空孔(中空構造)3’内部が電解液保持機能を果たすことで効果的に防止することができる点で特に優れた構造といえる。
【0124】
空孔(中空構造)3’の厚さ方向への含有形態は、例えば、例えば、電池を解体後負極10’を取り出し、負極10’を厚み方向に切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。本実施形態において空孔(中空構造)3’が集電体1表面側に多く存在しているとは、次のような状態をいう。即ち、負極10’の任意の断面を上記のように観察したとき、観察像中に含まれる空孔(中空構造)3’のうち、集電体1表面から負極活物質層2の厚さ方向に、負極活物質層2の厚さtの1/2の厚さまでに存在している空孔(中空構造)3’が50%よりも多く存在している状態である。集電体1表面から負極活物質層2の厚さ方向に、負極活物質層2の厚さtの1/2の厚さまでに存在している空孔(中空構造)3’は、より好ましくは50%以上、最も好ましくは100%である。本実施形態において空孔(中空構造)3’が集電体1に接しているとは、次のような状態をいう。すなわち、負極10’の任意の断面を上記のように観察したとき、観察像中に含まれる全空孔(中空構造)3’のうち、少なくとも一部が集電体1に接触している空孔(中空構造)3’が50%以上ある状態である。集電体1に接している空孔(中空構造)3’は、より好ましくは50%以上、最も好ましくは100%である。
【0125】
空孔(中空構造)3’の負極活物質層2の表面に平行な方向(面内方向)への含有形態としては、図3に示すように、空孔(中空構造)3’が、負極活物質層2内において負極活物質層2の面内方向に分散されているのが好ましい。より好ましくは、負極活物質層2の面内方向に均一に分散されている形態である。空孔(中空構造)3’が負極活物質層2内に分散されていると、エージング(ないし初充電)時に、接触面積が増えたLi粒子3から活物質層2全体にLiイオンが拡散(放出)され、Liを均質に活物質層2全体に供給され、プレドープがなされているからである。これによりLi粒子3全体の利用率を増やすことができ、空孔(中空構造)3’内部の残留するLi粒子3をなくすことができる。その結果、不可逆容量を低下させるだけでなく、サイクル特性を向上させることができる。とりわけ、図3に示すように、空孔(中空構造)3’同士が密に接触し合うことなく、適当な間隔をあけて分散(離間)されているのが好ましい。これにより、上記作用効果に加えて、活物質粒子と集電体1との接触も十分にとることができ、内部抵抗の増加を抑えることもできる(図3とLi粒子3同士が密に接触した図2A〜図2Cとを対比参照)。
【0126】
空孔(中空構造)3’の面内方向への含有形態も、例えば、電池を解体後負極10’を取り出し、負極10’を厚み方向に切断し、断面をSEMで撮影し、負極活物質層2と集電体1上の界面などの面内方向に空孔(中空構造)3’を持つか確認できる。
【0127】
負極活物質層2内の空孔(中空構造)3’の量は、初回充放電において生じる電極(負極)の不可逆容量を補償するために利用されるLi粒子3の含有量に相当するものである。よって、空孔(中空構造)3’の最適な量も、負極活物質の量や材質によって変化する。そのため合金系材料を用いる場合と、炭素材料を用いる場合に分けて、最適な空孔(中空構造)3’の量を説明する。但し、後述するように、最適な空孔(中空構造)3’の量は、あくまでプレドープ後のものであり、その後の使用により充放電を繰り返した後では、負極活物質の膨脹収縮などにより、該空孔(中空構造)3’が保持されなくなる場合もある。但し、本形態では、空孔(中空構造)3’がなくなっても、プレドープにより不可逆容量が補填されており、充放電効率などの電池性能上、問題なく使用できる。
【0128】
負極活物質が合金系材料の場合、負極活物質層2内の空孔(中空構造)3’の量は、電極面積1cmあたりの空孔(中空構造)3’の合計面積が、6.0×10〜1.8×1010μmとなるように含有させるのが望ましい。これは、それぞれの合金系材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。電極面積あたりの空孔(中空構造)3’の合計面積がこの間であれば、Liドープが効率的に行われる。空孔(中空構造)3’の合計面積が6.0×10μm以上であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の30%以上となり、電極面積に占めるLi粒子の表面積を十分確保することができる。これによりLi粒子と負極活物質の接触面積を、既存の負極表面への付着(点接触)する場合に比して、十分に大きくすることができる。そのため、ドープ効率を向上することができる(実施例3参照)。また空孔(中空構造)3’の合計面積が1.8×1010μm以下であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の90%以下となり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔が占める割合が大きくなりすぎないため、負極活物質と集電体との接触を十分に取ることができる。
【0129】
負極活物質が炭素材料の場合、負極活物質層2内の空孔(中空構造)3’の量は、電極面積1cmあたりの空孔(中空構造)3’の合計面積が、2.3×10〜7.1×10μmとなるように含有させるのが望ましい。これは、それぞれの炭素材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。電極面積あたりの空孔(中空構造)3’の合計面積がこの間であれば、Liドープが効率的に行われる。空孔(中空構造)3’の合計面積が2.3×10μm以上であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の30%以上となり、電極面積に占めるLi粒子の表面積を十分確保することができる。これによりLi粒子と負極活物質の接触面積を、既存の負極表面への付着(点接触)する場合に比して、十分に大きくすることができる。そのため、ドープ効率を向上することができる(実施例7参照)。また空孔(中空構造)3’の合計面積が7.1×10μm以下であれば、Li粒子が担持される面積が電極面積の90%以下となり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔が占める割合が大きくなりすぎないため、負極活物質と集電体との接触を十分に取ることができる。
【0130】
本実施形態において、電極面積とは、図2Cに示すように、負極10’を上面から見た時の負極活物質層2の面積をいう。空孔(中空構造)3’の合計面積とは、負極活物質材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積とLi粒子の平均粒径から粒子量を求め、全て平均粒径のLi粒子=空孔(中空構造)3’の平均空孔径として同一平面上に並べ、これを上面から見た時の空孔(中空構造)3’の合計面積をいう(図2B〜図2D参照)。電極面積に対する空孔(中空構造)3’の合計面積を、電極面積1cmあたりに換算した値が、「電極面積1cmあたりの空孔(中空構造)3’の合計面積」である。なお、電極面積や空孔(中空構造)3’の合計面積というように空孔(中空構造)3’の量を規定する際に「面積」を利用したのは、後述する製造方法を利用することで、空孔(中空構造)3’の全てが集電体表面に接した形態の負極10’が得られるため(図3参照)、電極面積に占めるや空孔(中空構造)3’の合計面積を規定することとしたものである。
【0131】
空孔(中空構造)3’の平均空孔径は、概ねLi粒子3の平均粒径に相当するものであり、負極活物質層の厚さに応じて適宜決定すればよいが、通常1〜40μmである。かかる範囲であれば、Li粒子3の表面積を大きくでき、負極活物質とLi粒子の接触面積を増やすことができているため、予備吸蔵により、Li粒子の利用率を増やすことができ、未反応のリチウム金属粒子を減らすことができている構造といえる。そのため、不可逆容量を低下させるだけでなく、サイクル特性向上させることができる。なお、空孔(中空構造)3’の平均空孔径に関しても、負極活物質として合金系材料を用いる場合と、炭素材料を用いる場合に分けて、最適な空孔(中空構造)3’の平均空孔径を説明する。
【0132】
負極活物質が合金系材料の場合、空孔(中空構造)3’の平均空孔径は1〜40μmであればよいが、好ましくは5〜37μm、より好ましくは10〜30μmである。これは、合金系材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。かかる観点からは、空孔(中空構造)3’の平均空孔径が10〜30μmの好適範囲であれば、Liドープが効率的に行われているため好ましい。一方、図2Dのように、空孔(中空構造)3’の平均空孔径が30μmを超えると、予備吸蔵前のLi粒子3が担持される面積が電極面積の30%未満となり、Liと電極活物質の接触面積が小さくなる。そのため、効率的にドープされ難くなっているといえる(実施例3と実施例4の充放電効率を対比参照のこと)。但し、空孔(中空構造)3’の平均空孔径が40μmを超えなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合よりも高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができ尚且つ抵抗増加抑制効果も優れている(実施例4と比較例2を対比参照のこと)。また、空孔(中空構造)3’の平均空孔径が10μm未満であると、図2Bのように、予備吸蔵前のLi粒子3が担持される面積が電極面積の90%を超えることになり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔を占める割合が大きくなる。そのため、活物質と集電体の接触が取りにくくなり、効果的に抵抗増加を抑制し難くなる傾向にある(実施例3と実施例2を対比参照)。但し、空孔(中空構造)3’の平均空孔径が1μm未満とならなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合に対し、若干抵抗が大きくなるが、非常に高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができるものといえる(実施例2と比較例2を対比参照のこと)。
【0133】
負極活物質が炭素材料の場合でも、空孔(中空構造)3’の平均空孔径は1〜40μmであればよいが、好ましくは2〜37μm、より好ましくは2〜15μmである。これは、炭素材料の不可逆容量から補填するLi粒子の体積が分るためである。かかる観点からは、空孔(中空構造)3’の平均空孔径が2〜15μmの好適範囲であれば、Liドープが効率的に行われているため好ましい。一方、図2Dのように、Li粒子の平均粒径が15μmを超えると、Li粒子が担持される面積が電極面積の30%未満となり、Liと電極活物質の接触面積が小さくなる。そのため、効率的にドープされ難くなる(実施例7と実施例8の充放電効率を対比参照のこと)。但し、空孔(中空構造)3’が40μmを超えなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合よりも、高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができ、尚且つ抵抗増加抑制効果も優れている(実施例8と比較例4を対比参照のこと)。また、空孔(中空構造)3’が2μm未満であると、図2Bのように、Li粒子が担持される面積が電極面積の90%を超えることになり、Liドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔を占める割合が大きくなる。そのため、活物質と集電体の接触が取りにくくなり、効果的に抵抗増加を抑制し難くなる傾向にある(実施例7と実施例6を対比参照)。但し、空孔(中空構造)3’が1μm未満とならなければ、負極活物質層の表面にLi粉末を付着させる場合に対し、若干抵抗が大きくなるが、非常に高い充放電効率(本発明の作用効果)を発現することができるものといえる(実施例6と比較例4を対比参照のこと)。
【0134】
ここで、「空孔径」とは、空孔3’(またはその断面形状)の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する。「平均空孔径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される空孔3’の空孔径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0135】
空孔(中空構造)3’の形状は特に限定されるものではなく、球状、略球状、楕円球状、角体状などの様々な形状であってよい。
【0136】
かような空孔(中空構造)3’は電池の充放電過程において、電解液保持部として機能しうる。充放電時における膨張収縮が大きい活物質(例えば、合金系負極活物質)を用いた場合には、活物質層において電解液の不足が生じたり、電解液の保持が不均一となったりするおそれがある。このような空孔(中空構造)3’が活物質層内部に分散して存在する場合には、活物質層内部の空孔(中空構造)3’に電解液が保持され、均一かつ円滑な電解液の吸収・供給が可能となるため好ましい。
【0137】
なお、電極の高エネルギー密度化の観点からは予備吸蔵されるリチウムの量は最小限とすることが好ましいため、好適な形態においては、予備吸蔵されたリチウムの大部分が活物質にドープされる。かような場合には、リチウムのドープの後に、該空孔(中空構造)3’が保持されなくなる場合もある。かような形態であれば、リチウムドープ後に集電体と負極活物質の間の空孔(中空構造)3’を占める割合が小さくなり、活物質粒子やその表面の導電助剤と集電体との接触面積が増加し、内部抵抗の低下が進むなど有利な面もある。
【0138】
(リチウムイオン二次電池のセル電圧)
本実施形態では、リチウムイオン二次電池のセル電圧が1.0〜5.0V、好ましくは2.0〜4.2Vである。Li粒子がプレドープされることで、Li粒子部分に中空構造が形成されると共に、プレドープ後のセル電圧(開放電位)が上昇し、1.0〜3.0Vを示すものである。したがって、本実施形態では、非双極型電池の場合には、電池電圧(開放電位)をセル電圧とする。非双極型電池の場合には、電池電圧(開放電位)を測定し、電池を構成するセル数で除した値をセル電圧とする。プレドープ後のセル電圧(開放電位)が、上記範囲にあれば、Liドープが効率的に行われているのを、非破壊状態で確認できる点で優れている。
【0139】
また、セル電圧が上記範囲の電池は、初充電前の電池の製造過程でLi粒子の予備吸蔵が行われている電池(未充電状態)のものである。そのため、初充電時の電池反応(発熱反応)により電池内部が高温になる環境下で予備吸蔵を行う必要がない。そのため、予備吸蔵に伴う反応のみがなされており、過剰な発熱反応が生じにくくバインダーの熱融解による抵抗増加の少ない電池を提供することができる。また初充電時からすでに空孔(中空構造)3’が形成されており、負極活物質の膨張吸収機能や電解液の供給源とし有効に機能することができる点でも優れている。
【0140】
[電池の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
【0141】
本発明の他の一形態によれば、上記方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極を用いて発電要素を製造する工程と、前記発電要素をエージングする工程と、を含むリチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。
【0142】
1.発電要素の作製工程
例えば、図5に示す非双極型(積層型)電池の場合には、まず、正極および負極を作製する。負極としては、本発明の負極の製造方法を用いてLi粒子を負極活物質層内に取り込んだリチウムイオン二次電池用負極(図1参照)を作製すればよい。正極については、上記したように、公知の製法により、活物質、導電助剤およびバインダーなどの電極材料を含む電極スラリーの混合物をスラリー粘度調製溶媒に分散して正極活物質スラリーを調製し、集電体の両面に上記スラリーを塗布した後、乾燥およびプレスすることにより作製すればよい。
【0143】
次に、正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、単電池を作製するとよい。そして、単電池の数が所望の数となるまでセパレータおよび電極の積層を繰り返す。かような製造方法によれば、より簡便な手法によってセパレータの形成が可能であり、かつ、セパレータと活物質層との密着性が高い発電要素が作製されうる。
【0144】
そして、各正極と負極を束ねてリードを溶接して、この積層体を正負極のリードを取り出した構造にて、アルミニウムのラミネートフィルムバッグに収めて、注液機により電解液を注液して、減圧下で端部をシールして電池とする。
【0145】
上記では電解質が液体電解質である場合の積層型電池を例に挙げて説明したが、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた場合の積層型電池およびここで挙げた電解質を用いた双極型電池の作製についても、公知の技術を参照して実施可能であり、ここでは省略する。
【0146】
2.エージング工程
こうして得た電池を所定の時間エージング(電解液注入後、静置)する。これにより、負極活物質層に存在するLi粒子がイオン化して負極活物質層全体に拡散され、予備吸蔵(プレドープ)される。エージング工程を有することにより、活物質層における単位面積当たりのLiドープ量を均一化することができ、信頼性の向上した電池が得られる。
【0147】
エージングの温度は、ドープ速度が速まる点で好ましくは40〜80℃、より好ましくは60〜80℃である。また、エージング時間は、エージング後の電池の電圧が所望のレベルとなるように適宜決定すればよいが、通常1〜48時間程度である。
【0148】
エージング工程後の電池の電圧は、1.0V以上であることが好ましく、1.0〜3.2Vであることがより好ましく、1.2〜3.0Vであることがさらに好ましい。エージング工程後の電池の電圧がかような範囲の電圧を有する場合には、リチウムが活物質層に十分にプレドープされている。
【0149】
なお、本実施形態では、エージング工程は必ずしも必要ではなく、従来と同様に、電池の組み立て後、初回の充放電を行うことで、予備吸蔵(プレドープ)を行ってもよい。この場合には、電池製造時間を短縮できる点で優れている。
【0150】
上記では電解質が液体電解質である場合の積層型電池を例に挙げて説明したが、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた場合の積層型電池およびここで挙げた電解質を用いた双極電池の作製についても、公知の技術を参照して実施可能であり、ここでは省略する。
【0151】
[組電池]
本発明の電池の複数個を、並列および/または直列に接続して、組電池としてもよい。
【0152】
図7は、本実施形態の小型の組電池を示す斜視図である。
【0153】
図7に示すように、組電池500は、上記の実施形態に記載の積層型電池100が複数個接続されることにより構成される。各積層型電池100の正極タブ180および負極タブ190がバスバーを用いて接続されることにより、各積層型電池100が接続されている。組電池500の一の側面には、組電池500全体の電極として、電極ターミナル(520、530)が設けられている。
【0154】
組電池500を構成する複数個の積層型電池100を接続する際の接続方法は特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。例えば、超音波溶接、スポット溶接などの溶接を用いる手法や、リベット、カシメなどを用いて固定する手法が採用されうる。かような接続方法によれば、組電池500の長期信頼性が向上しうる。
【0155】
本発明の組電池500によれば、組電池500を構成する個々の積層型電池100が容量特性およびサイクル特性に優れることから、容量特性およびサイクル特性に優れる組電池が提供されうる。
【0156】
なお、組電池500を構成する積層型電池100の接続は、複数個全て並列に接続してもよく、また、複数個全て直列に接続してもよく、さらに、直列接続と並列接続とを組み合わせてもよい。これにより、容量および電圧を自由に調節することが可能となる。
【0157】
図8は、本発明の組電池の一実施形態の外観図であって、図7の小型の組電池を複数接続したものであり、図8Aは平面図であり、図8Bは正面図であり、図8Cは側面図である。
【0158】
図8に示すように、本発明に係る組電池300は、リチウム二次電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の組電池250(図7の小型の組電池500参照)を形成し、この装脱着可能な小型の組電池250をさらに複数、直列に又は並列に接続した組電池300であってもよい。作製した装脱着可能な小型の組電池250は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続し、この組電池250は接続治具310を用いて複数段積層される。
【0159】
[車両]
本発明の電池は、上述した積層型電池、双極型電池または組電池をモータ駆動用電源として車両に搭載されうる。積層型電池、双極型電池または組電池をモータ用電源として用いる車両としては車輪をモータによって駆動する自動車、および他の車両(例えば電車)が挙げられる。上記の自動車としては、例えば、ガソリンを用いない完全電気自動車、シリーズハイブリッド自動車やパラレルハイブリッド自動車などのハイブリッド自動車、および燃料電池自動車などがある。これにより、従来に比して高寿命で信頼性の高い車両を製造することが可能となる。
【0160】
参考までに、図8に、組電池を搭載する自動車の概略図を示す。自動車600に搭載される組電池500は、上記で説明したような特性を有する。このため、組電池500(または組電池300)を搭載する自動車600は容量特性およびサイクル特性に優れた車両となる。
【0161】
以上、本発明の好適な実施形態について示したが、本発明は、以上の実施形態に限られるものではなく、当業者によって種々の変更、省略、および追加が可能である。
【実施例】
【0162】
以下、本発明による負極およびこれを用いた二次電池の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0163】
[実施例1]
1.負極の作製
(1)第一工程
Li粒子を溶媒であるキシレンに分散させることにより、Li粒子含有分散液を作製した。得られた分散液中のLi粒子の含有量(濃度)は30%となるように調整した。Li粒子には、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径10.5μm、皮膜の厚さ5μm)を用いた。
【0164】
負極集電体として、厚さ10μmの銅箔を準備し、該集電体の両面に上記で作製したLi粒子含有分散液を塗布した。次いで、真空下で80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、Li粒子を集電体上に均一に分散担持した(図4A参照)。
【0165】
(2)第二工程(塗布法)
負極活物質として、平均粒径4μmのSiO(45質量%)と平均粒径5μmのグラファイト(40質量%)、導電助剤としてアセチレンブラック(5質量%)、及びバインダーとしてポリイミド(10質量%)をスラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、負極スラリーを調製した。上記グラファイトには、ロンザジャパン社製のSFG−6(商品名)を用いた。
【0166】
上記集電体のリチウム粒子が担持された両面に、上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、真空雰囲気下、80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、片面の活物質層の厚みが40μmの負極を作製した(図1参照)。
【0167】
得られた負極を、電極部サイズが36mm×26mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極を作製した。
【0168】
2.正極の作製
正極活物質として、平均粒径3μmのLiNiO(86質量%)、導電助剤としてアセチレンブラック(6質量%)、およびバインダーとしてPVdF(8質量%)を、スラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、正極スラリーを調製した。
【0169】
正極集電体として、厚さ20μmのアルミニウム箔を準備し、該集電体の両面に上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、真空雰囲気下、80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、片面の活物質層厚みが130μmの正極を作製した。
【0170】
得られた正極を、電極部サイズが34mm×24mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の正極を作製した。
【0171】
3.発電要素の作製
上記で調整した積層用の正極5枚、積層用の負極6枚、セパレータ10枚を位置ズレが生じないように治具を用いて、下記のように正極と負極がセパレータを介して対向するように積層させることにより、発電要素を完成させた。なお、セパレータとしては、微多孔質膜(材質:ポリエチレン、厚さ:12μm、空孔率:40%)を準備した。
【0172】
(積層構造)
負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極
4.評価用電池の作製
上記で作製した発電要素の正極のタブ部にアルミニウム製タブリードを、負極のタブ部にニッケル製タブリードを、超音波溶接にて接続させた。次いで、当該発電要素を、発電要素のサイズに成形されたアルミラミネートフィルムの外装の内部に入れ、電解液を注液する1辺を残し、残り3辺を熱融着して袋状にした。その内部に、所定量の電解液を注入して含浸させた後、残りの1辺を真空封止して評価用電池を作製した。
【0173】
なお、電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との等体積混合液(EC:DMC=1:1(体積比))にリチウム塩であるLiPFが1Mの濃度に溶解した溶液を用いた。
【0174】
[実施例2]
1.負極の作製
(1)第一工程
Li粒子を溶媒であるキシレンに分散させることにより、Li粒子含有分散液を作製した。得られた分散液中のLi粒子の含有量(濃度)は30%となるように調整した。Li粒子には、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径5.2μm、皮膜の厚さ2μm)を用いた。
【0175】
負極集電体として、厚さ10μmの銅箔を準備し、該集電体の両面に上記で作製したLi粒子含有分散液を塗布した。次いで、真空雰囲気下で80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、Li粒子を集電体上に均一に分散担持した(図4A参照)。
【0176】
(2−1)第二工程の第一段階(転写法)
負極活物質として、平均粒径4μmのSiO(45質量%)と平均粒径5μmのグラファイト(40質量%)、導電助剤としてアセチレンブラック(5質量%)、及びバインダーとしてポリイミド(10質量%)をスラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、負極スラリーを調製した。上記グラファイトには、ロンザジャパン社製のSFG−6(商品名)を用いた。
【0177】
基材として、厚さ200μmのステンレス箔を準備し、該基材の片面に、上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、真空雰囲気下、80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、厚みが40μmの負極活物質層が形成された転写用基材を作製した(図4B、図4C参照)。同様にして、厚みが40μmの負極活物質層が形成された転写用基材を別に作製した。
【0178】
(2−2)第二工程の第二段階(転写法)
上記第一工程で得られた集電体のLi粒子が担持された側の一方の面に、ホットプレート上で100℃まで加熱した上記第二工程の第一段階で得られた転写用基板の負極活物質層が形成された面を貼り合わせることで、負極活物質層を基板から剥離し、集電体のLi粒子が担持された側に転写した。上記第一工程で得られた集電体のLi粒子が担持された側のもう一方の面にも、転写用基板をホットプレート上で100℃まで加熱した上記第二工程の第一段階で別に作製した転写用基板の負極活物質層が形成された面を貼り合わせることで、負極活物質層を基板から剥離し、集電体のLi粒子が担持された側に転写することで、片面の活物質層の厚みが40μmの負極を作製した(図1参照)。
【0179】
得られた負極を、電極部サイズが36mm×26mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極を作製した。
【0180】
積層用の負極として上記手順を用いて調製した負極を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0181】
[実施例3]
リチウム粒子として、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径10.5μm、皮膜の厚さ2μm)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして評価用電池を作製した。
【0182】
[実施例4]
リチウム粒子として、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径36.0μm、皮膜の厚さ2μm)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして評価用電池を作製した。
【0183】
[比較例1]
負極の作製として、第一工程を行うことなく、第二工程(塗布法)にて、リチウム粒子が担持されていない集電体を用い、この両面に負極スラリーを塗布するようにして負極を作製したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0184】
[比較例2]
比較例1と同様にして作製した負極を準備し、該負極の負極活物質層の表面に、実施例4の第一工程と同様にして作製されたLi粒子含有分散液(芯部のリチウム金属粒子の平均粒径37.2μm)を塗布し、次いで、真空雰囲気下で80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、Li粒子を負極活物質層の表面上に付着させて負極を作製したこと以外は、比較例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0185】
[実施例5]
1.負極の作製
(1)第一工程
Li粒子を溶媒であるキシレンに分散させることにより、Li粒子含有分散液を作製した。得られた分散液中のLi粒子の含有量(濃度)は30%となるように調整した。Li粒子には、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径10.5μm、皮膜の厚さ2μm)を用いた。
【0186】
負極集電体として、厚さ10μmの銅箔を準備し、該集電体の両面に上記で作製したLi粒子含有分散液を塗布した。次いで、真空雰囲気下で80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、Li粒子を集電体上に均一に分散担持した(図4A参照)。
【0187】
(2)第二工程(塗布法)
負極活物質として、平均粒径5μmのグラファイト(85質量%)、導電助剤としてVGFC(5質量%)、及びバインダーとしてPVdF(10質量%)をスラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、負極スラリーを調製した。上記グラファイトには、日立化成工業社製のMADG15(商品名)を用いた。上記VGCFは気相成長法炭素繊維のことである。
【0188】
上記集電体のリチウム粒子が担持された両面に、上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、真空雰囲気下、80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、片面の活物質層の厚みが100μmの負極を作製した(図1参照)。
【0189】
得られた負極を、電極部サイズが36mm×26mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極を作製した。
【0190】
積層用の負極として上記手順を用いて調製した負極を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0191】
[実施例6]
1.負極の作製
(1)第一工程
Li粒子を溶媒であるキシレンに分散させることにより、Li粒子含有分散液を作製した。得られた分散液中のLi粒子の含有量(濃度)は30%となるように調整した。Li粒子には、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径5.2μm、皮膜の厚さ2μm)を用いた。
【0192】
負極集電体として、厚さ10μmの銅箔を準備し、該集電体の両面に上記で作製したLi粒子含有分散液を塗布した。次いで、真空雰囲気下で80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、Li粒子を集電体上に均一に分散担持した(図4A参照)。
【0193】
(2−1)第二工程の第一段階(転写法)
負極活物質として平均粒径5μmのグラファイト(85質量%)、導電助剤としてVGFC(5質量%)、及びバインダーとしてPVdF(10質量%)をスラリー粘度調整溶媒であるNMPの適量に分散させ、負極スラリーを調製した。上記グラファイトには、日立化成工業社製のMADG15(商品名)を用いた。
【0194】
基材として、厚さ200μmのステンレス箔を準備し、該基材の片面に、上記で作製したスラリーを塗布した。次いで、真空雰囲気下、80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、厚みが100μmの負極活物質層が形成された転写用基材を作製した(図4B、図4C参照)。同様にして、厚みが100μmの負極活物質層が形成された転写用基材を別に作製した。
【0195】
(2−2)第二工程の第二段階(転写法)
上記第一工程で得られた集電体のLi粒子が担持された側の一方の面に、ホットプレート上で100℃まで加熱した上記第二工程の第一段階で得られた転写用基板の負極活物質層が形成された面を貼り合わせることで、負極活物質層を基板から剥離し、集電体のLi粒子が担持された側に転写した。上記第一工程で得られた集電体のLi粒子が担持された側のもう一方の面にも、転写用基板をホットプレート上で100℃まで加熱した上記第二工程の第一段階で別に作製した転写用基板の負極活物質層が形成された面を貼り合わせることで、負極活物質層を基板から剥離し、集電体のLi粒子が担持された側に転写することで、片面の活物質層の厚みが100μmの負極を作製した(図1参照)。
【0196】
得られた負極を、電極部サイズが36mm×26mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極を作製した。
【0197】
積層用の負極として上記手順を用いて調製した負極を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0198】
[実施例7]
リチウム粒子として、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径10.5μm、皮膜の厚さ2μm)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして評価用電池を作製した。
【0199】
[実施例8]
リチウム粒子として、炭酸塩であるLiCOの皮膜を有するリチウム金属粒子(FMC社製のSLMP;芯部のリチウム金属粒子の平均粒径36.0μm、皮膜の厚さ2μm)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして評価用電池を作製した。
【0200】
[比較例3]
負極の作製として、第一工程を行うことなく、第二工程(塗布法)にて、リチウム粒子が担持されていない集電体を用い、この両面に負極スラリーを塗布するようにして負極を作製したこと以外は、実施例5と同様にして評価用電池を作製した。
【0201】
[比較例4]
比較例3と同様にして作製した負極を準備し、該負極の負極活物質層の表面に、実施例8の第一工程と同様にして作製されたLi粒子含有分散液(芯部のリチウム金属粒子の平均粒径37.2μm)を塗布し、次いで、真空雰囲気下で80℃で乾燥後、1MPaでプレスすることで、Li粒子を負極活物質層の表面上に付着させて負極を作製したこと以外は、比較例3と同様にして評価用電池を作製した。
【0202】
(評価)
(充放電サイクル試験)
上記の方法で作製した各評価用電池について、電解液を入れ、常温、24時間放置の条件でエージングした。エージング後の電池の電圧は0〜2.0Vであった。この初回のエージング過程により、負極活物質内のLi粒子がプレドープされる。
【0203】
25℃の大気中で、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、電圧:4.0V)で3時間充電して初回充電容量を算出した。その後、30分間休止させ、定電流(CC、電流:0.5C)で2.0Vまで放電し、初回放電容量を算出した。その後、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.5C、電圧:4.0V)で3時間充電した後、定電流(CC、電流:3.0C)で20秒間放電した。20秒間の放電による電圧降下ΔVを測定し、抵抗値を計算した。結果を下記表1に示す。なお、表1において、充放電効率(%)は、初回の放電容量÷初回の充電容量×100として算出した。
【0204】
【表1】

【0205】
表1中の「Li粒子の平均粒径(μm)」は、皮膜の厚さを含まない芯部のLi粒子の平均粒径である。
【0206】
表1より、Li粒子が前記負極活物質層中に含有されている積層用負極を用いた実施例1〜8の電池は、比較例1〜4の電池に比べて、充放電効率が大きいことが確認された。
【0207】
比較例1、3の電池は、Li粒子を有さないため、負極の不可逆容量を補償することができないため、充放電効率が低いと考えられる。また、Li粒子を負極活物質層の表面に付着させた比較例2、4の電池(特許文献1に相当)は、実施例1〜8の電池に比べて抵抗増加が大きく、充放電効率が低かった。このことから、Li粒子を負極活物質層の表面に付着させた場合には、接触面積が小さく(点接触)、電極の抵抗が大きく上昇する上、負極の不可逆容量の補償も不十分であることがわかる。
【0208】
また、Li粒子の平均粒径は、平均粒径が小さい方が、該Li粒子の表面積(=接触面積)が大きくなるため、充放電効率に優れる。逆に平均粒径が大きい方が、Li粒子部分が空孔(中空構造)となった場合に、空孔(中空構造)面積が小さく、集電体と活物質との接触領域が大きくなるため、抵抗低減効果に優れる。これらを勘案した場合に、充放電効率が高く、抵抗の増加を抑制し得る最適なLi粒子の平均粒径といえるのは、負極活物質が合金系材料のSiOでも、炭素材料のグラファイトでも、10.5μmの例(実施例3、7)である。このことから、先に説明したように、合金系材料のSiOでは、10〜30μmが好ましく、炭素材料では、2〜15μmが好ましい範囲といえる。
【0209】
また、負極の作製で、同じサイズのLi粒子を用いて行った塗布法(実施例1、5)よりも転写法(実施例3、7)の方が、充放電効率が高く、抵抗が増加が抑制されていることわかる。
【0210】
これらのことから、Li粒子の粒子径を制御し、転写法によりLi粒子が負極スラリーの溶媒により活性が失われないように製造することにより、充放電効率をより一層向上させ、電極の抵抗をより一層低減させることができることがわかった。かかる観点から、当該Li粒子の粒子径や皮膜の材質を選択し、最適化することで、実施例に示す以上の高充放電効率と電極の抵抗抑制効果を持つ負極及びこれを用いた電池も十分作製できる可能性があることもわかった。
【符号の説明】
【0211】
1 集電体、
2 負極活物質層、
3 リチウム粒子、
3’ 空孔(中空構造)、
4 基材、
10 負極(予備吸蔵前)、
10’ 負極(予備吸蔵後)、
10a 非双極型リチウム二次電池、
11 正極集電体、
11a 最外層正極集電体、
12、32 正極活物質層、
13、35 電解質層、
14 負極集電体、
14a 最外層負極集電体、
15、33 負極活物質層、
16、36 単電池層、
17、37 発電要素、
18、38 正極タブ、
19、39 負極タブ、
20 正極端子リード、
21 負極端子リード、
22、42 電池外装材、
30 双極型リチウム二次電池、
31、31a、31b 集電体、
34 双極型電極、
34a 正極側電極、
34b 負極側電極、
38a、39b 集電板、
50 リチウム二次電池、
250 小型の組電池、
300 組電池、
310 接続治具、
500 小型の組電池、
520、530 電極ターミナル、
600 自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の表面に形成された負極活物質を含む負極活物質層と、を含むリチウムイオン二次電池用負極であって、
リチウム粒子が、前記負極活物質層中に含有されている、リチウム2次電池用負極。
【請求項2】
前記リチウム粒子が前記負極活物質層の集電体表面側に多く存在している、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記負極活物質がリチウムと合金化する材料の場合、電極面積1cmあたりの前記リチウム粒子の合計面積が、6.0×10〜1.8×1010μmである、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
前記負極活物質が炭素材料の場合、電極面積1cmあたりの前記リチウム粒子の合計面積が、2.3×10〜7.1×10μmである、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
前記負極活物質がリチウムと合金化する材料の場合、前記リチウム粒子の平均粒径が10〜30μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
前記負極活物質が炭素材料の場合、前記リチウム粒子の平均粒径が2〜15μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項7】
前記リチウム粒子が、大気中で安定な皮膜を有するリチウム金属粒子である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
リチウム粒子を集電体上に担持する第一工程と、
前記集電体のリチウム粒子が担持された側に負極活物質を含む負極活物質層を担持する第二工程とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項9】
前記第二工程が、
基材に負極活物質を含む負極活物質層を形成する第一段階と、
前記負極活物質層を前記集電体のリチウム粒子が担持された側に転写する第二段階と、を含むことを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極または請求項8〜9のいずれかに記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極によって構成される、リチウムイオン二次電池。
【請求項11】
双極型二次電池である、請求項10に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれかに記載の負極または請求項8〜9のいずれかに記載の製造方法で得られた負極を用いて発電要素を作製する工程と、
前記発電要素をエージングする工程と、を含むリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項13】
前記エージングする工程の後のリチウムイオン二次電池のセル電圧が1.0〜3.2Vである、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項14】
請求項10〜11のいずれかに記載の電池および請求項12〜13のいずれかに記載の製造方法により製造された電池から選ばれてなる2以上の電池を用いてなることを特徴とする組電池。
【請求項15】
請求項10〜11のいずれかに記載の電池および請求項12〜13のいずれかに記載の製造方法により製造された電池、または請求項14に記載の組電池を駆動用電源として搭載した、車両。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−160986(P2010−160986A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2951(P2009−2951)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】