説明

リチウムイオン二次電池用電極、およびこれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】高電流レートの放電時における放電持続時間が向上されたリチウムイオン二次電池用電極を提供する。
【解決手段】貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料104が電極活物質101間の空隙に配置されてなるリチウムイオン二次電池用電極。
【効果】電解質保持材料として貫通孔を有するカーボン材を用いることにより、充分な電解質を保持できるだけでなく電極層内のリチウムイオン及びアニオンの電気泳動及び拡散を妨げずにチウムイオン及びアニオンの供給を促進することができる。さらに、カーボンは電子伝導性に優れるので電極層内での電子伝導性を向上させる働きがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極、特に電極に電解質保持材料を用いてなるリチウムイオン二次電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン二次電池に注目が集まっている。ただし、自動車に適用するためには、大出力を確保するために、複数の二次電池を直列に接続して用いる必要がある。
【0003】
しかしながら、接続部を介して電池を接続した場合、接続部の電気抵抗によって出力が低下してしまう。また、接続部を有する電池は空間的にも不利益を有する。即ち、接続部によって、電池の出力密度やエネルギー密度の低下がもたらされる。
【0004】
この問題を解決するものとして、集電体の両側に正極層と負極層とを配置したバイポーラ電池が開発されている。
【0005】
このうち、電解質として高分子電解質を用いてなるバイポーラ電池が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。これらのうち高分子電解質を用いてなるバイポーラポリマー電池では、電池内に溶液(電解液)を含まないため、液漏れやガス発生の心配がなく、信頼性が高く、また構造的にも密閉シールが不要なバイポーラ電池を提供できる利点を有するものである。また、高分子電解質として高分子ゲル電解質を用いてなるバイポーラ電池では、イオン伝導度に優れ、電池の出力密度やエネルギー密度も十分に得られるため、実用化段階に最も近いバイポーラ電池として期待されている。
【0006】
バイポーラ電池用電極において、特にリチウムイオン二次電池用電極を用いる場合、電極層内に含まれる電極活物質の粒子径を細かくすることで電極活物質の表面積を増やし、これにより電極活物質表面をLiイオンが拡散する距離を短くすることができ、反応抵抗を低減させることが可能となる(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2000−100471号公報
【特許文献2】特開平11−204136号公報
【特許文献3】特開2000−260423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電極層に小さな粒子径を有する電極活物質を用いた上記特許文献3の電極では、電極層内の空隙を確保しづらくなる。かような電極内で高い電流レートの放電を行おうとすると、電極層内に含まれる電解質中のLiイオンが急激に活物質中に取り込まれて電極層内のLiイオン濃度が低下すると、セパレータ内の電解質から供給されてくるLiイオンが電極内を拡散する抵抗が高く、反応全体を律速することになる。そのため、従来のリチウムイオン二次電池用電極では、高い電流レートの放電時において所望の出力を長時間に渡って維持するのが困難であった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、高電流レートの放電時における放電持続時間が向上されたリチウムイオン二次電池用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料が電極活物質間の空隙に配置されてなるリチウムイオン二次電池用電極により上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、電極活物質間に電解質保持材料を有するため、電極内に保持される電解質の量を増やすことが可能となり得る。これにより、Liイオンを供給するための抵抗を下げることができ、高電流レートの放電時に生じる電極内部のLiイオン濃度低下を防ぐことができる。従って、本発明の電極を用いたリチウムイオン二次電池は、出力特性に優れるものとすることが可能となり得る。
【0011】
さらに、本発明の電池をバイポーラ型、組電池化することにより高容量、高出力の電池とすることができ、駆動用電源としてEVやHEV等の車両に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の第一は、貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料が電極活物質間の空隙に配置されてなるリチウムイオン二次電池用電極である。
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき、説明する。
【0014】
参考までに、一般的なリチウムイオン二次電池の模式図を図8に示す。図8のリチウムイオン二次電池は、集電体810上に負極活物質801cを含む負極層820cが形成されてなる負極と、集電体810上に正極活物質801aを含む正極層820aが形成されてなる正極とが、電解質層(電解質膜)830を介して配置された構成を有している。また、負極層820cおよび正極層820aには、それぞれ負極活物質801cおよび正極活物質801aの間に電解質803が含まれている。
【0015】
かような電池において高電流レートで放電を行った場合、正極層820a内部に存在するLiイオンが急激に正極活物質801a内に吸収され、電極反応が進行する。これにより、正極層820a内のLiイオン濃度が低下すると、電極反応を維持するため、対極の負極層820cから電解質層830を介してLiイオンが白塗りの矢印の方向に向かって電気泳動により移動して供給される。また、電極反応によって生じた電子は、導電化材(図示せず)と正極活物質801aを通して移動するのである。
【0016】
さらに、上記の通り正極層820aにおいてリチウムイオンが移動して正極活物質801aに吸収されるのと同時に、PFなどのアニオンが対極の負極層820cへと黒塗りの矢印の方向に向かって電気泳動により移動する。しかし、アニオンは電極反応に直接寄与することはできないので、負極層内に貯まってしまう。微視的に観察すれば電極近傍は電気的に中性を保つ必要がある。アニオンが貯まった負極層820cでは、負極活物質801cからリチウムイオンが供給されることにより電気的中性が保たれる。
【0017】
ここで、リチウムイオンおよびアニオンが電解質中で電気を運ぶ割合、すなわち輸率は、アニオンの方が大きい。このため、リチウムイオンが正極活物質中へ吸収されるとともにより多くのアニオンが負極方向へ移動する。そのため、従来のリチウムイオン二次電池では高電流レート放電時など急激に電極反応が進行すると、正極層820a内でリチウムイオンおよびアニオンの濃度が低下し、最終的には電極反応が進行しなくなる恐れがあるという問題があった。
【0018】
本発明者らは上記知見に鑑み、高電流レートでの放電時にも優れた発電性能を示すことが可能なリチウムイオン二次電池用電極について鋭意検討した結果、電極層の電極活物質間の空隙に電解質保持材料を配置させることにより電極特性を向上させ得ることを見出した。以下、本発明の電極についてより詳細に説明する。
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極を模式的に図1に示す。なお、本発明においては、説明の都合上、図面が誇張されているが、本発明の技術的範囲が提示した図面の形態に限定されるものではない。
【0020】
図1に示す電極は、集電体110上に電極層120が形成された構造を有している。電極層120は電極活物質101、電解質103、および、電極活物質101間の空隙に配置されてなる電解質保持材料104を有するものである。なお、電極層には、バインダ、導電助剤等が、本発明の電極が所望する電極特性を有するように含まれ得るが、図中では説明の都合上、その記載を省略した。
【0021】
ここで、電解質保持材料とは、電解質を保持する部材である。これにより、電極内部に保持される電解質の量を増やすことができ、さらに、電解質保持材料によって電極の奥にも電解質を保持することが可能となり得る。
【0022】
例えば、セパレータに電解液を含浸させた電解質層を用いた場合、セパレータ側から電極側に電解液の移動があり、電解液が電極内の空隙や電解質保持材料に吸収されることになる。また、電解質として高分子電解質には、高分子ゲル電解質と全固体高分子電解質とがある。電解質に高分子ゲル電解質を用いた場合、ゲル中の電解液が電極側に移動することもあるため、電極層内へ電解液が移動して電解質保持材料に吸収させることもできるが、予め電極層内の空隙や電解質保持材料に吸収させておいてもよい。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極において、かような電解質保持材料が電極層内に存在することで、電解質保持材料が電解質を保持できることから電極層内で電解質塩等を多く確保することができる。これにより、高レート放電時にLiイオンが電解質層からのみでなく電解質保持材料からも供給されるため、Liイオンの拡散が阻害されることなくスムーズに行われるだけでなく、電極層内のLiイオンおよびアニオンの濃度低下を防ぐことができる。従って、本発明の電解質保持材料を有する電極によれば、高電流レートの放電時においても、高い発電性能をより長時間に渡って示すことが可能となるのである。
【0024】
本発明で用いられる電解質保持材料として、具体的には、貫通孔を有するカーボン材が好ましく用いられる。
【0025】
前記カーボン材の好ましい一実施形態を図2のSEM像に示す。図2は、後述する実施例において作製したカーボン材をSEMにより撮影したものであり、所定の孔径を有する貫通孔を複数有するカーボンからなるものである。
【0026】
前記電解質保持材料には、電解質を保持できるだけでなく、電極反応時には電極層内へリチウムイオンおよびアニオンをスムーズに供給できるものが適している。従って、前記電解質保持材料として貫通孔を有することにより、十分な電解質を保持できるだけでなく、電極層内のリチウムイオンおよびアニオンの電気泳動及び拡散を妨げずにリチウムイオンおよびアニオンの供給を促進させることができる。さらに、カーボンは一般的には電子伝導性に優れることから、カーボン材を用いることにより電極層内の電子伝導性を低下させる恐れもなく、むしろ電極層内での電子伝導性を向上させる働きがある。更に、これはプレス等をかけて電極をより薄くする場合には効果的に作用することが期待できる。
【0027】
前記カーボン材は、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボンなどからなり、カーボンとして従来公知のものであれば特に制限されない。ここで、一般的に、ソフトカーボンとは、グラファイト化するために必要とされる処理をすることにより黒鉛結晶となるカーボンを意味する。また、ハードカーボンとは、グラファイト化するために必要とされる処理(例えば、高温処理)をしても黒鉛結晶とはなり得ないカーボンを意味する。
【0028】
前記カーボン材の平均粒径は、電極の厚さにもよるが一般的に、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜20μmとするのがよい。前記平均粒径が、0.1μm未満であると使用するバインダで詰まってしまって効果が低減する恐れがあり、100μmを超えると平坦な電極を構成するのが困難となる恐れがある。
【0029】
なお、前記カーボン材の平均粒径は、レーザー回折方式により測定したカーボン材の粒径の平均値とする。また、カーボン材の形状は、円形、楕円形状、四角形状、その他多角形状の種々の形状を取りうる。
【0030】
前記カーボン材における貫通孔の形態としては、特に制限されず、カーボン材を貫通した孔が形成されたものであればよく、電解質保持力を高めるためカーボン材内で異なる貫通孔が結合していてもよい。
【0031】
前記カーボン材が有する貫通孔の平均孔径は、好ましくは0.1〜20μm、より好ましくは0.5〜10μm、特に好ましくは1〜5μmとするのがよい。これにより、電解質を十分に保持しつつ、リチウムイオンおよびアニオンの供給をより促進させることができる。このような効果は、前記平均孔径が0.1μm未満であると十分に得られない恐れがある。また、前記平均孔径が20μmを超えると電解質保持材料の強度が低下し、電池作製時等において電解質保持材料の形状を維持できずに孔が潰れる恐れがある。
【0032】
前記貫通孔の平均孔径は、例えばSEMにより観察されるカーボン材における貫通孔の孔径を測定し、これらを算術平均した値を意味する。また、前記貫通孔の断面形状は、円形、楕円形状、四角形状、その他多角形状の種々の形状を取りうる。従って、貫通孔が有する孔径の絶対最大長を貫通孔の直径として測定する。なお、絶対最大長とは、物質がとり得る最大の大きさを意味する。
【0033】
電解質の保持量を多くするため前記カーボン材は複数の貫通孔を有しているのが好ましいが、前記カーボン材における貫通孔が占める体積が大きいと、電解質保持材料の十分な強度を確保できなくなる恐れがある。
【0034】
従って、前記カーボン材における空隙率は、好ましくは5〜95%、より好ましくは30〜80%、特に好ましくは50〜70%とするのがよい。これにより、優れた電解質保持能力および十分な強度を有するカーボン材が得られ、電極製造時から長期に亘って電解質保持材料の効果を維持することができる。なお、前記カーボン材の空隙率は、例えば、カーボン材の全体の体積および質量を測定し、このうちカーボンの密度を2.2としてカーボン部分の占有体積を算出し、全体の体積から引くことにより空隙部分の体積を算出し、これを全体の体積で除することにより求めることができる。
【0035】
本発明の電極は集電体および電極層を少なくとも含むが、上述した電解質保持材料は電極層に含まれる。電極層における前記電解質保持材料の含有量は、電極層の全体積に対して、10〜50体積%、好ましくは20〜30体積%とするのがよい。これにより大電流放電においても長時間に亘って高い出力を維持することができる。
【0036】
また、電極層において、電解質保持材料は電極層全体に均一に分散されていてもよく、電極層の内部、すなわち、図1に示すように集電体付近にのみ電解質保持材料が分散されていてもよく、特に制限されない。
【0037】
また、上述した貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料の用途としては、リチウム二次電池の他にも、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池など二次電池などにおける電解質保持材料としても好適に用いられる。しかしながら、実用性の観点から、リチウムイオン二次電池における電極層に用いられるのが好ましい。
【0038】
本発明における電解質保持材料の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、カーボン材原料と貫通孔形成剤とを混合して得られた混合物を、炭化することにより、カーボン材前駆体を得る工程と、前記カーボン材前駆体から前記貫通孔形成剤を除去する工程とを含む方法、などが用いられる。
【0039】
前記カーボン材原料とは、カーボン原料として一般的に用いられているものであればよく、セルロースなどの植物質;ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリアミ等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂;リグニン、セルロース、トラントガム、アラビアガム、糖類等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内に持つ天然高分子物質;前記には含まれないナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、コプナ樹脂等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内に持つ合成高分子物質;タール、ピッチなどの石炭系或いは石油系の重質油;などが挙げられる。
【0040】
ここで、ピッチとは石炭や石油の蒸留残渣もしくは原料として得られる縮合多環芳香族炭化水素の混合物の事であり、通常無定形で光学的に等方性を示す等方性ピッチと呼ばれるものがある。また、等方性ピッチの他に、光学的に異方性を示す、ネマチック相のピッチ液晶を含むメソフェースピッチなどもある。
【0041】
前記貫通孔形成剤としては、カーボン材原料を含む前記混合物を炭化する際に燃焼、揮発などせずに前記貫通孔形成剤の形状を維持できるものであればよい。前記前記貫通孔形成剤として、具体的には、塩化ナトリウムなどが好ましく挙げられる。また、貫通孔の大きさ、空隙率など、所望するカーボン材が得られるように、前記貫通孔形成剤の大きさ、カーボン材原料との混合比などを適宜調整するとよい。
【0042】
前記混合物を炭化するには、まず混合物を空気中、200〜300℃程度で熱処理することにより、軽度に酸化処理する。この酸化処理により、前記混合物を部分的に不融化でき、次工程の熱処理の際に溶融、融着が防止される。前記酸化処理において、混合物を金属性のスパチュラなどを用いて適宜攪拌するとよい。
【0043】
続いて、前記酸化処理後に、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で、900〜1200℃で、1〜5時間程度、熱処理する。これにより、カーボン材原料が炭化され、貫通孔形成剤を含むカーボン材前駆体が得られる。前記熱処理は、例えば、190℃、250℃、350℃〜1500℃で夫々2時間、2時間、8時間保持して行うなど、数段階の温度にわけて行ってもよい。前記熱処理は、電気炉、流動式炭化炉、固定式炭化炉、ロータリーキルンなど、公知の方法を用いて行えばよい。
【0044】
なお、前記酸化処理および前記熱処理する際の温度は、上記範囲内で前記カーボン材原料、前記貫通孔形成剤などの種類に応じて適宜決定するとよい。また、前記酸化処理および前記熱処理における昇温速度は、所望する特性を有するカーボン材が得られるように適宜決定するとよい。
【0045】
また、混合物を炭化して得られたカーボン材前駆体は、気孔形成物質を除去する次工程の前に、適宜粉砕するのが好ましい。これにより、気孔形成物質の除去をより確実に行うことができる。粉砕する手段としては、特に制限されず公知の粉砕手段を用いればよい。具体的には、振動ボールミル、ジェットミル等が挙げられる。この際、所望の大きさを有するカーボン材が得られるように粉砕の程度を調整するとよい。
【0046】
上記の通りにして得られたカーボン材前駆体から前記貫通孔形成剤を除去するには、カーボン前駆体の形状などに影響を与えずに、前記貫通孔形成剤のみを除去するように行えばよい。
【0047】
例えば、前記貫通孔形成剤として塩化ナトリウムを用いた場合には、前記貫通孔形成剤を含むカーボン材前駆体を、イオン交換水などの溶液中に添加すればよい。これにより、前記貫通孔形成剤が前記溶液中に溶解し、前記カーボン材前駆体から前記貫通孔形成剤を除去するとともに、貫通孔が形成されたカーボン材を得ることができる。
【0048】
前記溶液中に前記貫通孔形成剤を添加した後、ホモジナイザー、超音波分散装置等の適当な拡散手段を行うのが好ましく、より迅速かつ確実に前記貫通孔形成剤を除去することができる。また、カーボン材前駆体から前記貫通孔形成剤を除去する工程は、数回繰り返して行ってもよい。
【0049】
その後、前記溶液からカーボン材を吸引瀘過など公知の瀘別手段等を用いてろ別し、乾燥させればよい。乾燥方法としては、真空乾燥、自然乾燥、ロータリーエバポレータ、流動乾燥、沿送風乾燥機による乾燥など、公知の方法を用いればよく、特に限定されない。乾燥させる際の時間、温度などは、使用する方法に応じて適宜決定すればよいが、例えば、真空乾燥の場合100〜300℃で、3〜10時間程度行えばよい。
【0050】
本発明の電極が正極として用いられた場合、正極における電極層(単に、「正極層」とも記載する。)内には、上述した電解質保持材料および電極活物質が含まれ、これらの他に電子伝導性を高めるための導電助材、バインダ、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩、および電解質などが含まれ得る。
【0051】
正極層に含まれる電極活物質(単に、「正極活物質」とも記載する。)としては、遷移金属とリチウムとの複合酸化物であるリチウム−遷移金属複合酸化物が好適に使用できる。正極活物質として、具体的には、LiCoOなどのLi・Co系複合酸化物、LiNiOなどのLi・Ni系複合酸化物、スピネルLiMnなどのLi・Mn系複合酸化物、LiFeOなどのLi・Fe系複合酸化物およびこれらの遷移金属の一部を他の元素により置換したものなどが使用できる。これらリチウム−遷移金属複合酸化物は、反応性、サイクル耐久性に優れ、低コストな材料である。そのためこれらの材料を電極に用いることにより、出力特性に優れた電池を形成することができる点で有利である。この他、LiFePOなどの遷移金属とリチウムのリン酸化合物や硫酸化合物;V、MnO、TiS、MoS、MoOなどの遷移金属酸化物や硫化物;PbO、AgO、NiOOHなどが挙げられる。
【0052】
正極活物質の粒径は、特に限定されるものではなく、従来公知の粒径範囲のものを使用すればよく、具体的には、電極反応抵抗を低減するために、正極活物質微粒子の平均粒径が0.1〜5μmであるとよい。
【0053】
導電助材としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0054】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、SBR、ポリイミドなどが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0055】
リチウム塩としては、LiBETI(リチウムビス(パーフルオロエチレンスルホニルイミド);Li(CSONとも記載)、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)またはこれらの混合物などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0056】
電解質としては、電解質層に高分子電解質を用いる場合には、正極層にも高分子電解質が含まれていることが望ましい。正極層における正極活物質間の空隙に高分子電解質を充填することによって、正極層におけるイオン伝導がスムーズになり、リチウムイオン二次電池全体としての出力向上が図れるためである。
【0057】
前記高分子電解質としては、本発明において、高分子に電解液を保持させた高分子ゲル電解質と、高分子電解質とリチウム塩などの支持塩のみで構成される全固体高分子電解質と、が挙げられる。
【0058】
全固体高分子電解質としては、特に限定されるものではなく、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体などが挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系高分子は、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SOなどのリチウム塩をよく溶解しうる。また、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度が発現する。本発明において全固体高分子電解質は、電極特性をより向上させるために、正極層および負極層の双方に含まれることが好適である。
【0059】
また、高分子ゲル電解質としては、イオン導伝性を有する全固体高分子電解質に、電解液を含んだものであるが、さらに、リチウムイオン導伝性を持たない高分子(ホストポリマー)の骨格中に、同様の電解液を保持させたものも含まれる。
【0060】
ここで、高分子ゲル電解質に含まれる電解液(電解質塩および可塑剤)としては、通常リチウムイオン電池で用いられるものであればよく、例えば、LiBOB(リチウムビスオキサイドボレート)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiTaF、LiAlCl、Li10Cl10等の無機酸陰イオン塩、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON(LiBETI)等の有機酸陰イオン塩の中から選ばれる、少なくとも1種類のリチウム塩(電解質塩)を含み、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン等のエーテル類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;アセトニトリル等のニトリル類;プロピオン酸メチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;酢酸メチル、蟻酸メチルの中から選ばれる少なくともから1種類または2種以上を混合した、非プロトン性溶媒等の有機溶媒(可塑剤)を用いたものなどが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。
【0061】
高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン導伝性を持たない高分子としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、およびこれらの共重合体などが使用できる。ただし、これらに限られるわけではない。なお、PAN、PMMAなどは、どちらかと言うとイオン伝導性がほとんどない部類に入るものであるため、上記イオン伝導性を有する高分子とすることもできるが、ここでは高分子ゲル電解質に用いられるリチウムイオン導伝性を持たない高分子として例示したものである。
【0062】
高分子ゲル電解質中のホストポリマーと電解液との比率(質量比)は、使用目的などに応じて決定すればよいが、2:98〜90:10の範囲である。すなわち、電極層の外周部からの電解質の染み出しについても、絶縁層や絶縁処理部を設けることで効果的にシールすることができる。そのため、上記高分子ゲル電解質中のホストポリマーと電解液との比率(質量比)に関しても、比較的電池特性を優先したものとすることができる。
【0063】
本発明では、前記電解質のうち、高分子ゲル電解質を用いるのが好ましい。これにより、本発明の電極を用いて電池を作製する際に、セル間のシールが容易となり、かつ、リチウムイオン伝導性も確保でき、大電流放電において優れた性能が得られる。
【0064】
また、電極層に含まれる電解質としては、上記した高分子電解質の他に、液状電解質(電解液)のみを用いてもよい。前記液状電解質としては、特に制限されず、高分子ゲル電解質に含まれる電解液として上述したのと同様のものが用いられる。
【0065】
一方、本発明の電極をリチウムイオン二次電池に用いた際に、正極と負極との間に配置される電解質層に高分子ゲル電解質や液状電解質(電解液)などをセパレータに含浸させて用いる場合には、電極層に電解質が含まれていなくてもよく、電極活物質および電解質保持材料を結びつける従来公知のバインダが含まれていればよい。電池作製時に、セパレータに電解質を含浸させて電解質層を形成するとともに、電極層内に電解質を含浸させることができる。
【0066】
正極層において、正極活物質、導電助材、バインダ、電解質、リチウム塩等の成分配合量は、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性等を考慮して決定すべきである。例えば、正極層内における電解質の配合量が少なすぎると、電極層内でのイオン伝導抵抗やイオン拡散抵抗が大きくなり、電池性能が低下してしまう。一方、正極層内における高分子電解質の配合量が多すぎると、電池のエネルギー密度が低下してしまう。従って、これらの要因を考慮して、目的に合致した電解質量を決定する。
【0067】
正極層の厚さは、特に限定するものではなく、配合量について述べたように、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。一般的な正極層の厚さは10〜500μm程度である。すなわち、電解質保持材料を有することにより、正極の厚さを薄くしなくとも、Liイオン拡散抵抗を小さくすることができ、十分な電池の容量密度が得られる。
【0068】
本発明の電極が負極として用いられた場合、負極における電極層(単に、「負極層」とも記載する。)内では、上述した電解質保持材料および電極活物質が含まれ、これらの他に、電子伝導性を高めるための導電助材、バインダ、イオン伝導性を高めるためのリチウム塩、電解質などが含まれ得る。
【0069】
電極活物質の種類以外は、基本的に「正極層」の項で記載した内容と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0070】
負極層に含まれる電極活物質(単に、「負極活物質」とも記載する。)としては、各種の天然黒鉛や人造黒鉛、例えば繊維状黒鉛、鱗片状黒鉛、球状黒鉛などの黒鉛類、および各種のリチウム合金類などが挙げられる。具体的には、カーボン、グラファイト、金属酸化物、リチウム−金属複合酸化物などを用いることができるが、好ましくはカーボンまたはリチウム−遷移金属複合酸化物である。これらカーボンまたはリチウム−遷移金属複合酸化物は、反応性、サイクル耐久性に優れ、低コストな材料である。そのため、これらの材料を電極に用いることにより、出力特性に優れた電池を形成することができる。なお、リチウム−遷移金属複合酸化物としては、例えば、LiTi12などのリチウム−チタン複合酸化物などを用いることができる。また、カーボンとしては、例えば、黒鉛(グラファイト)、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。
【0071】
負極層の厚さは、特に限定するものではなく、正極層と同様に、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮して決定すべきである。一般的な負極層の厚さは10〜500μm程度である。すなわち、負極を薄くしなくとも、Liイオン拡散抵抗を小さくすることができ、十分な電池の容量密度が得られる。
【0072】
さらに、本発明の電極(負極および正極)に用いられる集電体としては、特に制限されるものではなく、従来公知のものを利用することができ、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく使える。また、金属表面に、アルミニウムを被覆させた集電体であってもよい。また、場合によっては、2つ以上の金属箔を張り合わせた集電体を用いてもよい。耐蝕性、作り易さ、経済性などの観点からは、アルミニウム箔を集電体として用いることが好ましい。
【0073】
集電体の厚さは、特に限定されないが、通常は1〜100μm程度である。また、集電体の長さないし形状は、所望する電極が得られるように適宜決定すればよい。
【0074】
本発明の第二は、上述した電極の製造方法である。すなわち、電極活物質、電解質保持材料を含むスラリーを調整する段階と、前記スラリーを集電体上に塗布する段階と、を含む方法である。かような方法によれば、簡易な方法により電解質保持材料を含む電極を製造することが可能である。
【0075】
まず、電極活物質、電解質保持材料を含むスラリーを調整する段階においては、電極活物質、電解質保持材料などの他に必要に応じて、バインダ、導電助剤などを溶媒中で混合してスラリーを調整する。
【0076】
電解質保持材料としては、貫通孔を有するカーボン材を用いるが、詳細な説明は上述したのと同様であるためここでは省略する。また、正極および負極における電極活物質、およびその他の成分などについても、上述した通りであるため、ここではその説明を省略する。
【0077】
スラリーの溶媒や混合手段は、各種公知の技術を使用すればよく、特に限定されるものではない。スラリーの溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが挙げられる。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた場合には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが好ましい。
【0078】
次に前記スラリーを集電体上に塗布する段階としては、特に限定されず、コーター、スクリーン印刷法など公知の方法により、電極が所望する厚さを有するように塗布すればよい。塗布したスラリーを乾燥するには、真空乾燥機、コーターでの熱風乾燥など従来公知の装置を用いることができる。乾燥条件は塗布したスラリーに応じて決定すればよい。
【0079】
上述の通りにして、集電体上などに作製した電極層は、表面の平滑性および厚さの均一性を向上させるためにプレス操作を行ってもよい。プレス操作は冷間でプレスロールする方法または熱間でプレスロールする方法のいずれの方法でも良い。熱間でプレスロールする方法の場合は、電解質支持塩や重合性ポリマーが分解する温度以下で行うのが望ましい。プレス圧力は線圧で200〜1000kg/cmで行うことが望ましい。
【0080】
また、電解質保持材料を含むスラリーを集電体上に塗布、乾燥させた後に、電解質保持材料を含まないスラリーを塗布、乾燥させることにより、図1に示したように電極の奥の方にのみ電解質保持材料を保持させることもできる。これにより、高レート充放電時におけるLiイオン伝導がスムーズとなり、Liイオンの拡散抵抗を下げることができ、電極内部のLiイオン濃度低下を防ぐことが可能となり得る。しかしながら、スラリーの塗布方法が、かような方法に制限されるわけではない。
【0081】
上記第1の製造方法は、高分子ゲル電解質や電解液をセパレータに含浸させた電解質層を有するリチウムイオン二次電池用電極の製造方法に適している。リチウムイオン二次電池の作製時にセパレータに高分子ゲル電解質または電解液を含浸させて電解質層を形成するとともに、電極層内に液状電解質を含浸させることができる。
【0082】
また、本発明の電極の製造方法は上述のものに限られず、第2の製造方法としては、上述の方法において、塗布したスラリーを乾燥する段階を行った後、さらに、乾燥したスラリーに電解質溶液を含浸させる段階と、前記電解質溶液を重合させる段階と、を加えて電極を製造してもよい。かような第2の製造方法は、電池の電解質に高分子電解質を用いる場合などに適している。
【0083】
乾燥したスラリーに電解質溶液を含浸させる段階として、含浸方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いて行えばよい。また、アプリケーターやコーターなどを用いれば微量の供給も可能である。前記電解質溶液は、電解質層の形成に用いる電解質溶液と同じものを用いるのが好ましい。
【0084】
電解質溶液は、電解質用高分子およびリチウム塩を含み、他に、重合開始剤、および、溶媒などが含まれ得る。これらの調製方法としては、所望の電解質層が得られるように、適宜決定すればよい。具体的には、全固体高分子電解質の場合、全固体高分子電解質の原料高分子、リチウム塩等をNMPのような溶媒に溶解させて調製した溶液などが用いられる。原料高分子、リチウム塩などについては、本発明の電極において説明したのと同様のものが用いられる。また、高分子ゲル電解質の場合、高分子ゲル電解質の原料として、ホストポリマーと電解液、リチウム塩、重合開始剤等からなるプレゲル溶液などが用いられる。ホストポリマー、電解液、リチウム塩などについては、本発明の電極に含まれる電解質において説明した通りである。重合開始剤としては、重合方法(熱重合法、紫外線重合法、放射線重合法、電子線重合法など)や重合させる化合物に応じて適宜選択する必要がある。例えば、紫外線重合開始剤としてベンジルジメチルケタール、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられるが、これらに制限されるべきものではない。
【0085】
電解質溶液を重合させる段階において、重合方法としては特に限定されないが、熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合による重合方法が挙げられる。重合方法は、含浸させた電解質溶液に含まれる化合物に応じて適宜選択すればよいが、簡便かつ確実に重合を行うことができるという理由から、熱重合を行うことが好ましい。また、重合条件等は、溶媒の供給量、溶媒の揮発速度、架橋速度などに応じて決定される。また、必要に応じて乾燥段階を加えてもよい。
【0086】
本発明の電極の第3の製造方法としては、第1の製造方法におけるスラリーを調整する段階で前記スラリーに電解質溶液も混合してもよい。すなわち、電極活物質、電解質保持材料、電解質溶液を含むスラリーを集電体上に塗布する段階と、前記電解質溶液を重合させる段階と、を含む本発明の電極の製造方法であってもよい。かような第3の製造方法は、電池の電解質に高分子電解質を用いる場合などに適している。
【0087】
電極活物質、電解質保持材料、電解質溶液を含むスラリーを集電体上に塗布する段階において、スラリーに電解質溶液を含ませる以外は、上述した第1の製造方法と同様にしてスラリーを調整し集電体上に塗布すればよい。また、電解質溶液の具体的な説明は上述した第2の製造方法と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、スラリーに含まれる前記電解質溶液を重合させる段階も、上述した第2の製造方法と同様の方法によりスラリーに含まれる前記電解質溶液を重合させればよい。
【0088】
本発明の電極の第4の製造方法としては、まず、正極活物質および電解質保持材料を含む正極スラリーを集電体上に塗布し乾燥させ、同様にして、負極活物質および電解質保持材料を含む負極スラリーを別の集電体上に塗布して乾燥させる。次に、これらを多孔性ポリプロピレンフィルム等のセパレータを介して、負極、セパレータ、正極、セパレータの順に積層した後、電解質溶液を含浸させて重合を行うことにより電極を製造してもよい。かような第4の製造方法は、電池の電解質に高分子電解質を用いたバイポーラ電池を作製する場合などに適している。
【0089】
正極スラリーおよび負極スラリーとは、電極活物質としてそれぞれ正極活物質または負極活物質を含み、正極層または負極層を作製するために用いられるスラリーである。正極スラリーおよび負極スラリーの調製、および、これらを集電体上に塗布および乾燥させるには、上述した第一の製造方法と同様にして行えばよい。また、電解質溶液、ならびに電解質溶液の含浸および重合方法としては、上記第二の製造方法と同様の方法が用いられる。
【0090】
本発明の第三は、本発明の第一のリチウムイオン二次電池用電極または本発明の第二の方法により製造されたリチウムイオン二次電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池である。すなわち、負極と、正極と、電解質層とを有するリチウムイオン二次電池において、前記負極および/または前記正極に本発明の第一のリチウムイオン二次電池用電極または本発明の第二の方法により製造されたリチウムイオン二次電池用電極を用いたリチウムイオン二次電池である。
【0091】
上述の通り、本発明の電極は電解質保持材料を含むことにより高レート放電時に生じる電極内部のLiイオン、アニオンの濃度低下を防ぐなどして、電極反応をスムーズにすることが可能である。従って、本発明の電極を正極および/または負極に用いたリチウムイオン二次電池は、出力特性に優れた電池となり得る。
【0092】
本発明による電解質保持材料を含む電極は、リチウムイオン二次電池において正極または負極のいずれか一方に用いられればよいが、リチウムイオンとアニオンの濃度が低下し易い正極に少なくとも用いられるのが好ましく、大電流放電において優れた出力を発揮できることから正極および負極の双方として用いられるのがより好ましい。
【0093】
かような電池において、正極層における正極活物質としてリチウム−遷移金属複合酸化物を用いるのが好ましい。前記リチウム−遷移金属複合酸化物としては、本発明の第一において上述した通りであるが、LiMn、LiCoO、LiNiO、およびこれらの遷移金属の一部を他の元素により置換したものなどが挙げられる。
【0094】
また、負極層における負極活物質としてカーボンまたはリチウム−遷移金属複合酸化物を用いることが好ましい。これにより、低コストな材料で、反応性、サイクル耐久性に優れる電極とすることができる。また、負極活物質としては、本発明の第一において上述した通りであるが、カーボンとしてハードカーボン、グラファイト等が挙げられる。
【0095】
なお、正極および負極に含まれる電極活物質、電解質保持材料、およびその他の成分などについては、本発明の第一において上述した通りであるため、ここではその詳細な説明を省略する。
【0096】
電解質層は、高分子電解質からなるのが望ましいが、絶縁層などを形成することにより、電解液を染み込ませたセパレータを用いることも可能である。なお、前記高分子電解質および前記電解液としては、本発明の第一において説明したのと同様であるためここでは詳細な説明を省略する。
【0097】
なかでも電解質層は、ゲル電解質からなるものが好ましい。これは、液漏れの問題がないため、信頼性の高い電池とすることが可能なためである。電解質層としてゲル電解質を用いた場合、正極層および負極層にもゲル電解質が含まれるのが好ましい。
【0098】
電解質層は、上述のようにセパレータにゲル電解質または電解液を含浸させた構成とすることもできる。セパレータとしては特に限定されず、薄くて充分な強度を有するものであればよく、厚さが10〜20μm程度のポリエチレン微孔膜、ポリプロピレン微孔膜などのポリオレフィン系セパレータ等が挙げられる。
【0099】
電解質層の厚さは、内部抵抗を低減させるには薄ければ薄いほど良いと言える。電解質層の厚さは、1〜100μm、好ましくは5〜50μm、とするのがよい。なお、ここでいう電解質層の厚さは、正極および負極をそれぞれシートとみなしたときに正、負極間に充填された電解質の厚みのことを指し、正、負極がそれぞれ微細孔を有していても微細孔内の電解質は厚みには含まれない。
【0100】
本発明の電極を用いたリチウムイオン二次電池としては、特に制限されるものではなく、例えば、形態・構造で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。また、リチウムイオン二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)で見た場合、バイポーラ型ではない(内部並列接続タイプ)電池およびバイポーラ型(内部直列接続タイプ)電池のいずれにも適用し得るものである。積層型(扁平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。また、バイポーラ型電池では、通常の電池に比べて単電池の電圧が高く、容量、出力特性に優れた電池を構成できる。本発明のリチウムイオン二次電池は、優れた電池を得るために、バイポーラ型リチウムイオン二次電池として用いるのが好ましい。しかし、特にこれに限定されず、例えば、積層型リチウムイオン二次電池、倦回型リチウムイオン二次電池などが例示できるが、好ましくはバイポーラ型リチウムイオン二次電池(以下、単に「バイポーラ電池」とも称する。)である。
【0101】
以下に、本発明のリチウムイオン二次電池の好適な態様の一つである、電解質に高分子電解質(より詳細には、全固体高分子電解質または高分子ゲル電解質)を用いたバイポーラ電池につき簡単に説明する。しかし、これらは本発明の例示に過ぎず、これらに限定されるものではない。
【0102】
本発明のバイポーラ電池の基本構成の概略を、図3〜6を用いて簡単に説明する。このうち図3には、バイポーラ電池を構成するバイポーラ電極150の構造を模式的に表わした断面概略図を示し、図4には、バイポーラ電池を構成する単電池層160の構造を模式的に表わした断面概略図を示し、図5には、バイポーラ電池210の全体構造を模式的に表わした断面概略図を示し、図6には、バイポーラ電池210内に複数積層された単電池層160が直列に接続されてなることを(記号化して)概念的に表わした概略図を示す。
【0103】
図3〜6に示したように、1枚の集電体110の片面に正極層120aを設け、もう一方の面に負極層120cを設けたバイポーラ電極150(図3参照のこと)を、高分子電解質層130を挟み隣り合うバイポーラ電極150の電極層120a、120cが対向するようになっている(図4参照のこと)。すなわち、バイポーラ電池210では、集電体110の片方の面上に正極層120aを有し、他方の面上に負極層120cを有するバイポーラ電極(電極層)150を、電解質層130を介して複数枚積層した構造の電極積層体(バイポーラ電池本体)170からなるものである。なお、電極積層体170において、最上層と最下層の電極150c、150aは、バイポーラ電極構造ではなく集電体110(または負極端子板190もしくは正極端子板180)に必要な片面のみの電極層(負極層120cまたは正極層120a)を形成した構造となっている(図5参照のこと)。
【0104】
バイポーラ電極の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。シート状電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できるのであれば、バイポーラ電極の積層回数を少なくしてもよい。
【0105】
また、本発明のバイポーラ電池210では、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、電極積層体170を電池外装材(外装パッケージ)200に減圧封入するのがよい(図5、6参照のこと)。
【0106】
このバイポーラ電池210の基本構成は、図6に示すように、複数積層した単電池層(単セル)160が直列に接続された構成ともいえる。なお、本発明のバイポーラ電池は、リチウムイオンの移動によって充放電が媒介されるバイポーラリチウムイオン二次電池に用いられる。ただし、電池特性の向上等の効果が得られるのであれば、他の種類の電池に適用することを妨げるものではない。
【0107】
本発明のバイポーラ電池は、電極層に貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料を用いた本発明の第一のバイポーラ電極を用いることを特徴とするものであり、その他の構成要素については、特に制限されるべきものではなく、従来公知のバイポーラ電池に幅広く適用可能である。
【0108】
また、バイポーラ電池の作製方法としては、従来公知の方法を適宜参照して用いることができる。以下に、バイポーラ電池の作製方法として、好ましい一実施形態を記載する。
【0109】
まず、集電体の片面に正極層を作製し、前記正極層が形成された面と反対の面に負極層を作製することによりバイポーラ電極を得た後、前記バイポーラ電極をセパレータを介して所定数、積層させてバイポーラ電池積層体(電極積層体)を作製する。
【0110】
前記正極層および前記負極層の作製方法は、本発明の第二のリチウムイオン二次電池の製造方法において記載した方法を適宜用いればよい。
【0111】
上記電極積層体の積層数は、バイポーラ電池に求める電池特性を考慮して決定される。また、上記電極積層体において、正極側の最外層には集電体上に正極層のみを形成した電極を配置し、負極側の最外層には集電体上に負極層のみを形成した電極を配置する。バイポーラ電極と電解質層(膜)とを積層する段階は、電池内部に水分等が混入するのを防止する観点から、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、アルゴン雰囲気下や窒素雰囲気下で電極積層体を作製するとよい。
【0112】
その後、前記電極積層体に、全固体高分子電解質の原料高分子、リチウム塩等をNMPのような溶媒に溶解させて調製した溶液、または、高分子ゲル電解質の原料として、ホストポリマーと電解液、リチウム塩、重合開始剤等からなるプレゲル溶液、を含浸させた後に、熱、紫外線、放射線、電子線などにより全固体高分子電解質を含む前記溶液または前記プレゲル溶液を重合(架橋)させる。なかでも、簡便かつ確実に重合を行うことができる点で、熱重合が好ましく用いられる。
【0113】
全固体高分子電解質を含む前記溶液または前記プレゲル溶液は、本発明の第二のリチウムイオン二次電池の製造方法において記載した電解質溶液と同様のものが用いられ、組成成分や配合量などについては、使用目的に応じて適宜決定すればよい。
【0114】
また、全固体高分子電解質を含む前記溶液または前記プレゲル溶液を含浸させる前に、電池内部に水分等が混入するのを防止するため、前記電極積層体を十分に乾燥させるのが好ましい。前記乾燥および熱重合の際には、真空乾燥機などの従来公知の装置が用いられうる。
【0115】
また、上記した方法の他、バイポーラ電極と別途作製した電解質層(膜)とを積層させてバイポーラ電池を作製してもよい。この際にも、得られた電極積層体において、正極側の最外層には集電体上に正極層のみを形成した電極を配置し、負極側の最外層には集電体上に負極層のみを形成した電極を配置する。
【0116】
電解質層(膜)の作製は、例えば、全固体高分子電解質を含む前記溶液を硬化させることによって製造される。また、高分子ゲル電解質層を用いる場合には、前記プレゲル溶液を不活性雰囲気下で加熱乾燥と同時に重合(架橋反応を促進)させることによって製造される。具体的には、上記全固体高分子電解質を含む溶液または上記プレゲル溶液を、PETフィルムなど適当なフィルム上に塗布し、硬化または加熱乾燥と同時に重合(架橋反応を促進)させることによって製造される。硬化または加熱乾燥は真空乾燥機(真空オーブン)などを用いることができる。加熱乾燥の条件は溶液またはプレゲル溶液に応じて決定され、一義的に規定できないが、通常は30〜110℃で0.5〜12時間である。
【0117】
この時、電解質層(膜)の厚さは、スペーサなどを用いて制御できる。光重合開始剤を用いる場合には、光透過性のギャップに流し込み、乾燥及び光重合ができるような紫外線照射装置を用いて紫外線を照射して、電解質層内のポリマーを光重合させ架橋反応を進行させて製膜するとよい。ただし、この方法に限定されないことは勿論である。重合開始剤の種類に応じて、放射線重合、電子線重合、熱重合などを使いわける。
【0118】
また、上記で用いるフィルムは、製造過程で80℃程度に加熱されることもありえるため、当該温度程度での十分な耐熱性を有し、さらに溶液またはプレゲル溶液との反応性がなく、製造過程で剥離し除去する必要上、離型性に優れたものを用いるのが望ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンフィルムなどを使用することができるが、これらに制限されるべきものではない。
【0119】
なお電解質層の幅は、バイポーラ電極の集電体の電極形成部サイズよりも若干小さくすることが多い。
【0120】
なお、電解質層に電解液を染み込ませたセパレータを用いる場合には、従来公知の各種製造方法、例えば、電解液を染み込ませたセパレータをバイポーラ電極に挟み込んで積層する方法やバイポーラ電極をセパレータを介して積層した後に電解液を注入する法などにより製造できるため、以下、詳しい説明は省略する。
【0121】
バイポーラ電池において、集電体同士が接触したり、電解質が漏れ出したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こるのを防止する目的で、各電極の周囲などに絶縁層が形成されていてもよい。また、集電体延長部側に絶縁層を設けてもよい。これは、車両駆動用電源などとして利用する場合に、電解質層などから電解質が上記集電体延長部や絶縁用セパレータを伝わって染み出すのを防止することができる。
【0122】
絶縁層としては、絶縁性、電解質の漏出や外部からの水分の透湿に対するシール性(密封性)、電池動作温度下での耐熱性などを有するものであればよく、例えば、エポキシ樹脂、ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドなどが使用できるが、耐蝕性、耐薬品性、作り易さ(製膜性)、経済性などの観点からは、エポキシ樹脂が好ましい。
【0123】
バイポーラ電池において、正極端子板および負極端子板は、必要に応じて使用すればよい。用いる場合には、端子としての機能を有するほか、薄型化の観点からは極力薄い方がよいが、積層されてなる電極、電解質層および集電体はいずれも機械的強度が弱いため、これらを両側から挟示し支持するだけの強度を持たせることが望ましい。さらに、端子部での内部抵抗を抑える観点から、正極端子板および負極端子板の厚さは、通常0.1〜2mm程度が望ましいといえる。
【0124】
正極端子板および負極端子板の材質は、通常リチウムイオン電池で用いられる材質を用いることができる。例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金などを利用することができる。耐蝕性、作り易さ、経済性などの観点からは、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0125】
正極端子板と負極端子板との材質は、同一の材質を用いてもよいし、異なる材質のものを用いてもよい。さらに、これら正極および負極端子板は、材質の異なるものを多層に積層したものであってもよい。
【0126】
バイポーラ電池は、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、バイポーラ電池本体である電池積層体全体を電池外装材ないし電池ケースに収容するとよい。軽量化の観点からは、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銅などの金属(合金を含む)をポリプロピレンフィルム等の絶縁体で被覆した高分子−金属複合ラミネートフィルムやアルミラミネートパックなど、従来公知の電池外装材を用いて、その周辺部の一部または全部を熱融着にて接合することにより、電池積層体を収納し密封した構成とするのが好ましい。この場合、上記正極リードおよび負極リードは、上記熱融着部に挟まれて上記電池外装材の外部に露出される構造とすればよい。また、熱伝導性に優れた高分子−金属複合ラミネートフィルムやアルミラミネートパックなどを用いることが、自動車の熱源から効率よく熱を伝え、電池内部を電池動作温度まですばやく加熱することができる点で好ましい。
【0127】
さらに、本発明では、上記のリチウムイオン二次電池を複数個接続して構成した組電池とすることができる。すなわち、本発明のリチウムイオン二次電池を少なくとも2個以上を用いて直列および/または並列に接続して組電池化することにより、高容量、高出力の電池モジュールを形成することが出来る。そのため、使用目的ごとの電池容量や出力に対する要求に、比較的安価に対応することが可能になる。
【0128】
具体的には、例えば、上記のリチウムイオン二次電池をN個並列に接続し、N個並列にしたリチウムイオン二次電池をさらにM個直列にして金属製ないし樹脂製の組電池ケースに収納し、組電池とする。この際、リチウムイオン二次電池の直列/並列接続数は、使用目的に応じて決定する。例えば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)などの大容量電源として、高エネルギー密度、高出力密度が求められる車両の駆動用電源に適用し得るように組み合わせればよい。また、組電池用の正極端子および負極端子と、各リチウムイオン二次電池の電極リードとは、リード線等を用いて電気的に接続すればよい。また、リチウムイオン二次電池同士を直列/並列に接続する際には、スペーサやバスバーのような適当な接続部材を用いて電気的に接続すればよい。ただし、本発明の組電池は、ここで説明したものに制限されるべきものではなく、従来公知のものを適宜採用することができる。また、該組電池には、使用用途に応じて、各種計測機器や制御機器類を設けてもよく、例えば、電池電圧を監視するために電圧計測用コネクタなどを設けておいてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0129】
本発明では、上記のリチウムイオン二次電池および/または組電池を駆動用電源などとして搭載した車両とすることができる。本発明のリチウムイオン二次電池および/または組電池は、上述のように各種特性を有し、特に、出力特性に優れる電池である。このため、エネルギー密度および出力密度に関して、とりわけ厳しい要求がなされる車両、例えば、電気自動車やハイブリッド電気自動車等の駆動用電源として好適であり、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。例えば、電気自動車ないしハイブリッド電気自動車の車体中央部の座席下に組電池を駆動用電源として搭載するのが、車内空間およびトランクルームを広く取れるため便利である。ただし、本発明では、これらに何ら制限されるべきものではなく、電池は、車両の床下、トランクルーム、エンジンルーム、屋根、ボンネットフード内などに設置することができる。なお、本発明では、組電池だけではなく、使用用途によっては、バイポーラ電池を搭載するようにしてもよいし、これら組電池とリチウムイオン二次電池を組み合わせて搭載するようにしてもよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池および/または組電池を駆動用電源として搭載することのできる車両としては、上記の電気自動車やハイブリッド電気自動車が好ましいが、これらに制限されるものではない。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池および/または組電池は駆動用電源の他に、燃料電池自動車やハイブリッド燃料電池自動車の補助電源として用いられてもよい。
【実施例】
【0130】
以下、本発明を実施例を用いて説明する。なお、以下の実施例は本発明の一実施形態を示したに過ぎず、本発明がこれに限定されるものではない。
【0131】
(実施例1)
(1)電解質保持材料の製造
振動ボールミルにより十分粉砕した10gの塩化ナトリウムをホットプレート上の磁性皿に入れて、これに石炭系ピッチ5gを混合および撹拌した。これにより得られた混合物を、空気中、200〜300℃で、8時間、時々スパチュラで攪拌しながら酸化処理を行った。酸化処理した前記混合物をアルミナ製ボートに入れて、窒素雰囲気下、管状電気炉で昇温速度15℃/分にて900℃まで加熱して、この温度で1時間保った後、室温までゆっくり冷却して塩化ナトリウムを含むカーボン材前駆体を得た。前記カーボン材前駆体をメノウ乳鉢でよく粉砕した後、イオン交換水中にいれて5分間、超音波照射し、前記カーボン材前駆体をろ過した。この超音波照射およびろ過する操作を3回繰り返すことにより前記カーボン材前駆体から塩化ナトリウムを十分に除去した後、300℃、8時間、真空乾燥することにより、貫通孔を有するカーボン材を得た。得られた前記カーボン材の走査型電気化学顕微鏡(SEM)による写真を図2に示す。前記写真から、孔径の大きい貫通孔が開いているのがわかる。
【0132】
本実施例では、前記カーボン材をさらに振動ボールミルにて軽く粉砕して、電解質保持材として用いた。
【0133】
(2)負極の作製
上記(1)で作製した電解質保持材料、負極活物質としてハードカーボン、バインダとしてPVDF、および、スラリー粘度調整溶媒としてNMP(適量)をホモジナイザーにより攪拌混合した後、脱泡して負極スラリーを調整した。なお、前記負極スラリーにおいて、電解質保持材料:負極活物質:バインダを質量比で、10:80:10とした。前記負極スラリーを、ステンレス箔集電体(厚さ15μm)にシール部分を残してコーターにより塗布した。次に、塗布した負極スラリーを120℃程度で乾燥させて、負極層(厚さ30μm、大きさ10cm×10cm)を作製した。
【0134】
(3)正極の作製
上記(1)で作製した電解質保持材料、正極活物質としてLiMn、導電助剤としてアセチレンブラック、バインダとしてPVDF、および、スラリー粘度調整溶媒としてNMP(適量)をホモジナイザーにより攪拌混合した後、脱泡して正極スラリーを調整した。なお、前記正極スラリーにおいて、電解質保持材料:正極活物質:導電助剤:バインダを質量比で、7:78:5:10とした。前記スラリーを、上記で用いたステンレス箔集電体の負極が形成された面と反対の面にシール部分を残してコーターにより塗布した。次に、塗布した正極スラリーを120℃程度で乾燥させて、正極層(厚さ35μm、大きさ10cm×10cm)を作製した。
【0135】
(4)ゲル原料溶液の調整
まず、架橋性ゲル電解質マトリックス高分子原料として、文献(J. Electrochem. Soc., 145 (1998) 1521.)の方法に従って合成したポリエーテル形のネットワーク高分子原料を用いた。また、前記電解液としては、プロピレンカーボネートとエチレンカーボネート(体積比1:1)の混合溶媒に1.0MのLiBETIを溶解したものを用いた。
【0136】
前記電解液に前記架橋性ゲル電解質マトリックス高分子原料を質量比で7%加え、さらに熱重合開始剤としてt−ヘキシルパーオキシピバレートを5000ppm添加して、よく撹拌して均一溶液としてゲル原料溶液を調整した。
【0137】
(5)バイポーラ電池の作製
上記の通り、片側に負極および正極がそれぞれ作製されたバイポーラ電極を、厚さ50μmのポリプロピレンの不織布を挟んで、正極層と負極層が向かい合うようにして5セル分積層して、最上層と最下層に配置された集電体の延長部だけが電池外にでるようにしてアルミラミネートパックに収容し、ゲル原料溶液の注入のための部分を残して周辺部をヒートシールしてバイポーラ電池構造体を得た。また、バイポーラ電池構造体内の両端の電極は、それぞれ正極層のみ、負極層のみを形成した。このバイポーラ電池構造体を高真空下90℃で1日乾燥した。上記工程(4)において調整したゲル原料溶液をバイポ−ラー電池構造体の各セルに注入して、減圧下にて各セルの残りのシール部分をシールして、50℃のオーブンにて3時間加熱してゲル原料溶液を架橋することによりゲル電解質バイポーラ電池を製造した。
【0138】
(実施例2)
正極スラリーにおいて固形物の質量比を、電解質保持材料:正極活物質:導電助剤:バインダを10:75:5:10とした以外は、実施例1と同様にしてバイポーラ電池を作製した。
【0139】
(比較例1)
負極スラリーおよび正極スラリーを、電解質保持材料を用いずに調整した以外は、実施例1と同様にしてバイポーラ電池を作製した。
【0140】
(評価)
上記実施例1および2の本発明のバイポーラ電池、および、比較例1の電解質保持材料を持たないバイポーラ電池の評価を以下のように行った。
【0141】
充放電は室温(23℃)で行い、充電は負極基準で1.0Cの定電流−定電圧モードにて21Vまで合計2時間行い、放電レートを20Cとしてカットオフ電圧12.5Vまで定電流放電を行うことにより、放電容量を測定し、放電反応率を求めた。その結果を図7に示す。
【0142】
図7において、20Cでの実施例2の放電率を100%として容量を相対的に示した。20Cという高電流レートの放電時において、比較例1のバイポーラ電池の放電反応率は65%であるのに対し、本発明の実施例1および2のバイポーラ電池は95%および100%と放電反応率が高いことが示される。
【図面の簡単な説明】
【0143】
【図1】本発明の好ましい一実施形態であるリチウムイオン二次電池用電極の模式図である。
【図2】本発明の実施例で作製した電解質保持材料のSEM像を示す。
【図3】本発明のバイポーラ電池を構成するバイポーラ電極の基本構造を模式的に表わした断面概略図である。
【図4】本発明のバイポーラ電池を構成する単電池層(単セル)の基本構造を模式的に表わした断面概略図である。
【図5】本発明のバイポーラ電池の基本構造を模式的に表わした断面概略図である。
【図6】本発明のバイポーラ電池の基本構成を模式的に表わしてなる概略図である。
【図7】本発明のバイポーラ電池の放電性能試験の結果を示す図面である。
【図8】一般的なリチウムイオン二次電池の模式図を示す。
【符号の説明】
【0144】
101…電極活物質、
103…電解質、
104…電解質保持材料、
110…集電体、
120…電極層、
130…電解質層、
150…バイポーラ電極、
150a…集電体の必要な片面のみに正極層を配置した電極、
150c…集電体の必要な片面のみに負極層を配置した電極、
160…単電池層、
170…電極積層体、
180…正極端子板、
190…負極端子板、
200…電池外装材、
210…バイポーラ電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料が電極活物質間の空隙に配置されてなるリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料、電極活物質、を含むスラリーを調整する段階と、前記スラリーを集電体上に塗布する段階と、を含むリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項3】
貫通孔を有するカーボン材からなる電解質保持材料、電極活物質、電解質溶液を含むスラリーを集電体上に塗布する段階と、前記電解質溶液を重合させる段階と、を含むリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【請求項4】
正極と、負極と、電解質層とを有するリチウムイオン二次電池において、
前記正極および前記負極の少なくとも一方に、請求項1記載のリチウムイオン二次電池用電極、または、請求項2もしくは3に記載の方法により製造されるリチウムイオン二次電池用電極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
正極活物質が、リチウム−遷移金属複合酸化物であることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
負極活物質が、カーボンもしくはリチウム−遷移金属複合酸化物であることを特徴とする請求項4または5に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記電解質層が、ゲル電解質であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
バイポーラ電池である、請求項4〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を複数個接続して構成される組電池。
【請求項10】
請求項4〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池、または、請求項9に記載の組電池が搭載されてなる車両。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−147405(P2006−147405A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−337463(P2004−337463)
【出願日】平成16年11月22日(2004.11.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】