説明

リチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスおよびその製造方法

【課題】金属との接着性に優れたリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスを提供する。
【解決手段】ポリアミドイミド樹脂前駆体を有機溶媒に溶解してなるリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスであって、ポリアミドイミド樹脂前駆体が下記一般式(1)および他の構成単位から選ばれる少なくとも1つを主成分とし、一般式(1)で表される構成単位の数が全体の構成単位の55%以下であり、かつ前記ポリアミドイミド樹脂前駆体のイミド化率が0〜70%であるリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニス。


(上記一般式(1)中、R、Rは2価の芳香族基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子技術の進歩による電子機器の小型化・ポータブル化に伴い、電源として高エネルギー密度の電池が望まれている。現在、最も高エネルギー密度であるリチウムイオン二次電池においても、自動車用途やより多機能化した小型電子機器向けに、さらなる高密度化が望まれている。従来のリチウムイオン二次電池は、正極にリチウムコバルト複合酸化物などのリチウム複合金属酸化物を、負極に炭素材を用いていたが、近年、負極にリチウム合金材を用いることでよりエネルギー密度を高めた電池(以下、次世代リチウムイオン二次電池)が開発されている。次世代リチウムイオン二次電池も従来のリチウムイオン二次電池と同様に、活物質と結着剤を溶媒に分散したペースト状の電極材料(二次電池電極結着剤用ワニス)を集電体である金属箔上に塗布し、溶剤を乾燥した後に圧縮して正・負極板を得ている。
【0003】
リチウムイオン二次電池電極において、結着剤の機能は集電体に活物質を密着させ、充放電時に膨張収縮する活物質の脱離を防ぐことである。充電時の活物質は体積膨張するため、活物質と集電体とを結びつける結着剤に引っ張り応力が生じる。このため、結着剤と集電体との密着性が低い場合には集電体から活物質が剥離・脱落する課題がある。
【0004】
これまでに、二次電池電極結着剤用ワニス(以下ワニスとも言う)として、例えば、ポリイミド樹脂前駆体の樹脂溶液(例えば、特許文献1参照)や、ダイマー酸が共重合されて成り、対数粘度が0.1dl/g以上であるポリアミドイミド樹脂の樹脂溶液(例えば、特許文献2参照)、少なくとも1種のブタジエン系ゴムが共重合されて成り、対数粘度が0.1dl/g以上であるポリアミドイミド樹脂の樹脂溶液(例えば、特許文献3参照)、シロキサン変性ポリアミドイミド樹脂(例えば、特許文献4参照)などのポリアミドイミド樹脂の樹脂溶液、アラミド−アミドイミド共重合体の樹脂溶液(例えば、特許文献5参照)などが提案されている。しかしながら、次世代リチウムイオン二次電池に用いられるリチウム合金材は従来の炭素材に比して充放電時の膨張・収縮が著しく大きく、活物質と集電体を結着する部分の結着剤により大きな応力がかかる。これら従来公知のワニスを用いて電極を作成した場合は結着剤と集電体の接着性が不十分であり、充放電を繰り返すことによって活物質が集電体から剥離・脱落する課題があった。
【0005】
これに対し、特定の構造を有し、30℃における対数粘度が0.02〜2.0dl/gであるポリアミドイミド樹脂の樹脂溶液が提案されている(例えば、特許文献6参照)。かかる樹脂溶液を用いて電極作成に使用することにより集電体との接着性が向上し、充放電による体積膨張・収縮の大きい活物質の保持性も向上するものの、さらなる集電体との接着性向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−163031号公報
【特許文献2】特開平11−21454号公報
【特許文献3】特開平11−21455号公報
【特許文献4】特開2001−68115号公報
【特許文献5】特開2007−84808号公報
【特許文献6】WO2008/105036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる従来技術の現状に鑑み、集電体である金属との接着性に優れたリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂前駆体を有機溶媒に溶解してなるリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスであって、前記ポリアミドイミド樹脂前駆体が下記一般式(1)〜(3)で表される構成単位から選ばれる少なくとも1つを主成分とし、一般式(1)で表される構成単位の数をa、一般式(2)で表される構成単位の数をb、一般式(3)で表される構成単位の数をcとした場合にa/(a+b+c)≦0.55の関係を有し、かつ前記ポリアミドイミド樹脂前駆体のイミド化率が0〜70%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスである。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
(上記一般式(1)〜(3)中、Rは下記一般式(4)で表される2価の芳香族基、Rは下記一般式(5)で表される2価の芳香族基、Rは下記一般式(6)で表される3価の芳香族基を示し、R〜Rはそれぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良い。)
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
(上記一般式(4)中、Xは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。pは0〜3の整数を示す。上記一般式(5)中、Yは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。qは0または1を示す。上記一般式(6)中、Zは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。rは0または1を示す。上記一般式(4)〜(6)において、各ベンゼン環は、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、塩素原子、臭素原子、ニトロ基およびシアノ基から成る群より選ばれる少なくとも1つの置換基を任意に有していてもよい。)
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスは、金属との接着性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】イミド基に起因するピークについての吸光度の測定方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスは、前記一般式(1)〜(3)で表される構成単位から選ばれる少なくとも1つを主成分とし、一般式(1)で表される構成単位の数をa、一般式(2)で表される構成単位の数をb、一般式(3)で表される構成単位の数をcとした場合にa/(a+b+c)≦0.55の関係を有し、かつ前記ポリアミドイミド樹脂前駆体のイミド化率が0〜70%であるポリアミドイミド樹脂前駆体を有機溶媒に溶解させることで得られる。本発明のポリアミドイミド樹脂前駆体は剛性を付与する観点から一般式(1)で表される構造を有することが好ましく、剛性と有機溶媒への混合性を付与する観点から一般式(2)で表される構成単位を有し、高い屈曲性により集電体表面への浸透を高め、加熱後に高い接着性と剛性を得る観点から一般式(3)で表される構造を有することを特徴とする。イミド化率が低いポリアミドイミド樹脂前駆体は樹脂の屈曲性が高いため金属表面への浸透性を高め、加熱により溶媒除去と金属との接着性を飛躍的に向上させることができると考えられる。
【0020】
<ポリアミドイミド樹脂前駆体>
本発明のワニスに用いられるポリアミドイミド樹脂前駆体は、前記一般式(1)〜(3)で表される構成単位から選ばれる少なくとも1つを主成分とする。前記一般式(1)で表される構成単位の数をa、前記一般式(2)で表される構成単位の数をb、前記一般式(3)で表される構成単位の数をcとした場合にa/(a+b+c)≦0.55の関係を有することが必要であり、a/(a+b+c)≦0.5であることが好ましく、a/(a+b+c)≦0.4であることがより好ましい。一方、0.2≦a/(a+b+c)であることが好ましく、0.3≦a/(a+b+c)であることがより好ましい。a/(a+b+c)が0.55を超える場合はポリアミドイミド樹脂前駆体の有機溶媒に対する混合性が不安定となり、集電体への塗工時に樹脂の析出、有機溶媒の染み出しの原因となる可能性があり、十分な接着性を得ることが難しい。またイミド化率は0〜70%であり、30〜50%であることが好ましい。イミド化率が70%を超えるとポリアミドイミド樹脂前駆体の屈曲性が低下し、集電体との接着性が不十分となってしまう。
【0021】
また本発明のワニスに用いられるポリアミドイミド樹脂前駆体は、前記一般式(1)〜(3)で表される構成単位以外の構成単位を、集電体との接着性および有機溶媒との混合性を悪化させない程度であれば10%以下の範囲で含んでいてもよい。
【0022】
また前記一般式(1)で表される構成単位を構成する酸成分モノマーとしては、o−フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられ、なかでもイソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。
【0023】
また前記一般式(2)、(3)で表される構成単位を構成する酸成分モノマーとしては、トリメリット酸無水物、3’,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物、3’,4,4’−ジフェニルメタントリカルボン酸無水物、3’,4,4’−ジフェニルイソプロパントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物などが挙げられ、なかでもトリメリット酸無水物が好ましい。
【0024】
一方、前記一般式(1)〜(3)で表される構成単位を構成するジアミン成分モノマーとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、オキシジアニリン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィドなどが挙げられ、なかでもビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミンが好ましく、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、DDE)、m−フェニレンジアミン(以下、MPDA)がより好ましい。
【0025】
さらにDDEとMPDAを、DDE:MPDA=6:4〜8:2(モル比)で用いることが特に好ましい。これにより本発明のポリアミドイミド樹脂前駆体は、DDE残基である構成単位の数xとMPDA残基である構成単位の数yが1.5≦x/y≦4の関係を有することとなり、金属との接着性がより高いワニスを得ることができる。
【0026】
<イミド化率>
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂前駆体のイミド化率は0〜70%である。イミド化率とは、ポリイミドの前駆体としてポリアミド酸が、ポリイミドに閉環された割合のことである。イミド化率は種々の手法により定量化することができるが、赤外吸収スペクトルを用いる方法が最も簡便である。本発明におけるイミド化率は赤外吸収スペクトルから算出したものをいう。
【0027】
イミド化率(Ia)の値は、透過赤外吸収スペクトル(IR)測定によって、試料となるポリイミド酸のN−メチルピロリドン(NMP)溶液(以下試料ワニスと称する)のイミド基に起因する波数における吸光度より算出する。吸光度測定に用いるイミド基に起因する振動波数としては、通常、1750〜1800cm−1または1350〜1400cm−1の振動波数を用いる。以下、算出法の詳細について述べる。
【0028】
まず、試料ワニスをスピンコート法によりシリコンウェハー上に塗布する。ついで、50℃で30分間、通風オーブン内で熱処理して厚さ10±2μmのプリベーク膜とし、IR測定により、イミド基の吸光度Iを求める。次に、この膜をオーブンにて窒素気流下350℃で30分間熱処理(キュア)してイミド化を100%進行させる。この、100%イミド化させた試料についてIR測定を行い、イミド基に起因する波数の吸光度I1を求める。このときの、イミド基の吸光度Iとイミド化率Iaの関係を示す式は、イミド化率Ia(%)=I/I1×100となる。
【0029】
イミド基に起因するピークについての吸光度の測定は、図1のように、求めるピークの両端を結んで補助線を引き、ピークの頂点からIRスペクトルの横軸に垂直に降ろした線との交点を求め、その交点とピークの頂点との長さLを吸光度とする。
【0030】
<残存カルボキシル基量>
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂前駆体は、残存カルボキシル基量が0.40mmol/gより大きいことが好ましい。残存カルボキシル基量の増加により、金属箔および電極活物質粒子との接着性がより向上する。これは、残存カルボキシル基により、樹脂主鎖の屈曲性が向上することによると考えられる。本発明におけるポリアミドイミド樹脂前駆体の残存カルボキシル基量の測定は、以下の方法で行う。
(1)試薬
A.DMF(ジメチルホルムアミド):溶媒特級試薬
B.ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%):ブロムチモールブルー0.15gを50mlのメタノールに溶解する。
C.N/50ナトリウムメチラート溶液:金属ナトリウム0.5gを1リットルのメタノールに溶解する。
N/50ナトリウムメチラート溶液の力価は、以下の方法により求められる。
蒸留水50mlを入れた200ml三角フラスコにN/50ナトリウムメチラート溶液20mlをホールピペットで採取し、フェノールフタレインを指示薬として0.1NHCl標準液(市販品)で滴定する。
力価(F)=0.25×f×S
f:0.1N HCl標準液の力価、
S:0.1N HCl標準液の滴定値(ml)
(2)測定
ポリアミドイミド樹脂前駆体約0.2gを精秤し(この値をwgとする)、特級DMF(N,N―ジメチルホルムアミド)20mlで50ml三角フラスコ中に溶解する。次に、ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%)を4滴滴下し、ミクロビューレットよりN/50ナトリウムメチラート溶液で滴定する。指示薬の変色が(黄)→(黄緑)→(エメラルドグリーン)と黄色を全く無くするまで滴定した(この値をSmlとする。)。
【0031】
別途、ポリアミドイミド樹脂前駆体を全く含まない純溶媒についてのブランク滴定値を求める(この値をBmlとする。)。次の式により残存カルボキシル基量を求める。
残存カルボキシル基量(mmol/g)=(F×(1/50)×(S−B))/ポリアミドイミド樹脂前駆体採取重量(wg)
F:N/50ナトリウムメチラート溶液の力価
S:サンプルの滴定量(ml)
B:ブランク滴定量(ml)(ポリアミドイミド樹脂前駆体を溶解させない純溶媒での滴定量)
<ポリアミドイミド樹脂前駆体の製造方法>
本発明のポリアミドイミド樹脂前駆体は、下記一般式(8)および(9)で表される酸成分モノマーの酸クロライドまたは下記一般式(9)で表される酸成分モノマーの酸クロライドならびに下記一般式(7)で表されるジアミン成分モノマーを0〜60℃で、好ましくは0〜30℃で混合することにより得ることができる。これにより直線性に優れるポリアミドイミド樹脂前駆体を得ることができる。
【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
(上記一般式(7)〜(9)中、Rは前記一般式(4)で表される2価の芳香族基、Rは前記一般式(5)で表される2価の芳香族基、Rは前記一般式(6)で表される3価の芳香族基を示し、R〜Rはそれぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良い。)
なかでも酸クロリド方法(特公昭42−15637号公報)により得ることが好ましく、これによりワニスとする際に溶媒への溶解性をより安定させることができ、より直線性に優れたポリアミドイミド樹脂前駆体を得ることができる。
【0036】
本発明のポリアミドイミド樹脂前駆体を重合する際に使用する有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキサイド、クレゾール等の極性溶媒が挙げられるが、N,N−ジメチルアセトアミドやN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0037】
また重合は、モノマー濃度5〜40重量%で行うのが好ましく、直線性に優れたポリアミドイミド樹脂前駆体を得るためには10〜30重量%で行うのが更に好ましい。
【0038】
得られたポリアミック酸重合溶液は、高速攪拌中の水やアセトンなどの溶媒中に注ぐことで、ポリアミドイミド樹脂前駆体を単離することができる。
【0039】
得られたポリマーである単離後のポリアミドイミド樹脂前駆体を、大気雰囲気下もしくは不活性ガス下で60〜150℃で加熱することによって、イミド化率を調整することができる。不活性ガスとしては窒素が好ましい。特に4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよびm−フェニレンジアミンを含む原料を酸クロリド法により反応させ、大気雰囲気下もしくは窒素雰囲気化で120℃以上140℃以下の温度で閉環イミド化することがより好ましい。
【0040】
<リチウムイオン電池二次電池電極結着剤用ワニス>
本発明のリチウムイオン電池二次電池電極結着剤用ワニス(以下ワニスとも言う)は前記ポリアミドイミド樹脂前駆体を有機溶媒に溶解させることにより得られる。
【0041】
溶媒としては、ポリアミドイミド樹脂前駆体を均一に混合できれば特に制限されないが、非プロトン性溶媒が好ましく、NMPやジメチルアセトアミド(DMAC)などが好ましく用いられる。
【0042】
ワニスにおける溶媒含有量はポリアミドイミド樹脂前駆体を均一に混合できれば特に限定されないが、70〜95重量%が好ましい。
【0043】
ポリアミドイミド樹脂前駆体を溶媒に溶解する方法は特に限定されず、例えば、公知の撹拌方法を挙げることができる。溶媒や溶液の粘度や固形分濃度に合わせて、デイゾルバーなどのエンペラー型分散機や3本ロール、サンドミル、ボールミルなどを適宜組み合わることができる。また、撹拌しながら加熱してもよい。
【0044】
本発明のワニスは、金属への塗工を容易に行うことができる。塗工後、加熱を行い溶媒とイミド化反応を進めることにより、金属との強い接着性を発現する。溶媒を除去およびイミド化する手段としては、オーブン、ホットプレート、赤外線などを挙げることができる。溶媒を乾燥でき、かつポリアミドイミド樹脂前駆体のイミド化を進めることできれば特に温度範囲は限定されないが、240〜350℃の範囲が好ましい。乾燥時間は塗工厚みにより異なるが、数時間〜数十時間が好ましい。
【0045】
本発明のワニスは正・負極の活物質と混合し集電体である金属に容易に溶工を行うことができる。溶工後に加熱を行い溶媒乾燥とイミド化反応を進めることで金属との強い接着性を発現し、活物質と集電体を結着させる結着剤として機能する。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各実施例・比較例における評価は以下の方法で行った。また各実施例、比較例の酸成分、ジアミン成分等について表1に示した。
【0047】
1.残存カルボキシル基量
本発明におけるポリアミドイミド樹脂前駆体の残存カルボキシル基量の測定は、以下の方法で行った。
【0048】
(1)試薬
A.DMF(ジメチルホルムアミド):溶媒特級試薬
B.ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%):ブロムチモールブルー0.15gを50mlのメタノールに溶解した。
C.N/50ナトリウムメチラート溶液:金属ナトリウム0.5gを1リットルのメタノールに溶解した。
N/50ナトリウムメチラート溶液の力価は、以下の方法により求めた。
蒸留水50mlを入れた200ml三角フラスコにN/50ナトリウムメチラート溶液20mlをホールピペットで採取し、フェノールフタレインを指示薬として0.1NHCl標準液(市販品)で滴定した。
力価(F)=0.25×f×S
f:0.1N HCl標準液の力価、
S:0.1N HCl標準液の滴定値(ml)
(2)測定
各実施例・比較例により得られたポリアミドイミド樹脂前駆体の粉末約0.2gを精秤し(この値をwgとする)、特級DMF(N,N―ジメチルホルムアミド)20mlで50ml三角フラスコ中に溶解した。次に、ブロムチモールブルー指示薬(0.3重量%)を4滴滴下し、ミクロビューレットよりN/50ナトリウムメチラート溶液で滴定した。指示薬の変色が(黄)→(黄緑)→(エメラルドグリーン)と黄色を全く無くするまで滴定した(この値をSmlとする。)。
別途、ポリアミドイミド樹脂前駆体を全く含まない純溶媒についてのブランク滴定値を求めた(この値をBmlとする。)。次の式により残存カルボキシル基量を求めた。
残存カルボキシル基量(mmol/g)=(F×(1/50)×(S−B))/ポリアミドイミド樹脂前駆体採取重量(wg)
F:N/50ナトリウムメチラート溶液の力価
S:サンプルの滴定量(ml)
B:ブランク滴定量(ml)(ポリアミドイミド樹脂前駆体を溶解させない純溶媒での滴定量)
2.イミド化率
本発明におけるポリアミドイミド樹脂前駆体のイミド化率の測定は、以下の方法で行った。
【0049】
まず、各実施例・比較例により得られたワニスをスピンコート法によりシリコンウェハー上に塗布した。ついで、50℃で30分間、通風オーブン内で熱処理して厚さ10±2μmのプリベーク膜とし、Perkin Elmer社製Spectrum Oneを用いて透過赤外吸収スペクトル(IR)測定を行い、イミド基の吸光度Iを求めた。この際、吸光度測定に用いるイミド基に起因する振動波数として、1245cm−1の波数を用いた。次に、この膜をオーブンにて窒素気流下350℃で30分間熱処理(キュア)してイミド化を100%進行させた。この100%イミド化させた試料についてIR測定を行い、イミド基に起因する波数の吸光度Iを求めた。このときのイミド基の吸光度Iとイミド化率Iaの関係式として、イミド化率Ia(%)=I/I×100とした。
【0050】
イミド基に起因するピークについての吸光度の測定は、図1のように、求めるピークの両端を結んで補助線を引き、ピークの頂点からIRスペクトルの横軸に垂直に降ろした線との交点を求め、その交点とピークの頂点との長さXを吸光度とした。
【0051】
3.試験片の作製
各実施例・比較例により得られたワニスを厚さ16μm、幅30mm、長さ160mmの銅箔(日本電解(株)社製)に膜厚が約4μmになるようにバーコーターを用いて塗工した。これを熱風乾燥機中160℃で16時間熱処理して溶媒を乾燥させた。乾燥後、ワニスが塗工された銅箔を3mm×3mmに切り出し試験片とした。試験片の厚みをマイクロメーターで5回測定し、その平均値を求めた。
【0052】
4.接着性
上記1.に記載の方法で作製した試験片を15mm径の孔の開いた治具に挟み込み、万能試験機のロードセルに設置した。15mm径の丸棒を取り付けた可動部をロードセル側に移動させながら、試験片に荷重を加えた。ワニスが銅箔から剥離し試験片が破断するまで可動部の移動を行い、この間にロードセルにかかった荷重を測定した。ロードセルにかかった最大荷重を試験片の膜厚の平均値で割り接着性を求めた。
【0053】
5.混合性
上記1.に記載の方法で得られた試験片面の塗工状態を目視で観察し、以下の基準により評価した。
○:良好に混合
×:著しい凝集または塗り斑あり
実施例1
<ポリアミドイミド樹脂前駆体の合成>
2000mlのガラス4つ口フラスコに重合溶媒DMACを0.61リットル、m−フェニレンジアミン(MPDA)を0.21モル、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)を0.49モル仕込み、撹拌してこれらのジアミンを完全に溶解させた。次いで、テレフタル酸ジクロリド(TPC)0.28モルとトリメリット酸無水物モノクロリド(TMAC)0.42モルとを、液温が30℃を超えないように徐々に添加した。添加終了後、溶液を30℃に温調し1.0時間撹拌して反応させた。得られた重合溶液をイオン交換水(以下IW)1.7リットル中に再沈殿して濾過分別し、得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を、熱風乾燥機中、60℃で16時間乾燥し、ポリアミドイミド樹脂前駆体の粉末を得た。
【0054】
<ワニスの作製>
得られたポリアミドイミド樹脂前駆体の粉末をNMPに室温中で完全に均一になるまで溶解させ、10重量%濃度のリチウムイオン二次電池結着剤用ワニスとした。得られたワニスを用い、前記方法で接着性と混合性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0055】
実施例2
得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに130℃で3時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0056】
実施例3
得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに130℃で10時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0057】
実施例4
得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに130℃で16時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0058】
実施例5〜6
酸成分を表1のとおりに変更し、また得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに、130℃で10時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0059】
実施例7〜8
ジアミン成分を表1のとおりに変更し、また得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに、130℃で10時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0060】
比較例1
得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに、130℃で16時間乾燥し、次に200℃で2時間乾燥、さらに220℃で1時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0061】
比較例2
得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに、130℃で16時間乾燥し、次に200℃で2時間乾燥、さらに220℃で8時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0062】
比較例3
酸成分を表1のとおりに変更し、ジアミン成分としてm−フェニレンジアミン(MPDA)を0.21モル、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)を0.49モル用いる代わりに、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(SODA)を0.21モル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(PODA)を0.49モル用い、また得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに、130℃で16時間乾燥し、次に200℃で2時間乾燥し、さらに220℃で1時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0063】
比較例4
酸成分を表1のとおりに変更し、また得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに、130℃で16時間乾燥し、次に200℃で2時間乾燥し、さらに220℃で1時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0064】
比較例5
酸成分を表1のとおりに変更しまた得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を60℃で16時間乾燥する代わりに、130℃で10時間乾燥した以外は実施例1と同様にしてワニスを得た。評価結果を表2に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【符号の説明】
【0067】
1 イミド基に起因するピーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミド樹脂前駆体を有機溶媒に溶解してなるリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスであって、前記ポリアミドイミド樹脂前駆体が下記一般式(1)〜(3)で表される構成単位から選ばれる少なくとも1つを主成分とし、一般式(1)で表される構成単位の数をa、一般式(2)で表される構成単位の数をb、一般式(3)で表される構成単位の数をcとした場合にa/(a+b+c)≦0.55の関係を有し、かつ前記ポリアミドイミド樹脂前駆体のイミド化率が0〜70%であることを特徴とするリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニス。
【化1】

【化2】

【化3】

(上記一般式(1)〜(3)中、Rは下記一般式(4)で表される2価の芳香族基、Rは下記一般式(5)で表される2価の芳香族基、Rは下記一般式(6)で表される3価の芳香族基を示し、R〜Rはそれぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良い。)
【化4】

【化5】

【化6】

(上記一般式(4)中、Xは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。pは0〜3の整数を示す。上記一般式(5)中、Yは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。qは0または1を示す。上記一般式(6)中、Zは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。rは0または1を示す。上記一般式(4)〜(6)において、各ベンゼン環は、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、塩素原子、臭素原子、ニトロ基およびシアノ基から成る群より選ばれる少なくとも1つの置換基を任意に有していてもよい。)
【請求項2】
前記ポリアミドイミド樹脂前駆体の残存カルボキシル基量が0.40mmol/gより大きいことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニス。
【請求項3】
前記一般式(1)〜(3)におけるRが4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基である構成単位およびm−フェニレンジアミン残基である構成単位を含み、かつ4,4’−ジアミノジフェニルエーテル残基である構成単位の数xとm−フェニレンジアミン残基である構成単位の数yが1.5≦x/y≦4の関係を有することを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニス。
【請求項4】
下記一般式(8)および(9)で表される酸成分モノマーの酸クロライドまたは下記一般式(9)で表される酸成分モノマーの酸クロライドならびに下記一般式(7)で表されるジアミン成分モノマーを0〜60℃で混合し、得られたポリアミドイミド樹脂前駆体を有機溶媒に溶解させることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のリチウムイオン二次電池電極結着剤用ワニスの製造方法。
【化7】

【化8】

【化9】

(上記一般式(7)〜(9)中、Rは下記一般式(4)で表される2価の芳香族基、Rは下記一般式(5)で表される2価の芳香族基、Rは下記一般式(6)で表される3価の芳香族基を示し、R〜Rはそれぞれ単一のものであっても異なるものが混在していても良い。)
【化10】

【化11】

【化12】

(上記一般式(4)中、Xは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。pは0〜3の整数を示す。上記一般式(5)中、Yは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。qは0または1を示す。上記一般式(6)中、Zは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO−、−CH−、−C(CH−または−C(CF−を示す。rは0または1を示す。上記一般式(4)〜(6)において、各ベンゼン環は、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、塩素原子、臭素原子、ニトロ基およびシアノ基から成る群より選ばれる少なくとも1つの置換基を任意に有していてもよい。)

【図1】
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【公開番号】特開2012−155934(P2012−155934A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12688(P2011−12688)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】