説明

リチウムイオン二次電池

【課題】参照極と電解液との反応を抑制して電池の劣化を防止し、サイクル特性の一層向上した電池を提供することを目的とする。
【解決手段】正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素とリチウムがドープされたフッ化黒鉛を含む参照極活物質層が集電体上に形成された参照極とを備えたリチウムイオン二次電池に関する。そして、該参照極活物質層が電解質を介して前記正極および前記負極と電気的に絶縁されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池およびその製造方法に関する。より詳細には、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させるための改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車やハイブリッド電気自動車の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、比較的高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダーを用いて正極活物質等を正極集電体に塗布した正極およびバインダーを用いて負極活物質等を負極集電体に塗布した負極が、液体または固体状電解質層を介して接続され、電池ケースに収納される構成を有している。そして、リチウムイオンが電極活物質中に吸蔵・放出することにより電池の充放電反応が起こる。
【0004】
リチウムイオン二次電池において、充電を過度に行うと、正極活物質層内のリチウムが過剰に放出され、正極活物質層の結晶構造が不安定となって電池のサイクル特性が低下する場合がある。また、負極では、過充電により、リチウム金属が析出する場合がある(いわゆる「デンドライト析出」)。かようなリチウム金属のデンドライト析出は、負極活物質の対リチウムイオン電位が0V以下となった場合に発生しうる。
【0005】
かような負極活物質の対リチウムイオン電位の低下によるデンドライト析出や正極の過充電を防止するために、特許文献1では、通常の正極および負極に加えて、リチウムまたはリチウム合金からなる参照極をさらに設置する技術が提案されている。この開示によれば、正極または負極と参照極との電位差の変化を監視することにより、活物質の正確な充電状態を把握でき、正極の過充電およびリチウム金属のデンドライト析出が抑制されたサイクル特性に優れた二次電池が得られる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−50407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載される電池では、参照極としてリチウムが使用される。このリチウムは、電位的に安定でかつ高容量な材料であるが、電解液中の添加剤(ビニレンカーボネートなど)と反応するため、電池の劣化が速いという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、参照極と電解液との反応を抑制して電池の劣化を防止し、サイクル特性の一層向上した電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった。その結果、参照極を構成する材料としてリチウムがドープされたフッ化黒鉛を使用することにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素とリチウムがドープされたフッ化黒鉛を含む参照極活物質層が集電体上に形成された参照極とを備えたリチウムイオン二次電池に関する。そして、該参照極活物質層が電解質を介して前記正極および前記負極と電気的に絶縁されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明において参照極を構成する材料として使用される、リチウムがドープされたフッ化黒鉛は、プラトー電位を有し、かつ、電解質に対する安定性が高い。このため、本発明によれば、電池の劣化が抑制され、電池のサイクル特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の代表的な一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池の基本構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の製造方法に使用される参照極前駆体を示す模式断面図であって、図2A〜図2Cは参照極前駆体の様々な実施形態を示す模式断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の充電制御方法における動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態である積層型電池の外観を模式的に表した斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る組電池の外観図であって、図5Aは組電池の平面図であり、図5Bは組電池の正面図であり、図5Cは組電池の側面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る組電池を搭載した車両の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の代表的な一実施形態は、正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素と、リチウムがドープされたフッ化黒鉛を含む参照極活物質層が集電体上に形成された参照極と、を有する。そして、前記参照極活物質層が電解質を介して前記正極および前記負極と電気的に絶縁されている。
【0014】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
[電池の全体構造]
本発明において、リチウムイオン二次電池の構造および形態は、積層型(扁平型)、巻回型(円筒型)電池など特に制限されず、従来公知の多様な構造に適用されうる。好ましくは積層型(扁平型)の電池である。以下の説明では、代表的な実施形態として本発明の電池が積層型(扁平型)のリチウムイオン二次電池である場合を例に挙げて説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態である、扁平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の基本構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態の積層型電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、外装体であるラミネートシート29の内部に封止された構造を有する。
【0017】
発電要素21は、少なくとも1つの単電池(=電池単位、単セル)17を有する。単電池17は、正極集電体12の両面に正極活物質層15が配置された正極、電解質層16、および負極集電体11の両面に負極活物質層13が配置された負極から構成される。具体的には、1つの負極活物質層13とこれに隣接する正極活物質層15とが、電解質層16を介して対向するようにして、負極、電解質層および正極がこの順に積層されている。図1において、この単電池17は複数積層され、負極が最外層に位置するように単電池17が配置されて発電要素21を構成する。したがって、本実施形態の積層型電池10は、単電池17が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。ただし、積層型電池10はかような複数の単電池17を有する形態に限定されるわけではなく、単電池17を1つのみ有する形態であってもよい。
【0018】
参照極は参照極集電体19の表面に参照極活物質層20が形成された構造を有し、該参照極活物質層が電解質を介して単電池内の正極および負極と電気的に絶縁されて配置される。図1において、参照極は、発電要素21の最外層に位置する負極(負極活物質層13)の、正極と対向する面とは反対の面に電解質層16を介して配置され、参照極活物質層20が電解質層16を介して正極および負極と電気的に絶縁されている。ただし、参照極は参照極活物質層20が発電要素21(単電池17)内の正極および負極と電気的に絶縁されていればよく、図1に示す形態に限定されるわけではない。例えば、発電要素21内の最外層以外の負極を一回り大きく作製し、当該負極の一部と参照極活物質層20とが電解質層を介して対向するように配置させた形態としてもよい。また、ラミネートシート29の内部に発電要素21とは離隔して参照極を配置し、ラミネートシート29内部に存在する電解質を介して参照極活物質層2と発電要素21(単電池17)内の正極および負極とが電気的に絶縁された形態としてもよい。
【0019】
図1において、集電体(負極集電体11、正極集電体12、参照極集電板19)にはいずれも貫通孔28が設けられている。ただし、集電体(11、12、19)は貫通孔28が設けられていない集電体を使用してもよいし、集電体(11、12、19)の一部のみに貫通孔28が設けられた集電体を使用してもよい。
【0020】
なお、図1において、参照極集電体19および発電要素21の最外層に位置する最外層負極集電体11aには、いずれも片面のみに活物質層(参照極活物質層20および負極活物質層13)が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。ただし、発電要素21の最外層に位置する最外層負極集電体11aの両面に活物質層13が設けられる場合、ラミネートシート29側に位置する活物質層13が充放電反応に関与すると、最外層の電極の電極容量が他の電極の電極容量に比べて増大し、好ましくない。このため、かかる場合には、最外層負極集電体11aに貫通孔が設けられていない集電体を使用して、ラミネートシート29側に配置される負極活物質層13が充放電反応に関与しない構成とする必要がある。また、図1に示す積層型電池10では、参照極が配置される側とは反対の最外層に負極が配置されているが、正極を配置してももちろんよい。
【0021】
負極集電体11、正極集電体12、および参照極集電板19は、各電極(負極、正極および参照極)と導通される負極集電板25、正極集電板26、参照極集電板27がそれぞれ取り付けられる。これらは、ラミネートシート29の端部に挟まれるようにしてラミネートシート29の外部に導出される構造を有している。負極集電板25、正極集電板26、参照極集電板27はそれぞれ、必要に応じて負極リード、正極リード、参照極リード(図示せず)を介して、各電極の負極集電体11、正極集電体12、参照極集電板19に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられてもよい。
【0022】
なお、図1に示す積層型電池10においては、負極活物質層13が正極活物質層15よりも一回り大きいが、かような形態のみには制限されない。また、図1において参照極活物質層20は正極活物質層15と同じ大きさであるが、本発明はかような形態のみには制限されない。
【0023】
以下、本実施形態の電池を構成する部材について詳細に説明するが、下記の形態のみに制限されることはなく、従来公知の形態が同様に採用されうる。
【0024】
(集電体)
負極集電体11、正極集電体12としては、いずれも電池用の集電体材料として従来用いられている部材が適宜採用されうる。一例を挙げると、正極集電体および負極集電体としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼(SUS)、チタンまたは銅が挙げられる。中でも、電子伝導性、電池作動電位という観点からは、正極集電体としてはアルミニウムが好ましく、負極集電体としては銅が好ましい。
【0025】
参照極集電体19は導電性材料から構成される。集電体を構成する材料は、導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、金属や導電性高分子が採用されうる。具体的には、鉄、クロム、ニッケル、マンガン、チタン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、アルミニウム、銅、銀、金、白金およびカーボンからなる群より選択されてなる少なくとも1種の集電体材料が好ましく用いられうる。なお、積層型電池10に使用される負極集電体11、正極集電体12、参照極集電体19は同一の材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。
【0026】
集電体(11、12、19)の厚さは特に限定されないが、一般的な厚さは10〜20μmである。ただし、この範囲を外れる厚さの集電体を用いてもよい。また、集電板についても、集電体と同様の材料で形成することができる。
【0027】
正極および負極の少なくとも一方は貫通孔が設けられた集電体を有することが好ましい。かような形態によれば、電極間をリチウムが拡散により移動できるようになるので、発電要素内のリチウム濃度のばらつきを軽減することができる。これにより、発電要素21内の一部の正極または負極が過充電状態となり、正極の電極構造の崩壊やリチウム金属の析出を防止することができる。なお、図1において、集電体(負極集電体11、正極集電体12)にはいずれも貫通孔28が設けられている。ただし、正極および/または負極を構成する全ての集電体に貫通孔が設けられた集電体を使用してもよいし、正極および/または負極を構成する集電体の一部に貫通孔が設けられた集電体を使用してもよい。
【0028】
また、参照極に使用される集電体(参照極集電体19)も、貫通孔が設けられることが好ましい。かような場合には、集電体内の貫通孔を通じてリチウムの移動が可能となるため、参照極内のリチウム濃度が均一となるとともに後述するフッ化黒鉛へのリチウムのドープを簡便な方法で行うことができる。
【0029】
集電体における貫通孔の形態としては、電解液が移動できる形状であれば特に制限されず、任意の形状をとることができる。貫通孔の断面形状は、特に制限されず、円形状、楕円形状、三角形状、四角形状、星型形状、十文字型形状、その他多角形状などの特定の形状のほか、不定形状であってもよい。また、これらの形状を単独で用いてもよいし、複数の形状を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
貫通孔の平均孔径は、電解液の円滑な移動および集電体の機械的強度の確保の観点から、0.1mm〜5mmであることが好ましく、0.5mm〜3mmであることがより好ましい。なお、本発明において「貫通孔の平均孔径」とは、集電体に存在する貫通孔の直径の平均値をいい、本発明では、貫通孔の孔径の絶対最大長を貫通孔の直径として用いる。貫通孔の平均孔径の測定方法は特に制限されないが、例えばSEMにより観察される集電体における貫通孔の孔径を測定し、これらを算術平均する方法を用いることができる。
【0031】
均一かつ迅速な電解液の移動という観点から、集電体は複数の貫通孔を有しているのが好ましい。ただし、集電体における貫通孔の占有体積が大きい場合には、集電体の機械的強度を確保できなくなるおそれがある。したがって、集電体における貫通孔の占有体積(集電体の空孔率)は、好ましくは10%〜40%であり、より好ましくは10〜20%である。ここで、集電体の空孔率とは、集電体の体積に対する、集電体内部に存在する空孔(細孔)の総体積の割合を意味する。空孔率の測定方法は特に制限されないが、例えば最終製品の集電体の嵩密度ρと集電体を構成する原材料の真密度ρから下記式を用いて算出することができる。ここで「嵩密度」とは集電体の空孔を考慮した密度をいい、「真密度」とは集電体を構成する原材料の空孔を考慮しない理論密度をいう。
【0032】
【数1】

【0033】
また、複数の貫通孔の配列形態は特に制限されず、規則的な配列形態であっても不規則な配列形態であってもよい。また、集電体内で異なる貫通孔が結合していてもよい。ただし、発電要素内のリチウム濃度の均一化を図る観点から、集電体内に均質に貫通孔が配置されていることが好ましい。
【0034】
かような貫通孔の形成方法は特に制限されず、従来公知の方法を使用することができる。例えば、設ける貫通孔の形態に応じてパンチングプレス加工等の機械的処理、エッチングなどの化学的処理、レーザー処理等を適宜行えばよい。
【0035】
(活物質層)
活物質層(負極活物質層13、正極活物質層15、参照極活物質層20)は活物質(負極活物質、正極活物質、参照極活物質)を含んで構成される。さらに、これらの活物質層は、必要に応じて結着剤、電気伝導性を高めるための導電助剤、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)などを含む。
【0036】
各活物質層(13、15、20)に含まれるそれぞれの活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点から、通常は0.1〜100μm程度であり、好ましくは1〜20μmである。
【0037】
各活物質層(13、15、20)中に含まれる成分の配合比は特に限定されず、リチウムイオン二次電池またはリチウムイオン電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。また、活物質層の厚さについても特に制限はなく、リチウムイオン二次電池またはリチウムイオン電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、活物質層の厚さは、2〜100μm程度である
(a)活物質
(i)負極活物質
負極活物質はリチウムを可逆的に吸蔵および放出できるものであれば特に制限されず、従来公知の負極活物質をいずれも使用できるが、炭素材料またはリチウムと合金化する材料を使用することが好ましい。
【0038】
かようなリチウムと合金化する材料としては、リチウムと合金化する元素の単体、これらの元素を含む酸化物および炭化物等が挙げられる。リチウムと合金化する材料を用いることにより、炭素系材料に比して高いエネルギー密度を有する高容量の電池を得ることが可能となる。上記のリチウムと合金化する元素としては、以下に制限されることはないが、具体的には、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn、H、Ca、Sr、Ba、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag、Au、Cd、Hg、Ga、Tl、C、N、Sb、Bi、O、S、Se、Te、Cl等が挙げられる。これらの中でも、容量およびエネルギー密度に優れた電池を構成できる観点から、負極活物質は、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましく、SiまたはSnの元素を含むことがより好ましく、Siを含むことが特に好ましい。酸化物としては、一酸化ケイ素(SiO)、SiO(0<x<2)、二酸化スズ(SnO)、SnO(0<x<2)、SnSiOなどを用いることができる。また、炭化物としては、炭化ケイ素(SiC)などを用いることができる。
【0039】
炭素材料としては、高結晶性カーボンであるグラファイト(天然グラファイト、人造グラファイト等)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリルなどが挙げられる。
【0040】
この他、リチウム金属等の金属材料、リチウム−チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:LiTi12)等のリチウム−遷移金属複合酸化物、およびその他の従来公知の負極活物質が使用可能である。上記負極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0041】
負極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、負極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。
【0042】
(ii)正極活物質
正極活物質は特にリチウムの吸蔵放出が可能な材料であれば限定されず、リチウムイオン二次電池に通常用いられる正極活物質を利用することができる。具体的には、リチウム−マンガン複合酸化物(LiMnなど)、リチウム−ニッケル複合酸化物(LiNiOなど)、リチウム−コバルト複合酸化物(LiCoOなど)、リチウム−鉄複合酸化物(LiFeOなど)、リチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5など)、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2など)、リチウム−遷移金属リン酸化合物(LiFePOなど)、およびリチウム−遷移金属硫酸化合物(LiFe(SO)などが挙げられる。上記正極活物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0043】
正極活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、正極活物質の高容量化、反応性、サイクル耐久性の観点からは、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜20μmである。このような範囲であれば、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増大が抑制され、充分な電流を取り出しうる。
【0044】
(iii)参照極活物質
積層型電池10はその特徴的な構成として参照極を有する。本実施形態において、参照極は、負極電位および正極電位を測定するために使用される。参照極を基準として負極電位および正極電位を測定することにより、活物質の正確な充電状態を把握することができる。この負極電位および正極電位に基づいて二次電池の充放電を制御することにより、負極におけるリチウム金属のデンドライト析出や正極の過充電(正極におけるリチウムの過剰放出)による電極構造の崩壊を効果的に防止することができる。
【0045】
本実施形態では、参照極を構成する参照極活物質として、リチウムがドープされたフッ化黒鉛(「リチウムドープフッ化黒鉛」とも称する)を使用する。フッ化黒鉛は放電電圧の平坦性に優れるとともに、熱的・化学的に安定な材料であり、電解質(特に、ビニレンカーボネート(VC)などのような添加剤)との反応性が小さい。このため、本実施形態によれば、リチウム金属におけるような電解質との反応による電池性能の劣化を防止することができ、サイクル特性が向上する。さらに、フッ化黒鉛にリチウムをドープすることにより、参照極の電位が3.2Vから3.0Vへと低下し、放電電圧の平坦性(電位のプラトー領域)がより一層向上して、電位が一定となり、優れた参照極として機能しうる。
【0046】
フッ化黒鉛((CF))は層状化合物であり、その層間にリチウムイオンを挿入することができる。挿入されたリチウムイオンがフッ素原子と結合し、フッ化リチウム(LiF)となることにより、フッ化黒鉛にリチウムがドープされる(下記式(2)参照)。当該反応は不可逆反応であり、フッ化黒鉛はリチウムを吸蔵することはできるが放出することはできない。
【0047】
【数2】

【0048】
フッ化黒鉛へのリチウムのドープ量は特に限定されないが、フッ化黒鉛の容量の好ましくは10〜15%、より好ましくは10〜12%に相当する量のリチウムをドープする。後述するように、参照極を使用する際には、負極と参照極との間に微小電流を流すことにより、参照極に対する負極の電位を測定する。すなわち、参照極と負極との間の放電反応によって負極電位の測定を行うため、参照極の使用に際しては十分な量のフッ化黒鉛が存在することが必要となる。上記範囲のドープ量であれば、参照極として機能する際に必要な量のフッ化黒鉛が残存し、かつ放電電圧の平坦性に優れるため好ましい。
【0049】
フッ化黒鉛は、石油コークス、人造黒鉛などの炭素材料を250〜650℃程度の温度で反応させることにより得ることができる。フッ化黒鉛のF/C比は、例えば0.45〜1.30程度である。
【0050】
(b)結着剤
結着剤は、活物質同士または活物質と集電体とを結着させて電極構造を維持する目的で添加される。
【0051】
かような結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ酢酸ビニル、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリアクリロニトリル(PAN)などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、およびユリア樹脂などの熱硬化性樹脂、ならびにスチレンブタジエンゴム(SBR)などのゴム系材料が挙げられる。
【0052】
(c)導電助剤
導電助剤とは、導電性を向上させるために配合される導電性の添加物をいう。本実施形態で使用しうる導電助剤は特に制限されず、従来公知のものを利用することができる。例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上、電解液の保液性の向上による信頼性向上に寄与しうる。
【0053】
(d)電解質
電解質としては、後述する(電解質層)の項で説明する液体電解質、ゲルポリマー電解質、および真性ポリマー電解質を特に制限なく用いることができる。液体電解質、ゲルポリマー電解質、および真性ポリマー電解質の具体的な形態については、後述する(電解質層)の項で説明するため、詳細はここでは省略する。これらの電解質は1種単独であってもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、後述する電解質層に用いた電解質と異なる電解質を用いてもよいし、同一の電解質を用いてもよい。
【0054】
(電解質層)
電解質層は、非水電解質を含む層である。電解質層に含まれる非水電解質(具体的には、リチウム塩)は、充放電時に正負極間を移動するリチウムイオンのキャリアーとしての機能を有する。非水電解質としてはかような機能を発揮できるものであれば特に限定されないが、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0055】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、Li(CFSON、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiAsF、LiTaF、LiClO、LiCFSO等の電極の合剤層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0056】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲルポリマー電解質(ゲル電解質)と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0057】
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することが容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、特に限定されない。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(PVDF−HFP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。ここで、上記のイオン伝導性ポリマーは、活物質層において電解質として用いられるイオン伝導性ポリマーと同じであってもよく、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。電解液(電解質塩および可塑剤)の種類は特に制限されず、上記で例示したリチウム塩などの電解質塩およびカーボネート類などの可塑剤が用いられうる。
【0058】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。従って、電解質として真性ポリマー電解質を用いることで電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0059】
ゲルポリマー電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0060】
これらの電解質層に含まれる非水電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0061】
なお、電解質層が液体電解質やゲルポリマー電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いる。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0062】
電解質層の厚さは、内部抵抗を低減させるには薄ければ薄いほどよいといえる。電解質層の厚さは、通常1〜100μm、好ましくは5〜50μm、とするのがよい。
【0063】
[外装体]
リチウムイオン二次電池では、使用時の外部からの衝撃や環境劣化を防止するために、発電要素全体を外装体に収容するのが望ましい。外装体としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができほか、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた発電要素を覆うことができる袋状のケースを用いることができる。ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0064】
[電池の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の方法を適用して作製することができる。
【0065】
本発明の他の一形態によれば、(1)正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素と、フッ化黒鉛を含むフッ化黒鉛層および金属リチウムを含むリチウムプレドープ層が集電体上に形成された参照極前駆体とを有する電池前駆体を作製する工程(電池前駆体の作製工程)と、(2)前記フッ化黒鉛層に前記金属リチウムをドープして前記参照極前駆体を参照極に変換してリチウムイオン二次電池を作製する工程(リチウムドープ工程)と、を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。かような方法を用いることにより、電池系(正極、負極)が関与せずに参照極に所望の量のリチウムがドープされたリチウムイオン二次電池を容易に製造することができる。複数の単電池を含んで構成されるリチウムイオン二次電池において、発電要素内に存在する各正極および各負極が同じ電位にない場合には充放電反応にばらつきが生じ、電池が劣化するおそれがある。本実施形態によれば、電池系(正極、負極)が関与することなく参照極にリチウムをドープすることができるため、電池の劣化を抑制することができる。
【0066】
(1)積層体の作製工程
まず、単電池を構成する正極および負極、ならびに参照極前駆体を作製する。
【0067】
(a)正極・負極の作製
正極および負極の作製方法は特に限定されず、リチウムイオン二次電池について公知の方法を好ましく使用することができる。具体的には、まず、活物質(正極活物質または負極活物質)ならびに必要に応じて結着剤、導電助剤および電解質などを含む電極材料をスラリー粘度調整溶媒に分散して、正極活物質スラリーまたは負極活物質スラリーを調製する。
【0068】
スラリー粘度調整溶媒としては、特に制限されることはないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが挙げられる。スラリーはホモジナイザーまたは混練装置などを用いて溶媒および固形分よりインク化される。活物質ならびに必要に応じて結着剤、導電助剤および電解質などの電極材料を混合・分散する順序は特に制限されない。これらの電極材料を同時に混合・分散してもよいし、原料成分の種類毎に段階的に混合・分散するようにしてもよい。
【0069】
次いで、活物質層を形成するための集電体を準備し、上記で調製したスラリーを、集電体の表面(片面または両面)に塗布し、塗膜を形成する。スラリーを集電体に塗布するための塗布手段は特に限定されないが、例えば、自走型コーター、ドクターブレード法、スプレー法、インクジェット法などの一般に用いられる手段が採用されうる。
【0070】
続いて、集電体の表面(片面または両面)に形成された塗膜を乾燥させる。これにより、塗膜中の溶媒が除去される。塗膜を乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、加熱処理が例示される。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、スラリーの塗布量やスラリー粘度調整溶媒の揮発速度に応じて適宜設定されうる。得られた乾燥物をプレスすることにより、集電体の表面(片面または両面)に活物質層(正極活物質層または負極活物質層)が形成された電極(正極または負極)が得られる。プレス手段については、特に限定されず、従来公知の手段が適宜採用されうる。プレス手段の一例を挙げると、カレンダーロール、平板プレスなどが挙げられる。
【0071】
(b)参照極前駆体の作製
参照極前駆体は、集電体上に、フッ化黒鉛を含むフッ化黒鉛層、およびリチウムを含むリチウムプレドープ層が形成された構造を有する。参照極前駆体は、後述するリチウムドープ工程においてリチウムプレドープ層中のリチウムがフッ化黒鉛層にドープされることにより、参照極となる。集電体上のフッ化黒鉛層およびリチウムプレドープ層の配置形態は特に限定されない。例えば、集電体の一方の面にフッ化黒鉛層が、他方の面にリチウムプレドープ層が形成された形態であってもよいし、集電体の一方の面にフッ化黒鉛層およびリチウムプレドープ層を積層させた形態であってもよい。また、集電体上のフッ化黒鉛層およびリチウムプレドープ層の積層順序も特に制限されず、フッ化黒鉛層かリチウムプレドープ層のどちらが上面に配置されてもよい。
【0072】
図2A〜図2Cに、参照極前駆体の様々な実施形態を示す模式断面図を示す。図2Aは本発明の一実施形態に使用される参照極前駆体を示す模式断面図である。図2Aに示す実施形態において、参照極前駆体22は参照極集電体19の一方の面にフッ化黒鉛層23が、他方の面にリチウムプレドープ層24が形成された構造を有する。本実施形態では、後述するリチウムドープ工程においてリチウムプレドープ層24中のリチウムが参照極集電体19を介してフッ化黒鉛層23にドープされる。このため、参照極集電体19には貫通孔28が設けられる。参照極集電体19に貫通孔28を設けることにより、後述するリチウムドープ工程ではリチウムプレドープ層24中のリチウムが貫通孔28を通してフッ化黒鉛層23にドープされる。
【0073】
図2Bは本発明の他の一実施形態に使用される参照極前駆体を示す模式断面図である。図2Bに示す実施形態において、参照極前駆体22は参照極集電体19の一方の面に、フッ化黒鉛層23およびリチウムプレドープ層24が順に積層された構造を有する。本実施形態においては、リチウムプレドープ層24とフッ化黒鉛層23とが隣接して配置されており、後述するリチウムドープ工程においてリチウムプレドープ層24中のリチウムがフッ化黒鉛層23にドープされる。したがって、参照極集電体19は貫通孔を有していても、有していなくてもよい。
【0074】
図2Cは本発明のさらに他の一実施形態に使用される参照極前駆体を示す模式断面図である。図2Cに示す実施形態では、参照極集電体19の両方の面に、フッ化黒鉛層23が形成されている。そして、2つのフッ化黒鉛層23の一方の上面にリチウムプレドープ層が形成されている。本実施形態において、リチウムプレドープ層と隣接しないフッ化黒鉛層23には、参照極集電体19を介してリチウムのドープが行われる。このため、本実施形態では、参照極集電体19には貫通孔28が設けられる。かような形態によれば、リチウムドープ工程において、リチウムプレドープ層24と隣接するフッ化黒鉛層23にリチウムがドープされ、さらに、参照極集電体19の貫通孔28を通してもう一方のフッ化黒鉛層23にもリチウムがドープされる。
【0075】
図2Dは本発明のさらに他の一実施形態に使用される参照極前駆体を示す模式断面図である。図2Dに示す実施形態において、参照極前駆体22は参照極集電体19の両方の面に、フッ化黒鉛層23およびリチウムプレドープ層24が順に積層された構造を有する。本実施形態では、フッ化黒鉛層23に隣接するリチウムプレドープ層24からリチウムがドープされるため、参照極集電体19は貫通孔を有していても、有していなくてもよい。ただし、参照極内のリチウム濃度の均一化の観点から、参照極集電体19は貫通孔を有することが好ましい。
【0076】
なお、図2A〜図2Dに示す形態では、リチウムプレドープ層24の面内方向の大きさとフッ化黒鉛層23の面内方向の大きさとが同じ大きさで図示されている。ただし、本発明はかような形態のみには制限されず、面内方向の大きさはリチウムプレドープ層24がフッ化黒鉛層23よりも大きい形態やフッ化黒鉛層23よりも小さい形態であってもよい。また、リチウムプレドープ層24からフッ化黒鉛層23へのリチウムのドープが可能である限り、リチウムプレドープ層24と参照極集電体19またはフッ化黒鉛層23との間に他の物質や他の層が存在してもよい。以下、上記実施形態の参照極前駆体を例に挙げて、参照極前駆体を構成する部材について説明するが、本発明は下記の形態に制限されるわけではない。
【0077】
フッ化黒鉛層は、参照極活物質の前駆体であるフッ化黒鉛ならびに必要に応じて結着剤、導電助剤および電解質などを含む参照極材料を含んで構成される。そして、後述するリチウムドープ工程においてリチウムプレドープ層中のリチウムがフッ化黒鉛層にドープされることにより、参照極活物質層となる。フッ化黒鉛層に含まれうる参照極材料については、リチウムがドープされていないフッ化黒鉛を使用すること以外は、「参照極活物質」の項で説明した通りである。
【0078】
リチウムプレドープ層は、リチウムを含んで構成され、後述するリチウムドープ工程においてフッ化黒鉛層にドープするためのリチウム(イオン)の吸蔵層として機能する。リチウムプレドープ層を構成するリチウム(リチウム源)としては、フッ化黒鉛層へのドープが可能であれば特に制限されないが、金属リチウムまたはリチウム合金であることが好ましい。リチウム合金としては、「負極活物質」の項で説明したリチウムと合金化する元素の単体、これらの元素を含む酸化物および炭化物等のリチウム合金を好ましく使用することができる。リチウムプレドープ層の形態も特に制限されず、リチウム金属箔をそのまま使用してもよいし、リチウム粒子やリチウム合金粒子の集合体を使用してもよい。
【0079】
リチウムプレドープ層の厚さやサイズ(面内方向の大きさ)は、フッ化黒鉛層にドープするために必要なリチウムを吸蔵できる限り薄い方が好ましい。具体的には、フッ化黒鉛層へのリチウムのドープ量が所望の範囲となるように厚さやサイズを決定する。一例を挙げると、リチウムプレドープ層の厚さは1〜100μm程度である。
【0080】
上記で説明した参照極前駆体を作製する方法は特に制限されない。例えば、まず、参照極集電体の表面(片面または両面)にフッ化黒鉛層を形成する。フッ化黒鉛層の形成方法は特に制限されず、上述した正極または負極の作製方法と同様の方法を採用すればよい。具体的には、参照極活物質の前駆体としてのフッ化黒鉛ならびに必要に応じて結着剤、導電助剤および電解質などを含む電極材料をスラリー粘度調整溶媒に分散して、スラリーを調製する。次いで、参照極集電体を準備し、上記で調製したスラリーを、集電体の表面(片面または両面)に塗布し、乾燥後プレスする。これにより、参照極集電体の表面(片面または両面)にフッ化黒鉛層が形成される。
【0081】
続いて、リチウムプレドープ層を形成する。リチウムプレドープ層の形成方法も特に制限されない。例えば、リチウム箔をフッ化黒鉛層の表面または参照極集電体の表面に配置する(貼り付ける)方法、リチウム粒子またはリチウム合金粒子をフッ化黒鉛層の表面または参照極集電体の表面に塗布する方法、リチウム蒸着膜をフッ化黒鉛層の表面または参照極集電体の表面に転写する方法、電気化学的手法によりフッ化黒鉛層の表面または参照極集電体の表面にリチウム膜を形成する方法、などが挙げられる。この際、リチウム箔の貼り付け量やリチウム(合金)粒子の塗布量・蒸着量を調整することにより、フッ化黒鉛層へのリチウムのドープ量を所望の範囲に制御することが可能となる。
【0082】
上記工程により、フッ化黒鉛を含むフッ化黒鉛層および金属リチウムを含むリチウムプレドープ層が集電体上に形成された参照極前駆体が得られる。
【0083】
(c)電池前駆体の組み立て
次いで、上記(a)で作製した集電体の両面に活物質層が形成された正極または負極を、セパレータ(電解質層に相当)を介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように積層させることにより単電池を含む発電要素を作製する。そして、フッ化黒鉛層が単電池内の正極および負極と電気的に絶縁されるように上記(b)で作製した参照極前駆体を配置させる。これにより、単電池を含む発電要素と参照極前駆体とを有する電池前駆体が得られる。
【0084】
例えば、図1に示す実施形態における積層型電池10を作製する場合には、単電池17(発電要素21)の作製の際に、単電池17(発電要素21)の2つの最外層のうちの少なくとも一方には負極が配置されるようにする。そして、単電池17(発電要素21)の最外層に位置する負極上に、上記(b)で作製した参照極前駆体を、セパレータ(電解質層に相当)を介して負極活物質層とフッ化黒鉛層とが対向するように積層させる。なお、本実施形態において、積層体の一方の最外層には参照極が配置され、他方の最外層には負極または正極が配置される。これらの最外層に配置される電極としては、上記と同様の手順で集電体の片面のみに活物質層の形成された参照極前駆体(図2Aおよび図2B)および正極または負極を準備し、これを用いるのが好ましい。ただし、最外層に配置される電極が両面にフッ化黒鉛層または活物質層の形成された集電体であってももちろんよい。
【0085】
そして、正極、負極、参照極前駆体のそれぞれに集電板および/またはリードを接続し、集電板またはリードが導出するように、発電要素をアルミニウムのラミネートフィルムバッグに収容する。その後、注液機により電解液を注液して、減圧下で端部をシールして電池とする。
【0086】
(2)リチウムドープ工程
続いて、フッ化黒鉛層に金属リチウムをドープして前記参照極前駆体を参照極に変換することによりリチウムイオン二次電池を作製する。具体的には、電解液の注液により、リチウムプレドープ層内のリチウムがフッ化黒鉛層にドープされる。そして、リチウムのドープ後には、参照極前駆体は参照極へと変換される。これにより、単電池と、集電体上にリチウムがドープされたフッ化黒鉛を含む参照極活物質層を有する参照極とを有するリチウムイオン二次電池が得られる。なお、リチウムプレドープ層が金属リチウムから構成される場合、すなわち、リチウムプレドープ層がリチウム元素のみから構成される場合には、リチウムのドープ後にはリチウムプレドープ層が消失する。一方、リチウムプレドープ層がリチウム合金のようにリチウム元素以外の材料を含んで構成される場合には、リチウムのドープ後においてもリチウムプレドープ層(例えば、リチウム合金の場合にはリチウムと合金化する元素)が残存する。
【0087】
なお、上記の形態では、単電池を含む発電要素と参照極前駆体とを有する電池前駆体を作製した後にフッ化黒鉛層へのリチウムのドープを行ったが、本発明はかような形態に限定されるわけではない。例えば、参照極前駆体の作製後にフッ化黒鉛層へのリチウムのドープを行って参照極を作製した後に、この参照極を使用してリチウムイオン二次電池を作製してもよい。すなわち、本発明の他の一実施形態によれば、(1)集電体上にフッ化黒鉛を含むフッ化黒鉛層および金属リチウムを含むリチウムプレドープ層が形成された参照極前駆体を作製する工程と、(2)前記フッ化黒鉛層に前記金属リチウムをドープして前記参照極前駆体を参照極に変換する工程と、(3)正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素と、前記参照極とを有するリチウムイオン二次電池を作製する工程と、を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法が提供される。かような方法を用いることにより、電池系(正極、負極)が関与することなく所望の量のリチウムがドープされたフッ化黒鉛を有する参照極を容易かつ確実に製造することができる。
【0088】
本実施形態では、まず、上述した方法と同様の方法により参照極前駆体を作製する。その後、参照極前駆体に電解液を塗布するかまたは参照極前駆体を電解液中に浸漬させることにより、フッ化黒鉛層にリチウムプレドープ層中の金属リチウムをドープする。これにより、参照極前駆体は参照極へと変換される。
【0089】
その後、上述した方法と同様の方法により、正極および負極を作製する。そして、正極、負極、および参照極をセパレータを介して積層することにより、リチウムイオン二次電池が得られる。
【0090】
さらに、上記の実施形態では、リチウムがドープされていないフッ化黒鉛を使用して参照極前駆体を作製したのちにフッ化黒鉛へのリチウムのドープを行う形態を例に挙げて説明したが、積層型電池10の製造方法は当該形態に限定されるわけではない。例えば、フッ化黒鉛にリチウムをケミカルドープさせることによって所望のリチウムがドープされたフッ化黒鉛を予め調製し、このリチウムドープフッ化黒鉛を用いて参照極を作製し、発電要素を得ることも可能である。
【0091】
また、上記では電解質が液体電解質である場合の積層型電池を例に挙げて説明したが、ゲル電解質や真性ポリマー電解質を用いた場合の積層型電池の作製についても、公知の技術を参照して実施可能であり、ここでは省略する。
【0092】
(エージング工程)
上記工程により得られた電池(発電要素)は、好ましくは初充電後、所定の時間エージング(静置)される。当該処理は1回のみ行われてもよいし、複数回行われてもよい。エージング工程を実施することにより、活物質層における単位面積当たりのリチウム量を均一化することができ、信頼性の向上した電池が得られる。
【0093】
初充電時の電池の電圧は、セル設計により異なる。通常、参照極と負極の電位差が3Vを越えないように電流値を制御することが好ましい。さらに、電池(正極と負極)の電位と、参照極と負極との電位差の差が1.3Vを超えないように電流値を制御することが好ましい。
【0094】
エージングの温度は、リチウム量の均一化のために必要な時間(エージング時間)を短縮する点で好ましくは20〜80℃、より好ましくは40〜60℃である。また、エージング時間は、フッ化黒鉛の量とリチウムのドープ量により異なるが、通常24〜120時間程度である。
【0095】
なお、エージングは電池の組み立てや予備充電の後に行なってもよい。予備充電の条件は特に制限されない。例えば、20〜60℃の雰囲気下で定電流方式(電流:0.5C)で10分間充電する方法を用いてもよい。
【0096】
[電池の充電制御方法]
本発明のさらに他の一形態によれば、リチウムイオン二次電池の充電制御方法が提供される。本発明の一実施形態のリチウムイオン二次電池の充電制御方法は、(1)参照極と負極との電位差を測定して参照極電位に対する負極の電位を得、かつ正極と負極との電位差を測定して負極電位に対する正極の電位を得る段階と、(2)前記負極電位に対する正極の電位から前記参照極電位に対する負極の電位を差し引くことにより参照極基準の正極の電位を算出する段階と、(3)前記参照極基準の負極の電位および前記参照極基準の正極の電位に基づいて前記二次電池の充電を制御する段階と、を含む。
【0097】
フッ化黒鉛へのリチウムのドープ反応は不可逆反応であり、リチウムを吸蔵することはできるが、放出することはできない。したがって、リチウムがドープされたフッ化黒鉛を参照極として使用して、電極の電位を測定する場合には、リチウムを受け入れる方向、すなわち測定する電極よりも参照極の電位のほうが高い場合でのみ使用することが可能である。すなわち、電位が低い負極の電位を測定することはできるが、電位が高い正極の電位を測定することはできない。上記形態に係る充電方法を使用することにより、リチウムがドープされたフッ化黒鉛を参照極活物質として使用した場合であっても、正極および負極の参照極電位に対する電位を測定することができ、この電位に基づいて電池の充放電を制御することが可能となる。
【0098】
図3は、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の充電制御方法における動作を示すフローチャートである。
【0099】
図3に示すとおり、本実施形態における充電制御方法では、まず、充電が開始される(ステップS101)。
【0100】
次に、参照極と負極との電位差を測定することにより参照極電位に対する負極の電位を得る(ステップS102)。具体的には、参照極(図1に示す参照極集電板27)と負極(図1に示す負極集電板25)との間に微小電流を流し、参照極と負極との電位差を測定する。微小電流の大きさは特に限定されないが、通常1μA程度である。
【0101】
次に、正極と負極との電位差を測定して負極電位に対する正極の電位を得る(ステップS103)。具体的には、上記ステップS102と同様に、正極(図1に示す参照極集電板26)と負極(図1に示す負極集電板25)との間に微小電流を流し、正極と負極との電位差を測定する。微小電流の大きさは特に限定されないが、通常1μA程度である。
【0102】
次に、負極電位に対する正極の電位から前記参照極電位に対する負極の電位を差し引くことにより参照極電位に対する正極の電位を算出する(ステップS104)。
【0103】
そして、前記参照極電位に対する負極の電位および前記参照極電位に対する正極の電位に基づいて前記二次電池の充電を制御する。具体的な充電制御の方法としては、特に限定されない。例えば、参照極電位に対する正極の電位の上限値と参照極電位に対する負極の電位の下限値とを設定しておき、当該上限値を超える場合または当該下限値を下回る場合に充電を停止する方法が挙げられる。かような方法を用いることにより、正極および負極の過充電が防止され、正極におけるリチウムの過剰放出による電極構造の崩壊や負極におけるリチウム金属のデンドライト析出が防止されうる。
参照極電位に対する正極の電位の上限値および参照極電位に対する負極の電位の下限値は正極または負極が過充電状態になっていないかどうかを判断するための臨界値であり、正極材料および負極材料の種類によって決定される。通常、参照極電位に対する正極の電位の上限値は4.3Vである。ただし、正極活物質として鉄オリビンを使用する場合には当該上限値は4.0V程度である。また、通常、参照極電位に対する負極の電位の下限値は0Vである。これらの正極の電位の上限値および負極の電位の上限値は満充電状態における正極および負極の電位に基づいて決定すればよい。
【0104】
具体的な処理としては、まず、前記参照極電位に対する正極の電位が上記上限値を超える場合または前記参照極電位に対する負極の電位が上記下限値を下回る場合に充電を停止させる方法が挙げられる。
【0105】
具体的には、参照極電位に対する正極の電位が正極の材料に応じて予め設定した電位を超えるか否かが判断される(ステップS105)。ステップS104で算出される参照極電位に対する正極の電位が正極の材料に応じて予め設定された電位を超える場合には、正極が十分に充電された状態にあると判断される。
【0106】
正極が十分に充電された状態にあると判断される場合(ステップS105:YES)、充電が停止される(ステップS106)。かような処理を行うことにより、正極が過充電されるのが防止され、正極におけるリチウムの過剰放出による電極構造の崩壊が防止されうる。
【0107】
一方、正極が十分に充電された状態にあると判断されない場合(ステップS105:NO)、参照極電位に対する負極の電位が負極の材料に応じて予め設定した電位未満であるか否かが判断される(ステップS107)。ステップS102で算出される参照極電位に対する負極の電位が負極の材料に応じて予め設定された電位未満である場合には、負極が十分に充電された状態にあると判断される。
【0108】
負極が十分に充電された状態にあると判断される場合(ステップS107:YES)、充電が停止される(ステップS106)。かような処理を行うことにより、負極におけるリチウム金属のデンドライト析出が防止されうる。
【0109】
一方、負極が十分に充電された状態にあると判断されない場合(ステップS107:NO)、正極または負極が十分に充電された状態にあると判断されるまで、ステップS102以下の処理が繰り返される。
【0110】
[電池の外観]
図4は、本発明の一実施形態である積層型電池の外観を模式的に表した斜視図である。図4に示すように、積層型電池10は、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための負極集電板25、正極集電板26、参照極集電版27が引き出されている。発電要素21は、電池(10)の外装体29によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素21は負極集電板25、正極集電板26、および参照極集電版27を引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素21は、図1に示す積層型電池10の発電要素21に相当し、負極(負極活物質層)13、電解質層16および正極(正極活物質層)15で構成される単電池17が複数積層された発電要素21ならびに参照極(参照極活物質層)20で構成されるものである。
【0111】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池は、図1および図4に示すような扁平な形状(積層型)のものに制限されるわけではない。例えば、巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよい。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートシートを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよく、特に制限はない。
【0112】
図1および図4に示す集電板25、26、27の取り出しに関しても特に制限されない。例えば、負極集電板25、正極集電板26、参照極集電板27を同じ辺から引き出すようにしてもよいし、負極集電板25、正極集電板26、参照極集電板27をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよい。また、巻回型の双極型二次電池では、集電板に代えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0113】
本実施形態によれば、充放電サイクルに優れるリチウムイオン二次電池が提供されうる。本実施形態のリチウムイオン二次電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0114】
[組電池]
本実施形態の電池の複数個を、並列および/または直列に接続して、組電池としてもよい。図5は、本発明の一実施形態に係る組電池の外観図である。図5Aは組電池の平面図であり、図5Bは組電池の正面図であり、図5Cは組電池の側面図である。
【0115】
図5に示す形態では、上記実施形態の積層型電池10を複数、直列および/または並列に接続して装脱着可能な小型の組電池35が形成されている。そして、この装脱着可能な小型の組電池35がさらに複数、直列および/または並列に接続され、組電池37とされている。これにより、組電池37は、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池37とされる。作成した装脱着可能な小型の組電池35は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続され、この組電池35は接続治具39を用いて複数段積層される。何個の非双極型ないし双極型のリチウムイオン二次電池を接続して組電池35を作製するか、また、何段の組電池35を積層して組電池37を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。本実施形態によれば、高容量で充放電サイクルに優れる組電池が提供されうる。
【0116】
[車両]
積層型電池10または組電池37は、車両の駆動用電源として用いられうる。積層型電池10または組電池37は、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いられうる。これにより、充放電サイクルに優れた自動車が提供されうる。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両であれば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0117】
図6は、組電池37を搭載した車両の概念図である。図6に示すように、組電池37を自動車40のような車両に搭載するには、自動車40の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池37を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームに搭載してもよい。以上のような組電池37を用いた自動車40は優れた耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。
【実施例】
【0118】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0119】
[実施例1]
(参照極前駆体の作製)
参照極活物質(前駆体)としてのフッ化黒鉛(CF:x=0.80)(95質量%)および結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(5質量%)を混合した。この混合物をスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の適量に分散させ、参照極活物質スラリーを調製した。この参照極活物質スラリーを、参照極集電体としてのパンチングメタル(材質:アルミニウム、厚さ25μm、空孔率:20%、平均孔径:2mm)の一方の面に塗布した。次いで、80℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで片面の厚みが50μmのフッ化黒鉛層を作製した。
【0120】
続いて、参照極集電体の他方の面にリチウムプレドープ層としてのリチウム箔(5mm×5mm、厚み100μm)を貼り付け、参照極前駆体を得た。この際、リチウムのドープ量はフッ化黒鉛からなる参照極前駆体の放電容量の10%に相当する量とした。得られた参照極前駆体を、電極部サイズが34mm×24mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の参照極前駆体を作製した。
【0121】
(電池前駆体の作製)
負極活物質としての黒鉛(95質量%)および結着剤としてのポリフッ化ビニリデン樹脂(5質量%)を混合した。この混合物をスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の適量に分散させ、負極活物質スラリーを調製した。この負極活物質スラリーを、負極集電体としてのパンチングメタル(材質:銅、厚さ:20μm、空孔率:20%、平均孔径:2mm)の表面に塗布した。次いで、80℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで片面の活物質層の厚みが70μmの負極を作製した。得られた負極を、電極部サイズが36mm×26mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の負極を作製した。
【0122】
正極活物質としてのニッケル酸リチウム(85質量%)、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン樹脂(5質量%)、および導電助剤としての炭素粉末(10質量%)を混合した。この混合物をスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の適量に分散させ、正極活物質スラリーを調製した。この正極活物質スラリーを、正極集電体としてのパンチングメタル(材質:アルミニウム、厚さ:25μm、空孔率:20%、平均孔径:2mm)の表面に塗布した。次いで、80℃雰囲気下で乾燥後プレスすることで片面の活物質層の厚みが60μmの正極を作製した。得られた正極を、電極部サイズが34mm×24mmとなるように、溶接するタブ部を残して打ち抜き、積層用の正極を作製した。
【0123】
なお、負極については集電体の両面に活物質層を形成させ、正極および参照極については集電体の片面に活物質層を形成させた。
【0124】
上記で作製した積層用の正極1枚と、積層用の負極1枚と、積層用の参照極前駆体1枚とをこの順にセパレータを介して積層させた。この際、負極活物質層の一方の面が正極活物質層とセパレータを介して対向するようにし、負極活物質層の他方の面が参照極活物質層とセパレータを介して対向するようにした。これにより、下記の積層体(電池前駆体)を作製した。なお、セパレータとしては、ポリエチレン微多孔質膜(厚さ:25μm、空孔率:50%)を使用した。
【0125】
【表1】

【0126】
上記で作製した積層体(電池前駆体)の正極にアルミニウム製タブリードを、負極にニッケル製タブリードを、参照極前駆体にアルミニウム製タブリードを超音波溶接にて接続させた。次いで、当該電池前駆体を、電池前駆体のサイズに成形されたアルミラミネートフィルムの外装の内部に入れ、電解液を注液する1辺を残し、残り3辺を熱融着して袋状にした。その内部に、所定量の電解液を注入して含浸させた後、残りの1辺を真空封止して評価用セルを作製した。電解液の含浸により、フッ化黒鉛層にリチウムがドープされ、参照極前駆体が参照極へと変換される。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との等体積混合液(EC:DMC=1:1(体積比))にリチウム塩であるLiPFが1.0Mの濃度となるように溶解した溶液を用いた。
【0127】
(初充電・エージング)
上記の方法で作製した評価用セルについて、25℃雰囲気下、定電流定電圧方式(CCCV、電流:0.05C、セル電圧:4.2V)で24時間充電した。この際、参照極と負極との電位差(参照極の電位に対する負極電位)が3Vを超えないように電流値を制御した。さらに、正極と負極との電位差と、参照極と負極との電位差の差とから算出される参照極と正極との電位差(参照極の電位に対する正極電位)が1.2Vを超えないように電流値を制御した。なお、Cは時間率を示し、時間率1Cとは、電池の全容量を1時間で充電/放電させるだけの電流量をいう。例えば、0.5Cの電流とは、2時間(=1/0.5時間)で電池の全容量が充電/放電される電流量をいう。
【0128】
その後、25℃雰囲気で1週間エージング(静置)した。エージング後の電池の電圧は4.18Vであった。これにより、参照極活物質層内のフッ化黒鉛にリチウムがドープされる。
【0129】
[実施例2]
実施例1と同様の方法により、積層用の正極6枚、積層用の負極7枚、積層用の参照極前駆体1枚を作製した。なお、積層体の最外層に配置される負極1枚および参照極1枚については集電体の片面に活物質層を形成させ、その他の正極6枚および負極6枚については集電体の片面に活物質層を形成させた。
【0130】
上記で作製した積層用の正極6枚と積層用の負極7枚とをセパレータを介して正極活物質層と負極活物質層とが対向するように積層させ、発電要素を作製した。この際、発電要素の最外層の一方には集電体の片面に活物質層が形成された負極を配置し、他方には集電体の両面に活物質層が形成された負極を配置した。
【0131】
続いて、発電要素の最外層に位置する集電体の両面に活物質層が形成された負極上に、参照極前駆体をセパレータを介して、負極活物質層とフッ化黒鉛層とが対向するように積層した。これにより、電池前駆体を作製した。
【0132】
【表2】

【0133】
上記で得た電池前駆体を使用すること以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製し、評価用セルの初充電・エージングを行った。
【0134】
[実施例3]
負極集電体として、箔(材質:銅、厚さ:20μm、空孔率:0%)を、正極集電体として、箔(材質:アルミニウム、厚さ:25μm、空孔率:0%)を使用した。このこと以外は、実施例2と同様にして評価用セルを作製し、評価用セルの初充電・エージングを行った。
【0135】
[比較例1]
参照極前駆体を配置せずに積層体(電池前駆体)を作製したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製し、評価用セルの初充電・エージングを行った。なお、積層体(電池前駆体)の作製の際には、負極および正極とも集電体の片面のみに活物質層を形成した電極を用いた。
【0136】
【表3】

【0137】
[比較例2]
参照極前駆体の作製の際に、リチウムプレドープ層としてのリチウム箔を配置せず、参照極集電体の片面にフッ化黒鉛層が形成された参照極前駆体を使用した。すなわち、リチウムのプレドープを行わなかった。このこと以外は実施例1と同様にして評価用セルを作製し、評価用セルの初充電・エージングを行った。
【0138】
[比較例3]
参照極としてリチウム箔(厚さ:1mm、空孔率:0%)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして評価用セルを作製し、評価用セルの初充電・エージングを行った。なお、評価用セルの初充電・エージングの際に、参照極と負極との電位差(参照極の電位に対する負極電位)が0Vを超えないように、すなわち、負極の電位が参照極のリチウムの電位より低くならないように制御した。さらに、正極と負極との電位差と、参照極と負極との電位差の差とから算出される参照極と正極との電位差(参照極の電位に対する正極電位)が4.2Vを超えないように制御した。
【0139】
[試験用セルの評価]
(容量維持率)
上記でエージング処理を施した各評価用セルについて、45℃雰囲気下、定電流定電圧方式(CCCV、電流:1C、セル電圧:4.2V)で3時間充電した後、定電流(CC、電流:1C)でセル電圧2.5Vまで放電させた。この充放電過程を1サイクルとし、500サイクルの充放電サイクル試験を行った。500サイクルにおける放電容量(mAh)の1サイクル目の放電容量(mAh)に対する割合(=容量維持率[%])を求めた。なお、充電の際には、初充電における制御と同様の制御を行った。結果を表1に示す。
【0140】
(抵抗上昇率)
上記で作製し一連の試験を行った後に、50%の充電状態(「SOC;State of charge)」)にある評価用セルを45℃雰囲気下で、定電流(CC、電流:3C)で10秒間放電させた後と放電させる前のIV抵抗値を各々測定した。そして、放電させる前のIV抵抗値に対する抵抗値の上昇率(抵抗上昇率)を求めた。抵抗上昇率が低いほど、電池の耐久性が向上したことを意味する。各評価セルについての抵抗上昇率の評価結果を、下記の表1に示す。
【0141】
【表4】

【0142】
表1より、リチウムがドープされたフッ化黒鉛を参照極として使用した実施例1〜3のセルは、容量維持率が大きく、かつ抵抗の上昇が抑制されることがわかった。これに対して、参照極を有さない比較例1のセルやリチウムのプレドープを行わなかった比較例2のセルやリチウム箔を参照極として使用した比較例3のセルは、実施例1〜3のセルに比べて容量維持率が低下し、かつ抵抗上昇率が大きくなった。
【0143】
さらに、正極集電体および負極集電体の空孔率が0%である実施例3のセルは、正極集電体および負極集電体の空孔率が20%である実施例1〜2のセルに比べて容量維持率が小さく、かつ抵抗上昇率が大きいことが確認された。
【0144】
以上から、参照極を構成する材料として使用するリチウムがドープされたフッ化黒鉛を使用した場合には、サイクル特性が向上した電池が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0145】
10 積層型電池、
11 負極集電体、
11a 最外層負極集電体、
12 正極集電体、
13 負極活物質層、
15 正極活物質層、
16 電解質層、
17 単電池(電池単位、単セル)、
19 参照極集電体、
20 参照極活物質層、
21 発電要素、
22 参照極前駆体、
23 フッ化黒鉛層、
24 リチウムプレドープ層、
25 負極集電板、
26 正極集電板、
27 参照極集電板、
28 貫通孔、
29 外装体(ラミネートシート)、
35 装脱着可能な小型の組電池、
37 組電池、
39 接続治具、
40 自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素と、
リチウムがドープされたフッ化黒鉛を含む参照極活物質層が集電体上に形成された参照極と、を有し、
前記参照極活物質層が電解質を介して前記正極および前記負極と電気的に絶縁されている、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記正極および前記負極の少なくとも一方は貫通孔が設けられた集電体を有する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素と、フッ化黒鉛を含むフッ化黒鉛層、およびリチウムを含むリチウムプレドープ層が集電体上に形成されてなる参照極前駆体とを有する電池前駆体を作製する工程と、
前記フッ化黒鉛層に前記リチウムをドープして前記参照極前駆体を参照極に変換することによりリチウムイオン二次電池を作製する工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項4】
集電体上にフッ化黒鉛を含むフッ化黒鉛層、およびリチウムを含むリチウムプレドープ層が形成されてなる参照極前駆体を作製する工程と、
前記フッ化黒鉛層に前記リチウムをドープして前記参照極前駆体を参照極に変換する工程と、
正極、電解質層、および負極がこの順に積層されてなる単電池を含む発電要素と、前記参照極とを有するリチウムイオン二次電池を作製する工程と、
を含む、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1もしくは2に記載のリチウムイオン二次電池または請求項3もしくは4に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池の充電制御方法であって、
参照極と負極との電位差を測定して参照極電位に対する負極の電位を得、かつ正極と負極との電位差を測定して負極電位に対する正極の電位を得る段階と、
前記負極電位に対する正極の電位から前記参照極電位に対する負極の電位を差し引くことにより参照極電位に対する正極の電位を算出する段階と、
前記参照極電位に対する負極の電位および前記参照極電位に対する正極の電位に基づいて前記二次電池の充電を制御する段階と、
を含む、充電制御方法。
【請求項6】
前記充電を制御する段階は、前記参照極電位に対する正極の電位が前記正極の材料に応じて予め設定した電位を超える場合、または前記参照極電位に対する負極の電位が前記負極の材料に応じて予め設定した電位未満となる場合に充電を停止する段階をさらに含む、請求項5に記載の充電制御方法。
【請求項7】
請求項1もしくは2に記載のリチウムイオン二次電池または請求項3もしくは4に記載の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池を用いた組電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−3318(P2011−3318A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143684(P2009−143684)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】