リチウムイオン二次電池
【課題】経年的に安定して充放電容量を維持すると共に、急速充電容量を増大させることができるリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウム金属酸化物を正極活物質12として用いたシート状正電極1aと、チタン酸リチウムを負極活物質14として用いたシート状負電極1bとをセパレータ1cを介して交互に積層した内部電極対1と、当該内部電極対1を電解液DLと共に密封状態に収容する外装体2とを備えたリチウムイオン二次電池1であって、負極活物質14の容量は、正極活物質の容量よりも小さく設定されていると共に、負極活物質14のプレス密度は、1.4〜1.7g/ccであることを特徴とする。
【解決手段】リチウム金属酸化物を正極活物質12として用いたシート状正電極1aと、チタン酸リチウムを負極活物質14として用いたシート状負電極1bとをセパレータ1cを介して交互に積層した内部電極対1と、当該内部電極対1を電解液DLと共に密封状態に収容する外装体2とを備えたリチウムイオン二次電池1であって、負極活物質14の容量は、正極活物質の容量よりも小さく設定されていると共に、負極活物質14のプレス密度は、1.4〜1.7g/ccであることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極にリチウムニッケル複合酸化物等のリチウム金属酸化物を用いると共に、負極にチタン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器に対する小型・軽量化への要望は非常に強く、そのためには動力源である二次電池の性能向上が要求され、種々の電池の開発や改良が進められてきている。例えば、リチウムイオン二次電池は、現有する電池の中で最も高電圧、高エネルギー密度、耐高負荷化が実現できる二次電池であり、電気自動車やハイブリッド自動車等の分野で用いられる大容量二次電池として期待されている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池として、充放電の際の電極の膨張収縮が小さく熱安定性に優れ長寿命化が可能であるという特性から、負極にチタン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、特許文献1には、有機溶媒中にリチウム塩を溶解した電界液を用いて、正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いると共に、負極活物質にチタン酸リチウム(Li4/3Ti5/3O4)を用い、正極活物質に対する負極活物質の重量比率を0.6以上1.0未満としたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、有機溶媒中にリチウム塩を溶解した電界液を用いて、正極活物質にニッケルを含むリチウム金属酸化物を用いると共に、負極活物質にチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)を用い、正極活物質に対する負極活物質の重量比率を0.5以上1.2未満としたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−335261号公報
【特許文献2】特開2008−293997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、正極にコバルト酸リチウムやニッケル酸リチウム等のリチウム金属酸化物を用いた場合には、リチウムイオンの吸蔵、放出が繰り返されると活物質の結晶構造が破壊されることによる充放電容量の低下と共に、結晶破壊により充電時に正極電位が上昇し電解液が酸化分解されて充放電容量が低下するといった問題が生じていた。
【0008】
このような問題に対して、上述の特許文献1,2に開示された先行技術においては、負極のチタン酸リチウムの容量を正極のコバルト酸リチウムの容量よりも小さい所定の重量比率に設定することにより、正極側での電解液の酸化分解等を抑制可能とするものの、負極側に分解ガスが発生するといった現象が生じていた。そして、かかる分解ガスは、電池内の構成部材の特性を経年的に変化させるといった問題が生じていた。
【0009】
特に、可撓性を有するラミネート外装体内に内部電極対を収容した構成の二次電池においては、分解ガスの発生によりシート状電極等の構成部材の間隔等が変化し、充放電容量を経年的に著しく低下させるといった問題が生じていた。
【0010】
また近年は、リチウムイオン二次電池の電気自動車等への適用拡大に伴い、短時間で充電可能な大容量の二次電池が求められているが、上記先行技術においては、十分な急速充電容量が得られないといった問題が生じていた。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、経年的に安定して充放電容量を維持すると共に、急速充電容量を増大させることができるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、前記負極活物質の容量は、前記正極活物質の容量よりも小さく設定されていると共に、前記負極活物質のプレス密度は、1.4〜1.7g/ccであることを特徴とするものである。
【0013】
ここで、プレス密度とは、電極に塗布された活物質をローラ部材等で圧接して得られる単位体積当たりの活物質の重量をいうものとする。
【0014】
このように構成した場合には、電解液の分解ガスの発生を抑制して、経年的に安定した充放電容量を維持すると共に、急速充電容量の増大を実現することができる。
【0015】
また、前記電解液中のリチウム塩として、導電性が高く親水性を有する良導電性リチウム塩と、導電性が低く疎水性を有する疎水性リチウム塩とを混合したものを用いることができる。
【0016】
このように構成した場合には、負極活物質中の水分との反応によるガスの発生を抑制しつつ、導電性を確保することができる。
【0017】
さらに、前記良導電性リチウム塩は、LiPF6であると共に、前記疎水性リチウム塩は、LiBF4であり、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることが好ましい。
【0018】
このように構成した場合には、負極活物質中の水分との反応によるガスの発生を抑制しつつ、導電性を確保する混合リチウム塩を容易に実現することができる。
【0019】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、前記電解液中のリチウム塩として、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることを特徴とするものである。
【0020】
このように構成した場合には、単独のリチウム塩を用いた場合に比し、ある程度の急速充電容量を確保すると共にサイクル特性を向上させることができる。
【0021】
以上において、前記負極活物質は、チタン酸リチウムに対するカーボンの重量比が1.2〜1.5%となるように、チタン酸リチウムの表面がカーボンコーティングされていることが好ましい。
【0022】
このように構成した場合には、チタン酸リチウムの低い導電性を補って急速充電容量をより増大させることができる。
【0023】
また、前記シート状正電極は、アルミニウム製の正極集電体に正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物が塗布されて形成されていると共に、正極と負極との容量比を0.5〜0.9とすることが好ましい。
【0024】
このように構成した場合には、正極側での電解液の酸化分解を防止すると共に、経年的に安定した充放電容量及び急速充電容量の増大を可能とし、併せて、コストダウンに寄与することができる。
【0025】
さらに、前記外装体は、可撓性を有するラミネートフィルムにて形成されていることが好ましい。
【0026】
このように構成した場合には、分解ガスの発生が特に問題となる、可撓性のラミネート外装体を有する電池構成により好適に適用することができる。
【0027】
さらにまた、前記リチウムイオン二次電池は、容量が500mAh以上の大容量二次電池であることが好ましい。
【0028】
このように構成した場合には、分解ガスの発生が特に問題となる、大容量二次電池により好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、経年的に安定して充放電容量を維持すると共に、急速充電容量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のリチウムイオン二次電池の左側面図である。
【図3】図1のリチウムイオン二次電池のA−A線断面図であり、図2における円A´で囲まれた部分の拡大図である。
【図4】図1における内部電極対を説明するための模式的拡大図である。
【図5】正極容量に対する負極容量の比率を変化させた際の容量維持率を検証した結果を示す図である。
【図6】負極活物質をカーボンコーティングしない場合の急速充電容量を検証した結果を示す図である。
【図7】負極活物質をカーボンコーティングした場合の急速充電容量を検証した結果を示す図である。
【図8】負極活物質のプレス密度を変化させた場合のサイクル特性及び急速充電特性を検証した結果を示す図である。
【図9】リチウム塩を単独で用いた場合のサイクル特性及び急速充電特性を検証した結果を示す図であり、(a)はLiPF6を単独で用いた場合、(b)はLiBF4を単独で用いた場合を示す図である。
【図10】リチウム塩の混合比を変化させた場合のサイクル特性及び急速充電特性を検証した結果を示す図である。
【図11】負極活物質にカーボンコーティングをしない状態で、単独リチウム塩と混合リチウム塩とのサイクル特性及び急速充電特性を比較検証した結果を示す図である。
【図12】負極活物質にカーボンコーティングをした状態で、単独リチウム塩と混合リチウム塩とのサイクル特性及び急速充電特性を比較検証した結果を示す図である。
【図13】正極活物質としてコバルト酸リチウムを用い、負極活物質にカーボンコーティングをした状態で負極活物質のプレス密度を所定の範囲とし、単独リチウム塩と混合リチウム塩とのサイクル特性及び急速充電特性を比較検証した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施の形態について、図1〜図4を参照して説明する。ここで、図1は、本発明に係るシート状二次電池の一例を模式的に示す斜視図であり、図2は図1における左側面図である。また、図3は、図1のA−A断面図であり、図2における円A´で囲まれた部分を拡大して示した図であり、図4は、内部電極対の構成を説明するための模式図である。
【0032】
図1〜図3において、10はシート状リチウムイオン二次電池(シート状二次電池)であり、可撓性のラミネート外装体2により内部電極対1及び電解液DLが内部に密封状態に収容されている。具体的には、図3に最も良く示されるように、複数のシート状の正電極1aと複数のシート状の負電極1bとを、セパレータ1cを介して交互に積層して形成した内部電極対1が、電解液DLと共にラミネート外装体2の内部に密封状態に収容されている。さらに、当該内部電極対1における正電極1aと電気的に連結した導電性の正電極リード3a(正電極端子)が、ラミネート外装体2のヒートシール部20を気密に貫通すると共にこのヒートシール部20に固着され、ヒートシール部20を貫通してラミネート外装体2の外部に突出し、引き出された部分が外部端子として用いられるようになっている。また、図示を省略しているが、負電極1bにも導電性の負電極リード3b(負電極端子)が電気的に連結されており、当該負電極端子3bは、図1に示されるようにラミネート外装体2を挟んで、正電極端子3aとは反対側の端部(本例では、図中、下端部)から、正電極端子3aと同様にヒートシール部20を貫通して気密状態で外部に引き出されている。なお、本実施の形態に係るシート状二次電池10は、大容量化を企図したものであり、上述したように積層された多数のシート状電極1a,1bをそれぞれ集約して対応する各電極端子3a,3bに接続しているため、必然的に当該電極端子3a,3bは比較的断面積の大きなものとなっている。
【0033】
本実施の形態において、内部電極対1は、図4に最も良く示されるように、アルミニウム製の正極集電体11の両面に正極活物質12を塗布して形成されたシート状の正電極1aと、アルミニウム製の負極集電体13の両面に負極活物質14を塗布して形成されたシート状の負電極1bとを、セパレータ1cを介して交互に積層してシート状に形成されており、アルミニウム製の正極集電体11及びアルミニウム製の負極集電体13は、共にその厚さが5〜30μm程度の極薄の金属箔として形成されている。なお、電極端子3と連結される各シート状電極1a,1bの端部には、上記活物質は塗布されていない。
【0034】
セパレータ1cは、多孔質膜、不織布、網など、電子絶縁性で正電極1a及び負電極1bとの密着に対して充分な強度を有するものであれば、どのようなものでも使用可能である。材質は特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等の単層多孔質膜及びこれらの多層化した多孔質膜が接着性及び安全性の観点から好ましい。
【0035】
さらに、本実施の形態において、正電極端子3aは正極集電体11と同じアルミニウム製であり、負電極端子3bは負極集電体13と同じアルミニウム製である。ただし、その材質としては特に限定されるものではなく、電気化学的に安定な金属材料を用いることが望ましい。各電極端子3a,3bは板状の端子として形成されており、各シート状電極1a,1bと、対応する各電極端子3a,3bとは、接続抵抗の低減等の観点から超音波溶接により接続されている。また、各電極端子3a,3bの大きさとしては、大容量化(500mAh以上、より好ましくは1000mAh以上)を企図して、その厚さは1.0〜5.0mmに形成されている。
【0036】
内部電極対1と電解液DLとを内部に密封状態に収容する可撓性のラミネート外装体2については、シート状二次電池10の電池ケースとして使用可能な強度を有すると共に収容される電解液DLに対して優れた耐電解液性を有するものであれば特に制限されるものではなく、具体的には、内面側に例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アイオノマー等の耐電解液性及びヒートシール性に優れた熱可塑性樹脂製の内面層を、中間に例えばアルミ箔、ステンレス箔等の可撓性及び強度に優れた金属箔製の中間層を、また、外面側に例えばポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の電気絶縁性に優れた絶縁樹脂製の外面層を有する三層構造のラミネートフィルムを用いて形成することができる。
【0037】
本実施の形態に係るラミネート外装体2は、内面側にポリプロピレン製の内面層2aを、中間にアルミ箔製の中間層2bを、また、外面側にナイロン製の外面層2cを有する三層構造のラミネートフィルムで形成されている。
【0038】
また、本実施の形態において、イオン伝導体として用いる電解液DLに供する溶剤としては、従来の電池に使用されている非水系の有機溶剤を用いることができる。具体的には、溶剤として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチルなどのエステル系溶剤、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤の単独液、及び前述の同一系統の溶剤同士あるいは異種系統の溶剤からなる2種の混合液が使用可能である。
【0039】
一方、有機溶剤中に溶解されるリチウム塩については、比較的導電性が高く水との反応性も高いリチウム塩(以下、良導電性リチウム塩とも称する)と、比較的導電性が低く水との反応性も低いリチウム塩(以下、疎水性リチウム塩とも称する)とを混合した混合リチウム塩を用いている。ここで、良導電性リチウム塩としては、LiPF6,LiCl4等が挙げられる。また、疎水性リチウム塩としては、LiBF4,LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2等が挙げられる。
【0040】
本実施の形態に係る負極活物質14としては、金属リチウムを用いた場合に充放電の際に発生する金属の樹脂状結晶(デンドライト)の析出を未然に防止すると共に熱安定性の向上を図るという観点から、チタン酸リチウム(LTO)を用いている。
【0041】
一方、本実施の形態に係る正極活物質12としては、コストダウンや経年的な充放電容量の維持及び急速充電容量の増大という観点から、リチウム金属酸化物として、リチウムニッケル複合酸化物(LiNi1-x-yMexAlyO2、ここで、x=0.1〜0.3、y=0〜0.05であり、Meとしては、Co,Mn,Fe,Cr等)又はコバルト酸リチウム(LCO)等を用いている。
【0042】
なお、正極側での電解液DLの酸化分解によるガス発生を抑制するという観点からは、正極容量よりも負極容量を小さく設定することが好ましい。ここで、図5は、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた正極の容量(mAh)に対するチタン酸リチウムを負極活物質として用いた負極の容量(mAh)の比率(A/C比)を変化させたときの容量維持率を検証した結果である。図5より理解されるように、A/C比を1.0とした場合には、20サイクル程度で急激に容量維持率が低下することが分かる。一方、A/C比を0.4とした場合には、A/Cを0.5とした場合に比し、容量維持率が低下する傾向が確認されると共に、正極活物質の無駄が多くなりコストアップの要因となる。
【0043】
従って、コストパフォーマンスを考慮した上記A/C比の好適な範囲としては、0.5〜0.9程度であることが好ましい。
【0044】
このように構成したリチウムイオン二次電池10では、充電時にはリチウムが正電極1aの正極活物質12から電解液DL中にリチウムイオンとして抜け出し(脱離)、負電極1bの負極活物質14中に入り込み(挿入)、放電時にはこの負極活物質14中に入り込んだリチウムイオンが電解液DL中に放出され、再び正電極1aの正極活物質12中に戻ることにより充放電を行っている。
【0045】
ところで、このように負極活物質14としてチタン酸リチウムを用い、さらに、正極容量に比し、負極容量を小さく設定(例えば、0.5〜0.9)した場合でも、負電極1b側から電解液DLの分解ガスが発生するという現象が生じていた。そして、かかる現象は、特に、大容量化を企図した電池や可撓性のラミネート外装体2内に内部電極対1を収容した電池構成において、充放電容量を経年的に著しく低下させる要因となることが本発明者らの研究により判明した。これは、大容量化に伴い分解ガスの発生量が増大すると共に、分解ガスの発生により可撓性のラミネート外装体2内の圧力が上昇し、部材間(例えば、電極1a,1bとセパレータ1c間)に隙間を生ぜしめ、かかる隙間が増大することにより、経年的に充放電容量が低下するためと考えられる。
【0046】
このような分解ガスの発生について本発明者らが鋭意検討したところ、以下の2つの要因が存在することが判明した。
(1)チタン酸リチウムの低い導電性(導電率:10-13S/cm)により、リチウムイオンがチタ ン酸リチウムに挿入する際の抵抗が増大して過電圧が発生し、これにより電解液の分解電位に 局所的に到達して電解液を還元分解し分解ガスが発生する。
(2)チタン酸リチウムを含んだ活物質層中の構成粒子に化学吸着した微量水分が徐々に電解質塩と 反応して分解ガスが発生する。
【0047】
そして、負電極1bでの分解ガスの発生を抑制するために、負極活物質14のプレス密度や電解質塩の混合比等を所定の範囲とすることにより分解ガスの発生を抑制して上記充放電容量の経年的な低下を防止すると共に、急速充電容量の増大が可能となることが本発明者らの研究により判明した。
【0048】
以下に、負極活物質14のプレス密度や電解質塩の混合比等を変化させて、経年的な充放電特性(充放電を繰り返した後の電池容量であり、以下、サイクル特性とも称する)及び急速充電特性を測定した結果を実施例として説明する。ただし、以下に示す実施例はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるものではない。
【実施例1】
【0049】
本実施例は、負極活物質の塗布密度(プレス密度)を変化させてサイクル特性及び急速充電特性の変化を検証したものである。
【0050】
一般に、活物質を電極に塗布する際には、当該活物質をN−メチルピロリドン(NMP)等の溶媒中で混連してペーストを作り、かかるペーストを集電体表面に塗布する。
【0051】
ここで、活物質を塗布する際の加熱乾燥により、NMP等の溶媒は揮発して活物質粒子間に隙間が生じ導電性低下の要因となる。このため、ペースト状の活物質を集電体表面に塗工する際には、当該ペースト状の活物質を集電体表面に塗布して乾燥させた後、ローラ部材等で圧接(プレス)して集電体表面上の活物質密度を高めることが好ましい。
【0052】
しかしながら、活物質のプレス密度(集電体表面に圧接塗布された活物質の単位体積当たりの重量)が大き過ぎると、サイクル特性が逆に低下することが本発明者らの研究により判明した。
【0053】
具体的には、分解ガスの発生が問題となる負極側の活物質14のプレス密度を変化させた際のサイクル特性及び急速充電特性を検証評価した。なお、検証条件は、以下の通りとした。
(1)正電極: 正極集電体11として厚さ15μmのシート状のアルミニウム箔を用い、このアルミニウム箔の両面に正極活物質12として戸田工業(株)製のリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)を塗布し、その後、130℃で8h乾燥させて正電極1aを作成した。
(2)負電極: 負極集電体13として厚さ15μmのシート状のアルミニウム箔を用いる点は正電極1aと同様であるが、チタン酸リチウムの低い導電率(10-13S/cm)を補うため、石原産業(株)製のカーボンコーティングしたチタン酸リチウム(チタン酸リチウムに対するカーボンの重量%が1.2〜1.5となるように、チタン酸リチウムの表面をカーボンコーティングしたもの)を負極活物質14として用いた。このように負極活物質(チタン酸リチウム)14の表面をカーボンコーティングすることにより、急速充電容量を増大させることができる(図6、図7参照)。
【0054】
ここで、図6は、負極活物質(チタン酸リチウム)14にカーボンコーティングをせずに急速充電容量を測定した結果を示す図であり、図7は、負極活物質(チタン酸リチウム)14にカーボンコーティング(1.2〜1.5wt%)をして急速充電容量を測定した結果を示す図である。図6及び図7から明らかなように、カーボンコーティングをしない場合には急速充電は5Cまで可能であるのに対し、カーボンコーティングをした場合には、急速充電が10Cまで可能となる。
【0055】
そして、アルミニウム製の負極集電体13の両面に上記負極活物質(カーボンコーティングしたチタン酸リチウム)14を塗布し、130℃で8h乾燥させて負電極1bを作成した。
(3)プレス密度: 正極活物質(リチウムニッケル複合酸化物)12のプレス密度を一定(本例では、3.0g/cc)としたのに対し、負極活物質(チタン酸リチウム)14のプレス密度を表1に示すように変化(1.3〜1.8g/cc)させた。
(4)容量比: 電池容量は、1100mAhとし、正極に対する負極の容量比を0.8とした。
(5)電解液DL: 有機溶剤としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比で3:7に混合した混合溶媒に、リチウム塩としてLiPF6を1.0モル/リットル溶解したものを使用した。
(6)二次電池: 上記正電極1a、負電極1bを、セパレータ1cを介して交互に積層した内部電極対1を作成し、各シート状電極1a,1bの端部を集約して、対応する各電極端子3a,3b上に配置し、超音波溶接等により一体に溶接接続した。そして、両電極端子3a,3bを、対向配置した一対のラミネート外装体2(図1、図2等参照)の相対する二辺から外に引き出した状態で、上下のラミネート外装体2周縁のヒートシール部20をヒートシールしてラミネート外装体2の内部に上記電解液DLと共に内部電極対1を密封状態に収容しリチウムイオン二次電池10を作成した。
【0056】
上記条件に基づいて、負極活物質(チタン酸リチウム)14のプレス密度を表1のように変化(1.3〜1.8g/cc)させた場合のサイクル特性を測定した結果を図8に示す。なお、測定に当たっては、放電時の放電電流は通常の0.5Cとしたのに対し、充電時の充電電流については、急速充電容量を同時に評価するために、急速充電相当の10Cとした。
【表1】
【0057】
図8から理解されるように、負極活物質14のプレス密度を1.3g/cc(比較例1−1)とした場合には、20サイクルを超えた時点で急激に容量が低下し、50サイクル経過後には、容量維持率(初期容量に対する残存容量の比率)は0.2%となり、サイクル特性が著しく低下することが分かる。これは、低いプレス密度に伴う活物質間の隙間が充放電の繰り返しにより増大し導電性が経年的に低下したためと考えられる。
【0058】
一方、負極活物質14のプレス密度を1.8g/cc(比較例1−2)とした場合には、50サイクル経過後の容量維持率は79%であり、比較的高い容量が得られたが負電極1b側から分解ガスの発生が確認された。これは、プレス密度が高すぎると、活物質自体が損傷(結晶構造が破壊)し、かかる損傷により抵抗が増大し分解ガスが発生するためではないかと推定される。
【0059】
これに対して、負極活物質14のプレス密度を1.4(実施例1−1)又は1.7g/cc(実施例1−2)とした場合には、急速充電(10C)を加味した充放電を50サイクル繰り返した後も容量維持率が90%程度であり分解ガスも発生しなかった。
【0060】
すなわち、負極活物質14のプレス密度を1.4〜1.7g/ccとすることにより、10C相当の急速充電特性及びサイクル特性を経年的に安定して得られることが検証できた。
【実施例2】
【0061】
本実施例は、先の実施例の条件に加え、さらに、電解液DL中の電解質塩の混合比(体積比)を変化させてサイクル特性及び急速充電特性の変化を検証したものである。なお、検証条件としては、負極活物質14のプレス密度を1.6g/ccとし、以下の条件を除き実施例1と同様とした。
(1)リチウム塩混合比: 電解液DL中のリチウム塩として、LiPF6とLiBF4とを混合したものを用いた。ここで、LiPF6は、LiBF4に比し、相対的に導電性が高く水との反応性も高い。従って、負極活物質14中の水分との反応によるガスの発生を抑制するためには、疎水性リチウム塩(本例では、LiBF4)の比率を相対的に高めることが好ましく、一方、リチウムイオンの導電性を高めるためには、良導電性リチウム塩(本例では、LiPF6)の比率を高めることが好ましい。そして、LiPF6とLiBF4との混合比率(体積比)を所定の範囲とすることにより負極活物質14中の微量水分との反応を抑制しつつ導電性を維持し、急速充電容量がさらに増大することが本発明者らの研究により判明した。
【0062】
具体的には、以下のようにして良導電性リチウム塩(本例では、LiPF6)と疎水性リチウム塩(本例では、LiBF4)との混合比を変化させた際のサイクル特性及び急速充電特性を検証評価した。
【0063】
より詳細には、まず、リチウム塩として、LiPF6と、LiBF4とをそれぞれ単独で用いた場合のサイクル特性(充電10C/放電0.5C)を測定した。測定結果を図9に示す。
【0064】
図9から明らかなように、LiPF6を単独で用いた場合には、150サイクル経過後に容量が93.5%程度(図9(a)参照)であるのに対し、LiBF4を単独で用いた場合には、150サイクル経過後に容量が67.1%程度に急激に低下(図9(b)参照)することがわかる。
【0065】
そこで、経年的に比較的安定なLiPF6を単独で用いた場合を基準にして、混合比を表2に示すように変化させた場合のサイクル特性を比較評価した。検証結果を図10に示す。
【表2】
【0066】
図10から理解されるように、LiPF6/LiBF4を9:1で混合した場合(実施例2−1)、5:5で混合した場合(実施例2−2)及び3:7で混合した場合(実施例2−3)ではいずれも、リチウム塩(LiPF6)を単独で用いた場合(比較例2−1)に比し、100サイクル経過後の容量がそれぞれ105%(実施例2−1)、108%(実施例2−2)、111%(実施例2−3)と増大しており、10Cで充電した際の容量(急速充電容量)が増大していることが分かる。さらに、サイクル特性も経年的に非常に安定していることがわかる。
【0067】
一方、LiPF6/LiBF4を2:8で混合した場合(比較例2−2)には、100サイクル経過後の容量は、リチウム塩(LiPF6)を単独で用いた場合(比較例2−1)に対して76%であり、経年的に容量が低下していく傾向が確認された。
【0068】
加えて、負極活物質14のカーボンコーティングの有無によらず、混合リチウム塩を用いることにより、サイクル特性が向上されることが本発明者らのさらなる研究により判明した。ここで、図11は、負極活物質14をカーボンコーティングせずに負極活物質14のプレス密度を1.6g/ccとし、単独リチウム塩と混合リチウム塩とを用いて、(充電5C/放電0.5C)の条件にてサイクル特性を比較検証した結果を示す図であり、図12は、負極活物質14をカーボンコーティングして負極活物質14のプレス密度を1.9g/ccとし、単独リチウム塩と混合リチウム塩とを用いて、(充電10C/放電0.5C)の条件にてサイクル特性を比較検証した結果を示す図である。
【0069】
図11より明らかなように、負極活物質14にカーボンコーティングしない態様でも、混合リチウム塩(LiPF6/LiBF4=6:4)を用いた場合の方が、リチウム塩としてLiPF6を単独で用いた場合に比し、50サイクル経過後の容量が12%程度増大していることが分かる。
【0070】
同様に、図12より明らかなように、負極活物質14のプレス密度を1.9g/ccとした態様でも、カーボンコーティングをすることにより、急速充電が10Cまで可能となると共に、リチウム塩としてLiPF6を単独で用いた場合に比し、30サイクル経過後の容量が12%程度増大していることが分かる。
【0071】
すなわち、急速充電容量をより増大させるためには、負極活物質14をカーボンコーティングすることが好ましいが、混合リチウム塩を用いることにより5C程度の急速充電特性を確保すると共にサイクル特性を向上させることができる。
【0072】
なお、上記実施例においては、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物(LiNi1-x-yMexAlyO2)を用いた場合を例示したが、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LCO)を用いた場合でも、負極活物質14のプレス密度(例えば、1.6g/cc)及びリチウム混合塩の混合比(例えば、LiPF6/LiBF4=8:2)を所定の範囲とすることにより、図13に示すように、急速充電特性及びサイクル特性が向上し得ることが確認できた。
【0073】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池によれば、負極活物質14のプレス密度を所定の範囲に設定することにより、急速充電特性を加味したサイクル特性を向上することができる。
【0074】
また、リチウム塩として良導電性リチウム塩(本例では、LiPF6)と疎水性リチウム塩(本例では、LiBF4)との混合物を用い、当該リチウム塩の混合比(体積比)をLiPF6/LiBF4=9:1〜3:7の範囲とすることにより、経年的な充放電容量をさらに安定して維持することができると共に、単独のリチウム塩を用いた場合よりも電池容量を増大させることがきる。
【0075】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、可撓性を有するラミネート外装体2内に内部電極対1を収容した電池構成に好適であるが、分解ガスによる構成部材の変性を抑制するという観点からは、剛性を有する外装体に収容した電池構成(例えば、コイン型電池等)にも当然に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1:内部電極対、1a:シート状正電極、1b:シート状負電極、1c:セパレータ、2:ラミネート外装体、2a:内面層、2b:中間層、2c:外面層、3a:正電極端子、3b:負電極端子、10:リチウムイオン二次電池、11:正極集電体、12:正極活物質、13:負極集電体、14:負極活物質、20:ヒートシール部、DL:電解液
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極にリチウムニッケル複合酸化物等のリチウム金属酸化物を用いると共に、負極にチタン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器に対する小型・軽量化への要望は非常に強く、そのためには動力源である二次電池の性能向上が要求され、種々の電池の開発や改良が進められてきている。例えば、リチウムイオン二次電池は、現有する電池の中で最も高電圧、高エネルギー密度、耐高負荷化が実現できる二次電池であり、電気自動車やハイブリッド自動車等の分野で用いられる大容量二次電池として期待されている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池として、充放電の際の電極の膨張収縮が小さく熱安定性に優れ長寿命化が可能であるという特性から、負極にチタン酸リチウムを用いたリチウムイオン二次電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ここで、特許文献1には、有機溶媒中にリチウム塩を溶解した電界液を用いて、正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いると共に、負極活物質にチタン酸リチウム(Li4/3Ti5/3O4)を用い、正極活物質に対する負極活物質の重量比率を0.6以上1.0未満としたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、有機溶媒中にリチウム塩を溶解した電界液を用いて、正極活物質にニッケルを含むリチウム金属酸化物を用いると共に、負極活物質にチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)を用い、正極活物質に対する負極活物質の重量比率を0.5以上1.2未満としたリチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−335261号公報
【特許文献2】特開2008−293997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、正極にコバルト酸リチウムやニッケル酸リチウム等のリチウム金属酸化物を用いた場合には、リチウムイオンの吸蔵、放出が繰り返されると活物質の結晶構造が破壊されることによる充放電容量の低下と共に、結晶破壊により充電時に正極電位が上昇し電解液が酸化分解されて充放電容量が低下するといった問題が生じていた。
【0008】
このような問題に対して、上述の特許文献1,2に開示された先行技術においては、負極のチタン酸リチウムの容量を正極のコバルト酸リチウムの容量よりも小さい所定の重量比率に設定することにより、正極側での電解液の酸化分解等を抑制可能とするものの、負極側に分解ガスが発生するといった現象が生じていた。そして、かかる分解ガスは、電池内の構成部材の特性を経年的に変化させるといった問題が生じていた。
【0009】
特に、可撓性を有するラミネート外装体内に内部電極対を収容した構成の二次電池においては、分解ガスの発生によりシート状電極等の構成部材の間隔等が変化し、充放電容量を経年的に著しく低下させるといった問題が生じていた。
【0010】
また近年は、リチウムイオン二次電池の電気自動車等への適用拡大に伴い、短時間で充電可能な大容量の二次電池が求められているが、上記先行技術においては、十分な急速充電容量が得られないといった問題が生じていた。
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、経年的に安定して充放電容量を維持すると共に、急速充電容量を増大させることができるリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、前記負極活物質の容量は、前記正極活物質の容量よりも小さく設定されていると共に、前記負極活物質のプレス密度は、1.4〜1.7g/ccであることを特徴とするものである。
【0013】
ここで、プレス密度とは、電極に塗布された活物質をローラ部材等で圧接して得られる単位体積当たりの活物質の重量をいうものとする。
【0014】
このように構成した場合には、電解液の分解ガスの発生を抑制して、経年的に安定した充放電容量を維持すると共に、急速充電容量の増大を実現することができる。
【0015】
また、前記電解液中のリチウム塩として、導電性が高く親水性を有する良導電性リチウム塩と、導電性が低く疎水性を有する疎水性リチウム塩とを混合したものを用いることができる。
【0016】
このように構成した場合には、負極活物質中の水分との反応によるガスの発生を抑制しつつ、導電性を確保することができる。
【0017】
さらに、前記良導電性リチウム塩は、LiPF6であると共に、前記疎水性リチウム塩は、LiBF4であり、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることが好ましい。
【0018】
このように構成した場合には、負極活物質中の水分との反応によるガスの発生を抑制しつつ、導電性を確保する混合リチウム塩を容易に実現することができる。
【0019】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、前記電解液中のリチウム塩として、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることを特徴とするものである。
【0020】
このように構成した場合には、単独のリチウム塩を用いた場合に比し、ある程度の急速充電容量を確保すると共にサイクル特性を向上させることができる。
【0021】
以上において、前記負極活物質は、チタン酸リチウムに対するカーボンの重量比が1.2〜1.5%となるように、チタン酸リチウムの表面がカーボンコーティングされていることが好ましい。
【0022】
このように構成した場合には、チタン酸リチウムの低い導電性を補って急速充電容量をより増大させることができる。
【0023】
また、前記シート状正電極は、アルミニウム製の正極集電体に正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物が塗布されて形成されていると共に、正極と負極との容量比を0.5〜0.9とすることが好ましい。
【0024】
このように構成した場合には、正極側での電解液の酸化分解を防止すると共に、経年的に安定した充放電容量及び急速充電容量の増大を可能とし、併せて、コストダウンに寄与することができる。
【0025】
さらに、前記外装体は、可撓性を有するラミネートフィルムにて形成されていることが好ましい。
【0026】
このように構成した場合には、分解ガスの発生が特に問題となる、可撓性のラミネート外装体を有する電池構成により好適に適用することができる。
【0027】
さらにまた、前記リチウムイオン二次電池は、容量が500mAh以上の大容量二次電池であることが好ましい。
【0028】
このように構成した場合には、分解ガスの発生が特に問題となる、大容量二次電池により好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、経年的に安定して充放電容量を維持すると共に、急速充電容量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のリチウムイオン二次電池の左側面図である。
【図3】図1のリチウムイオン二次電池のA−A線断面図であり、図2における円A´で囲まれた部分の拡大図である。
【図4】図1における内部電極対を説明するための模式的拡大図である。
【図5】正極容量に対する負極容量の比率を変化させた際の容量維持率を検証した結果を示す図である。
【図6】負極活物質をカーボンコーティングしない場合の急速充電容量を検証した結果を示す図である。
【図7】負極活物質をカーボンコーティングした場合の急速充電容量を検証した結果を示す図である。
【図8】負極活物質のプレス密度を変化させた場合のサイクル特性及び急速充電特性を検証した結果を示す図である。
【図9】リチウム塩を単独で用いた場合のサイクル特性及び急速充電特性を検証した結果を示す図であり、(a)はLiPF6を単独で用いた場合、(b)はLiBF4を単独で用いた場合を示す図である。
【図10】リチウム塩の混合比を変化させた場合のサイクル特性及び急速充電特性を検証した結果を示す図である。
【図11】負極活物質にカーボンコーティングをしない状態で、単独リチウム塩と混合リチウム塩とのサイクル特性及び急速充電特性を比較検証した結果を示す図である。
【図12】負極活物質にカーボンコーティングをした状態で、単独リチウム塩と混合リチウム塩とのサイクル特性及び急速充電特性を比較検証した結果を示す図である。
【図13】正極活物質としてコバルト酸リチウムを用い、負極活物質にカーボンコーティングをした状態で負極活物質のプレス密度を所定の範囲とし、単独リチウム塩と混合リチウム塩とのサイクル特性及び急速充電特性を比較検証した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の一実施の形態について、図1〜図4を参照して説明する。ここで、図1は、本発明に係るシート状二次電池の一例を模式的に示す斜視図であり、図2は図1における左側面図である。また、図3は、図1のA−A断面図であり、図2における円A´で囲まれた部分を拡大して示した図であり、図4は、内部電極対の構成を説明するための模式図である。
【0032】
図1〜図3において、10はシート状リチウムイオン二次電池(シート状二次電池)であり、可撓性のラミネート外装体2により内部電極対1及び電解液DLが内部に密封状態に収容されている。具体的には、図3に最も良く示されるように、複数のシート状の正電極1aと複数のシート状の負電極1bとを、セパレータ1cを介して交互に積層して形成した内部電極対1が、電解液DLと共にラミネート外装体2の内部に密封状態に収容されている。さらに、当該内部電極対1における正電極1aと電気的に連結した導電性の正電極リード3a(正電極端子)が、ラミネート外装体2のヒートシール部20を気密に貫通すると共にこのヒートシール部20に固着され、ヒートシール部20を貫通してラミネート外装体2の外部に突出し、引き出された部分が外部端子として用いられるようになっている。また、図示を省略しているが、負電極1bにも導電性の負電極リード3b(負電極端子)が電気的に連結されており、当該負電極端子3bは、図1に示されるようにラミネート外装体2を挟んで、正電極端子3aとは反対側の端部(本例では、図中、下端部)から、正電極端子3aと同様にヒートシール部20を貫通して気密状態で外部に引き出されている。なお、本実施の形態に係るシート状二次電池10は、大容量化を企図したものであり、上述したように積層された多数のシート状電極1a,1bをそれぞれ集約して対応する各電極端子3a,3bに接続しているため、必然的に当該電極端子3a,3bは比較的断面積の大きなものとなっている。
【0033】
本実施の形態において、内部電極対1は、図4に最も良く示されるように、アルミニウム製の正極集電体11の両面に正極活物質12を塗布して形成されたシート状の正電極1aと、アルミニウム製の負極集電体13の両面に負極活物質14を塗布して形成されたシート状の負電極1bとを、セパレータ1cを介して交互に積層してシート状に形成されており、アルミニウム製の正極集電体11及びアルミニウム製の負極集電体13は、共にその厚さが5〜30μm程度の極薄の金属箔として形成されている。なお、電極端子3と連結される各シート状電極1a,1bの端部には、上記活物質は塗布されていない。
【0034】
セパレータ1cは、多孔質膜、不織布、網など、電子絶縁性で正電極1a及び負電極1bとの密着に対して充分な強度を有するものであれば、どのようなものでも使用可能である。材質は特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン等の単層多孔質膜及びこれらの多層化した多孔質膜が接着性及び安全性の観点から好ましい。
【0035】
さらに、本実施の形態において、正電極端子3aは正極集電体11と同じアルミニウム製であり、負電極端子3bは負極集電体13と同じアルミニウム製である。ただし、その材質としては特に限定されるものではなく、電気化学的に安定な金属材料を用いることが望ましい。各電極端子3a,3bは板状の端子として形成されており、各シート状電極1a,1bと、対応する各電極端子3a,3bとは、接続抵抗の低減等の観点から超音波溶接により接続されている。また、各電極端子3a,3bの大きさとしては、大容量化(500mAh以上、より好ましくは1000mAh以上)を企図して、その厚さは1.0〜5.0mmに形成されている。
【0036】
内部電極対1と電解液DLとを内部に密封状態に収容する可撓性のラミネート外装体2については、シート状二次電池10の電池ケースとして使用可能な強度を有すると共に収容される電解液DLに対して優れた耐電解液性を有するものであれば特に制限されるものではなく、具体的には、内面側に例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、アイオノマー等の耐電解液性及びヒートシール性に優れた熱可塑性樹脂製の内面層を、中間に例えばアルミ箔、ステンレス箔等の可撓性及び強度に優れた金属箔製の中間層を、また、外面側に例えばポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の電気絶縁性に優れた絶縁樹脂製の外面層を有する三層構造のラミネートフィルムを用いて形成することができる。
【0037】
本実施の形態に係るラミネート外装体2は、内面側にポリプロピレン製の内面層2aを、中間にアルミ箔製の中間層2bを、また、外面側にナイロン製の外面層2cを有する三層構造のラミネートフィルムで形成されている。
【0038】
また、本実施の形態において、イオン伝導体として用いる電解液DLに供する溶剤としては、従来の電池に使用されている非水系の有機溶剤を用いることができる。具体的には、溶剤として、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルエチルなどのエステル系溶剤、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、ジメチルエーテルなどのエーテル系溶剤の単独液、及び前述の同一系統の溶剤同士あるいは異種系統の溶剤からなる2種の混合液が使用可能である。
【0039】
一方、有機溶剤中に溶解されるリチウム塩については、比較的導電性が高く水との反応性も高いリチウム塩(以下、良導電性リチウム塩とも称する)と、比較的導電性が低く水との反応性も低いリチウム塩(以下、疎水性リチウム塩とも称する)とを混合した混合リチウム塩を用いている。ここで、良導電性リチウム塩としては、LiPF6,LiCl4等が挙げられる。また、疎水性リチウム塩としては、LiBF4,LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2等が挙げられる。
【0040】
本実施の形態に係る負極活物質14としては、金属リチウムを用いた場合に充放電の際に発生する金属の樹脂状結晶(デンドライト)の析出を未然に防止すると共に熱安定性の向上を図るという観点から、チタン酸リチウム(LTO)を用いている。
【0041】
一方、本実施の形態に係る正極活物質12としては、コストダウンや経年的な充放電容量の維持及び急速充電容量の増大という観点から、リチウム金属酸化物として、リチウムニッケル複合酸化物(LiNi1-x-yMexAlyO2、ここで、x=0.1〜0.3、y=0〜0.05であり、Meとしては、Co,Mn,Fe,Cr等)又はコバルト酸リチウム(LCO)等を用いている。
【0042】
なお、正極側での電解液DLの酸化分解によるガス発生を抑制するという観点からは、正極容量よりも負極容量を小さく設定することが好ましい。ここで、図5は、リチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いた正極の容量(mAh)に対するチタン酸リチウムを負極活物質として用いた負極の容量(mAh)の比率(A/C比)を変化させたときの容量維持率を検証した結果である。図5より理解されるように、A/C比を1.0とした場合には、20サイクル程度で急激に容量維持率が低下することが分かる。一方、A/C比を0.4とした場合には、A/Cを0.5とした場合に比し、容量維持率が低下する傾向が確認されると共に、正極活物質の無駄が多くなりコストアップの要因となる。
【0043】
従って、コストパフォーマンスを考慮した上記A/C比の好適な範囲としては、0.5〜0.9程度であることが好ましい。
【0044】
このように構成したリチウムイオン二次電池10では、充電時にはリチウムが正電極1aの正極活物質12から電解液DL中にリチウムイオンとして抜け出し(脱離)、負電極1bの負極活物質14中に入り込み(挿入)、放電時にはこの負極活物質14中に入り込んだリチウムイオンが電解液DL中に放出され、再び正電極1aの正極活物質12中に戻ることにより充放電を行っている。
【0045】
ところで、このように負極活物質14としてチタン酸リチウムを用い、さらに、正極容量に比し、負極容量を小さく設定(例えば、0.5〜0.9)した場合でも、負電極1b側から電解液DLの分解ガスが発生するという現象が生じていた。そして、かかる現象は、特に、大容量化を企図した電池や可撓性のラミネート外装体2内に内部電極対1を収容した電池構成において、充放電容量を経年的に著しく低下させる要因となることが本発明者らの研究により判明した。これは、大容量化に伴い分解ガスの発生量が増大すると共に、分解ガスの発生により可撓性のラミネート外装体2内の圧力が上昇し、部材間(例えば、電極1a,1bとセパレータ1c間)に隙間を生ぜしめ、かかる隙間が増大することにより、経年的に充放電容量が低下するためと考えられる。
【0046】
このような分解ガスの発生について本発明者らが鋭意検討したところ、以下の2つの要因が存在することが判明した。
(1)チタン酸リチウムの低い導電性(導電率:10-13S/cm)により、リチウムイオンがチタ ン酸リチウムに挿入する際の抵抗が増大して過電圧が発生し、これにより電解液の分解電位に 局所的に到達して電解液を還元分解し分解ガスが発生する。
(2)チタン酸リチウムを含んだ活物質層中の構成粒子に化学吸着した微量水分が徐々に電解質塩と 反応して分解ガスが発生する。
【0047】
そして、負電極1bでの分解ガスの発生を抑制するために、負極活物質14のプレス密度や電解質塩の混合比等を所定の範囲とすることにより分解ガスの発生を抑制して上記充放電容量の経年的な低下を防止すると共に、急速充電容量の増大が可能となることが本発明者らの研究により判明した。
【0048】
以下に、負極活物質14のプレス密度や電解質塩の混合比等を変化させて、経年的な充放電特性(充放電を繰り返した後の電池容量であり、以下、サイクル特性とも称する)及び急速充電特性を測定した結果を実施例として説明する。ただし、以下に示す実施例はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるものではない。
【実施例1】
【0049】
本実施例は、負極活物質の塗布密度(プレス密度)を変化させてサイクル特性及び急速充電特性の変化を検証したものである。
【0050】
一般に、活物質を電極に塗布する際には、当該活物質をN−メチルピロリドン(NMP)等の溶媒中で混連してペーストを作り、かかるペーストを集電体表面に塗布する。
【0051】
ここで、活物質を塗布する際の加熱乾燥により、NMP等の溶媒は揮発して活物質粒子間に隙間が生じ導電性低下の要因となる。このため、ペースト状の活物質を集電体表面に塗工する際には、当該ペースト状の活物質を集電体表面に塗布して乾燥させた後、ローラ部材等で圧接(プレス)して集電体表面上の活物質密度を高めることが好ましい。
【0052】
しかしながら、活物質のプレス密度(集電体表面に圧接塗布された活物質の単位体積当たりの重量)が大き過ぎると、サイクル特性が逆に低下することが本発明者らの研究により判明した。
【0053】
具体的には、分解ガスの発生が問題となる負極側の活物質14のプレス密度を変化させた際のサイクル特性及び急速充電特性を検証評価した。なお、検証条件は、以下の通りとした。
(1)正電極: 正極集電体11として厚さ15μmのシート状のアルミニウム箔を用い、このアルミニウム箔の両面に正極活物質12として戸田工業(株)製のリチウムニッケル複合酸化物(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)を塗布し、その後、130℃で8h乾燥させて正電極1aを作成した。
(2)負電極: 負極集電体13として厚さ15μmのシート状のアルミニウム箔を用いる点は正電極1aと同様であるが、チタン酸リチウムの低い導電率(10-13S/cm)を補うため、石原産業(株)製のカーボンコーティングしたチタン酸リチウム(チタン酸リチウムに対するカーボンの重量%が1.2〜1.5となるように、チタン酸リチウムの表面をカーボンコーティングしたもの)を負極活物質14として用いた。このように負極活物質(チタン酸リチウム)14の表面をカーボンコーティングすることにより、急速充電容量を増大させることができる(図6、図7参照)。
【0054】
ここで、図6は、負極活物質(チタン酸リチウム)14にカーボンコーティングをせずに急速充電容量を測定した結果を示す図であり、図7は、負極活物質(チタン酸リチウム)14にカーボンコーティング(1.2〜1.5wt%)をして急速充電容量を測定した結果を示す図である。図6及び図7から明らかなように、カーボンコーティングをしない場合には急速充電は5Cまで可能であるのに対し、カーボンコーティングをした場合には、急速充電が10Cまで可能となる。
【0055】
そして、アルミニウム製の負極集電体13の両面に上記負極活物質(カーボンコーティングしたチタン酸リチウム)14を塗布し、130℃で8h乾燥させて負電極1bを作成した。
(3)プレス密度: 正極活物質(リチウムニッケル複合酸化物)12のプレス密度を一定(本例では、3.0g/cc)としたのに対し、負極活物質(チタン酸リチウム)14のプレス密度を表1に示すように変化(1.3〜1.8g/cc)させた。
(4)容量比: 電池容量は、1100mAhとし、正極に対する負極の容量比を0.8とした。
(5)電解液DL: 有機溶剤としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比で3:7に混合した混合溶媒に、リチウム塩としてLiPF6を1.0モル/リットル溶解したものを使用した。
(6)二次電池: 上記正電極1a、負電極1bを、セパレータ1cを介して交互に積層した内部電極対1を作成し、各シート状電極1a,1bの端部を集約して、対応する各電極端子3a,3b上に配置し、超音波溶接等により一体に溶接接続した。そして、両電極端子3a,3bを、対向配置した一対のラミネート外装体2(図1、図2等参照)の相対する二辺から外に引き出した状態で、上下のラミネート外装体2周縁のヒートシール部20をヒートシールしてラミネート外装体2の内部に上記電解液DLと共に内部電極対1を密封状態に収容しリチウムイオン二次電池10を作成した。
【0056】
上記条件に基づいて、負極活物質(チタン酸リチウム)14のプレス密度を表1のように変化(1.3〜1.8g/cc)させた場合のサイクル特性を測定した結果を図8に示す。なお、測定に当たっては、放電時の放電電流は通常の0.5Cとしたのに対し、充電時の充電電流については、急速充電容量を同時に評価するために、急速充電相当の10Cとした。
【表1】
【0057】
図8から理解されるように、負極活物質14のプレス密度を1.3g/cc(比較例1−1)とした場合には、20サイクルを超えた時点で急激に容量が低下し、50サイクル経過後には、容量維持率(初期容量に対する残存容量の比率)は0.2%となり、サイクル特性が著しく低下することが分かる。これは、低いプレス密度に伴う活物質間の隙間が充放電の繰り返しにより増大し導電性が経年的に低下したためと考えられる。
【0058】
一方、負極活物質14のプレス密度を1.8g/cc(比較例1−2)とした場合には、50サイクル経過後の容量維持率は79%であり、比較的高い容量が得られたが負電極1b側から分解ガスの発生が確認された。これは、プレス密度が高すぎると、活物質自体が損傷(結晶構造が破壊)し、かかる損傷により抵抗が増大し分解ガスが発生するためではないかと推定される。
【0059】
これに対して、負極活物質14のプレス密度を1.4(実施例1−1)又は1.7g/cc(実施例1−2)とした場合には、急速充電(10C)を加味した充放電を50サイクル繰り返した後も容量維持率が90%程度であり分解ガスも発生しなかった。
【0060】
すなわち、負極活物質14のプレス密度を1.4〜1.7g/ccとすることにより、10C相当の急速充電特性及びサイクル特性を経年的に安定して得られることが検証できた。
【実施例2】
【0061】
本実施例は、先の実施例の条件に加え、さらに、電解液DL中の電解質塩の混合比(体積比)を変化させてサイクル特性及び急速充電特性の変化を検証したものである。なお、検証条件としては、負極活物質14のプレス密度を1.6g/ccとし、以下の条件を除き実施例1と同様とした。
(1)リチウム塩混合比: 電解液DL中のリチウム塩として、LiPF6とLiBF4とを混合したものを用いた。ここで、LiPF6は、LiBF4に比し、相対的に導電性が高く水との反応性も高い。従って、負極活物質14中の水分との反応によるガスの発生を抑制するためには、疎水性リチウム塩(本例では、LiBF4)の比率を相対的に高めることが好ましく、一方、リチウムイオンの導電性を高めるためには、良導電性リチウム塩(本例では、LiPF6)の比率を高めることが好ましい。そして、LiPF6とLiBF4との混合比率(体積比)を所定の範囲とすることにより負極活物質14中の微量水分との反応を抑制しつつ導電性を維持し、急速充電容量がさらに増大することが本発明者らの研究により判明した。
【0062】
具体的には、以下のようにして良導電性リチウム塩(本例では、LiPF6)と疎水性リチウム塩(本例では、LiBF4)との混合比を変化させた際のサイクル特性及び急速充電特性を検証評価した。
【0063】
より詳細には、まず、リチウム塩として、LiPF6と、LiBF4とをそれぞれ単独で用いた場合のサイクル特性(充電10C/放電0.5C)を測定した。測定結果を図9に示す。
【0064】
図9から明らかなように、LiPF6を単独で用いた場合には、150サイクル経過後に容量が93.5%程度(図9(a)参照)であるのに対し、LiBF4を単独で用いた場合には、150サイクル経過後に容量が67.1%程度に急激に低下(図9(b)参照)することがわかる。
【0065】
そこで、経年的に比較的安定なLiPF6を単独で用いた場合を基準にして、混合比を表2に示すように変化させた場合のサイクル特性を比較評価した。検証結果を図10に示す。
【表2】
【0066】
図10から理解されるように、LiPF6/LiBF4を9:1で混合した場合(実施例2−1)、5:5で混合した場合(実施例2−2)及び3:7で混合した場合(実施例2−3)ではいずれも、リチウム塩(LiPF6)を単独で用いた場合(比較例2−1)に比し、100サイクル経過後の容量がそれぞれ105%(実施例2−1)、108%(実施例2−2)、111%(実施例2−3)と増大しており、10Cで充電した際の容量(急速充電容量)が増大していることが分かる。さらに、サイクル特性も経年的に非常に安定していることがわかる。
【0067】
一方、LiPF6/LiBF4を2:8で混合した場合(比較例2−2)には、100サイクル経過後の容量は、リチウム塩(LiPF6)を単独で用いた場合(比較例2−1)に対して76%であり、経年的に容量が低下していく傾向が確認された。
【0068】
加えて、負極活物質14のカーボンコーティングの有無によらず、混合リチウム塩を用いることにより、サイクル特性が向上されることが本発明者らのさらなる研究により判明した。ここで、図11は、負極活物質14をカーボンコーティングせずに負極活物質14のプレス密度を1.6g/ccとし、単独リチウム塩と混合リチウム塩とを用いて、(充電5C/放電0.5C)の条件にてサイクル特性を比較検証した結果を示す図であり、図12は、負極活物質14をカーボンコーティングして負極活物質14のプレス密度を1.9g/ccとし、単独リチウム塩と混合リチウム塩とを用いて、(充電10C/放電0.5C)の条件にてサイクル特性を比較検証した結果を示す図である。
【0069】
図11より明らかなように、負極活物質14にカーボンコーティングしない態様でも、混合リチウム塩(LiPF6/LiBF4=6:4)を用いた場合の方が、リチウム塩としてLiPF6を単独で用いた場合に比し、50サイクル経過後の容量が12%程度増大していることが分かる。
【0070】
同様に、図12より明らかなように、負極活物質14のプレス密度を1.9g/ccとした態様でも、カーボンコーティングをすることにより、急速充電が10Cまで可能となると共に、リチウム塩としてLiPF6を単独で用いた場合に比し、30サイクル経過後の容量が12%程度増大していることが分かる。
【0071】
すなわち、急速充電容量をより増大させるためには、負極活物質14をカーボンコーティングすることが好ましいが、混合リチウム塩を用いることにより5C程度の急速充電特性を確保すると共にサイクル特性を向上させることができる。
【0072】
なお、上記実施例においては、正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物(LiNi1-x-yMexAlyO2)を用いた場合を例示したが、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LCO)を用いた場合でも、負極活物質14のプレス密度(例えば、1.6g/cc)及びリチウム混合塩の混合比(例えば、LiPF6/LiBF4=8:2)を所定の範囲とすることにより、図13に示すように、急速充電特性及びサイクル特性が向上し得ることが確認できた。
【0073】
以上、本発明のリチウムイオン二次電池によれば、負極活物質14のプレス密度を所定の範囲に設定することにより、急速充電特性を加味したサイクル特性を向上することができる。
【0074】
また、リチウム塩として良導電性リチウム塩(本例では、LiPF6)と疎水性リチウム塩(本例では、LiBF4)との混合物を用い、当該リチウム塩の混合比(体積比)をLiPF6/LiBF4=9:1〜3:7の範囲とすることにより、経年的な充放電容量をさらに安定して維持することができると共に、単独のリチウム塩を用いた場合よりも電池容量を増大させることがきる。
【0075】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、可撓性を有するラミネート外装体2内に内部電極対1を収容した電池構成に好適であるが、分解ガスによる構成部材の変性を抑制するという観点からは、剛性を有する外装体に収容した電池構成(例えば、コイン型電池等)にも当然に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1:内部電極対、1a:シート状正電極、1b:シート状負電極、1c:セパレータ、2:ラミネート外装体、2a:内面層、2b:中間層、2c:外面層、3a:正電極端子、3b:負電極端子、10:リチウムイオン二次電池、11:正極集電体、12:正極活物質、13:負極集電体、14:負極活物質、20:ヒートシール部、DL:電解液
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質の容量は、前記正極活物質の容量よりも小さく設定されていると共に、前記負極活物質のプレス密度は、1.4〜1.7g/ccであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記電解液中のリチウム塩として、導電性が高く親水性を有する良導電性リチウム塩と、導電性が低く疎水性を有する疎水性リチウム塩とを混合したものを用いることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記良導電性リチウム塩は、LiPF6であると共に、前記疎水性リチウム塩は、LiBF4であり、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液中のリチウム塩として、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質は、チタン酸リチウムに対するカーボンの重量比が1.2〜1.5%となるように、チタン酸リチウムの表面がカーボンコーティングされていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記シート状正電極は、アルミニウム製の正極集電体に正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物が塗布されて形成されていると共に、正極と負極との容量比を0.5〜0.9とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記外装体は、可撓性を有するラミネートフィルムにて形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記リチウムイオン二次電池は、容量が500mAh以上の大容量二次電池であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項1】
リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記負極活物質の容量は、前記正極活物質の容量よりも小さく設定されていると共に、前記負極活物質のプレス密度は、1.4〜1.7g/ccであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記電解液中のリチウム塩として、導電性が高く親水性を有する良導電性リチウム塩と、導電性が低く疎水性を有する疎水性リチウム塩とを混合したものを用いることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記良導電性リチウム塩は、LiPF6であると共に、前記疎水性リチウム塩は、LiBF4であり、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
リチウム金属酸化物を正極活物質として用いたシート状正電極と、チタン酸リチウムを負極活物質として用いたシート状負電極とをセパレータを介して交互に積層した内部電極対と、当該内部電極対を電解液と共に密封状態に収容する外装体とを備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記電解液中のリチウム塩として、LiPF6とLiBF4とを体積比で9:1〜3:7に混合したものを用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記負極活物質は、チタン酸リチウムに対するカーボンの重量比が1.2〜1.5%となるように、チタン酸リチウムの表面がカーボンコーティングされていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記シート状正電極は、アルミニウム製の正極集電体に正極活物質としてリチウムニッケル複合酸化物が塗布されて形成されていると共に、正極と負極との容量比を0.5〜0.9とすることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記外装体は、可撓性を有するラミネートフィルムにて形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記リチウムイオン二次電池は、容量が500mAh以上の大容量二次電池であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−14968(P2012−14968A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−150779(P2010−150779)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(397009152)エナックス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(397009152)エナックス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
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