説明

リチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質及びそれを用いたリチウムイオン蓄電デバイス

【課題】リチウムイオン蓄電デバイスの高負荷充放電時の特性と、作動温度範囲
を広くする。
【解決手段】リチウムイオン蓄電デバイスで使用する正極用活物質として、BET比表面積を1500m2/g以上〜3000m2/g以下の範囲内に限定し、且つ細孔直径範囲0.6〜200nmの細孔容積に占める細孔直径範囲0.6〜1nmの細孔容積の比Aを0≦A≦0.80の範囲にし、且つ細孔直径範囲0.6〜200nmの細孔容積に占める細孔直径範囲1〜6nmの細孔容積の比Bを0.20≦B≦1.0の範囲にする。かかる構成を採用することで、高負荷充放電特性の改善と、併せて−30℃でも十分に作動できるリチウムイオン蓄電デバイスを提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電デバイスの技術に関し、特にリチウムイオン蓄電デバイスの正極に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
以下に説明する技術は、本発明を完成するに際し、本発明者によって検討されたものであり、その概要は次のとおりである。
【0003】
近年、車社会の排気ガス等の大気に対する環境問題が、クローズアップされている。かかる中、環境にやさしい電気自動車等の開発が行われている。電気自動車の開発に当たっては、特に電源となる蓄電デバイスの開発が盛んである。旧来の鉛蓄電池に代わり、種々の形式の蓄電デバイスが提案されている。かかる蓄電デバイスのうち、エネルギーの有効活用によりCO2の排出量を削減できる技術として、エネルギーの急速回生能力に優れた電気二重層キャパシタが注目を集めている。しかし、電気二重層キャパシタはエネルギー密度に課題を有しており、未だ10Wh/kgを超える電気二重層キャパシタは実用化されていない。
【0004】
かかる中、この電気二重層キャパシタの欠点を克服するために、正極に活性炭、負極にリチウムイオンを吸蔵・脱離可能な炭素材料、電解液にリチウム塩の非プロトン性有機電解質溶液を用い、正極および/又は負極にリチウムイオンを予めドーピングさせることで高電圧化したリチウムイオンキャパシタが提案された。かかるリチウムイオンキャパシタは、10Wh/kgを超えるエネルギー密度を有し、かつ電気二重層キャパシタと同等以上の高出力密度、サイクル特性を有するもので、更なる研究開発が行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、細孔半径1〜40Å(0.1〜4nm)の細孔容積が全細孔容積の80%以上で、かつ全細孔容積が0.4〜1.5cc/gの範囲にある活性炭粒子を、リチウムイオンキャパシタの正極活物質として用いる提案がなされている。かかる構成を採用することで、リチウムイオンキャパシタのエネルギー密度、および出力密度をさらに高めることが可能と記載されている。
【特許文献1】特開2006−286923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の如く、電極を構成する活物質の細孔容積を特定範囲に制限することで、その特性改善を図ろうとする研究が盛んに行われている。しかし、前記特許文献1に記載の細孔容積は、極めて広い範囲で規定されている。すなわち、細孔半径が1〜40Å(0.1〜4nm)の細孔容積が全細孔容積の80%以上であるとの規定では、かかる規定外の活性炭は殆ど世には存在しないこととなってしまう。
【0007】
さらには、電気二重層キャパシタ用電極材として用いるためには、高い静電容量を発現できるように1500m2/g以上の比表面積を有する活性炭を用いることが好ましいとされている。しかし、通常、比表面積が1500m2/g以上になると、通常の活性炭の細孔容積は0.4cc/g以上となる。すなわち、特許文献1に数値限定する全細孔容積の0.4〜1.5cc/g内に入ってしまうのである。
【0008】
このように特許文献1に記載の規定を有する活性炭では、既に公知の活性炭と重複する範囲が殆どで、その目的とする効果は得られにくいものと考えられる。入出力特性に優れるリチウムイオンキャパシタの正極活物質としては、アニオンおよびリチウムイオンを可逆的に、かつ素早く吸脱着できることが要求される。上記の如く、限定範囲が広い活物質の活性炭では、期待される高出力密度は得られないものと考えられる。さらには、記載の細孔直径の範囲では、低温における負荷特性、特に入力側において十分な特性が得られないことも思料される。
【0009】
本発明の目的は、リチウムイオン蓄電デバイスの高負荷充放電時の特性と、作動温度範囲を広くする技術を提供することにある。
【0010】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。すなわち、リチウムイオン蓄電デバイスの正極用活物質のBET比表面積を1500m2/g以上〜3000m2/g以下に、その細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比Aを0≦A≦0.80の範囲に、その細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比Bを0.20≦B≦1.0の範囲に限定する。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。すなわち、正極活物質に含まれる活性炭のBET比表面積と、細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比と、その細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比を共に規定することで、高負荷充放電時においてより高い容量を得ることができる。併せて、低温における充放電特性、特に充電特性を大幅に改善できる。すなわち、高負荷時における充放電特性に優れ、且つ作動温度範囲が広く、-30℃の環境下においても良好な特性を有するリチウムイオン蓄電源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本発明は、リチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質に関する技術である。特に、リチウムイオンをプレドープする型の蓄電デバイスに有効に適用できる。かかる蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオンキャパシタが挙げられる。
【0014】
なお、本明細書では、ドープとは、吸蔵、担持、吸着または挿入を意味し、正極にリチウムイオン及び/又はアニオンが入る現象、あるいは負極にリチウムイオンが入る現象を意味する。また、脱ドープとは、放出、脱着、脱離をも意味し、上記ドープの逆の現象をいうものとする。
【0015】
かかる技術では、正極に使用する活物質は、1500m2/g以上〜3000m2/g以下のBET比表面積を有し、前記活物質の細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比Aは0≦A≦0.80の範囲にあり、前記活物質の細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比Bは0.20≦B≦1.0の範囲にあることを特徴とするものである。
【0016】
上記比表面積の1500m2/g以上〜3000m2/g以下の値は、窒素吸着等温線を用いた公知のBET法に基づき算出する値である。また、細孔直径範囲0.6nm以上〜2nm以下の細孔容積は公知のMP法で、細孔直径範囲2nm以上〜200nm以下の細孔容積は公知のDH法で測定される。
【0017】
かかる特徴的構成を有することで、かかる正極活物質を用いたリチウムイオン蓄電デバイスの特性を改善することができる。例えば、高負荷充放電時においてより高い容量を得ることができる。併せて、低温時における充放電特性、特に充電特性を大幅に改善できる。すなわち、高負荷時における充放電特性に優れ、且つ作動温度範囲が広く、-30℃の環境下においても良好な特性を得ることができる。
【0018】
上記構成を有する本発明を、以下、前記従来技術との差異を念頭において、説明する。かかる説明を通して、より本発明の構成が理解されるためである。電気二重層の原理を用いるリチウムイオンキャパシタの正極では、その正極の入出力密度の向上には正極活物質である活性炭の細孔サイズとアニオンサイズ、および溶媒和したリチウムイオンサイズとの適合性が重要である。そこで、本発明では、イオンサイズと細孔サイズの適合性をより詳細に検討し、用いる活性炭の細孔特性を特定の範囲内に規定することで、確実にリチウムイオンキャパシタの入出力密度の向上を図ったものである。特に、低温における入出力特性を向上させることができるものである。
【0019】
(実施の形態1)
本実施の形態では、リチウムイオン蓄電デバイスに使用される本発明にかかる正極活物質について説明する。かかる正極活物質は、そのBET比表面積が1500m2/g以上〜3000m2/g以下の範囲内であることが必要である。より好ましくは1900m2/g以上〜2700m2/g以下である。BET比表面積が、1500m2/g未満の場合には比表面積が小さいために得られる単位活物質重量当りの静電容量が少ないという不都合があるため、1500m2/g以上と規定した。また、かかるBET比表面積が、3000m2/gを超えても、電極密度の低下によって電極体積当りの静電容量が少なくなるという不都合があるため、上限を3000m2/gに制限した。
【0020】
かかるBET比表面積が1500m2/g以上〜3000m2/g以下の範囲内の上記正極活物質は、さらに、その細孔直径範囲が0.6nm以上〜1nm未満と、1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比A、Bが所定の範囲にあることが求められる。すなわち、細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比Aが、0≦A≦0.80の範囲で、且つ細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比Bは0.20≦B≦1.0の範囲にあることが必要である。
【0021】
上記Aの範囲は、0%であっても良いが、上限は80%以下であることが求められる。これは、80%を超えると正極の電位が3V(対Li/Li+)以下の場合において、正極活物質表面に溶媒和したリチウムイオンが吸脱着する速度が低下するために3V(対Li/Li+)以下の充放電特性が低下するという不都合が考えられるからである。特に充電特性、その中でもさらに高負荷電流における急速充電特性が低下すると考えられる。より好ましくは、70%以下である。すなわち、0≦A≦0.70の範囲である。かかる理由は、上限を70%とした方が、80%の場合よりも効果が安定的に顕著に感得できるからである。
【0022】
また、併せて、上記Bの範囲は100%であっても良いが、下限は20%でなくてはならない。上記Bの範囲が20%未満ということは、細孔直径0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比率、もしくは細孔直径0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲6nm以上〜200nm以下の細孔容積の比率が増加することを意味する。細孔直径0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比率、すなわち細孔容積比Aが増加することによる不都合は上述した通りである。
【0023】
また、細孔直径0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲6nm以上〜200nm以下の細孔容積の比率の増加は、上記で懸念した急速充電特性の面では不都合はないが、電極密度の低下による電極体積当りの静電容量が減少すること、そして電気二重層の形成に有効な比表面積を大きな値にし難いがために、結果として得られる静電容量が低下してしまうために好ましくない。さらには、かかるBの範囲は、より好ましくは30%以上である。すなわち、0.30≦B≦1.0の範囲である。かかる理由は、下限を30%とした場合の方が、20%とした場合よりも効果が顕著に安定的に感得できるからである。
【0024】
また、本発明で規定している細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下において、その範囲に存在する細孔は1.5nm以上の細孔サイズに分布していることがより好ましい。これは、プロピレンカーボネートが溶媒和したリチウムイオンのストークス径は1.4nmであるため、1.5nm以上の細孔サイズの細孔をより多く活性炭に導入することで細孔内の溶媒和リチウムイオンの易動性が高まる。その結果、急速充電特性の向上をより顕著に感得できるからである。さらには好ましくは4nm以上である。
【0025】
また、BET比表面積を上記範囲に限定すると同時に、その細孔直径範囲が0.6nm以上〜1nm未満と、1nm以上〜6nm以下の細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に対する細孔容積の比A、Bが上記範囲にあることが必要なのは、いずれか一つの要件が欠けると高負荷電流における充放電においてより大きな容量を得られ難いという不都合が生じるからである。
【0026】
かかる規定の正極活物質に使用できる活性炭は、上記の如く、賦活処理を施したコークスから得られたコークス系活性炭、あるいは賦活処理を施したヤシ殻活性炭等のヤシ殻系活性炭、あるいは賦活処理が施されたフェノール活性炭等のフェノール系活性炭等が使用できる。また、賦活処理としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ触媒を用いたアルカリ賦活処理、あるいは水蒸気賦活処理を使用すればよい。
【0027】
(実施の形態2)
本実施の形態では、前記実施の形態で述べた正極活物質を用いたリチウムイオン蓄電デバイスについて説明する。かかる蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオンキャパシタに構成することができる。
【0028】
図1は、リチウムイオン蓄電デバイスをリチウムイオンキャパシタに構成した場合の電極構成を模式的に示している。図1に示すように、蓄電デバイスは、例えば、積層型のリチウムイオンキャパシタAに構成されている。かかるリチウムイオンキャパシタAは、リチウム極10と、正極20と、負極30とを有している。複数の正極20、負極30が、セパレータ40を介して交互に積層されている。かかる積層構成の外側には、負極30が配置されている。かかる負極30に対面して、リチウム極10が、セパレータ40を介して設けられている。このようにして、積層ユニットが形成されている。かかる積層ユニットは、図示はしないが、電解液に浸されている。
【0029】
リチウム極10は、図1に示すように、リチウムイオン供給源11として例えば金属リチウム11aが、所定層厚で集電体12上に設けられている。正極20は、正極用合材21が、集電体22上に所定層厚で設けられている。負極30も、負極用合材31が、所定層厚で集電体32上に設けられている。かかる集電体22、32には、図1に示すように、表裏を貫通する孔が設けられて多孔に構成されている。
【0030】
正極20では、集電体22から引き出されて正極端子23が設けられている。負極30では、集電体32から引き出されて負極端子33が設けられている。蓄電デバイスのリチウムイオンキャパシタAの使用に際しては、上記正極端子23、負極端子33を使用する。このようにして、正極20と負極30を有する積層型ユニットとしてのリチウムイオンキャパシタAが構成されている。ここで、正極とは放電に際して電流が流れ出る側の極を言い、負極とは放電に際して電流が流れ込む側を言うものとする。
【0031】
かかるリチウムイオンキャパシタAは、例えば、ラミネートフィルム等の外装容器であるパッケージに入れられて製品とされる。このように構成されるリチウムイオンキャパシタAでは、製品とする前に、リチウムイオンのプレドープが行われる。すなわち、リチウムイオンキャパシタの組立工程内で、プレドープを行う。かかるプレドープは、リチウム極10と負極30との間で行われ、負極30にリチウムが予めドープされた形で、製品として出荷される。
【0032】
リチウムイオンのプレドープにより、正極と負極を短絡させた後の正極の電位は、好ましくは例えば2V(対Li/Li)以下にされていることが必要である。このようにすることで、正極の利用容量を高くして、エネルギー密度を向上させることができる。
【0033】
正極と負極を短絡させた後の正極電位が、例えば2V(対Li/Li)以下とは、次のいずれかの方法で求められる正極電位が、2V(対Li/Li)以下の場合を言うものとする。すなわち、リチウムイオンのドープ後、リチウムイオンキャパシタのセルの正極端子と負極端子を導線で直接結線して短絡させ、その状態で12時間以上放置する。その後に、短絡を解除し、0.5〜1.5時間内に測定した正極電位が2V(対Li/Li)以下の場合を言うものとする。
【0034】
あるいは、充放電試験機にて、12時間以上かけて0Vまで定電流放電させ、その後に正極端子と負極端子を導線で結線して短絡させる。その状態で12時間以上放置し、その後に短絡を解除し0.5〜1.5時間内に測定した正極電位が2V(対Li/Li)以下の場合を言うものとする。
【0035】
一般的に充電電圧の上限は、正極電位の上昇による電解液の分解が起こらない電圧に設定される。そこで、正極電位を上限にした場合、負極電位が低下する分、充電電圧を高めることが可能となるのである。しかし、短絡後の正極電位を3V(対Li/Li)以下、より好ましくは2V(対Li/Li)以下に低下させることができれば、それだけ正極の利用容量が増え、高容量とすることができる。
【0036】
通常、正極に活性炭、負極にリチウムイオン二次電池で使用する黒鉛や難黒鉛化炭素のような炭素材を用いたいわゆるハイブリッドキャパシタでは、活性炭や炭素材は通常3V(対Li/Li)前後の電位を有している。そのため、短絡しても正極電位は変化せず3V(対Li/Li)のままである。そこで、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、別途金属リチウム等のリチウムイオン供給源から、負極にリチウムイオンをドープすることで、短絡した場合の正極電位を2V(対Li/Li)以下になるようにするのである。
【0037】
このように、リチウムイオンキャパシタのセルで、予め負極に上記の如くリチウム極からリチウムイオンをプレドープし、正極と負極を短絡させた後の正極の電位を、2V(対Li/Li)以下となるようにしているのである。
【0038】
リチウムイオンのプレドープは、負極と正極のいずれか一方、あるいは双方に行うことができる。しかし、リチウムイオンのドープ量を多くして正極電位を下げ過ぎると、リチウムイオンを不可逆的に消費してしまい、セルの容量が低下するなどの不具合が生じることとなる。そのため、例えば、負極と正極の双方にプレドープするリチウムイオンは、かかる不具合が発生しないように、両極のプレドープ量を制御する必要がある。しかし、かかる制御は工程上極めて煩雑となるため、リチウムイオンのドープを負極に対してのみ行うようにするのが好ましい。本発明のリチウムイオンキャパシタでもそのようにしている。
【0039】
また、本発明のリチウムイオンキャパシタでは、負極活物質の単位重量当たりの静電容量を、正極活物質の単位重量当たりの静電容量の3倍以上に設定することが好ましい。さらに、正極活物質重量が負極活物質重量よりも大きくなるように設定することが好ましい。かかる構成を採用することで、高電圧且つ高容量のリチウムイオンキャパシタとすることができる。かかる記載の如く、正極活物質重量は負極活物質重量に対して大きいことが好ましい。
【0040】
かかる構成のリチウムイオンキャパシタAでは、正極20で、前記実施の形態で説明した正極用活物質が使用されている。すなわち、正極用の集電体22上に設けられた正極用合材21に、前記実施の形態で説明した正極用活物質が含まれているのである。かかる正極用活物質は、活性炭である。例えば、アルカリ賦活処理されたヤシ殻活性炭が使用できる。
【0041】
かかるヤシ殻活性炭は、BET比表面積が1500m2/g以上〜3000m2/g以下の範囲に規定されている。また、かかるヤシ殻活性炭の細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比Aは、0≦A≦0.80の範囲である。併せて、上記ヤシ殻活性炭の細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比Bは、0.20≦B≦1.0の範囲に入っている。
【0042】
一方、負極30には活物質として、黒鉛、炭素系材料、ポリアセン系物質等を使用することができる。炭素系材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素材料等が挙げられる。ポリアセン系物質としては、例えば、ポリアセン系骨格を有する不溶不融性基体であるPAS等が挙げられる。かかる負極活物質は、いずれもリチウムイオンを可逆的にドープ可能な物質である。
【0043】
以上述べた構成の正極用合材、負極用合材の構成成分には、さらにバインダが含まれている。かかるバインダとしては、例えば、ゴム系バインダ、あるいはフッ素系樹脂、熱可塑性樹脂、アクリル系樹脂等の結着樹脂を使用することができる。ゴム系バインダとしては、例えば、ジエン系重合体であるSBR、NBR等を挙げることができる。フッ素系樹脂としては、例えば、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等を挙げることができる。アクリル系樹脂としては、例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸・アクリロニトリル・エチレングリコールジメタクリレート共重合体等を挙げることができる。
【0044】
また、前記負極用合材、正極用合材に使用する導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックや、炭素繊維、膨張黒鉛、カーボンナノチューブ等の導電性炭素材料を挙げることができる。さらには、前記負極用合材、正極用合材には、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)等を混ぜても構わない。
【0045】
上記活物質、バインダ、必要に応じて導電助剤、増粘剤等は、例えば水、あるいはN−メチル−2−ピロリドン等の溶媒を用いてスラリーに形成すればよい。かかるスラリーに形成した負極用合材、正極用合材は、孔開きの集電体面上に所定層厚で設けておく。設けるに際しては、例えば、ダイコーターやコンマコーター等の塗工装置を用いて、塗工処理を行えばよい。さらに、所定層厚で集電体上に塗工処理した合材層は、バインダの耐熱性にもよるが真空中で150〜200℃の温度で12時間程度乾燥させて電極が製造される。
【0046】
かかる構成の負極、正極は、例えば、電解液を介して設けられている。かかる電解液には、電解質が溶解されている。リチウムイオンキャパシタの場合には、電解液には、例えば、非プロトン性極性溶媒を使用することができる。非プロトン性極性溶媒は、非プロトン性有機電解質溶液を形成する。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等が挙げられる。
【0047】
さらに、これら非プロトン性極性溶媒の二種以上を混合した混合液を用いても構わない。充放電特性に寄与する比誘電率、蓄電デバイスの作動可能温度範囲に寄与する凝固点および沸点、そして安全性に寄与する引火点の観点からはプロピレンカーボネートを用いることが好ましい。しかし、負極の活物質に黒鉛を用いる場合、負極の電位が約0.8V(対Li/Li+)においてプロピレンカーボネートは黒鉛上で分解してしまうため、代替としてエチレンカーボネートを使用することが好ましい。エチレンカーボネートは融点が36℃であり、常温では固体である。このためにエチレンカーボネートを電解液の溶媒として用いる場合には、エチレンカーボネートを室温下で液状とするために、エチレンカーボネート以外の非プロトン性極性溶媒と混合させることが必須となる。
【0048】
さらに、エチレンカーボネートと併用する非プロトン性極性溶媒には充放電特性、および蓄電デバイスの作動可能温度範囲の観点から、低粘度でかつ凝固点の低い非プロトン性極性溶媒を選択することが好ましい。しかしながら、エチレンカーボネートを含有する電解液は、雰囲気温度が約−10℃以下になることでエチレンカーボネートの凝固にともなう急激なイオン伝導度の低下を引き起こし、低温特性が悪くなりがちである。
【0049】
従って、本発明の効果でもある−30℃の環境においても良好な特性を有する蓄電デバイスを得るには、実施例にもあるように、電解液の非プロトン性極性溶媒にプロピレンカーボネートを用いることが望ましい。さらには、負極の活物質にはプロピレンカーボネートの還元分解性が低い材料を用いることが望ましい。
【0050】
電解液に溶解される電解質としては、リチウムイオンを生成し得る電解質であれば使用可能である。例えば、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2等が挙げられる。
【0051】
また、近年電解液に添加することによって蓄電デバイスの特性が向上するとしてビニレンカーボネート等の添加剤が多用されている。本発明におけるリチウムイオンキャパシタにおいても電解液に添加剤を添加しても構わない。
【0052】
一方、リチウム極10には、初期充電時に、リチウムイオンを負極30にプレドープさせるためのリチウムイオン源として、例えば、金属リチウムあるいはリチウム−アルミニウム合金等が使用できる。すなわち、少なくともリチウム元素を含有し、リチウムイオンを供給することのできる物質であれば使用可能である

【0053】
また、上記構成の負極、正極、リチウム極との間に設けられるセパレータには、電解液、正極活物質、負極活物質等に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性のない多孔質体等を用いることができる。例えば、通常は、紙(セルロース)、ガラス繊維、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等からなる布、不織布あるいは多孔体が用いられる。セパレータの厚みは、電解液の保持量やセパレータの強度等を勘案して適宜設定することができる。なお、セパレータの厚みは、蓄電デバイスの内部抵抗を小さくするために薄い方が好ましい。
【0054】
以上の説明では、積層型ユニットに構成したリチウムイオンキャパシタについて説明した。しかし、リチウムイオンキャパシタは、単一型ユニットに構成しても一向に構わない。単一型ユニットは、例えば、正極と負極が一対相対して設けられ、さらにその負極に相対してリチウム極が1個設けられ、それぞれがセパレータを介して設けられる構成である。
【0055】
さらには、リチウム極、負極、正極を長尺状に形成して、それぞれがセパレータを介して重ねた状態で巻きつけられた捲回型に構成しても一向に構わない。さらには、上記説明では、積層された電極構成の外側に配置された負極に対向してリチウム極が設けられた構成を示したが、かかるリチウム極は、積層した電極構成の間に挟むようにして設けておいても構わない。その配置構成は、基本的には自由である。
【0056】
なお、図1では、集電体22、32には表裏に貫通する孔を設けた多孔性の集電体を使用した。しかし、プレドープの効率は悪くなるが、かかる孔を設けない構成の集電体を使用することもできる。さらには、集電体12には、孔開きの構成を使用しない場合を図1では示したが、かかる集電体12に孔開きの構成を採用しても一向に構わない。
【0057】
本実施の形態で述べた正極活物質として、BET比表面積が1500m2/g以上〜3000m2/gの範囲で、細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比Aが0≦A≦0.80の範囲で、細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比Bが0.20≦B≦1.0の範囲のものを使用したリチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質は、例えば、電気自動車等の蓄電デバイス搭載品で有効に適用できる。
【実施例】
【0058】
本実施例では、前記実施の形態で説明した本発明にかかる正極用活物質を用いたプレドープ型のリチウムイオンキャパシタについて、その有効性を検証する。すなわち、前記実施の形態で述べたリチウムイオンキャパシタAの構成において、正極20に、BET比表面積が1500m2/g以上〜3000m2/g以下で、細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比が0%以上〜80%以下で、細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比が20%以上〜100%以下である活性炭を用いた構成である。
【0059】
かかるリチウムイオンキャパシタは、次のようにして構成した。すなわち、細孔直径0.6nm以上〜200nm以下の範囲の細孔容積に占める細孔直径0.6nm以上〜1nm未満の範囲における細孔容積の比を細孔容積比Aとする。また、細孔直径0.6nm以上〜200nm以下の範囲の細孔容積に占める細孔直径1nm以上〜6nm以下の範囲における細孔容積の比を細孔容積Bとした。かかる細孔容積の比A、Bを有する活物質のBET比表面積は、1500m2/g以上〜3000m2/g以下の範囲に入っている。
【0060】
(実施例1)
実施例1では、石炭系コークスをアルカリ賦活することで細孔容積比Aおよび細孔容積比Bが、70.2%、20.4%である活性炭aを得た。この活性炭に対し、十分に洗浄することで残留灰分の除去、pH調製を実施した。このようにして作製した活性炭を正極活物質として用いた。
【0061】
正極用合材は、例えば、上記正極用の活物質100重量部、アセチレンブラック6重量部、カルボキシメチルセルロース4重量部を水と混練することでペーストに調製した。かかるペーストに、アクリレート系ゴムバインダーのエマルジョンを固形分として6重量部になるように添加し、塗布可能な正極用合材の電極塗料を調製した。かかる電極塗料を、貫通孔を有するアルミ箔の両面に塗布することで正極を得た。
【0062】
一方、負極は次のようにして形成した。すなわち、株式会社クレハ製の難黒鉛化性炭素カーボトロンP(F)-Sを負極活物質として、活物質88重量部、電気化学工業株式会社製アセチレンブラック(特殊プレス品HS-100)6重量部、カルボキシメチルセルロース3重量部を水と混練することでペーストに調製した。かかるペーストに、スチレンブタジエンジゴムバインダーのラテックスを固形分として4重量部になるよう添加することで負極用合材を電極塗料として調製した。かかる負極用合材を、貫通孔を有する銅のエキスパンドメタルの両面に塗布することで負極を得た。
【0063】
得られた正極および負極を、それぞれ減圧乾燥により乾燥した。乾燥後、所定の寸法に切り出した正極および負極を50μmの厚みのセルロース系セパレータを介して積層し、正極用および負極用端子を正極および負極にそれぞれ溶接した。次にステンレスメッシュに金属リチウムを圧着することでリチウムイオンプレドープ用のリチウム極を作製し、上記電極の積層体の外部に配置することでリチウムイオンキャパシタの素子を作製した。
【0064】
かかるリチウムイオンキャパシの素子を外装材であるアルミラミネートフィルムで覆い、三辺を加熱融着した。その後に、LiPF6を1.2mol/Lの濃度になるようにプロピレンカーボネートに溶解することで調製した電解液を注液し、減圧含浸工程を経て、残りの一辺を真空封止することでリチウムイオンキャパシタaのセルを作製した。なお、便宜上図では、リチウムイオンキャパシタをLICと略す場合がある。因みに、セル作製にあたり、正極活物質重量と負極活物質重量の比は0.863であった。
【0065】
得られたリチウムイオンキャパシタのセルに対し、セル電圧を3.8Vに印加した際に負極の電位が0.02V(対Li/Li+)になるように充放電試験機を用いて負極とリチウム極との間で放電操作を行うことで所定量のリチウムイオンを負極に電気化学的にドーピングした。かかるリチウムイオンのプレドープが完了した後、正極、負極とで充放電を行い、リチウムイオンキャパシタの充放電特性を取得した。
【0066】
(実施例2)
本実施例2では、ヤシ殻をアルカリ賦活することで正極活物質となる活性炭bを得た。それ以外は、全て実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタbを作製した。なお、この活性炭の細孔容積比Aは48.6%、細孔容積比Bは38.4%であった。
【0067】
(実施例3)
本実施例3では、ヤシ殻をアルカリ賦活することで正極活物質となる活性炭cを得た。それ以外は、全て実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタcを作製した。なお、この活性炭の細孔容積比Aは57.9%、細孔容積比Bは30.3%であった。
【0068】
(比較例1)
比較例1として、ヤシ殻をアルカリ賦活することで得られた正極活物質となる活性炭dを使用して、リチウムイオンキャパシタdを作製した。かかる活性炭dを使用したこと以外は、全て前記実施例1と同様にした。なお、この活性炭の細孔容積比Aは78.8%、細孔容積Bは11.7%であった。
【0069】
(比較例2)
比較例2として、フェノール樹脂をアルカリ賦活することで正極活物質となる活性炭eを得た。かかる活性炭eを用いて正極を構成したこと以外は、全て実施例1と同様にしてリチウムイオンキャパシタeを作製した。なお、この活性炭の細孔容積比Aは82.8%、細孔容積比Bは10.3%であった。
【0070】
図2に、実施例1〜3、および比較例1、2のリチウムイオンキャパシタに用いた活性炭のBET比表面積、0.6〜200nmの範囲における細孔容積(全細孔容積)、細孔容積比A、細孔容積比Bを示した。併せて、特許文献1に記載の全細孔容積に占める細孔直径0.2〜8nmの範囲における細孔容積の比を細孔容積比Cとして示した。
【0071】
本実施例で評価に用いた活性炭の細孔容積比Cは、特許文献1に記載の範囲である。また、全細孔容積は実施例2を除いて、上記特許文献1に記載の0.4〜1.5g/ccにある。
【0072】
このようにして作製したリチウムイオンキャパシタに対し、25℃の雰囲気温度で3.6Vの電圧まで0.2Aの電流値で定電流定電圧充電を30分実施した。その後、0.2Aの電流値で電圧2.2Vに到達するまで定電流放電を実施することで、低負荷時における放電特性を取得した。次いで、上述と同一の充電条件にて定電流定電圧充電を実施し、電流値を変えながら電圧2.2Vに到達するまでの定電流放電を繰り返し実施することで放電負荷特性を取得した。
【0073】
また、放電特性を取得したリチウムイオンキャパシタに対して、2.2Vの電圧まで0.2Aの電流値で定電流定電圧放電を30分実施した。その後、0.2Aの電流値で電圧3.6Vに到達するまで定電流充電を実施することで、低負荷時における充電特性を取得した。さらに上述と同一の放電条件にて定電流定電圧放電を実施し、電流値を変えながら電圧3.6Vに到達するまでの定電流充電を繰り返し実施することで充電負荷特性を取得した。全てのセルにおいて、低負荷時における充電容量と放電容量はほぼ同等であった。
【0074】
図3、4は、作製したリチウムイオンキャパシタの電圧3.6V−2.2V間における放電負荷特性、および充電負荷特性の結果を示したものである。
【0075】
図5には、低負荷充放電におけるリチウムイオンキャパシタの充放電容量(D)、および高負荷放電におけるリチウムイオンキャパシタの放電容量(E)、高負荷充電におけるリチウムイオンキャパシタの充電容量(F)、低負荷放電時の放電容量に対する高負荷放電時の放電容量の比(E/D)、低負荷充電における充電容量に対する高負荷充電時の充電容量の比(F/D)、そして、高負荷時の放電容量に対する高負荷時の充電容量の比(F/E)を示した。
【0076】
なお、上述したように、低負荷時の充電容量と放電容量は同等であったため、便宜上低負荷放電時の放電容量を低負荷充電時の充電容量とあわせて低負荷時の充放電容量とした。
【0077】
図5において、容量比E/DおよびF/Dが大きい程入出力密度に優れていることを意味する。また、高負荷時の充放電容量比(F/E)が大きい程ハイパワーにおいてもエネルギー効率が優れるリチウムイオンキャパシタであることを意味する。
【0078】
本発明者の効果の確認実験で、細孔容積比Aを0≦A≦0.80の範囲で、かつ細孔容積比Bを0.20≦B≦1.0の範囲にすることで、高負荷特性に優れたリチウムイオンキャパシタが得られることが確認できた。さらには、細孔容積比Aを0≦A≦0.70の範囲にし、かつ細孔容積比Bを0.30≦B≦1.0の範囲にすることで、より良好な特性が得られることも確認できた。本明細書では、図3〜5には、かかる実験の一部のデータのみを抜粋して示した。かかるデータからも、その傾向は確認できる。
【0079】
すなわち、前掲の図3〜5の結果から、正極に用いた活性炭の細孔容積比Aを0≦A≦0.80の範囲あるいは0≦A≦0.70の範囲にし、かつ細孔容積比Bを0.20≦B≦1.0の範囲あるいは0.30≦B≦1.0の範囲にすることで、高負荷特性に優れたリチウムイオンキャパシタが得られることがわかる。因みに、実施例1〜3では得られた多数のデータから、Aを0.7、0.6、0.5に振った場合を示した。また、Bは、得られた多数のデータから、0.2、0.3、0.4に振った場合を示した。
【0080】
また、今回得られた結果は、特許文献1の特許請求の範囲外の記載の実施例2の構成で、リチウムイオンキャパシタが最も良好な特性を示していることが分かる。例えば、図5の低負荷時の充放電容量、高負荷時の放電容量、高負荷時の充電容量では、いずれも実施例1、3の場合よりも優れている。このことから、正極活物質に用いる活性炭の細孔特性は、特許文献1の特許請求の範囲に記載されている範囲内とすることが必ずしも好ましいとは限らないものであることが確認される。
【0081】
−30℃の環境下におけるリチウムイオンキャパシタの放電、充電負荷特性を、25℃における特性と同様にして取得した。その結果を図6〜9に示した。−30℃の充電負荷特性は、先ず、室温にてリチウムイオンキャパシタの電圧を2.2Vに調製した。かかるリチウムイオンキャパシタを充放電試験機に接続したまま恒温槽内に静置し、恒温槽表示温度が−30℃に達してから3時間以上が経過したのちに充放電を実施することで試験を開始した。
【0082】
−30℃における放電負荷特性は、3.6Vの電圧まで0.06Aの電流値で定電流定電圧充電を30分実施した。その後、電流値を変えながら電圧2.2Vに到達するまでの定電流放電を繰り返し実施することで取得した。電流値は0.06Aから0.3Aまで変えて行った。
【0083】
また、−30℃における充電負荷特性は、2.2Vの電圧まで0.06Aの電流値で定電流定電圧放電を30分実施した。その後、電流値を変えながら電圧3.6Vに到達するまで定電流充電を繰り返し実施することで取得した。電流値は0.06Aから0.3Aまで変えて行った。
【0084】
図8では、0.06A放電時の放電容量を(G)、0.3A放電時の放電容量を(H)として、放電容量比(H/G)を求めた。図9では、0.06A充電時の充電容量を(I)、0.3A充電時の充電容量を(J)として、充電容量比(J/I)を求めた。さらに、図8の放電容量を用いて、高負荷充放電容量比(J/H)も求めた。
【0085】
前述の25℃における特性同様、−30℃においても正極に用いた活性炭の細孔容積比Aを0≦A≦0.80の範囲にし、かつ細孔容積比Bを0.20≦B≦1.0の範囲にすることで充電および放電の高負荷特性およびエネルギー効率に優れたリチウムイオンキャパシタが得られることが実験で確認できた。さらには、細孔容積比Aを0≦A≦0.70の範囲にし、かつ細孔容積比Bを0.30≦B≦1.0の範囲にすることで、より良好な特性が得られることも確認できた。本明細書では、前掲の図3〜5の場合と同様に、図6〜9にはかかる実験の一部のデータのみを抜粋して示したが、かかるデータからも上記傾向は確認できる。
【0086】
特に、充電負荷特性においては、その特性の劇的な向上が達成できていることがわかる。さらに、細孔容積比A、および細孔容積比Bの範囲をより厳密にすることで特性はより良好となることがわかる。逆に比較例のセルは、雰囲気温度を−30℃にすることで充電負荷特性の著しい低下が見られた。
【0087】
今回評価したリチウムイオンキャパシタにおいて、最良の特性を示したリチウムイオンキャパシタbの正極活物質を使用した実施例2の活性炭は、特許文献1に記載の特許請求の範囲外であった。このことよりリチウムイオンキャパシタの正極活物質である活性炭の細孔特性を規定の範囲内にすることが、必ずしも入出力特性の向上につながるとは限らないことが分かる。
【0088】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明はプレドープ型蓄電デバイスの分野で有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明のリチウムイオン蓄電デバイスの構成を模式的に示す説明図である。
【図2】実施例のリチウムイオンキャパシタで正極に使用する活性炭の細孔特性を表形式で示す説明図である。
【図3】25℃における放電負荷特性を示す説明図である。
【図4】25℃における充電負荷特性を示す説明図である。
【図5】実施例の実験例等に記載のリチウムイオンキャパシタの高負荷特性を表形式で示す説明図である。
【図6】−30℃における放電負荷特性を示す説明図である。
【図7】−30℃における充電負荷特性を示す説明図である。
【図8】実施例の実験例等に記載のリチウムイオンキャパシタの−30℃における放電負荷特性を表形式で示す説明図である。
【図9】実施例の実験例等に記載のリチウムイオンキャパシタの−30℃における充電負荷特性を表形式で示す説明図である。
【符号の説明】
【0091】
10 リチウム極
11 リチウムイオン供給源
11a 金属リチウム
20 正極
21 正極用合材
22 集電体
30 負極
31 負極用合材
32 集電体
40 セパレータ
A リチウムイオンキャパシタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン蓄電デバイスの正極用活物質であって、
前記活物質は、1500m2/g以上〜3000m2/g以下のBET比表面積を有し、
前記活物質の細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲0.6nm以上〜1nm未満の細孔容積の比Aは、0≦A≦0.80の範囲にあり、
前記活物質の細孔直径範囲0.6nm以上〜200nm以下の細孔容積に占める細孔直径範囲1nm以上〜6nm以下の細孔容積の比Bは、0.20≦B≦1.0の範囲にあることを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質。
【請求項2】
請求項1記載のリチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質において、
前記細孔容積比Aは0≦A≦0.70の範囲で、
前記細孔容積比Bは0.30≦B≦1.0の範囲であることを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質において、前記活物質は、活性炭であることを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイス用正極活物質を用いたことを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウムイオン蓄電デバイスにおいて、
電解液にプロピレンカーボネートを含むことを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−135649(P2010−135649A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311508(P2008−311508)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】