説明

リチウムイオン2次電池用負極材料及びその製造方法

【課題】高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】導電性炭素と、当該導電性炭素を被覆しかつリチウムイオンを吸蔵放出する炭素活物質と、を含み、炭素活物質は前記導電性炭素よりも結晶化度が低く、導電性炭素の含有量は負極材料全体に対して1〜20質量%であることを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極材料及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン2次電池用負極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド車の他、各種電子機器の駆動源として、リチウムイオン2次電池が多用されている。このリチウムイオン2次電池は、正極と、負極と、電解質とを含んで構成され、電解質中のリチウムイオンが電気伝導の役割を担う。
【0003】
放電時及び充電時におけるリチウムイオン2次電池の動作は、次の通りである。
先ず、放電時には、負極に吸蔵されていたリチウム分子がイオン化し、生成したリチウムイオンが電解質を通って正極に達する。正極に達したリチウムイオンは、電子を放出してリチウム化合物となり、正極に吸蔵される。一方、充電時には、正極に吸蔵されていたリチウム化合物がイオン化し、生成したリチウムイオンが電解質を通って負極に達する。負極に達したリチウムイオンは、電子を受け取ってリチウム分子となり、負極に吸蔵される。
【0004】
このように、リチウムイオン2次電池の負極材料としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料であることが求められ、通常、炭素系材料が用いられている。中でも、高結晶性の黒鉛が好ましく用いられており、黒鉛を負極材料として用いた場合には、低い負極電位が得られ、高い平均電圧(正極電位と負極電位の電位差)が得られる。
【0005】
ところで、電池性能の評価指標としては、単位重量あたりのエネルギ蓄積量を表すエネルギ密度が利用される。エネルギ密度は、平均電圧と容量の乗算値を重量で除することにより算出され、このエネルギ密度が高いほど、優れた電池であることを意味する。従って、エネルギ密度を高めるためには、平均電圧を高め、容量を大きくすることが不可欠である。
【0006】
そこで、黒鉛以外にも、例えば芳香族系の有機高分子化合物を還元性ガス中で熱処理して得た炭素系材料や(特許文献1参照)、キシレン樹脂を不活性雰囲気中で加熱重合して得た炭素系材料(特許文献2参照)、ピッチを主成分とする原料を熱処理して得た炭素系材料(特許文献3参照)について、負極材料としての検討がなされている。これらの炭素系材料は、いずれも比較的低温で熱処理された低結晶性の炭素系材料であり、これらを負極として用いることで、黒鉛よりも大きな容量のリチウムイオン2次電池が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3363959号公報
【特許文献2】特開2008−66259号公報
【特許文献3】特開2000−251885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3のような低結晶性の炭素系材料では、放電深度が深くなるに従って、負極電位が高くなる特性がある。図1は、ポリパラフェニレンを比較的低温(300〜1000℃)で焼成して得た低結晶性のポリパラフェニレン焼成物と、黒鉛とをそれぞれ負極として用いた場合の電池容量と負極電位との関係を示す図である。図1に示すように、黒鉛は、ポリパラフェニレン焼成物と比べて容量は小さいものの、放電深度によらず安定して低い負極電位を示す。これに対して、ポリパラフェニレン焼成物は、黒鉛と比べて容量は大きいものの、放電深度が深くなるに従い負極電位が高くなっていることが分かる。
【0009】
負極電位が高くなると、次のような問題が生じる。
図2は、ポリパラフェニレン焼成物及び黒鉛をそれぞれ、負極として用いたときの負極電位と正極電位との関係を示す図である。図2の正極電位は、LiNiCoMnOを正極として用いたときの正極電位である。ここで、電池の平均電圧は、正極電位と負極電位との電位差により決定され、この電位差が大きいほど高い平均電圧が得られる。図2に示すように、ポリパラフェニレン焼成物を負極として用いた場合には、放電深度が深くなるに従い負極電位が高くなるため、正極電位との電位差が、黒鉛よりも図2の斜線で示す分だけ小さくなる。即ち、ポリパラフェニレン焼成物を負極として用いた場合には、高い平均電圧が得られない、という問題が生じる。
【0010】
上記の問題が生じるのは、次のような要因による。
低結晶性の炭素系材料と高結晶性の炭素系材料とでは、放電時においてリチウムイオンが脱離して放出される放電電位が異なる。このため、容量を電位で微分することで単位電圧あたりのリチウムイオンの脱離量を調査した結果を図3に示す。図3は、ポリパラフェニレン焼成物及び黒鉛の負極電位と、単位電圧あたりのリチウムイオンの脱離量dQ/dVとの関係を示す図である。図3に示すように、黒鉛では0.2V付近でリチウムイオンの脱離が生じているのに対して、ポリパラフェニレン焼成物では0.2V付近からリチウムイオンの脱離が生じ、特に1V付近に多くのリチウムイオンの脱離が生じている。このように、ポリパラフェニレン焼成物を負極として用いた場合に高い平均電圧が得られないのは、吸蔵したリチウムイオンの放電電位が高いためである。
【0011】
従って、低結晶性の炭素系材料の放電電位を低下させて負極電位を低下させることにより、高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料を開発することが望まれる。
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明に係るリチウムイオン2次電池用負極材料は、導電性炭素と、当該導電性炭素を被覆しかつリチウムイオンを吸蔵放出する炭素活物質と、を含み、前記炭素活物質は、前記導電性炭素よりも結晶化度が低く、前記導電性炭素の含有量は、負極材料全体に対して1〜20質量%であることを特徴とする。
【0014】
本発明では、導電性炭素と、この導電性炭素を被覆しかつリチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素活物質とで負極材料を構成した。また、炭素活物質を導電性炭素よりも結晶化度の低いものとし、導電性炭素の含有量を負極材料全体に対して1〜20質量%とした。ここで、本発明における「結晶化度」とは、炭素系材料が部分的に結晶化しているときに、材料全体に対するその結晶化部分の割合を意味する。
これにより、炭素活物質と導電性炭素との界面において、低結晶性の炭素活物質の結晶構造が、高結晶性の導電性炭素の影響を受けて変化し、黒鉛のように高結晶化する。すると、高結晶化して形成された結晶層間にリチウムイオンが出入りし易くなる結果、放電電位が低下して負極電位が低下し、高い平均電圧が得られるようになる。従って、本発明によれば、高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料を提供できる。
【0015】
また、前記炭素活物質は、ポリパラフェニレンの焼成物またはキシレン樹脂の焼成物であり、前記導電性炭素は、気相成長炭素繊維であることが好ましい。
【0016】
この発明では、炭素活物質をポリパラフェニレンの焼成物またはキシレン樹脂の焼成物で構成し、導電性炭素を気相成長炭素繊維で構成した。
この発明によれば、結晶性の低い炭素系材料であるポリパラフェニレンの焼成物またはキシレン樹脂の焼成物と、非常に結晶性の高い炭素系材料である気相成長炭素繊維と、を用いることにより、上記発明の効果がさらに高められる。即ち、上記焼成物と気相成長炭素繊維との界面において、上記焼成物の結晶構造が気相成長炭素繊維の影響を大きく受けて変化し、黒鉛のように高結晶化する。すると、高結晶化して形成された結晶層間にリチウムイオンが出入りし易くなる結果、放電電位が大きく低下して負極電位が大きく低下し、より高い平均電圧が得られるようになる。従って、本発明によれば、より高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、より高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料を提供できる。
【0017】
また、本発明に係る製造方法は、上記発明に係るリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法であって、前記炭素活物質の原材料中に前記導電性炭素を添加し、前記導電性炭素の存在下で前記炭素活物質の前駆体樹脂を合成する工程と、前記前駆体樹脂を焼成することにより、前記導電性炭素を被覆する前記炭素活物質を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
この発明では、導電性炭素の存在下で炭素活物質の前駆体樹脂を合成する工程と、前駆体樹脂を焼成し、導電性炭素を被覆する炭素活物質を得る工程と、を経ることにより、上記発明に係るリチウムイオン2次電池用負極材料を製造した。
この発明によれば、導電性炭素の存在下で炭素活物質の前駆体樹脂を合成することにより、導電性炭素が炭素活物質の前駆体樹脂によって被覆された状態となる。そして、この状態で焼成を行うことによって、導電性炭素を被覆する炭素活物質が確実に得られる。従って、この発明によれば、より高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料が確実に得られる。
【0019】
また、本発明に係る製造方法は、上記発明に係るリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法であって、前記炭素活物質の前駆体樹脂と前記導電性炭素とを混合する工程と、前記工程で得られた混合物を焼成することにより、前記導電性炭素を被覆する前記炭素活物質を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
この発明では、炭素活物質の前駆体樹脂と導電性炭素とを混合する工程と、得られた混合物を焼成することにより、導電性炭素を被覆する炭素活物質を得る工程と、を経ることにより、上記発明に係るリチウムイオン2次電池用負極材料を製造した。
この発明によれば、炭素活物質の前駆体樹脂と導電性炭素とを混合することにより、導電性炭素が炭素活物質の前駆体樹脂によって被覆された状態となる。そして、この状態で焼成を行うことによって、導電性炭素を被覆する炭素活物質が確実に得られる。従って、この発明によれば、より高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料が確実に得られる。
【0021】
また、本発明に係る製造方法は、上記発明に係るリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法であって、前記炭素活物質の前駆体樹脂を焼成することにより、前記炭素活物質を得る工程と、前記炭素活物質に前記導電性炭素を添加して粉砕及び混合することにより、前記導電性炭素を被覆する前記炭素活物質を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
この発明では、炭素活物質の前駆体樹脂を焼成して炭素活物質を得る工程と、得られた炭素活物質に導電性炭素を添加して粉砕及び混合することにより、導電性炭素を被覆する炭素活物質を得る工程と、を経ることにより、上記発明に係るリチウムイオン2次電池用負極材料を製造した。
この発明によれば、炭素活物質に導電性炭素を添加して粉砕及び混合することにより、導電性炭素が炭素活物質によって被覆された状態とすることができ、導電性炭素を被覆する炭素活物質が確実に得られる。従って、この発明によれば、より高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料が確実に得られる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ポリパラフェニレン焼成物及び黒鉛を負極に用いた場合の容量と負極電位との関係を示す図である。
【図2】ポリパラフェニレン焼成物及び黒鉛を負極に用いた場合の負極電位と正極電位との関係を示す図である。
【図3】ポリパラフェニレン焼成物及び黒鉛を負極に用いた場合の負極電位と単位電圧あたりのリチウムイオンの脱離量dQ/dVとの関係を示す図である。
【図4】VGCFとポリパラフェニレン焼成物の界面部分の表面拡大像である。
【図5】図4に示したVGCF及びポリパラフェニレン焼成物の結晶構造を模式的に示す図であり、(A)は界面部分から離れた領域のVGCFの結晶構造の模式図であり、(B)は界面部分におけるVGCF及びポリパラフェニレン焼成物の結晶構造の模式図であり、(C)は界面部分から離れた領域のポリパラフェニレン焼成物の結晶構造の模式図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る製造方法1のフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係る製造方法2のフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態に係る製造方法3のフローチャートである。
【図9】実施例1〜5及び比較例1における負極電位と単位電圧あたりのリチウムイオンの脱離量dQ/dVとの関係を示す図である。
【図10】実施例3及び5と比較例1〜2における容量と負極電位との関係を示す図である。
【図11】実施例1〜5及び比較例1〜2におけるVGCFの含有量と容量との関係を示す図である。
【図12】実施例6〜10及び比較例3における負極電位と単位電圧あたりのリチウムイオンの脱離量dQ/dVとの関係を示す図である。
【図13】実施例8及び10と比較例2及び3における容量と負極電位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。
【0026】
<負極材料>
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン2次電池用負極材料は、導電性炭素と、炭素活物質と、を含んで構成される。
【0027】
導電性炭素は、後述の炭素活物質に被覆された状態で、負極材料中に含有されている。導電性炭素は、結晶性の高い炭素材料であり、後述の炭素活物質よりも結晶化度が高い。導電性炭素の形状としては、例えば繊維状のものや球状のものが挙げられ、好ましくは繊維状のものが用いられる。導電性炭素の具体例としては、従来公知の気相法により合成された高結晶性のカーボンファイバである気相成長炭素繊維が挙げられ、例えば昭和電工株式会社製の「VGCF」が好ましく用いられる。なお、導電性炭素は、1種類を単独で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。
【0028】
導電性炭素は、負極材料全体に対して1〜20質量%の割合で含有されている。導電性炭素の含有量が1質量%未満である場合には、放電電位及び負極電位を十分に低下させることができず、高い平均電圧が得られない。一方、導電性炭素の含有量が20質量%を超える場合には、放電電位及び負極電位を十分に低下させることができるものの、容量が導電性炭素と同等にまで低下してしまう。より好ましい導電性炭素の含有量は、5〜20質量%である。
【0029】
炭素活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素系材料であり、上述の導電性炭素よりも結晶化度が低い低結晶性の炭素系材料である。この炭素活物質は、上述の導電性炭素を被覆した状態で、負極材料中に含有されている。ここで、「被覆した状態」とは、導電性炭素の表面の全部が炭素活物質に被覆された状態の他、導電性炭素の表面の一部が炭素活物質に被覆された状態も含まれる。
【0030】
炭素活物質としては、結晶性の高い黒鉛にはなり難い熱硬化型の難黒鉛性樹脂の焼成物が好ましく用いられ、具体的には、ポリパラフェニレンの焼成物やキシレン樹脂の焼成物が好ましく用いられる。これら樹脂の焼成物は、黒鉛のように高結晶化せず、結晶性の低い炭素材料である。
【0031】
導電性炭素を被覆する炭素活物質の結晶構造について、図4及び図5を参照して説明する。
図4は、導電性炭素のVGCFと、このVGCFを被覆する炭素活物質であるポリパラフェニレン焼成物の界面部分の表面拡大像である。また、図5は、図4に示したVGCF及びポリパラフェニレン焼成物の結晶構造を模式的に示す図であり、(A)は、図4の(A)の部分、即ち界面部分から離れた領域のVGCFの結晶構造の模式図であり、(B)は、図4の(B)の部分、即ち界面部分におけるVGCF及びポリパラフェニレン焼成物の結晶構造の模式図であり、(C)は、図4の(C)の部分、即ち界面部分から離れた領域のポリパラフェニレン焼成物の結晶構造の模式図である。
【0032】
図4及び図5(A)に示すように、界面部分から離れた領域のVGCFでは、これらの図の上下方向への結晶の配向が認められ、結晶が層状に規則的に配向している。このため、これらの結晶層間にリチウムイオンが出入りし易く、リチウムイオンを吸蔵放出し易い構造となっている。
【0033】
一方、図4及び図5(C)に示すように、界面部分から離れた領域のポリパラフェニレン焼成物では、結晶の配向が認められず、結晶層が不規則に存在している。このため、結晶層間にリチウムイオンが出入りし難く、リチウムイオンを吸蔵放出し難い構造となっている。
【0034】
これに対して、図4及び図5(B)に示すように、界面部分におけるポリパラフェニレン焼成物では、VGCFの影響を受けて結晶の配向が認められ、結晶が層状に規則的に配向している。即ち、界面部分におけるポリパラフェニレン焼成物の結晶構造は、VGCFと同様にリチウムイオンが出入りし易く、リチウムイオンを吸蔵放出し易い構造となっている。これにより、導電性炭素を被覆する炭素活物質では、放電電位及び負極電位を低下させることができ、高い平均電圧が得られるようになっている。
【0035】
なお、本実施形態に係るリチウムイオン2次電池用負極材料は、導電性炭素及び炭素活物質以外にも、本実施形態の効果が奏される範囲内において他の成分を含有していてもよい。
【0036】
<製造方法>
本実施形態に係るリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法としては特に限定されないが、好ましくは、次の製造方法1〜3が採用される。以下、製造方法1〜3について説明する。
【0037】
[製造方法1]
図6は、本発明の一実施形態に係る製造方法1のフローチャートである。
図6に示すように、製造方法1は、ステップS11と、ステップS12とを有する。また、負極シートを作製する場合には、ステップS13をさらに有する。
【0038】
ステップS11では、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂を合成する。具体的には、先ず、熱硬化型難黒鉛性樹脂の各合成原料を、所定のモル比で配合する。次いで、配合物をよく混合した後、導電性炭素を添加して均一に混合する。このとき、導電性炭素は、負極材料全体に対して1〜20質量%の含有量となるように添加する。導電性炭素の添加量は、熱硬化型難黒鉛性樹脂の炭化収率を考慮して、熱硬化型黒鉛性樹脂の炭化後の質量に対する導電性炭素の質量が1〜20質量%となるように算出する。即ち、熱硬化型難黒鉛性樹脂の質量に、目的とする導電性炭素の質量比(0.01〜0.2の範囲)と、熱硬化型難黒鉛性樹脂の炭化収率(例えば、ポリパラフェニレンであれば炭化収率は約0.85)とを乗じることにより、導電性炭素の添加量を算出する。
【0039】
次いで、導電性炭素の存在下で、熱硬化型難黒鉛性樹脂を合成する。具体的には、導電性炭素の存在下で熱硬化型難黒鉛性樹脂の合成反応を進行させる。これにより、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂を得る。このとき、熱硬化型難黒鉛性樹脂は、導電性炭素の表面を被覆した状態で形成される。
【0040】
ステップS12では、熱硬化型難黒鉛性樹脂を焼成することにより、導電性炭素と、導電性炭素を被覆しかつ当該導電性炭素よりも結晶化度が低い炭素活物質とから構成される負極材料を得る。具体的には、ステップS11にて導電性炭素の表面を被覆した状態で形成された炭素活物質を、不活性ガスの雰囲気中で、所定の条件で焼成する。これにより、導電性炭素と、導電性炭素を被覆しかつ当該導電性炭素よりも結晶化度が低い炭素活物質とから構成される負極材料を得る。
なお、焼成温度としては、300℃〜1000℃であれば、低結晶性の炭素材料が得られ易いため好ましい。
【0041】
ステップS13では、ステップS12で得た負極材料から負極シートを作製する。具体的には、先ず、ステップS12で得た負極材料に対して、PVdF等の結着材を所定量添加して混合する。次いで、NMP等の希釈溶媒を所定量添加し、ホモジナイザー等で混錬してスラリーを作製する。作製したスラリーを、集電体である銅箔等の上に均一に塗布して乾燥することにより、負極シートを作製する。
【0042】
[製造方法2]
図7は、本発明の一実施形態に係る製造方法2のフローチャートである。
図7に示すように、製造方法2は、ステップS21と、ステップS22とを有する。また、負極シートを作製する場合には、ステップS23をさらに有する。
【0043】
ステップS21では、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂に、導電性炭素を添加し、均一に混合する。このとき、導電性炭素は、負極材料全体に対して1〜20質量%の含有量となるように添加する。導電性炭素の添加量は、上記の製造方法1と同様の算出方法により算出される。熱硬化型難黒鉛性樹脂としては、市販のものを用いることができる。
【0044】
ステップS22では、ステップS21で得た混合物を、不活性ガスの雰囲気中で、上記の製造方法1と同様の焼成条件で焼成する。これにより、導電性炭素と、導電性炭素を被覆しかつ当該導電性炭素よりも結晶化度が低い炭素活物質とから構成される負極材料を得る。
【0045】
ステップS23では、上記の製造方法1のステップS13と同様の処理を行うことにより、負極シートを作製する。
【0046】
[製造方法3]
図8は、本発明の一実施形態に係る製造方法3のフローチャートである。
図8に示すように、製造方法3は、ステップS31と、ステップS32と、ステップS33とを有する。また、負極シートを作製する場合には、ステップS34をさらに有する。
【0047】
ステップS31では、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂を合成する。具体的には、先ず、熱硬化型難黒鉛性樹脂の各合成原料を、所定のモル比で配合する。次いで、配合物をよく混合した後、熱硬化型難黒鉛性樹脂の合成反応を進行させる。これにより、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂を得る。
なお、本ステップは必須ではなく、熱硬化型難黒鉛性樹脂を合成する代わりに、市販の熱硬化型難黒鉛性樹脂を用いてもよい。
【0048】
ステップS32では、熱硬化型難黒鉛性樹脂を焼成することにより、炭素活物質を得る。具体的には、ステップS31で得た熱硬化型難黒鉛性樹脂を、不活性ガスの雰囲気中で、上記の製造方法1と同様の焼成条件で焼成する。これにより、炭素活物質を得る。
【0049】
ステップS33では、ステップS32で得た炭素活物質に、導電性炭素を添加して負極材料を得る。具体的には、ステップS32で得た炭素活物質に、導電性炭素を負極材料全体に対して1〜20質量%の含有量となるように添加する。次いで、所定のボールミル条件でボールミル処理を実施する。これにより、導電性炭素と、導電性炭素を被覆する炭素活物質とから構成される負極材料を得る。
【0050】
ステップS34では、上記の製造方法1のステップS13と同様の処理を行うことにより、負極シートを作製する。
【0051】
以上のようにして製造される本実施形態に係るリチウムイオン2次電池用負極材料は、例えば次のようにしてリチウムイオン2次電池の製造に用いられる。
先ず、上記のようにして作製した負極シートを、別途作製した正極シートと、セパレータを介して交互に積層することにより、蓄電素子を作製する。次いで、作製した蓄電素子と、電解液とを電池ケース内に収容する。最後に、正極及び負極を外部回路と接続することにより、リチウムイオン2次電池を製造する。
【0052】
本実施形態によれば、次の効果が奏される。
本実施形態では、導電性炭素と、この導電性炭素を被覆しかつリチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素活物質とで負極材料を構成した。また、炭素活物質を導電性炭素よりも結晶化度の低いものとし、導電性炭素の含有量を負極材料全体に対して1〜20質量%とした。
これにより、炭素活部物質と導電性炭素との界面において、低結晶性の炭素活物質の結晶構造が、高結晶性の導電性炭素の影響を受けて変化し、黒鉛のように高結晶化する。すると、高結晶化して形成された結晶層間にリチウムイオンが出入りし易くなる結果、放電電位が低下して負極電位が低下し、高い平均電圧が得られるようになる。従って、本実施形態によれば、高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料を提供できる。
【0053】
また、結晶性の低い炭素系材料であるポリパラフェニレンの焼成物またはキシレン樹脂の焼成物と、非常に結晶性の高い炭素系材料である気相成長炭素繊維と、を用いることにより、上記の効果がさらに高められる。即ち、上記焼成物と気相成長炭素繊維との界面において、上記焼成物の結晶構造が気相成長炭素繊維の影響を大きく受けて変化し、黒鉛のように高結晶化する。すると、高結晶化して形成された結晶層間にリチウムイオンが出入りし易くなる結果、放電電位が大きく低下して負極電位が大きく低下し、より高い平均電圧が得られるようになる。
【0054】
また、製造方法1では、導電性炭素の存在下で炭素活物質の前駆体樹脂を合成する工程と、前駆体樹脂を焼成し、導電性炭素を被覆する炭素活物質を得る工程と、を経ることにより、本実施形態に係るリチウムイオン2次電池用負極材料を製造した。
この製造方法1によれば、導電性炭素の存在下で炭素活物質の前駆体樹脂を合成することにより、導電性炭素が炭素活物質の前駆体樹脂によって被覆された状態となる。そして、この状態で焼成を行うことによって、導電性炭素を被覆する炭素活物質が確実に得られる。従って、この製造方法1によれば、より高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料が確実に得られる。
【0055】
また、製造方法2では、炭素活物質の前駆体樹脂と導電性炭素とを混合する工程と、得られた混合物を焼成することにより、導電性炭素を被覆する炭素活物質を得る工程と、を経ることにより、本実施形態に係るリチウムイオン2次電池用負極材料を製造した。
この製造方法2によれば、炭素活物質の前駆体樹脂と導電性炭素とを混合することにより、導電性炭素が炭素活物質の前駆体樹脂によって被覆された状態となる。そして、この状態で焼成を行うことによって、導電性炭素を被覆する炭素活物質が確実に得られる。従って、この発明によれば、より高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料が確実に得られる。
【0056】
また、製造方法3では、炭素活物質の前駆体樹脂を焼成して炭素活物質を得る工程と、得られた炭素活物質に導電性炭素を添加して粉砕及び混合することにより、導電性炭素を被覆する炭素活物質を得る工程と、を経ることにより、本実施形態に係るリチウムイオン2次電池用負極材料を製造した。
この製造方法3によれば、炭素活物質に導電性炭素を添加して粉砕及び混合することにより、導電性炭素が炭素活物質によって被覆された状態とすることができ、導電性炭素を被覆する炭素活物質が確実に得られる。従って、この製造方法3によれば、より高い平均電圧と大きな容量とを兼ね備え、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池用負極材料が確実に得られる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
先ず、炭素活物質の前駆体樹脂合成原料として、ベンゼン、無水塩化アルミニウム及び無水塩化銅を、モル比4:1:1で混合した。混合した後、導電性炭素として昭和電工株式会社製の「VGCF」を、負極材料全体に対して1質量%の含有量となるように添加し、均一に混合した。
【0060】
均一に混合した後、VGCFの存在下でKovacic法による合成反応を進行させた。これにより、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂のポリパラフェニレンを得た。得られたポリパラフェニレンは、VGCFの表面を被覆した状態で形成されていた。
【0061】
次いで、VGCFを被覆した状態で形成されたポリパラフェニレンを、不活性ガスの雰囲気中で、下記の条件に従って焼成した。これにより、VGCFと、VGCFを被覆する炭素活物質に相当するポリパラフェニレン焼成物と、から構成される負極材料を得た。
[焼成条件]
昇温速度:10℃/分
焼成温度:640℃
保持時間:6時間
【0062】
最後に、上記で得た負極材料から負極シートを作製した。具体的には、以下の手順に従って、負極シートを作製した。
先ず、上記で得た負極材料に対して、結着材としてPVdFを添加して混合した。添加量は、質量比で、負極材料90に対してPVdFを10とした。次いで、希釈溶媒としてNMPを添加し、ホモジナイザーで混錬してスラリーを作製した。作製したスラリーを、集電体である銅箔上に均一に塗布して乾燥することにより、負極シートを作製した。
【0063】
<実施例2>
実施例1におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して3質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0064】
<実施例3>
実施例1におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して5質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0065】
<実施例4>
実施例1におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して10質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0066】
<実施例5>
実施例1におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して20質量%となるように添加した以外は、実施例1と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0067】
<実施例6>
先ず、炭素活物質の前駆体樹脂材料として、フドー株式会社製の「ニカノール NP140」をエタノールと混合した。混合した後、導電性炭素として昭和電工株式会社製の「VGCF」を、負極材料全体に対して1質量%の含有量となるように添加し、均一に混合した。
【0068】
均一に混合した後、VGCFの存在下でエタノールを乾燥させた。これにより、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂のキシレン樹脂を得た。得られたキシレン樹脂は、VGCFの表面を被覆した状態で形成されていた。
【0069】
次いで、VGCFを被覆した状態で形成されたキシレン樹脂を、不活性ガスの雰囲気中で、実施例1と同様の条件に従って焼成した。これにより、VGCFと、VGCFを被覆する炭素活物質に相当するキシレン樹脂焼成物と、から構成される負極材料を得た。
【0070】
最後に、上記で得た負極材料から負極シートを作製した。具体的には、実施例1と同様の手順に従って、負極シートを作製した。
【0071】
<実施例7>
実施例6におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して3質量%となるように添加した以外は、実施例6と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0072】
<実施例8>
実施例6におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して5質量%となるように添加した以外は、実施例6と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0073】
<実施例9>
実施例6におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して10質量%となるように添加した以外は、実施例6と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0074】
<実施例10>
実施例6におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して20質量%となるように添加した以外は、実施例6と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0075】
<実施例11>
先ず、炭素活物質の前駆体樹脂合成原料として、ベンゼン、無水塩化アルミニウム及び無水塩化銅を、モル比4:1:1で混合した。よく混合した後、Kovacic法による合成反応を進行させた。これにより、炭素活物質の前駆体樹脂に相当する熱硬化型難黒鉛性樹脂のポリパラフェニレンを得た。
【0076】
上記で得たポリパラフェニレンを、不活性ガスの雰囲気中で、実施例1と同様の焼成条件で焼成した。これにより、炭素活物質に相当するポリパラフェニレン焼成物を得た。
【0077】
上記で得たポリパラフェニレン焼成物に、導電性炭素としてVGCFを、負極材料全体に対して1質量%の含有量となるように添加した。次いで、下記のボールミル条件に従ってボールミル処理を実施した。これにより、VGCFと、VGCFを被覆するポリパラフェニレン焼成物とから構成される負極材料を得た。
[ボールミル条件]
回転数:200rpm
処理時間:2時間
【0078】
最後に、上記で得た負極材料から負極シートを作製した。具体的には、実施例1と同様の手順に従って、負極シートを作製した。
【0079】
<実施例12>
実施例11におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して3質量%となるように添加した以外は、実施例11と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0080】
<実施例13>
実施例11におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して5質量%となるように添加した以外は、実施例11と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0081】
<実施例14>
実施例11におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して10質量%となるように添加した以外は、実施例11と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0082】
<実施例15>
実施例11におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して20質量%となるように添加した以外は、実施例11と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0083】
<実施例16>
先ず、炭素活物質の前駆体樹脂材料として、フドー株式会社製の「ニカノール NP140」を不活性ガスの雰囲気中で、実施例1と同様の焼成条件で焼成した。これにより、炭素活物質に相当するキシレン樹脂焼成物を得た。
【0084】
上記で得たキシレン樹脂焼成物に、導電性炭素としてVGCFを、負極材料全体に対して1質量%の含有量となるように添加した。次いで、実施例11と同様の条件に従ってボールミル処理を実施した。これにより、VGCFと、VGCFを被覆するキシレン樹脂焼成物とから構成される負極材料を得た。
【0085】
最後に、上記で得た負極材料から負極シートを作製した。具体的には、実施例1と同様の手順に従って、負極シートを作製した。
【0086】
<実施例17>
実施例16におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して3質量%となるように添加した以外は、実施例16と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0087】
<実施例18>
実施例16におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して5質量%となるように添加した以外は、実施例16と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0088】
<実施例19>
実施例16におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して10質量%となるように添加した以外は、実施例16と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0089】
<実施例20>
実施例16におけるVGCFの含有量を変更し、負極材料全体に対して20質量%となるように添加した以外は、実施例16と同様にして負極材料を得た後、負極シートを作製した。
【0090】
<比較例1>
先ず、ベンゼン、無水塩化アルミニウム及び無水塩化銅を、モル比4:1:1で混合した。よく混合した後、Kovacic法による合成反応を進行させた。これにより、熱硬化型難黒鉛性樹脂のポリパラフェニレンを得た。
【0091】
上記で得たポリパラフェニレンを、不活性ガスの雰囲気中で、実施例1と同様の焼成条件で焼成した。これにより得られたポリパラフェニレン焼成物を、比較例1の負極材料とした。また、実施例1と同様の手順に従って、負極シートを作製した。なお、この比較例1の負極材料は、VGCFの含有量が0%のものに相当する。
【0092】
<比較例2>
VGCFを、比較例2の負極材料とした。また、実施例1と同様の手順に従って、負極シートを作製した。なお、この比較例2の負極材料は、VGCFの含有量が100%のものに相当する。
【0093】
<比較例3>
先ず、炭素活物質の前駆体樹脂材料として、フドー株式会社製の「ニカノール NP140」を不活性ガスの雰囲気中で、実施例1と同様の焼成条件で焼成した。これにより得られた炭素活物質に相当するキシレン樹脂焼成物を、比較例3の負極材料とした。また、実施例1と同様の手順に従って、負極シートを作製した。なお、この比較例3の負極材料は、VGCFの含有量が0%のものに相当する。
【0094】
<評価>
各実施例及び比較例で作製した負極シートを用いてリチウムイオン2次電池を作製し、電池性能を評価した。具体的には、2次電池の作製及び評価は次のような手順に従って実施した。
【0095】
先ず、各実施例及び比較例で作製した負極シートを、直径14mmφに打ち抜いた。打ち抜いた負極シートを、ハンドプレス機でプレス処理を行い、これを負極とした。
【0096】
次いで、コイン型ケース内に、リチウム金属を入れて圧着させた。電解液として、1モルLiPF/エチレンカーボネートEC:エチルメチルカーボネートEMC(3:7容量比)を用い、この電解液に浸したセパレータをリチウム金属上に置いてガスケットを入れた。
【0097】
次いで、プレス処理後の負極を、リチウム金属と対向するようにセパレータ上に置いた。さらに、スペーサー、ワッシャーを入れた後、ケースに蓋をかぶせてカシメ機で密閉することにより、コイン型のリチウムイオン2次電池(以下、「コインセル」という)を作製した。
【0098】
作製したコインセルを、充放電装置にセットし、下記の条件に従って充放電試験を実施した。なお、リチウムイオンの炭素中へのIntercalation及びDope反応を充電とし、Deintercalation及びUndope反応を放電とした。
[充放電試験条件]
電流値:30mA/g
充電終止電位:0V、CCCV(定電流定電圧)充電
CV(定電圧)充電時間:50時間
放電終止電位:2.8V、CC(定電流)放電
【0099】
<評価結果>
先ず、炭素活物質としてポリパラフェニレン焼成物を用いるとともに、製造方法1により負極材料を製造した実施例1〜5の評価結果について説明する。
図9は、実施例1〜5及び比較例1における負極電位と単位電圧あたりのリチウムイオンの脱離量dQ/dVとの関係を示す図である。図9に示すように、VGCFを添加せずにポリパラフェニレン焼成物そのものを負極に用いた比較例1では、0.2V付近と1V付近に大きなピークが認められ、0.2V付近と1V付近でリチウムイオンが脱離して放出されていた。これに対して、所定量のVGCFをポリパラフェニレン焼成物で被覆する構成からなる負極材料を負極に用いた実施例1〜5では、VGCFの含有量が増加するに従って、上記の比較例1で認められた1V付近のピークが小さくなって消失した。また、比較例1で認められた0.2V付近のピークが、VGCFの含有量が増加するに従って、より低電位側にシフトしていた。
【0100】
図9の結果から、VGCFを1〜20質量%含有するとともに、このVGCFをポリパラフェニレン焼成物で被覆する構成からなる負極材料によれば、吸蔵したリチウムイオンがより低電位で脱離して放出されることが分かった。ひいては、実施例1〜5によれば、放電電位及び負極電位を低下でき、高い平均電圧が得られることが分かった。なお、VGCFの含有量を5〜20質量%とすることにより、1V付近のピークが完全に消失し、より低電位でリチウムイオンを脱離、放出でき、より高い平均電圧が得られることも分かった。
【0101】
図10は、実施例3及び5と比較例1及び2における容量と負極電位との関係を示す図である。図10に示すように、VGCFを添加せずにポリパラフェニレン焼成物そのものを負極に用いた比較例1では、負極電位が高い一方で容量は大きく、VGCFを負極に用いた比較例2では、負極電位は低い一方で容量が小さいことが確認された。これに対して、VGCFをポリパラフェニレン焼成物で被覆する構成からなる負極材料を負極に用いた実施例3及び5では、比較例1と比べて、負極電位が低下していた。また、実施例5のようにVGCFの含有量が20質量%になると、VGCFを負極に用いた比較例2とほぼ同等にまで容量が低下していた。
【0102】
また、図11は、実施例1〜5及び比較例1〜2におけるVGCFの含有量と容量との関係を示す図である。図11に示すように、VGCFをポリパラフェニレン焼成物で被覆する構成からなる負極材料を負極に用いた実施例1〜5では、VGCFの含有量が増加するに従い、容量が低下していた。
【0103】
図10及び図11の結果から、VGCFをポリパラフェニレン焼成物で被覆する構成からなる負極材料において、VGCFの含有量を1〜20質量%とすることにより、負極電位を低下でき高い平均電圧が得られるとともに、大きな容量が得られ、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池が得られることが分かった。
【0104】
なお、炭素活物質としてポリパラフェニレン焼成物を用いるとともに、製造方法3により負極材料を製造した実施例11〜15については、上記の実施例1〜5と同様の評価結果であった。
【0105】
次に、炭素活物質としてキシレン樹脂焼成物を用いるとともに、製造方法2により負極材料を製造した実施例6〜10の評価結果について説明する。
図12は、実施例6〜10及び比較例3における負極電位と単位電圧あたりのリチウムイオンの脱離量dQ/dVとの関係を示す図である。図12に示すように、VGCFを添加せずにキシレン樹脂焼成物そのものを負極に用いた比較例3では、1V付近に大きなピークが認められ、1V付近でリチウムイオンが脱離して放出されていた。これに対して、所定量のVGCFをキシレン樹脂焼成物で被覆する構成からなる負極材料を負極に用いた実施例6〜10では、VGCFの含有量が増加するに従って、上記の比較例3で認められた1V付近のピークが小さくなって消失し、より低電位側にピークがシフトしていた。
【0106】
図12の結果から、VGCFを1〜20質量%含有するとともに、このVGCFをキシレン樹脂焼成物で被覆する構成からなる負極材料によれば、吸蔵したリチウムイオンがより低電位で脱離して放出されることが分かった。ひいては、実施例6〜10によれば、放電電位及び負極電位を低下でき、高い平均電圧が得られることが分かった。なお、VGCFの含有量を5〜20質量%、さらには10〜20質量%とすることにより、1V付近のピークがほぼ消失し、より低電位でリチウムイオンを脱離、放出でき、より高い平均電圧が得られることも分かった。
【0107】
図13は、実施例8及び10と比較例2及び3における容量と負極電位との関係を示す図である。図13に示すように、VGCFを添加せずにキシレン樹脂焼成物そのものを負極に用いた比較例3では、負極電位が高い一方で容量は大きく、VGCFを負極に用いた比較例2では、負極電位は低い一方で容量が小さいことが確認された。これに対して、VGCFをキシレン樹脂焼成物で被覆する構成からなる負極材料を負極に用いた実施例8及び10では、比較例3と比べて、VGCFの含有量が増加するに従って、負極電位が低下していた。また、実施例10のようにVGCFの含有量が20質量%になると、VGCFを負極に用いた比較例2とほぼ同等にまで容量が低下していた。
【0108】
図13の結果から、VGCFをキシレン樹脂焼成物で被覆する構成からなる負極材料において、VGCFの含有量を1〜20質量%とすることにより、負極電位を低下でき高い平均電圧が得られるとともに、大きな容量が得られ、高いエネルギ密度を有するリチウムイオン2次電池が得られることが分かった。
【0109】
なお、炭素活物質としてキシレン樹脂焼成物を用いるとともに、製造方法3により負極材料を製造した実施例16〜20については、上記の実施例6〜10と同様の評価結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性炭素と、当該導電性炭素を被覆しかつリチウムイオンを吸蔵放出する炭素活物質と、を含み、
前記炭素活物質は、前記導電性炭素よりも結晶化度が低く、
前記導電性炭素の含有量は、負極材料全体に対して1〜20質量%であることを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極材料。
【請求項2】
前記炭素活物質は、ポリパラフェニレンの焼成物またはキシレン樹脂の焼成物であり、
前記導電性炭素は、気相成長炭素繊維であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン2次電池用負極材料。
【請求項3】
請求項1または2記載のリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法であって、
前記炭素活物質の原材料中に前記導電性炭素を添加し、前記導電性炭素の存在下で前記炭素活物質の前駆体樹脂を合成する工程と、
前記前駆体樹脂を焼成することにより、前記導電性炭素を被覆する前記炭素活物質を得る工程と、を有することを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法であって、
前記炭素活物質の前駆体樹脂と前記導電性炭素とを混合する工程と、
前記工程で得られた混合物を焼成することにより、前記導電性炭素を被覆する前記炭素活物質を得る工程と、を有することを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載のリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法であって、
前記炭素活物質の前駆体樹脂を焼成することにより、前記炭素活物質を得る工程と、
前記炭素活物質に前記導電性炭素を添加して粉砕及び混合することにより、前記導電性炭素を被覆する前記炭素活物質を得る工程と、を有することを特徴とするリチウムイオン2次電池用負極材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−109175(P2012−109175A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258517(P2010−258517)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】