説明

リチウム二次電池用負極材及びその製造方法

【解決課題】優れた出入力特性と高い可逆容量を備えたリチウムイオン二次電池用負極材を提供すること及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】体積基準メディアン径が5〜30μmの黒鉛核粒子が、体積基準メディアン径が0.05〜5μmの炭素微粒子で覆われており、炭素前駆体を1000〜1600℃で焼成炭化して得られる炭化物を介して、該炭素微粒子が該黒鉛核粒子に固定されており、中心線平均粗さRaが10〜200nmであり、BET比表面積が3.0〜7.0m/gであり、(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下であり、体積メディアン径が10〜40μmであり、ラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)が0.40以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノート型パソコン等の高容量を必要とする部位に使用されるリチウムイオン二次電池の負極材として用いられるリチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池としてリチウム塩の有機電解液を用いたリチウム二次電池は、軽量でエネルギー密度が高く、小型電子機器の電源や小型移動型電源あるいは電力貯蔵用の電池等として期待されている。当初、リチウム二次電池の負極材としては、金属リチウムが用いられていた。金属リチウムは、放電時にリチウムイオンとして電解液中に溶出し、充電時にはリチウムイオンは金属リチウムとして負極表面に析出するが、その析出の際に、平滑な元の状態に析出させることが難しく、デンドライト状に析出し易い。このデンドライトは反応活性が極めて強いため電解液を分解してしまうので、充放電のサイクル寿命が短くなるという問題がある。更に、デンドライトが成長して正極に達して、両極が短絡することもある。
【0003】
この欠点を改善するために、金属リチウムに代えて炭素材を用いることが提案されてきた。炭素材はリチウムイオンの吸蔵、放出に際しデンドライト状に析出する問題がないため負極材として好適である。中でも、黒鉛材はリチウムイオンの吸蔵及び放出性が高く、速やかに吸蔵及び放出反応が行われるために充放電の効率が高く、理論容量も372mAh/gであり、更に、充放電時の電位も金属リチウムとほぼ等しく、高電圧の電池が得られる等の利点がある。
【0004】
しかしながら、黒鉛化度が高く、六角網面構造が高度に発達している黒鉛材の場合、容量が大きく、初期効率が90%以上と高い特性が得られる反面、放電時の電位曲線が平坦になり、放電終点が把握し難く、また、短時間で多くの電流を放電することができず、レート特性が悪化する等の難点がある。
【0005】
そこで、黒鉛材を中心とする炭素材の性状を改良して、例えば、黒鉛化度の高い黒鉛材の表面を黒鉛化度の低い炭素質物で被覆した複層構造の炭素材や、黒鉛化度の高い黒鉛材と黒鉛化度の低い炭素質物を組み合わせることにより、これらの難点を解消する試みが行われており、多くの提案がなされている。
【0006】
例えば、特開平4−368778号公報(特許文献1)には、活物質となる炭素の電解液と接する表面が非晶質炭素により覆われていることを特徴とする二次電池用炭素負極が開示されている。
【0007】
また、特開平6−267531号公報(特許文献2)には、下記(1)の条件を満たす炭素質物(A)の粒子と、下記(2)の条件を満たす有機化合物(B)の粒子を混合した後、これを加熱して有機化合物(B)を炭素化することにより、炭素質物(A)の粒子を、下記(3)の条件を満たす炭素質物(C)で被覆した多相構造とした電極材料が開示されている。
(1) X線広角回折におけるd002が3.37オングストローム以下、真密度が2.10g/cm3以上であり、体積平均粒径が5μm以上であること;
(2) 体積平均粒径が炭素質物(A)より小さいこと;
(3) X線広角回折におけるd002 が3.38オングストローム以上、波長5145オングストロームのアルゴンイオンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、1580〜1620cm-1の範囲にピークPA、1350〜1370cm-1の範囲にピークPBを有し、上記PAの強度IAに対するPBの強度IBの比R=IB/IAが0.2以上であること。
【0008】
また、特開2005−243447号公報(特許文献3)には、親水化された黒鉛質粒子に、平均粒子径が100nm超、1μm以下の炭素質および/または黒鉛質の粒子をメカノケミカル処理により付着させてなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料が開示されている。
【0009】
また、国際公開WO2007/086603号(特許文献4)には、平均粒径D50が3〜10μm、その標準偏差値が0.2μm以下の黒鉛粉末粒子とカーボンブラックを、1:1.5〜3.0の重量比に混合した混合粉末100重量部に対して、フリーカーボンを除去したピッチ又はキノリン不溶分が1%未満のピッチを30〜120重量部の割合で混合・混練した後、非酸化性雰囲気中1000℃以上の温度で焼成炭化、あるいは更に黒鉛化して得られるリチウムイオン二次電池用負極材が開示されている。
【0010】
また、特開2002−255529号公報(特許文献5)には、X線広角回折による(002)面の面間隔d002が0.337nm未満である黒鉛粒子の周りに、珪素及び炭素を少なくとも含有するとともに前記黒鉛粒子より粒径が小さな複合粒子が分散して配置され、かつ前記黒鉛粒子及び前記複合粒子が0.37nm以上の面間隔d002を有する非晶質炭素膜によって被覆されてなり、前記複合粒子は、結晶質珪素からなるSi微粒子の周りに導電性炭素材が配置されるとともに、前記Si微粒子及び前記導電性炭素材が硬質炭素膜ないし導電性高分子膜により被覆されてなるものであることを特徴とする炭素質材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平4−368778号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−267531号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2005−243447号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】国際公開WO2007/086603号(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2002−255529号公報(特許請求の範囲))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、リチウムイオン二次電池が主として使用されている携帯電話やノート型パソコンなどの性能向上に伴い、レート特性に対する要求はより高度化し、また、ハイブリッドカーや電気自動車用のリチウムイオン二次電池では、高容量化を図りつつも、更なる出入力特性の改善が必須の課題となっている。
【0013】
ところが、上記特許文献1〜5では、近年の高度な要求、すなわち、更なるレート特性の向上及び高容量化の要求を満足することはできなかった。
【0014】
従って、本発明の課題は、優れた出入力特性と高い可逆容量を備えたリチウムイオン二次電池用負極材を提供することにある。また、本発明の課題は、そのようなリチウムイオン二次電池用負極材を、工業的に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、(1)黒鉛核粒子を、炭化物を介して炭素微粒子で覆うことにより、炭素微粒子が、表面に露出した状態で、黒鉛核粒子に固定されるので、粒子の表面形状を操作することができること、(2)そのため、高密度極板でも電極内部から電解液バルク間のリチウムイオン拡散パスを良好にできるので、優れた出入力特性と高い可逆容量を備えたリチウムイオン二次電池用負極材が得られること等を見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は、体積基準メディアン径が5〜30μmの黒鉛核粒子が、体積基準メディアン径が0.05〜5μmの炭素微粒子で覆われているコア−シェル構造を有する炭素質複合粒子粉末であり、
炭素前駆体を1000〜1600℃で焼成炭化して得られる炭化物を介して、該炭素微粒子が該黒鉛核粒子に固定されており、
中心線平均粗さRaが10〜200nmであり、BET比表面積が3.0〜7.0m/gであり、(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下であり、体積メディアン径が10〜40μmであり、ラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)が0.40以上であること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、体積基準メディアン径が5〜30μm且つ(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下の黒鉛核粒子粉末と、軟化点が70〜250℃の炭素前駆体と、を加熱混練して、該黒鉛核粒子の表面に該炭素前駆体を被覆し、炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末を得る第一工程と、
該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末と、体積基準メディアン径が0.05〜5μm且つ(002)面の面間隔d(002)が0.3400nm以上の炭素微粒子粉末と、を混合し、該混合粉末に機械的エネルギーを加えて、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粉末の該炭素前駆体に、該炭素微粒子を埋め込むことにより、該炭素微粒子で該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粉末の表面を覆い、該炭素前駆体を介して該炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を得る第二工程と、
該炭素前駆体を介して該炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を、非酸化性雰囲気下、1000〜1600℃で焼成炭化して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る第三工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた出入力特性と高い可逆容量を備えたリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができ、また、そのようなリチウムイオン二次電池用負極材を、工業的に製造することができる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】該第一工程を行い得られる該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子を示す模式的な断面図である。
【図2】該第二工程を行い得られる該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子の模式的な断面図である。
【図3】該第三工程を行い得られる該リチウムイオン二次電池用負極材の模式的な断面図である。
【図4】ヘンシェルミキサーの模式図である。
【図5】評価用のボタン型電池を示す断面図である。
【図6】リチウムイオン二次電池用負極材C1の表面のSEM写真である。
【図7】図6の拡大SEM写真である。
【図8】リチウムイオン二次電池用負極材C1の断面のSEM写真である。
【図9】図8の拡大SEM写真である。
【図10】炭素微粒子の全体が、炭素前駆体中に完全に埋め込まれた黒鉛核粒子を示す模式的な断面図である。
【図11】リチウムイオン二次電池用負極材F9の表面のSEM写真である。
【図12】図11の拡大SEM写真である。
【図13】リチウムイオン二次電池用負極材F9の断面のSEM写真である。
【図14】ハイブリダイザーの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法(以下、本発明の製造方法とも記載する。)は、体積基準メディアン径が5〜30μm且つ(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下の黒鉛核粒子粉末と、軟化点が70〜250℃の炭素前駆体と、を加熱混練して、該黒鉛核粒子の表面に該炭素前駆体を被覆し、炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末を得る第一工程と、
該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末と、体積基準メディアン径が0.05〜5μm且つ(002)面の面間隔d(002)が0.3400nm以上の炭素微粒子粉末と、を混合し、該混合粉末に機械的エネルギーを加えて、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の該炭素前駆体に、該炭素微粒子を埋め込むことにより、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粉末の表面を該炭素微粒子で覆い、該炭素前駆体を介して該炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を得る第二工程と、
該炭素前駆体を介して該炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を、非酸化性雰囲気下、1000〜1600℃で焼成炭化して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る第三工程と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法である。
【0021】
本発明の製造方法について、図1〜3を参照して説明する。図1は、該第一工程を行い得られる該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子を示す模式的な断面図であり、図2は、該第二工程を行い得られる該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子の模式的な断面図であり、図3は、該第三工程を行い得られる該リチウムイオン二次電池用負極材の模式的な断面図である。
【0022】
先ず、該第一工程では、該黒鉛核粒子粉末と該炭素前駆体とを加熱混練することにより、図1に示すように、黒鉛核粒子1の表面に炭素前駆体2を被覆し、炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子3を得る。
【0023】
次いで、該第二工程では、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末と該炭素微粒子粉末とを混合し、せん断力及び衝突力等の機械的エネルギーを加えることにより、図2に示すように、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子3の該炭素前駆体2の表面に、炭素微粒子4を埋め込み、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子3の表面を該炭素微粒子4で覆い、炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子5を得る。該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子5では、該黒鉛微粒子4の一部分が該炭素前駆体2にめり込んでおり、全体はめり込んでいないので、該炭素微粒子4は、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子5の表面に露出した状態で存在する。
【0024】
次いで、第三工程では、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を、非酸化性雰囲気下で焼成炭化することにより、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子5の該炭素前駆体2を、炭化させて炭化物にすることによって、図3に示すように、リチウムイオン二次電池用負極材7を得る。該リチウムイオン二次電池用負極材7では、該炭素微粒子4が、炭化物6を介して、該黒鉛核粒子1に固定されている。そして、該リチウムイオン二次電池用負極材7は、該黒鉛核粒子1(コア)が、該炭素微粒子4(シェル)で覆われているコア−シェル構造を有する炭素質複合体である。なお、該炭素微粒子4は、該リチウムイオン二次電池用負極材7の表面に露出した状態で固定されている。
【0025】
本発明の製造方法に係る該第一工程は、該黒鉛核粒子粉末と、該炭素前駆体と、を加熱混練することにより、該黒鉛核粒子の表面に、該炭素前駆体を被覆し、該炭素前駆体層を形成させて、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末を得る工程である。
【0026】
該第一工程に係る該黒鉛核粒子粉末としては、特に制限されないが、例えば、天然黒鉛又は人造黒鉛や、人造黒鉛電極の破砕品や、コークスや、これらの混合物が挙げられ、該黒鉛核粒子粉末の形状としては、球状又は鱗片状のものが挙げられ、予め粉砕処理したものや分級処理をしたもの、予め球状化処理したものであってもよい。該黒鉛核粒子粉末に係る該人造黒鉛としては、例えば、2500℃以上の熱履歴を持つ人造黒鉛が挙げられる。そして、該黒鉛核粒子粉末としては、充放電容量が高くなるという点で、球状又は鱗片状の天然黒鉛、あるいは、2500℃以上の熱履歴を持つ人造黒鉛が好ましい。
【0027】
該黒鉛核粒子粉末は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、人造黒鉛電極の破砕品、コークス等を、ローラーミルや衝撃粉砕機等の粉砕機を用いて粉砕し、分級して得られる。
【0028】
該黒鉛核粒子粉末の体積基準メディアン径は、5〜30μm、好ましくは5〜20μm、特に好ましくは10〜15μmである。該黒鉛核粒子粉末の体積基準メディアン径が、上記範囲より小さいと、スラリー調製時における分散性が低くなり、また、比表面積が大きくなり過ぎて、自己放電が大きくなる。また、該黒鉛核粒子粉末の体積基準メディアン径が、上記範囲より大きくなると、リチウムイオン二次電池として大電流放電する際の容量維持率が低くなる。なお、本発明において、該体積基準メディアン径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(島津製作所製SALD2000)により測定された値であり、体積を基準としたメディアン径である。
【0029】
該黒鉛核粒子粉末のX線広角回折法により測定した(002)面の面間隔d(002)は、0.3360nm以下、好ましくは0.3358nm以下、特に好ましくは0.3356nm以下である。該黒鉛核粒子粉末の(002)面の面間隔d(002)が、上記範囲を超えると、放電可逆容量が小さくなり易く、エネルギー密度が低くなり易い。なお、本発明においては、グラファイトモノクロメーターで単色化したCuKα線を用い、反射式ディフラクトメーター法によって、広角X線回折曲線を測定し、学振法を用いて、面間隔d(002)を測定した。
【0030】
該第一工程に係る該炭素前駆体としては、該第三工程で焼成炭化することにより、炭化物に変換される物質であり、例えば、コールタール、ピッチコークス、フェノール系樹脂が挙げられる。これらのうち、負極材の純度が高くなる点で、フリーカーボンを除去したピッチ又はキノリン不溶分の含有量が1%未満のピッチが好ましい。
【0031】
該炭素前駆体の軟化点は、環球法で測定された軟化点が、70〜250℃、特に好ましくは70〜200℃、更に好ましくは70〜150℃である。該ピッチの軟化点が、上記範囲未満だと、該第二工程における粒子同士の摩擦熱により、該炭素前駆体が溶融してしまい、該黒鉛核粒子同士が、あるいは、該炭素微粒子同士が造粒してしまう。また、該ピッチの軟化点が、上記範囲を超えると、該炭素微粒子の埋め込みが浅くなり、接着強度が低くなる。また、軟化点の異なるピッチ同士を二種以上混合することや、タールを添加することにより、軟化点を上記範囲に調整したピッチを用いてもよい。
【0032】
該炭素前駆体は、非酸化性雰囲気下、1000℃にて焼成炭化後の重量減少率が45%以下のものが好ましく、特に好ましくは40%以下、更に好ましくは35%以下である。
【0033】
該第一工程において加熱混練する際の該炭素前駆体の混合量は、該黒鉛核粒子粉末100重量部に対して5〜50重量部とするのが好ましく、5〜30重量部とするのが特に好ましく、5〜20重量部とするのが更に好ましい。該炭素前駆体の混合量が、上記範囲未満だと、該黒鉛核粒子の表面に該炭素前駆体を均一に被覆することが困難となり易い。また、該炭素前駆体の混合量が、上記範囲を超えると、粒子同士が強固に集結するため、個々の粒子に解砕することが困難となり易く、粒子径が大きくなり易く、また、解砕時に、被覆された炭素前駆体層がへき閉するため、該黒鉛核粒子表面の該炭素前駆体層の厚さが不均一となり易い。該黒鉛核粒子表面の該炭素前駆体層の厚さが不均一になると、該炭素微粒子の被覆が不均一になり、出入力特性が低くなり易くなる。
【0034】
該第一工程で加熱混練を行う際の加熱温度は、該炭素前駆体の軟化点を超える温度であり、好ましくは該炭素前駆体の軟化点より20℃以上高い温度である。
【0035】
該第一工程における加熱混練操作の形態例を示すと、該黒鉛核粒子粉末、該炭素前駆体を混練装置内に投入し、混練しながら装置容器内の温度を該炭素前駆体の軟化点を超える所定温度にまで昇温させ、加熱しながら十分に混練する。加熱混練する時間は、混練装置の容量、混練羽形状、該黒鉛核粒子及び該炭素前駆体の投入量などにより、適宜選択されるが、該炭素前駆体の融点を超える温度で通常5〜30分間である。そして、加熱混練することにより、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末を得る。
【0036】
該第一工程で、加熱混練を行うための混練装置としては、特に制限されず、通常、粉体を加熱しながら撹拌又は混練できるものであればよく、ニーダ、プラネタリーミキサー等の混練装置、ドラムミキサー等のドラム回転型ミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー等の高速撹拌混合機等が挙げられる。
【0037】
このようにして、該第一工程で、該黒鉛核粒子粉末と、該炭素前駆体と、を加熱混練することにより、該黒鉛核粒子の粒子表面に、該炭素前駆体を被覆して、該炭素前駆体層を形成させ、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末を得る。
【0038】
該第一工程により得られる該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末の該炭素前駆体の被覆層の厚みは、好ましくは0.01〜0.50μm、特に好ましくは0.01〜0.20μmである。該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末の該被覆層の厚みが、上記範囲内にあることにより、黒鉛粒子と炭素微粒子の接着が強固となり、繰り返し充放電に伴う膨張収縮による黒鉛粒子表面からの脱落が起き難く、リチウムイオン二次電池の容量劣化が起こり難くなる。
【0039】
該第一工程により得られる該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末のレーザー回折法により測定した体積基準メディアン径は、特に制限されないが、概ね5〜30μmである。
【0040】
次いで、本発明の製造方法に係る該第二工程を行う。該第二工程は、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末と、該炭素微粒子粉末と、を混合し、得られた混合粉末に、機械的エネルギーを加えて、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の該炭素前駆体層に、該炭素微粒子の一部分を埋め込むことにより、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子を該炭素微粒子で覆い、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子を得る工程である。
【0041】
図2に示すように、本発明に係る該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子では、該炭素微粒子の各粒子は、その一部分は、該炭素前駆体層に埋め込まれているが、それ以外の部分は露出している。つまり、本発明に係る該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子は、図10に示すように、炭素微粒子31の全体が、炭素前駆体層32中に完全に埋め込まれたものとは、構造が異なる。
【0042】
該第二工程に係る該炭素微粒子としては、例えば、カーボンブラック、コークス、樹脂炭化物の粉砕粉等が挙げられる。該炭素微粒子としては、微細な凹凸を可能とするために、カーボンブラック、サーマルブラック等の炭素前駆体を熱分解して得られる炭素微粒子が好ましい。
【0043】
該炭素微粒子粉末の体積基準メディアン径は、0.05〜5μm、好ましくは0.05〜1.00μm、特に好ましくは0.05〜0.50μmである。該炭素微粒子粉末の体積基準メディアン径が、上記範囲より小さいと、リチウムイオン二次電池用負極材のBET比表面積が大きくなってしまい、初回充電ロス又は自己放電が大きくなる。また、該炭素微粒子粉末の体積基準メディアン径が、上記範囲より大きくなると、黒鉛核粒子表面との接着界面の面積が小さく十分な接着強度が得られないため、複合粒子状態を維持できない。
【0044】
該炭素微粒子粉末のX線広角回折法により測定した(002)面の面間隔d(002)は、0.3400nm以上、好ましくは0.3450nm以上、特に好ましくは0.3500nm以上である。該炭素微粒子粉末の(002)面の面間隔d(002)が、上記範囲未満だと、黒鉛核粒子単味の電池特性及び挙動が支配的となり、出入力特性を高くできない。
【0045】
該炭素微粒子粉末のラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)は、好ましくは0.40以上、特に好ましくは0.45〜0.75である。該炭素微粒子粉末のラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)が、上記範囲にあることにより、出入力特性を更に向上させることができる。本発明では、粒子表層の結晶構造の乱れ具合は、ラマンスペクトルで議論するのが妥当である。なお、本発明では、測定対象を、波長514.5nmのArレーザーを用いたラマン分光分析器(日本分光株式会社製、NR1100)で測定し、表層での結晶欠陥及び積層構造の不整合等による結晶構造の乱れに帰属する1360cm−1近傍のスペクトルI1360を、炭素六角網面内の格子震動に相当するE2g型振動に帰属する1580cm−1近傍のスペクトルI1580で除し、ラマンスペクトル強度比R=I1360/I1580を求めた。
【0046】
該炭素微粒子のBET比表面積は、好ましくは30m/g以下、特に好ましくは7.0〜15.0m/gである。該炭素微粒子のBET比表面積が上記範囲にあることにより、初回充電時のロス又は自己放電が更に小さくなる。なお、本発明では、BET比表面積は、島津製作所社製GEMINI2375により、窒素を吸着ガスとしてBET法により測定される値である。
【0047】
該第二工程において、該炭素微粒子粉末の混合量は、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末100重量部に対して、好ましくは5〜20重量部、特に好ましくは5〜15重量部、更に好ましくは5〜10重量部である。該炭素微粒子の混合量が、上記範囲未満だと、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の表面全体を被覆し難くなり、また、上記範囲を超えると、非黒鉛質炭素成分が多くなり過ぎて、可逆容量が低くなり易い。
【0048】
また、本発明では、該第一工程で得られた該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末を、装置から取り出さずに、装置内に更に、該炭素微粒子粉末を投入して、該第二工程を行うこともできる。そのような場合、該第二工程において、該炭素微粒子粉末の混合量は、該第一工程で用いた該黒鉛核粒子粉末100重量部に対して、好ましくは5〜25重量部、特に好ましくは5〜20重量部、更に好ましくは5〜15重量部である。該炭素微粒子の混合量が、上記範囲未満だと、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の表面全体を被覆し難くなり、また、上記範囲を超えると、非黒鉛質炭素成分が多くなり過ぎて、可逆容量が低くなり易い。
【0049】
そして、該第二工程では、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末と、該炭素微粒子粉末と、を混合し、得られる混合粉末に、機械的エネルギーを加える。
【0050】
該第二工程では、ミックスマフラー(新東工業株式会社製)、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)、ハイスピードミキサー等を用いて、粒子同士の衝突、圧縮、摩擦、せん断を利用して、該混合粉末に、繰り返し外部から機械的エネルギーを加え続ける。このことにより、該炭素前駆体層を軟化させた状態で、該炭素微粒子の一部分を、該炭素前駆体層に埋め込み、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の表面を該炭素微粒子で覆い、該炭素前駆体を介して該炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末が得られる。なお、該第二工程では、該炭素微粒子の一部分が、該炭素前駆体層に埋め込まれて、該黒鉛核粒子の表面が該炭素微粒子で覆われるように、言い換えると、該炭素微粒子が表面に露出した状態で、該炭素前駆体層に埋め込まれるように、該混合粉末に、機械的エネルギーを加える必要がある。そして、ミックスマフラー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー等の機械的エネルギーを加える装置の種類を選択することやその運転条件を選択することにより、該炭素微粒子の一部分が、該炭素前駆体層に埋め込まれて、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子が得られる。それに対して、該混合粉末に加える機械的エネルギーが強過ぎると、該炭素微粒子の全体が、該炭素前駆体層中に埋没してしまう。例えば、比較例9のように、非常に強い機械的エネルギーを加える装置であるハイブリダイザー(奈良機械株式会社製)を用いて、該混合粉末に機械的エネルギーを加えた場合は、該炭素微粒子は、該炭素前駆体層中に完全に埋没してしまう。そのため、図11に示すように、得られる粒子の表面には、該炭素微粒子は露出していない。
【0051】
該第二工程で、該混合粉末に機械的エネルギーを加える際の機械的エネルギーの大きさは、例えば、装置及び撹拌羽の周速で規定でき、その場合、ミックスマフラー、ヘンシェルミキサー又はハイスピードミキサーを用い、該撹拌羽の周速を、5〜150m/s、好ましくは10〜100m/s、特に好ましくは20〜50m/sとする。例えば、ミックスマフラー、ヘンシェルミキサー又はハイスピードミキサーを用い、周速5〜150m/s、好ましくは10〜100m/s、特に好ましくは20〜50m/sの撹拌羽で、該混合粉末を流動させながら粒子粉末同士を衝突させ又は撹拌羽と粒子粉末とを衝突させることにより、該混合粉末に機械的エネルギーを加えて、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の該炭素前駆体に、該炭素微粒子の一部分を埋め込むことができる。
【0052】
該第二工程において、該混合粉末に対して機械的エネルギーを付与する方法としては、例えば、図4に示すヘンシェルミキサー10(三井鉱山株式会社製)を用いる方法が挙げられる。図4に示すヘンシェルミキサー10内に、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末と、該炭素微粒子粉末とを投入し、上羽根17及び下羽根18を、回転周速5〜150m/s、好ましくは10〜100m/s、特に好ましくは20〜50m/sで5〜30分回転させる。このとき、該ヘンシェルミキサー10内に投入した、該混合粉末に対し、形状の異なる該上羽根17及び該下羽根18の高速回転により生じるせん断力、摩擦力、圧縮力及び衝突力により機械的エネルギーが加えられる。なお、11は上蓋、12はフィルター、13は排出口、14は熱媒循環路、15は主軸、16はジャケットである。
【0053】
図4に示す該ヘンシェルミキサー10等のヘンシェルミキサーで該混合粉末に機械的エネルギーを加える際の該ヘンシェルミキサー内部の温度は、機械的エネルギーの付与により上昇するが、該炭素前駆体の軟化点+100℃の温度以下に調整することが好ましい。該ヘンシェルミキサー内の温度が、該炭素前駆体の軟化点+100℃を超えると、該炭素前駆体が造粒粒子の間隙より溶融して溶出し、溶出した該炭素前駆体が該ヘンシェルミキサー内部に付着し易くなるため、定常的な連続運転が困難となり易い。なお、該炭素前駆体の軟化点+100℃の温度以下に調整するとは、例えば、該炭素前駆体の軟化点が90℃の場合、該ヘンシェルミキサー内部の温度を、190℃以下にするということである。
【0054】
図4に示す該ヘンシェルミキサー10等のヘンシェルミキサーで該混合粉末に機械的エネルギーを加える際の該上羽根17及び該下羽根18の回転周速は、該炭素微粒子の埋め込み深さにより、適宜調節でき、5〜150m/sが好ましい。該上羽根17及び該下羽根18の回転周速が、5m/s未満だと、該混合粉末が受ける機械的エネルギーが小さく、該炭素微粒子と該炭素前駆体との有効な接着強度が得られ難くなり易く、また、150m/sを超えても、150m/sの場合と、被覆効率が変化せず、装置のメンテナンスコスト、安全性等を考慮すると上限は150m/sとするのが好ましい。また、該ヘンシェルミキサーで該混合粉末に機械的エネルギーを加えている際の処理時間は、5〜30分間が好ましく、15〜25分間が特に好ましい。該処理時間が、5分間未満では炭素微粒子の被覆効率が低くなり易く、また、30分を超えても、被覆率がほとんど変化しないため、生産性を考慮すると、該処理時間は、25分以下が特に好ましい。また、せん断力、摩擦力、圧縮力及び衝突力が強すぎて、粒子破壊が生じてしまう場合には、粒子同士の摩擦を円滑にするために、潤滑油又はワックスを添加することができる。
【0055】
該第二工程では、該炭素前駆体の残炭率、該炭素前駆体層の厚み、機械的エネルギーの強さ、例えば、図4中の該ヘンシェルミキサー10の該上羽根17及び該下羽根18の回転周速を調節することにより、該炭素微粒子の埋め込み深さを制御することができる。なお、該炭素前駆体層の厚みであるが、該第一工程で混合する該炭素前駆体の混合量を調節することにより、該炭素前駆体層の厚みを調節することができる。そして、該第二工程では、該炭素微粒子の体積基準メディアン径を調節すること又は使用する装置やその運転条件を選択することで該炭素微粒子の埋め込み深さを調節することにより、該炭素微粒子が表面に露出した状態で、該炭素微粒子を、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の該炭素前駆体に埋め込むことができる。
【0056】
次いで、本発明の製造方法に係る該第三工程を行う。該第三工程は、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を、非酸化性雰囲気下、焼成炭化して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る工程である。
【0057】
該第三工程で、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を焼成炭化する際の焼成炭化温度は、1000〜1600℃、好ましくは1000〜1400℃、特に好ましくは1000〜1200℃である。該第三工程において、該焼成炭化温度が、上記範囲未満だと、該炭素前駆体中の低分子有機未燃分が残存し、リチウムイオン二次電池の充放電効率の低下やサイクル特性の劣化が起こる。また、該第三工程において、該焼成炭化温度が、上記範囲を超えると、炭素微粒子又は炭素前駆体の炭化物の結晶構造変化に伴い、出入力特性が低くなったり、放電可逆容量が低くなったりする。
【0058】
該第三工程では、非酸化性雰囲気下で焼成炭化を行うが、該非酸化性雰囲気下とは、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下や、該炭素前駆体が酸化消耗することなく炭化する雰囲気である。
【0059】
このように、該第三工程で、該炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を焼成炭化することにより、該炭素前駆体が炭化して炭化物となり、そして、該炭素前駆体が炭化物となることにより、該炭素微粒子が強固に固定され、該リチウムイオン二次電池用負極材が得られる。
【0060】
該第三工程を行った後、該第三工程を行い得られた該リチウムイオン二次電池用負極材を、必要に応じて、解砕又は分級することができる。該解砕を行うための解砕装置としては、特に制限されず、ターボミル(株式会社マツボー製)、クイックミル(株式会社セイシン企業製)、スーパーローター(日清エンジニアリング株式会社製)等の装置が例示される。また、該分級では、必要に応じて、粒子特性を、体積メディアン径が10〜40μmとなるよう、回転数を調整する。
【0061】
そして、本発明の製造方法を行うことにより、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材が得られる。
【0062】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、体積基準メディアン径5〜30μmの黒鉛核粒子が、体積基準メディアン径0.05〜5μmの炭素微粒子で覆われているコア−シェル構造を有する炭素質複合粒子であり、
炭素前駆体を1000〜1600℃で焼成炭化して得られる炭化物を介して、該炭素微粒子が該黒鉛核粒子に固定されており、
中心線平均粗さRaが10〜200nmであり、BET比表面積が3.0〜7.0m/gであり、(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下であり、体積メディアン径が10〜40μmであり、ラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)が0.40以上であるリチウムイオン二次電池用負極材である。
【0063】
該黒鉛核粒子の(002)面の面間隔d(002)は0.3360nm以下、好ましくは0.3358nm以下、特に好ましくは0.3356nm以下である。また、該炭素微粒子の(002)面の面間隔d(002)は0.3400nm以上、好ましくは0.3450nm以上、特に好ましくは0.3500nm以上である。
【0064】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材に係る黒鉛核粒子、炭素微粒子、炭素前駆体及び炭素前駆体を1000〜1600℃で焼成炭化して得られる炭化物は、本発明の製造方法に係る黒鉛核粒子、炭素微粒子、炭素前駆体及び炭素前駆体を1000〜1600℃で焼成炭化して得られる炭化物と同様である。
【0065】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材では、該炭素微粒子が、表面に露出した状態で、該炭素前駆体の炭化物を介して該黒鉛核粒子を覆っているので、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、該黒鉛核粒子(コア)が、該炭素微粒子(シェル)で覆われているコア−シェル構造を有する炭素複合粒子粉末である。
【0066】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の中心線平均粗さRaは、10〜200nm、好ましくは50〜200nm、特に好ましくは100〜200nmである。中心線平均粗さRaが上記範囲にあることにより、十分な電気的な粒子間接触面積を確保しつつも、高密度極板でも、電極内部から電解液バルク間のリチウムイオン拡散パスを良好にできるので、出入力特性を高くし且つ放電可逆容量を高くすることができる。一方、該中心線平均粗さRaが、上記範囲未満だと、炭素微粒子の組織構造を反映した表面構造とはならず、また、高密度極板において、電極内部から電解液バルク間へのリチウムイオン拡散パスを確保できず、出入力特性が低くなる。また、該中心線平均粗さRaが、上記範囲を超えると、極板の高密度化が困難となり、電池容量が小さくなり、また、電気的な粒子間接触面積が小さくなるので、導電性が低くなり、出入力特性が低くなる。該中心線平均粗さRaの調節は、例えば、該炭素微粒子粉末の体積基準メディアン径や、該第一工程で、該黒鉛核粒子に該炭素前駆体を被覆する際の該炭素前駆体層の厚みを調節することや、該第二工程で、ヘンシェルミキサーの羽根の回転周速を調節すること等により、該混合粉体に加える機械的エネルギーの強さを調節することにより、可能となる。なお、本発明において、該中心線平均粗さRaは、面粗度測定により算出した値であり、例えば、観察視野4μmで原子間力顕微鏡にて、測定対象の高さプロファイルを測定し、断面曲線の中心線からの凹凸面積を、中心線長さで除した値として求められる。
【0067】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材のBET比表面積は、3.0〜7.0m/g、好ましくは3.0〜6.0m/g、特に好ましくは3.0〜5.0m/gである。該BET比表面積が、上記範囲未満だと、リチウムイオンの脱挿入に要する反応面積が小さいために、出入力特性が低くなり、また、上記範囲を超えると、自己放電及び初回充電時のロスが大きくなる。該BET比表面積の調節は、例えば、該黒鉛核粒子の体積基準メディアン径や、該第一工程で、該黒鉛核粒子に該炭素前駆体を被覆する際の該炭素前駆体層の厚みを調節することや、粉砕機の回転数等の粉砕条件、分級条件を調節すること等により、可能となる。
【0068】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材のX線広角回折法により測定した(002)面の面間隔d(002)は、好ましくは0.3360nm以下、特に好ましくは0.3358nm以下、更に好ましくは0.3356nm以下である。該(002)面の面間隔d(002)が、上記範囲を超えると、放電可逆容量が小さくなる。
【0069】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材のラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)は、好ましくは0.40以上、特に好ましくは0.45〜0.75である。該ラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)が、上記範囲にあることにより、出入力特性が高くなる。該ラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)の調節は、例えば、該第二工程で、ヘンシェルミキサーの羽根の回転周速を調節すること等により、該混合粉体に加える機械的エネルギーの強さを調節することや、該炭素微粒子を選択することや、粉砕機の回転数等の粉砕条件を調節すること等により、可能となる。
【0070】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材の体積メディアン径は、10〜40μm、好ましくは10〜30μm、特に好ましくは10〜20μmである。該体積メディアン径が、上記範囲未満だと、スラリー調製時における液中への分散性が悪く、また、上記範囲を超えると、出入力特性が低くなる。該体積メディアン径の調節は、例えば、該黒鉛核粒子の体積基準メディアン径や、粉砕機の回転数等の粉砕条件や分級条件を調節すること等により、可能となる。
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材及び本発明の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材では、該炭素微粒子が表面に露出した状態で固定されているため、粒子の表面形状、すなわち、該中心線平均粗さRaを、上述の範囲にすることができる。また、表面に固定されているのが、粒径が小さい該炭素微粒子なので、非晶質の炭素粒子が薄く均一に被覆されている。そのため、比表面積を抑えつつも、黒鉛核粒子表面の結晶性を低下されることができ、且つ、粒子の表面形状を制御できる。このことにより、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材及び本発明の製造方法により得られるリチウムイオン二次電池用負極材は、出入力特性が高く且つ放電可逆容量が高いリチウムイオン二次電池用負極材となる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0073】
(実施例1)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
(第一工程)
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−15、体積基準メディアン径が17.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に対し、コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL、軟化点70℃)20重量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)にて、装置内の温度を150〜160℃に保ちながら10分間加熱混練し、粉体A1を得た。
【0074】
(第二工程)
更に引き続き、ヘンシェルミキサーに、第一工程で用いた球状化天然黒鉛100重量部に対し、ファーネスブラック(東海カーボン社製、S−TA、体積基準メディアン径0.7μm、d(002)=0.3620nm)20重量部を投入して、装置内の温度を150〜160℃に保ちながら、回転数100m/sで10分間処理し、粉体B1を得た。なお、第二工程後の粉体B1を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面がファーネスブラックで覆われていることが確認された。
【0075】
(第三工程)
得られた粉体B1を、黒鉛坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化した。次いで、解砕装置(日清エンジニアリング株式会社製、スーパーローター)で解砕し、分級装置(日清エンジニアリング株式会社製、ターボクラシファイア)で分級して、リチウムイオン二次電池用負極材C1を得た。その物性を表3に示す。また、リチウムイオン二次電池用負極材C1の表面及び断面のSEM写真を図6〜図9に示すが、リチウムイオン二次電池用負極材C1の表面がファーネスブラックで覆われていることが確認された。
【0076】
<各特性の測定方法>
(1)体積基準メディアン径
レーザー回折式の粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD2000)により測定した体積基準メディアン径である。
(2)X線回折法よるd(002)(nm)
X線回折法による測定は、ターゲットをCu(Kα線)グラファイトモノクロメーター、スリットを発散スリット=1度、受光スリット=0.1mm、散乱スリット=1度の条件とし、学振法により結晶子格子面間隔d(002)を求める。
(3)比表面積(m2/g)
表面積計(島津製全自動表面積測定装置)を用い、測定対象に対して窒素流通下350℃で30分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET10点法によって測定した値である。
(4)ラマンスペクトル強度比R=I1360/I1580
波長514.5nmのArレーザーを用いたラマン分光分析器(日本分光株式会社製、NR1100)で測定し、表層での結晶欠陥及び積層構造の不整合等による結晶構造の乱れに帰属する1360cm−1近傍のスペクトルI1360を、炭素六角網面内の格子震動に相当するE2g型振動に帰属する1580cm−1近傍のスペクトルI1580で除し、ラマンスペクトル強度比R=I1360/I1580を求めた。
(5)中心線平均粗さ
中心線平均粗さは、原子間力顕微鏡を用い、面粗度測定により算出した値である。観察視野4μmにて、測定対象(単一粒子)の高さプロファイルを測定し、断面曲線の中心からの凹凸面積を中心線長さで除した値とし、中心線平均粗さRaを求めた。
【0077】
<リチウムイオン二次電池の作成>
(スラリーの調製)
上記のようにして得られた該リチウムイオン二次電池用負極材C1 100重量部に対し、増粘剤として1wt%のカルボキシメチルセルロース(CMC)水溶液を適量投入して30分間撹拌混合した後、結合剤として40wt%のスチレン−ブタジエンゴム(SBR)水溶液を適量投入して5分間撹拌混合し、負極合材ペーストを調製した。
【0078】
(作用極の作製)
得られた負極合材ペーストを厚さ18μmの銅箔(集電体)上に塗布し、真空中で130℃に加熱して溶媒を完全に揮発させた。得られたシートを極板密度が1.5g/ccになるようローラープレスで圧延し、ポンチで打ち抜いて作用極を得た。
【0079】
(対極の作製)
不活性雰囲気下、リチウム金属箔をポンチで打ち抜いたニッケルメッシュ(集電体)にめり込ませ、対極を得た。
【0080】
(可逆放電容量評価用ボタン型電池の作製)
前記の作用極、対極を使用し、評価用電池として図5に示すボタン型電池を不活性雰囲気下で組み立てた。電解液は1mol/dmのリチウム塩LiPFを溶解したエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC) 1:1混合溶液を使用した。充電は電流密度0.2mA/cm、終止電圧5mVで定電流充電を終えた後、下限電流0.02mA/cmとなるまで定電位保持する。放電は電流密度0.2mA/cmにて終止電圧1.5Vまで定電流放電を行い、5サイクル終了後の放電容量を可逆放電容量とした。また、満充電状態から10mA/cmで放電した際の容量維持率で、負極材の出力特性を調べた。その結果を、表4に示す。
なお、図5において、27は負極側ステンレスキャップ、20は負極、21は銅箔、22は絶縁ガスケット、23は電解液含浸セパレータ、24はニッケルメッシュ、25は正極側ステンレスキャップ、26は正極である。
【0081】
<初回ロス、初期効率及び放電負荷>
(1)初回ロス
初回ロスは、初回充放電時の充電容量から放電容量を差し引いた値である。この値は小さい方が望ましい
(2)初期効率
初期効率は、初回放電容量を初回充電容量で除した値(%)である。この値は大きい方が好ましい。
(3)放電負荷
放電負荷は、満充電状態から10mA/cmで終止電圧1.5Vまで定電流放電を行った際の放電容量である。この値が大きいものほど大電流を放電可能な負極材と言える。
(4)容量維持率
容量維持率は、放電負荷を可逆放電容量で除した値(%)である。
【0082】
(実施例2)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
(第一工程)
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−15、体積基準メディアン径が17.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に対し、コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKE、軟化点89℃)50重量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)にて、装置内の温度を140〜150℃に保ちながら10分間加熱混練し、粉体A2を得た。
【0083】
(第二工程)
更に引き続き、ヘンシェルミキサーに、第一工程で用いた球状化天然黒鉛100重量部に対し、ランプブラック(福泉化成社製、カルボフィンGK、体積基準メディアン径0.9μm、d(002)=0.3740nm)20重量部を投入して、装置内の温度を140〜150℃に保ちながら、回転数50m/sで10分間処理し、粉体B2を得た。なお、第二工程後の粉体B2を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面がランプブラックで覆われていることが確認された。
【0084】
(第三工程)
得られた粉体B2を、黒鉛坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気下、1600℃で焼成炭化した。次いで、解砕装置(日清エンジニアリング株式会社製、スーパーローター)で解砕し、分級装置(日清エンジニアリング株式会社製、ターボクラシファイア)で分級して、リチウムイオン二次電池用負極材C2を得た。その物性を表3に示す。
【0085】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材C2を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0086】
(実施例3)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
(第一工程)
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−30、体積基準メディアン径が30.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に対し、メソフェーズピッチ(JFEケミカル株式会社、MCP−150D、軟化点150℃)50重量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)にて、装置内の温度を190〜200℃に保ちながら10分間加熱混練し、粉体A3を得た。
【0087】
(第二工程)
更に引き続き、ヘンシェルミキサーに、第一工程で用いた球状化天然黒鉛100重量部に対し、難黒鉛化コークス(新日鉄化学社製、商品名LPC−S55、体積基準メディアン径1.8μm、d(002)=0.3422nm)5重量部を投入して、装置内の温度を190〜200℃に保ちながら、回転数50m/sで10分間処理し、粉体B3を得た。なお、第二工程後の粉体B3を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が難黒鉛化コークスで覆われていることが確認された。
【0088】
(第三工程)
得られた粉体B3を、黒鉛坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化した。次いで、解砕装置(日清エンジニアリング株式会社製、スーパーローター)で解砕し、分級装置(日清エンジニアリング株式会社製、ターボクラシファイア)で分級して、リチウムイオン二次電池用負極材C3を得た。その物性を表3に示す。
【0089】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材C3を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0090】
(実施例4)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
(第一工程)
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−15、体積基準メディアン径が17.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に対し、メソフェーズピッチ(JFEケミカル株式会社、MCP−250D、軟化点250℃)10重量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)にて、装置内の温度を270〜280℃に保ちながら10分間加熱混練し、粉体A4を得た。
【0091】
(第二工程)
更に引き続き、ヘンシェルミキサーに、第一工程で用いた球状化天然黒鉛100重量部に対し、炭素微小球(東海カーボン社製、商品名CNS、体積基準メディアン径0.4μm、d(002)=0.3640nm)10重量部を投入して、装置内の温度を270〜280℃に保ちながら、回転数100m/sで10分間処理し、粉体B4を得た。なお、第二工程後の粉体B4を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が炭素微小球で覆われていることが確認された。
【0092】
(第三工程)
得られた粉体B4を、黒鉛坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気下、1400℃で焼成炭化した。次いで、解砕装置(日清エンジニアリング株式会社製、スーパーローター)で解砕し、分級装置(日清エンジニアリング株式会社製、ターボクラシファイア)で分級して、リチウムイオン二次電池用負極材C4を得た。その物性を表3に示す。
【0093】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材C4を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0094】
(実施例5)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
(第一工程)
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−15、体積基準メディアン径が17.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に対し、コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL、軟化点70℃)5重量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)にて、装置内の温度を150〜160℃に保ちながら10分間加熱混練し、粉体A5を得た。
【0095】
(第二工程)
更に引き続き、ヘンシェルミキサーに、第一工程で用いた球状化天然黒鉛100重量部に対し、旭サーマル(旭カーボン社製、商品名アサヒサーマル)の分級品(体積基準メディアン径0.05μm、d(002)=0.3630nm)10重量部を投入して、装置内の温度を150〜160℃に保ちながら、回転数100m/sで10分間処理し、粉体B5を得た。なお、第二工程後の粉体B5を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面が旭サーマルで覆われていることが確認された。
【0096】
(第三工程)
得られた粉体B5を、黒鉛坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化した。次いで、解砕装置(日清エンジニアリング株式会社製、スーパーローター)で解砕、分級装置(日清エンジニアリング株式会社製、ターボクラシファイア)で分級して、リチウムイオン二次電池用負極材C5を得た。その物性を表3に示す。
【0097】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材C5を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0098】
(比較例1)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
(第一工程)
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−15、体積基準メディアン径が17.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に対し、コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL、軟化点70℃)20重量部を、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)にて、装置内の温度を150〜160℃に保ちながら10分間加熱混練し、粉体D1を得た。
【0099】
(第二工程)
更に引き続き、ヘンシェルミキサーに、第一工程で用いた球状化天然黒鉛100重量部に対し、ファーネスブラック(東海カーボン社製、S−TA、体積基準メディアン径0.7μm、d(002)=0.3620nm)20重量部を投入して、加熱せずに室温で、人手で撹拌混合し、混合粉体E1を得た。
【0100】
(第三工程)
得られた混合粉体E1を、黒鉛坩堝に投入し、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化した。次いで、解砕装置(日清エンジニアリング株式会社製、スーパーローター)で解砕し、分級装置(日清エンジニアリング株式会社製、ターボクラシファイア)で分級して、リチウムイオン二次電池用負極材F1を得た。その物性を表3に示す。
【0101】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F1を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0102】
(比較例2)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL、軟化点70℃)20重量部に代えて、メソフェーズピッチ(JFEケミカル株式会社、MCP−250D)の低分子成分を飛ばした改質品(軟化点300℃)とする以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F2を得た。その物性を表3に示す。
【0103】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F2を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0104】
(比較例3)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL、軟化点70℃)20重量部に代えて、コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL)にコールタールを添加し、軟化点を低下させたピッチ(軟化点50℃)20重量部とする以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F3を得た。その物性を表3に示す。
【0105】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F3を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0106】
(比較例4)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−15、体積基準メディアン径が17.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に代えて、球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−35、体積基準メディアン径が35.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部とする以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F4を得た。その物性を表3に示す。
【0107】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F4を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0108】
(比較例5)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
ファーネスブラック(東海カーボン社製、S−TA、体積基準メディアン径0.7μm、d(002)=0.3620nm)20重量部に代えて、GC質炭素小球体(東海カーボン社製、商品名GC微小球、体積基準メディアン径6.0μm、d(002)=0.3790nm)20重量部とする以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材E5を得た。その物性を表3に示す。
【0109】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F5を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0110】
(比較例6)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
ファーネスブラック(東海カーボン社製、S−TA、体積基準メディアン径0.7μm、d(002)=0.3620nm)20重量部に代えて、ファーネスブラック(東海カーボン社製、S−TA、体積基準メディアン径0.7μm、d(002)=0.3620nm)の黒鉛化品(体積基準メディアン径0.7μm、d(002)=0.3360nm)20重量部とする以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F6を得た。その物性を表3に示す。
【0111】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F6を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0112】
(比較例7)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
第三工程で、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化することに代えて、窒素ガス雰囲気下、2800℃で焼成炭化すること以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F7を得た。その物性を表3に示す。
【0113】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F7を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0114】
(比較例8)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL、軟化点70℃)20重量部に代えて、コールタールピッチ(JFEケミカル株式会社、PKQL、軟化点70℃)1重量部とすること、及び第三工程で、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化することに代えて、窒素ガス雰囲気下、2800℃で焼成炭化すること以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F8を得た。その物性を表3に示す。
【0115】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F8を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0116】
(比較例9)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
第二工程で、ヘンシェルミキサーにて、装置内の温度を150〜160℃に保ちながら、回転数100m/sで10分間処理することに代えて、図14に示すハイブリダイザー(奈良機械株式会社製)にて、装置内の温度を150〜160℃に保ちながら、回転数100m/sで5分間処理すること、及び第三工程で、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化することに代えて、窒素ガス雰囲気下、700℃で焼成炭化すること以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F9を得た。その物性を表3に示す。なお、第二工程後の粉体B1を目視にて観察したところ、表面にはファーネスブラックは確認できず、コールタールピッチで覆われていることを確認した。
なお、図14に示すハイブリダイザーは、粉末を投入して回転部48を回転させることにより、原料循環路42を通してドラム46と該回転部48の隙間に投入された粉末に対し、該ドラム46と該回転部48との回転速度の差異により生じる摩擦力、圧縮力及び衝突力により、該粉末に機械的エネルギーを加える装置である。図14中、43はステーター、44はジャケット、45は原料排出部、47はブレードである。
【0117】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F9を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。また、リチウムイオン二次電池用負極材F9の表面及び断面のSEM写真を図11〜13に示すが、リチウムイオン二次電池用負極材F9の表面には、ファーネスブラックは存在しないことが確認された。
【0118】
(比較例10)
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造>
球状化天然黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、CGC−15、体積基準メディアン径が17.0μm、d(002)=0.3355nm)100重量部に代えて、難黒鉛化コークス(新日鐵化学社製、商品名LPC−S55、体積基準メディアン径13.0μm、d(002)=3364nm)の2800℃焼成炭化処理品(体積基準メディアン径13.0μm、d(002)=0.3364nm)とすること、及び第三工程で、窒素ガス雰囲気下、1000℃で焼成炭化することに代えて、窒素ガス雰囲気下、800℃で焼成炭化すること以外は、実施例1と同様の方法で行い、リチウムイオン二次電池用負極材F10を得た。その物性を表3に示す。
【0119】
<リチウムイオン二次電池の作成>
リチウムイオン二次電池用負極材F10を用いること以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0120】
【表1】

1)炭素前駆体の混合量は、黒鉛核粒子粉末100重量部に対する重量部である。
【0121】
【表2】

1)炭素微粒子粉末の混合量は、第一工程で用いた黒鉛各粒子粉末100重量部に対する重量部である。
【0122】
【表3】

【0123】
【表4】

【0124】
実施例1〜5は、可逆容量及び放電負荷、容量維持率が高いので、電池容量は大きく、出入力特性に優れるリチウムイオン二次電池が作成可能な負極材と言える。
【0125】
一方、比較例1は、炭素微粒子が固定されていないため、単純混合物としての特性しか得られず、初回ロスが大きく、放電負荷、容量維持率が小さかった。
比較例2は、炭素前駆体の軟化点が高過ぎて、炭素微粒子が均一に固定されていないため、該黒鉛粒子の表面改質効果が得られず、放電負荷、容量維持率が小さかった。
比較例3は、炭素前駆体の軟化点が低過ぎるため、R値が小さく、炭素微粒子同士が単独で造粒してしまい、裸の該黒鉛粒子の表面が露出しているので、放電負荷、容量維持率が小さかった。
比較例4は、黒鉛核粒子の粒子径が大き過ぎるため、粒子内をリチウムイオンが移動する距離は長くなるため、放電負荷、容量維持率が極端に小さかった。
比較例5は、炭素微粒子の粒子径が大き過ぎるため、極板にした際の複合粒子同士の十分な電気接触が得られず、放電負荷、容量維持率が小さかった。
比較例6は、炭素微粒子の結晶化度が高過ぎるため、R値が低くなり過ぎており、表面改質効果が得られず、放電負荷、容量維持率が小さかった。
比較例7は、焼成炭化温度が高過ぎるため、黒鉛結晶子が発達し、結果として、黒鉛粒子と同様な特性しか得られなかった。
比較例8は、炭素前駆体の混合量が少な過ぎするため、炭素微粒子と該黒鉛粒子の接着強度が不十分となり、複合粒子状態の構造が得られず、黒鉛粒子単体と同等の特性しか得られず、放電負荷、容量維持率が小さかった。
比較例9は、Raが小さ過ぎるので、放電負荷特性が低かった。また、焼成炭化温度が低過ぎたため、初回ロスが大きかった。
比較例10は、黒鉛核粒子の黒鉛化度が低過ぎるため、可逆容量が小さかった。また、焼成炭化温度が低過ぎたため、初回ロスが大きかった。
【符号の説明】
【0126】
1 黒鉛核粒子
2、32 炭素前駆体
3 炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子
4、31 炭素微粒子
5 炭素前駆体を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子
6 炭化物
7 炭化物を介して炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子
27 負極側ステンレスキャップ
20 負極
21 銅箔
22 絶縁ガスケット
23 電解液含浸セパレータ
24 ニッケルメッシュ
25 正極側ステンレスキャップ
26 正極
41 原料投入口
42 原料循環路
43 ステーター
44 ジャケット
45 原料排出口
46 ドラム
47 ブレード
48 回転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体積基準メディアン径が5〜30μmの黒鉛核粒子が、体積基準メディアン径が0.05〜5μmの炭素微粒子で覆われているコア−シェル構造を有する炭素質複合粒子粉末であり、
炭素前駆体を1000〜1600℃で焼成炭化して得られる炭化物を介して、該炭素微粒子が該黒鉛核粒子に固定されており、
中心線平均粗さRaが10〜200nmであり、BET比表面積が3.0〜7.0m/gであり、(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下であり、体積メディアン径が10〜40μmであり、ラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)が0.40以上であること、
を特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記黒鉛核粒子の(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下であり、且つ前記炭素微粒子の(002)面の面間隔d(002)が0.3400nm以上であることを特徴とする請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
体積基準メディアン径が5〜30μm且つ(002)面の面間隔d(002)が0.3360nm以下の黒鉛核粒子粉末と、軟化点が70〜250℃の炭素前駆体と、を加熱混練して、該黒鉛核粒子の表面に該炭素前駆体を被覆し、炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末を得る第一工程と、
該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子粉末と、体積基準メディアン径が0.05〜5μm且つ(002)面の面間隔d(002)が0.3400nm以上の炭素微粒子粉末と、を混合し、該混合粉末に機械的エネルギーを加えて、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粒子の該炭素前駆体に、該炭素微粒子を埋め込むことにより、該炭素前駆体で被覆された黒鉛核粉末の表面を該炭素微粒子で覆い、該炭素前駆体を介して該炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を得る第二工程と、
該炭素前駆体を介して該炭素微粒子で覆われている黒鉛核粒子粉末を、非酸化性雰囲気下、1000〜1600℃で焼成炭化して、リチウムイオン二次電池用負極材を得る第三工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
前記炭素微粒子のBET比表面積が30m/g以下、ラマンスペクトル強度比R(I1360/I1580)が0.40以上であることを特徴とする請求項3記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−218758(P2010−218758A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61505(P2009−61505)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】