説明

リチウム二次電池

【課題】高抵抗層を形成して電流を遮断し、過充電時の電池の安全性を確保する機能性材料を提供する。
【解決手段】芳香族官能基を有する重合性官能基で構成された重合性化合物、高極性の官能基を有する重合性官能基で構成された重合性化合物、及び低極性の官能基を有する重合性官能基で構成された重合性化合物、又はこれらの重合性化合物を重合した重合体をリチウム二次電池の電解質に混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー密度を持ち、その特性を生かし、ノートパソコンや携帯電話などに広範に利用されている。近年では、二酸化炭素の増加に伴う地球温暖化防止の観点から電気自動車への関心が高まり、その電源としてもリチウムイオン電池の適用が検討されている。
【0003】
このような優れた特性を持つリチウムイオン電池であるが、課題もある。その一つとして、安全性の向上があり、なかでも過充電時の安全性を確保することが重要な課題である。
【0004】
リチウム電池が過充電されると、電池の熱安定性が低下し、電池の安全性が低下する可能性がある。そのため、現在のリチウムイオン電池は、過充電状態を検出し、充電を停止する制御回路を搭載し、安全性を確保している。過充電状態の検出は、電池電圧をモニタリングすることにより行う。しかし、電池の作動電圧と過充電状態の電圧との差は小さく、制御回路で過充電を適切に感知することは難しかった。また、万が一制御回路が故障した場合、過充電が起こる可能性もあるため、リチウムイオン電池自体の過充電時の安全性確保が重要である。
【0005】
特許文献1には、過充電の時の電池の安全性を高めるため、ポリマーと、非水溶媒と、リチウム塩とを含むポリマー電解質を含み、非水溶媒は、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートのいずれか一方を少なくとも含むポリマー電解質二次電池が開示されている。
【0006】
特許文献2には、過充電時の熱的安定性を高めるため、トランススチルベンゼンを含む電解液が開示されている。
【0007】
特許文献3には、性能が安定で、且つ、高いエネルギー密度を有する非水電解質電池を提供するため、芳香族化合物を含有し、エーテル誘導体のフッ化物を含有する非水電解質が開示されている。
【0008】
特許文献4には、安全性の向上を図りつつエネルギー密度と電池特性面のバランスが優れた非水電解質電池を提供するため、アクロイル基を有する組成物を硬化させてなり非水電解液を含有するポリマー電解質と、正極電位が4.4V以上となった場合にアクロイル基の水素を引き抜き得るラジカル重合開始剤とが含まれている非水電解質電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−032635号公報
【特許文献2】特開2007−172968号公報
【特許文献3】特開2003−297425号公報
【特許文献4】特開2002−260738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されたポリマー電解質は、イオン伝導度が低く、電池の内部抵抗が増加するため、電池性能が低下する難点がある。
【0011】
特許文献2に記載されたトランススチルベンゼンは、反応活性な二重結合を有しているため、電池性能を低下させるおそれがある。
【0012】
特許文献3に記載された非水電解質は、過充電時に、高電位になった正極上で芳香族化合物が電解重合することにより充電電流を消費し、電池の充電反応を抑制するものである。しかし、芳香族化合物がすべて電解重合すると、電池の充電反応が再開する。特許文献3に記載された非水電解質に含まれる芳香族化合物の電解重合生成物が電池の内部抵抗を増大させる効果は低い。
【0013】
本発明の目的は、高抵抗層を形成して電流を遮断し、過充電時の電池の安全性を確保する機能性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のリチウム二次電池においては、芳香族官能基を有する重合性官能基で構成された重合性化合物、高極性の官能基を有する重合性官能基で構成された重合性化合物、及び低極性の官能基を有する重合性官能基で構成された重合性化合物、又はこれらの重合性化合物を重合した重合体を電解質に混合する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電池の性能を低下させることなく、過充電時の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例の二次電池を示す分解斜視図である。
【図2】実施例の二次電池を示す断面図である。
【図3】実施例の二次電池を示す斜視図である。
【図4】図3のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、鋭意検討した結果、過充電時に正極電位が高くなると反応し、電池の内部抵抗を増大させる過充電抑制剤を見出した。また、この過充電抑制剤は、電池の作動電圧内では電気化学的安定性が高く、電池性能を損なうことなく使用することができる。
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池及びこれに含まれる重合性化合物又は重合体、並びにリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用過充電抑制剤又はリチウム二次電池用電解液(単に電解液ともいう。)について説明する。
【0019】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含むものであって、この電解質は、下記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物と、下記化学式(3)で表される重合性化合物と、下記化学式(4)で表される重合性化合物とを含む。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
【化3】

【0023】
【化4】

【0024】
上記化学式(1)及び(2)において、Zは重合性官能基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。
【0025】
上記化学式(3)において、Zは重合性官能基であり、Yは高極性の官能基である。
【0026】
上記化学式(4)において、Zは重合性官能基であり、Wは低極性の官能基である。
【0027】
重合性官能基は、重合反応を起こすものであれば特に限定はされないが、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの不飽和二重結合を有する有機基が好適に用いられる。
【0028】
炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ジメチルエチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、イソオクチレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基などの脂肪族炭化水素基、シクロヘキシレン基、ジメチルシクロヘキシレン基などの脂環式炭化水素基などが挙げられる。オキシアルキレン基としては、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基及びオキシテトラメチレン基が挙げられる。
【0029】
芳香族官能基は、Huckel則を満たす炭素数20以下の官能基である。具体的には、シクロヘキシルベンジル基、ビフェニル基、フェニル基、その縮合体であるナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、ピレン基、クリセン基、ナフタセン基、ピセン基、ペリレン基、ペンタフェン基、ペンタセン基、アセナフチレン基などが挙げられる。これらの芳香族官能基の一部は、置換されていてもよい。また、芳香族官能基は、芳香族環内に炭素以外の元素を含んでも良い。具体的には、S、N、Si、Oなどの元素である。電気学的安定性の観点から、フェニル基、シクロヘキシルベンジル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセン基、テトラセン基が好ましく、シクロヘキシルベンジル基、ビフェニル基が特に好ましい。
【0030】
前記重合体は、前記リチウム二次電池に含まれる重合性化合物を重合したものである。すなわち、前記重合体は、上記化学式(1)、(3)及び(4)で表される重合性化合物又は上記化学式(2)、(3)及び(4)で表される重合性化合物を重合したものである。
【0031】
前記重合体は、下記化学式(5)又は(6)で表されるものである。
【0032】
【化5】

【0033】
上記化学式(5)において、Zp1は重合性官能基の残基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zp2は重合性官能基の残基であり、Yは高極性の官能基である。Zp3は重合性官能基の残基であり、Wは低極性の官能基である。a、b、cは、mol%を示す。
【0034】
【化6】

【0035】
上記化学式(6)において、Zp1は重合性官能基の残基である。Aは芳香族官能基である。Zp2は重合性官能基の残基であり、Yは高極性の官能基である。Zp3は重合性官能基の残基であり、Wは低極性の官能基である。a、b、cは、mol%を示す。
【0036】
前記重合体は、下記化学式(7)で表されるものである。
【0037】
【化7】

【0038】
上記化学式(7)において、Rは水素原子、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素基又は芳香族基であり、Rはアルキレンオキシド、シアノ基、アミノ基又は水酸基を有する官能基である。Rは、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素基を有する官能基である。R〜Rは、水素原子又は炭化水素基である。また、a、b、cはmol%を示す。
【0039】
前記リチウム二次電池用過充電抑制剤は、前記重合性化合物又は前記重合体を有効成分として用いることができる。
【0040】
前記リチウム二次電池用電解液には、前記重合性化合物及び重合体のどちらも用いることが可能であるが、電気化学的安定性の観点からは、重合性化合物を事前に重合させ、重合体を作製した後、精製を行った重合体を用いることが好ましい。
【0041】
重合は、従来から知られているバルク重合、溶液重合、乳化重合のいずれによっても良い。また、重合方法は特に限定はされないが、ラジカル重合が好適に用いられる。重合に際しては、重合開始剤を用いても用いなくても良く、取り扱いの容易さの点からはラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。ラジカル重合開始剤を用いた重合方法は、通常行われている温度範囲および重合時間で行うことができる。
【0042】
重合開始剤の配合量は、重合性化合物に対して0.1〜20wt%であり、好ましくは0.3〜5wt%である。ラジカル重合開始剤としては、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ヘキシルペルオキシピバレート、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1、1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、2、2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、n−ブチル−4、4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、2、5−ジメチルヘキサン−2、5−ジハイドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α、α’−ビス(t−ブチルペルオキシm−イソプロピル)ベンゼン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシプロピルカーボネート等の有機過酸化物や、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)、2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、1、1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2、4−ジメチル−バレロニトリル、2、2−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−ヒドロキシフェニル]−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(4、5、6、7−テトラヒドロ−1H−1、3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(3、4、5、6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3、4、5、6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2、2’−アゾビス{2−メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2、2’−アゾビス{2メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、2、2’−アゾビス(2、4、4−トリメチルペンタン)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル、2、2’−アゾビスイソブチレート、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2、2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等のアゾ化合物が挙げられる。
【0043】
上記化学式(3)のYは、高極性の官能基である。高極性の官能基としては、オキシアルキレン基[(AO)R]、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基などが挙げられる。高極性の官能基を適用することにより、電解液に対する親和性を高めることができる。
【0044】
ここで、オキシアルキレン基としては、AOがエチレンオキシド、Rがメチルのものが好ましく、mは1〜20、好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜5である
上記化学式(4)のZは重合性官能基であり、重合性官能基は、重合反応を起こすものであれば特に限定はされないが、ビニル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基などの不飽和二重結合を有する有機基が好適に用いられる。上記化学式(4)のWは低極性基である。低極性基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭化水素基や、イソプロピル基、ターシャリーブチル基などの分岐型炭化水素基が挙げられる。環状炭化水素基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。低極性基を導入することで、過充電時により高抵抗の皮膜を形成でき、電池の安全性が高まる。高抵抗皮膜を形成させる観点から、低極性基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基が好ましい。また、低極性基を導入することにより、過充電抑制効果を保持したまま、芳香族官能基を低減することができるため、高温保存特性も向上する。
【0045】
上記化学式(5)、(6)及び(7)において、a、b、cはmol%であり、0<a≦100、0≦b<100、0≦c<100である。
【0046】
本発明の効果を得るためには、a、b、cが重要である。aおよびcのmol%が少ないと、過充電時に形成される高抵抗皮膜の性能が低下する。また、aおよびcのmol%が増加すると、電解液に溶解しにくくなり、本発明の効果が低下する。以上の観点から、aは5〜50%が好ましく、10〜40%が特に好ましい。また、cは3〜50%が好ましく、5〜30%が特に好ましい。
【0047】
前記重合性化合物及び前記重合体のリチウム二次電池内での存在形態は、特に限定はされないが、電解液に共存させて用いることが好ましい。
【0048】
この電解液は、前記重合性化合物及び前記重合体の溶液でもよく、前記重合性化合物及び前記重合体の懸濁状態でもよい。
【0049】
下記計算式(1)で算出される重合性化合物及び重合体の濃度は、0〜100%であり、好ましくは0.01〜5%であり、特に好ましくは1〜3%である。
【0050】
【数1】

【0051】
この値が大きいほど電解液のイオン伝導性が低くなり、電池性能が低下する。また、この値が小さいほど、高抵抗層を形成して電流を遮断する効果が低下する。
【0052】
前記重合体において、数平均分子量(Mn)は、5×10以下であり、好ましくは1×10である。更に好ましくは1×10である。数平均分子量の低い重合体を用いることにより、電池性能の低下を抑制することができる。
【0053】
前記電解液は、非水溶媒に支持電解質を溶解させたものである。非水溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、以下に挙げるものが好ましい。すなわち、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、テトロヒドロフラン、ジメトキシエタン等の有機溶媒である。これらを一種又は二種以上混合して用いることもできる。
【0054】
支持電解質は、非水溶媒に可溶のものであれば特に限定されないが、以下に挙げるものが好ましい。すなわち、LiPF、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiClO、LiBF、LiAsF、LiI、LiBr、LiSCN、Li10Cl10、LiCFCOなどの電解質塩である。これらを一種又は二種以上混合して用いることもできる。また、電解液には、ビニレンカーボネートなどを添加してもよい。
【0055】
リチウム二次電池に用いる正極は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであり、一般式LiMO(Mは遷移金属である。)で表される。例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn1/3Ni1/3Co1/3、LiMn0.4Ni0.4Co0.2のような層状構造を有する酸化物、Mの一部をAl、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W及びZrよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素で置換した酸化物が挙げられる。また、LiMnやLi1+xMn2−xのようなスピネル型の結晶構造を有するMnの酸化物が挙げられる。また、オリビン構造を有するLiFePO又はLiMnPOを用いることもできる。
【0056】
また、リチウム二次電池に用いる負極としては、天然黒鉛、石油コークス、石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で熱処理したもの、メソフェーズカーボン、非晶質炭素、炭素繊維、リチウムと合金化する金属、炭素粒子表面に金属を担持した材料等が用いられる。例えば、リチウム、銀、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム及びマグネシウムよりなる群から選ばれた金属又は合金である。また、該金属の酸化物を負極として利用できる。さらに、チタン酸リチウムを用いることもできる。
【0057】
リチウム二次電池に用いるセパレータとしては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどのポリマーからなるもの、繊維状のガラス繊維を用いたガラスクロス等を用いることができる。リチウム電池に悪影響を及ぼさない補強材であれば材質は限定されないが、ポリオレフィンが好適に用いられる。
【0058】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、これらのフィルムを重ね合わせて使用することもできる。
【0059】
また、セパレータの通気度(sec/100mL)は、10〜1000であり、好ましくは50〜800であり、特に好ましくは90〜700である。
【0060】
過充電抑制剤は、ある電圧で反応し、過充電を抑制するものである。その反応は、電池の作動電圧以上の電圧である。具体的には、Li/Li基準で2V以上であり、好ましくは4.4V以上である。この値が小さすぎると電池内部で過充電抑制剤が分解し、電池性能を低下させる。
【0061】
さらに、本発明の一実施形態に係る重合体の製造方法、並びにリチウム二次電池及びその充電制御方法について説明する。
【0062】
前記重合体の製造方法は、上記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物及び上記化学式(3)及び(4)で表される重合性化合物を混合し、これに重合開始剤を混合して反応させることを特徴とする。
【0063】
前記重合体の製造方法は、下記化学式(8)、(9)及び(10)で表される重合性化合物を混合し、これに重合開始剤を混合して反応させることを特徴とする。
【0064】
【化8】

【0065】
【化9】

【0066】
【化10】

【0067】
式中、Rは水素原子、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素基又は芳香族基であり、Rはアルキレンオキシド、シアノ基、アミノ基又は水酸基を有する官能基である。Rは、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素基を有する官能基である。R〜Rは、水素原子又は炭化水素基である。
【0068】
上記化学式(8)、(9)及び(10)で表される重合性化合物は、重合性官能基として不飽和二重結合を有するビニル基を含む。また、Rが結合したベンゼン環(芳香族官能基)は、上記化学式(1)及び(2)のAに対応する。Rは、上記化学式(3)のYに対応する。Rは、上記化学式(4)のWに対応する。
【0069】
前記リチウム二次電池の充電制御方法は、前記重合性化合物又は前記重合体を含む電解液を用い、過電圧の増加を検出することにより充電の完了を判別し、電圧の印加を停止することを特徴とする。
【0070】
前記リチウム二次電池は、前記重合性化合物又は前記重合体を含む電解液を用いたものであって、過電圧の増加を検出することにより充電の完了を判別して電圧の印加を停止する制御部を有することを特徴とする。
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
<電極の作製方法>
<正極>
セルシード(日本化学工業(株)製コバルト酸リチウム)、SP270(日本黒鉛(株)製黒鉛)及びKF1120((株)クレハ製ポリフッ化ビニリデン)を重量基準で85:10:10の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに投入混合して、スラリー状の溶液を作製した。該スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤塗布量は、100g/mであった。合剤かさ密度が2.7g/cmになるようにプレスし、半径0.75cmの円形に電極を裁断して正極を作製した。
【0073】
<負極>
負極としては、(i)Li金属(本城金属(株)製)又は下記(ii)に示すものを用いた。
【0074】
(ii)カーボトロンPE((株)クレハ製非晶性カーボン)及びKF1120((株)クレハ製ポリフッ化ビニリデン)を重量基準で90:10の割合で混合し合剤とした。これをN−メチル−2−ピロリドンに投入して混合することにより、スラリー状の溶液を作製した。この溶液を厚さ20μmの銅箔にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤の塗布量は、40g/mであった。合剤かさ密度が1.0g/cmになるようにプレスし、半径0.75cmの円形に電極を裁断して負極を作製した。
【0075】
<電池の作製方法>
正極と負極との間にポリオレフィン製のセパレータを挿入し、電極群を形成した。これに電解液を注液した。その後、電池をアルミニウム製ラミネートで密封し、電池を作製した。
【0076】
<電池の評価方法>
1.電池の初期化方法
作製した電池を4.3Vまで電流密度0.45mA/cmで充電した。その後、3Vまで放電した。このサイクルを3サイクル行うことにより電池を初期化した。また、3サイクル目の放電容量をこの電池の電池容量とした。また、3サイクル目の放電の際、放電開始後5秒目の電圧降下(ΔE)と、放電時の電流値(I)とから直流抵抗(R)を求めた。
【0077】
2.サイクル試験
作製した電池を、4.3Vまで、電流密度0.45mA/cmで充電した。その後、3Vまで放電した。この充放電サイクルを繰り返し、サイクル試験を行った。サイクル特性は、1サイクル目の放電容量と、50サイクル後の放電容量との比をとることで評価した。
【0078】
3.高温保存試験
別途作製した電池を4.3Vまで電流密度0.45mA/cmの電流値で予備充電した。その後、電池を60℃で3日間保存した。保存後、電池を放電し、その際に得られた放電容量を高温保存試験後の電池容量とした。保存前の電池容量と、保存後の電池容量との比をとることにより高温温保存特性とした。
【0079】
4.過充電試験
別途作製した電池を4.3Vまで電流密度0.45mA/cmの電流値で予備充電した。その後、電流密度1.36mA/cmの電流値で7Vを上限として過充電試験を行った。過充電時の通電量を過充電量とした。
【0080】
過充電抑制剤の反応開始電圧は、過充電抑制剤を入れない電池の充電カーブと過充電抑制剤を入れた電池の充電カーブとを比較することにより求めた。
【0081】
過電圧の上昇速度は、過充電抑制剤の反応開始電圧と上限との電圧の差(V)、及びそれに要する充電量(mAh)を求め、その比(V/mAh)をとることにより求めた。また、その値を電極単位面積(cm)あたりに換算して(Vcm/mAh)という単位を用いて規格化した。
【0082】
また、7Vの上限に達しない場合、電池容量の200%を上限として過充電試験を行った。
【0083】
過充電試験終了後、電池の内部抵抗を測定した。内部抵抗の測定は、過充電した電池を4.3Vまで一度放電し、電流密度0.45mA/cmで1分間放電し、放電開始後5秒目の電圧降下(ΔE)と、放電時の電流値(I)とから直流抵抗(R)を求めた。
【0084】
以下、実施例を用いて更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0085】
4−シクロヘキシルスチレン(0.27mol、50g)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(0.64mol、120g)及びメチルメタクリレート(0.09mol、9.0g)を混合した。これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を全モノマー重量に対して1wt%加え、AIBNが溶解するまで攪拌した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、この溶液をろ過し、60℃で減圧乾燥することにより白色の重合体(重合体A)を得た。
【0086】
重合体Aを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)に加えた。重合体Aの濃度は、2wt%とした。以下、重合体Aを含む電解液を電解液Aと呼ぶことにする。
【0087】
電解液Aを用いて電池を作製し、特性評価を行った。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0088】
その結果、この電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.98であった。また、直流抵抗は10Ωであった。高温保存特性は0.90であった。
【0089】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0090】
その結果、重合体Aの反応電圧は4.7Vであった。また、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、2.7(V/mAh)であり、電流密度で換算すると4.8(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は65Ωであった。
【実施例2】
【0091】
実施例1において重合体Aの濃度を5wt%にすること以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池の電池容量は2.3mAh、サイクル特性は0.97であった。また、直流抵抗は15Ωであった。高温保存特性は0.88であった。
【0092】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0093】
その結果、重合体Aの反応電圧は4.7Vであった。また、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、3.0(V/mAh)であり、電流密度で換算すると5.3(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は71Ωであった。
【実施例3】
【0094】
実施例1において重合体Aの濃度を10wt%にすること以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。この電池の電池容量は2.2mAh、サイクル特性は0.95であった。また、直流抵抗は22Ωであった。高温保存特性は0.86であった。
【0095】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0096】
その結果、重合体Aの反応電圧は4.7Vであった。また、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、3.0(V/mAh)であり、電流密度で換算すると5.3(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は73Ωであった。
【実施例4】
【0097】
4−シクロヘキシルスチレン(0.27mol、50g)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(0.53mol、100g)及びメチルメタクリレート(0.20mol、20g)を混合した。これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を全モノマー重量に対し1wt%加え、AIBNが溶解するまで攪拌した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、この溶液をろ過し、60℃で減圧乾燥することにより白色の重合体(重合体B)を得た。
【0098】
重合体Bを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)に加えた。重合体Bの濃度は、2wt%にした。
【0099】
以下、重合体Bを含む電解液を電解液Bと呼ぶことにする。
【0100】
電解液Bを用いて電池を作製し、特性評価を行った。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0101】
その結果、この電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.98であった。また、直流抵抗は10Ωであった。高温保存特性は0.90であった。
【0102】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0103】
その結果、重合体Bの反応電圧は4.7Vであった。また、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、3.0(V/mAh)であり、電流密度で換算すると5.3(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は70Ωであった。
【実施例5】
【0104】
4−シクロヘキシルスチレン(0.27mol、50g)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(0.53mol、100g)およびブチルメタクリレート(0.20mol、28.4g)を混合した。これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を全モノマー重量に対し1wt%加え、AIBNが溶解するまで攪拌した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、前記溶液をろ過し、60℃で減圧乾燥することにより白色の重合体(重合体C)を得た。
【0105】
重合体Cを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)に加えた。重合体Cの濃度は、2wt%にした。
【0106】
以下、重合体Cを含む電解液を電解液Cと呼ぶことにする。
【0107】
電解液Cを用いて電池を作製し、特性評価を行った。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0108】
その結果、この電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.95であった。また、直流抵抗は16Ωであった。高温保存特性は0.90であった。
【0109】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0110】
その結果、重合体Cの反応電圧は4.7Vであった。また、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、2.4(V/mAh)であり、電流密度で換算すると4.2(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は63Ωであった。
【実施例6】
【0111】
4−ビニルビフェニル(0.27mol、48.6g)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(0.53mol、100g)およびメチルメタクリレート(0.20mol、28.4g)を混合した。これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を全モノマー重量に対して1wt%加え、AIBNが溶解するまで攪拌した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、前記溶液をろ過し、60℃で減圧乾燥することにより白色の重合体(重合体D)を得た。
【0112】
重合体Dを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)に加えた。重合体Dの濃度は、2wt%にした。以下、重合体Dを含む電解液を電解液Dと呼ぶことにする。
【0113】
電解液Dを用いて電池を作製し、特性評価を行った。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0114】
その結果、この電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.98であった。また、直流抵抗は11Ωであった。高温保存特性は0.91であった。
【0115】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0116】
その結果、重合体Dの反応電圧は4.5Vであり、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、2.5(V/mAh)であり、電流密度で換算すると4.4(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は60Ωであった。
【実施例7】
【0117】
スチレン(0.27mol、28.1g)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(0.53mol、100g)及びメチルメタクリレート(0.20mol、28.4g)を混合した。これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を全モノマー重量に対し1wt%加え、AIBNが溶解するまで攪拌した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、この溶液をろ過し、60℃で減圧乾燥することで、白色の重合体(重合体E)を得た。
【0118】
重合体Eを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)に加えた。重合体Dの濃度は、2wt%にした。
【0119】
以下、重合体Eを含む電解液の組成物を電解液Eと呼ぶことにする。
【0120】
電解液Eを用いて電池を作製し、特性評価を行った。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0121】
その結果、この電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.95であった。また、直流抵抗は10Ωであった。高温保存特性は0.91であった。
【0122】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0123】
その結果、重合体Dの反応電圧は5.0Vであり、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、2.0(V/mAh)であり、電流密度で換算すると3.5(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は33Ωであった。
【実施例8】
【0124】
実施例4において電池評価の際に用いる負極のLi金属を非晶質カーボンに変えること以外は、実施例4と同様にして電池を作製し、評価した。
【0125】
その結果、この電池の電池容量は1.5mAh、サイクル特性は0.95であった。また、直流抵抗は10Ωであった。高温保存特性は0.90であった。
【0126】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0127】
その結果、重合体Bの反応電圧は4.8Vであり、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、2.7(V/mAh)であり、電流密度で換算すると4.8(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は58Ωであった。
【実施例9】
【0128】
アクリル酸4−シクロヘキシルフェニル(0.27mol、62.1g)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(0.53mol、100g)及びメチルメタクリレート(0.20mol、28.4g)を混合した。これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を全モノマー重量に対して1wt%加え、AIBNが溶解するまで攪拌した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、前記溶液をろ過し、60℃で減圧乾燥することで、白色の重合体(重合体F)を得た。
【0129】
重合体Fを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)に加えた。重合体Fの濃度は、2wt%にした。
【0130】
以下、重合体Fを含む電解液の組成物を電解液Fと呼ぶことにする。
【0131】
電解液Fを用いて電池を作製し、特性評価を行った。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0132】
その結果、この電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.98であった。また、直流抵抗は11Ωであった。高温保存特性は0.90であった。
【0133】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0134】
その結果、重合体Fの反応電圧は4.7Vであり、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、2.9(V/mAh)であり、電流密度で換算すると5.1(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は65Ωであった。
【実施例10】
【0135】
アクリル酸1−シクロヘキシルフェニル(0.27mol、62.1g)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(0.53mol、100g)及びメチルメタクリレート(0.20mol、28.4g)を混合した。これに重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を全モノマー重量に対して1wt%加え、AIBNが溶解するまで攪拌した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加えることにより白色沈殿物を得た。その後、この溶液をろ過し、60℃で減圧乾燥することにより白色の重合体(重合体G)を得た。
【0136】
重合体Gを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)に加えた。重合体Gの濃度は、2wt%にした。
【0137】
以下、重合体Gを含む電解液の組成物を電解液Gと呼ぶことにする。
【0138】
電解液Gを用いて電池を作製し、特性評価を行った。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0139】
その結果、作製した電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.98であった。また、直流抵抗は11Ωであった。高温保存特性は0.92であった。
【0140】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0141】
その結果、重合体Fの反応電圧は4.7Vであり、過電圧の急激な上昇が見られた。その上昇速度は、2.9(V/mAh)であり、電流密度で換算すると5.1(Vcm/mAh)であった。過充電試験後の直流抵抗は62Ωであった。
【0142】
以上の実施例においては、電池の過充電時において内部抵抗が増加し、過電圧が急激に増加する。
【0143】
これは、上記の重合体(過充電抑制剤)が電池の作動電圧の範囲内において反応せず、過充電状態になった時に電解重合を開始するとともに、電池の内部抵抗を増加させ、電池反応をシャットダウンさせる機能を有するためである。
【0144】
この作用により、上記の重合体の反応電圧を検出することが容易となる。これにより、電池の過充電を検出することができ、安全性に優れたリチウムイオン電池が提供することが可能となる。
【0145】
(比較例1)
電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)にトランススチルベンゼンを2wt%になるように加えた。この電解液を用いて電池を作製した。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0146】
作製した電池の電池容量は2.0mAh、サイクル特性は0.85であった。また、直流抵抗は15Ωであった。高温保存特性は0.50であった。
【0147】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。その結果、過電圧の上昇は観測されなかった。なお、過充電試験後の直流抵抗は20Ωであった。
【0148】
(比較例2)
電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)にシクロヘキシルベンゼンを2wt%になるように加えた。この電解液を用いて電池を作製した。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0149】
作製した電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.93であった。また、直流抵抗は15Ωであった。高温保存特性は0.75であった。
【0150】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。過電圧の上昇は観測されなかった。なお、過充電試験後の直流抵抗は14Ωであった。
【0151】
(比較例3)
添加剤を加えない電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L、富山化学工業(株)製)を用いて電池を作製した。その際、負極にはLi金属を用いた。
【0152】
作製した電池の電池容量は2.4mAh、サイクル特性は0.98であった。また、直流抵抗は8Ωであった。高温保存特性は0.87であった。
【0153】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。過電圧の上昇は観測されなかった。なお、過充電試験後の直流抵抗は20Ωであった。
【0154】
(比較例4)
比較例3において負極のLi金属の代わりに非晶質カーボンを使用すること以外は、比較例3と同様にして電池を作製した。
【0155】
作製した電池の電池容量は1.5mAh、サイクル特性は0.95であった。また、直流抵抗は9Ωであった。高温保存特性は0.86であった。
【0156】
同じ条件で作製した電池を用いて、別途、過充電試験を行った。
【0157】
過電圧の上昇は観測されなかった。なお、過充電試験後の直流抵抗は21Ωであった。
【0158】
表1は、以上の実施例及び比較例についてまとめたものである。
【0159】
【表1】

【0160】
以下、実施例の二次電池の構成について図を用いて説明する。
【0161】
図1は、実施例の二次電池(筒型リチウムイオン電池)を示す分解斜視図である。
【0162】
本図に示す二次電池は、正極1及び負極2がセパレータ3を挟み込み形で積層され、捲回されたものを非水電解液とともに電池缶101に封入した構造を有する。電池蓋103の中央部には、正極1と電気的に接続された正極端子102が設けてある。電池缶101は、負極2と電気的に接続されている。
【0163】
図2は、実施例の二次電池(ラミネート型セル)を示す断面図である。
【0164】
本図に示す二次電池は、正極1及び負極2がセパレータ3を挟み込み形で積層されたものを非水電解液とともに包装体4で密封した構造を有する。正極1は、正極集電体1a及び正極合剤層1bを含み、負極2は、負極集電体2a及び負極合剤層2bを含む。正極集電体1aは、正極端子5に接続してあり、負極集電体2aは、負極端子6に接続してある。
【0165】
図3は、実施例の二次電池(角型電池)を示す斜視図である。
【0166】
本図において、電池110(非水電解液二次電池)は、角型の外装缶112に扁平状捲回電極体を非水電解液とともに封入したものである。蓋板113の中央部には、端子115が絶縁体114を介して設けてある。
【0167】
図4は、図3のA−A断面図である。
【0168】
本図において、正極116及び負極118は、セパレータ117を挟み込む形で捲回され、扁平状捲回電極体119を形成している。外装缶112の底部には、正極116と負極118とが短絡しないように絶縁体120が設けてある。
【0169】
正極116は、正極リード体121を介して蓋板113に接続されている。一方、負極118は、負極リード体122及びリード板124を介して端子115に接続されている。リード板124と蓋板113とが直接接触しないように絶縁体123が挟み込んである。
【0170】
以上の実施例に係る二次電池の構成は例示であり、本発明の二次電池は、これらに限定されるものではなく、上記の過充電抑制剤を適用したものすべてを含む。
【符号の説明】
【0171】
1:正極、1a:正極集電体、1b:正極合剤層、2:負極、2a:負極集電体、2b:負極合剤層、3:セパレータ、4:包装体、5:正極端子、6:負極端子、101:電池缶、102:正極端子、103:電池蓋、110:電池、112:外装缶、113:蓋板、114:絶縁体、115:端子、116:正極、117:セパレータ、118:負極、119:扁平状捲回電極体、120:絶縁体、121:正極リード体、122:負極リード体、123:絶縁体、124:リード板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、電解質とを含むリチウム二次電池であって、前記電解質は、下記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物と、下記化学式(3)で表される重合性化合物と、下記化学式(4)で表される重合性化合物とを含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式中、Zは重合性官能基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zは重合性官能基であり、Yは高極性の官能基である。Zは重合性官能基であり、Wは低極性の官能基である。)
【請求項2】
前記化学式(1)、(3)及び(4)で表される重合性化合物又は前記化学式(2)、(3)及び(4)で表される重合性化合物を重合した重合体を含むことを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
正極と、負極と、電解質とを含むリチウム二次電池であって、前記電解質は、下記化学式(5)又は(6)で表される重合体を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【化5】

【化6】

(式中、Zp1は重合性官能基の残基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zp2は重合性官能基の残基であり、Yは高極性の官能基である。Zp3は重合性官能基の残基であり、Wは低極性の官能基である。a、b及びcはmol%を示す。)
【請求項4】
正極と、負極と、電解質とを含むリチウム二次電池であって、前記電解質は、下記化学式(7)で表される重合体を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【化7】

(式中、Rは水素原子、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素基又は芳香族基であり、Rはアルキレンオキシド、シアノ基、アミノ基又は水酸基を有する官能基である。Rは、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素基を有する官能基である。R〜Rは、水素原子又は炭化水素基である。a、b及びcはmol%を示す。)
【請求項5】
下記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物と、下記化学式(3)で表される重合性化合物と、下記化学式(4)で表される重合性化合物とを含む重合性化合物群、又は下記化学式(1)、(3)及び(4)で表される重合性化合物又は下記化学式(2)、(3)及び(4)で表される重合性化合物を重合した重合体、下記化学式(5)又は(6)で表される重合体、若しくは下記化学式(7)で表される重合体を含むことを特徴とするリチウム二次電池用電解液。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

(式中、Zは重合性官能基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zは重合性官能基であり、Yは高極性の官能基である。Zは重合性官能基であり、Wは低極性の官能基である。)
【化12】

【化13】

(式中、Zp1は重合性官能基の残基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zp2は重合性官能基の残基であり、Yは高極性の官能基である。Zp3は重合性官能基の残基であり、Wは低極性の官能基である。a、b及びcはmol%を示す。)
【化14】

(式中、Rは水素原子、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素基又は芳香族基であり、Rはアルキレンオキシド、シアノ基、アミノ基又は水酸基を有する官能基である。Rは、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素基を有する官能基である。R〜Rは、水素原子又は炭化水素基である。a、b及びcはmol%を示す。)
【請求項6】
下記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物と、下記化学式(3)で表される重合性化合物と、下記化学式(4)で表される重合性化合物とを含む重合性化合物群、又は下記化学式(1)、(3)及び(4)で表される重合性化合物又は下記化学式(2)、(3)及び(4)で表される重合性化合物を重合した重合体、下記化学式(5)又は(6)で表される重合体、若しくは下記化学式(7)で表される重合体を有効成分として用いたことを特徴とするリチウム二次電池用過充電抑制剤。
【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

(式中、Zは重合性官能基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zは重合性官能基であり、Yは高極性の官能基である。Zは重合性官能基であり、Wは低極性の官能基である。)
【化19】

【化20】

(式中、Zp1は重合性官能基の残基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zp2は重合性官能基の残基であり、Yは高極性の官能基である。Zp3は重合性官能基の残基であり、Wは低極性の官能基である。a、b及びcはmol%を示す。)
【化21】

(式中、Rは水素原子、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素基又は芳香族基であり、Rはアルキレンオキシド、シアノ基、アミノ基又は水酸基を有する官能基である。Rは、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素基を有する官能基である。R〜Rは、水素原子又は炭化水素基である。a、b及びcはmol%を示す。)
【請求項7】
下記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物及び下記化学式(3)及び(4)で表される重合性化合物を混合し、これに重合開始剤を混合して反応させることを特徴とする重合体の製造方法。
【化22】

【化23】

【化24】

【化25】

(式中、Zは重合性官能基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zは重合性官能基であり、Yは高極性の官能基である。Zは重合性官能基であり、Wは低極性の官能基である。)
【請求項8】
下記化学式(8)、(9)及び(10)で表される重合性化合物を混合し、これに重合開始剤を混合して反応させることを特徴とする重合体の製造方法。
【化26】

【化27】

【化28】

(式中、Rは水素原子、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素基又は芳香族基であり、Rはアルキレンオキシド、シアノ基、アミノ基又は水酸基を有する官能基である。Rは、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素基を有する官能基である。R〜Rは、水素原子又は炭化水素基である。)
【請求項9】
請求項5記載のリチウム二次電池用電解液を用い、過電圧の増加を検出することにより充電の完了を判別し、電圧の印加を停止することを特徴とするリチウム二次電池の充電制御方法。
【請求項10】
請求項5記載のリチウム二次電池用電解液を用いたリチウム二次電池であって、過電圧の増加を検出することにより充電の完了を判別して電圧の印加を停止する制御部を有することを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項11】
下記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物と、下記化学式(3)で表される重合性化合物と、下記化学式(4)で表される重合性化合物とを重合したものであることを特徴とする重合体。
【化29】

【化30】

【化31】

【化32】

(式中、Zは重合性官能基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zは重合性官能基であり、Yは高極性の官能基である。Zは重合性官能基であり、Wは低極性の官能基である。)
【請求項12】
下記化学式(5)又は(6)で表されることを特徴とする重合体。
【化33】

【化34】

(式中、Zp1は重合性官能基の残基であり、Xは炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは芳香族官能基である。Zp2は重合性官能基の残基であり、Yは高極性の官能基である。Zp3は重合性官能基の残基であり、Wは低極性の官能基である。a、b及びcはmol%を示す。)
【請求項13】
下記化学式(7)で表されることを特徴とする重合体。
【化35】

(式中、Rは水素原子、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素基又は芳香族基であり、Rはアルキレンオキシド、シアノ基、アミノ基又は水酸基を有する官能基である。Rは、脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素基を有する官能基である。R〜Rは、水素原子又は炭化水素基である。a、b及びcはmol%を示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−104456(P2012−104456A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254352(P2010−254352)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】