説明

リニアガイド装置のスライダ

【課題】スライダの両脚部を上下方向に配置してリニアガイド装置を使用した場合でも、両脚部に形成された方向転換路で均一な潤滑がなされるようにする。
【解決手段】エンドキャップ1の給油溝2とスライダ本体のエンドキャップ側の面とで形成される油路の断面積を、下記の(1) 式を満たすものとする。
h=2Tcosθ/ρgr‥‥(1)
式中、h:油路における潤滑油の液面の上昇高さ(m)、T:油路における潤滑油の表面張力(N/m)、θ:油路における潤滑油の接触角(°)、ρ:潤滑油の密度(kg/m3 )、g:重力(m/s2 )、r:油路の断面をなす長方形の対角線の長さ(m)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リニアガイド装置のスライダに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、案内レールとスライダと複数個の転動体とを備えている。案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動溝(転動体が「ころ」の場合には転動面)を有する。スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有する。そして、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、この循環経路内を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動する。
【0003】
このようなリニアガイド装置のスライダにおいては、スライダ本体の直動方向端部にエンドキャップが固定されている。エンドキャップは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、両脚部と直交する方向に延びて両脚部を連結する胴部とからなる。そして、両脚部のスライダ本体側の面に、転動体の方向転換路の外側溝が形成され、胴部には給油口が形成されている。また、エンドキャップには、前記給油口から前記方向転換路に向かう給油溝が形成されている。
【0004】
図10に示す例では、エンドキャップ1の両脚部13に、上下二段の方向転換路5a,5bが形成されている。上側の方向転換路5bは、脚部13のスライダ本体側の面に形成された外側溝14a,14bと、第2のリターンガイド40の内側軌道面41とで形成されている。下側の方向転換路5aは、脚部13のスライダ本体側の面に外側溝14a,14bより深く形成された外側溝14cと、第1のリターンガイド30の内側軌道面310で形成されている。
【0005】
図10の右側の脚部13は、第1のリターンガイド30と第2のリターンガイド40が取り付けられた後の状態を、左側の脚部13は、第1のリターンガイド30と第2のリターンガイド40が取り付けられる前の状態を示している。
図10の例では、エンドキャップ1の胴部11の中央に給油口15が形成され、胴部11の両側面にも給油口18が形成されている。また、スライダ本体側の面には、胴部11に平行に延びて給油口18に繋がる給油溝19と、給油溝19から直角に分岐して脚部13の外側溝14a〜14cに至る給油溝20が形成されている。第2のリターンガイド40の外面に、給油溝20に連続する溝42が形成されている。符号16はエンドキャップ1の取付ボルトを通す貫通穴である。
【0006】
スライダ本体の両端部にエンドキャップ1を固定することで、スライダ本体の端面とエンドキャップ1の給油溝19,20との間に、油路が形成される。そして、エンドキャップ1の給油口15または給油口18から導入された潤滑油は、給油溝19,20を通って溝42に至り、ここから上下二段の方向転換路5a,5bに供給される。
このようなリニアガイド装置を、スライダの両脚部を上下方向に配置して使用すると、潤滑油は自重により下方に向かって流動するため、給油口15から給油した場合、給油口15から下方に向かって延びる給油溝19には流入しやすいが、給油口15から上方に向かって延びる給油溝19には流入し難いという問題点がある。また、上側に配置された給油口18から給油した場合、上側に配置された脚部13の給油溝20に潤滑油が流入し難いという問題点がある。
【0007】
この問題点を解決するため、特許文献1には、給油溝(図10の符号19,20)の底面に、給油溝と平行に延びる複数の溝(底溝)を形成することが記載されている。その溝幅は、例えば100〜200μmとしている。また、底溝の溝幅が小さいほど、毛細管現象により(重力の影響が小さくなって)潤滑油が給油溝に沿って流れ易くなるため好ましいと記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1に記載されている給油溝は、底面に幅100〜200μmの溝を設けることで複数の底溝を有するが、これらの底溝は給油溝の一部であって、給油溝とスライダ本体の面とで形成される油路の一部に過ぎないため、油路全体としては、潤滑油が毛細管現象で移動できるものとなっていない。
下記の特許文献2には、油路の形成されたブロック体が、胴部のスライダ本体側の面に設けた凹部に嵌めてあるエンドキャップであって、ブロック体の凹部に対する密着性があり、両脚部を上下方向に配置して使用した場合に上側の油路に潤滑剤が向い易い構造のものを、作業性および作業効率に優れた方法で得ることが記載されている。具体的には、前記凹部の底面とブロック体の油路形成面との間に、耐油性を備える軟弾性素材からなる板材を配置し、この板材に前記油路に嵌まって潤滑剤の流量を制限する凸部を設けることが記載されている。
【0009】
下記の特許文献3には、エンドキャップの軸方向外側に、案内レールとの対向部位が開放された収容室に潤滑油をしみ込ませたフェルト材が配設されたシール装置(サイドシール)を固定し、フェルト材にしみ込ませた潤滑油が、毛細管現象により全てのボール転走溝(転動通路)に供給することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−146888号公報
【特許文献2】特開2008−164160号公報
【特許文献3】特開平10−141371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、エンドキャップの油路を潤滑油が毛細管現象で移動できるように形成することで、スライダの両脚部を上下方向に配置してリニアガイド装置を使用した場合でも、両脚部に形成された方向転換路で均一な潤滑がなされるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は、案内レールおよび転動体とともにリニアガイド装置を構成するスライダであって、転動体の転動面および転動体の戻し通路を有する本体と、本体の直動方向両端に配置されたエンドキャップと、を備え、エンドキャップは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、両脚部と直交する方向に延びて両脚部を連結する胴部とからなり、前記両脚部の前記本体側の面に、転動体の方向転換路を構成する外側溝が形成され、下記の構成(a) または構成(b) と下記の構成(c) を有することを特徴とする。
【0013】
(a) 前記胴部の前記本体側の面に凹部が形成され、この凹部に、前記方向転換路に潤滑油を導入する給油溝を有するブロック体が、前記給油溝の形成面を凹部の底面に向けて嵌合されて、前記給油溝と前記底面とにより油路が形成され、前記胴部に、潤滑油を前記油路に供給する給油口を有する。
(b) 前記両脚部および胴部の前記本体側の面に、前記方向転換路に潤滑油を導入する給油溝が形成され、前記胴部に、潤滑油を前記給油溝に供給する給油口を有し、前記給油溝と前記本体のエンドキャップ側の面とで油路が形成されている。
(c) 前記油路の断面積が、下記の(1) 式を満たす。
h=2Tcosθ/ρgr‥‥(1)
式中、h:油路における潤滑油の液面の上昇高さ(m)、T:油路における潤滑油の表面張力(N/m)、θ:油路における潤滑油の接触角(°)、ρ:潤滑油の密度(kg/m3 )、g:重力(m/s2 )、r:油路の断面をなす長方形の対角線の長さ(m)である。
前記(1) 式は、rが油路の内径(m)である場合、毛細管によって運ばれる水の高さを示す。
【0014】
この発明のスライダは、エンドキャップに形成された油路の断面積が、前記(1) 式を満たすため、これを満たさない場合と比較して、前記油路内を潤滑油が毛細管現象により移動できる割合が高い。よって、この発明のスライダを備えたリニアガイド装置は、前記油路内の潤滑油が重力の影響を受けにくいため、スライダの両脚部を上下方向に配置して使用した場合でも、給油口から全ての油路に均一に潤滑油が流入し易くなるため、従来例と比較して上下の方向転換路で均一な潤滑がなされる。
【発明の効果】
【0015】
この発明のリニアガイド装置用スライダによれば、エンドキャップの油路内を潤滑油が毛細管現象で移動できる割合が高いため、スライダの両脚部を上下方向に配置してリニアガイド装置を使用した場合でも、両脚部に形成された方向転換路で従来例よりも均一な潤滑がなされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態のエンドキャップを示す正面図である。
【図2】第1実施形態のエンドキャップを構成するエンドキャップ本体を示す正面図である。
【図3】第1実施形態のエンドキャップを構成するブロック体を示す斜視図である。
【図4】第1実施形態のエンドキャップが有する油路を示す拡大断面図である。
【図5】図3のブロック体の正面図である。
【図6】第1実施形態のエンドキャップを構成するブロック体と特許文献2に記載されたブロック体との違いを示す、両者の斜視図(a,b)と給油溝の断面図(c)である。
【図7】図3とは異なるブロック体を示す正面図(a)と、そのB−B断面図(b)である。
【図8】断面形状が異なる油路を示す拡大断面図である。
【図9】第2実施形態のエンドキャップの本体側の面を示す正面図である。
【図10】従来例のエンドキャップの本体側の面を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態について説明する。
リニアガイド装置用スライダはスライダ本体とエンドキャップとからなるが、スライダ本体は従来例と同じものを使用できるため、ここではエンドキャップについてのみ説明する。また、前述の従来例(図10)と同じ部分は、同じ符号を記して説明を省略したものもある。
【0018】
[第1実施形態]
この実施形態のエンドキャップ1は、図1に示すように、図2に示すエンドキャップ本体10と、図3に示すブロック体3とで構成される。図1および2は、エンドキャップ1およびエンドキャップ本体10のスライダ本体側の面を示している。
図2に示すように、エンドキャップ本体10のスライダ本体側の面に、図3のブロック体3が嵌まる形状の凹部12が形成されている。この凹部12は、主に胴部11に対応する部分からなり、ブロック体3の位置決め部12aと、胴部11から両脚部13に向けて延びる脚部分12bを有する。
【0019】
エンドキャップ本体10には、また、両脚部13のスライダ本体側の面に、ころ(転動体)6の方向転換路を構成する外側溝14a〜14cが形成されている。この外側溝14a〜14cに第1および第2のリターンガイド30,40を嵌めることにより、前述の従来例(図10)と同様に方向転換路5a,5bが形成される。
エンドキャップ本体10の胴部11の中心に給油口15が形成されている。また、胴部11および脚部13に、エンドキャップ1のスライダ本体に対する取付ボルトを通す貫通穴16が形成されている。脚部13には、また、凹部12の脚部分12bから方向転換路に向かう給油溝17が形成されている。胴部11の貫通穴16と給油口15は、凹部12内に形成されている。なお、胴部11の両側面にも給油口18が形成されており、この給油口18の先端の給油路18aは凹部12の側面122に至るが、この給油路18aは閉塞されている。
【0020】
図3に示すように、ブロック体3には、胴部11の給油口15と連通する給油口31、および胴部11の貫通穴16と連通する貫通穴32が形成されている。そして、ブロック体3の凹部12側とする面に給油溝33が形成されている。
この給油溝33は、給油口31から両側に真っ直ぐに延びた部分33aと、その先端に連続し、貫通穴32の下側(脚部13側)を通るように彎曲した部分33bと、その先で下側に延びてブロック体3の下端面まで至る部分33cと、上側に延びた部分33dと、ブロック体3の下端面で厚さ方向に沿って延びる部分33eとからなる。上側部33dは、貫通穴32の外側からブロック体3の幅方向両端面に至るように延びている。ブロック体3の給油溝33の断面は正方形であり、エンドキャップ1の給油溝17の断面もこれと同じに形成されている。
ブロック体3の下面には、凹部12の位置決め部12aに嵌まる突起34が形成されている。このブロック体3は、熱可塑性樹脂を射出成形することで得られたものである。
【0021】
エンドキャップ1は、ブロック体3を給油溝33側を凹部12に向けて嵌めたものであり、給油溝33と凹部12の底面121とにより油路4が形成されている。油路4の断面図を図4に示す。この油路4の断面は正方形であり、その断面積は使用する潤滑油に応じて下記の(1) 式を満たすように設計されている。
h=2Tcosθ/ρgr‥‥(1)
式中、h:油路における潤滑油の液面の上昇高さ(m)、T:油路における潤滑油の表面張力(N/m)、θ:油路における潤滑油の接触角(°)、ρ:潤滑油の密度(kg/m3 )、g:重力(m/s2 )、r:油路断面をなす正方形の対角線の長さ(m)である。
【0022】
なお、エンドキャップ1をスライダ本体に固定することで、スライダ本体とエンドキャップ1の給油溝17との間に形成される油路は、給油溝17の断面が給油溝33と同じであるため、油路4と同じ状態となる。
このエンドキャップ1をスライダ本体に固定し、胴部の中心に設けた給油口15を塞いで給油路18aを開けて、側面に設けた給油口18から潤滑油を供給すると、給油路18aからブロック体3の給油溝33dに潤滑油が入る。そして、図5に示すように、潤滑油は、ブロック体3の全ての給油溝33a〜33eに至り、ブロック体3の下端面の給油溝33eから給油溝17に向かう。
【0023】
ここで、給油溝33の断面積が小さく、給油溝33と凹部12の底面121とにより形成された油路4の断面積が前記(1) 式を満たすため、エンドキャップ1の配置に関わらず、エンドキャップ本体10の給油口15からブロック体3の給油口31に、またはエンドキャップ本体10の給油口18からブロック体3の給油溝33dに供給された潤滑油は、ブロック体3の全ての給油溝33a〜33eに至り、ブロック体3の下端面の給油溝33eからエンドキャップ本体10の給油溝17に向かう。
【0024】
図6を用いて、この実施形態のブロック体3と比較例のブロック体3Aを比較する。エンドキャップ1をスライダ本体に固定し、両脚部を上下方向に配置して、胴部の中心に設けた給油穴15から給油して使用した場合、潤滑油はブロック体3,3Aの給油口31,31Aから給油溝33,33Aに供給される。
この場合、この実施形態のブロック体3では、図6(a)に示すように、給油口31に入った潤滑油は、毛細管現象により、重力の影響を受けずに上下の給油溝33に向かい、給油溝33の全体に入る。そして、ブロック体3の下端面の給油溝33eから上下の脚部13の給油溝17に入って、上下の方向転換路5a,5bに均一に入る。
【0025】
比較例のブロック体3Aでは、図6(b)に示すように、給油口31Aに入った潤滑油は、重力の影響を受けて、ほとんどが下側の給油溝33Aに向かい、上側の給油溝33Aには向かわない。そのため、ブロック体3の下端面の給油溝33eから下側の脚部13の給油溝17に入って、下側の方向転換路5a,5bに入るが、上側の脚部13の方向転換路5a,5bには入らない。
【0026】
ブロック体3の給油溝33とブロック体3Aの給油溝33Aとの断面寸法の違いは、例えば図6(c)に示すような比率である。すなわち、この実施形態のブロック体3は、比較例のブロック体3Aより給油溝33の断面積が非常に小さく、給油溝33と凹部12の底面121とにより形成された油路4の断面積が前記(1) 式を満たす。これに対して、比較例のブロック体3Aは、この実施形態のブロック体3より給油溝33Aの断面積が非常に大きく、給油溝33Aと凹部12の底面121とにより形成された油路の断面積が前記(1) 式を満たさない。
【0027】
したがって、この実施形態のスライダによれば、両脚部を上下方向に配置してリニアガイド装置を使用した場合でも、両脚部に形成された方向転換路で比較例よりも均一な潤滑が行われる。
なお、図3に示すブロック体3に代えて、図7に示すように、複数系統の給油溝33が形成されたブロック体3を用いてもよい。複数系統の給油溝33とすることで、一系統の給油溝33が形成されているものと比較して、多くの潤滑油を供給することができる。
【0028】
図7に示すブロック体3に形成されている給油溝33は、図3に示すブロック体3と同様の給油溝33a,33b,33dを並列に二つ有し、図3に示すブロック体3と同様の給油溝33c,33eを有するとともに、上側の給油溝33dと下側の給油溝33bを連結する給油溝33fを有する。この給油溝33と凹部12の底面121とにより形成された油路4の断面積が前記(1) 式を満たす。
【0029】
また、給油溝33の内面に潤滑油との親和性を高めるコーティングを施すことにより、そのようなコーティングが施されていない場合と比較して、より一層、油路内で潤滑油が毛細管現象で移動しやすくすることができる。
また、図8に示すように、給油溝33の断面形状が長方形でなく、側面が内側に凸の湾曲面になっていると、長方形で断面積が同じ場合と比較して、油路の表面積が大きくなるため、油路内で潤滑油が毛細管現象で移動しやすくすることができる。
【0030】
[第2実施形態]
この実施形態のエンドキャップ1は、図9に示すように、両脚部13のスライダ本体側の面に、ころ(転動体)6の方向転換路を構成する外側溝14a〜14cが形成されている。この外側溝14a〜14cに第1および第2のリターンガイド30,40を嵌めることにより、前述の従来例(図10)と同様に方向転換路5a,5bが形成される。
【0031】
エンドキャップ1の胴部11の中心に、スライダ本体側の小径の給油口21と反対側の大径の給油口15が中心を合わせて形成されている。胴部11の両側面にも、給油口18が形成されている。また、エンドキャップ1の胴部11および脚部13に、エンドキャップ1のスライダ本体に対する取付ボルトを通す貫通穴16が形成されている。
エンドキャップ1のスライダ本体側の面に給油溝2が形成されている。給油溝2の深さは小径の給油口21より浅い。小径の給油口21の直径は給油溝2の幅より少し大きく、大径の給油口15の直径は給油管に合わせてある。
【0032】
給油溝2は、給油口21から両側に真っ直ぐに延びた部分2aと、その先端に連続し、胴部11の貫通穴16の下側(脚部13側)を通るように彎曲した部分2bと、その先で下側に延びて外側溝14aまで至る部分2cと、上側に延びた後に直角に曲がって部分2aと同じ高さで真っ直ぐに延びる部分2dと、そこから厚さ方向に延びて給油口18の先端の給油路18aに繋がる部分2eとからなる。なお、通常の使用時には給油口15に給油管が結合され、給油路18aは閉塞されている。
【0033】
エンドキャップ1をスライダ本体に固定することで、スライダ本体のエンドキャップ1側の面とエンドキャップ1の給油溝2との間に油路が形成される。この油路の断面は正方形であり、その断面積は使用する潤滑油に応じて下記の(1) 式を満たすように設計されている。
h=2Tcosθ/ρgr‥‥(1)
式中、h:油路における潤滑油の液面の上昇高さ(m)、T:油路における潤滑油の表面張力(N/m)、θ:油路における潤滑油の接触角(°)、ρ:潤滑油の密度(kg/m3 )、g:重力(m/s2 )、r:油路断面をなす正方形の対角線の長さ(m)である。
このエンドキャップ1をスライダ本体に固定し、胴部の中心に設けた給油口15を塞いで給油路18aを開けて、側面に設けた給油口18から潤滑油を供給すると、エンドキャップ1の配置に関わらず、給油路18aから給油溝2に潤滑油が入り、全ての給油溝2a〜2eに至り、給油溝2cから上下の方向転換路5a,5bに均一に入る。
【0034】
また、エンドキャップ1をスライダ本体に固定し、両脚部を上下方向に配置して、胴部の中心に設けた給油穴15から給油して使用した場合、潤滑油は給油口21から給油溝2aに供給される。そして、給油口21に入った潤滑油が毛細管現象により、重力の影響を受けずに上下の給油溝2aに向かい、給油溝2の全体に入り、上下の脚部13の給油溝2cに入って、上下の方向転換路5a,5bに均一に入る。
したがって、この実施形態のスライダによれば、両脚部を上下方向に配置してリニアガイド装置を使用した場合でも、両脚部に形成された方向転換路で従来例(図10)よりも均一な潤滑が行われる。
【0035】
なお、図9のエンドキャップ1に形成されている給油溝2を、第1実施形態のブロック体3に形成された給油溝33と同様に、複数系統の給油溝(図7)としもよい。複数系統の給油溝とすることで、一系統の給油溝が形成されているものと比較して、多くの潤滑油を供給することができる。
また、給油溝2の内面に潤滑油との親和性を高めるコーティングを施すことにより、そのようなコーティングが施されていない場合と比較して、より一層、油路内で潤滑油が毛細管現象で移動しやすくすることができる。
【0036】
また、給油溝2の断面形状が長方形でなく、側面が内側に凸の湾曲面になっている(図8)と、長方形で断面積が同じ場合と比較して、油路の表面積が大きくなるため、油路内で潤滑油が毛細管現象で移動しやすくすることができる。
また、この実施形態のエンドキャップはブロック体を用いないため、第1実施形態よりも低コストで得られる。
【符号の説明】
【0037】
1 エンドキャップ
10 エンドキャップ本体
11 エンドキャップの胴部
12 ブロック体を嵌める凹部
12a 凹部の位置決め部
12b 凹部の脚部分
121 凹部の底面
122 凹部の側面
13 エンドキャップの脚部
14a〜14c 方向転換路を構成する外側溝
15 給油口
16 貫通穴
17 凹部から方向転換路に向かう給油溝
18 側面の給油口
19 給油溝
20 給油溝
2 エンドキャップの本体側の面に直接形成した給油溝
21 給油口
3 ブロック体
31 ブロック体の給油口
32 ブロック体の貫通穴
33 ブロック体に設けた給油溝
34 ブロック体の突起
30 第1のリターンガイド
310 第1のリターンガイドの内側軌道面
40 第2のリターンガイド
41 第2のリターンガイドの内側軌道面
42 第2のリターンガイドの溝
5a,5b 方向転換路
6 円筒ころ(転動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールおよび転動体とともにリニアガイド装置を構成するスライダであって、
転動体の転動面および転動体の戻し通路を有する本体と、本体の直動方向両端に配置されたエンドキャップと、を備え、
エンドキャップは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、両脚部と直交する方向に延びて両脚部を連結する胴部とからなり、
前記両脚部の前記本体側の面に、転動体の方向転換路を構成する外側溝が形成され、
前記胴部の前記本体側の面に凹部が形成され、この凹部に、前記方向転換路に潤滑油を導入する給油溝を有するブロック体が、前記給油溝の形成面を凹部の底面に向けて嵌合されて、前記給油溝と前記底面とにより油路が形成され、
前記胴部に、潤滑油を前記油路に供給する給油口を有し、
前記油路の断面積が、下記の(1) 式を満たすことを特徴とするリニアガイド装置のスライダ。
h=2Tcosθ/ρgr‥‥(1)
式中、h:油路における潤滑油の液面の上昇高さ(m)、T:油路における潤滑油の表面張力(N/m)、θ:油路における潤滑油の接触角(°)、ρ:潤滑油の密度(kg/m3 )、g:重力(m/s2 )、r:油路の断面をなす長方形の対角線の長さ(m)である。
【請求項2】
案内レールおよび転動体とともにリニアガイド装置を構成するスライダであって、
転動体の転動面および転動体の戻し通路を有する本体と、本体の直動方向両端に配置されたエンドキャップと、を備え、
エンドキャップは、案内レールの幅方向両側に配置される脚部と、両脚部と直交する方向に延びて両脚部を連結する胴部とからなり、
前記両脚部の前記本体側の面に、転動体の方向転換路を構成する外側溝が形成され、
前記両脚部および胴部の前記本体側の面に、前記方向転換路に潤滑油を導入する給油溝が形成され、
前記胴部に、潤滑油を前記給油溝に供給する給油口を有し、
前記給油溝と前記本体のエンドキャップ側の面とで形成される油路の断面積が、下記の(1) 式を満たすことを特徴とするリニアガイド装置のスライダ。
h=2Tcosθ/ρgr‥‥(1)
式中、h:油路における潤滑油の液面の上昇高さ(m)、T:油路における潤滑油の表面張力(N/m)、θ:油路における潤滑油の接触角(°)、ρ:潤滑油の密度(kg/m3 )、g:重力(m/s2 )、r:油路の断面をなす長方形の対角線の長さ(m)である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−229752(P2012−229752A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98355(P2011−98355)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】