説明

リニアモータの制御装置

【課題】 リニアモータの運転には一般的に回転振動(ヨーイング、ピッチング、ローリング)を伴い、速度・位置の精度を保つことが難しいので、リニアモータの推力の変化に連続して対応できる制振制御手段を得て、ハイゲイン化された高速で高精度の駆動が行える方法と装置を求める。
【解決手段】 リニアモータの可動部106の重心点13における位置および速度の情報10を、位置もしくは速度センサ8の情報10と速度制御器102から出力された信号( 推力指令値11) より推定する推定手段( オブザーバ107)を有し、この推定手段107から得られた位置および速度の推定情報16,17をそれぞれの制御器102,104へフィードバックすることで、位置および速度制御を行うリニアモータの制御方法とその装置から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアモータを駆動制御する方法とその装置に関し、特にリニアモータの高精度送りを実現する上で制御パラメータの高ゲイン化が必要であるときのキーとなる機械の固有振動対策を施す制御手段に係る。
【背景技術】
【0002】
これまでのリニアモータの構成例で、固有振動対策を施した従来例としては、例えば特開平9−121589号公報に掲載されているのがそれである。この従来例のリニアモータの駆動回路のブロック構成図を、図8に示す。これは図8に示すように、固定子側に配列された界磁マグネットと、この界磁マグネットと磁気空隙を介して移動可能に設けられた電機子コイル814A,814B,814Cを有する移動体806とを具備する可動コイル型リニアモータ802であって、移動体806に設けた位置読出し部822からの信号に基づいて移動体806の位置を認識するエンコーダ部824と、界磁マグネットの磁極を検出するための磁極検出部816と、エンコーダ部824からの位置信号と位置指令信号とに基づいて制御信号を求める制御部826と、この制御部826の制御信号と磁極検出部816からの磁極検出信号に基づいて電機子コイル814A,814B,814Cに供給する駆動電流を形成する駆動部844と、制御信号あるいは磁極検出信号から可動コイル型リニアモータ802の固有振動周波数と実質的に同一の周波数帯域の信号成分を減衰させる帯域減衰フィルタ部842とを備えるように構成することによって、帯域減衰フィルタ部842にて固有振動周波数と同一周波数成分の信号を減衰させ、移動体806の共振を抑制するものである。
【0003】
ところで一般的にリニアモータおいては、可動部の質量と軸受の剛性により、ヨーイング(yawing・偏揺れ),ピッチング(pitching・縦揺れ),ローリング(rolling・横揺れ)の3つの固有振動モードを有する[図9参照]。そこで、特開平9−121589号公報以前の通常のリニアモータにおいては、位置(あるいは速度)センサでは目標指令値に対する動作量の他に、これらの振動成分を含んだ信号が検出される。よって、制御器にフィードバックされる信号に振動成分が含まれるため、機械的固有振動数で発振する現象が生じる。これを図10に示し、制御に甚だしい障害となっていたことが分かる。
それで、先の特開平9−121589号公報では、予めリニアモータの機械的固有振動数に一致する周波数の帯域減衰フィルタ842を制御部826に設けて、機械の振動を除去し、ホスト・ホストコンピュータよりの位置指令信号(目標指令値)に対する追従性を向上させている[図11参照]。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところがこの従来技術 [特開平9−121589号公報] では、1つの機械的固有振動数にのみ対応しており、制御性能に影響を与える機械的固有振動数が2つ以上ある場合に、対応できないという問題がある。また、可動部の質量や経年変化により軸受の剛性が変化した場合、制御器に設定した周波数と機械的固有振動数との間にずれが生じるため、振動抑制ができなくなるという問題がある [図12参照] 。
ここにおいて本発明では、このような機械的固有振動数が変化する場合や、2つ以上の機械的固有振動数が存在する場合でも、これらの振動を抑制し、高速、かつ高精度な動作を可能とするリニアモータの制御方法およびその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1の発明は、リニアモータを駆動させて機台に対し軸受を介した可動部を移動させるリニアモータ制御装置であって、前記可動部と前記機台との相対位置を検出する前記可動部の外側端に取付けられたセンサと、目標指令値に基づいて前記可動部の位置または速度を制御するフィードバック制御器と、前記フィードバック制御器の出力である推力指令に基づいて前記リニアモータを駆動させるドライブ部と、を備えたリニアモータ制御装置において、前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転振動によるセンサ点の変位を算出し、前記センサ点の変位と前記推力指令とに基づいて、前記重心点における前記可動部の移動位置および移動速度を推定するオブザーバを備え、推定した前記移動位置または前記移動速度を前記フィードバック制御器にフィードバックするものである。
リニアモータの機械的固有振動モード(ピッチング,ヨーイング,ローリング)では、可動部の重心点が振動の節となる。よって重心点における位置または速度の情報には、これらの振動成分が含まれない。この現象を利用して、重心点における位置や速度を制御器にフィードバックすれば、機械的固有振動の影響を受けない制御を行うことが可能である。
また、振動成分のみを制御器にフィードバックすると、振動の周波数,減衰を制御することが可能となる。従って、このようなリニアモータの機械的な固有の振動メカニズムに着目し、リニアモータの力学モデルを定式化した。この式をオブザーバとして制御系に組み込むことで、機械的固有振動成分を含まない重心点の位置,速度情報や機械的固有振動成分のみの分離を可能とした。
つまり、本発明の請求項1の発明によれば、先の従来の制御手段の問題点を解決するために、位置もしくは速度センサの情報と速度制御器から出力された推力指令の信号より、リニアモータ可動部の重心点における位置および速度の情報を推定し、この推定値を制御器にフィードバックするリニアモータの制御方法である。例えば可動部の質量が変化した場合でも、ノッチフィルタ[可変帯域フィルタ]を使用しなくても、その他制御系で予め予測設定した振動周波数が外乱でずれが生じた場合でも、機械的固有振動数の影響を全く受けることなく、被制御体(ワーク)の位置及び速度の制御が高精度送りを実現する上での制御パラメータのハイゲイン化の要求を完璧に充足できるという特段の効果を奏することが可能である。
【0006】
本発明の請求項2の発明は、リニアモータを駆動させて機台に対し軸受を介した可動部を移動させるリニアモータ制御装置であって、前記可動部と前記機台との相対位置を検出する前記可動部の外側端に取付けられたセンサと、目標指令値に基づいて前記可動部の位置または速度を制御するフィードバック制御器と、前記フィードバック制御器の出力である推力指令に基づいて前記リニアモータを駆動させるドライブ部と、を備えたリニアモータ制御装置において、前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転角および回転角速度の状態量を算出するオブザーバを備え、算出した前記回転角および前記回転角速度の状態量を前記推力指令に加算するものである。
【0007】
本発明の請求項3の発明は、リニアモータを駆動させて機台に対し軸受を介した可動部を移動させるリニアモータ制御装置であって、前記可動部と前記機台との相対位置を検出する前記可動部の外側端に取付けられたセンサと、目標指令値に基づいて前記可動部の位置または速度を制御するフィードバック制御器と、前記フィードバック制御器の出力である推力指令に基づいて前記リニアモータを駆動させるドライブ部と、を備えたリニアモータ制御装置において、前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転振動によるセンサ点の変位を算出し、前記センサ点の変位と前記推力指令とに基づいて、前記重心点における前記可動部の移動位置および移動速度を推定し、かつ、前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転角および回転角速度の状態量を算出するオブザーバを備え、推定した前記移動位置または前記移動速度を前記フィードバック制御器にフィードバックし、かつ、算出した前記回転角および前記回転角速度の状態量を前記推力指令に加算するものである。
【0008】
本発明の請求項2および請求項3の発明によれば、さらに、推定された前記重心点を中心とした前記可動部の回転角度または回転角速度の状態量を用いてフィードバック制御が行われることで、きめ細かい制振作用が働き、さらなる高速・高精度の制御が可能になり、斯界に裨益するところ大と言える。
【0009】
本発明の請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか1つに記載された前記機械系のモデルが、前記リニアモータの推力を表すベクトルと、前記重心点における前記可動部の3次元の変位および前記重心点を中心とした前記可動部の3次元の回転角度を表すベクトルと、前記可動部と前記軸受との摺動面のクーロン摩擦を表すベクトルと、前記可動部の質量を表す行列と、前記可動部の減衰を表す行列と、前記軸受の剛性を表す行列と、で構成されるものである。
【0010】
【0011】
【0012】
この本発明の請求項4の発明によれば、請求項1乃至請求項3の発明と同様な優れた効果が発揮できる。
【0013】
【発明の効果】
【0014】
以上のような、本発明の制御方法および制御装置を用いることで、機械的固有振動数の影響を受けずにリニアモータの制御が可能になるという特段の効果を奏する。
すなわち、リニアモータの機械的固有振動モード(ピッチング,ヨーイング,ローリング)では、可動部の重心点が振動の節となる。よって重心点における位置または速度の情報には、これらの振動成分が含まれない。この現象を利用して、重心点における位置や速度を制御器にフィードバックすれば、機械的固有振動の影響を受けない制御を行うことが可能である。また、振動成分のみを制御器にフィードバックすると、振動の周波数,減衰を制御することが可能となる。従って、このようなリニアモータの機械的な固有の振動メカニズムに着目し、リニアモータの力学モデルを定式化した。この式をオブザーバとして制御系に組み込むことで、機械的固有振動成分を含まない重心点の位置,速度情報や機械的固有振動成分のみの分離を可能とした。
【0015】
つまり、本発明によれば、先の従来の制御手段の問題点を解決するために、位置もしくは速度センサの情報と速度制御器から出力された信号より、リニアモータ可動部の重心点における位置および速度の情報を推定し、この推定値を制御器にフィードバックするリニアモータの制御方法である。
例えば可動部の質量が変化した場合でも、ノッチフィルタを使用しなくても、その他制御系で予め予測設定した振動周波数が外乱でずれが生じた場合でも、機械的固有振動数の影響を全く受けることなく、被制御体(ワーク)の位置及び速度の制御が高精度送りを実現する上での制御パラメータのハイゲイン化の要求を完璧に充足できるという顕著な効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。全ての図面において、同一符号は同一もしくは相当部材を示す。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるリニアモータの制御を行う電気的回路の構成を示すブロック図である。図2は、その主としてリニアモータ及び可動部周辺の機構を表す斜視図である。可動部1は電機子コイル2と一体となっており、固定側となる機台3に取付けられたレール4に対して、軸受5を用いて一定方向にのみ可働する。推力を発生するマグネット6は機台3に固着されている。電機子コイル2は、マグネット6に対向している。スケール7は機台3に取付けられ、可動部1の動作位置を測定するものであり、位置検出センサ8は可動部1に取付けられていて、スケール7から可動部1の位置を検出するものである。まずこの制御手段は、目標指令値9と可動部1に取付けられたセンサ8で検出した位置および速度の情報10を比較し、偏差をとり、この偏差より制御演算を行い、推力指令11を算出する。ドライブ部105は推力指令11に相当する電流12をリニアモータへ出力する。制御器では多くの場合、比例・積分・微分制御という制御則が用いられている。
【0017】
位置制御器102には目標指令値9とオブザーバ107で推定した可動部重心点の位置情報16との偏差が取り込まれる速度制御器104には位置制御器102の出力とオブザーバ107で推定した可動部重心点の速度情報17との偏差が取り込まれる。オブザーバ107から出力される位置および速度情報は、リニアエンコーダ[以下、単に『センサ』という]8からの位置情報10と速度制御器104から出力される推力指令値11から推定される。ドライブ部105では推力指令値11に相当する電流12が出力され、その電流12により、リニアモータ106が駆動される。可動部1の位置情報10は、センサ8によって検出され、オブザーバ107に取り込まれる。
【0018】
図8の従来例の制御装置との相違点は、センサ8によって検出された位置情報10を直接に制御器102,104にフィードバックするのではなく、センサ8の位置情報10と推力指令値11よりオブザーバ107で可動部1の重心点の位置情報16,速度情報17を推定して制御器102,104にフィードバックしていることである。
この実施の形態により、機械的固有振動の影響を受けずに制御が可能となり、高速かつ高精度な制御が実現できる。
【0019】
初めに機械モデルについて言及しておく。オブザーバを構成するために、リニアモータ駆動の可動部1の振動メカニズムの定式化を行う。軸受5の横(Y)方向、上下(Z)方向の剛性および摺動面の粘性摩擦、クーロン摩擦をモデル化する必要がある。
F=MdX/dt+CdX/dt+KX+F…(1式)
ここで、Xは可動部1の重心点における状態量を表すベクトルであり、重心点における位置と重心点を中心とした可動部の回転角度の状態量を表す。M,C,Kはそれぞれリニアモータの質量、減衰、剛性を表す行列、Fはリニアモータの推力、Fリニアモータのクーロン摩擦を表すベクトルである。物体が弾性支持されている振動絶縁装置の運動方程式より、(1式)に示した行列成分とベクトル成分を求めた。
【数1】


X=(x θ θ θ…(2式)
【0020】
ここで、x、y、zは、それぞれ、リニアモータの動作方向、可動部のピッチング動作をなす軸となる方向、可動部のヨーイング動作をなす軸となる方向、Fは可動部に与えられるリニアモータの推力(N)、x,y,zはそれぞれ可動部重心点のx、y、z方向の変位(m)、mは可動部質量(kg)、Iは可動部重心点周りの慣性テンソル(kg・m)[対角項が慣性モーメント、非対角項は慣性乗積]、Cは可動部摺動面の粘性摩擦(N・s・m)、C,Cは重心点におけるヨーイング方向およびピッチング方向の減衰[N・m・(s/rad)]、iは可動部の軸受の番号、aix,aiy,aizそれぞれ重心点から軸受iまでのx、y、z方向の距離、Δy,Δzはそれぞれ重心点から推力作用点までのy、z方向の距離(m)、θ,θ,θはそれぞれ可動部重心点のx軸まわり、y軸まわり、z軸まわりの回転角度(rad)、Cctは可動部摺動面のクーロン摩擦(N)、Kiy,Kizは軸受の横方向と上下方向の剛性、Tは転置を意味する。
(2式)より、リニアモータ駆動可動部の振動は重心点位置を基準とした回転振動(ヨーイング、ピッチング、ローリング)と並進振動(translative vibration本発明の制御手段には余り関連がない)であることが分かる。
次に、(2式)より得られたθ,θ,xを用いて運動学計算し、センサ点の変位を算出する。ただし、ロール角θは制御性能には影響しないため、省略する。
センサ点の変位xsは、
=(−Ssinθ+Scosθcosθ+Scosθsinθ+x)−S…(3式)

と表すことができる。ここでS,S,Sは重心点からセンサまでのx、y、z方向の距離(m)である。
【0021】
そしてオブザーバ107の構成について説明する。先に示した機械モデルを基にオブザーバ107を構成する。慣性乗積の項は十分小さく、慣性乗積の項は十分小さいことから、演算を簡略化するため、Ixy,Iyz,Izz≒0、sinθ≒θ,cosθ≒1の近似を行った。
オブザーバ107における演算式は次の(4a式)、(4b式)のように表せる。
【数2】


【0022】
【数3】


【数4】


【数5】


【0023】
(第2の実施の形態)
図3は、オブザーバによる可動部重心点の位置情報の推定の代わりにリニアモータの機構で構成した第2の実施の形態の斜視図である。この場合、可動部1の重心点13上にレーザセンサ15の反射板14[図示する可動部表面上の開溝側面でレーザセンサに対向する表面を指す]を配置する。機台3にレーザセンサ15を設置し、可動部重心点13上の位置を検出する。検出した位置情報はピッチングやヨーイングの振動成分を含まない信号であり、この信号を制御器102,104にフィードバックすることで、図2に示すオブザーバ107による制振制御と同様に機械的固有振動数の影響をうけずに高速かつ高精度な動作が可能となる。
【0024】
(第3の実施の形態)
図4は、本発明の第3の実施の形態における回路の構成を示すブロック図である。
位置制御器102には、目標指令値9とセンサ8の位置情報10との偏差が取り込まれる。速度制御器104にはセンサ8の位置情報10を差分演算 [ここではディジタル演算であるが、アナログ演算の場合は微分演算である] した速度情報20と位置制御器との偏差が取り込まれる。速度制御器104では、推力指令値11を出力する。センサ8によって検出された位置情報10と推力指令値11よりオブザーバ107で可動部1の重心点の回転角情報18と回転角速度情報19を推定し、回転角フィードバックゲインK1,角速度フィードバックゲインK2を乗じて推力指令値11に加算する。ドライブ部105では推力指令値11に相当する電流12が出力され、その電流12により、リニアモータ106 が駆動される。可動部1の位置情報10はセンサ8によって検出され、オブザーバ107 と制御器に取り込まれる。
【0025】
この実施の形態により、機械的固有振動数を除去した制御が可能となり、高速かつ高精度な動作が実現できる。本実施の形態では、1つの機械的固有振動モードの回転角と回転角速度のみを推定し、フィードバックしているが、2つ以上の機械的固有振動モードに対しても可能である、つまり制振制御が常に連続して行われているので逐次変化する機械的固有振動モードに対応できることは自明である。オブザーバ107による推定の代わりに、リニアモータの機構で構成することも可能である。その場合、可動部1にジャイロセンサ[不図示]を配置する。これにより可動部の回転角情報,回転角速度情報のみを検出し、制御器にフィードバックすることで機械的固有振動数の影響を受けずに高速かつ高精度な動作が可能となる。
【0026】
(第4の実施の態様)
図5は、本発明の第4の実施の形態における回路の構成を示すブロック図である。位置制御器102には目標指令値9とオブザーバ107で推定した可動部重心点の位置情報16との偏差が取り込まれる。速度制御器104には、位置制御器102の出力とオブザーバ107で推定した可動部重心点の速度情報17との偏差が取り込まれる。速度制御器104では、推力指令値11を出力する。センサ8によって検出された位置情報10と推力指令値11よりオブザーバ107で可動部1の重心点における位置情報16,速度情報17と重心点の回転角情報18,回転角速度情報19を推定する。推定した回転角情報18と回転角速度情報19は、それぞれ回転角フィードバックゲインK1,角速度フィードバックゲインK2を乗じて推力指令値11に加算する。ドライブ部では推力指令値11に相当する電流12が出力され、その電流12により、リニアモータ106が駆動される。可動部1の位置情報10はセンサ8によって検出され、オブザーバ107と制御器102,104に取り込まれる。この第4の実施の態様により、機械的固有振動数の影響を受けずに制御が可能となり、高速かつ高精度な動作が実現できる。また、この第4の実施の態様では、1つの固有振動モードの回転角と回転角速度のみを推定し、フィードバックしたが、2つ以上の固有振動モードに対して、推定し、フィードバックすることも可能である、すなわち、制御は連続してセンサからの検出された位置または速度情報により演算されるから、円滑に高速かつ高精度の制振制御ができる。
【0027】
図6は、本発明を用いた場合の可動部の応答速度の時間の推移による変化曲線特性図である。図11の従来技術( 帯域減衰フィルタを使った場合) と同等な効果が得られている。さらに、機械的固有振動数が変化した場合でも、図12の従来技術( 帯域減衰フィルタを使った場合) に比べ制振が可能である[ 図7参照] 。
さらに、本発明の全ての実施の態様において、図6,図7の結果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態におけるリニアモータの制御を行う電気的回路の構成を示すブロック図
【図2】本発明の第1の実施の形態の主としてリニアモータ及び可動部周辺の機構を表す斜視図
【図3】本発明の第2の実施の形態を表すオブザーバによる可動部重心点の位置情報の推定の代わりにリニアモータの機構で構成した斜視図
【図4】本発明の第3の実施の形態における回路の構成を示す制御ブロック図
【図5】本発明の第4の実施の形態における回路の構成を示す制御ブロック図
【図6】本発明を用いた場合の可動部の速度応答の時間経過図
【図7】本発明を用いた場合の固有振動が変化したときの可動部の速度応答の時間経過図
【図8】従来例〔例えば特開平9−121589号公報に掲載されている〕リニアモータの駆動回路の制御ブロック構成図
【図9】一般的なリニアモータにおける可動部の有する振動モードの説明図で、(a)はヨーイング・モード(b)はピッチング・モード(c)はローリング・モードを表す
【図10】一般的なリニアモータの制御装置で駆動した場合の可動部の速度応答の時間経過からの振動状態図〔制御に甚だしい障害となっていた〕
【図11】従来技術〔特開平9−121589号公報〕で帯域減衰フィルタを用いた場合の可動部の速度応答の時間経過からの振動状態図
【図12】従来技術(帯域減衰フィルタ)で固有振動数が変化した場合の可動部の速度応答の時間経過からの振動状態図
【符号の説明】
【0029】
1 可動部
2 電機子コイル
3 機台
4 レール
5 軸受
6 マグネット
7 スケール
8 センサ
9 目標指令値
10 センサ位置情報
11 推力指令値
12 電流
13 可動部の重心点
14 レーザセンサの反射板
15 レーザセンサ
16 可動部の重心点の位置情報
17 可動部の重心点の速度情報
18 可動部の重心点の回転角情報
19 可動部の重心点の回転角速度情報
20 センサ速度情報
101,103 減算器
102 位置制御器
104 速度制御器
105 ドライブ部
106 リニアモータおよび可動部
107 オブザーバ
108 差分演算器
109 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニアモータを駆動させて機台に対し軸受を介した可動部を移動させるリニアモータ制御装置であって、前記可動部と前記機台との相対位置を検出する前記可動部の外側端に取付けられたセンサと、目標指令値に基づいて前記可動部の位置または速度を制御するフィードバック制御器と、前記フィードバック制御器の出力である推力指令に基づいて前記リニアモータを駆動させるドライブ部と、を備えたリニアモータ制御装置において、
前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転振動によるセンサ点の変位を算出し、前記センサ点の変位と前記推力指令とに基づいて、前記重心点における前記可動部の移動位置および移動速度を推定するオブザーバを備え、
推定した前記移動位置または前記移動速度を前記フィードバック制御器にフィードバックすることを特徴とするリニアモータ制御装置。
【請求項2】
リニアモータを駆動させて機台に対し軸受を介した可動部を移動させるリニアモータ制御装置であって、前記可動部と前記機台との相対位置を検出する前記可動部の外側端に取付けられたセンサと、目標指令値に基づいて前記可動部の位置または速度を制御するフィードバック制御器と、前記フィードバック制御器の出力である推力指令に基づいて前記リニアモータを駆動させるドライブ部と、を備えたリニアモータ制御装置において、
前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転角および回転角速度の状態量を算出するオブザーバを備え、
算出した前記回転角および前記回転角速度の状態量を前記推力指令に加算することを特徴とするリニアモータ制御装置。
【請求項3】
リニアモータを駆動させて機台に対し軸受を介した可動部を移動させるリニアモータ制御装置であって、前記可動部と前記機台との相対位置を検出する前記可動部の外側端に取付けられたセンサと、目標指令値に基づいて前記可動部の位置または速度を制御するフィードバック制御器と、前記フィードバック制御器の出力である推力指令に基づいて前記リニアモータを駆動させるドライブ部と、を備えたリニアモータ制御装置において、
前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転振動によるセンサ点の変位を算出し、前記センサ点の変位と前記推力指令とに基づいて、前記重心点における前記可動部の移動位置および移動速度を推定し、
かつ、前記可動部および前記軸受を含む機械系のモデルと前記相対位置とに基づいて、前記可動部の重心点を中心とした3次元の回転角および回転角速度の状態量を算出するオブザーバを備え、
推定した前記移動位置または前記移動速度を前記フィードバック制御器にフィードバックし、かつ、算出した前記回転角および前記回転角速度の状態量を前記推力指令に加算することを特徴とするリニアモータ制御装置。
【請求項4】
前記機械系のモデルが、前記リニアモータの推力を表すベクトルと、前記重心点における前記可動部の3次元の変位および前記重心点を中心とした前記可動部の3次元の回転角度を表すベクトルと、前記可動部と前記軸受との摺動面のクーロン摩擦を表すベクトルと、前記可動部の質量を表す行列と、前記可動部の減衰を表す行列と、前記軸受の剛性を表す行列と、で構成されることを特徴とした請求項1乃至3のいずれか1つに記載のリニアモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−199893(P2008−199893A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132983(P2008−132983)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【分割の表示】特願平11−320619の分割
【原出願日】平成11年11月11日(1999.11.11)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】