説明

リパーゼ粉末組成物の製造方法

【課題】粉塵の発生を抑制しつつ固定化リパーゼの粉砕を行うことが可能なリパーゼ粉末組成物の製造方法の提供。
【解決手段】サーモマイセス属由来のリパーゼをシリカ担体に固定化した固定化リパーゼ及びシリカ担体以外の親水性粉末を含有するリパーゼ粉末組成物の粉砕品の製造方法であって、親水性粉末を油で浸潤する工程、油で湿潤した親水性粉末を油から分離して含油親水性粉末を得る工程、前記含油親水性粉末と前記固定化リパーゼを、油に湿潤する前の親水性粉末及び固定化リパーゼの質量を基準として0.45:1〜0.85:1の比率で混合する工程、及び得られた混合物を粉砕する工程を含み、かつ上記の順に各工程を行うことを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉塵を抑制しつつ固定化リパーゼの粉砕を行うことが可能なリパーゼ粉末組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは、脂肪酸などの各種カルボン酸とモノアルコールや多価アルコールなどのアルコール類とのエステル化反応、複数のカルボン酸エステル間のエステル交換反応などに幅広く使用されている。このうち、エステル交換反応は動植物油脂類の改質をはじめ、各種脂肪酸のエステル、糖エステルやステロイドの製造法として重要な技術である。これらの反応の触媒として、油脂加水分解酵素であるリパーゼを用いると、室温〜約70℃程度の温和な条件下でエステル交換反応を行うことができ、従来の化学反応に比べ、副反応の抑制やエネルギーコストが低減化されるだけでなく、触媒としてのリパーゼが天然物であることから安全性も高い。また、その基質特異性や位置特異性により目的物を効率良く生産することができる。
このリパーゼを油性原料中に均一に分散させ、かつエステル交換反応を高い活性で行うために、担体に固定化した固定化リパーゼを粉砕して使用する技術が開発されている(特許文献1)。しかしながら、リパーゼは皮膚への接触や呼吸による吸引によりアレルギー症状を発症することがある。固定化リパーゼ粉末組成物の製造においては、固定化リパーゼを粉砕する工程で粉塵が多く発生し、その結果アレルギー症の懸念があるなど、作業者の安全を確保する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/132260号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、粉塵の発生を抑制しつつ、粉砕する原料の異臭や煙などを発生させず固定化リパーゼの粉砕を行うことが可能なリパーゼ粉末組成物の粉砕品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、固定化リパーゼ及びセルロース等の親水性粉末を含有するリパーゼ粉末組成物の粉砕品の製造において、固定化リパーゼと親水性粉末の比率、及び湿式粉砕を行う際の油湿潤の手順を特定のものとすることによって上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、サーモマイセス属由来のリパーゼをシリカ担体に固定化した固定化リパーゼ及びシリカ担体以外の親水性粉末を含有するリパーゼ粉末組成物の粉砕品の製造方法であって、親水性粉末を油で浸潤する工程、油で湿潤した親水性粉末を油から分離して含油親水性粉末を得る工程、前記含油親水性粉末と前記固定化リパーゼを、油に湿潤する前の親水性粉末及び固定化リパーゼの質量を基準として0.45:1〜0.85:1の比率で混合する工程、及び得られた混合物を粉砕する工程を含み、かつ上記の順に各工程を行うことを特徴とする製造方法を提供する。
また、本発明は、サーモマイセス属由来のリパーゼをシリカ担体に固定化した固定化リパーゼの粉砕方法であって、親水性粉末を油で湿潤して得た含油親水性粉末を前記固定化リパーゼに、油に湿潤する前の親水性粉末及び固定化リパーゼの質量を基準として0.45:1〜0.85:1の比率で混合し、その混合物を粉砕することを特徴とする粉砕方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、粉塵を抑制しつつ、粉砕する原料の異臭や煙などを発生させずに固定化リパーゼの粉砕を適切に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明で用いる固定化リパーゼは、サーモマイセス属(Thermomyces sp.)由来のリパーゼがシリカ担体に固定化されたものである。ここで、該固定化リパーゼの平均粒子径は300〜1000μm程度であるのが好ましい。このような固定化リパーゼは、例えば、ノボザイムズジャパン株式会社からリポザイムTL-IMとして入手することができる。
一方、本発明で用いる親水性粉末とは、ろ過助剤としての機能及び粉塵を抑制する機能を有する粉末が好ましく、セライトなどの無機ろ過助剤及びセルロースなどの繊維やその粉砕物などの有機ろ過助剤であればこの目的のために好ましく使用できる。これのうち、有機ろ過助剤、特に有機高分子ろ過助剤が好ましく、なかでもセルロースなどが好ましい。
本発明で用いるセルロースは特に限定はされず、例えば日本製紙ケミカル株式会社から商品名KCフロックで発売されているもの等を使用することができる。セルロースも粉状であるのが好ましく、平均粒子径10〜90μmであるのが好ましい。
【0008】
本発明の製造方法においては、まずセルロース等の親水性粉末を油で湿潤する。油の種類は、本発明に使用するリパーゼ及び親水性粉末を湿式粉砕に適する程度に湿潤できるものであれば特に限定はされないが、食用油が好ましく、例えば菜種油、MCT(中鎖飽和脂肪酸トリグリセリド)、大豆油、ヒマワリ油、紅花油、コーン油、綿実油、グレープシード油、米ぬか油、及びこれらの混合物を使用することができる。上記、食用油は未精製油、脱酸油、脱色油、脱ロウ油、脱臭油などが使用できる。上記のうち、菜種脱色油とMCTの混合物が好ましく、該混合物における菜種脱色油とMCTとの比率(質量)は、5:1〜10:1、例えば9:1程度とすることが好ましい。
また、親水性粉末に対する油の量は、親水性粉末が油と満遍なく混ざって親水性粉末が湿潤する量を当業者が適宜決定することができる。例えば、親水性粉末に対して質量で2.4〜3.0倍、例えば2.5倍程度の油を加えることにより、親水性粉末を十分に油で湿潤させることができる。
【0009】
次に、上記のように油で湿潤した親水性粉末を油から分離して、含油親水性粉末を得る。分離する方法は、ろ過、遠心分離などの方法があるが、好ましくはろ過である。ろ過の方法は特に限定はされず当業者が決定することが可能であるが、加圧ろ過を行うことによって効率的に油を除去してケーキ状の含油親水性粉末を得ることができる。ろ過により油を除去する程度は、使用する親水性粉末及び油の種類などによって変動するが、含油親水性粉末の含油量が、油に湿潤させる前の親水性粉末の質量に対して1〜1.4倍となる程度にまで油を除去することにより、その後の粉砕の工程において適切な処理を行うことができる。
【0010】
上記の通り得られた含油親水性粉末に前述の固定化リパーゼを、油に湿潤する前の親水性粉末及び固定化リパーゼの質量を基準として0.45:1〜0.85:1、好ましくは0.45:1〜0.7:1、最も好ましくは0.5:1の比率で混合する。上記の範囲の混合物とすることにより、粉塵の発生を抑制しつつ、粉砕する原料の異臭や煙などを発生させずに適切に粉砕を行うことができる。
【0011】
上記の通り得られた混合物を通常の粉砕機を用いて粉砕する。ここで、粉砕機としては、乳鉢、せん断摩擦式粉砕機、カッター式粉砕機、石臼(マイコロイダー、マスコロイダー)、コーヒーミル、パワーミル、ピンミル、衝撃式粉砕機(ハンマーミル、ボールミル)、ロール式粉砕機及び気流式粉砕機、ホモジナイザー、超音波破砕機などがあげられる。本発明においては、上記のうちピンミルを使用するのが好ましく、例えばホソカワミクロン社製のファインインパクトミル100UPZを、回転数10,000〜12,000rpmで粉砕を行うことが好ましい。上記の粉砕を行うことにより得られた、粉砕された固定化リパーゼの平均粒子径は、例えば1μm以上で300μm未満、好ましくは平均粒子径1〜200μm、より好ましくは平均粒子径1〜100μm、特に好ましくは平均粒子径20〜100μmである。
【0012】
また、本発明においては、上記の粉砕を好ましくはドライアイスの存在下で行う。ドライアイスは、粉砕機内で固定化リパーゼと含油親水性粉末の混合物と共に粉砕を効率的に行うために、好ましくは粉末状に砕いた状態で粉砕機に供給される。しかしながら、ドライアイスの破砕の程度は、使用する粉砕機の種類等によって変動し得る。
ドライアイスは粉砕開始時に加えてもよいが、固定化リパーゼと含油親水性粉末の混合物の粉砕は連続的に行われるため、粉砕の工程全体に亘って存在することが好ましく、従って、粉砕の工程中に間隔を空けて、または連続的にドライアイスが適宜供給される。ドライアイスと該混合物は予め混合して粉砕機に供給してもよいが、ドライアイスと該混合物を別々に粉砕機に供給し、粉砕機内で混合・粉砕してもよい。
また、ドライアイスの量は当業者が適宜決定することが可能であり、親水性粉末としてセルロースを使用する場合、粉砕するセルロース(親水性粉末)と固定化リパーゼの混合物の質量に対して例えば0.5〜2倍、好ましくは1倍程度のドライアイスを、粉砕の工程全体に亘って添加することができる。
本発明では、上記のように粉砕の工程をドライアイスの存在下で行うことによって、粉砕時の粉塵の発生をさらに抑制することができる。
【0013】
本発明によれば、固定化リパーゼと親水性粉末の混合物を湿式粉砕するにあたって、まず親水性粉末のみを油に湿潤し、ろ過した後で固定化リパーゼと混合した混合物を粉砕することにより、予め固定化リパーゼと親水性粉末の混合物を油に湿潤した後にろ過したものを粉砕する場合と比べて粉塵の発生を高度に抑制しつつ粉砕を適切に行うことが可能となる。
次に本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0014】
実施例1〜2、比較例1〜3(親水性粉末と固定化リパーゼの比率の検討)
親水性粉末としてKCフロックw-300G(セルロースパウダー:日本製紙ケミカル株式会社製)2500gをステンレスジョッキに量り取り、これに菜種脱色油(菜種油:日清オイリオグループ社製)5580g、ODO(中鎖脂肪酸トリグリセリド:日清オイリオグループ社製)620gの混合油を添加し、セルロースと油が満遍なく混ざるまでよく攪拌した。その後、加圧ろ過を行い混合油を除去し、セルロースケーキ(含油親水性粉末)5250gを得た。
表-1に示した配合でセルロースケーキとTL-IM(固定化リパーゼ:ノボザイムズジャパン株式会社製)をビニール袋を用い混合し、ファインインパクトミル100UPZ(ピンミル:ホソカワミクロン株式会社製)を用い回転数10,000〜12,000rpmにて粉砕を行い粉砕状況および粉塵を観察し比較を行った。結果を表-1に示す。
【0015】
表-1 セルロースパウダーと固定化リパーゼの比率

※総合評価:×粉砕、粉塵のどちらか一方以上において良好でない。
○粉砕、粉塵とも良好な状態
◎粉砕、粉塵ともかなり良好な状態
【0016】
表-1のとおり、実施例1、2は比較例1〜3に比べて、粉砕が良好であり、粉塵の発生もなく良好である。
【0017】
比較例4〜8(油湿潤の順番の検討)
親水性粉末と固定化リパーゼを混合した後に油湿潤を行うように順番を変えて粉砕を行った。
TL-IM(固定化リパーゼ:ノボザイムズジャパン株式会社製)をステンレスジョッキに量り取り、そこにKCフロックw-300G(セルロースパウダー:日本製紙ケミカル株式会社製)および菜種脱色油(菜種油:日清オイリオグループ社製):ODO(中鎖脂肪酸トリグリセリド:日清オイリオグループ社製)=9:1の混合油を表-2に示す割合で混合し、よく攪拌した。その後加圧ろ過を行い混合油を除去し、セルロースと酵素の混合ケーキを得た。ファインインパクトミル100UPZ(ピンミル:ホソカワミクロン株式会社製)を用い回転数10,000〜12,000rpmにて粉砕を行なったときの状態を比較した。結果を表-2に示す。
【0018】
表-2 セルロースパウダー・固定化リパーゼ混合後に油浸潤(比較例4〜8)


※総合評価:×粉砕、粉塵のどちらか一方以上において良好でない。
○粉砕、粉塵とも良好な状態
◎粉砕、粉塵ともかなり良好な状態
【0019】
表-2のとおり、比較例4〜8は、粉砕が良好でない。
【0020】
実施例3
KCフロックw-300G(セルロースパウダー:日本製紙ケミカル株式会社製)2000gを量り取り、そこに菜種脱色油(菜種油:日清オイリオグループ株式会社製)4500gおよびODO(中鎖脂肪酸トリグリセリド:日清オイリオグループ社製)500gを加えよく攪拌後、加圧ろ過を行なってセルロースケーキ(含油親水性粉末)4229gを得た。セルロースケーキにTL-IM(固定化リパーゼ:ノボザイムズジャパン株式会社製)4000gを混ぜ合わせ、ファインインパクトミル100UPZ(ピンミル:ホソカワミクロン株式会社製)を用い回転数10,000〜12,000rpmにて粉砕を行い、4μm以下の粉塵量を労働安全衛生法の作業環境評価基準に則り重量分析法にて測定した。結果を表-3に示す。
【0021】
実施例4
KCフロックw-300G(セルロースパウダー:日本製紙ケミカル株式会社製)2000gを量り取り、そこに菜種脱色油(菜種油:日清オイリオグループ株式会社製)4500gおよびODO(中鎖脂肪酸トリグリセリド:日清オイリオグループ社製)500gを加えよく攪拌後、加圧ろ過を行ってセルロースケーキ(含油親水性粉末)4339gを得た。セルロースケーキにTL-IM(固定化リパーゼ:ノボザイムズジャパン株式会社製)4000gを混ぜ合わせ、ファインインパクトミル100UPZ(ピンミル:ホソカワミクロン株式会社製)を用い回転数10,000〜12,000rpmにて粉砕を行った。粉末状に砕いたドライアイスをおよそ5分間隔で連続的にファインインパクトミル100UPZで粉砕されるセルロースケーキとTL-IMの混合物へ間欠投入し、セルロースケーキとともに粉砕した。また一回のドライアイス投入量は100〜130gであった。4μm以下の粉塵量を労働安全衛生法の作業環境評価基準に則り重量分析法にて測定した。結果を表-3に示す。
【0022】
実施例5
KCフロックw-300G(セルロースパウダー:日本製紙ケミカル株式会社製)2000gを量り取り、そこに菜種脱色油(菜種油:日清オイリオグループ株式会社製)4500gおよびODO(中鎖脂肪酸トリグリセリド:日清オイリオグループ社製)500gを加えよく攪拌後、加圧ろ過を行なってセルロースケーキ(含油親水性粉末)4183gを得た。セルロースケーキにTL-IM(固定化リパーゼ:ノボザイムズジャパン株式会社製)4000gを混ぜ合わせ、ファインインパクトミル100UPZ(ピンミル:ホソカワミクロン株式会社製)を用い回転数10,000〜12,000rpmにて粉砕を行った。連続的にファインインパクトミル100UPZで粉砕されるセルロースケーキとTL-IMの混合物へ粉末状に砕いたドライアイス合計8000gを連続的に投入し、セルロースケーキとともに粉砕した。4μm以下の粉塵量を労働安全衛生法の作業環境評価基準に則り重量分析法にて測定した。結果を表-3に示す。
【0023】
比較例9
TL-IM(固定化リパーゼ:ノボザイムズジャパン株式会社製)5000gをファインインパクトミル100UPZ(ピンミル:ホソカワミクロン株式会社製)を用い回転数10,000〜12,000rpmにて粉砕を行なった。この時の4μm以下粉塵量を労働安全衛生法の作業環境評価基準に則り重量分析法にて測定した。結果を表-3に示す。

表-3 粉塵量の比較

※粉塵量は少ないほど良好である。
【0024】
表-3のとおり、実施例3〜5は比較例9に比べて、発生する粉塵量が少なく、良好な作業環境である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモマイセス属由来のリパーゼをシリカ担体に固定化した固定化リパーゼ及びシリカ担体以外の親水性粉末を含有するリパーゼ粉末組成物の粉砕品の製造方法であって、親水性粉末を油で浸潤する工程、油で湿潤した親水性粉末を油から分離して含油親水性粉末を得る工程、前記含油親水性粉末と前記固定化リパーゼを、油に湿潤する前の親水性粉末及び固定化リパーゼの質量を基準として0.45:1〜0.85:1の比率で混合する工程、及び得られた混合物を粉砕する工程を含み、かつ上記の順に各工程を行うことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
含油親水性粉末の含油量が、油に湿潤させる前の親水性粉末の質量に対して1〜1.4倍である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
粉砕の工程をドライアイスの存在下で行うことを特徴とする、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
親水性粉末がセルロースである、請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
粉砕された固定化リパーゼの平均粒子径が1μm以上で300μm未満である、請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
サーモマイセス属由来のリパーゼをシリカ担体に固定化した固定化リパーゼの粉砕方法であって、親水性粉末を油で湿潤して得た含油親水性粉末を前記固定化リパーゼに、油に湿潤する前の親水性粉末及び固定化リパーゼの質量を基準として0.45:1〜0.85:1の比率で混合し、その混合物を粉砕することを特徴とする粉砕方法。

【公開番号】特開2010−227005(P2010−227005A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77997(P2009−77997)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】