説明

リボフラビン又はその誘導体の安定化

【課題】リボフラビンの安定性が改善された、パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール及びリボフラビン又はその誘導体を含有する組成物、当該組成物におけるリボフラビン又はその誘導体の安定化方法の提供。
【解決手段】パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、リボフラビン又はその誘導体、及び有機酸又はその塩を含有する組成物であって、pHが3.5〜6.0であることを特徴とする、カプセル充填用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール及びリボフラビン又はその誘導体を含有する組成物におけるリボフラビン又はその誘導体の安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症等の動脈硬化性疾患は、日本人の死因統計で癌と並んで大きな位置を占め、その多くは生活習慣に起因して発症すると考えられていることから、社会的な重大関心事である。動脈硬化には多くの因子が関与するが、このうち主要因子として挙げられるのが、高脂血症であるとされ、中でも高コレステロール血症は最も重要な位置を占めている。
【0003】
従来、高脂血症を改善するために、様々な薬剤が開発されているが、このうち、パンテチンと大豆油不けん化物を配合した製剤は、安全性が高く、優れた高脂血症改善効果及び動脈硬化改善効果を発揮することが知られ(特許文献1)、パンテチン、大豆油不けん化物(ソイステロール)及び酢酸d−α−トコフェロールを配合した軟カプセル剤が一般薬として市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平4−80007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、高脂血症の予防・改善を目的する、パンテチン、大豆油不けん化物及びトコフェロール類を配合した軟カプセル剤の有用性を更に高めるべく、リボフラビン又はその誘導体を新たに配合することを考案した。しかしながら、斯かるパンテチンを含む製剤においては、従来種々の製剤に配合され安定であると認識されているリボフラビン又はその誘導体の安定性が著しく低下することが判明した。
従って、本発明は、リボフラビン又はその誘導体の安定性が改善された、パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール類及びリボフラビン又はその誘導体を含有する組成物、当該組成物におけるリボフラビン又はその誘導体の安定化方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール類及びリボフラビン又はその誘導体を含有する組成物に、有機酸又はその塩を添加し、pH3.5〜6.0に調製することにより、当該製剤中でのリボフラビン又はその誘導体を安定化できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の1)〜6)に係るものである。
1)パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、リボフラビン又はその誘導体、及び有機酸又はその塩を含有する組成物であって、pHが3.5〜6.0であることを特徴とする、カプセル充填用組成物。
2)有機酸又はその塩が、オキシ酸若しくはその塩、又はカルボン酸若しくはその塩である上記1)のカプセル充填用組成物。
3)オキシ酸若しくはその塩が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上であり、カルボン酸若しくはその塩が、酢酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上である上記2)のカプセル充填用組成物。
4)上記1)〜3)のカプセル充填用組成物を充填してなるカプセル剤。
5)パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、及びリボフラビン又はその誘導体を含有する組成物において、有機酸又はその塩を配合することを特徴とする、リボフラビン又はその誘導体の安定化方法。
6)pHを3.5〜6.0に調整する、上記5)の安定化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、及びリボフラビン又はその誘導体を含有する、安定したカプセル充填用組成物が得られ、これを用いることにより、血清高コレステロール改善等の高脂血症改善薬等として使用可能な、より有用性が高く安定なカプセル剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における、「パンテチン」(Pantethine)は、ビス(2−[3−[(2R)−2,4−ジヒドロキシ−3,3−ジメチルブタノイルアミノ]プロパノイルアミノ]エチル)ジスルフィドとして表され、活性型ビタミンB5とも呼ばれる。
パンテチンは公知の化合物であり、従来公知の方法に従って合成することができるが、市販品を商業的に入手して使用することもできる。
【0010】
「大豆油不けん化物」は、大豆油の不けん化物で植物ステロールを主成分とする。本発明においては、いかなる大豆油不けん化物でもよいが、代表的なものとしては、ソイステロールを挙げることができる。
【0011】
「トコフェロール」は、天然のd体のみならず合成によって得られるdl体をも包含する。また、α,β,γ,δの何れの異性体(トコフェロール同族体)でもよい。「トコフェロールのエステル誘導体」としては、酢酸エステル、コハク酸エステル等を挙げることができる。このうち好ましくは酢酸d−α−トコフェロールである。
【0012】
「リボフラビン又はその誘導体」としては、リボフラビンの他、そのエステル誘導体である、リン酸リボフラビン、酪酸リボフラビン等、フラビンアデニンジヌクレオチド、又はそれらの塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等)が挙げられ、好適には、酪酸リボフラビンである。
【0013】
本発明のカプセル充填用組成物は、上記、パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、及びリボフラビン又はその誘導体を含有する組成物に、有機酸又はその塩を配合してなるものである。
ここで、「有機酸又はその塩」としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸等のオキシ酸、酢酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボン酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸又はそれらの塩等を挙げることができる。このうち、オキシ酸又はその塩、及びモノ若しくはジカルボン酸又はその塩がより好ましく、更にはクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、酢酸から選ばれる1種又は2種以上が特に好ましい。
また、有機酸の塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩等、医薬上許容される塩を挙げることができ、中でも、ナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。
【0014】
有機酸又はその塩の組成物への配合量は、0.001〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0015】
斯くして、有機酸又はその塩が配合された組成物は、そのpHを、3.5〜6.0、好適には3.7〜5.8、更に好適には4.0〜5.0に調製するのが好ましい。
有機酸又はその塩を配合し、pHを斯かる範囲に調整することにより、パンテチンの安定性を維持しつつ、当該組成物中におけるリボフラビン又はその誘導体の安定性を向上させることができる。
【0016】
本発明のカプセル充填用組成物において、パンテチン及び大豆油不けん化物の混合質量比は、1:0.5〜5.0の範囲であり、好ましくは1:1.5〜2.0である。また、トコフェロール又はそのエステル誘導体の配合量は、パンテチンに対して、0.03〜2.0倍質量部、好ましくは0.1〜1.0倍質量部程度にすればよい。
また、リボフラビン又はその誘導体は、パンテチンに対して、0.001〜0.5倍質量部、好ましくは0.005〜0.4倍質量部程度にすればよい。
【0017】
本発明のカプセル充填用組成物は、パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、リボフラビン又はその誘導体、及び上記の有機酸又はその塩を、基剤等と混合し、必要に応じて添加剤を配合し、公知の手段を用いて均一に混合することにより調製することができる。
添加剤は、通常、カプセル剤に配合される添加剤であれば特に限定されず、例えば、安定化剤、抗酸化剤、着色剤、界面活性剤、芳香剤・香料、乳化剤、可溶化剤、防腐剤、甘味剤、矯味剤、保存剤、清涼化剤、溶解補助剤、溶剤、緩衝剤、懸濁化剤、粘稠剤、苦味マスキング剤等が挙げられ、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
斯かるカプセル充填用組成物は、硬カプセル剤又は軟カプセル剤の充填用組成物として使用できる。尚、軟カプセル剤を製造する場合、公知の製造法を用いればよいが、例えばロータリー式全自動ソフトカプセル成型機を用いた打ち抜き法、二枚のゼラチンシート間に内容物を入れ金型で両面から圧縮して打ち抜く平板法或いは二重ノズルを用いた滴下法(シームレスカプセル等)等を用いて、本発明のカプセル充填用組成物をカプセル皮膜に充填し、成型、乾燥することにより、軟カプセル剤とすることができる。
【0019】
本発明のカプセル剤は、医薬品の他、食品としても使用できる。すなわち、本発明のカプセル剤は、血清高コレステロール改善等の高脂血症改善薬として、或いは、血清高コレステロール改善や高脂血症改善等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、特定保健用食品等の機能性食品等として使用可能である。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明する。
実施例1
(1)カプセル充填用組成物の調製
下記表1に示す基本処方に、クエン酸0.001%〜1%を添加し、均一に混合することにより、表2に示す組成物1〜7を調製した。尚、各組成物約1gをとり、精製水100mLを加えて加温し、溶解液をろ紙ろ過し、ろ液につきpH測定した。尚、pH測定は、HORIBA社製pHメーターを用い常温で行った。
【0021】
【表1】

【0022】
(2)各々の試料液を60℃で、3日保存し、保存期間終了後における各組成物のパンテチン及びリボフラビン酪酸エステルの含有量を、液体クロマトグラフ法により測定した。測定条件は以下のとおりである。
<パンテチンの測定条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:220nm)
カラム:内径4.6mm,長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填する。
カラム温度:40℃付近の一定温度。
移動相:リン酸二水素カリウム6.80gを水1000mlに溶かし,薄めたリン酸(1→10)を加えてpHを3.5に調整する。この液600mlにアセトニトリル100mlを加える。
流 量:パンテチンの保持時間が約12分になるように調整する。
【0023】
<リボフラビン酪酸エステルの測定条件>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:270nm)
カラム:内径4.6mm,長さ25cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用シリカゲルを充てんする。
カラム温度:40℃付近の一定温度。
移動相:ヘキサン/エタノール(99.5)/酢酸(100)混液(80:20:1)。
流量:リボフラビン酪酸エステルの保持時間が約6分になるように調整する。
【0024】
(3)結果
組成物1〜7のpH及び(2)で測定したリボフラビン酪酸エステル及びパンテチンの含有量から残存率(%)を算出した結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
リボフラビン酪酸エステルは、組成物2〜7においてはほぼ安定であり、pH3.0〜6.0程度で安定であると考えられる。一方、パンテチンは,組成物1〜5において安定であり、pH3.8程度以上でほぼ安定であると考えられる。
【0027】
実施例2
(1)カプセル充填用組成物の調製
実施例1と同様にして、表1で示す基本処方に、酢酸0.01%〜2%を添加し、表3に示す、組成物8〜14を調製した。
【0028】
(2)各々の試料液を60℃で、3日保存し、保存期間終了後における各組成物のパンテチン及びリボフラビン酪酸エステルの含有量を、実施例1と同様に液体クロマトグラフ法により測定した。
【0029】
(3)結果
組成物8〜14のpH及び(2)で測定したリボフラビン酪酸エステル及びパンテチンの含有量から残存率(%)を算出した結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
リボフラビン酪酸エステルは,組成物9〜14において安定であり、pH3.4〜6.0程度でほぼ安定であると考えられる。パンテチンは、組成物8〜12において安定であり、pH3.7以上でほぼ安定であると考えられる。
【0032】
実施例3
(1)実施例1と同様に、下記表4の基本処方に、クエン酸0.01%、酢酸0.5%を配合し、カプセル充填用組成物15〜17を調製した。得られたカプセル充填用組成物を、それぞれOVAL型のカプセル皮膜に充填して軟カプセル剤(比較品1、本発明品1、本発明品2)とした。
【0033】
【表4】

【0034】
(2)各々の軟カプセル剤を40℃・75%RHガラスビン密栓で、3ヶ月保存し、保存期間終了後、カプセル内容物中のパンテチン及びリボフラビン酪酸エステルの含有量を、実施例1と同様に液体クロマトグラフ法により測定し、残存率(%)を求めた。
【0035】
【表5】

【0036】
以上より、有機酸を添加することにより、リボフラビン酪酸エステルの安定性の向上できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、リボフラビン又はその誘導体、及び有機酸又はその塩を含有する組成物であって、pHが3.5〜6.0であることを特徴とする、カプセル充填用組成物。
【請求項2】
有機酸又はその塩が、オキシ酸若しくはその塩、又はカルボン酸若しくはその塩、である請求項1記載のカプセル充填用組成物。
【請求項3】
オキシ酸若しくはその塩が、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上であり、カルボン酸若しくはその塩が、酢酸、アジピン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸及びそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上である請求項2記載のカプセル充填用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のカプセル充填用組成物を充填してなるカプセル剤。
【請求項5】
パンテチン、大豆油不けん化物、トコフェロール又はそのエステル誘導体、及びリボフラビン又はその誘導体を含有する組成物において、有機酸又はその塩を配合することを特徴とする、リボフラビン又はその誘導体の安定化方法。
【請求項6】
pHを3.5〜6.0に調整する、請求項5記載の安定化方法。

【公開番号】特開2012−121848(P2012−121848A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274579(P2010−274579)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000219587)東海カプセル株式会社 (1)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【Fターム(参考)】