説明

リポソーム組成物およびその使用方法

【課題】光増感剤及び化学治療剤を含有し、光励起により速やかに薬物を放出することができるとともに、光線力学的療法と化学療法との併用効果を有するリポソームを提供する。
【解決手段】安定性が高く、飽和脂肪酸鎖を有するリン脂質及びコレステロールを用いて、光増感剤を脂質二重層に内包する光感受性リポソームを設計する。光増感剤は光励起によりリン脂質と化学反応し、薬物のリポソームからの放出を促進する。リポソームは脂質二重層構造を有するため、リポソームは2種類の物質を同時に内包することができ、親水層に親水性薬物を内包すると同時に、疎水層に光増感剤を内包する。適当な波長の光源で疎水層に内包される光増感剤を励起させることによりリポソームの安定性に影響を与え、よって薬物を放出させる。一重項酸素及びフリーラジカルはリポソームから遊離するとともにがん細胞を攻撃し、光線力学的療法と化学療法との併用効果に達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規リポソーム徐放システムの構築に関わる。特に、本発明は光増感剤をリポソームの脂質二重層に、放出制御されるべき薬物を親水層に内包させ、光励起により光線力学的作用を誘発して一重項酸素を生成させ、リポソームにおける薬物の放出率を向上し、がん細胞に対する毒殺作用を果たすものである。また、該一重項酸素及びフリーラジカルががん細胞を攻撃するため、光線力学的と化学的との併用療法の効果を達する。本発明は更に、新規抗がん剤及びその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Banghamらは、1965年、透過性を有する脂質小胞体を発見し、1968年、SessaとWeissmannらはこの小胞体をリポソーム(liposome)と正式に名づけ、且つリポソームは一層又は複数層の脂質二重層膜(lipid bilayer)からなる小胞体であると定義した。
【0003】
1970年から、リポソームは以下のような特性を有するため、好適なドラッグキャリアー(drug carrier)と認められるようになってきた。
(1)リポソームはリン脂質からなり、細胞膜の構成成分と同一であり、生体内で分解可能なため、毒性を持たず、蛋白質のように免疫反応を起こすこともなく、繰り返し使用可能である。
(2)リポソームに内包される薬物は緩慢な速度で放出され、薬動力学的プロフィールを変化させることにより薬物の治療効率を向上する。
(3)薬物をリポソームに内包させることにより、副作用を減少することができる。
(4)リポソームはその脂質構成、粒子サイズ、構造、調製方法などの変化により、さまざま異なる場合に適用することができる。
【0004】
1990年代に、PEG−PEを(disteroylphosphotidyl-choline)リポソーム表面にグラフトし、リポソームの粒子径を200nm以下に縮小すると、この種のリポソームは長時間にわたって血中に循環できることが発見された。さらに腫瘍組織が複数の新生血管を有し、且つその血管内皮細胞が緊密ではないため、この種の長期血中滞留型リポソーム(long-circulating liposomes)は内皮細胞の隙間を通過可能であり、腫瘍組織において比較的高い集積量があり、正常な組織の10倍以上に達する。特許文献1において、リポソーム製法にPEG−PEをできるだけ多く加えると、リポソームの凝集及び融合を防止できるので、リポソーム製剤の保存期間が延長されることを示唆している。
【0005】
現在、Lipo−Dox(登録商標)、Doxil(登録商標)など、長期血中滞留型リポソームを利用して抗がん剤を内包する製品は既に市販化されている。この二種類の製剤はドキソルビシン(Doxorubicin)を内包するものであり、目下FDAにより認可された抗がん剤である。しかし、従来の長期血中滞留型リポソームは以下の不具合を有する。
【0006】
1.リポソームの構成が安定しすぎており、通常完全飽和のリン脂質に高含量のコレステロールを加えるため、リポソームが標的組織に到達後、薬物が速やかに放出できなくなる。
2.PEG−PEはリポソーム中の薬物放出能力を阻害する可能性がある。
3.PEG−PEはリポソームの腫瘍組織及び細胞への進入能力を阻害する可能性がある。
【0007】
リポソームが小さければ小さいほど、皮膚の角質層又は粘膜組織を容易に透過し、よって所望の部位に到達することは多くの研究で明らかになている。リポソームの製造及び保存過程に、如何にリポソームの凝集及び融合、ひいてはリポソーム内の薬物の浸透を回避することができるかは製剤の研究開発において重要な課題となる。このため、高安定性を有し且つ薬物の放出を精確に制御可能なリポソーム製法の設計は目下リポソームの研究開発における重要な目標の一つになっている。
【0008】
目下、多くの研究者はリポソームの薬物放出を制御するために積極的に様々な方法を試みており、基本的にはリポソーム構造の不安定化を誘発することにある。
Grossweiner(1980)は卵黄ホスファチジルコリン(Egg PC:不飽和結合を有する)及びジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC:全て飽和結合)を用いて調製したリポソームを細胞膜のパターンとする。リポソームで蛍光物質のエオシン(Eosin)を内包し、さらにリポソームをメチルブルー溶液と混合させ、試験の結果から、リポソームに光を当てるとエオシンが放出されることを発見した。その結果、上述の方法によってエオシンを効果的に放出し、メチルブルーの励起により生成されたフリーラジカル及びスーパーオキシドアニオンラジカルがリン脂質の脂肪酸鎖を攻撃するため、不安定な脂質二重層が生成されることが分かった。この光増感剤がリポソーム内に位置していないので、脂肪酸鎖を攻撃するために一重項酸素とフリーラジカルとは脂質二重層まで透過しなければならないため、このようの現象は光化学効果の低減を招くことがある。
【0009】
また、がん治療の臨床研究において手術による切除のほか、多くは化学療法でがん細胞を抑制するが、臨床研究から数回の化学療法による治療後、がん細胞が徐々に薬物耐性を生じることが発見されたため、がん治療法において、異なる化学治療剤又は治療方法を同時に併用するか、又は相互に交替することによりがん細胞を毒殺、抑制し、その中に光線力学的療法という療法がある。光線力学的療法は光増感剤、酸素及び光という3つの要素を含んでおり、光増感剤自体は人体に対する毒性がほとんどないが、光増感剤が腫瘍組織に集積する際、適当な波長と線量の光照射を受けた後、光増感剤はエネルギーを吸収し励起状態になると共に、エネルギーを近傍の酸素又は他の物質に移動させることで、細胞毒性を有する一重項酸素及びフリーラジカルを生成し、よってがん細胞を毒殺する。現在、リポソーム剤型のドキソルビシン(Doxorubicin)と光線力学的療法とを合わせて作用させることを提出した文献があったが、確かに腫瘍の抑制に対し良好な効果を有する。
【0010】
目下のリポソーム調製技術によって安定性が高いリポソームを生産することを可能にしたが、標的位置におけるリポソームの速放を制御可能な有効な方法はまだない。このほか、現在光増感剤及び他の水溶性薬物を同一のリポソームに内包させる二重内包薬剤は一つもない。
【特許文献1】台湾特許第088101359号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述に鑑みて、本発明は光増感剤及び化学治療剤を含有し、光励起により速やかに薬物を放出することができるとともに、光線力学的療法と化学療法との併用効果を有するリポソームを提供する。
本発明の目的及びメリットにつき、以下のように部分的に記述するか、又は記述から明らかに読み取ることができる。
本発明の目的は、主に光線力学的作用により薬物のリポソームからの放出速度及びがん細胞の毒殺率を向上させる、新規のリポソーム徐放システムを提供することにある。
本発明の別の目的は新規抗がん剤及びその治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は光増感剤及び親水性物質を同時にリポソームに内包させる応用システムに関わる。該光感受性リポソーム製剤は安定なリポソームであり、且つ薬物のリポソームからの放出速度を制御することができる。また、本発明は光増感剤と化学治療剤との共通キャリアーを提供する。光励起された後、この種のリポソームは薬物放出制御の能力を有するだけでなく、光線力学的療法と化学療法との併用効果も有する。
【0013】
本発明は、安定性が高く、飽和脂肪酸鎖を有するリン脂質及びコレステロールを用いて、光増感剤を脂質二重層に内包する光感受性リポソームを設計するものである。該光増感剤は光励起によりリン脂質と化学反応し、よって薬物のリポソームからの放出を促進する。リポソームは脂質二重層構造を有するため、本発明に係るリポソームは2種類の物質を同時に内包することができ、即ち、親水層に親水性薬物を内包すると同時に、疎水層に光増感剤を内包する。適当な波長の光源で疎水層に内包される光増感剤を励起させることにより一重項酸素及びフリーラジカルを生成し、リン脂質の炭素鎖の酸化反応、ひいては切断反応を引き起こし、これによりリポソームの安定性に影響を与え、よって薬物を放出させる。該一重項酸素及びフリーラジカルはリポソームから遊離するとともにがん細胞を攻撃し、光線力学的療法と化学療法との併用効果に達する。
【0014】
本発明は光増感剤をリポソーム脂質二重層に内包するリポソームに関わり、該リポソームの親水層は例えば、ドキソルビシン(Doxorubicin)及びカルセイン(Calcein)などのモデル製剤(model drug)を内包するが、これに限定されるものではない。同時に、該リポソームの疎水層に例えば、ヘマトポルフィリン(HP:Hematoporphyrin)及びプロトポルフィリン(Pp:Protoporphyrin)などの光感受性物質を内包するが、これらに限定されるものではない。
【0015】
本発明のリポソーム組成物は、ジステアロイルフォスファチジルコリン(DSPC:1,2-Disteroyl-sn-Glycero-3-Phosphocholine)を飽和脂肪酸鎖含有リン脂質のパターンとし、コレステロール、ポリエチレングリコール−ジステアロイルフォスファチジルエタノールアミン(PEG−DSPE:Polyethyleneglycol-derivated Distearoylphosphatidylethanolamine)を添加してリポソームの基本的な製法にし、更に脂質二重層に疎水性光感受性物質(例えば、ヘマトポルフィリン及びプロトポルフィリンがあるがこれらに限定されるものではない)を内包させ、親水層に水溶性薬物を内包させる。試験の結果として、前記リポソーム組成物は光源の照射で生成した一重項酸素及びフリーラジカルにより、リン脂質の脂肪酸鎖を切断できることが証明されている。該リポソームは薬物の放出を制御することができ、且つ光励起された後がん細胞に対する毒殺効果を効果的に向上することができる。
【0016】
本発明は更に光増感剤を含有するリポソーム組成物の使用に関する方法を記述する。本発明に使用される光源は波長が比較的長い光源であり、例えば、波長が600nm〜670nmの光源であるがこれに限定されるものではない。前記光源は光増感剤を励起し且つリポソームの安定性を影響し、リポソームに内包される薬物を放出するようにさせ、そして生成された一重項酸素及びフリーラジカルがリポソームから同時に遊離してがん細胞を攻撃するため、光線力学的及び化学的の併用療法の効果を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の他の特性は次に詳しく説明される具体的実施例により明らかになる。
以下の実施例は本発明の技術内容、即ち達成できる効果につき説明するが、本発明を限定するものではない。本発明に基づいて成した如何なる適宜変形及び修正も本発明の範囲に属するものである。
本発明は光感受性物質をリポソーム脂質二重層に内包するリポソームに関し、該リポソームの親水層は例えば、ドキソルビシン(Doxorubicin)及びカルセイン(Calcein)などの薬物を内包するが、これらに限定されるものではない。その疎水層に光増感剤を内包することで、該リポソーム脂質二重層を不安定化させ、リポソームにおける薬物の放出効率を向上する。
【0018】
本発明に係るリポソーム組成物の脂質二重層には疎水性光増感剤が内包され、該疎水性光増感剤はポルフィリン(Porphyrin)からなる群より選ばれたものであるが、如何なる光増感剤に限定されるものではない。本発明の一実施例は、ヘマトポルフィリン(Hp:Hematoporphyrin)及びプロトポルフィリン(Pp:Protoporphyrin)からなる群より選ばれたプロトポルフィリンIX(PpIX: Protoporphyrin IX)を用いるが、該リポソームの親水層に内包された水溶性薬物はドキソルビシンやカルセインなどを含むがこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の別の目的は、特定波長の光源によりリポソームの脂質二重層内の光感受性物質を活性化させ、一重項酸素及びフリーラジカルを生成するようにし、リポソーム内の抗がん剤を放出させると共に、該一重項酸素及びフリーラジカルががん細胞を攻撃して毒殺作用を果たし、光線力学的及び化学的の併用療法の効果を生じることにある。
【0020】
本発明の他の目的は、該リポソーム組成物の使用方法に関する。本発明は光源を用いて薬物の該リポソームからの放出効率を向上するものであり、本発明に使用される光源は、波長が600nm〜670nmの光源を含むがこれに限定されていない。本発明の一つの具体的な実施態様において赤外光を光源として用いるが、別の具体的な実施態様において、赤色発光ダイオードを光源として用いる。
【0021】
図面について説明する。
図1は本発明の異なる構成のリポソームが4℃で保存される時の安定性分析である。DSPC:EggPC:コレステロール:PEG−DSPE=(◆)8:2:1:0.2μmol、(■)9:1:1:0.2μmol、(▲)10:0:1:0.2μmol、(×)10:0:2:0.2μmol、(*)10:0:3:0.2μmol。
図2はHpを内包するリポソーム組成物が光励起された後、37℃でPBSにおいて放出する状況を示す。
図3はPpIXを内包するリポソーム組成物が光誘発された後、37℃でPBSにおいて放出する状況を示す。
【0022】
図4は光増感剤を含有しないポリソーム組成物が30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はドキソルビシンである。
図5は光増感剤を含有しないポリソーム組成物が30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はカルセインである。
【0023】
図6は光増感剤(Hp)を内包するポリソームが30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はドキソルビシンである。
図7は光増感剤(Hp)を内包するポリソームが30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はカルセインである。
【0024】
図8はLiposomal Hpとfree Hpが(0J、2J、4J、6J、8J)の光で照射された後、CL1−0細胞株に対する細胞毒性の比較を示す。
図9はリポソーマルドキソルビシン(LD:Liposome Doxorubicin)、遊離ドキソルビシン(FD:Free Doxorubicin)、リポソーマルドキソルビシンヘマトポルフィリン(LDH:Liposomal-Dox-Hp)、リポソーマルHp(LH:liposomal Hp)及び、光照射後のLDH(1J、10J、20J、30J)などの異なる製法におけるA431細胞株に対する細胞毒性の比較を示す。
【0025】
図10はリポソーマルドキソルビシン(LD:Liposome Doxorubicin)、遊離ドキソルビシン(FD:Free Doxorubicin)、リポソーマルドキソルビシンヘマトポルフィリン(LDH:Liposomal-Dox-Hp)及び、光照射後のLDH(1J、10J)などの異なる製法におけるCL1−0細胞株に対する細胞毒性の比較を示す。
【0026】
(実施例1)
・リポソーム組成物の調製
リン脂質、コレステロール及びPEG−DSPEを有機溶媒に溶解し、0.5mg/mlの600μlのヘマトポルフィリンのエタノール溶液と混合し、減圧濃縮機に入れて有機溶媒を減圧除去した。有機溶媒の除去後、脂質膜が形成し、次に予熱されたドキソルビシン水溶液(65℃)を加えて水和作用を行った。冷凍後解凍のプロセスを繰返し、超音波プローブ(20分間、50W)で該リポソームの粒径を制御し、最後に、Sephadex G−50カラム(Bio-Rad Laboratories, Inc)で内包されていないリポソーム及び薬物を除去する。最後の溶液は、0.9%(w/v)の塩化ナトリウム(NaCl)溶液に懸濁して4℃で保存される。
【0027】
(実施例2)
・リポソーム組成物の保存安定性についての分析
上述の調製済リポソーム組成物を6群(一群で200μl)に分けて、それぞれ1.5mlの遠心チューブに密封させ、アルゴンを注入して4℃で暗い場所に保存した。薬物の浸透量(%)及び粒径の変化を分析するために、0、1、3、7、15、30日目に、1群のサンプルを採り出した。
Leakage(%)=ELp/CLp×100%
ELp=試験群におけるリポソーム中の薬物含有量
CLp=対照群におけるリポソーム中の薬物含有量
(時間点は第0日である)
【0028】
図1は30日間保存された後該リポソームの安定性プロフィールを示す。本発明に係るリポソーム組成物(Ch1、Ch2、Ch3)の薬物浸透量はいずれも20%以内で、特に、Ch3群の薬物浸透量は10%以内だった。
【0029】
(実施例3)
・リポソーム組成物の光による誘導放出についての分析
(1)光励起の光増感剤としてヘマトポルフィリン(Hematoporphyrin)を加える場合
上述の調製済のHpリポソーム組成物を、赤外発光ダイオード(LED)により照射量がそれぞれ10、20、30J/cm2の光で照射した後に透析バッグに入れて、使用された透析液はPBS、pH7.4、透析温度は37℃である。1、2、4、6、8、12、24、36、48及び72時間目に、光励起によって放出された後、透析バッグから1mlの透析液を採り出して新し緩衝液に交換し、収集した溶液は放出されたドキソルビシンを含有し、その含有量は蛍光スペクトロメーターにより定量分析を行った。
【0030】
図2は光照射後の放出結果を示す。ヘマトポルフィリンが添加されたリポソーム組成物は、そのドキソルビシンの放出速度が明らかに増加した。光照射後、該リポソームの放出曲線は2段階に分けられ、その放出速度は12時間目において転換点になった。該リポソームは10、20、30J/cm2の光照射後、その薬物放出率は72時間目にそれぞれ33%、50%、56%に達した。72時間後、30J/cm2の光で照射された試験群の薬物放出率は、コントロール群よりも約36%高められた。このことから、光励起反応はドキソルビシンのリポソームからの放出速度を向上でき、且つ、そのドキソルビシンの放出速度は光照射の強度と正比例することが分かった。
【0031】
(2)光励起の光増感剤としてプロトポルフィリンIX(PpIX)を加える場合
リン脂質、コレステロール及びPEG−DSPEを有機溶媒に溶解し、PpIXのエタノール溶液と混合させ、ロータリーエバポレーターによって有機溶媒を除去した。有機溶媒が除去された後、脂質膜が形成し、予熱されたドキソルビシンの水溶液(65℃)を加えて水和作用を行った。次いで、冷凍後解凍のプロセスを繰返して、超音波(20分間、50w)で該リポソームの粒径を制御し、最後に、SephadexG−50カラムによって内包されていない薬物を除去した。最後の溶液は0.9%(w/v)の塩化ナトリウム(NaCl)溶液中に懸濁して4℃で保存される。
【0032】
上述の調製済のPpIXリポソーム組成物を、赤外発光ダイオード(LED)で照射量が10、20、30J/cm2の光で照射した後に透析バックに入れ、使用された透析液はPBS、pH7.4、透析温度は37℃だった。1、2、4、6、8、12、24及び72時間目に光励起により放出された後、透析バッグから1mlの透析液を採り出して新鮮な緩衝液で交換した。収集された溶液は、放出されたドキソルビシン(Doxorubicin)を含有し、蛍光スペクトロメーターで定量分析を行った。
【0033】
図3は、ドキソルビシンが30Jの赤外光(635nm)により照射された、及び照射されていないリポソームの放出曲線を示す。菱形のマーク(◆)はコントロール群を、方型マーク(■)は試験群を表す。図3から分かるように、光照射後、ドキソルビシン(Doxorubicin)の放出速度は明らかに増加した。
【0034】
(実施例4)
・光励起後のリポソームの脂質二重層透過性の変化
いかなる薬物も含有しないリポソームを調製し、リポソーム組成物の製法はDSPC:コレステロール(Cholesterol):PEG−DSPE=10:3:0.2μMで、その調製及び保存条件は上述のとおりである。1mlのリポソーム溶液を、1ml、濃度が0.25mg/mlの蛍光物質(ドキソルビシン及びカルセイン)と混合させ、試験群に光を照射(30J/cm2の赤外LED)し、コントロール群を光照射しないとした。光照射量がリポソームの透過性を影響すれば、該蛍光物質は該リポソームに入ることになる。Sephadex G−50カラムでリポソームと捕獲されていない蛍光物質を分離させ、更に蛍光スペクトロメーターによって捕獲されていない蛍光物質及び捕獲された蛍光物質を分析した。この透過性の変化は捕獲された蛍光物質を定量する方法で示されており、リン脂質の含有量で補正した。
【0035】
光増感剤(Hp)を含有するリポソーム組成物を調製し、その脂質の製法はDSPC:コレステロール:PEG−DSPE=10:3:0.2μMであり、また0.3mgのHpが内包された。リポソームの調製及び保存条件はHpをリポソーム中に内包するほか、その他は上述の通りである。透過性の測定は上述の方法を採用した。
【0036】
図4及び図5は光増感剤Hp(以下、「free Hp」で示す)が内包されていないリポソームの膜透過性の結果を示し、光増感剤Hpを内包するリポソーム(以下、「Liposome Hp」で示す)の膜透過性の結果は図6及び図7で示されている。同一のFree Hp群において、リポソーム中の蛍光物質含有量は増加していないが、Liposome Hp群において、逆の結果になった。これらの結果は、赤外光(30J/cm2)で照射されたLiposome Hpはコントロール群と比較すると、リポソーム中のドキソルビシン又はカルセインの含有量が明らかに増加(約2倍増加)したことを証明した。
【0037】
(実施例5)
・細胞培養及び細胞毒性の測定(MTT assay)
(1)細胞毒性の測定(一)
CL1−0細胞(約5000個細胞)を96孔の培養皿に入れて培地で培養した。24時間培養した後、2μg/mlHp(free Hp又はLiposome Hp)を培養穴に入れた。2時間後、細胞を2、4、6、8J/cm2(635nm赤外光)光で照射し、更に24時間培養してから、MTTアッセイ(MTT assay)を行なった。
【0038】
(2)細胞毒性測定(二)
A431又はCL1−5細胞(約5000個細胞)を96穴の培養皿の各穴に入れて、培地で培養した。24時間培養した後、それぞれドキソルビシン、リポソーマルドキソルビシン(LD:liposomal-Doxorubicin)及びリポソーマルドキソルビシンヘマトポルフィリン(LDH:Liposomal-Doxorubicin-Hematoporphyrin)を各培養穴に入れ、薬物濃度を0.5μg/mlのドキソルビシンと、0.3μg/mlのHpにした。2時間培養した後、試験群の細胞を1、10、20、30J/cm2の光で照射し、72時間培養した後、MTTアッセイ(MTT assay)を行なった。
【0039】
細胞試験(一)の結果(図8)において、PDT処理後のfree Hp及びLiposome HpのCL1−0肺腺癌細胞に対する毒性を比較すると、PDT処理後、Liposome Hpの癌細胞に対する毒殺効果はfree Hpよりも明らかに高いことが分かった。この結果は、光線力学的療法が癌細胞に対し毒殺効果を有し、且つ該Liposome Hpは光線力学的療法の癌細胞に対する毒殺効果を向上できることを証明した。
【0040】
A431細胞の試験結果(図9)において、LDの細胞に対する毒性は同一濃度のFDよりも遥かに低く、LDはほとんど毒性がないと言えるが、FDはA431細胞に対し明らかな毒性を示し、FDのミトコンドリアのの脱水素酵素活性は、コントロール群の約30%であることが明らかになった。試験で調製されたリポソーマルドキソルビシンヘマトポルフィリン(LDH:liposomal-Doxorubicin-Hp)の毒性はLDとFDの間に介在し、そのミトコンドリアの脱水素酵素活性はコントロール群の約60%であり、LDHは1、10、20、30J/cm2の赤外光で照射された後、細胞に対する毒性は明らかに増加し、光照射の強度と正比例するようで、特に、30J/cm2の群において、その細胞に対する毒性がほぼFDと同等で又は更に強く、LDHのミトコンドリアの脱水素酵素活性はコントロール群の約25%である。この結果は、光照射後の抗がん剤のリポソームからの大量放出の結果又はPDT効果のため、細胞に対するLDHの毒性は確かに増加したことを示した。細胞毒素試験(一)において、該リポソームが光線力学的療法の癌細胞に対する毒殺効果を向上できることが証明されたため、光線力学的療法と化学療法の癌細胞に対する毒殺効果を合わせるには、Hpの量を高めるだけでこの効果を達成できるのである。
【0041】
CL1−0細胞株の毒性測定(図10)において、その結果はA431細胞の毒性測定と似ており、LDの細胞に対する毒性は同一濃度のFD製剤よりも遥かに低い。濃度が0.5μg/mlのドキソルビシンにおいて、LDはほとんど毒性がないと言えるが、FDはCL1−0細胞に対し顕著な毒性を示した。LDHは1及び10J/cm2の赤外光により照射された後、細胞に対する毒性は明らかに増加し、この結果はLDHリポソームが異なる癌細胞タイプに対して効果を有することを証明した。
【0042】
本発明は前述の好適な実施例で開示したが、本発明を限定するものではなく、この技術を熟知した如何なる技術者も、本発明の精神と範囲を逸脱しない前提で、各種の変形や修飾を行うことができるため、本発明の保護範囲は本明細書に添付した特許請求の範囲に定義されるものを基準とする。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の異なる構成のリポソームが4℃で保存される時の安定性分析を示す概略図。
【図2】Hpを内包するリポソーム組成物が光励起された後、37℃でPBSにおいて放出する状況を示す概略図。
【図3】PpIXを内包するリポソーム組成物が光誘発された後、37℃でPBSにおいて放出する状況を示す概略図。
【図4】光増感剤を含有しないポリソーム組成物が30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はドキソルビシンを示す概略図。
【図5】光増感剤を含有しないポリソーム組成物が30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はカルセインを示す概略図。
【図6】光増感剤(Hp)を内包するポリソームが30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はドキソルビシンを示す概略図。
【図7】光増感剤(Hp)を内包するポリソームが30J/cm2の光で照射された後、その脂質二重層の透過性の変化を示し、その内、膜透過性測定用の薬物はカルセインを示す概略図。
【図8】Liposomal Hpとfree Hpが(0J、2J、4J、6J、8J)の光で照射された後、CL1−0細胞株に対する細胞毒性の比較を示す概略図。
【図9】リポソーマルドキソルビシン、遊離ドキソルビシン、リポソーマルドキソルビシンヘマトポルフィリン、リポソーマル Hp及び、光照射後のLDH(1J、10J、20J、30J)などの異なる製法におけるA431細胞株に対する細胞毒性の比較を示す概略図。
【図10】リポソーマルドキソルビシン、遊離ドキソルビシン、リポソーマルドキソルビシンヘマトポルフィリン、及び光照射後のLDH(1J、10J)などの異なる製法におけるCL1−0細胞株に対する細胞毒性の比較を示す概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームの親水層に内包される親水性薬物と、前記リポソームの脂質二重層に内包される疎水性薬物と、を備えたリポソーム組成物において、
前記疎水性薬物は光感受性物質であり、
前記リポソームは光源の照射下で、光線力学的な作用によって前記疎水性薬物の放出を誘導する、リポソーム組成物。
【請求項2】
前記光感受性物質はポルフィリン(Porphrin)である、請求項1に記載のリポソーム組成物。
【請求項3】
前記ポルフィリンは、ヘマトポルフィリン(Hp:Hematoporphyrin)である、請求項2に記載のリポソーム組成物。
【請求項4】
前記ポルフィリンは、プロトポルフィリン(Pp:Protoporphyrin)である、請求項2に記載のリポソーム組成物。
【請求項5】
前記光源は赤外光である、請求項1に記載のリポソーム組成物。
【請求項6】
前記赤外光の光源の波長は、600nm〜670nmである、請求項5に記載のリポソーム組成物。
【請求項7】
前記赤外光の光源の波長は、635nmである、請求項6に記載のリポソーム組成物。
【請求項8】
前記赤外光の光源は、赤外発光ダイオードである、請求項5に記載のリポソーム組成物。
【請求項9】
リポソーム組成物の使用方法であって、
(a)光でリポソーム組成物を励起し、
(b)前記光によって前記リポソームの脂質二重層における光感受性物質を励起し、
(c)励起された光感受性物質がフリーラジカル及び一重項酸素を生成し、該リポソームの安定性を低下させ、
(d)安定性が低下された前記リポソームから、このリポソームの親水層に内包された薬物を放出すること、
を含むリポソームの使用方法。
【請求項10】
前記光は赤外線光源である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記赤外線光源の波長は、600nm〜670nmである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記赤外線光源は、赤外発光ダイオードである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記光感受性物質は、ポルフィリンである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記ポルフィリンは、ヘマトポルフィリンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ポルフィリンは、プロトポルフィリンである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
リポソーム製法を用いて光線力学的療法と化学的療法との併用効果を生じる方法であって、
(a)光でリポソーム組成物を励起し、
(b)前記リポソームの脂質二重層における光感受性物質を励起し、
(c)励起された前記光感受性物質がフリーラジカル及び一重項酸素を生成し、該リポソームの安定性を低下させて細胞毒性効果をもたらし、
(d)安定性が低下されたリポソームから、このリポソームの親水層に内包された薬物を放出すること、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−277218(P2007−277218A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343176(P2006−343176)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(506422560)臺北醫學大學 (1)
【Fターム(参考)】