説明

リポソーム組成物およびそれを配合する化粧料、並びに皮膚外用剤

【課題】 皮膚の角層内に浸透、貯留し、含有している薬効成分を角層内で放出することにより優れた薬効を得ることのできるリポソーム組成物を開発し、これを化粧料、皮膚外用剤等の外用組成物とすること。
【解決手段】 リン脂質、水溶性高分子、薬効成分および水を構成成分とし、リポソーム形成時に水溶性高分子を共存させることにより製造されることを特徴とするリポソーム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム組成物に関し、更に詳細には、リン脂質、水溶性高分子、薬効成分及び水を構成成分としリポソームを形成させるにあたり、水溶性高分子を共存させることによって、角層貯留性を高め、リポソームに内包する薬効成分の効果を高めることのできるリポソーム組成物およびこれを利用する化粧料や皮膚外用剤等の外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体膜の主要構成成分であるリン脂質の二分子膜からなる閉鎖小胞であるリポソームは、生体膜モデルとして研究に用いられるとともに、古くから薬剤を内包してデリバリーするマイクロカプセルとして医薬品や化粧品への利用が試みられていた。特に、化粧料分野においては、マイクロカプセルとして価値のある形態であること、リポソームの構成成分であるリン脂質そのものが生体膜由来の安全性の高い両親媒性物質であることなどから、注目を集めていた。
【0003】
ところで、リポソームを皮膚に塗布したときに、肌に対する高い効果が得られているが、これは、リポソームが長時間角層に留まることが一因であろうということは予測されている。しかしながら、単に薬効成分をリポソームに封入したのみでは、薬効が十分とは言えない場合があり、より角層貯留性を高める手法の開発が急務とされていた。
【0004】
従来、リポソームを使用した組成物においては、皮膚上に残留させ、保湿効果を向上させるための技術はいくつか開発されているが(特許文献1、2等)、角質内に貯留させる技術については全く知られていない状態であった。
【特許文献1】特開2000−63265号公報
【特許文献2】特開2006−151818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、皮膚の角層内に浸透、貯留し、含有している薬効成分を角層内で放出することにより優れた薬効を得ることのできるリポソーム組成物を開発し、これを化粧料、皮膚外用剤等の外用組成物とすることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記実状に鑑み鋭意研究を重ねた結果、水中でリポソームを形成する際、水中に水溶性高分子を共存することによって、リポソームの膜形成能・膜安定性が飛躍的に向上し、その結果、当該リポソーム組成物の角層貯留性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、リン脂質、水溶性高分子、薬効成分および水を構成成分とし、リポソーム形成時に水溶性高分子を共存させることにより製造されることを特徴とするリポソーム組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリポソーム組成物は、水溶性高分子の添加によって膜形成効率および膜安定性が向上したものであるため、高い角層貯留性を持ち、内包した薬効成分を効率よく角層に留める効果を持つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書において、角層貯留性とは、一旦角層に浸透した薬効成分が、角層外に漏出しにくい性質を意味し、高角層貯留性組成物とは、特願2005−320979記載の角層貯留性評価方法において、角質試料中のマーカー物質濃度が50ng/μl以上であることをいう。すなわち、0.05%濃度のマーカー物質を含有する外用製剤を皮膚に適用し、当該外用製剤を適用した皮膚面を複数回テープストリッピングして複数枚のテープストリップ試料を取得し、得られたテープストリップ試料を任意の数のグループに分け、各グループのテープストリップ試料中に含まれているマーカー量を測定する方法において角質試料中のマーカー物質濃度が50ng/μl以上であるものを高角層貯留性組成物とする。
【0010】
本発明の角質貯留性組成物に含有されるリポソーム組成物は、その構成成分として、リン脂質、水溶性高分子、薬効成分を含み、リン脂質、薬効成分および水でリポソーム形成する際に水溶性高分子を共存させることにより製造されるものである。
【0011】
リポソーム組成物を形成するリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン、スフィンゴミエリン、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然リン脂質、ジオレオイルホスファチジルコリン等の合成リン脂質や、前記リン脂質の不飽和炭素鎖を水素により飽和とした水素添加リン脂質、あるいはその他大腸菌等の微生物から抽出されるリン脂質等が挙げられる。これらリン脂質は、一種または二種以上を組み合わせて用いることができる。この中で、水素添加卵黄リン脂質、水素添加大豆リン脂質、水素添加ホスファチジルコリン、水素添加ホスファチジルセリンから選ばれる一種またはニ種以上が好ましい。
【0012】
また、リポソーム組成物の際に共存させる水溶性高分子としては、通常化粧料に使用されているものを用いることができ、例えば、水溶性コラーゲン、ポリグルタミン酸、アラビヤゴム、カラギーナン、トラガカントゴム、クインスシード、キサンタンガム、ペクチン、デンプン、デキストリン、アルギン酸ナトリウム等の天然水溶性高分子;ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体、アルリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体(ポリクオタニウム−39)、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、塩化[ヒドロキシ(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース等の合成水溶性高分子が挙げられ、目的に応じてこれらの一種又は二種以上を適宜選択して使用することができる。このうち、より好ましいものとしては、両性あるいはカチオン性の、分子内に電荷を有する高分子であることが望ましく、水溶性コラーゲン、ポリグルタミン酸、ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体、ポリクオタニウム−39等が挙げられる。
【0013】
本発明のリポソーム組成物の調製は、薬効成分を溶解ないし分散した水溶液中に、0.005〜10質量%(以下、単に「%」で示す)、好ましくは、0.01〜5%のリン脂質を加え、常法により製造すればよいが、水溶液中でのリポソームを形成する際に0.001〜2%の水溶性高分子を共存させることが必要である。また、水溶性高分子として前記記載の分子内に電荷を有する高分子を用いる場合の配合量は、0.01〜1%が好ましく、さらに分子内に電荷を有する高分子が、水溶性コラーゲンやポリグルタミン酸であれば0.01〜0.3%、ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体であれば0.01〜1%、ポリクオタニウム−39であれば0.001〜0.1%の配合がより好ましい。
【0014】
この製造の際に、リン脂質の量が0.005%よりも少ないとリポソームの生成率が低くなり、また、10%を超えて配合するとゲル化等が起きてしまい安定性に問題があるので好ましくない。また、水溶性高分子の量が0.001%よりも少ないとその配合によるリポソーム膜の形成能や、リポソーム膜に対する安定性向上の効果が十分に得られなくなることがあり、また、2%を超えると、皮膚での伸びの悪さや、べたつきなどを生じ、使用感の悪化につながることがあるので好ましくない。
【0015】
またリン脂質と、水溶性高分子は、その配合比が、1:0.01〜100であり、好ましくは、1:0.1〜10である。
【0016】
本発明のリポソーム組成物は、リポソームの生成の際に水溶性高分子化合物を共存させる以外は、公知のリポソーム含有水分散液製造方法に従って製造することができる。例えば、ボルテクスイング法(A. D. Bangham、J. Mol. Biol., 13, 238(1965))、ソニケーション法(C. Huang, Biochem., 8, 344(1969))、プレベシクル法(H. Trauble, Neurosci. Res. Prog. Bull., 9, 273(1971))、エタノール注入法(S. Batzri, Biochem. Biophys. Acta., 298, 1015(1973))、フレンチプレス押出法(Y. Barenholz, FEBS Lett., 99, 210(1979))、コール酸除去法(Y. Kagawa, J. Biol. Chem., 246, 5477(1971))、トリトンX−100バッチ法(W. J. Gerritsen, Eur. J. Biochem., 85, 255(1978))、Ca2+融合法(D. Papahadojopoulos, Biochem. Biophys. Acta., 394, 483(1975))、エーテル注入法(D. Deazer, Biochem. Biophys. Acta., 443, 629(1976))、アニーリング法(R. Lawaczeck,, Biochem. Biophys. Acta., 443, 313(1976))、凍結融解融合法(M. Kasahara, J. Biol. Chem., 252, 7384(1977))、W/O/Wエマルジョン法(S. Matsumoto, J. Colloid InterfaceSci., 62, 149(1977))、逆相蒸発法(F. Szoka, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 4194(1978))、多価アルコール法(特開昭60−7932号)等を用いることができる。
【0017】
なお、前記リポソーム組成物中に含有させる薬効成分としては、特に制約はなく、美白剤、保湿剤、消炎剤等、基本的に皮膚から吸収、作用させるものを使用できるが、その一例としては、アスコルビン酸およびその誘導体、アルブチン、コウジ酸、グリチルリチン酸2カリウム、ビオチン、ビタミンEおよびその誘導体等を挙げることができる。
【0018】
本発明のリポソーム組成物はそのままで、あるいは、リポソーム組成物0.1〜90%に、一般に化粧料や皮膚外用剤に配合される任意成分、例えば、油剤、界面活性剤、粉体(顔料を含む)、着色料、水溶性高分子、紫外線吸収剤、防腐剤、香料等を本発明の効果を妨げない範囲で配合して、化粧水、懸濁液、乳液等の液剤や、クリーム、ジェル等の半固形状の剤型の化粧料や皮膚外用剤とすることができる。
【0019】
これらの任意成分のうち、油剤としては、動物油、植物油、合成油等、その起源や、固形油、半固形油、液体油、揮発性油等、その性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類、ラノリン誘導体類、油性ゲル化剤類等が挙げられる。
【0020】
また界面活性剤としては、化粧品一般に用いられている界面活性剤であればよく、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0021】
更に、粉体としては、球状、板状、針状等その形状を特に限定することなく種々のものが挙げられる。例えば無機粉体としては、タルク、カオリン、マイカ、合成マイカ、セリサイト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、無水ケイ酸、炭化珪素、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、一酸化チタン、チッ化硼素、酸化クロム、コンジョウ、群青、酸化鉄雲母、酸化鉄雲母チタン、雲母チタン、オキシ塩化ビスマス等が挙げられ、有機粉体としては、ナイロン粉末、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、シリコーン粉末、メチルメタアクリレート粉末、ポリテトラフルオロエチレンパウダー、ウールパウダー、シルクパウダー、結晶セルロース、タール系色素及びそのレーキ色素等が挙げられる。これらの粉体は複合化したものであっても良く、更にフッ素化合物、シリコーン系油剤、金属石鹸、ロウ、油脂、炭化水素等の1種又は2種以上を用いて表面処理を施したものであっても良い。
【0022】
着色剤としては、通常化粧料に使用されるものであれば特に制限されず、いずれのものも使用できる。例えば、赤色2号、赤色3号、赤色102号、赤色104号(1)、赤色105号(1)、赤色106号、黄色4号、黄色5号、緑色3号、青色1号、青色2号、赤色201号、赤色213号、赤色214号、赤色215号、赤色227号、赤色230号(1)、赤色230号(2)、赤色231号、赤色232号、橙色205号、橙色207号、黄色203号、緑色201号、緑色204号、緑色205号、青色202号、青色203号、青色205号、かっ色201号、赤色401号、赤色502号、赤色503号、赤色504号、赤色506号、橙色402号、黄色402号、黄色403号(1)、黄色406号、黄色407号、緑色401号、緑色402号、紫色401号、黒色401号等の水溶性のタール系色素、赤色202号、赤色218号、赤色223号、赤色226号、赤色228号、橙色201号、黄色201号、黄色205号、青色201号、青色204号、紫色201号、赤色404号、赤色405号、橙色401号、黄色401号、黄色404号、黄色405号、青色403号、青色404号等の水不溶性のタール系色素、クチナシ色素、ベニバナ色素、ウコン色素、パプリカ色素、アナトー色素、コチニール色素等の天然色素、酸性、塩基性色素、及び分散染料等が挙げられる。これらの着色料は、1種又は2種以上を使用することが可能である。
【0023】
更にまた水溶性高分子としては、グアーガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の天然系のもの、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の半合成系のもの、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成系のものを、紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸ナトリウム、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸ナトリウム、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2',4,4'−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系のもの、p−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸エチル、p−アミノ安息香酸グリセリル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸−2−エチルヘキシル、p−ジヒドロキシプロピル安息香酸エチル等のPABA系のもの、p−メトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル、4−メトキシケイ皮酸−2−エトキシエチル等のケイ皮酸系のもの、サリチル酸−2−エチルヘキシル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ホモメンチル等のサリチル酸系のもの、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチル−4'−メトキシジベンゾイルメタン、オキシベンゾン等のその他のものを挙げることができる。
【0024】
また更に、酸化防止剤としては、例えばα−トコフェロール、アスコルビン酸等が、美容成分としては、例えばビタミン類、消炎剤、生薬等が、防腐剤としては、例えばp−オキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳述するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【0026】
実 施 例 1
下記表1の組成および下記製造方法によりリポソーム組成物を調製した。得られた本発明品1および比較品1〜2に関し、角層貯留性評価を行った。
【0027】
( 組 成 )
【表1】

【0028】
( 製造方法 )
本発明品1および比較品2は以下の製造方法により調製した。
A:成分1〜4および9、11を混合した。
B:成分5〜8を加温混合した。
C:区分Bを区分A中にパドルミキサー等で攪拌しながら徐注入することによって、
リポソーム組成物を得た。
【0029】
比較品1は以下の製造方法により調製した。
A:成分1〜4および11を混合した。
B:成分5〜8を加温混合した。
C:成分9および10を混合した。
D:区分Bを区分A中にパドルミキサー等で攪拌しながら徐注入する。
E:区分Dに区分Cを加え、リポソーム組成物を得た。
【0030】
( 角層貯留性評価方法 )
特願2005−320979記載の角層貯留性評価方法によって角層貯留性を評価した。すなわち、各製剤100μlを、皮膚の1.2cm×5cmの面積に3回塗布した。塗布は、前の塗布製剤が肌に吸収ないしは乾燥したことを確認した後、さらに塗布した。またこの塗布は、ラテックスのグローブを用いて行った。
【0031】
上記の塗布が終了してから12時間後に、テープストリッピングによって製剤を塗布した場所の角層を剥離、採取した。テープストリッピングには、粘着剤としてアクリル系のものを使用している、幅1.2cmのスコッチ(商標登録)粘着テープ(3M社製、品番:CH−12)を用いた。また、ストリッピングは、10数層と言われている角層を全て採取するため、1回毎に新しい粘着テープを用い、20回行った。
【0032】
ストリッピングしたテープから、以下の方法により、過剰量のエタノールを用いてビオチンを抽出した。まず、50mlのプラスチックチューブに予め10ml程度のエタノールを2本準備し、そのうちの1本には、最初に剥離した5枚のテープ試料(角層の表層部分に対応)を、他の1本には、残りの15枚のテープ試料(角層の下層部分に対応)を入れた。その後、ボルテックスミキサーによって3000rpmの速度で1分間×3回に渡り攪拌した。
【0033】
撹拌終了後、各プラスチックチューブ中のエタノールをロータリーエバポレーターを用いて除き、更に残渣にリン酸バッファー300μlを加えてビオチンを再溶解させ、測定試料とした。
【0034】
各測定試料中のビオチン量は、これと特異的かつ強固に結合するアビジンを用いて測定した。具体的には、以下の定量法により測定した。
【0035】
まず、96ウエルプラスチックプレートの各ウエルに、アビジン溶液(1μg/ml)を入れ、4℃で一晩(12時間程度)静置することにより、プラスチックプレートのウエル(固相)をアビジンでコートした。次いで、PBST緩衝液(組成:NaCl 8g、KCl 0.2g、NaHPO 1.15g、KHPO 0.2g、Tween20 0.5ml/1000ml精製水 pH=7.2−7.4)によって三回洗浄後、ウエルに上記(2)で得た測定試料を加え、室温で30分静置した。各ウエルをPBSTで三回洗浄後、リン酸バッファーに溶かしたアルカリホスファターゼ(AP)とビオチンとを結合させたビオチン化AP(0.5μg/ml)を加え、室温で30分静置した。
【0036】
ウエルを洗浄後、APの基質となるp−ニトロフェニルホスフェート(p−NPP)を加え、405nmの発色をプレートリーダーで検出した。この発色は、APがプレ−ト上に保持されている場合に、これにより分解されるp−NPPの分解生成物であるニトロフェノールの発色である。上記の吸光度を、濃度既知のビオチン水溶液を用いて作成した濃度―吸光度の検量線にあてはめ、各試料中のビオチン濃度を算出した。
【0037】
( 結 果 )
この結果、試験角質における薬効成分であるビオチン濃度は、本発明品1を適用した場合は、68.0ng/μlであったのに対し、比較品1では、45.0ng/μl、比較品2では、45.0ng/μlであった。すなわち、水溶性高分子の添加によって膜形成効率・膜安定性の向上したリポソームは、高い角層貯留性を持ち、内包した薬剤を効率よく角層に留める効果を持つことが分かる。またこの効果は、比較品1のようにリポソーム形成後に水溶性高分子を添加しても得られず、本発明品1のように水溶性高分子存在下でリポソーム形成をさせることによってのみ得られる。
【0038】
実 施 例 2
下記表2に示した組成および下記製法により、リポソーム配合化粧料として化粧水を調製した。得られたリポソーム組成物配合化粧料のうち、本発明品2〜4および比較品3に関し実施例1と同様にして角層貯留性評価を行った。この結果を図1に示す。
【0039】

( 組 成 )
【表2】

【0040】
( 製 造 方 法 )
A : 成分1〜7および13を混合した。
B : 成分8〜12を加湿混合した。
C : 上記Bを前記A中に、パドルミキサー等で撹拌しながら徐注入することによっ
て、リポソーム組成物配合化粧料を得る。
【0041】
( 結 果 )
この結果、試験角質における薬効成分であるビオチン濃度は、比較品3を適用した場合は、46.9ng/μlであったのに対し、本発明品2では、69.8ng/μl、本発明品3では、83.4ng/μl、本発明品4では、62.7ng/μlであって、角質に貯留されるビオチンの量は、34%ないし78%高かった。すなわち、水溶性高分子の添加によって膜形成効率・膜安定性の向上したリポソームは、高い角層貯留性を持ち、内包した薬効成分を効率よく角層に留める効果を持つことが分かる。
【0042】
実 施 例 3
リポソーム状態の観察:
実施例2で製造した本発明品5および比較品4について電子顕微鏡で観察し、そのリポソーム(閉鎖小胞膜)の微視的状態を評価した。この結果を図2および図3に示す。
【0043】
この結果、リポソーム膜形成時に水溶性高分子である水溶性コラーゲンを共存させた本発明品5は、連続性に優れた多重膜構造を形成し、膜形成能、膜安定性が共に高いことを示していたのに対し、水溶性コラーゲンを共存させなかった比較品4は、多数の断片を伴った不完全な球状の構造が観察され、膜連続性が低いことが示された。このことから、水溶性高分子の存在によって、膜形成効率・膜安定性が向上したものと判断される。
【0044】
実 施 例 4
下記表3に示した組成および下記製法により、リポソーム組成物配合美白美容液を調製した。
【0045】
( 組 成 )
【表3】

【0046】
( 製 法 )
1.製造区分A、Bを各混合分散後、パドルミキサー等で攪拌しながらAをBに加えて
、本発明のリポソーム組成物を得た。
2.製造区分DにCを加え、さらに1.の項で作成したリポソーム組成物を加えて混合
することにより、リポソーム組成物配合美白美容液を得た。
【0047】
本発明品6は、リポソーム組成物に由来する肌なじみのよさを有し、高貯留性に由来する持続的な肌効果が実現されており、アルブチンの美白効果に関しても、効率よく発揮することが期待された。これに対し、比較品5は、発明品6のような肌効果の持続性は見られず、肌へ効果を及ぼす時間が短く、発明品6ほどの効果は期待できないと予想される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のリポソーム組成物により、リポソーム中に含有される薬効成分の角質での貯留性を高めることが可能となる。
【0049】
従って本発明のリポソーム組成物は、皮膚や毛髪中により多くの薬効成分を吸収させるための化粧料や、皮膚外用剤等の外用組成物として有利に利用しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明品2〜4および比較品3についての、角層貯留性評価結果を示す図面である。
【図2】本発明品5の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較品4の電子顕微鏡写真である。 以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質、水溶性高分子、薬効成分および水を構成成分とし、リポソーム形成時に水溶性高分子を共存させることにより製造されることを特徴とするリポソーム組成物。
【請求項2】
前記リン脂質の含有量が、0.005〜10質量%である請求項第1項記載のリポソーム組成物。
【請求項3】
前記リン脂質が、水素添加卵黄リン脂質、水素添加大豆リン脂質、水素添加ホスファチジルコリンおよび水素添加ホスファチジルセリンからなる群より選ばれるリン脂質の一種または二種以上である請求項第1項または第2項記載のリポソーム組成物。
【請求項4】
前記水溶性高分子の含有量が、0.001〜2質量%である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載のリポソーム組成物。
【請求項5】
前記リン脂質と、前記水溶性高分子の配合比が、1:0.01〜100である請求項第1項ないし第4項の何れかの項記載のリポソーム組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子が、水溶性コラーゲン、アラビヤゴム、カラギーナン、トラガカントゴム、クインスシード、キサンタンガム、ペクチン、デンプン、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、ビニルピロリドン/ビニルアセテート共重合体、アルリルアミド・アクリル酸・塩化ジメチルジアリルアンモニウム共重合体(ポリクオタニウムー39)、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体および塩化[ヒドロキシ(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースからなる群より選ばれる水溶性高分子の一種または二種以上である請求項第1項ないし第5項の何れかの項記載のリポソーム組成物。
【請求項7】
請求項第1項ないし第6項の何れかの項に記載のリポソーム組成物を配合することを特徴とする化粧料。
【請求項8】
請求項第1項ないし第7項の何れかの項に記載のリポソーム組成物を配合することを特徴とする皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−94809(P2008−94809A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281671(P2006−281671)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】