説明

リリーフバルブ

【課題】リリーフバルブを構成する部材が作動する際に、他の部材の当接により発生する音や振動を減衰させることのできるリリーフバルブを提供する。
【解決手段】第1ポート11及び第2ポート12を有するバルブボディ2と、バルブボディ2に収容されるとともに、第1ポート11に連通する流入口7及び第2ポート12に連通する排出口8を有するスリーブ4と、スリーブ4に収容され、流入口7側に移動すると流入口7と排出口8との連通を禁止し、流入口7とは反対側に移動すると流入口7と排出口8との連通を許可するバルブ5と、バルブ5を流入口7側に付勢する付勢部材6と、バルブボディ2とスリーブ4及びバルブ5との相対位置を変更するバルブ位置変更機構13と、バルブボディ2に弾性部材16を介して支持固定され、スリーブ4が流入口7とは反対側の摺動端点まで移動するとスリーブ4の端部4bが当接するプラグ3と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リリーフバルブ、特にエンジン潤滑系の油圧調整に用いられるバルブ開弁圧が変更可能なリリーフバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
リリーフバルブは、油圧回路の圧力が設定圧以上になると、リリーフバルブの内部に設けられている余剰油の逃し路を開くことによって、油圧回路の圧力上昇を抑制するものである。
この種のリリーフバルブは、例えば、非特許文献1のように、ボディ、バルブ、スプリング、リテーナ、プラグ、リテーナとプラグ間にオイルを導入する油路、及びオイル導入をコントロールする背圧用コントロールバルブで構成される。
このリリーフバルブにおいて、リテーナとプラグ間にオイルが導入されない場合には、リテーナはプラグ端面位置にありスプリング長が長くセットされて、オイルポンプにより吐出されるオイルをリリーフバルブよりもオイルの流通方向上流側にリリーフするのに必要なバルブ開弁圧が低圧に設定される。一方、リテーナとプラグ間にオイルが導入される場合には、リテーナが上昇してスプリングを収縮させ、バルブ開弁圧が高圧に設定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】公開技報2006−505946
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のリリーフバルブにおいては、リテーナが移動してプラグと当接する際の衝撃で音や振動が発生し、その音や振動がプラグを経由してバルブボディに伝達され、さらには他の部位まで伝達されるおそれがあった。さらに、一旦当接した後においても、オイルポンプに起因するオイルの脈動により、上記音や振動が継続的に発生する場合があった。このような音や振動はユーザーに不快感を与え、他の部位に悪影響を及ぼすおそれがあるので、できる限り低減することが望ましい。
【0005】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたもので、リリーフバルブを構成する部材が作動する際に、他の部材の当接により発生する音や振動を減衰させることのできるリリーフバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るリリーフバルブの第1の特徴構成は、第1ポート及び第2ポートを有するバルブボディと、前記バルブボディに収容されるとともに、前記第1ポートに連通する流入口及び前記第2ポートに連通する排出口を有するスリーブと、前記スリーブに収容され、前記流入口側に移動することにより前記流入口と前記排出口との連通を禁止し、前記流入口とは反対側に移動することにより前記流入口と前記排出口との連通を許可するバルブと、前記バルブを前記流入口側に付勢する付勢部材と、前記バルブボディと前記スリーブ及び前記バルブとの相対位置を変更するバルブ位置変更機構と、前記バルブボディに弾性部材を介して支持固定され、前記スリーブが前記流入口とは反対側の摺動端点まで移動すると前記スリーブの端部が当接するプラグと、を備えた点にある。
【0007】
本構成によると、バルブ位置変更機構によりバルブボディとスリーブ及びバルブとの相対位置を変更する。すなわち、スリーブがバルブと共に、バルブボディの第1ポートの側に移動した第1状態と、第1ポートの側とは反対側に移動した第2状態と、の状態を有する。
【0008】
スリーブが第1状態のときは、スリーブが備える排出口の位置も第1ポート側に移動する。このとき、バルブもスリーブと共に第1ポート側に移動しているため、バルブを付勢する付勢部材は伸張状態となる。よって、第1ポートからの流体圧が低圧であっても、第1ポート側に付勢する付勢部材が第1ポートの側とは反対側に押し戻されてバルブがスリーブに排出口を開放させる。この結果、第1ポートと第2ポートとが連通することで第1ポート側の流体の余剰液がドレインされる。したがって、リリーフバルブのバルブ開弁圧は、第1状態のときに低圧設定となる。
【0009】
一方、スリーブが第2状態のときは、スリーブが備える排出口の位置は第1ポートの側とは反対側に移動する。このとき、バルブもスリーブと共に第1ポートの側とは反対側に移動しているため、バルブを付勢する付勢部材は収縮状態となる。よって、第1ポートからの流体圧が低圧のときは、第1ポート側に付勢する付勢部材が第1ポートの側とは反対側に押し戻されず、バルブがスリーブの排出口を開放させない。第1ポートからの流体圧が高圧になると、第1ポート側に付勢する付勢部材が第1ポートの側とは反対側に押し戻され、バルブがスリーブの排出口を開放させる。この結果、第1ポートと第2ポートとが連通することで第1ポート側の流体の余剰液がドレインされる。したがって、リリーフバルブのバルブ開弁圧は、第2状態のときに高圧設定となる。
【0010】
例えば、本発明に係るリリーフバルブをエンジンオイルの供給路に用いた場合には、エンジンオイルが低温の時、第1状態にしてバルブ開弁圧を低圧設定にすると、第1ポートと第2ポートとの連通は許容し易くなる。つまり、エンジン各部のうちオイル供給が必要な他の箇所にオイルが供給され難くなる。しかし、エンジンの暖機運転を行う場合などには、例えば、ピストンやシリンダを冷却する部位に直ちにオイルを供給する必要がないため、オイルの供給負荷を小さく抑えた状態で暖機運転を効率よく行うことができる。
【0011】
また、エンジンが低回転(低負荷)のときも、第1状態にしてバルブ開弁圧を低圧設定する。この場合、エンジン回転数が低い場合には、エンジンを構成する部材同士の摩擦も少なく、当該箇所にオイルを供給する必要性に乏しい場合がある。よって、エンジンが低回転の場合には、所定の箇所のみにオイルを供給し、例えばオイルポンプのフリクションを低減させてエンジンを効率よく運転することができる。
【0012】
さらに本構成によれば、スリーブが流入口とは反対側の摺動端点まで移動するとスリーブの端部が当接するプラグが、バルブボディに弾性部材を介して支持固定されている。従って、スリーブがプラグに当接した際に発生する音や振動が、プラグからバルブボディに伝達される際に弾性部材によって減衰するので、上記音や振動の影響を低減させることができる。また、スリーブとバルブとが当接することにより発生する音や振動についても、同様にプラグからバルブボディに伝達される際に弾性部材によって減衰させることができる。
【0013】
本発明に係るリリーフバルブの第2の特徴構成は、前記弾性部材の厚み寸法よりも小さな高さ寸法を有する突出部を前記プラグの底面中央部に設け、前記突出部に環状の前記弾性部材を嵌合させた点にある。
【0014】
本構成によれば、プラグの底面中央部に設けた突出部に環状の弾性部材を嵌合させるので、弾性部材の位置決めが容易となるとともに、弾性部材が周方向に均一に配置されることになるので、プラグの傾きを防止することができる。また、突出部の高さ寸法を弾性部材の厚み寸法よりも小さくしているので、突出部がバルブボディに当接することを防止できる。
【0015】
本発明に係るリリーフバルブの第3の特徴構成は、前記弾性部材が圧縮変形した時に、前記弾性部材の外縁が前記プラグの底面の外縁よりも内側に位置するように構成してある点にある。
【0016】
本構成によれば、弾性部材の全域がプラグの底面とバルブボディとに挟まれた領域からはみ出すことなく、当該領域内で圧縮変形することになるので、弾性部材の外径、内径、弾性部材の硬度、厚みのみによってバネ定数を規定することができる。従って、リリーフバルブの性能に応じて弾性部材の選定が容易となる。
【0017】
本発明に係るリリーフバルブの第4の特徴構成は、前記バルブボディの内周面と前記プラグの外周面との間にシールリングを設けた点にある。
【0018】
本発明に係るリリーフバルブにおいては、プラグがバルブボディに弾性部材を介して支持固定されているので、プラグの底面とバルブボディとの間にオイル等の流体が流入し、流体圧が上昇するとプラグがバルブボディから離れる方向に移動してしまうおそれがある。このような移動が生じると、リリーフバルブのバルブ開弁圧が設計値と異なり、適切なリリーフが行われないという問題が発生し得る。しかし、本構成のごとくバルブボディの内周面とプラグの外周面との間にシールリングを設けると、流体がプラグの底面とバルブボディとの間に流入することを防止できるので、上記問題の発生を回避できる。
【0019】
本発明に係るリリーフバルブの第5の特徴構成は、前記バルブ位置変更機構は、前記第1ポートを流通する流体の流体圧を前記スリーブに作用させて前記付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させる点にある。
【0020】
このように、バルブボディとスリーブ及びバルブとの相対位置を変更するために、第1ポートを流通する流体の流体圧をスリーブに作用させるので、スリーブを移動させるための動力を別途必要とせず、リリーフバルブの構造を簡素化できる。また、付勢部材の付勢方向と同一方向にスリーブを移動させるので、スリーブに対して第1ポートを流通する流体の流体圧と付勢部材の付勢力とを効率よく作用させることができる。
【0021】
本発明に係るリリーフバルブの第6の特徴構成は、前記バルブ位置変更機構は、前記第1ポートを流通する流体の流体圧を前記スリーブに作用させて前記付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させるか否かを切換えるOSVを備える点にある。
【0022】
このように、バルブボディとスリーブ及びバルブとの相対位置を変更するために、第1ポートを流通する流体の流体圧をスリーブに作用させて付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させるか否かを切換えるOSVを備えるので、スリーブを移動させるための動力を別途必要とせず、リリーフバルブの構造を簡素化できる。また、OSVによって第1ポートを流通する流体の流体圧をスリーブに作用させて移動させるか否かの切換えを確実に行うことができる。
【0023】
本発明に係るリリーフバルブの第7の特徴構成は、前記バルブ位置変更機構の作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第1開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、前記バルブ位置変更機構の非作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第2開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、前記第2開弁圧は、前記第1開弁圧よりも高い流体圧である点にある。
【0024】
この構成により、バルブ位置変更機構の作動時には、バルブ内の流体の流体圧が第1開弁圧以上であるとリリーフする低圧設定となり、バルブ位置変更機構の非作動時には、バルブ内の流体の流体圧が第1開弁圧より高い流体圧である第2流体圧以上であるとリリーフする高圧設定となる。こうして、リリーフバルブにおけるバルブ開弁圧の設定変更を容易に行うことができる。
【0025】
本発明に係るリリーフバルブの第8の特徴構成は、前記スリーブの両端面のうち、一方の端面が前記第1ポートに面し、他方の端面が前記バルブ位置変更機構の流路に面しており、前記他方の端面の面積を前記一方の端面の面積よりも大きく設定した点にある。
【0026】
この構成により、第1ポートの液圧を他方の端面に作用させたとき、両端面の面積の差によって、一方の端面に作用する流体圧による押付け力に比べて他方の端面に作用する流体圧による押付け力の方が大きくなり、簡単な構成でありながらスリーブを第1ポートの側に確実に位置させることができる。
【0027】
本発明に係るリリーフバルブの第9の特徴構成は、前記スリーブの外周面のうち、前記スリーブの両端部の部位に前記バルブボディとの摺動面を形成し、前記両端部に挟まれた部位には前記摺動面を形成しない点にある。
【0028】
本構成のスリーブは、例えば、第1ポートの流体圧を利用して位置変更させるものである。よって、バルブボディに対する摺動抵抗はできるだけ小さい方が望ましい。そのため、バルブボディとの摺動面をスリーブの両端部近傍に振り分けることで、摺動時における摺動面の面積を低減し、かつ、スリーブの傾きを最小限に留めて、スリーブとの間に生じる摩擦力を極力少なくしている。
【0029】
本発明に係るリリーフバルブの第10の特徴構成は、前記スリーブの内部の流体または空気のうち、前記バルブを隔てて前記第1ポートの側とは反対側の流体または空気を排出する第1連通孔を、前記スリーブに設けてある点にある。
【0030】
この構成により、バルブ位置変更機構によってスリーブの位置を変更する際には、スリーブの内部の流体または空気のうちバルブを隔てて第1ポートの側とは反対側の流体または空気の体積が増減する。その際に当該反対側の流体または空気を排出しておくことで流体の出入りが自由となり、スリーブの位置移動に際しての抵抗を低減することができる。
【0031】
本発明に係るリリーフバルブの第11の特徴構成は、前記スリーブの内部の流体または空気のうち、前記バルブを隔てて前記第1ポートの側とは反対側の流体または空気を排出する第2連通孔を、前記バルブに設けてある点にある。
【0032】
この構成により、第1ポートからの流体圧によってバルブが押し下げられる場合、前記バルブを隔てて前記第1ポートの側とは反対側の流体または空気が抵抗となる。よって、当該流体または空気と第2ポートを連通させて流体または空気の排出を促進させることで、バルブの動作を円滑なものにしている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(低圧設定状態)を示す図である。
【図2】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(低圧設定状態)を示す図である。
【図3】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(高圧設定状態)を示す図である。
【図4】本発明に係るリリーフバルブの実施形態(高圧設定状態)を示す図である。
【図5】非圧縮状態の弾性部材の形状を示す断面図である。
【図6】圧縮状態の弾性部材の形状を示す断面図である。
【図7】他の実施形態における弾性部材の形状を示す断面図である。
【図8】他の実施形態における弾性部材の形状を示す断面図である。
【図9】他の実施形態におけるリリーフバルブを示す図である。
【図10】他の実施形態におけるリリーフバルブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態として、エンジンへオイルを供給する供給用流路の圧力を制御するリリーフバルブを図面に基づいて説明する。
【0035】
図1〜図4に示すように、エンジン作動状態では、オイルポンプ20によって、オイルパン21の内部に貯留された流体(オイル)を吸出し、供給用流路10を用いて各被潤滑部材に向けて送出する。リリーフバルブ1は、バルブボディ2と、バルブボディ2に弾性部材16を介して支持固定されるプラグ3と、バルブボディ2及びプラグ3に対して摺動する筒状のスリーブ4と、スリーブ4の内部で摺動するバルブ5と、バルブ5に付勢力を付与する付勢部材6(例えば、スプリングバネ)とを備え、供給用流路10の経路中に配置される。
【0036】
バルブボディ2は、スリーブ4やバルブ5等を収容するボディ本体2Aと、ボディ本体2Aにスリーブ4やバルブ5等を組み付けた後にボディ本体2Aに固定されるプレート部材2Bとからなる。ボディ本体2Aは、流体が流入する第1ポート11と流体を排出する第2ポート12とを有している。スリーブ4は、第1ポート11に連通する流入口7と第2ポート12と連通する排出口8とを備えている。バルブ5は、流入口7を介した流体の圧力を受けつつスリーブ4の内部で摺動し、流入口7の側に近接して排出口8を閉じる閉じ状態と、流入口7から離間して排出口8を開く開き状態とを形成する。付勢部材6は、バルブ5を第1ポート11からの流体圧に抗う方向に付勢力を付与するよう構成されている。換言すれば、バルブ5は、流入口7側に移動することにより流入口7と排出口8との連通を禁止し、流入口7とは反対側に移動することにより流入口7と排出口8との連通を許可する。
【0037】
リリーフバルブ1は、バルブボディ2に対するスリーブ4の相対位置を変更するバルブ位置変更機構13を備えている。このバルブ位置変更機構13は、供給用流路10から分岐しスリーブ4の第1ポート11の側とは反対側(以下、反第1ポート11の側という)に接続される背圧用流路14と、背圧用流路14の経路中に設けられ、第1ポート11の流体圧の作用を入切するOSV15とによって構成されている。
【0038】
OSV15をONにすると、図1、図2に示すように、背圧用流路14から供給用流路10の流体がスリーブ4の反第1ポート11の側に導入され、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用する。一方、OSV15をOFFにすると、図3、図4に示すように、背圧用流路14から供給用流路10の流体がスリーブ4の反第1ポート11の側に導入されなくなり、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用しなくなる。
【0039】
スリーブ4の両端面4a、4bのうち、一方の端面4aは第1ポート11に面し、他方の端面4bはバルブ位置変更機構13の背圧用流路14に面している。ここで、端面4bの面積は端面4aの面積よりも大きく設定してある。こうすることで、第1ポート11の液圧を他方の端面4bに作用させたとき、両端面4a、4bの面積の差によって、一方の端面4aに作用する押圧力に比べて他方の端面4bに作用する押圧力の方が大きくなり、スリーブ4を第1ポート11の側に位置させることができる。よって、OSV15を入切操作することで、スリーブ4を第1ポート11の側または第2ポート12の側(第1ポート11とは反対側)に位置させることができる。
【0040】
OSV15をONにすると、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用し、スリーブ4を第1ポート11の側に移動させる。スリーブ4が第1ポート11の側に位置すると、それに伴い、排出口8の位置も第1ポート11の側に近づく。さらに、スリーブ4とともにバルブ5も付勢部材6で付勢されて第1ポート11の側に位置するので、付勢部材6が伸張状態となる。伸張状態となった付勢部材6は反第1ポート11の側に押し戻され易い。よって、供給流路10の流体圧が低圧であっても、図2のように、付勢部材6を反第1ポート11の側に押し戻して、バルブ5がスリーブ4の流入口7から離間してスリーブ4の排出口8を開く開き状態となる。こうして、第1ポート11と第2ポート12とが連通し、余剰流体(オイル)がオイルポンプ20の吸入口に還流する。つまり、この場合は、リリーフバルブ1のバルブ開弁圧が低圧設定(第1開弁圧)となる。換言すれば、OSV15(バルブ位置変更機構13)の作動時には、バルブ5に流体の流体圧を第1開弁圧以上作用させることにより排出口8から流体が排出する。
【0041】
一方、OSV15をOFFにすると、スリーブ4に対して、第1ポート11からの流体圧に抗う方向に第1ポート11の流体圧が作用しなくなる。スリーブ4には第1ポート11からの流体圧のみが作用し、スリーブ4を第2ポート12の側(第1ポート11とは反対側)に移動させる。スリーブ4が第2ポート12の側(第1ポート11とは反対側)に位置すると、それに伴い、排出口8の位置も第1ポート11の側から遠ざかる。さらに、スリーブ4とともにバルブ5も第2ポート12の側(第1ポート11とは反対側)に位置するので、付勢部材6が収縮状態となる。収縮状態となった付勢部材6は反第1ポート11の側に押し戻され難くなる。よって、供給用流路10の流体圧が低圧では、付勢部材6が反第1ポート11の側に押し戻されず、図3のように、バルブ5がスリーブ4の排出口8を閉じる閉じ状態に維持される。供給用流路10の流体圧が高圧になると、図4のように、収縮状態の付勢部材6を反第1ポート11の側に押し戻して、バルブ5がスリーブ4の流入口7から離間してスリーブ4の排出口8を開く開き状態となる。こうして、第1ポート11と第2ポート12とが連通し、余剰流体(オイル)がオイルポンプ20の吸入口に還流する。つまり、この場合は、リリーフバルブ1のバルブ開弁圧が高圧設定(第2開弁圧)となる。換言すれば、OSV15(バルブ位置変更機構13)の非作動時には、バルブ5に流体の流体圧を第2開弁圧以上作用させることにより排出口8から流体が排出する。
【0042】
ここで、バルブ開弁圧とは、流入口7と排出口8とが連通するのに必要な流体圧のことをいう。具体的には、オイルポンプ20から吐出される流体(オイル)がバルブ5に作用し、付勢部材6の付勢力に抗してバルブ5がスリーブ4から離間する方向に移動して流入口7と排出口8とが連通するのに必要な流体圧である。また、低圧設定(第1開弁圧)は、高圧設定(第2開弁圧)と比較して小さい流体圧で流入口7と排出口8とが連通する。
【0043】
以上のようにリリーフバルブ1が作動する際に、各部材が当接することにより音や振動が発生する場合がある。例えば、高圧設定の状態にするためOSV15をOFFにすると、スリーブ4が反第1ポート11の側に押し戻されて、スリーブ4の端面4bが摺動端点まで移動するとプラグ3と当接する際の衝撃により音や振動が発生する。また、バルブ5がスリーブ4の流入口7から離間してスリーブ4の排出口8を開く開き状態となっている場合に、供給用流路10の流体圧が低下するとバルブ5が付勢部材6によって押し戻され、スリーブ4の当接面4eとバルブ5の当接面5aとが当接して音や振動が発生する。さらには、このような音や振動は一旦各部材が当接した後においても、オイルポンプ20に起因する流体の脈動により、継続的に発生する場合もある。
【0044】
このような場合に、本発明に係るリリーフバルブ1は、プラグ3とバルブボディ2のプレート部材2Bとの間に弾性部材16を備えているので、音や振動が弾性部材16によって減衰され、周辺部材に伝達することを抑制できる。さらに、プラグ3の外周面とバルブボディ2のボディ本体2Aの内周面との間にはシールリング17が設けられているので、この経路を伝達する音や振動についてもシールリング17によって減衰させることができる。また、第2ポート12や背圧用流路14から流体がプラグ3の外周面とボディ本体2Aの内周面との間を経由して、プラグ3の底面とプレート部材2Bとの間に流入すると、プラグ3が第1ポート11側に移動し、リリーフバルブ1のバルブ開弁圧が設計値と異なってしまい、適切なリリーフが行われないという問題が発生し得る。しかし、シールリング17を設けることにより、プラグ3の底面とプレート部材2Bとの間に流体が流入することを防止し、プラグ3の移動を回避することができるので、上記問題を回避することができる。
【0045】
図5は非圧縮状態の弾性部材16の形状を、図6は圧縮状態の弾性部材16の形状を示す断面図である。弾性部材16は環状に構成されており、プラグ3の底面中央部に設けた円柱形の突出部3aに嵌合させた状態で組み付けられる。突出部3aの高さ寸法は弾性部材16の厚み寸法よりも小さく、バルブボディ2のプレート部材2Bと突出部3aとが接触しないように構成されている。本実施形態においては、弾性部材16の圧縮時においてもプレート部材2Bと突出部3aとが接触しないように弾性部材16の寸法や特性が決められており、音や振動の減衰機能を一層向上させている。弾性部材16が圧縮する際に、弾性部材16の変形を妨げないように、弾性部材16の内周面と突出部3aとの間には微少な隙間を設けている。
【0046】
以上の構成によれば、突出部3aにより弾性部材16の位置決めが容易となるとともに、弾性部材16が周方向に均一に配置されることになるので、プラグ3が傾くことを防止できる。さらに、弾性部材16の全域がプラグ3の底面とプレート部材2Bとに挟まれた領域からはみ出すことなく、当該領域内で圧縮変形するように構成すれば、弾性部材16の外径、内径、弾性部材の硬度、厚みのみによってバネ定数を規定することができる。従って、リリーフバルブ1の性能に応じて弾性部材16の選定が容易となる。
【0047】
なお、弾性部材16の形状や配置に関する他の実施形態として、例えば図7や図8に示した形状等であってもよい。図7は、プラグ3の底面に凹部3bを形成し、円盤状の弾性部材16を凹部3b内に配置したものである。図8は、プラグ3の底面に形成した穴部3cに、弾性部材16に形成した突起部16aを嵌合させることにより、弾性部材16の位置決めを容易にしたものである。弾性部材16の形状や配置は以上のものに限らず、プラグ3からバルブボディ2に伝達される音や振動を低減できる構成であれば、他の構成であってもよい。
【0048】
本発明に係るリリーフバルブ1は、図1〜図4に示すように、スリーブ4の外周面のうち、スリーブ4の両端部の部位(両端部に近接した部位にのみ)にバルブボディ2との摺動面4cが形成されており、両端部(両摺動面4c)に挟まれた部位(外周面4d)はバルブボディ2とは摺動しない。スリーブ4の位置は、第1ポート11の流体圧を利用して変更されるから、バルブボディ2に対する摺動抵抗はできるだけ小さい方が望ましい。そのため、バルブボディ2との摺動面4cをスリーブ4の両端部近傍に振り分けることで、摺動時における摺動面の面積を低減し、かつ、スリーブ4の傾きを最小限に留めて、スリーブ4との間に生じる摩擦力を極力少なくしている。摺動面4cによって、バルブボディ2の内部のスリーブ4は、バルブボディ2の内部の軸方向に対して傾斜姿勢になることはなく、バルブボディ2の内部でその軸方向に沿った姿勢を保持したまま、第1ポート11と第2ポート12との間を移動することとなる。
【0049】
〔他の実施形態〕
(1)本発明に係るリリーフバルブ1は、スリーブ4の内部の流体または空気のうち、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気を排出する第1連通孔4fを、スリーブ4に設けてあることが好ましい。スリーブ4に第1連通孔4fを設ける場合は、例えば、図9に示すように、スリーブ4の第1ポート11の側とは反対側の外周面に第1連通孔4fを設ける。バルブ位置変更機構13によってスリーブ4の位置を変更する際には、スリーブ4の内部の流体または空気のうち、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気の体積が増減する。その際にこの第1ポート11の側とは反対側の流体または空気を第1連通孔4fによって排出しておくことで流体の出入りが自由となり、スリーブ4の位置移動に際しての抵抗を低減することができる。
【0050】
(2)本発明に係るリリーフバルブ1は、図10に示すように、スリーブ4の内部の流体または空気のうち、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気を排出する第2連通孔5bを、バルブ5に設けてあることが好ましい。第1ポート11からの流体圧によってバルブ5が押し下げられる場合、バルブ5を隔てて第1ポート11の側とは反対側の流体または空気が抵抗となる。バルブ5に第2連通孔5bを設けると、図10(a)のように、第1ポート11からの流体圧によってバルブ5が押し下げられる途中で、当該流体または空気が、第2連通孔5bからスリーブ4の排出口8を通り第2ポート12に排出されることとなる。よって、当該空間の流体のスリーブ4の排出口8を介して排出が促進されることとなり、バルブ5の動作を円滑なものとなる。図10(b)のように、バルブ5がスリーブ4の流入口7から離間して排出口8を開く開き状態となると、第2連通孔5bと排出口8とは連通しなくなる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るリリーフバルブは、エンジン潤滑系の油圧調整に限らず、広く、さまざまな液圧調整に用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 リリーフバルブ
2 バルブボディ
3 プラグ
3a 突出部
4 スリーブ
4a 端面
4b 端面(端部)
4c 摺動面
4d 外周面
4f 第1連通孔
5 バルブ
5b 第2連通孔
6 付勢部材
7 流入口
8 排出口
11 第1ポート
12 第2ポート
13 バルブ位置変更機構
14 背圧用流路(バルブ位置変更機構)
15 OSV(バルブ位置変更機構)
16 弾性部材
17 シールリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポート及び第2ポートを有するバルブボディと、
前記バルブボディに収容されるとともに、前記第1ポートに連通する流入口及び前記第2ポートに連通する排出口を有するスリーブと、
前記スリーブに収容され、前記流入口側に移動することにより前記流入口と前記排出口との連通を禁止し、前記流入口とは反対側に移動することにより前記流入口と前記排出口との連通を許可するバルブと、
前記バルブを前記流入口側に付勢する付勢部材と、
前記バルブボディと前記スリーブ及び前記バルブとの相対位置を変更するバルブ位置変更機構と、
前記バルブボディに弾性部材を介して支持固定され、前記スリーブが前記流入口とは反対側の摺動端点まで移動すると前記スリーブの端部が当接するプラグと、
を備えたリリーフバルブ。
【請求項2】
前記弾性部材の厚み寸法よりも小さな高さ寸法を有する突出部を前記プラグの底面中央部に設け、前記突出部に環状の前記弾性部材を嵌合させた請求項1に記載のリリーフバルブ。
【請求項3】
前記弾性部材が圧縮変形した時に、前記弾性部材の外縁が前記プラグの底面の外縁よりも内側に位置するように構成してある請求項2に記載のリリーフバルブ。
【請求項4】
前記バルブボディの内周面と前記プラグの外周面との間にシールリングを設けた請求項1〜3の何れか1項に記載のリリーフバルブ。
【請求項5】
前記バルブ位置変更機構は、前記第1ポートを流通する流体の流体圧を前記スリーブに作用させて前記付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させる請求項1〜4の何れか1項に記載のリリーフバルブ。
【請求項6】
前記バルブ位置変更機構は、前記第1ポートを流通する流体の流体圧を前記スリーブに作用させて前記付勢部材の付勢方向と同一方向に移動させるか否かを切換えるOSVを備える請求項1〜5の何れか1項に記載のリリーフバルブ。
【請求項7】
前記バルブ位置変更機構の作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第1開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、
前記バルブ位置変更機構の非作動時には、前記バルブに前記流体の流体圧を第2開弁圧以上作用させることにより前記排出口から前記流体が排出し、
前記第2開弁圧は、前記第1開弁圧よりも高い流体圧である請求項1〜6の何れか1項に記載のリリーフバルブ。
【請求項8】
前記スリーブの両端面のうち、一方の端面が前記第1ポートに面し、他方の端面が前記バルブ位置変更機構の流路に面しており、
前記他方の端面の面積を前記一方の端面の面積よりも大きく設定してある請求項1〜7の何れか1項に記載のリリーフバルブ。
【請求項9】
前記スリーブの外周面のうち、前記スリーブの両端部の部位に前記バルブボディとの摺動面を形成し、前記両端部に挟まれた部位には前記摺動面を形成しない請求項1〜8の何れか1項に記載のリリーフバルブ。
【請求項10】
前記スリーブの内部の流体または空気のうち、前記バルブを隔てて前記第1ポートの側とは反対側の流体または空気を排出する第1連通孔を、前記スリーブに設けてある請求項1〜9の何れか1項に記載のリリーフバルブ。
【請求項11】
前記スリーブの内部の流体または空気のうち、前記バルブを隔てて前記第1ポートの側とは反対側の流体または空気を排出する第2連通孔を、前記バルブに設けてある請求項1〜10の何れか1項に記載のリリーフバルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−17796(P2012−17796A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−155128(P2010−155128)
【出願日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】