説明

リンパ管新生促進剤

【課題】リンパ浮腫の治療薬およびこの治療方法の提供。
【解決手段】肝細胞増殖因子(HGF)またはそれと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物を活性成分として含有するリンパ管新生促進剤、またはそれを用いたリンパ浮腫の予防または治療。HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を含有するリンパ管新生促進剤、またはそれを用いたリンパ浮腫の予防または治療。HGF受容体の活性化を誘導してリンパ管新生を促進する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HGFまたはそれをコードする核酸を有効成分として含有する新規なリンパ管新生促進剤および/またはリンパ管新生を促進する方法に関する。また本発明は、リンパ浮腫の予防剤または治療剤、もしくは予防または治療の方法に関する。さらにまた、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
リンパ浮腫とは、リンパ管の閉塞により、組織液が異常に滞留し、むくみ、慢性炎症および/または線維化をきたした状態をいう。原発性および続発性のリンパ浮腫が知られている。原発性のリンパ浮腫としては、ミルロイ病、メージュ病、遠位性低形成、近位性閉塞性リンパ節病、巨大リンパ管症などが知られているが、続発性の場合は、他の疾患に起因して発症し、特に、癌の外科的治療の後遺症として現れる場合が多く、中でも、乳がん、子宮ガン、前立腺ガン、カポジ肉腫などの外科手術、または放射線治療後に発症する場合が多い。特に、乳がんの手術後に、上肢のリンパ浮腫が認められる場合が多く、上肢リンパ浮腫患者の80%以上が乳がんの術後に発症していると言われている。また、乳がんの術後では数パーセント以上の割合で上肢リンパ浮腫が発症すると考えられる。また、下肢リンパ浮腫は、子宮がんの手術後に認められる場合が多い。そのほか、感染、火傷などの外傷、炎症なども続発性リンパ浮腫の原因となる。
【0003】
リンパ浮腫は、運動機能に著しい不具合を生じさせ、また、患部の感染の可能性を高めるため、患者のQOLを低下させる。にもかかわらず、かかるリンパ浮腫の治療法としては、マッサージ、運動療法およびサポーターの装着等の対症療法が一般的であり、現在のところ抜本的な治療法および治療薬がない。治療薬はほとんど知られておらず、唯一、グアイフェネシン(guaifenesin)と呼ばれる化合物がリンパ浮腫の治療に有効であるという報告はあるが、その治療効果は未だ明らかにされていない(特許文献1)。
【0004】
リンパ管新生を促進するペプチド性の因子としては、VEGFファミリーのメンバーである、VEGF-Cが報告されている(特許文献2、3、非特許文献1、2)。しかし、他のVEGFファミリーメンバーにはリンパ管新生を促進する作用はなく、VEGF-Cが現在唯一知られているリンパ管新生促進因子である。
【0005】
一方、VEGF-Cと同じくVEGFファミリーのメンバーであるVEGF165(VEGF-A、または単にVEGFとも呼ばれる。本明細書中、以下VEGFと記す)もまた血管新生因子として広く知られているが、血管透過性を増大させる因子としても以前より知られていた(Senger, D.他、Science, 1983, 219, 983-6など参照のこと)。事実、VEGFを組織内で過剰発現させた場合、その血管透過性増大作用により浮腫を誘発しうることが報告されている(Isner, JM., 他、Circ. Res.2001 89:389-400など参照のこと)。事実、下肢虚血性疾患のヒト患者の下肢虚血部位に、その治療を目的として動脈内投与または筋肉内投与によりVEGF遺伝子を導入すると、30%以上の頻度で浮腫が認められたことが報告されている(Baumgartner, I. 他、Ann. Intern. Med. 2000; 132:880-884)。そのほかにも、9人の患者の下肢虚血部位にネイキッドなVEGFをコードするプラスミドを筋肉内注射により投与した場合、6人の患者に下肢の浮腫が認められたという報告(Baumgartner, I. 他、Circulation, 1998; 97: 1114-1123)、閉塞性血栓血管炎(TAO)により下肢虚血を有する患者6人の7肢の虚血部位にネイキッドなVEGFをコードするプラスミドを筋肉内注射により投与した場合、3肢に浮腫が認められたという報告(Isner, JM., 他、J. Vasc. Surg. 1998, 28: 964-975)をはじめ、VEGFの遺伝子治療は浮腫を誘発するリスクが高いことが多数報告されている。
【0006】
さらに、VEGF-Cは、VEGF受容体3(VEGFR-3)のリガンドとされ、リンパ管新生にはVEGFR-3のみのシグナルでは十分であることがわかっているが、VEGF-Cは、VEGFR-2にも結合する。VEGFR-2欠損マウスは、VEGF-A欠損マウスに比して早い段階で死ぬことから、VEGF-Cおよび他のVEGFメンバーがVEGFの作用を補い得るとされている(Scavelli, C.他、J. Anat. (2004) 433-449)。VEGFは、VEGFR-1およびVEGFR-2との結合を介してその作用を発揮する。従って、VEGFR-2の活性化が血管透過性の増大を誘導すると考えられている(Issbrucker, K. 他、FASEB J. express article 10.1096/fj.02-0329fje. Published online December 18, 2002など参照のこと)。
【0007】
HGFは、肝細胞増殖因子であるが、肝細胞の増殖促進のほかに種々の生理作用を有しており、血管新生作用もその一つである(非特許文献3など参照のこと)。HGFの血管新生作用を利用して、HGFの虚血性疾患の治療への応用が進められている(特許文献4、特許文献5、非特許文献4)。
【特許文献1】WO03/000242
【特許文献2】米国特許公報第6,818220号
【特許文献3】米国特許公報第6,689352号
【特許文献4】WO97/07824
【特許文献5】WO01/32220
【非特許文献1】Szuba, A 他、FASEB J. express article 10.1096/fj.02-0401fje. Published online October 18, 2002
【非特許文献2】Young-sup, Yoo 他、J. Clin. Invest. 111:717-725 (2003)
【非特許文献3】Nakamura Y.他、J Hypertens. 1996 Sep;14(9):1067-72
【非特許文献4】Taniyama Y., 他、Gene Therapy (2001) 8, 181-189
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した背景に鑑みてなされた。本発明の課題は、HGFおよびその遺伝子の新規用途を提供することである。より具体的には、本発明の課題は、これまで有効な治療薬や治療方法が存在しなかったリンパ浮腫の新しい治療薬および治療方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。本発明者らは、リンパ浮腫を軽減または解消しうる因子の探索を試みたところ、HGFがリンパ浮腫を著しく軽減させることを見出すに至った。そしてHGFがリンパ管内皮細胞の増殖を誘導するリンパ管新生作用を有していることを見出した。
【0010】
上述したように、VEGFの遺伝子治療は浮腫を誘発するリスクが高いことが多数報告されている。従って本発明者らは、VEGFをリンパ浮腫の治療に適用することは困難と考えた。またVEGF-Cについても、VEGF-CがVEGF-3以外のVEGF受容体と結合することにより、細胞透過性を増大させる可能性が示唆される。従って本発明者らは、VEGF-Cのリンパ浮腫の治療への応用もまた、リスクが高いと考えた。
HGFは血管新生因子として知られていたが、同様に血管新生因子として知られているVEGFがリンパ管新生作用を有さないこと(例えば、Dev. Biol. 1997, 188:96-109など参照のこと)、また上述したようにリンパ浮腫を軽減させる効果を有さないと考えられることを考慮すると、HGFがリンパ管新生作用及びリンパ浮腫を軽減させる効果を有しているという本発明者らの新規知見は、驚くべき事実であった。
【0011】
さらに本発明者らは、HGFのリンパ管新生作用を作用機序の面から裏付けるべく、リンパ管内皮細胞においてHGF受容体c-metが発現していること、ならびにHGFによりリン酸化が誘導されることが知られている細胞内シグナル伝達タンパク質であるMAPKおよびAktのリン酸化が、リンパ管内皮細胞においても誘導されることを明らかにした。
【0012】
これらの知見から、HGFおよびその遺伝子は、リンパ浮腫の治療または予防薬ならびにリンパ管新生促進剤として有効であることが分かった。すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔44〕を提供するものである。
〔1〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物を活性成分として含有する、リンパ管新生促進剤。
〔2〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、〔1〕に記載のリンパ管新生促進剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔3〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を活性成分として含有する、リンパ管新生促進剤。
〔4〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔3〕に記載のリンパ管新生促進剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔5〕核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、〔3〕または〔4〕に記載のリンパ管新生促進剤。
〔6〕核酸がネイキッドな核酸である、〔3〕〜〔5〕のいずれかに記載のリンパ管新生促進剤。
〔7〕リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤として用いられることを特徴とする、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のリンパ管新生促進剤。
〔8〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物を被験体に投与する工程を含む、リンパ管新生を促進する方法。
〔9〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、〔8〕に記載のリンパ管新生を促進する方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔10〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を被験体に投与する工程を含む、リンパ管新生を促進する方法。
〔11〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔10〕に記載のリンパ管新生を促進する方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔12〕核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、〔10〕または〔11〕に記載の方法。
〔13〕核酸がネイキッドな核酸である、〔10〕〜〔12〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕HGF受容体の活性化を誘導し、該活性化によりリンパ管新生を促進する方法。
〔15〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物を被験体に投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法。
〔16〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、〔15〕に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔17〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を被験体に投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法。
〔18〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔17〕に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔19〕核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、〔17〕または〔18〕に記載の方法。
〔20〕核酸がネイキッドな核酸である、〔17〕〜〔19〕のいずれかに記載の方法。
〔21〕リンパ管新生促進剤またはリンパ浮腫の予防もしくは治療のために用いる薬剤の製造における、HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物の使用。
〔22〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、〔21〕に記載の使用;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔23〕リンパ管新生促進剤またはリンパ浮腫の予防もしくは治療のために用いる薬剤の製造における、HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸の使用。
〔24〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔23〕に記載の使用;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔25〕核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、〔23〕または〔24〕に記載の核酸の使用。
〔26〕核酸がネイキッドな核酸である、〔23〕〜〔25〕のいずれかに記載の核酸の使用。
〔27〕以下(a)〜(c)の工程を含む、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法;
(a)HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質に被検化合物を接触させる工程、
(b)該タンパク質と被検化合物の結合を検出する工程、
(c)該タンパク質と結合する被検化合物を選択する工程。
〔28〕HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質が、以下(i)〜(iv)から選択される、〔27〕に記載の方法;
(i)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔29〕以下(a)〜(c)の工程を含む、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法;
(a)HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質を発現している細胞に被検化合物を接触させる工程、
(b)該細胞の増殖能、遊走性、またはシグナル分子のリン酸化を測定する工程、
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該細胞の増殖能を増加させた、遊走性を増加させた、またはシグナル分子をリン酸化させた披検化合物を選択する工程。
〔30〕HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質が、以下(i)〜(iv)から選択される、〔29〕に記載の方法;
(i)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔31〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターであって、リンパ浮腫の予防または治療用のベクター。
〔32〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔31〕に記載のベクター;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔33〕配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、〔31〕または〔32〕に記載のベクター。
〔34〕ネイキッドな状態で投与されることを特徴とする、〔31〕〜〔33〕のいずれかに記載のベクター。
〔35〕被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与されることを特徴とする、〔31〕〜〔34〕のいずれかに記載のベクター。
〔36〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターを活性成分として含有する、リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤であって、該ベクターがネイキッドな状態で、被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与されることを特徴とする薬剤。
〔37〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔36〕に記載の薬剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔38〕ベクターが、配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、〔36〕または〔37〕に記載の薬剤。
〔39〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターを、ネイキッドな状態で、被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法。
〔40〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔39〕に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔41〕ベクターが、配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、〔39〕または〔40〕に記載の方法。
〔42〕リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤の製造における、HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターの使用であって、該ベクターがネイキッドな状態で、被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与されることを特徴とするベクターの使用。
〔43〕HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、〔42〕に記載の使用;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
〔44〕ベクターが、配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、〔42〕または〔43〕に記載の使用。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物(以下、「HGF」と表記される場合あり)を活性成分として含有する、リンパ管新生促進剤に関する。本発明は上述のとおり、本発明者らによって、HGFがリンパ管内皮細胞の増殖および遊走を活性化し、リンパ管新生を促進することが見出されたことに基づく。
【0014】
さらに、本発明は、胎生期、または新生期ではなく、アダルト動物から単離されたリンパ管内皮細胞に対して、HGFが増殖および遊走を活性化しリンパ管新生を促進することに基づいている。リンパ管内皮細胞は、胚形成初期に胎生静脈から分化するので、リンパ管内皮細胞マーカータンパク質は胎生初期の静脈内皮細胞にもまた発現されており、リンパ管内皮細胞は、さらに静脈内皮細胞へ分化することも知られている(Wigle J T およびOliver G. Cell, 1999, 98: 769-778)。したがって、胎生期または新生期の細胞は、リンパ管内皮細胞マーカーを発現していても最終的な分化が完了していない段階にある可能性が高く、胎生期または新生期のリンパ管内皮細胞は、アダルト動物のリンパ管内皮細胞を正確に反映しているとは考え難い。本発明において、アダルト動物のリンパ管内皮細胞に対するHGFの効果が確認されたことによって、癌の治療のための癌組織および/またはリンパ節摘出手術後のリンパ浮腫に苦しむ患者(多くは成人である)、およびその他のリンパ浮腫の患者にとって、HGFおよびHGF遺伝子がその治療薬として有効であることが示された。
【0015】
本発明におけるHGFの1つの態様としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。また本発明におけるHGFの他の1つの態様としては、「HGF遺伝子」によってコードされるタンパク質を挙げることが出来る。このような遺伝子としては、例えば、配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸が挙げられる。
【0016】
また本発明における「HGFと機能的に同等なタンパク質」とは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等の生物学的活性を有するヒトから単離されたタンパク質、またはヒト以外の動物から単離されたタンパク質を含む。すなわち、本発明におけるHGFと機能的に同等なタンパク質のより具体的な態様としては、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質、または、配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質を挙げることができる。
【0017】
本発明におけるHGFは、ヒト由来のHGFであっても他の動物由来のHGFであってもよいが、ヒトのHGFが最も好ましい。他の動物由来のHGFのアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、当業者であれば各種データベースから取得することが可能である。
【0018】
さらにまた、「HGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物」には、HGFの受容体であるc-metに結合してc-met分子内キナーゼを活性化して細胞内シグナル伝達を誘発するタンパク質、および化合物をも含みうる。したがって、HGFのアゴニストをも含み、例えば、Prat, M.,他(J. Cell Sci. 111 237-247 (1998))に開示されているc-metにアゴニスティックに作用する抗体、およびWO98/51798に開示されているHGF受容体に結合するHGF変異体も包含される。
【0019】
配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等の生物活性としては、c-metの細胞内ドメイン内のチロシン(Y1349およびY1356)のリン酸化および/またはその下流に位置するシグナル分子のリン酸化(例えば、Graziani, A.他、J. Biol. Chem. 266、22087-22090,(1991)、Graziani, A.他、J. Biol. Chem. 268、9165-9168,(1993)、Nakagami, H.他、Hypertension, 2001, 37[part2]:581-586参照のこと)、血管内皮細胞および/またはリンパ管内皮細胞の増殖促進および遊走促進などが挙げられるが、これらに限定されることはなく、HGFが細胞に対して示すあらゆる生物学的な活性を含む。
【0020】
本発明における「HGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物」には、このような活性を有する全てのタンパク質および化合物が含まれる。これらの化合物がHGFと同等の生物学的活性を有するか否かは、当業者に公知の方法によって判定することが可能であるが、例えば、Graziani, A.他、J. Biol. Chem. 266、22087-22090,(1991)、Graziani, A.他、J. Biol. Chem. 268、9165-9168,(1993)、Nakagami, H.他、Hypertension, 2001, 37[part2]:581-586を参照すればよい。本明細書中に実施例として記載する、リンパ管内皮細胞の増殖能、遊走能およびc-fosプロモーターアッセイの方法を用いて上記判定を行うことができるが、これらに限定はされない。他にも、c-metを発現している細胞とHGFを接触させた後、細胞溶解物中のc-metまたは他のHGF-c-metのシグナル伝達経路の下流にある分子のリン酸化を検出する方法などが挙げられる。これらの方法は、当業者には周知である。また、公知の方法に適宜変更および改良を加えることは、当業者であれば容易に行うことができる。
【0021】
さらにまた、例えば、細胞内サイクリックAMP濃度が上昇することによって細胞によるHGF産生が促進され、HGFの生物学的活性の増強がもたらされることから(Morishita R., et.al. Diabetologia. 1997 40 (9):1053-61)、タイプ3ホスホジエステラーゼ阻害剤であるシロスタゾール(cilostazol)などの細胞内サイクリックAMP濃度の上昇をもたらす化合物およびタンパク質もまた、本発明の「HGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物」に包含されうる。他にも、HGFの産生を抑制するアンジオテンシンII(Nakano N., et.al. Hypertension. 1998 32(3): 444-51)のアンタゴニスト(アンジオテンシンII受容体の拮抗薬)などもまた、同様に包含されうる。
【0022】
上記、配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を単離するための、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、6M 尿素、0.4%SDS、0.5 x SSC、37℃の条件またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を例示できる。よりストリンジェンシーの高い条件、例えば、6M 尿素、0.4%SDS、0.1 x SSCの条件、42℃を用いれば、より相同性の高い核酸の単離を期待することができる。単離した核酸の配列の決定は、後述の公知の方法によって行うことが可能である。単離された核酸の相同性は、塩基配列全体で、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%、96%、97%、98%、99%以上)の配列の同一性を有する。
【0023】
上記ハイブリダイゼーション技術を利用する方法にかえて、HGFをコードする核酸(配列番号:1)の配列情報を基に合成したプライマーを用いる遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用して、配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を単離することも可能である。
【0024】
また、あるタンパク質と機能的に同等なタンパク質を調製するための、当業者によく知られた方法としては、タンパク質に変異を導入する方法が知られている。例えば、当業者であれば、部位特異的変異誘発法(Hashimoto-Gotoh, T, Mizuno, T, Ogasahara, Y, and Nakagawa, M. (1995) An oligodeoxyribonucleotide-directed dual amber method for site-directed mutagenesis. Gene 152, 271-275、Zoller, MJ, and Smith, M.(1983) Oligonucleotide-directed mutagenesis of DNA fragments cloned into M13 vectors.Methods Enzymol. 100, 468-500、Kramer,W, Drutsa,V, Jansen,HW, Kramer,B, Pflugfelder,M, and Fritz,HJ(1984) The gapped duplex DNA approach to oligonucleotide-directed mutation construction. Nucleic Acids Res. 12, 9441-9456、Kramer W, and Fritz HJ(1987) Oligonucleotide-directed construction of mutations via gapped duplex DNA Methods. Enzymol. 154, 350-367、Kunkel,TA(1985) Rapid and efficient site-specific mutagenesis without phenotypic selection.Proc Natl Acad Sci U S A. 82, 488-492)などを用いて、ヒトHGFのアミノ酸に適宜変異を導入することにより、HGFと機能的に同等な変異体を調製することができる。また、タンパク質中のアミノ酸の変異は自然界においても生じうる。このように、HGFのアミノ酸配列(配列番号:2)において1もしくは複数のアミノ酸が変異したアミノ酸配列を有し、該タンパク質と機能的に同等なタンパク質もまた本発明のタンパク質に含まれる。
【0025】
アミノ酸残基を改変する場合には、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、及び、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。これらの各グループ内のアミノ酸の置換を保存的置換と称す。あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている(Mark, D. F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1984)81:5662-6; Zoller, M. J. and Smith, M., Nucleic Acids Res.(1982)10:6487-500; Wang, A. et al., Science(1984)224:1431-3; Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA (1982)79:6409-13)。このような変異体は、本発明のHGFのアミノ酸配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも95%のアミノ酸 配列の同一性を有する。本明細書において配列の同一性は、配列同一性が最大となるように必要に応じ配列を整列化し、適宜ギャップ導入した後、元となったHGFのアミノ酸配列の残基と同一の残基の割合として定義される。アミノ酸配列の同一性は、上述の方法により決定することができる。
【0026】
塩基配列及びアミノ酸配列の同一性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.(1990)215:403-10)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(NCBI (National Center for Biotechnology Information) の BLAST (Basic Local Alignment Search Tool) のウェブサイトを参照;http://www.ncbi.nlm.nih.gov)。
【0027】
本発明のHGFは、種々の生物学的サンプル、例えばHGFを発現する細胞若しくは組織等を原料として、その物理的性質等に基づいて天然より単離することができる。また、公知の配列情報に基づき、化学的に合成してもよい。また、遺伝子組換え技術によりHGFをコードする遺伝子を含むベクターにより宿主細胞を形質転換し、遺伝子組換えHGFを産生する形質転換細胞を培養することにより、該細胞またはその培養上清中から得ることもできる。
【0028】
遺伝子工学的方法によりHGFを製造する際の適当なベクターとして、ウイルス、コスミド、プラスミド、バクテリオファージ等を利用した各種ベクターを利用することができる(Molecular Cloning 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987))。所望の宿主細胞内に導入された場合にHGFが発現されるよう、ベクターには適当な制御配列が含まれ、HGFをコードする核酸は、該制御配列に対して読み枠がずれないように挿入される。ここで、HGFをコードする核酸は、選択されたベクター及び宿主において発現され得るものであればよく、好適には、cDNAを挙げることができるが、場合によっては、RNA等も利用することができる。また、「制御配列」とは、宿主細胞として原核細胞を選択した場合には、少なくともプロモーター、リボソーム結合部位及びターミネーターが含まれ、真核細胞の場合には、プロモーター及びターミネーターであり、さらに必要に応じ、エンハンサー、スプライシングシグナル、転写因子、トランスアクチベーター、ポリAシグナル及び/またはポリアデニル化シグナル等を含んでいてもよい。HGFを発現するためのベクターは、さらに必要に応じ、形質転換された宿主細胞の選択を容易にするため、選択可能なマーカーを含んでいてもよい。さらに、細胞内で発現されたHGFを、小胞体内腔若しくは細胞外、または、宿主がグラム陰性菌の場合にはペリプラズム内へ移行させるためにシグナルペプチドをHGFに付加するようにしてベクターに組み込んでもよい。このようなシグナルペプチドは、選択された宿主細胞において正確に認識されればよく、HGF固有のものでも、異種タンパク質由来のものであってもよい。また、必要に応じリンカー、開始コドン及び終止コドン等を付加してもよい。
【0029】
ベクターへの遺伝子の挿入は、制限酵素部位を利用したリガーゼ反応により達成できる(Molecular Cloning 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989) Section5.61-5.63; Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987)11.4-11.11)。また、使用する宿主細胞のコドン使用頻度を考慮して、高い発現効率が得られる塩基配列を選択し、ベクターを設計することができる(Grantham et al., Nucleic Acids Res.(1981)9:r43-74)。
【0030】
適当な宿主に導入してHGFを作製する場合には、上述の発現ベクターと適当な宿主との組み合わせを使用することができる。真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞及び真菌細胞を用いることができる。
【0031】
宿主細胞の形質転換は、選択した宿主及びベクターに適した方法を採用すればよい。例えば、原核細胞を宿主とする場合には、カルシウム処理及びエレクトポレーション等による方法が知られている。植物細胞についてはアグロバクテリウム法を、哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈降法を例示できる。本発明は、特にこれらの方法に限定されるわけではなく、公知の核マイクロインジェクション、細胞融合、電気パルス穿孔法、プロトプラスト融合、リポフェクタミン法(GIBCO BRL)、DEAE-デキストラン法、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)を用いた方法を包含する様々な方法を採用することができる。
【0032】
宿主細胞の培養は、選択した細胞に適した公知の方法にしたがって行うことができる。例えば、動物細胞を宿主とする場合、DMEM、MEM、RPMI-1640、199またはIMDM等の培地を用い、必要に応じウシ胎児血清(FCS)等を添加して、pH約6〜8、30〜40℃において15〜200時間前後の培養を行うことができる。
【0033】
HGFは、公知の手法により精製して用いることが好ましい。HGFは、一般的なタンパク質の精製方法に従って均一に精製することができる。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせてHGFを分離・精製することができる(Strategies for Protein Purification and Charcterization: A Laboratoy Course Manual, Daniel R.Marshak et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996);Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory(1988)) が、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、上述したように、本発明におけるHGFには、HGFに対してアミノ酸残基が付加されたタンパク質またはポリペプチドも、本発明におけるHGFに含まれる。HGFに対してアミノ酸残基が付加されたタンパク質またはポリペプチドには、融合タンパク質が含まれる。融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを調製するためには、例えば、HGFをコードするDNAと、その他のタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸をその読み枠が合うように連結することができる。HGFに融合されるタンパク質またはポリペプチドは特に限定されず、目的に応じ適当なタンパク質またはポリペプチドをコードする核酸を連結させることができる。
【0035】
また本発明は、以下(1)〜(4)のタンパク質、核酸、または化合物の新たな用途に関する。
(1)HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物、
(2)HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸、
(3)哺乳動物用発現ベクターに挿入されたHGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸、
(4)ネイキッドな核酸である、HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸。
【0036】
具体的には、本発明は、
・上記(1)〜(4)のタンパク質、核酸、または化合物を活性成分として含有するリンパ管新生促進剤、
・上記(1)〜(4)のタンパク質、核酸、または化合物を被験体に投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法、
・リンパ管新生促進剤またはリンパ浮腫の予防もしくは治療のために用いる剤の製造における上記(1)〜(4)のタンパク質、核酸、または化合物の使用、
に関する。
ここで、HGFはヒトHGFが好ましい。
【0037】
本発明のリンパ管新生促進剤は、上述のようにして得られるHGFを有効成分として含有する。HGFを「有効成分として含有する」とは、HGFを活性成分の少なくとも1つとして含むという意味であり、その含有率を制限するものではない。また、本発明のリンパ管新生促進剤は、HGFと合わせて他のリンパ管の新生を促進する有効成分を含有してもよい。
【0038】
本発明のHGFは、常法に従って製剤化することができる(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)。さらに、必要に応じ、医薬的に許容される担体及び/または添加物を供に含んでもよい。例えば、界面活性剤(PEG、Tween等)、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤(リン酸、クエン酸、他の有機酸等)、キレート剤(EDTA等)、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含むことができる。しかしながら、本発明のリンパ管新生促進剤は、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜含んでいてもよい。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン及び免疫グロブリン等のタンパク質、並びに、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸を含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、HGFを、例えば、生理食塩水、ブドウ糖またはその他の補助薬を含む等張液に溶解する。補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、HCO-50)等と併用してもよい。
【0039】
また、必要に応じHGFをマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる(Remington's Pharmaceutical Science 16th edition &, Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、HGFに適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res.(1981) 15: 167-277; Langer, Chem. Tech. (1982)12: 98-105;米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers(1983)22:547-56;EP第133,988号)。
【0040】
本発明のリンパ管新生促進剤は、ヒト、ラットおよびイヌを含むあらゆる哺乳動物に投与することができる。その投与経路は、経口または非経口のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与である。具体的には、注射及び経皮投与により患者に投与される。注射剤型の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射または皮下注射等により局所的に投与することができるが、リンパ管新生を促進したい部位またはその周辺に局所注入、特に筋肉内注射することが好ましい。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。
【0041】
活性成分がタンパク質である場合、リンパ管新生の促進またはリンパ浮腫の予防もしくは治療において効果的な投与量としては、例えば、1回につき体重1kgあたり活性成分が0.0001mg〜10mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、ヒト患者に投与する場合、患者あたり活性成分が0.001〜100mg/bodyの範囲を選ぶことができ、1回当たり投与量としては、例えば、HGFタンパク質が0.01〜5mg/body程度の量が含まれることが好ましい。しかしながら、本発明のリンパ管新生促進剤は、これらの投与量に制限されるものではない。
【0042】
本発明はまた、HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸(以下「HGF遺伝子」と表記される場合あり)を活性成分として含有するリンパ管新生促進剤に関する。本発明における「HGF」、「HGFと機能的に同等なタンパク質」は、上に記載した通りである。この場合のHGFもまた、ヒトHGFが好ましい。
【0043】
本発明におけるHGFをコードする核酸には、cDNAの他、ゲノムDNA、化学合成DNAなどが含まれる。またHGFをコードする核酸は、HGFをコードするものであれば、遺伝暗号の縮重に基づく任意の塩基配列を有していてもよい。さらにHGFをコードする核酸には、上記に挙げたDNAの他に、それらの誘導体、もしくは人工的な修飾が施された核酸も含まれる。人工的な修飾が施された核酸としては、これらに限定されるものではないが、例えば、糖鎖の構造が修飾されたDNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成DNA、もしくはそれらの誘導体が含まれる。
【0044】
ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、ヒトに由来する細胞からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作成し、これを展開して、HGFをコードする核酸(例えば、配列番号:1に記載の核酸)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより調製することが可能である。また、HGFをコードするDNAに特異的なプライマーを作成し、これを利用したPCRを行うことによって調製することも可能である。また、cDNAは、例えば、ヒトに由来する細胞から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAP等のベクターに挿入してcDNAライブラリーを作成し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことによって、また、PCRを行うことによって、調製することが可能である。
【0045】
本発明のリンパ管新生促進剤において、活性成分として含有されるHGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸は、ウイルス由来のエンベロープまたはリポソームなどに封入されたものであっても、ネイキッドな核酸であってもよい。ここで、「ネイキッドな核酸」とは、核酸分子がウイルスエンベロープまたはリポソーム等の封入物内に存在しているのではなく、核酸分子が裸のまま被覆されることなく水溶液中に存在している状態にある核酸をさす。
【0046】
HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸は、核酸ベクターに組み込まれていることが好ましい。本発明において用いられる核酸ベクターとしては、そのベクターに導入される本発明のHGFをコードする核酸が哺乳動物において発現されるものである限り、任意のものが用いられうる。このようなベクターの例としては、例えば、プラスミドをはじめ、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、EBウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、フォーミーウイルスベクターなどのウイルスベクター、および非ウイルスベクターが挙げられるが(Niitsu Y. et al., Molecular Medicine 35: 1385-1395 (1998))、これらに限定されるものではない。本発明において用いられるベクターは、遺伝子治療用のベクターとして使用することが可能である。
【0047】
当業者であれば、適宜目的のベクターを設計し、使用することが可能である。本発明において使用されるベクターは、導入される任意のポリヌクレオチドに加えて、発現宿主において機能する転写開始領域、転写終結領域などHGFの発現をより効率的に行うためのポリヌクレオチド配列を含んでいてもよい。
【0048】
本発明に用いるHGFをコードする核酸の好ましい形態としては、例えば、配列番号:5に示すpVAX1HGF/MGB1または配列番号:6に示すpcDNA3.1(-)HGFのような、プラスミドベクター中にHGFをコードする核酸が挿入されたものが挙げられる。
【0049】
また本発明のHGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸は、カチオニックリポソーム、リガンドDNA複合体、ジーンガンなどのベクターに組み込まれていても良い。例えば、センダイウイルスエンベロープ由来のHVJ-Eベクター(Kaneda, Y.他、2002、Mol. Ther. 6, 219-226)に封入された形であってもよい。あるいはまた、ネイキッドな核酸であってもよい。
【0050】
本発明において、HGF遺伝子は単独で使用してもよく、また必要に応じ、他の遺伝子および/または他の薬剤を組み合せて使用してもよい。本発明において、HGF遺伝子、及び、必要に応じそれと組み合せ用いられる遺伝子は、遺伝子のin vivoにおける発現を保証する適当なベクター中に組み込まれ、患者の患部へ投与される。
【0051】
HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を活性成分として含有するリンパ管新生促進剤を投与する場合、当業者であれば適宜、適切な投与経路および投与量を容易に選択できるが、リンパ管新生を促進したい部位および/または周辺に注射により投与することが好ましく、特に該部位およびまたは周辺の筋肉に筋肉注射することが好ましい。他にも、投与した核酸からHGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質が、リンパ管新生を促進したい部位およびその周辺で発現されうるような投与方法であればよい。
【0052】
活性成分が上記核酸である場合、リンパ管新生の促進またはリンパ浮腫の予防もしくは治療において効果的な投与量としては、例えば、1回につき体重1kgあたり該核酸が0.001mg〜10mgの範囲で選ぶことが可能である。または、例えば、ヒト患者に投与する場合、患者あたり該核酸が0.001〜50mg/bodyの範囲を選ぶことができ、1回当たり投与量は、該核酸が0.5〜50mg/body程度の量が含まれることが好ましい。しかしながら、これらの投与量に制限されるものではない。
【0053】
HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を活性成分として含有するリンパ管新生促進剤の1つの好適な実施態様としては、例えば、ヒトに投与する場合、生理的緩衝液または薬学的に許容されうる担体に溶解したヒトHGF cDNAを含むプラスミド(例えば、配列番号:5に示すpVAX1HGF/MGB1または配列番号:6に示すpcDNA3.1(-)HGF)を1回あたり、1〜20mg、好ましくは1〜10mg、より好ましくは2〜10mg(例えば3〜6mgまたは2〜4mg)の用量にて、ヒト患者のリンパ管新生を促進したい部位および/またはその周辺の筋肉内に筋肉注射する。1〜10週間、好ましくは1〜8週間(例えば2〜6週間または1〜4週間)程度の間隔をあけて、2回以上、好ましくは3回以上、投与するとよい。ヒトに投与する場合、例えば、Morishita R.他、Hypertension 2004 44(2):203-9に記載の方法を参照して、またはこれに適宜変更を加えた方法で、投与するとよい。
【0054】
本発明のリンパ管新生促進剤は、リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤として用いることが可能である。リンパ浮腫とは、リンパ管の閉塞により組織液が異常に滞留し、むくみ、慢性炎症および/または繊維化をきたした状態を言う。本発明におけるリンパ管新生促進剤が予防または治療の対象とするリンパ浮腫は、このような症状を有するものであれば、名称の如何を問わない。本発明のリンパ管新生促進剤は、このような症状を有する疾患の予防または治療に有用である。
【0055】
リンパ浮腫を起こす可能性の高い被検体(例えば、悪性腫瘍の摘出手術の際、リンパ節も摘出した患者など)に対して、本発明のリンパ管新生促進剤を投与することで、リンパ浮腫を予防しうる。
【0056】
本発明はまた、HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物、または、HGFもしくはそれと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を被験体に投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法に関する。この場合、HGFはヒトHGFであることが好ましい。投与部位は、リンパ管新生を促進したい任意の部位であってよい。かかる方法を、例えば、リンパ浮腫を有する患者に適用することにより、リンパ浮腫を治療することも可能である。より具体的には、上述のとおり、リンパ管新生促進剤を投与することにより、リンパ管新生を促進することができる。
【0057】
当業者であれば、その目的を適宜考慮して、ヒトHGFまたはヒトHGF遺伝子を、リンパ浮腫を有する患者の患部への投与することが可能である。患者の患部への投与方法は、当業者に公知な方法によって行うことが可能である。
【0058】
本発明においては、上記(1)〜(4)のタンパク質、核酸、または化合物は単独で投与してもよく、また他のリンパ管新生因子をコードする遺伝子と併用して、もしくは、医薬的に許容される担体及び/または添加物と併用し、組成物として投与してもよい。組成物の形態として投与する場合に併用される他の血管新生因子をコードする遺伝子、医薬的に許容される担体及び/または添加物の具体的な態様は、上述の通りである。
【0059】
上記(1)〜(4)のタンパク質、核酸、または化合物が投与される患部としては、リンパ浮腫の症状が現れている部位または現れることが予測される部位であれば特に制限されるものではないが、例えば、乳ガンの術後などによく見られる上肢リンパ浮腫に対しては上腕部、子宮ガンの術後などによく見られる下肢リンパ浮腫に対しては大腿部などへの局所投与が考えられる。
【0060】
投与量は上述したとおりであるが、疾患、患者の体重、年齢、性別、症状、投与目的、導入遺伝子の形態等により異なるが、当業者であれば適宜決定することが可能である。
本発明のタンパク質、核酸、または化合物含有組成物の投与対象としては、ヒトの他、サル、イヌおよびネコなど任意の哺乳動物が含まれる。
【0061】
さらにまた、本発明のリンパ管新生を促進する方法の1態様として、HGF受容体の活性化を誘導し、該活性化によりリンパ管新生を促進する方法も含まれる。
HGF受容体はc-metと命名されている膜タンパク質であり、その細胞内ドメイン内にチロシンキナーゼが存在する。HGFがc-metの細胞外ドメインにあるHGF結合部位に結合すると、前記細胞内チロシンキナーゼが活性化して、c-met分子内のチロシン残基(Y1349およびY1356)をリン酸化する。これをトリガーとして、細胞内シグナル伝達経路が活性化してHGFがその生物学的機能を発揮することはよく知られている事実である(例えば、Graziani, A.他、J. Biol. Chem. 266、22087-22090,(1991)、Graziani, A.他、J. Biol. Chem. 268、9165-9168,(1993)、Nakagami, H.他、Hypertension, 2001, 37[part2]:581-586参照のこと)。したがって、本明細書において、HGF受容体の活性化とは、c-metの分子内チロシンキナーゼを活性化することを指す。
【0062】
本発明において、リンパ管内皮細胞に発現しているc-metを活性化することによりリンパ管新生は促進される。ここで、c-metの活性化は、HGFまたはそれと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物をリンパ管内皮細胞上のc-metに作用させることにより誘導される。したがって、上述のリンパ管新生促進剤を使用することも、本態様に包含されうる。
【0063】
本発明は、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法に関する。
本発明のスクリーニング方法の第一の態様としては、以下の(a)〜(c)の工程を含むリンパ管新生促進活性を有する化合物のスクリーニング方法である。
(a)HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質に被検化合物を接触させる工程、
(b)HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質と被検化合物の結合を検出する工程、
(c)HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質と結合する被検化合物を選択する工程。
【0064】
第一の態様では、まず、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質に被検化合物を接触させる。本発明のスクリーニング方法におけるHGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質としては、c-metまたはそれと機能的に同等なタンパク質が挙げられ、具体的には以下の(i)〜(iv)が含まれる。
(i)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【0065】
本発明の方法における「被検化合物」としては、特に制限はなく、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチド等の単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、原核細胞抽出物、真核単細胞抽出物もしくは動物細胞抽出物等を挙げることができる。上記被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
【0066】
本発明において「接触」は、以下のようにして行う。例えば、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質が発現している細胞の培養液、または、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質が発現している細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物がタンパク質の場合には、例えば、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質が発現している細胞へ導入する、または該ベクターをHGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質が発現している細胞抽出液に添加することで行うことも可能である。また、例えば、酵母または動物細胞等を用いた2ハイブリッド法を利用することも可能である。
【0067】
第一の態様では、次いで、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質と被検化合物の結合を検出する。タンパク質間の結合を検出または測定する手段は、例えばタンパク質に付した標識を利用することにより行うことができる。標識の種類は、例えば、蛍光標識、放射標識等が挙げられる。また、酵素2ハイブリット法や、BIACOREを用いた測定方法等、公知の方法によって測定することもできる。本方法においては、次いで、上記HGF受容体と結合した被検化合物を選択する。選択された被検化合物の中には、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物が含まれる。また、選択された被検化合物を、以下のスクリーニングの被検化合物として用いてもよい。
【0068】
また、本発明のスクリーニング方法の第二の態様として、以下(a)〜(c)の工程を含む、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法を提供する。
(a)HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質を発現している細胞に被検化合物を接触させる工程、
(b)該細胞の増殖能、遊走性、またはシグナル分子のリン酸化を測定する工程、
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該細胞の増殖能を増加させた、遊走性を増加させた、またはシグナル分子をリン酸化させた被検化合物を選択する工程。
【0069】
第二の態様においては、まず、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質を発現している細胞に被検化合物を接触させる。ここで「HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質を発現している細胞」としては、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質を発現している単離された細胞、組換えHGF受容体が発現している形質転換細胞等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、胸管由来リンパ管内皮細胞が挙げられる。また本方法において用いられるHGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質としては、上述のHGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質が含まれる。
【0070】
第二の態様においては、次いで、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質を発現している細胞の増殖能、遊走性、またはMAPK、Akt、c-met、Rasなどのc-metからのシグナル伝達によりリン酸化されることが分かっているシグナル分子のリン酸化を測定する。
【0071】
増殖能の増加の程度、遊走能の増加の程度、MAPKまたはAktのリン酸化の有無は、例えば、下記実施例に記載の方法により、当業者であれば容易に測定することが可能である。
【0072】
本発明のスクリーニング方法においては、最後に、被検化合物を接触させていない場合と比較して、HGF受容体またはそれと機能的に同等なタンパク質を発現している細胞の増殖能を増加させた、遊走性を増加させた、またはMAPK、Akt、c-met、Rasなどのc-metからのシグナル伝達によりリン酸化されることが分かっているシグナル分子をリン酸化させた化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、本発明のリンパ管新生促進剤またはリンパ浮腫の予防または治療用の薬剤の活性成分となり得る。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0074】
[実施例1]イヌ胸管由来リンパ管内皮初代培養細胞におけるHGFの効果
(1)イヌ胸管由来リンパ管内皮初代培養細胞の作製
イヌ胸管由来リンパ管内皮初代培養細胞の作製は、公知の方法で行った(Microcirculation(1999)6、75-78)。雑種の成犬(雌雄問わず、6〜12kg)を麻酔下で、大腿動脈から放血させた後、胸管を10〜15cm単離し、冷却(4℃)したハンクス緩衝液(HBSS)に入れた。結合組織および脂肪細胞を除去した。胸管の分枝部分は滅菌した絹糸で縛り、リンパ管を冷却HBSSにて洗った。その後、コラゲナーゼ溶液(250U/mL HBSS)中に37℃にて10分間インキュベートした。10%牛胎児血清(FBS)含有MEM培地で管を洗浄して細胞を回収した。遠心によりコラゲナーゼを除去した後、20%FBSおよび抗生物質を添加した完全MEM培地に懸濁して、タイプIコラーゲンコート35mmディッシュ中で培養した。培養は37℃5%CO2湿潤環境下で行った。コンフルエントになった時点でトリプシン/EDTAで細胞を剥離して回収し、リンパ管内皮細胞をサブクローニングし、リンパ管内皮細胞のクローンを作製した。この細胞は、継代可能である。少なくとも10回以上継代可能であった。
【0075】
このようにして得られたリンパ管内皮細胞では、複数種のリンパ管内皮細胞特異的抗体(抗VEGFR-3抗体、抗Prox1抗体ほか)による免疫染色が確認された。さらにこれらの細胞では、HGF受容体であるc-metの発現も免疫染色により確認された。これは本発明者らによって見出された新規な知見である(図1)。
【0076】
(2)ヒト組み換えHGFによる増殖能の増強
上記(1)で得たイヌ胸管由来リンパ管内皮細胞(96ウェルプレート中70%コンフルエント以上)にヒト組み換えHGFを、それぞれ、0、2、10、50ng/mlの濃度となるように培地中に添加し、その3日後に、CellTiter 96 One Solutin Reagent(Promega)を用いてMTSアッセイを行った。独立に9ウェルずつ実施した。その結果を表1および図2に示す。
【0077】
【表1】

HGF2ng/ml存在下でも、測定値は有意に増大しており、HGFがリンパ管内皮細胞の増殖を強力に促進することが示された。
【0078】
(3)ヒト組み換えHGFによる遊走能の増強
(i) 組み換えHGFによる遊走能の増強
細胞の遊走能は、既報のBoydenチャンバーを用いる方法に従って実施した(Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2002;22:108-114)。孔径8μmのポリビニルピロリドン(PVP)不含ポリカーボネートメンブラン(Neuro Probe Inc., Gaithersburg, MD)を0.1%ゼラチンでコーティングし、生理的リン酸緩衝液(PBS)で過剰なゼラチンを除去した。1%FBSを含有するEBM2培地28μlを入れたBoydenチャンバーの下のチャンバーに、上記メンブランをのせ、上のチャンバーに、106個の(1)で得たイヌ胸管由来リンパ管内皮細胞を含む50μlの培地を入れ、ヒト組み換えHGFを、それぞれ、0、10、50ng/mlの濃度となるように培地中に添加し、4時間37℃にて培養した。培養は37℃5%CO2湿潤環境下で行った。メンブランを取り出し、メンブランの上面にある細胞を剥がし取り、メンブランの下面にある細胞をDiff-Quick(Sysmex, Hyogo, Japan)で染色し、細胞の数をカウントした。各HGF濃度につき、独立に3ウェルずつ実施した。その結果を表2および図3に示す。
【0079】
【表2】

上記表2および図3より、HGF10ng/ml存在下でも、測定値は有意に増大しており、HGFがリンパ管内皮細胞の遊走を促進することが示された。
以上の結果から、HGFがリンパ管内皮細胞の増殖および遊走を促進して、リンパ管新生を促進することが示唆された。
【0080】
(ii) パラクライン組み換えHGFによる遊走能の増強
ヒトHGF cDNA発現プラスミドpVAX1HGF/MGB1(配列番号:5)を、既報の方法に従いHVJ-Eベクターに封入した(Kaneda, Y.他、2002、Mol. Ther. 6, 219-226)。
BHK細胞を100mmディッシュでコンフルエントにまで培養し、50HAUの該プラスミド封入ベクターを、BHK細胞の培地に添加して、細胞に導入した。24時間培養後、24ウェルプレート用挿入セル(insert)に移し、ほぼコンフルエントになるまで培養した。
一方、上記(1)イヌ胸管由来リンパ管内皮細胞を70%以上のコンフルエンシーになるように培養した24ウェルプレートを用意し、そのウェルに上記ヒト HGFcDNA 発現プラスミドpVAX1HGF/MGB1導入BHK細胞の入った挿入セルを入れた。48時間培養後に、上記と同様MTSアッセイに供した。アッセイは、独立に6ウェルずつ実施した。ヒトHGF cDNA発現プラスミドpVAX1HGF/MGB1の代わりにGFP発現プラスミドを用いて同様の処理を行ったものを、ネガティブコントロールとした。その結果を表3および図4に示す。
【0081】
【表3】

HGF cDNA導入細胞との共培養をした場合、ネガティブコントロールに比べてMTSアッセイの測定値は有意に増加しており、HGF遺伝子の導入がリンパ管内皮細胞の増殖促進に有効であることが示された。
【0082】
さらに、HGFによるリンパ管内皮細胞の増殖促進を確認するために、既報の方法に従って(Hypertension 2001, 37, 2, 581-586)、c-fosプロモータ活性の測定を実施した。
アッセイは、独立に6ウェルずつ実施した。上記と同様にGFP発現プラスミドを用いて同様の処理を行ったものを、ネガティブコントロールとした。その結果を表4および図5に示す。
【0083】
【表4】

このc-fosプロモータ活性は、細胞の増殖能の正の相関を有していることは周知の事実である。従って、HGFによりc-fosプロモータ活性が上昇したことからも、HGF遺伝子の導入がリンパ管内皮細胞の増殖促進に有効であることが示された。
【0084】
(5)オートクライン系でのヒトHGF cDNAとVEGF cDNA との増殖促進効果の比較
6ウェルプレートにサブコンフルエントまで培養した上記リンパ管内皮細胞に、リポフェクトアミンプラス(GIBCO-BRL)を用いてネイキッドのヒトHGF cDNA発現プラスミドpVAX1HGF/MGB1とc-fosプロモータアッセイ用のc-fosルシフェラーゼリポーター遺伝子プラスミド(p2FTL)を導入した(J. Hypertens. 1998, 16: 993-1000)。24時間培養後、無血清培地で24時間培養し、常法に従ってルシフェラーゼ活性を測定したところ、c-fosプロモータ活性の上昇が認められた。そこで、ヒトHGF cDNAの代わりにヒトVEGF cDNAを用いて上記(4)と同様の実験を行い、ヒトHGF cDNAとVEGF cDNA とのc-fosプロモータ活性に対する影響を比較した。アッセイは、独立に4ウェルずつ実施した。その結果を表5および図6に示す。
【0085】
【表5】

【0086】
上記結果から、HGFcDNA発現プラスミドの導入により、HGFのオートクラインによりc-fosプロモータ活性を有意に増大させるのに対し、VEGFのcDNA発現プラスミドではc-fosプロモータ活性の増大は認められず、リンパ管内皮細胞の増殖を促進しないことが示唆された。
【0087】
以上の初代培養細胞系における実験結果より、HGFがリンパ管新生を促進すること、およびHGF遺伝子導入によりリンパ管新生の促進が可能であり、かつそれにはネイキッドのHGF cDNA発現プラスミド、すなわちHGFをコードする核酸の導入が効果的であることが示唆された。
また上記実施例においては、成犬から単離したリンパ管内皮細胞を用いており、アダルトの動物のリンパ管内皮細胞に対してHGFが上記作用を有するということが示された。このことは、リンパ浮腫の治療薬としてのHGFの有用性を示すものである。
さらにまた、このHGFのリンパ管新生促進作用がヒトHGFのイヌリンパ管内皮細胞に特異的な現象ではないことを確認するため、上記同様、雑種の成犬から単離した初代培養大動脈内皮細胞および静脈内皮細胞のHGFによる増殖促進作用を調べたところ、ヒトHGFがこれら細胞に対して増殖促進作用を有することが示された。また、この増殖促進作用は、ヒトのこれらの細胞に対する増殖促進作用とほぼ同等であった(データ示さず)。したがって、ヒトHGFは、イヌ血管内皮細胞においてもヒト血管内皮細胞と同様に作用することが示された。これら知見は、ヒトHGFのリンパ管新生促進作用がイヌリンパ管内皮細胞に特異的な現象ではないことを示唆する。
【0088】
(6)ヒトリンパ管内皮細胞におけるHGFの作用の確認
発明者らは、ヒトリンパ管内皮細胞でも上記成犬から単離したリンパ管内皮細胞の結果が得られると考えたが、念のためにそれを確認すべく、ヒトリンパ管内皮細胞(AngioBio Co. (Del Mar, CA))を用いてHGFによる増殖および遊走能の増強を検討した。
継代数が5〜8である細胞を実験に用いた。この細胞においても、リンパ管内皮細胞のマーカーである、フォンビルブランド因子、VEGF受容体-3、Prox1、およびc-Metが発現されていることを免疫染色で確認した(データ示さず)。MTSアッセイおよび遊走性アッセイについては、上記イヌのリンパ管内皮細胞での実験と同様に行った。
【0089】
MTSアッセイの結果を図7Aおよび遊走性アッセイの結果を図7Bに示す。ヒト組換えHGFの添加により細胞増殖および遊走能ともに増大しており、10ng/ml以上の濃度では、HGF無添加の細胞に比して有意に増大していた。
このことより、発明者らの予想どおり、上記(1)〜(5)の成犬のリンパ管内皮細胞と同様、ヒトリンパ管内皮細胞もまた、HGFによりリンパ管新生が促進されることが確認できた。
以上より、HGFは、イヌ以外の哺乳動物(ヒトを含む)においてもリンパ管新生促進作用を有することが示唆された。
【0090】
[実施例2]リンパ浮腫モデルラットにおけるHGFの効果
上記の知見に基づいて、in vivoにおける実証を行うために、リンパ浮腫モデルラットを用いてHGFの効果を確認した。
(1)リンパ浮腫モデルラットの作製
リンパ浮腫モデルラットは、Slavin SA他(Anals of Surgery 1999, 229, 421-427)の記載に従って作製した。かかるモデルラットにおける尾部リンパ管の浮腫を確認するために、手術の直前に、尾の付け根から数センチのところに0.5%のPatent Blue色素を含む生理的緩衝液を注射し、手術を行った1日後にその尾部を解剖したところ、リンパ管に青色色素が観察された(データ示さず)。また、対照のラットに比べて、尾の付け根部分は明らかに太く、本ラットのリンパ浮腫モデルとしての有用性が確認できた。
【0091】
(2)リンパ浮腫モデルラットにおけるHGF cDNA発現プラスミドによるリンパ浮腫改善効果
上記作製したモデルラットを用いてリンパ浮腫に対するヒトHGF遺伝子導入の効果を調べた。
術後、ネイキッドのヒトHGF cDNA発現プラスミドpVAX1HGF/MGB1 200μg(/100μl)、ネイキッドのVEGFcDNA発現プラスミド200μg(/100μl)、コントロールとしてネイキッドのGFP発現プラスミド(Venus plasmid)200μg(/100μl)を、術後1日、7日および14日で、筋肉内注射により投与した。手術のみの群は、手術のみ行い注射はしていない。手術無しの群は、手術もしていない。生理食塩水群は、生理食塩水100μlを術後1日、7日および14日に筋肉内注射した。それぞれについて術後35日目まで7日毎に、尾の太さを計測した。各群5匹ずつ試験し、平均値を求め、図8に示した。
【0092】
どの群でも術後一過性に尾の太さは増大したが、HGF cDNAを投与した群のみ、他の群に比べて、尾の太さの減少が早く、かつ大きかった。この差は、21日目以降では有意であった。したがって、ネイキッドなHGF cDNAのプラスミドの投与によりリンパ浮腫の改善が認められた。
【0093】
図8に示すグラフの曲線下面積を求め、図9に示した。VEGF遺伝子の導入ラットはコントロールのVenus群ラットと差がないが、HGF遺伝子導入ラットでは、有意に尾の太さが減少していることがわかる。このリンパ浮腫患部である尾の太さの減少は、リンパ浮腫の軽減および治癒を示すものであり、HGFをコードする核酸(HGF遺伝子)を導入することによりリンパ浮腫が軽減および治癒されることが明確に示された。
【0094】
なお、術後4、10および17日に、上記ラット尾の手術部位から組織サンプルを採取して、ヒトHGFのmRNA量を、常法にしたがいリアルタイムRT-PCRにて測定し、ヒトHGF遺伝子を導入した群でのみ、術後17日までヒトHGFの発現が認められることを確認している(データ示さず)。
【0095】
さらに、HGF遺伝子導入ラット、VEGF遺伝子導入ラットおよび生理食塩水を注射したコントロールのラットについて、術後35日後における、注射部位での内皮細胞マーカー(PECAM-1)、リンパ管内皮細胞マーカー(LYVE-1およびProx1)およびc-metの発現を免疫染色にて検出した。典型的な染色画像を図10に示す(図10A)。さらに、それぞれのマーカーについて、その発現量を公知の方法(Yoon YS, 他、J. Clin. Invest. 2003;111:717-725)を用いて無作為に抽出した顕微鏡視野における免疫染色陽性の管の数を算出した(図10B)。この結果から、内皮細胞マーカーであるPECAM-1陽性の管の数は、HGF遺伝子導入ラットとVEGF遺伝子導入ラットともコントロールに対する差異は認められなかった。しかし、リンパ管内皮細胞マーカーであるLYVE-1およびProx1のいずれについても、陽性の管の数は、VEGF遺伝子導入ラットではコントロールと差異がないのに対して、HGF遺伝子導入ラットでは有意に増加していた。さらに、c-met陽性の管の数もまた、HGF遺伝子導入ラットでのみコントロールに比して増加する傾向があった。以上より、VEGF遺伝子ではリンパ管形成は促進されず、HGF遺伝子によりリンパ管の形成が促進されることが確認された。
【0096】
かかるリンパ浮腫モデルラットにおける結果から、HGFをコードする核酸をリンパ浮腫の患部近傍に注射して、それを発現させることにより、該注射部位周辺でリンパ管が新たに形成されることが示された。該モデルラットは、あらゆるリンパ浮腫を反映しうる。したがって、このモデルラットを用いてin vivoでHGF遺伝子投与によるリンパ浮腫の症状の軽減・治癒が認められたことは、HGFおよびその遺伝子の、ヒトを含む哺乳動物のリンパ浮腫の治療薬としてのHGFの有用性を示すものである。
【0097】
[実施例3]リンパ管内皮細胞におけるHGFのシグナル伝達の確認
以上のHGFの作用機序を確認するために、血管内皮細胞においてHGFがリン酸化を誘導することが知られているMAPKおよびAktが、リンパ管内皮細胞においてもHGF刺激によりそのリン酸化が誘導されることを確認した。MAPKおよびAktのリン酸化が、HGFによる血管内皮細胞の増殖に必須であることが知られている(Nakagami H., Hypertension. 2001; 37[part 2]581-586)。
【0098】
上記のイヌ胸管由来リンパ管内皮細胞を、HGFの添加の12時間以上前に培地を0.5%FCS含有MEM培地またはFCS不含MEM培地に交換しておいた。組み換えヒトHGFを100ng/mlの濃度になるように添加し、その0〜15分後に培地を除去して、細胞を溶解バッファー(50mM Tris-Cl、2.5mM EGTA、1mM EDTA、10nM NaF、1%デオキシコルチコステロン、1%トリトンX100、1nM PMSF、2mM バナジン酸ナトリウム、pH7.5)にて溶解させ、超音波処理にてゲノム分子を破砕し、タンパク質20μgを含むサンプルを、常法に従って10% SDS-PAGEに供した。ニトロセルロース膜に転写後、抗MAPK/ERK抗体、抗リン酸化MAPK/ERK特異(phosphospecific; Tyr705またはSer727)抗体、抗Akt抗体および抗リン酸化Akt特異抗体にて、ウェスタンブロットを行った。用いた一次抗体は、Cell Signaling Technologyなどから入手可能であった。ECLキット(Amersham)を用いて検出した。
【0099】
結果を図11に示す。図11Aは、MAPKのウェスタンブロット結果である。HGF刺激5分以内にp44およびp42の両MAPKのリン酸化が亢進していることがわかった。図11BにAktの結果を示す。やはり、HGF刺激5分以内にAktのリン酸化が亢進していた。それぞれの下のパネルはインターナルコントロールのためにp44およびp42のMAPKまたはAktを検出したものである。
【0100】
このように、リンパ管内皮細胞においても、HGF刺激に応答して、MAPKおよびAktのリン酸化が亢進することから、リンパ管内皮細胞においてもHGFがc-metを介して、血管内皮細胞と同様のリン酸化カスケードを誘導することが示された。したがって、MAPKおよびAktのリン酸化は、リンパ管内皮細胞の増殖に必須のシグナルであると考えられる。
【0101】
さらにまた、HGFによるリンパ管内皮細胞の増殖活性が、MEK阻害剤であるU0126(50μM)およびPD9805(30μM)、PI3キナーゼ阻害剤であるLy294002(50μM)およびウォルトマニン(100nM)により低減されることもわかった(データ示さず)。このことからも、HGFのリンパ管新生作用は、HGFがc-metを介して血管内皮細胞と同様のシグナルカスケードを誘導することによるものであることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によって、新たなリンパ管新生促進剤が提供された。本発明によって提供されたリンパ管新生促進剤は、その活性成分としてヒトHGFを含有する。
【0103】
リンパ管の新生を促進するペプチド性の因子として、VEGF-Cが知られている。しかし、VEGFファミリーに属する他のVEGFはリンパ管の新生を促進する作用を有さず、VEGF-Cのみが、リンパ管新生促進作用を有することが知られていた。
【0104】
一方、本発明においてリンパ管新生促進作用を見いだされたHGFは、VEGFと同様、血管新生因子として知られている。VEGFがリンパ管新生促進作用を有さないことから、HGFもまたリンパ管新生促進作用を有さないと、当業者の間で考えられてきた。従って、HGFがリンパ管新生作用を有することを見出した本発明者らの知見は、驚くべき事実と言える。
【0105】
加えて、VEGF-CはVEGFR2とのクロスリンクにより浮腫を起こす可能性があるが、HGFにはこのような懸念はない。これもまた、本発明のリンパ管新生促進剤の大きな特徴である。該リンパ管新生促進剤は、リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤として有効である。
【0106】
さらに、HGFは、胎生期または新生期ではなく、アダルト動物から単離されたリンパ管内皮細胞に対して、その増殖および遊走を活性化しリンパ管新生を促進する。癌の治療のための癌組織および/またはリンパ節摘出手術後のリンパ浮腫に苦しむ患者の多くは成人である。本発明の薬剤は、癌の治療のための癌組織および/またはリンパ節摘出手術後のリンパ浮腫に苦しむ成人のための治療薬として、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】リンパ管内皮細胞の蛍光免疫染色を示す写真である。上段のパネルは、抗c-met抗体による染色、中段のパネルは、DAPIによる核染色、下段のパネルは、これらを重ね合わせたものである。これらから、全ての細胞にc-metが発現していることが確認された。
【図2】MTSアッセイによるヒト組み換えHGFによる増殖能の検討結果を示すグラフである。縦軸は測定値である。HGFが濃度依存的にリンパ管内皮細胞の増殖を促進することが示されている。
【図3】遊走能アッセイ(migration assey)によるヒト組み換えHGFによる遊走能の検討結果を示すグラフである。縦軸は細胞数である。HGFがリンパ管内皮細胞の遊走を促進することが示されている。
【図4】MTSアッセイによる、ネイキッドなcDNAプラスミドの導入による増殖能の検討結果を示すグラフである。縦軸は測定値である。HGF遺伝子の導入がリンパ管内皮細胞の増殖促進に有効であることが示されている。
【図5】c-fosプロモータアッセイによる、ネイキッドなcDNAプラスミドの導入による増殖能の検討結果を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ活性の測定値である。HGF遺伝子の導入がリンパ管内皮細胞の増殖促進に有効であることが示されている。
【図6】c-fosプロモータアッセイによる、ネイキッドなcDNAプラスミドの導入による増殖能の検討結果を示すグラフである。縦軸はルシフェラーゼ活性の測定値である。HGFのcDNA発現ベクターはc-fosプロモータ活性を有意に増大させるのに対し、VEGFのcDNA発現ベクターはc-fosプロモータ活性を増大させないことが示されている。
【図7】HGFによるヒトリンパ管内皮細胞の増殖および遊走性への影響を調べたグラフである。AはMTSアッセイにより細胞増殖を調べた結果であり、Bは遊走性アッセイにより遊走能を調べた結果である。ヒト組換HGFを0、2、10、50ng/mlの濃度になるようにヒトリンパ管内皮細胞培養液に添加して、それぞれのアッセイを行っている。Aの縦軸は490nmの吸光度である。Bの縦軸は細胞数である。HGF添加により増殖および遊走性が促進されていることが示されている。*p<0.001(ヒト組換HGF 0 ng/mlに対して)、†p<0.001(ヒト組換HGF 2 ng/mlに対して)。
【図8】尾の付け根部位にリンパ管浮腫を有するリンパ管浮腫モデルラットにおけるHGF cDNA発現プラスミドによるリンパ管浮腫改善効果を示すグラフである。横軸は術後日数(Day)を、縦軸は尾の付け根部分の太さ(mm)を示す。コントロールとしてのVenus群にはGFP発現プラスミドを、HGF群にはHGF発現プラスミドを、VEGF群にはVEGF発現プラスミドを、それぞれ200μg/0.1ml注射し、生理食塩水群には生理食塩水を0.1ml注射した。ネイキッドなHGF cDNAの投与により、尾の太さの減少が促進され、リンパ管浮腫が改善されることが示されている。
【図9】図8に示すグラフの曲線下面積を算出したグラフである。HGF遺伝子を導入したラットの群でのみ尾の太さが有意に減少していたことを示す。縦軸は、コントロールに対する面積比(%)である。**p<0.0001(VEGF遺伝子導入群、Venus群、生理食塩水群、および手術のみの群のいずれに対しても)。
【図10】リンパ管浮腫モデルラットのHGF遺伝子またはVEGF遺伝子の導入後の手術部位でのリンパ管形成を調べた結果を示す写真及びグラフである。Aは、それぞれのラットにおける、遺伝子を注射部位の近傍の組織切片を、PECAM-1、LYVE-1、Prox1およびc-Metに対する抗体を用いて免疫染色した顕微鏡画像である。上段はHGF遺伝子導入ラット、中段はVEGF遺伝子導入ラット、および下段は生理食塩水を注射したラットのコントロールである。Bは、上記免疫染色後、それぞれの抗体に対して免疫染陽性の管の数を示すグラフである。HGF:HGF遺伝子導入ラット、VEGF:VEGF遺伝子導入ラット、コントロール:生理食塩水を注射したラット。縦軸は陽性の管の数である。内皮細胞マーカーPECAM-1陽性の管の数は、HGF遺伝子導入ラット、VEGF遺伝子導入ラットともコントロールより増加しているが有意差はないのに対し、リンパ管内皮細胞マーカー(LYVE-1およびProx1)陽性の管の数は、HGF遺伝子導入ラットでのみ有意に増加していることが示されている。また、HGF遺伝子導入ラットでは、c-Met陽性の管がVEGF遺伝子導入ラットに対して有意に増加しており、またコントロールよりも増加傾向にあることがわかる。
【図11】イヌ胸管由来リンパ管内皮細胞のHGF刺激後のMAPKおよびAktのリン酸化を示す写真である。図11Aはリン酸化MAPK特異的抗体によるウェスタンブロットの結果であり、図11Bはリン酸化AKt特異的抗体の結果である(各上のパネル)。下のパネルは、サンプル中のMAPKおよびAktの量がほぼ 同等であることを示すためのインターナルコントロールとして、リン酸化/非リン酸化を問わずMAPKまたはAktに特異的な抗体によるウェスタンブロットの結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物を活性成分として含有する、リンパ管新生促進剤。
【請求項2】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項1に記載の剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項3】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を活性成分として含有する、リンパ管新生促進剤。
【請求項4】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項3に記載の剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項5】
核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、請求項3または4に記載の剤。
【請求項6】
核酸がネイキッドな核酸である、請求項3〜5のいずれかに記載の剤。
【請求項7】
リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤として用いられることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の剤。
【請求項8】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物を被験体に投与する工程を含む、リンパ管新生を促進する方法。
【請求項9】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項8に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項10】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を被験体に投与する工程を含む、リンパ管新生を促進する方法。
【請求項11】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項10に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項12】
核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
核酸がネイキッドな核酸である、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
HGF受容体の活性化を誘導し、該活性化によりリンパ管新生を促進する方法。
【請求項15】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物を被験体に投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法。
【請求項16】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項15に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項17】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸を被験体に投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法。
【請求項18】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項17に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項19】
核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
核酸がネイキッドな核酸である、請求項17〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
リンパ管新生促進剤またはリンパ浮腫の予防もしくは治療のために用いる薬剤の製造における、HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質もしくは化合物の使用。
【請求項22】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質である、請求項21に記載の使用;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項23】
リンパ管新生促進剤またはリンパ浮腫の予防もしくは治療のために用いる薬剤の製造における、HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸の使用。
【請求項24】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項23に記載の使用;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項25】
核酸が哺乳動物用発現ベクターに挿入されている、請求項23または24に記載の核酸の使用。
【請求項26】
核酸がネイキッドな核酸である、請求項23〜25のいずれかに記載の核酸の使用。
【請求項27】
以下(a)〜(c)の工程を含む、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法;
(a)HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質に被検化合物を接触させる工程、
(b)該タンパク質と被検化合物の結合を検出する工程、
(c)該タンパク質と結合する被検化合物を選択する工程。
【請求項28】
HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質が、以下(i)〜(iv)から選択される、請求項27に記載の方法;
(i)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項29】
以下(a)〜(c)の工程を含む、リンパ管新生促進活性を有する化合物またはリンパ浮腫の予防もしくは治療効果を有する化合物のスクリーニング方法;
(a)HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質を発現している細胞に被検化合物を接触させる工程、
(b)該細胞の増殖能、遊走性、またはシグナル分子のリン酸化を測定する工程、
(c)被検化合物を接触させていない場合と比較して、該細胞の増殖能を増加させた、遊走性を増加させた、またはシグナル分子をリン酸化させた被検化合物を選択する工程。
【請求項30】
HGF受容体またはHGF受容体と機能的に同等なタンパク質が、以下(i)〜(iv)から選択される、請求項29に記載の方法;
(i)配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(ii)配列番号:3に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(iii)配列番号:4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(iv)配列番号:3に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項31】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターであって、リンパ浮腫の予防または治療用のベクター。
【請求項32】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項31に記載のベクター;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項33】
配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、請求項31または32に記載のベクター。
【請求項34】
ネイキッドな状態で投与されることを特徴とする、請求項31〜33のいずれかに記載のベクター。
【請求項35】
被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与されることを特徴とする、請求項31〜34のいずれかに記載のベクター。
【請求項36】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターを活性成分として含有する、リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤であって、該ベクターがネイキッドな状態で、被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与されることを特徴とする薬剤。
【請求項37】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項36に記載の薬剤;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項38】
ベクターが、配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、請求項36または37に記載の薬剤。
【請求項39】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターを、ネイキッドな状態で、被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与する工程を含む、リンパ浮腫を予防または治療する方法。
【請求項40】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項39に記載の方法;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項41】
ベクターが、配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】
リンパ浮腫の予防または治療用の薬剤の製造における、HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が挿入された哺乳動物用発現ベクターの使用であって、該ベクターがネイキッドな状態で、被験体の患部またはその周辺に筋肉内注射により投与されることを特徴とするベクターの使用。
【請求項43】
HGFまたはHGFと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸が、以下(a)〜(d)のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸である、請求項42に記載の使用;
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含む核酸によりコードされるタンパク質、
(c)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなり、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質、
(d)配列番号:1に記載の塩基配列を含む核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされるタンパク質であって、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と機能的に同等なタンパク質。
【請求項44】
ベクターが、配列番号:5または6に記載の塩基配列からなるベクターである、請求項42または43に記載の使用。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−163007(P2008−163007A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304287(P2007−304287)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【分割の表示】特願2007−526918(P2007−526918)の分割
【原出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(500409323)アンジェスMG株式会社 (34)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】