説明

リンパ腫および骨髄腫を処置するための方法および組成物

本発明は、リンパ腫および骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導し、さまざまな形態のリンパ腫または骨髄腫を患う対象を処置するためのヘッジホッグシグナル伝達経路のアンタゴニストの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、腫瘍細胞の増殖を阻害する方法および癌を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性リンパ腫(ML)は、リンパ系の細胞が関与し、米国において、5番目に多い癌である。MLは、ホジキン病、およびリンパ球増殖性疾患の異種集団である非ホジキン病を含む。ホジキン病は、全悪性リンパ腫の約14%を占める。非ホジキンリンパ腫は、主に、B細胞起源である悪性腫瘍のさまざまな集団である。国際分類スキーム(Working formulation classification scheme)において、これらのリンパ腫は、それらの自然経過(natural histories)の観点から、軽度、中度、および重度段階区分に分類されている(“The Non-Hodgkin's Pathologic Classification Project,” Cancer 49:2112-2135, 1982を参照のこと)。軽度段階のリンパ腫は、遅発性であり、5から10年の平均生存を有する(Horning and Rosenberg, N. Engl. J. Med. 311:1471-1475, 1984)。化学療法は、遅発性リンパ腫の多くで寛解を誘導し得るが、完治は稀であり、多くの患者は、結局再発し、さらなる治療を必要とする。中度および重度段階のリンパ腫は、より攻撃的な腫瘍であるが、それらは、化学療法を用いた完治の機会をより多く有する。しかしながら、かなりの割合のこれらの患者が再発し、さらなる処置を必要とする。
【0003】
多発性骨髄腫(MM)は、通常、骨髄で見出される型の形質細胞からなる悪性腫瘍である。これらの悪性形質細胞は、骨髄に蓄積し、典型的には、モノクローナルIgGまたはIgA分子を産生する。悪性形質細胞は、骨髄に定着し、拡大し、正常な造血の不全による貧血および免疫抑制を生じる。多発性骨髄腫を患う個体は、しばしば、貧血、溶骨性病変、腎不全、高カルシウム血症、および再発性細菌感染を経験する。MMは、2番目に多い造血性悪性腫瘍を示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リンパ腫および骨髄腫のよりよい処置に関する満たされていない必要性が、当分野には存在する。本発明は、この点および他の必要性に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの局面では、本発明は、リンパ腫または骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導する方法を提供する。これらの方法は、細胞をヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害する薬剤に接触させることを含む。方法のいくつかは、対象に存在する腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することに向けられる。方法のいくつかは、Gli3を発現していないリンパ腫または骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導することに向けられる。方法のいくつかは、ヘッジホッグシグナル伝達経路を特異的に阻害する有機化合物、例えば、シクロパミンまたはフォルスコリンを使用する。他のいくつかの方法は、ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバー、例えば、Smoothened、Suppressor of Fused、または転写因子Gli (例えば、Gli1またはGli2)の発現を特異的に阻害する核酸剤(例えば、siRNA)を使用する。方法のいくつかは、膜貫通受容体Ptchに特異的に結合するアンタゴニスト抗体を使用する。
【0006】
関連する局面では、本発明は、対象のリンパ腫もしくは骨髄腫を処置するか、または改善させるための方法を提供する。該方法は、対象にヘッジホッグシグナル伝達経路をダウンレギュレートする有効量の薬剤を含む医薬組成物を投与することを含む。薬剤は、ヘッジホッグシグナル伝達経路を特異的に阻害する有機化合物、例えば、シクロパミンまたはフォルスコリンであり得る。薬剤はまた、ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバー(Smoothened、Suppressor of Fused、またはGli)の発現を特異的に阻害する核酸剤であり得る。薬剤はまた、膜貫通受容体Ptchに特異的に結合するアンタゴニスト抗体であり得る。方法のいくつかで、対象は、リンパ腫または骨髄腫でのGli3の欠如に関して、プレスクリーニングされる。
【0007】
本発明の性質および利点のさらなる理解は、本明細書の残りの部分および特許請求の範囲を参照することにより、達成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1A-1Fは、ヘッジホッグが、骨髄間質細胞により提供されるリンパ腫の生存因子であることを示す。A: RPMI 1640、FBS 10%および0、1、5、10、50 ng/mlの濃度での異なるサイトカインを含む培地中、リンパ腫細胞(混合、B細胞リンパ腫、形質細胞腫、形質芽細胞腫)の48時間の培養後のAlamar Blueアッセイは、ソニックヘッジホッグ(Shh)およびインディアンヘッジホッグ(Ihh)刺激細胞における生存細胞の増加した数を示す; B: 48時間にわたるShh 10 μMでのリンパ腫細胞の増殖は、Alamar Blueアッセイでの蛍光により測定されたとおり、抗Hh 5E1 モノクローナル抗体(10 μg/ml)またはシクロパミン(5 μM)を用いたHh経路阻害により阻害され得る; C: 異なるマウス株の骨髄間質細胞でのヘッジホッグタンパク質の発現(抗体は、IhhおよびShhを認識する); D: 異なるマウス株の骨髄におけるrt-PCRにより検出されたIhhの転写; E: 異なるマウス株(Balb/C、C57Bl6、Bl6 Cdkn2a -/-)由来の骨髄間質細胞上における、ルシフェラーゼリンパ腫細胞株の同様の増殖率。発光は、間質細胞上への2x10E4個のルシフェラーゼリンパ腫細胞の播種後、0、24および48時間後に測定した; およびF: 脾臓リンパ球および異なるリンパ腫細胞株における、Hh経路メンバーおよび標的からの転写のRT-PCR解析。
【0009】
【図2】図2A-2Gは、Hh経路阻害が、間質依存性リンパ腫細胞でアポトーシスを誘導することを示す。A: シクロパミン処理(5 μM)の48時間後、間質細胞層からのリンパ腫の除去; B: 非ルシフェラーゼ間質細胞層上で増殖するルシフェラーゼリンパ腫細胞の、シクロパミン、SANT-1およびトマチジン(0、0.5、1、5および10μM)での処理。間質細胞層上でリンパ腫細胞の処理の48時間後、Bright glow発光試薬でのルシフェラーゼ読み出し、および処理の48時間後、Alamar Blueアッセイによる間質細胞増殖単独の検出を示す; C: 5 μM シクロパミンを用いたリンパ腫の処理の、0、12および24時間後のアネキシンV染色; D: シクロパミンでの処理の、0時間、12および24時間後のゲート(gated)生存細胞の細胞周期分布(SubG1期は、図から除外している); E: B細胞リンパ腫、形質芽細胞腫および形質細胞腫における重要なHh経路メンバー(Smo、Ptc1、Ptc2、Gli1、Gli2)の発現; F: アクチンコントロールと比較したシクロパミン処理後のリンパ腫細胞におけるGli1およびBcl2タンパク質のダウンレギュレーション; およびG: 5 μM シクロパミンを用いた細胞の処理の36時間後における、Ptch1およびBMI1転写レベルの定量的RT-PCR。
【0010】
【図3】図3A-3Eは、ヘッジホッグ経路メンバーおよびBcl2の過剰発現が、Mycリンパ腫におけるシクロパミン誘導性アポトーシスを阻害することを示す。A: Myc-Ly6におけるGli1およびFusedの過剰発現は、48時間処理の後に示されたシクロパミン(5 μM)誘導性アポトーシスからリンパ腫細胞をレスキューする; B: 異なる濃度でシクロパミン処理の48時間後、96ウェル中、間質細胞層で、異なるHh経路メンバーを過剰発現するMyc-Ly6細胞を用いたルシフェラーゼアッセイ。Smo、Smo535およびSmo562を過剰発現させた細胞でのIC50遷移; Gli1またはFusedを過剰発現させた細胞での減少したアポトーシス誘導; C: Myc+/p53-/-リンパ腫細胞およびMyc+/Cdkn2a-/-リンパ腫細胞の48時間のシクロパミン(5μM)処理は、アポトーシスを誘導するが、Myc+/Bcl2+細胞は、GFPポジティブ細胞の蛍光画像により示されたシクロパミン処理に耐性を示す。Myc+/Bax-/-細胞およびMyc+/Caspase3-/-細胞の部分耐性; D: シクロパミンを用いた48時間処理後のルシフェラーゼアッセイ; およびE: 96時間の間質離脱(Stroma withdrawal)は、Myc/p53-/-細胞、Myc/Cdkn2a-/-細胞でアポトーシスを誘導する。Myc+/Bcl2+細胞は、光学顕微鏡画像で示されたとおり、間質非依存的に成長する。
【0011】
【図4】図4A-4Fは、ヘッジホッグ経路阻害が、インビボでリンパ腫拡張を停止させることを示す。A: 1 MioルシフェラーゼEμ-Mycリンパ腫細胞のC57Bl6マウスへの注射および注射の2日後、シクロパミンまたはビヒクルコントロールを用いた処置の開始。12日後のマウスのルシフェラーゼXenogenイメージングは、シクロパミン処理マウスにおけるリンパ腫成長の阻害を示した; B: ビヒクルコントロールまたはシクロパミンで処理したマウスの最大21日間の生存曲線; C: Myc-Ly6またはMyc-Ly7(Gli3の発現およびHh阻害に対するインビトロでの耐性)で注射し、シクロパミン50 mg/kg/日またはビヒクルコントロールで処理したマウスの生存曲線。D: 1 Mioルシフェラーゼリンパ腫細胞のC57Bl6マウスへの注射。十分に進行したリンパ腫を有するマウスにおいて、シクロパミン50 mg/kg/2日で処理した3日後のXenogenイメージング; E: シクロパミンでの処理の3日後、脾臓重量と肝臓重量の比較; およびF: ビヒクルおよびシクロパミン処理マウスから単離した脾臓のH&E、Ki67およびPARP免疫染色。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
I. 概説
本発明は、本願発明者らによるリンパ腫および多発性骨髄腫疾患が、ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路に依存するという発見に部分的に基づく。下記実施例で詳述したとおり、本願発明者らは、トランスジェニックEμ-MycマウスおよびCdkn2aノックアウトマウスから単離したリンパ腫および骨髄腫細胞を使用し、間質(stroma)およびリンパ腫細胞間の相互作用を仲介することを発見した。同様のことが、骨(多発性骨髄腫)またはリンパ節由来の患者サンプルから単離したリンパ腫および多発性骨髄腫サンプル、非ホジキンリンパ腫(NHL)患者由来の骨髄または脾臓、およびまたは、慢性リンパ性白血病(CLL)サンプルに関して発見された。さらに、Hhシグナル伝達経路の阻害が、間質依存性リンパ腫細胞のアポトーシスを誘導し、ヘッジホッグ経路メンバーの過剰発現が、インビトロでリンパ腫細胞のシクロパミン誘導性アポトーシスを阻害することが発見された。さらに、本願発明者らは、ヘッジホッグ経路阻害剤を用いてマウスを処理することが、インビボでリンパ腫の拡張を停止させることを発見した。最後に、本願発明者らは、脾臓B細胞およびシクロパミン応答性リンパ腫の多くでGli3が発現していないが、シクロパミン耐性リンパ腫では、顕著な発現が見られることを発見した。
【0013】
これらのデータは、Hhシグナル伝達が、c-Mycによる形質転換の最初の過程で、重要な抗アポトーシスシグナルを提供し、リンパ腫維持において重要な役割を果たすことを示す。したがって、Hhシグナル伝達経路の破壊は、リンパ腫(例えば、NHL)、多発性骨髄腫、CLLおよび他の造血悪性腫瘍を処置するための新規の手段を提供する。さらに、リンパ腫でのGli3の発現は、Hh阻害に対する応答性に関する負の予測因子および患者分類のための重要な手段を提供する。
【0014】
これらの発見に基づいて、本発明は、腫瘍細胞、例えば、リンパ腫および骨髄腫細胞の成長を阻害する方法を提供する。本発明は、腫瘍細胞の成長を阻害することにより、患者のリンパ腫または骨髄腫を処置する方法およびそのための組成物を提供する。方法はまた、対象の腫瘍発生を予防するのに有用である。方法のいくつかは、脾臓B細胞と比較して、Gli3の高い発現を有さないリンパ腫を処置することに向けられる。典型的には、該方法は、処置を必要とする対象に、Hhシグナル伝達のアンタゴナイズ剤(例えば、siRNA、抗体または小分子有機化合物)を含む医薬組成物を投与することを含む。これらの薬剤は、Hhシグナル伝達経路のメンバーの細胞内レベルをダウンレギュレートし、その生物学的活性を阻害する。
【0015】
Hhシグナル伝達のアンタゴニストはまた、他の治療、例えば、放射線治療、骨髄移植、またはホルモン療法と組み合わせて投与し得る。リンパ腫、骨髄腫または白血病の処置を必要とする対象は、相乗効果を提供するために、他の治療化合物の投与と共に、ヘッジホッグアンタゴナイズ剤を投与され得る。これらの治療化合物は、リンパ腫または骨髄腫に対して有用な化学療法剤、切除(ablation)または他の治療ホルモン、抗腫瘍剤、モノクローナル抗体であり得る。既知の抗癌剤のいくつかは、当分野で、例えば、Cancer Therapeutics: Experimental and Clinical Agents, Teicher (Ed.), Humana Press (1st ed., 1997); およびGoodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, Hardman et al. (Eds.), McGraw-Hill Professional (10th ed., 2001)に記載されている。適当な抗癌剤の例は、5-フルオロウラシル、ビンブラスチン硫酸塩、リン酸エストラムスチン、スラミンおよびストロンチウム-89を含む。適当な化学療法剤の例は、アスパラギナーゼ、硫酸ブレオマイシン、シスプラチン、シタラビン、リン酸フルダラビン、マイトマイシンおよびストレプトゾシンを含む。
【0016】
下記の節は、本発明の方法を実施し、本発明の組成物を製造および使用するためのさらなる手引きを提供する。
【0017】
II. 定義
他に指示がなければ、本明細書で使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が関連する分野において、当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。下記の文献は、当業者に、本発明で使用される多くの用語の一般的な定義を提供する: Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology, Smith et al. (eds.), Oxford University Press (revised ed., 2000); Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, Singleton et al. (Eds.), John Wiley & Sons (3PrdP ed., 2002); およびA Dictionary of Biology (Oxford Paperback Reference), Martin and Hine (Eds.), Oxford University Press (4PthP ed., 2000)。さらに、下記の定義は、本発明の実施において、読者(reader)を補助するために提供される。
【0018】
“薬剤”または“試験薬剤”なる用語は、あらゆる物質、分子、要素、化合物、存在(entity)、またはその組合せを含む。それは、例えば、タンパク質、ポリペプチド、有機小分子、ポリサッカライド、ポリヌクレオチドなどを含むが、これらに限定されない。それは、天然産物、合成化合物、または化学化合物、または2個またはそれ以上の物質の組合せであり得る。他に特記がなければ、“薬剤”、“物質”、および“化合物”なる用語は、同様の意味で使用される。
【0019】
“アナログ”なる用語は、本明細書で使用されるとき、参照分子と構造的に類似してはいるが、標的とされ、制御された方法で、参照分子の特定の置換基を他の置換基で置換することにより修飾された分子を意味する。参照分子と比較して、アナログは、同じ、類似の、もしくは改善された有用性を示すことが、当業者により予期される。改善された特徴(例えば、標的分子へのより高い結合親和性)を有するさまざまな既知化合物を同定するためのアナログの合成およびスクリーニングは、薬化学で既知の方法である。
【0020】
本明細書で使用される“接触させる”は、その通常の意味を有し、2個またはそれ以上の分子(例えば、小分子有機化合物およびポリペプチド)を混合すること、または分子および細胞(例えば、化合物および細胞)を混合することを意味する。接触は、インビトロで、例えば、試験管または他の容器内で、2個もしくはそれ以上の薬剤を混合するか、または化合物および細胞もしくは細胞ライセートを混合することにより生じ得る。接触はまた、細胞内またはインサイチュで、例えば、2個のポリペプチドをコードする組み換えポリヌクレオチドの細胞内での共発現により、細胞内で該2個のポリペプチドを接触させて、または細胞ライセートで生じ得る。
【0021】
“ヘッジホッグ”なる用語は、一般に、ソニック、インディアン、デザートおよびティギーウィンクルを含むヘッジホッグファミリーのあらゆるメンバーを意味するものとして使用される。該用語は、タンパク質または遺伝子を示すために使用され得る。該用語はまた、異なる動物種で、ホモログ/オーソログ配列を記載するために使用される。
【0022】
“ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路”および“ヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達”なる用語は、同様の意味で使用され、シグナル伝達カスケードのさまざまなメンバー、例えば、ヘッジホッグ、patched (Ptch)、smoothened (Smo)、およびGliにより仲介される通常のイベント鎖を意味する。ヘッジホッグ経路は、ヘッジホッグタンパク質の非存在下においてさえ、下流のコンポーネントを活性化することにより活性化し得る。例えば、Smoの過剰発現は、ヘッジホッグの非存在下で、該経路を活性化する。
【0023】
Hhシグナル伝達コンポーネントまたはHhシグナル伝達経路のメンバーは、Hhシグナル伝達経路に参加する遺伝子産物を意味する。Hhシグナル伝達コンポーネントは、しばしば、細胞/組織におけるHhシグナルの伝達に実質的な影響を与え、典型的には、下流の遺伝子発現レベルの程度の変化および/または表現型変化を生じる。Hhシグナル伝達コンポーネントは、下流の遺伝子活性化/発現の最終出力に関するそれらの生物学的機能および効果に依存して、正の、および負の制御因子に分類し得る。正の制御因子は、Hhシグナルの伝達に正の影響を与え、すなわち、Hhが存在するとき、下流の生物学的イベントを刺激する、Hhシグナル伝達コンポーネントである。例えば、ヘッジホッグ、Smo、およびGliを含む。負の制御因子は、Hhシグナルの伝達に負の影響を与え、すなわち、Hhが存在するとき、下流の生物学的イベントを阻害する、Hhシグナル伝達コンポーネントである。例えば、PtchおよびSuFuを含む(が、これらに限定されない)。
【0024】
ヘッジホッグシグナル伝達アンタゴニスト、Hhシグナル伝達のアンタゴニストまたはHhシグナル伝達経路の阻害剤は、正のHhシグナル伝達コンポーネント(例えば、ヘッジホッグ、Ptch、またはGli)の生物学的活性を阻害するか、またはHhシグナル伝達コンポーネントの発現をダウンレギュレートする薬剤を意味する。それらはまた、Hhシグナル伝達コンポーネントの負の制御因子をアップレギュレートする薬剤を含む。ヘッジホッグシグナル伝達アンタゴニストは、ソニック、インディアンもしくはデザートヘッジホッグ、smoothened、ptch-1、ptch-2、gli-1、gli-2、gli-3などを含む(が、これらに限定されない)、ヘッジホッグ経路における遺伝子のいずれかによりコードされたタンパク質に向けられ得る。
【0025】
本明細書で使用する“異種配列”または“異種核酸”は、特定の宿主細胞とは異なる起源に由来するものであるか、または同じ起源に由来するときは、その原型から修飾されているものである。したがって、宿主細胞の異種遺伝子は、特定の宿主細胞に内因的ではあるが、修飾されている遺伝子を含む。異種配列の修飾は、例えば、DNAを制限酵素で処理し、プロモーターに操作可能に結合できるDNA断片を作製することにより生じ得る。部位特異的突然変異誘発のような技術は、また、異種核酸を修飾するのに有用である。
【0026】
“相同な”なる用語は、タンパク質および/またはタンパク質配列を意味するとき、それらが、天然の、または人工的な、共通の祖先タンパク質もしくはタンパク質配列に由来することを示す。同様に、核酸および/または核酸配列は、それらが、天然の、または人工的な、共通の祖先核酸もしくは核酸配列に由来するとき、相同である。相同性は、一般に、2個またはそれ以上の核酸もしくはタンパク質(または、それらの配列)間の配列類似性から推測される。相同性を確立するのに有用な配列間の類似性についての正確な割合は、問題となる核酸もしくはタンパク質と共に変わるが、わずか25%の配列類似性は、一般に、相同性を確立するのに使用される。より高いレベルの配列類似性、例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%もしくは99%またはそれ以上の配列類似性が、また、相同性を確立するのに使用され得る。
【0027】
“宿主細胞”は、異種ポリヌクレオチドを導入し得る原核もしくは真核細胞を意味する。ポリヌクレオチドは、あらゆる手段により、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、マイクロインジェクション、形質転換、ウイルス感染などにより細胞に導入し得る。
【0028】
腫瘍成長または腫瘍細胞成長に関連して、“阻害する”または“阻害”なる用語は、原発性もしくは二次性腫瘍の遅延した発症、原発性もしくは二次性腫瘍の遅延した進行、原発性もしくは二次性腫瘍の減少した再発、疾患の二次的影響の遅延した、もしくは減少した重篤度、または停止した腫瘍の成長および腫瘍の退行を意味する。“予防する”または“予防”なる用語は、原発性もしくは二次性腫瘍または疾患のあらゆる二次的影響の完全な阻害を意味する。酵素活性の調節に関連して、阻害は、競合的、非競合的、および競合しない阻害を含む、酵素活性の可逆的な抑制もしくは減少に関する。これは、酵素の反応速度論における阻害剤の効果により、実験的に区別し得て、基本的なMichaelis-Menten反応速度式の観点で解析し得る。競合的阻害は、阻害剤が、活性部位での結合のために、正常な基質と競合する方法で、遊離酵素と結合し得るときに生じる。競合的阻害剤は、酵素と可逆的に反応し、酵素-基質複合体と同様に、酵素-阻害剤複合体[EI]を形成する。
【0029】
2個の核酸配列またはアミノ酸配列に関連して、“配列同一性”なる用語は、特定の比較ウィンドウに渡って最大の一致を示すように並べたとき、同じである2個の配列の残基を意味する。“比較ウィンドウ”は、2個の配列を最適に並べた後に、配列を、隣接する位置の同じ数の参照配列と比較し得る、少なくとも約20個、通常は、約50から約200個、より通常は、約100から約150個の隣接する位置の区分を意味する。比較のための配列のアライメント方法は、当分野で既知である。比較のための最適な配列のアラインメントは、Smith and Watermanの局所相同性アルゴリズム(1981) Adv. Appl. Math. 2:482; Needleman and Wunschのアライメントアルゴリズム(1970) J. Mol. Biol. 48:443; Pearson and Lipmanの相同性検索法(1988) Proc. Nat. Acad. Sci U.S.A. 85:2444; これらのアルゴリズムの電子化実行(Intelligentics, Mountain View, CAによるPC/GeneプログラムのCLUSTAL; およびWisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, Wis., U.S.A.のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、またはTFASTAを含むが、これらに限定されない)により行い得る。CLUSTALプログラムは、Higgins and Sharp (1988) Gene 73:237-244; Higgins and Sharp (1989) CABIOS 5:151-153; Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881-10890; Huang et al (1992) Computer Applications in the Biosciences 8:155-165; およびPearson et al. (1994) Methods in Molecular Biology 24:307-331に十分に記載されている。アライメントはまた、しばしば、検討(inspection)および手動アライメントにより行われる。1つのクラスの態様では、本明細書のポリペプチドは、既定値パラメーターを用いて、BLASTP (またはCLUSTAL、またはあらゆる他の利用可能なアライメントソフトウェア)により測定したとおり、少なくとも、70%、一般には、少なくとも、75%、所望により、少なくとも、80%、85%、90%、95%もしくは99%またはそれ以上、参照ポリペプチドと同一である。同様に、核酸はまた、出発核酸に関連して記載することができ、例えば、それらは、例えば、既定値パラメーターを用いて、BLASTN (またはCLUSTAL、またはあらゆる他の利用可能なアライメントソフトウェア)により測定したとおり、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%またはそれ以上、参照核酸と同一であり得る。
【0030】
“実質的に同一な”核酸またはアミノ酸配列は、標準的なパラメーターで上記のプログラム(好ましくは、BLAST)を用いて、参照配列と少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、核酸またはアミノ酸配列を意味する。配列同一性は、好ましくは、少なくとも、95%、より好ましくは、少なくとも、98%、および最も好ましくは、少なくとも、99%である。例えば、BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列のために)は、既定値として、11のwordlength (W)、10のexpectation (E)、M=5、N=-4、および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列のために、BLASTPプログラムは、既定値として、3のwordlength (W)、10のexpectation (E)、およびBLOSUM62採点マトリックスを用いる(Henikoff & Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915, 1989を参照のこと)。配列同一性割合は、比較ウィンドウにわたり、2個の最適に並べられた配列を比較することにより決定し、ここで、比較ウィンドウ中のポリヌクレオチド配列の部分は、参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。割合は、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が、一致した位置の数を生むべく、両配列中に生じる位置の数を決定し、配列同一性の割合を生むべく、一致した位置の数を、比較ウィンドウの全部の位置の数で割り、その数に100を掛けることにより、計算される。好ましくは、実質的な同一性は、少なくとも約50残基長の配列の範囲にわたり、より好ましくは、約100残基の範囲にわたり存在し、最も好ましくは、配列は、実質的に、少なくとも約150残基にわたり同一である。最も好ましい態様では、配列は、コード領域の全体長にわたり、実質的に同一である。
【0031】
参照タンパク質(例えば、ヘッジホッグ経路メンバー)またはその断片の生物学的活性に関して“調節する”なる用語は、該タンパク質の発現レベルもしくは他の生物学的活性の変化を意味する。例えば、調節は、参照タンパク質の発現レベルの増加もしくは減少、該タンパク質の酵素学的修飾(例えば、リン酸化)、結合特性(例えば、他の分子への結合)、または参照タンパク質のあらゆる生物学的(例えば、酵素学的)、機能的、もしくは免疫学的特性を生じ得る。活性の変化は、例えば、参照タンパク質をコードする1個またはそれ以上の遺伝子の発現の増加もしくは減少、該タンパク質をコードするmRNAの安定性、翻訳効率、または参照タンパク質の他の生物学的活性における変化から生じ得る。変化はまた、参照タンパク質を調節する他の分子(例えば、参照タンパク質をリン酸化するキナーゼ)の活性により得る。
【0032】
参照タンパク質の修飾は、アップレギュレート(すなわち、活性化または刺激)またはダウンレギュレート(すなわち、阻害または抑制)し得る。参照タンパク質のモジュレーターの作用形態は、例えば、タンパク質への結合もしくはタンパク質をコードする遺伝子への結合を介して、直接的であるか、または例えば、参照タンパク質を調節する他の分子への結合および/またはその修飾(例えば、酵素学的に)を介して、間接的であり得る。
【0033】
“対象”なる用語は、ほ乳類、とりわけ、ヒトを含む。それはまた、他の非ヒト動物、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ネコ、イヌ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、サルを包含する。
【0034】
“処置する”または“処置”なる用語は、停止した腫瘍成長、および部分的もしくは完全な腫瘍の退行を意味する。“処置する”なる用語は、疾患(例えば、リンパ腫および骨髄腫)の症状、合併症、もしくは生化学的な症状を予防または遅延するか、症状を緩和するか、または疾患、状態、もしくは障害のさらなる進行を阻害するための、化合物または薬剤の投与を含む。処置は、予防的(疾患の発症を妨害もしくは遅延されるか、または臨床的もしくはその無症状の兆候の発現を妨害する)、または治療的抑制または疾患の発現後の症状の緩和であり得る。
【0035】
参照分子の“変異型”は、参照分子全体、またはその断片に対して、構造および生物学的活性が実質的に類似する分子を意味する。したがって、2個の分子が同様の活性を有するとき、たとえ、分子の1つの組成または二次、三次、もしくは四次構造が他の分子で見出されたものと同一でなかったとしても、あるいはアミノ酸残基の配列が同一でなかったとしても、それらは、本明細書で使用する変異型であると考えられる。
【0036】
III. 使用されるヘッジホッグシグナル伝達経路のアンタゴニスト
本発明の治療法は、リンパ腫細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞の成長および増殖を阻害するために、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアンタゴニストを使用する。これらの方法は、そのような腫瘍細胞をHhシグナル伝達経路の阻害剤に接触させる(インビトロまたはインビボで)ことを含む。ヘッジホッグシグナル伝達経路のさまざまな型の阻害剤またはアンタゴニストを、該方法を実施するのに使用し得る。これらは、直接もしくは間接的に、ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバーの生物学的活性(例えば、酵素学的活性)を調節する有機化合物を含む。それらはまた、ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバーをコードする遺伝子もしくはmRNAを特異的に標的とする薬剤を含む。該方法を実施するのに使用し得る、ヘッジホッグシグナル伝達経路の他のアンタゴニストは、ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバー(例えば、膜貫通受容体)を標的とする抗体もしくは他の結合剤を含む。
【0037】
Hhシグナル伝達経路は、当分野において、十分に特徴づけられている(例えば、Nybakken and Perrimon, Curr. Opin. Genet. Dev. 12, 503-511, 2002; and Lum et al., Science 299: 2039-2045, 2003を参照のこと)。簡潔には、ヘッジホッグリガンドの非存在下で、膜貫通受容体であるPatched (Ptch)がSmoothened (Smo)に結合し、Smoの機能を阻害する。リガンドが存在すると、この阻害から解放され、Smoによるシグナル伝達カスケードの開始が可能となり、その結果、細胞質タンパク質fused (Fu)およびSuppressor of Fused (SuFu)からの転写因子Gliの解放が生じる。不活性状況では、SuFuにより、Gliが核へ移行するのを妨げられる。活性状況では、FuがSuFuを阻害し、Gliが解放される。Gliタンパク質は、核に移行し、標的遺伝子の転写を制御する。
【0038】
本発明の治療法を実施するために、多くのHhシグナル伝達経路コンポーネントを調節し得る。これらは、阻害され得るHhシグナル伝達の正の制御因子および作動され(agonized)得るHhシグナル伝達の負の制御因子を含む。ヘッジホッグ(Hh)(例えば、Ihh、Shh、およびDhhを含む)、Smoothened (Smo)、およびGliは、正の制御因子の例であり、一方で、Patched (Ptch)およびSuppressor of Fused (Fu)は、負の制御因子である。さまざまな種におけるあらゆるHhシグナル伝達経路の遺伝子は、公のおよび私的なデータベース、例えば、GenBank、EMBL、またはFlyBaseから容易に利用可能な配列に基づき、容易にクローン化し得る。
【0039】
ヘッジホッグシグナル伝達経路の多くの阻害剤が、当分野において既知であり、ヘッジホッグシグナル伝達経路の実施で、容易に使用し得る。Hhシグナル伝達アンタゴニストのいくつかは、Hh経路の重要なメンバー、例えば、Smoを標的とする小分子化合物、例えば、シクロパミン、SANT1およびCur61414である(Katoh et al., Cancer Biol Ther. 4:1050-4, 2005; and Williams et al., Proc Natl Acad Sci USA. 100:4616-21, 2003)。例えば、シクロパミンは、直接Smoに結合することにより、ヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害する。Hhシグナル伝達の他のアンタゴニストは、他の分子に作用し、次いで、Hhシグナル伝達に影響を与えることにより、間接的にHh経路を阻害する。例えば、フォルスコリンは、プロテインキナーゼAを活性化し、次いで、Smoの下流のHhシグナル伝達を妨害する(例えば、Yao et al., Dev Biol. 246:356-65, 2002を参照のこと)。Hhシグナル伝達のさらなる有機化合物阻害剤は、例えば、米国特許出願第20060063779号(Gunzner et al., 2006)、米国特許第20050222087号(Beachy, 2005)および米国特許第20010034337号(Dudek et al., 2001)に記載されている。これらのHhシグナル伝達アンタゴニストのすべてを、本発明の治療法を実施するのに使用し得る。いくつかの化合物は、市販で購入し得る(例えば、シクロパミンまたはSANT-1)。他の化合物は、有機化学の分野で通常実施される方法を用いて、容易に合成し得る。
【0040】
ある態様では、使用されるHhシグナル伝達のアンタゴニストは、Hhシグナル伝達経路の活性を特異的に阻害する結合剤である。例えば、リガンドが結合していないとき、膜貫通受容体Ptchは、Smoに結合し、その機能を妨害する。したがって、ヘッジホッグのPtchへの結合を阻害するか、または妨害し得る結合剤は、Hhシグナル伝達を阻害するのに使用し得る。アンタゴニスト抗体もしくは抗体ホモログおよび他の分子、例えば、ヘッジホッグのための天然結合タンパク質の可溶形が有用である。好ましくは、抗ヘッジホッグもしくは抗patched抗体ホモログのようなモノクローナル抗体が、本発明の方法を実施するのに使用される。これらの抗体は、ヘッジホッグがPtchに結合するのを妨害でき、Hhシグナル伝達を活性化しないはずである。ある方法では、ヘッジホッグポリペプチドに特異的に結合する抗体が、使用される。Hhシグナル伝達を阻害するために、ヘッジホッグに対する中和抗体を用いることは、既知であり、当分野で通常実施される。例えば、Ahlgren et al., Curr Biol. 9:1304-14, 1999; Cobourne et al., J Dent Res. 80:1974-9, 2001; Hall et al., Dev Biol. 255:263-77, 2003; およびBerman et al., Nature. 425:846-51, 2003を参照のこと。そのようなヘッジホッグ中和抗体の例は、モノクローナル抗体クローン5E1である。この抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank, University of Iowaから入手し得る。下記の実施例で証明したとおり、該抗体は、リンパ腫細胞のヘッジホッグ誘導性増殖を阻害できる。
【0041】
ある態様では、Ptchに由来する結合剤の可溶形を使用し得る。これらは、可溶性Ptchペプチド、Ptch融合タンパク質、または二作用性Ptch/Ig融合タンパク質を含む。これらの可溶性剤のいくつかは、そのリガンド結合サイトを含むPtch断片の配列と同一であるか、または実質的に同一である配列を有するポリペプチド断片を含む。例えば、ヘッジホッグに結合するPtchの可溶形またはその断片を、ヘッジホッグへの結合に関して、細胞上でPtchと競合させるために使用し得る。さらに、Ptchに結合はするが、ヘッジホッグ依存性シグナル伝達を引き起こさない可溶性ヘッジホッグ突然変異体を、また、本発明の実施において使用し得る。
【0042】
ヒト対象に向けられたいくつかの治療適用は、好ましくはヒト起源である、Hh経路の抗体アンタゴニストを使用する。これらは、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、Fab、Fab'、F(ab')2もしくはF(v)抗体断片、および抗体重鎖もしくは軽鎖のモノマーもしくはダイマーまたはその混合物を含む。キメラ抗体は、ヒンジおよび免疫グロブリン軽鎖、重鎖、またはその両方の定常領域の全部または一部が、ヒト免疫グロブリン軽鎖または重鎖の相当する領域で置換されている、抗体ホモログである。ヒト化抗体は、ヒト定常領域配列を有することに加えて、また、可変領域中の非CDRアミノ酸残基のいくつかまたは全部が、ヒト免疫グロブリン由来の相当するアミノ酸で置換されている、抗体ホモログである。ヒト抗体は、免疫グロブリン軽鎖および重鎖のすべてのアミノ酸がヒト起源に由来する、抗体ホモログである。
【0043】
抗体ホモログは、ジスルフィド結合により結合した免疫グロブリン軽鎖および重鎖からなる、インタクト抗体を含む。それはまた、1個またはそれ以上の抗原(すなわち、ヘッジホッグまたはpatched)に結合可能な、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖およびその抗原結合断片から選択される1個またはそれ以上のポリペプチドを含むタンパク質を包含する。2個以上のポリペプチドからなる抗体ホモログのコンポーネントポリペプチドは、所望により、ジスルフィド結合であり得るか、または共有結合により架橋し得る。抗体ホモログはまた、抗原結合特異性を保持するインタクト抗体の部分、例えば、Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、F(v)断片、重鎖モノマーもしくはダイマー、軽鎖モノマーもしくはダイマー、1個の重鎖および1個の軽鎖からなるダイマーなどを含む。したがって、抗原結合断片、および上記の抗体に由来する完全長ダイマーもしくはトリマーポリペプチドは、また、本発明の実施において有用である。
【0044】
抗ヘッジホッグおよび抗Patched抗体ホモログは、当業者に既知の方法、例えば、Monoclonal Antibodies--Production, Engineering And Clinical Applications, Ritter et al., Eds., Cambridge University Press, Cambridge, UK, 1995; およびHarlow and Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, 3rd ed., 2000を用いて製造し得る。ヘッジホッグまたはpatchedに対するヒトモノクローナル抗体ホモログは、Boemer et al., J. Immunol. 147:86-95, 1991に記載されたとおり、インビトロ感作ヒト脾臓を用いて製造し得る。あるいは、それらは、例えば、Persson et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 88: 2432-2436, 1991; Huang and Stollar, J. Immunol. Methods 141: 227-236, 1991; 米国特許出願番号10/778,726 (公開番号20050008625); ならびに米国特許第5,798,230号および第5,789,650号に記載された方法により、製造し得る。ヘッジホッグまたはpatchedタンパク質に結合する能力を有するヒト化組換え抗体ホモログは、例えば、Riechmann et al., Nature 332: 323-327, 1988; Verhoeyen et al., Science 239: 1534-1536, 1988; Queen et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 86:10029, 1989; およびOrlandi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:3833, 1989に記載された方法を用いて、製造し得る。
【0045】
本発明のある治療法は、ヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害する核酸剤を使用する。典型的には、これらの薬剤は、正のHhシグナル伝達コンポーネント、例えば、ヘッジホッグ、SmoまたはGliをコードする1個またはそれ以上の遺伝子の発現をダウンレギュレートする。これらは、二本鎖RNA、例えば、低分子干渉RNA (siRNA)および低分子ヘアピン型RNA (shRNA)、マイクロRNA (miRNA)、アンチセンス核酸、ならびに相補的DNA (cDNA)を含む。二本鎖RNAによる内在性遺伝子の機能および発現の妨害は、さまざまな生物で、例えば、Fire et al., Nature 391:806-811, 1998に記載されたとおり、線虫で; 例えば、Kennerdell et al., Cell 95:1017-1026, 1998に記載されたとおり、ショウジョウバエで; および、例えば、Wianni et al., Nat. Cell Biol. 2:70-75, 2000に記載されたとおり、マウス胚で示されている。そのような二本鎖RNAは、鋳型の両方向から読まれる一本鎖RNAのインビトロ転写ならびにセンスおよびアンチセンスRNA鎖のインビトロアニーリングにより合成し得る。二本鎖RNAはまた、標的遺伝子が逆方向反復で分離された逆方向にクローン化される、cDNAベクター構築体から合成し得る。細胞トランスフェクション後、RNAが転写され、相補鎖が再アニールする。本発明で、Hhシグナル伝達を阻害するために、Hhシグナル伝達経路の正の制御因子を標的とする二本鎖RNAを、適当な構築体のトランスフェクションにより、細胞(例えば、リンパ腫細胞)に導入し得る。
【0046】
ある態様では、Hhシグナル伝達のsiRNAアンタゴニストが、本発明の実施において使用される。siRNAアンタゴニストは、ヘッジホッグシグナル伝達経路の任意の点で、ヘッジホッグシグナル伝達を調節し得る。例えば、それらは、ヘッジホッグ自身、またはあらゆる他の正のHhシグナル伝達コンポーネント、例えば、SmoまたはGliを阻害することにより、Hhシグナル伝達を制御し得る。SiRNAは、典型的には、約19-30ヌクレオチド長、好ましくは、21-23ヌクレオチド長である。それらは、二本鎖であり、各末端に、短い突出部を含み得る。SiRNAは、当分野で既知の方法を用いて、化学的に合成するか、もしくは組み換え的に製造し得る。一般的なsiRNAの組み換え的製造は、細胞内で効率的に加工され、siRNAを形成する、低分子ヘアピン型RNA (shRNA)の転写を含む。例えば、Paddison et al. Proc Natl Acad Sci USA 99:1443-1448, 2002; Paddison et al. Genes & Dev. 16:948-958, 2002; Sui et al. Proc Natl Acad Sci USA, 8:5515-5520, 2002; Brummelkamp et al. Science, 296:550-553, 2002; Caplen et al., Proc Natl Acad Sci USA 98:9742-9747, 2001; およびElbashir et al., EMBO J. 20:6877-88, 2001を参照のこと。
【0047】
ある態様では、Hhシグナル伝達の核酸アンタゴニストは、二本鎖ヘアピン型RNAである。ヘアピン型RNAは、外因的に合成し得るか、またはインビボで、RNAポリメラーゼIIIプロモーターから転写することにより形成し得る。ほ乳類細胞における遺伝子サイレンシングのために、そのようなヘアピン型RNAを製造し、使用する例は、例えば、Paddison et al., Genes Dev, 2002, 16:948-58; McCaffrey et al., Nature, 2002, 418:38-9; McManus et al., RNA, 2002, 8:842-50; およびYu et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2002, 99:6047-52)に記載されている。好ましくは、そのようなヘアピン型RNAは、細胞内または動物体内で改変され、継続した、および安定的な望む遺伝子の抑制を保証する。siRNAが、細胞内でヘアピン型RNAを加工することにより製造し得ることは、当分野で既知である。
【0048】
IV. 処置される疾患および状態
本発明は、リンパ腫、白血病、および骨髄腫を含む、血液およびリンパ系の癌の予防的もしくは治療的処置の方法を提供する。該方法は、リンパ腫細胞、白血病細胞、または骨髄腫細胞の成長および増殖を阻害するために、ヘッジホッグシグナル伝達経路のアンタゴニストを使用する。リンパ腫は、Bリンパ球に由来するリンパ芽球の悪性腫瘍である。骨髄腫は、骨髄で通常見出される型の血漿細胞からなる悪性腫瘍である。白血病は、造血臓器を含む急性もしくは慢性疾患である。NHLは、循環血液中の白血球の対応する増加の有無にかかわらず、体内の組織中の白血球の異常な増加により特徴づけられ、関与する最も顕著な白血球の型にしたがって分類される。
【0049】
一例として、リンパ腫(例えば、B細胞リンパ腫、形質芽細胞腫、形質細胞腫またはCLL)を患うか、もしくはその発症のリスクのある患者は、本発明の方法で処置され得る。好ましくは、対象は、ヒトである。該方法は、対象にヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害する有効量の薬剤を含む医薬組成物を投与することを伴う。対象は、疾患のあらゆる段階(例えば、Ann Arbor Staging SystemのステージIからIV)にあり、転移を有しているか、もしくは有していない、リンパ腫と診断されたものであり得る。本発明の方法を用いた処置のために適当なリンパ腫は、ホジキン病および非ホジキン病を含むが、これらに限定されない。ホジキン病は、特定のリンパ節で生じ、その後、脾臓、肝臓および骨髄に広がるように見えるリンパ組織(リンパ腫)のヒト悪性疾患である。それは、たいてい、15歳から35歳の個人に生じる。それは、リンパ節、脾臓および一般のリンパ組織の進行的な無痛の拡大により特徴づけられる。標準的なホジキン病は、4つのサブタイプに分類される: (1)結節硬化型ホジキン病(NSHD); (2)混合細胞型ホジキン病(MCHD); (3)リンパ球減少ホジキン病(LDHD); および(4)リンパ球富化標準的ホジキン病(cLRHD)。
【0050】
ある好ましい態様では、本発明の方法は、非ホジキンリンパ腫(NHL)を処置するために使用される。非ホジキン病はまた、リンパ肉腫と呼ばれ、重要な点でホジキン病とは異なり、癌細胞の顕微鏡像に応じて分類されるリンパ腫の集団を意味する。非ホジキンリンパ腫は、(1)増殖遅延型リンパ腫およびリンパ性白血病(例えば、慢性リンパ球性白血病、小リンパ球性白血病、リンパ形質細胞性悪性リンパ腫、濾胞中心細胞リンパ腫、濾胞性小開裂細胞優位型、濾胞性小開裂細胞大細胞混合型、辺縁帯B細胞リンパ腫、毛様細胞白血病、形質細胞腫、骨髄腫、大型顆粒リンパ球白血病、菌状息肉腫、セザリー症候群); (2) 中度浸潤性リンパ腫およびリンパ性白血病(例えば、前リンパ球性白血病、マントル細胞リンパ腫、濾胞中心細胞リンパ腫、濾胞性小開裂細胞優位型、濾胞中心細胞リンパ腫、慢性リンパ球性白血病/前リンパ球性白血病、血管中心性リンパ腫、血管免疫芽球性リンパ腫); (3) 浸潤性リンパ腫(例えば、大細胞型B細胞リンパ腫、末梢T細胞リンパ腫、腸管T細胞リンパ腫、未分化大細胞リンパ腫); および(4) 重度浸潤性リンパ腫およびリンパ性白血病(例えば、B細胞前駆体Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫、バーキットリンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫、バーキット様T細胞前駆体Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫)を含むが、これらに限定されない。本発明の方法は、成人もしくは小児型のリンパ腫のために、およびあらゆる段階、例えば、ステージI、II、III、またはIVのために使用し得る。本明細書に記載の方法は、また、他の型の白血病、例えば、急性リンパ性白血病(ALL)を処置するのに使用し得る。
【0051】
本発明の治療法のいくつかは、特に、Gli3を発現していないリンパ腫または骨髄腫を処置するのに向けられる。下記の実施例に記載したとおり、Gli1およびGli2は、すべてのリンパ腫で発現しているが、検出可能なGli3発現は、シクロパミンによるHh経路阻害に耐性があるリンパ腫で主に存在していることが観察された。正常な脾臓B細胞およびシクロパミン応答性リンパ腫の多くでは、Gli3は発現していない。したがって、Hhアンタゴニストでの処置前に、リンパ腫を患う対象を、最初に、該対象から得たリンパ腫細胞サンプルでGli3の発現を調べ得る。サンプル中のGli3発現レベルを、対象から得た正常な脾臓B細胞中のGli3発現レベルと比較し得る。リンパ腫または骨髄腫サンプルおよびコントロール細胞中のGli3発現レベルは、当業者に既知の方法を用いて、例えば、下記の実施例に記載したとおり、決定し得る。本明細書に記載したHhアンタゴニストでの処置に対する応答の可能性は、リンパ腫または骨髄腫サンプル中の検出可能なGli3発現の欠如または正常なB細胞中のGli3発現レベルよりもあまり高くない発現レベル(例えば、多くても、25%、50%、または100%だけ高い)により示される。本発明の治療法のさらなる工程以外にも、Gli3発現の欠如のためのプレスクリーニングは、患者分類のための方法として、独立して使用し得る。
【0052】
リンパ腫に加えて、上記の方法および組成物はまた、骨髄腫の処置のために適当である。多発性骨髄腫は、しばしば、Ig鎖の分泌を伴う、形質細胞のクローンの蓄積により特徴づけられる致死性の腫瘍である。腫瘍による骨髄浸潤は、貧血、低ガンマグロブリン血症、および顆粒球減少症(付随的な細菌感染と共に)に関連する。異常なサイトカイン環境、主に、上昇したIL-6およびIL-1βレベルは、しばしば、増加した破骨を生じ、その結果、骨痛、骨折、高カルシウム血症を生じる。積極的な化学療法および移植にもかかわらず、多発性骨髄腫は、普遍的に、致死性の血漿増殖性障害である。
【0053】
本明細書に記載した治療法は、他の癌治療と組合わせて使用し得る。リンパ腫を処置する場合に、処置される対象は、同時に、リンパ腫に対する他の処置モダリティを受けているヒトであり得る。対象は、処置レジメン(例えば、化学療法および/または放射線)を受けて、癌が退行しているリンパ腫患者であり得る。対象は、処置レジメン(例えば、外科手術)を受けて、臨床的に、リンパ腫が存在しないように思われるリンパ腫患者であり得る。本明細書に記載したヘッジホッグシグナル伝達アンタゴニストは、処置モダリティ、例えば、化学療法、放射線、および/または外科手術(これらに限定されない)のいずれかと併用して投与され得る。例えば、それらは、1個またはそれ以上の化学治療剤または免疫治療剤、例えば、ビンクリスチン、プレドニゾン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、メトトレキサート、デキサメタゾンおよびロイコボリンと組合わせて使用し得る。それらはまた、他の処置レジメンの実施後に使用し得る。
【0054】
本発明の方法は、原発性、再発性、形質転換性、もしくは難治性の癌の形態を処置するために使用し得る。しばしば、再発性癌を患う患者は、化学療法、放射線療法、骨髄移植、ホルモン療法、外科手術などを含む1個またはそれ以上の処置を受けている。そのような処置に応答する患者の中で、彼らは、安定な疾患、部分的応答(すなわち、腫瘍もしくは癌マーカーのレベルが、少なくとも50%まで減少する)、または完全な応答(すなわち、腫瘍およびマーカーが、検出不能である)を示し得る。これらのシナリオのいずれでも、癌は、その後に再び現れ、癌の再発を示し得る。
【0055】
対象は、まだリンパ腫と診断されていないが、遺伝学的因子および/または環境因子の結果として、進行性リンパ腫にかかりやすいか、またはそのリスクが高いヒトであり得る。対象はまた、リンパ腫の高リスクと関連する特徴、例えば、コンピューター断層撮影により検出された小塊または生検および/もしくは体液中の疑わしい細胞を示すヒトであり得る。
【0056】
対象に依存して、治療的および健康上の利点は、リンパ腫の増殖および/または体内の他の部分へのリンパ腫の拡大(すなわち、転移)を阻害もしくは遅延させること、癌の症状を緩和させること、癌を患う患者の生存可能性を改善すること、対象の余命を延ばすこと、対象の生活の質を改善すること、および/または成功した処置(例えば、外科手術、化学療法または放射線)後の再発の可能性を減少させることに及ぶ。リンパ腫に伴う症状は、首、鎖骨領域、脇、または鼠径部のリンパ節、胸痛、咳、倦怠感、息切れ、発熱、盗汗、体重減少、疲労感、食欲減退、皮膚上の紅斑、および激しい皮膚発疹の1個もしくはそれ以上の無痛の腫れを含み、しばしば、脚/足に影響を与える。
【0057】
リンパ腫の発症および進行に関する、本明細書に記載したヘッジホッグシグナル伝達アンタゴニストの効果は、a)画像化技術、例えば、コンピューター断層撮影(CT)スキャンまたはソノグラムを用いた、腫瘍のサイズおよび形態の変化; およびb)リンパ腫に関するリスクの、生物学的マーカーのレベルの変化を測定することを含む(が、これらに限定されない)、当業者に既知のあらゆる方法によりモニターし得る。
【0058】
V. 医薬組成物および投与
本発明のヘッジホッグアンタゴナイズ化合物は、滅菌条件下、処置を必要とする対象に、単独で投与し得る。より好ましくは、それらは、医薬組成物の有効成分として投与される。本発明の医薬組成物は、典型的には、本明細書に記載した少なくとも1個のヘッジホッグアンタゴナイズ剤の有効量を、1個またはそれ以上の許容されるその担体と共に含む。組成物はまた、上記の第2治療剤、例えば、化学療法剤または他の抗癌剤を含み得る。薬学的に許容される担体は、組成物を増強し得るか、もしくは安定化し得て、または組成物の製造を促進し得る。薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物(例えば、核酸、タンパク質、または他の型の化合物)、および組成物を投与するのに使用される特定の方法により、部分的に決定される。それらはまた、他の成分に適合し、対象に対して有害ではないという意味で、薬学的におよび生理学的に許容され得る。それらは、投与のために望まれる製剤形態、例えば、経口、舌下、直腸、経鼻、または非経腸に依存して、さまざまな形態を取り得る。例えば、抗腫瘍化合物は、安定性または薬理学的特性を増強するために、それらの投与前に、担体タンパク質、例えば、オブアルブミンまたは血清アルブミンと複合体を形成し得る。
【0059】
本発明の医薬組成物のさまざまな適当な製剤が存在する(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000を参照のこと)。薬学的に許容される担体は、とりわけ、シロップ、水、等張生理食塩水溶液、水または緩衝ナトリウムまたは酢酸アンモニウム溶液中、5%デキストロース、油、グリセリン、アルコール、芳香剤、防腐剤、着色剤、デンプン、糖、希釈剤、造粒剤、滑剤、および結合剤を含むが、これらに限定されない。担体はまた、徐放性材料、例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルを単独で、またはワックスと共に含み得る。
【0060】
医薬組成物は、さまざまな形態、例えば、顆粒、錠剤、糖衣錠、座薬、カプセル、懸濁液、軟膏、ローションなどで製造し得る。製剤中の治療上活性な化合物の濃度は、重量で約0.1 - 100%変わり得る。治療製剤は、薬学の分野で既知のあらゆる方法により製造される。例えば、Gilman et al., eds., Goodman and Gilman's: The Pharmacological Bases of Therapeutics , 8th ed., Pergamon Press, 1990; Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Mack Publishing Co., 20th ed., 2000; Avis et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications(Marcel Dekker, Inc.により公開された、N.Y., 1993); Lieberman et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets(Marcel Dekker, Inc.により公開された、N.Y., 1990); およびLieberman et al., eds., Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems(Marcel Dekker, Inc.により公開された、N.Y., 1990)を参照のこと。
【0061】
治療製剤は、処置のために使用し得る、あらゆる有効な手段により送達し得る。投与される特定の抗腫瘍剤に依存して、適当な手段は、経口、経鼻、肺投与、または血流への非経腸(皮下、筋肉内、静脈内および皮内を含む)投与を含む。非経腸投与のために、本発明の抗腫瘍剤は、さまざまな方法で製剤し得る。モジュレーターの水性溶液を、当業者に既知のポリマービーズ、リポソーム、ナノ粒子もしくは他の注射可能持続性製剤に封入し得る。さらに本発明の化合物は、また、リポソームに封入して投与し得る。組成物は、その溶解度に依存して、水性層および脂質層、または一般に、リポソーム懸濁液と呼ばれるものの中に存在し得る。疎水性層は、排他的にではないが一般に、リン脂質、例えば、レシチンおよびスフィンゴミエリン、ステロイド、例えば、コレステロール、多少のイオン性表面活性剤、例えば、ジアセチルホスフェート、ステアリルアミン、もしくはホスファチジン酸、および/または疎水性性質の他の物質を含む。
【0062】
治療製剤は、慣用的に、単位用量形で提供し得て、適当な治療用量で投与される。適当な治療用量は、あらゆる既知の方法で、例えば、最大耐量を決定するためのほ乳種での、および安全用量を決定するための正常なヒト対象での臨床試験により決定し得る。より高量が必要とされる特定の状況下を除いては、本発明の抗腫瘍剤の好ましい用量は、1日あたり、通常、約0.001から約1000 mg、より通常は、約0.01から約500 mgの範囲内にある。抗腫瘍剤の好ましい投与用量および形態は、処置する医師により個々に検討され得る因子、例えば、状態または処置される状態、投与される組成物の選択(特定の抗腫瘍剤、年齢、体重、および個々の対象の応答、対象の症状の重篤度、ならびに選択された投与経路を含む)に依存して、異なる対象のために変わり得る。原則として、投与される抗腫瘍剤の量は、有効にかつ確実に、対象の状態を予防するか、もしくは最小化する、最小用量である。したがって、上記用量範囲は、一般的な手引きおよび本明細書における教示のための支持を提供することを意図するものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0063】
実施例
下記の実施例は、本発明を例示するものであり、本発明を限定するものではない。
【0064】
実施例1 一般的な材料および方法
遺伝学的に改変されたマウスおよび初代細胞の培養: Eμ-Mycマウス(Adams et al., Nature 318: 533-53824, 1985)、Cdkna -/-マウス(Serrano et al., Cell.85:27-3725, 1996)、Bax -/-マウス(The Jackson Laboratory, Bar Harbor, Maine)、カスパーゼ3 -/-マウス(The Jackson laboratory)、p53 -/-マウス(The Jackson Laboratory)およびBcl2 tgマウス(The Jackson laboratory)を、記載したとおりに維持し、遺伝子型を決定した。Eμ-MycマウスおよびCdkn2a-/- マウスを、可視化リンパ腫の進行または15%以上の体重減を含む疾患の兆候に関してモニターした。疾患の末期にあるマウスを犠牲にし、骨髄、脾臓およびリンパ節を抽出し、リンパ腫細胞を、Witlock/Witte培養条件下、増殖させた。増殖を維持するために、細胞を、2-3週の培養後、Cdkn2a-/-マウス由来の骨髄間質上に移した。記載した遺伝学的背景を有するリンパ腫の作製のために、p53 -/- マウス、カスパーゼ3 -/- マウス、Bax-/- マウス、Cdkn2a -/- マウスおよびBcl2 tgマウス由来の骨髄を抽出し、pMSCV c-Myc IRES GFPを過剰発現させた。形質転換リンパ球の増殖は、Witlick/Witte培養条件下で行い、リンパ腫は、Cdkn2a -/- マウス由来の間質上で維持した。
【0065】
細胞培養実験: リンパ腫細胞に、pMSCV IRES puro-luc配列を含むレトロウイルスを感染させ、7日間、ピューロマイシン耐性Cdkn2a -/- 間質上で、ピューロマイシンを用いて選択した。シクロパミンは、Toronto Research Chemicalsから入手し、SANT-1は、EMDBioscienceから入手した。両方とも、DMSO中、x 1,000ストックとして溶解させた。SCFは、RDIから入手し、すべての他のサイトカインは、R&D systemsから入手した。5E1抗ShhNモノクローナル抗体は、developmental hybridoma bankから入手し、10 μg/mlの濃度で使用した。上清でのサイトカイン刺激およびShh阻害のために、リンパ腫を、96ウェルプレートに、ウェルあたり20,000細胞の濃度で播種し、生存細胞のミトコンドリア活性を、記載したとおり、Alamar Blue Assayで測定した。
【0066】
間質上でのShh経路阻害のために、96ウェルあたり6200個の間質細胞を播種した。24時間後、20,000個のルシフェラーゼリンパ腫細胞を、間質細胞の上から播種し、2時間後、化合物またはDMSOを加えた。ルシフェラーゼアッセイは、記載したとおり、Bright-glow試薬で行った。Hh経路のメンバーを過剰発現する細胞を作製するために、リンパ腫細胞に、Smo、Smo 535、Smo 562、Gli1およびFused - pMSCV IRES GFP構築体を感染させ、次いで、GFPポジティブ細胞を選別した。
【0067】
免疫組織化学: 単一色DAB-免疫ペルオキシダーゼ染色を、記載したとおり行った。抗体は、Santa Cruz Biotechnologies (Shh抗体、N-19のために)、NeoMarkers (Ki67抗体のために)およびPromega (PARP抗体のために)から入手した。すべての染色は、シクロパミンまたはビヒクルコントロールでの処理の3日後、C57Bl6マウスからのパラフィン切片で行った。
【0068】
ウエスタンブロット: ホールセルライセートを、2% SDS/50 mM TrisHCl、pH8で、超音波処理した。Shh-N、c-Myc、Smo、Gli1に関して、ウサギまたはヤギポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットを、記載したとおり行った。Shh-N、c-MycおよびSmo抗体は、Santa Cruz Biotechnologyから入手し、Gli1 (ab7523)抗体は、Abcam Inc. (Cambridge, MA)から入手した。
【0069】
RT-PCR: 全細胞RNAをDNaseで処理し、逆転写し、55℃のアニーリング温度で33サイクル増幅した。使用したプライマーは、Integrated DNA Technologies (Coralville, IA)から入手した。
【0070】
マウス実験: 6から8週齢のBlack6マウスに、1 Mioルシフェラーゼリンパ腫細胞を注射した。シクロパミン(25 mg/kg/d、50 mg/kg/d、100 mg/kg/d)またはビヒクルコントロールでの処理を、2日で、またはリンパ腫がすでに進行した後で開始した。生物発光を、ウミシイタケルシフェラーゼの注射で測定した。
【0071】
実施例2 Hhシグナル伝達は、インビトロで、リンパ腫細胞の生存および成長のために必要とされる
我々は、悪性造血 (haematopoiesis)、とりわけ、悪性リンパ腫の進行および維持に関与しているか否かを調べた。我々は、c-Myc癌遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウス(Eμ-Mycマウス; Adams et al., Nature 318: 533-538, 1985)から単離したリンパ腫細胞、およびCdkn2a-/-マウス(腫瘍抑制遺伝子p16INK4aおよびp19ARFの欠損; Serrano et al., Cell 85:27-37, 1996)から単離したリンパ腫細胞を使用した。これらの細胞を、リンパ腫生成のための遺伝学的改変モデルとして使用した。骨髄、リンパ節および脾臓を、疾患の臨床的兆候、例えば、肥大したリンパ節またはそれらの最初の重量から15%以上の体重減を示すマウスから抽出した。リンパ腫進行(development)は、Eμ-mycマウスで8から20週齢、Cdkn2a-/-マウスで15から30週齢でそれぞれ生じた。リンパ腫細胞を、3週間、疾患マウスから単離した骨髄間質上で増殖させ、次いで、培養での維持された増殖のために、Cdkn2a-/-マウスから単離した骨髄間質に移した。
【0072】
全部で34個のMyc-ポジティブ(Myc-リンパ腫)および8個のCdkn2a-/-原発性リンパ腫細胞培養を確立した。フローサイトメトリー(B220、CD19、CD138)、BCL6免疫組織化学およびH&E染色によるEμ-Mycリンパ腫の特徴づけは、29.4%のB細胞リンパ腫(10/34)、35.2%の形質芽細胞腫 (12/34)、29.4%の形質細胞腫 (10/34)および5.8%の混合リンパ腫(2/34)を示した。Cdkn2a-/-リンパ腫は、50% (4/8)の形質芽細胞腫および50% (4/8)の形質細胞腫として特徴づけられた。これらの結果は、同じ遺伝学的病変が、おそらく、疾患誘導の間に必要とされる二次的突然変異に依存して、リンパ球発生のさまざまな段階に由来するヒトリンパ腫に非常によく似た複数の異なるリンパ腫表現型を生じることを示す。これらのリンパ腫のインビトロ増殖および生存は、間質細胞を除去した細胞における、24-36時間以内のアポトーシスの急速な誘導により示されたとおり、間質細胞層の存在に依存した。興味深いことに、間質細胞層の非存在下で、リンパ腫細胞の増殖は、間質細胞により産生された上清の添加により、少なくとも2-3日間維持され得て、これは、間質細胞により分泌された可溶性因子がこれらの細胞の増殖および生存に関与することを示す。
【0073】
間質細胞層の非存在下で、リンパ腫の生存および増殖を維持するのに十分な、間質細胞により分泌される増殖刺激を同定するために、さまざまな分化段階のリンパ腫を、複数の異なる増殖因子の存在下で増殖させた。IL-6またはIL-7での刺激および間質細胞の同時の除去は、形質細胞腫 (IL-6)またはB細胞リンパ腫(IL-7)ならびに混合リンパ腫(IL-6およびIL-7)の生存を促進できたが、形質芽細胞腫 (早期形質細胞)では促進できなかった(図1A)。リンパ球増殖における効果は、IL-3、IL-11、GM-CSF、SCFまたはWnt3aでの刺激後には見られなかったが、組み換えShhまたはIhhを用いた刺激は、間質細胞除去の2日後、IL-6およびIL-7よりも生存リンパ腫細胞の数を増加させることができた(図1A)。Shh刺激は、間質細胞層の非存在下で2日間、Eμ-Mycリンパ腫細胞の増殖を誘導した(図1B)。この効果は、Hh特異的中和抗体5E1を用いたHhとその受容体PTCの結合の破壊によるか、またはシクロパミン(SMOに特異的に結合し、その不活性コンフォメーションを安定化させるアルカロイド)でのHhシグナル伝達の妨害により阻害された(図1B)。ヘッジホッグ経路の阻害はまた、間質細胞から産生された上清の存在下、間質細胞を除去して培養したリンパ腫細胞の増殖を阻害した(図1C)。これらの結果は、Hhファミリーのメンバーが、悪性リンパ腫細胞の増殖および生存を維持するために、間質細胞により分泌される重要な増殖因子であり得ることを示す。
【0074】
3個の異なるマウス株(BALB/c、C57Bl6、Cdkn2a-/-)由来の骨髄間質細胞の解析は、Hhタンパク質の発現を示した(図1D)。RTPCRによるさらなる解析は、Ihh RNAの発現を示したが、ShhおよびDhhのmRNAは、間質細胞で検出できなかった(図1C)。これらの結果と共に、リンパ腫細胞は、それらの分化および起源(Eμ-MycまたはCdkn2a-/-)に関係なく、3個すべての異なる間質細胞層上で培養でき、同様の増殖率が観察された(図1F)。
【0075】
実施例3 Hh経路の阻害は、インビトロで、リンパ腫細胞のアポトーシスを誘導する
Hhシグナル伝達経路が、インタクト間質細胞層上で増殖するリンパ腫細胞の生存および増殖に関与していることを確かめるために、リンパ腫細胞に、ピューロマイシン/Luc融合カセットを発現するレトロウイルスを用いて、ルシフェラーゼを導入した(were luciferased)。構成的にルシフェラーゼを発現する2x10E4個のリンパ腫細胞を、Cdkn2a-/-マウスから単離した間質細胞層(ルシフェラーゼを発現しない)を含む、各々の96ウェルに加えた。全部で34個の個々のEμ-Myc-リンパ腫および8個のCdkn2a-リンパ腫を試験した。ルシフェラーゼアッセイを、細胞生存および増殖のための読み出しとして行い、結果はまた、光学顕微鏡により提供された。図2Aで示したとおり、5 μMの濃度でシクロパミンを用いた代表的なMyc-リンパ腫 (Myc-Ly4)の処理の結果、48時間以内に、間質細胞層からのリンパ腫の完全な除去が生じた(図2A)。この結果は、骨髄間質細胞により分泌され、次いで、細胞内でSMOおよびHhシグナル伝達カスケードの活性化を引き起こすHhファミリーメンバーが、細胞のインビトロ増殖に関与し得ることを示す。コントロールとして、間質細胞層の増殖および生存が、シクロパミン処理により影響を受けないことが観察された(図2A)。
【0076】
さらに、リンパ腫細胞(Myc-Ly6)の生存を、シクロパミン、SmoアンタゴニストSANT-1またはシクロパミンと類似構造を有するが、smoothened結合活性は有さないアルカロイドであるトマチジンを用いた処理の48時間後、決定した。生存リンパ腫細胞を示すルシフェラーゼ活性は、シクロパミンおよびSANT-1で処理した細胞で用量依存的な方法で減少したが、トマチジンで処理した細胞では減少しなかった(図2B)。シクロパミンに関する50%の最大阻害のために必要とされる濃度(IC50)は、多くの応答性リンパ腫で、0.5から2 μMであり、SANT-1に関するIC50は、1-3 μMであった。間質細胞増殖は、読み出しとしてAlamar Blueを用いて、独立した実験で証明されたとおり、これらの化合物により阻害されなかった(図2B)。
【0077】
アポトーシス誘導のための測定として、アネキシンVを用いたフローサイトメトリー解析は、5 μM シクロパミンによるリンパ腫のHh経路阻害が、12時間以内に、50%以上のアポトーシスの劇的な増加を誘導し、処理の48時間後には、ほぼ100%のアポトーシス細胞を誘導することを示した(図2C)。アポトーシス誘導に加えて、我々はまた、残りの生細胞の細胞周期分布における変化、特に、処理の12時間後、20.4 %から13.3%までのG2/M期の減少を検出できた(図2D)。これらの結果をさらに確認するために、Eμ-MycおよびCDKN2a-/-マウスから単離した多くのリンパ腫を、シクロパミン応答性に関して試験した。表1は、試験されたすべてのリンパ腫培養の応答率を要約する。シクロパミン感受性は、5μMの濃度で、80%成長阻害以上のものとして定義された。全体のEμ-Myc-リンパ腫の74.1%およびCDKN2a-/-マウスから単離したリンパ腫の50%が、Hh経路阻害に感受性があった。Eμ-Mycマウス由来のB細胞リンパ腫および形質芽細胞腫は、最大の応答率であり、各々、80% (8/10)、次いで、形質細胞腫 66% (6/9)および混合リンパ腫50% (1/2)であった(表1)。
【0078】
表1 シクロパミン処理に対するリンパ腫培養の応答率
Myc-リンパ腫: 表現型およびシクロパミン応答
【表1】

【0079】
Ink4a/Arf-/- -リンパ腫: 表現型およびシクロパミン応答
【表2】

【0080】
さらに、Eμ-MycおよびCDKN2a-/-ポジティブリンパ腫でのHh/SMOシグナル伝達の役割を立証するために、我々は、リンパ腫細胞自身におけるHh経路メンバーの発現を決定した。Hh経路のすべての重要なメンバー(Smo、Ptc1、Ptc2、Gli1、およびGli2)の転写産物は、B細胞リンパ腫、形質芽細胞腫および形質細胞腫で発現していた(図2E)。Gli1およびPtchは、Hh経路自身の直接的な標的遺伝子を示し、Hhシグナル伝達による転写レベルで制御される。したがって、多くの原発性リンパ腫細胞培養で観察されたGli1およびPtchの高発現は、これらのリンパ腫細胞におけるHh経路活性化を示唆した。リンパ腫細胞でのシクロパミンによるHhシグナル伝達の阻害の結果、これらの細胞で、アクチンコントロールと比較して、24時間以内に、検出可能Gli1タンパク質の減少を生じた(図2F)。Ptch1転写レベルは、経路阻害の18時間以内に10倍減少した(図2G)。HipおよびCyclin D1のようなHh経路の他の標的遺伝子は、また、リンパ腫細胞の多くで検出し得る。Tリンパ球経路の他の既知の下流の標的であるBcl2は、シクロパミン処理後、Myc-リンパ腫でダウンレギュレートされた(図2F)。興味深いことに、Gli1およびGli2は、すべてのリンパ腫に存在したが、Gli3は、主に、シクロパミンによるHh経路阻害に耐性があるリンパ腫で発現していた(図2E)。3個すべてのGliタンパク質は、異なる時期および組織特異的発現様式を有する特別な機能を進化させた。直接的な転写Hh標的遺伝子を示すGli1とは異なり、Gli2およびまたGli3は、それらのN末端抑制ドメインの修飾を介してHhシグナル伝達により活性化される、潜在的な転写制御因子であると考えられる。
【0081】
分子解析は、Gli3 (および、Gli2)が、タンパク質分解的に、Gli1プロモーターを抑制する抑制型(Gli3Rep)に加工され得て、一方で、Gli3の全長型(FL-Gli3)は、Shhシグナルに応答して、Gli1プロモーターの活性化を直接仲介することを示す。ヘッジホッグ経路の活性化は、Gli3の抑制型への切断を阻害するが、また、組織型および状況に依存して、Gli3発現をダウンレギュレートし得る。Gli3発現およびその機能の制御は、十分に理解されておらず、現在までのところ、Bリンパ球におけるその役割に関するデータが存在しない。脾臓B細胞およびシクロパミン応答性リンパ腫の多くでは、Gli3の発現が見られないが、すべてのシクロパミン耐性リンパ腫では、顕著な発現が見られることを証明する我々の結果は、このリンパ腫のサブクラスにおける異常な経路の活性化を示す。最後に、トランスジェニックMycマウスにおいて、リンパ腫進行のために重要であることが示された、転写抑制因子のポリコーム群のメンバーであるBmi-1は、リンパ腫型、またはヘッジホッグ経路阻害に対する応答性とは無関係に、脾臓から抽出されたB細胞と比較して、すべてのリンパ腫においてアップレギュレートされた。
【0082】
実施例4 Hh経路のアップレギュレーションは、Mycリンパ腫細胞株におけるアポトーシスを阻害する
我々は、リンパ腫細胞の成長および生存におけるシクロパミンの観察される効果が、特定のHh経路阻害により仲介されるのか、またはオフターゲット効果を反映するものであるのかを調べた。いくつかの異なる経路のメンバーを、シクロパミンにより誘導される経路の阻害ならびに成長および生存の阻害をレスキューする試みで、2種類のシクロパミン感受性リンパ腫細胞株(1つは、B細胞リンパ腫および1つは、形質芽細胞腫)に過剰発現させた。両リンパ腫でのSmo wtおよび2個の構成的に活性なSmo突然変異体、SmoW535LおよびSmo A562G37の過剰発現は、各々、1から3、3.5および4.5 μMまでのシクロパミンに関するIC50値のわずかな増加を生じた(図3Aおよび3B)。同様の効果は、Smo結合のためにシクロパミンと競合することが既知のSmoアゴニスト、プルモルファミン(purmorphamine)を用いた細胞の同時刺激で見られた(Sinha et al., Nat Chem Biol. 2:29-30, 2006)。下流のエフェクターFusedの過剰発現は、シクロパミンによるアポトーシス誘導のほとんど完全な阻害を生じ、Gli1過剰発現は、シクロパミン処理に対するMyc-Ly6の部分的な耐性を生じ(図3Aおよび3B)、両方の場合に、IC50は、10 μMを超えて遷移した。同様の効果は、いくつかの独立した実験で、両リンパ腫で見られた。これらのデータは、リンパ腫細胞の成長および生存におけるシクロパミンの効果が、ヘッジホッグ経路の阻害に直接関与していることを示す。
【0083】
ヘッジホッグ経路は、さまざまな細胞型の細胞周期およびアポトーシスの制御において重要な役割を果たすことが示された。さらに、いくつかの証拠が、Hhシグナル伝達が、BMI-1の発現を制御し、次いで、Ink4a/Arf遺伝子座を抑制することにより、幹細胞自己複製ならびに増殖性および発癌性老化(oncogenic senescence)として重要な過程に影響を与えることを示す。どの特定の経路が、リンパ腫細胞で、Hhシグナル伝達を介した成長および生存の制御に関与しているのかをよりよく理解するために、リンパ腫細胞培養を複数の異なる遺伝学的背景で作製し、アポトーシスもしくはフェイルセーフ(failsafe)経路を修飾した。wt C57BL/6、Bcl2トランスジェニック、Bax-/-、カスパーゼ3-/-、CDKN2a-/-およびp53-/-マウスから抽出した骨髄に、pMSCV-Myc-GFPを導入し、形質転換したリンパ球培養を、IL-7の非存在下、Whitlock/Witte培養条件を用いて取得した。正常なC57BL/6マウス由来の骨髄を除く、試験されたすべての遺伝学的背景は、IL-7の非存在下で成長する形質転換したリンパ球細胞培養を生じた。確立されたすべてのリンパ球細胞培養は、明るいGFP蛍光を示し、高められたMycレベルは、ウエスタンブロッティングにより検出可能であった。原発性リンパ腫から確立された培養と同様に、レトロウイルス導入により形質転換されたリンパ球を、より長期間の培養のために、CDKN2a-/-マウスの骨髄間質に移した。
【0084】
Myc/p53-/-リンパ腫細胞およびMyc/Cdkn2a-/-リンパ腫細胞のシクロパミンでの処理は、48時間以内にアポトーシスを誘導した(図3Cおよび3D)。それとは著しく対照に、生存細胞の減少は、Myc/Bcl2+リンパ腫細胞で検出されなかった。Myc/Bax-/-細胞およびMyc/カスパーゼ3-/-細胞は、シクロパミン誘導性アポトーシスに対する部分的な耐性を示した(図3D)。間質除去の結果、Myc/p53-/-リンパ腫細胞およびMyc/Cdkn2a-/-リンパ腫細胞でアポトーシス誘導を生じ、一方で、Myc/Bcl2+リンパ腫細胞は、影響を受けなかった(図3E)。これらの結果は、間質除去後、またはシクロパミン処理のリンパ球で見られるアポトーシス性細胞死が標準的なミトコンドリアアポトーシス経路を介して仲介されており、Ink4/Arf遺伝子座またはBmi1を介したp53の制御を含まないことを示す。
【0085】
実施例5 Hh経路の阻害は、インビボで、リンパ腫の拡張を停止させる
上記のデータは、インビトロ培養条件下で、原発性リンパ腫細胞の成長および生存に関するHhシグナル伝達の重要性を示す。インビボでのリンパ腫成長は、主に、リンパ器官、例えば、脾臓、リンパ節および骨髄に限定される。これらすべての器官の間質は、ShhまたはIhhを発現しており、したがって、インビボでのリンパ腫の成長および拡張は、また、Hhシグナル経路により制御され得る。
【0086】
マウスでのリンパ腫成長および拡張に関するHh経路の重要性を証明するために、我々は、同系C57BL/6マウスに、ルシフェラーゼを発現する1e6リンパ腫細胞を注射した。注射の2日後、マウスを、ビヒクルコントロールまたはシクロパミン(100、50または25 mg/kg/日)で、最大21日間、皮下注射により処理した。ルシフェラーゼレベルを、週に2回、生物発光画像法により測定した。注射の12日後、コントロール群は、注射したすべてのマウスのリンパ節および脾臓で、高い発光を示した(図4A)。50および100 mg/kg/日のシクロパミン用量で処理したマウスは、疾患の最小の兆候のみを示した(図4A)。コントロール群のマウスの平均生存は、16日であったのに対して、シクロパミンで処理したマウスの生存は、最も低い用量群(25 mg/kg/日)で20日まで、50および100 mg/kg/日のシクロパミン用量で30〜35日まで高められた(図4B)。2つのさらなるリンパ腫細胞(1つは形質芽細胞腫および1つはB細胞リンパ腫)は、同様の条件下、インビボで応答性を示したが、インビトロでシクロパミンに対する内在的な耐性を示し、関連するGli3の過剰発現を有する1つのリンパ腫は、100 mg/kg/日で、生存曲線により示されたシクロパミン処理に対する最小の応答のみを示した(図4C)。
【0087】
我々は、次に、確立されたリンパ腫で、Hhシグナル伝達の重要性を決定することを望んだ。したがって、別の実験において、可視化シグナルをすべてのマウスから検出し得る時点で、リンパ腫細胞(Ly9)の注射の10日後、シクロパミン処置を開始した。1日2回、3日間の50 mg/kgでのシクロパミン処置は、コントロール群と比較して、マウスからの発光をかなり減少させ、脾臓の浸潤を著しく減少させ、リンパ節および他の器官におけるリンパ腫塊を減少させた(図4D)。3日間のシクロパミン処置後の脾臓重量は、ビヒクルコントロール群と比較して、約50%まで減少し(図4E)、処理マウスにおける肝臓重量は、平均900から1000 gの重量まで減少した(図4E)。ビヒクルおよびシクロパミン処理マウスから単離した脾臓の組織病理学解析は、シクロパミンで処理した3日後、脾臓におけるリンパ腫の減少を示した(図4F)。Ki67染色は、ビヒクル群と比較して、脾臓における高増殖性細胞のかなりの減少を示し、PARP染色は、白脾髄の周辺領域でアポトーシス誘導を示した(図4F)。
【0088】
本明細書に記載した実施例および態様は、例示のみを目的とするものであり、それに関連するさまざまな修飾または変化が当業者に示されており、それは、本願の精神および範囲内に、ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれるべきであると理解される。
【0089】
本明細書中に引用されたすべての公開、特許、特許出願、ポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列受託番号ならびに他の文書は、これらの文書の各々が、個々に示されるのと同じ程度まで、それらの全体をあらゆる目的のために、引用により本明細書の一部とする。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】

【図2G】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図4F】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンパ腫または骨髄腫細胞のアポトーシスを誘導するための方法であって、細胞をヘッジホッグシグナル伝達経路を阻害する薬剤に接触させることを含む、方法。
【請求項2】
細胞が、対象に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞が、Gli3を発現していない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
薬剤が、ヘッジホッグシグナル伝達経路を特異的に阻害する有機化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
化合物が、シクロパミンまたはフォルスコリンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
薬剤が、ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバーに特異的に拮抗する核酸剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバーが、Smoothened (Smo)、Suppressor of Fused (SuFu)、または転写因子Gliである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
薬剤が、低分子干渉RNA (siRNA)、低分子ヘアピン型RNA (shRNA)、マイクロRNA (miRNA)、アンチセンス核酸、および相補的DNA (cDNA)からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
siRNA剤が、約19-30ヌクレオチド長である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該siRNAが、約21-23ヌクレオチド長である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
該siRNAが、二本鎖である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
薬剤が、膜貫通受容体Ptchに特異的に結合するアンタゴニスト抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
抗体が、モノクローナル抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
対象のリンパ腫もしくは骨髄腫を処置するか、または改善させるための方法であって、対象にヘッジホッグシグナル伝達経路をダウンレギュレートする有効量の薬剤を含む医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項15】
対象のリンパ腫もしくは骨髄腫が、Gli3を発現していない、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
薬剤が、ヘッジホッグシグナル伝達経路を特異的に阻害する有機化合物である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
化合物が、シクロパミンまたはフォルスコリンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
薬剤が、ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバーに特異的に拮抗する核酸剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
ヘッジホッグシグナル伝達経路のメンバーが、Smoothened (Smo)、Suppressor of Fused (SuFu)、または転写因子Gliである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
薬剤が、低分子干渉RNA (siRNA)、低分子ヘアピン型RNA (shRNA)、マイクロRNA (miRNA)、アンチセンス核酸、および相補的DNA (cDNA)からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
薬剤が、膜貫通受容体Ptchに特異的に結合するアンタゴニスト抗体である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
抗体が、モノクローナル抗体である、請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2010−504965(P2010−504965A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530318(P2009−530318)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/038171
【国際公開番号】WO2008/039200
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(503261524)アイアールエム・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (158)
【氏名又は名称原語表記】IRM,LLC
【Fターム(参考)】