説明

リン光発光材料

本発明は、少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有する新規なIr錯体を含む発光材料に関する。このような発光材料は、Cl原子を有さないフェニルピリジン配位子を有する別のIr錯体、さらにはBr原子またはF原子などのCl以外のハロゲン原子を有するフェニルピリジン配位子を有するIr錯体よりも大幅に向上したフォトルミネッセンス量子収率を有することが分かり、その結果、特に発光デバイスの効率が改善されることが分かった。本発明はさらに、このような発光材料の使用、およびこのような発光材料を含む有機発光デバイスに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、参照により本明細書に援用される、2008年11月12日に出願された欧州特許出願公開第08168890.5号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、発光材料、そのような材料の使用、および電気エネルギーを光に変換することができる発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
最近では、種々の表示装置、特に有機材料のエレクトロルミネッセンスに基づく表示装置の研究開発が活発に行われている。
【0004】
エレクトロルミネッセンス(EL)は、熱によらずに光を発生させるものであり、基体に電界を印加することにより得られ、一方、フォトルミネッセンスは、光の吸収、および励起状態の放射崩壊による緩和に起因する活性材料からの光の放射である。ELの場合、励起は、外部回路の存在下で有機半導体に注入された、符号が互いに反対の電荷キャリア(電子および正孔)の再結合によって行われる。
【0005】
多くの有機材料は、一重項励起子からの蛍光(すなわち、対称許容過程によるルミネッセンス)を示す。この過程は同じ対称状態の間で起こるので、非常に効率的となりうる。一方、励起子の対称性が基底状態の対称性と異なる場合は、励起子の放射緩和が許容されず、ルミネッセンスは遅く非効率的となる。基底状態は通常は反対称であるため、三重項の崩壊によって対称性が破れる。したがって、この過程は許容されず、ELの効率は非常に低くなる。したがって、三重項状態に含まれるエネルギーの大部分は無駄となる。
【0006】
対称禁制過程によるルミネッセンスはリン光と呼ばれる。特徴としては、リン光は、遷移の確率が低いため励起後に最長数秒間持続することができ、急速に減衰する蛍光とは対照的である。
【0007】
リン光材料の利用が成功すれば、有機エレクトロルミネッセンスデバイスが非常に期待できるものになる。たとえば、リン光材料の利用の利点の1つは、すべての励起子(EL中の正孔および電子の結合によって形成される)は、リン光デバイスの一部では三重項が主となっているが、エネルギー移動およびルミネッセンスに関与することができるからである。このことは、リン光発光自体によって、または蛍光過程の効率を改善するためにリン光材料を使用することによってのいずれかで実現することができる。
【0008】
それぞれの場合で、発光材料によって、3つの原色、すなわち、赤色、緑色、および青色の1つに対応する選択されたスペクトル領域付近を中心とする比較的狭い帯域で、エレクトロルミネッセンス発光が得られることが重要である。これは、有機発光デバイス(OLED)中でこれらを着色層として使用することができるようにするためである。
【0009】
発光デバイスの性質を改善する手段の1つとして、フェニルピリジン配位子を有するイリジウム錯体からの発光を利用した発光デバイスが報告されている。
【0010】
(特許文献1)には、有機エレクトロルミネッセンスに用いる青領域に発光色を有するリン光性化合物を用いた高輝度有機エレクトロルミネッセンス素子が開示されている。このようなエレクトロルミネッセンス素子の場合、2つのアリール環平面のねじれ角(2面角)が9°以上90°未満である炭素環または複素環を含む特定構造のビアリール配位子を有する金属錯体が発光層に含まれる。
【0011】
Samsung SDI Co Ltd.に譲渡された(特許文献2)および(特許文献3)には、高効率でリン光を発するシクロメタレート化遷移金属錯体が開示されており、これは400nm〜650nmの波長範囲で発光することができ、緑色発光材料および赤色発光材料とともに使用すると白色光を発することもできる。
【0012】
(非特許文献1)には、カルバゾール系のバンドギャップの大きなポリマーホスト(ポリ−(9−ドデシル−3−ビニルカルバゾール);CP0)に共有結合したイリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジナト−N,C2’]ピコリネート(FIrpic)が開示されている。CPポリマーを発光層として使用したELデバイスは、効率的なエネルギー移動およびその後のFIpic中の励起子閉じ込めによって、他にないFIrpic発光を示し、1450cd/mもの高さの輝度が2.23cd/Aの発光効率で得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−109758号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/099446号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/214576号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】You et al.,”Blue Electrophosphorescence from Iridium Complex Covalently Bonded to the Poly(9−dodecyl−3−vinylcarbazole):Suppressed Phase Segregation and Enhanced Energy Transfer,”Macromolecules,39(1):349−356(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、当技術分野の上記発光材料は十分な発光効率を示していない。さらに、これらは純粋な色を示さず、すなわち、これらの発光帯は選択されたスペクトル領域において幾分広い。したがって、現在、有機エレクトロルミネッセンスデバイス中に使用することができる良好な色座標を有する効率的で持続性のある発光体はほとんどない。したがって、高効率のルミネッセンスおよび狭いスペクトル領域を有するリン光発光材料の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、本発明の目的の1つは、後述のように、少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子がIrに付いたIrを提供することである。本発明のIr錯体は、好都合には量子収率が0.6を超え、好ましくは0.7を超え、さらにより好ましくは0.8を超え、さらには0.9を超える
【0017】
本発明の別の目的は、上記錯体を含む発光材料、および上記発光材料を含む有機発光デバイスを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機発光デバイスが収容された表示装置の断面図である。
【図2】式II、IX、およびXの錯体の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示している。
【図3a】少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体の発光特性。
【図3b】少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体の発光特性。
【図3c】少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体の発光特性。
【図3d】少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体の発光特性。
【図3e】少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体の発光特性。
【図3f】少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体の発光特性。
【図3g】少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体の発光特性。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のIr錯体は、一般に非イオン性(または中性)である。ほとんどの場合、本発明のIr錯体は単核である。これは、錯体がただ1つのみのIr原子を含有することを意味する。
【0020】
非常に多くの場合、本発明のIr錯体は、少なくとも2つのハロゲン原子で置換され、その1つがCl原子である第1のフェニルピリジン配位子を有する。その場合、2つのハロゲン原子Xが式(Ia):
【化1】

の通りの配置であると好都合である。
【0021】
本明細書において使用されるフェニルピリジンという用語は、2−フェニルピリジンを意味することを意図している。
【0022】
一実施形態において、本発明は、以下の式Ib:
【化2】

(式中:
およびRは、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−F;−Br;−NO;−CN;−CONR;−COOR;1〜20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキル基もしくはアルコキシ基もしくはジアルキルアミノ基であって、1つ以上の非隣接−CH−基が、−O−、−S−、−NR−、−COO−、または−CO−で置換されていてもよく、1つ以上の水素原子がハロゲンで置換されていてもよい基;あるいは、4〜14個の炭素原子を有し、1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよいアリール基またはヘテロアリール基またはアリールオキシ基であり、同じ環上または2つの異なる環上のいずれかにある複数のRおよびRが一緒になって、単環式または多環式の環、任意選択により芳香環を形成することができ、R〜Rは、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−H、ハロゲン、−NO、−CN、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、ならびにC4〜14ヘテロアリールからなる群から独立して選択され、これらは1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよく;
xは1〜5の整数であり;
yおよびzは、出現するごとに同じであるか、または異なっており、0〜4の整数であり、x+y≦5である)
の主配位子を有するIr錯体を提供する。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態において、主配位子は、
【化3】

からなる群から選択される。
【0024】
本発明の別の実施形態において、Ir錯体は、ハロゲン、−CN、−SCN、−NCO、テトラアルキルアンモニウム塩、
【化4】

、およびPR121314からなる群から独立して選択される少なくとも1つの補助配位子をさらに含み、式中、R〜R14は、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−F;−Cl;−Br;−NO;−CN;−COOR15;ビニル基;1〜20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキル基もしくはアルコキシ基もしくはジアルキルアミノ基であって、1つ以上の非隣接−CH−基のそれぞれが、−O−、−S−、−NR16−、−CONR17−、または−COOR18で置換されていてもよく、1つ以上の水素原子のそれぞれがハロゲンで置換されてもよい基;あるいは、4〜14個の炭素原子を有し、1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよいアリール基またはヘテロアリール基またはアリールオキシ基であり、同じ環上または2つの異なる環上のいずれかにある複数のR〜R14が一緒になって、単環式または多環式環、任意選択により芳香環を形成することができ、R15〜R18は、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−H、ハロゲン、−NO、−CN、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、ならびにC4〜14ヘテロアリールからなる群から独立して選択され、これらは1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよく、m、l、およびpは、出現するごとに同じであるか、または異なっており、0〜4の整数であり、nは0〜5の整数である。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態において、補助配位子は、−F、−Cl、−Br、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAOH)、シアニド、
【化5】

からなる群から選択される。
【0026】
本発明の他の実施形態において、Ir錯体は:
【化6】

【化7】

からなる群から選択される式を有する。
【0027】
驚くべきことに、Ir錯体が、少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子(H−C^N)を有する場合、デバイスの効率を特に改善するための発光材料のフォトルミネッセンス量子収率(PQY)は、Cl原子を有さないフェニルピリジン配位子を有する他のIr錯体、さらにはBr原子またはF原子などのCl以外のハロゲン原子を有するフェニルピリジン配位子を有するIr錯体よりも、大幅に向上することが分かった。特に化合物IIはこの点に関して良好な結果が得られる。
【0028】
一般に、本発明の一実施形態によると、式(II)〜(VIII)による錯体は、以下の反応スキーム:
【化8】

によって製造することができる。
【0029】
上記反応スキームに示されるように、本発明のこの実施形態によるIr錯体は、2つのIr原子と、少なくとも1つのCl原子で置換された2つのフェニルピリジン配位子(C^N)と、2つのハロゲン配位子(X°)とを含む二量体([C^N]Ir(μ−X°)Ir[C^N])を、塩基性化合物の存在下で、補助配位子が誘導される化合物(AL)と反応させることによって製造することができる。フェニルピリジン配位子および補助配位子は、市販されているか、または周知の有機合成方法を使用して容易に合成可能である。
【0030】
特に、フェニルピリジン配位子は、Lohse et al.,”The Palladium Catalyzed Suzuki Coupling of 2− and 4−Chloropyridines,” Syn.Lett.,1:15−18(1999)、およびDupont de Nemoursに譲渡された米国特許第6,670,645号明細書に記載されるような、置換ピリジン化合物と対応するアリールボロン酸との、好ましくは重炭酸カリウムなどのアルカリ金属塩基などの塩基性化合物の存在下での鈴木カップリングによって良好な収率から優れた収率で製造することができる。この実施形態において、フェニルボロン酸などのアリールボロン酸、およびブロモピリジンなどのハロゲン化ピリジンの少なくとも1つが、少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子(H−C^N)を得るために、少なくとも1つのCl原子で置換されている。
【0031】
IrCl・HOなどのトリハロゲン化イリジウム(III)化合物、M°IrX°(式中、X°はハロゲン(たとえば、Cl)であり、M°はアルカリ金属(たとえば、K)である)などのヘキサハロゲン化イリジウム(III)化合物、およびM°IrX°(式中、X°はハロゲン(たとえば、Cl)であり、M°はアルカリ金属(たとえば、K)である)などのヘキサハロゲン化イリジウム化合物(「Irハロゲン化前駆体」)を、本発明のIr錯体を合成するための出発物質として使用することができる。
【0032】
[C^N]Ir(μ−X°)Ir[C^N]錯体(式中、X°はハロゲン(たとえば、Cl)である)は、たとえば、Sprouse et al.,J.Am.Chem.Soc.,106:6647−6653(1984);Thompson et al.,Inorg.Chem.,40(7):1704(2001);Thompson et al.,J.Am.Chem.Soc.,123(18):4304−4312(2001)に既に記載されている手順を使用して、Irハロゲン化前駆体と適切なオルトメタレート化配位子とから製造することができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、反応は、過剰の中性型のオルトメタレート化配位子(H−C^N)および高沸点溶媒を使用して行われる。用語「高沸点溶媒」は、少なくとも80℃、少なくとも85℃、または少なくとも90℃の沸点を有する溶媒を意味することを意図している。たとえば、好適な溶媒は、メトキシエタノール、エトキシエタノール、グリセロール、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などであり、これらの溶媒はそのまま使用することもできるし、水と混合することもできる。
【0034】
任意選択により、反応は、金属炭酸塩(たとえば、炭酸カリウム(KCO))、金属水素化物(たとえば、水素化ナトリウム(NaH))、金属エトキシドまたは金属メトキシド(たとえば、NaOCHおよびNaOC)、水酸化アルキルアンモニウム(たとえば、水酸化テトラメチルアンモニウム)、あるいはイミダゾリウム水酸化物などの好適なブレンステッド塩基の存在下で行うことができる。
【0035】
対応する[C^N]Ir[AL]を形成するために、金属原子の好適な配位子(AL)による求核置換を、好適な溶媒中、塩基性化合物の存在下、ある程度化学量論量の補助配位子ALを架橋中間体と接触させることによって行うことができる。いくつか実施形態において、補助配位子(AL)が誘導される化合物は、ピコリン酸、キノリンカルボン酸、およびそれらの誘導体からなる群から選択される。一般に非プロトン性極性溶媒、たとえば、二塩化メチレン(CHCl)をこの反応に使用してもよい。
【0036】
本発明は、有機発光デバイス(OLED)の発光層中における上述の発光材料の使用にも関する。
【0037】
さらに、本発明は、有機発光デバイス中の発光層として機能するのに有効な条件下での、ホスト層中のドーパントとしての上述の多核錯体を含む発光材料の使用に関する。
【0038】
発光材料がホスト層中のドーパントとして使用される場合、ホストおよびドーパントの全重量に対して、一般に少なくとも1重量%、少なくとも3重量%、または少なくとも5重量%の量で使用され、一般に最大25重量%、最大20重量%、または最大15重量%の量で使用される。
【0039】
本発明は、発光層を含むOLEDにも関する。発光層は、上述の発光材料と、任意選択によりホスト材料(特に、発光材料がドーパントとして存在する場合)とを含む。デバイス構造に電圧を印加した場合に、ホスト材料は特にルミネッセンスに適合される。
【0040】
OLEDは一般に:
ガラス基体;
一般にインジウム−スズ酸化物(ITO)アノードなどの透明アノードであるアノード;
正孔輸送層(HTL);
発光層(EML);
電子輸送層(ETL);および
一般にAl層などの金属カソードであるカソード
を含む。
【0041】
正孔伝導性発光層に関して、励起子ブロッキング層、特に正孔ブロッキング層(HBL)を発光層と電子輸送層との間に有してもよい。電子伝導性発光層に関して、励起子ブロッキング層、特に電子ブロッキング層(EBL)を発光層と正孔輸送層との間に有してもよい。発光層は、正孔輸送層(励起子ブロッキング層がアノード付近またはアノードにある場合)、または電子輸送層(励起子ブロッキング層がカソード付近またはカソードにある場合)であってよい。
【0042】
上述の発光材料がゲストとして存在する場合には、発光層はホスト材料を使用して形成することができるし、発光層は発光材料から本質的になってもよい。前者の場合、ホスト材料は、置換トリアリールアミン類の群から選択される正孔輸送材料であってよい。特に、発光材料がゲストとして存在する場合には、発光層はホスト材料を使用して形成される。ホスト材料は、金属キノキソレート(quinoxolate)類(たとえば、アルミニウムキノレート(Alq)、リチウムキノレート(Liq))、オキサジアゾール類、およびトリアゾール類からなる群から選択される電子輸送材料であってよい。ホスト材料の一例は、4,4’−N,N’−ジカルバゾール−ビフェニル[「CBP」]であり、次式:
【化9】

で表される。
【0043】
任意選択により、発光層は、極性分子を含有することもでき、この分子は、ホスト材料中のドーパントとして存在し、双極子モーメントを有し、一般に、ドーパントとして使用される発光材料が発光する場合に発光波長に影響を与える。
【0044】
電子輸送材料から形成された層は、発光材料と(任意選択による)ホスト材料とを含む発光層中に電子を輸送するために有利に使用される。電子輸送材料は、金属キノキソレート(quinoxolate)類(たとえば、Alq、Liq)、オキサジアゾール類、およびトリアゾール類からなる群から選択される電子輸送マトリックスであってよい。電子輸送材料の一例は、式[「Alq」]:
【化10】

のトリス−(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウムである。
【0045】
正孔輸送材料から形成された層は、上述の発光材料と(任意選択により)ホスト材料とを含む発光層中に正孔を輸送するために有利に使用される。正孔輸送材料の一例は4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル[「α−NPD」]である。
【化11】

【0046】
励起子ブロッキング層(「障壁層」)は、発光層(「発光領域」)内に励起子を閉じ込めるために使用することができる。正孔輸送ホストに関しては、ブロッキング層は、発光層と電子輸送層との間に配置することができる。このような障壁層に使用される材料の一例は、次式:
【化12】

で表される2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソクプロインまたは「BCP」とも呼ばれる)である。
【0047】
特に、OLEDは図1に示されるような多層構造を有することができ:図中、1はガラス基体であり;2はITO層であり;3は、α−NPDを含むHTL層であり;4は、CBPをホスト材料として含み、ホストおよびドーパントの全重量に対して約8重量%の量の発光材料をドーパントとしてを含むEMLであり;5は、BCPを含むHBLであり;6は、Alqを含むETLであり;7は、Al層カソードである。
【0048】
本発明の別の一態様は、上記OLEDを含む表示装置に関する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例および比較例を参照しながら本発明を詳細に説明する。しかし、これらの実施例を、いかなる意味においても、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。さらに、特に明記しない限り単位は重量を基準にして表している。
【0050】
実施例1−式IIの化合物の合成
2−(2,4−ジクロロフェニル)ピリジンの合成
2−ブロモピリジン(0.95g、6.0mmol)、2,4−ジクロロフェニルボロン酸(0.95g、7.2mmol)、およびKCO(3g、22.0mmol)の、トルエン(30mL)および水(5mL)中の混合物をArで15分間脱気した。Pd(PPh(400mg、0.33mmol)を加え、得られた混合物をAr下100℃で15時間加熱した。室温まで冷却した後、水相を分離し、EtOAc(3×100mL)で抽出した。1つにまとめた有機画分をブラインで洗浄し、MgSO上で乾燥し、濾過し、蒸発させた。得られた粗化合物をカラムクロマトグラフィー(SiO、CHCl/ヘキサン、50/50、次にCHCl)によって精製して、1.10g(68%)の表題化合物を白色固体として得た。H−NMR(δH/ppm、CDCl中):8.72(d,J=6.0Hz,1H)、7.79(t,J=6.5Hz,1H)、7.65(d,J=7.2Hz,1H)、7.58(d,J=6.1Hz,1H)、7.50(s,1H)、7.35(d,J=7.1Hz,1H)、7.30(t,J=7.2Hz,1H)。
【0051】
式IIの化合物の合成
上述の文献に記載の手順を使用して、2−(2,4−ジクロロフェニル)ピリジンをIrClと反応させることで、対応する二量体が得られ、続いてこれを、水酸化テトラブチルアンモニウムを含有する還流ジクロロメタン中でピコリン酸と反応させることによって、式IIの化合物を得た。
【0052】
比較例1−BrおよびFを有するフェニルピリジン系配位子の合成
2−(2,4−ジブロモフェニル)ピリジンまたは2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジンを2−(2,4−ジクロロフェニル)ピリジンの代わりに使用したことを除いて、上述の実施例1の通りに、以下の式で表される化合物を製造した。2−(2,4−ジフルオロフェニル)ピリジンを、その塩素化同族体と同様に合成し、2−(2.4−ジブロモフェニル)ピリジンの合成を以下の通りに行った:
【化13】

【0053】
2,4−ジブロモヨードベンゼン:2,4−ジブロモアニリン(5.02g、20mmol)、45mLの水、および12mLの濃硫酸の10℃未満の氷浴中の混合物に、10℃未満の温度を維持しながら、6mLの水中の1.38g(20mmol)の亜硝酸ナトリウムの溶液を加えた。混合物を30分間撹拌した。冷却した溶液を、20mLの水中の4.16g(25mmol)のヨウ化カリウムの溶液中に注いだ。添加終了後、水を60℃に終夜加熱した。黒色溶液を冷却し、クロロホルムを加えた。有機層を分離し、10%水酸化ナトリウム、1Mチオ硫酸ナトリウム、10%塩酸、水、および飽和塩化ナトリウムで洗浄した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥した。減圧下で溶媒を除去して、粗化合物を得た。この粗化合物をカラムクロマトグラフィー(SiO、CHCl/ヘキサン、20/80)によって精製して、5.76g(80%)の表題化合物をオレンジ色固体として得た。
【0054】
(2−ピリジル)アリルジメチルシラン((2−Pyridil)allyldimethylsilane)類:アルゴン下−78℃において、2−ブロモピリジン(4.74g、30.0mmol)のEtO(30mL)中の溶液に、n−ブチルリチウム溶液(21ml、ヘキサン中1.60M)を滴下した。混合物を−78℃においてさらに1時間撹拌した。得られた2−ピリジルリチウム溶液を、−78℃においてアリルクロロジメチルシラン(4.04g、30.0mmol)のEtO(10mL)中の溶液に加えた。−78℃でさらに1時間撹拌した後、水(10mL)を0℃において混合物に加えた。その水相をEtOAcで抽出し、1つにまとめた有機相をNaSO上で乾燥した。減圧下で溶媒を除去し、続いてシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液としてヘキサン/EtOAc=50/50)を流して、2−(アリルジメチルシリル)ピリジンを淡黄色油(2.89g、54%)として得た。
H−NMR(δH/ppm、CDCl中):8.67(dd,J=2.0および1.2Hz,1H)、8.58(dd,J=2.0および4.8Hz,1H)、7.77(dt,J=2.0および7.6Hz,1H)、7.26(ddd,J=0.8、4.8、および7.2Hz,1H)、5.80(m,1H)、4.89(m,1H)、4.86(m,1H)、1.77(dt,J=1.2および8.0Hz,2H)、0.32(s,6H)。
【0055】
2−(2,4−ブロモフェニル)ピリジン:2−(アリルジメチルシリル)ピリジン(1.77g、10.0mmol)、2,4−ジブロモヨードベンゼン(4.70g、13.0mmol)、AgO(3.47g、15.0mmol)、およびPd(PPh(635mg、0.55mmol)の無水THF(50.0mL)中の混合物を、Ar下60℃で10時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、混合物をショートシリカゲルパッドで濾過した。粗混合物に対してシリカゲル上でのクロマトグラフィー(溶出液としてヘキサン/EtOAc=50/50)を行って、2−(2,4−ブロモフェニル)ピリジン(2.08g、66%)を白色固体として得た。
H−NMR((δH/ppm、CDCl中):8.72(dt,J=2.0および7.0Hz,1H)、7.86(d,J=5.5Hz,1H)、7.77(td,J=2.0および7.6Hz,1H)、7.60(dt,J=1.5および7.2Hz,1H)、7.55(dd,J=2.2および7.0Hz,1H)、7.43(d,J=7.2Hz,1H)、7.32(ddd,J=1.2、3.5および7.0Hz,1H)。
【0056】
実施例2−ルミネッセンス特性
式IIおよびIXの化合物の発光極大は、それぞれ493nmおよび496nmであり、Ir(2−(2,4−ジフルオロ−フェニル)−ピリジン)(ピコリネート)の470nmと比べてわずかに赤色側にシフトしていた。発光データから、発光は、Hammettのパラメーターから予測される値とは反対側にシフトしたことが分かった。しかし、驚くべきことに化合物IIの量子収率は、化合物IXおよびIr(2−(2,4−ジフルオロ−フェニル)−ピリジン)(ピコリネート)の量子収率よりもはるかに高かった(表1参照)。さらに、式IIおよびIXの錯体は、その強度の半分において約85nmの狭いルミネッセンス帯域幅を示し、式IIはOLED用途の非常に興味深いリン光体となる。このように改善された効率について明確な説明はできないが、Br原子が重すぎるため、ルミネッセンスの消光および非常に短い寿命の原因となった可能性がある。
【0057】
【表1】

【0058】
式IIおよびIXの錯体に加えて、少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有する代表的なIr錯体を製造し、それらの発光特性を求めた(CHCl溶液中の結果に関して図3を参照されたい)。
【0059】
本発明の意図および範囲から逸脱せずに種々の修正および変形を本発明に対して行えることは当業者には明らかであろう。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物の範囲内となることを条件に、本発明の修正および変形を含むことを意図している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのCl原子で置換されたフェニルピリジン配位子から選択される主配位子を有するIr錯体。
【請求項2】
非イオン性である、請求項1に記載のIr錯体。
【請求項3】
単核である、請求項1または2に記載のIr錯体。
【請求項4】
前記フェニルピリジン配位子が少なくとも2つのハロゲン原子で置換されており、その中の1つがCl原子である、請求項1から3のいずれか一項に記載のIr錯体。
【請求項5】
前記2つのハロゲン原子Xが式:
【化1】

に示されるような位置にある、請求項4に記載のIr錯体。
【請求項6】
前記主配位子が次式:
【化2】

(式中、
およびRは、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−F;−Br;−NO;−CN;−CONR;−COOR;1〜20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキル基もしくはアルコキシ基もしくはジアルキルアミノ基であって、1つ以上の非隣接−CH−基が、−O−、−S−、−NR−、−COO−、または−CO−で置換されていてもよく、1つ以上の水素原子がハロゲンで置換されていてもよい基;あるいは、4〜14個の炭素原子を有し、1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよいアリール基またはヘテロアリール基またはアリールオキシ基を表し、同じ環上または2つの異なる環上のいずれかにある複数のRおよびRが一緒になって、単環式または多環式の環、任意選択により芳香環を形成することができ、R〜Rは、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−H、ハロゲン、−NO、−CN、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、ならびにC4〜14ヘテロアリールからなる群から独立して選択され、これらは1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよく;
xは1〜5の整数であり;
yおよびzは、出現するごとに同じであるか、または異なっており、0〜4の整数であり、x+y≦5である)
を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のIr錯体。
【請求項7】
前記主配位子が、
【化3】

からなる群から選択される、請求項6に記載のIr錯体。
【請求項8】
前記Ir錯体が、ハロゲン、−CN、−SCN、−NCO、テトラアルキルアンモニウム塩、
【化4】

、およびPR121314からなる群から独立して選択される少なくとも1つの補助配位子をさらに含む、
(式中、R〜R14は、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−F;−Cl;−Br;−NO;−CN;−COOR15;ビニル基;1〜20個の炭素原子を有する直鎖または分岐または環状のアルキル基もしくはアルコキシ基もしくはジアルキルアミノ基であって、1つ以上の非隣接−CH−基のそれぞれが、−O−、−S−、−NR16−、−CONR17−、または−COOR18で置換されていてもよく、1つ以上の水素原子のそれぞれがハロゲンで置換されてもよい基;あるいは、4〜14個の炭素原子を有し、1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよいアリール基またはヘテロアリール基またはアリールオキシ基であり、同じ環上または2つの異なる環上のいずれかにある複数のR〜R14が一緒になって、単環式または多環式環、任意選択により芳香環を形成することができ、R15〜R18は、出現するごとに同じであるか、または異なっており、−H、ハロゲン、−NO、−CN、直鎖または分岐C1〜20アルキル、C3〜20環状アルキル、直鎖または分岐C1〜20アルコキシ、C1〜20ジアルキルアミノ、C4〜14アリール、C4〜14アリールオキシ、ならびにC4〜14ヘテロアリールからなる群から独立して選択され、これらは1つ以上の非芳香族基で置換されていてもよく、
m、l、およびpは、出現するごとに同じであるか、または異なる、0〜4の整数であり、
nは0〜5の整数である)
請求項1〜7のいずれか一項に記載のIr錯体。
【請求項9】
前記補助配位子が、−F、−Cl、−Br、水酸化物(TBAOH)、シアニド、
【化5】

からなる群から選択される、請求項8に記載のIr錯体。
【請求項10】
【化6】

からなる群から選択される式を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のIr錯体。
【請求項11】
次式:
【化7】

を有する、請求項10に記載のIr錯体。
【請求項12】
量子収率が0.6を超え、好ましくは0.7を超える、請求項1〜11のいずれか一項に記載のIr錯体。
【請求項13】
量子収率が0.8を超える、請求項12に記載のIr錯体。
【請求項14】
量子収率が0.9を超える、請求項13に記載のIr錯体。
【請求項15】
2つのIr原子と、少なくとも1つのCl原子で置換された2つのフェニルピリジン配位子と、2つのハロゲン配位子とを含む二量体を、塩基性化合物の存在下で、前記補助配位子が誘導される化合物と反応させるステップを含む、請求項8〜14のいずれか一項に記載のIr錯体の製造方法。
【請求項16】
前記補助配位子が誘導される前記化合物が、ピコリン酸、キノリンカルボン酸、およびそれらの誘導体からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記フェニルピリジン配位子が、フェニルボロン酸とブロモピリジンとを塩基性化合物の存在下で反応させることによって製造されるが、但し、前記フェニルボロン酸およびブロモピリジンの少なくとも1つが、少なくとも1つのCl原子で置換されていることを条件とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1から14のいずれか一項に記載のIr錯体を含む発光材料。
【請求項19】
有機発光デバイスの発光層中における請求項18に記載の発光材料の使用。
【請求項20】
有機発光デバイス中の発光層として機能するのに有効な条件下で、ホスト層中のドーパントとしての請求項18に記載の発光材料の使用。
【請求項21】
前記発光層が、請求項18に記載の発光材料と、任意選択によるホスト材料とを含むことを特徴とする、発光層を含む有機発光デバイス。
【請求項22】
請求項21に記載の有機発光デバイスを含む表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図3f】
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【図3g】
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【公表番号】特表2012−508272(P2012−508272A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535994(P2011−535994)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064932
【国際公開番号】WO2010/055040
【国際公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】