説明

リン基とシアナト基を含有する熱硬化性モノマーおよび組成物

少なくとも2個のアリール−シアナト基と少なくとも2個のリン基を含有する熱硬化性モノマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に熱硬化性モノマーに関し、特にリン基とシアナト基を含有する熱硬化性モノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂は、特にその耐薬品性、機械的強度および電気的性質から工業用電子機器および家庭用電子機器の両方で広く使用されている。例えば、合成樹脂は、電子機器において保護膜、接着材料および/または絶縁材料、例えば層間絶縁膜として使用できる。これらの用途に有用であるためには、合成樹脂は、取り扱い易さならびに特定の必要な物理的性質、熱的性質、電気絶縁性および防水性を提供することを必要とする。例えば、低い誘電率、高い溶解性および低い吸湿性ならびに高いガラス転移温度(Tg)を有する合成樹脂は、電気用途について諸性質の望ましい組み合わせとなる。
【0003】
また、電気用途での合成樹脂の使用は、電子機器で生じた電気信号に影響を及ぼす可能性がある。電子装置(例えば、コンピューター装置)での電気信号周波数の増加は、データをより高速で処理することを可能にする。しかし、このような電気信号の近くの合成樹脂は、高周波回路でのこのような電気信号の伝送損失に対して大きな影響を及ぼす可能性がある。この影響を最小限に抑えるためには、上記で論じたその他の性質の他に、低い誘電率および低い誘電正接を有する合成樹脂が望ましい。
【0004】
しかし、合成樹脂は、可燃性である可能性がある。このような理由から、合成樹脂に難燃性を付与するために、種々のアプローチがなされてきている。2つの主要なアプローチが、難燃性を提供するために講じられている。第一は、ハロゲンを含有していない化合物を使用する「グリーン」アプローチである。第二のアプローチは、ハロゲン化合物を使用する。ハロゲン化化合物は、電子産業において電気および電子集成部品に難燃性を付与するために数十年間使用されてきている。例えば、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)は、長年、電気用積層板での主要な難燃剤であった。しかし、ハロゲン化化合物は、電子部品のその寿命が尽きたときの焼却中にダイオキシンを形成する可能性があることから、環境保護団体によって現在綿密に調べられている。多くの先進国では、前記部品の燃焼は、規制され、管理されているが、発展途上国では、燃焼は、規制されていない場合が多く、大気中への臭素化ダイオキシンの放出の可能性が増大しつつある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】

本開示の実施形態は、少なくとも2個のアリール−シアナト基と少なくとも2個のリン基を含有する熱硬化性モノマーを提供する。種々の実施形態について、このような熱硬化性モノマーは、式(I):
【化1】

の化合物で表すことができる。
【0006】
式中、mは、1〜20の整数であり;式中、nは、0〜20の整数であり(但し、nが0である場合には、mが2〜20の整数であることを条件とする);式中、Xは、硫黄、酸素、孤立電子対、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され;式中、それぞれのRおよびRは、独立して、水素、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、または6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分であり(この場合の脂肪族部分と芳香族炭化水素部分は、結合して環状構造を形成することができる);式中、Rは、水素、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分、RP(=X)CH−、およびROCH−からなる群から選択され、Rは、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分であり;式中、それぞれのRおよびRは、独立して、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分であるか(この場合の脂肪族部分と芳香族炭化水素部分は、結合して環状構造RX−を形成することができる)、またはRおよびRは、一緒になってArX−であり;ならびに式中、ArおよびArは、独立して、ベンゼン、ナフタレン、またはビフェニルである。
【0007】
また、種々の実施形態はまた、本開示の熱硬化性モノマーを含有する組成物を含む。種々の実施形態について、熱硬化性モノマーを有する組成物は、その他の品目の中から、樹脂シート、樹脂被覆金属箔、プリプレグ、積層ボード、または多層ボードを調製するのに使用できる。さらなる実施形態において、本開示の熱硬化性モノマーを有する組成物は、さらに、樹脂、例えばビスマレイミド−トリアジンエポキシ樹脂またはFR5エポキシ樹脂を含有することができ、この場合に本開示の熱硬化性モノマーおよび樹脂は、前述の品目を調製するのに使用できる。
【0008】
種々の実施形態について、熱硬化性モノマーを調製する方法は、活性リン化合物(H−P(=X)R)を、エーテル化レゾールと縮合させることによるリン置換ポリフェノールの最初の形成、次いでハロゲン化シアンおよび塩基を用いてポリシアネートへの転化を含むことができる。エーテル化レゾールが、ブチルエーテルビスフェノールAレゾールでありおよび活性リン化合物が、H−DOP(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)である場合には、リン置換ポリフェノールは、DOP−BNと呼ばれるであろう、およびポリシアネートは、DOP−BNポリシアネートと呼ばれるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本開示のDOP−BNポリシアネート試料由来のポジティブエレクトロスプレーイオン化質量スペクトルを提供する。
【図2】本開示のDOP−BNポリシアネート試料由来の拡張ポジティブエレクトロスプレーイオン化質量スペクトルを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態は、少なくとも2個のアリール−シアナト基と少なくとも2個のリン基を含有する熱硬化性モノマーを含む。種々の実施形態について、前記熱硬化性モノマーは、活性リン化合物(H−P(=X)R)を、エーテル化レゾールと縮合させることによって形成されるリン置換ポリフェノールのシアン酸誘導体であることができる。エーテル化レゾールが、ビスフェノールA由来のものでありおよび活性リン化合物が、H−DOP(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)である特定の場合には、前記リン置換ポリフェノールは、DOP−BNと呼ばれるであろう、またポリシアネートは、DOP−BNポリシアネートと呼ばれるであろう。この場合、本開示の熱硬化性モノマーは、DOP−BNと、化合物、例えばDOP−BNのヒドロキシ基と反応してシアナト基を生成するハロゲン化シアン(例えば、臭化シアン)との反応から得ることができる。
【0011】
種々の実施形態について、本開示の熱硬化性モノマーは、特に、自己硬化性化合物としておよび/または硬化性組成物用の硬化剤組成物の成分として使用できる。また、本開示の熱硬化性モノマーは、その他のポリマーと反応させるための反応性出発原料としても使用できる。例えば、熱硬化性モノマーのアリール−シアナト基を、エポキシ樹脂と反応させてもよい。この実施形態において、熱硬化性モノマーは、エポキシ樹脂用の架橋剤、硬化剤(curing agent)および/または硬化剤(hardener)として機能する。
【0012】
また、本開示の熱硬化性モノマーは、ハロゲンを含有せず、同時に少なくとも熱硬化性モノマーの一部分と形成される硬化組成物用の難燃剤として機能するという利点を提供する。前記熱硬化性モノマーを含有するこのような硬化組成物は、種々様々な電子用途において保護膜、接着材料および/または絶縁材料として有用な好適な熱的および電気的性質を有することもできる。
【0013】
具体的には、本開示の熱硬化性モノマーは、DOP−BNの硬化ポリマーおよびBT−エポキシ樹脂と比べて、熱硬化性モノマーの硬化ポリマーおよびビスマレイミド−トリアジン(BT)−エポキシ樹脂の熱機械的性質、例えばガラス転移温度の改善を提供することができる。さらに、本開示の熱硬化性モノマーを含有する配合物は、DOP−BNを含有する配合物よりも著しく改善された粘度安定性を示した。本開示の硬化性組成物はまた、難燃性の他に、その他の望ましい物理的性質、例えば誘電特性、耐熱性、および加工性(溶媒溶解性を含む)も提供し得る。
【0014】
種々の実施形態について、本開示の熱硬化性モノマーは、少なくとも2個のアリール−シアナト基と少なくとも2個のリン基を含有する。本明細書で使用するように、アリール−シアナト基は、単環式または多環式の芳香族炭化水素基であって、それに結合された少なくとも1個のシアナト基(−OCN)を含有する単環式または多環式の芳香族炭化水素基であることができる。また、リン基は、単環式または多環式の芳香族炭化水素基であってそれに結合された少なくとも1個のリン基を含有する単環式または多環式の芳香族炭化水素基であることもできる。
【0015】
種々の実施形態について、このような熱硬化性モノマーは、式(I):
【化2】

の化合物で表すことができる。
【0016】
式中、mは、1〜20の整数であり;式中、nは、0〜20の整数であり(但し、nが0である場合には、mが2〜20の整数であることを条件とする);式中、Xは、硫黄、酸素、孤立電子対、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され;式中、それぞれのRおよびRは、独立して、水素、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、または6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分であり(この場合の脂肪族部分と芳香族炭化水素部分は、結合して環状構造を形成することができる);式中、Rは、水素、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分、RP(=X)CH−、およびROCH−からなる群から選択され、Rは、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分であり;ならびに式中、それぞれのRおよびRは、独立して、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分であるか(この場合の脂肪族部分と芳香族炭化水素部分は、結合して環状構造RX−を形成することができる)、またはRおよびRは、一緒になってArX−であり;ならびに式中、それぞれのArおよびArは、独立して、ベンゼン、ナフタレン、またはビフェニルである。
【0017】
本明細書で使用するように、脂肪族部分としては、飽和または不飽和の線状または分岐炭化水素基が挙げられる。この用語は、例えば、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基を含むために使用する。本明細書で使用するように、芳香族炭化水素部分としては、単環または多環芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0018】
式(I)の好ましい熱硬化性モノマーとしては、式中のXが酸素であり、nが1であり、mが1であり、それぞれのRおよびRがメチル基であり、RがRP(=X)CH−であり、ならびにRおよびRが一緒になってArXであり、Arが、RP(=X)−が式(II):
【化3】

の化合物で表されるような、ビフェニルである熱硬化性モノマーが挙げられる。
【0019】
式(I)のさらなる好ましい熱硬化性モノマーとしては、式中のXが酸素であり、nが0であり、mが2または3であり、RがRP(=X)CH−であり、ならびにRおよびRが一緒になってArXであり、Arが、RP(=X)−が式(II)の化合物で表されるような、ビフェニルである熱硬化性モノマーが挙げられる。式(I)のさらなる好ましい熱硬化性モノマーは、RP(=X)CH−が、(CO)P(=O)−、(PhO)P(=O)−、およびPhP(=O)−であり、Phがフェニル基(C−)である熱硬化性モノマーである。好ましくは、Arは、ベンゼンである。
【0020】
本明細書で使用するように、熱硬化性モノマーの少なくとも2個のリン基は、(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)(H−DOP)から誘導することができる。
【化4】

(H−DOP)
【0021】
H−DOPは、日本の三光株式会社から商品名「Sanko−HCA」として市販されており、また、ドイツのStruktol(登録商標)から「Polydis(登録商標)PD3710」として市販されている。
【0022】
種々の実施形態について、H−DOPは、エーテル化レゾールと反応させることができる。好適なエーテル化レゾールの例としては、ビスフェノールA、ホルムアルデヒドおよびn−ブタノールを用いて調製されるブチルエーテルビスフェノールAレゾールが挙げられる。エーテル化レゾールは、典型的には、モノマー構造、ダイマー構造およびオリゴマー構造の混合物である。市販されているエーテル化レゾールの例としては、SANTOLINK(商標)EP560(これは、ブチルエーテル化フェノールホルムアルデヒド縮合生成物である)およびPHENODUR(商標)VPR1785/50(これは、ブトキシメチル化フェノールノボラックであり、製造業者は、4000〜6000の重量平均分子量および2〜3の多分散性を有するクレゾール混合物を基材とする高ブチルエーテル化レゾールとして特徴付けている)が挙げられる。これらの製品は両方共に、UCBグループ(ベルギーのブリュッセルに本社を置く会社)およびその子会社UCB GmbH & Co.KG(ドイツの法人組織の会社)から入手できる。UCBから入手できるその他のレゾール化合物としては、例えばPHENODUR(商標)PR401、PHENODUR(商標)PR411、PHENODUR(商標)PR515、PHENODUR(商標)PR711、PHENODUR(商標)PR612、PHENODUR(商標)PR722、PHENODUR(商標)PR733、PHENODUR(商標)PR565、およびPHENODUR(商標)VPR1775が挙げられる。
ブチルエーテルビスフェノールAレゾールの例を、以下に示す:
【化5】

【0023】
式中、Buはブチル基でありおよびmは、1〜約10の整数であることができる。本明細書で論じたように、ブチルエーテルビスフェノールAレゾールは、ブチルエーテルビスフェノールAレゾールのモノマー、ダイマーおよび/またはオリゴマーの組み合わせとして存在し得る。また、ブチルエーテルビスフェノールAレゾールのオルト位の1個またはそれ以上のブチルエーテル基(−CHOBu)は、その他の基、例えば−H、および−CHOHで置換することができる。前記の構造は、実際の構造の単純化である。当分野で周知のように、架橋基の幾つかは、メチレン架橋よりもむしろ−CHOCH−であることができる。これは、レゾールを調製するのに使用するプロセスパラメーター(特に、触媒の種類、pH、アルコール濃度、および温度)によって調節できる。
【0024】
種々の実施形態について、活性リン化合物(例えばH−DOP)は、エーテル化レゾールと、これらを一緒にブレンドするかまたは混合することによって反応させて反応性組成物を形成することができる。反応性組成物は、加熱して前記2つの成分の反応を開始させてアルコールを形成しおよびリンポリフェノール中間体を形成することができる。種々の実施形態について、反応温度は、出発原料の分解温度よりも低いことが好ましい。一般に、反応温度は、100摂氏温度(℃)よりも高い、好ましくは120℃よりも高い、さらに好ましくは150℃よりも高い。反応は、H−DOPのH−P−部分を、ブチルエーテルビスフェノールAレゾールの−OBu部分と反応させるのに十分な時間行うことが好ましい。反応の時間は、典型的には60分〜12時間、好ましくは2時間〜6時間、さらに好ましくは2時間〜4時間である。
【0025】
種々の実施形態について、反応は、水がH−DOPと反応する傾向をもつ可能性があるので、水を存在させずに行うことが好ましい〔一般に、水は、5重量%(wt.%)未満、さらに好ましくは3wt.%未満、最も好ましくは1wt.%未満存在する〕。アルコール副生成物の除去は、一般に反応を完結に至らせるのを促進する。したがって、反応容器の圧力は、前述の最も低い分解温度よりも低い温度でアルコールまたは副生成物を除去することを促進するために、周囲圧力よりも低い圧力、例えば0.1バール以下の圧力に下げることが好ましい。反応容器は、場合により、ガスまたは揮発性有機液体でパージして副生成物の除去をさらに促進させてもよい。ガスまたは揮発性有機液体は、反応容器の内容物に対して不活性であることが好ましい。このようなガスの例としては、窒素ガスが挙げられるが、これに限定されない。
【0026】
ブチルエーテルビスフェノールAレゾールは、通常、有機溶媒、例えばブタノール、キシレン、またはDowanol(商標)PM(The Dow Chemical Company)に溶解し;この溶媒の一部は、H−DOPを添加する前に、溶液を加熱するかまたは溶液に真空を適用することによって除去することができる。H−DOPとエーテル化レゾールは、組成物の全固形分に基づいて、10:1〜1:10、好ましくは5:1〜1:5、さらに好ましくは2:1〜1:2の範囲内、最も好ましくは1.1:1〜1:1.1の範囲内の重量比(H−DOP:エーテル化レゾール)で組み合わせることが好ましい。必要に応じて、触媒などのその他の物質または溶媒を、H−DOPとエーテル化レゾールとの反応混合物に加えてもよい。
【0027】
種々の実施形態について、H−DOPとブチルエーテルビスフェノールAレゾールの反応生成物は、ブチルエーテルビスフェノールAレゾールに存在するブチルエーテル基の大部分(しかし、必ずしも全部である必要はない)を置換する。得られる化合物(本明細書では、DOP−BNという)を、以下に示す。
【化6】

【0028】
一般に、H−DOPとエーテル化レゾールの反応からのDOP−BN反応生成物は、複数のオリゴマー(m=1〜20)の混合物である。リンポリフェノール生成物の重合の数平均重合度は、エーテル化レゾール出発原料の分子量に関連する。
【0029】
種々の実施形態について、本明細書で提供する式(I)の熱硬化性モノマーは、DOP−BNを、ヒドロキシ基と反応する化合物と反応させてシアナト基を得ることによって調製できる。このような化合物の例としては、ハロゲン化シアン、例えば臭化シアンおよび塩化シアンが挙げられる。反応は、アルカリ金属水酸化物および/または脂肪族アミン、例えばトリエチルアミンおよび/または水酸化ナトリウムを含むことができる塩基の存在下で行う。
【0030】
種々の実施形態について、反応は、反応の発熱性およびハロゲン化シアンの揮発性を考慮して低い温度で行うことができる。例えば、反応温度は、−40℃〜40℃であり、好ましくは−20℃〜10℃である。不活性有機溶媒の使用が可能であり、このような不活性有機溶媒としては、以下に限定されないが、芳香族炭化水素、例えばベンゼン類、トルエンまたはキシレン;エーテル、例えばジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン;ハロゲン化脂肪族または芳香族炭化水素、例えば塩化メチレンまたはクロロベンゼン;アルコール、例えばメタノール、エタノール、またはイソプロピルアルコール;および/またはケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトンまたはメチルイソブチルケトンが挙げられる。
【0031】
本開示の熱硬化性モノマーは、少なくとも0.1重量%(wt.%)〜3.5wt.%のリン含有量を有することができる。さらなる実施形態において、本開示の熱硬化性モノマーは、それを難燃性材料の調製に役立てることができる3.5wt.%を超えるリン含有量、例えば少なくとも6wt.%のリン含有量を有することができる。例えば、反応生成物のリン含有量は、4〜12重量%、5〜9重量%または6〜8重量%であることができることが可能である。本開示の実施形態はまた、難燃性材料を必要とするその他の用途、例えば、半導体包装用途、電気および電子用途、および複合材用途に有用であり得る。また、熱硬化性モノマーは、臭素原子およびハロゲン原子の両原子を実質的に含有していない。
【0032】
高い温度を必要とし、多数の最終使用を妨げる可能性がある触媒、例えば電子機器用の積層品、コーティング、封入材、接着および埋込用樹脂における使用を妨げる金属含有触媒を必要とするジシアネートおよびポリシアネートは、硬化させることが困難であると一般に知られている。しかし、本開示の熱硬化性モノマーは、従来のジシアネート、具体的にはビスフェノールAジシアネート(BPA DCN)と比べて非触媒化硬化プロフィール(環状トリマー化)において著しい改善を示した。例えば、本開示の熱硬化性モノマーの例について硬化の開始は、ビスフェノールAのジシアネート(BPA DCN)については305.1℃であるのに対して、180.2℃であった。熱硬化性モノマーのこの例の硬化のための硬化エンタルピーは、BPA DCNについては550.2ジュール/gであるのに対して、232.1ジュール/gであった。認められるように、この低いエンタルピーは、より制御された硬化、および熱損傷を受けた部分の減少を提供することができる。別の改善は、本開示の熱硬化性モノマーが、BPA DCN(これは、265.8℃で開始するさらなる硬化エネルギーを示した)と比べて十分な硬化を与えることであった。これらの有益な性質はまた、本開示の熱硬化性モノマーとBPA DCNとを使用して調製したブレンドで、および本開示の熱硬化性モノマーと4,4’−ジアミノジフェニルメタンのビスマレイミドのブレンドでも明らかであった。
【0033】
種々の実施形態について、本開示の熱硬化性モノマーの組成物は、自己熱重合(例えば、単独重合)を行うことができる。この熱硬化性モノマーの自己熱重合は、三次元網状構造を有するシアネートを形成するために式(I)のシアナト基の三量化を伴うことができる。一般に、式(I)の熱硬化性モノマーのシアネートの重合または硬化は、本開示にしたがって、先ず熱硬化性モノマーを溶融して均一な溶融物を得ることによって行うことができる。幾つかの用途、例えば電気用積層板に使用するプリプレグの調製およびその他の複合材用途について、ポリシアネートを好適な溶媒に溶解することが有用である。好適な溶媒の例としては、以下に限定されないが、アルコール、例えばDowanol(商標)PMA(The Dow Chemical Company)、ケトン、例えばアセトンおよび/またはメチルエチルケトン、エステル、および/または芳香族炭化水素が挙げられる。
【0034】
単独重合は、シアネート重合触媒を用いてさらに低い温度で行うことができる。このようなシアネート重合触媒の例としては、ルイス酸、例えば塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化第二鉄、塩化チタン、および塩化亜鉛;プロトン酸、例えば塩酸およびその他の鉱酸;弱酸の塩、例えば酢酸ナトリウム、シアン化ナトリウム、シアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、および酢酸フェニル水銀;塩基、例えばナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン;および非イオン性配位化合物、例えばアセチルアセトン酸コバルト、アセチルアセトン酸鉄、アセチルアセトン酸亜鉛およびアセチルアセトン酸銅が挙げられる。使用するシアネート重合触媒の量は、変化させることができ、一般には0.05〜5モル%、好ましくは0.05〜0.5モル%である。
【0035】
本開示の実施形態はまた、本開示の熱硬化性モノマーと、少なくとも1つの配合成分を含有する組成物を提供する。種々の実施形態について、前記組成物の配合成分は、本開示の熱硬化性モノマーと反応性であるかまたは非反応性であることができる。種々の実施形態について、熱硬化性モノマーと配合成分を含有する組成物は、本開示の熱硬化性モノマーを少なくとも1つの配合成分と反応させるか、ブレンドするかまたは混合することによって得ることができる。このような配合成分の例としては、以下に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリエポキシド樹脂、シアン酸エステル、ジシアン酸エステル、ポリシアン酸エステル、シアン酸芳香族エステル、マレイミド樹脂、熱可塑性ポリマー、熱可塑性樹脂、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ベンゾオキサジン環含有化合物、二重結合または三重結合含有不飽和樹脂系、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
種々の実施形態について、本開示の熱硬化性モノマーを用いて前記組成物を形成するのに有用な熱硬化性樹脂の例としては、少なくとも1つのエポキシ樹脂および/またはポリエポキシド樹脂を挙げ得、この場合には1つまたはそれ以上のエポキシ樹脂と1つまたはそれ以上のポリエポキシド樹脂の組み合わせが可能である。このようなエポキシ樹脂の例としては、以下に限定されないが、ハロゲンを含有していないエポキシ、リンを含有していないエポキシ、臭素化エポキシ、およびリン含有エポキシおよびこれらの混合物、エポキシ官能性ポリオキサゾリドン含有化合物、脂環式エポキシ、GMA/スチレンコポリマー、ならびに液状エポキシ樹脂(LER)とテトラブロモビスフェノールA(TBBA)樹脂の反応生成物から選択されるエポキシ樹脂が挙げられる。
【0037】
さらなるエポキシ化合物としては、ビスマレイミド−トリアジン樹脂(BT−樹脂)、エポキシ樹脂とBT−樹脂(BT−エポキシ)の混合物、エポキシノボラック樹脂、クレゾールエポキシノボラック、トリスエポキシ化合物、エポキシ化ビスフェノールAノボラック、ジシクロペンタジエンフェノールエポキシノボラック;グリシジルエーテルであって、テトラフェノールエタン、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAP(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン)、ビスフェノールF、ビスフェノールK、テトラブロモビスフェノールA、フェノール−ホルムアルデヒドノボラック樹脂、ヒドロキノン、アルキル置換フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フェノール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、クレゾール−ヒドロキシベンズアルデヒド樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン−置換フェノール樹脂テトラメチルビフェノール、テトラメチルテトラブロモビフェノール、テトラメチルトリブロモビフェノール、テトラクロロビスフェノールA、およびこれらの組み合わせのグリシジルエーテルが挙げられる。
【0038】
ポリエポキシド樹脂の例としては、以下に限定されないが、米国特許第6,645,631号明細書に記載されているポリエポキシド樹脂が挙げられる。米国特許第6,645,631号明細書に記載されているポリエポキシド樹脂は、少なくとも2個のエポキシ基を含有するエポキシ化合物と、反応性リン含有化合物、例えば3,4,5,6−ジベンゾ−1,2−オキサホスファン−2−オキシド(DOP)、または10−(2’,5’−ジヒドロキシフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOP−HQ)との反応生成物である。
【0039】
また、ルイス酸も、エポキシ樹脂を含有する組成物に用いてもよい。ルイス酸としては、例えば、亜鉛、錫、チタン、コバルト、マンガン、鉄、ケイ素、アルミニウム、およびホウ素のハロゲン化物、酸化物、水酸化物およびアルコキシドの1つあるいは2つまたはそれ以上の混合物を挙げ得る。このようなルイス酸、およびルイス酸の無水物の例としては、ホウ酸、メタホウ酸、場合により置換されていてもよいボロキシン(例えば、トリメトキシボロキシン、トリメチルボロキシンまたはトリエチルボロキシン)、場合により置換されていてもよいホウ素の酸化物、ホウ酸アルキル、ハロゲン化ホウ素、ハロゲン化亜鉛(例えば、塩化亜鉛)および比較的弱い共役塩基を有する傾向があるその他のルイス酸が挙げられる。
【0040】
熱硬化性モノマーを、1つまたはそれ以上のシアン酸エステル、ジシアン酸エステルおよび/またはシアン酸芳香族エステルと共重合させることも、本開示の範囲内に入る。本開示の熱硬化性モノマーと共重合させることができるこのようなシアン酸エステルの量は、変化させることができ、一般に、得られるコポリマーに付与することが望まれる具体的な性質によって決定されるであろう。例えば、コポリマーの架橋の度合いは、ある場合には、このような芳香族短鎖(ジ)シアネートを組み込むことによって高めることができる。
【0041】
本開示の実施形態は、少なくとも1つのマレイミド樹脂と本開示の熱硬化性モノマーとの使用も含むことができる。好適なマレイミド樹脂の例としては、以下に限定されないが、無水マレイン酸とジアミンまたはポリアミンから誘導される2個のマレイミド基を有するマレイミド樹脂が挙げられる。好適なマレイミド樹脂としては、ビスマレイミド、例えば特に4,4’−ジアミノジフェニルメタンが挙げられる。
【0042】
また、本開示の実施形態は、本開示の熱硬化性モノマーと少なくとも1個の熱可塑性ポリマーを含有する組成物を提供する。典型的な熱可塑性ポリマーとしては、以下に限定されないが、ビニル芳香族モノマーおよびその水素化バージョン(芳香族水素化を含め、ジエンおよび芳香族水素化バージョンの両方を含む)から製造されるポリマー、例えばスチレン−ブタジエンブロックコポリマー、ポリスチレン(高耐衝撃性ポリスチレンを含む)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)コポリマー、およびスチレン−アクリロニトリルコポリマー(SAN);ポリカーボネート(PC)、ABS/PC組成物、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ヒドロキシフェノキシエーテルポリマー(PHE)、エチレンビニルアルコールコポリマー、エチレンアクリル酸コポリマー、ポリオレフィン一酸化炭素インターポリマー、塩素化ポリエチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリオレフィン、オレフィンコポリマー、環状オレフィンコポリマー、およびこれらの組み合わせまたはブレンドが挙げられる。
【0043】
さらなる実施形態において、本開示の組成物は、本開示の熱硬化性モノマーと、少なくとも1つの反応性および/または非反応性熱可塑性樹脂とを含有することができる。このような熱可塑性樹脂の例としては、以下に限定されないが、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ弗化ビニリデン、ポリエーテルイミド、ポリフタルイミド、ポリベンゾイミダゾール、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、およびこれらの組み合わせまたはブレンドが挙げられる。
【0044】
種々の実施形態について、本開示の熱硬化性モノマーは、ハイブリッド架橋網状構造を形成するために熱可塑性樹脂とブレンドすることができる。本開示の組成物の調製は、当分野で公知の好適な混合手段で、例えば個々の成分を乾式ブレンドし、その後に完成品を作製するのに使用される押出機で直接に溶融混合するかまたは別々の押出機で予備混合することによって達成することができる。組成物の乾式ブレンドはまた、予備溶融混合せずに直接に射出成形することもできる。
【0045】
熱を加えることによって軟化または溶融する場合には、本開示の熱硬化性モノマーと熱可塑性樹脂の組成物は、従来の技法、例えば圧縮成形、射出成形、ガス同伴射出成形、カレンダリング、真空成形、熱成形、押出および/または吹込成形を単独でまたは組み合わせて使用して形成または成形することができる。本開示の熱硬化性モノマーと熱可塑性樹脂の組成物はまた、フィルム、繊維、多層ラミネートまたは押出シートに成形、紡糸、または延伸してもよいし、あるいは1つまたはそれ以上の有機または無機物質と配合することもできる。
【0046】
また、本開示の実施形態は、本開示の熱硬化性モノマーと、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ベンゾオキサジン環含有化合物、二重結合または三重結合を含有する不飽和樹脂系、およびこれらの組み合わせの少なくとも1つを含有する組成物を提供する。
【0047】
前記の本開示の組成物はまた、場合により少なくとも1つの触媒を使用してもよい。好適な硬化触媒の例としては、アミン、ジシアンジアミド、置換グアニジン、フェノール類、アミノ、ベンゾオキサジン、酸無水物、アミドアミン、ポリアミド、ホスフィン、アンモニウム、ホスホニウム、アルソニウム、スルホニウム部分またはこれらの混合物が挙げられる。
【0048】
これらの特性の独特な組み合わせにより、熱硬化性モノマーおよび/または熱硬化性モノマーを含有する組成物は、種々の製品の製造に有用であり得る。したがって、本開示はまた、前記組成物のプリプレグおよび硬化または部分硬化させた熱硬化性モノマーまたは本開示の熱硬化性モノマーを含有する組成物由来の以下に記載の造形品、強化組成物、積層品、電気用積層板、コーティング、成形品、接着剤、複合製品を含む。また、本開示の組成物は、種々の目的に乾燥粉末、ペレット、均質塊、含浸製品および/または配合物の形態で使用できる。
【0049】
種々様々な追加添加剤を、本開示の組成物に加えてもよい。これらの追加添加剤の例としては、繊維強化剤、充填剤、顔料、色素、増粘剤、湿潤剤、潤滑剤、難燃剤などが挙げられる。好適な繊維状および/または微粒状強化材としては、特にシリカ、アルミナ三水和物、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、金属酸化物、ナノチューブ、ガラス繊維、石英繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、ケブラー繊維およびテフロン繊維が挙げられる。繊維状および/または微粒状強化材のサイズ範囲は、0.5nmから100μmまでを含むことができる。種々の実施形態について、繊維状強化材は、マット、クロスまたは連続繊維の形態で入手できる。
【0050】
繊維状または微粒状強化材は、組成物中に、意図する目的について組成物に高められた強度を付与するのに有効な量で、一般に全組成物の重量に基づいて10〜70wt.%、通常は30〜65wt.%の量で存在させる。本開示の積層品は、場合により、異なる材料の1つまたはそれ以上の層を含有することができ、電気用積層板では、これは、導電性材料、例えば銅などの1つまたはそれ以上の層を含有することができる。本開示の樹脂組成物を、成形品、積層品または接着構造物を製造するのに使用する場合には、硬化は、加圧下で行うことが望ましい。
【0051】
部分硬化状態で、本開示の組成物を含浸させた繊維強化剤は、比較的温和な加熱処理(「Bステージ化」)に供して「プリプレグ」を形成することができる。次いで、プリプレグは、組成物を硬い柔軟性のない状態までさらに完全に硬化させるように高められた温度および圧力に供する。複数のプリプレグは、層状にし、硬化させて回路版に実用性を有する積層品を形成できる
【0052】
前記組成物の実施形態はまた、硬化組成物の消炎能力を改善することを促進するために少なくとも1つの相乗剤を含有していてもよい。このような相乗剤の例としては、以下に限定されないが、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、メタロセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。また、前記組成物の実施形態は、接着促進剤、例えば変性オルガノシラン(エポキシ化オルガノシラン、メタクリルオルガノシラン、アミノオルガノシラン)、アセチルアセトン酸塩、硫黄含有分子およびこれらの組み合わせを含有していてもよい。その他の添加剤としては、以下に限定されないが、湿潤および分散助剤、例えば変性オルガノシラン、Byk(登録商標)900シリーズおよびW9010(Byk−Chemie GmbH)、変性フルオロカーボンおよびこれらの組み合わせ;脱泡添加剤、例えばByk(登録商標)A530、Byk(登録商標)A525、Byk(登録商標)A555、およびByk(登録商標)A560(Byk−Chemie GmbH);表面改質剤、例えばスリップおよび光沢添加剤;離型剤、例えばワックス;ならびにその他の機能性添加剤またはポリマー特性を向上させる予備反応生成物、例えばイソシアネート、イソシアヌレート、シアン酸エステル、アリル含有分子またはその他のエチレン性不飽和化合物、アクリレートおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0053】
種々の実施形態について、樹脂シートは、本開示の熱硬化性モノマーおよび/または組成物から形成できる。1つの実施形態において、複数のシートを一緒に結合させて積層ボードを形成することができ、この場合に前記シートは、前記樹脂シートの少なくとも1つを含有する。熱硬化性モノマーおよび/または熱硬化性モノマーを含有する組成物も、樹脂被覆金属箔を形成するのに使用できる。例えば、金属箔、例えば銅箔は、本開示の熱硬化性モノマーおよび/または熱硬化性モノマーを含有する組成物でコーティングすることができる。また、種々の実施形態は、積層基材を本開示の熱硬化性モノマーおよび/または組成物でコーティングすることによって調製できる多層ボードを含む。
【0054】
本開示の熱硬化性モノマーは、任意の所望の形態、例えば固体、溶液または分散物でそれぞれ使用できる1つまたはそれ以上の成分を含有する。これらの成分は、本開示の組成物を形成するために溶媒中で混合するかまたは溶媒の不存在下で混合する。例えば、混合手順は、熱硬化性モノマーの溶液と、1つまたはそれ以上の配合成分を、好適な不活性有機溶媒、例えばケトン、例えばメチルエチルケトン、塩素化炭化水素、例えば塩化メチレン、エーテルなどの中で、別々にまたは一緒に混合し、得られる混合溶液を室温でまたは溶媒の沸点よりも低い高められた温度で均質化させて組成物を溶液の形態で形成することからなる。これらの溶液を室温でまたは高められた温度で均質化させると、幾つかの反応が、構成要素の間で起こり得る。樹脂成分がゲル化せずに溶液の状態で維持される限りは、このような反応は、例えば結合、コーティング、積層または成形操作において、得られる組成物の操作性に特に影響を及ぼさない。
【0055】
種々の実施形態について、本開示の熱硬化性モノマーおよび/または組成物は、コーティングまたは接着層として基材に塗布できる。あるいは、本開示の熱硬化性モノマーおよび/または組成物は、粉末、ペレットの形態でまたは基材、例えば繊維強化剤に含浸させた形態で成形または積層できる。本開示の熱硬化性モノマーおよび/または組成物は、次いで熱を加えることによって硬化させることができる。
【0056】
適切な硬化条件を提供するのに必要な加熱は、組成物を構成する成分の割合および用いる成分の性質に依存し得る。一般に、本開示の組成物は、0℃〜300℃、好ましくは100℃〜250℃の範囲内の温度で加熱することによって硬化させてもよいが、触媒または硬化剤の存在、あるいはその量、あるいは組成物の成分の種類によって異なる。加熱に要する時間は、30秒〜10時間であることができ、この場合に正確な時間は、樹脂組成物を薄膜としてまたは比較的大きな厚みを有する成形品として、あるいは積層品として、あるいは繊維強化複合材用について、例えば電気非導電性材料に塗布し、その後に組成物を硬化させる場合には、特に電気および電子用途などについてマトリックス樹脂として使用するか否かによって異なるであろう。
【実施例】
【0057】
以下の実施例は、本発明の範囲を例証するために示すが、本発明の範囲を限定するものではない。
材料
テトラヒドロフラン〔Sigma−Aldrich(以下、「Aldrich」という)から入手できる〕。
無水ジクロロメタン(Aldrichから入手できる)。
9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(H−DOP、日本の三光株式会社から市販されている「Sanko−HCA」)。
ブチルエーテルビスフェノールAレゾール〔SANTOLINK(商標)EP560、UCB GmbH & Co.から市販されているエーテル化レゾール〕。
窒素(Air Productsから入手できる)。
臭化シアン(Aldrichから入手できる)。
トリエチルアミン(塩基、Aldrichから入手できる)。
ジクロロメタン(Aldrichから入手できる)。
粒状無水硫酸ナトリウム(Aldrichから入手できる)。
ビスフェノールAジシアネート(Lonz Group、スイスから入手できる)。
4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタン(商業グレート、Compimide MDAB、Evonik Degussa GmbH)。
D.E.N.(商標)438(エポキシノボラック樹脂、The Dow Chemical Company)。
N−フェニルマレイミド(Aldrichから入手できる)。
Primaset(商標)BA−230(部分三量化ビスフェノールAシアン酸エステル、Lonza group Limited、スイス)。
2−ブタノン(メチルエチルケトン溶媒、The Dow Chemical Companyから入手できる)。
n−ブタノール(Aldrichから入手できる)。
Dowanol(商標)PM(プロピレングリコールメチルエーテル、The Dow Chemical Company)。
ヘキサン酸Zn(OMG Kokkola Chemicals、フィンランド)。
【0058】
〔実施例1〕
固体DOP−BNの合成
窒素入口、コンデンサー、メカニカルスターラーおよび温度コントローラーを備え130℃に予熱した3リットル三つ口フラスコに、105℃に予熱してある1420gのD.E.N.(商標)438を加えた。攪拌速度を75回転/分(rpm)に設定し、窒素流を60mL/分に設定した。フラスコ内の材料が130℃に達した際に、308gの4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタン、および206gのN−フェニルマレイミドを反応器に加えた。温度が130℃で安定した後に、このブレンドを45分間混合した。45分後に、加熱灯を取り去り、404gの2−ブタノンを滴下ロートで反応器に滴加した。2−ブタノンの添加後に、温度コントローラーを60℃に設定し、溶液を75rpmに設定した攪拌ブレードで30分間ブレンドした。得られる溶液を、本明細書ではマスターブレンドAという。
【0059】
固体DOP−BNを調製するために、マスターブレンドAの試料60gを、32オンスの広口ガラスジャーに入れ、次いで100℃に設定した真空オーブンに18時間入れて溶媒を除去した。得られた固体物質は、綿毛状の結晶の外観を示した。試料2.661mgを、TA Instruments、Q50 TGAで、50cc/分の窒素パージ下で次の手順:20℃/分で室温から171℃までの温度勾配、171℃で45分間の等温にしたがって熱重量分析で分析した。全重量損失は、2.8%と測定された。
【0060】
マスターブレンドA(前記DOP−BN)の高圧液体クロマトグラフ(HPLC)分析〔ダイオードアレイを用いて254nmおよび305nmでUV検出、Prontosil 120−3−C18−ace−EPS 3.0μm、150×4.6mmカラム、アセトニトリル/水の溶出液(50/50で開始して100%アセトニトリルまで濃度勾配で開始、40℃、1.0mL/分の流量)〕は、31.22面積%、27.11面積%および11.05面積%からなる3つの主要成分を有する21の成分を明らかにした。DOP−BNの臭化カリウムペレットのフーリエ変換赤外分光(FTIR)分析(Nicolet FT−IR分光光度計)は、3212.8cm−1にヒドロキシ基吸光度および1431.0cm−1にリン原子に直接に結合したフェニル環に起因する鋭い強い芳香族のバンドの吸光度を明らかにした。
【0061】
エレクロスプレーイオン化液体クロマトグラフィー質量分光分析によるDOP−BNの分析
固体DOP−BN試料を、テトラヒドロフラン〔約10%(V/V)〕に溶解し、その溶液のアリコート5マイクロリットルを、陽イオン(PI)モードおよび陰イオン(NI)モードで操作するMicromass Z−spray エレクトロスプレー(ESI)インターフェースを介してMicromass QToF2、SN#UC−175、四重極/飛行時間型MS/MS装置に接続したWaters Alliance 2690三元勾配液体クロマトグラフィー装置で、液体クロマトグラフィーエレクロスプレーイオン化質量分光分析(ESI/LC/MS)により分析した。以下の分析条件を使用した:
カラム:150×4.6mm ID×5μm、Zorbax SB−C3
移動相:A=DI水 w/0.05%ギ酸およびB=テトラヒドロフラン
勾配プログラム:80/20(V/V)A/B保持1分から5/95(V/V)A/Bまで21分のカーブ6で、保持5分、全操作時間=26分。
カラム温度:45℃。
流量:1.0mL/分(インターフェースから離れて2:1にスプリット)。
UV検出器:ダイオードアレイ210〜400nm。
ESI条件:Source Block:110℃ 脱溶媒和:280℃
キャピラリー:+/−2.5kV
コーン:+/−20V
MS条件:MCP:2150Vモード:+/−イオン。
スキャン:50〜4000amu(+)速度:1.0秒/スキャン
スキャン:50〜3000amu(−)速度:1.0秒/スキャン
【0062】
Lockspray Mass Calibrant=(PI/NI)メタノール中にDE−638〔Penoxsulam(商標)、Chem.Abs.219714−96−2、C16H14F5N5O5S〕が12.5μg/mLの溶液(M+H+=484.0714、M−H−=482.0558)3マイクロリットル/分の流量で、5秒毎に1回の走査を得た。
【0063】
ESI/LC/MS分析により、表1に示す以下の構造が推定され、表では5面積%を超えて存在する成分のみを考察した。
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【0064】
250mL三つ口ガラス製丸底反応器に、前記のように調製した固体DOP−BN(4.90g、0.01ヒドロキシ当量)と無水ジクロロメタン(50mL、DOP−BNのg当たり10.2mL)を装填した。この反応器に、さらにコンデンサー(0℃に維持した)、温度計、上部窒素注入口(1リットル/分のNを使用する)、およびマグネチックスターラーを取り付けた。この溶液を攪拌し、その温度を約22℃にした。
【0065】
臭化シアン(1.134g、0.0107モル、1.07:1の臭化シアン:ヒドロキシルの当量比)を前記溶液に加え、直ちに溶解させた。冷却用のドライアイス−アセトン浴を反応器の下に置き、次いで冷却し、−7℃で攪拌溶液を平衡させた。トリエチルアミン(1.03g、0.0102モル、トリエチルアミン:ヒドロキシル当量比1.02)を、反応温度を−7℃〜−3.5℃に維持したアリコートに注射器を使用して加えた。トリエチルアミンの全添加時間は12分であった。トリエチルアミンの最初のアリコートの添加は、攪拌溶液に淡黄色を生じさせ、この色は直ちにまた無色に変化した。さらなる添加により、トリエチルアミン臭化水素塩を示す濁りが観察された。−8℃〜−5℃での後反応の13分後に、反応生成物の試料のHPLC分析(ダイオードアレイによる254nmおよび305nmでのUV検出、Prontosil 120−3−C18−ace−EPS 3.0μm、150×4.6mmのカラム、アセトニトリル/水の溶出液(50/50で100%アセトニトリルまでの濃度勾配で開始する、40℃、1.0mL/分の流量)は、31個の成分を示し、存在するどの成分もDOP−BNのHPLC分析で観察された保持時間と異なる保持時間を有する。−8℃〜−5℃での後反応の累積32分後に、生成物スラリーを、磁気攪拌脱イオン水(200mL)およびジクロロメタン(50mL)を有するビーカーに加えて混合物を得る。
【0066】
攪拌の2分後に、混合物を、分液ロートに加え、静置し、次いでジクロロメタン層を回収し、水性層を廃棄した。得られたジクロロメタン溶液を、分液ロートに戻し、新しい脱イオン水(100mL)でさらに3回抽出した。得られる濁ったジクロロメタン溶液を、粒状無水硫酸ナトリウム(5g)で乾燥して透明溶液を得、次いでこれを、枝付き真空フラスコに取り付けた60mLの中間フリットガラスロートに支持された無水硫酸ナトリウム(25g)の層に通した。
【0067】
得られた透明な淡黄色濾液を、最大油浴温度を50℃として、真空が<1mmgになるまでロータリーエバポレーターで蒸発させた。合計4.49Hgの白色結晶質生成物を回収した。DOP−BNのポリシアネートの臭化ナトリウムペレットFTIR分析は、ヒドロキシル基の吸収の消失、2253.7cm−1および2207.3cm−1での鋭い強いシアネート基の吸収の出現、ならびにリン原子に直接に結合したフェニル環に起因する1431.0cm−1での鋭い強い芳香族バンドの吸収の保持を示した。
【0068】
HPLC/MSのデータは、フェノール部分の所望のシアン酸エステル官能基への転化を示す。図1は、DOP−BNのポリシアネートの試料のメタノール溶液を注入することによって得られる陽イオンESI質量スペクトルを含む。質量362.19および520.14で観察された主要イオンは、依然として特定されないままである。
【0069】
図2は、より高い質量範囲に焦点を合わせている。多数のこれらのイオンの元素組成は、これらのイオンについて測定した正確な質量に基づいて割り当てることができる。特定されたイオンは、DOP−BN出発原料で観察されたフェノール化合物のシアネート類似物である。モノシアネートおよびジシアネートの両方が、観察され、表2に示される。化合物F(ジシアネート)は、DOP−BN試料のポリシアネートの標的化合物である。
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0070】
〔実施例2〕
DOP−BNのポリシアネートのホモポリトリアジンの合成
上記の実施例1からのDOP−BNのポリシアネートの一部分(4.5mg、5.3mgおよび7.7mg)の示差走査熱量(DSC)分析(TA Instruments 2920 DSC)を、35cm/分で流す窒素流下で25℃から350℃まで7℃/分の加熱速度を使用して終えた。3回のDSC分析から収集したデータを平均した。環状三量化に起因する単一の発熱を、232.1ジュール/gのエンタルピーを伴った最大237.4℃で検出した。この環状三量化発熱の開始温度は、180.2℃であった。得られるホモポリトリアジンの第二の走査は、曲線を示すさらなる発熱性がないことを明らかにした。DSC分析から回収されたホモポリトリアジンは、透明な琥珀色の剛性固体であった。
【0071】
〔実施例3〕
A.DOP−BNのポリシアネートとビスフェノールAジシアネートとのブレンドの調製
実施例1からのDOP−BNのポリシアネートの一部(0.0176g、15.0重量%)と、ビスフェノールAジシアネート(0.0996g、85.0重量%)を一緒にし、一緒に微粉砕して均質な固体を得た。
【0072】
B.DOP−BNのポリシアネートとビスフェノールジシアネートの共重合
実施例1からのDOP−BNのポリシアネートと、実施例3のA部(上記)からのビスフェノールAジシアネートとのブレンドの一部分(8.0mgおよび9.0mg)の示差走査熱量(DSC)分析(TA Instruments 2920 DSC)を、35cm/分で流す窒素流下で25℃から350℃まで7℃/分の加熱速度を使用して終えた。1組のDSC分析から収集したデータを平均した。溶融に起因する単一の発熱を、88.9ジュール/gのエンタルピーを伴った最大81.5℃で検出した。環状三量化に起因する単一の発熱を、577.5ジュール/gのエンタルピーを伴った最大269.1℃で検出した。この環状三量化発熱の開始温度は、238.6℃であった。得られたコポリトリアジンの第二の走査は、さらなる硬化を示す265.8℃での発熱シフトと共に、216.0℃のガラス転移温度を明らかにした。DSC分析から回収されたコポリトリアジンは、透明な琥珀色の硬い固体であった。
【0073】
(比較例A)
ビスフェノールAのジシアネートのホモポリトリアジンの合成
ビスフェノールAジシアネート(上記実施例3で使用したものと同じ生成物)の一部(8.4mg)の示差走査熱量(DSC)分析(TA Instruments 2920 DSC)を、35cm/分で流す窒素流下で25℃から350℃まで7℃/分の加熱速度を使用して終えた。1組のDSC分析から収集したデータを平均した。溶融に起因する単一の発熱を、103.8ジュール/gのエンタルピーを伴った最大83.6℃で検出した。環状三量化に起因する単一の発熱を、550.2ジュール/gのエンタルピーを伴った最大323.0℃で検出した。この環状三量化発熱の開始温度は、305.1℃であった。得られたホモポリトリアジンの第二の走査は、さらなる硬化を示す267.2℃での発熱シフトと共に、208.1℃のガラス転移温度を明らかにした。DSC分析から回収されたホモポリトリアジンは、透明な琥珀色の硬い固体であった。
【0074】
〔実施例4〕
A.4:1のシアネート:マレイミドの当量比を使用するDOP−BNのポリシアネートと4.4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンとのブレンドの調製
実施例1のDOP−BNのポリシアネートの一部(0.2214g、0.00043シアネート当量)と、4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタン(0.0192g、0.000107マレイミド当量)とを一緒にし、一緒に微粉砕して均質な固体を得た。
【0075】
B.DOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンの共重合
上記AからのDOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンとのブレンドの一部(6.4mg)の示差走査熱量(DSC)分析(TA Instruments 2920 DSC)を、35cm/分で流す窒素流下で25℃から350℃まで7℃/分の加熱速度を使用して終えた。共重合に起因する単一の発熱を、142.5ジュール/gのエンタルピーを伴った最大235.0℃で検出した。この共重合発熱の開始温度は、141.4℃であった。得られたコポリマーの第二の走査は、さらなる硬化を示す211.1℃での発熱シフトと共に、173.4℃のガラス転移温度を明らかにした。DSC分析から回収されたビスマレイミドトリアジンコポリマーは、透明な琥珀色の硬い固体であった。
【0076】
〔実施例5〕
A.2:1のシアネート:マレイミドの当量比を使用するDOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンとのブレンドの調製
実施例1からのDOP−BNのポリシアネートの一部(0.2192g、0.000426当量)と、4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタン(0.0381g、0.000213マレイミド当量)を一緒にし、一緒に微粉砕して、均質な固体を得た。
【0077】
B.DOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンの共重合
上記AからのDOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンとのブレンドの一部(7.5mg)の示差走査熱量(DSC)分析(TA Instruments 2920 DSC)を、35cm/分で流す窒素流下で25℃から350℃まで7℃/分の加熱速度を使用して終えた。共重合に起因する単一の発熱を、185.0ジュール/gのエンタルピーを伴った最大236.4℃で検出した。この共重合発熱の開始温度は、146.2℃であった。得られたコポリマーの第二の走査は、180.3℃のガラス転移温度を明らかにした。第二の走査は、硬化を示すさらなる発熱がないこと明らかにした。(注:第二の弱い見掛けのガラス転移温度が、259.5℃で観察された)。得られたコポリマーの第三の走査は、180.3℃のガラス転移温度を明らかにした。第三の走査は、硬化を示すさらなる発熱がないことを明らかにした。(注:第二の弱い見掛けのガラス転移温度が、260.9℃で観察された)。DSC分析から回収されたビスマレイミドトリアジンコポリマーは、透明な琥珀色の硬い固体であった。
【0078】
〔実施例6〕
A.1.33:1のシアネート:マレイミドの当量比を使用するDOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンとのブレンドの調製
実施例1からのDOP−BNのポリシアネートの一部(0.2299g、0.000446当量)と、4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタン(0.0599g、0.000335 マレイミド当量)を一緒にし、一緒に微粉砕して、均質な固体を得た。
【0079】
B.DOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンの共重合
上記AからのDOP−BNのポリシアネートと4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタンとのブレンドの一部(7.0mg)の示差走査熱量(DSC)分析(TA Instruments 2920 DSC)を、35cm/分で流す窒素流下で25℃から350℃まで7℃/分の加熱速度を使用して終えた。共重合に起因する単一の発熱を、188.9ジュール/gのエンタルピーを伴った最大236.8℃で検出した。この共重合発熱の開始温度は、146.4℃であった。得られたコポリマーの第二の走査は、さらなる硬化を示す267.4℃での発熱シフトと共に、191.4℃のガラス転移温度を明らかにした。DSC分析から回収されたビスマレイミドトリアジンコポリマーは、透明な琥珀色の硬い固体であった。
【0080】
〔実施例7〕
一連の実験を行って、DOP−BNを、エポキシ樹脂とビスマレイミド−トリアジン樹脂とのDOP−BN混合物のポリシアネート(BT−エポキシ系)に置き換える影響を調べた。前記BT−エポキシ系は、D.E.N.(商標)438、4,4’−ビス(マレイミド)ジフェニルメタン、N−フェニルマレイミド、Primaset(商標)BA−230s(部分三量体化ビスフェノールAシアン酸エステル)、DOP−BNまたは前記DOP−BNのポリシアネートおよび溶媒として2−ブタノンを含有していた。D.E.N.(商標)438−マレイミド−Primaset(商標)BA−230s当量比は、実施例全体を通じて一定であった。これは、1)DOP−BNのフェノール官能基をシアン酸エステルバージョンで置換する影響、および2)配合物中のDOP−BNまたはDOP−BNシアン酸エステルの量を変化させる影響を分離するために行った。
【0081】
比較例は、DOP−BNを、配合物の固体部分に1wt.%、2wt.%、および3wt.%のリンをもたらす配合量で利用して配合した。シアン酸エステル中にもたらされる追加の炭素原子および窒素原子の結果としての当量の増加により、当量、およびリン%を計算のために調製した。DOP−BNのリンの基準割合は、9.8重量%で評価した。9.6重量%の値を、DOP−BNのポリシアネートについて使用した。
【0082】
重要な諸特性は、ストロークゲル時間(ASTM D4640−86にしたがって試験される)、時間=0(t0時間)および時間=24時間(t24時間)でのガードナーバブル粘度(ASTM D1545−07にしたがって試験される)(Byk−Gardner,GmbH)(ASTM D4640−86)、DSCによるガラス転移温度(ASTM D3418にしたがって試験される)、および熱重量分析(TGA)による5%分解温度(ASTM E1131にしたがって試験される)であった。
【0083】
マスターブレンド
マスターブレンドA
マスターブレンドAは、実施例1に前記した通りに調製した。
【0084】
マスターブレンドB
30mLシンチレーションバイアルに、8.25gの実施例1の固体DOP−BNと6.75gの2−ブタノンを加えた。このバイアルを、振盪機の上に低速で一晩置いた。
【0085】
マスターブレンドC
30mLシンチレーションバイアルに、8.25gの実施例1からのDOP−BNのポリシアネートと6.75gの2−ブタノンを加えた。このバイアルを、振盪機の上に低速で一晩置いた。
【0086】
マスターブレンドD
30mLシンチレーションバイアルに、0.5gのヘキサン酸亜鉛と9.95gの2−ブタノンを加えた。
【0087】
実施例および比較例の配合物
注:全ての試料は、固形分70重量%に調整され、暗い琥珀色であり、粒状物質を含有していないかまたは濁りが無かった。
【0088】
(比較例B)
30mLシンチレーションバイアルに、7.74gのマスターブレンドA、4.05gのPrimaset(商標)BA−230s、1.95gのマスターブレンドB、0.66gの2−ブタノン、および0.0419gのマスターブレンドDを加えた。この試料を、振盪機の上に低速で90分間置いた。
【0089】
(比較例C)
30mLシンチレーションバイアルに、6.85gのマスターブレンドA、3.59gのPrimaset(商標)BA−230s、3.90gのマスターブレンドB、1.27gの2−ブタノン、および0.0399gのマスターブレンドDを加えた。この試料を、振盪機の上に低速で90分間置いた。
【0090】
(比較例D)
30mLシンチレーションバイアルに、5.07gのマスターブレンドA、3.13gのPrimaset(商標)BA−230s、5.84gのマスターブレンドB、および0.0340gのマスターブレンドDを加えた。この試料を、振盪機の上に低速で90分間置いた。
【0091】
〔実施例8〕
30mLシンチレーションバイアルに、7.72gのマスターブレンドA、4.04gのPrimaset(商標)BA−230s、1.99gのマスターブレンドC、1.257gの2−ブタノン、および0.0448gのマスターブレンドDを加えた。この試料を、振盪機の上に低速で90分間置いた。
【0092】
〔実施例9〕
30mLシンチレーションバイアルに、6.82gのマスターブレンドA、3.57gのPrimaset(商標)BA−230s、3.98gのマスターブレンドC、0.64gの2−ブタノン、および0.0395gのマスターブレンドDを加えた。この試料を、振盪機の上に低速で90分間置いた。
【0093】
〔実施例10〕
30mLシンチレーションバイアルに、5.93gのマスターブレンドA、3.10gのPrimaset(商標)BA−230s、5.97gのマスターブレンドC、および0.0405gのマスターブレンドDを加えた。この試料を、振盪機の上に低速で90分間置いた。
【0094】
分析
約2mLの各試料を、171℃の熱盤上に置いて、ASTM D4640−86にしたがってストローク硬化方法によってゲル化点を測定した。ゲル化試料を熱盤から取り出し、アルミニウム皿に入れ、次いで後硬化のために220℃の熱対流炉に120分間入れた。120分後に、試料を、ガラス転移温度(T)および分解温度(T)用に調製した炉から取り出した。Tは、TA Instruments 2920 DSCを使用して35cc/分の流量の窒素下で、示差走査熱量分析で測定した。試験方法は、50cc/分の窒素流下で、20℃/分の勾配率で60℃から275℃までの温度勾配からなっていた。Tは、遷移段階にわたって半外挿接線法を利用して算出した。Tは、TA Instruments Q50 TGAを使用して熱重量分析によって測定した。この試験方法は、50cc/分の窒素流下で、10℃/分の勾配率で25℃から450℃までの温度勾配からなっていた。5%重量損失は、Y関数での値を使用して算出した。
【表3】

【0095】
表3のデータはDOP−BN、特により高いリン重量%濃度でシアン酸エステル誘導体を含有する組成物のガラス転移温度(T)の上昇および改善された安定性を実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個のアリール−シアナト基と少なくとも2個のリン基を含有する熱硬化性モノマー。
【請求項2】
前記熱硬化性モノマーが、式(I):
【化1】


の化合物で表され、
式中、mは、1〜20の整数であり;
式中、nは、0〜20の整数であり(但し、nが0である場合には、mが2〜20の整数であることを条件とする);
式中、Xは、硫黄、酸素、孤立電子対、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され;
式中、それぞれのRおよびRは、独立して、水素、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、または6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分であり(この場合の脂肪族部分と芳香族炭化水素部分は、結合して環状構造を形成することができる);
式中、Rは、水素、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分、RP(=X)CH−、およびROCH−からなる群から選択され、Rは、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分であり;ならびに
式中、それぞれのRおよびRは、独立して、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分であるか(この場合の脂肪族部分と芳香族炭化水素部分は、結合して環状構造RX−を形成することができる)、またはRおよびRは、一緒になってArX−であり;ならびに
式中、それぞれのArおよびArは、独立して、ベンゼン、ナフタレン、またはビフェニルである、請求項1に記載の熱硬化性モノマー。
【請求項3】
前記の式(I)の化合物について、Xが酸素であり、nが1であり、mが1であり、それぞれのRおよびRがメチル基であり、RがRP(=X)CH−であり、ならびにRおよびRが一緒になってArXであり、Arが、RP(=X)−が式(II):
【化2】

の化合物で表されるような、ビフェニルである、請求項2に記載の熱硬化性モノマー。
【請求項4】
前記の式(I)の化合物について、Xが酸素であり、nが0であり、mが2または3であり、RがRP(=X)CH−であり、ならびにRおよびRが一緒になってArXであり、Arが、RP(=X)−が式(II):
【化3】

の化合物で表されるような、ビフェニルである、請求項2に記載の熱硬化性モノマー。
【請求項5】
Arがベンゼンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱硬化性モノマー。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の熱硬化性モノマーを含む組成物。
【請求項7】
エポキシ樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、マレイミド樹脂、シアン酸エステル樹脂およびこれらの組み合わせからなる群から選択される配合成分を含有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記マレイミド樹脂が、4,4’−ジアミノジフェニルメタンのビスマレイミドである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記硬化性組成物が、0.1〜3.5重量%のリン含有量を有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
前記硬化性組成物が、180.2℃の硬化開始温度および硬化性組成物g当たり232.1ジュールの硬化エンタルピーを有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
前記硬化性組成物が、237.4℃での単一の発熱の後に完全に硬化する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の熱硬化性モノマーの調製方法であって、
エーテル化レゾールを、(H−P(=X)R
(式中、それぞれのRおよびRは、独立して、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族部分、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素部分であり、この場合の脂肪族部分および芳香族炭化水素部分は、結合して環状構造RX−を形成することができ、またはRおよびRは、一緒になってArX−であり;Xは、硫黄、酸素、または孤立電子対であり;ならびにArは、ベンゼン、ナフタレン、またはビフェニルである)
と縮合させて反応生成物を形成し;および
前記反応生成物を、ハロゲン化シアンおよび塩基を用いて請求項1に記載の熱硬化性モノマーに転化させる;
ことからなる、請求項1に記載の熱硬化性モノマーの調製方法。
【請求項13】
9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドを与えるためにRおよびRが、一緒になってArX−であり;Xが酸素であり、ならびにArがビフェニルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エーテル化レゾールが、ブチルエーテルビスフェノールAレゾールであり、前記ハロゲン化シアンが臭化シアンであり、および前記塩基がトリエチルアミンである、請求項12または13のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−516513(P2013−516513A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547060(P2012−547060)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/003234
【国際公開番号】WO2011/081664
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】