説明

ルミネセンス変換素子を有する発光素子

本発明は発光素子を含み、この発光素子は、動作時に電磁的一次放射線を放出する少なくとも1つの一次放射線源と、少なくとも1つのルミネセンス変換素子を有しており、当該ルミネセンス変換素子によって、前記一次放射線の少なくとも一部が、波長が変化した放射線に変換される。前記ルミネセンス変換素子の後には、前記素子の放射方向において、多数のナノ粒子を有するフィルタ素子が配置されており、当該ナノ粒子はフィルタリング物質を有しており、該フィルタリング物質は、不所望な放射線の少なくとも1つのスペクトル部分領域の放射線強度を吸収によって選択的に低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、欧州特許出願第030159727号および独国特許出願第103616616号の優先権を主張し、これによって当該文献の開示内容は参考として組み込まれる。
【0002】
本発明は発光素子に関し、この発光素子は動作時に電磁的な一次放射線を放射する少なくとも1つの一次放射線源と、この一次放射線の少なくとも一部を、波長が変えられた放射線に変換する少なくとも1つのルミネセンス変換素子を有する。
【0003】
この種の素子は例えば独国特許出願第10133352号公報に記載されている。一次放射線源として少なくとも1つのルミネセンスダイオードが使用される。このルミネセンスダイオードは300〜485nmの範囲で一次放射線を放射する。この一次放射線は蛍光体によって部分的にまたは完全に、長い波長の放射線に変換される。UVまたはUV近傍領域からの一次放射線を可視光に変換する素子は殊に、種々異なる蛍光体材料を用いて、高い演色を有する白色光を生成するのに適している。
【0004】
このような素子の欠点は、この素子が、UVまたはUV近傍スペクトル領域からの一次放射線の無視できない残放射を有していることである。これは殊に、一次放射線源として高出力ルミネセンスダイオードが使用されている場合である。しかしこのような残放射はできるだけ回避されるべきである。なぜならUVまたは可視UV近傍波長領域からの電磁的放射線が、影響が強い場合には、人間の眼に危害を与え得るからである。UV領域ないし紫領域(400nm〜420nm)からの放射線は、眼に入射する放射線出力に依存して眼に危害を与え得る。波長が400nmを下回る場合には、白内障構成、すなわち眼のレンズの濁りが生じる。波長が400nm〜420nmの間の場合には付加的に網膜の光化学的劣化が生じる。
【0005】
本発明の課題は、不所望な放射線の放射線強度を少なくとも部分的に低減するための手段を有している発光素子を提供することである。
【0006】
前述の課題は、請求項1に記載された素子によって解決される。本発明の有利な発展形態および有利な構成は従属請求項に記載されている。
【0007】
本発明では、冒頭に記載した形式の素子において、ルミネセンス変換素子の後に、素子の放射方向において、多数のナノ粒子を有するフィルタ素子が配置される。このナノ粒子はフィルタリング物質を有しており、このフィルタリング物質は、不所望な放射線の少なくとも1つのスペクトル領域の放射線強度を、吸収によって選択的に低減させる。
【0008】
本発明の関連ではナノ粒子とは、0.1nm以上、かつ100nm以下の平均粒径を有する粒子のことであると理解されたい。
【0009】
ナノ粒子は、可視放射線の波長と比較して、比較的小さい伸長を有している。これによって可視放射線はナノ粒子で実質的に非弾性的に散乱されるのではなく、レイリー散乱が行われ、これによって可視放射線はほぼエネルギー損失なく散乱される。従って、フィルタ素子によって実質的に、フィルタリング物質がそれに対して吸収性である、素子内で生成された電磁放射線の波長領域だけの放射線強度が低減される。これによって、不所望な放射線の少なくとも一部分の放射線強度が選択的に低減される。
【0010】
本発明の関連において、概念「不所望な放射線」とは、この放射線が絶対的に不所望であることを意味するのではなく、素子からのこの放射線の放射が不所望であり、従ってできる限り回避されるべきであることを意味する。
【0011】
素子の有利な実施形態では、不所望な放射線は一次放射線である、または一次放射線のスペクトル部分領域である。
【0012】
有利には不所望な放射線は420nm以下、かつ10nm以上の波長領域から生じる、またはこれと重畳する。
【0013】
素子の別の有利な実施形態において一次放射線源は、有利には少なくとも1つのルミネセンスダイオードを有する。このルミネセンスダイオードは、動作時にUVビームおよび/または青色光を放射する。不所望な放射線のスペクトル部分領域の放射線強度は、有利には少なくとも50%低減される。
【0014】
所望されている放射線がナノ粒子で非弾性的に散乱されてしまうのを実質的に回避するために、ナノ粒子は有利には、Qで測定して、25nm以下であり、有利には21nm以下であり、かつ1nm以上であるd50値を有する。
【0015】
殊に有利には、ナノ粒子は、Qで測定して、所望されている放射線の最小波長の1/20以下であり、かつ1nm以上であるd50値を有する。これの殊に有利な実施形態では、全てのナノ粒子は、最大で、所望されている放射線の最小波長の1/20である平均直径を有している。
【0016】
有利な実施形態では、酸化金属の材料群、硫化物の材料群、窒化物の材料群およびケイ酸塩の材料群からなるグループからの少なくとも1つの材料が、フィルタリング物質内に含まれている。ここで本発明の意図においては、フィルタ素子が、種々異なるフィルタリング物質を伴うナノ粒子の複数の部分グループを有することも可能である。このような場合には、ナノ粒子の少なくとも1つの部分グループのフィルタリング物質のみが、本発明または本発明の実施形態の条件を満たせばよい。
【0017】
フィルタリング物質は殊に有利には二酸化チタン、二酸化セリウム、二酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、硫化亜鉛および窒化ガリウムから成るグループからの少なくとも1つの材料を有している。
【0018】
ナノ粒子は有利には、マトリクス材料内に埋められる。このマトリクス材料は有利にはUVビームに反応しない。このためにマトリクス材料は有利には、シリコーン、スピンオンガラス、ケイ素化合物およびポリマーから成るグループからの少なくとも1つの材料を有している。
【0019】
マトリクス材料内でのナノ粒子の堆積をできるだけ僅かにするために、ナノ粒子には殊に有利には分散促進表面コーティングまたは表面改質が施される。これによってマトリクス材料内でのナノ粒子の分散性が改善される。
【0020】
本発明のさらなる特徴、利点および有利な点を以下で、図1〜2bに関連して記載された実施例に記載する。
【0021】
図1には素子の実施例の概略的な断面図が示されており、
図2aにはミクロ粒子を伴うフィルタ素子の計算された透過スペクトルが示されており、
図2bには本発明に相応するフィルタ素子の実施例の計算された透過スペクトルが示されている。
【0022】
実施例および図面では、同じ構成素子または同じ作用をする構成素子にはそれぞれ同じ参照番号が付与されている。図示された素子は縮尺通りではなく、むしろより良く理解するために部分的に誇張されて大きく示されている。
【0023】
図1に示された実施例では、フィルタ素子1は、ルミネセンスダイオード用の従来のハウジング10の放射線取り出し面上に載置されている。ハウジング10は、「トップルック(Toplooker)」構造形態を有しており、ハウジング基本構造4並びに第1および第2の導電性層8,9を含む。これらの導電性層はハウジング基本構造4の壁部を部分的に覆っている。ルミネセンスダイオード6は、第2の導電性層9上に取り付けられており、これによってこの第2の導電性層と導電的に接触接続されている。ルミネセンスダイオードチップ6の、導電性層9の方を向いていない面はボンディングワイヤ7によって、第2の導電性層8と導電性接続されている。導電性層は例えば、ルミネセンスダイオードチップ6から、その作動中に放射される電磁放射線に対して反射性である。
【0024】
ルミネセンスダイオードチップ6は、基板上に配置された、エピタキシャル成長した半導体層連続体を有しており、これは、ルミネセンスダイオードチップ6の作動中に電磁放射線を放出するアクティブゾーンを含む(図示されていない)。この半導体層連続体の厚さは例えば8μmである。
【0025】
この種の半導体層連続体は例えば従来のpn接合部、二重ヘテロ構造、一重量子井戸構造(SQW構造)または多重量子井戸構造(MQW構造)を有している。この種の構造は当業者には公知であるので、ここで詳細に説明しない。GaNをベースにした多重量子井戸構造に対する例はWO01/39282A2号に記載されており、この文献の開示内容は参考で本願に組み込まれる。
【0026】
ルミネセンスダイオードチップ6の半導体層連続体は例えばInAlGaNに基づいている。すなわちこれは組成InAlGa1−x−yNの少なくとも1つの材料を含み、ここで0≦x≦1、0≦y≦1かつx+y≦1である。これは電磁放射線を放射し、これは例えばUV領域からの波長を含む。
【0027】
ルミネセンスダイオードチップ6は、ルミネセンス変換素子5によってカプセル封入されている。ルミネセンス変換素子は例えばシリコーンをベースにしたコンパウンド並びに、その中に分散された1つまたは複数の蛍光体を有している。UV領域で放射するルミネセンスダイオードチップを一次放射線源として、蛍光体を励起するために使用することの利点は、蛍光体から放射される光が通常、ルミネセンスダイオードから放射される光よりも幅の広いスペクトルを有するということである。従って例えば一次放射線が放射光の大部分を成している素子と比較して改善された演色を有する白色光が得られる。
【0028】
ルミネセンス変換素子5内に含まれている蛍光体は、ルミネセンスダイオードチップ6によって放射された、UV領域からの波長を有している放射線の大部分を吸収し、従って、より大きな波長を有する放射線を放射する。種々異なる蛍光体から放射された放射線は完全混合され、CIE色度図の特定の色位置の光、殊に白色光が生じる。
【0029】
可能な蛍光体は例えばYAG:Ce,YAG:Tbをベースにした蛍光体粒子または、当業者にUV励起可能であるとして知られている他の適切な、無機または有機蛍光体粒子である。
【0030】
フィルタ素子1はマトリクス材料3を有しており、このマトリクス材料にはナノ粒子2が混ぜられている。マトリクス材料は、例えばシリコーンをベースにしているが、択一的に、導波体材料で公知である、スピンコーティングによってコーティングされたガラス、またはケイ素化合物または例えば耐UV性のポリマーであってもよい。
【0031】
ナノ粒子2は例えばフィルタリング物質としてTiOを有している。これは、種々異なる変態で存在し得る。アナターゼ変態において二酸化チタンは例えば3.2eVの禁制帯エネルギーを有している。これは387nmの波長に相当する。約400nmで始まり約380nmまでの波長領域において、アナターゼ変態における二酸化チタンの吸収係数は2オーダーよりも多く変化する。
【0032】
択一的にフィルタリング物質はルチル変態における二酸化チタンも有し得る。これは例えば約15重量%の濃度でフィルタ素子1内に含まれている。ここでフィルタ素子は50μmの厚さの層で存在している。二酸化チタンは例えば、17nmのd50値を有している粒子の形で存在している。
【0033】
このようなフィルタ素子1に対して、図2bにおいて電磁放射線の透過が散乱のみを考慮して、放射線の波長に依存して示されている。透過は、約400nmの波長で約95%であって、波長が増大するに従って、約700nmの場合での99%を超える値まで上昇する。従って、フィルタ素子1のナノ粒子2での散乱に基づいた放射線強度での損失は非常に僅かである。
【0034】
図2aには同じように、50μmの厚さの層を有するフィルタ素子に対する透過が示されており、この層は約15重量%の、ルチル変態における二酸化チタンを有している。唯一の違いは、二酸化チタンが約10μmの粒子サイズを有する粒子の形状で存在していることである。このようなフィルタ素子は、可視波長領域全体に対して実際には透過性でない。
【0035】
図2bに示された透過スペクトルに基づくフィルタ素子1で、散乱に対して付加的にさらに、二酸化チタン内の吸収を考慮すると、約420nmを下回る波長の場合には格段に低減された透過が生じる。412nmの波長の放射線の場合には、透過は約1%を上回る程度にしかならない。このようにして、例えばUV領域および/または短波長青色領域からの一次放射線である、眼に被害を与える、従って不所望な放射線が効果的に低減される。しかも望まれている放射線の放射線強度の、極度に高い低減を甘受する必要はない。
【0036】
素子から放出される放射線の、フィルタ素子のナノ粒子での散乱は、有利にはその改善された完全混合、殊に種々異なる色の光の改善された完全混合へ導く。
【0037】
二酸化チタン等の金属酸化物に対して択一的に、実施例では択一的または付加的に他の適切な金属酸化物または適切な硫化物、窒化物および/またはケイ酸塩をフィルタリング物質として使用することもできる。これに加えて例えば、二酸化セリウム、二酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、硫化亜鉛および窒化ガリウムが適しており、これらは不所望な放射線に関して、すなわちその吸収特性に関して選択されている。ナノ粒子の量も、吸収される放射線の強度の所望されている低減に相応して、各(波長に依存した)吸収係数を考慮して整合される。
【0038】
基本的に、本発明の枠内ではフィルタリング物質の構成部分には、次のような全ての材料が適している。すなわち、可視波長領域からの光に対して透過性であり、不所望な放射線、殊にUV領域および/または紫領域からの放射線に対して吸収性である全ての材料が適している。
【0039】
ナノ粒子は分散促進表面コーティングまたは分散促進表面改質を有する。すなわちナノ粒子は適切な分子によってコーティングされる、またはこのような分子がそこで吸収され、マトリクス材料におけるその分散性が改善される。
【0040】
本発明の保護領域は、実施例に基づく本発明の説明によって制限されるものではない。むしろ本発明は、各新たな特徴並びにこれらの特徴の各組み合わせを含み、これは殊に、その組み合わせが特許請求の範囲または実施例に明記されていない場合にも、特許請求の範囲の特徴の各組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】素子の実施例の概略的な断面図
【図2a】ミクロ粒子を伴うフィルタ素子の計算された透過スペクトル
【図2b】本発明に相応するフィルタ素子の実施例の計算された透過スペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子であって、
動作時に電磁的一次放射線を放出する少なくとも1つの一次放射線源と、
少なくとも1つのルミネセンス変換素子を有しており、当該ルミネセンス変換素子によって、前記一次放射線の少なくとも一部が、波長が変化した放射線に変換される形式のものにおいて、
前記ルミネセンス変換素子の後に、前記素子の放射方向において、多数のナノ粒子を有するフィルタ素子が配置されており、当該ナノ粒子はフィルタリング物質を有しており、該フィルタリング物質は、不所望な放射線の少なくとも1つのスペクトル部分領域の放射線強度を吸収によって選択的に低減させる、
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記不所望な放射線は前記一次放射線または前記一次放射線のスペクトル部分領域である、請求項1記載の素子。
【請求項3】
前記不所望な放射線は420nm以下のUV波長領域から生じる、または少なくとも当該波長領域と重畳する、請求項1または2記載の素子。
【請求項4】
前記一次放射線源は少なくとも1つのルミネセンスダイオードを有しており、当該ルミネセンスダイオードは動作時にUVビームおよび/または青色光を放出する、請求項1から3までのいずれか1項記載の素子。
【請求項5】
前記不所望な放射線のスペクトル部分領域の放射線強度は、少なくとも50%低減される、請求項1から4までのいずれか1項記載の素子。
【請求項6】
前記ナノ粒子は、Qで測定して、25nm以下であり、かつ1nm以上であるd50値を有している、請求項1から5までのいずれか1項記載の素子。
【請求項7】
前記ナノ粒子は、Qで測定して、21nm以下であり、かつ1nm以上であるd50値を有している、請求項1から6までのいずれか1項記載の素子。
【請求項8】
前記ナノ粒子は、Qで測定して、所望されている放射線の最小波長の20分の1以下であり、かつ1nm以上であるd50値を有している、請求項1から7までのいずれか1項記載の素子。
【請求項9】
前記フィルタリング物質は、金属酸化物の材料群、硫化物の材料群、窒化物の材料群およびケイ酸塩の材料群からなるグループからの少なくとも1つの材料を有している、請求項1から8までのいずれか1項記載の素子。
【請求項10】
前記フィルタリング物質は、二酸化チタン、二酸化セリウム、二酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タングステン、硫化亜鉛および窒化ガリウムから成るグループからの少なくとも1つの材料を有する、請求項9記載の素子。
【請求項11】
前記ナノ粒子はマトリクス材料内に埋め込まれている、請求項1から10までのいずれか1項記載の素子。
【請求項12】
前記マトリクス材料はUVビームに反応しない、請求項11記載の素子。
【請求項13】
前記マトリクス材料はシリコーン、スピンオンガラス、ケイ素化合物およびポリマーから成るグループからの少なくとも1つの材料を有する、請求項12記載の素子。

【図1】
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【公表番号】特表2007−507089(P2007−507089A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519756(P2006−519756)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【国際出願番号】PCT/DE2004/001464
【国際公開番号】WO2005/008789
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(599133716)オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (586)
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
【住所又は居所原語表記】Wernerwerkstrasse 2, D−93049 Regensburg, Germany
【Fターム(参考)】