説明

レジストパターンの算出方法及び算出プログラム

【課題】レジストパターンの算出精度を向上させる、コンピュータを用いてレジストパターンを算出する方法を提供する。
【解決手段】レチクルのパターンおよび露光条件に基づいて、レジストに形成される光学像の光強度分布を算出する第1工程と、前記第1工程で算出された光強度分布を第1の拡散長で畳み込み積分する第2工程と、前記第1工程で算出された光強度分布又は前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布から前記レジストの面内における各点について該点を含む所定の大きさの領域における光強度を代表する代表光強度を算出する第3工程と、補正関数を前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布に加算することによって、前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布を補正する第4工程と、前記第4工程で補正された光強度分布と予め設定されたスライスレベルとに基づいて前記レジストパターンを算出する第5工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジストパターンの算出方法及び算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
リソグラフィ工程において、レジストパターンは、レチクルパターンからの光を投影光学系によってレジストに投影することにより該レジストを露光する露光工程及び露光されたレジストを現像する現像工程により形成される。レジストパターンは、所望の形状がウェハ上に転写され、形成されることが望ましい。しかしながら、光近接効果(Optical Proximity Effect : OPE)及びlow k1化などにより、所望の形状を持ったレジストパターンがウェハ上に転写されない。このことはデバイス特性の劣化の一因となる。したがって、デバイス特性を向上させるため、レジストパターンの形状を算出することが必要となる。
【0003】
レジストパターンの算出方法として、光学像計算した光強度分布を畳み込み積分した光強度分布からレジストパターンを算出する方法が特許文献1に開示されている。特許文献1記載の技術では、光学像の光強度分布に対して様々な分散値(以下、拡散長と記述する)で畳み込み積分を行い、露光結果に近い時の拡散長を求めている。そして、特許文献1記載の技術では、モデリング結果として求めた拡散長を、算出したいパターンの光強度分布の畳み込み積分の算出時に適用することでレジストパターン寸法の算出を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-148404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の従来技術ではレジストパターン寸法の算出を高精度に行うことが困難であった。その理由は、lowk1化が進みつつある現状において、光学像計算した光強度分布を数学的に畳み込み積分する方法では、レジスト中における酸の拡散現象を詳細に表現しきれていないと考えられるためである。そのように理由づけた根拠を以下に示す。図1は化学増幅されたレジスト中で露光時に生じる化学反応の模式図である。露光時には、光強度の大きい(明るい)領域ではレジスト中の酸(H+)がレジストポリマーと次々に連鎖反応する。それに対し、光強度の小さい(暗い)領域では酸(H+)はクエンチャーに含まれる塩基(OH)と中和する。即ち、露光光の強度の大小(明るいもしくは暗い)により酸の挙動が異なる。光強度の大小にかかわらず数学的に同じ形式で光学像を畳み込み積分する特許文献1記載の従来技術では、上記の酸の挙動を考慮していない。
【0006】
以上を踏まえ、本発明は、レジストパターンの算出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、レチクルのパターンの像を投影光学系によって基板上のレジストに投影して前記レジストを露光し、該露光されたレジストを現像することによって前記レジストに形成されるレジストパターンをコンピュータを用いて算出する方法であって、前記レチクルのパターンおよび露光条件に基づいて、前記レジストに形成される光学像の光強度分布を算出する第1工程と、前記第1工程で算出された光強度分布を第1の拡散長で畳み込み積分する第2工程と、前記第1工程で算出された光強度分布又は前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布から前記レジストの面内における各点について該点を含む所定の大きさの領域における光強度を代表する代表光強度を算出する第3工程と、前記代表光強度の分布をJとし、a及びαをそれぞれ定数とし、nを自然数とするとき、式
【数1】

で表される第1の関数を含む補正関数を、前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布に加算することによって、前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布を補正する第4工程と、前記第4工程で補正された光強度分布と予め設定されたスライスレベルとに基づいて前記レジストパターンを算出する第5工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、レジストパターンの算出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】露光時に起きる化学反応の模式図である。
【図2】レジストパターンの算出を行うコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図3】SEMによる測長のフローチャートである。
【図4】補正関数を決定するためのフローチャートである。
【図5】基準パターン及び基準パターンの目標寸法及びその評価位置を説明する図である。
【図6】SEM edgeを説明する図である。
【図7】代表光強度Jを説明する図である。
【図8】SEM edgeにおける代表光強度JSEMedgeの抽出を説明する図である。
【図9】モデリングに用いるパターンについてモデリングする際に評価関数が小さくなる様子を説明するための図である。
【図10】レジストパターンの算出方法のフローチャートである。
【図11】モデリングに用いたレチクルパターンの図である。
【図12】光学像の光強度分布と代表光強度分布を示す図である。
【図13】スペースサイズ、ラインサイズが異なるパターンの代表光強度分布を示す図である。
【図14】補正関数を示す図である。
【図15】IOSEMedge、JSEMedge、f(JSEMedge)、ISEMedgeとスペースサイズの関係の一例を示した図である。
【図16】KSEMedgeとdutyとの関係を示した図である。
【図17】基準パターンについて、補正前後の光強度分布を示す図である。
【図18】従来技術及び実施例におけるレジストパターンの算出誤差の比較を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、レチクルのパターンの像を投影光学系によって基板上のレジストに投影してレジストを露光し、露光されたレジストを現像することによってレジストに形成されるレジストパターンを、シミュレータを用いて算出する。このシミュレータを搭載したコンピュータの構成を図2に示す。このコンピュータは、CPU101と、プログラムやデータを格納する記録媒体102と、主メモリ103と、キーボードやマウスなどの入力装置104と、液晶ディスプレイなどの表示装置105と、記録媒体107を読み取る読み取り装置106とを含む。記録媒体102、主メモリ103、入力装置104、表示装置105及び読み取り装置106は、いずれもCPU101に接続されている。このコンピュータでは、レジストパターンの算出を行うためのプログラムを格納した記録媒体107が読み取り装置106に装着される。CPU101は、記録媒体107からプログラムを読み出して記録媒体102に格納し、記録媒体102に格納されたプログラムを実行することにより、レジストパターンのモデリング及び算出を行う。レジストパターンのモデリングは、露光装置で露光したウェハについて、評価箇所のSEM(走査型電子顕微鏡)におけるCD(線幅)の測定結果と、前記シミュレータによるシミュレーション結果との比較により行われる。また、レジストパターンの算出は、モデリングした結果を光学シミュレーションに適用し、レチクルパターンの像を算出することにより行われる。
【0011】
図3は、SEMによる測長のフローチャートである。S201で、露光を行う際のNA、露光量、照明形状、レジストの種類などの露光条件が決定される。S202で、S201において決定した露光条件の下、露光装置により基板(ウェハ)上のレジストを露光する。S203で、S202において露光されたレジストを現像装置により現像する。S204では、SEMを用いてS203において現像されたレジストパターンの測長を行う。
【0012】
図4にレジストパターンのモデリングのフローチャートを示す。S301で、モデリングに用いるレチクルパターンが設定される。S302で、S301で設定された複数のレチクルパターンの内、基準パターン、基準パターンの目標寸法及びその評価位置が決定される。例えば、図5は基準パターンの目標寸法及びその評価位置を説明する図であり、複数のレチクルパターンの内、あるピッチのラインアンドスペースパターンを基準パターンとして選択し、パターン中央の遮光部を評価位置に設定している。また、その評価位置におけるSEMなどで測定した値を目標寸法として入力しておく。上記目標寸法はS305で使用される。次に、S303で、シミュレータは、ステップS301で設定したモデリングに用いるレチクルパターンそれぞれについて、露光条件に基づいてレジストに形成される光学像の光強度分布を算出する(第1工程)。S304で、シミュレータは、光学像の光強度分布をある拡散長で畳み込み積分する。S305で、シミュレータは、S302で決定された基準パターンの目標寸法及びその評価位置をもとに、スライスレベル(CDを算出する際の強度)を設定する。なお、スライスレベルの設定は別途予めなされてもよい。S306で、シミュレータは、S305で決められたスライスレベルに基づいてモデリングに用いるパターンのCDを算出する。
【0013】
S307で、シミュレータは、モデリングに用いるパターンについて、S306で算出されたCDの結果とS204でSEMにより測長されたCDの結果の差分RMS(平均二乗偏差)値を比較する。S308で、シミュレータは、S304で設定された拡散長を変更する。そして、シミュレータは、S304に戻りS304からS307を繰り返す。S309で、シミュレータは、S304からS307で繰り返された結果の中で、差分RMS値が最小となる時の拡散長を決定する。S310で、シミュレータは、S309で決定された拡散長(第1の拡散長)で畳み込み積分したときの光強度分布を算出する(第2工程)。S309で決定された拡散長(第1の拡散長)は、例えば、25nm以下である。S310で算出された光強度分布を以後、補正前の光強度分布と呼ぶこととする。S311で、シミュレータは、SEMedgeにおける補正前の光強度I0SEMedgeの抽出を行う。ここで、図6を用いて、SEM edgeについて説明する。図6に示されるように、露光されたレジストをSEMにより測定したときの2次電子の信号強度の変化によって、レジストの端部を検出することができる。SEMedgeは、図6に示されるように、測定対象におけるレジストの両端座標を意味する。また、I0SEMedgeはシミュレータで算出した時のSEMedgeにおける光強度を意味する。
【0014】
S312で、シミュレータは、光学像計算された光強度分布から代表光強度の値を算出する(第3工程)。図7は、S301で設定されたレジストパターンの一つを表す。図7において、レジストの面内における線上の各点について該点を含む所定の大きさの領域における光強度を代表する代表光強度Jを算出する。図7では、代表光強度を算出するための領域は、各点を中心とし半径がXnmの円である。この算出作業を線上の全ての点について行う。本実施形態では、代表光強度Jとして光強度の最小値を算出するが、代表光強度Jは、最小値に限定されず、領域内の最大値、平均値、もしくはこれらの組み合わせであってもよい。代表光強度Jは、最小値の近傍の値であってもよい。代表光強度Jを算出するための範囲Xについては、少なくとも最小線幅以上であることが望ましい。k1=0.25のArFの液浸露光装置を仮定すると、最小線幅は35nmであり、少なくともその範囲以上の情報を算出する必要がある。よって、あるプロット点を中心として考えた場合、範囲Xは最小線幅の半分である17nm以上が望ましい。また、Xの範囲が1μmを超えた場合には、クエンチャーの影響がそこまで及ぶとは考えにくいため、1μm以下であることが望ましい。まとめると、Xの範囲は17nm以上1μm以下であることが望ましい。この算出した分布の例については本実施例にて後述する。図7で示した代表光強度Jを算出するための領域の形状は円である。しかし、領域の形状は円に限らず、デバイス構造の形状には四角のものが多いため、正方形などであっても良い。代表光強度Jを算出するための領域の形状が正方形である場合、正方形の一辺は34nm以上2μm以下とすることが好ましい。また、本実施形態では、光学像計算した光強度分布から代表光強度の算出を行っているが、代表光強度Jは、光学像計算した光強度分布を任意の拡散長で畳み込み積分を行った光強度であっても良い。
【0015】
S313で、シミュレータは、S312で算出された代表光強度の分布をもとにして、図8に示すように対象SEM edgeにおける代表光強度JSEMedgeの抽出を行う。S314で、シミュレータは、補正関数の係数のモデリングを行い、係数を決定する。係数の決定には、S311で抽出されたSEMedgeにおける補正前の光強度I0SEMedge及び、S313で求められたJSEMedgeを用いる。シミュレータは、JSEMedgeを変数とした第1の関数を含む補正関数を決定し、これをI0SEMedgeに加算することによってSEMedgeにおける補正前の光強度I0SEMedgeを補正する(第4工程)。このとき、ak及びαを定数とし、nを自然数とすると、SEMedgeにおける光強度の補正関数f(JSEMedge)は、以下の式1のように表すことができる。ただし、この式において、定数a及びαを算出し易くするため、f(JSEMedge)|JSEMedge=0=0、f(JSEMedge)|JSEMedge=1=0という制約条件をつけている。式1において、ak及びαのすべてが同時には、ゼロではない。したがって、本実施形態における補正関数f(JSEMedge)は、一般的には、JSEMedgeを変数とする多項式と指数関数の積で表される。しかし、akがすべてゼロである(すなわちαがゼロでない)場合、補正関数f(JSEMedge)は、JSEMedgeを変数とする指数関数で表される。また、αがゼロである場合(すなわちakの少なくとも1つはゼロではない)場合、補正関数f(JSEMedge)は、JSEMedgeを変数とする多項式で表される。
【0016】
【数2】

【0017】
式1を用いて、SEM edgeにおける補正後の光強度ISEMedgeは以下の式2のように表される。
【0018】
【数3】

【0019】
定数a及びαが定まっていれば、式2を用いて補正後の光強度ISEMedgeが分かるため、各パターンについてSEM edgeにおける光強度を算出することができる。各パターンについて、補正後の光強度をIpSEMedgeとし、各パターンの補正後の光強度IpSEMedgeの平均値をIaSEMedgeとする。これらを用いて、評価関数Cを以下の式3のように定義する。
【0020】
【数4】

【0021】
ここで、 IpSEMedge,d1、IpSEMedge,d2はそれぞれ、2種類の異なる露光量d1、d2で露光した時のSEMedgeにおける光強度である。式3の右辺の第1項はパターンに対する敏感度を表す項であり、第2項は露光量に対する敏感度を表す項である。また、本実施形態では2種類の露光量におけるISEMedgeを用いているが、露光量の種類が2種類以上であっても良い。モデリングを行う際の係数a及びαは、式3の評価関数の値Cが許容範囲内、例えば、最小となるように設定される。評価関数の値Cが最小となるときの係数a及びαはExcelのソルバーなどで使用することのできる、準ニュートン法などで決定すればよい。係数の算出例及びそれを基にした補正関数f(JSEMedge)とJSEMedgeの関係については本実施例にて後述する。
【0022】
この評価関数Cの値を小さくすることの意味について説明する。図9AはパターンとI0SEMedgeとの関係を示した図である。この図9Aは、見方を変えると、各パターンについて、そのI0SEMedgeの値にスライスレベルを決めれば、実測結果を予測できていることを意味する。この図9Aから、パターンによってI0SEMedgeの値がばらついていることがわかる。このばらつきの状況は、あるスライスレベルを決定してCDを算出した時、このばらつきの大きさゆえにレジストパターンの予測誤差が大きい、即ち、予測が不十分であることを意味する。図9Cは縦軸を補正後のSEMedgeにおける光強度ISEMedgeを取ったグラフで、図9AのI0SEMedgeのばらつきを図9Dの代表光強度JSEMedgeを変数とする補正関数を用いて、強度の補正分を足し合わせて補正したときの理想形である。図9Cのように、補正後の光強度ISEMedgeのばらつきをなくすことができれば、この状態でスライスレベルを決めてCDを算出することで、レジストパターンの予測誤差をなくす、即ち、レジストパターンを正しく算出できることになる。これが評価関数Cの値を小さくすることの意味である。しかし、実際には、図9CのようにISEMedgeのばらつきをなくすことは難しい。そのため、図9Bに示すように、補正後の光強度ISEMedgeのばらつきを図9Aの補正前よりも小さくすることによって、予測誤差を小さくすることが現実的な手法となる。以上のようにして、代表光強度JSEMedgeを変数とする補正関数を用いることにより露光光強度の大小を考慮したモデリングを行う。また、モデリングを行うパターンの線幅と露光処理によって得られたレジストパターンの線幅との差分の二乗平均平方根で表される評価関数Cの値が、滑降シンプレックス法などの最適化手法を用いて、許容範囲内となるように各係数値を決定してもよい。
【0023】
フレアの影響を考慮したい場合、代表光強度の関数(第1の関数)に加え、光強度分布をS309で設定した第1の拡散長よりも大きい第2の拡散長で畳み込み積分した光強度分布の関数(第2の関数)を補正関数に含めてもよい(第6工程)。フレアは、露光装置のレンズ内での反射や散乱などで発生する迷光である。この大きい拡散長で畳み込み積分した光強度分布は物理的にはパターンのduty(白黒比)を表現している。その例については、実施例にて明示する。この場合、大きい拡散長で畳み込みした分布のSEMedgeにおける強度をKSEMedgeとすると、補正関数は式4のように表され、補正後の光強度分布は式5のように表される。式中のb、βは定数であり、mは自然数である。
【0024】
【数5】

【0025】
【数6】

【0026】
第2の補正関数の変数であるKを算出するための第2の拡散長は、フレアが影響を及ぼす範囲の50nm以上200μm以下とする。次に、補正関数を用いてレジストパターンを算出する方法を図10を用いて説明する。S401で、図4のフローチャートで示した、モデリングに用いるパターンに限らず、モデリング結果を適用したいレチクルパターンが設定される。S402で、シミュレータは、S401で図4のフローチャートにおいてモデリングに用いたレチクルパターンに限らず、設定したレチクルパターンについて、ウェハ上に形成される光学像の光強度分布を算出する(第1工程)。S403で、シミュレータは、S402で算出された光強度分布を、S309で決定された第1の拡散長で畳み込み積分する(第2工程)。S404で、シミュレータは、S402で算出された光強度分布から、代表光強度JSEMedgeの分布を算出する(第3工程)。S405で、シミュレータは、図4のフローチャートのS314で決定された補正関数を用いて補正後の光強度ISEMedgeを算出する(第4工程)。シミュレータは、モデリング時にSEMedgeにおける光強度を用いるが、モデリング結果を適用する時には光強度分布全体のデータに適用する。即ち、式1、式2の関係にS314で決定された係数を代入し、これらを全プロット点に対して適用する。補正前後の光強度分布を比較した例については、後述する。
【0027】
S406で、シミュレータは、S405で求められたモデリング結果を適用したいレチクルパターンの補正後の光強度分布において、基準とするパターンの評価位置に応じたスライスレベルを設定する。S407で、シミュレータは、S405で補正された光強度分布ISEMedgeとS406で設定されたスライスレベルとに基づいて、モデリング結果を適用したいレチクルパターンについて、CDを算出し、レジストパターンを算出する(第5工程)。これにより、従来技術よりもレジストパターンを高精度で算出することができる。モデリング結果を適用した時の従来技術及び本発明との間の比較は実施例にて後述する。
【0028】
[実施例]
上記実施形態における実施例について説明する。S301でモデリングに用いるレチクルパターンが設定される。図11は用いるパターンを概略化した図である。パターンAにおいて、バーの長さWは全てW=5μmであり、ラインの本数は簡単のため、図11Aでは3本となっているが、実際は17本である。また、ライン、スペースは、図11A中のサイズで周期的に並んでおり、評価箇所は17本のラインのうち、中央のライン部分である。パターンAはライン、スペースのサイズの組み合わせで25種類ある。パターンBにおいては、バーの長さWは全てW=2μmであり、ラインの本数は簡単のため、図11Bでは3本となっているが、実際は9本である。また、ライン、スペース、ギャップは、図11B中のサイズで周期的に並んでおり、評価箇所は9本のラインのうち、中央のギャップ部分である。パターンBは、ライン、スペース、ギャップのサイズの組み合わせで8種類である。パターンCはパターンBの遮光部、透過部を反転させたレチクルパターンである。サイズの定義はパターンBと同様であり、用いた種類の数は5種類である。詳細なサイズについては、図18に記載されている。本実施例では、以上計38種類のパターンをモデリングに用いるが、各パターンの種類及びパターンのバーの長さ、本数、ライン、スペース、ギャップの寸法は上記の数値を持ったパターンに限定されない。
【0029】
次に、S302では、S301で設定された複数のレチクルパターンの内、基準パターンと基準パターンの目標寸法及びその評価位置が決定される。ここで、基準パターンは、レチクルパターンの露光量を決める際に用いるパターンを指す。本実施例では、図11記載の50nmラインアンドスペースパターンを基準パターンとする。S303で、シミュレータは、S301で設定されたモデリングに用いるレチクルパターンそれぞれについて、ウェハ上に形成される光学像の光強度分布を算出する。S304で、シミュレータは、光学像の光強度分布に対してある拡散長で畳み込み積分を行う。S305で、シミュレータは、スライスレベルを設定する。本実施例では、スライスレベルは、基準パターンの中央バーの実測寸法に合う光強度(露光量)に設定される。S306で、シミュレータは、S305で決められたスライスレベルをもとに各種パターンのCDを算出する。S307で、シミュレータは、モデリングに用いるパターンについて、S306で算出されたCDの結果とS204でSEMにより測定されたCDの結果の差分RMS(平均二乗偏差)値を比較する。S308で、シミュレータは、S304で設定された拡散長を変更する。そして、S304からS307を繰り返す。実施例では、拡散長は50nm以下の範囲内で変更して繰り返して算出した。尚、SEMによる測定に至るまでのフローは図3のフローチャートと同様である。また、露光は、NAが1.35、0.90/0.72の輪帯照明、ウェハ側より順に、39nmのBARC、42nmのTARC、90nmのレジスト、35nmのトップコートという条件の下で、行われている。
【0030】
S309で、シミュレータは、差分RMS値が最小となる拡散長を決定する。本実施例では、その拡散長は、19.3nmとなった。S310で、シミュレータは、S309で決定された拡散長で畳み込み積分した補正前の光強度分布を算出する。S311で、シミュレータは、SEMedgeにおける補正前の光強度I0SEMedgeの抽出を行う。S312で、シミュレータは、光学像計算した光強度分布から、代表光強度として周辺領域における光強度の最小値Jを算出する。本実施例では、光学像計算した光強度分布から周辺光強度の最小値の抽出を行った。図7のように、基準パターンのバーの中心部分に線を引いた部分における光強度分布を図12Aに示す。また、この線上について、17nm以上1μm以下の範囲内である、半径300nmの領域内の光強度の最小値を抽出した分布Jを図12Bに示す。同様の方法をモデリングに用いるパターンについて行った結果について、ラインサイズを80nmに固定し、スペースサイズを変化させたパターンに関する結果の例を図13Aにしめす。また、スペースサイズを80nmに固定し、ラインサイズを変化させたパターンに関する結果の例を図13Bに示す。図13A及び図13Bより、ラインサイズ(遮光部のサイズ)によってJの取りうる範囲が異なることが分かる。
【0031】
S313で、シミュレータは、S312で算出された代表光強度の分布をもとにして、対象SEM edgeにおける代表光強度JSEMedgeの抽出を行う。S314で、シミュレータは、補正関数の係数のモデリングを行い、係数を決定する。係数の決定を行うにあたり、2種類の露光量d1=290J/m2、d2=300J/m2におけるSEMedgeでの光強度ISEMedgeを用いた。本実施例では2種類の露光量におけるISEMedgeを用いたが、露光量の種類が2種類以上であっても良い。また、シミュレータは、f(JSEMedge)|JSEMedge=1=0及び多項式はa0=0である4次式であるという条件の下で係数を決定した。各係数値の結果はそれぞれ、a1=11.5、a2=−155.3、a3=1197.6、a4=−1053.8、α=18.6となった。この係数値の結果を用いた時の光強度分布の補正関数f(JSEMedge)とJSEMedgeの関係は図14のようになった。
【0032】
図15A〜15Dに、ラインサイズを80nmに固定し、スペースサイズを変化させたラインアンドスペースパターンについて、それぞれ、補正前の光強度、代表光強度、補正関数、補正後の光強度の結果をそれぞれ示す。それぞれのグラフの横軸はすべて、変化させた時のスペースサイズを示している。この図15A〜15Dから、代表光強度を変数とする補正関数f(JSEMedge)を用いることによって、補正前の光強度I0SEMedgeよりも補正後の光強度ISEMedgeの方が光強度のばらつきが小さくなっていることが分かる。以上、代表光強度を用いることにより露光光強度の大小の情報を考慮したモデリングを行った。さらに、フレアの影響を考慮したモデリングを行いたい場合には、代表光強度の分布に加え、レチクルを投影した光強度分布を大きい拡散長で畳み込み積分した光強度分布の関数を補正関数に含めればよい。この大きい拡散長で畳み込み積分した光強度分布Kは物理的にはパターンのduty(白黒比;Space/Line)を表現している。この例を図16に示す。図16は、S309で決定された拡散長(19.3nm)よりもはるかに大きい300nmという拡散長で畳み込み積分を行い、ラインアンドスペースパターンのSEMedgeにおける光強度KSEMedgeとdutyの関係を示した図である。この図16より、SEM edgeにおける光強度KSEMedgeとdutyの間には相関があることがわかる。したがって、代表光強度JSEMedge及び大きい拡散長で算出した光強度KSEMedgeを併用することにより、露光光強度の大小及びdutyを反映したモデリングをすることもできる。
【0033】
次に、モデリングの結果を適用する。これについては図10のフローチャートに沿って説明する。S401で、モデリングを適用したいレチクルパターンが設定される。本実施例では、S301で設定された計38種類のレチクルパターンが用いられる。S402で、シミュレータは、S401で設定されたレチクルパターンについて、ウェハ上に形成される光学像の光強度分布を算出する。S403で、シミュレータは、光学像の光強度分布に対して、S309で決定された拡散長で畳み込み積分を行う。本実施例における拡散長は19.3nmである。S404で、シミュレータは、S402で算出された光学像の光強度分布から、代表光強度の分布を算出する。S405で、シミュレータは、図4のフローチャートのS314で決定された補正関数の係数を基に、S401で設定されたレチクルパターンの補正後の光強度分布の作成を行う。図17は、基準パターンの評価線上について式1、式2の関係を適用した場合の例であり、図17Aは補正前の光強度分布、図17Bは代表光強度Jの分布、図17Cは補正前後の光強度分布の比較を示した図である。図17Cから、補正後の光強度分布は補正前の光強度分布を嵩上げしたような分布になっていて、補正前の光強度分布の形状を著しく変えることなく、補正できていることが確認できる。
【0034】
次に、S406で、シミュレータは、S405で求めた補正後の光強度分布において、スライスレベルを設定する。本実施例で、スライスレベルは、基準パターンの中央バーの実測寸法に合う強度に設定される。S407で、シミュレータは、S406で決定されたスライスレベルをもとにS401で設定したパターンのCDを算出し、レジストパターンを算出する。図18は、特許文献1に記載の従来技術及び本実施例におけるレジストパターンの算出精度を表した図である。図18中、縦軸はレジストパターンの算出値がSEMによる実測値よりどれだけ太い(プラス)か、若しくは細い(マイナス)か、横軸はモデリングに用いたレチクルパターンの寸法を表し、単位はnmである。パターンA、B、Cや、ライン、スペース、ギャップのサイズの定義については、図11に対応している。図18より、殆どのパターンにおいて、本実施例により算出されたレジストパターンの誤差は従来技術の場合よりも小さくなっている。また、これらレジストパターンの誤差のRMS値については従来技術では8.08nmであるのに対し、本実施例ではそれが2.63nmであることからも、より高精度にレジストパターンを算出できていることが分かる。
【0035】
本実施例では、投影光学系による収差等の影響を考慮せずにレジストパターンを算出したが、実施の形態が変わる訳ではないため、投影光学系による収差等の影響を考慮したレジストパターンを算出することもできる。また、本実施例は、有効光源などの露光条件の最適化を行う際に組み合わせて用いることもできる。また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。この場合、そのプログラム、及び該プログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチクルのパターンの像を投影光学系によって基板上のレジストに投影して前記レジストを露光し、該露光されたレジストを現像することによって前記レジストに形成されるレジストパターンをコンピュータを用いて算出する方法であって、
前記レチクルのパターンおよび露光条件に基づいて、前記レジストに形成される光学像の光強度分布を算出する第1工程と、
前記第1工程で算出された光強度分布を第1の拡散長で畳み込み積分する第2工程と、
前記第1工程で算出された光強度分布又は前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布から前記レジストの面内における各点について該点を含む所定の大きさの領域における光強度を代表する代表光強度を算出する第3工程と、
前記代表光強度の分布をJとし、a及びαをそれぞれ定数とし、nを自然数とするとき、式

で表される第1の関数を含む補正関数を、前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布に加算することによって、前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布を補正する第4工程と、
前記第4工程で補正された光強度分布と予め設定されたスライスレベルとに基づいて前記レジストパターンを算出する第5工程と、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記領域は、前記各点を中心とし、半径が17nm以上1μm以下の円又は一辺が34nm以上2μm以下の正方形の領域であり、
前記代表光強度は、前記領域における光強度の最小値、最大値又は平均値である、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1工程で算出された光強度分布を前記第1の拡散長よりも大きい第2の拡散長で畳み込み積分する第6工程をさらに含み、
前記第6工程で畳み込み積分された光強度分布をKとし、b及びβをそれぞれ定数とし、mを自然数とするとき、前記補正関数は、前記第1の関数に加えて、式

で表される第2の関数を含む、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の拡散長は、25nm以下であり、前記第2の拡散長は、50nm以上200μm以下である、ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記定数a、b、α及びβは、前記補正関数で補正された光強度分布の前記レチクルのパターンに対する敏感度及び露光量に対する敏感度を含む評価関数の値が許容範囲内となるように設定されている、ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記定数a、b、α及びβは、前記補正関数で補正された光強度分布から算出されたレジストパターンの線幅と露光処理によって得られたレジストパターンの線幅との差分の二乗平均平方根で表される評価関数の値が許容範囲内となるように設定されている、ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項7】
レチクルのパターン及び投影光学系を介して基板上のレジストを露光し、該露光されたレジストを現像することによって前記レジストに形成されるレジストパターンを算出する方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、
前記方法は、
前記レチクルのパターンおよび露光条件に基づいて、前記レジストに形成される光学像の光強度分布を算出する第1工程と、
前記第1工程で算出された光強度分布を第1の拡散長で畳み込み積分する第2工程と、
前記第1工程で算出された光強度分布又は前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布から前記レジストの面内における各点について該点を含む所定の大きさの領域における光強度を代表する代表光強度を算出する第3工程と、
前記代表光強度の分布をJとし、a及びαをそれぞれ定数とし、nを自然数とするとき、式

で表される第1の関数を含む補正関数を、前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布に加算することによって、前記第2工程で畳み込み積分された光強度分布を補正する第4工程と、
前記第4工程で補正された光強度分布と予め設定されたスライスレベルとに基づいて前記レジストパターンを算出する第5工程と、
を含む、ことを特徴とするプログラム。
【請求項8】
前記方法は、前記第1工程で算出された光強度分布を前記第1の拡散長よりも大きい第2の拡散長で畳み込み積分する第6工程をさらに含み、
前記第6工程で畳み込み積分された光強度分布をKとし、b及びβをそれぞれ定数とし、mを自然数とするとき、前記補正関数は、前記第1の関数に加えて、式

で表される第2の関数を含む、ことを特徴とする請求項7に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−89673(P2012−89673A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−234914(P2010−234914)
【出願日】平成22年10月19日(2010.10.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】