説明

レジスト原盤、磁気記録媒体用インプリントスタンパ、および磁気記録媒体の製造方法

【課題】電子線描画法を用い、頂角を有する多角形状凹部を高精細度で形成することができるレジスト原盤の製造方法の提供。
【解決手段】(1)円形基板上にフォトレジスト層を形成する工程と、(2)基板を一方向に回転させながら電子線を照射してフォトレジスト層に複数のパターンを描画する工程と、(3)描画を行ったフォトレジスト層を現像液を用いて処理して、複数のパターンを複数の多角形状凹部に変換する工程とを含み、工程(2)において描画されるパターンのそれぞれは、少なくとも1つの多角形部と、複数の点状部または線状部との組み合わせであり、工程(3)における多角形状凹部と非相似の形状を有することを特徴とするレジスト原盤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト原盤、磁気記録媒体用インプリントスタンパ、および磁気記録媒体の製造方法に関する。より詳細には、100mm角以下の矩形を含む多角形パターンを有するレジスト原盤、磁気記録媒体用インプリントスタンパ、および磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にプリフォーマット信号を規則する方法として,光ディスクスタンパ作製方法を応用して形成される磁気転写マスタを用いる磁気転写方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法においては、基板上に形成したレジスト層にレーザーまたは電子ビームを照射し、得られた凹凸パターンを電鋳法などにより磁気転写マスタ上に複製して、凹凸パターンを有する磁気転写マスタを製造している。しかしながら、レーザービームによるパターン形成においては、光の回折限界のため、通常300nm以下のパターン形成が困難となり、磁気記録密度の増大に対応することができていないのが現状である。
【0003】
この問題に関して、レーザービームと比較してより小さいビーム径を有する電子ビームを用いる磁気転写マスタの製造方法が提案されている(特許文献2参照)。この方法では、凹凸パターンの1つのエレメント(露光区域)を、当該エレメントの最小幅よりも小さいビーム径を有する電子ビームを複数回にわたって走査することによって形成する。たとえば、トラック方向に垂直な方向(半径方向)に延びる矩形状のエレメントを形成する場合、半径方向への電子ビームの走査と、基板の微小回転とを交互に複数回繰り返して、1つのエレメントを形成するための描画を行っている。
【0004】
ハードディスクなどの磁気記録媒体に凹凸パターンを直接形成する場合にも、レジストが塗布された円形基板を回転させながら、転写する情報に応じて変調したレーザービームを照射して凹凸パターンを形成することが考えられる。しかしながら、ハードディスクなどの磁気記録媒体においては、記録密度の増大に対応するためにそのトラック幅が狭くなってきている。
【0005】
ハードディスクの高記録密度化を達成するための1つの手法として,磁気信号を発する磁性部領域が非磁性部によって区分けされたいわゆるディスクリート型の媒体構造が提案されている(特許文献3参照)。典型的なディスクリート型媒体は、複数のデータトラックを含むデータゾーンと、SAM領域、およびバースト領域などを含むサーボゾーンとを有する。ただし、上記の提案においては、ディスクリート型の媒体構造をどのような方法で作製するのかを明示していない(特許文献3参照)。
【0006】
さらに、ディスクリート型の媒体構造を作製する方法の例として、インプリント法によって転写する工程を含む方法が提案されている(特許文献4参照)。この提案の方法では、ガラス基板上に電子線リソグラフィ技術を適用して得た原盤からスタンパを形成し、該スタンパをインプリント法に適用している。しかしながら、原盤を形成する際の電子線リソグラフィ技術については、何ら具体的に記述されていない。
【0007】
電子ビームを用いた凹凸パターンの形成に関して、基板を1方向に回転させると同時に、電子ビームを半径方向の一定の振幅で振動(走査)させる方法が提案されている(特許文献5参照)。また、電子ビームをトラック方向(円周方向)に平行な軸に沿って周期的な波形を描くように走査する方法が提案されている(特許文献6参照)。さらに、レジストが塗布された円盤状の基板を並進運動および回転運動させながら、電子ビームを照射する工程を含む方法が提案されている(特許文献7参照)。この提案においては、1回転毎に同心円を描くように照射する電子ビームの偏向量を変化させ、かつ1度露光した場所の露光像が次回転以降の露光像とが一部分重なるようにされる。
【0008】
ディスクリート型の媒体構造を作製する方法に関する上記の提案では、矩形状のパターンを得るための露光像の形状は、得られるパターンと相似形である。所望されるパターン形状と非相似の形状の描画を行って、サーボゾーン200のバースト領域230に形成される100nm角以下の矩形状パターンを形成する方法に関する具体的な提案はなかった。
【0009】
また、単結晶基板の上に電子ビーム露光を用いて非連続微細パターンを有するレジストを形成し、次いで異方性エッチングを行うことによって、前述の非連続微細パターンと非相似の直線パターンを形成する、回折格子構造の製造方法が提案されている(特許文献8参照)。この方法は、エッチングの異方性の方向と非連続微細パターンの配列方向とを一致させて、連続する直線パターンを形成するものであり、100nm角以下の矩形状パターンの形成に応用できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−256644号公報
【特許文献2】特開2003−091806号公報
【特許文献3】特開2004−110896号公報
【特許文献4】特開2003−157520号公報
【特許文献5】特開2004−164856号公報
【特許文献6】特開2004−178736号公報
【特許文献7】特開2006−100668号公報
【特許文献8】特開平9−167758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
トラック方向(円周方向)に同心円状または螺旋状に延びる凹凸パターンを含む、ディスクリート型媒体を形成するためのレジスト原盤を電子線描画で作製する場合、所望される記録密度が増大するほどサーボゾーンのバースト領域の形成が困難となる。具体的には、記録密度の増大にともなって、サーボ領域に100nm角以下の多角形状パターンを形成する必要がある。しかしながら、所望される矩形状パターンと相似形の矩形状区域全体に均一に電子線を照射すると、電子線の近接効果により、得られるレジスト層の凹部は略円形(ドット)の形状になってしまう。電子線の近接効果は、基板による電子線の反射(後方散乱)および/またはレジスト層中での電子線の散乱(前方散乱)に起因し、電子線を照射した部分の周囲が電子線に感光した状態となることを意味する。近接効果は、電子線が密集して照射された部分において特に顕著である。矩形状パターン全体に均一に電子線を照射した場合、矩形の各辺の中央部が最も顕著に近接効果の影響を受け、各頂点における近接効果が最も小さくなる。その結果、各辺の中央部が外側に向かって拡張し、略円形の凹部が得られる。
【0012】
ここで、電子線の近接効果が存在しないと仮定した場合に所望される寸法の矩形状の凹部を与える矩形状パターンに電子線を照射すると、実際に得られる凹部は所望される寸法より大きな略円形の形状となる。このレジスト原盤を用いてディスクリート型媒体を形成すると、サーボゾーンのバースト領域内の磁性部のそれぞれは、所望される寸法より大きな寸法を有することになる。バースト領域における磁性部の拡大は、トラック位置などの情報の誤読出(miss reading)などによって磁気記録媒体に対する正常な書込/読出を妨げる恐れがある。一方、電子線の近接効果を考慮して電子線を照射する矩形状パターンを縮小した場合、得られる凹部の寸法は所望される範囲内となるが、その形状は略円形のままである。このレジスト原盤を用いてディスクリート型媒体を形成すると、サーボゾーンのバースト領域内の磁性部のそれぞれの信号出力が低下する。なぜなら、形成された略円形の磁性部は、所望される矩形状の磁性部よりも小さい体積を有するためである。この場合にも、磁気記録媒体に対する正常な書込/読出が妨げられる恐れがある。
【0013】
したがって、磁気記録媒体のサーボゾーンのバースト領域の磁性部に対応する100nm角以下の多角形状の凹部を精細に形成することができる、レジスト原盤の製造方法を提供することが、本発明の課題である。また、得られたレジスト原盤を用いる、磁気記録媒体用インプリントマスタならびに磁気記録媒体の方法を提供することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の実施形態のレジスト原盤の製造方法は、
(1) 円形基板上にフォトレジスト層を形成する工程と、
(2) 前記基板を一方向に回転させながら電子線を照射してフォトレジスト層に複数のパターンを描画する工程と、
(3) 描画を行ったフォトレジスト層を現像液を用いて処理して、前記複数のパターンを複数の多角形状凹部に変換する工程と
を含み、工程(2)において描画されるパターンのそれぞれは、少なくとも1つの多角形部と、複数の点状部または線状部との組み合わせであり、工程(3)における多角形状凹部と非相似の形状を有することを特徴とする。ここで、工程(2)における複数の点状部または線状部を、多角形部の各頂点の頂角の二等分線上に配置することが望ましい。さらに、工程(2)において、電子線を50〜100kVの加速電圧で加速することが望ましい。
【0015】
本発明の第2の実施形態の磁気記録媒体用インプリントスタンパの製造方法は、
(4) 第1の実施形態に記載の方法を用いてレジスト原盤を形成する工程と、
(5) 前記レジスト原盤の前記複数の多角形状凹部を有する面上に、電鋳法を用いて金属層を形成する工程と、
(6) 前記レジスト原盤を除去して、インプリントスタンパを形成する工程と
を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、
(7) 第2の実施形態に記載の方法を用いてインプリントスタンパを形成する工程と、
(8) 少なくとも磁気記録層を有する磁気記録媒体を準備する工程であって、前記磁気記録層が前記磁気記録媒体の最表面である工程と、
(9) 前記磁気記録層の上にレジスト層を形成する工程と、
(10) 前記レジスト層に前記インプリントスタンパを押圧して、パターン状のレジスト層を形成する工程と、
(11) 前記パターン状のレジスト層をマスクとして、前記磁気記録層をパターン状にエッチングする工程と、
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、トラック方向(円周方向)に同心円状または螺旋状に延びる凹凸パターンを含んだディスクリート媒体を形成するためのレジスト原盤を作製する際に、サーボゾーンのバースト領域に形成される最大内接円の直径が100nm以下の多角形パターンを精細に形成することができる。また、得られたレジスト原盤を用いて、磁気記録媒体用インプリントマスタを作製することができる。さらに、当該インプリントマスタを用いて、高品質な磁気記録媒体を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ディスクリートトラックメディアのパターンを示す図である。
【図2】従来技術の電子線描画工程を説明する図であり、(a)は電子線描画のパターンを示す図であり、(b)は現像工程後に得られる凹部を示す図であり、(c)は得られたレジスト原盤の表面のSEM観察像を示す図である。
【図3】本発明の方法の電子線描画工程を説明する図であり、(a)は電子線描画のパターンを示す図であり、(b)は現像工程後に得られる凹部を示す図であり、(c)は得られたレジスト原盤の表面のSEM観察像を示す図である。
【図4】回転ステージを用いた電子線描画工程の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施形態のレジスト原盤の製造方法は、
(1) 円形基板上にフォトレジスト層を形成する工程と、
(2) 前記基板を一方向に回転させながら電子線を照射してフォトレジスト層に複数のパターンを描画する工程と、
(3) 描画を行ったフォトレジスト層を現像液を用いて処理して、前記複数のパターンを複数の多角形状凹部に変換する工程と
を含み、工程(2)において描画されるパターンのそれぞれは、少なくとも1つの多角形部と、複数の点状部または線状部との組み合わせであり、工程(3)における多角形状凹部と非相似の形状を有することを特徴とする。本発明における多角形は、三角形、四角形(矩形、正方形など)、五角形、六角形などを含む。本発明における多角形は、好ましくは90度以下の角度を有する頂角を有する。
【0020】
図1に、ディスクリート型の媒体構造の典型例を示す。ディスクリート型媒体は、データゾーン300およびサーボゾーン200からなる。データゾーン300においては、非磁性部によって区分けされた磁性部領域であるデータトラック310が存在する。一方。サーボゾーン200は、SAM領域210、プレアンブル領域220およびバースト領域230に分類され、それら領域のそれぞれにおいて適切なパターン状の磁性部が形成されている。本発明の第1の実施形態の方法は、バースト領域230に、最大内接円の直径が100nm以下である多角形状の磁性部(好ましくは100nm角以下の矩形状の磁性部)を形成することができるレジスト原盤を提供することを目的とする。なお、多角形の寸法を規定する最大内接円は、多角形の全ての辺に内接する必要はない。たとえば長方形の場合、その3辺に接触する円の直径(すなわち、長方形の短辺)が100nm以下となることが望ましい。
【0021】
工程(1)において、円形基板にフォトレジスト層を形成する。円形基板は、シリコンウェーハ、ガラス基板、セラミック基板などの当該技術において知られている任意の材料を用いて形成することができる。また、フォトレジスト層は、当該技術において知られている任意のポジ型電子線用フォトレジスト材料(日本ゼオン社製ZEP−520など)を、当該技術において知られている任意の技術を用いて円形基板に付着させることによって形成することができる。
【0022】
工程(2)において、フォトレジスト層を形成した円形基板を一方向に回転させながら、電子線を照射してフォトレジスト層に複数のパターンを描画する。
【0023】
図3(a)に示すように、工程(2)においてフォトレジスト層に描画されるパターン10のそれぞれは、少なくとも1つの多角形部11と、複数の点状部または線状部12とを組み合わせられた形状を有する。この形状は、工程(3)において得られる多角形状凹部と非相似である。ここで、複数の点状部または線状部12を、多角形部11の各頂点の頂角の二等分線上に配置することが望ましい。多角形部11の寸法、ならびに複数の点状部または線状部12の寸法は、用いられる円形基板およびフォトレジスト層の材料、用いられる電子線のビーム径および強度などに依存して決定される。
【0024】
図4にフォトレジスト層に描画される1つのパターンを示す。図4に示すように、多角形部11および複数の点状部または線状部12のそれぞれは、複数の描画点14の集合体である。たとえば、円形基板の半径方向(図4における上下方向)における電子線の走査を行って必要とされる仮想描画中心線16の位置で描画をおこない、1列の描画点14を形成する。ここで、ブランキング制御により電子線のオンオフを実施することによって、目的とする仮想描画中心線16の位置に正確に電子線を照射することができる。次いで、円形基板を円周方向に微小回転させる。この電子線走査工程および円形基板微小回転工程を交互に反復して行うことによって工程(2)を実施することができる。
【0025】
工程(2)において、50〜100kVの加速電圧で加速された電子線を用いることが好ましい。電子線の加速電圧を50kV以上として前方散乱の影響を低減し、かつ100kV以下として後方散乱の影響を低減することができ、精細なパターンの描画が可能となる。
【0026】
工程(2)において、電子線を照射するピッチ(描画点間のピッチ)を拡大することによって、円形基板の半径方向の電子線走査の最小送り量におけるドーズ量を減少させることができる。逆に、同一描画点において複数回の電子線照射を行うことによって、円形基板の半径方向の電子線走査の最小送り量におけるドーズ量を増大させることができる。
【0027】
続いて、工程(3)において、描画を行ったフォトレジスト層を現像液を用いて処理して、図2(a)に示した複数のパターン10を、図2(b)で示す複数の多角形状凹部20に変換する。
【0028】
ここで、複数の点状部または線状部12は、多角形部11の各辺の中央部に比較して不足する多角形部11の頂点における電子線の近接効果を補償して、図2(b)で示すような多角形状の凹部20を提供する。得られた多角形状の凹部20は、図1に示したディスクリート型媒体の作製において、サーボゾーン200のバースト領域230の磁性部の作製に用いることができる。あるいはまた、データゾーン内の磁気記録の最小単位となる記録ビットが互いに独立しているビットパターンドメディアの作製において、多角形状の凹部20を、データゾーン内の記録ビットの作製に用いることもできる。
【0029】
任意選択的であるが、現像液による処理に続いて、リンス液による洗浄を行ってフォトレジスト層から剥離したフォトレジスト材料の残留物を除去してもよい。また、現像液による処理またはリンス液による洗浄の後に、当該技術において知られている任意の手段(エアーブローなど)を用いて乾燥を行ってもよい。
【0030】
本発明の第2の実施形態の磁気記録媒体用インプリントスタンパの製造方法は、
(4) 第1の実施形態に記載の方法を用いてレジスト原盤を形成する工程と、
(5) 前記レジスト原盤の前記複数の多角形状凹部を有する面上に、電鋳法を用いて金属層を形成する工程と、
(6) 前記レジスト原盤を除去して、インプリントスタンパを形成する工程と
を含むことを特徴とする。ここで、工程(4)は前述の通りに実施することができる。
【0031】
工程(5)において、最初に、電鋳法に用いるための導電膜をレジスト原盤の多角形状凹部を形成したフォトレジスト層の上に形成してもよい。導電膜は、ニッケルなどの当該技術において知られている任意の金属を、スパッタ法、蒸着法、無電解メッキ法などの技術を用いてフォトレジスト層の上に堆積させることによって形成することができる。
【0032】
続いて、導電膜を形成したレジスト原盤を電鋳浴に浸漬させ、導電膜を陰極として電流を流すことによって電鋳を行い、金属層を形成する。電鋳浴は、たとえばスルファミン酸ニッケルメッキ液、ワット液、ウッド液、黒色ニッケルメッキ液など当該技術において知られている任意の溶液を含んでもよい。
【0033】
電鋳は、流される電流に依存して、所望される膜厚の金属層を得るために十分な時間にわたって実施することができる。
【0034】
つづいて、工程(6)において、レジスト原盤を除去して、金属層からなるインプリントスタンパを形成する。得られるインプリントスタンパは、レジスト原盤の反転イメージである凹凸面を有する。レジスト原盤の除去は慣用の手段を用いて実施することができる。さらに、インプリントスタンパ上のレジストの残渣を除去するために、酸素プラズマアッシング、電解洗浄法などによる洗浄を行ってもよい。
【0035】
本発明の第3の実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、
(7) 第2の実施形態に記載の方法を用いてインプリントスタンパを形成する工程と、
(8) 少なくとも磁気記録層を有する磁気記録媒体を準備する工程であって、前記磁気記録層が前記磁気記録媒体の最表面である工程と、
(9) 前記磁気記録層の上にレジスト層を形成する工程と、
(10) 前記レジスト層に前記インプリントスタンパを押圧して、パターン状のレジスト層を形成する工程と、
(11) 前記パターン状のレジスト層をマスクとして、前記磁気記録層をパターン状にエッチングする工程と、
(12) 前記パターン状のレジスト層を除去する工程と
を含むことを特徴とする。ここで、工程(7)は前述の通りに実施することができる。
【0036】
工程(8)において、磁気記録媒体を準備する。本発明に使用できる磁気記録媒体は、少なくとも基板上に形成された磁気記録層を有する。この工程において準備する磁気記録媒体の最表面は磁気記録層であることが望ましい。後述する工程(11)において磁気記録層のパターニングを行うためである。あるいはまた、基板と磁気記録層との間に、磁気記録層の材料の結晶性、配向性などを制御するための下地層、中間層などを有してもよい。また、磁気記録媒体が垂直磁気記録を行うためのものである場合、磁気記録層に垂直次回を集中させるための軟磁性裏打層を、基板と磁気記録層との間に設けてもよい。前述の各層は、当該技術において知られている任意の材料および技術を用いて形成することができる。
【0037】
工程(9)において、磁気記録媒体の最表面をなす磁気記録層の上にレジスト層を形成する。レジスト層は、後述する工程(10)のインプリントにより凹凸を形成することができ、かつ工程(11)におけるマスクとしての使用に十分なエッチング耐性を有する任意の材料で形成することができる。また、当該技術において知られている任意の技術を用いてレジスト材料を磁気記録層に付着させて、レジスト層を形成することができる。本工程において形成するレジスト層は、磁気記録層(磁気記録媒体)の全面にわたって均一な膜厚を有することが望ましい。
【0038】
工程(10)において、第2の実施形態の方法で形成したインプリントスタンパをレジスト層に押圧して凹凸を転写し、パターン状のレジスト層を形成する。任意選択的に、インプリントスタンパの凹凸形成面に離型剤をあらかじめ塗布しておいてもよい。本工程において、インプリントスタンパからレジスト層への凹凸の転写を容易にするために、レジスト層(磁気記録媒体)またはインプリントスタンパの少なくとも一方を加熱してもよい。本工程における押圧の圧力は、使用したレジスト層の材料、加熱の有無などに依存して適宜選択することができる。所与の温度および圧力条件において凹凸の転写を行うのに十分な時間にわたってインプリントスタンパを押圧し、その後にインプリントスタンパをレジスト層から離間する。ここで、レジスト層の凹部の底面においてレジスト材料の薄層が残存する可能性がある。レジスト層の凸部の位置および幅が維持される限りにおいて、このレジスト材料の薄層を除去するための酸素プラズマアッシングなどのドライエッチング工程を実施してもよい。あるいはまた、工程(11)のエッチング条件に依存するが、レジスト材料の薄層を残存させたまま、工程(11)を実施してもよい。
【0039】
工程(11)において、パターン状のレジスト層をマスクとして用い、磁気記録層のエッチングを行う。レジスト層および磁気記録層に用いられる材料に依存するが、本工程は、反応性イオンエッチング(RIE)などの技術を用いて実施することができる。本工程において、磁気記録層の少なくとも一部を除去して、磁気記録層中にサーボゾーンのバーストパターンなどを含む複数の磁気的に独立した部分を形成する。また、磁気記録媒体が磁気記録層以外の層を含む場合、磁気記録層中に複数の磁気的に独立した部分が形成される限りにおいて、本工程において磁気記録層以外の層がエッチングされてもよい。
【0040】
工程(11)終了の後に、必要に応じて、パターン状のレジスト層の除去を行ってもよい。レジスト層の除去は、酸素プラズマアッシングなどのドライエッチング技術によって実施することができる。さらに、必要に応じて、パターン状にエッチングされた磁気記録層の上に、保護層、潤滑層などの層を形成してもよい。
【実施例】
【0041】
(比較例1)
日本ゼオン社製のレジストZEP−520をアニソールで4倍に希釈して、塗布液を調製した。得られた塗布液を、スピンコート法を用いて6インチ径のシリコンウェーハ基板に塗布し、続いて180℃で2分間にわたってプリベークして、膜厚50nmのレジスト層を有する基板を作製した。
【0042】
得られた基板を電子線描画装置内の所定の位置に搬送し、加速電圧50kV、ビーム電流20pA、ビーム径1.5nmの電子線を用いて真空下で図2(a)に示すパターンの描画を行った。より詳細には、縦方向および横方向ピッチ100nmで1列毎に交互に配置される20nm角の正方形のパターン110の内部に、電子線を均一に照射した。続いて、描画された基板を15秒間にわたって現像液に浸漬して現像を行った。さらに、現像後の基板を30秒間にわたってリンス液に浸漬して洗浄し、エアーブローにより乾燥させて、図2(b)に示す直径約30nmの円形の凹部120を有するレジスト原盤を得た。図2(c)に、得られたレジスト原盤の表面のSEM観察像を示す。
【0043】
ここで,電子線描画時に基板面へ照射される電子は、レジスト内で散乱(前方散乱)し、基板から反射(後方散乱)する。前方散乱および後方散乱の強度分布は、それぞれ分散の異なる正規分布である。所与の部位のレジスト層中に蓄積される単位面積あたりの電子線エネルギー量(ドーズ量)は、電子線の直接照射によるエネルギー量と、上記2種の散乱のエネルギー量との和となる。したがって、電子線の直接照射を受けなかった部分のレジスト層も電子線に露光されたことになる。よって、細いビーム径の電子線を用いて多角形(正方形など)のパターン110を描画しても、現像後に実際に形成される凹部120はより大きな面積となり、頂点を有する多角形状の凹部を形成することは難しい、一般的に、加速電圧が50kVの場合、50nm角以下の多角形状の凹部を形成するのは困難である。
【0044】
(実施例1)
比較例1と同様の手順によって、膜厚50nmのレジスト層を有する基板を作製した。
【0045】
得られた基板を電子線描画装置内の所定の位置に搬送し、加速電圧50kV、ビーム電流20pA、ビーム径1.5nmの電子線を用いて、真空下で複数のパターン10の描画を行った。ここで、図3(a)に示すように、描画されたパターン10のそれぞれは、縦方向および横方向ピッチ100nmで1列毎に交互に配置される20nm角の正方形の形状の多角形部11と、多角形部11の各頂点から頂角の二等分線方向に延びる長さ20nmの点状部または線状部12とを有した。また、図4に示すように、基板の半径方向における電子線の走査と、基板の微小回転とを反復することによって、パターン10の描画を実施した。
【0046】
描画された基板を比較例1と同様の方法を用いて処理して、図3(b)に示すようにレジスト層中に凹部20が形成されたレジスト原盤を得た。得られた凹部20は、50nm角の寸法を有した。図3(c)に、得られたレジスト原盤の表面のSEM観察像を示す。図3(c)から明らかなように、得られたレジスト原盤のレジスト層中の凹部は、頂角が形成された所望の四角形であった。
【0047】
得られたレジスト原盤をスパッタ装置の成膜室内に搬送し、凹凸が形成されたレジスト層上にスパッタ法によってニッケルを堆積させ、膜厚4nmの導電膜を形成した。次いで、その表面に導電膜を形成したレジスト原盤を、スルファミン酸ニッケルメッキ液中に浸漬させ、導電膜を陰極として120分間にわたって電鋳を行い、膜厚30μmの金属層を形成した。続いて、レジスト原盤を除去し、酸素プラズマアッシング法を用いて導電膜上に残存したレジスト残渣を除去し、打ち抜き加工により導電膜および金属層の中央部を除去して、導電膜と金属層との積層構造を有する円環状のインプリントスタンパを得た。
【0048】
(実施例2)
サーボゾーン200のバースト領域230において実施例1に記載した描画手法を使用し、他の部分(データゾーン300、ならびにサーボゾーン200のSAM領域210およびプレアンブル領域220)において慣用の描画方法を使用して、図1に示すような凹凸パターンを有するレジスト原盤を作製した。本実施例において、バースト領域230に相当するレジスト層の領域に描画されたパターン10のそれぞれは、50nm角の正方形の多角形部11と、該多角形部の各頂点から頂角の二等分線方向に延びる長さ20nmの4本の線状部12とで構成された。現像工程終了後に得られたレジスト層の凹部は、80nm角の正方形の形状を有した。
【0049】
得られたレジスト原盤に実施例1に記載された方法を適用して、円環状のインプリントスタンパを得た。
【0050】
続いて、磁気記録層を最上層とする磁気記録媒体を別途作製した。磁気記録層上にレジスト層を形成した。上記で得られたインプリントスタンパの凹凸面をレジスト層に押圧して、パターン状のレジスト層を得た。さらにパターン状のレジスト層をマスクとして磁気記録層のエッチングを行い、所望される磁性部(データゾーン300のデータトラック、バースト領域230内のバーストなどを含む)が磁気的に独立したディスクリートトラックメディアを得た。
【符号の説明】
【0051】
10 パターン
11 多角形部
12 点状部または線状部
14 描画点
16 仮想描画中心線
20 多角形状凹部
110 パターン
120 凹部
200 サーボゾーン
210 SAM領域
220 プレアンブル領域
230 バースト領域
300 データゾーン
310 データトラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) 円形基板上にフォトレジスト層を形成する工程と、
(2) 前記基板を一方向に回転させながら電子線を照射してフォトレジスト層に複数のパターンを描画する工程と、
(3) 描画を行ったフォトレジスト層を現像液を用いて処理して、前記複数のパターンを複数の多角形状凹部に変換する工程と
を含み、工程(2)において描画されるパターンのそれぞれは、少なくとも1つの多角形部と、複数の点状部または線状部との組み合わせであり、工程(3)における多角形状凹部と非相似の形状を有することを特徴とするレジスト原盤の製造方法。
【請求項2】
工程(2)における前記複数の点状部または線状部を、前記多角形部の各頂点の頂角の二等分線上に配置することを特徴とする請求項1に記載のレジスト原盤の製造方法。
【請求項3】
工程(2)において、前記電子線を50〜100kVの加速電圧で加速することを特徴とする請求項1に記載のレジスト原盤の製造方法。
【請求項4】
(4) 請求項1から3のいずれかに記載の方法を用いてレジスト原盤を形成する工程と、
(5) 前記レジスト原盤の前記複数の多角形状凹部を有する面上に、電鋳法を用いて金属層を形成する工程と、
(6) 前記レジスト原盤を除去して、インプリントスタンパを形成する工程と
を含むことを特徴とする磁気記録媒体用インプリントスタンパの製造方法。
【請求項5】
(7) 請求項4に記載の方法を用いてインプリントスタンパを形成する工程と、
(8) 少なくとも磁気記録層を有する磁気記録媒体を準備する工程であって、前記磁気記録層が前記磁気記録媒体の最表面である工程と、
(9) 前記磁気記録層の上にレジスト層を形成する工程と、
(10) 前記レジスト層に前記インプリントスタンパを押圧して、パターン状のレジスト層を形成する工程と、
(11) 前記パターン状のレジスト層をマスクとして、前記磁気記録層をパターン状にエッチングする工程と、
を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−248945(P2011−248945A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119195(P2010−119195)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】