説明

レゾール型フェノール樹脂組成物及びこれを用いた研磨布紙

【課題】本発明では、レゾール型フェノール樹脂の加熱硬化時の発泡を抑えることにより、硬化時の設定温度を上げて、硬化時間を短縮し生産効率を向上する。
【解決手段】 フェノールとホルムアルデヒドを必須成分として反応させてなるレゾール型フェノール樹脂であって、レゾール型フェノール樹脂100部に対して、一般式(1)で示される、リン酸トリエステルを0.01〜2部添加する。
O=P(OR) (1)
(Rは脂肪族炭化水素である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レゾール型フェノール樹脂組成物及びこれを用いた研磨布紙に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、多くの分野で用いられている代表的な熱硬化性樹脂である。フェノール樹脂には、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化剤を添加して加熱硬化するノボラック型フェノール樹脂と、単独で加熱硬化するレゾール型フェノール樹脂とに大別され、性状、用途、目的等により使い分けが行われている。
これらのフェノール樹脂の中でも、環境対応化や作業環境改善のため、アンモニアフリーが要求される用途や、溶剤フリーが必要な場合には、水溶液あるいは乳濁液の形態で使われる用途で親水性が高いレゾール型フェノール樹脂が多く用いられている。
水溶性レゾール樹脂は研磨布紙用のバインダーとして広く使用されている。バインダーとしては他に、エポキシ樹脂やにかわ等が使用されているがレゾール樹脂は砥粒保持力や耐熱性に優れており、高い研削性が得られる。水溶性レゾール樹脂の欠点としては一般的に硬化が遅い点が挙げられる。
研磨布紙は紙や布等の基材に接着剤を塗布し、砥粒を静電塗布または重力塗布により基材に付着させて乾燥硬化して固定し、更に接着材を塗布して製造されている。これらの接着剤の塗布工程では、接着剤中の水分等の揮発成分を乾燥させながら硬化する必要があり、低温から段階的に温度を上げる等の対策がとられている。生産性向上のため処理温度を上げると水分等が接着剤に残るため、発泡して樹脂強度が低下し、基材から砥粒が脱落しやすくなり研削性の低下につながるため、処理温度の大幅なアップは困難であった。
【0003】
この発泡性を改良する方法として、高沸点溶剤を添加して水分の乾燥時の発泡を抑制する方法があるが(例えば、特許文献1,2参照)、発泡性を改善するために添加量が多くなると、硬化速度の低下や、硬化後に樹脂中に残留して硬化物特性が悪化するという欠点があった。
【特許文献1】特開平6−114747号公報
【特許文献2】特開平11−343472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、加熱硬化時に発泡が抑えられ、硬化性に優れたレゾール型フェノール樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(3)により達成される。
(1) フェノール類とホルムアルデヒド類とを必須成分として反応させてなるレゾール型フェノール樹脂100重量部に対して、一般式(1)で示される、リン酸トリエステルを0.01〜2重量部添加してなることを特徴とするレゾール型フェノール樹脂組成物。
O=P(OR) (1)
(Rは脂肪族炭化水素である。)
(2) 前記リン酸トリエステルがトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートである(1)項記載のレゾール型フェノール樹脂組成物。
(3) 基材と接着剤層と砥粒からなり、接着剤層が(1)又は(2)項記載のレゾール型フェノール樹脂組成物を含んでなることを特徴とする研磨布紙。
【発明の効果】
【0006】
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、加熱硬化時の耐発泡性が良好で硬化性に優れ、高温条件での速い硬化処理が可能であり、加熱時間短縮により生産性向上が可能となるため、研磨布紙のバインダーとして好適に用いることができる。また、塗料、砥石、積層板、繊維強化プラスチック等への適用も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に用いるフェノール類としては特に限定されないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価の多環フェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。
【0008】
また、本発明に用いるアルデヒド類としては特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。通常、ホルムアルデヒドが多く用いられる。
【0009】
上記フェノール類とアルデヒド類とを反応させる際に用いられるアルカリ性触媒としては特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、アンモニア、モノエタノールアミン等の第1級アミン、ジエタノールアミン等の第2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロウンデセン等の第3級アミン等のアミン系化合物、あるいは炭酸ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミン等のアルカリ性物質等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
触媒は、一般的には反応初期に加えて反応させるが、その一部を反応途中、反応終了後に分割添加してもかまわない。
【0010】
本発明の組成物で用いられるレゾール樹脂を合成する際の、上記フェノール類(P)とアルデヒド類(F)との反応モル比(F/P)としては特に限定されないが、1.0〜4.0とすることが好ましい。さらに好ましくは1.5〜3.0である。
反応モル比が上位下限値より小さいと、レゾール樹脂中に未反応フェノール類が多くなり。また、上記上限値より反応モル比が大きいと、未反応アルデヒド類の含有量が多くなる。いずれの場合も歩留まりが低下し、未反応成分の除去に工数を要するようになる。未反応フェノール分が多くなると硬化が遅くなり、逆に未反応ホルムアルデヒド分が多くなると、硬化時の発泡性が悪化するため実用性が小さくなる。
【0011】
本発明に用いるリン酸トリエステルとしては、一般式(1)で示される構造のものである。
O=P(OR) (1)
(1)式中のRは脂肪族炭化水素であり、(1)式で示されるリン酸トリエステルの例としてはトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート等が挙げられるが、特にトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートが好ましい。リン酸トリエステルの添加量としてはレゾール型フェノール樹脂100重量部に対して0.01〜2重量部が好ましく、さらに好ましくは、0.05〜1重量部である。添加量が上記下限値未満では消泡効果が不十分となり、凹凸等の外観不良が発生する原因となる。また上限値を超えると、硬化物特性が低下するなどの悪影響が生じる。
【0012】
本発明のレゾール型フェノール樹脂組成物は、添加剤として、メタノール、エタノール、n−ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、ブチルカルビトール、メトキシプロパノール、アセトン、セロソルブアセテート、3−メチル−3−メトキシブタノール、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を含んでいてもよい。また、ノニオン型、アニオン型、カチオン型など各種界面活性剤、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、シランカップリング剤やエポキシ樹脂などの改質剤を含んでもよい。その他硬化剤、あるいは硬化助剤を含んでも良い。樹脂の硬化は、一般的には熱硬化であるが、硬化剤による常温硬化、紫外線などによる硬化でも良い。
本発明のレゾール型フェノール樹脂組成物は、基材と接着剤層と砥粒からなる研磨布紙の接着剤層に用いることにより、優れた特性を有する研磨布紙を得ることができる。
本発明の研磨布紙に用いる基材としては、一般的に紙または布等が用いられるが、研磨材としての使用に耐え得る強度を有し又適度な柔軟性を有しているものであれば特に制限はない。
本発明の研磨布紙に用いる砥粒としては用途に応じて適宜選択することができ特に制限はないが、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、アルミナ−ジルコニア又はゾルーゲル法によるアルミナを主成分とする砥粒(例えば3M社製キュービトロンR 砥粒)、ガーネット、ダイヤモンド、CBN等の単独又は組合せからなるものであることが好ましい。
本発明の研磨布紙は、前記基材、砥粒及びレゾール型フェノール樹脂組成物を用いて公知の方法により製造することができる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ここで記載されている「部」及び「%」は全て「重量部」及び「重量%」を示す。
【0014】
( 実施例1 )
4つ口フラスコに、フェノール100部、37%ホルムアルデヒド173部(F/Pモル比2.0)及び50%水酸化ナトリウム水溶液5部を仕込み、80℃で水溶性が3倍になるまで反応し、真空脱水を行い、粘度2Pa・sのレゾール型フェノール樹脂180部を得た。この樹脂にトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートを1.8部添加して撹拌混合して、レゾール型フェノール樹脂組成物を得た。
【0015】
( 実施例2 )
実施例1のトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートの添加量を0.6部にして同様にレゾール型フェノール樹脂組成物を得た。
【0016】
( 実施例3 )
実施例1のトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートの代わりにトリブチルホスフェートを使用して同様にレゾール型フェノール樹脂組成物を得た。
【0017】
( 実施例4 )
実施例1のトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートの代わりにトリス(ブトキシエチル)ホスフェートを使用して同様にレゾール型フェノール樹脂組成物を得た。
【0018】
( 実施例5 )
実施例1の50%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに水酸化バリウム5部を使用して同様にレゾール型フェノール樹脂組成物を得た。
【0019】
( 実施例6 )
実施例1の50%水酸化ナトリウム水溶液の代わりに水酸化バリウム5部、及び水酸化リチウム1部を使用して同様にレゾール型フェノール樹脂組成物を得た。
【0020】
( 比較例1 )
実施例1と同様に反応し、リン酸エステルが未添加のレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0021】
( 比較例2 )
実施例1のトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートの添加量を5部にして同様にレゾール型フェノール樹脂組成物を得た。
【0022】
( 比較例3 )
実施例1のトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートの代わりに高沸点溶剤であるジエチレングリコール(沸点244℃)を5部添加してにして同様にレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0023】
( 比較例4 )
実施例5と同様に反応し、リン酸エステルが未添加のレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0024】
( 比較例5 )
実施例6と同様に反応し、リン酸エステルが未添加のレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0025】
実施例及び比較例で得られたレゾール型フェノール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂組成物について、フィラー配合組成物の耐発泡性、タック性について評価を行った。その結果を表1に示す。
【0026】
(特性評価方法)
(1)耐発泡性
各実施例及び比較例で得られたレゾール型フェノール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂組成物と炭酸カルシウム NS−800(日東粉化工業製)を1:1で混合し、配合物をエポキシ樹脂積層板にアプリケーターで250g/m2となるように塗布し、所定温度(110℃、120℃、130℃)に調整した熱風乾燥機で加熱硬化した時の硬化物の外観、発泡状態を目視で評価した。
(2)タック性
各実施例及び比較例で得られたレゾール型フェノール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂組成物と炭酸カルシウム NS−800(日東粉化工業製)を1:1で混合し、配合物をエポキシ樹脂積層板にアプリケーターで250g/m2となるように塗布し、110℃に設定した熱風乾燥機で10分処理した後の塗布面のベタつきを評価した。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例1〜6はいずれも、耐発泡性が良好となっており、硬化性も優れていた。
比較例1、4、5は耐発泡性が悪く低温から、発泡が起こっていた。比較例2、3は耐発泡性が改善されているが、タック性が残っており、樹脂の乾燥性の低下が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のレゾール型フェノール樹脂は、加熱硬化時の耐発泡性が良好で硬化性に優れ、高温条件での速い硬化処理が可能であり、加熱時間の短縮により生産性向上が可能となるため、塗料、研磨布紙、砥石、積層板、繊維強化プラスチック等のバインダーとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とホルムアルデヒド類とを必須成分として反応させてなるレゾール型フェノール樹脂100重量部に対して、一般式(1)で示される、リン酸トリエステルを0.01〜2重量部添加してなることを特徴とするレゾール型フェノール樹脂組成物。
O=P(OR) (1)
(Rは脂肪族炭化水素である。)
【請求項2】
前記リン酸トリエステルがトリス(2−エチルヘキシル)ホスフェートである請求項1記載のレゾール型フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
基材と接着剤層と砥粒からなり、接着剤層が請求項1又は2記載のレゾール型フェノール樹脂組成物を含んでなることを特徴とする研磨布紙。

【公開番号】特開2009−126958(P2009−126958A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304152(P2007−304152)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】