説明

レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーの改善法

本発明は、レニン阻害剤、好ましくは、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体のバイオアベイラビリティーの改善法であり、このような処置を必要とする哺乳動物、とりわけヒトに、レニン阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、および排出タンパク質阻害剤の組合せ剤を共投与することを含む、方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
経口経路は、しばしば薬剤投与のための最も簡便な経路であるが、不運なことに、多くの治療剤は、その低いバイオアベイラビリティーのために経口で活性ではない。
【背景技術】
【0002】
多くの治療剤のバイオアベイラビリティーは、いわゆる“排出ポンプ”タンパク質の作用により減少され得て、該タンパク質は細胞から外来物質を能動的に排出し、例えば、多剤耐性作用を発生させる。これらの薬剤排出タンパク質は、主にMDR(多剤耐性タンパク質)およびMRP(多剤耐性関連タンパク質)タイプのトランスポーターを含む。最も研究されている排出タンパク質のいくつかには、P−糖タンパク質(PgpまたはMDR1)およびMRP2が含まれる。
【0003】
膜に位置する排出タンパク質は、繰り返しの化学療法後に多くの患者で起こる後天性多剤耐性症候群に関与する因子として既知であり、最近になってようやく、例えば、MDR1がまた小腸、結腸、肝臓および血液脳関門中の内皮細胞のような正常組織でも見られることが理解された。胃腸(GI)管、とりわけ、小腸および結腸におけるこのような排出タンパク質の存在は、多くの天然産物薬剤(抗癌剤ビンブラスチンおよびドキソルビシンを含む)の低いバイオアベイラビリティーに関係しているかもしれない。例えば、経口投与された多くの化学療法剤は、低いバイオアベイラビリティーのためおよびGI組織に入ることが不可能なために抗腫瘍活性を示すことができない。さらに、肝細胞に存在する排出タンパク質は、胆汁を介した除去のために、さらに治療剤のバイオアベイラビリティーを低下させ得る(Faber et al., Adv. Drug Del. Rev., 55, 107-124, 2003参照)。
【0004】
経口投与した治療剤は、標的組織に到達する前に、数カ所の関門を超えなければならない。超えなければならない最初の大きな障害は、腸管上皮である。親油性化合物は、頂端部原形質膜を超えて容易に拡散できるが、その後の側底膜から門脈血までの通過は、決して確実ではない。頂端部膜に位置する、ATP結合カセット(ABC)ファミリーの種々の薬剤トランスポーター、例えば、MDR1、MRP1およびMRP2のようなABCトランスポーターを含む排出ポンプタンパク質は、化合物を、細胞内から腸管腔に戻す働きをし、血中へのその吸収を防止するとこによりその経口バイオアベイラビリティーを制限し得る。直面する第二の大きなハードルは肝臓であり、その場所で薬剤は受動的に、または、飽和可能な輸送工程により、門脈血から肝細胞原形質(類洞)膜および胆汁(小管)膜を超えて胆汁まで輸送される。小管膜に位置する、これもまたABCファミリーの種々の薬剤トランスポーター、例えば、MDR1、乳癌耐性タンパク質(BCRP)およびMRP2のようなABCトランスポーターを含む排出ポンプタンパク質は、薬剤化合物を肝細胞の中から胆汁へ移動させ、その経口バイオアベイラビリティーを胆汁による排出を促進することにより制限し得る。例えば、MDR1は、ほとんどのHIVプロテアーゼ阻害剤を由章し、それらの経口バイオアベイラビリティーおよびリンパ球、脳、精巣および胎児への浸透を減少させることが証明されており、恐らく、これらの薬剤の治療的効果に対する大きな制限作用をもたらす。
【0005】
故に、バイオアベイラビリティーを改善するための一つの試みは、排出タンパク質阻害剤、すなわち、排出タンパク質の機能を阻害する化合物と、薬剤物質の共投与であり得る。換言すると、排出タンパク質阻害剤を、またその特異的排出系の基質である治療剤と共投与したとき、治療剤の標的部位での経口バイオアベイラビリティーおよび/または薬理学的活性濃度は、細胞内から腸管腔に戻る排出機構の阻害によりおよび/または胆汁への分泌の阻害により増強され得る。
【0006】
しかしながら、排出タンパク質は低基質特異性を示し、多種の分枝を輸送する。この特異性は正確には理解されておらず、薬剤物質の分子構造から、その特定の薬剤が、あるトランスポータータンパク質の基質であるか否かを予測する方法はない。故に、特定の薬剤または化合物が上記の排出ポンプ輸送作用に付されるかどうかの予測は不可能である。また、特定の薬剤が低経口バイオアベイラビリティーを有するとき、その低バイオアベイラビリティーが、全てまたは一部でも、上記の排出タンパク質によるものであるか予測できず、低バイオアベイラビリティーが排出タンパク質阻害剤の共投与により増加できるかどうかも予測できない(Chan et al. Eur. J. Pharmaceut. Sci., 21, 25-51, 2004参照)。
【発明の開示】
【0007】
驚くべきことに、多くのレニン阻害剤、例えば、米国特許5,559,111、6,197,959および6,376,672(これらの内容全体を引用により本明細書に包含する)は、顕著な排出系の基質であり、ABCファミリーのメンバー、特にMDR1およびMRP2により能動的に輸送されることが判明している。故に、これらのレニン阻害剤のバイオアベイラビリティーは、関連する排出機構の阻害により、特に、MDR1および/またはMRP2による薬剤輸送の阻害により、改善され得る。
【0008】
図1は、高レベルのMDR1を発現する膜小胞におけるATPase活性に対するレニン阻害剤PP100の効果を示す。
【0009】
図2は、頂端部(AP)から側底(BL)およびBL−から−AP方向でCaco−2細胞単層を通過するレニン阻害剤PP100の二方向輸送を示す。
【0010】
図3は、Caco−2細胞単層を通過するレニン阻害剤PP100の透過性に対するMDR1阻害剤PSC833の効果を示す。
【0011】
図4は、一定静脈内輸液中のラットにおける、原形質中のレニン阻害剤PP100の濃度および胆汁クリアランスに対するMDR1阻害剤PSC833の影響を示す。
【0012】
図5は、レニン阻害剤PP100を、PSC833の非存在下および存在下1回経口投与後のラットの原形質における用量標準化曲線下面積(AUC)値を示す。
【0013】
本発明が適用されるレニン阻害剤は、インビボでレニン阻害性活性を有し、故に、例えば、高血圧、鬱血性心不全、心肥大、心線維症、梗塞後心筋症、糖尿病に起因する合併症、例えば腎症、脈管障害および神経障害、冠血管の疾患、血管形成術後の再狭窄、上昇した眼内圧、緑内障、異常血管増殖、高アルドステロン症、不安状態および認知障害のための治療剤として、医薬用途を有する、全てのこのようなものである。特に、本発明は、米国特許5,559,111に記載の通りのδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体に関する。
【0014】
従って、本発明は、レニン阻害剤のバイオアベイラビリティー、好ましくは、経口バイオアベイラビリティーの改善法であって、このような処置を必要とする哺乳動物、とりわけヒトに、レニン阻害剤と排出タンパク質阻害剤の組合せ剤を共投与することを含む、方法を提供する。排出タンパク質阻害剤は、レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーが、排出タンパク質阻害剤の非存在下のバイオアベイラビリティーと比較して改善される量で存在する(例えばヒトに経口投与したとき10%)。排出タンパク質阻害剤およびレニン阻害剤は、好ましくは、組合せ剤が所望の治療効果、例えば、抗高血圧効果を有する量で各々共投与する。
【0015】
特に、本発明は、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体のバイオアベイラビリティーの改善法であって、このような処置を必要とする哺乳動物、とりわけヒトに、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体またはその薬学的に許容される塩、および排出タンパク質阻害剤を含む組合せ剤を共投与することを含む、方法を提供する。
【0016】
レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、および排出タンパク質阻害剤の組合せ剤の“共投与”なる用語は、この二成分を、医薬組成物として一緒にまたは同じ、単位投与形態の一部として投与できることを意味する。共投与はまた、レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、および排出タンパク質阻害剤を別々にであるが、同じ治療レジメンの一部として投与することを含む。この二成分は、別々に投与するとき、必ずしも本質的に同時に投与する必要はないが、そのように望むのであればそうできる。故に、共投与は、例えば、レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体と、それに加えて排出タンパク質阻害剤を別々の投与形態(複数もある)であるが、同時に投与することを含む。共投与はまた、異なる時間に、かつ任意の順番での、別々の投与も含む。
【0017】
本発明のレニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体は、その薬学的に許容される塩の形、それらの無水形または水和物もしくは溶媒和物で用い得る。全てのこのような形態は、本発明の範囲内である。
【0018】
本明細書で使用する用語“排出タンパク質阻害剤”は、何らかのABCトランスポーターの作用を阻害する化合物、医薬または賦形剤化合物、例えばBakos et al. Mol Pharmacol., 57, 760-768(2002)およびMaarten et al. AIDS, 16, 2295-2301(2002)に記載のものを意味する。
【0019】
加えて、レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーを高める排出タンパク質阻害剤は、種々の機構の1個以上により機能できることは特記し得る。すなわち、当業者には既知の通り、それは競合的または非競合的阻害剤であってよく、またはそれは混合された機構により作用し得る。このような阻害剤が、ある種のレニン阻害剤の排出に影響し得るかどうかは、とりわけ、レニン阻害剤および排出タンパク質阻害剤の相対的親和性;レニン阻害剤および排出タンパク質阻害剤の相対的水溶性(これが、この二剤が競合するとき、インビボで排出ポンプでの濃度に影響するため);排出タンパク質阻害剤の絶対的水溶性(該薬剤、排出を効率的に阻害するために、インビボで排出ポンプで十分な濃度を達しなければならないため);および排出タンパク質阻害剤の用量に依存する。本発明の目的のために、排出タンパク質阻害剤は、レニン阻害剤を経口でまたは何らかの他の経路で投与したときに、レニン阻害剤の全身暴露を改善し、そして腸上皮細胞の1個以上の薬剤排出タンパク質/または活性の、または肝細胞におけるそれらの基質および/または阻害剤である、全ての化合物である。
【0020】
上記の通り、本発明はレニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体のバイオアベイラビリティーの改善法であって、レニン阻害剤と排出タンパク質阻害剤の組合せ剤を共投与することを含む、方法を提供する。
【0021】
好ましくは、本発明の排出タンパク質阻害剤はMDR1阻害剤、例えば、PSC833である。
【0022】
好ましくは、式
【化1】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
を有する本発明のδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩をMDR1阻害剤、例えば、PSC833と共投与する。
【0023】
より好ましくは、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである、式(I)を有する本発明のδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体;またはその薬学的に許容される塩を、MDR1阻害剤、例えば、PSC833と共投与する。
【0024】
最も好ましくは、(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレート(別名SPP100)である本発明のδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体をMDR1阻害剤、例えば、PSC833と共投与する。
【0025】
上記の通り、レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、および排出タンパク質阻害剤を医薬組成物として共投与できる。これらの成分を、一緒に、任意の慣用の投与形で、通常薬学的に許容される担体または希釈剤と共に投与し得る。
【0026】
経口投与のために、レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、および排出タンパク質阻害剤を含む医薬組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、ピル、カプセル、粉末、マイクロエマルジョン、単位用量小袋などの形を取り得る。好ましいのは、活性成分を、a)希釈剤、例えば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン;b)滑剤、例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、そのマグネシウムまたはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール;錠剤についてはまたc)結合剤、例えば、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、デンプンペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよび/またはポリビニルピロリドン;望むならばd)崩壊剤、例えば、デンプン、寒天、アルギン酸またはそのナトリウム塩、または起沸性混合物;および/またはe)吸収剤(absorbant)、着色剤、香味剤および甘味剤と共に含む、錠剤およびゼラチンカプセルである。注射可能組成物は、好ましくは水性等張性溶液または懸濁液であり、坐薬は有利には脂肪エマルジョンまたは懸濁液から製造する。
【0027】
該組成物は滅菌してよくおよび/またはアジュバント、例えば防腐剤、安定化剤、湿潤剤または乳化剤、溶解促進剤、浸透圧調整用塩および/または緩衝剤を含んでよい。加えて、それらはまた他の治療的に価値ある物質も含み得る。該組成物は、各々慣用の混合、造粒またはコーティング法に従い製造し、約0.1−75%、好ましくは約1−50%の活性成分を含む。
【0028】
より具体的に、本発明は、治療的有効量のレニン阻害剤、好ましくは、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体を、排出タンパク質阻害剤と組み合わせて含む医薬組成物を提供し、該排出タンパク質阻害剤は、投与後にレニン阻害剤のバイオアベイラビリティーが少なくとも5%改善される量で存在する。
【0029】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、MDR1阻害剤、例えば、PSC833を含む。
【0030】
好ましくは、本発明の医薬組成物は、式
【化2】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
のδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体;またはその薬学的に許容される塩を;MDR1阻害剤、例えば、PSC833と組み合わせて含む。
【0031】
より好ましくは、本発明の医薬組成物は、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである式(I)のδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体;またはその薬学的に許容される塩;をMDR1阻害剤、例えば、PSC833と組み合わせて含む。
【0032】
最も好ましくは、本発明の医薬組成物は、(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレートをMDR1阻害剤、例えば、PSC833と組み合わせて含む。
【0033】
好ましくは、レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、例えば、SPP100、またはその薬学的に許容される塩のバイオアベイラビリティーは、少なくとも5%改善される。
【0034】
薬剤のバイオアベイラビリティーは、AUCの測定により当分野で既知の通り評価でき、ここで、AUCは、薬剤の血清または血漿含量を縦座標(Y軸)に沿って、横座標(X軸)に沿った時間に対してプロットした曲線下面積(AUC)である。一般的に、AUCの値は試験集団中の全対象から取った値の数を代表し、故に、全試験集団を平均した平均値である。
【0035】
レニン阻害剤および排出タンパク質阻害剤の共投与はまた、排出タンパク質阻害剤非存在下のレニン阻害剤の投与に対してCmaxを増加させることができ、これは、本発明のさらなる局面として提供される。Cmaxはまた試験対象の血清または血漿中の最大薬剤濃度の略語として当分野では十分理解されている。
【0036】
本発明は、別々に共投与してよい化合物の組合せ剤での処置に関する局面を有するため、本発明はまたキットの形の医薬組成物にも関する。本キットは2種の別々の医薬組成物医薬組成物:(1)レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体と、薬学的に許容される担体または希釈剤を含む組成物;および(2)排出タンパク質阻害剤と薬学的に許容される担体または希釈剤を含む組成物を含む。(1)および(2)の量は、別々に共投与したとき、レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体のバイオアベイラビリティーが少なくとも5%改善するものである。本キットは、分割されたビンまたは分割されたホイルの小袋のような別々の組成物を含むための容器を含み、ここで、各区画は(1)または(2)を含む複数の投与形(例えば、錠剤)を含む。あるいは、活性成分含有投与形を分けるよりもむしろ、本キットは別々の区画を含み、その各々が全投与形を含み、それがまた別々の投与形を含み得る。このタイプのキットの例はブリスターパックであり、ここで、各個々のブリスターが2個(またはそれ以上の)錠剤を含み、その1個(またはそれ以上の)の錠剤が医薬組成物(1)を含み、もう1個(またはそれ以上)の錠剤が医薬組成物(2)を含む。典型的に、本キットは別々の成分の投与のための指示書を含む。本キット形は、別々の組成物を、好ましくは異なる投与形態(例えば、経口および非経腸)で投与するとき、異なる投与間隔で投与するとき、または担当が組合せ剤の個々の成分のタイトレーションを望むとき、特に有利である。
【0037】
本発明の場合、キットは、故に:
(1)第一の投与形態にレニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、例えば、SPP100、またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体または希釈剤を含む、治療的有効量の組成物;
(2)第二の投与形態に、投与後に、レニン阻害剤、特に、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、例えば、SPP100、またはその薬学的に許容される塩のバイオアベイラビリティーを少なくとも5%改善させる量の排出タンパク質阻害剤よび薬学的に許容される担体または希釈剤を含む、組成物;および
(3)該第一投与形態および第二投与形態を含む、容器
を含む。
【0038】
最終的に、本発明は、レニン阻害剤、好ましくは、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸誘導体、例えば、SPP100、またはその薬学的に許容される塩のバイオアベイラビリティー、好ましくは経口バイオアベイラビリティーの改善用医薬の製造のための、排出タンパク質阻害剤、特に、MDR1阻害剤、例えば、PSC833の使用に関する。
【0039】
薬剤物質の薬剤排出に関与する排出タンパク質(複数もある)は同定でき、対応する動的パラメーター、すなわち、ミカエリスメンテン定数および最大薬剤輸送(KおよびJmax)を、当分野で既知の方法を使用した、例えば、高レベルの選択したABCトランスポーターを発現するSf9(Spodoptera frugiperda)膜小胞を使用したATPaseアッセイにより決定できる。このアッセイにおいて、ABCトランスポーターは、ATP加水分解をエネルギー源として使用して、基質を細胞外に出す。ATP加水分解は無機リン酸(Pi)を産生し、これは単純な比色反応により検出できる。トランスポーターにより遊離されたPiの量は、トランスポーターの活性に比例する。ABCトランスポーターを含む膜調製物はベースラインATPase活性を示し、これはトランスポーター毎に異なる。輸送された基質はこのベースラインATPase活性を増加させ、一方阻害剤はベースラインATPase活性および/または刺激剤の存在下で測定したATPase活性を阻害する。活性化および阻害試験の両方を行い得る。実施例1(図1)において説明する通り、SPP100は高レベルのMDR1を発現する膜小胞内のATPase活性を、約3μMのK値で阻害し、SPP100輸送に関連する排出系は恐らくMDR1であることを示唆する。
【0040】
あるいは、薬剤物質のインビトロでのトランスポーター親和性を決定でき、例えば、Camenisch et al., Pharm. Act. Helv. 71, 309-327(1996)に記載の、または実施例において説明する通りのCaco−2細胞アッセイに近似する。トランスポータータンパク質の同定および関与する排出系を阻害する化合物の効果を、同様にCaco−2細胞アッセイで決定できる。例えば、SPP100は、低から中程度の浸透性の化合物(内因性透過性<80%)として同定され、加えて、顕著な排出系の基質である(図2)。しかしながら、MDR1阻害剤PSC833存在下で、SPP100の透過性は有意に増加し、すなわち、PSC833はSPP100の排出を約0.1μMのIC50値で阻害する(図3)。
【0041】
排出タンパク質阻害剤、例えば、MDR1阻害剤の、レニン阻害剤の胆汁排出に対する共投与のインサイチュの効果を、排出タンパク質阻害剤の存在下および非存在下で胆汁に排出される化合物の量を比較することにより調査できる。例えば、PSC833存在下で、SPP100の胆汁クリアランスは、コントロール群と比較して97%まで減少する(図4)。
【0042】
同様に、排出タンパク質阻害剤、例えば、MDR1阻害剤の、レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーに対する共投与のインビボでの効果を、排出タンパク質阻害剤の存在下および非存在下で、薬物動力学的パラメーター、CmaxおよびAUCを比較することにより調査できる。実施例4(図5)に説明する通り、経口投与したラットにおいて、SPP100の用量標準化AUC(0−tlast)は、PSC833の存在下、SPP100のみを投与したコントロール群と比較して約70倍増加する。
【0043】
上記の記載は、その好ましい態様を含み、本発明を十分に開示する。ここに具体的に記載の態様の修飾および改善は、添付の特許請求の範囲の範囲内である。さらに労作することなく、当業者は、上記の開示を使用して、本発明をその完全な程度まで利用できると信じる。故に、ここの実施例は、単に説明として解釈すべきであり、いかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0044】
実施例1
ATPaseアッセイ
ヒトMDR1、ヒトMRP1またはヒトMRP2が介在する排出を、精製した膜小胞を刺激剤(MDR1についてはベラパミル[40μM]、MRP1についてはNEM−GS[10mM]およびMRP2についてはプロベネシド[1mM])の非存在下および存在下、異なる濃度の薬剤物質[0.046、0.137、0.41、1.23、3.7、11.1、33.3および100μM]と、輸送緩衝液中、pH7.4で37℃でインキュベートすることにより測定する。
【0045】
目的の治療剤の5mM 貯蔵溶液を、一般的有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド、エタノール、メタノールおよびアセトニトリル中に、貯蔵溶液またはその希釈物のアッセイ混合物への添加が上記最終濃度となり、かつ、使用する有機溶媒が総量の2%(v/v)であるような方法で調製する。このアッセイにおいて使用する全溶液はpH7.4に維持する。
【0046】
−80℃に維持された膜小胞を、ATPase実験に使用する。トランスポーター介在排出を文献に記載通り決定できる(Sarkadi, B. Price, E. Boucher, R. Germann, U. and Scarborough, G. J. Biol. Chem. 1992, 267: 4854-4858)。簡単に言うと、試験剤、刺激剤、NaVO 60mMおよびグルタチオン 2mM(MRP1およびMRP2トランスポーターについてのみ)の存在下および非存在下の膜懸濁液を96ウェルプレートにピペット輸送し、37℃で5分のプレインキュベーションに移す。ATPase反応を、25mM Mg−ATP溶液の添加により開始させ、続いて37℃でインキュベートする(MDR1については20分、MRP1については60分およびMRP2については30分)。その後、ATPase反応を各インキュベーションへのSDS(5%)添加により停止させる。モリブデン酸アンモニウム/酢酸亜鉛比色検出試薬の添加後、本プレートを25分、37℃でさらにインキュベートする。
【0047】
インキュベーション後、ODを730nmで測定する。先に決定したリン酸標準曲線を使用して、遊離したPi[nmol/ウェル]を計算できる。OD値は、行った実験の平均±標準偏差として示す(n=2)。全統計学的解析を、Microsoft EXCEL 5.0cを使用して行う。
【0048】
各薬剤およびアッセイした薬剤濃度に関するいわゆる特異的(NaVO感受性)トランスポーターATPase活性を計算するために、NaVO存在下で決定したPi値を、NaVO無しで測定したPi値から減算しなければならない。遊離Pi/mg膜タンパク質/分の観点でのNaVO感受性トランスポーター活性は、各ウェルに添加した膜タンパク質の量およびインキュベーション時間(分)により数字を割ることにより決定できる(図1)。
【0049】
実施例2
Caco−2細胞アッセイ
PETフィルター上で21−25日間増殖させたCaco−2細胞単層を、輸送実験に使用する。PETフィルター上に増殖させたCaco−2細胞単層ならびにCaco−2細胞無しのPETフィルターのみを通過する化合物の流動を、下記の通り決定する:輸送実験前に、アクセプター区画(頂端部については0.2mLおよび側底側については1.0mL)中の培養培地を、アクセプター溶液(対応溶液が目的阻害剤を含むとき、HBSS)を37℃でプレインキュベートする。実験を開始するために、ドナー区画(頂端部については0.35mLおよび側底側については1.15mL)を37℃でプレインキュベートしたドナー溶液(対応溶液が目的阻害剤を含むとき、HBSS中の化合物)で置き換える。150μLのアリコートをドナーおよびアクセプター側から、約1および120分後に除く。頂端部−から−側底および側底−から−頂端部方向両方の輸送実験を、トリプリケートで、インキュベーター中、37℃で振盪せずに行う。
【0050】
輸送実験のためのCaco−2細胞の適性を、≦0.1μMの[H]−マンニトールおよび≦0.1μMの[H]−プロプラノロールの頂端部から側底側への、120分の透過性を、同じバッチ内の合計6個の代表的細胞単層(各化合物について3個)で測定することにより試験する。
【0051】
放射活性サンプルを、液体シンチレーション計測により分析する。全ての他の非放射標識サンプルを、液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC−MS/MS)で分析するまで−20℃で凍結して維持する。
【0052】
試験した化合物の輸送値を、下記数式を使用して決定する(Artursson et al., Biochem. Biophys. Res. Comm. 175: 880-885, 1991):
【数1】

〔式中、Papp(cm/分)は見かけの透過性係数であり、ΔQは、アクセプター区画において、t時に見られた化合物の量であり、Δt(分)はインキュベーション時間であり、C(μg/mL)はドナー区画中の化合物の初期濃度であり、そしてA(cm)は膜の表面面積である。〕。
【0053】
標識サンプルについて、定量限界(LOQ)を、放射活性スケールから得られた最低サンプル濃度値として取り、これは、測定したブランク値よりも有意に高く、それに対する測定の標準誤差は20%より少ない。この試験の条件下で、絶対的放射活性のLOQは、[14C]標識SPP100について2dpmであり、12nmol/Lに対応する。
【0054】
app値を行った輸送実験の平均±標準偏差として示す(n=3)。任意の2個の得られたデータ間の差の統計学的有意性を、t検定により試験する。差を有意とする確率レベルは、p<0.025である。全統計学的解析を、Microsoft EXCEL 5.0cを使用して行った。
【0055】
1μM濃度のSPP100について、120分の時間内で、約0.2・10−5cm/分の頂端部から側底方向輸送が検出できる。他方、側底から頂端部方向輸送は、約10・10−5cm/分の透過性値で起こり、これは頂端部から側底方向輸送より有意に高い。
【0056】
1、5、10および50μM濃度のSPP100について、頂端部から側底方向輸送の漸増が観察され、10μMで、約7・10−5cm/分のプラトー透過性値に近づく。側底から頂端部側輸送は、他方、濃度を上げても有意に変わらない。
【0057】
SPP100(1、5、10および50μM)のCaco−2輸送の回収値は、一般的に非常に高く(〜100%)、SPP100がフィルター支持体またはプラスチックインキュベーション環境に結合しないことを示す。
【0058】
傍細胞マーカーであるマンニトールおよび経細胞マーカーであるプロプラノロールについての頂端部から側底方向流動は、常に各々3・10−5cm/分および90・10−5cm/分の限界Papp値より低い。決定された頂端部から側底方向フィルター透過性は、一般的に対応するCaco−2透過性データより高く、フィルター拡散がCaco−2輸送の律速段階ではないことを示す(図2および3)。
【0059】
実施例3
インサイチュ胆管カニューレ挿入ラット実験
下記試験を、ラットにおけるSPP100の胆汁排出におけるMDR1および/またはMRP2の関与を解明するために用い得る。故に、SPP100の胆汁クリアランスを雄の胆管−カニューレ挿入し、麻酔したラットで、[14C]標識SPP100ヘミフマレートの一定静脈内輸液中、PSC833(MDR1およびMRP2の既知阻害剤)またはプロベネシド(MRP2の既知選択的阻害剤)の投与の前後で評価する。
【0060】
使用できる動物は、例えば、雄アルビノHAN:WISTラットであり、処置群あたり動物4から5匹である。
【0061】
[14C]標識SPP100ヘミフマレートを、0.9%塩化ナトリウム溶液で、ならびにPSC833およびプロベネシドを1/3/1比のエタノール/ポリエチレングリコール200/5%グルコース溶液混合物中で投与する。
【0062】
全処置群において、親化合物の一定血漿濃度を、[14C]標識SPP100ヘミフマレート ボーラス溶液(0.015mg 塩基/mL)のボーラス静脈内注射(2mL/kg)により達成し、その後、[14C]標識SPP100ヘミフマレート輸液(0.022mg 塩基/mL)を静脈内点滴(6.67mL/h/kg)する。
【0063】
下記化合物の静脈内ボーラス投与を2時間後に行う:
・処置群1:エタノール/ポリエチレングリコール200/5%グルコース溶液の1/3/1混合物(5mL/kg;媒体);
・処置群2:10mg/kgの用量でPSC833;および
・処置群3:50mg/kgの用量でプロベネシド。
【0064】
全処置群について、血液サンプルを処置後0.5、1、1.33、1.67、2、2.33、2.67、3時間に採り、血液を直ぐに血漿へと処理する。胆汁を20分間隔で1から3時間の時間枠内で回収する。
【0065】
検出法:
・全サンプルにおける総放射活性:LSC;血漿および胆汁についてLOQ 3.4μg/L;および
・サンプルの選択プールにおける代謝物パターンの検出のために:放射活性検出を伴うHPLC。
【0066】
媒体(エタノール/ポリエチレングリコール200/5%グルコース溶液)静脈内投与後、血漿中の14C濃度および[14C]標識化合物の胆汁クリアランスにおける効果は、胆管−カニューレ挿入ラットへの[14C]標識SPP100ヘミフマレートの一定輸液中、検出されない。
【0067】
PSC833投与後、14C濃度は、血漿中で時間依存的に増加する傾向を示し、胆汁中で有意に減少する。[14C]標識化合物の得られた胆汁クリアランスは、PSC833投与前に得られた値の約7%に達する(図4)。
【0068】
プロベネシド投与後、胆管−カニューレ挿入ラットにおいて[14C]標識化合物の血漿濃度に対する効果は観察されない。しかしながら、プロベネシドは、胆汁流の増加(投与後の値は、投与前の値より約65%高い)および胆汁における[14C]濃度の減少(値は、投与前の値より約40%低い)をもたらす。それにも係わらず、胆汁クリアランスは両方の時点(プロベネシド投与の前および後)で類似である。
【0069】
実施例4
インビボ バイオアベイラビリティー実験
下記試験を、雄ラットにおける、PSC833経口共投与有りまたは無しの、SPP100ヘミフマレートの1回経口投与後の、SPP100の相対的経口バイオアベイラビリティーの調査に用い得る。併用投与したPSC833の用量依存性を解明するために、異なる用量のPSC833(0、5、12.5、25および50mg/kg)を一定量のSPP100ヘミフマレート(6mg 遊離塩基/kg)と共に与える。
【0070】
使用できる動物は、例えば、雄アルビノHAN:WISTラットであり、処置群あたり動物5匹である。
【0071】
SPP100ヘミフマレートを、0.9%塩化ナトリウム溶液で、およびPSC833を1/3/1(媒体)比のエタノール/ポリエチレングリコール200/5%グルコース溶液の混合物中で投与する。
【0072】
最初に媒体(5mL/kg)、および二番目にSPP100ヘミフマレート(2mL/kg)を、胃管栄養法によりラットに投与する(時間差:2−3分)。全ラットに、6mg 遊離塩基/kg用量のSPP100ヘミフマレートを投与する。下記のPSC833用量を投与する:
・処置群1および6:エタノール/ポリエチレングリコール200/5%グルコース溶液の1/3/1混合物(5mL/kg;媒体);
・処置群2:50mg/kgのPSC833;
・処置群3:25mg/kgのPSC833;
・処置群4:12.5mg/kgのPSC833;および
・処置群5:5mg/kgのPSC833。
【0073】
血液サンプルを、投与0.25、0.5、1、2、4、8、24および48時間後に舌下から採る。血漿を生化学分析に使用する。
【0074】
分析法:
SPP100については、SRMポジティブ・モードでAPCIを使用したHPLC−MS/MS、血漿中の最低LOQ 0.6ng/mLから0.7ng/mLの範囲。
【0075】
SPP100ヘミフマレート(6mg 塩基/kg)および媒体を経口投与されたラットにおいて、SPP100は、血漿中で、投与後2時間までしか検出されない。Cmaxは約24.8±27ng/mLに達し、tmaxに投与後0.44±0.1時間に達する。用量標準化AUC(0−tlast)値は2.38±3.4[(ng*h/mL)/(mg/kg)]である。
【0076】
SPP100ヘミフマレート(6mg 塩基/kg)およびPSC833(5、12.5、25および50mg/用量)を経口投与されたラットにおいて、SPP100は、血漿中、投与後24時間または48時間まで検出される。媒体を投与されたラットと比較して、PSC833用量5、12.5、25および50mg/kgの各々について、Cmaxは35.7±18、115±93、81.4±19および26.7±18ng/mLの値まで上がり、tmaxは4.8±1.8、4.95±4.2、15.2±18および3.06±1.9時間まで増加する。用量標準化AUC(0−tlast)値は、PSC833の共投与用量5、12.5、25および50mg/kgの各々について、媒体群より、約23倍、69倍、76倍および17倍高い。50mg/kgのPSC833用量の、25mg/kgと比較して相対的に低いfrel値の理由は、示されていない(図5)。
これらの結果から、ABC排出トランスポータータンパク質MDR1およびMDR2の少なくとも一方または両方が、傾向投与後のSPP100の全身暴露の程度に重要な役割を有するようであると結論付けることができる。
【0077】
実施例5
(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸[14C]−(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミド、[14C]−SPP100、ヘミフマレート
【化3】

A. シアノ−[14C]−ジメチル−酢酸メチルエステル
アンプル中に、ナトリウムメトキシド(119mg、2.2mmol)のメタノール(2mL)溶液をRTで入れる。シアノ酢酸メチル(99mg、1.0mmol)を0℃で添加する。混合物を数分、RTで振り、次いで−192℃で窒素下[14C]標識ヨウ化メチル(2.04GBq/mmolで3.7GBq、1.82mmol、Amersham Biosciencesから入手可能)を、反応混合物の上に真空で輸送する。アンプルを真空下で密閉し、1時間にわたりRTにゆっくり温める。アンプルを50℃で16時間振動させる。アンプルを次いで−192℃に再凍結し、揮発性溶媒および未反応[14C]−ヨウ化メチルを凍結乾燥により除去する。粗シアノ−[14C]−ジメチル−酢酸メチルエステルを、次いでGCで分析すると、<0.2%モノ−メチル化副産物の形成が確認される。この物質を、次いで、さらに精製せずに次段階に使用する。
【0078】
B. 2−シアノ−2,2−[14C]−ジメチル−アセトアミド
アンモニアガスを、乾燥メタノールを含むフラスコ中、30分、RTでまたはモル濃度が5M以上になるまでバブリングする。粗表題A化合物であるシアノ−[14C]−ジメチル酢酸メチルエステルに、新たに調製したMeOH中5.5M NH(3mL、16.5mmol)をRTで添加する。反応をRTで2時間撹拌し、その後、全ての出発物質が、下記方法に従ったGC分析法により証明される通り、ニトリル生成物に変換されている:10分、70℃、次いで、10℃/分で200℃まで漸増、次いで200℃で10分維持。反応の終了後、溶媒を凍結乾燥により除去し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチル→酢酸エチル/10%メタノール)により精製しで、2.813GBqの2−シアノ−2,2−[14C]−ジメチル−アセトアミドを得る。
【0079】
C. 3−アミノ−2,2−[14C]−ジメチル−プロピオンアミド
新たに精製した表題B化合物である2−シアノ−2,2−[14C]−ジメチル−アセトアミド(2.813GBq、77mg、0.69mmol)に、新に調製した、MeOH中のNHの5.5M溶液をRTで、その後5%Rh/Al(33mg)を添加する。反応を55℃で5時間まで撹拌し、全出発物質が生成物に変換されるまで1時間毎にGCでモニターする。GC法:1分、80℃、次いで、20℃/分で240℃まで漸増、その後1分、240℃。反応完了後、混合物をセライト(Hyflo)を通して濾過し、溶媒をロータリーエバポレーターで除去し、生成物をフラッシュクロマトグラフィー(CHCl/2%MeOH/NH→CHCl/5%MeOH/NH→CHCl/10%MeOH/NH)で精製して、2.7GBqの3−アミノ−[14C]2,2−ジメチル−プロピオンアミドを白色固体として得る。この生成物を、固体として1週間以上の期間貯蔵できる。長期貯蔵のために、3−アミノ−2,2−[14C]−ジメチル−プロピオンアミドをEtOH/20%トルエンに−80℃で、50MBq/mLを超えない濃度で溶解し得る。
【0080】
D. (2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸[14C]−(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミド、[14C]−SPP100、ヘミフマレート
表題C化合物である3−アミノ−2,2−[14C]−ジメチル−プロピオンアミドを、当分野で既知の方法に従い、例えば、米国特許6,730,798に記載の通り、表題D化合物、[14C]標識SPP100ヘミフマレートの製造のために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、高レベルのMDR1を発現する膜小胞におけるATPase活性に対するレニン阻害剤PP100の効果を示す。
【図2】図2は、頂端部(AP)から側底(BL)およびBL−から−AP方向でCaco−2細胞単層を通過するレニン阻害剤PP100の二方向輸送を示す。
【図3】図3は、Caco−2細胞単層を通過するレニン阻害剤PP100の透過性に対するMDR1阻害剤PSC833の効果を示す。
【図4】図4は、一定静脈内輸液中のラットにおける、原形質中のレニン阻害剤PP100の濃度および胆汁クリアランスに対するMDR1阻害剤PSC833の影響を示す。
【図5】図5は、レニン阻害剤PP100を、PSC833の非存在下および存在下1回経口投与後のラットの原形質における用量標準化曲線下面積(AUC)値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーの改善法であって、このような処置を必要とする哺乳動物に、レニン阻害剤と排出タンパク質阻害剤の組合せ剤を共投与することを含み、ここで、該レニン阻害剤がδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体、またはその薬学的に許容される塩である、方法。
【請求項2】
排出タンパク質阻害剤がMDR1阻害剤である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、式
【化1】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
を有するか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである式(I)の化合物;またはその薬学的に許容される塩である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレートである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
MDR1阻害剤がPSC833である、請求項2から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーの改善法であって、このような処置を必要とする哺乳動物に、レニン阻害剤と排出タンパク質阻害剤の組合せ剤を共投与することを含み、ここで、該排出タンパク質阻害剤がPSC833である、方法。
【請求項8】
レニン阻害剤がδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体、またはその薬学的に許容される塩である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、式
【化2】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
を有するか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである式(I)の化合物;またはその薬学的に許容される塩である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレートである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
治療的有効量のレニン阻害剤を排出タンパク質阻害剤と組み合わせて含み、該排出タンパク質阻害剤が、投与後にレニン阻害剤のバイオアベイラビリティーが少なくとも5%改善される量で存在し、ここで、該レニン阻害剤がδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体、またはその薬学的に許容される塩である、医薬組成物。
【請求項13】
排出タンパク質阻害剤がMDR1阻害剤である、請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、式
【化3】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
を有するか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項12または13記載の医薬組成物。
【請求項15】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである式(I)の化合物;またはその薬学的に許容される塩である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレートである、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
MDR1阻害剤がPSC833である、請求項13から16のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項18】
治療的有効量のレニン阻害剤を排出タンパク質阻害剤と組み合わせて含み、該排出タンパク質阻害剤が、投与後にレニン阻害剤のバイオアベイラビリティーが少なくとも5%改善される量で存在し、ここで、該排出タンパク質阻害剤がPSC833である、医薬組成物。
【請求項19】
レニン阻害剤がδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体、またはその薬学的に許容される塩である、請求項18記載の医薬組成物。
【請求項20】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、式
【化4】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
を有するか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである式(I)の化合物;またはその薬学的に許容される塩である、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレートである、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーの改善用医薬の製造のための排出タンパク質阻害剤の使用であって、ここで、該レニン阻害剤がδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体、またはその薬学的に許容される塩である、使用。
【請求項24】
排出タンパク質阻害剤がMDR1阻害剤である、請求項23記載の使用。
【請求項25】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、式
【化5】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
を有するか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項23または24記載の使用。
【請求項26】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである式(I)の化合物;またはその薬学的に許容される塩である、請求項25記載の使用。
【請求項27】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレートである、請求項26記載の使用。
【請求項28】
MDR1阻害剤がPSC833である、請求項23から27のいずれかに記載の使用。
【請求項29】
レニン阻害剤のバイオアベイラビリティーの改善用医薬の製造のための排出タンパク質阻害剤の使用であって、ここで、該排出タンパク質阻害剤がPSC833である、使用。
【請求項30】
レニン阻害剤がδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体、またはその薬学的に許容される塩である、請求項29記載の使用。
【請求項31】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、式
【化6】

〔式中、RはC1−4アルコキシ−C1−4アルコキシまたはC1−4アルコキシ−C1−4アルキルであり;RはC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシであり;そしてRおよびRは独立して分枝C1−4アルキルである。〕
を有するか、またはその薬学的に許容される塩である、請求項30記載の使用。
【請求項32】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が、Rが3−メトキシプロポキシであり;Rがメトキシであり;そしてRおよびRがイソプロピルである式(I)の化合物;またはその薬学的に許容される塩である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体が(2S,4S,5S,7S)−5−アミノ−4−ヒドロキシ−2−イソプロピル−7−[4−メトキシ−3−(3−メトキシ−プロポキシ)−ベンジル]−8−メチル−ノナン酸(2−カルバモイル−2−メチル−プロピル)−アミドヘミフマレートである、請求項32記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−508340(P2008−508340A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524264(P2007−524264)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008369
【国際公開番号】WO2006/013094
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】