説明

レンジ検出装置

【課題】 検出手段の系統数を低減可能であり、小型にできるレンジ検出装置を提供する。
【解決手段】 レンジ検出装置1は、固定部材30、可動部材20、オンオフ信号出力回路、リニア信号出力回路、および、レンジ判断手段を備える。固定部材30は、自動変速機10に固定される。可動部材20は、固定部材30に沿ってシフトレバーにより選択されたレンジに応じて移動可能である。オンオフ信号出力回路は、可動部材20の移動位置に応じてオンオフ信号を出力する。また、リニア信号出力回路は、可動部材20の所定位置からの距離に比例するリニア信号を出力する。レンジ判断手段は、オンオフ信号電圧値、および、リニア信号電圧値のうち少なくとも一方に基づいて、シフトレバーにより選択されたレンジを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機のレンジ検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機のシフトレンジを検出するレンジ検出装置として、レンジの選択に応じて往復移動する可動部材の移動位置に基づいてレンジを検出するものが知られている。例えば、特許文献1では、レンジの選択に応じて往復移動する可動部材の移動位置によりリニアな信号を出力するリニア信号出力手段によりレンジを検出する。
【0003】
特許文献2では、リニア信号出力手段の故障の影響を回避するために複数のリニア信号出力手段を備える。これにより、一つのリニア信号出力手段が故障しても、レンジ検出装置は正常に作動することができる。
また、特許文献3では、レンジの選択に応じて往復移動する可動部材の移動位置によりオンオフ信号を出力する複数のオンオフ信号出力手段によりレンジを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−104007号公報
【特許文献2】特表2003−507670号公報
【特許文献3】特開2005−172118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および2に記載の発明では、リニアな信号の出力特性が個体によって異なるため、自動変速機の組み付け後または車両の組み付け時にリニアな信号に対して初期補正を行う必要がある。しかしながら、車両組み付け後には、原点補正等の学習補正ができないため、環境温度変化、磁石の減磁、および、磁性コンタミネーションの浸入等による出力特性の変化を抑制する必要があり、コストが高くなる。
【0006】
特許文献3に記載の発明では、多系統のスイッチング素子を用いてレンジの判断を行う。よって、多系統の検出素子が必要となるため、検出素子、配線、および、付随する電子部品等が多数必要となりコストが高くなる。また。多系統のオンオフ信号出力手段を設けなければならないため、装置の小型化を阻害する。
本発明は上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、検出手段の系統数を低減可能であり、小型にできるレンジ検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明によると、レンジ検出装置は、自動変速機に設けられ、前進、後進、中立、および駐車を含むレンジを選択するレンジ選択手段により選択されたレンジを検出する。レンジ検出装置は、固定部材、可動部材、オンオフ信号出力手段、リニア信号出力手段、および、レンジ判断手段を備える。固定部材は、自動変速機に固定される。可動部材は、固定部材に沿ってレンジ選択手段により選択されたレンジに応じて移動可能である。オンオフ信号出力手段は、可動部材の移動位置に応じてオンオフ信号を出力する。また、リニア信号出力手段は、可動部材の所定位置からの距離に比例するリニア信号を出力する。レンジ判断手段は、オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号、および、リニア信号出力手段が出力するリニア信号に基づいて、レンジ選択手段により選択されたレンジを判断する。
【0008】
本発明では、リニア信号を出力するリニア信号出力手段、および、オンオフ信号を出力するオンオフ信号出力手段を共に備え、レンジを判断する。これにより、検出手段の系統数を低減することができ、レンジ検出装置を小型にできる。
また、高価なリニア信号出力手段の数を減らすことができるため、レンジ検出装置の製造コストを低減することができる。
【0009】
請求項2に係る発明によると、オンオフ信号出力手段は、レンジ選択手段により前進レンジまたは後進レンジが選択された場合、オン信号またはオフ信号の一方を出力し、レンジ選択手段により中立レンジまたは駐車レンジが選択された場合、オン信号またはオフ信号の他方を出力する。
これにより、エンジンを始動することができる状態と、エンジンを始動することができない状態とは、オン信号またはオフ信号のいずれか一方により判断される。このため、オンオフ信号に基づいてエンジンを始動することができるか否かを判断することができる。
【0010】
請求項3に係る発明によると、リニア信号出力手段は、固定部材または可動部材の一方に設けられ可動部材の往復移動方向に沿って磁界がリニアに変化する第1磁気発生手段、および、固定部材または可動部材の他方に設けられ可動部材の往復移動による第1磁気発生手段の磁界の変化を検出する第1磁気検出手段を含む構成で具現化される。また、オンオフ信号出力手段は、固定部材または可動部材の一方に設けられ可動部材の往復移動方向に沿って磁極が交替して変化する第2磁気発生手段、および、固定部材または可動部材の他方に設けられ可動部材の往復移動による第2磁気発生手段の磁極の変化を検出する第2磁気検出手段を含む構成で具現化される。
【0011】
請求項4に係る発明によると、第1磁気検出手段はホール素子で具現化される。また、請求項5に係る発明によると、第2磁気検出手段はホール素子で具現化される。
【0012】
請求項6に係る発明によると、エンジンの始動の可否を判断する始動可否判断手段をさらに備える。
レンジ判断手段は、リニア信号出力手段が出力するリニア信号に基づいて、レンジ選択手段により選択されたレンジを判断し、始動可否判断手段はオンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号に基づいてエンジンの始動の可否を判断する。
これにより、リニア信号に基づいてレンジを検出することで、レンジを正確に検出することができる。また、オンオフ信号に基づいてエンジンの始動可否を判断することで、始動信号の信頼性を高めることができる。さらに、レンジの検出およびエンジンの始動可否の判断を各自行うことができ、検出素子の数、配線、および、付随する電子部品の数を低減することができ、コストを低減することができる。
【0013】
請求項7に係る発明によると、リニア信号出力手段が出力するリニア信号の変化と、オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号の変化とを比較し、リニア信号の変化により判断されたレンジとオンオフ信号の変化により判断されたレンジとが整合しない場合、オンオフ出力手段の故障またはリニア出力手段の故障と判断する故障判断手段をさらに備える。
これにより、リニア信号出力手段またはオンオフ信号出力手段の故障を直ちに判断し、故障検出の所要時間を節約することができる。
【0014】
請求項8に係る発明によると、故障判断手段は、可動部材の移動によって、リニア信号出力手段が出力するリニア信号が変化し、オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号が変化しない場合、オンオフ信号出力手段の故障と判断する。
また、請求項9に係る発明によると、故障判断手段は、可動部材の移動によって、オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号が変化し、リニア信号出力手段が出力するリニア信号が変化しない場合、リニア信号出力手段の故障と判断する。
【0015】
請求項10に係る発明によると、故障判断手段によりオンオフ信号出力手段の故障と判断された場合、始動可否判断手段は、リニア信号出力手段が出力するリニア信号に基づいて、エンジンの始動の可否を判断する。
これにより、オンオフ信号出力手段が故障した場合であっても、リニア信号出力手段が出力するリニア信号に基づいて、エンジンの始動の可否を判断することができるため、エンジンの始動に影響を及ぼさない。
【0016】
請求項11に係る発明によると、自動変速機の制御の可否を判断する変速制御可否判断手段をさらに備える。
変速制御可否判断手段は、オンオフ信号出力手段が出力する前進または後進レンジに対応する信号を出力する場合、自動変速機の制御を許容する。
これにより、リニア信号出力手段が故障した場合であっても、自動変速機の制御に影響を及ぼさない。
【0017】
請求項12に係る発明によると、オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号のオン領域とオフ領域との境界位置におけるリニア信号の値に基づいて、リニア信号出力手段が出力するリニア信号の値を補正する補正手段をさらに備える。
このように、リニア信号出力手段が出力するリニア信号の値を補正することができるため、車両組み付け後、温度変化、磁石の減磁、および、自動変速機の内部の磁性コンタミネーションの付着等によるリニア信号出力手段の出力特性の変化を補正することができる。よって、レンジ検出装置の検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態のレンジ検出装置が適用されている自動変速機の内部の斜視図。
【図2】本発明の一実施形態のレンジ検出装置の断面図。
【図3】図2のIII−III線断面図。
【図4】本発明の一実施形態のレンジ検出装置の回路図。
【図5】本発明の一実施形態のレンジ検出装置の可動部の着磁パターンを示す模式図。
【図6】本発明の一実施形態のレンジ検出装置の出力特性を示す模式図。
【図7】本発明の一実施形態の補正処理の手順を示す模式図。
【図8】本発明の一実施形態のレンジ検出装置の初期補正を示す特性図。
【図9】本発明の一実施形態のレンジ検出装置の学習補正を示す特性図。
【図10】本発明の一実施形態のレンジ検出装置の学習補正を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
(一実施形態)
本発明の一実施形態によるレンジ検出装置を図1〜4に示す。本実施形態のレンジ検出装置1は自動車の自動変速機等に適用される。
【0020】
レンジ検出装置1は、図1に示すように、自動変速機の自動変速機10に取り付けられる。自動変速機10は、油圧切替弁(以下、「マニュアルバルブ」という。)12を有している。車両乗員がシフトレンジ(変速段)を選択して図示しないレンジ選択手段としてのシフトレバーを操作すると、このシフトレバーへの操作力は、ケーブル13、リンク機構14およびディテントレバー15を経由して自動変速機10のマニュアルバルブ12に伝達される。前記操作力によりマニュアルバルブ12が往復移動すると、自動変速機10内の油路が切り替わる。これにより、図示しない自動変速機の複数の摩擦要素(クラッチまたはブレーキ)へのライン圧作動油の供給が制御され、複数の摩擦要素は、選択されたシフトレンジとなる組み合わせで係合する。その結果、自動変速機の変速段は、車両乗員により選択されたシフトレンジに切り替わる。
【0021】
レンジ検出装置1は、図2に示すように、可動部材20、固定部材30、および基板40等を備えている。
可動部材20は、例えばプラスチックマグネット等、樹脂と磁性体との混合材料により形成されている。可動部材20は、板状の平板部21と当該平板部21の一方の面から突出する係合ピン22とからなる。平板部21の係合ピン22とは反対側の面は、部分的に着磁されている(図1参照)。本実施形態では、平板部21の係合ピン22とは反対側の面のうち2箇所が着磁されている。以下、この着磁されている2箇所をそれぞれ第1着磁部211および第2着磁部212とする(図1参照)。第1着磁部211および第2着磁部212は、特許請求の範囲に記載の「第1磁気発生手段」および「第2磁気発生手段」に相当する。なお、第1着磁部211および第2着磁部212の着磁パターン等については、後に詳述する。
【0022】
係合ピン22は、図1に示すように、自動変速機10のマニュアルバルブ12の係合部121に係合可能である。そのため、可動部材20は、マニュアルバルブ12が往復移動すると、その往復移動に連動して移動可能である。以下、可動部材20の往復移動方向をx方向とし、x方向の直線および面311に対して垂直な直線の方向をz方向とし、x方向の直線およびz方向の直線に対して垂直な直線の方向をy方向とする。
【0023】
固定部材30は、図1に示すように、自動変速機10に取り付けられる。具体的には、固定部材30は、図示しないボルト等により自動変速機10に固定される。このとき、固定部材30の位置決めピン34と自動変速機10の位置決め溝111とを合わせることにより、固定部材30を自動変速機10に対して容易に位置決めして固定することができる。
【0024】
固定部材30は、例えば樹脂により形成され、図2に示すように、板部31および凹部32を有している。板部31は、可動部材20の第1着磁部211および第2着磁部212に対向する面311を有している。凹部32は、板部31の面311とは反対側の面に形成されている。
【0025】
板部31は、面311から突出する2つのレール部33を有している。2つのレール部33は、それぞれ板部31の端縁部に沿って形成されている。2つのレール部33の互いに対向する面には、面311に対し平行に延びるレール溝331が形成されている。一方、可動部材20の平板部21の両側面には、レール溝331に対応する突条部23が形成されている。可動部材20は、2つの突条部23がそれぞれ固定部材30のレール溝331に摺動可能に嵌り込むことで、板部31の面311に対し平行となった状態で往復移動可能である。すなわち、固定部材30は、可動部材20を板部31に対し平行移動可能に支持する。
【0026】
図2および図3に示すように、基板40は、固定部材30の板部31に対し略平行となるよう凹部32内に配置されている。ここで、「略平行」とは、基板40が板部31に対し厳密に平行となっている必要はなく、概ね平行となっていればよいという意味である。
【0027】
基板40には、第1磁気検出素子41、第2磁気検出素子42、A/D変換回路43、および、TCU44が実装されている。
第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42はホール素子である。第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42は、例えばSMT(Surface Mount Technology)等により基板40にはんだ付けされている。
【0028】
第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42は、基板40が凹部32内に配置された状態で、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42が可動部材20の第1着磁部211および第2着磁部212の位置と対応する位置となるよう基板40に実装されている(図3参照)。ここで、第1磁気検出素子41、第1着磁部211、および、A/D変換回路43等を含む回路は、特許請求の範囲における「リニア信号出力手段」に相当し、以下、「リニア信号出力回路」という。また、第2磁気検出素子42、第2着磁部212、および、A/D変換回路43等を含む回路は、特許請求の範囲における「オンオフ信号出力手段」に相当し、以下、「オンオフ信号出力回路」という。
【0029】
A/D変換回路43は、図4に示すように、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42に接続され、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、TCU44に出力する。
TCU44は、自動変速機を制御するマイクロコンピュータであり、例えば、CPU、ROM、およびRAM等で構成されている。TCU44は、自動変速機を制御するとともに、レンジ判断手段441、故障判断手段442、始動可否判断手段443、変速制御可否判断手段444、および、補正手段445として作用する。
基板40には、板部31側から挿通されて板部31とは反対側の面ではんだ付けされるターミナル45が挿通実装されている(図2参照)。
【0030】
図2および図3に示すように、固定部材30の凹部32内には、封止材60が充填されている。これにより、封止材60は、基板40および第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42を覆っている。よって、本実施形態のようにレンジ検出装置1が自動変速機内に油浸状態で設置される場合でも、基板40および第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子が作動油に晒されるのを防ぐことができる。したがって、本実施形態では、基板40および第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子が作動油によって腐食することや、基板40上の配線が作動油中の例えば金属粉等の磁性コンタミネーションによりショートすることなどを防止することができる。
【0031】
封止材60は、例えばエポキシ等の樹脂からなる。封止材60は、凹部32への充填時には液状であり、時間の経過とともに硬化する。本実施形態では、封止材60は、例えば黒色等の暗色に着色されている。
【0032】
次に、図5に基づいて第1着磁部211および第2着磁部の着磁パターンについて説明する。
平板部21の固定部材30側の面を、図1のz方向から見た状態を図5に示す。なお、図5は、図が煩雑になることを避けるため、固定部材30等の図示を省略し、可動部材20の平板部21の固定部材30側の面のみを示す模式図である。
【0033】
図5に示すように、平板部21の固定部材30側の面は、y方向に所定の間隔をあけて2箇所が着磁されている。この着磁された2箇所が、それぞれ第1着磁部211および第2着磁部212である。第1着磁部211および第2着磁部212は、それぞれx方向に延びるよう設けられている。第1着磁部211は、図5において、左側がS極、右側がN極となり、x方向に磁力がリニアに変化するよう着磁されることで平板部21に設けられている。第2着磁部212は、x方向にN極、S極、N極、およびS極という順でN極とS極とが交互になるよう着磁されることで平板部21に設けられている。
【0034】
また、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42は、上述したように、それぞれが第1着磁部211および第2着磁部212の位置と対応する位置となるよう基板40に実装されている。これにより、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42は、それぞれ第1着磁部211および第2着磁部212の磁気を検出可能である。
【0035】
次に、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42の出力特性を図6に基づいて説明する。
例えば、可動部材20が、図5に示す位置から図中のx方向に沿って移動すると、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42は、それぞれ第1着磁部211および第2着磁部212に重なってx方向に沿って移動する。このとき、可動部材20と固定部材30との相対移動距離と、第1磁気検出素子41および第2磁気検出素子42の出力電圧の変化との関係を図6に示す。ここで、第1磁気検出素子41によって検出された信号の変化を線s1で表し、第2磁気検出素子42によって検出された信号の変化を線s2で表す。図6に示すように、線s1は可動部材20と固定部材30との相対移動距離に比例するリニアな特性を有し、s2は所定電圧Vout0と0との間で切換るオンオフ特性を有する。以下、第1磁気検出素子41によって検出された信号に対応する電圧値を「リニア信号電圧値」とし、第2磁気検出素子42によって検出された信号に対応する電圧値を「オンオフ信号電圧値」という。
【0036】
また、線s1と線s2との三つの交点での電圧値をそれぞれ、Vout1、Vout2、およびVout3とする。すると、Vout1は、可動部材20がPレンジからRレンジに変わるときの切換り点L1においてのリニア信号電圧値である。Vout2は、可動部材20がRレンジからNレンジに変わるときの切換り点L2においてのリニア信号電圧値である。Vout3は、可動部材20がNレンジからDレンジに変わるときの切換り点L3においてのリニア信号電圧値である。
【0037】
ここで、TCU44のレンジ判断、故障判断、始動可否判断、変速制御可否判断、および、補正等の制御を図6に基づいて説明する。
(レンジ判断)
本実施形態では、TCU44のレンジ判断手段441は、リニア信号電圧値に基づいてレンジを判断する。
図6に示すように、リニア信号電圧値が0以上、Vout1以下である場合、レンジ判断手段441はPレンジと判断する。
リニア信号電圧値がVout1より大きくVout2より小さい値である場合、レンジ判断手段441はRレンジと判断する。
リニア信号電圧値がVout2以上、Vout3以下である場合、レンジ判断手段441はNレンジと判断する。
リニア信号電圧値がVout3より大きい値である場合、レンジ判断手段441はDレンジと判断する。
【0038】
(始動可否判断)
本実施形態では、TCU44の始動可否判断手段443により、エンジンの始動ができるか否かを判断する。
本実施形態の場合、オンオフ信号電圧値がVout0である場合、始動可否判断手段443はエンジンが始動できると判断する。また、オンオフ信号電圧値が0である場合、始動可否判断手段443はエンジンが始動できないと判断する。
【0039】
(故障判断)
本実施形態では、TCU44の故障判断手段442により、リニア信号出力回路の故障またはオンオフ信号出力回路の故障と判断する。
【0040】
本実施形態では、リニア信号電圧値の変化とオンオフ信号電圧値の変化とを比較することによって、リニア信号出力回路の故障またはオンオフ信号出力回路の故障を判断する。
詳しく説明すると、例えば、可動部材20と固定部材30との相対移動により、リニア信号電圧値が変化し、オンオフ信号電圧値が変化しない場合、オンオフ信号出力回路の故障と判断する。また、例えば、可動部材20と固定部材30との相対移動により、オンオフ信号電圧値が変化し、リニア信号電圧値が変化しない場合、リニア信号出力回路の故障と判断する。
【0041】
ここで、故障判断手段442によりオンオフ信号出力回路の故障と判断された場合、始動可否判断手段443はリニア信号電圧値に基づいてエンジンの始動可否を判断する。詳しく説明すると、リニア信号電圧値がVout1以下、または、Vout2以上Vout3以下である場合、始動可否判断手段443はエンジンが始動できると判断する。また、リニア信号電圧値がVout1より大きくVout2より小さい値、または、Vout3より大きい値である場合、始動可否判断手段443はエンジンが始動できないと判断する。
【0042】
(変速制御可否判断)
本実施形態では、TCU44の変速制御可否判断手段444により、変速制御を行うことができるか否かを判断する。
本実施形態の場合、リニア信号電圧値がVout1より大きくVout2より小さい値、または、Vout3より大きい値である場合、変速制御可否判断手段444は変速制御を行うことができると判断する。また、リニア信号電圧値がVout1以下、または、Vout2以上Vout3以下である場合、変速制御可否判断手段444は変速制御を行うことができないと判断する。
【0043】
ここで、故障判断手段442によりリニア信号出力回路の故障と判断された場合、変速制御可否判断手段444はオンオフ信号電圧値に基づいて変速制御を行うことができるかを判断する。詳しく説明すると、オンオフ信号電圧値がVout0である場合、変速制御可否判断手段444は変速制御を行うことができないと判断する。また、オンオフ信号電圧値が0である場合、変速制御可否判断手段444は変速制御を行うことができると判断する。
【0044】
(補正制御)
本実施形態では、TCU44の補正手段445により補正制御を行う。次に、本実施形態の補正制御を図7〜図10に基づいて説明する。
図7は、レンジ検出装置1の初期補正、および、車両組み付け後の学習補正を行う手順を示す模式図である。図7に示すように、初期補正は、レンジ検出装置1を組み付け完了後、可動部材20を駆動することで行う。可動部材20と固定部材30とが相対移動すると、図8に示すように、リニア信号電圧値の変化を表す線s3、オンオフ信号電圧値の変化を表す線s2が得られる。
【0045】
このとき、可動部材20がPレンジからRレンジに変わるときの切換り点L1においてのリニア信号電圧値をVout4とする。また、可動部材20がRレンジからNレンジに変わるときの切換り点L2においてのリニア信号電圧値をVout5とする。可動部材20がNレンジからDレンジに変わるときの切換り点L3においてのリニア信号電圧値をVout6とする。
【0046】
本実施形態の場合、補正手段445は、Vout4、Vout5、およびVout6のうち二つを用いて、リニア信号電圧値に対してオフセット補正およびゲイン補正を行う。すると、リニア信号電圧値の変化を表す線s3は線s1に補正される。補正手段445は、補正後の値をTCU44のROMに書き込む。
【0047】
レンジ検出装置1の学習補正は、レンジ検出装置1を自動変速機に組み付けてから車両に組み付け完了後、エンジン始動後にシフトレバーを操作することで行う。
エンジンが始動後、Pレンジ、Rレンジ、Nレンジ、およびDレンジの順でシフトレバーを操作すると、図9に示すように、リニア信号電圧値の変化を表す線s4、および、オンオフ信号電圧値の変化を表す線s2が得られる。
【0048】
このとき、PレンジからRレンジに変わるときの切換り点L1、RレンジからNレンジに変わるときの切換り点L2、および、NレンジからDレンジに変わるときの切換り点L3において、リニア信号電圧値は、それぞれVout7、Vout8、およびVout9である。ここで、補正手段445は、Vout7、Vout8、およびVout9のうち、二つを用いてリニア信号電圧値に対して、オフセット補正およびゲイン補正を行う。すると、リニア信号電圧値の変化を表す線s4は線s1に補正される。
【0049】
また、本実施形態の場合、車両停止した後エンジン停止する前にも、レンジ検出装置1の学習補正を行う。
車両停止後、Dレンジ、Nレンジ、Rレンジ、およびPレンジの順でシフトレバーを操作すると、図10に示すように、リニア信号電圧値の変化を表す線s5、および、オンオフ信号電圧値の変化を表す線s2が得られる。
【0050】
このとき、DレンジからNレンジに変わるときの切換り点L3、NレンジからRレンジに変わるときの切換り点L2、および、RレンジからPレンジに変わるときの切換り点L1において、リニア信号電圧値は、それぞれVout10、Vout11、およびVout12である。ここで、補正手段445は、Vout10、Vout11、およびVout12のうち、二つを用いてリニア信号電圧値に対して、オフセット補正およびゲイン補正を行う。すると、リニア信号電圧値の変化を表す線s5は線s1に補正される。
【0051】
本実施形態では、リニア信号出力回路によるリニア信号電圧値、および、オンオフ信号出力回路によるオンオフ信号電圧値に基づいてレンジを検出する。これにより、検出系統の数を低減することができ、レンジ検出装置1を小型にできる。
【0052】
本実施形態では、レンジ判断手段441はリニア信号電圧値に基づいてレンジを判断し、始動可否判断手段443はオンオフ信号電圧値に基づいてエンジンが始動できるか否かを判断する。このため、リニア信号電圧値に基づいてレンジを検出することで、レンジ検出の精度を高めることができる。また、オンオフ信号電圧値に基づいてエンジンの始動可否を判断することで、始動信号についてソフトウェアによる処理を行う必要がない。よって、始動信号の信頼性を高めることができる。
また、レンジの検出およびエンジンの始動可否の判断を異なる系統で制御することで、検出素子の数、配線、および、付随する電子部品の数を低減することができ、コストを低減することができる。
【0053】
本実施形態では、リニア信号電圧値の変化とオンオフ信号電圧値の変化とを比較することで、リニア信号出力回路の故障またはオンオフ信号出力回路の故障を判断する。これにより、リニア信号出力回路またはオンオフ信号出力回路の故障を直ちに判断し、故障検出の所要時間を節約することができる。
【0054】
本実施形態では、故障判断手段442によりオンオフ信号出力回路が故障したと判断された場合、始動可否判断手段443はリニア信号電圧値に基づいてエンジンの始動可否を判断する。これにより、オンオフ信号出力回路が故障した場合であっても、エンジンの始動に影響を及ぼさない。
【0055】
本実施形態では、故障判断手段442によりリニア信号出力回路が故障したと判断された場合、変速制御可否判断手段444はオンオフ信号電圧値に基づいて変速制御を行うことができるかを判断する。これにより、リニア信号出力回路が故障した場合であっても、自動変速機の制御に影響を及ぼさない。
【0056】
本実施形態では、補正手段445により、リニア信号電圧値に対して初期補正および学習補正を行う。これにより、車両組み付け後、温度変化、磁石の減磁、および、自動変速機の内部の磁性コンタミネーションの付着等による第1磁気検出素子41の出力特性の変化を補正することができる。よって、レンジ検出装置1の検出精度および信頼性を高めることができる。
【0057】
(他の実施形態)
上記実施形態では、第1磁気検出素子および第2磁気検出素子が固定部材に設けられ、第1着磁部および第2着磁部が可動部材に設けられている。これに対し、他の実施形態では、第1磁気検出素子および第2磁気検出素子を可動部材に設け、第1着磁部および第2着磁部を固定部材に設けることとしてもよい。
上記実施形態では、TCUが基板に実装されている。これに対し、他の実施形態では、TCUを基板と離れて配置することとしてもよい。
上記実施形態では、レンジ判断手段はリニア信号電圧値に基づいてレンジを判断する。これに対し、他の実施形態では、リニア信号電圧値およびオンオフ信号電圧値の組み合わせに基づいてレンジを判断することとしてもよい。
上記実施形態では、第1磁気検出素子および第2磁気検出素子はホール素子である。これに対し、他の実施形態では、第1磁気検出素子および第2磁気検出素子は、例えば、ホール素子、MRE(磁気抵抗素子)、またはGMR(磁気抵抗素子)などが実装されているICチップであることとしてもよい。
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 ・・・レンジ検出装置
10 ・・・自動変速機
20 ・・・可動部材
21 ・・・平板部
30 ・・・固定部材
41 ・・・第1磁気検出素子(第1磁気検出手段)
42 ・・・第2磁気検出素子(第2磁気検出手段)
44 ・・・TCU(制御部)
211・・・第1着磁部(第1磁気発生手段)
212・・・第2着磁部(第2磁気発生手段)
441・・・レンジ判断手段
442・・・故障判断手段
443・・・始動可否判断手段
444・・・変速制御可否判断手段
445・・・補正手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機に設けられ、前進、後進、中立、および駐車を含むレンジを選択するレンジ選択手段により選択されたレンジを検出するレンジ検出装置であって、
前記自動変速機に固定される固定部材と、
前記固定部材に沿って前記レンジ選択手段により選択されたレンジに対応して移動可能な可動部材と、
前記可動部材の移動位置に応じてオンオフ信号を出力するオンオフ信号出力手段と、
前記可動部材の所定位置からの距離に比例するリニア信号を出力するリニア信号出力手段と、
前記オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号、および、前記リニア信号出力手段が出力するリニア信号に基づいて、前記レンジ選択手段により選択されたレンジを判断するレンジ判断手段と、
を備えることを特徴とするレンジ検出装置。
【請求項2】
前記オンオフ信号出力手段は、
前記レンジ選択手段により前進レンジまたは後進レンジが選択された場合、オン信号またはオフ信号の一方を出力し、
前記レンジ選択手段により中立レンジまたは駐車レンジが選択された場合、オン信号またはオフ信号の他方を出力することを特徴とする請求項1に記載のレンジ検出装置。
【請求項3】
前記リニア信号出力手段は、前記固定部材または前記可動部材の一方に設けられ前記可動部材の往復移動方向に沿って磁界がリニアに変化する第1磁気発生手段、および、前記固定部材または前記可動部材の他方に設けられ前記可動部材の往復移動による前記第1磁気発生手段の磁界の変化を検出する第1磁気検出手段を含み、
前記オンオフ信号出力手段は、前記固定部材または前記可動部材の一方に設けられ前記可動部材の往復移動方向に沿って磁極が交替して変化する第2磁気発生手段、および、前記固定部材または前記可動部材の他方に設けられ前記可動部材の往復移動による前記第2磁気発生手段の磁極の変化を検出する第2磁気検出手段を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のレンジ検出装置。
【請求項4】
前記第1磁気検出手段はホール素子であることを特徴とする請求項3に記載のレンジ検出装置。
【請求項5】
前記第2磁気検出手段はホール素子であることを特徴とする請求項3または4に記載のレンジ検出装置。
【請求項6】
エンジンの始動の可否を判断する始動可否判断手段をさらに備え、
前記レンジ判断手段は、前記リニア信号出力手段が出力するリニア信号に基づいて、前記レンジ選択手段により選択されたレンジを判断し、
前記始動可否判断手段は、前記オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号に基づいてエンジンの始動の可否を判断することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のレンジ検出装置。
【請求項7】
前記リニア信号出力手段が出力するリニア信号の変化と、前記オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号の変化とを比較し、リニア信号の変化により判断されたレンジとオンオフ信号の変化により判断されたレンジとが整合しない場合、前記オンオフ出力手段の故障または前記リニア出力手段の故障と判断する故障判断手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のレンジ検出装置。
【請求項8】
前記故障判断手段は、前記可動部材の移動によって、前記リニア信号出力手段が出力するリニア信号が変化し、前記オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号が変化しない場合、前記オンオフ信号出力手段の故障と判断することを特徴とする請求項7に記載のレンジ検出装置。
【請求項9】
前記故障判断手段は、前記可動部材の移動によって、前記オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号が変化し、前記リニア信号出力手段が出力するリニア信号が変化しない場合、前記リニア信号出力手段の故障と判断することを特徴とする請求項7に記載のレンジ検出装置。
【請求項10】
前記故障判断手段により前記オンオフ信号出力手段の故障と判断された場合、前記始動可否判断手段は、前記リニア信号出力手段が出力するリニア信号に基づいて、エンジンの始動の可否を判断することを特徴とする請求項8に記載のレンジ検出装置。
【請求項11】
前記自動変速機の制御の可否を判断する変速制御可否判断手段をさらに備え、
前記オンオフ信号出力手段が出力する前進または後進レンジに対応する信号を出力する場合、前記変速制御可否判断手段は前記自動変速機の制御を許容することを特徴とする請求項9に記載のレンジ検出装置。
【請求項12】
前記オンオフ信号出力手段が出力するオンオフ信号のオン領域とオフ領域との境界位置におけるリニア信号の値に基づいて、前記リニア信号出力手段が出力するリニア信号の値を補正する補正手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のレンジ検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−163161(P2012−163161A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24010(P2011−24010)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】