説明

レンズ光学系及び光電式エンコーダ

【課題】最小限のコストアップで、且つ、比較的簡単な構成で、レンズ焦点距離の温度変化を軽減する。
【解決手段】プラスチックレンズ12又はプラスチックレンズアレイ14を含むレンズ光学系において、前記プラスチックレンズ12又はプラスチックレンズアレイ14の熱膨張を、ガラス基板20、又は、例えば光路用の透光穴32が形成された金属板30、34により機械的に拘束して、温度変化によるレンズ曲率Rの変化を制御することで、焦点位置Fの温度変化を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ光学系及び光電式エンコーダに係り、特に、リニアスケールや各種の光学機器に用いるのに好適な、プラスチックレンズの温度変化による焦点距離の変化を緩和することが可能なレンズ光学系、該レンズ光学系を備えた片側及び両側テレセントリック光学系、及び、これらを備えた光電式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
光学機器に使用される光学レンズの一つに、プラスチック製のレンズ(プラスチックレンズと称する)がある。このプラスチックレンズは、比較的安価であることや、非球面形状を実現し易いという利点がある一方、温度変化に対する焦点位置の変化が大きいという欠点がある。
【0003】
この焦点位置の変化の主な要因として、温度変化に対するレンズの屈折率の変化と、熱膨張によるレンズ曲率の変化が挙げられる。即ち、図1に示すような両凸球面レンズのプラスチックレンズ10を例にとって説明すると、焦点距離fと、屈折率n、入側及び出側のレンズ曲率R、R、レンズ厚みdの間には、次式の関係がある。
【0004】
1/f=(n−1)×{(1/R)−(1/R
+{(n−1)/n}×{d/(R×R)} …(1)
【0005】
一般に、温度が上昇すると、屈折率nは小さくなり、レンズ曲率R、Rは大きくなる。よって、いずれの変化も焦点距離fが大きくなる方向に作用する。逆に温度が下降した場合には、焦点距離fが小さくなる方向に作用する。
【0006】
一般にプラスチックレンズの屈折率の変化や熱膨張による焦点距離fの変化は、ガラス製のレンズ(ガラスレンズと称する)の10倍以上になり、影響が大きいので、これを緩和する対策を採る必要がある。
【0007】
例えば特許文献1には、凸レンズと凹レンズ等、形態の違うレンズを複数枚組合せて配列したハイブリッドレンズとすることで、屈折率の変化による焦点位置の変化を相殺することが記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、本発明と逆に、プラスチックレンズに何ら外力を与えることなく、半径方向に移動してプラスチックレンズを保持するレンズ支持部材により、温度及び湿度の変化によるプラスチックレンズの膨張・収縮を吸収して、プラスチックレンズの内部応力の発生を防止し、形状歪みによる屈折率の変化のない保持を可能にしたレンズ保持装置が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−43508号公報
【特許文献2】特開平8−201674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら特許文献1に記載されたようなハイブリッドレンズは、レンズ枚数の増大によるコストアップや光軸調整の難しさが課題となる。
【0011】
一方、特許文献2に記載のレンズ保持装置は、本発明とは逆に、プラスチックレンズに何ら外力を与えることなく保持するものであり、レンズ焦点距離の温度補償を行うことはできなかった。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、最小限のコストアップで、且つ、比較的簡単な構成で、レンズ焦点距離の温度補償を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、プラスチックレンズを含むレンズ光学系において、前記プラスチックレンズの熱膨張を機械的に拘束して、温度変化によるレンズ曲率の変化を制御することで、焦点位置の温度変化を軽減するレンズ拘束手段を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
前記プラスチックレンズはレンズアレイとすることができる。
【0015】
又、前記レンズ拘束手段は、プラスチックレンズが固定されるガラス基板、又は、光路用の透光穴が形成された金属板とすることができる。
【0016】
更に、前記金属板に、プラスチックレンズを他の部材に取り付けるための取付手段を設けることができる。
【0017】
又、前記のレンズ光学系を含んで片側又は両側テレセントリック光学系を構成することができる。
【0018】
本発明は、又、前記のレンズ光学系を備えたことを特徴とする光電式エンコーダを提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、最小限のコストアップで、且つ、比較的簡単な構成で、レンズ焦点距離の温度変化を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の第1実施形態は、図2に示す如く、平面のガラス基板20の上に、凸型の球面プラスチックレンズ12を成形又は接着して一体化したものである。
【0022】
成形手法は、例えばUV硬化型樹脂や熱硬化型樹脂を用いたスタンパー成形、熱硬化性/熱可塑性樹脂を用いた熱圧縮成形、射出成形、トランスファーモールド等により一体成形することができる。あるいは、例えばエポキシ系又はアクリル系接着剤等の強固な接着剤を用いて、ガラス基板20の表面にプラスチックレンズ12を一体的に接着することができる。
【0023】
このレンズのガラス(20)とプラスチック(12)の界面は強固に一体化するため、温度変化による熱膨張は図3に示す如くとなる。
【0024】
即ち、図3(A)に示すプラスチックのみの場合、温度上昇に伴ってプラスチックレンズ12のレンズ曲率Rが大きくなるが、図3(B)に示す本発明によるガラスとプラスチックの組合せの場合、図の縦方向の熱膨張がガラス基板20によって拘束されるため、温度上昇によりレンズ曲率Rは小さくなる。これらの機械的挙動によるレンズ焦点位置の変化を図4に示す。
【0025】
図4(A)のプラスチックのみの場合、温度上昇率の屈折率変化による焦点距離変化Δfと、レンズ曲率変化による焦点距離変化Δfが同じ方向であるため、両者の相互作用で、温度上昇時の焦点距離変化Δfが、次式に示す如く大きくなる。
【0026】
Δf=Δf+Δf …(2)
【0027】
一方、図4(B)に示す、本発明によるガラスとプラスチックの組合せの場合、温度上昇時の屈折率変化による焦点距離変化Δfと、レンズ曲率変化による焦点距離変化Δfが反対の方向であるため、互いの影響を打ち消し合う作用を持ち、温度上昇時の焦点距離変化Δfが、次式に示す如く小さくなる。
【0028】
Δf=Δf−Δf …(3)
【0029】
従って、プラスチックレンズ12の熱膨張を、ガラス基板20などにより機械的に拘束し、温度変化によるレンズ曲率Rの変化を制御することで、Δfを0に近づけて、焦点距離を温度補償することが可能となる。
【0030】
なお、図2は、片側のみの凸型球面レンズの例を示したものであるが、これは、Δf=0に近づけることを前提とした、両凸球面や凹型球面(片側又は両側)、非球面(凸型、凹型、片側、両側)などでもよい。
【0031】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
【0032】
この第2実施形態は、図5(A)(断面図)及び(B)(側面図)に示す如く、第1実施形態の平面ガラス基板を金属のリング状平板(金属板)30に変更し、その上に凸型の球面プラスチックレンズ12を成形又は接着することで、プラスチックレンズ12の熱膨張を機械的に拘束し、焦点距離の温度補償を行うようにしたものである。
【0033】
前記金属板30は、エッチングプレートなどの薄物を用い、レンズ光軸を中心とした光路用の透光穴32が形成されている。この透光穴32は、レンズ有効径と等価の大きさであればよい。
【0034】
次に本発明の第3実施形態を説明する。
【0035】
この第3実施形態は、図6(A)(断面図)及び(B)(側面図)に示す如く、第2実施形態のリング状の金属板30の代わりに長方形の金属板34を用いて、レンズを筺体などに取り付けるためのねじ穴36を一体で形成できるようにしたものである。
【0036】
次に、本発明をプラスチックレンズアレイに適用した第4実施形態を図7に示す。
【0037】
本実施形態は、第1実施形態と同様に、平面のガラス基板20上に、複数の凸型のプラスチックレンズ12を成形又は接着することで、プラスチック製のレンズアレイ(以下プラスチックレンズアレイと称する)14としたものである。ガラス基板20上にプラスチックレンズアレイ14を一体化する方法は、第1実施形態と同様の方法を用いることができる。
【0038】
又、温度補償の原理も第1実施形態と同じであるので説明は省略する。
【0039】
更に、図5に示した第2実施形態あるいは図6に示した第3実施形態と同様にガラス基板20を金属板30又は34に変更することもできる。
【0040】
次に、第4実施形態のレンズアレイを結像用の片側テレセントリック光学系に適用した本発明の第5実施形態を図8に示す。
【0041】
この片側テレセントリック光学系40は、第4実施形態と同様のプラスチックレンズアレイ14と、該プラスチックレンズアレイ14の各レンズの焦点位置に配設されたアパーチャアレイ42を含む。
【0042】
このような結像光学系(40)では、各レンズの焦点距離変化が解像度変化に直結するが、第4実施形態のレンズアレイを用いることで、温度変化による解像度変化が緩和される。
【0043】
なお、図8は、片側のテレセントリック光学系40を示すが、これは第4実施形態のレンズアレイを用いた結像用の両側テレセントリック光学系でも同様である。又、レンズアレイのみでなく、第1乃至第3実施形態の単レンズを用いた結像用の片側テレセントリック光学系、両側テレセントリック光学系でも同様である。
【0044】
次に、第4実施形態のレンズアレイを光電式エンコーダに適用した本発明の第6実施形態を図9に示す。図において、50はスケール、52は受光アレイ素子である。
【0045】
温度変化により焦点位置が変化するとエンコーダの出力が劣化するが、本発明に係るレンズやレンズアレイを用いた光電式エンコーダでは、これが緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】温度変化による焦点位置の変化を説明するための光路図
【図2】本発明の第1実施形態の構成を示す断面図
【図3】本発明の原理を説明するための(A)プラスチックのみの場合及び(B)ガラスとプラスチックを組合せた場合の温度変化による熱膨張を示す断面図
【図4】同じく温度変化によるレンズ焦点位置の変化を示す光路図
【図5】本発明の第2実施形態の構成を示す(A)断面図及び(B)側面図
【図6】本発明の第3実施形態の構成を示す(A)断面図及び(B)側面図
【図7】本発明の第4実施形態の構成を示す断面図
【図8】本発明の第5実施形態の構成を示す光路図
【図9】本発明の第6実施形態の構成を示す光路図
【符号の説明】
【0047】
10、12…プラスチックレンズ
14…プラスチックレンズアレイ
20…ガラス基板
30、34…金属板
32…透光穴
36…ねじ穴
40…片側テレセントリック光学系
42…アパーチャアレイ
50…スケール
52…受光アレイ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズを含むレンズ光学系において、
前記プラスチックレンズの熱膨張を機械的に拘束して、温度変化によるレンズ曲率の変化を制御することで、焦点位置の温度変化を軽減するレンズ拘束手段を備えたことを特徴とするレンズ光学系。
【請求項2】
前記プラスチックレンズがレンズアレイであることを特徴とする請求項1に記載のレンズ光学系。
【請求項3】
前記レンズ拘束手段が、プラスチックレンズが固定されるガラス基板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ光学系。
【請求項4】
前記レンズ拘束手段が、プラスチックレンズが固定される、光路用の透光穴が形成された金属板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズ光学系。
【請求項5】
前記金属板に、プラスチックレンズを他の部材に取付けるための取付手段が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のレンズ光学系。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のレンズ光学系を含んで片側テレセントリック光学系が構成されていることを特徴とするレンズ光学系。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載のレンズ光学系を含んで両側テレセントリック光学系が構成されていることを特徴とするレンズ光学系。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のレンズ光学系を備えたことを特徴とする光電式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−3466(P2008−3466A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175064(P2006−175064)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】