説明

レンズ用塗装装置

【課題】硬化しやすい塗料が使用される場合であっても、メンテナンスの頻度を低減することが可能なレンズ用塗装装置を提供する。
【解決手段】レンズ用塗装装置1は、塗料を吸収するとともにレンズ2に接触して吸収した塗料をレンズ2に塗布する塗料塗布部材6と、塗料塗布部材6を保持し、上下方向および前後方向の少なくとも2方向へ塗料塗布部材6を移動させる塗布部材保持機構7と、上面側が開口するとともに塗料が入る塗料容器8と、塗料塗布部材6に吸収された余剰の塗料を除去するための塗料除去部材66と、レンズ2を保持するレンズ保持機構とを備えている。塗布部材保持機構7は、塗料容器8内の塗料に塗料塗布部材6を漬けた後、塗料除去部材66に塗料塗布部材6を接触させ、その後、塗料塗布部材6をレンズ2に接触させてレンズ2に塗料を塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乱反射を防止するための塗料をレンズに塗布するためのレンズ用塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レンズの乱反射を防止するための墨をレンズの外周端面に塗る自動レンズ墨塗り機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の自動レンズ墨塗り機は、カートリッジ式の墨塗りヘッドユニットと、このヘッドユニットを支持する支持機構と、この支持機構を往復直線移動させるためのスライド機構とから構成される墨塗りヘッドを備えている。
【0003】
この自動レンズ墨塗り機では、墨塗りヘッドユニットは、直方体状のケースを備えており、ケースの内部空間には、揮発性溶剤によって墨が溶かれることで生成される塗料が貯留されている。また、墨塗りヘッドユニットは、毛細管現象によって塗料を吸い上げるフェルト状素材からなる墨塗りヘッド本体と、墨塗りヘッド本体と同様の素材からなる塗料吸い上げ部材とを備えている。塗料吸い上げ部材は、ケース内部の塗料の中に浸漬されており、墨塗りヘッド本体の後端側は、塗料吸い上げ部材に繋がっている。墨塗りヘッド本体の先端面は、ケースの前面側に露出しており、スライド機構によって、墨塗りヘッドユニットがスライドすると、墨塗りヘッド本体の先端面がレンズの外周端面に接触して、塗料吸い上げ部材を介して墨塗りヘッド本体で吸い上げられた塗料がレンズの外周端面に塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−296459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、レンズの乱反射を効果的に防止するため、レンズに塗布される塗料として、2液性の塗料が使用されている。2液性の塗料の場合、従来の塗料と比べて、硬化しやすい。そのため、特許文献1に記載の自動レンズ墨塗り機のように、毛細管現象を利用して墨塗りヘッド本体や塗料吸い上げ部材で吸い上げた塗料をレンズに塗布する自動レンズ墨塗り機において、2液性の塗料が使用されると、硬化した塗料によって、墨塗りヘッド本体等が比較的短時間で詰まってしまい、レンズへの塗料の塗布ができなくなってしまう。その結果、この自動レンズ墨塗り機では、頻繁にメンテナンスを行う必要がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、硬化しやすい塗料が使用される場合であっても、メンテナンスの頻度を低減することが可能なレンズ用塗装装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明のレンズ用塗装装置は、塗料を吸収するとともにレンズに接触して吸収した塗料をレンズに塗布する塗料塗布部材と、塗料塗布部材を保持し、上下方向と上下方向に直交する所定の第1方向との少なくとも2方向へ塗料塗布部材を移動させる塗布部材保持機構と、上面側が開口するとともに塗料が入る塗料容器と、塗料塗布部材に吸収された余剰の塗料を除去するための塗料除去部材と、レンズを保持するレンズ保持機構と、を備え、塗布部材保持機構は、塗料容器内の塗料に塗料塗布部材を漬けた後、塗料除去部材に塗料塗布部材を接触させ、その後、塗料塗布部材をレンズに接触させてレンズに塗料を塗布することを特徴とする。
【0008】
本発明のレンズ用塗装装置では、塗布部材保持機構は、塗料を吸収する塗料塗布部材を塗料容器内の塗料に漬けた後に、塗料塗布部材をレンズに接触させてレンズに塗料を塗布している。そのため、2液性の塗料等の硬化しやすい塗料が使用される場合であっても、従来のように、硬化した塗料の影響でレンズへの塗料の塗布が短時間でできなくなってしまうことがない。したがって、本発明のレンズ用塗装装置では、メンテナンスの頻度を低減することが可能になる。
【0009】
また、本発明では、塗布部材保持機構が塗料塗布部材を上下方向へ移動させるため、レンズの外周端面に加え、レンズの軸方向の端面に塗料を塗布することが可能になる。また、レンズの外周側に傾斜面や段差が形成されている場合であっても、傾斜面や段差部分に塗料を塗布することが可能になる。また、本発明では、塗料塗布部材に吸収された余剰の塗料を除去するための塗料除去部材に塗料塗布部材を接触させてから、レンズに塗料を塗布しているため、レンズに塗料を塗布する際に塗料が予期せぬ箇所へ付着するのを抑制することが可能になる。また、レンズに塗布される塗料の膜厚を均一にしやすくなる。
【0010】
本発明において、塗布部材保持機構は、上下方向と第1方向とに直交する第2方向へ塗料塗布部材を移動させることが好ましい。また、この場合には、レンズ保持機構は、レンズの光軸方向を軸方向としてレンズを回転させるためのモータと、レンズの回転位置を検出するための位置検出機構とを備え、位置検出機構での検出結果に基づくモータのフィードバック制御が可能となっていることが好ましい。このように構成すると、所定の回転位置でレンズを停止させた状態で、第1方向および第2方向へ塗料塗布部材を移動させることが可能になる。したがって、光軸方向から見たときのレンズの形状が略小判形状、略長円形状、略楕円形状あるいは略D形状となっていても、レンズの外周端面や軸方向の端面に塗料を塗布することが可能になる。
【0011】
本発明において、塗布部材保持機構は、塗料塗布部材を保持する第1保持部と、第1保持部を保持する第2保持部とを備えるとともに、上下方向において第2保持部に対する第1保持部の相対位置を調整するための第1位置調整機構、および/または、第2方向において第2保持部に対する第1保持部の相対位置を調整するための第2位置調整機構を備えることが好ましい。このように構成すると、第1位置調整機構や第2位置調整機構を用いて、レンズに対する塗布部材の相対位置を微調整することが可能になる。
【0012】
本発明において、塗料容器の上面を塞ぐ蓋部材と、塗料容器の上面を塞ぐ閉位置と塗料容器の上面を開放する開位置との間で蓋部材を移動させる蓋部材移動機構とを備えることが好ましい。このように構成すると、蓋部材によって塗料容器の上面を塞ぐことで、塗料容器内の塗料の揮発を抑制することが可能になる。
【0013】
本発明において、塗料除去部材は、塗料を吸収する吸液性部材であることが好ましい。このように構成すると、塗料塗布部材を塗料除去部材に軽く押し付けることで塗料塗布部材に吸収された余剰の塗料を除去することが可能になる。したがって、比較的容易に、塗料塗布部材に吸収された余剰の塗料を除去することが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のレンズ用塗装装置では、メンテナンスの頻度を低減することが可能になる。また、本発明のレンズ用塗装装置では、レンズの軸方向の端面、および、レンズの外周側に形成される傾斜面や段差部分に塗料を塗布することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態にかかるレンズ用塗装装置の概略構成を説明するための平面図である。
【図2】図1に示すレンズ用塗装装置の正面図である。
【図3】図1に示す芯出し機構の動作を説明するための平面図である。
【図4】図1のE−E方向から塗布部材保持機構を示す図である。
【図5】図4のF−F方向から保持部を示す図である。
【図6】図1に示す塗料容器および蓋機構の正面図であり、(A)は塗料容器の上面が開放されている状態を示す図、(B)は塗料容器の上面が塞がれている状態を示す図である。
【図7】図1に示す塗料容器および蓋機構の平面図である。
【図8】図7のG−G断面の断面図である。
【図9】レンズの外周端面に塗料を塗布するときのレンズ用塗装装置の概略動作を説明するための図である。
【図10】レンズの外周端面以外の部分に塗料を塗布するときの塗料塗布部材の動きを説明するための図である。
【図11】異形のレンズの外周端面に塗料を塗布するときの塗料塗布部材の動きを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
(レンズ用塗装装置の概略構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかるレンズ用塗装装置1の概略構成を説明するための平面図である。図2は、図1に示すレンズ用塗装装置1の正面図である。
【0018】
本形態のレンズ用塗装装置1(以下、「塗装装置1」とする。)は、乱反射防止作用を有する黒色系の塗料(墨)をレンズ2に塗布するための装置である。この塗装装置1は、図1、図2に示すように、レンズ2を回転可能に保持するレンズ保持機構3と、レンズ保持機構3に保持されるレンズ2の芯出しを行うための芯出し機構4、5と、レンズ2に接触して塗料を塗布する塗料塗布部材6と、塗料塗布部材6を保持する塗布部材保持機構7と、上面側が開口するとともに塗料が入る塗料容器8と、塗料容器8の上面を塞ぐ蓋機構9とを備えている。なお、図2では、塗料容器8や蓋機構9等の図示を省略している。
【0019】
以下の説明では、図1の上下方向を前後方向とし、図1の左右方向を左右方向とする。また、図1の下側を塗装装置1の前側、図1の上側を塗装装置1の後ろ側、図1の右側を塗装装置1の右側、図1の左側を塗装装置1の左側とする。なお、本形態では、前後方向は第1方向であり、左右方向は第2方向である。
【0020】
(レンズ保持機構の構成)
レンズ保持機構3は、図2に示すように、レンズ2を保持するレンズホルダ12と、レンズ2の光軸方向を軸方向としてレンズ2を回転させるためのモータ13と、レンズ2の回転位置を検出するための位置検出機構14とを備えている。
【0021】
レンズホルダ12は、全体として略円筒状に形成されている。レンズホルダ12の上端面には、開口部が形成されており、レンズホルダ12の上端面は、レンズ2の搭載面となっている。レンズホルダ12の下端側には、中空回転軸15の上端が固定されている。中空回転軸15は、軸受16に回転可能に支持されている。軸受16は、軸受ホルダ17を介して塗装装置1の前面側に配置される基台18に固定されている。
【0022】
中空回転軸15の下端側には、プーリ19が固定されている。また、中空回転軸15の下端には、ロータリージョイント等の継ぎ手20が取り付けられている。継ぎ手20には、所定の配管部材を介して真空ポンプ等の真空吸引機構が接続されている。中空回転軸15の内周側は、レンズホルダ12の内周側と連通しており、真空吸引機構が駆動している状態で、レンズホルダ12の上端面にレンズ2が置かれると、レンズ2は、レンズホルダ12の上端面に吸引されて保持される。
【0023】
位置検出機構14は、中空回転軸15に固定されるスリット板22と、ブラケット23を介して基台18の下面に固定されるセンサ24とを備えている。スリット板22は、円板状に形成されている。また、スリット板22には、たとえば、複数のスリットが円周方向に所定のピッチで形成されている。センサ24は、発光素子と受光素子とを備える光学式のセンサである。このセンサ24は、発光素子と受光素子との間をスリット板22が通過するように配置されている。
【0024】
モータ13は、固定用の軸25等を介して、基台18の下面に固定されている。モータ13の出力軸には、プーリ26が固定されている。プーリ19、26には、ベルト27が架け渡されており、モータ13が駆動すると、中空回転軸15およびレンズホルダ12が回転する。本形態のモータ13は、サーボモータまたはパルスモータ(ステッピングモータ)であり、本形態では、位置検出機構14での検出結果に基づくモータ13のフィードバック制御が可能となっている。
【0025】
(芯出し機構の構成)
図3は、図1に示す芯出し機構4、5の動作を説明するための平面図である。
【0026】
芯出し機構4、5は、基台18の上面に配置されている。また、芯出し機構4は、レンズホルダ12の右側に配置され、芯出し機構5は、レンズホルダ12の左側に配置されている。すなわち、芯出し機構4、5は、左右方向からレンズホルダ12を挟むように配置されている。
【0027】
芯出し機構4は、扁平な略直方体状の芯出しヘッド30と、芯出しヘッド30が固定されるスライダ31と、スライダ31を左右方向へ往復移動させるエアシリンダ32とを備えている。芯出しヘッド30の先端面(左端面)30aは、左右方向に直交する垂直面となっており、前後方向における先端面30aの両側は、面取りされている。芯出しヘッド30は、スライダ31の上面に固定されている。スライダ31の左端側には、エアシリンダ32のロッドが固定されている。
【0028】
芯出しヘッド30の後面には、マイクロメータ33が左右方向と平行になるように固定されている。また、マイクロメータ33の左側には、ストッパ34が配置されており、芯出しヘッド30が左側へ移動すると、図3に示すように、マイクロメータ33のロッド33aの先端がストッパ34に当接する。本形態では、ロッド33aの突出量を調整することで、芯出しヘッド30が左側へ移動したときの芯出しヘッド30の先端面30aの位置が規定される。
【0029】
芯出し機構5は、扁平な略直方体状の芯出しヘッド35と、芯出しヘッド35が固定されるスライダ36と、スライダ36を左右方向へ往復移動させるエアシリンダ37とを備えている。芯出しヘッド35の先端面(右端面)35aは、上下方向から見たときの形状がV形状となるように形成されており、その中心位置から前後対称に右側へせり出す2個の傾斜面35b、35cによって構成されている。
【0030】
本形態では、エアシリンダ37が発生させる芯出しヘッド35の作動力は、エアシリンダ32が発生させる芯出しヘッド30の作動力よりも小さくなっている。また、本形態では、芯出しヘッド30が左側へ移動したときの先端面30aに当接するレンズ2の中心とレンズホルダ12の中心とが左右方向において一致するように、ロッド33aの突出量が調整されている。そのため、芯出しヘッド30、35が左右方向の内側へ移動すると、レンズ2の外周端面は、ロッド33aの先端がストッパ34に当接した状態の芯出しヘッド30の先端面30aおよび芯出しヘッド35の傾斜面35b、35cに当接して、前後左右方向においてレンズ2が正確に芯出しされる。
【0031】
(塗布部材保持機構の構成)
図4は、図1のE−E方向から塗布部材保持機構7を示す図である。図5は、図4のF−F方向から保持部40を示す図である。
【0032】
塗布部材保持機構7は、塗料塗布部材6(以下、「塗布部材6」とする。)を前後方向、左右方向および上下方向へ移動させるいわゆる直交3軸型のロボットである。この塗布部材保持機構7は、塗布部材6を保持する保持部40と、保持部40を上下方向へ往復移動させる上下移動機構41と、保持部40および上下移動機構41を左右方向へ往復移動させる左右移動機構42と、保持部40、上下移動機構41および左右移動機構42を前後方向へ往復移動させる前後移動機構43とを備えている。上下移動機構41、左右移動機構42および前後移動機構43は、塗装装置1の後面側に配置される筺体の内部に配置されている。
【0033】
図1、図4に示すように、前後移動機構43は、前後方向へ往復移動するスライド部材44と、スライド部材44を駆動する駆動源45とを備えている。左右移動機構42は、左右方向へ往復移動するスライド部材46と、スライド部材46を駆動する駆動源47とを備えている。上下移動機構41は、上下方向へ往復移動するスライド部材48と、スライド部材48を駆動する駆動源49とを備えている。左右移動機構42は、スライド部材44の上面側に固定されている。上下移動機構41は、スライド部材46の前面側に固定されている。
【0034】
駆動源45は、たとえば、回転型のモータであり、スライド部材44と駆動源45とは、モータの回転に伴って回転する送りネジやこの送りネジに螺合するナット部材等を介して連結されている。同様に、駆動源47、49は、たとえば、回転型のモータであり、スライド部材46と駆動源47とは、モータの回転に伴って回転する送りネジやこの送りネジに螺合するナット部材等を介して連結され、スライド部材48と駆動源49とは、モータの回転に伴って回転する送りネジやこの送りネジに螺合するナット部材等を介して連結されている。なお、駆動源45、47、49は、リニアモータであっても良い。
【0035】
保持部40は、スライド部材48の上端面に固定される第1固定部材51と、第1固定部材51に固定される第2固定部材52と、第2固定部材52に固定される第3固定部材53と、第3固定部材53に固定されるとともに塗布部材6を保持する保持部材54とを備えている。
【0036】
第2固定部材52は、第1固定部材51の上端側に固定されている。また、第1固定部材51と第2固定部材52とは、図5に示すように、連結板55によって互いに固定されている。連結板55には、第1固定部材51に形成されるネジ孔に螺合するネジ56が挿通される長孔状の挿通孔55aと、第2固定部材52に形成されるネジ孔に螺合するネジ57が挿通される丸孔状の挿通孔(図示省略)とが形成されている。挿通孔55aは、左右方向を長手方向とする長孔状に形成されている。
【0037】
第1固定部材51と第2固定部材52との間には、第1固定部材51に対して第2固定部材52を左右方向へ直線状に相対移動させるためのガイド部が形成されている。また、第2固定部材52には、マイクロメータ58が左右方向と平行になるように固定されており、マイクロメータ58のロッド58aの先端は、第1固定部材51の右側面に当接している。本形態では、ネジ56を緩めた状態で、ロッド58aの突出量を調整することで、左右方向において、第1固定部材51に対する第2固定部材52の相対位置を微調整することが可能となっている。
【0038】
第3固定部材53は、第2固定部材52の左端側に固定されている。また、第2固定部材52と第3固定部材53とは、図5に示すように、連結板60によって互いに固定されている。連結板60には、第2固定部材52に形成されるネジ孔に螺合するネジ62が挿通される丸孔状の挿通孔(図示省略)と、第3固定部材53に形成されるネジ孔に螺合するネジ61が挿通される長孔状の挿通孔60aとが形成されている。挿通孔60aは、上下方向を長手方向とする長孔状に形成されている。
【0039】
第2固定部材52と第3固定部材53との間には、第2固定部材52に対して第3固定部材53を上下方向へ直線状に相対移動させるためのガイド部が形成されている。また、第2固定部材52には、マイクロメータ63が上下方向と平行になるように固定されており、図4に示すように、マイクロメータ63のロッド63aの先端は、第3固定部材53に形成されるロッド当接部53aの下面に当接している。本形態では、ネジ61を緩めた状態で、ロッド63aの突出量を調整することで、上下方向において、第2固定部材52に対する第3固定部材53の相対位置を微調整することが可能となっている。
【0040】
第3固定部材53は、図4に示すように、前方に向かって延びるアーム部53bを備えている。保持部材54は、細長い直方体状に形成されており、アーム部53bの前端から下側に向かって延びるように、アーム部53bの前端に固定されている。塗布部材6は、保持部材54の下端に固定されている。塗布部材6は、塗料を吸収する吸液性部材である。たとえば、塗布部材6はフェルトであり、直方体状に形成されている。なお、塗布部材6は、吸液性を有する部材であれば良く、たとえば、スポンジであっても良いし、筆であっても良い。また、塗布部材6は、筆に使用される毛であっても良い。
【0041】
本形態では、第3固定部材53と保持部材54とによって、塗布部材6を保持する第1保持部が構成されている。また、第1固定部材51は、第2固定部材52を介して第1保持部である第3固定部材53および保持部材54を保持する第2保持部である。また、マイクロメータ63は、上下方向において第2保持部に対する第1保持部の相対位置を調整するための第1調整機構であり、マイクロメータ58は、左右方向において第2保持部に対する第1保持部の相対位置を調整するための第2調整機構である。
【0042】
(塗料容器および蓋機構の構成)
図6は、図1に示す塗料容器8および蓋機構9の正面図であり、(A)は塗料容器8の上面が開放されている状態を示す図、(B)は塗料容器8の上面が塞がれている状態を示す図である。図7は、図1に示す塗料容器8および蓋機構9の平面図である。図8は、図7のG−G断面の断面図である。
【0043】
塗料容器8は、直方体の箱状に形成されており、基台18の上面に配置されている。本形態では、図1に示すように、左右方向における塗料容器8の中心は、レンズホルダ12に保持されるレンズ2の中心よりも右側に配置されている。塗料容器8の上面は、開口している。塗料容器8の中には、黒色系の塗料が入っている。本形態の塗料は、たとえば、2液性の塗料である。
【0044】
塗料容器8の上面側には、塗布部材6に吸収された余剰の塗料を除去するための塗料除去部材66が取り付けられている。たとえば、図8に示すように、塗料容器8の上面側に箱状の収納部8aが形成されており、塗料除去部材66は、収納部8aの中に収納されている。また、塗料除去部材66は、塗料容器8の前端側に配置されている。
【0045】
塗料除去部材66は、塗料を吸収する吸液性部材であり、塗布部材6に吸収された余剰の塗料を吸収する。たとえば、塗料除去部材66は、スポンジ、フェルトあるいは布等である。なお、収納部8aの底面は、たとえば、網目状に形成されており、塗料除去部材66で吸収された塗料の中には、重力の影響で、収納部8aの底面を通過して、塗料容器8の中へ戻るものもある。
【0046】
蓋機構9は、塗料容器8の左側に配置されている。この蓋機構9は、塗料容器8の上面を塞ぐ蓋部材67と、塗料容器8の上面を塞ぐ閉位置と塗料容器8の上面を開放する開位置との間で蓋部材67を移動させる蓋部材移動機構68とを備えている。蓋部材67は、略矩形の平板状に形成されている。
【0047】
蓋部材移動機構68は、蓋部材67に固定される固定軸70と、固定軸70を保持する軸保持部材71と、軸保持部材71が固定されるスライダ72と、スライダ72を左右方向へ往復移動させるエアシリンダ73と、蓋部材67を上下動させるためのカム板74とを備えている。
【0048】
固定軸70は、上下方向を軸方向として配置されており、その上端に蓋部材67が固定されている。固定軸70の下端には、ローラ75を回転可能に保持するローラ保持部材76が固定されている。軸保持部材71は、略矩形の平板状に形成されている。軸保持部材71の右端側には、固定軸70が挿通されるブッシュ77が取り付けられており、固定軸70は、上下動可能な状態で軸保持部材71に保持されている。軸保持部材71は、スライダ72の上面に固定されている。スライダ72の左端側には、エアシリンダ73のロッドが固定されている。
【0049】
カム板74は、略矩形の平板状に形成されており、基台18に固定されている。カム板74の上面の右端は、右側に向かうにしたがって下方向へ傾斜する傾斜面74aとなっている。図6(A)に示すように、エアシリンダ73のロッドが引っ込んでいるときには、蓋部材67は塗料容器8よりも左側にあり、塗料容器8の上面は開放されている。このときには、ローラ75は、カム板74の左端側の上面に載っており、蓋部材67の下面は、塗料容器8の上面よりも高い位置にある。
【0050】
一方、エアシリンダ73のロッドが右方向へ突出すると、スライダ72等とともに、蓋部材67が塗料容器8の上側へ移動する。また、ローラ75は、カム板74の上面を転がって右方向へ移動し、やがて、傾斜面74aに沿って右斜め下方向へ移動する。ローラ75が右斜め下方向へ移動すると、図6(B)に示すように、固定軸70等とともに蓋部材67が下側へ移動して、塗料容器8の上面を塞ぐ。
【0051】
(レンズ用塗装装置の概略動作)
図9は、レンズ2の外周端面に塗料を塗布するときのレンズ用塗装装置1の概略動作を説明するための図である。図10は、レンズ2の外周端面以外の部分に塗料を塗布するときの塗料塗布部材6の動きを説明するための図である。図11は、異形のレンズ2の外周端面に塗料を塗布するときの塗料塗布部材6の動きを説明するための図である。
【0052】
以上のように構成された塗装装置1では、光軸方向から見たときの形状が円形状となるレンズ2の外周端面に、以下のように塗料が塗布される。すなわち、まず、レンズホルダ12の上端面に置かれたレンズ2が芯出し機構4、5によって芯出しされた後、レンズホルダ12の上端面に吸引されて保持される。また、モータ13が駆動して、レンズホルダ12とともにレンズ2が回転する。
【0053】
また、図9(A)、(B)に示すように、塗布部材保持機構7は、塗布部材6を塗料容器8の上方へ移動させ、その後、図9(C)、(D)に示すように、塗料容器8内の塗料に塗布部材6を漬ける。その後、図9(E)、(F)に示すように、塗布部材保持機構7は、塗料除去部材66に塗布部材6を上側から押し付けて、塗布部材6に吸収された余剰の塗料を塗料除去部材66に吸収させる。その後、図9(G)、(H)に示すように、塗布部材保持機構7は、レンズ2の外周端面に塗布部材6を後ろ側から接触させて、塗布部材6が吸収した塗料をレンズ2の外周端面に塗布する。また、レンズ2の外周端面への塗料の塗布が終わると、塗布部材保持機構7は、塗布部材6を後ろ側へ退避させる。
【0054】
本形態の塗装装置1では、図10(A)に示すように、レンズ2の上面に塗料を塗布することもできる。この場合には、塗布部材保持機構7は、回転しているレンズ2の上面に塗布部材6を上側から接触させて、レンズ2の上面に塗料を塗布し、塗料の塗布が終わると、塗布部材6を上側へ退避させる。
【0055】
また、塗装装置1では、図10(B)に示すように、レンズ2の外周側に傾斜面2aが形成されている場合に、傾斜面2aに塗料を塗布することもできる。この場合には、塗布部材保持機構7は、回転しているレンズ2の傾斜面2aに塗布部材6を上側または後ろ側から接触させ、傾斜面2aに沿って、上下方向および前後方向へ塗布部材6を移動させながら、傾斜面2aに塗料を塗布し、塗料の塗布が終わると、塗布部材6を上側または後ろ側へ退避させる。
【0056】
さらに、塗装装置1では、図10(C)に示すように、レンズ2の外周側に段差部2bが形成されている場合に、段差部2bに塗料を塗布することもできる。この場合には、塗布部材保持機構7は、回転しているレンズ2の段差部2bに塗布部材6を上側または後ろ側から接触させ、塗料の塗布が終わると、塗布部材6を上側または後ろ側へ退避させる。
【0057】
また、塗装装置1では、図11(A)に示すように、光軸方向から見たときの形状が長円形状となるレンズ2の外周端面や上面に塗料を塗布することもできる。たとえば、位置検出機構14での検出結果に基づくモータ13のフィードバック制御によって、レンズ2を回転させながらレンズ2の外周端面の円弧面部2cに塗布部材6を後ろ側から接触させて、円弧面部2cに塗料を塗布する。また、位置検出機構14での検出結果に基づくモータ13のフィードバック制御によって、レンズ2の外周端面の平面部2dが後ろ側を向くようにレンズ2の回転を止めた状態で、平面部2dに塗布部材6を後ろ側から接触させた後、塗布部材6を左右方向へ動かして平面部2dに塗料を塗布する。
【0058】
また、塗装装置1では、図11(B)に示すように、光軸方向から見たときの形状が略D形状となるレンズ2の外周端面や上面に塗料を塗布することもできる。たとえば、位置検出機構14での検出結果に基づくモータ13のフィードバック制御によって、レンズ2を回転させながらレンズ2の外周端面の曲面部2eに塗布部材6を後ろ側から接触させて、曲面部2eに塗料を塗布する。また、位置検出機構14での検出結果に基づくモータ13のフィードバック制御によって、レンズ2の外周端面の平面部2fが後ろ側を向くようにレンズ2の回転を止めた状態で、平面部2fに塗布部材6を後ろ側から接触させた後、塗布部材6を左右方向へ動かして平面部2fに塗料を塗布する。
【0059】
なお、本形態では、塗料容器8内の塗料に塗布部材6を漬ける際、および、塗料除去部材66に塗布部材6を押し付ける際を除いて、蓋部材67は、塗料容器8の上面を塞いでいる。
【0060】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、塗布部材6を塗料容器8内の塗料に漬けた後に、レンズ2に接触させてレンズ2に塗料を塗布している。そのため、2液性の塗料等の硬化しやすい塗料が使用される場合であっても、従来のように、硬化した塗料の影響でレンズ2への塗料の塗布が短時間でできなくなってしまうことがない。したがって、本形態の塗装装置1では、メンテナンスの頻度を低減することが可能になる。
【0061】
本形態では、塗布部材保持機構7は、前後移動機構43に加え、上下移動機構41を備えている。そのため、本形態では、上述のように、レンズ2の上面に塗料を塗布することができる。また、本形態では、レンズ2の外周側に傾斜面2aや段差部2bが形成されている場合であっても、上述のように、傾斜面2aや段差部2bに塗料を塗布することができる。
【0062】
特に本形態では、塗布部材保持機構7が左右移動機構42を備えるとともに、位置検出機構14での検出結果に基づくモータ13のフィードバック制御が可能となっている。そのため、本形態では、上述のように、所定の位置でレンズ2の回転を停止させた状態で、光軸方向から見たときの形状が略長円形状あるいは略D形状となっているレンズ2の平面部2d、2fに接触する塗布部材6を左右方向へ移動させることで、平面部2d、2fに塗料を塗布することができる。また、レンズ2を回転させながら円弧面部2cや曲面部2eに塗布部材6を接触させることで、円弧面部2cや曲面部2eに塗料を塗布することができる。すなわち、本形態では、光軸方向から見たときの形状が略長円形状あるいは略D形状となっているレンズ2の外周端面や上面に塗料を塗布することができる。また、光軸方向から見たときの形状が略小判形状や略楕円形状となっているレンズ2の外周端面や上面に塗料を塗布することも可能である。また、本形態では、塗布部材保持機構7による塗布部材6の3軸方向への動作と、レンズ保持機構3によるレンズ2の回転動作とを組み合わせることで、様々な形状のレンズ2に塗料を塗布することも可能である。
【0063】
本形態では、塗料除去部材66に塗布部材6を接触させてから、レンズ2に塗料を塗布している。そのため、本形態では、レンズ2に塗料を塗布する際に塗料がレンズ2の予期せぬ箇所へ付着するのを抑制することができる。また、レンズ2に塗布される塗料の膜厚を均一にしやすくなる。
【0064】
本形態では、ネジ56を緩めた状態で、ロッド58aの突出量を調整することで、左右方向において、第1固定部材51に対する第2固定部材52の相対位置を微調整することが可能となっており、かつ、ネジ61を緩めた状態で、ロッド63aの突出量を調整することで、上下方向において、第2固定部材52に対する第3固定部材53の相対位置を微調整することが可能となっている。そのため、塗布部材6をレンズ2に近づけた状態で、目視で確認しながら、レンズ2に対する塗布部材6の相対位置を微調整することができる。したがって、塗布部材保持機構7の制御プログラムを変更することで、レンズ2に対する塗布部材6の相対位置を微調整する場合と比較して、レンズ2に対する塗布部材6の相対位置の微調整が容易になる。
【0065】
本形態では、塗料容器8内の塗料に塗布部材6を漬ける際、および、塗料除去部材66に塗布部材6を押し付ける際を除いて、塗料容器8の上面は、蓋部材67によって塞がれている。そのため、本形態では、塗料容器8内の塗料の揮発を抑制することができる。
【0066】
本形態では、塗料除去部材66は、塗料を吸収する吸液性部材であり、塗布部材6を塗料除去部材66に軽く押し付けることで塗布部材6に吸収された余剰の塗料を除去することが可能になる。そのため、本形態では、比較的容易に、塗布部材6に吸収された余剰の塗料を除去することが可能になる。
【0067】
(他の実施の形態)
上述した形態では、塗布部材保持機構7は、左右移動機構42を備えているが、塗布部材保持機構7は、左右移動機構42を備えていなくても良い。この場合であっても、レンズ2の上面、傾斜面2aおよび段差部2bに塗料を塗布することができる。また、この場合には、レンズ保持機構3は、位置検出機構14を備えていなくても良い。なお、塗布部材保持機構7が左右移動機構42を備えている場合には、左右方向において、レンズホルダ12と塗料容器8とをずらした状態で配置することが可能になるため、塗料容器8の配置位置の自由度を高めることが可能になる。
【0068】
上述した形態では、塗料除去部材66は、塗料を吸収する吸液性部材であるが、塗料除去部材66は、塗料を吸収しない部材であっても良い。たとえば、塗料除去部材66は、塗料を吸収しない平板状の部材であっても良い。この場合であっても、塗料除去部材66に上側から塗布部材6を押し付けることで塗布部材6に吸収された余剰の塗料を除去することができる。
【0069】
上述した形態では、塗料除去部材66は、塗料容器8の上面側に取り付けられているが、塗料除去部材66は、前後方向または左右方向で塗料容器8に隣接するように配置されても良い。また、塗料除去部材66は、塗料容器8から離れた位置に配置されても良い。
【符号の説明】
【0070】
1 塗装装置(レンズ用塗装装置)
2 レンズ
3 レンズ保持機構
6 塗布部材(塗料塗布部材)
7 塗布部材保持機構
8 塗料容器
13 モータ
14 位置検出機構
51 第1固定部材(第2保持部)
53 第3固定部材(第1保持部の一部)
54 保持部材(第1保持部の一部)
58 マイクロメータ(第2調整機構)
63 マイクロメータ(第1調整機構)
66 塗料除去部材
67 蓋部材
68 蓋部材移動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を吸収するとともにレンズに接触して吸収した前記塗料を前記レンズに塗布する塗料塗布部材と、
前記塗料塗布部材を保持し、上下方向と前記上下方向に直交する所定の第1方向との少なくとも2方向へ前記塗料塗布部材を移動させる塗布部材保持機構と、
上面側が開口するとともに前記塗料が入る塗料容器と、
前記塗料塗布部材に吸収された余剰の塗料を除去するための塗料除去部材と、
前記レンズを保持するレンズ保持機構と、を備え、
前記塗布部材保持機構は、前記塗料容器内の前記塗料に前記塗料塗布部材を漬けた後、前記塗料除去部材に前記塗料塗布部材を接触させ、その後、前記塗料塗布部材を前記レンズに接触させて前記レンズに前記塗料を塗布することを特徴とするレンズ用塗装装置。
【請求項2】
前記塗布部材保持機構は、前記上下方向と前記第1方向とに直交する第2方向へ前記塗料塗布部材を移動させることを特徴とする請求項1記載のレンズ用塗装装置。
【請求項3】
前記レンズ保持機構は、前記レンズの光軸方向を軸方向として前記レンズを回転させるためのモータと、前記レンズの回転位置を検出するための位置検出機構とを備え、
前記位置検出機構での検出結果に基づく前記モータのフィードバック制御が可能となっていることを特徴とする請求項2記載のレンズ用塗装装置。
【請求項4】
前記塗布部材保持機構は、前記塗料塗布部材を保持する第1保持部と、前記第1保持部を保持する第2保持部とを備えるとともに、前記上下方向において前記第2保持部に対する前記第1保持部の相対位置を調整するための第1位置調整機構、および/または、前記第2方向において前記第2保持部に対する前記第1保持部の相対位置を調整するための第2位置調整機構を備えることを特徴とする請求項2または3記載のレンズ用塗装装置。
【請求項5】
前記塗料容器の上面を塞ぐ蓋部材と、前記塗料容器の上面を塞ぐ閉位置と前記塗料容器の上面を開放する開位置との間で前記蓋部材を移動させる蓋部材移動機構とを備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のレンズ用塗装装置。
【請求項6】
前記塗料除去部材は、前記塗料を吸収する吸液性部材であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のレンズ用塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−253161(P2011−253161A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128913(P2010−128913)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(501196482)カザマエンジニアリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】