説明

レーザイオン発生装置

【課題】高い価数のイオンを送ることができ、加速器無しで必要価数のイオン速度分布とイオン数を測定できる低コストなレーザイオン発生装置を提供する。
【解決手段】本発明のレーザイオン発生装置は、レーザ光を発生させるパルスレーザ光源11と、パルスレーザ光源11からのレーザ光を物質14に照射してプラズマを発生させるプラズマ発生手段15と、発生したプラズマ中の重粒子イオンを電界によって引き出すイオン引出手段16と、引き出された重粒子イオンのイオン速度分布を測定するイオン速度測定手段18と、イオン速度測定手段から各価数のイオン速度分布とイオン数を演算して出力するイオン速度分布演算手段とを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重粒子線治療技術に係り、特に、パルスレーザ光を用いて必要価数のイオンおよびイオン数を安定して提供することができるレーザイオン発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重粒子線治療に用いられるイオン発生装置として、マイクロ波放電によるイオン発生装置がある。このイオン発生装置は、レーザ光をプラズマ発生ターゲットの標的に照射することで発生するプラズマ中のイオンを引き出すようにしたものである。
【0003】
このようなイオン発生装置としては、レーザ光をレーザイオン源内のプラズマ発生ターゲットに照射することによって生ずるプラズマに容器状の電圧をかけて引き出し、プラズマ状態を保ったまま加速器に入射させるイオンビーム引出装置がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−37704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状で採用されているマイクロ波放電を用いたイオン源は、高い価数のイオン生成効率が悪いため、発生したプラズマをある程度イオン化し、加速器で加速した後、荷電変換装置を用いて高い価数のイオンを生成している。このため、イオン源自体は小型であっても、ある程度イオン化したプラズマの加速器、荷電交換装置などが必要となり、レーザイオン発生装置自体で大型化し、コストも高い。
【0006】
また、レーザ光を用いたイオンビーム引出装置は、加速器や荷電交換装置が不要であるが、価数毎のイオン発生数をイオン生成部で測定することが難しく、さらに、価数毎のイオン数を確保する際、加速器の電場、磁場を利用するため、割高なコストとなる課題があった。
【0007】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、高価価数の重粒子イオンを提供することができ、しかも加速器無しでイオン価数、イオン数を測定可能で、かつ、装置自体が小型で低コストなレーザイオン発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーザイオン発生装置は、上述した課題を解決するために、レーザ光を発生させるパルスレーザ光源と、前記パルスレーザ光源からのレーザ光を物質に照射してプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、発生したプラズマ中のイオンを電界によって引き出すイオン引出手段と、引き出された重粒子イオンのイオン速度分布を測定するイオン速度測定手段と、前記イオン速度測定手段から各価数のイオン速度分布とイオン数を演算して出力するイオン速度分布演算手段とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザイオン発生装置は、多価価数の重粒子イオンを提供可能で、加速器や荷重交換装置を用いなくても、必要荷数の重粒子イオンとイオン数を安定して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態を示すレーザイオン発生装置の構成図。
【図2】レーザイオン発生装置に備えられる真空容器、筒状容器および中間容器を示す図。
【図3】レーザイオン発生装置のイオン速度測定手段に備えられる平行移動手段の例を示す図。
【図4】真空容器内に設置される物質の移動手順を簡素化して示す図。
【図5】イオン加速手段を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態を示すレーザイオン発生装置の構成図。
【図7】本発明の第3実施形態を示すレーザイオン発生装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
図1および図2は、本発明に係るレーザイオン発生装置10の第1の実施形態を示すものである。
【0013】
このレーザイオン発生装置10は、パルスレーザ光源11と、このパルスレーザ光源11から出力されるレーザ光の光路を調整する光路調整手段12と、真空環境に保たれ、密閉された真空容器13内のプラズマ発生ターゲットの物質14にパルスレーザ光を照射してプラズマを発生させるプラズマ発生手段15と、発生したプラズマに電界を付加して重粒子イオンをクーロン力によって引き出すイオン引出手段16と、イオン引出手段16によって引き出されたイオンを電界によって加速するイオン加速手段17と、電界で引き出され、加速された重粒子イオンのイオン速度分布を測定するイオン速度測定手段18と、発生したプラズマ中のイオン数を測定する体積測定手段19a,19bと、測定されたイオン数とイオン速度分布から、イオン価数とイオン数を演算し、出力するイオン速度分布演算手段20とから構成される。
【0014】
また、プラズマ発生ターゲットである物質14にパルスレーザ光を照射してプラズマを発生させるプラズマ発生手段15と発生したプラズマから重粒子イオンを引き出すイオン引出手段16とからイオン源23が構成される。
【0015】
真空容器13内には、物質移動手段24が設けられており、この物質移動手段24によりプラズマ発生ターゲットでの物質14が移動あるいは回転可能に設置されている。さらに、真空容器13には、パルスレーザ光の入射角度をブリュースタ角に設定した入射窓25が備えられ、この入射窓25を通してパルスレーザ光源11からのパルスレーザ光が案内される。入射窓25はレーザ光の反射を抑えて透過させるため、石英、溶融石英、BK7等の材料が構成される。入射窓25を通るパルスレーザ光は真空容器13内の物質14に集光照射され、真空容器13内でレーザ励起により価数の高い重粒子イオンを含むプラズマが生じるようになっている。パルスレーザ光をパルスレーザ光源11から真空容器13内の物質14に集光して直接照射できる場合には、光路調整手段12は必ずしも設けなくてもよい。
【0016】
真空容器13からスリーブ状の筒状容器27が延びており、この筒状容器27は中間に図2に示すように筒状容器27の内径より大きな広幅の中間容器28が設けられる。真空容器13、筒状容器27および中間容器28は、ステンレス鋼などの耐食性、耐薬品性に優れ、かつ放出ガスが少ない材料で構成される。各容器13,27,28は、図示しない真空ポンプおよび真空計を取り付けて、容器内部を真空環境を維持するように真空容器として構成される。
【0017】
プラズマ発生手段15の真空容器13内に設置される物質14は、炭素、シリコン、ヘリウム、ネオン、アルゴン、窒素、水素などが挙げられる。これら物質14のプラズマ中に存在する重粒子イオンは、そのエネルギによって体内の侵入深さが決まり、停止直前でエネルギを急激に放出する特徴を有する。重粒子イオン(重粒子線)のこの現象はブラック・ピークと呼ばれ、重粒子線治療ではこの現象を利用している。
【0018】
すなわち、シンクロトロンという加速器を用いて、重粒子イオンのエネルギを調節して腫瘍細胞の位置で停止させることにより、体表面から腫瘍細胞に至るまでの正常細胞に与えるダメージを少なくし、目的の腫瘍細胞に重粒子イオンを作用させて治療することが可能となる。
【0019】
また、加速器では、イオンの価数が大きいほど、電場、磁場の影響を強く受け、効率よく加速することができることから腫瘍治療には高い価数の重粒子イオンが適する。
【0020】
一方、パルスレーザ光源11は、レーザ光をプラズマ発生ターゲットである物質14に照射してレーザ励起プラズマを発生させるパルスレーザであり、XeCl,XeF,KrF,ArF等の紫外波長のエキシマレーザ、TEA COレーザ、Q−switch YAGレーザ等が適用可能である。なお、パルスレーザ光源11の横モードや縦モード、偏光状態、円形や楕円形或いは方形のビーム形状等については、適宜選択可能である。
【0021】
プラズマ発生手段15で発生したプラズマから電界をかけクーロン力を作用させてプラスイオンである重粒子イオンを引き出すイオン引出手段16は、発生したプラズマ中の電子をクーロン力により阻止してはじき、重粒子イオンを引き出す電場を生成させる電極で、中空円盤型の電極、メッシュ電極、平行盤電極などの電極が用いられる。例えば、真空容器13を接地し、絶縁体によって真空容器13に固定された中空円筒型の電極にレーザ照射から短パルスレーザのパルス幅より遅く負のパルス電圧をかけ始め、電子をはじいて、イオンを引き出したあと、電極をイオンが通過する時間に電圧を落とすようにしてもよい。
【0022】
レーザ照射によって真空容器13内の物質14の表面に生じるプラズマは、熱的に膨張する仮定でイオン化し、イオン化に伴って生じた電子によって段階的に、イオン化が進む。レーザの照射が終わるとプラズマは、次第に冷めていくが、プラズマ中ではイオンと電子が連続的に反応を続けているため、イオン価数ごとの速度分布は広がる。レーザの照射が終わった後に電子をはじくことにより、無駄な電子とイオンの反応を抑制でき、重粒子イオンの速度分布は狭いものにできる。
【0023】
イオン加速手段17は、イオン引出手段16によって、引き出された重粒子イオンを加速する電場を生成させる多段階電極であり、電極には中空円盤型の電極、メッシュ電極、平行盤電極などの電極が用いられる。例えば、真空容器13を接地し、電極を絶縁体によって真空容器13に固定し、電極を通過するタイミングに同期して各電極間に重粒子イオンが存在している時間より短いパルス電圧を印加する。このパルス電圧は、正電圧でも負電圧でもよく、正電圧の場合は重粒子イオンを押し出すため、重粒子イオンが電極を通過した後に電圧を印加すればよい。負電圧の場合は、重粒子イオンを引き出すため、電極の通過前に電圧を印加すればよい。また、重粒子イオンが存在する電極の後方の電極は正電圧、前方の電極は負電圧を印加するのでもよい。
【0024】
また、筒状容器27の途中の中間容器28に設けられたイオン速度測定手段18は、レーザ照射によって生じたプラズマ中の重粒子イオンの速度を測定する手段である。このイオン速度測定手段18は、各価数のイオン速度分布が合成されたイオン速度分布と同時に、検出器を流れる電流値を測定するためファラデーカップなどで構成されている。例えば、ファラデーカップでは、プラズマ中の重粒子イオンを捕獲する導体部材質に、金、白金、銅、ニッケルなど金属導体が用いられる。
【0025】
平行移動手段30は、真空容器13の中心軸から物質表面に平行にイオン速度測定手段18を移動させる平行移動手段であり、イオン速度測定手段18の位置を外部から変更できるステッピングモータやサーボモータなどのモータ駆動機構で構成される。平行移動手段30は、例えば、図3のような構造を有する。イオン源23の調整時などには、実際に加速器に入射する重粒子イオンの検出をするため、イオン速度測定手段18を図3に示す点線の内部18aに設置し、治療中は加速器に多くの重粒子イオンを入射させるため、図3に示す点線の外部18bに設置する。イオン速度測定手段18は、プラズマ中の重粒子イオンの分布から加速器に入射するイオン量を推定している。
【0026】
ところで、真空容器13内に設けられた体積測定手段19a,19bは、物質14にレーザ照射によってできる照射痕の体積を測定する三次元測定手段である。この体積測定手段19a,19bには、レーザ光や超音波を用いた測定方法などが用いられる。レーザ光を用いる場合は、光切断法やモアレ法、ステレオ視法などが適用可能であり、超音波を用いる場合は物質14の固定部等に接合するなどして適用可能である。照射痕の体積と、物質14の密度から蒸発した原子数を見積もることができる。レーザの入射エネルギの多くは物質14の加熱、蒸発に用いられ、入射エネルギから蒸発に使われたエネルギにより原子がイオン化される。
【0027】
プラズマ中では電子がレーザ光の熱エネルギや電場などによって、エネルギを得て高エネルギになり、高エネルギをもつ電子が、中性粒子や重粒子イオンと反応し、イオン価数を段階的に大きくする。そのため物質を蒸発させるために消費エネルギを小さくすることで、プラズマ中の電子、重粒子イオンの温度を高くし、高い価数の高価イオンの生成効率が向上する。
【0028】
真空容器13内の物質移動手段24は、物質14を移動、回転させ新しい照射面を確保するための手段である。物質移動手段24は、外部から移動回転を制御できるステッピングモータやサーボモータなどのモータ駆動機構によって構成される。例えば図4に示すようなモータ駆動機構の構造を有する。レーザ照射によって生じるプラズマ分布は、物質14に対し垂直方向にピークを持つため、レーザ照射痕が深くなるにつれ、物質14に蒸着してしまい発生イオン数が少なくなる。そのため、照射面を新しく保つことで、イオン発生量を一定に保つことができる。回転のタイミングは、レーザの1パルスごとや、体積測定手段19a,19bによって測定できる体積変化が閾値を下回った場合、イオン速度測定手段18で見積もれるイオン電流値が閾値を下回った場合などによって決めてよい。
【0029】
また、図1に示すイオン速度分布演算手段20は、発生したイオン数を演算するための手段である。イオン速度分布演算手段20は、イオン速度測定手段18で得られるイオン速度分布と体積測定手段19a,19bより価数ごとのイオン速度分布とを演算するイオン速度演算手段21と、その値を出力する出力手段22とを備える。イオン速度分布演算手段20は、イオン速度演算手段21が、例えば、経過時間における価数ごとのイオン速度分布を計算するイオン速度演算部と、価数ごとのイオン速度分布からイオン数を演算するイオン数演算部と、その値の出力部を備えたPCで構成される。
【0030】
PCは、デスクトップPC,ラップトップPC,ノートPC等の汎用PCが用いられる。入射エネルギはパルスレーザ光源11に依存し、物質14に吸収されたエネルギによって物質14を蒸発させる。プラズマ中のイオン価数の電離度Xは式(1)で示されるようなsahaの式で表される。
【数1】

【0031】
式(1)で示されるように、電離度はプラズマの温度Tと密度n、イオン化エネルギIに依存するが、プラズマの平衡温度を決める熱エネルギは、レーザのエネルギから物質14が蒸発する際の蒸発エネルギを引いた値に依存するため、照射痕の体積をモニタすることが重要である。
【0032】
また、プラズマ中の重粒子イオン、レーザ照射直後、電子は熱的エネルギで等方向に膨張するが、電子の質量は重粒子イオンの質量にくらべ約1000分の1程度なので小さく、その膨張速度は30倍以上となる。そのため、イオン分布の周囲に電子が広がっている分布となることとなり、イオン分布外側の電子と、重粒子イオンによる電場が生じる。この電場により、重粒子イオンが価数に依存する力を受けるため、各イオン電流の分布が分かれる。
【0033】
そのイオン電流の時間分布は、マクスウェル−ボルツマン分布を仮定すると、距離L、イオン速度v、イオン質量m、プラズマ温度Tによってより式(2)に示される。
【数2】

【0034】
なお、kはボルツマン定数である。距離L、イオン質量mは既知であるため、イオン速度v、プラズマ温度Tをパラメータとしたマクスウェル−ボルツマン分布を用いたfittingにより、価数ごとのイオン速度分布を求め、価数ごとのイオン速度分布から価数ごとのイオン数を演算可能である。
【0035】
プラズマ中のイオン分布はほぼ決まった分布を持っており、予めイオン速度測定手段18の位置を変えて空間分布を測定することにより、任意のイオン速度測定手段18の場所から、加速器入射イオン数、イオン総数を見積もることが可能である。
【0036】
(第1実施形態の作用)
重粒子線治療用のイオンビームはイオン価数が高いこと、イオン数が十分であることが必要である。イオン源23で生成される重粒子イオンの価数は、レーザ光のパワー密度に正の相関があるため、パルスレーザ光源11からのレーザ光のエネルギ損失が少ない方が良い。
【0037】
パルスレーザ光源11から発生させたレーザ光は、レーザ光の波長に適したコーティングを施した入射窓25を通じて真空容器13に入射することで、レーザ光の反射を抑えて物質14に照射する。レーザ光が物質14に集光照射されると、物質14表面付近にレーザアブレーションプラズマが生じ、プラズマ中の重粒子イオンと電子は反応しながら、物質14の表面に対し垂直方向に飛行する。
【0038】
プラズマの温度が高いうちはイオン化が進むが、プラズマ温度が低くなると重粒子イオンと電子が結合し元の原子に戻ってしまうため、イオン引出手段16を用いてプラズマ中の電子を剥ぎ取り、重粒子イオンを引き出して重粒子イオンと電子の反応を抑えることでイオン数を確保する。同時に、重粒子イオンと電子の無駄な反応を防ぐことができるため、価数ごとの速度分布が狭いものになる。
【0039】
電子を剥ぎ取られた重粒子イオンは、価数ごとの速度差を持ちながら筒状容器27中を飛行するが、価数が大きくなると速度差は小さくなり、速度分布の違いによる価数ごとのイオン数評価は難しいため、イオン加速手段17を用いて価数ごとの速度差を大きくする。価数ごとに速度差を持った重粒子イオンの大部分は、加速器の入射口に入り治療に使用されるが、加速器に入射しない重粒子イオンを、中間容器28中の平行移動手段30を用いて加速器入射口脇に設置したイオン速度測定手段18で測定し、イオン速度分布演算手段20を用いてイオン価数、生成数の測定を行うことでイオン数を常時モニタする。
【0040】
また、イオン源23の調整時等に平行移動手段30を用いて、イオン速度測定手段18の位置を変更し、イオン価数、生成数の測定を行うことでイオン空間分布を測定することができ、イオン空間分布と、加速器入射口脇に設置したイオン速度測定手段18で得られる電流分布と、イオン速度分布演算手段20より加速器に入射しているイオン数を常時見積もることが可能になる。
【0041】
発生イオン数は、パルスレーザ光を物質14の同位置に集光照射し続けると減少するが、発生イオン数の減少を防ぐため、体積測定手段19a,19bの3次元測定法でモニタし体積変化が閾値を下回った場合に物質移動手段24により、物質の照射面を新しいものに変えることで、安定した価数の重粒子イオンビームを提供することができる。
【0042】
また、イオン数を常時モニタすることで、イオン数が閾値を下回った場合、物質移動手段24としての回転手段により回転させ物質表面を新しくする、または、レーザのエネルギをあげるなどの対応をすることで、安定した数の重粒子イオンビームを提供することができる。他方、仮に治療段階で重粒子線ビーム数が不足した場合、その原因はイオン源23か、加速器にあることがほとんどであるが、加速器に入射前のイオン数を測定する手段によって、イオン源23に原因があるか否かを迅速に判断する。
【0043】
(第1実施形態の効果)
本実施形態によれば、多価価数のイオンを提供するにあたり、加速器や荷電交換装置が不要であり、必要価数のイオンを必要数安定して提供することができる。また、イオン源23で発生したイオンビームは、治療可能なエネルギに加速するまで一定の割合が失われるため、治療に必要なイオン数が保たれているかモニタする必要がある。現状用いられているマイクロ波によるイオン源は、イオン化の段階で加速器を用いているため、必要な価数のイオン数の確認に加速器が必要であったが、加速器入射前に価数ごとのイオン数を常時モニタすることで、イオン源23の調整が容易に正確に行うことができる。
【0044】
[第2の実施形態]
次に、レーザイオン発生装置の第2実施形態を図6を参照して説明する。
【0045】
第2実施形態のレーザイオン発生装置10Aを説明するに当り、第1実施形態に示されたレーザイオン発生装置10と同じ構成および作用には同一符号を付し、重複する説明あるいは図示を省略する。
【0046】
図6に示すレーザイオン発生装置10Aは、複数のレーザ光路を備え、真空容器13内に設けられた物質14に複数のレーザ光路からレーザ光を集光照射してレーザ励起プラズマを発生させるプラズマ発生手段15を設けたものである。
【0047】
このレーザイオン発生装置10Aは、パルスレーザ光源11からのレーザ光を複数、例えば二つに分岐させるレーザ光分岐手段35と、このレーザ光分岐手段35をパルスレーザ光源11からのレーザ光路上に挿入する挿入手段36と、分岐されたレーザ光を真空容器13内設置のプラズマ発生ターゲットとしての物質14の同じ位置に異なる方向から集光照射させる光路調整手段38a,38bと、レーザ光の波長を変更する波長変換手段39a,39bと、分岐されたレーザ光を真空容器13内に案内する入射窓25a,25bと、物質14上へのレーザ光照射により生じたレーザ励起プラズマ中の重粒子イオンを引き出すイオン引出手段16と、プラズマ中のイオン速度を測定するイオン速度測定手段18と、パルスレーザ光を照射することによってできるビーム痕の体積を観測する体積測定手段19a,19bと、物質14を移動、回転させる物質移動手段24と、イオン価数、イオン数を求めるイオン速度分布演算手段20と等から構成される。
【0048】
レーザ光分岐手段35は、短パルスレーザ光からのレーザ光を2つ以上に分岐させるための光学素子であり、ベリクルビームスプリッタやキューブビームスプリッタ、プレートビームスプリッタが用いられる。ビームスプリッタに広帯域誘電体コーティング、レーザライン無偏光コーティング、広帯域ハイブリッドコーティング、偏光コーティングのコーティングを施してもよい。
【0049】
また、挿入手段36は、レーザ光分岐手段35を短パルスレーザ光源11からのレーザ光路上に挿入できる手段で、レーザ光分岐手段35の位置を外部から変更できるステッピングモータやサーボモータなどのモータ駆動機構で構成される。
【0050】
パルスレーザ光源11からのレーザ光は時間的な広がりを持っており、レーザ光が照射された瞬間よりレーザ励起プラズマは発生する。レーザ光の照射中はイオン化が進み、プラズマ中の電子密度が増加するが、増加しすぎるとレーザ光のプラズマ中の透過率が悪くなりレーザ光のエネルギが物質14に吸収されにくくなるため、電子密度を制御する必要がある。
【0051】
レーザ光を2つ以上に分岐し1つのレーザ光のエネルギを小さくすることで、プラズマ中の電子密度を小さくし、プラズマ表面での散乱、反射を抑え、レーザ光のエネルギの損失を少なく物質14に照射することができる。挿入手段36を用いて、レーザ光分岐手段35を短パルスレーザ光源11からのレーザ光路上から除くことにより、実施形態1と同様、単一光路を再現できるようにしておき、イオン数が多く出る方法を選択できるようにしてもよい。
【0052】
光路調整手段38a,38bは、複数に分岐されたパルスレーザ光源11からのレーザ光を、物質14上の同じ位置に照射させる反射鏡等の光学系から構成される。
【0053】
さらに、波長変換手段39a,39bは、レーザ光の波長を変換するための光学素子である。パルスレーザ光源11が、例えばYAGレーザの場合、非線形光学結晶を用いて高調波に波長変換して適用してもよい。
【0054】
レーザ光の波長が短いほど、光子あたりのエネルギは大きくなるため、物質14に吸収され易い。また、図示を省略した集光手段としてのレンズの焦点位置における回折限界の集光直径dは、式(3)によって表すことができる。
【数3】

【0055】
短波長の方が集光時の直径を小さくできるため、物質14に入射するレーザ光のエネルギ密度が向上する。
【0056】
(第2実施形態の作用)
次に、レーザイオン発生装置の作用を説明する。
【0057】
第1実施形態の作用と重複する説明は省略する。レーザ励起プラズマ中の重粒子イオンの価数は、プラズマの平衡温度、密度と相関があり、平衡温度を高温にするためには、物質14に多くのエネルギが照射される必要がある。パルスレーザ光源11より発振されるレーザ光を、レーザ光分岐手段35を用いてレーザ光を2つ以上に分岐し、分岐されたレーザ光を光路調整手段38a,38bを用いて、物質14上の同位置に異なる方向から照射できるように調整する。
【0058】
レーザ光路を調整された2つ以上のレーザ光の波長を、波長変換手段39a,39bにより短い波長に変換すると、レーザ光を集光する際にビーム径も小さくすることができ、光子あたりのエネルギが上昇するため物質14の吸収率が高くなる。
【0059】
さらに、レーザ光の波長に適したコーティングを施した複数の入射窓25a,25bを通じてレーザ光の反射を抑えることで、全照射エネルギを小さくすることなく電子密度を制御し、イオンの発生数を安定して確保する。電子密度は物質14と、パルスレーザ光源11の性質によるものであるため、分岐の必要がない場合も考えられる。挿入手段36を用いてレーザ光分岐手段35の設置する位置を制御し、単一光路の場合と、複数光路の場合のイオン数が多く出る方法の選択をすることで、安定したイオン数を提供することができる。
【0060】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態のレーザイオン発生装置10Aによれば、物質14の特性によらずレーザ光の吸収率を向上することが可能になり、安定したイオン数を確保することができる。また、プラズマによるレーザ光の反射が原因で発生イオン量が減少する場合において、プラズマ中の電子密度を制御しレーザ光の反射を抑えることが可能であり、レーザ光のエネルギ損失抑え安定したイオン数を提供することができる。
【0061】
[第3の実施形態]
図7は、レーザイオン発生装置の第3実施形態を示すものである。
【0062】
第3実施形態のレーザイオン発生装置10Bを説明するに当り、第1実施形態に示されたレーザイオン発生装置10と同じ構成および作用には同一符号を付し、重複する説明あるいは図示は省略する。
【0063】
図7に示すレーザイオン発生装置10Bは、真空容器13内部に設置された物質14にレーザ光を照射し、レーザ励起プラズマを発生させるプラズマ発生手段15において、複数のパルスレーザ光源11,11と、複数のパルスレーザ光を物質14上の同じ点に同時に照射するよう調節する複数の光路調整手段(図示なし)と、レーザ光の波長を変更する複数の波長変換手段39a,39bと、レーザ光が真空容器13内に案内される複数の入射窓25a,25bと、生じたプラズマ中の重粒子イオンを引き出すイオン引出手段16と、プラズマ中のイオン速度を測定するイオン速度測定手段18と、パルスレーザ光を照射することによってできるビーム痕の体積を観測する体積測定手段19a,19bと、物質14を移動、回転させる物質移動手段24と、イオン価数、イオン数を求めるイオン速度分布演算手段20とから構成される。
【0064】
(第3実施形態の作用)
第1実施形態のレーザイオン発生装置10と重複する説明は省略する。複数のパルスレーザ光源11からのレーザ光を、複数の光路調整手段を用いて物質14上の同位置に同じタイミングで照射するよう光路調整する。調整した複数のレーザ光を、複数の波長変換手段39a,39bを用いて吸収率の高い波長に変更し、複数のレーザ光の波長に適したコーティングを施した複数の入射窓25a,25bを通じて真空容器13内の物質14に入射する。
【0065】
第3実施形態のレーザイオン発生装置10Bは、複数のパルスレーザ光源11,11を備えて、単一のパルスレーザ光源では得られない高いエネルギを得ることが可能であり、物質14のイオン化に多くのエネルギを必要とする場合であっても安定したイオン数を確保することができる。
【0066】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態のレーザイオン発生装置10Bによれば、物質に入射するエネルギの総量を、単一パルスレーザ光源と比較し大きくすることができるため、エネルギ密度が向上しイオン化に大きなエネルギを必要とする物質14に対しても、イオン数を安定して提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
10,10A,10B レーザイオン発生装置
11 パルスレーザ光源
12 光路調整手段
13 真空容器
14 物質
15 プラズマ発生手段
16 イオン引出手段
17 イオン加速手段
18 イオン速度測定手段
19a,19b 体積測定手段
20 イオン速度分布演算手段
21 イオン速度演算手段
22 出力手段
23 イオン源
24 物質移動手段
25,25a,25b 入射窓
27 筒状容器
28 中間容器
30 平行移動手段
31a,31b 体積測定手段
35 レーザ光分岐手段
36 挿入手段
38a,38b 光路調整手段
39a,39b 波長変換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発生させるパルスレーザ光源と、
前記パルスレーザ光源からのレーザ光を物質に照射してプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、
発生したプラズマ中の重粒子イオンを電界によって引き出すイオン引出手段と、
引き出された重粒子イオンのイオン速度分布を測定するイオン速度測定手段と、
前記イオン速度測定手段から各価数のイオン速度分布とイオン数を演算して出力するイオン速度分布演算手段とを有することを特徴とするレーザイオン発生装置。
【請求項2】
前記パルスレーザ光源から照射されたレーザ光の光路を調速する光路調整手段を備えた請求項1に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項3】
前記イオン速度分布演算手段は、プラズマ中のイオン数を測定する体積測定手段を備えた請求項1に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項4】
前記イオン速度測定手段は、前記物質の表面に平行に移動する平行移動手段を備えた請求項1または3に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項5】
前記イオン引出手段は、前記物質と前記イオン速度分布演算手段との間に2つ以上備えられた多段電極である請求項1に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項6】
前記体積測定手段は、前記物質の3次元形状を測定する手段から構成される請求項3に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項7】
前記レーザ光調整手段は、
レーザ光を複数光路に分けるレーザ光分岐手段と、
このレーザ光分岐手段を前記パルスレーザ光源からのレーザ光路上に挿入する挿入手段と、
前記レーザ光分岐手段によって分岐されたレーザ光を前記物質に集光させる集光手段とを備えた請求項2に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項8】
前記レーザ光調整手段は、
前記パルスレーザ光源からのレーザ光を物質に集光させる集光手段と、
前記レーザ光の波長を変換する波長変換手段とから構成される請求項2または7に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項9】
前記物質は真空容器内に設置される一方、前記物質を移動させたり、回転させる物質移動手段が設けられた請求項1に記載のレーザイオン発生装置。
【請求項10】
前記パルスレーザ光源と前記集光手段と前記波長変換手段は、それぞれ複数備えられた請求項1または8に記載のレーザイオン発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−142248(P2012−142248A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1254(P2011−1254)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】