説明

レーザスクライブ装置

【課題】 分断予定ラインに沿って有限深さのスクライブラインを確実に形成するレーザスクライブ装置を提供する。
【解決手段】 脆性材料基板Wが載置されるテーブル面12bを有するテーブル12と、レーザビーム照射手段13、14とを備え、テーブル12に載置された脆性材料基板Wに対し、脆性材料基板Wに想定した分断予定ラインKに沿ってレーザビームLAを照射することにより、熱応力を利用してスクライブラインSを形成するレーザスクライブ装置LS1であって、テーブル面12bには脆性材料基板Wにおける分断予定ラインKの直下をテーブル面12bに対して非接触にするための溝12dが形成されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等の脆性材料基板にレーザビームを照射することによりスクライブラインを形成するレーザスクライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板、シリコン等の半導体基板、サファイア基板等の脆性材料基板を分断する際に、分断予定ラインに沿ってレーザ照射による局所加熱を行い、熱応力を利用してスクライブラインを形成するレーザスクライブ装置が用いられている(例えば特許文献1参照)。スクライブラインが形成された基板は、その後、ブレイク装置に送られ、スクライブラインが形成された面とは反対側から、ブレイクバーやブレイクローラで当該スクライブラインに沿って基板を撓ませることにより分断するようにしている。
【0003】
なお、熱応力を生じさせるためのレーザ照射条件を強めに設定すれば、スクライブと同時にブレイクまで進展する、いわゆる「フルカット加工」となる。このように設定することも技術的には可能であるが、フルカット加工で形成された分断面の加工品質の問題や、フルカット加工で分断した後には余分に必要な工程となるアライメント作業を省略したい加工工程上の都合(特にX方向、Y方向へのクロスカット加工を行う場合)により、フルカット加工にすることは望まれていない。むしろ意図的に、基板上の全てのスクライブを終えた後に、個々のスクライブラインに沿ってブレイクを行うように両者を分離した工程が要求されている。
したがって、本発明でいうレーザスクライブ装置は、フルカット加工にならない一般的な照射条件下でのレーザ照射が行われ、基板に有限深さの亀裂からなるスクライブラインを形成するためのレーザスクライブ装置をいうものとする。
【0004】
図5は従来のレーザスクライブ装置によりガラス基板上に有限深さのスクライブラインを形成するときの状態を示す模式図である。
レーザスクライブ装置のテーブル51は内部52が中空であり、真空ポンプ(不図示)により減圧するようにしてある。テーブル51の表面53には多数の小孔が吸着孔54として形成されており(あるいは多孔質板が用いられる)、表面53に載置された基板Wが吸着されるようにしてある。そして基板Wが吸着された状態で、上方のレーザ光源からレーザビームLAを照射し、レーザ照射位置に形成されるビームスポットを分断予定ラインKに沿って走査することにより、これに沿った熱応力分布が形成され、スクライブラインSが順次形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO2006/070825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクライブラインが形成された基板Wは、続いてブレイク装置に搬送されて分断されるが、このようにして形成された分断面の加工品質は非常に良好であるため、様々な分野での分断加工に用いられるようになっている。
近年、分断加工されるガラス基板の中には、いわゆる強化ガラスと呼ばれる種類のガラスも含まれている。一般に、強化ガラスは、製造工程中の化学的、熱的な処理により、基板表面近傍に圧縮応力、基板内部に引張応力が残留するようにして製造されている。
このような強化ガラスの特徴は、基板表面近傍の残留圧縮応力の影響で外力に対し割れにくい性質を有する反面、一旦、基板表面に亀裂が生じて残留引張応力が存在する基板内部まで進展すると、今度は逆に亀裂が進展しやすい性質となる。
【0007】
強化ガラスは、上述したレーザスクライブ装置によって基板表面にスクライブラインSを形成した場合に、一般ガラス(例えばソーダガラス等)よりも敏感で割れやすいものの、一般ガラスと同様の照射条件で加工すれば、従来とほぼ同様の有限深さのスクライブラインを形成することができる。
【0008】
しかしながら、本来なら有限深さのスクライブラインが形成されるはずの照射条件であっても、いきなりフルカットされてしまうという不具合が生じる場合があった。
すなわち、本来なら確実に有限深さのスクライブラインが形成される照射条件で、多数回スクライブを行った場合に、ある確率でフルカットされてしまうという現象が発生していた。なお、この現象は強化ガラスにおいて顕著に現れるが、それ以外の一般ガラスのような脆性材料基板においても稀に生じる現象であることがわかった。
フルカットされた基板は所望の手順での加工ができず、不具合となる。
【0009】
そこで、本発明は、本来なら有限深さのスクライブラインが形成されるはずの照射条件であるにも関わらず、ある確率で不規則にフルカットされてしまうという不具合をなくして、確実に有限深さのスクライブラインが形成できるレーザスクライブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決課題の、ある確率で不規則にフルカットされてしまう不具合の原因を追究した。その結果、図6に示すように基板Wの分断予定ラインKの下方とテーブルの表面53との間に、一定以上の大きさのパーティクルPが偶然入り込んだとき、基板を吸着することにより、パーティクルPの上方で基板Wに微小な撓みが生じるようになる。この撓み状態のままレーザスクライブが行われたときに、フルカットが生じていることが判明した。
【0011】
そこで、上記課題を解決するために本発明では、脆性材料基板が載置されるテーブル面を有するテーブルと、レーザビーム照射手段とを備え、前記テーブルに載置された脆性材料基板に対し、前記脆性材料基板に想定した分断予定ラインに沿ってレーザビームを照射することにより、熱応力を利用してスクライブラインを形成するレーザスクライブ装置であって、前記テーブル面には、前記脆性材料基板における前記分断予定ラインの直下を前記テーブル面に対して非接触にするための溝が形成されるようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、たとえ分断予定ラインの直下とテーブル面との間にパーティクルが入り込んだ場合でも、パーティクルは溝の中に入ることになり、分断予定ライン近傍には撓みが生じないようにすることができる。その結果、有限深さのスクライブラインが形成されるはずのレーザ照射条件で加工する限り、確実にスクライブラインが形成できるようになる。
【0013】
ここで、前記溝の溝幅は2mm以上10mm以下であるのが好ましい。レーザの照射幅は通常1〜3mm程度であり、照射による伝熱作用によって熱応力の影響を受ける幅が最小2mm程度となる。したがって、熱応力の影響を受ける幅である2mm以上の溝を形成し、非接触領域として撓みがないようにすることで、フルカットされてしまうという現象を確実に防止することができる。なお、溝幅が広すぎると逆方向に撓んでスクライブラインにカケが生じたりするおそれがあるので、最大でも10mm程度とするようにした。
【0014】
この発明において、前記溝は平行な複数条の溝または格子状の溝であってもよい。
基板に形成するスクライブラインが平行な複数条である場合や格子状の溝である場合に、これらのラインに対応した間隔で溝を形成しておくことで、溝との位置合わせを1回で済ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態であるレーザスクライブ装置の概略構成を示す図。
【図2】図1のレーザスクライブ装置のテーブルを示す断面斜視図。
【図3】テーブルの他の実施形態を示す平面図。
【図4】本発明のレーザスクライブ装置により基板上に有限深さのスクライブラインを形成するときの状態を示す模式図。
【図5】従来のレーザスクライブ装置で基板上に有限深さのスクライブラインを形成するときの状態を示す模式図。
【図6】基板の分断予定ラインの下方とテーブル表面との間にパーティクルが入り込んだ状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るレーザスクライブ装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態であるレーザスクライブ装置LS1の概略構成を示す図であり、図2はこの装置で基板Wが載置される回転テーブル12(後述する)を示す断面斜視図である。
このレーザスクライブ装置LS1は、水平な架台1上に平行に配置された一対のガイドレール3、4に沿って、紙面前後方向(以下Y方向という)に往復移動するスライドテーブル2が設けられている。両ガイドレール3、4の間に、スクリューネジ5が前後方向に沿って配置され、このスクリューネジ5に、スライドテーブル2に固定されたステー6が螺合されており、スクリューネジ5をモータ(不図示)によって正、逆転することにより、スライドテーブル2がガイドレール3、4に沿ってY方向に往復移動するように形成されている。
【0017】
スライドテーブル2上に、水平な台座7がガイドレール8に沿って、図1の左右方向(以下X方向という)に往復移動するように配置されている。台座7に固定されたステー10aに、モータ9によって回転するスクリューネジ10が螺合されており、スクリューネジ10が正、逆転することにより、台座7がガイドレール8に沿って、X方向に往復移動する。
【0018】
台座7上には、回転機構11によって回転する回転テーブル12が設けられており、この回転テーブル12の上に、ガラス基板Wが水平な状態で載置される。ガラス基板Wは、例えば、小さな単位基板を切り出すための強化ガラス製のマザー基板である。回転機構11は、回転テーブル12を、垂直な軸の周りで回転させるようになっており、基準位置に対して任意の回転角度で回転できるように形成されている。また、回転テーブル12の内側には中空空間12aが形成してあり、真空ポンプ(不図示)により減圧状態にすることができる。回転テーブル12のテーブル面12bには、吸着孔12cとなる多数の小孔が形成してあり、テーブル面12bに載置されたガラス基板Wが吸着孔12cによって吸着されるようにしてある。
【0019】
さらに、基板Wが載置されるテーブル面12bには、溝12dが形成してある。この溝幅は5mm程度にしてあり、レーザ照射幅が2mm幅のときにガラス基板Wが熱の影響を受ける幅である4mmよりも大きい幅にしてある。好ましい溝幅は2mm〜10mm程度である。
【0020】
なお、基板Wを短冊状に分断したり、格子状に分断したりする場合には、図3に平面視で示すように、想定する分断予定ライン(すなわちスクライブライン)の本数や方向に対応させて、複数条の平行な溝12eを形成したり、格子状の溝12fを形成したりしてもよい。
【0021】
回転テーブル12の上方には、レーザ装置13と、レーザビームLAを基板Wに導く光学系が内蔵された光学ホルダ14とが取付フレーム15に保持されている。
レーザ装置13は、加工対象の脆性材料基板に応じてスクライブ用として一般的なレーザ発振器を使用すればよく、具体的にはエキシマレーザ、YAGレーザ、炭酸ガスレーザまたは一酸化炭素レーザなどが使用される。例えば、ガラス基板Wの加工には、ガラス材料のエネルギー吸収効率が大きい波長の光を発振する炭酸ガスレーザを使用することが好ましい。なお、レーザ装置13と光学ホルダ14をレーザ照射手段と称する。
【0022】
レーザ装置13から出射されたレーザビームLAは、ビーム形状を調整するためのレンズ光学系が組み込まれた光学ホルダ14によって、予め設定した形状のビームスポットがガラス基板W上に照射される。ビームスポットの形状については、長軸を有する形状(楕円形状、長円形状など)が好ましく、そのビーム長さおよび幅は、長さ方向が20mm程度、幅方向が2mm程度に絞ってある。
【0023】
取付フレーム15には、光学ホルダ14に近接して、冷却ノズル16が設けられている。冷却ノズル16からは冷媒が噴射される。冷媒には、冷却水、圧縮空気、Heガス、炭酸ガス等を用いることができる。
冷却ノズル16から噴射される冷却媒体は、ビームスポットの左端から少し離れた位置に向けられ、ガラス基板Wの表面に冷却スポットを形成するようにしてある。
なお、冷却ノズル16は急激な温度変化を与えて熱応力によるスクライブを促進させる効果があるので、取り付けておくことが好ましいが、これを取り付けず、加熱のみでスクライブする場合であってもスクライブラインを形成することは可能である。
【0024】
また、図示は省略するが、必要に応じて、光学ホルダ14の前方(図の右側)に隣接した位置に、昇降可能なカッターホイールを取り付けてもよい。これにより基板Wの端部にスクライブラインの起点となる初期亀裂を形成するようにする。なお基板W自体に初期亀裂が別途に形成されている場合は不要である。
【0025】
また、取付フレーム15の上部には、テーブル12に載置された基板Wに付されたアライメントマークを検出して位置合わせをするためのカメラ20が設けられている。このカメラ20で撮影された基板の画像を確認することにより、テーブル面12bの溝12dに対する基板Wの位置を正確に調整することができる。
【0026】
次に、レーザスクライブ装置LS1による加工動作について説明する。図4はレーザスクライブ装置LS1で基板W上に有限深さのスクライブラインSを形成するときのテーブル面12bの断面の模式図である。
テーブル面12b上に基板Wを載置し、基板W上でこれから加工する分断予定ラインKの直下に溝12dが配置されるように位置を合わせる。テーブル面12bと基板Wとの位置合わせを完了すると、吸着孔12cによる吸引を開始して基板Wを固定する。そして、レーザビームLAが出射される光学ホルダ14の真下に、分断予定ラインKおよび溝12dがくるように移動する。そして有限深さのスクライブラインSが形成できる出力設定でレーザ照射を行う。
【0027】
このとき、基板Wとテーブル面12bとの間に、偶然にパーティクルPが入り込んだ場合でも、溝12dの中にパーティクルPが落ちるので、スクライブラインSの直下に撓みが生じることはない。
よって、強化ガラスのような割れやすい基板Wであっても、テーブル面12bとの間にパーティクルPが挟まることが原因となって、撓みによるブレイクが発生することはなくなる。
【0028】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでなく、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【0029】
例えば、上記実施例では、基板吸着手段として吸着孔(あるいは多孔質板)による真空吸着機構を採用したが、これに限定されず、例えば静電吸着を利用したものでもよい。また、テーブルに基板を吸着する機構を省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のレーザスクライブ装置は、脆性材料基板にスクライブラインを形成するスクライブ加工に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
LS1 レーザスクライブ装置
LA レーザビーム
W 基板
S スクライブライン
K 分断予定ライン
P パーティクル
12 テーブル
12b テーブル面
12c 吸着孔
12d 溝
13 レーザ光源
14 光学ホルダ(レーザ出射機構)
16 冷却ノズル(冷媒噴射機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料基板が載置されるテーブル面を有するテーブルと、
レーザビーム照射手段とを備え、
前記テーブルに載置された脆性材料基板に対し、前記脆性材料基板に想定した分断予定ラインに沿ってレーザビームを照射することにより、熱応力を利用してスクライブラインを形成するレーザスクライブ装置であって、
前記テーブル面には、前記脆性材料基板における前記分断予定ラインの直下を前記テーブル面に対して非接触にするための溝が形成されるようにしたことを特徴とするレーザスクライブ装置。
【請求項2】
前記溝の溝幅が2mm以上10mm以下である請求項1に記載のレーザスクライブ装置。
【請求項3】
前記溝は平行な複数条の溝または格子状の溝である請求項1または請求項2に記載のレーザスクライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87000(P2013−87000A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227102(P2011−227102)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】