説明

レーザモジュール

【課題】レーザ光源の位置に狂いが生じたり、半田が破壊されたりするといった問題を生じることのない、信頼性の高いレーザモジュールを実現する。
【解決手段】半導体レーザモジュール1は、半導体レーザチップ32が載置されたレーザマウント31と、光ファイバ2が載置されたファイバマウント40と、レーザマウント31及びファイバマウント40の両方が載置されるサブマウント20と、サブマウント20が載置される基板10とを備え、基板10の上面には、凸部11a〜11dが形成され、サブマウント20は、基板10との間に広がった軟質半田61によって、基板10に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの末端に装着されるレーザモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバにレーザ光を入射させる装置として、レーザモジュールが広く用いられている。レーザモジュールは、レーザ光を発するレーザ光源、レーザ光を受ける光ファイバ、及び、レーザ光源と光ファイバとの双方が取り付けられる放熱基板を備えている。レーザ光源及び光ファイバは、レーザ光源から発せられたレーザ光が光ファイバに効率よく入射するように位置合わせした上で放熱基板に固定される。
【0003】
レーザモジュールでは、通常、レーザ光源と光ファイバとを直接的に放熱基板に接合するのではなく、先ず、レーザマウントとファイバマウントとを放熱基板に接合し、更に、レーザ光源と光ファイバとをレーザマウントとファイバマウントとに接合する構成が採用される。このような構成を有する光ファイバを開示した文献としては、例えば、特許文献1が挙げられる。
【0004】
しかしながら、このようなレーザモジュールにおいては、レーザ光源から発生した熱によって、レーザマウントと放熱基板とを接合するための半田に大きな応力がかかり、レーザ光源の位置に狂いが生じたり、半田が破壊されたりすることがある。このような問題が生じるのは、主に、AlN(窒化アルミニウム)やCuW(銅タングステン)により構成されるレーザマウントの熱膨張率と、Cu(銅)により構成される放熱基板の熱膨張率とが異なるためである。
【0005】
このような問題を回避するための技術として、特許文献2には、放熱基板とレーザマウントとを軟質半田で固定する技術が開示されている。特許文献2では、放熱基板とレーザマウントとの熱膨張率差に起因する応力を、この軟質半田によって吸収し得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,758,610号明細書(登録日:2004年6月6日)
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0104727号明細書(公開日:2009年4月23日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、発明者らが得た知見によると、レーザモジュールにおいて、放熱基板とレーザマウントとの接合に軟質半田を用いた場合、その厚みは40μm程度になる。そして、厚さ40μmの軟質半田では、放熱基板とレーザマウントとの熱膨張率差に起因する応力を十分に吸収することができず、やはり、レーザ光源の位置に狂いが生じたり、半田が破壊されたりするといった問題を生じ得る。特に、近年、その需要が高まっている、大出力半導体レーザを搭載したレーザモジュールにおいて、この問題は深刻である。
【0008】
また、放熱基板とレーザマウントとの接合に軟質半田を用いた場合、放熱基板に対するレーザマウントの相対位置の揺らぎが大きくなる。このため、光ファイバに対するレーザ光源の相対位置の揺らぎが大きくなり、レーザモジュールにおける損失が増大するという問題も無視できない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、上述したような問題を生じることのない信頼性の高いレーザモジュールを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザモジュールは、レーザ光を発するレーザ光源が載置されたレーザマウントと、上記レーザ光を受ける光ファイバが載置されたファイバマウントと、上記レーザマウント及び上記ファイバマウントの両方が載置されるサブマウントと、上記サブマウントが載置される基板と、を備え、上記サブマウントと上記基板との間には、上記サブマウントを上記基板から離間させるためのスペーサが配設されており、上記サブマウントは、上記基板との間に広がった半田によって、上記基板に接合されている、ことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、上記スペーサによって上記サブマウントを上記基板から離間させているので、上記サブマウントを上記基板に接合するための半田の厚みを、上記スペーサの高さまで厚くすることができる。これによって、上記基板と上記サブマウントとを熱膨張率の異なる材料で構成する場合であっても、上記基板と上記サブマウントとの熱膨張率差に起因して発生する応力を上記半田によって十分に吸収することができる。したがって、上記レーザ光源の位置に狂いが生じたり、上記半田が破壊されたりするといった問題を生じることのない、信頼性の高いレーザモジュールを実現することができる。
【0012】
しかも、上記レーザマウント及び上記ファイバマウントは、共に上記サブマウントに載置されている。したがって、上記基板に対する上記サブマウントの相対位置の揺らぎが大きくなっても、これに起因して上記光ファイバに対する上記レーザ光源の相対位置の揺らぎが大きくなることはないので、レーザモジュールにおける損失が大きくなる虞はない。
【0013】
本発明に係るレーザモジュールにおいて、上記半田は、ヤング率が50Gpa以下の軟質半田である、ことが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、上記サブマウントの材料として、ヤング率が50Gpa以上の材料が選択されている場合に、熱膨張による上記基板の歪を、上記サブマウントに伝えることなく、上記半田で吸収することができる。また、上記サブマウントの材料として、ヤング率が50Gpa以上の材料を自由に選択することができる。
【0015】
本発明に係るレーザモジュールにおいて、上記半田は、ヤング率が上記サブマウントよりも小さい半田である、ことが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、上記半田が弾性変形することによって、熱膨張による上記基板の歪を、上記サブマウントに伝えることなく、上記半田で吸収することができる。
【0017】
本発明に係るレーザモジュールにおいて、上記スペーサは、上記基板に一体成型されたものである、ことが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、上記スペーサと上記基板とが一体成形されているので、上記スペーサと上記基板とを半田等により接合する場合と比べて、上記サブマウントから上記基板へのより速やかな熱の伝導を実現することができる。
【0019】
本発明に係るレーザモジュールにおいて、上記スペーサの形状は、上記サブマウントに当接する面が平坦な柱状である、ことが好ましい。
【0020】
上記レーザモジュールの製造に際しては、上記半田によって上記サブマウントを上記基板に接合する工程において、上記サブマウントを何度か摺動(スクラブ)させ、上記サブマウントと半田との間に混入した気泡を排除することが好ましい。上記の構成によれば、上記サブマウントが上記スペーサの平坦な面に当接するため、上述した摺動操作を安定的に行うことができる。
【0021】
本発明に係るレーザモジュールにおいて、上記スペーサの高さは、40μmよりも高い、ことが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、上記スペーサを用いずに上記基板と上記サブマウントとを半田によって接合する場合と比べて、上記半田の厚みを厚くすることができる。したがって、上記スペーサを用いずに上記基板と上記サブマウントとを半田によって接合する場合と比べて、より大きな基板の歪を上記半田によって吸収することができる。
【0023】
本発明に係るレーザモジュールにおいて、上記サブマウントは、上記基板に対向する面の一部がメタライズ加工されており、該面のメタライズ加工されていない部分が上記スペーサに当接するように上記基板に載置されている、ことが好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、上記スペーサと上記サブマウントとの間に上記半田が浸潤することを回避できる。したがって、上記スペーサと上記サブマウントとの間に浸潤した、他の部分よりも厚みの薄い半田を起源とする接合破壊を防止することができる。
【0025】
本発明に係るレーザモジュールにおいて、上記サブマウントは、熱膨張率が上記レーザマウントの材料と同一又は略同一の材料により構成されている、ことが好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、上記レーザマウントを上記サブマウントに接合するための半田にかかる応力は、ないか、又は、極小さい。したがって、上記レーザマウントと上記サブマウントとを接合するために硬質半田を用いることができる。これにより、サブマウントに対するレーザマウントの相対位置の揺らぎを小さくし、レーザモジュールにおける損失をより小さくすることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明に係るレーザモジュールは、レーザ光を発するレーザ光源が載置されたレーザマウントと、上記レーザ光を受ける光ファイバが載置されたファイバマウントと、上記レーザマウント及び上記ファイバマウントの両方が載置されるサブマウントと、上記サブマウントが載置される基板と、を備え、上記サブマウントと上記基板との間には、上記サブマウントを上記基板から離間させるためのスペーサが配設されており、上記サブマウントは、上記基板との間に広がった半田によって、上記基板に接合されている。
【0028】
したがって、上記レーザ光源の位置に狂いが生じたり、上記半田が破壊されたりするといった問題を生じることのない、信頼性の高いレーザモジュールを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体レーザモジュールの全体像を示す斜視図である。
【図2】図1に示す半導体レーザモジュールの要部構成を示す三面図である。
【図3】図1に示す半導体レーザモジュールが備える基板の具体例を示す三面図である。
【図4】図1に示す半導体レーザモジュールが備えるサブマウントの具体例を示す三面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本実施形態に係るレーザモジュールについて、図面に基づいて説明すれば以下のとおりである。なお、本実施形態に係るレーザモジュールは、レーザ光源として半導体レーザ(「レーザダイオード」と呼ばれることもある)を搭載したものなので、以下ではこれを「半導体レーザモジュール」と記載する。ただし、本発明に係るレーザモジュールに搭載し得るレーザ光源は、半導体レーザ光源に限定されるものではない。
【0031】
なお、以下の説明では、板状部材を構成する6つの面のうち、最大の面積をもつ2つの面を「主面」と記載し、主面を除く4つの面を「端面」と記載する。また、2つの主面を互いに区別する必要があるときには、一方の主面を「上面」と記載し、他方の主面を「下面」と記載する。ここで、上面は、板状部材を含む装置が通常の設置状態にあるときに上方を向く方の主面のことを指し、下面は、板状部材を含む装置が通常の設置状態にあるときに下方を向く方の主面のことを指す。
【0032】
〔半導体レーザモジュールの構成〕
本実施形態に係る半導体レーザモジュール1の構成について、図1〜図2を参照して説明する。図1は、半導体レーザモジュール1の全体像を示す斜視図である。図2は、半導体レーザモジュール1の要部(基板10、サブマウント20、CoS30)の構成を示す三面図である。図2においては、平面図(上面側)を左上、側面図を左下、正面図を右下に示す。
【0033】
半導体レーザモジュール1は、光ファイバ2の末端に装着されるレーザモジュールであり、図1〜図2に示すように、基板10、サブマウント20、CoS(Chip on Submount)30、ファイバマウント40、及びケース50を備えている。なお、図1においては、半導体レーザモジュール1の内部の構造を明らかにするために、ケース50の天板及び側板の一部を省略している。また、図2においては、半導体レーザモジュール1の要部の構成を明らかにするために、基板10、サブマウント20、及びCoS30以外の構成を省略している。
【0034】
基板10は、半導体レーザモジュール1の底板である。本実施形態においては、図1〜図2に示すように、基板10として、主面が角丸矩形の板状部材を用いる。基板10は、半導体レーザモジュール1の内部(特にCoS30)で発生した熱を半導体レーザモジュール1の外部に放熱するためのヒートシンクとして機能する。このため、基板10は、熱伝導率の高い材料、例えば、例えばCu(銅)により構成される。
【0035】
基板10の上面には、図1〜図2に示すように、4つの凸部11a〜11dが設けられている。これらの4つの凸部11a〜11dは、サブマウント20の下面を基板10の上面から離間させるためのスペーサとして機能する。これらの4つの凸部11a〜11dは、打ち抜き加工や削り出し加工などによって成形された、基板10と一体のものである。
【0036】
基板10の上面には、図1〜図2に示すように、サブマウント20が載置される。
【0037】
サブマウント20は、CoS30及びファイバマウント40を支持する支持体である。本実施形態においては、図1〜図2に示すように、サブマウント20として、主面が矩形の板状部材を用い、このサブマウント20を、その下面が基板10の上面と平行になり、かつ、その主面の長辺が基板10の主面の長辺と平行になるように配置する。サブマウント20は、その下面と基板10の上面との間に広がった軟質半田61によって、基板10の上面に接合される。なお、基板10の具体例については、参照する図面を代えて後述する。
【0038】
サブマウント20の上面には、図1〜図2に示すように、CoS30とファイバマウント40とが載置される。サブマウント20の上面において、ファイバマウント40は、光ファイバ2が引き出される側(図1において右手前側、以下では「ファイバ側」と記載)に配置され、CoS30は、光ファイバ2が引き出される側と反対側(図1において左奥側、以下では「リード側」と記載)に配置される。なお、サブマウント20の具体例については、参照する図面を代えて後述する。
【0039】
CoS30は、レーザマウント31と半導体レーザチップ32とが一体化されたものである。
【0040】
レーザマウント31は、半導体レーザチップ32を支持する支持体である。本実施形態においては、図1〜図2に示すように、レーザマウント31として、主面が矩形状の板状部材を用い、このレーザマウント31を、その下面がサブマウント20の上面と平行になり、かつ、その主面の長辺がサブマウント20の主面の長辺と平行になるように配置する。レーザマウント31は、その下面とサブマウント20の上面との間に広がった硬質半田62によって、サブマウント20の上面に接合される。
【0041】
レーザマウント31の上面には、図1〜図2に示すように、半導体レーザチップ32が載置される。半導体レーザチップ32は、その端面32aからレーザ光を発するレーザ光源である。本実施形態においては、主にGaAs(ガリウム砒素)からなる、5mm以上のキャビティ長を有する高出力半導体レーザを用いる。半導体レーザチップ32は、図1〜図2に示すように、その延在方向がレーザマウント31の主面の長辺と平行になるように配置され、その下面がレーザマウント31の上面に接合されている。また、半導体レーザチップ32は、図1に示すように、ワイヤ33を介してレーザマウント31の上面に形成された回路に接続されており、この回路から供給された電流によって駆動される。
【0042】
ファイバマウント40は、光ファイバ2を支持する支持体である。本実施形態においては、ファイバマウント40として、図1〜図2に示すように、主面が矩形状の板状部材を用い、このファイバマウント40を、その下面がサブマウント20と平行になり、かつ、その主面の長辺がサブマウント20の主面の長辺と垂直になるように配置する。ファイバマウント40は、その下面とサブマウント20の上面との間に広がった硬質半田63によって、サブマウント20の上面に接合される。
【0043】
ファイバマウント40には、図1に示すように、ケース50に設けられた挿通パイプ51を通して半導体レーザモジュール1の内部に引き込まれた光ファイバ2が載置される。光ファイバ2は、楔状に加工された先端2aが半導体レーザチップ32の端面32aに正対するように配置され、半田64によってファイバマウント40の上面に接合される。半導体レーザチップ32の端面32aから発せられたレーザ光は、先端2aから光ファイバ2に入射し、光ファイバ2内を伝搬する。
【0044】
半導体レーザモジュール1においては、半導体レーザチップ32を駆動している間、半導体レーザチップ32からの発熱がある。半導体レーザチップ32で発生した熱は、(1)レーザマウント31に伝導し、(2)硬質半田62を介してサブマウント20に伝導し、(3)軟質半田61を介して基板10に伝導し、(4)基板10の下面から外部に放熱される。このため、半導体レーザチップ32を駆動している間、半導体レーザチップ32にて発生した熱の伝導経路となるレーザマウント31、サブマウント20、及び基板10の温度が上昇する。
【0045】
このため、半導体レーザチップ32を駆動している間、レーザマウント31、サブマウント20、及び基板10は、熱膨張を起こす。レーザマウント31、サブマウント20、及び基板10の熱膨張率が異なる場合、これらの部材間に応力が発生する。これらの部材間に発生した応力は、CoS30と光ファイバ2との相対位置を狂わせたり、半田61,62を破壊したりする要因となる。特に、本実施形態に係る半導体レーザモジュール1のように、大出力の半導体レーザが搭載されたレーザモジュールにおいては、半導体レーザから大量の熱が発生するため、上述した問題が深刻な信頼性の低下に直結する。
【0046】
そこで、本実施形態においては、レーザマウント31とサブマウント20とを、熱膨張率が同一又は略同一の材料で構成することによって、レーザマウント31とサブマウント20との間に発生する応力を抑制している。具体的には、レーザマウント31とサブマウント20とを、共にAlN(窒化アルミニウム)で構成することによって、レーザマウント31とサブマウント20との間に発生する応力を抑制している。なお、AlNの熱膨張率は、半導体レーザチップ32を構成するGaAsの熱膨張率と略同一であるため、レーザマウント31をAlNで構成することによって、半導体レーザチップ32とレーザマウント31との間に発生する応力も同時に抑制することができる。
【0047】
一方、基板10は、放熱性の観点から熱伝導率の高い材料(例えばCu)で構成する必要がある。したがって、基板10の材料として、サブマウント20と熱膨張率が同一又は略同一の材料を選択することは容易ではない。そこで、本実施形態においては、基板10とサブマウント20とを軟質半田61で接合することによって、基板10とサブマウント20との熱膨張率差により生じる応力を軟質半田61で吸収する構成を採用している。
【0048】
ただし、単に基板10とサブマウント20とを軟質半田61によって接合するだけでは、軟質半田61の厚みが40μm程度になり、十分な応力吸収効果を得ることができない。そこで、本実施形態においては、基板10の上面に成形された4つの凸部11a〜11dによって、サブマウント20の下面を基板10の上面から離間させたうえで、サブマウント20の下面と基板10の上面との間のスペースを軟質半田61で満たすことによって、軟質半田61の厚みを40μmよりも大きくしている。具体的には、凸部11a〜11dの高さ、すなわち、軟質半田61の厚みを120μm〜180μm程度にすることによって、十分な応力吸収効果を得ている。このため、基板10とサブマウント20とが異なる熱膨張率で熱膨張しても、軟質半田61が弾性変形するだけで、サブマウント20が歪んでCoS30と光ファイバ2との相対位置が狂ったり、軟質半田61が破壊されたりすることはない。
【0049】
なお、本明細書において、「軟質半田」とは、ヤング率が50Gpa以下の半田のことを指す。例えば、Au-Sn90%(金・錫90%)半田、Sn-Ag-Cu(錫・銀・銅)系半田、In-Sn(インジウム・錫)系半田、Bi-In-Sn(ビスマス・インジウム・錫)系半田、In100%(インジウム100%)半田は、軟質半田に該当する。なお、一部の文献においては、「軟質半田」の定義として「ヤング率が40Gpa以下の半田」が採用されている。しかしながら、本明細書で採用する軟質半田の定義は、上述したとおり「ヤング率が50Gpa以下の半田」であり、上記一部の文献で採用されている定義と異なるので留意されたい。
【0050】
このように、基板10とサブマウント20とを接合するための半田は、軟質半田であることが好ましいが、ヤング率が50Gpa以上の半田であっても、サブマウント20よりも軟らかい半田、すなわち、ヤング率がサブマウント20よりも小さい半田であれば、一定の応力吸収効果が得られることは明らかであろう。
【0051】
〔基板の具体例〕
次に、半導体レーザモジュール1が備える基板10の具体例について、図3を参照して説明する。図3は、基板10の三面図である。図3においては、平面図(上面側)を左上、側面図を左下、正面図を右上に示す。
【0052】
基板10は、図3に示すように、主面が16.5mm(長辺)×10.0mm(短辺)の角円矩形である板状部材であり、その厚みは1.0mmである。基板10の材料は、Cu(銅)である。
【0053】
基板10の上面に成形された4つの凸部11a〜11dは、それぞれ、上面が平坦な柱状の凸部である。より具体的に言えば、上面が直径1.2mの円である円柱状の凸部であり、その高さは0.15mmである。4つの凸部11a〜11dは、基板10と一体成形されたものであり、その材料はCuである。凸部11a〜11dの上面を平坦にしているのは、サブマウント20と凸部11a〜11dとを面的に接触させるためである。これにより、半導体レーザモジュール1の製造時、サブマウント20を基板10に接合する際に行うサブマウント20のスクラブ作業を安定的に遂行することができる。
【0054】
凸部11a及び凸部11bは、中心同士を5.0mm離間させて、基板10の上面のリード側の短辺に沿って配置される。同様に、凸部11c及び凸部11dは、中心同士を5.0mm離間させて、基板10の上面のファイバ側の短辺に沿って配置される。基板10の上面の一方の長辺に沿って配置された2つの凸部11a,11cの中心間距離は8.7mmである。同様に、基板10の上面の他方の長辺に沿って配置された2つの凸部11b,11dの中心間距離は8.7mmである。後述するように、サブマウント20として、主面が9.5m(長辺)×5.0mm(短辺)の矩形である板状部材を採用した場合、これら4つの凸部11a〜11dは、概ね、サブマウント20の四隅に配置されることになる。
【0055】
もちろん、凸部11a〜11dの配置は、これに限定されるものではない。すなわち、サブマウント20を安定的に載置可能な配置であれば、凸部11a〜11dの配置は任意である。また、凸部11a〜11dの個数は、4つに限定されず、3つであっても、5つ以上であってもよい。ただし、凸部11a〜11dの個数を減らすと、スクラブ作業時にサブマウント20が凸部11a〜11dから脱落し易くなる。一方、凸部11a〜11dの個数を増やすと、サブマウント20と基板10との接合強度が低下する可能性がある。すなわち、凸部11a〜11dがサブマウント20の四隅に位置する配置は、スクラブ作業時の安定性と接合強度とが両立した最良配置のひとつである。
【0056】
また、凸部11a〜11dの高さは、120μm以上180μm以下の任意の値に設定することができる。ここで、凸部11a〜11dの高さを120μm以上としているのは、軟質半田62に十分な応力吸収効果をもたせるためである。一方、凸部11a〜11dの高さを180μm以下としているのは、軟質半田62の熱抵抗rを0.22℃/W以下に抑え、サブマウント20から基板10への十分な熱伝導を確保するためである。
【0057】
例えば、サブマウント20として図3に示すもの(軟質半田62が濡れ広がる面積S=8.7×5.0−0.6×3.14≒42.4mm)を用い、軟質半田62としてAuSn90%半田(熱電量率κ=20W/m・K)を用いた場合、厚さd=180μmの軟質半田62の熱抵抗r=(κ×S/d)−1は、r≒0.212℃/Wとなり、上述した条件(熱抵抗rが0.22℃/W以下)を満たす。なお、許容される軟質半田62の熱抵抗rの上限値(本実施形態においては0.22℃/W)は、CoS30の構成、並びに、半導体レーザチップ31の消費電力及びジャンクション温度に基づいて決まる。
【0058】
〔サブマウントの具体例〕
次に、半導体レーザモジュール1が備えるサブマウント20の具体例について、図4を参照して説明する。図4は、基板10の三面図である。図4においては、平面図(上面側)を左上、平面図(下面側)を右上、側面図を左下に示す。
【0059】
サブマウント20は、図4に示すように、主面が9.5mm(長辺)×5.0mm(短辺)の矩形である板状部材であり、その厚みは1.0mmである。サブマウント20の材料は、AlN(窒化アルミニウム)である。
【0060】
サブマウント20の上面には、メタライズ21が施されている。これは、サブマウント20の上面に、硬質半田62によってCoS30を接合するためである。同様に、サブマウント20の下面にも、メタライズ22が施されている。これは、サブマウント20の下面に、軟質半田61によって基板10を接合するためである。
【0061】
図4において注目すべきは、メタライズ21は、サブマウント20の上面全体を覆っているのに対し、メタライズ22は、サブマウント20の下面全体から四隅を除いた角円矩形状の領域を覆っている点である。メタライズ22の四隅には、半径1.2mmのアールを付けている。
【0062】
これにより、メタライズ22に覆われていないサブマウント20の下面の四隅にまで軟質半田61が濡れ広がることを防止できる。すなわち、メタライズ22に覆われていないサブマウント20の下面の四隅が凸部11a〜11dの上面と当接するようにサブマウント20を基板10に載置することによって、軟質半田61がサブマウント20の下面と凸部11a〜11dの上面との間に浸潤することを防止できる。すなわち、サブマウント20の下面と凸部11a〜11dの上面との間に浸潤した、他の部分よりも厚みの薄い軟質半田61を起源として、軟質半田61によるサブマウント20と基板10との接合が破壊されることを防止できる。
【0063】
〔基板とサブマウントとの接合方法〕
最後に、半導体レーザモジュール1の製造過程で基板10とサブマウント20とを接合する接合方法について、簡単に説明する。基板10とサブマウント20とを接合する接合は、例えば、以下の工程S1〜S8によって実現される。
【0064】
工程S1:基板10をヒータステージ上に載置する。
【0065】
工程S2:板状に成形された軟質半田61(固体)を基板10上に載置する。
【0066】
工程S3:サブマウント20を軟質半田61(固体)上に載置する。
【0067】
工程S4:ヒータステージによる基板10の加熱を開始する。ヒータステージによる基板の加熱を開始すると、基板10の温度が次第に上昇する。
【0068】
工程S5:基板10の温度が軟質半田61の融点に達すると、軟質半田61が基板10側から溶融し始める。軟質半田61が完全に溶融したら、サブマウント20をスクラブする。
【0069】
工程S7:ヒータステージによる基板10の加熱を停止する。ヒータステージによる基板10の加熱を停止すると、基板10の温度が次第に下降する。
【0070】
工程S8:軟質半田61を自然冷却する。軟質半田61の温度が融点以下に低下すると、軟質半田61が硬化して基板10とサブマウント20との接合が完了する。
【0071】
なお、上述した工程S5において、サブマウント20をスクラブするとは、サブマウント20を基板10の上面と平行な面内で何度か摺動させることを指す。これにより、軟質半田61とサブマウント20の下面との間に混入した気泡を排除すると共に、サブマウント20の下面のメタライズ22が施された領域全体に軟質半田61を均一に濡れ広げることができる。上述したように、サブマウント20を載置する基板10の凸部11a〜11bは、その高さが共通で、かつ、その上面が平坦なので、スクラブの際に支障なくサブマウント20を摺動させることができる。
【0072】
〔付記事項〕
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、光ファイバに接続されるレーザモジュールに利用することができる。特に、半導体レーザが搭載されたレーザモジュール(半導体レーザモジュール)に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 半導体レーザモジュール(レーザモジュール)
10 基板
11a〜11d 凸部(スペーサ)
20 サブマウント
30 CoS
31 レーザマウント
32 半導体レーザチップ(レーザ光源)
40 ファイバマウント
50 ケース
61 軟質半田
62〜63 硬質半田
2 光ファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発するレーザ光源が載置されたレーザマウントと、
上記レーザ光を受ける光ファイバが載置されたファイバマウントと、
上記レーザマウント及び上記ファイバマウントの両方が載置されるサブマウントと、
上記サブマウントが載置される基板と、を備え、
上記サブマウントと上記基板との間には、上記サブマウントを上記基板から離間させるためのスペーサが配設されており、
上記サブマウントは、上記基板との間に広がった半田によって、上記基板に接合されている、ことを特徴とするレーザモジュール。
【請求項2】
上記半田は、ヤング率が50Gpa以下の軟質半田である、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーザモジュール。
【請求項3】
上記半田は、ヤング率が上記サブマウントよりも小さい半田である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザモジュール。
【請求項4】
上記スペーサは、上記基板に一体成型されたものである、
ことを特徴とする請求項1から3までの何れか1項に記載のレーザモジュール。
【請求項5】
上記スペーサの形状は、上記サブマウントに当接する面が平坦な柱状である、
ことを特徴とする請求項1から4までの何れか1項に記載のレーザモジュール。
【請求項6】
上記スペーサの高さは、40μmよりも高い、
ことを特徴とする請求項1から5までの何れか1項に記載のレーザモジュール。
【請求項7】
上記サブマウントは、上記基板に対向する面の一部がメタライズ加工されており、該面のメタライズ加工されていない部分が上記スペーサに当接するように上記基板に載置されている、
ことを特徴とする請求項1から6までの何れか1項に記載のレーザモジュール。
【請求項8】
上記サブマウントは、熱膨張率が上記レーザマウントの材料と同一又は略同一の材料により構成されている、
ことを特徴とする請求項1から7までの何れか1項に記載のレーザモジュール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−4752(P2013−4752A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134550(P2011−134550)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】