説明

レーザースクライブ装置

【課題】太陽電池基板の積層膜を所定パターンにパターニングできたかどうかを、ライン工程においても確実かつ簡単な構造で判定することができる、レーザースクライブ装置を提供することにある。
【解決手段】このレーザースクライブ装置10は、基板1上に、電極層3と、少なくとも1つの光電変換層5と、透明電極層8とが積層されてなる太陽電池基板の積層膜を、前記透明電極層側8から入射するレーザー光により切断してパターニングするものであって、前記レーザー光を照射するレーザー光照射手段12と、前記レーザー光の反射光を検出して切断の良否を判定する検査手段14とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池基板をレーザー光により切断してパターニングするための、レーザースクライブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光を電気エネルギーに変換する太陽電池が用いられている。この太陽電池は、例えば、絶縁性基板上に、電極層と、アモルファスシリコンや微結晶シリコン等からなる光電変換層と、透明電極層とが積層した構造をなしている。そして、これらの積層膜は、所定の回路パターンを構成するようにパターニングされる。従来、この種のパターニング方法の一つとして、レーザー光を照射することにより、上記積層膜を所定深さで切断してパターニングする、レーザーパターニング法が知られている。
【0003】
レーザースクライブを施す装置として、下記特許文献1には、基板上に形成された膜の厚さを測定する膜厚測定部と、膜の一部を除去するレーザー光を出力するレーザー出力部(レーザー)と、膜厚測定部で測定された膜の厚さに基き、レーザー光の強さを調整するレーザー調整部とを具備する薄膜加工装置が開示されている。前記膜厚測定部は、膜に電磁波を照射する照射部と、膜を透過した電磁波を計測する計測部とを具備している。
【0004】
また、下記特許文献2には、太陽電池セルにレーザー光を照射するレーザー照射手段と、太陽電池セルのパターンを通過した前記レーザー光を検出してパターンの欠陥の有無を判断する形状検査手段とを有するレーザースクライブ装置が開示されている。レーザー照射手段であるレーザー発振器は、基板の表側又は裏側のいずれか配置され、形状検査手段であるレーザー光検出器は、基板の、レーザー発振器とは反対側に配置されている。そして、レーザー発振器から照射されたレーザー光は、基板を透過して反対側のレーザー光検出器により受光される。このとき、基板に異物等が付着している場合には、レーザー光の光路の一部が遮光されて、レーザー光検出器の受光量が減少するので、パターン欠陥が分かるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−19818号公報
【特許文献2】特開2009−195968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記光電変換層は、アモルファスシリコンや微結晶シリコン等で形成されている。微結晶シリコンは、アモルファスシリコンに比べ、長波長域でも光を吸収できるという利点があり、太陽電池の特性向上を期待できる。但し、この微結晶シリコンにおいて所望の特性を得るには、アモルファスシリコンよりも厚みが必要となる。そのため、微結晶シリコンに対するレーザー光の出力を、アモルファスシリコンに対するレーザー光の出力よりも高めなければならない。
【0007】
また、レーザーパターンニング法に際しては、積層膜の透明電極層、光電変換層及び電極層を切削してパターニングするようになっている。このとき、レーザー光が積層膜を削って基板まで到達しているかどうかを判定するには、例えば、加工面を顕微鏡などで観察する必要がある。しかしながら、連続的に製品を生産するライン工程では、そのような観察は困難であった。なお、レーザー光の出力を予め高く設定しておくことも考えられるが、その場合には、積層膜を削ったレーザー光が基板に過度に照射され、基板に悪影響を与える虞れがある。
【0008】
上記引用文献1の薄膜加工装置では、基板上の膜の厚さを測定する膜厚測定部により膜厚を測定しつつ、レーザー調整部でレーザー光の出力を調整するようになっている。しかしながら、レーザー光を出力するレーザー出力部とは別に、膜に電磁波を照射する照射部と、膜を透過した電磁波を計測する計測部とからなる膜厚測定部を備えるため、構造が複雑でコストが高いというデメリットがある。
【0009】
また、上記引用文献2では、基板の表裏それぞれにレーザー発振器及びレーザー光検出器を配置し、レーザー発振器から照射され基板を透過したレーザー光を、レーザー光検出器で受光し、その受光量の増減によりパターン欠陥の有無を判別可能となっている。しかしながら、レーザー発振器とは別にレーザー受光器を設ける必要があるので、前記引用文献1と同様に構造が複雑で、更に装置全体が大型化するというデメリットが生じる。
【0010】
したがって、本発明の目的は、太陽電池基板の積層膜を所定パターンにパターニングできたかどうかを、確実かつ簡単な構造で判定することができる、レーザースクライブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のレーザースクライブ装置は、基板上に、電極層と、少なくとも1つの光電変換層と、透明電極層とが積層されてなる太陽電池基板の積層膜を、前記透明電極層側から入射するレーザー光により切断してパターニングするレーザースクライブ装置において、前記レーザー光を照射するレーザー光照射手段と、前記レーザー光が前記積層膜の加工面で反射した反射光を検出して切断の良否を判定する検査手段とを有することを特徴とする。
【0012】
上記発明によれば、レーザー光照射手段から基板面に照射されたレーザー光の反射光を検査手段によって検出することにより、透明電極層や光電変換層、電極層が切断されたときの反射光の強度変化によって、所定の積層膜が切断されたか否かを判定することができる。そして、この判定に基づいてレーザー光の出力を適宜調整することにより、目的とする積層膜が確実に切断されるようにすることができる。
【0013】
また、レーザー光照射手段により照射されたレーザー光の反射光を利用して、パターニングの良否を判断するように構成されているので、検査手段を、太陽電池基板の入射面側、すなわち、レーザー光照射手段と同じ面側に配置することができ、装置を簡単な構造にできると共に、コンパクト化を図ることができる。
【0014】
本発明のレーザースクライブ装置においては、前記検査手段の判定に基づいて前記レーザー光照射手段の出力を調整する出力制御手段を有していることが好ましい。これによれば、出力制御手段によって、検査手段の判定に基づいてレーザー光の出力を自動的に調整して、目的とする積層膜を確実に切断することができる。その結果、レーザー光の出力を常に適正に保って、パターニング不良を防止しつつ、効率よく積層膜の切断作業を進めることができ、生産性を高めることができる。
【0015】
本発明のレーザースクライブ装置においては、前記基板及び/又は前記レーザー光照射手段が、前記基板面に沿った二次元方向に移動可能とされ、前記レーザー光照射手段と前記検査手段とは相互の位置関係を保って一緒に前記基板に対して相対移動するように構成されていることが好ましい。これによれば、前記基板及び/又は前記レーザー光照射手段を、前記基板面に沿った二次元方向に移動させることにより、レーザー光を所定のラインに沿って移動させつつ照射させて、目的とするパターンとなるように積層膜を切断することができる。また、前記レーザー光照射手段と前記検査手段とは相互の位置関係を保って一緒に前記基板に対して相対移動することにより、レーザー光の反射光を検査手段に常に同じ条件で確実に入射させることができる。
【0016】
本発明のレーザースクライブ装置においては、前記検査手段は、前記レーザー光の反射光が所定強度を超えた場合に、該反射光の強度を減衰させる減光手段を有していることが好ましい。これによれば、レーザー光の反射光が所定強度を超えた場合に、該反射光を減光手段によって適正な強度にして検査することができるので、目的する積層膜が切断されか否かの判定をより正確に行うことができる。
【0017】
本発明のレーザースクライブ装置においては、前記太陽電池基板は、前記基板と、該基板の表裏面の少なくとも一面に形成された電極層と、該電極層上に形成された少なくとも一つの光電変換層と、透明電極層とを有し、前記電極層が金属膜からなることが好ましい。これによれば、透明電極層及び光電変換層が切断されたとき、金属膜からなる電極層が露出して、レーザー光の反射光の強度が高くなることにより、透明電極及び光電変換層の切断の可否を判定することができる。更に、基板の反対面にも電極層が形成されていれば、照射面側の電極層が切断されたとき、基板を通過したレーザー光が反対面側の電極層で反射されて、レーザー光の反射光の強度がやや低下するので、照射面側の電極の切断の可否を判定することができる。
【発明の効果】
【0018】
上記発明によれば、レーザー光照射手段から基板面に照射されたレーザー光の反射光を検査手段によって検出することにより、透明電極層や光電変換層、電極層が切断されたときの反射光の強度変化によって、所定の積層膜が切断されたか否かを判定することができる。そして、この判定に基づいてレーザー光の出力を適宜調整することにより、目的する積層膜が確実に切断されるようにすることができる。
【0019】
また、レーザー光照射手段により照射されたレーザー光の反射光を利用して、パターニングの良否を判断するように構成されているので、検査手段を、太陽電池基板の入射面側、すなわち、レーザー光照射手段と同じ面側に配置することができ、装置を簡単な構造にできると共に、コンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るレーザースクライブ装置の概略構成図である。
【図2】同レーザースクライブ装置の説明図である。
【図3】同レーザースクライブ装置を構成する、基板及びレーザー光照射手段の移動方向を説明する斜視図である。
【図4】同レーザースクライブ装置のレーザー光による切断状態を示しており、(a)はレーザー光が光電変換層を切削途中における断面図、(b)はレーザー光が裏面電極層に至った状態における断面図、(c)はレーザー光が基板を透過して背面電極層に至った状態における断面図である。
【図5】各層の反射強度の測定試験方法を示す説明図である。
【図6】レーザー光の出力と、反射光の反射強度(照度)との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明のレーザースクライブ装置の一実施形態について説明する。
【0022】
まず、このレーザースクライブ装置に適用される太陽電池基板について説明する。図2に示すように、この実施形態における太陽電池基板は、基板1と、この基板1の上面に積層された裏面電極層3と、この裏面電極層3の上面に積層された光電変換層5と、前記基板1の、裏面電極層3とは反対側の下面に形成された背面電極層7と、前記光電変換層5の上面に積層された透明電極8とを有している。この実施形態では、裏面電極層3と光電変換層5と透明電極層8とが、本発明における「太陽電池基板の積層膜」をなしている。なお、前記光電変換層5は1又は複数積層されることがある(光電変換層5が2つのタンデム型や、光電変換層5が3つのトリプル型)。更に、上記積層膜には、図示しない保護膜等で被覆されて太陽電池が構成されている。
【0023】
基板1としては、例えば、ガラス基板や、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフレタートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、アクリルフィルム、アラミドフィルム等の絶縁性プラスチックフィルム基板、ステンレス基板等を用いることができる。この実施形態では、透明電極層8側から光が入射されるので、基板1は必ずしも光透過性である必要はなく、裏面電極5からの電流を取り出すため、裏面電極5に図示しないスルーホール等を介して導通される背面電極7を設けてもよい。しかし、基板1の図1中下面側から光が入射される場合には、基板1は光透過性の材料で形成され、背面電極層7を設けない構成とすることができる。
【0024】
各電極層3,7は、金属膜からなることが好ましく、例えば、Ag、Al、Ti等の金属、或いは、これらの合金を用いることができる。また、各電極層3,7の厚さは適宜変更することができ、例えば電流を取り出すための背面電極層7は、裏面電極層3よりも厚く形成することができる。
【0025】
前記光電変換層5は、微結晶シリコンやアモルファスシリコン等から形成されたnip層あるいはpin層から構成されている。光入射側にアモルファスシリコン系のi層を有する光電変換層を配置し、その背面側に微結晶シリコン系のi層を有する光電変換層を配置した構成のものが、光変換効率の点で特に好ましく採用される。そして、微結晶シリコン系のi層を有する光電変換層は、比較的長波長の光を吸収させるために膜厚を厚くする必要があるため、レーザー光によって切断しにくく、切断不良が発生しやすいという問題があった。
【0026】
本発明のレーザースクライブ装置は、上記太陽電池基板の積層膜を、レーザー光により所定の回路パターンにパターニングする際、その切断の良否を判定してレーザーの出力等を制御できるようにしたものである。
【0027】
図1には、この実施形態におけるレーザースクライブ装置10の概略構成図が示されている。同図に示すように、このレーザースクライブ装置10は、太陽電池基板上方に配置され、レーザー光を照射するレーザー光照射手段12と、同じく太陽電池基板上方に配置され、前記レーザー光が太陽電池基板の積層膜の加工面で反射した反射光を検出して切断の良否を判定する検査手段14と、検査手段14の判定に基づいて、前記レーザー光照射手段12の出力を調整する出力制御手段16とを主として有している。
【0028】
また、検査手段14と太陽電池基板との間には、レーザー光の反射光が所定強度を超えた場合、すなわち、後述する検査手段14の受光素子14aにより測光できる範囲を超えた場合に、該反射光の反射強度を減衰させる、NDフィルタ等の減光手段18が配置されている。更に、前記太陽電池基板は、X−Y移動ステージ等からなる移動手段20に支持されている。その結果、図3の矢印X1,Y1で示すように、基板1が、基板面に沿った二次元方向(X−Y方向)に移動可能となっている。なお、図3の矢印X2,Y2で示すように、前記レーザー光照射手段12及び検査手段14を二次元方向に移動可能としてもよく、基板1及びレーザー光照射手段12の両者を共に移動可能としてもよい。ただし、基板1が、ロールフィルムから帯状をなして連続的に供給される場合には、レーザー光照射手段12及び検査手段14を二次元方向に移動可能にすることが好ましい。
【0029】
図2に示すように、前記レーザー光照射手段12は、太陽電池基板上方に配置された加工ヘッド11に取付けられており、所定出力のレーザー光を出力するレーザー光発振器12aと、その光を所定方向に向けて照射する、光ファイバや光集束レンズなどからなる光学エレメント12bとを有している。
【0030】
前記検査手段14は、レーザー光の反射光を受光して電気量に変換する受光素子14aと、その電気量を処理して照度(ここでは反射強度)を出力する照度計14bと、その照度に基づいて切断の良否を判定して、その結果を前記出力手段に送る判定処理装置14cとを有している(図1,2参照)。この実施形態では、検査手段14は、前記レーザー光照射手段12と同様に、太陽電池基板上方に配置された加工ヘッド11に取付けられている(図2参照)。その結果、前記レーザー光照射手段12と検査手段14との相互の位置関係が保持されて、両者が一緒に基板1に対して相対移動するようになっている。
【0031】
また、前記出力制御手段16は、前記検査手段14の判定処理装置14cからの出力信号に基づいて、前記レーザー光照射手段12のレーザー光発振器12aに出力調整信号を送信し、光ファイバ12bから照射されるレーザー光の出力を調整するものである。
【0032】
そして、前記検査手段14によるパターニングの良否は、次のようになされる。これについて図4を参照して説明する。この図4には、レーザー光が太陽電池基板に照射されたときの、各層の切断工程が示されている。
【0033】
すなわち、レーザー光がレーザー光照射手段12から、透明電極層8に向けて照射されると、透明電極層8が切削されていき、そのときの反射光が検査手段14により検出される。
【0034】
透明電極層8が全て切削されると、図4(a)に示すように、レーザー光が光電変換層5に照射されていき、光電変換層5が所定深さで溝状に切削されると共に、その溝の内面でレーザー光が反射して、その反射光が検査手段14により検出される。このとき、光電変換層5の光反射率は、前記透明電極層8や後述する金属膜からなる電極層の光反射率よりも低いので、検出される反射光の強度は比較的低くなる。
【0035】
図4(b)に示すように、レーザー光が光電変換層5を全て切削して裏面電極層3に至ると、露出した裏面電極層3の表面で反射して、その反射光が検査手段14に検出される。このとき、金属膜からなる裏面電極層3の光反射率は、光電変換層5の光反射率よりも高いので、反射光の強度が低い状態から高い状態に変化することにより、切削深さが裏面電極層3に達したことがわかる。
【0036】
図4(c)に示すように、更に、レーザー光が照射されると、裏面電極層3も切削されて、基板1が露出することになる。この場合、基板1が透光性を有する場合は、レーザー光は、基板1を透過して背面電極層7で反射され、その反射光が検査手段14に検出される。背面電極層7が裏面電極層3よりも厚い場合には、その光反射率が裏面電極層3よりも高くなるが、基板1を2度通過することによる光の減衰が生じるので、検査手段14で検出された光は、上記背面電極層7の光反射率と基板1を通過することによる光の減衰によって影響される強度となる。いずれにしても、この反射光の強度は、裏面電極層3での反射光の強度とは異なるので、検査手段14で検出される反射光の強度が変化することになり、それによって裏面電極層3も切削されたことがわかる。
【0037】
以上のように、レーザー光が基板1上の積層膜をそれぞれ切削するに伴って、検査手段14で検出される反射光の強度が変化するので、それによって切削層がどこまで達したか(レーザー光による生成された切削溝の底面が、積層膜のどの辺りに位置するか)を検出することができ、目的とする切断が確実になされたかどうかを判定することが可能となる。反射光の強度変化の回数や強度は、基板1上に積層された光電変換層5の積層数等によって異なるので、対象とする層構成と、目的とする切削深さによって、切削の良否の判定をするための、反射光の強度変化の回数や、強度変化の大きさを設定する。
【0038】
次に、この実施形態におけるレーザースクライブ装置10の使用方法及び作用効果を説明する。
【0039】
すなわち、移動手段20により太陽電池基板を適宜移動させて、加工ヘッド11の下方にセットする。その後、太陽電池基板の積層膜に向けて、レーザー光照射手段12からレーザー光を照射する。
【0040】
すると、積層膜に反射したレーザー光の反射光が、減光手段18を介して検査手段14により検出される。そして、その反射光の反射強度が、低い状態(レーザー光が透明電極層8及び光電変換層5を切削中のとき:図4(a)参照)から高い状態に変化し(レーザー光が裏面電極層3に至ったとき:図4(b)参照)、更に低い状態に変化したとき(レーザー光が背面電極層7に至ったとき:図4(c)参照)、すなわち、反射光の反射強度の強度変化が2回検出されたときに、レーザー光が、透明電極層8、光電変換層5及び裏面電極層3を切断したものと判断される。なお、レーザー光が裏面電極層3を切断したとき、背面電極層7がある場合は、背面電極層7による反射光が検出されることになるが、該反射光は、基板1を2回通過することによる光の減衰が起こる。また、背面電極7が設けられていない場合には、光が透過して反射光が生じないので、いずれにしても光の減衰が起こることになる。
【0041】
このように、レーザー光の反射光を検査手段14によって検出することにより、透明電極層8や光電変換層5、裏面電極層3が所定のパターンに切削されたかどうかのパターニングの良否を、製品が連続的に生産されるライン工程等において、リアルタイムで判定することができる。
【0042】
レーザー光を照射した箇所の切削がなされたら、移動手段20により、基板1と、レーザー光照射手段12及び検査手段14とを相対移動させて、レーザー光の照射位置を隣接するスポットにずらし、再びレーザー光を照射して切削を行い、これを繰り返すことにより、基板1上の積層膜を所定のラインに沿って切削することができる。
【0043】
このとき、この実施形態では、レーザー光照射手段12及び検査手段14が共に加工ヘッド11に取付けられており、両者の相互の位置関係を保って一緒に、基板1に対して相対移動させることができるので、レーザー光の反射光を検査手段14に常に同じ条件で確実に入射させることができる。
【0044】
また、前記検査手段14と太陽電池基板との間に減光手段18が配置されているので、レーザー光の反射光が所定強度を超えた場合には、該反射光を適正な強度にして検査することができ、目的する積層膜が切断されたか否かの判定をより正確に行うことができる。
【0045】
また、このレーザースクライブ装置10においては、レーザー光照射手段12により照射されたレーザー光の反射光を利用して、パターニングの良否を判定するように構成されているので、検査手段14を、太陽電池基板の入射面側、すなわち、レーザー光照射手段12と同じ面側に配置することができ、装置を簡単な構造にできると共に、コンパクト化を図ることができる。
【0046】
更に、この実施形態では、検査手段14で判定された切削の良否の判定結果が出力制御手段16に送られ、出力制御手段16によって、レーザー光照射手段12の出力が制御されて、出射されるレーザー光の強度が調整される。例えば、あるラインの切削が終了した時点で、その切削の良否の判定結果に基づいて、次のラインの切削を行うときのレーザー光照射手段12の出力を調整し、より確実な切削がなされるようにレーザー光の強度が設定される。したがって、レーザー光の出力を常に適正に保って、パターニング不良を防止しつつ、効率よく積層膜の切断作業を進めることができ、生産性を高めることができる。
【0047】
なお、上記出力制御手段16を設けずに、検査手段14によりモニタリングして切断の良否を判定するだけの構成としてもよい。
【実施例】
【0048】
1.各層の反射強度の測定
レーザー光を各層に照射したときの、反射光の反射強度(照度)を測定した。
【0049】
(1)試料の作製
(試料1)
ポリイミドフィルムからなる基板に、Ag系合金からなる電極層を積層して、試料1を作製した。
【0050】
(試料2)
ポリイミドフィルムからなる基板に、前記試料1の電極層よりも厚さの厚い、Ag系合金からなる電極層を積層して、試料2を作製した。
【0051】
(試料3)
Ag系合金からなる電極層に、微結晶シリコンからなる光電変換層を積層して、試料3を作製した。
【0052】
(2)測定方法
測定にあたっては、図5に示す構造のレーザースクライブ装置を用いた。このレーザースクライブ装置は、レーザー光発振器12aから一定出力のレーザー光が出力され、光ファイバや集束レンズ等からなる光エレメント12bを介してレーザー光が照射されるようになっている。また、前記光エレメント12bは、図示しない固定治具により固定して、測定対象の試料1〜3に対して、レーザー光がほぼ垂直に入射するように調整した。レーザー波長は、第2高調波(532nm)を用いた。
【0053】
そして、図5に示すように各試料1〜3をステージ9上にセットした。このとき、試料1は、肉薄の電極層を光ファイバ側に向けてセットし、試料2は、肉厚の電極層を光ファイバ側に向けてセットし、試料3は、光電変換層を光ファイバ側に向けてセットした。この状態で、レーザー光を各試料1〜3に照射し、その反射光を照度計14bで測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
(3)測定結果
上記表1に示すように、光電変換層を設けた試料3の照度(反射強度)は、試料1,2と比べて低いことが確認できる。また、肉厚の電極層を有する試料2の照度の方が、肉薄の電極層を有する試料1の照度よりも高く、厚さの大小により照度が変化することが分かる。このように、各層により反射光の反射強度が異なるので、反射強度の強度変化を検出することにより、積層膜に対してレーザー光がどの程度進んだかどうかを把握して、積層膜のパターニングの良否を判断可能であることが確認できた。
【0056】
2.レーザー光の出力と、反射光の反射強度(照度)との関係
レーザー光の出力と反射光の反射強度とが、どのような関係になるかを測定した。
【0057】
(1)試料の作製
ポリイミドフィルムからなる基板に、Ag系合金からなる電極層を積層し、更に、微結晶シリコンからなる光電変換層を積層して、試料4を作製した。
【0058】
(2)測定方法
測定装置は、上記と同様の図6に示す構造のレーザースクライブ装置を用いた。そのステージ9に、光電変換層を光ファイバ側に向けて試料4をセットした。この状態で、異なる出力のレーザー光を試料4に照射し、そのときの反射光の照度を測定した。図7に、その結果を示す。
【0059】
(3)測定結果
図7に示すように、レーザー光の出力を増大させるにつれて、それにほぼ比例して、反射光の照度が増加するのが分かる。これにより、レーザー光の出力と反射光の照射強度との相間関係が求められ、レーザー光の出力が変わっても影響されることなく、反射光の変動から、切削状態の変化を測定できることがわかる。
【0060】
なお、仮にレーザー光の出力に対して、反射光の反射強度に比例していなかったり、バラツキが大きかったりする場合には、反射光の反射強度の変化を測定しても、それが材料の異同によるものなのか、それとも単なる測定バラツキなのかが判断できない。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
3 裏面電極層
5 光電変換層
7 背面電極層
9 ステージ
10 レーザースクライブ装置
11 加工ヘッド
12 レーザー光照射手段
12a レーザー光発振器
12b 光ファイバ
14 検査手段
14a 受光素子
14b 照度計
14c 判定処理装置
16 出力制御手段
18 減光手段
20 移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、電極層と、少なくとも1つの光電変換層と、透明電極層とが積層されてなる太陽電池基板の積層膜を、前記透明電極層側から入射するレーザー光により切断してパターニングするレーザースクライブ装置において、
前記レーザー光を照射するレーザー光照射手段と、前記レーザー光が前記積層膜の加工面で反射した反射光を検出して切断の良否を判定する検査手段とを有することを特徴とするレーザースクライブ装置。
【請求項2】
前記検査手段の判定に基づいて前記レーザー光照射手段の出力を調整する出力制御手段を有している請求項1記載のレーザースクライブ装置。
【請求項3】
前記基板及び/又は前記レーザー光照射手段が、前記基板面に沿った二次元方向に移動可能とされ、前記レーザー光照射手段と前記検査手段とは相互の位置関係を保って一緒に前記基板に対して相対移動するように構成されている請求項1又は2記載のレーザースクライブ装置。
【請求項4】
前記検査手段は、前記レーザー光の反射光が所定強度を超えた場合に、該反射光の強度を減衰させる減光手段を有している請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーザースクライブ装置。
【請求項5】
前記太陽電池基板は、前記基板と、該基板の表裏面の少なくとも一面に形成された電極層と、該電極層上に形成された少なくとも一つの光電変換層と、透明電極層とを有し、前記電極層が金属膜からなる請求項1〜4のいずれか1つに記載のレーザースクライブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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