説明

レーザー光のコントラスト向上法及びレーザー発生装置

【課題】 レーザー光のコントラストを小型の装置構成で、簡便にかつ安価に向上させる方法及びレーザー発生装置を提供する。
【解決手段】 レーザー発振器11のパルス光出力を、パルス幅拡張器12、前段部増幅器13、減衰器14を経て、光パラメトリック増幅器15に導入し、その後光パラメトリック増幅器15の出力を後段部増幅器16、パルス幅圧縮器17を経て取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、レーザー光のコントラスト向上法及びレーザー発生装置に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、大がかりな装置を必要とせず簡便に、かつ安価にレーザー光のコントラストを向上させる方法及びレーザー発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザー発振器から出力される微弱なレーザー光は、一般に、まず高い増幅利得が容易に得られる再生増幅器で増幅される。再生増幅器はレーザー媒質を共振器内に配置したもので、光スイッチを用いてレーザー光を共振器内に取り込む。取り込まれたレーザー光は共振器内を多数回往復し、レーザー媒質内に蓄積されたエネルギーを十分に抽出した後、再び光スイッチにより共振器外に取り出される。このような構成においては、光スイッチを用いるため、その光スイッチでのレーザー光の切り出し漏れがあり、コントラストが悪いという問題がある。
【0003】
そこで、従来からコントラストの向上法として、再生増幅器の後段にパルススライサーを配置する方法(以下、RA法と称する)が広く用いられている。図1及び図2(a)、(b)に、それぞれRA法を適用した装置構成図と、再生増幅器出力後のコントラストとパルススライサー通過後のコントラストを示す。図1において、(1)はレーザー光、(2)は再生増幅器、(3)はパルススライサーである。また、図2において、(4)はプリパルス、(5)はメインパルスである。
【0004】
図1のような構成にすると、再生増幅器(2)からの出力光に対し1つ又は複数個のパルススライサー(3)により、メインパルスのみを取り出すことでコントラストを向上させることができる。このRA法を用いることにより6桁、つまり106のコントラストが得られている。
【0005】
近年の高強度レーザー発生技術の進展により、レーザーの集光強度として1020W/cm2が実現されている。このため1010以上のコントラストがないと、高強度を有するメインパルスが物質と相互作用する前にターゲット材が破損し、かつ予備プラズマが形成され、メインパルスの物質との相互作用が妨げられる。従って、このRA法で得られるコントラストでは、不十分なものになっている。
【0006】
最近になってコントラスト向上法として光パラメトリック増幅とチャープパルス増幅を同時に行う手法が提案された(非特許文献1)。この手法ではコントラストは光パラメトリック増幅器の増幅利得となる。このため、1010以上のコントラストを得るにはnJのレーザー発振器からの出力光を10J程度にまで増幅する必要があるので、kJクラスの励起レーザーが必要となり、理論的には1010以上のコントラストが可能であるが、非常に大型の装置構成を必要としかつ高価となるため現実的ではない。
【非特許文献1】I. N. Ross, P. Matousek, M. Towrie, A. J. Langley, J. L. Collier, "The prospect for ultrashort pulse duration and ultrahigh intensity using optical parametric chirped pulse amplifiers", Optics Communications, vol. 144, p.125-133 (1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたもので、レーザー光のコントラストを小型の装置構成で、簡便にかつ安価に向上させる方法及びレーザー発生装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この出願の発明は、上記問題を解決するため、第1には、レーザー増幅器から出力されるレーザー光を減光し、光パラメトリック増幅器で増幅することにより、レーザー光の時間波形に存在するプリパルスとメインパルスの強度比(コントラスト)を増大させたレーザー光を得ることを特徴とするレーザー光のコントラスト向上法を提供する。
【0009】
また、第2に、上記第1の発明において、光パラメトリック増幅器で増幅して得られるレーザー光が、周波数が時間的に変化するチャープパルス光であることを特徴とするレーザー光のコントラスト向上法を提供する。
【0010】
また、第3には、上記第1又は第2の発明において、レーザー光を出力するレーザー発振器と、レーザー発振器からのレーザー光のパルス幅を拡張するパルス幅拡張器と、前段部増幅器と後段部増幅器を有し、パルス幅拡張器からのレーザー光の強度を多段階的に増幅する多段レーザー増幅器と、多段レーザー増幅器からのレーザー光のパルス幅を圧縮するパルス幅圧縮器を備えたレーザーシステムにおけるレーザー光のコントラスト向上法であって、多段レーザー増幅器の前段部増幅器から出力されるレーザー光を減光し、光パラメトリック増幅器で選択的にメインパルスのみを増幅した後、多段レーザー増幅器の後段部増幅器に入力することを特徴とするレーザー光のコントラスト向上法を提供する。
【0011】
また、第4には、上記第1から第3のいずれかの発明において、光パラメトリック増幅器として、複数個の非線形光学結晶を用いたものを使用し、レーザー光の周波数帯域を拡大、かつ、任意の形状に制御できることを特徴とするレーザー光のコントラスト向上法を提供する。
【0012】
さらに、第5には、レーザー光を出力するレーザー発振器と、レーザー発振器からのレーザー光のパルス幅を拡張するパルス幅拡張器と、前段部増幅器及び後段部増幅器を有し、パルス幅拡張器からのレーザー光の強度を多段階的に増幅する多段レーザー増幅器と、多段レーザー増幅器からのレーザー光のパルス幅を圧縮するパルス幅圧縮器を備えたレーザー発生装置であって、多段レーザー増幅器の前段部増幅器から出力されるレーザー光の強度を減光する減衰器と、減衰器からの出力に対し選択的にメインパルスのみを増幅し、多段レーザー増幅器の後段部増幅器に入力する光パラメトリック増幅器を設けたことを特徴とするレーザー発生装置を提供する。
【0013】
なお、この出願の明細書において、コントラストとは、レーザー光の時間波形に存在するプリパルスとメインパルスの強度比のことを意味する。
【発明の効果】
【0014】
この出願の発明によれば、レーザー増幅器から出力されるレーザー光を減光し、光パラメトリック増幅器で増幅することにより、レーザー光のコントラストを小型の装置構成で、簡便にかつ安価に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図3及び図4(a)、(b)に、それぞれこの出願の発明の実施形態にかかる例としてのレーザー光のコントラスト向上法を実施するためのレーザー発生装置の基本構成図と、従来方法で得られるコントラストとこの出願の発明の実施形態の方法で得られるコントラストを示す。
【0017】
この実施形態のレーザー発生装置は、レーザー発振器(11)、パルス幅拡張器(12)、前段部増幅器(13)、減衰器(14)、光パラメトリック増幅器(OPCPA)(15)、後段部増幅器(16)及びパルス幅圧縮器(17)を有する。前段部増幅器(13)と後段部増幅器(16)は、多段レーザー増幅器を構成する。
【0018】
レーザー発振器(11)は、微弱なレーザー光を出力する。パルス幅拡張器(12)は、レーザー発振器(11)からのレーザー光のパルス幅を拡張し、前段部増幅器(13)に送る。前段部増幅器(13)はたとえば再生増幅器と1つ又は複数個のパルススライサーより構成され、再生増幅器で増幅されたレーザー光からメインパルスのみを取り出す。再生増幅器としては、チタンサファイア増幅器等が使用される。再生増幅器の励起光源としては、Nd:YAGレーザーの第2高調波等のレーザーが使用される。また、パルススライサーとしては、たとえばウエッジ板、ポラライザー、波長板等を利用したものが使用される。前段部増幅器(13)からの出力光は、たとえばコントラスト106、波長800nm(中心波長)、パルス幅1ns(FWHM)のようなレーザーパルス光となる。減衰器(14)は、コントラストを維持したままエネルギーをたとえば10-6のオーダーで減衰させる。そのため、光パラメトリック増幅器(15)において必要とされる励起レーザーのエネルギーは光パラメトリック増幅器のみで同じコントラストを得るのに比して1000分の1から10000分の1程度で済み、小型で安価で極めて高いコントラストを得ることができる。光パラメトリック増幅器(15)は、たとえばBBO結晶、LBO結晶、CLBO結晶等の非線形光学結晶を複数個用いて構成される。複数個の非線形光学結晶を用いることにより、各結晶において位相整合角をわずかに変えて増幅する周波数帯域をずらすことにより、増幅されるレーザー光の周波数帯域を拡大、かつ、任意の形状に制御することができる。光パラメトリック増幅器(15)の励起光源としては、Nd:YAGレーザーの第2高調波等のレーザーが使用される。光パラメトリック増幅器(15)の増幅利得は、106のオーダーの高利得となる。また、光パラメトリック増幅器(15)は広周波数帯域のレーザー光の増幅が可能であるので、光パラメトリック増幅器(15)で増幅して得られるレーザー光は周波数が時間的に変化するチャープパルス光となる。後段部増幅器(16)は光パラメトリック増幅器(15)で得られた高いコントラストのレーザー光の強度をさらに増幅して数百mJ程度とし、パルス幅増幅器(17)に送る。後段部増幅器(16)には、たとえばチタンサファイアレーザー増幅器が使用される。また、チタンサファイアレーザー増幅器の励起光源としては、たとえばNd:YAGレーザーの第2高調波等のレーザーが使用される。パルス幅増幅器(17)は、パルス幅を圧縮して、1012のオーダーの高いコントラストで高いエネルギーのレーザー光を出力する。
【0019】
上記において、光パラメトリック増幅器(15)での増幅の後に、さらに光パラメトリック増幅器での増幅を行ってもよいし、再度減衰器での減光及び光パラメトリック増幅器での増幅を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を掲げてこの出願の発明をより具体的に説明する。
【0021】
レーザー発振器(11)にはモードロックチタンサファイアレーザーを用いた。パルス拡張器(12)にはグレーティングストレッチャーを用いた。前段部増幅器(13)にはチタンサファイアレーザー再生増幅器と、その出力光からメインパルスのみを取り出すためのパルススライサーを2つ用いた。パルススライサーはポッケルスセルとポラライザーの組み合わせを用いた。チタンサファイアレーザー再生増幅器の励起光源としてはNd:YAGレーザーの第2高調波を用いた。前段部増幅器(13)のレーザーの出力光はコントラスト106、パルス当たりのエネルギー1mJ、レーザー波長800nm(中心波長)、パルス幅1ns(FWHM)であった。
【0022】
減衰器(14)にはウエッジ板1枚、800nmの波長で無反射コートを施したウエッジ板1枚、及びポラライザーと波長板の組合せを用い、入力したレーザー光の強度をコントラストは維持したまま5×10-6減衰させた。光パラメトリック増幅器(15)にはBBO結晶を2つ用いた。1つ目のBBO結晶のサイズは入射面が7mm×7mm、長さが16mm、2つ目のBBO結晶のサイズは入射面が7mm×7mm、長さが19.5mmであった。光パラメトリック増幅器(15)の励起光源としてはパルス当たりのエネルギー300mJ、レーザー波長532nm、パルス幅5.5ns(FWHM)で発振するNd:YAGレーザーの第2高調波を用いた。光パラメトリック増幅器(15)の増幅利得は6×106、増幅後の周波数帯域は約100nm(FWHM)となる広帯域増幅であり、出力エネルギーは約25mJであった。また、RA法を用いた前段部増幅器(13)で得られるコントラストが106であったので、全体として6×1012の高いコントラストが得られた。光パラメトリック増幅器(15)の出力光は、後段部増幅器(16)で増幅し、一桁高い約300mJの高いエネルギーのレーザー光が得られた。後段部増幅器(16)にはチタンサファイアレーザー増幅器を用いた。チタンサファイアレーザー増幅器の励起光源はNd:YAGレーザーの第2高調波を用いた。最後に、後段部増幅器(16)の出力光をパルス幅圧縮器(17)で圧縮することにより、高コントラストで高エネルギーのレーザー光が得られた。
【0023】
図5にコントラストの実験結果を示す。出力されるレーザー光を高速のフォトダイオードで受光し、その信号を高速のオシロスコープで測定したものである。減衰率が既知のフィルターをフォトダイオードの前に順次配置し、メインパルスが検知できる限界まで減衰させた。本測定系の検知限界は、挿入したフィルターの減衰率より4.4×10-11であった。その後フィルターを順次取り除き、プリパルスが検知できるかどうかを確認した。フィルターを全て取り除いた状態(検知限界)でも、メインパルスの中心に対して10.9ns前に存在するはずのプリパルスを検知できなかったので、少なくともコントラストは4.4×10-11であり、従来よりも大幅にコントラストが向上していることが実験的に確認された。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】再生増幅器及びパルススライサーを用いた従来のレーザー光のコントラスト向上法の説明図である。
【図2】再生増幅器出力後のコントラスト(a)とパルススライサー透過後のコントラスト(b)を示す図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる例としてのレーザー光のコントラスト向上法を実施したレーザー発生装置の基本構成を示すブロック図である。
【図4】従来方法で得られるコントラスト(a)とこの出願の発明で得られるコントラスト(b)を示す図である。
【図5】この出願の発明の実施例におけるコントラストの実験結果を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
11 レーザー発振器
12 パルス幅拡張器
13 前段部増幅器
14 減衰器
15 光パラメトリック増幅器
16 後段部増幅器
17 パルス幅圧縮器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー増幅器から出力されるレーザー光を減光し、光パラメトリック増幅器で増幅することにより、レーザー光の時間波形に存在するプリパルスとメインパルスの強度比(コントラスト)を増大させたレーザー光を得ることを特徴とするレーザー光のコントラスト向上法。
【請求項2】
光パラメトリック増幅器で増幅して得られるレーザー光が、周波数が時間的に変化するチャープパルス光であることを特徴とする請求項1記載のレーザー光のコントラスト向上法。
【請求項3】
レーザー光を出力するレーザー発振器と、レーザー発振器からのレーザー光のパルス幅を拡張するパルス幅拡張器と、前段部増幅器及び後段部増幅器を有し、パルス幅拡張器からのレーザー光の強度を多段階的に増幅する多段レーザー増幅器と、多段レーザー増幅器からのレーザー光のパルス幅を圧縮するパルス幅圧縮器を備えたレーザーシステムにおけるレーザー光のコントラスト向上法であって、多段レーザー増幅器の前段部増幅器から出力されるレーザー光を減光し、光パラメトリック増幅器で選択的にメインパルスのみを増幅した後、多段レーザー増幅器の後段部増幅器に入力することを特徴とする請求項1又は2記載のレーザー光のコントラスト向上法。
【請求項4】
光パラメトリック増幅器として、複数個の非線形光学結晶を用いたものを使用し、レーザー光の周波数帯域を拡大、かつ、任意の形状に制御できることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のレーザー光のコントラスト向上法。
【請求項5】
レーザー光を出力するレーザー発振器と、レーザー発振器からのレーザー光のパルス幅を拡張するパルス幅拡張器と、前段部増幅器及び後段部増幅器を有し、パルス幅拡張器からのレーザー光の強度を多段階的に増幅する多段レーザー増幅器と、多段レーザー増幅器からのレーザー光のパルス幅を圧縮するパルス幅圧縮器を備えたレーザー発生装置であって、多段レーザー増幅器の前段部増幅器から出力されるレーザー光の強度を減光する減衰器と、減衰器からの出力に対し選択的にメインパルスのみを増幅し、多段レーザー増幅器の後段部増幅器に入力する光パラメトリック増幅器を設けたことを特徴とするレーザー発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−229079(P2006−229079A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42974(P2005−42974)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】