説明

レーザー光の遮蔽機構

【課題】 簡単な構造で拡散光が減衰し得るレーザー光の遮蔽機構を提供する。
【解決手段】 レーザー光を入射し、内部にて複数回減衰反射させることによりレーザ光を減衰させる減衰部10と、レーザー光の光路に減衰部10を進退させる駆動装置20とを備えたレーザー光の遮蔽機構1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光の遮蔽機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザー光の光路を変更する光路変更手段と、光路変更手段を駆動する駆動装置とを備えた加工用レーザー装置が知られており、この様な加工用レーザー装置は、レーザー光を加工物に照射しない時には、光路変更手段をレーザー光の光路中に挿入し、レーザー光の光路を変更し、レーザー光受け手段へと導くように構成されている。光路変更手段としては、ミラー、プリズム、又は平行板が使用され、レーザー光受け手段は、冷却水により冷却又は空冷されている構成が特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−62583号公報(第1頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の加工用レーザー装置では、光路変更手段によってレーザー光の光路を変更してレーザー光受け手段に導く際、光路変更手段およびレーザー光受け手段において拡散光が発生する。この場合、拡散光の発生を防ぐためには、光路変更手段や光受け手段等の各部に遮光用フード等を設けることも考えられるが、遮光用フードを用いると複雑で大がかりな装置になり、コンパクト化や低コスト化が難しくなる。
【0005】
そこで、本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で拡散光が減衰し得るレーザー光の遮蔽機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するために講じた第1の技術的手段は、レーザー光を入射し、内部にて複数回反射させることにより前記レーザー光を減衰させる減衰部と、前記レーザー光の光路に対して前記減衰部を進退させる駆動装置とを備える構成としたことである。
【0007】
この場合、前記減衰部は、前記レーザー光の入射側に開く円錐状または角錐状の入射部を有すると良い。
【0008】
また、前記入射部の反射面は、耐熱黒色材により処理されていると良い。
【0009】
また、前記減衰部は、前記駆動装置と伝熱的に接続されていると良い。
【0010】
また、前記駆動装置は、非通電時に前記減衰部が前記レーザー光の光路を遮断すると良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、レーザー光を内部にて複数回反射させる減衰部を駆動装置によってレーザー光の光路に進退させるという、簡単な構造で、レーザー光からの拡散光の発生を抑制し得るレーザー光の遮蔽機構を提供することが出来る。
【0012】
この場合、減衰部のレーザー光の入射側に開く円錐状または角錐状の入射部で反射させて、レーザー光を複数回減衰させて反射させることにより、減衰部の外側への光の拡散を防ぐことが出来る。
【0013】
また、減衰部の凹部反射面を耐熱黒色材により処理されているので、その処理によりレーザー光の減衰反射が得られると共に、減衰部の熱による劣化を抑制することが出来る。
【0014】
また、レーザー光により減衰部に生じる熱を、前記駆動装置へと逃がすことが出来るため、放熱面積を増大させ、効率的な放熱が可能となる。
【0015】
万一、駆動装置に不具合が起きて通電しない、又は通電しても駆動出来ない等の事態が発生したとしても、レーザー光は減衰部により遮断されるため、より安全側で遮蔽機構は動作するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係るレーザー光の遮蔽機構の構成を示す側面図である。
【図2】図1に示す遮蔽機構のレーザー光の入射側から見た正面図である。
【図3】図1に示す遮蔽機構の減衰部(θ=60°)での反射の様子を示す説明図である。
【図4】図1に示す遮蔽機構の減衰部(θ=45°)での反射の様子を示す説明図である。
【図5】図1に示す遮蔽機構の減衰部(θ=30°)での反射の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
図1は、本実施例に係るレーザー光の遮蔽機構1の構成を示す側面図であり、図2は、本実施例に係るレーザー光の遮蔽機構1をレーザー光の入射側から見た正面図である。
【0019】
本実施例のレーザー光の遮蔽機構1は、レーザー光を入射し、内部で複数回反射させることにより減衰させる減衰部10と、減衰部10をレーザー光の光路に進退させるように回転または直線駆動するアクチュエータ(駆動装置)20とを備える。減衰部10はレーザー光の遮蔽を行うクランク状に形成された遮蔽板30の一方の端部近傍に固定され、遮蔽板30は図1においてはアクチュエータ20の出力である回転軸21に対してネジまたはカシメにより固定され、回転軸21と一体的に動く。アクチュエータ20は、本実施例ではロータリーソレノイドを用いており、遮蔽機構1の取り付け板40に取り付けられ、取り付け板40はレーザー装置の図示しないケーシングに取り付けられる。取り付け板40には、レーザー光が通過するレーザー光の通過穴41が設けられ、レーザー光通過穴41をレーザー光が透過する。尚、本実施例ではアクチュエータ20を用いているが、ロータリーソレノイドに限定されるものではなく、モータや歯車機構であっても良い。また、直線的に減衰部10を動作させ、レーザー光の光路を遮蔽するものであればこれに限定されない。
【0020】
図3は、本実施例に係るレーザー光の遮蔽機構1の減衰部10での反射状態を示す減衰部10の説明図である。減衰部10は、レーザー光の入射側に開いた円錐状の反射面12を有する。この円錐状の凹部11の開口径は、入射するレーザー光のビーム径以上であることが必要である。
【0021】
本実施例では、減衰部10は、伝熱性の良いアルミ材を用いている。減衰部10の凹部11の反射面12は、レーザー光を反射させて減衰させるために、耐熱黒色材である黒色アルマイトで表面処理されている。なお、減衰部10及び遮蔽板30の材質は、アルミ材に限られず、その他の金属材、炭素繊維、耐熱樹脂等でも可能である。また、減衰部10と遮蔽板30は、必ずしも同じ材質でなくても良いが、同じ材質の方が伝熱性の面から好ましい。
【0022】
図1において、遮蔽板30の形状はクランク状に屈曲しており、減衰部10をレーザー光通過穴41に近づける構成となっている。これにより、レーザー光の遮蔽機構1をコンパクトに構成することが出来、レーザー装置の外側への漏れ光(拡散光)を防ぐことができる。尚、遮蔽板30の形状は、特にクランク形状に限られるものではなく、平板でもよいし、弓状に形成することにより減衰部10を遮蔽板41に近づける構成にしてもよい。
【0023】
また、減衰部10、減衰部10の一方の端面が当接して取り付けられるクランク状の遮蔽板30は伝熱的に接続されていると共に、遮蔽板30を駆動するアクチュエータ20とアクチュエータ20の取り付け板40は、伝熱的に接続され、遮蔽機構1にて発生する熱が取り付け板40を介してケーシング側に逃げる構成となっている。
【0024】
駆動装置としては、特にアクチュエータ20に限定されず、ステッピングモータ、直動型ソレノイドなどを採用することも出来る。
【0025】
減衰部10の凹部11の形状は円錐形に限らず、レーザー光の入射側に開いた角錐状などレーザー光を複数回反射させて減衰させる形状であれば良い。減衰部10の凹部11が角錐形である場合、角錐形の前記凹部の開口は前記レーザー光のビーム断面と同等又はそれよりも大きいものとすることができる。なお、凹部が角錐形である場合の側面図は、円錐形である場合のものと同様であるので、円錐形のもので代用することが出来る。
【0026】
次に、本実施例に係るレーザー光の遮蔽機構1の動作について説明する。アクチュエータ20は通電により動作し、アクチュエータ20の非通電時には、遮蔽板30及び減衰部10は、図2の実線で示された位置(第1位置:レーザー光が通過穴41を通過することができない遮蔽位置)にあり、図1のように、この位置では減衰部10はレーザー光を確実に遮断することが出来る。一方、アクチュエータ20の通電時には、アクチュエータ20の回転軸21が図2に示す時計方向に一定の範囲で回動し、回転軸21に固定された遮蔽板30及び遮蔽板30に固定された減衰部10は、図2に示す点線で描かれた位置(第2位置:レーザー光が通過穴41を通過する開放位置)へと回動する。よって、この位置ではレーザー光は遮蔽機構1に遮断されることなく、図1に示す取り付け板40に設けられたレーザー光の通過穴41を確実に通過する。従って、万一、アクチュエータ20に不具合等が発生してアクチュエータ20に通電できない又は通電してもアクチュエータ20が所望の動作により駆動出来ない等の事態になったとしても、レーザー光は減衰部10により非通電時と同じように確実に遮断されるものとなるので、より安全側に遮蔽機構1を動作させるようにすることが可能となる。
【0027】
図3のように、反射面12がθ=60°の場合には、レーザー光が減衰部10に入射すると、円錐状の凹部11に形成された黒色アルマイト処理された反射面12において、複数回反射して減衰して入射側へ戻る。この時、黒色アルマイトの反射率は約20%(但し、波長1040nmの時)なので、1回の減衰反射でレーザー光は約80%減衰する。図3のように、凹部11の円錐状の頂角θ=60°の時、レーザー光は2回目の反射面12では反射板12に対して直角に入射し、入射した角度で反射され、減衰部10の凹部11の反射面12で3回減衰反射されるので、0.2=0.008倍程度に減衰されて入射経路と反射経路が同じ経路をたどり入射側へ戻るものとなる。黒色アルマイトによりレーザー光が減衰される際、レーザー光のエネルギーは、黒色アルマイトにより吸収され、熱エネルギーとなる。減衰部10の凹部11の反射面12で生じた熱は、伝熱的に接続された減衰部10、減衰部10の端面が取り付けられる遮蔽板30、遮蔽板30を駆動するアクチュエータ20、取り付け板40を順次介してケーシング側に放熱されるものとなる。
【0028】
この場合、減衰部10の凹部11は円錐状であるので、円錐形の立体角方向の外側への光の拡散を防ぐことが出来る。また、凹部11の円錐形の頂角θが約60度の時、頂角θの二等分線に平行に凹部11へと入射したレーザー光は、減衰反射されて元の光路に戻るため、入射レーザーの光路の外側に広がらない利点がある。
【0029】
以上のように、本発明の遮蔽機構1によれば、レーザー光を遮断する際の減衰部10での反射光及び拡散光を十分に減衰出来る。また、遮蔽機構1そのものが放熱作用を奏するため、別途大型な吸熱部または放熱装置を設ける必要がなく、装置の小型軽量化に有効である。
【0030】
また、減衰部10の凹部11が円錐状や角錐状等の単純な形状で、凹部11へのレーザー光に対する減衰率を幾何光学的に容易に算出出来るので、容易に設計・開発をすることが出来、低コスト化が可能である。また、実験値と算出値とは良い一致が得られるので、信頼性も高い。さらに、軽量な遮蔽板30及び減衰部10で遮蔽機構1を構成出来るので、高速な加工レーザー用(例えば、シャッター開閉時間5〜10ms)にも採用出来る。
【0031】
なお、減衰部10及び遮蔽板30の材質は、必要とされる軽量性、耐熱性、熱伝導性を考慮して適切なものを選択可能である。シャッター速度を上昇させるにはより軽量な材質が良い。受けるレーザー光のエネルギーが大きい場合には、レーザー光を受けて減衰部10に生じ遮蔽板30に伝わる熱も大きいため、耐熱性の高いものが望ましい。減衰部10及び遮蔽板30の熱伝導性が良い場合、減衰部10が局所的に高温になるのを防げるのと同時に、熱伝導を介した放熱を迅速に行うことが出来る。遮蔽板30の形状は、十分な放熱が得られる限りにおいて特に限定されず、例えば、遮蔽板30を高速で駆動するために複数の穴を設けても良い。但し、穴を設けると熱伝導性が低下するので留意が必要である。
【0032】
図4は、頂角の角度を変えた変形例であり減衰部10の凹部11の反射を示す説明図である。例えば、図4のように、減衰部10の円錐状の凹部11の頂角θ=45°の時、レーザー光は減衰部10の円錐形の凹部11の反射面で2回減衰反射され、0.2=0.04倍程度に減衰されて入射側へ戻る構成とすることができる。
【0033】
図5は、更に頂角の角度を変えた変形例であり、減衰部10の凹部11での反射を示す説明図である。例えば、図5のように、減衰部10の円錐状の凹部11の頂角θ=30°の時、レーザー光は減衰部10の円錐状の凹部11の反射面12で5回反射して減衰され、入射のレーザー光の光量を「1」とした場合、入射に対して0.2=0.0003倍程度に減衰されて入射側へ戻る。
【0034】
このように、減衰部10の円錐状の凹部11の頂角θを変更することで、入射光の減衰率を容易に変更することが出来る。円錐状の頂角θが小さくなるほど、高い減衰率を得ることが出来る。よって、レーザー光の減衰要求と装置の小型化要求を考慮することによって、妥当な円錐形の頂角θを決めることが出来る。
【0035】
なお、アクチュエータ20等の駆動装置の取り付け板40を取り付ける場所は、必ずしもレーザー装置のケーシングに限られない。また、レーザー装置のケーシングそのものにアクチュエータ等の駆動装置を取り付ける構成としても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 レーザー光の遮蔽機構
10 減衰部
11 凹部
12 反射面
20 アクチュエータ(駆動装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を入射し、内部にて複数回反射させることにより前記レーザー光を減衰させる減衰部と、
前記レーザー光の光路に対して前記減衰部を進退させる駆動装置と、
を備えることを特徴とするレーザー光の遮蔽機構。
【請求項2】
前記減衰部は、前記レーザー光の入射側に開く円錐状または角錐状の入射部を有することを特徴とする請求項1に記載のレーザー光の遮蔽機構。
【請求項3】
前記入射部の反射面は、耐熱黒色材により処理されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザー光の遮蔽機構。
【請求項4】
前記減衰部は、前記駆動装置と伝熱的に接続されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーザー光の遮蔽機構。
【請求項5】
前記駆動装置は、非通電時に前記減衰部が前記レーザー光の光路を遮断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーザー光の遮蔽機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−33699(P2011−33699A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177798(P2009−177798)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】