説明

レーザー光線照射装置およびレーザー加工機

【課題】音響光学偏向手段を構成する音響光学素子の温度を所定の範囲に維持して高精度の加工をすることができるレーザー光線照射装置およびレーザー加工機を提供する。
【解決手段】パルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器61と繰り返し周波数設定手段62とを備えたレーザー光線発振手段6と、レーザー光線発振手段が発振したパルスレーザー光線の光軸を偏向するとともに出力を調整する音響光学偏向手段7と、音響光学偏向手段を制御する制御手段8とを具備しているレーザー光線照射装置であって、制御手段は、繰り返し周波数設定手段からの繰り返し周波数設定信号に基づいて、パルスレーザー光線発振器が発振したパルスレーザー光線のパルス幅を含む所定時間幅の駆動パルス信号を音響光学偏向手段に出力するとともに、駆動パルスの間に補正パルス信号を音響光学偏向手段に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射装置およびレーザー光線照射装置を装備したレーザー加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては、略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイスを形成する。そして、半導体ウエーハを分割予定ラインに沿って切断することによりデバイスが形成された領域を分割して個々の半導体チップを製造している。
【0003】
装置の小型化、高機能化を図るため、複数の半導体チップを積層し、積層された半導体チップの電極を接続するモジュール構造が実用化されている。このモジュール構造は、半導体ウエーハにおける電極が形成された箇所に貫通孔(ビアホール)を形成し、この貫通孔(ビアホール)に電極と接続するアルミニウム等の導電性材料を埋め込む構成である。(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2003−163323号公報
【0004】
上述した半導体ウエーハに設けられる貫通孔(ビアホール)は、ドリルによって形成されている。しかるに、半導体ウエーハに設けられる貫通孔(ビアホール)は直径が90〜300μmと小さく、ドリルによる穿孔では生産性が悪いという問題がある。
【0005】
一方、半導体ウエーハ等の被加工物に効率よく細孔を形成することができるレーザー加工装置が下記特許文献2に開示されている。このレーザー加工装置は、被加工物を保持するチャックテーブルとレーザー光線照射手段との相対的な加工送り量を検出する加工送り量検出手段と、被加工物に形成する細孔のX,Y座標値を記憶する記憶手段と、記憶手段に記憶された細孔のX,Y座標値と加工送り量検出手段からの検出信号に基づいてレーザー光線照射手段を制御する制御手段とを具備し、被加工物に形成する細孔のX,Y座標値がレーザー光線照射手段の集光器の直下に達したら1パルスのレーザー光線を照射するように構成したものである。
【特許文献2】特開2006−247674号公報
【0006】
しかるに、被加工物に貫通孔を形成するには、同一個所に複数回パルスレーザー光線を照射する必要があるが、上述したレーザー加工装置を用いると、被加工物の移動を複数回実施しなければならず、生産性の面で必ずしも満足し得るものではない。
【0007】
このような要求に対応するため本出願人は、音響光学素子を用いた音響光学偏向手段を備えたレーザー光線照射手段を装備し、レーザー光線発振手段が発振したレーザー光線の光軸を音響光学素子を通過する際に偏向することにより、被加工物を加工送りしつつ同一加工位置にレーザー光線を照射するようにしたレーザー加工装置を特願2005−362236号として提案した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
而して、音響光学偏向手段は、レーザー光線発振手段が発振したレーザー光線の光軸を偏向する音響光学素子と、該音響光学素子にRF(radio frequency)を印加するRF発振器と、該RF発振器から出力されるRFの周波数を調整する偏向角度調整手段と、RF発振器によって生成されるRFの振幅を調整する出力調整手段とからなり、音響光学素子にRFを印加し続けると音響光学素子に熱歪が生じ、レーザー光線の偏向角度に誤差が生じたり、レーザー光線の出力が不均一となり、高精度の加工をすることができないという問題がある。また、音響光学素子の温度が所定の範囲に維持されていないと、レーザー光線の偏向角度に誤差が生じたり、レーザー光線の出力が不均一となり、高精度の加工をすることができないという問題がある。
【0009】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、音響光学偏向手段を構成する音響光学素子の温度を所定の範囲に維持して高精度の加工をすることができるレーザー光線照射装置およびレーザー加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、パルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器と、該パルスレーザー光線発振器から発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定手段とを備えたレーザー光線発振手段と、
該レーザー光線発振手段が発振したパルスレーザー光線の光軸を偏向する音響光学素子と、該音響光学素子にRFを印加するRF発振器と、該RF発振器から出力されるRFの周波数を調整する偏向角度調整手段と、RF発振器によって生成されるRFの振幅を調整する出力調整手段とを備えた音響光学偏向手段と、
該偏向角度調整手段および該出力調整手段を制御する制御手段と、
該音響光学偏向手段によって偏向されたレーザー光線を集光する集光器と、を具備しているレーザー光線照射装置において、
該制御手段は、該繰り返し周波数設定手段からの繰り返し周波数設定信号に基づいて、該パルスレーザー光線発振器が発振したパルスレーザー光線のパルス幅を含む所定時間幅の第1の駆動パルス信号を該偏向角度調整手段に出力し第2の駆動パルス信号を該出力調整手段に出力するとともに、該第1の駆動パルス信号および該第2の駆動パルス信号からなる駆動パルスの間に補正パルス信号を該RF発振器に出力する、
ことを特徴とするレーザー光線照射装置が提供される。
【0011】
上記制御手段は、上記補正パルス信号を上記偏向角度調整手段または上記出力調整手段に出力する。
また、上記音響光学偏向手段はRF発振器によって生成されるRF出力を調整するRF出力補正手段を具備し、上記制御手段は上記補正パルス信号をRF出力補正手段に出力する。
上記制御手段は、上記第1の駆動パルス信号と第2の駆動パルス信号と補正パルス信号の電圧を設定した制御マップを備えていることが望ましい。
【0012】
また、本発明によれば、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向(X軸方向)に相対的に移動せしめる加工送り手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を該加工送り方向(X軸方向)と直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に相対移動せしめる割り出し送り手段と、を具備するレーザー加工機において、
該レーザー光線照射手段は、上述したレーザー光線照射装置からなっている、
ことを特徴とするレーザー加工機が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるレーザー光線照射装置においては、パルスレーザー光線発振器が発振したパルスレーザー光線のパルス幅を含む所定時間幅の第1の駆動パルス信号を該偏向角度調整手段に出力し第2の駆動パルス信号を該出力調整手段に出力するので、パルスレーザー光線発振器から発振されるパルスレーザー光線の周期に対する第1の音響光学素子および第2の音響光学素子にRFが印加される時間が極めて少なくなるので、音響光学素子に発生する熱歪が抑制される。従って、本発明によるレーザー光線照射装置によれば、音響光学素子の熱歪によって発生する上記不具合が解消され、高精度の加工をすることができる。また、本発明によるレーザー光線照射装置においては、上記第1の駆動パルス信号および第2の駆動パルス信号からなる駆動パルス間に補正パルス信号をRF発振器に出力するので、パルスレーザー光線が発振されるパルス間においても第1の音響光学素子および第2の音響光学素子に補正RFが印加されるため、第1の音響光学素子および第2の音響光学素子の温度変化が抑制される。従って、第1の音響光学素子および第2の音響光学素子の機能を高精度に維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成されたレーザー光線照射装置およびレーザー加工機の好適な実施形態について、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0015】
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工機の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工機は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2に上記矢印Xで示す方向(X軸方向)と直角な矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線ユニット支持機構4に矢印Zで示す方向(Z軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0016】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に配設された第一の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上に矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持されたカバーテーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成された吸着チャック361を具備しており、吸着チャック361上に被加工物である例えば円盤状の半導体ウエーハを図示しない吸引手段によって保持するようになっている。このように構成されたチャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられる。なお、チャックテーブル36には、後述する環状のフレームを固定するためのクランプ362が配設されている。
【0017】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面に矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第一の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿って矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動せしめられる。
【0018】
図示の実施形態におけるレーザー加工機は、上記チャックテーブル36の加工送り量を検出するための加工送り量検出手段374を備えている。加工送り量検出手段374は、案内レール31に沿って配設されたリニアスケール374aと、第1の滑動ブロック32に配設され第1の滑動ブロック32とともにリニアスケール374aに沿って移動する読み取りヘッド374bとからなっている。この送り量検出手段374の読み取りヘッド374bは、図示に実施形態においては1μm毎に1パルスのパルス信号を後述する制御手段に送る。そして後述する制御手段は、入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量を検出する。なお、上記加工送り手段37の駆動源としてパルスモータ372を用いた場合には、パルスモータ372に駆動信号を出力する後述する制御手段の駆動パルスをカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量を検出することもできる。また、上記加工送り手段37の駆動源としてサーボモータを用いた場合には、サーボモータの回転数を検出するロータリーエンコーダが出力するパルス信号を後述する制御手段に送り、制御手段が入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の加工送り量を検出することもできる。
【0019】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロッド371と、該雄ネジロッド371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド371は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド371は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロッド371を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動せしめられる。
【0020】
図示の実施形態におけるレーザー加工機は、上記第2の滑動ブロック33の割り出し加工送り量を検出するための割り出し送り量検出手段384を備えている。割り出し送り量検出手段384は、案内レール322に沿って配設されたリニアスケール384aと、第2の滑動ブロック33に配設され第2の滑動ブロック33とともにリニアスケール384aに沿って移動する読み取りヘッド384bとからなっている。この送り量検出手段384の読み取りヘッド384bは、図示に実施形態においては1μm毎に1パルスのパルス信号を後述する制御手段に送る。そして後述する制御手段は、入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量を検出する。なお、上記割り出し送り手段38の駆動源としてパルスモータ372を用いた場合には、パルスモータ372に駆動信号を出力する後述する制御手段の駆動パルスをカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量を検出することもできる。また、上記第1の割り出し送り手段38の駆動源としてサーボモータを用いた場合には、サーボモータの回転数を検出するロータリーエンコーダが出力するパルス信号を後述する制御手段に送り、制御手段が入力したパルス信号をカウントすることにより、チャックテーブル36の割り出し送り量を検出することもできる。
【0021】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上に矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上に矢印Yで示す方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一側面に矢印Zで示す方向(Z軸方向)に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロッド431と、該雄ねじロッド431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロッド431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロッド431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロッド431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿って矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動せしめられる。
【0022】
図示の実施形態のおけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射装置52を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、矢印Zで示す方向(Z軸方向)に移動可能に支持される。
【0023】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿って矢印Zで示す方向(Z軸方向)に移動させるための移動手段53を具備している。移動手段53は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロッド(図示せず)と、該雄ネジロッドを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり、パルスモータ532によって図示しない雄ネジロッドを正転および逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザビーム照射手段52を案内レール423、423に沿って矢印Zで示す方向(Z軸方向)に移動せしめる。なお、図示の実施形態においてはパルスモータ532を正転駆動することによりレーザー光線照射装置52を上方に移動し、パルスモータ532を逆転駆動することによりレーザー光線照射装置52を下方に移動するようになっている。
【0024】
上記レーザー光線照射装置52は、実質上水平に配置された円筒形状のケーシング521と、図2に示すようにケーシング521内に配設されたパルスレーザー光線発振手段6と、パルスレーザー光線発振手段6が発振したレーザー光線の光軸を加工送り方向(X軸方向)に偏向する音響光学偏向手段7と、該音響光学偏向手段7を制御するための制御手段8を具備している。また、レーザー光線照射手段52は、音響光学偏向手段7を通過したパルスレーザー光線を上記チャックテーブル36に保持された被加工物に照射する集光器9を具備している。
【0025】
上記パルスレーザー光線発振手段6は、YAGレーザー発振器或いはYVO4レーザー発振器からなるパルスレーザー光線発振器61と、これに付設された繰り返し周波数設定手段62とから構成されている。パルスレーザー光線発振器61は、繰り返し周波数設定手段62によって設定された所定周波数のパルスレーザー光線(LB)を発振する。繰り返し周波数設定手段62は、励起トリガー発信器621と発振トリガー発信器622とを備えている。このように構成されたパルスレーザー光線発振手段6は、励起トリガー発信器621から所定周期毎に出力される励起トリガーに基づいてパルスレーザー光線発振器61が励起を開始し、発振トリガー発信器622から所定周期毎に出力される発振トリガーに基づいてパルスレーザー光線発振器61がパルスレーザー光線を発振する。
【0026】
上記音響光学偏向手段7は、レーザー光線発振手段6が発振したレーザー光線の光軸を加工送り方向(X軸方向)に偏向する音響光学素子71と、該音響光学素子71に印加するRF(radio frequency)を生成するRF発振器72と、該RF発振器72によって生成されたRFのパワーを増幅して音響光学素子71に印加するRFアンプ73と、RF発振器72によって生成されるRFの周波数を調整する偏向角度調整手段74と、RF発振器712によって生成されるRFの振幅を調整する出力調整手段75と、RF発振器72によって生成されるRF出力を調整するRF出力補正手段76を具備している。上記音響光学素子71は、印加されるRFの周波数に対応してレーザー光線の光軸を偏向する角度を調整することができるとともに、印加されるRFの振幅に対応してレーザー光線の出力を調整することができる。なお、上記偏向角度調整手段74と出力調整手段75およびRF出力補正手段76は、制御手段8によって制御される。
【0027】
また、図示の実施形態におけるレーザー光線照射装置52は、上記音響光学素子71に所定周波数のRFが印加された場合に、図2において破線で示すように音響光学素子71によって偏向されたレーザー光線を吸収するためのレーザー光線吸収手段77を具備している。
【0028】
上記制御手段8は、パルスレーザー光線発振手段6の繰り返し周波数設定手段62からの繰り返し周波数設定信号である上記励起トリガー発信器621から出力される励起トリガーに基づいて、パルスレーザー光線発振器61から発振されるパルスレーザー光線のパルスに対応した駆動パルス信号を駆動回路81に出力する。なお、制御手段8は、駆動回路81に出力する駆動パルス信号を設定した後述する制御マップを格納するメモリ80を備えている。駆動回路81は、制御手段8からの駆動パルス信号に対応した電圧を上記音響光学偏向手段71の偏向角度調整手段74と出力調整手段75およびRF出力補正手段76に印加する。
【0029】
ここで、制御手段8から駆動回路81に出力する駆動パルス信号について、図2および図3を参照して説明する。
なお、上記パルスレーザー光線発振手段6の繰り返し周波数設定手段62によって設定された周波数は、例えば10kHzとする。従って、パルスレーザー光線発振器61から発振されるパルスレーザー光線(LB)のパルス(LBP)間隔は、図3に示すように100000nsとなる。そして、図3に示すパルスレーザー光線(LB)を発振するには、1パルスを発振した後、次のパルスを発振する間に励起トリガー発信器621から励起トリガーをパルスレーザー光線発振器61に出力する。この励起トリガーを出力するタイミングを発振トリガー発信器622からパルスレーザー光線発振器61に発振トリガーを出力してから例えば3000ns後とすると、パルスレーザー光線発振器61から発振されるパルスレーザー光線(LB)のパルス(LBP)幅は例えば30nsとなる。従って、励起トリガーは、パルスレーザー光線発振器61からパルスレーザー光線(LB)を1パルス発振してから2970ns後に出力されることになる。このような設定において、励起トリガー発信器621から出力される励起トリガーは、上記音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74および出力調整手段75を制御する制御手段8にも送られる。
【0030】
上記音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74および出力調整手段75を駆動する駆動パルス信号(DS)は、上記パルスレーザー光線発振器61から発振されるパルスレーザー光線(LB)のパルス(LBP)のパルス幅を含む所定時間出力する必要がある。例えば、駆動パルス信号(DS)の開示時点を発振トリガーが出力される前300nsとし、駆動パルス信号(DS)の終了時点をパルスレーザー光線(LB)のパルス(LBP)終了後100nsとすると、制御手段8は上記励起トリガーが発振されてから96700ns後に駆動パルス信号(DS)を開始し430ns間出力する。このように制御手段8が駆動パルス信号(DS)を出力することにより、パルスレーザー光線(LB)のパルス(LBP)が発振されている時間を含む430nsの間、上記音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74および出力調整手段75を制御することができる。上述したように、駆動パルス信号(DS)は430nsであり、パルスレーザー光線(LB)の1周期が100000nsであるため、パルスレーザー光線(LB)の照射時間に対して0.43%だけ音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74および出力調整手段75を駆動すればよいことになる。従って、パルスレーザー光線(LB)の照射時間に対する音響光学素子71にRFが印加される時間が極めて少なくてよいため、音響光学素子71に発生する熱歪が抑制される。
【0031】
図2に戻って説明を続けると、上記集光器9はケーシング521の先端に装着されており、上記音響光学偏向手段7によって偏向されたパルスレーザー光線を下方に向けて方向変換する方向変換ミラー91と、該方向変換ミラー91によって方向変換されたレーザー光線を集光する集光レンズ92を具備している。
【0032】
図示の実施形態におけるパルスレーザー照射装置52は以上のように構成されており、以下その作用について図2を参照して説明する。
音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74に上記駆動回路81から例えば5Vの電圧が印加され、音響光学素子71に5Vに対応する周波数のRFが印加された場合には、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線は、その光軸が図2において1点鎖線で示すように偏向され集光点Paに集光される。また、偏向角度調整手段74に上記駆動回路81から例えば10Vの電圧が印加され、音響光学素子71に10Vに対応する周波数のRFが印加された場合には、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線は、その光軸が図2において実線で示すように偏向され、上記集光点Paから加工送り方向(X軸方向)に図2において左方に所定量変位した集光点Pbに集光される。一方、偏向角度調整手段74に上記駆動回路81から例えば15Vの電圧が印加され、音響光学素子71に15Vに対応する周波数のRFが印加された場合には、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線は、その光軸が図2において2点鎖線で示すように偏向され、上記集光点Pbから加工送り方向(X軸方向)に図2において左方に所定量変位した集光点Pcに集光される。また、音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74に上記駆動回路81から例えば0Vの電圧が印加され、音響光学素子71に0Vに対応する周波数のRFが印加された場合には、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線は、図2において破線で示すようにレーザー光線吸収手段77に導かれる。このように、音響光学素子71によって偏向されたレーザー光線は、偏向角度調整手段74に印加される電圧に対応して加工送り方向(X軸方向)に偏向せしめられる。
【0033】
図1に戻って説明を続けると、図示の実施形態におけるレーザー加工機は、ケーシング521の前端部に配設され上記レーザー光線照射装置52によってレーザー加工すべき加工領域を検出する撮像手段11を備えている。この撮像手段11は、可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を後述するコントローラに送る。
【0034】
図1に基づいて説明を続けると、図示の実施形態におけるレーザー加工機は、コントローラ20を具備している。コントローラ20はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)201と、制御プログラム等を格納するリードオンリメモリ(ROM)202と、後述する制御マップや被加工物の設計値のデータや演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)203と、カウンター204と、入力インターフェース205および出力インターフェース206とを備えている。コントローラ20の入力インターフェース205には、上記加工送り量検出手段374、割り出し送り量検出手段384および撮像手段11等からの検出信号が入力される。そして、コントローラ20の出力インターフェース206からは、上記パルスモータ372、パルスモータ382、パルスモータ432、パルスモータ532、パルスレーザー光線発振手段6および制御手段8等に制御信号を出力する。なお、上記ランダムアクセスメモリ(RAM)203は、後述する被加工物の設計値のデータを記憶する第2の記憶領域203aや他の記憶領域を備えている。
【0035】
図示の実施形態におけるレーザー加工機は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
図4にはレーザー加工される被加工物としての半導体ウエーハ30の平面図が示されている。図4に示す半導体ウエーハ30は、シリコンウエーハからなっており、その表面30aに格子状に配列された複数の分割予定ライン301によって複数の領域が区画され、この区画された領域にIC、LSI等のデバイス302がそれぞれ形成されている。この各デバイス302は、全て同一の構成をしている。デバイス302の表面にはそれぞれ図5に示すように複数の電極303(303a〜303j)が形成されている。なお、図示の実施形態においては、303aと303f、303bと303g、303cと303h、303dと303i、303eと303jは、X方向位置が同一である。この複数の電極303(303a〜303j)部にそれぞれ裏面30bから電極303に達する加工穴(ビアホール)が形成される。各デバイス302における電極303(303a〜303j)のX方向(図5おいて左右方向)の間隔A、および各デバイス302に形成された電極303における分割予定301を挟んでX方向(図5において左右方向)に隣接する電極即ち電極303eと電極303aとの間隔Bは、図示の実施形態においては同一間隔に設定されている。また、各デバイス302における電極303(303a〜303j)のY方向(図5において上下方向)の間隔C、および各デバイス302に形成された電極303における分割予定ライン301を挟んでY方向(図5において上下方向)に隣接する電極即ち電極303fと電極303aおよび電極303jと電極303eとの間隔Dは、図示の実施形態においては同一間隔に設定されている。このように構成された半導体ウエーハ30について、図4に示す各行E1・・・・Enおよび各列F1・・・・Fnに配設されたデバイス302の個数と上記各間隔A,B,C,Dは、その設計値のデータが上記ランダムアクセスメモリ(RAM)203の第1に記憶領域203aに格納されている。
【0036】
上述したレーザー加工装置を用い、上記半導体ウエーハ30に形成された各デバイス302の電極303(303a〜303j)部に加工孔(ビアホール)を形成するレーザー加工の実施形態について説明する。
上記のように構成された半導体ウエーハ30は、図6に示すように環状のフレーム40に装着されたポリオレフィン等の合成樹脂シートからなる保護テープ50に表面30aを貼着する。従って、半導体ウエーハ30は、裏面30bが上側となる。このようにして環状のフレーム40に保護テープ50を介して支持された半導体ウエーハ30は、図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブル36上に保護テープ50側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することにより半導体ウエーハ30は、保護テープ50を介してチャックテーブル36上に吸引保持される。また、環状のフレーム40は、クランプ362によって固定される。
【0037】
上述したように半導体ウエーハ30を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によって撮像手段11の直下に位置付けられる。チャックテーブル36が撮像手段11の直下に位置付けられると、チャックテーブル36上の半導体ウエーハ30は、図7に示す座標位置に位置付けられた状態となる。この状態で、チャックテーブル36に保持された半導体ウエーハ30に形成されている格子状の分割予定ライン301がX軸方向とY軸方向に平行に配設されているか否かのアライメント作業を実施する。即ち、撮像手段11によってチャックテーブル36に保持された半導体ウエーハ30を撮像し、パターンマッチング等の画像処理を実行してアライメント作業を行う。このとき、半導体ウエーハ30の分割予定ライン301が形成されている表面30aは下側に位置しているが、撮像手段11が上述したように赤外線照明手段と赤外線を捕らえる光学系および赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成された撮像手段を備えているので、半導体ウエーハ30の裏面301bから透かして分割予定ライン301を撮像することができる。
【0038】
次に、チャックテーブル36を移動して、半導体ウエーハ30に形成されたデバイス302における最上位の行E1の図7において最左端のデバイス302を撮像手段11の直下に位置付ける。そして、更にデバイス302に形成された電極303(303a〜303j)における図7において左上の電極303aを撮像手段11の直下に位置付ける。この状態で撮像手段11が電極303aを検出したならばその座標値(a1)を第1の加工送り開始位置座標値としてコントローラ20に送る。そして、コントローラ20は、この座標値(a1)を第1の加工送り開始位置座標値としてランダムアクセスメモリ(RAM)203に格納する(加工送り開始位置検出工程)。このとき、撮像手段11とレーザー光線照射手段52の集光器9はX軸方向に所定の間隔を置いて配設されているので、X座標値は上記撮像手段11と集光器9との間隔を加えた値が格納される。
【0039】
このようにして図7において最上位の行E1のデバイス302における第1の加工送り開始位置座標値(a1)を検出したならば、チャックテーブル36を分割予定ライン301の間隔だけY軸方向に割り出し送りするとともにX軸方向に移動して、図7において最上位から2番目の行E2における最左端のデバイス302を撮像手段11の直下に位置付ける。そして、更にデバイス302に形成された電極303(303a〜303j)における図7において左上の電極303aを撮像手段11の直下に位置付ける。この状態で撮像手段11が電極303aを検出したならばその座標値(a2)を第2の加工送り開始位置座標値としてコントローラ20に送る。そして、コントローラ20は、この座標値(a2)を第2の加工送り開始位置座標値としてランダムアクセスメモリ(RAM)203に格納する。このとき、撮像手段11とレーザー光線照射手段52の集光器9は上述したようにX軸方向に所定の間隔を置いて配設されているので、X座標値は上記撮像手段11と集光器9との間隔を加えた値が格納される。以後、コントローラ20は、上述した割り出し送りと加工送り開始位置検出工程を図7において最下位の行Enまで繰り返し実行し、各行に形成されたデバイス302の加工送り開始位置座標値(a3〜an)を検出して、これをランダムアクセスメモリ(RAM)に格納する。
【0040】
次に、半導体ウエーハ30の各デバイス302に形成された各電極303(303a〜303j)部にレーザー加工孔(ビアホール)を穿孔する穿孔工程を実施する。穿孔工程は、先ず加工送り手段37を作動しチャックテーブル36を移動して、上記ランダムアクセスメモリ(RAM)203に格納されている第1の加工送り開始位置座標値(a1)をレーザー光線照射手段52の集光器9の直下に位置付ける。このように第1の加工送り開始位置座標値(a1)が集光器9の直下に位置付けられた状態が図8の(a)に示す状態である。図8の(a)に示す状態からコントローラ20は、チャックテーブル36を図8の(a)において矢印X1で示す方向に所定の移動速度で加工送りするように上記加工送り手段37を制御すると同時に、レーザー光線照射手段52を作動し集光器9から所定時間パルスレーザー光線を照射する。なお、集光器9から照射されるレーザー光線の集光点Pは、半導体ウエーハ30の表面30a付近に合わせる。このとき、コントローラ20は、加工送り量検出手段374の読み取りヘッド374bからの検出信号に基いて音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74および出力調整手段75を制御するための制御信号を上記制御手段8に出力する。
【0041】
一方、RF発振器72は偏向角度調整手段74および出力調整手段75からの制御信号に対応したRFを出力する。RF発振器72から出力されたRFのパワーは、RFアンプ73によって増幅され音響光学素子71に印加される。この結果、音響光学素子71は、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線の光軸を図2において1点鎖線で示す位置から2点差線で示す位置までの範囲で偏向するとともに、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線の出力を調整する。
【0042】
上記穿孔工程における加工条件の一例について説明する。
光源 :LD励起QスイッチNd:YVO4
波長 :355nm
繰り返し周波数 :10kHz
パルス幅 :30ns
集光スポット径 :φ15μm
加工送り速度 :100mm/秒
このような加工条件によって穿孔工程を実施すると、シリコンウエーハにはパルスレーザー光線の1パルス当たり深さが5μm程度のレーザー加工孔を形成することができる。従って、厚さが50μmのシリコンウエーハに電極303に達する加工穴を形成するにはパルスレーザー光線を10パルス照射する必要がある。このため、上記加工条件においては100mm/秒の加工送り速度で移動しているチャックテーブル36に保持された半導体ウエーハ30の第1の加工送り開始位置座標値(a1)に10パルスのパルスレーザー光線を照射することにより、電極303に達する加工孔を形成することができる。
【0043】
ここで、半導体ウエーハ30が100mm/秒の加工送り速度で移動している際に、半導体ウエーハ30の第1の加工送り開始位置座標値(a1)に10パルスのパルスレーザー光線を照射する方法について、図9の(a)
を参照して説明する。
上記加工条件においてはパルスレーザー光線の繰り返し周波数が10kHzであるので、1秒間に10000パルス(即ち、100000nsで1パルス)のパルスレーザー光線が照射される。従って、10パルスのパルスレーザー光線を照射するための時間は、1/1000秒となる。一方、100mm/秒の加工送り速度でX1で示す方向に移動している半導体ウエーハ30は、1/1000秒間に100μm移動する。従って、半導体ウエーハ30が100μm移動する間に1/1000秒間レーザー光線照射手段52を作動し、この間にパルスレーザー光線の集光点を第1の加工送り開始位置座標値(a1)に位置付けるように、音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74に印加する第1の駆動パルス信号(DS1)および出力調整手段75に印加する第2の駆動パルス信号(DS2)を制御すればよい。即ち、コントローラ20から送られる加工送り量検出手段374の読み取りヘッド374bからの検出信号に基いて、制御手段8が上述したように音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74および出力調整手段75に図3に示されたように430ns間印加する電圧の第1の駆動パルス信号(DS1)および第2の駆動パルス信号(DS2)を制御し、音響光学偏向手段7の音響光学素子71に印加するRFパワーの周波数および振幅を制御することによって行うことができる。この結果、半導体ウエーハ30が加工送り方向X1で移動している状態においても第1の加工送り開始位置座標値(a1)に10パルスのパルスレーザー光線を照射することができるため、図9の(b)に示すように半導体ウエーハ30の第1の加工送り開始位置座標値(a1)に電極303に達するレーザー加工穴304が形成される。このようにして、第1の加工送り開始位置座標値(a1)に10パルスのパルスレーザー光線を照射したならば、コントローラ20は音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74に0Vの電圧をレーザー光線が1パルス出力される毎に430ns間印加する駆動パルス信号(DS)を出力するように上記制御手段8に制御信号を出力する。この結果、音響光学素子71には0Vに対応する周波数のRFが印加され、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線(LB)は図2において破線で示すようにレーザー光線吸収手段77に導かれる。
【0044】
以上のようにして上記音響光学偏向手段7を駆動するための時間は、上述したようにパルスレーザー光線(LB)の照射時間に対して0.43%であるので、パルスレーザー光線(LB)の照射時間に対する音響光学素子71にRFが印加される時間が極めて少なくてよいため、音響光学素子71に発生する熱歪が抑制される。
【0045】
しかるに、本発明者等の実験によると、上述したようにパルスレーザー光線(LB)の照射時間に対する音響光学素子71にRFが印加される時間が極めて少ないにも拘わらず、次のRFが印加されるまでの間隔が不均一であったり、RFの出力が不均一であると、音響光学素子71の温度が多少なりとも変化してしまい、音響光学素子71の機能を安定した精度に維持できないことが判った。本発明においては、偏向角度調整手段74および出力調整手段75に印加する第1の駆動パルス信号(DS1)および第2の駆動パルス信号(DS2)からなる駆動パルスの間、即ちパルスレーザー光線LBを発振しない間に上記RF出力補正手段76に補正パルス信号(DS3)を出力する。ここで、パルスレーザー光線(LB)の照射タイミング(LBP)と第1の駆動パルス信号(DS1)と第2の駆動パルス信号(DS2)および補正パルス信号(DS3)について、図10に示す制御マップに基いて説明する。図10において第1の駆動パルス信号(DS1)と第2の駆動パルス信号(DS2)および補正パルス信号(DS3)におけるパルス信号の高さは電圧の高さを表している。図10に示す実施形態においては、偏向角度調整手段74に印加する第1の駆動パルス信号(DS1)の10パルスの電圧は徐々に上昇せしめられており、出力調整手段75に印加する第2の駆動パルス信号(DS2)の10パルスの電圧は一定となっている。一方、RF出力補正手段76に印加する補正パルス信号(DS3)は、第1の駆動パルス信号(DS1)および第2の駆動パルス信号(DS2)からなる駆動パルスの間、即ちパルスレーザー光線LBを発振しない間に出力される。そして、補正パルス信号(DS3)の電圧は、例えば第1の駆動パルス信号(DS1)の電圧と第2の駆動パルス信号(DS2)の電圧と補正パルス信号(DS3)の電圧の和が等しくなるように設定されている。従って、音響光学素子71に印加されるRFパワーはパルスレーザー光線LBが発振されてから次のパルスレーザー光線LBが発振されるまでの間で一定となるため、音響光学素子71は所定の温度範囲に維持され安定した精度が維持される。
【0046】
一方、コントローラ20は、加工送り量検出手段374の読み取りヘッド374bからの検出信号を入力しており、この検出信号をカウンター204によってカウントしている。そして、カウンター204によるカウント値が電極303の図5においてX軸方向の間隔Aに相当する値に達したら、コントローラ20はレーザー光線照射手段52を制御し上記穿孔工程を実施する。その後もコントローラ20は、カウンター204によるカウント値が電極203の図5においてX軸方向の間隔Bに達したら、コントローラ20はパルスレーザー光線発振手段6から発振されるパルスレーザー光線(LB)を図2において破線で示すようにレーザー光線吸収手段77に導く制御を実行する。即ち、コントローラ20は音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74に0Vの電圧を印加する第1の駆動パルス信号(DS1)を出力するように上記制御手段8に制御信号を出力する。この結果、音響光学素子71には0Vに対応する周波数のRFが印加され、パルスレーザー光線発振手段6から発振されたパルスレーザー光線(LB)は図2において破線で示すようにレーザー光線吸収手段77に導かれるので、半導体ウエーハ30に照射されることはない。このとき音響光学偏向手段7の出力調整手段75にも0Vの電圧を印加する第2の駆動パルス信号(DS2)を出力する。従って、音響光学素子71には0Vに対応する振幅のRFが印加されることになる。このように、音響光学素子71に印加されRFのエネルギーが零(0)になると、上述したように音響光学素子71の温度が低下して音響光学素子71の機能を安定した精度に維持できない。そこで、上記間隔Bの領域においては、偏向角度調整手段74および出力調整手段75に印加する第1の駆動パルス信号(DS1)および第2の駆動パルス信号(DS2)からなる駆動パルスの間、即ちパルスレーザー光線LBを発振しない間に図11に示す制御マップに基いて上記RF出力補正手段76に補正パルス信号(DS3)を出力する。この補正パルス信号(DS3)の電圧は、上記間隔Bの領域においては、上述したように音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74に印加される第1の駆動パルス信号(DS1)および出力調整手段75に印加される第2の駆動パルス信号(DS2)の電圧は0Vであるため、例えば第1の駆動パルス信号(DS1)の電圧(0V)と第2の駆動パルス信号(DS2)の電圧(0V)と補正パルス信号(DS3)の電圧の和が等しくなるように設定されている。従って、音響光学素子71に印加されるRFパワーはパルスレーザー光線LBが発振されてから次のパルスレーザー光線LBが発振されるまでの間で一定となるため、音響光学素子71は所定の温度範囲に維持され安定した精度が維持される。
【0047】
上述した図10および図11に示す制御マップに基いて上記穿孔工程を実施し、図8の(b)で示すように半導体ウエーハ30のE1行の最右端のデバイス302に形成された電極303における図7において最右端の電極303eの位置に上記穿孔工程を実施したら、上記加工送り手段37の作動を停止してチャックテーブル36の移動を停止する。この結果、半導体ウエーハ30には、図8の(b)で示すように各電極303(図示せず)部にレーザー加工孔304が形成される。
【0048】
次に、コントローラ20は、レーザー光線照射手段52の集光器9を図8の(b)において紙面に垂直な方向に割り出し送りするように上記第1の割り出し送り手段38を制御する。一方、コントローラ20は、割り出し送り量検出手段384の読み取りヘッド384bからの検出信号を入力しており、この検出信号をカウンター204によってカウントしている。そして、カウンター204によるカウント値が電極303の図5においてY軸方向の間隔Cに相当する値に達したら、第1の割り出し送り手段38の作動を停止し、レーザー光線照射手段52の集光器9の割り出し送りを停止する。この結果、集光器9は上記電極303eと対向する電極303j(図5参照)の直上に位置付けられる。この状態が図12の(a)に示す状態である。図12の(a)に示す状態でコントローラ20は、チャックテーブル36を図12の(a)において矢印X2で示す方向に所定の移動速度で加工送りするように上記加工送り手段37を制御すると同時に、レーザー光線照射手段52を作動し上述した図10および図11に示す制御マップに基いて上記穿孔工程を実施する。そして、コントローラ20は、上述したように加工送り量検出手段374の読み取りヘッド374bからの検出信号をカウンター204によりカウントし、そのカウント値が電極303の図5においてX軸方向の間隔AおよびBに達する都度、コントローラ20はレーザー光線照射手段52を作動し上記穿孔工程を実施する。そして、図12の(b)で示すように半導体ウエーハ30のE1行の最左端のデバイス302に形成された電極303f位置に上記穿孔工程を実施したら、上記加工送り手段37の作動を停止してチャックテーブル36の移動を停止する。この結果、半導体ウエーハ30には、図12の(b)で示すように各電極303(図示せず)部にレーザー加工孔304が形成される。
【0049】
以上のようにして、半導体ウエーハ30のE1行のデバイス302に形成された電極303部にレーザー加工孔304が形成されたならば、コントローラ20は加工送り手段37および第1の割り出し送り手段38を作動し、半導体ウエーハ30のE2行のデバイス302に形成された電極303における上記ランダムアクセスメモリ(RAM)203に格納されている第2の加工送り開始位置座標値(a2)をレーザー光線照射手段52の集光器9の直下に位置付ける。そして、コントローラ20は、レーザー光線照射手段52と加工送り手段37および第1の割り出し送り手段38を制御し、半導体ウエーハ30のE2行のデバイス302に形成された電極303部に上述した穿孔工程を実施する。以後、半導体ウエーハ30のE3〜En行のデバイス302に形成された電極303部に対しても上述した図10および図11に示す制御マップに基いて上述した穿孔工程を実施する。この結果、半導体ウエーハ30の各デバイス302に形成された全ての電極303部にレーザー加工孔304が形成される。
【0050】
次に、上記補正パルス信号(DS3)の他の実施形態について、図13および図14に示す制御マップに基いて説明する。
図13に示す実施形態は、補正パルス信号(DS3)を破線で示すように第1の駆動パルス信号(DS1)と組み合わせて生成し、音響光学偏向手段7の偏向角度調整手段74に第1の駆動パルス信号(DS1)と補正パルス信号(DS3)を出力するようにしたものである。
また、図14に示す実施形態は、補正パルス信号(DS3)を破線で示すように第2の駆動パルス信号(DS2)と組み合わせて生成し、音響光学偏向手段7の出力調整手段75に第2の駆動パルス信号(DS2)と補正パルス信号(DS3)を出力するようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工機の斜視図。
【図2】図1に示すレーザー加工機に装備されるレーザー光線照射装置の構成ブロック図。
【図3】図2に示すレーザー光線照射装置のパルスレーザー光線発振手段から発振されるパルスレーザー光線と音響光学偏向手段に印加される電圧の駆動パルス信号との関係を示す説明図。
【図4】被加工物としての半導体ウエーハの平面図。
【図5】図4に示す半導体ウエーハの一部を拡大して示す平面図。
【図6】図4に示す半導体ウエーハを環状のフレームに装着された保護テープの表面に貼着した状態を示す斜視図。
【図7】図4に示す半導体ウエーハが図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブルの所定位置に保持された状態における座標との関係を示す説明図。
【図8】図1に示すレーザー加工機によって実施する穿孔工程の説明図。
【図9】図8に示す穿孔工程の詳細を拡大して示す説明図。
【図10】図2に示すレーザー光線照射装置を構成する制御手段のメモリに格納される制御マップの一部を示す説明図。
【図11】図2に示すレーザー光線照射装置を構成する制御手段のメモリに格納される制御マップの一部を示す説明図。
【図12】図1に示すレーザー加工機によって実施する穿孔工程の説明図。
【図13】図2に示すレーザー光線照射装置を構成する制御手段のメモリに格納される制御マップの他の実施形態を示す説明図。
【図14】図2に示すレーザー光線照射装置を構成する制御手段のメモリに格納される制御マップの更に他の実施形態を示す説明図。
【符号の説明】
【0052】
2:静止基台
3:チャックテーブル機構
31:案内レール
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
374:加工送り量検出手段
38:第1の割り出し送り手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
41:案内レール
42:可動支持基台
43:第2の割り出し送り手段
433:割り出し送り量検出手段
5:レーザー光線照射ユニット
51:ユニットホルダ
52:レーザー光線加工装置
6:パルスレーザー光線発振手段
61:パルスレーザー光線発振器
62:繰り返し周波数設定手段
7:音響光学偏向手段
71:音響光学素子
72: RF発振器
73: RFアンプ
74:偏向角度調整手段
75:出力調整手段
76:RF出力補正手段
77:レーザー光線吸収手段
8:制御手段
9:集光器
91:方向変換ミラー
92:集光レンズ
11:撮像手段
20:コントローラ
30:半導体ウエーハ
301:分割予定ライン
302:デバイス
303:電極
304:レーザー加工孔
40:環状のフレーム
50:保護テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振器と、該パルスレーザー光線発振器から発振するパルスレーザー光線の繰り返し周波数を設定する繰り返し周波数設定手段とを備えたレーザー光線発振手段と、
該レーザー光線発振手段が発振したパルスレーザー光線の光軸を偏向する音響光学素子と、該音響光学素子にRFを印加するRF発振器と、該RF発振器から出力されるRFの周波数を調整する偏向角度調整手段と、RF発振器によって生成されるRFの振幅を調整する出力調整手段とを備えた音響光学偏向手段と、
該偏向角度調整手段および該出力調整手段を制御する制御手段と、
該音響光学偏向手段によって偏向されたレーザー光線を集光する集光器と、を具備しているレーザー光線照射装置において、」
該制御手段は、該繰り返し周波数設定手段からの繰り返し周波数設定信号に基づいて、該パルスレーザー光線発振器が発振したパルスレーザー光線のパルス幅を含む所定時間幅の第1の駆動パルス信号を該偏向角度調整手段に出力し第2の駆動パルス信号を該出力調整手段に出力するとともに、該第1の駆動パルス信号および該第2の駆動パルス信号からなる駆動パルスの間に補正パルス信号を該RF発振器に出力する、
ことを特徴とするレーザー光線照射装置。
【請求項2】
該制御手段は、該補正パルス信号を該偏向角度調整手段に出力する、請求項1記載のレーザー光線照射装置。
【請求項3】
該制御手段は、該補正パルス信号を該出力調整手段に出力する、請求項1記載のレーザー光線照射装置。
【請求項4】
該音響光学偏向手段はRF発振器によって生成されるRF出力を調整するRF出力補正手段を具備し、該制御手段は該補正パルス信号を該RF出力補正手段に出力する、請求項1記載のレーザー光線照射装置。
【請求項5】
該制御手段は、該第1の駆動パルス信号と該第2の駆動パルス信号と該補正パルス信号の電圧を設定した制御マップを備えている、請求項1記載のレーザー光線照射装置。
【請求項6】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を加工送り方向(X軸方向)に相対的に移動せしめる加工送り手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段を該加工送り方向(X軸方向)と直交する割り出し送り方向(Y軸方向)に相対移動せしめる割り出し送り手段と、を具備するレーザー加工機において、
該レーザー光線照射手段は、請求項1から5のいずれかに記載のレーザー光線照射装置からなっている、
ことを特徴とするレーザー加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−207210(P2008−207210A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45933(P2007−45933)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】