レーザー加工装置およびレーザー加工方法
【課題】加工対象となる孔の延長上に非加工部位が位置している被加工物を加工する場合において、非加工部位が加工されてしまうことを防止するとともに加工効率を向上させる。
【解決手段】孔1cに向けて液体を噴射するノズルと、孔1cに向けて噴射される液体の内部にレーザー光を照射するレーザーヘッドと、被加工物1を保持する保持具と、非加工部位1eに配置され、孔1cを通過したレーザー光を遮断するレーザー光遮断具33とを備え、レーザー光遮断具33には、孔1cに到達した液体を排出する排出路33aが設けられている。
【解決手段】孔1cに向けて液体を噴射するノズルと、孔1cに向けて噴射される液体の内部にレーザー光を照射するレーザーヘッドと、被加工物1を保持する保持具と、非加工部位1eに配置され、孔1cを通過したレーザー光を遮断するレーザー光遮断具33とを備え、レーザー光遮断具33には、孔1cに到達した液体を排出する排出路33aが設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に向けて液体を噴射するとともに液体の内部にレーザーを照射することによって被加工物を加工するレーザー加工に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のレーザー加工が特許文献1に記載されている。この従来技術では、高圧水をノズルから加工面に向けて噴射して水柱(ウォータージェット)を形成し、その水柱内にレーザー光を通す。このとき、水柱は、光ファイバーのごとくレーザー光を誘導する役割を果たす。そして、水柱とレーザー光とで形成されるウォータージェットレーザーを被加工物に到達させて被加工物を加工する。
【0003】
このようなレーザー加工、いわゆるウォータージェットレーザー加工においては、被加工物をウォータージェットレーザーに対して相対的に移動させる事を複数回繰り返す事により所定の形状に加工することができる。ここで、所定の形状とは、貫通孔φ0.3mm以下を指している。この貫通孔の最小穴径は、噴出する水柱の径で概ね決まる。
【0004】
ウォータージェットレーザー加工によると、ウォータージェットを用いない気中レーザー(ドライレーザー)加工と比べて、加工面への熱影響層が軽減され、優れた加工品質を得ることができる。
【0005】
一方、特許文献2には、気中レーザー加工において、まず被加工物にナノ秒レーザー光を照射して下孔を開け、次いで下孔の内壁にピコ秒レーザー光を照射して下孔の内壁を平滑に仕上げることによって、微細孔開け加工を高速かつ高精度に行うことができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3680864号公報
【特許文献2】特開2008−55477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述したウォータージェットレーザー加工を、内燃機関の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁(インジェクタ)の噴孔(微細孔)の加工に適用することを検討した。すなわち、近年、環境改善のために内燃機関の排気ガスの規制が年々強化されており、内燃機関の燃料噴射装置においては噴射量制御の更なる高精度化が強く要求されている。そのため、燃料噴射弁の噴孔の加工品質を高める必要があり、それを実現する手段としてウォータージェットレーザー加工は有望である。
【0008】
しかしながら、燃料噴射弁の噴孔部分は、サック形状(一端が開口し且つ他端が閉塞された筒のような形状)の部品で構成されており、噴孔はサック形状の部品に対して斜めに開けられている。このため、噴孔の加工においては、噴孔を貫通したレーザー光がサック形状の部品の内壁部に当たってしまい、非加工部位である内壁部をも加工してしまうという問題がある(後述する図5を参照)。
【0009】
この対策として、非加工部位である内壁部にレーザー光遮断具を配置することが考えられるが、レーザー光遮断具の配置に際しては、レーザー光遮断具が水柱の排出を妨げないことを考慮する必要がある。
【0010】
すなわち、ウォータージェットレーザー加工においては、水柱がレーザー光を誘導する役割を果たすことから、水柱の排出が妨げられて加工対象部位に水が滞留するとレーザー光をうまく誘導することができず、その結果、加工効率がすこぶる低下し加工が進まないという問題が生じてしまうからである。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、加工対象となる孔の延長上に非加工部位が位置している被加工物を加工する場合において、非加工部位が加工されてしまうことを防止するとともに加工効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、孔(1c、2c)に向けて液体(21a)を噴射するノズル(22)と、
孔(1c、2c)に向けて噴射される液体(21a)の内部にレーザー光(21b)を照射するレーザーヘッド(26)と、
被加工物(1、2)を保持する保持具(30、60)と、
非加工部位(1e、2e)に配置され、孔(1c、2c)を通過したレーザー光(21b)を遮断するレーザー光遮断具(33)とを備え、
レーザー光遮断具(33)には、孔(1c、2c)に到達した液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられていることを特徴とする。
【0013】
これによると、レーザー光遮断具(33)が非加工部位(1e、2e)に配置されるので、孔(1c、2c)を貫通したレーザー光(21b)はレーザー光遮断具(33)に衝突する。このため、レーザー光(21b)によって非加工部位(1e、2e)が加工されてしまうことを防止できる。
【0014】
さらに、レーザー光遮断具(33)には、孔(1c、2c)に到達した液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられているので、液体(21a)は加工対象部位に滞留することなくレーザー光遮断具(33)の排出路(33a)を通じて排出される。このため、液体(21a)が加工対象部位に滞留して加工効率が低下することを防止できるので、加工効率を向上させることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のレーザー加工装置において、排出路(33a)の断面積は、ノズル(22)の出口面積よりも大きくなっていることを特徴とする。
【0016】
これにより、排出路(33a)によって液体(21a)を効果的に排出できるので、加工効率をより向上させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のレーザー加工装置において、保持具(30)は、液体(21a)の噴射方向に対する被加工物(1)およびレーザー光遮断具(33)の角度を調整可能に構成されていることを特徴とする。
【0018】
これにより、加工対象となる孔(1c)が傾斜角を有していても被加工物(1、2)に加工を行うことができる。このため、例えば燃料噴射弁の噴孔を加工する孔加工機に本発明を良好に適用できる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、孔(1c、2c)に到達した液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられたレーザー光遮断具(33)を非加工部位(1e、2e)に配置し、
孔(1c、2c)に向けて液体(21a)を噴射すると同時に、液体(21a)の内部にレーザー光(21b)を照射することを特徴とする。これにより、上記請求項1と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載のレーザー加工方法において、ノズル(22)から液体(21a)が噴射され且つレーザーヘッド(26)からレーザー光(21b)が照射されているときに被加工物(2)およびレーザー光遮断具(33)を液体(21a)の噴射方向に対して揺動させることによって孔(2c)をスリット形状に加工することを特徴とする。
【0021】
これによると、被加工物(2)の深潭では被加工物(2)の表面に比べてレーザー光(21b)の移動速度(相対速度)が遅くなるので、レーザーパワーが減衰している状態(弱パワー値)であっても良好に加工できる。さらに、被加工物(2)の深潭ではレーザー光(21b)が幾重にも重なり合うこととなるので、加工面向上に寄与することができる(後述する図12を参照)。
【0022】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態における孔加工機の全体構成の概略を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態における仕上げ加工装置および保持具を示す模式図である。
【図3】第1実施形態における保持具の三面図および斜視図であり、角度調整の一例を示している。
【図4】第1実施形態における保持具の三面図および斜視図であり、角度調整の他の例を示している。
【図5】第1実施形態における被加工物を示す平面図および断面図である。
【図6】第1実施形態における孔の加工工程を示す工程図である。
【図7】第1実施形態における孔の加工過程を説明する模式図である。
【図8】第2実施形態における孔の加工過程を説明する模式図である。
【図9】第3実施形態における被加工物を示す平面図および断面図である。
【図10】第3実施形態における仕上げ加工装置および保持具を示す模式図である。
【図11】第3実施形態における孔の加工工程を示す工程図である。
【図12】第3実施形態における孔の加工過程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。本実施形態は、本発明のレーザー加工装置を、燃料噴射弁(インジェクタ)の先端を構成する部品(被加工物)に複数個の噴孔を加工する孔加工機に適用したものである。
【0025】
因みに、燃料噴射弁の噴孔は、φ0.3mm未満であり且つ傾斜角を有する微細孔であり、真円度、円筒度等が極めて高精度に要求される。傾斜角は、面直方向に対する角度のことであり、約80°以下の角度とされる。
【0026】
図1は、孔加工機の全体構成の概略を示す斜視図である。図1中の上下の矢印は、孔加工機の設置状態における上下方向を示している。
【0027】
孔加工機は、被加工物に微細孔を荒加工する荒加工装置10と、荒加工された微細孔を仕上げ加工する仕上げ加工装置20とを有している。荒加工装置10は、気中レーザー光(本例ではYAGレーザー)11を被加工物に向けて照射することで被加工物に微細孔を荒加工する。仕上げ加工装置20は、荒加工された微細孔をウォータージェットレーザー21によって仕上げ加工する。
【0028】
また、孔加工機は、被加工物を保持する保持具30と、保持具30を荒加工装置10と仕上げ加工装置20との間で往復搬送する搬送装置40と、荒加工装置10、仕上げ加工装置20および搬送装置40を操作するための操作盤50とを有している。
【0029】
図2は、仕上げ加工装置20および保持具30を示す模式図である。仕上げ加工装置20は、ノズル22、高圧水供給部23、配管部24、レーザー発生部25、レーザーヘッド26、および光ファイバー部27を有している。
【0030】
ノズル22は、水柱(ウォータージェット)を形成する高圧水を噴射する。高圧水供給部23はノズル22に高圧水を供給する。配管部24はノズル22と高圧水供給部23との間を結んでいる。
【0031】
レーザー発生部25は、レーザ光(本例ではグリーンレーザー)を発生させる。レーザーヘッド26は、レーザー発生部25で発生したレーザ光を所望の径に絞って水柱の内部に照射する。光ファイバー部27は、レーザー発生部25とレーザーヘッド26との間を結んでいる。
【0032】
ノズル22からの水柱とレーザーヘッド26からのレーザ光とによってウォータージェットレーザー21が形成される。なお、ウォータージェットレーザー21の水柱は、純粋な水に限定されるものではなく、水以外の液体であってもよい。
【0033】
被加工物1を保持する保持具30は、ウォータージェットレーザー21の照射方向、換言すれば水柱の噴射方向(具体的には上下方向)に対する被加工物1の角度を調整可能に構成されている。具体的には、保持具30は、搬送装置40の台座41に載せられる基台部31と、被加工物1がセットされる可動部32とを有し、基台部31と可動部32とが互いに球面接触するように構成されている。
【0034】
図3は、保持具30によって被加工物1の角度を調整した場合の一例を示し、図4は、保持具30によって被加工物1の角度を調整した場合の他の例を示している。図3(a)〜(c)および図4(a)〜(c)は、各々の例における保持具30の三面図であり、図3(d)および図4(d)は、各々の例における保持具30の斜視図である。
【0035】
可動部32は、アクチュエータ等の駆動手段によって駆動されるようになっていてもよいし、手動操作されるようになっていてもよい。
【0036】
図5は、被加工物1を示す平面図および断面図である。図5(b)の上下の矢印は、保持具30にセットされた状態における基本的な上下方向を示している。
【0037】
被加工物1は、サック形状を有している。具体的には、被加工物1は、一端側に開口部1aを有し、他端側に閉塞部1bを有する有底筒状に形成されている。被加工物1は、保持具30の可動部32にセットされた状態では開口部1aが保持具30側(具体的には下方側)を向いている。
【0038】
閉塞部1bには、位置および角度が互いに異なる複数個(本例では6個)の微細な孔(噴孔)1cが孔加工機によって加工される。本実施形態では、孔1cは丸孔形状に加工される。
【0039】
孔加工機による孔1cの加工時には、被加工物1の開口部1aから被加工物1の内部にレーザー光遮断具33が挿入される。レーザー光遮断具33は、耐熱温度が高くレーザー光の反射率が高い材料(例えば、銅、テフロン(登録商標)、石英、サファイア系等)にて円筒状に形成されている。
【0040】
レーザー光遮断具33の内部空間33aの断面積は、ノズル22の出口面積、換言すればウォータージェットレーザー21の水柱の断面積よりも大きくなっている。
【0041】
レーザー光遮断具33は、保持具30の可動部32にセットできるようになっている。なお、レーザー光遮断具33は、被加工物1の内部に挿入された状態において、被加工物1の内壁に当接していてもよいし、被加工物1の内壁に対して若干離間していてもよい。
【0042】
次に、上記構成による孔加工機を用いた孔1cの加工工程を説明する。図6は孔1cの加工工程を示す工程図である。図7は孔1cの加工過程を説明する模式図である。
【0043】
まず、搬送装置40の台座41および保持具30が荒加工装置10側にある状態において、レーザー光遮断具33を保持具30にセットする。次いで、被加工物1を保持具30にセットする。このとき、レーザー光遮断具33が被加工物1の内部に挿入される。
【0044】
次いで、図7(a)に示すように、荒加工装置10から被加工物1に向けて荒加工用レーザーである気中レーザー11を照射し、被加工物1に複数個の孔1cを1個ずつ加工する。このとき、各孔1cの角度が異なるので、保持具30により被加工物1の角度を調整して各孔1cの角度を決める。
【0045】
気中レーザー11の特性上、荒加工された孔1cはストレート形状でなくテーパー形状になる。また、面粗さも大きく、熱影響が大きい。なお、図7中の符号1dは、荒加工により生じるスラッジを示している。
【0046】
次いで、搬送装置40によって、保持具30をレーザー光遮断具33および被加工物1とともに仕上げ加工装置20側へ搬送する。
【0047】
そして、図7(b)に示すように、仕上げ加工装置20から被加工物1に向けてウォータージェットレーザー21、具体的には水柱21aおよびレーザー光21bを照射し、荒加工された孔1cを1個ずつ仕上げ加工する。このとき、保持具30により被加工物1の角度を調整して孔1cの向きをウォータージェットレーザー21の照射方向に一致させる。
【0048】
この仕上げ加工においては、図7(b)の矢印R1のように保持具30を回転させながら孔1cの拡大仕上げを行う。この保持具30の回転は、図示しない回転機構によって行われる。
【0049】
図7(b)からわかるように、一旦、孔1cが貫通していれば水柱21aの衝突が少ないのでウォータージェットレーザー21による加工が可能である。仕上げ加工された孔1cは、ウォータージェットレーザー21の特性上、ストレート形状になり、面粗さも小さく、熱影響が小さい。以上により、被加工物1に対する複数個の孔1cの加工が完了する。
【0050】
本実施形態によると、レーザー光遮断具33を被加工物1の内部に挿入して荒加工および仕上げ加工を行うので、孔1cを通過したレーザー光11、21bはレーザー光遮断具33に衝突して遮断される。このため、レーザー光11、21bによって被加工物1の非加工部位、すなわち孔1c(加工対象)の延長上に位置している内壁部1e(図5(b)を参照)が加工されてしまうことを防止できる。
【0051】
さらに、内壁部1eに配置されるレーザー光遮断具33は円筒状に形成されているので、仕上げ加工時において、水柱21aが加工対象部位に滞留することなくレーザー光遮断具33の内部空間33aを通じて排出される。換言すれば、レーザー光遮断具33の内部空間33aは、孔1cに到達した水柱21aを排出する排出路としての役割を果たす。
【0052】
このため、水柱21aが加工対象部位に滞留して加工効率が低下することを防止できるので、加工効率を向上させることができる。
【0053】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、荒加工装置10は、気中レーザー光11を被加工物1に向けて照射することで孔1cを荒加工するが、本第2実施形態では、図8に示すように、荒加工装置10は、ウォータージェットレーザー12によって孔1cを荒加工する。
【0054】
荒加工装置10のウォータージェットレーザー12の径(すなわち水柱12aの径)Dは、仕上げ加工装置20のウォータージェットレーザー21の径よりも大径になっている。すなわち、ウォータージェットレーザー12の径Dが小さいとレーザーパワーが小さくしか入らないので被加工物1を貫通しないが、ウォータージェットレーザー12の径Dが大径ならば被加工物1を貫通することができる。
【0055】
例えば、ウォータージェットレーザー12のレーザー光12bとしてYAGレーザーを用いた場合には、ウォータージェットレーザー12の径D=100μmなら厚さt=0.3mmの被加工物を貫通することができ、ウォータージェットレーザー12の径D=50μmなら厚さt=0.1mmの被加工物を貫通することができる。
【0056】
一方、大径のウォータージェットレーザー12によって加工された孔1cは真円度、円筒度等の加工精度が劣る。このため、仕上げ加工装置20の小径のウォータージェットレーザー21によって孔1cを仕上げ加工することで、真円度、円筒度等の加工精度を高精度にする。
【0057】
因みに、要求精度が比較的低い場合には、大径のウォータージェットレーザー12だけの一発仕上げ加工が可能である。
【0058】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、被加工物1に丸孔形状の孔1cを加工したが、本第2実施形態では、被加工物2にスリット形状の孔2cを加工する。
【0059】
図9は、被加工物2を示す平面図および断面図である。図9(b)の上下の矢印は、保持具60にセットされた状態における基本的な上下方向を示している。
【0060】
被加工物2は、サック形状を有しており、孔2cの加工時には開口部2aが下方側を向いている。閉塞部2bには、スリット形状の孔2cが孔加工機によって加工される。
【0061】
図示を省略しているが、孔加工機による孔2cの加工時には、被加工物2の開口部2aから被加工物2の内部にレーザー光遮断具33が挿入される。換言すれば、被加工物2のうち被加工部位である内壁部2eにレーザー光遮断具33が配置される。
【0062】
図10は、被加工物2を保持する保持具60等の模式図である。図10では、図示の都合上、レーザー光遮断具33および断面ハッチングを省略している。
【0063】
保持具60は、ウォータージェットレーザー21の照射方向(具体的には上下方向)に対して被加工物2を傾斜させる傾斜機構を有している。具体的には、保持具60は、搬送装置40の台座41に載せられる基台部61と、被加工物2がセットされる可動部62とを有し、可動部62が基台部61に対して所定方向(図10の左右方向)に揺動するように構成されている。可動部62は、アクチュエータ等の駆動手段によって駆動されるようになっている。
【0064】
図11は微細孔1cの加工工程を示す工程図である。まず、搬送装置40の台座41および保持具60が荒加工装置10側にある状態において、レーザー光遮断具33を保持具60にセットする。次いで、被加工物2を保持具60にセットする。このとき、レーザー光遮断具33が被加工物2の内部に挿入される。
【0065】
次いで、保持具60の傾斜機構を作動させて被加工物2を傾斜(揺動)させると同時に荒加工装置10から被加工物2に向けて荒加工用レーザーである気中レーザー11を照射し、被加工物2にスリット形状の孔2cを荒加工する。
【0066】
次いで、搬送装置40によって、保持具60をレーザー光遮断具33および被加工物2とともに仕上げ加工装置20側へ搬送する。
【0067】
そして、仕上げ加工装置20から被加工物1に向けてウォータージェットレーザー21、具体的には水柱21aおよびレーザー光21bを照射し、荒加工されたスリット孔2cを仕上げ加工する。このとき、保持具60により被加工物2を傾斜(揺動)させるとともに、保持具60を水平移動させながらスリット孔2cの拡大仕上げを行う。保持具60の水平移動は、図示しない移動機構によって行われる。以上により、被加工物2に対するスリット孔2cの加工が完了する。
【0068】
図12(a)は本実施形態におけるスリット孔2cの加工過程を説明する模式図である。図12(b)は被加工物2を傾斜させず、水平方向の平行移動のみによってスリット孔2cを加工する場合におけるスリット孔2cの加工過程を説明する模式図である。
【0069】
一般的に、レーザーパワーは、被加工物2の表面から被加工物2の深潭に向かうにつれて減衰する。このため、適切な入力値であっても実加工上のレーザーパワー値は、被加工物2の深潭では被加工物2の表面に比べ小さくなる(表面>深潭)。
【0070】
しかるに、図12(b)のごとく被加工物2を傾斜させず、水平方向の平行移動のみによってスリット孔2cを加工する場合には、レーザー移動速度(相対速度)Vは被加工物2の表面と深潭とで同一になる。
【0071】
すなわち、被加工物2の深潭近辺ではレーザーパワーが減衰している状態にも関わらずレーザー移動速度Vは被加工物2の表面と同一である。このため、被加工物2の深潭近辺では加工能力が追従しない結果となって面粗度が悪化する(荒い)。
【0072】
これに対し、図12(a)のごとく被加工物2を傾斜させてスリット孔2cを加工する場合には、被加工物2の深潭では被加工物2の表面に比べてレーザー移動速度Vが遅くなる(小さくなる)ので、レーザーパワーが減衰している状態(弱パワー値)であっても良好に加工できる。さらに、図12(a)からわかるように被加工物2の深潭ではレーザー光が幾重にも重なり合うこととなるので、加工面の品質向上に寄与することができる。
【0073】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態では、本発明のレーザー加工装置およびレーザー加工方法を、燃料噴射弁の噴孔の加工に適用したが、これに限定されることなく、例えばマイクロミスト発生器のミスト噴出孔や、加湿器の噴霧孔等に本発明を広く適用可能である。
【0074】
また、上記各実施形態では、レーザー光遮断具33の形状は円筒状になっているが、これに限定されるものではなく、孔を通過したレーザー光を遮断することができ、かつ孔に到達した水柱を排出する排出路を有する形状であれば、他の種々の形状を採用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 被加工物
1c 孔
1e 内壁部(非加工部位)
21a 水柱(液体)
21b レーザー光
22 ノズル
26 レーザーヘッド
30 保持具
33 レーザー光遮断具
33a 排出路
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に向けて液体を噴射するとともに液体の内部にレーザーを照射することによって被加工物を加工するレーザー加工に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のレーザー加工が特許文献1に記載されている。この従来技術では、高圧水をノズルから加工面に向けて噴射して水柱(ウォータージェット)を形成し、その水柱内にレーザー光を通す。このとき、水柱は、光ファイバーのごとくレーザー光を誘導する役割を果たす。そして、水柱とレーザー光とで形成されるウォータージェットレーザーを被加工物に到達させて被加工物を加工する。
【0003】
このようなレーザー加工、いわゆるウォータージェットレーザー加工においては、被加工物をウォータージェットレーザーに対して相対的に移動させる事を複数回繰り返す事により所定の形状に加工することができる。ここで、所定の形状とは、貫通孔φ0.3mm以下を指している。この貫通孔の最小穴径は、噴出する水柱の径で概ね決まる。
【0004】
ウォータージェットレーザー加工によると、ウォータージェットを用いない気中レーザー(ドライレーザー)加工と比べて、加工面への熱影響層が軽減され、優れた加工品質を得ることができる。
【0005】
一方、特許文献2には、気中レーザー加工において、まず被加工物にナノ秒レーザー光を照射して下孔を開け、次いで下孔の内壁にピコ秒レーザー光を照射して下孔の内壁を平滑に仕上げることによって、微細孔開け加工を高速かつ高精度に行うことができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3680864号公報
【特許文献2】特開2008−55477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述したウォータージェットレーザー加工を、内燃機関の燃料噴射装置に用いられる燃料噴射弁(インジェクタ)の噴孔(微細孔)の加工に適用することを検討した。すなわち、近年、環境改善のために内燃機関の排気ガスの規制が年々強化されており、内燃機関の燃料噴射装置においては噴射量制御の更なる高精度化が強く要求されている。そのため、燃料噴射弁の噴孔の加工品質を高める必要があり、それを実現する手段としてウォータージェットレーザー加工は有望である。
【0008】
しかしながら、燃料噴射弁の噴孔部分は、サック形状(一端が開口し且つ他端が閉塞された筒のような形状)の部品で構成されており、噴孔はサック形状の部品に対して斜めに開けられている。このため、噴孔の加工においては、噴孔を貫通したレーザー光がサック形状の部品の内壁部に当たってしまい、非加工部位である内壁部をも加工してしまうという問題がある(後述する図5を参照)。
【0009】
この対策として、非加工部位である内壁部にレーザー光遮断具を配置することが考えられるが、レーザー光遮断具の配置に際しては、レーザー光遮断具が水柱の排出を妨げないことを考慮する必要がある。
【0010】
すなわち、ウォータージェットレーザー加工においては、水柱がレーザー光を誘導する役割を果たすことから、水柱の排出が妨げられて加工対象部位に水が滞留するとレーザー光をうまく誘導することができず、その結果、加工効率がすこぶる低下し加工が進まないという問題が生じてしまうからである。
【0011】
本発明は上記点に鑑みて、加工対象となる孔の延長上に非加工部位が位置している被加工物を加工する場合において、非加工部位が加工されてしまうことを防止するとともに加工効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、孔(1c、2c)に向けて液体(21a)を噴射するノズル(22)と、
孔(1c、2c)に向けて噴射される液体(21a)の内部にレーザー光(21b)を照射するレーザーヘッド(26)と、
被加工物(1、2)を保持する保持具(30、60)と、
非加工部位(1e、2e)に配置され、孔(1c、2c)を通過したレーザー光(21b)を遮断するレーザー光遮断具(33)とを備え、
レーザー光遮断具(33)には、孔(1c、2c)に到達した液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられていることを特徴とする。
【0013】
これによると、レーザー光遮断具(33)が非加工部位(1e、2e)に配置されるので、孔(1c、2c)を貫通したレーザー光(21b)はレーザー光遮断具(33)に衝突する。このため、レーザー光(21b)によって非加工部位(1e、2e)が加工されてしまうことを防止できる。
【0014】
さらに、レーザー光遮断具(33)には、孔(1c、2c)に到達した液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられているので、液体(21a)は加工対象部位に滞留することなくレーザー光遮断具(33)の排出路(33a)を通じて排出される。このため、液体(21a)が加工対象部位に滞留して加工効率が低下することを防止できるので、加工効率を向上させることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のレーザー加工装置において、排出路(33a)の断面積は、ノズル(22)の出口面積よりも大きくなっていることを特徴とする。
【0016】
これにより、排出路(33a)によって液体(21a)を効果的に排出できるので、加工効率をより向上させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明では、請求項1または2に記載のレーザー加工装置において、保持具(30)は、液体(21a)の噴射方向に対する被加工物(1)およびレーザー光遮断具(33)の角度を調整可能に構成されていることを特徴とする。
【0018】
これにより、加工対象となる孔(1c)が傾斜角を有していても被加工物(1、2)に加工を行うことができる。このため、例えば燃料噴射弁の噴孔を加工する孔加工機に本発明を良好に適用できる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、孔(1c、2c)に到達した液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられたレーザー光遮断具(33)を非加工部位(1e、2e)に配置し、
孔(1c、2c)に向けて液体(21a)を噴射すると同時に、液体(21a)の内部にレーザー光(21b)を照射することを特徴とする。これにより、上記請求項1と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載のレーザー加工方法において、ノズル(22)から液体(21a)が噴射され且つレーザーヘッド(26)からレーザー光(21b)が照射されているときに被加工物(2)およびレーザー光遮断具(33)を液体(21a)の噴射方向に対して揺動させることによって孔(2c)をスリット形状に加工することを特徴とする。
【0021】
これによると、被加工物(2)の深潭では被加工物(2)の表面に比べてレーザー光(21b)の移動速度(相対速度)が遅くなるので、レーザーパワーが減衰している状態(弱パワー値)であっても良好に加工できる。さらに、被加工物(2)の深潭ではレーザー光(21b)が幾重にも重なり合うこととなるので、加工面向上に寄与することができる(後述する図12を参照)。
【0022】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態における孔加工機の全体構成の概略を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態における仕上げ加工装置および保持具を示す模式図である。
【図3】第1実施形態における保持具の三面図および斜視図であり、角度調整の一例を示している。
【図4】第1実施形態における保持具の三面図および斜視図であり、角度調整の他の例を示している。
【図5】第1実施形態における被加工物を示す平面図および断面図である。
【図6】第1実施形態における孔の加工工程を示す工程図である。
【図7】第1実施形態における孔の加工過程を説明する模式図である。
【図8】第2実施形態における孔の加工過程を説明する模式図である。
【図9】第3実施形態における被加工物を示す平面図および断面図である。
【図10】第3実施形態における仕上げ加工装置および保持具を示す模式図である。
【図11】第3実施形態における孔の加工工程を示す工程図である。
【図12】第3実施形態における孔の加工過程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。本実施形態は、本発明のレーザー加工装置を、燃料噴射弁(インジェクタ)の先端を構成する部品(被加工物)に複数個の噴孔を加工する孔加工機に適用したものである。
【0025】
因みに、燃料噴射弁の噴孔は、φ0.3mm未満であり且つ傾斜角を有する微細孔であり、真円度、円筒度等が極めて高精度に要求される。傾斜角は、面直方向に対する角度のことであり、約80°以下の角度とされる。
【0026】
図1は、孔加工機の全体構成の概略を示す斜視図である。図1中の上下の矢印は、孔加工機の設置状態における上下方向を示している。
【0027】
孔加工機は、被加工物に微細孔を荒加工する荒加工装置10と、荒加工された微細孔を仕上げ加工する仕上げ加工装置20とを有している。荒加工装置10は、気中レーザー光(本例ではYAGレーザー)11を被加工物に向けて照射することで被加工物に微細孔を荒加工する。仕上げ加工装置20は、荒加工された微細孔をウォータージェットレーザー21によって仕上げ加工する。
【0028】
また、孔加工機は、被加工物を保持する保持具30と、保持具30を荒加工装置10と仕上げ加工装置20との間で往復搬送する搬送装置40と、荒加工装置10、仕上げ加工装置20および搬送装置40を操作するための操作盤50とを有している。
【0029】
図2は、仕上げ加工装置20および保持具30を示す模式図である。仕上げ加工装置20は、ノズル22、高圧水供給部23、配管部24、レーザー発生部25、レーザーヘッド26、および光ファイバー部27を有している。
【0030】
ノズル22は、水柱(ウォータージェット)を形成する高圧水を噴射する。高圧水供給部23はノズル22に高圧水を供給する。配管部24はノズル22と高圧水供給部23との間を結んでいる。
【0031】
レーザー発生部25は、レーザ光(本例ではグリーンレーザー)を発生させる。レーザーヘッド26は、レーザー発生部25で発生したレーザ光を所望の径に絞って水柱の内部に照射する。光ファイバー部27は、レーザー発生部25とレーザーヘッド26との間を結んでいる。
【0032】
ノズル22からの水柱とレーザーヘッド26からのレーザ光とによってウォータージェットレーザー21が形成される。なお、ウォータージェットレーザー21の水柱は、純粋な水に限定されるものではなく、水以外の液体であってもよい。
【0033】
被加工物1を保持する保持具30は、ウォータージェットレーザー21の照射方向、換言すれば水柱の噴射方向(具体的には上下方向)に対する被加工物1の角度を調整可能に構成されている。具体的には、保持具30は、搬送装置40の台座41に載せられる基台部31と、被加工物1がセットされる可動部32とを有し、基台部31と可動部32とが互いに球面接触するように構成されている。
【0034】
図3は、保持具30によって被加工物1の角度を調整した場合の一例を示し、図4は、保持具30によって被加工物1の角度を調整した場合の他の例を示している。図3(a)〜(c)および図4(a)〜(c)は、各々の例における保持具30の三面図であり、図3(d)および図4(d)は、各々の例における保持具30の斜視図である。
【0035】
可動部32は、アクチュエータ等の駆動手段によって駆動されるようになっていてもよいし、手動操作されるようになっていてもよい。
【0036】
図5は、被加工物1を示す平面図および断面図である。図5(b)の上下の矢印は、保持具30にセットされた状態における基本的な上下方向を示している。
【0037】
被加工物1は、サック形状を有している。具体的には、被加工物1は、一端側に開口部1aを有し、他端側に閉塞部1bを有する有底筒状に形成されている。被加工物1は、保持具30の可動部32にセットされた状態では開口部1aが保持具30側(具体的には下方側)を向いている。
【0038】
閉塞部1bには、位置および角度が互いに異なる複数個(本例では6個)の微細な孔(噴孔)1cが孔加工機によって加工される。本実施形態では、孔1cは丸孔形状に加工される。
【0039】
孔加工機による孔1cの加工時には、被加工物1の開口部1aから被加工物1の内部にレーザー光遮断具33が挿入される。レーザー光遮断具33は、耐熱温度が高くレーザー光の反射率が高い材料(例えば、銅、テフロン(登録商標)、石英、サファイア系等)にて円筒状に形成されている。
【0040】
レーザー光遮断具33の内部空間33aの断面積は、ノズル22の出口面積、換言すればウォータージェットレーザー21の水柱の断面積よりも大きくなっている。
【0041】
レーザー光遮断具33は、保持具30の可動部32にセットできるようになっている。なお、レーザー光遮断具33は、被加工物1の内部に挿入された状態において、被加工物1の内壁に当接していてもよいし、被加工物1の内壁に対して若干離間していてもよい。
【0042】
次に、上記構成による孔加工機を用いた孔1cの加工工程を説明する。図6は孔1cの加工工程を示す工程図である。図7は孔1cの加工過程を説明する模式図である。
【0043】
まず、搬送装置40の台座41および保持具30が荒加工装置10側にある状態において、レーザー光遮断具33を保持具30にセットする。次いで、被加工物1を保持具30にセットする。このとき、レーザー光遮断具33が被加工物1の内部に挿入される。
【0044】
次いで、図7(a)に示すように、荒加工装置10から被加工物1に向けて荒加工用レーザーである気中レーザー11を照射し、被加工物1に複数個の孔1cを1個ずつ加工する。このとき、各孔1cの角度が異なるので、保持具30により被加工物1の角度を調整して各孔1cの角度を決める。
【0045】
気中レーザー11の特性上、荒加工された孔1cはストレート形状でなくテーパー形状になる。また、面粗さも大きく、熱影響が大きい。なお、図7中の符号1dは、荒加工により生じるスラッジを示している。
【0046】
次いで、搬送装置40によって、保持具30をレーザー光遮断具33および被加工物1とともに仕上げ加工装置20側へ搬送する。
【0047】
そして、図7(b)に示すように、仕上げ加工装置20から被加工物1に向けてウォータージェットレーザー21、具体的には水柱21aおよびレーザー光21bを照射し、荒加工された孔1cを1個ずつ仕上げ加工する。このとき、保持具30により被加工物1の角度を調整して孔1cの向きをウォータージェットレーザー21の照射方向に一致させる。
【0048】
この仕上げ加工においては、図7(b)の矢印R1のように保持具30を回転させながら孔1cの拡大仕上げを行う。この保持具30の回転は、図示しない回転機構によって行われる。
【0049】
図7(b)からわかるように、一旦、孔1cが貫通していれば水柱21aの衝突が少ないのでウォータージェットレーザー21による加工が可能である。仕上げ加工された孔1cは、ウォータージェットレーザー21の特性上、ストレート形状になり、面粗さも小さく、熱影響が小さい。以上により、被加工物1に対する複数個の孔1cの加工が完了する。
【0050】
本実施形態によると、レーザー光遮断具33を被加工物1の内部に挿入して荒加工および仕上げ加工を行うので、孔1cを通過したレーザー光11、21bはレーザー光遮断具33に衝突して遮断される。このため、レーザー光11、21bによって被加工物1の非加工部位、すなわち孔1c(加工対象)の延長上に位置している内壁部1e(図5(b)を参照)が加工されてしまうことを防止できる。
【0051】
さらに、内壁部1eに配置されるレーザー光遮断具33は円筒状に形成されているので、仕上げ加工時において、水柱21aが加工対象部位に滞留することなくレーザー光遮断具33の内部空間33aを通じて排出される。換言すれば、レーザー光遮断具33の内部空間33aは、孔1cに到達した水柱21aを排出する排出路としての役割を果たす。
【0052】
このため、水柱21aが加工対象部位に滞留して加工効率が低下することを防止できるので、加工効率を向上させることができる。
【0053】
(第2実施形態)
上記第1実施形態では、荒加工装置10は、気中レーザー光11を被加工物1に向けて照射することで孔1cを荒加工するが、本第2実施形態では、図8に示すように、荒加工装置10は、ウォータージェットレーザー12によって孔1cを荒加工する。
【0054】
荒加工装置10のウォータージェットレーザー12の径(すなわち水柱12aの径)Dは、仕上げ加工装置20のウォータージェットレーザー21の径よりも大径になっている。すなわち、ウォータージェットレーザー12の径Dが小さいとレーザーパワーが小さくしか入らないので被加工物1を貫通しないが、ウォータージェットレーザー12の径Dが大径ならば被加工物1を貫通することができる。
【0055】
例えば、ウォータージェットレーザー12のレーザー光12bとしてYAGレーザーを用いた場合には、ウォータージェットレーザー12の径D=100μmなら厚さt=0.3mmの被加工物を貫通することができ、ウォータージェットレーザー12の径D=50μmなら厚さt=0.1mmの被加工物を貫通することができる。
【0056】
一方、大径のウォータージェットレーザー12によって加工された孔1cは真円度、円筒度等の加工精度が劣る。このため、仕上げ加工装置20の小径のウォータージェットレーザー21によって孔1cを仕上げ加工することで、真円度、円筒度等の加工精度を高精度にする。
【0057】
因みに、要求精度が比較的低い場合には、大径のウォータージェットレーザー12だけの一発仕上げ加工が可能である。
【0058】
(第3実施形態)
上記第1実施形態では、被加工物1に丸孔形状の孔1cを加工したが、本第2実施形態では、被加工物2にスリット形状の孔2cを加工する。
【0059】
図9は、被加工物2を示す平面図および断面図である。図9(b)の上下の矢印は、保持具60にセットされた状態における基本的な上下方向を示している。
【0060】
被加工物2は、サック形状を有しており、孔2cの加工時には開口部2aが下方側を向いている。閉塞部2bには、スリット形状の孔2cが孔加工機によって加工される。
【0061】
図示を省略しているが、孔加工機による孔2cの加工時には、被加工物2の開口部2aから被加工物2の内部にレーザー光遮断具33が挿入される。換言すれば、被加工物2のうち被加工部位である内壁部2eにレーザー光遮断具33が配置される。
【0062】
図10は、被加工物2を保持する保持具60等の模式図である。図10では、図示の都合上、レーザー光遮断具33および断面ハッチングを省略している。
【0063】
保持具60は、ウォータージェットレーザー21の照射方向(具体的には上下方向)に対して被加工物2を傾斜させる傾斜機構を有している。具体的には、保持具60は、搬送装置40の台座41に載せられる基台部61と、被加工物2がセットされる可動部62とを有し、可動部62が基台部61に対して所定方向(図10の左右方向)に揺動するように構成されている。可動部62は、アクチュエータ等の駆動手段によって駆動されるようになっている。
【0064】
図11は微細孔1cの加工工程を示す工程図である。まず、搬送装置40の台座41および保持具60が荒加工装置10側にある状態において、レーザー光遮断具33を保持具60にセットする。次いで、被加工物2を保持具60にセットする。このとき、レーザー光遮断具33が被加工物2の内部に挿入される。
【0065】
次いで、保持具60の傾斜機構を作動させて被加工物2を傾斜(揺動)させると同時に荒加工装置10から被加工物2に向けて荒加工用レーザーである気中レーザー11を照射し、被加工物2にスリット形状の孔2cを荒加工する。
【0066】
次いで、搬送装置40によって、保持具60をレーザー光遮断具33および被加工物2とともに仕上げ加工装置20側へ搬送する。
【0067】
そして、仕上げ加工装置20から被加工物1に向けてウォータージェットレーザー21、具体的には水柱21aおよびレーザー光21bを照射し、荒加工されたスリット孔2cを仕上げ加工する。このとき、保持具60により被加工物2を傾斜(揺動)させるとともに、保持具60を水平移動させながらスリット孔2cの拡大仕上げを行う。保持具60の水平移動は、図示しない移動機構によって行われる。以上により、被加工物2に対するスリット孔2cの加工が完了する。
【0068】
図12(a)は本実施形態におけるスリット孔2cの加工過程を説明する模式図である。図12(b)は被加工物2を傾斜させず、水平方向の平行移動のみによってスリット孔2cを加工する場合におけるスリット孔2cの加工過程を説明する模式図である。
【0069】
一般的に、レーザーパワーは、被加工物2の表面から被加工物2の深潭に向かうにつれて減衰する。このため、適切な入力値であっても実加工上のレーザーパワー値は、被加工物2の深潭では被加工物2の表面に比べ小さくなる(表面>深潭)。
【0070】
しかるに、図12(b)のごとく被加工物2を傾斜させず、水平方向の平行移動のみによってスリット孔2cを加工する場合には、レーザー移動速度(相対速度)Vは被加工物2の表面と深潭とで同一になる。
【0071】
すなわち、被加工物2の深潭近辺ではレーザーパワーが減衰している状態にも関わらずレーザー移動速度Vは被加工物2の表面と同一である。このため、被加工物2の深潭近辺では加工能力が追従しない結果となって面粗度が悪化する(荒い)。
【0072】
これに対し、図12(a)のごとく被加工物2を傾斜させてスリット孔2cを加工する場合には、被加工物2の深潭では被加工物2の表面に比べてレーザー移動速度Vが遅くなる(小さくなる)ので、レーザーパワーが減衰している状態(弱パワー値)であっても良好に加工できる。さらに、図12(a)からわかるように被加工物2の深潭ではレーザー光が幾重にも重なり合うこととなるので、加工面の品質向上に寄与することができる。
【0073】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態では、本発明のレーザー加工装置およびレーザー加工方法を、燃料噴射弁の噴孔の加工に適用したが、これに限定されることなく、例えばマイクロミスト発生器のミスト噴出孔や、加湿器の噴霧孔等に本発明を広く適用可能である。
【0074】
また、上記各実施形態では、レーザー光遮断具33の形状は円筒状になっているが、これに限定されるものではなく、孔を通過したレーザー光を遮断することができ、かつ孔に到達した水柱を排出する排出路を有する形状であれば、他の種々の形状を採用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 被加工物
1c 孔
1e 内壁部(非加工部位)
21a 水柱(液体)
21b レーザー光
22 ノズル
26 レーザーヘッド
30 保持具
33 レーザー光遮断具
33a 排出路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象となる孔(1c、2c)の延長上に非加工部位(1e、2e)が位置している被加工物(1、2)に加工を行うレーザー加工装置であって、
前記孔(1c、2c)に向けて液体(21a)を噴射するノズル(22)と、
前記孔(1c、2c)に向けて噴射される前記液体(21a)の内部に前記レーザー光(21b)を照射するレーザーヘッド(26)と、
前記被加工物(1、2)を保持する保持具(30、60)と、
前記非加工部位(1e、2e)に配置され、前記孔(1c、2c)を通過した前記レーザー光(21b)を遮断するレーザー光遮断具(33)とを備え、
前記レーザー光遮断具(33)には、前記孔(1c、2c)に到達した前記液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられていることを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
前記排出路(33a)の断面積は、前記ノズル(22)の出口面積よりも大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
前記保持具(30)は、前記液体(21a)の噴射方向に対する前記被加工物(1)および前記レーザー光遮断具(33)の角度を調整可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
加工対象となる孔(1c、2c)の延長上に非加工部位(1e、2e)が位置している被加工物(1、2)を、前記被加工物(1、2)に向けて噴射される液体(21a)と、前記液体(21a)の内部に照射されるレーザー光(21b)とによって加工するレーザー加工方法であって、
前記孔(1c、2c)に到達した前記液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられたレーザー光遮断具(33)を前記非加工部位(1e、2e)に配置し、
前記孔(1c、2c)に向けて前記液体(21a)を噴射すると同時に、前記液体(21a)の内部に前記レーザー光(21b)を照射することを特徴とするレーザー加工方法。
【請求項5】
前記ノズル(22)から前記液体(21a)が噴射され且つ前記レーザーヘッド(26)から前記レーザー光(21b)が照射されているときに前記被加工物(2)および前記レーザー光遮断具(33)を前記液体(21a)の噴射方向に対して揺動させることによって前記孔(2c)をスリット形状に加工することを特徴とする請求項4に記載のレーザー加工方法。
【請求項1】
加工対象となる孔(1c、2c)の延長上に非加工部位(1e、2e)が位置している被加工物(1、2)に加工を行うレーザー加工装置であって、
前記孔(1c、2c)に向けて液体(21a)を噴射するノズル(22)と、
前記孔(1c、2c)に向けて噴射される前記液体(21a)の内部に前記レーザー光(21b)を照射するレーザーヘッド(26)と、
前記被加工物(1、2)を保持する保持具(30、60)と、
前記非加工部位(1e、2e)に配置され、前記孔(1c、2c)を通過した前記レーザー光(21b)を遮断するレーザー光遮断具(33)とを備え、
前記レーザー光遮断具(33)には、前記孔(1c、2c)に到達した前記液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられていることを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
前記排出路(33a)の断面積は、前記ノズル(22)の出口面積よりも大きくなっていることを特徴とする請求項1に記載のレーザー加工装置。
【請求項3】
前記保持具(30)は、前記液体(21a)の噴射方向に対する前記被加工物(1)および前記レーザー光遮断具(33)の角度を調整可能に構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザー加工装置。
【請求項4】
加工対象となる孔(1c、2c)の延長上に非加工部位(1e、2e)が位置している被加工物(1、2)を、前記被加工物(1、2)に向けて噴射される液体(21a)と、前記液体(21a)の内部に照射されるレーザー光(21b)とによって加工するレーザー加工方法であって、
前記孔(1c、2c)に到達した前記液体(21a)を排出する排出路(33a)が設けられたレーザー光遮断具(33)を前記非加工部位(1e、2e)に配置し、
前記孔(1c、2c)に向けて前記液体(21a)を噴射すると同時に、前記液体(21a)の内部に前記レーザー光(21b)を照射することを特徴とするレーザー加工方法。
【請求項5】
前記ノズル(22)から前記液体(21a)が噴射され且つ前記レーザーヘッド(26)から前記レーザー光(21b)が照射されているときに前記被加工物(2)および前記レーザー光遮断具(33)を前記液体(21a)の噴射方向に対して揺動させることによって前記孔(2c)をスリット形状に加工することを特徴とする請求項4に記載のレーザー加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−140036(P2011−140036A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1338(P2010−1338)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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