説明

レーザー加工装置

【課題】パルスレーザー光線を光軸方向に変位した2つの集光点に集光させることができる比較的安価なレーザー加工装置を提供する。
【解決手段】パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を第1の偏光面を有する第1のパルスレーザー光線と第1のパルスレーザー光線と直交する第2の偏光面を有する第2のパルスレーザー光線とに分光して偏光面を維持するとともに一方の光路長を延ばして遅延させる第1の偏頗保持ファイバーおよび第2の偏頗保持ファイバーと、第1の偏頗保持ファイバーおよび第2の偏頗保持ファイバーによって伝送された第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線とを合流させて同じ光軸に導く合流手段と、合流手段によって合流した第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線のうち遅延された一方のパルスレーザー光線の広がり角を他方のパルスレーザー光線よりも小さくする偏光依存レンズとを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し、被加工物の内部に改質層を形成するレーザー加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所謂インクジェットヘッドを構成するインクを吐出するための複数のノズルが形成されたノズル基板に連結されるシリコンリザーバ基板には、ノズルに連通する複数の貫通孔が形成される。シリコンリザーバ基板に複数の貫通孔を形成するには、シリコンリザーバ基板の表面に貫通孔が形成される領域に開口部が形成されたエッチングマスクを被覆し、シリコンリザーバ基板に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線をエッチングマスクの開口部を通して照射することによりシリコンリザーバ基板の内部に改質層を形成し、その後エッチングマスクの開口部を通してエッチング液を供給することにより、エッチング液を改質層に沿ってシリコンリザーバ基板に浸透させて内径が5〜15μmの適正な貫通孔を形成する。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
しかるに、パルスレーザー光線の1ショットで形成される改質層の深さは20〜30μm程度であり、シリコンリザーバ基板の厚みが例えば200μmの場合には、シリコンリザーバ基板の表面から裏面に至る改質層を形成するためにパルスレーザー光線を10ショット以上照射しなければならず、生産性が悪いという問題がある。
【0004】
一方、パルスレーザー光線を光軸方向に少なくとも2個の集光点に集光せしめるように構成したレーザー加工装置が提案されている。(例えば、特許文献2参照。)このレーザー加工装置によれば、被加工物即ちウエーハの厚さ方向に変位せしめられている少なくとも2個の集光点の部位に改質層を同時に形成することができる。しかしながら、このレーザー加工装置は、パルスレーザー光線がウエーハの厚さ方向において同一光軸上に集光点を変位して照射されるため、集光点が浅いレーザー光線が集光点が深いパルスレーザー光線の照射を阻害し、所望の改質層を形成することができないという問題がある。
【0005】
上記問題を解消するために、パルスレーザー光線を同一光軸上に変位した2つの集光点に集光させても、集光点が浅い一方のレーザー光線によって集光点が深い他方のパルスレーザー光線が阻害されることのないレーザー加工装置が下記特許文献3に開示されている。下記特許文献3に開示されたレーザー加工装置は、パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を交互に第1の経路と第2の経路に分配し、第1の経路を通り集光レンズによって集光される一方のパルスレーザー光線と第2の経路を通り集光レンズによって集光される他方のパルスレーザー光線を、光軸方向に変位せしめられた異なる集光点に時間差を設けて交互に照射せしめるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−221527号公報
【特許文献2】特開2005−28438号公報
【特許文献3】特開2006−108478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3に開示されたレーザー加工装置においては、パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を交互に垂直偏光と水平偏光に分ける偏光変換手段と、該偏光変換手段によって分けられた垂直偏光レーザー光線と水平偏光レーザー光線を第1の経路と第2の経路に分けるビームスプリッターとからなる経路分配手段を具備する。この経路分配手段を構成する偏光変換手段は、パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を交互に垂直偏光と水平偏光に分ける変調器と、パルスレーザー光線発振手段に繰り返し周波数(f)を設定する同期信号を付与するとともに変調器に周波数(f)/2の同期信号を付与するパルスジェネレータとからなっており、経路分配手段全体が高価となる。なお、第1の経路を通って集光されるパルスレーザー光線と第2の経路を通って集光されるパルスレーザー光線に時間差を設けるためには、両経路に光路長差を設けることが考えられるが、所定の時間差を設けるためには光路長差を非常に長くする必要があるため、装置全体が大型化するという問題がある。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、パルスレーザー光線を光軸方向に変位した2つの集光点に集光させることができる比較的安価なレーザー加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術的課題を解決するために、本発明によれば、被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に該被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送り方向に加工送りする加工送り手段と、を具備するレーザー加工装置において、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線発振手段と、該パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を伝送する光学伝送手段と、該光学伝送手段によって伝送されたパルスレーザー光線を集光せしめる集光器を備えており、
該光学伝送手段は、該パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を第1の偏光面を有する第1のパルスレーザー光線と該第1のパルスレーザー光線と直交する第2の偏光面を有する第2のパルスレーザー光線とに分光して偏光面を維持するとともに該第1のパルスレーザー光線または該第2のパルスレーザー光線の一方の光路長を延ばして遅延させる第1の偏頗保持ファイバーおよび第2の偏頗保持ファイバーと、該第1の偏頗保持ファイバーおよび該第2の偏頗保持ファイバーによって伝送された該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線とを合流させて同じ光軸に導く合流手段と、該合流手段によって合流した該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線のうち遅延された一方のパルスレーザー光線の広がり角を他方のパルスレーザー光線よりも小さくする偏光依存レンズと、を具備し、
該偏光依存レンズを通過した該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を該集光器によって集光することにより、光軸方向に2個の集光点を形成する、
ことを特徴とするレーザー加工装置が提供される。
【0010】
上記合流手段は、上記第1の偏頗保持ファイバーによって伝送された第1のパルスレーザー光線を平行光に修正する第1のコリメーションレンズと、上記第2の偏頗保持ファイバーによって伝送された第2のパルスレーザー光線を平行光に修正する第2のコリメーションレンズと、第1のコリメーションレンズによって平行光に修正された第1のパルスレーザー光線を通過して第2のパルスレーザー光線を反射することにより第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線とを合流させて同じ光軸に導くビームスプリッターと、該ビームスプリッターによって同じ光軸に導かれた第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線を集光する集光レンズと、該集光レンズによって集光された第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線をそれぞれ偏光面を維持して伝送する第3の偏頗保持ファイバーと、該第3の偏頗保持ファイバーによって伝送された第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線を平行光に修正して上記偏光依存レンズに導く第3のコリメーションレンズと、を含んでいる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるレーザー加工装置おいては、パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を集光器に伝送する光学伝送手段は、パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を第1の偏光面を有する第1のパルスレーザー光線と第1のパルスレーザー光線と直交する第2の偏光面を有する第2のパルスレーザー光線とに分光して偏光面を維持するとともに第1のパルスレーザー光線または第2のパルスレーザー光線の一方の光路長を延ばして遅延させる第1の偏頗保持ファイバーおよび第2の偏頗保持ファイバーと、第1の偏頗保持ファイバーおよび第2の偏頗保持ファイバーによって伝送された第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線とを合流させて同じ光軸に導く合流手段と、合流手段によって合流した第1のパルスレーザー光線と第2のパルスレーザー光線のうち遅延された一方のパルスレーザー光線の広がり角を他方のパルスレーザー光線よりも小さくする偏光依存レンズとを具備し、偏光依存レンズを通過した第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を該集光器によって集光することにより、光軸方向に2個の集光点を形成するので、2つの改質層を同時に形成することができるため、生産性が2倍に向上する。
また、本発明によるレーザー加工装置おいては、第2の偏頗保持ファイバーまたは第1の偏頗保持ファイバーの一方を他方より長くするだけで遅延手段を構成することができるので、装置全体を大型化することなく安価に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図。
【図2】図1に示すレーザー加工装置に装備されるレーザー光線照射手段の構成ブロック図。
【図3】図1に示すレーザー加工装置に装備される制御手段の構成ブロック図。
【図4】被加工物としてのシリコンリザーバ基板の平面図。
【図5】図4に示すシリコンリザーバ基板の一部を拡大して示す平面図。
【図6】図4に示すシリコンリザーバ基板を環状のフレームに装着された保護テープの表面に貼着した状態を示す斜視図および要部を拡大して示す断面図。
【図7】図4に示すシリコンリザーバ基板が図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブルの所定位置に保持された状態における座標との関係を示す説明図。
【図8】図1に示すレーザー加工装置によって図4に示すシリコンリザーバ基板に実施する改質層形成工程の説明図。
【図9】図8に示す改質層形成工程が実施されたシリコンリザーバ基板の要部を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の好適な実施形態について、添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0014】
図1には、本発明に従って構成されたレーザー加工装置の斜視図が示されている。図1に示すレーザー加工装置は、静止基台2と、該静止基台2に矢印Xで示す加工送り方向(X軸方向)に移動可能に配設され被加工物を保持するチャックテーブル機構3と、静止基台2に上記X軸方向と直交する矢印Yで示す割り出し送り方向(Y軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット支持機構4と、該レーザー光線照射ユニット支持機構4に矢印Zで示す集光点位置調整方向(Z軸方向)に移動可能に配設されたレーザー光線照射ユニット5とを具備している。
【0015】
上記チャックテーブル機構3は、静止基台2上にX軸方向に沿って平行に配設された一対の案内レール31、31と、該案内レール31、31上にX軸方向に移動可能に配設された第1の滑動ブロック32と、該第1の滑動ブロック32上に矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に配設された第2の滑動ブロック33と、該第2の滑動ブロック33上に円筒部材34によって支持されたカバーテーブル35と、被加工物保持手段としてのチャックテーブル36を具備している。このチャックテーブル36は多孔性材料から形成された吸着チャック361を具備しており、吸着チャック361の上面(保持面)に被加工物である例えば円盤状の半導体ウエーハを図示しない吸引手段によって保持するようになっている。このように構成されたチャックテーブル36は、円筒部材34内に配設された図示しないパルスモータによって回転せしめられる。なお、チャックテーブル36には、後述する環状のフレームを固定するためのクランプ362が配設されている。
【0016】
上記第1の滑動ブロック32は、その下面に上記一対の案内レール31、31と嵌合する一対の被案内溝321、321が設けられているとともに、その上面にY軸方向に沿って平行に形成された一対の案内レール322、322が設けられている。このように構成された第1の滑動ブロック32は、被案内溝321、321が一対の案内レール31、31に嵌合することにより、一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第1の滑動ブロック32を一対の案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動させるための加工送り手段37を具備している。加工送り手段37は、上記一対の案内レール31と31の間に平行に配設された雄ネジロット371と、該雄ネジロット371を回転駆動するためのパルスモータ372等の駆動源を含んでいる。雄ネジロット371は、その一端が上記静止基台2に固定された軸受ブロック373に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ372の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロット371は、第1の滑動ブロック32の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ372によって雄ネジロット371を正転および逆転駆動することにより、第1の滑動ブロック32は案内レール31、31に沿ってX軸方向に移動せしめられる。
【0017】
上記第2の滑動ブロック33は、その下面に上記第1の滑動ブロック32の上面に設けられた一対の案内レール322、322と嵌合する一対の被案内溝331、331が設けられており、この被案内溝331、331を一対の案内レール322、322に嵌合することにより、矢印Yで示す割り出し送り方向に移動可能に構成される。図示の実施形態におけるチャックテーブル機構3は、第2の滑動ブロック33を第1の滑動ブロック32に設けられた一対の案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動させるための第1の割り出し送り手段38を具備している。第1の割り出し送り手段38は、上記一対の案内レール322と322の間に平行に配設された雄ネジロット381と、該雄ネジロット381を回転駆動するためのパルスモータ382等の駆動源を含んでいる。雄ネジロット381は、その一端が上記第1の滑動ブロック32の上面に固定された軸受ブロック383に回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ382の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロット381は、第2の滑動ブロック33の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された貫通雌ネジ穴に螺合されている。従って、パルスモータ382によって雄ネジロット381を正転および逆転駆動することにより、第2の滑動ブロック33は案内レール322、322に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0018】
上記レーザー光線照射ユニット支持機構4は、静止基台2上に矢印Yで示す割り出し送り方向に沿って平行に配設された一対の案内レール41、41と、該案内レール41、41上にY軸方向に移動可能に配設された可動支持基台42を具備している。この可動支持基台42は、案内レール41、41上に移動可能に配設された移動支持部421と、該移動支持部421に取り付けられた装着部422とからなっている。装着部422は、一方の側面にZ軸方向に延びる一対の案内レール423、423が平行に設けられている。図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット支持機構4は、可動支持基台42を一対の案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動させるための第2の割り出し送り手段43を具備している。第2の割り出し送り手段43は、上記一対の案内レール41、41の間に平行に配設された雄ネジロット431と、該雄ネジロット431を回転駆動するためのパルスモータ432等の駆動源を含んでいる。雄ネジロット431は、その一端が上記静止基台2に固定された図示しない軸受ブロックに回転自在に支持されており、その他端が上記パルスモータ432の出力軸に伝動連結されている。なお、雄ネジロット431は、可動支持基台42を構成する移動支持部421の中央部下面に突出して設けられた図示しない雌ネジブロックに形成された雌ネジ穴に螺合されている。このため、パルスモータ432によって雄ネジロット431を正転および逆転駆動することにより、可動支持基台42は案内レール41、41に沿ってY軸方向に移動せしめられる。
【0019】
図示の実施形態におけるレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51と、該ユニットホルダ51に取り付けられたレーザー光線照射手段6を具備している。ユニットホルダ51は、上記装着部422に設けられた一対の案内レール423、423に摺動可能に嵌合する一対の被案内溝511、511が設けられており、この被案内溝511、511を上記案内レール423、423に嵌合することにより、Z軸方向に移動可能に支持される。
【0020】
図示のレーザー光線照射ユニット5は、ユニットホルダ51を一対の案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動させるための集光点位置調整手段53を具備している。集光点位置調整手段53は、一対の案内レール423、423の間に配設された雄ネジロット(図示せず)と、該雄ネジロットを回転駆動するためのパルスモータ532等の駆動源を含んでおり、パルスモータ532によって図示しない雄ネジロットを正転および逆転駆動することにより、ユニットホルダ51およびレーザー光線照射手段6を案内レール423、423に沿ってZ軸方向に移動せしめる。なお、図示の実施形態においてはパルスモータ532を正転駆動することによりレーザー光線照射手段6を上方に移動し、パルスモータ532を逆転駆動することによりレーザー光線照射手段6を下方に移動するようになっている。
【0021】
図示のレーザー光線照射手段6は、上記ユニットホルダ51に固定され実質上水平に延出する円筒形状のケーシング61を含んでいる。このレーザー光線照射手段6について、図2を参照して説明する。
図示のレーザー光線照射手段6は、上記ケーシング61内に配設されたパルスレーザー光線発振手段62と、このパルスレーザー光線発振手段62が発振するパルスレーザー光線をパルスレーザー光線を伝送する光学伝送手段63と、該光学伝送手段63によって伝送されたパルスレーザー光線を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射する集光器64を具備している。パルスレーザー光線発振手段62は、被加工物であるウエーハ2に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを発振する。このパルスレーザー光線発振手段62は、被加工物Wがシリコン基板、炭化珪素基板、リチウムタンタレート基板である場合、例えば波長が1064nmであるパルスレーザー光線LBを発振するYVO4パルスレーザー発振器或いはYAGパルスレーザー発振器621と、これに付設された繰り返し周波数設定手段622とから構成されている。
【0022】
上記レーザー光線照射手段6を構成するにおける光学伝送手段63は、パルスレーザー光線発振手段62が発振するパルスレーザー光線LBを第1の偏光面を有する第1のパルスレーザー光線LB1と該第1のパルスレーザー光線LB1と直交する第2の偏光面を有する第2のパルスレーザー光線LB2とに分光する第1のビームスプリッター631を具備している。この第1のビームスプリッター631は、パルスレーザー光線発振手段62が発振するパルスレーザー光線LBにおけるP波を通過し、S波を反射して分光せしめる。
【0023】
図示の実施形態における光学伝送手段63は、上記第1のビームスプリッター631を通過したP波からなる第1のパルスレーザー光線LB1を伝送する第1の偏頗保持ファイバー632と、上記第1のビームスプリッター631によって反射して分光せしめられたS波からなる第2のパルスレーザー光線LB2を伝送する第2の偏頗保持ファイバー633と、第1の偏頗保持ファイバー632および第2の偏頗保持ファイバー633によって伝送された第1のパルスレーザー光線LB1と第2のパルスレーザー光線LB2とを合流させて同じ光軸に導く合流手段634と、該合流手段634によって合流した第1のパルスレーザー光線LB1と第2のパルスレーザー光線LB2のうち遅延された一方のパルスレーザー光線の拡がり角を他方のパルスレーザー光線よりも小さくする偏光依存レンズ635とを具備している。
【0024】
第1の偏頗保持ファイバー632および第2の偏頗保持ファイバー633は、それぞれパルスレーザー光線LBの第1の偏光面(P波)および第2の偏光面(S波)を維持するように構成されている。この第1の偏頗保持ファイバー632および第2の偏頗保持ファイバー633は、一方(図示の実施形態においては第2の偏頗保持ファイバー633)が第1の偏頗保持ファイバー632より200m長く形成されている。従って、第2の偏頗保持ファイバー633を通って伝送される第2のパルスレーザー光線LB2は、第1の偏頗保持ファイバー632を通って伝送される第1のパルスレーザー光線LB1より僅かに遅れる遅延手段として機能する。
【0025】
上記合流手段634は、図示の実施形態においては上記第1の偏頗保持ファイバー632によって伝送された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)を平行光に修正する第1のコリメーションレンズ634aと、上記第2の偏頗保持ファイバー633によって伝送された第2のパルスレーザー光線LB2(S波)を平行光に修正する第2のコリメーションレンズ634bと、第1のコリメーションレンズ634aによって平行光に修正された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)を通過して第2のパルスレーザー光線LB2(S波)を反射することにより第1のパルスレーザー光線LB1(P波)と第2のパルスレーザー光線LB2(S波)とを合流させて同じ光軸に導く第2のビームスプリッター634cと、該第2のビームスプリッター634cによって同じ光軸に導びかれた第1のパルスレーザー光線LB1(P波)と第2のパルスレーザー光線LB2(S波)を集光する集光レンズ634dと、該集光レンズ634dによって集光された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)と第2のパルスレーザー光線LB2(S波)をそれぞれ偏光面を維持して伝送する第3の偏頗保持ファイバー634eと、該第3の偏頗保持ファイバー634eによって伝送された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)と第2のパルスレーザー光線LB2(S波)を平行光に修正する第3のコリメーションレンズ634fと、該第3のコリメーションレンズ634fによって平行光に修正された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)および第2のパルスレーザー光線LB2(S波)を偏光依存レンズ635に向けて方向変換する方向変換ミラー634gとからなっている。
【0026】
上記偏光依存レンズ635は、複屈折レンズまたはDOEからなり、上記合流手段634を構成する方向変換ミラー634gによって方向変換された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)および第2のパルスレーザー光線LB2(S波)のうち、遅延された第2のパルスレーザー光線LB2(S波)の広がり角を遅延されなかった第1のパルスレーザー光線LB1(P波)の拡がり角より小さくなるようにする。
【0027】
上記集光器64は、偏光依存レンズ635によって拡がり角が変更された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)および第2のパルスレーザー光線LB2(S波)を集光してチャックテーブル36に保持された被加工物Wに照射する集光対物レンズ641を備えている。このようにして集光対物レンズ641によって集光される第1のパルスレーザー光線LB1(P波)は上記偏光依存レンズ635による拡がり角が大きいので、被加工物Wの内部における第1の集光点G1に集光される。一方、集光対物レンズ641によって集光される第2のパルスレーザー光線LB2(S波)は上記偏光依存レンズ635による拡がり角が第1のパルスレーザー光線LB1(P波)よりも小さいので、第1の集光点G1より浅い第2の集光点G2に集光される。このようにして集光される第1のパルスレーザー光線LB1(P波)と第2のパルスレーザー光線LB2(S波)は、第2のパルスレーザー光線LB2(S波)が遅延手段として機能する第2の偏頗保持ファイバー633を通過するので、第1のパルスレーザー光線LB1(P波)より僅かに遅れて照射される。このように構成された集光器64は、図1に示すようにケーシング61の前端部に装着される。
【0028】
図2を参照して説明を続けると、図示の実施形態における上記レーザー光線照射手段6は、パルスレーザー光線発振手段62が発振したレーザー光線LBを光学伝送手段63の第1のビームスプリッター631に導く方向と、レーザー光線吸収手段65に導く方向に偏向する光偏向手段としての音響光学偏向手段66を具備している。この音響光学偏向手段66は、例えば後述する制御手段から例えば5Vの電圧が印加されるとパルスレーザー光線発振手段62が発振したレーザー光線LBの光軸を第1のビームスプリッター631に導き、後述する制御手段から例えば0Vの電圧が印加されるとレーザー光線吸収手段65に導くようになっている。
【0029】
図1に戻って説明を続けると、図示の実施形態におけるレーザー加工装置は、ケーシング61の前端部に配設され上記レーザー光線照射手段6によってレーザー加工すべき加工領域を撮像する撮像手段7を備えている。この撮像手段7は、可視光線によって撮像する通常の撮像素子(CCD)の外に、被加工物に赤外線を照射する赤外線照明手段と、該赤外線照明手段によって照射された赤外線を捕らえる光学系と、該光学系によって捕らえられた赤外線に対応した電気信号を出力する撮像素子(赤外線CCD)等で構成されており、撮像した画像信号を後述する制御手段に送る。
【0030】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は、図3に示す制御手段8を具備している。制御手段8はコンピュータによって構成されており、制御プログラムに従って演算処理する中央処理装置(CPU)81と、制御プログラム等を格納するリードオンリメモリ(ROM)82と、後述する制御マップや被加工物の設計値のデータや演算結果等を格納する読み書き可能なランダムアクセスメモリ(RAM)83と、カウンター84と、入力インターフェース85および出力インターフェース86とを備えている。制御手段8の入力インターフェース85には、上記X軸方向位置検出手段374、Y軸方向位置検出手段384および撮像手段7等からの検出信号が入力される。そして、制御手段8の出力インターフェース86からは、上記パルスモータ372、パルスモータ382、パルスモータ432、パルスモータ532、パルスレーザー光線発振手段62、音響光学偏向手段66等に制御信号を出力する。なお、上記ランダムアクセスメモリ(RAM)83は、後述するウエーハの設計値のデータを記憶する第1の記憶領域83aや後述する加工送り開始位置座標値等を記憶する第2の記憶領域83bや他の記憶領域を備えている。
【0031】
図示の実施形態におけるレーザー加工装置は以上のように構成されており、以下その作用について説明する。
図4にはレーザー加工される被加工物としてのシリコンリザーバ基板10の平面図が示されている。図4に示すシリコンリザーバ基板10は、表面10aに格子状に配列された複数の分割予定ライン101によって複数の領域が区画され、この区画された領域にリザーバデバイス102がそれぞれ形成されている。この各リザーバデバイス102は、全て同一の構成をしている。リザーバデバイス102の表面にはそれぞれ図5に示すように複数の貫通孔形成領域103(103a〜103j)が設定されている。この貫通孔形成領域103(103a〜103j)は、例えば直径が15μmに設定されている。各リザーバデバイス102における貫通孔形成領域103(103a〜103j)のX方向(図5おいて左右方向)の間隔A、および各リザーバデバイス102における貫通孔形成領域103における分割予定ライン101を挟んでX方向(図5において左右方向)に隣接するリザーバデバイス102の貫通孔形成領域103eと貫通孔形成領域103aとの間隔Bは、図示の実施形態においては同一間隔に設定されている。また、各リザーバデバイス102における貫通孔形成領域103(103a〜103j)のY方向(図5において上下方向)の間隔C、および各リザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103における分割予定ライン101を挟んでY方向(図5において上下方向)に隣接するリザーバデバイス102の貫通孔形成領域103fと貫通孔形成領域103aおよび貫通孔形成領域103jと貫通孔形成領域103eとの間隔Dは、図示の実施形態においては同一間隔に設定されている。このように構成されたシリコンリザーバ基板10について、図4に示す各行E1・・・・Enおよび各列F1・・・・Fnに配設されたリザーバデバイス102の個数と上記間隔A,B,C,DおよびX,Y座標値は、その設計値のデータが上記ランダムアクセスメモリ(RAM)83の第1記憶領域83aに格納されている。
【0032】
上述したレーザー加工装置を用い、シリコンリザーバ基板10に設定された各リザーバデバイス102における貫通孔形成領域103(103a〜103j)の内部に改質層を形成するレーザー加工の実施形態について説明する。
シリコンリザーバ基板10は、図6の(a)に示すように環状のフレームFに装着されたポリオレフィン等の合成樹脂シートからなる保護テープTに裏面10bを貼着する。従って、シリコンリザーバ基板10は、表面10aが上側となる。なお、シリコンリザーバ基板10の表面10aの表面には、図6の(b)に示すように上記貫通孔形成領域103(103a〜103j)と対応する開口部111が形成されたエッチングマスク110が被覆されている。このようにして環状のフレームFに保護テープTを介して支持されたシリコンリザーバ基板10は、図1に示すレーザー加工装置のチャックテーブル36上に保護テープT側を載置する。そして、図示しない吸引手段を作動することによりシリコンリザーバ基板10は、保護テープTを介してチャックテーブル36上に吸引保持される。従って、シリコンリザーバ基板10は、表面10aを上側にして保持される。また、環状のフレームFは、クランプ362によって固定される。
【0033】
上述したようにシリコンリザーバ基板10を吸引保持したチャックテーブル36は、加工送り手段37によって撮像手段7の直下に位置付けられる。チャックテーブル36が撮像手段7の直下に位置付けられると、チャックテーブル36上のシリコンリザーバ基板10は、図7に示す座標位置に位置付けられた状態となる。この状態で、チャックテーブル36に保持されたシリコンリザーバ基板10に形成されている格子状のストリート101がX軸方向とY軸方向に平行に配設されているか否かのアライメント作業を実施する。即ち、撮像手段7によってチャックテーブル36に保持されたシリコンリザーバ基板10を撮像し、パターンマッチング等の画像処理を実行してアライメント作業を行う。
【0034】
次に、チャックテーブル36を移動して、シリコンリザーバ基板10に形成されたリザーバデバイス102における最上位の行E1の図7において最左端のリザーバデバイス102を撮像手段7の直下に位置付ける。そして、更にリザーバデバイス102に設定された複数の貫通孔形成領域103(103a〜103j)における図7において左上の貫通孔形成領域103aを撮像手段7の直下に位置付ける。この状態で撮像手段7が貫通孔形成領域103aを検出したならばその座標値(a1)を第1の加工送り開始位置座標値として制御手段8に送る。そして、制御手段8は、この座標値(a1)を第1の加工送り開始位置座標値として第2の記憶手段83bに格納する(加工送り開始位置検出工程)。このとき、撮像手段7とレーザー光線照射手段6の集光器64はX軸方向に所定の間隔を置いて配設されているので、X座標値は上記撮像手段7と集光器64との間隔を加えた値が格納される。
【0035】
このようにして図7において最上位の行E1のリザーバデバイス102における第1の加工送り開始位置座標値(a1)を検出したならば、チャックテーブル36をリザーバデバイス102の間隔だけY軸方向に割り出し送りするとともにX軸方向に移動して、図7において最上位から2番目の行E2における最左端のリザーバデバイス102を撮像手段7の直下に位置付ける。そして、更にリザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103(103a〜103j)における図7において左上の貫通孔形成領域103aを撮像手段7の直下に位置付ける。この状態で撮像手段7が貫通孔形成領域103aを検出したならばその座標値(a2)を第2の加工送り開始位置座標値として制御手段8に送る。そして、制御手段8は、この座標値(a2)を第2の加工送り開始位置座標値として第2の記憶手段83bに格納する。このとき、撮像手段7とレーザー光線照射手段6の集光器64は上述したようにX軸方向に所定の間隔を置いて配設されているので、X座標値は上記撮像手段7と集光器64との間隔を加えた値が格納される。以後、上述した割り出し送りと加工送り開始位置検出工程を図7において最下位の行Enまで繰り返し実行し、各行に形成されたリザーバデバイス102の加工送り開始位置座標値(a3〜an)を検出して、これを上記制御手段8の第2の記憶手段83bに格納する。
【0036】
次に、シリコンリザーバ基板10の各リザーバデバイス102に設定された各貫通孔形成領域103(103a〜103j)の内部に改質層を形成する改質層形成工程を実施する。改質層形成工程は、先ず加工送り手段37を作動しチャックテーブル36を移動して、上記ランダムアクセスメモリ(RAM)83の第2に記憶領域83bに格納されている第1の加工送り開始位置座標値(a1)をレーザー光線照射手段6の集光器64の直下に位置付ける。このように第1の加工送り開始位置座標値(a1)が集光器64の直下に位置付けられた状態が図8の(a)に示す状態である。図8の(a)に示す状態で制御手段8は、集光点位置調整手段53を作動して、集光器64から照射される上記第1のパルスレーザー光線LB1(P波)および第2のパルスレーザー光線LB2(S波)における第1のパルスレーザー光線LB1(P波)の第1の集光点G1がリザーバデバイス102の下面から例えば10〜15μm上側の位置になるように制御する。次に、制御手段8は、レーザー光線照射手段6を作動するとともにチャックテーブル36を図8の(a)において矢印X1で示す方向に所定の移動速度で加工送りするように上記加工送り手段37を制御する。そして、次に示す加工条件に従って改質層形成工程を実施する。
【0037】
改質層形成工程における加工条件は、例えば次のように設定されている。
レーザー光線の波長 :1064nm
繰り返し周波数 :500kHz
平均出力 :0.3W
パルス幅 :10p秒
集光スポット径 :φ1μm
加工送り速度 :300mm/秒
【0038】
上記改質層形成工程において、改質層形成工程開始時にはレーザー光線照射手段6の音響光学偏向手段66には、5Vの電圧が印加されている。従って、パルスレーザー光線発振手段62が発振したパルスレーザー光線LBは第1のビームスプリッター631に導かれるようになっている。そして、第1の加工送り開始位置座標値(a1)(貫通孔形成領域103a)においてパルスレーザー光線発振手段62が発振したパルスレーザー光線LBを第1のビームスプリッター631に1ショット送ったならば、制御手段8は音響光学偏向手段66に0Vを印加する。この結果、音響光学偏向手段66はパルスレーザー光線発振手段62が発振したパルスレーザー光線LBをレーザー光線吸収手段65に導く。そして、制御手段8はX軸方向位置検出手段374からの検出信号に基づいて貫通孔形成領域103bが集光器64の直下に達したならば、音響光学偏向手段66に5Vを印加し、パルスレーザー光線発振手段62が発振したパルスレーザー光線LBを第1のビームスプリッター631に1ショット送り、再度音響光学偏向手段66に0Vを印加する。このように、貫通孔形成領域103が集光器64の直下に達したときにパルスレーザー光線発振手段62が発振したパルスレーザー光線LBを第1のビームスプリッター631に1ショット送り、図8の(b)で示すようにシリコンリザーバ基板10のE1行の最右端のリザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103における図5において最右端の貫通孔形成領域103eが集光器64に達したら、制御手段8は音響光学偏向手段66に0Vを印加するとともに上記加工送り手段37の作動を停止してチャックテーブル36の移動を停止する。
【0039】
上記改質層形成工程において、第1のビームスプリッター631に導かれたパルスレーザー光線LBは、上述したように第1のビームスプリッター631によってP波からなる第1のパルスレーザー光線LB1と、S波からなる第2のパルスレーザー光線LB2に分光される。このようにして分光されたP波からなる第1のパルスレーザー光線LB1は第1の偏頗保持ファイバー632を介して伝送され、S波からなる第2のパルスレーザー光線LB2は第1の偏頗保持ファイバー632より200m長い第2の偏頗保持ファイバー633を介して伝送される。従って、第2の偏頗保持ファイバー633を介して伝送されるS波からなる第2のパルスレーザー光線LB2は、第1の偏頗保持ファイバー632を介して伝送されるP波からなる第1のパルスレーザー光線LB1より所定時間遅れて伝送される。この遅れ時間は、第2の偏頗保持ファイバー633による伝播時間を空気の1.5倍とすると、遅れ時間(t)は、(t)=(200m×1.5)/300,000km=1μ秒 となる。即ち、第2の偏頗保持ファイバー633を介して伝送されるS波からなる第2のパルスレーザー光線LB2は、第1の偏頗保持ファイバー632を介して伝送されるP波からなる第1のパルスレーザー光線LB1より1μ秒遅れて伝送されることになる。このように本発明においては、第2の偏頗保持ファイバー633を第1の偏頗保持ファイバー632より長くするだけで遅延手段を構成することができるので、装置全体を大型化することなく安価に構成することができる。
【0040】
上記第1の偏頗保持ファイバー632および第2の偏頗保持ファイバー633によって伝送された第1のパルスレーザー光線LB1(P波)および第2のパルスレーザー光線LB2(S波)は、上述したように合流手段634を介して集光器64によって集光され、第1のパルスレーザー光線LB1(P波)が図2に示すように第1の集光点G1に集光され、第2のパルスレーザー光線LB2(S波)が第1の集光点G1より浅い第2の集光点G2に集光される。このように集光される第1の集光点G1と第2の集光点G2は、上述したように第2の偏頗保持ファイバー633を介して伝送される第2のパルスレーザー光線LB2(S波)が第1の偏頗保持ファイバー632を介して伝送される第1のパルスレーザー光線LB1(P波)より1μ秒遅れて伝送されるとともに、シリコンリザーバ基板10を保持しているチャックテーブル36が300mm/秒で移動しているので、X軸方向にズレが生ずる。このズレ量(m)は、(m)=1μ秒×300mm/秒=0.3μm となる。従って、シリコンリザーバ基板10には、図8の(c)に示すように第1の集光点G1に集光される第1のパルスレーザー光線LB1(P波)によって第1の改質層121が形成されるとともに、第1の改質層121から0.3μmだけX軸方向にズレた上方位置に第2の集光点G2に集光される第2のパルスレーザー光線LB2(S波)によって第2の改質層122が形成される。なお、上記加工条件においては、第1の改質層121と第2の改質層122の厚みは、それぞれ15μm程度であり合計が30μm程度である。
【0041】
次に、集光点位置調整手段53を作動して集光器64を例えば30μm程度上側の位置に位置付ける(集光点位置調整工程)。そして、上述した改質層形成工程を実施する。この集光点位置調整工程と改質層形成工程とを複数回(例えば7回)実施することにより、例えば厚みが200μmのシリコンリザーバ基板10のE1行のリザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103(103a〜103e)には、図9に示すように下面(裏面10b)から上面(表面10a)に至る第1の改質層121と第2の改質層122が交互に形成される。
【0042】
上述したように、シリコンリザーバ基板10のE1行のリザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103(103a〜103e)に改質層形成工程を実施したならば、シリコンリザーバ基板10のE1行のリザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103(103f〜103j)に対して上述した改質層形成工程を実施する。このようにしてシリコンリザーバ基板10のE1行のリザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103(103a〜103j)に改質層形成工程を実施したならば、以後、シリコンリザーバ基板10のE2行からEn行のリザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103(103a〜103j)に対しても上述した改質層形成工程を実施する。以上のように図示の実施形態においては、光軸方向に2つの改質層(第1の改質層121と第2の改質層122)を同時形成することができるので、生産性が2倍に向上する。
【0043】
以上、本発明を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で種々の変形は可能である。上述した実施形態においては、被加工物であるシリコンリザーバ基板10を保持したチャックテーブル36を所定の加工送り速度で加工送りしつつ改質層形成工程を実施した例を示したが、被加工物であるシリコンリザーバ基板10を保持したチャックテーブル36を貫通孔形成領域103を集光器64による照射位置で停止した状態で複数の改質層を形成してもよい。即ち、被加工物であるシリコンリザーバ基板10を保持したチャックテーブル36を貫通孔形成領域103を集光器64による照射位置で停止した状態でパルスレーザー光線を1ショット照射する工程と、集光点位置調整手段53を作動して集光器64から照射される上記第1のパルスレーザー光線LB1(P波)および第2のパルスレーザー光線LB2(S波)の第1の集光点G1および第2の集光点G2を調整する集光点位置調整工程を交互に実施し、例えばパルスレーザー光線を7ショット照射したならば次の貫通孔形成領域103を集光器64による照射位置に位置付け、上記パルスレーザー光線を1ショット照射する工程と集光点位置調整工程とからなる改質層形成工程を間歇的に実施してもよい。このような改質層形成工程においては、パルスレーザー光線を照射する際には被加工物であるシリコンリザーバ基板10を保持したチャックテーブル36が停止しているので、第1のパルスレーザー光線LB1(P波)と第2のパルスレーザー光線LB2(S波)によって形成される改質層は同一線上に形成される。
【0044】
以上のようにして、リザーバデバイス102に設定された貫通孔形成領域103の内部に改質層が形成されたシリコンリザーバ基板10は、貫通孔形成領域103をエッチングして貫通孔を形成するエッチング工程に搬送される。
【符号の説明】
【0045】
2:静止基台
3:チャックテーブル機構
36:チャックテーブル
37:加工送り手段
38:第1の割り出し送り手段
4:レーザー光線照射ユニット支持機構
43:第2の割り出し送り手段
5:レーザー光線照射ユニット
53:集光点位置調整手段
6:レーザー光線照射手段
62:パルスレーザー光線発振手段
63:光学伝送手段
631:第1のビームスプリッター
632:第1の偏頗保持ファイバー
633:第2の偏頗保持ファイバー
634:合流手段
634a:第1のコリメーションレンズ
634b:第2のコリメーションレンズ
634c:第2のビームスプリッター
634d:集光レンズ
634e:第3の偏頗保持ファイバー
634f:第3のコリメーションレンズ
634g:方向変換ミラー
635:偏光依存レンズ
64:集光器
65:レーザー光線吸収手段
66:音響光学偏向手段
7:撮像手段
8:制御手段
10:シリコンリザーバ基板
F:環状のフレーム
T:保護テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物に該被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段と、該チャックテーブルと該レーザー光線照射手段とを相対的に加工送り方向に加工送りする加工送り手段と、を具備するレーザー加工装置において、
該レーザー光線照射手段は、パルスレーザー光線発振手段と、該パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を伝送する光学伝送手段と、該光学伝送手段によって伝送されたパルスレーザー光線を集光せしめる集光器を備えており、
該光学伝送手段は、該パルスレーザー光線発振手段が発振するパルスレーザー光線を第1の偏光面を有する第1のパルスレーザー光線と該第1のパルスレーザー光線と直交する第2の偏光面を有する第2のパルスレーザー光線とに分光して偏光面を維持するとともに該第1のパルスレーザー光線または該第2のパルスレーザー光線の一方の光路長を延ばして遅延させる第1の偏頗保持ファイバーおよび第2の偏頗保持ファイバーと、該第1の偏頗保持ファイバーおよび該第2の偏頗保持ファイバーによって伝送された該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線とを合流させて同じ光軸に導く合流手段と、該合流手段によって合流した該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線のうち遅延された一方のパルスレーザー光線の広がり角を他方のパルスレーザー光線よりも小さくする偏光依存レンズと、を具備し、
該偏光依存レンズを通過した該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を該集光器によって集光することにより、光軸方向に2個の集光点を形成する、
ことを特徴とするレーザー加工装置。
【請求項2】
該合流手段は、該第1の偏頗保持ファイバーによって伝送された該第1のパルスレーザー光線を平行光に修正する第1のコリメーションレンズと、該第2の偏頗保持ファイバーによって伝送された第2のパルスレーザー光線を平行光に修正する第2のコリメーションレンズと、該第1のコリメーションレンズによって平行光に修正された該第1のパルスレーザー光線を通過して該第2のパルスレーザー光線を反射することにより該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線とを合流させて同じ光軸に導くビームスプリッターと、該ビームスプリッターによって同じ光軸に導かれた該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を集光する集光レンズと、該集光レンズによって集光された該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線をそれぞれ偏光面を維持して伝送する第3の偏頗保持ファイバーと、該第3の偏頗保持ファイバーによって伝送された該第1のパルスレーザー光線と該第2のパルスレーザー光線を平行光に修正して該偏光依存レンズに導く第3のコリメーションレンズと、を含んでいる、請求項1記載のレーザー加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35048(P2013−35048A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174668(P2011−174668)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000134051)株式会社ディスコ (2,397)
【Fターム(参考)】