説明

レーザー溶接装置及びレーザー溶接方法

【課題】フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接する際に、溶融池の内部形状が変化する場合においても、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、溶接を安定化させ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができるレーザー溶接装置及びレーザー溶接方法を提供する。
【解決手段】フィラーワイヤXを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接する際に、溶融池の上面と溶融池の下面とをそれぞれ撮像し、撮像された溶融池の上面形状と溶融池の下面形状とに基づいて、溶融池の内部形状を推定し、推定された溶融池の内部形状に基づいて溶融池に対するフィラーワイヤXの進入位置及び進入角度を調整するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置及びレーザー溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、上下に重ね合わされた二枚の金属板の溶接方法として、レーザー溶接が利用されつつある。このレーザー溶接は、二枚の金属板の上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して移動させることにより、二枚の金属板を溶融させて線状の溶接ビードを形成させるものである。
【0003】
また、レーザー光が照射される被照射部位にフィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接することにより、金属板だけでなくフィラーワイヤも溶融させて、すなわち溶融金属を増加させて、二枚の金属板を連結させることも知られている。
【0004】
このレーザー溶接におけるフィラーワイヤの供給に関して、上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接するものではないが、例えば特許文献1には、レーザー溶接とMIG溶接とを組み合わせた複合溶接において、溶接時に被溶接物に形成された溶融池を撮像し、撮像した画像に基づいてレーザー光の照射点から溶融池の輪郭までの距離を求め、求めた距離に基づいてレーザー光の照射点とフィラーワイヤの供給ノズルの相対的な位置を変化させることが開示されている。
【0005】
また、例えば特許文献2には、フィラーワイヤの先端を撮像手段により撮像し、この撮像信号を画像処理してフィラーワイヤの送り出し量および送り出し方向のずれを検出し、フィラーワイヤの先端がレーザー光の照射部位から許容範囲内に位置するように制御することが開示されている。
【0006】
さらに、例えば特許文献3には、溶接に用いるレーザーの一部を偏向させた補助ビームをフィラーワイヤに照射し、この照射部をカメラにより撮像し、撮像される画像からフィラーワイヤの位置を算出し、算出された位置が許容範囲外であるときフィラーワイヤを許容範囲内へ移動調整することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−181664号公報
【特許文献2】特開2001−179471号公報
【特許文献3】特開2003−211274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、レーザー光が照射される被照射部位にフィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接する場合、金属板とフィラーワイヤとをレーザー光によって溶融させることから、フィラーワイヤの溶融にエネルギーが消費されて金属板の溶融が不十分となることがある。
【0009】
これに対して、二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射することによりレーザー光によって金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を形成し、この溶融池にフィラーワイヤをレーザー光よりも溶接進行方向後方側から供給することで、レーザー光のエネルギーがフィラーワイヤの溶融に消費されることなく、金属板の溶融に利用することが可能であると考えられる。
【0010】
そして、その場合、二枚の金属板における対向する面は一般に完全な平面ではなく二枚の金属板間には少なからず隙間が生じることから、溶融金属の下方への垂下を促進させるため、溶融池に供給するフィラーワイヤを溶融池内の所定深さまで進入させることが望ましいと考えられる。
【0011】
しかしながら、フィラーワイヤを溶融池内の所定深さまで進入させて溶融池に供給する場合、二枚の金属板間に生じた隙間の大きさなど種々の条件によって溶融池の形状がレーザー溶接中に変化し、フィラーワイヤが溶融池の外周面を形成する非溶融状態の金属板や被溶接部に接触したり、レーザー光によって溶融池内に形成されたキーホールに入ったりする場合がある。
【0012】
フィラーワイヤが非溶融状態の金属板や被溶接部に接触すると、フィラーワイヤが引っかかったり折れ曲がったりしてワイヤ供給状態が一定せず溶接が不安定になる一方、フィラーワイヤがレーザー光によって溶融池内に形成されたキーホールに入ると、フィラーワイヤがレーザー光によって溶断されワイヤ供給状態が一定せず溶接が不安定になる。
【0013】
そこで、本発明は、フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接する際に、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、溶接を安定化させ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができるレーザー溶接装置及びレーザー溶接方法を提供する、ことを基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため、本願の請求項1に係る発明は、上下に重ね合わせられた二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させ、レーザー光によって二枚の金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を上側の金属板の上面から下側の金属板の下面にわたって形成するとともに、前記溶融池にフィラーワイヤをレーザー光よりも溶接進行方向後方側から供給し、フィラーワイヤを供給しながら二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整するワイヤ供給調整手段と、前記溶融池の上面を撮像する第1の撮像手段と、前記溶融池の下面を撮像する第2の撮像手段と、前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状と前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状とに基づいて、前記溶融池の内部形状を推定する溶融池形状推定手段と、を備え、前記ワイヤ供給調整手段は、前記溶融池形状推定手段によって推定された前記溶融池の内部形状に基づいて、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整する、ことを特徴としたものである。
【0015】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のレーザー溶接装置において、前記溶融池形状推定手段は、前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状の溶接進行方向後端位置と、前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状の溶接進行方向後端位置とに基づいて、前記溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状を推定し、前記ワイヤ供給調整手段は、前記溶融池に所定の進入位置において所定の進入角度で進入する前記フィラーワイヤの延長線が、前記溶融池形状推定手段によって推定された前記溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状のうち前記上側の金属板に対応する部分と交差しないように、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整する、ことを特徴としたものである。
【0016】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載のレーザー溶接装置において、前記溶融池形状推定手段は、前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状の溶接進行方向後端位置と前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状の溶接進行方向後端位置とを直線状に結ぶ形状を、前記溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状と推定する、ことを特徴としたものである。
【0017】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3の何れか一項に記載のレーザー溶接装置において、前記溶融池形状推定手段は、前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状と前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状とに基づいて、前記レーザー光によって前記溶融池内に形成されるキーホールの形状を推定し、前記ワイヤ供給調整手段は、前記溶融池に所定の進入位置において所定の進入角度で進入する前記フィラーワイヤの延長線が、前記溶融池形状推定手段によって推定された前記キーホールの形状のうち前記上側の金属板に対応する部分と交差しないように、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整する、ことを特徴としたものである。
【0018】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、上下に重ね合わせられた二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させ、レーザー光によって二枚の金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を上側の金属板の上面から下側の金属板の下面にわたって形成するとともに、前記溶融池にフィラーワイヤをレーザー光よりも溶接進行方向後方側から供給し、フィラーワイヤを供給しながら二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、前記溶融池の上面と前記溶融池の下面とをそれぞれ撮像し、撮像された前記溶融池の上面形状と前記溶融池の下面形状とに基づいて、前記溶融池の内部形状を推定し、推定された前記溶融池の内部形状に基づいて、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整するようにした、ことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0019】
本願の請求項1に係る発明によれば、レーザー光によって上側の金属板の上面から下側の金属板の下面にわたって形成される溶融池に、フィラーワイヤをレーザー光よりも溶接進行方向後方側から供給する場合に、第1の撮像手段によって撮像された溶融池の上面形状と第2の撮像手段によって撮像された溶融池の下面形状とに基づいて溶融池の内部形状が推定され、この推定された溶融池の内部形状に基づいて溶融池に対するフィラーワイヤの進入位置及び進入角度が調整されるので、フィラーワイヤを非溶融状態の金属板や被溶接部に接触させたりキーホールに入れたりすることがなく、フィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、ワイヤ供給状態を略一定にして溶接を安定化させ、二枚の金属板を良好にレーザー溶接することができる。二枚の金属板間に生じた隙間の大きさが変化した場合など、溶融池の内部形状が変化した場合においても、推定される溶融池の内部形状に応じてフィラーワイヤを溶融池内の好適な位置に供給することができ、前記効果を有効に得ることができる。
【0020】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、第1の撮像手段によって撮像された溶融池の上面形状の溶接進行方向後端位置と第2の撮像手段によって撮像された溶融池の下面形状の溶接進行方向後端位置とに基づいて溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状が推定され、溶融池内に進入するフィラーワイヤの延長線が、この推定された溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状のうち上側の金属板に対応する部分と交差しないように、溶融池に対するフィラーワイヤの進入位置及び進入角度が調整されるので、前記効果をより具体的に実現することができる。フィラーワイヤの延長線が推定された溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状のうち上側の金属板に対応する部分と交差しないように、溶融池に対するフィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整するようにしたのは、溶融池に進入するフィラーワイヤは進入深さが深くなるほど溶融されやすく、溶融池の上側の金属板に対応する部分を除く部分ではフィラーワイヤが溶融されてフィラーワイヤが非溶融状態にある金属板と接触することを回避できるからである。
【0021】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、第1の撮像手段によって撮像された溶融池の上面形状の溶接進行方向後端位置と第2の撮像手段によって撮像された溶融池の下面形状の溶接進行方向後端位置とを直線状に結ぶ形状が、溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状と推定されるので、前記作用効果を有効に奏することができる。
【0022】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、第1の撮像手段によって撮像された溶融池の上面形状と第2の撮像手段によって撮像された溶融池の下面形状とに基づいてキーホールの形状が推定され、溶融池内に進入するフィラーワイヤの延長線が、この推定されたキーホールの形状のうち上側の金属板に対応する部分と交差しないように、溶融池に対するフィラーワイヤの進入位置及び進入角度が調整されるので、前記効果をより具体的に実現することができる。フィラーワイヤの延長線が推定されたキーホールの形状のうち上側の金属板に対応する部分と交差しないように、溶融池に対するフィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整するようにしたのは、溶融池に進入するフィラーワイヤは進入深さが深くなるほど溶融されやすく、溶融池の上側の金属板に対応する部分を除く部分ではフィラーワイヤが溶融されてフィラーワイヤがキーホールに入ることを回避できるからである。
【0023】
また更に、本願の請求項5に係る方法発明によれば、本願の請求項1に記載の装置発明と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザー溶接装置の要部を概略的に示す側面図である。
【図2】前記レーザー溶接装置の制御構成図である。
【図3】前記レーザー溶接装置によってレーザー溶接中にある二枚の金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す図である。
【図4】前記レーザー溶接装置において溶融池の形状を推定する方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係るレーザー溶接装置及びレーザー溶接方法について、添付図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係るレーザー溶接装置の要部を概略的に示す側面図であり、図2は、前記レーザー溶接装置の制御構成図である。このレーザー溶接装置10は、レーザー光LBを発生するレーザーヘッド2と、該レーザーヘッド2からのレーザー光被照射部位Lの後方にフィラーワイヤXを供給するワイヤ供給装置3と、フィラーワイヤXを所定温度に加熱するワイヤ加熱装置4と、レーザーヘッド2及びワイヤ供給装置3を支持すると共にワークWに対して相対的に移動させるアーム型の溶接ロボット5とを有している。なお、図1では、溶接ロボット5のロボットアーム51の先端のみが示されている。
【0027】
本実施形態では、ワークWとしては、上下に重ね合わされた平板状の二枚の金属板W1、W2を一例として示している。二枚の金属板W1、W2は、複数のクランプ治具8によって把持されているが、金属板W1、W2の精度上、対向する面の間に少なからず隙間Zが生じている。
【0028】
レーザーヘッド2は、例えばYAGレーザー、炭酸ガスレーザー等の高出力レーザーを利用して構成されていると共に、レーザー出力が可変とされている。また、レーザー光の焦点位置は可変であるが、本実施形態においては下側の金属板W2の下面に設定されている。レーザーヘッド2は、ロボットアーム51の先端に取付ブラケット52を介して取り付けられている。この取付ブラケット52は、平面状に形成され、ロボットアーム51に沿って延び略矩形状に形成される矩形部52aと該矩形部52aから溶接進行方向後方側に湾曲して延びる湾曲部52bとを備え、矩形部52aにレーザーヘッド2が取り付けられている。
【0029】
ワイヤ供給装置3は、レーザー光LBよりも溶接進行方向後方側においてレーザー光LBの被照射部位Lの近傍に配置されたワイヤ供給ノズル31と、ワイヤ供給モータ33(図2参照)により駆動され、フィラーワイヤXが巻回された図示しないワイヤロールより繰り出されたフィラーワイヤXをワイヤ供給ノズル31まで誘導するチューブ32とを有している。ワイヤ供給モータ33は、回転速度の制御が可能なサーボモータにより構成され、これにより、被溶接部位へのフィラーワイヤXの供給量が調整可能になっている。
【0030】
ワイヤ供給ノズル31もまた、ロボットアーム51の先端に取付ブラケット52を介して取り付けられている。具体的には、取付ブラケット52の湾曲部52bに、ワイヤノズル水平移動機構55(図2参照)によって取付ブラケット52に対して水平方向に移動可能に構成される移動プレート53が取り付けられ、この移動プレート53に、ワイヤノズル回動駆動機構56(図2参照)によって移動プレート53に対して回動可能に構成される回動軸54が取り付けられ、この回動軸54にワイヤ供給ノズル31が取り付けられている。
【0031】
このようにして、レーザーヘッド2とワイヤ供給ノズル31とがロボットアーム51の先端に取り付けられ、ワイヤ供給ノズル31は、レーザーヘッド2の溶接進行方向後方側に配置され、レーザーヘッド2に対して相対的に、ワイヤノズル水平移動機構55によって水平方向に移動されるようになっているとともに、ワイヤノズル回動駆動機構56によって回動されるようになっている。なお、レーザーヘッド2とワイヤ供給ノズル31とは、後述する図3に示すように、レーザーヘッド2から照射されるレーザー光LBの中心LBcとワイヤ供給ノズル31から供給されるフィラーワイヤXとが溶接経路Rに沿って移動するように位置調整されている。
【0032】
ワイヤ加熱装置4は、フィラーワイヤXに通電することにより、該ワイヤXに生じるジュール熱で該ワイヤXを加熱するものであり、加熱電源装置41と、該加熱電源装置41とワイヤ供給ノズル31とを接続するノズル接続ケーブル42と、該加熱電源装置41とクランプ治具8とを接続する、すなわち加熱電源装置41と金属板W1、W2とを接続する金属板接続ケーブル43とを有し、加熱電源装置41から流れる電流が、ノズル接続ケーブル42、ワイヤ供給ノズル31、フィラーワイヤX、金属板W1、W2、クランプ治具8、金属板接続ケーブル43を介して加熱電源装置41に戻るようになっている。なお、逆回りに電流が流れるように構成してももちろんよい。
【0033】
ここで、前記所定温度は、フィラーワイヤXの端部が、後述する図3に示す溶融池WYに供給され、溶融池WY内の所定深さ、例えば上側の金属板W1の板厚の半分程度まで進入したときに、ワイヤ加熱装置4による熱と溶融池WYの熱とで溶融する温度に設定されている。フィラーワイヤXを所定温度に加熱するための電流値については実験等を行って導けばよい。
【0034】
本実施形態に係るレーザー溶接装置10にはさらに、ワークWのレーザー光被照射部位L及びその近傍を上側の金属板W1の上方側から撮像する第1の撮像手段としての第1の撮像装置6と、ワークW1のレーザー光被照射部位L及びその近傍を下側の金属板W2の下方側から撮像する第2の撮像手段としての第2の撮像装置7とが備えられている。第1の撮像装置6と第2の撮像装置7とは、例えばCCDカメラなどによって所定周期毎に画像を取得可能に構成されており、第1の撮像装置6は、溶融池WYの上面を撮像することができるようになっており、第2の撮像装置7は、溶融池WYの下面を撮像することができるようになっている。
【0035】
また、レーザー溶接装置10には、図2に示すように、レーザーヘッド2、ワイヤ供給装置3のワイヤ供給モータ33、ワイヤノズル水平移動機構55、ワイヤノズル回動駆動機構56、ワイヤ加熱装置4及び溶接ロボット5の作動など、レーザー溶接装置10に関係する構成を総合的に制御するコントロールユニット60が備えられている。このコントロールユニット60は、ワイヤノズル水平移動機構55及びワイヤノズル回動駆動機構56の作動を制御し、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置及び進入角度を調整するワイヤ供給調整手段としてのワイヤ供給調整部61と、第1の撮像装置6によって撮像された溶融池WYの上面形状と第2の撮像手段7によって撮像された溶融池WYの下面形状とに基づいて、溶融池WYの内部形状を推定する溶融池形状推定手段としての溶融池形状推定部62とを備え、ワイヤ供給調整部61は、溶融池形状推定部62によって推定された溶融池WYの内部形状に基づいて、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置及び進入角度を調整することができるようになっている。なお、コントロールユニット60は、例えばマイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0036】
このようにして構成されるレーザー溶接装置10を用いてレーザー溶接する際には、図1に示すように、先ず、平板状の二枚の金属板W1、W2を上下に重ね合わせた状態で二枚の金属板W1、W2を所定位置においてクランプ治具8によって把持する。この二枚の金属板W1、W2の対向する面の間には、前述したように隙間Zが生じている。
【0037】
そして、二枚の金属板W1、W2のうち上側の金属板W1表面に向けてレーザー光LBを照射しつつ該レーザー光LBを溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板W1、W2に対して相対的に移動させ、これにより、上下の金属板W1、W2のレーザー光被照射部位Lを溶融させて上下の金属板W1、W2の溶融金属が貯留されてなる溶融池を上側の金属板W1の上面から下側の金属板W2の下面にわたって形成する。そして、溶融池の熱とで溶融するように加熱されたフィラーワイヤXをレーザー光LBよりも溶接進行方向後方側から溶融池に供給し、これにより、フィラーワイヤXを溶融させて溶融池に溶融金属を追加供給する。
【0038】
図3は、前記レーザー溶接装置によってレーザー溶接中にある二枚の金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す図であり、図3の(a)は、金属板のレーザー光被照射部位及びその近傍の状態を示す平面図、図3の(b)は、図3(a)のY3b−Y3b線に沿った断面図である。
【0039】
図3を参照しつつ詳しく説明すると、先ず、溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの前方近傍では、上側の金属板W1におけるレーザー光LBの中心LBc近傍の金属が溶融され、溶融金属Wyが生成されている。レーザー光LBが照射されるレーザー光被照射部位Lは、レーザー光LBにより金属がプラズマ状態となり、その圧力により溶融金属Wyを周囲に押しやってキーホールWKが形成されている。
【0040】
溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBc位置では、キーホールWKは、上側の金属板W1を貫通して下側の金属板W2に達している。そして、下側の金属板W2においても、レーザー光中心LBc近傍の金属が溶融されて溶融金属Wyが生成されている。また、上側の金属板W1の溶融金属Wyは、重力により下側の金属板W2側に垂下し始めている。
【0041】
溶接経路Rにおけるレーザー光LBの中心LBcの後方近傍では、上側の金属板W1の溶融金属Wyが重力により下方へ垂下し、溶融経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりも後方位置においては、溶融金属Wyが、先に形成されていたキーホールWKに運ばれ、溶融金属Wyが貯留されてなる溶融池WYが上側の金属板W1の上面から下側の金属板W2の下面にわたって形成されている。
【0042】
本実施形態では、溶融池WYの熱とで溶融するように加熱されたフィラーワイヤXが、レーザー光LBよりも溶接進行方向後方側から溶融池WYに供給され、フィラーワイヤXが溶融して溶融金属Wy’が生成される。そして、この新たに生成された溶融金属Wy’が溶融池WY内に供給されることにより、もとから存在していた溶融池WY内の溶融金属Wyが点線の矢印で示すように下方へ押しやられて、該溶融金属Wyの隙間Zを超えた下方への垂下が促進され、上側の金属板W1と下側の金属板W2とが溶融金属Wyにより連結されることとなる。
【0043】
そして、溶接経路Rにおけるレーザー光中心LBcよりもさらに後方位置においては、溶融池WYの溶融金属Wy、Wy’が下側から固化し始め、さらに後方においては、溶融池WYの溶融金属Wy、Wy’が上から下まで全て固化し、非溶融状態の被溶接部WBが形成されることとなる。
【0044】
ここで、溶融池WYへのフィラーワイヤXの供給についてさらに説明する。
図3に示すように、フィラーワイヤXは、溶接経路Rに沿って溶融池WYに供給されるとともに、矢印βで示すように前下がりに傾斜した状態で溶融池WY内に進入するように供給される。より詳しくは、フィラーワイヤXは、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置、すなわちフィラーワイヤXが溶融池WYの上面と交差する溶接進行方向前端位置Xpが、レーザー光中心LBcから溶接経路R後方の距離Dとなるように供給され、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入角度、すなわちフィラーワイヤXと溶融池WYの上面とのなす角度がθとなるように供給される。また、溶融池WY内に進入させるフィラーワイヤXは、所定の進入深さHで溶融されるように供給される。
【0045】
そして、図3に示すように、溶融池WYに供給されるフィラーワイヤXを、溶融池WY内に形成されたキーホールWKに入らないように、且つ、溶融池WYの溶接進行方向後端側の形状と接触しないように、すなわち非溶融状態にある金属板W1、W2や被溶接部WBと接触しないように溶融池WY内に進入させる。
【0046】
なお、本実施形態では、フィラーワイヤXの進入位置Xpが、例えば距離Dがレーザー光LBのビーム径の2倍となるように設定され、フィラーワイヤXの進入角度θが、例えば70°に設定される。また、溶融池WY内に進入させるフィラーワイヤXは、好ましくは、進入深さHが上側の金属板W1の板厚の範囲内となるように設定される。
【0047】
このようにして、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接することにより、金属板W1、W2の溶融金属WyにフィラーワイヤXの溶融金属Wy’を加えて溶融金属量を増大させることができるとともに、溶融池WY内へのフィラーワイヤXの進入によって上側の金属板W1の溶融金属Wyの下方への垂下を促進させることができ、二枚の金属板W1、W2間に比較的大きい隙間Zが生じている場合においても、上下の金属板W1、W2を良好に連結させることができる。
【0048】
前述したように、フィラーワイヤXを供給しながら二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接する際には、二枚の金属板W1、W2間に生じた隙間Zの大きさなどによって溶融池WYの内部形状が変化することから、フィラーワイヤXが溶融池WYの外周面を形成する非溶融状態の金属板W1、W2や被溶接部WBに接触したり、レーザー光LBによって溶融池WY内に形成されたキーホールWKに入ったりする場合があるが、本実施形態では、溶融池WYの上面と溶融池WYの下面とをそれぞれ撮像し、撮像された溶融池WYの上面形状と溶融池WYの下面形状とに基づいて、溶融池WYの内部形状を推定し、推定された溶融池WYの内部形状に基づいて溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置及び進入角度を調整することで、かかる問題を回避する。
【0049】
以下、図4を参照しながら、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置及び進入角度を調整する方法について説明する。
図4は、前記レーザー溶接装置において溶融池の形状を推定する方法を説明するための説明図であり、図4では、溶接経路Rに沿った二枚の金属板W1、W2の断面について、フィラーワイヤXを溶融池WYにレーザー光LBよりも溶接進行方向後方側から供給しながらレーザー溶接している状態を模式的に示している。
【0050】
前述したように、本実施形態に係るレーザー溶接装置10では、第1の撮像装置6によって溶融池WYの上面が撮像され、第2の撮像装置7によって溶融池WYの下面が撮像され、撮像された溶融池WYの上面形状及び下面形状の画像が溶融池形状推定部62に入力される。そして、溶融池形状推定部62では、入力される溶融池WYの上面形状及び下面形状の画像に基づいて、溶融池WYの内部形状を推定する。
【0051】
溶融池形状推定部62では、溶融池WYの上面形状の画像を画像処理して溶融池WYの上面形状の溶接進行方向後端位置P1及び溶接進行方向前端位置P2、並びに溶融池WYの上面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向後端位置P3及び溶接進行方向前端位置P4を検出するととともに、溶融池WYの下面形状の画像を画像処理して溶融池WYの下面形状の溶接進行方向後端位置P5及び溶接進行方向前端位置P6、並びに溶融池WYの下面とレーザー光中心LBcとが交差する位置P7とを検出する。
【0052】
次に、溶融池形状推定部62では、検出された溶融池WYの上面形状の溶接進行方向後端位置P1と溶融池WYの下面形状の溶接進行方向後端位置P5とに基づいて、位置P1と位置P5とを直線状に結ぶ形状S1を溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状と推定するととともに、検出された溶融池WYの上面形状の溶接進行方向前端位置P2と溶融池WYの下面形状の溶接進行方向前端位置P6とに基づいて、位置P2と位置P6とを直線状に結ぶ形状S2を溶融池WY内部の溶接進行方向前端側の形状と推定する。
【0053】
また、溶融池形状推定部62では、検出された溶融池WYの上面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向後端位置P3と溶融池WYの下面とレーザー光中心LBcとが交差する位置P7とに基づいて、位置P3と位置P7とを直線状に結ぶ形状S3をレーザー光LBによって溶融池WY内に形成されたキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状と推定するとともに、検出された溶融池WYの上面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向前端位置P4と、溶融池WYの下面とレーザー光中心LBcとが交差する位置P7とに基づいて、位置P4と位置P7とを直線状に結ぶ形状S4をレーザー光LBによって溶融池WY内に形成されたキーホールWKの溶接進行方向前端側の形状と推定する。
【0054】
そして、ワイヤ供給調整部61は、溶融池形状推定部62によって推定された溶融池WY内部の形状に基づいて、ワイヤノズル水平移動機構55及び/又はワイヤノズル回動駆動機構56の作動を制御し、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θを調整する。具体的には、溶融池WYに所定の進入位置Xpにおいて所定の進入角度θで進入し、所定の進入深さHまで進入するフィラーワイヤXの延長線ILが、推定された溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状S1のうち上側の金属板W1に対応する部分(形状S1のうち位置P1と位置P10とを結ぶ部分)と交差しないように、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θを調整する。
【0055】
ここで、フィラーワイヤXの延長線ILが推定された溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状S1のうち上側の金属板W1に対応する部分と交差しないように、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θを調整するようにしたのは、溶融池WYに進入するフィラーワイヤXは進入深さHが深くなるほど溶融されやすく、溶融池WYの上側の金属板W1に対応する部分を除く部分ではフィラーワイヤXが溶融されてフィラーワイヤXが非溶融状態にある金属板W2と接触することを回避できるからである。
【0056】
このようにして、フィラーワイヤXを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接する際に、溶融池WY内に進入するフィラーワイヤXの延長線ILが、この推定された溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状S1のうち上側の金属板W1に対応する部分と交差しないように、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θが調整されるので、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1や被溶接部WBに接触させることなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができる。
【0057】
また、ワイヤ供給調整部61は、溶融池WYに所定の進入位置Xpにおいて所定の進入角度θで進入し、所定の進入深さHまで進入するフィラーワイヤXの延長線ILが、推定されたレーザー光LBによって溶融池WY内に形成されたキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状S3のうち上側の金属板W1に対応する部分(形状S3のうち位置P3と位置P11とを結ぶ部分)と交差しないように、ワイヤノズル水平移動機構55及び/又はワイヤノズル回動駆動機構56の作動を制御し、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θを調整する。
【0058】
ここで、フィラーワイヤXの延長線ILが推定されたキーホールWKの溶接進行方向後端形状S3のうち上側の金属板W1に対応する部分と交差しないように、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θを調整するようにしたのは、溶融池WYに進入するフィラーワイヤXは進入深さHが深くなるほど溶融されやすく、溶融池WYの上側の金属板W1に対応する部分を除く部分ではフィラーワイヤXが溶融されてフィラーワイヤXがキーホールWKに入ることを回避できるからである。
【0059】
また、レーザー光LBによって溶融池WY内に形成されたキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状を、溶融池WYの上面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向後端側の位置P3と溶融池WYの下面とレーザー光中心LBcとが交差する位置P7とを直線状に結ぶ形状S3と推定したのは、溶融池WYの下面にキーホールWKが形成されない場合、レーザー溶接中にある実際のキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状は、少なくとも推定されたキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状S3よりも溶接進行方向前方側に形成されることとなるからである。
【0060】
一方、溶融池WYの下面までキーホールWKが形成される場合、溶融池形状推定部62では、溶融池WYの下面形状の画像を画像処理して溶融池WYの下面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向後端位置及び溶接進行方向前端位置を検出し、検出された溶融池WYの下面に形成されるキーホールWKの前記溶接進行方向後端位置と溶融池WYの上面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向後端位置P3とに基づいて、これらの位置を直線状に結ぶ形状をキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状と推定するともに、検出された溶融池WYの下面に形成されるキーホールWKの前記溶接進行方向前端位置と溶融池WYの上面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向前端位置P4とに基づいて、これらの位置を直線状に結ぶ形状をキーホールWKの溶接進行方向前端側の形状と推定する。
【0061】
そして、ワイヤ供給調整部61は、この推定されたキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状、すなわち、溶融池WYの下面に形成されるキーホールWKの前記溶接進行方向後端位置と溶融池WYの上面に形成されるキーホールWKの溶接進行方向後端位置P3とを直線状に結ぶ形状のうち上側の金属板W1に対応する部分と、溶融池WYに所定の進入位置Xpにおいて所定の進入角度θで進入し、所定の進入深さHまで進入するフィラーワイヤXの延長線ILが交差しないように、ワイヤノズル水平移動機構55及び/又はワイヤノズル回動駆動機構56の作動を制御し、溶融池WYに対するフィラーワイヤの進入位置Xp及び進入角度θを調整する。
【0062】
このようにして、フィラーワイヤXを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板W1、W2をレーザー溶接する際に、溶融池WY内に進入するフィラーワイヤXの延長線ILが、この推定されたキーホールWKの形状のうち上側の金属板W1に対応する部分と交差しないように、溶融池WKに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θが調整されるので、フィラーワイヤXをキーホールWKに入れることなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができる。
【0063】
このように、本実施形態では、溶融池WY内に進入させるフィラーワイヤXは、進入深さHが上側の金属板W1の板厚の範囲内となるように設定され、溶融池WYに進入位置Xpにおいて進入角度θで進入するフィラーワイヤXの延長線ILが、推定された溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状S1のうち上側の金属板W1に対応する部分と交差しないように、且つ、推定されるキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状S3のうち上側の金属板W1に対応する部分と交差しないように、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θが調整される。
【0064】
すなわち、溶融池WY内に進入させるフィラーワイヤXは、溶融池WYに進入位置Xpにおいて進入角度θで進入するフィラーワイヤXの延長線ILが、推定された溶融池WY内部の溶接進行方向後端形状S1のうち上側の金属板W1の下面に対応する位置P10と、推定されたキーホールWKの溶接進行方向後端側の形状S3のうち上側の金属板W1の下面に対応する位置P11とを直線状に結ぶ部分と交差するように、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θが調整される。
【0065】
これにより、溶融池WY内に進入させたフィラーワイヤXが、非溶融状態の上側の金属板W1や被溶接部WBに接触したり上側の金属板W1に形成されたキーホールWKに入ったりすることを防止することができ、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができる。
【0066】
このように、本実施形態においては、レーザー光LBによって上側の金属板W1の上面から下側の金属板W2の下面にわたって形成される溶融池WYに、フィラーワイヤXをレーザー光LBよりも溶接進行方向後方側から供給する場合に、第1の撮像手段6によって撮像された溶融池WYの上面形状と第2の撮像手段7によって撮像された溶融池WYの下面形状とに基づいて溶融池WYの内部形状が推定され、この推定された溶融池WYの内部形状に基づいて溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θが調整されるので、フィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1や被溶接部WBに接触させたりキーホールWKに入れたりすることがなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、ワイヤ供給状態を略一定にして溶接を安定化させ、二枚の金属板W1、W2を良好にレーザー溶接することができる。二枚の金属板W1、W2間に生じた隙間Zの大きさが変化した場合など、溶融池WYの内部形状が変化した場合においても、推定される溶融池WYの内部形状に応じてフィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができ、前記効果を有効に得ることができる。
【0067】
また、前述した実施形態では、ワイヤ供給調整部61において、第1の撮像装置6によって撮像された溶融池WYの上面形状と第2の撮像装置7によって撮像された溶融池WYの下面形状とに基づいて、溶融池WYの上面形状の溶接進行方向後端位置P1と溶融池WYの下面形状の溶接進行方向後端位置P5とを直線状に結ぶ形状S1が溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状と推定されているが、溶融池WYの上面形状の溶接進行方向後端位置P1と、レーザー光中心LBcと下側の金属板W2の下面とが交差する位置とを直線状に結ぶ形状を溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状と推定するようにすることも可能である。
【0068】
かかる場合においても、ワイヤ供給調整部61では、溶融池WYに所定の進入位置Wpにおいて所定の進入角度θで進入するフィラーワイヤXの延長線ILが、この推定された溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状のうち上側の金属板W1に対応する部分と交差しないように、溶融池WYに対するフィラーワイヤXの進入位置Xp及び進入角度θが調整される。これにより、溶融池WY内に進入させるフィラーワイヤXを非溶融状態の金属板W1や被溶接部WBに接触させることなく、フィラーワイヤXを溶融池WY内の好適な位置に供給することができる。
【0069】
この場合、第1の撮像装置6と第2の撮像装置7とを用いて撮像された溶融池WYの上面形状と溶融池WYの下面形状とに基づいて推定された溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状S1よりも、推定される溶融池WY内部の溶接進行方向後端側の形状が溶接進行方向前方側に推定されることとなるので、第2の撮像装置7を用いることなく、1つの撮像装置6を用いて、前記効果を有効に得ることができる。
【0070】
以上のように、本発明は、例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、フィラーワイヤを供給しながら上下に重ね合わせられた二枚の金属板をレーザー溶接する場合に、金属板間に生じた隙間が変化した場合においても、上下の金属板を良好に連結させることができるレーザー溶接装置及びレーザー溶接方法を提供することができ、自動車産業の他、二枚の金属板の溶接が必要となる産業において広く利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0072】
6 第1の撮像装置
7 第2の撮像装置
10 レーザー溶接装置
60 コントロールユニット
61 ワイヤ供給調整部
62 溶融池形状推定部
LB レーザー光
R 溶接経路
W1、W2 金属板
WK キーホール
Wy、Wy’ 溶融金属
WY 溶融池
X フィラーワイヤ
Xp フィラーワイヤの進入位置
θ フィラーワイヤの進入角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に重ね合わせられた二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させ、レーザー光によって二枚の金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を上側の金属板の上面から下側の金属板の下面にわたって形成するとともに、前記溶融池にフィラーワイヤをレーザー光よりも溶接進行方向後方側から供給し、フィラーワイヤを供給しながら二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接装置であって、
前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整するワイヤ供給調整手段と、
前記溶融池の上面を撮像する第1の撮像手段と、
前記溶融池の下面を撮像する第2の撮像手段と、
前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状と前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状とに基づいて、前記溶融池の内部形状を推定する溶融池形状推定手段と、
を備え、
前記ワイヤ供給調整手段は、前記溶融池形状推定手段によって推定された前記溶融池の内部形状に基づいて、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整する、
ことを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載のレーザー溶接装置において、
前記溶融池形状推定手段は、前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状の溶接進行方向後端位置と、前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状の溶接進行方向後端位置とに基づいて、前記溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状を推定し、
前記ワイヤ供給調整手段は、前記溶融池に所定の進入位置において所定の進入角度で進入する前記フィラーワイヤの延長線が、前記溶融池形状推定手段によって推定された前記溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状のうち前記上側の金属板に対応する部分と交差しないように、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整する、
ことを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項3】
前記請求項1または前記請求項2に記載のレーザー溶接装置において、
前記溶融池形状推定手段は、前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状の溶接進行方向後端位置と前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状の溶接進行方向後端位置とを直線状に結ぶ形状を、前記溶融池内部の溶接進行方向後端側の形状と推定する、
ことを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項4】
前記請求項1から前記請求項3の何れか一項に記載のレーザー溶接装置において、
前記溶融池形状推定手段は、前記第1の撮像手段によって撮像された前記溶融池の上面形状と前記第2の撮像手段によって撮像された前記溶融池の下面形状とに基づいて、前記レーザー光によって前記溶融池内に形成されるキーホールの形状を推定し、
前記ワイヤ供給調整手段は、前記溶融池に所定の進入位置において所定の進入角度で進入する前記フィラーワイヤの延長線が、前記溶融池形状推定手段によって推定された前記キーホールの形状のうち前記上側の金属板に対応する部分と交差しないように、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整する、
ことを特徴とするレーザー溶接装置。
【請求項5】
上下に重ね合わせられた二枚の金属板のうち上側の金属板表面に向けてレーザー光を照射しつつ該レーザー光を所定の溶接経路に沿ってこれら二枚の金属板に対して相対的に移動させ、レーザー光によって二枚の金属板を溶融させて溶融金属が貯留されてなる溶融池を上側の金属板の上面から下側の金属板の下面にわたって形成するとともに、前記溶融池にフィラーワイヤをレーザー光よりも溶接進行方向後方側から供給し、フィラーワイヤを供給しながら二枚の金属板をレーザー溶接するレーザー溶接方法であって、
前記溶融池の上面と前記溶融池の下面とをそれぞれ撮像し、撮像された前記溶融池の上面形状と前記溶融池の下面形状とに基づいて、前記溶融池の内部形状を推定し、推定された前記溶融池の内部形状に基づいて、前記溶融池に対する前記フィラーワイヤの進入位置及び進入角度を調整するようにした、
ことを特徴とするレーザー溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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